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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1316117
審判番号 不服2015-4047  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-02 
確定日 2016-07-05 
事件の表示 特願2013-148034「液晶表示装置及び偏光板保護フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 1月23日出願公開,特開2014- 13390,請求項の数(2)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は,平成24年7月2日に出願した特願2012-148668号の一部を平成25年7月16日に新たな特許出願としたものであって,平成26年8月26日付けで拒絶理由が通知され,同年11月4日付けで意見書が提出されたが,同年11月26日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という)がされ,これに対し,平成27年3月2日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がされ,その後,当審において平成28年2月18日付けで拒絶理由(以下,「当審拒絶理由」という)が通知され,同年4月20日付けで手続補正がされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?2に係る発明は,平成28年4月20日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定されるものと認められるところ,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「【請求項1】
バックライト光源,液晶セル,カラーフィルター,偏光板及び偏光板保護フィルムがこの順序で配置された構成を有する液晶表示装置であって,
前記偏光板保護フィルムが,
厚みが20?500μmのポリエステル系樹脂からなり,
前記偏光板保護フィルムは,6000nm以上のリタデーションを有するとともに,面内において最も屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率(nx)と,前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率(ny)との差(nx-ny)が,0.05以上であり,かつ,前記遅相軸方向の配向角差が6°以内であり,
前記液晶表示装置の最表面に配設され,前記偏光板の吸収軸と前記偏光板保護フィルムの遅相軸とのなす角度が,0°±30°の範囲又は90°±30°の範囲となるように配設して用いられるものであり,
前記遅相軸方向の配向角差は,分子配向計を用いて,前記偏光板保護フィルムの上下方向,左右方向ともに5cm間隔で合計40点の配向角の測定を行い,測定された配向角の最大値から最小値を引いた値である
ことを特徴とする液晶表示装置。」

第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
本願発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。



