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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
管理番号 1316139
審判番号 不服2014-2367  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-02-07 
確定日 2016-06-13 
事件の表示 特願2011-166045「高純度のX染色体保有精子集団およびY染色体保有精子集団」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 1月12日出願公開、特開2012- 5490〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯、本願発明
本願は、平成23年7月28日の出願であって、平成13年5月9日を国際出願日とする特願2001-582502号(優先権主張 平成12年5月9日 米国、平成12年10月12日 米国、平成13年2月10日 米国)の一部を特許法第44条第1項の規定に基づいて分割出願した特願2008-257883号の一部を同法第44条第1項の規定に基づいて分割出願したものであり、平成25年10月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年2月7日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに同日付けで手続補正がなされ、平成27年5月22日付けで当審より拒絶理由が通知され、同年11月24日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。
そして、本願の請求項1?19に係る発明は、平成27年11月24日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?19に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、請求項1に記載される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
精子細胞を区別する方法であって、以下の工程:
a.フローサイトメーターを用いて、流体流を確立する工程;
b.精子細胞を該流体流に導入する工程;
c.該精子細胞を0度検出器に対して配向する工程;
d.該検出器に対する精子細胞の配向の整列における差異に差示的に感応する特徴を有する光を検出する工程;
e.該精子細胞の配向の整列における差異に差示的に感応する特徴を有する光を、精子細胞の配向情報を含む少なくとも1つの信号に変換する工程;
f.配向情報を分析する工程であって、
a.電子信号をある時間にわたってプロットする工程;
b.該電子信号に対応するプロットの面積を積分する工程;および
c.該プロットの積分を、配向した精子細胞と比較する工程、
を含む、工程;および
g.該検出器に対する、該精子細胞の配向を決定する工程、
を包含する、方法。」


第2.当審の判断
1.引用例、引用発明
(1)引用例1
本願優先日前に頒布された刊行物である国際公開第00/06193号には、以下の事項が記載されている。(なお、引用例1は英文であるため、引用例1のパテントファミリーである、特表2002-521043号公報の記載(段落【0029】?【0032】、【0035】、【0036】)を翻訳として用いる。また、下線は当審が付した。)

ア「モデムフローサイトメトリー/細胞選別技術は、1965年にFulwylerによって最初に開発された。フローサイトメトリーは、血液および腫瘍細胞について主に医療研究および医療診断で使用されてきたが、精子細胞を含む多くの細胞懸濁液を評価するためにも使用され得る。本質的に、本明細書中で適用されるフローサイトメトリーは、ウマ精子細胞を選別することに関し、これは、いくつかの型の細胞供給源を介するフローサイトメーター装置に提供される。概念的な装置を図1に示す。このフローサイトメーター装置は、サンプル入口を備え、ここで、ウマ精子細胞供給源(1)は、このフローサイトメーターによって分析されるべきウマ精子細胞またはいくつかの異なる項目を、確立または供給するために作用する。細胞は、その細胞が外装液(3)に包囲されるような様式で、ノズル(2)内に蓄積される。この外装液(3)は、ウマ精子細胞供給源(1)がその細胞を供給し、外装液(3)がノズル(2)を通って同時に供給されるように、通常、いくつかの外装液供給源(4)によって供給される。この様式において、どのようにして外装液(3)がウマ精子細胞に対して外装液環境を形成するかは容易に理解され得る。種々の液体が、いくらかの圧力でフローサイトメーターに提供されるために、これらの液体は、ノズル(2)から流出し、そしてノズル開口部(5)で出る。発振器制御を介して非常に正確に制御され得るいくつかの型の発振器(6)を提供することによって、圧縮波が、ノズル(2)内で確立され得、そしてノズル開口部(5)でノズル(2)から出る液体に伝達され得る。従って、発振器(6)は、外装液(3)に対して作用し、ノズル開口部(5)を出る流れ(7)は、最終的に、そして規則的に液滴(8)を形成する。この細胞は、外装液環境によって包囲されているため、液滴(8)は、その中で個別に単離された細胞または他の項目を含み得る。
液滴(8)は一般的に単離されたウマ精子細胞を含むので、フローサイトメーターは、適切な細胞がその液滴内に含まれるか否かに基づいて、小滴を区別および分離し得る。これは、細胞検知システム(9)を介して達成される。この細胞検知システムは、少なくとも何らかのタイプの検出器(10)(これらは、互いに90度である2つの検出器を含み得る)を備え、これは、Larry Johnsonによる精液の研究(語呂合せを意図しない)、すなわち、米国特許第5135759において完全に議論されるように、各液滴(8)内に含まれる細胞に応答する。Johnson特許が精子細胞について説明するように、この細胞検知システム(9)は、特定の色素の相対的存在または相対的非存在に基づく作用を引き起こし得、これは、レーザー励振器(11)のような何らかの刺激体によって励起され得る。各々の型の精子細胞が、この色素によって染色されるが、異なる長さのX染色体およびY染色体が、異なるレベルの染色を生じる。従って、精子細胞における色素の存在の程度を検知することによって、X保有細胞とY保有細胞との間をそれらの異なる放出レベルによって弁別することが可能である。
フローサイトメーター分離技術において適切な細胞の最終的な分離および単離を達成するために、検出器(10)によって受け取られたシグナルは、何らかのタイプの選別弁別システム(12)に送られる。これは、非常に迅速に決定し、そして所望のウマ精子細胞が液滴(8)内に存在するか否かが決定されたか否かに基づいて各液滴(8)を差示的に荷電させ得る。この様式において、選別弁別システム(12)は、静電偏向プレート(13)が、液滴(8)が適切な細胞または他の項目を含むか否かに基づいて、液滴(8)を偏向させるよう作用する。結果として、このフローサイトメーターは、細胞を1以上のコレクター(14)中に貯留させることによって、これらの細胞を選別するように作用する。従って、細胞または他の項目の何らかの特性を検知することによって、このフローサイトメーターは、特定の特性に基づいてウマ精子細胞間を弁別し得、そしてこれらを適切なコレクター(14)に配置し得る。ウマ精子を選別するために本発明で使用される系において、X保有精子の小滴は陽性荷電され、従ってある方向に偏向し、Y保有精子の小滴は陰性荷電され、従って別の方向に偏向し、そして廃棄される流れ(つまり選別不可能な細胞)は荷電されず、従って、吸着管などへの偏向されない流れにおいて収集される。」(13頁20行?15頁9行)