引用例1:特開2010-277028号公報

2 原査定の理由の判断
(1) 引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1には,次の記載がある。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は偏光子支持基材用一軸配向芳香族ポリエステルフィルムに関する。更に詳しくは液晶ディスプレイの色シフト及び色斑を防止することができる光軸の安定性を確保した偏光子支持基材用一軸配向芳香族ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイは,直交配置した偏光板間の液晶分子の配向を制御して液晶層の位相差を変化させることで,入射光の偏光方向を変化させ,出射光量を調整するものである。そのため,良好な表示画像品位を得るためには,液晶層へ入射する光の偏光方向が安定していることが求められる。
【0003】
多くの液晶ディスプレイに用いられている偏光板は,吸収型のフィルムタイプのものであり,二色性分子をマトリックス中に一軸配向させた偏光子の両面を,透明支持基材ではさんだ構成からなる。多くの場合,二色性分子としてポリヨウ素イオンを用い,偏光子としてヨウ素を含浸させたポリビニルアルコールフィルムを一軸延伸したものが用いられている。
【0004】
また,偏光子を保護する支持基材として,現在ほとんどの場合,セルロールトリアセテート(TAC)フィルムが用いられている。透明性に優れた素材であるTACフィルムは,光学等方性に優れ,面内にほとんど位相差を持たないため,入射直線偏光の振動方向を変化させることが極めて少なく,偏光子支持基材として適した素材であるが,反面,現在の技術では溶液キャスト法でしか製造できないため,コスト的には不利な素材である。また,使用される用途によってはTACフィルムでは耐湿,耐熱性が十分でないことがある。
【0005】
ポリエチレンテレフタレートなどの芳香族ポリエステルフィルムは,透明性,耐熱性,機械強度に優れ,かつ,TACに比べて安価な素材であるため,過去にTACフィルムに代わる偏光子支持基材としてポリエチレンテレフタレートを適用する色々な試みがなされている。
偏光子の支持基材によって入射直線偏光の振動方向の変化が生じないよう,支持基材としてTACフィルムのような光学等方性に優れるフィルムが用いられていたのに対し,芳香族ポリエステルフィルムは,分子鎖中に分極率の大きい芳香族環を持つため固有複屈折が極めて大きく,優れた透明性,耐熱性,機械強度を付与させるための延伸処理による分子鎖の配向に伴ってフィルム複屈折が発現しやすく,輝度斑,色シフトが発生しやすい。そこでポリエステルフィルムを支持基材として用いるべく,以下のような検討がなされている。
【0006】
例えば特許文献1において,偏光子および偏光子に接する一軸延伸プラスチックフィルムからなる一対の基板を具備する表示パネルにおいて,一軸延伸プラスチックフィルムの光学的主軸方向と偏光子の偏光軸方向とのなす角度を略±3度以下にすることが開示されており,一軸延伸フィルムとして一軸延伸ポリエステルフィルムを用いることが記載されている。特許文献1によれば,一軸延伸フィルムの光学的主軸方向と偏光子の偏光軸方向とのなす角度が適切でないと複屈折現象に伴う干渉色が発生し,コントラスト比が低下し,表示品質が低下することが開示されている。
【0007】
また,膜面に平行な一方向に特に強く延伸されたポリエステルフィルムにおいて,主延伸方向の屈折率とその垂直方向の屈折率との特定の関係式を満たすフィルムが偏光フィルムの少なくとも片面に接着剤の層を介して貼りあわされた偏光板が特許文献2に開示されており,かかるフィルムを用いれば色斑が生じないことが記載されている。
【0008】
また,例えば特許文献3には偏光フィルムの表面保護フィルムとして一軸延伸ポリエステルフィルムが開示されており,また車載用などの過酷な条件下での使用に特に有利なポリエステルフィルムとして,縦または横方向のみに少なくとも5%,実用的には50?800%延伸して約100℃で60分間?約280℃で5分間の範囲でヒートセットしてなるものが好ましいことが記載されている。
【0009】
特許文献4には,偏光子の透明支持基材として一軸延伸ポリエステルフィルムを用い,一軸延伸親水性高分子フィルムと一軸延伸ポリエステルフィルムとの延伸方向が平行関係または直交関係となるように貼着し,その際の角度のズレを小さくするほど光透過性などの点で好ましいことが開示されている。また該一軸延伸ポリエステルフィルムとしてリタデーション値が8000nmのものが開示されている。
【0010】
このように,一軸延伸ポリエステルフィルムを用い,その主軸方向と偏光子の偏光軸方向との差を小さくすることによる色斑などの解消が従来より検討されている。一方で,偏光子支持基板に求められる配向方向の均一性の精度は非常に高く,単に一軸方向に延伸するだけではフィルム周辺部においても実用に耐える光軸の安定性が得られにくいという課題があった。さらに液晶画面の大型化に伴い,支持基材に対しても大面積化が求められ,使用される面積において均一な性能が求められており,延伸による複屈折率の増大が大きいポリエステルフィルムに対して,フィルム両端部も含めて色シフト及び色斑の発生のないフィルムが求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭58-143305号公報
【特許文献2】特開昭60-26304号公報
【特許文献3】特開昭61-241703号公報
【特許文献4】特開昭63-226603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は,一軸配向ポリエステルフィルムにおいて,従来はフィルムの配向方向が不均一になりやすくかったフィルム両端の部位についても配向方向が均一に制御された高度な光軸安定性を有し,フィルム両端部まで支持基材として使用しても液晶ディスプレイの色シフト及び色斑を防止することができる偏光子支持基材用一軸配向ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は,前記課題を解決するために鋭意検討した結果,従来の一軸延伸ポリエステルフィルムでは,フィルム製膜中に生じるボーイング現象のためにフィルム両端部位までフィルムの配向方向を均一に制御することが難しく,偏光子支持基材用途に提案されながら実用レベルでの使用が制限されていたところ,本願発明では延伸工程時に延伸速度および張力も含めて制御することにより,クリップ部分がスリットされる以外はフィルム両端部までフィルムの配向方向が均一に制御され光軸の安定したフィルムが得られ,偏光子支持基材用フィルムとして用いることができることを見出し,本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち本発明の目的は,一軸配向芳香族ポリエステルフィルムにおいて,広角X線回折測定で得られるフィルムTD方向のPET結晶(-105)面の配向度,フィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度αおよびフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度のばらつきβの関係が下記式(1),(2)を満たす偏光子支持基材用一軸配向芳香族ポリエステルフィルムによって達成される。
fc_(TD)(-105)≧0.35 ・・・(1)
(式(1)中,fc_(TD)(-105)は,広角X線回折測定で得られるフィルムTD方向のPET結晶(-105)面の配向度を表わす)
0≦α+β≦15° ・・・(2)
(式(2)中,αはフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度を表わし,エリプソメーターを用いてフィルム両端部についてMD方向に100mmおきに5点ずつ測定した10点の平均値で表わされ,βはフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度のばらつきを表わし,エリプソメーターを用いてフィルム両端部についてMD方向に100mmおきに5点ずつ測定した10点の標準偏差値の3倍で表わされる)」

イ 「【0022】
本発明の一軸配向芳香族ポリエステルフィルムが,フィルムTD方向において,かかる配向度の範囲で配向結晶していることにより,TD方向に高度に配向した主配向軸を有し,本フィルムを偏光子支持基材として偏光子と積層させる際,本フィルムによる偏光光の偏光状態変化に伴う色シフト及び色斑の発生を抑制することができる。ここで,フィルムの主配向軸方向は,光の振動挙動の面からみると遅相軸に相当し,フィルム面内遅相軸と称することがある。
偏光子支持基材と偏光子とを積層させる方向性は,偏光子支持基材の主配向軸と偏光子の透過軸とが,直交方向または平行方向のいずれかであれば色シフト及び色斑を抑制できる。一方,フィルム両端部分についても配向方向が均一に制御された高度な光軸安定性を得るためには,フィルム製膜工程においてTD方向が主配向となるよう延伸する方法が必要であり,得られるフィルムの結晶配向度の主方向はTD方向となる。
・・・(中略)・・・
【0025】
(遅相軸角度αおよび遅相軸角度のばらつきβ)
また,本発明の一軸配向芳香族ポリエステルフィルムは,フィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度α(以下,遅相軸角度αと称することがある)およびフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度のばらつきβ(以下,遅相軸角度のばらつきβと称することがある)の関係が下記式(2)を満たすことが必要である。
0≦α+β≦15° ・・・(2)
(式(2)中,αはフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度を表わし,エリプソメーターを用いてフィルム両端部についてMD方向に100mmおきに5点ずつ測定した10点の平均値で表わされ,βはフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度のばらつきを表わし,エリプソメーターを用いてフィルム両端部についてMD方向に100mmおきに5点ずつ測定した10点の標準偏差値の3倍で表わされる)
(α+β)で表わされる値がかかる範囲を超えるものは,フィルム両端部において色シフトが生じるのみならず色斑が生じる。
遅相軸角度α単独の値は15°以下であることが好ましく,より好ましくは10°以下,さらに好ましくは8°以下,特に好ましくは5°以下,最も好ましくは3°以下である。また,遅相軸角度のばらつきβ単独の値は5°以下であることが好ましく,より好ましくは2°以下,さらに好ましくは1°以下,特に好ましくは0.5°以下,最も好ましくは0°である。式(2)で表わされる(α+β)の好ましい範囲は,α,βそれぞれの好ましい範囲内から導かれ,その中でも特に好ましくは5°以下であり,最も好ましくは3°以下である。
【0026】
本発明における遅相軸角度αは,フィルムの両端部(エッジ部と称することがある)における遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度を表わしたものであり,エリプソメーターを用いてフィルム両端部についてMD方向に100mmおきに5点ずつ測定した10点の平均値で表わされる。また本発明における遅相軸角度のばらつきβは,フィルムの両端部におけるフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度のばらつきを表わしたものであり,αと同様,エリプソメーターを用いてフィルム両端部についてMD方向に100mmおきに5点ずつ測定した10点の標準偏差値の3倍で表わされる。
ここで,フィルムの両端部とは,フィルム製膜工程におけるテンタークリップ把持部にあたる部分をスリットした後のフィルム両端部を指し,具体的にはフィルム製膜工程におけるテンタークリップ把持部にあたる部分を除去するスリットが,スリット前のフィルムの両端から4%?10%の範囲内で行われることにより得られたフィルムの両端部を指す。
【0027】
延伸製膜して得られたフィルムは,通常フィルムの両端になるほどボーイング現象により延伸方向と配向軸とのずれが大きくなり,遅相軸角度α及び遅相軸角度のばらつきβが大きくなる傾向にある。本発明においては,フィルムの製膜方法をコントロールすることにより,クリップ部分をスリットして得られたフィルム両端部についても遅相軸角度α及び遅相軸角度のばらつきβを小さくしたものであり,その結果,フィルム両端部まで使用しても液晶ディスプレイの色シフト及び色斑を防止することができる光軸の安定性を確保することができ,表示画像品位の画面内のばらつきの少ない,より高性能の表示画像品位が発現するものである。」

ウ 「 【0029】
(面内位相差)
本発明の一軸配向芳香族ポリエステルフィルムは,フィルムの面内位相差が1000nm以上であることが好ましい。また,かかる面内位相差は,より好ましくは3000nm以上,さらに好ましくは5000nm以上,特に好ましくは7000nm以上である。
【0030】
本発明のフィルムの用途である偏光子支持基材は,偏光子により得られる直線偏光をできる限り乱さないものであることが好ましい。そのため,TACフィルムなどにおいては,フィルムの位相差,すなわち複屈折をフィルム厚みで乗じたものが小さいほど偏光子支持基材に適していた。しかしながら芳香族ポリエステルを用いた場合,分子構造に起因する比較的大きな固有複屈折を持つため,分子鎖配向によるフィルム位相差が発現しやすく,これを小さな値に制御することが難しい。そこで一軸配向のフィルムにし,フィルムの面内位相差をかかる範囲にすることによってフィルムの位相差値を可視光線の波長を越える大きなものとし,入射する直線偏光への影響が小さくなる結果,表示画像品位に及ぼす影響が無視しうる程度に小さくなり,より優れた表示画像品位を得ることができる。」