イ「言及したように、選別プロセスを受ける精子は、蛍光色素染色Hoechst33342(ビスベンジミドとして化学的に公知である)で染色される。この色素は、400×10^(6)精子を含有する1ml容量中、約9μMでサンプルに添加され、そして32?35℃でインキュベートされ得る。Hoechst33342は、精子に対して非毒性であり、そして精子の運動性を有意に変更しない。Hoechst33342は、DNAらせんのA-T領域に結合する。この選別プロセスは、死精子が収集されない場合により生産的であり、Hoechst33342蛍光を消光し、死精子を標識する分子が、染色されたサンプルに添加され得る。食品着色料は、使用される非毒性分子の一例である。次いで、このプロセスは、蛍光染色された精子が、液体懸濁液の圧力下(例えば、50psi)でフローサイトメーターに導入されることである。精子は、サンプル注入管に進入し、そしてある方向または別の方向に配向される。これは、おそらく、その精子がその管の角度を有する末端を出て外装液内へ至るからである。この精子を含有する流れは、最大200mWの電力での紫外光(351および364nm)波長において、アルゴンイオンレーザービームと交差する。サンプルが100×10^(6)精子/mlである場合、約7%の液滴が、精子細胞を含有する。蛍光染色された核は、レーザービームによって励起され、色素が結合したDNAの量に比例して蛍光シグナルを放出する。
改変された市販のフロー選別システムは、DNAの差異に基づいて精子を分析および選別するために使用された。言及されたように、精子の端からの蛍光シグナル(レーザー放出から90°)は、平側面(検出器の0°前方)から放出される蛍光シグナルよりも明るい。この端の放出を使用して、精子頭部がレーザービームを通過する時の、精子頭部の配向を特徴付ける。放出光は、90°検出器によって収集され、そして適切に配向された精子が認識される。適切に配向されない精子は、ほとんど光を放出せず、そしてしばしば、分析から電子的に排除され、適切な配向を欠くために、大部分の精子は、X富化集団またはY富化集団に分離されない。また、適切に配向される多くの精子細胞は、蛍光重複の分布のために、選別されない。光学検出器および光電子増倍管(PMT)は、蛍光の0°検出に使用され、これは、適切に配向された精子のDNA含量に比例する。PMTは、精子によって放出された蛍光を収集し、そして光学シグナルを比例の電気シグナルに変換し、このシグナルは、さらなるシグナルプロセシングおよびグラフィックディスプレーのためにPMTによって増幅される。電子的ゲーティングは、適切に配向された精子についてのみの、0°の順方向検出器からのシグナルの選択を可能にし;これは、X精子とY精子のDNAとの間を区別する能力を生じる。解像された集団の周辺の電子的選別ウインドウを設定することによって、X保有精子およびY保有精子が2つの管へ分離される。2つの光学検出器は、放出された光を収集し、そして荷電パルス(+または-)をX保有精子またはY保有精子をそれぞれ含有する液滴に添加する回路が活性化される。個々の精子小滴が落下する時に、これらの精子が静電界を通過し、この静電界が精子を含有する荷電小滴を別々の管に引き込む。これらの管は、精子がさらに処理されるまで一時的な維持媒体として「捕獲液体(catch fluid)」エキステンダーを含む。」(16頁13行?17頁22行)

(2)引用例2
本願優先日前に頒布された刊行物である特開昭64-35345号公報には、以下の事項が記載されている。

ウ「従来の粒子解析装置において、例えばフローサイトメータではフローセルの中央部の微細な断面を有する流通部を流れる検体粒子にレーザービームを照射して得られる散乱光・蛍光の信号パルスの波高値或いは積分値から検体粒子の性質・構造等を解明することが可能である。」(第1頁右欄[従来の技術]の項)