エ 「 【0055】
<偏光板>
本発明の偏光子支持基材用一軸配向芳香族ポリエステルフィルムを偏光子の支持基材として用い,偏光子と複合化させることで偏光板を製造することができる。本発明のフィルムを偏光子の支持基材として用いることにより,偏光子を十分に保護することができる。
【0056】
偏光子との複合化の方法については特に限定されるものでなく,二色性分子をマトリックス中に一軸配向させたフィルム状偏光子との貼合せが例示される。二色性分子は特に限定されないが,一般的にポリヨウ素イオンが用いられる。またフィルム状偏光子素材として,多くの場合はポリビニルアルコールフィルムが用いられる。
偏光子との複合化の方法について,偏光子フィルムと積層させる方法以外に塗布方法を用いてもよい。塗布タイプにおいては,液晶分子をコーティング剪断力により配向させたり,塗布した反応性液晶分子を偏光などの照射により配向固化させる方法などを例示することができる。
【0057】
かかる偏光板は,さらに具体的には,偏光子と本発明の一軸配向芳香族ポリエステルフィルムとが,偏光子の透過軸方向と本発明のフィルムのフィルムTD方向とが平行になるように複合化させることによって得ることができ,その場合に本フィルムによる直線偏光への影響,すなわち偏光状態の変化を小さくすることが可能となる。
また得られた偏光板は,液晶ディスプレイの色シフト及び色斑を防止することができる光軸の安定性を確保することができ,ディスプレイに組み込んだ場合に表示画像品位の画面内のばらつきが少ない,より高性能の表示画像品位が発現する。
【0058】
また偏光子との貼合せにおいて,偏光子の両側に貼り合せる支持基板のうち,一方のみに本発明のフィルムを用いてもよく,両方に用いてもよい。
偏光子と本発明とを貼合せる場合,接着剤を用いて貼合せる方法,フィルムに易接着性層を設けて貼合せる方法,フィルム表面にコロナ処理などを表面処理を行う方法,またはこれらの方法の組み合わせ,などの方法を用いて貼り合せることが好ましい。」

オ 「【実施例】
【0059】
以下,実施例により本発明を詳述するが,本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお,各特性値は以下の方法で測定した。また,実施例中の部および%は,特に断らない限り,それぞれ重量部および重量%を意味する。
【0060】
(1)結晶配向度
X線回折装置(理学電機製ROTAFLEX RINT2500HL)および極点試料台(理学電機製多目的試料台)を用いた広角X線回折極点測定により,フィルムの結晶面(-105)の法線ベクトルのTD方向における方向余弦の積分平均値,<cos^(2)Φ_(TD),-105>,を求め,次式(5)より結晶配向度fc_(TD)(-105)を求めた。
fc_(TD)(-105)=2/3<cos^(2)Φ_(TD),-105>-1/2 ・・・(5)
【0061】
(2)遅相軸角度α
得られたフィルムの最端部から,0.5°の精度でMDおよびTDに平行な,60mm四方の正方形のサンプルを切り出した。該サンプルを,エリプソメーター(日本分光製 装置名 M-220)の複屈折測定用サンプルステージに,0.5°の精度で取り付けた後,自動測定にて550nm入射光に対して最大の位相差を示すサンプルステージ回転移動角度を計測し,遅相軸角度(°)を求めた。TD方向を0°とし,反時計回りに正の値をとるようにした。
両端部にてフィルム製膜方向に100mmおきの5点,合計10点のサンプリングを行い,それらの測定値の絶対値の平均にて評価した。
【0062】
(3)遅相軸角度のばらつきβ
(2)の方法に従って得られた10点の測定結果の標準偏差を求め,この値を3倍してβとした。
【0063】
(4)面内位相差
得られたフィルムの両最端部,中央部,それらの中間位置,の幅方向5点,それら幅方向5箇所の位置について,フィルム製膜方向に100mmおきに5点ずつ,合計25枚のサンプルを切り出し,(2)と同様の測定方法で計測されたサンプルごとの最大位相差をもとに,全サンプルの平均値を求め,フィルムの面内位相差(nm)とした。
また,上記n=25測定におけるサンプルごとの最大位相差の最大値と最小値の差をもって,面内位相差のばらつきとした。

・・・(中略)・・・

【0067】
(8)画像品位評価
(偏光板の作製)
実施例および比較例で得られたフィルム(A),ポリビニルアルコール偏光膜および市販のTACフィルム(富士写真フィルム製,フジタック,厚み80μm)(R)をこの順で貼合せて偏光板を作製し,その耐久性を評価した。
ポリビニルアルコール偏光膜は,厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムをヨウ素1部,ヨウ化カリウム2部,ホウ酸4部を含む水溶液に浸漬し,50℃で4倍に延伸することにより得た。
また,この偏光膜に上述の2種のフィルムを貼合せて偏光板を得る手順は,下記のとおりである。
(i)40cm×30cmの長方形の形状に切り取った,上述のフィルム(A)およびフィルム(R)のそれぞれの片側の表面に,コロナ放電処理(処理電力=800W(200V,4A),電極?フィルム間距離=1mm,処理速度=12m/分)を施す。ここで,フィルム(A)はフィルム両端部のうちの少なくとも一方の端部を含むよう切り出した。
(ii)フィルム(A)およびフィルム(R)と同じサイズに調整した偏光膜(偏光子)を固形分2質量%のポリビニルアルコール接着剤槽中に1?2秒間浸漬する。
(iii)偏光膜(偏光子)に付着した過剰の接着剤を軽く取り除き,偏光子を,フィルム(A)およびフィルム(R)が挟みこむ状態となるよう,フィルム(A)のコロナ処理面上にのせ,更にフィルム(R)のコロナ処理面と接着剤とが接する様に積層し配置する。その際,フィルム(A)のMD方向と偏光子の延伸方向が直交するよう,すなわちフィルム(A)のTD方向と偏光子の延伸方向が平行になるように配置する。
(iv)ハンドローラで,フィルム(A),偏光膜,およびフィルム(R)からなる積層体の端部から過剰の接着剤および気泡を取り除き貼合せる。ハンドローラは,20?30N/cm^(2)の圧力をかけて,ローラスピードは約2m/分とした。
(v)80℃の乾燥器中に得られた試料を2分間放置し,偏光板(PF)を作製した。
【0068】
次いで,偏光板(PF)を液晶セルの片面に,液晶セルの近接する基板面のラビング軸方向と偏光板透過軸が直交し,偏光板のフィルム(PF)と液晶セルとが接するように貼合し,液晶セルの反対側の面には,市販の偏光板をその吸収軸が偏光板(PF)の吸収軸と直交するように貼合し,液晶表示装置を作製した。液晶セルは,市販のLCDモニターのものを,バックライト側に貼合されていた偏光板を剥がして使用した。
得られた液晶表示装置と,バックライト側の偏光板を交換していない同機種のLCDモニターに,同時にR,G,Bの3原色と白色(W)をそれぞれモニター全面に表示したものを,目視観察,および,ELDIM社製EZ-contrastにより計測し得られた色差ΔEから,下記の基準にて評価した。
○: 比較モニター対比,R,G,B,WのいずれにおいてもΔE<0.5,かつ色斑がほとんど確認できない
×: 比較モニター対比,R,G,B,Wのいずれかにおいて0.5≦ΔE≦1.0,または,わずかな色斑が観察される
××: 比較モニター対比,R,G,B,Wのいずれかにおいて0.5≦ΔE≦1.0,および/または,顕著な色斑が観察される
【0069】
[実施例1]
ポリエチレンテレフタレート(PET)99.93重量%に平均粒径0.15μmのシリカ粒子 0.07重量%を混合したもののペレット(帝人ファイバー(株)製,固有粘度(o-クロロフェノール,25℃)=0.6dl/g)を170℃で3時間乾燥後,一軸混練押出機に供給し,溶融温度285℃で溶融後,フィルターで濾過し,ダイから押出した。
この溶融物を,表面温度25℃の回転冷却ドラム上に押出し,厚み320μmの未延伸フィルムを得た。
得られた未延伸フィルムを,テンター直前の搬送ロールの回転速度がテンターのフィルム把持クリップ移動速度の0.996となるようにテンターに供給し,85℃にて横方向に750%/分の延伸速度で4.0倍に延伸し,引き続きテンター内で定幅を保ったまま,200℃にて1分間の熱処理を施した。テンターから出てきたフィルムを,フィルム把持クリップ移動速度の1.008倍の速度の搬送ロールにて引き取り,さらにフィルムの両端から5%の位置でスリットしてテンタークリップ把持部を取り除き,一定幅の80μm厚みの延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表2に示す。
【0070】
[実施例2?5,比較例1?3]
表1に示した製造条件以外は,実施例1と同様の条件で,それぞれ延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表2に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】




カ 引用例1には,「実施例1」として,以下の発明が記載されているものと認められる(以下「引用発明」という。)。なお,段落番号は,引用発明の認定に活用した引用例1の記載箇所を示すために併記したものである。
また,引用例1の段落【0067】?【0068】では,実施例で得られた「延伸フィルム」を「フィルム(A)」と表記しているが,混乱を避けるために「延伸フィルム」と統一して表記した。また,引用例1では,「ポリビニルアルコール偏光膜」を「偏光子」と表記している場合があるが,混乱を避けるために,「偏光子」と統一して表記した。

「 【0069】以下(A)?(F)の方法で得られた延伸フィルムであって,
(A)ポリエチレンテレフタレート(PET)99.93重量%に平均粒径0.15μmのシリカ粒子 0.07重量%を混合したもののペレット(帝人ファイバー(株)製,固有粘度(o-クロロフェノール,25℃)=0.6dl/g)を170℃で3時間乾燥後,一軸混練押出機に供給し,溶融温度285℃で溶融後,フィルターで濾過し,ダイから押出し,(B)この溶融物を,表面温度25℃の回転冷却ドラム上に押出し,厚み320μmの未延伸フィルムを得,(C)得られた未延伸フィルムを,テンター直前の搬送ロールの回転速度がテンターのフィルム把持クリップ移動速度の0.996となるようにテンターに供給し,85℃にて横方向に750%/分の延伸速度で4.0倍に延伸し,(D)引き続きテンター内で定幅を保ったまま,200℃にて1分間の熱処理を施し,(E)テンターから出てきたフィルムを,フィルム把持クリップ移動速度の1.008倍の速度の搬送ロールにて引き取り,(F)さらにフィルムの両端から5%の位置でスリットしてテンタークリップ把持部を取り除く。
【0071】【表1】前記延伸フィルムの厚みが80μmであり,
【0072】【表2】前記延伸フィルムの遅相軸角度標準偏差が0.23,面内位相差が8000nmであり,
【0067】前記延伸フィルム,偏光子および市販のTACフィルム(富士写真フィルム製,フジタック,厚み80μm)(R)をこの順で貼合せて作成された偏光板を有し,その際,延伸フィルムのMD方向と偏光子の延伸方向が直交するよう,すなわち延伸フィルムのTD方向と偏光子の延伸方向が平行になるように配置され,
【0025】延伸フィルム面内遅相軸と延伸フィルムTD方向とのなす角度をαとしたとき,
【0072】【表2】前記αが1.8°であり,
【0068】偏光板を液晶セルの片面に,液晶セルの近接する基板面のラビング軸方向と偏光板透過軸が直交し,偏光板のフィルムと液晶セルとが接するように貼合し,液晶セルの反対側の面には,市販の偏光板をその吸収軸が偏光板の吸収軸と直交するように貼合した,
液晶表示装置。」

(2) 対比
ア 引用発明の「偏光子」は,本願発明の「偏光板」に相当する。
また,引用発明の「延伸フィルム」は「偏光子」に貼り合わされるのであるから,前記「延伸フィルム」は前記「偏光子」を保護していることは明らかである。したがって,引用発明の「延伸フィルム」は本願発明の「偏光板保護フィルム」に相当する。

イ 引用発明の「延伸フィルム」は,その製造方法から明らかなように,ポリエチレンテレフタレート(PET)を主成分とするのであるから,「ポリエステル系樹脂」からなることは明らかである。また,引用発明の「延伸フィルム」は,厚さが80μmであり,面内位相差(リタデーション)が8000nmなのであるから,遅相軸方向の屈折率と進相軸方向の屈折率との差は0.1となる。したがって,引用発明の「延伸フィルム」は,本願発明の「偏光板保護フィルムは,6000nm以上のリタデーションを有するとともに,面内において最も屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率(nx)と,前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率(ny)との差(nx?ny)が,0.05以上であ」るとの要件を満たす。

ウ 引用発明の「延伸フィルム」は,延伸フィルムのTD方向と延伸フィルムの遅相軸とのなす角が1.8度であり,かつ延伸フィルムのTD方向と偏光子の延伸方向とが平行であるところ,偏光子の延伸方向は概ね偏光子の吸収軸と一致することが本件出願時の技術常識であるから,引用発明の「延伸フィルム」と「偏光子」は,本願発明の「前記偏光板の吸収軸と前記偏光板保護フィルムの遅相軸とのなす角度が,0°±30°の範囲又は90°±30°の範囲となるように配設して用いられる」との要件を満たす。

エ 前記ア?ウから,本願発明と引用発明は,

「偏光板保護フィルムが,厚みが20?500μmのポリエステル系樹脂からなり,
前記偏光板保護フィルムは,6000nm以上のリタデーションを有するとともに,面内において最も屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率(nx)と,前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率(ny)との差(nx-ny)が,0.05以上であり,
偏光板の吸収軸と前記偏光板保護フィルムの遅相軸とのなす角度が,0°±30°の範囲又は90°±30°の範囲となるように配設して用いられるものである,
液晶表示装置。」
である点で一致し,次の点で相違する。

相違点1:本願発明は,「バックライト光源,液晶セル,カラーフィルター,偏光板及び偏光板保護フィルムがこの順序で配置された構成を有する液晶表示装置」であるのに対し,引用発明は,このような構成を具備しない点(特に,「液晶セル」,「延伸フィルム」及び「偏光子」の位置関係が明らかでない点。)。

相違点2:本願発明は,遅相軸方向の配向角差が6°以内であり,前記遅相軸方向の配向角差は,分子配向計を用いて,前記偏光板保護フィルムの上下方向,左右方向ともに5cm間隔で合計40点の配向角の測定を行い,測定された配向角の最大値から最小値を引いた値であるのに対し,引用発明は,この点が明らかでない点。

(3) 判断
相違点1について検討する。
引用例1には,「液晶セル」,「延伸フィルム」及び「偏光子」の位置関係についての明示的な記載はない。しかし,引用発明は,引用例1の段落【0010】に「このように,一軸延伸ポリエステルフィルムを用い,その主軸方向と偏光子の偏光軸方向との差を小さくすることによる色斑などの解消が従来より検討されている。一方で,偏光子支持基板に求められる配向方向の均一性の精度は非常に高く,単に一軸方向に延伸するだけではフィルム周辺部においても実用に耐える光軸の安定性が得られにくいという課題があった。」と記載されるように,「一軸延伸ポリエステルフィルム」を用い,「その主軸方向と偏光軸方向との差を小さくすること」によって「色班など」を「解消」させることを前提とした発明である。
ここで,引用例1には,本願発明のような「外光や蛍光灯の光の反射光」による「ニジムラ」(段落【0008】)の課題については何ら記載されておらず,また自明のものともいえないところ,引用発明が解決しようとする色班とは,本件出願当時において当業者に周知であった,2つの偏光子の間に存在する部材の複屈折性に伴う「色班」を指しているものと解するのが相当である(例えば,引用例1の特許文献2においても,「着色干渉縞」(引用発明の「色班」,本願発明の「ニジムラ」に相当)の発生原因は偏光子間に存在する部材の複屈折性であることが,2頁右上欄8行?右下欄11行及び第1図において説明されている。)。
上記のような点を考慮すると,引用発明においては,「液晶セル」と「偏光子」の間に「延伸フィルム」が存在するように構成されているものと認められる。

なお,引用例1の段落【0058】には,「また偏光子との貼合せにおいて,偏光子の両側に貼り合せる支持基板のうち,一方のみに本発明のフィルムを用いてもよく,両方に用いてもよい」と記載されている。しかし,上述のように,引用発明が問題としているフィルムは,2つの偏光子の間に存在する「延伸フィルム」,すなわち「液晶セル」と「偏光子」の間にある「延伸フィルム」であると認められる。そして,本願発明のような「外光や蛍光灯の光の反射光」による「ニジムラ」の課題は認識されていないのであるから,「偏光子」の「液晶セル」とは反対側に「延伸フィルム」を取り付けるとしても,その取付け角度を「偏光子の透過軸方向」と揃える必要がない。すなわち,「偏光子」の「吸収軸」と「延伸フィルム」の「遅相軸とのなす角度が,0°±30°の範囲又は90°±30°の範囲となるように配設」する必要がないものと認められる。
したがって,相違点1に係る構成を具備する本願発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4) 小括
したがって,相違点2について検討するまでもなく,本願発明は,当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
本願の請求項2に係る発明は,本願発明をさらに限定したものであるので,本願発明と同様に,当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
よって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について
1 29条2項について
(1) 当審拒絶理由の概要
本願発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。



引用例1:特開2010-277028号公報
(原査定の理由で引用された引用例と同じ。)

(2) 当審拒絶理由の判断
ア 引用例の記載事項
前記第3の2(1)と同様である。

イ 対比
前記第3の2(2)と同様である。

ウ 判断
前記第3の2(3)と同様である。

エ 小括
したがって,本願発明は,当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえなくなった。
本願の請求項2に係る発明についても,本願発明をさらに限定したものであるので,本願発明と同様に,当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえなくなった。
そうすると,もはや,当審で通知した29条2項に関する拒絶理由によって本願を拒絶することはできない。

2 36条6項2号について
(1) 当審拒絶理由の概要
この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。

ア 平成28年4月20日付けの手続補正書によって補正される前(以下,単に「補正前」という。)の請求項1は,その末尾の記載等からみて,「偏光板保護フィルム」の発明であると認められる。そして,補正前の請求項1では,「前記液晶表示装置は,バックライト光源,液晶セル,カラーフィルター,前記偏光板及び前記偏光板保護フィルムがこの順序で配置された構成を有」することが特定されているが,「偏光板保護フィルム」に含まれない「バックライト光源」,「液晶セル」,「カラーフィルタ」等との位置関係を特定することにより,「偏光板保護フィルム」についてどのような特定がされたこととなるのかが明らかでない。
してみれば,補正前の請求項1に係る発明は明確でない。補正前の請求項1を引用する補正前の請求項2,4に係る発明も,同様の理由により明確でない。

イ 補正前の請求項1では,「前記偏光板の吸収軸と前記偏光板保護フィルムの遅相軸とのなす角度」について特定されているが,「偏光板保護フィルム」に含まれない「偏光板」との位置関係を特定することにより,「偏光板保護フィルム」についてどのような特定がされたこととなるのかが明らかでない。
してみれば,補正前の請求項1に係る発明は明確でない。補正前の請求項1を引用する補正前の請求項2に係る発明も,同様の理由により明確でない。

ウ 補正前の請求項2は,その末尾の記載等からみて,「偏光板保護フィルム」の発明であると認められる。そして,補正前の請求項2では,「バックライト光源は,白色発光ダイオード」であることが特定されているが,「偏光板保護フィルム」に含まれない「バックライト光源」を特定することによって,「液晶板保護フィルム」についてどのような特定がされたこととなるのかが明らかでない。
してみれば,補正前の請求項2に係る発明は明確でない。補正前の請求項2を引用する補正前の請求項4に係る発明も,同様の理由により明確でない。

エ 補正前の請求項4は,その末尾の記載等からみて,「偏光板」の発明であると認められる。そして,補正前の請求項1には,「液晶表示装置の観測者側に配置される偏光板であって,前記液晶表示装置の観測者側の面上に,請求項1又は2記載の偏光板保護フィルムを有する」ことが特定されている。
しかし,上記のような特定により,「偏光板」自体についてどのような特定がされたこととなるのかが明らかでない。
してみれば,補正前の請求項4に係る発明は明確でない。

オ 補正前の請求項1には,「前記遅相軸方向の配向角差は,分子配向計を用いて合計40点の配向角の測定を行い,測定された配向角の最大値から最小値を引いた値である」ことが特定されている。
上記の特定は,本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0090】の記載を元にしたものと思われる。しかし,上記のような補正前の請求項1の特定では,40点をどのように選択するのかが明らかでない。
してみれば,補正前の請求項1に係る発明は明確でない。補正前の請求項1を引用する補正前の請求項2?4に係る発明も,同様の理由により明確でない。

(2) 当審拒絶理由の判断
ア 特許請求の範囲の記載
請求項1については,前記「第2」に記載したとおりである。
請求項2については,以下のとおりである。
「【請求項2】
バックライト光源は,白色発光ダイオードである請求項1記載の液晶表示装置。」

イ 判断
請求項1は,「液晶表示装置」の発明である補正前の請求項3を元に補正されたものである。また,請求項2は,請求項1を引用している。
そして,前記(1)の当審拒絶理由のうち,ア?エは,補正前の請求項3に対するものでなく,「偏光板保護フィルム」の発明である補正前の請求項1及び2や,「偏光板」の発明である補正前の請求項4に対して通知されたものである。したがって,前記(1)の当審拒絶理由のア?エは,解消したものと認められる。
また,前記「第2」に記載したように,請求項1では40点の選択方法が明らかにされているから,前記(1)の当審拒絶理由のオもまた,解消したものと認められる。

ウ 小括
したがって,平成28年4月20日付けの手続補正により,前記(1)に示される当審拒絶理由は全て解消した。
そうすると,もはや,当審で通知した36条6項2号に関する拒絶理由によって本願を拒絶することはできない。

第5 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-06-17 
出願番号 特願2013-148034(P2013-148034)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
P 1 8・ 537- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 最首 祐樹  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 鉄 豊郎
道祖土 新吾
発明の名称 液晶表示装置及び偏光板保護フィルム  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  

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