(3)引用発明
引用例1の上記ア、イの記載から、引用例1には、
「フローサイトメーターを用いてウマ精子細胞を選別する方法であって、
外装液供給源(4)から外装液(3)を供給し、
ウマ精子細胞供給源(1)から蛍光色素で染色されたウマ精子細胞を供給し、
ウマ精子細胞は、サンプル注入管に進入し、管の末端を出て外装液内へ至り、配向され、
ウマ精子細胞にレーザービームを照射し、
精子頭部がレーザービームを通過する時に放出される、精子頭部の配向を特徴付ける放出光について、90°検出器と0°検出器の2つの検出器(10)を備えた細胞検知システム(9)を用いて検出し、
検出されたシグナルによってウマ精子細胞の配向が適切かどうかを選別し、適切に配向されないウマ精子細胞については、該ウマ精子細胞を分析から電子的に排除すること、を含む方法。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

また、上記ア、イの記載から、引用発明は、90°検出器と0°検出器の2つの検出器(10)を備える細胞検知システム(9)を用いた分析によって、ウマ精子細胞を選別する方法において、適切に配向された精子については、0°検出器からのシグナルによってX精子とY精子を区別することが可能であるが、適切に配向されていない精子はこの区別ができないことから、検出器からの情報に基づいて適切に配向されていない精子を選択し、分析から電子的に排除する方法に関するものであることが理解される。

2.対比、判断
(1)対比
本願発明と引用発明を対比する。
引用発明の「ウマ精子細胞を選別する方法」は、適切に配向されていない精子を電子的に排除するものであって、排除の際に精子の区別が行われているといえるから、本願発明の「精子細胞を区別する方法」に相当する。
引用例1には、上記イのとおり、適切に配向された精子については、放出光を0°検出器で検出し、ウマ精子細胞のX染色体とY染色体の違いに基づくDNA含量を分析して、X精子とY精子を区別することが記載されており、引用発明における(適切な)「配向」とは0度検出器に対するものと認められるから、引用発明の
「(フローサイトメーターを用いて)外装液供給源(4)から外装液(3)を供給し、
ウマ精子細胞供給源(1)から蛍光色素で染色されたウマ精子細胞を供給し、
ウマ精子細胞は、サンプル注入管に進入し、管の末端を出て外装液内へ至り、配向され」る工程は、本願発明の
「a.フローサイトメーターを用いて、流体流を確立する工程;
b.精子細胞を該流体流に導入する工程;
c.該精子細胞を0度検出器に対して配向する工程;」に相当する。
本願発明の「精子細胞の配向の整列における差異に差示的に感応する特徴を有する光」とは、本願の請求項4、5、及び図1等の記載から、精子細胞に結合した発光物質にレーザービ-ムを照射することで放出される蛍光を含む光であると認められるから、引用発明の「(蛍光色素で染色された)ウマ精子細胞にレーザービームを照射し、精子頭部がレーザービームを通過する時に放出される、精子頭部の配向を特徴付ける放出光」は、本願発明の「精子細胞の配向の整列における差異に差示的に感応する特徴を有する光」に相当すると認められる。
また、検出器で検出された放出光シグナルを電気シグナル(電子信号)に変換して、電子機器を用いて分析することは技術常識であるから、引用例1に明示的な記載はなくとも、引用発明においても、検出器で検出された放出光は電子機器で分析するために電子信号に変換されていると認められる。さらに、引用発明は精子の配向が適切かどうかを選別するものであり、分析する電子信号が配向情報を含んでいることは明らかである。
したがって、引用発明の
「ウマ精子細胞にレーザービームを照射し、
精子頭部がレーザービームを通過する時に放出される、精子頭部の配向を特徴付ける放出光について、90°検出器と0°検出器の2つの検出器(10)を備えた細胞検知システム(9)を用いて検出」する工程は、本願発明の
「d.該検出器に対する精子細胞の配向の整列における差異に差示的に感応する特徴を有する光を検出する工程;
e.該精子細胞の配向の整列における差異に差示的に感応する特徴を有する光を、精子細胞の配向情報を含む少なくとも1つの信号に変換する工程;」に相当する。
そして、引用発明における不適切な配向の精子の電子的な排除は、電子信号を分析し、検出器に対する配向状態を決定することによって行われることも明らかであるから、引用発明の
「検出されたシグナルによってウマ精子細胞の配向が適切かどうかを選別し、適切に配向されないウマ精子細胞については、該ウマ精子細胞を分析から電子的に排除すること」は、本願発明の
「f.配向情報を分析する工程、
g.該検出器に対する、該精子細胞の配向を決定する工程」と共通する工程を含んでいると認められる。

したがって、両者は、
「精子細胞を区別する方法であって、以下の工程:
a.フローサイトメーターを用いて、流体流を確立する工程;
b.精子細胞を該流体流に導入する工程;
c.該精子細胞を0度検出器に対して配向する工程;
d.該検出器に対する精子細胞の配向の整列における差異に差示的に感応する特徴を有する光を検出する工程;
e.該精子細胞の配向の整列における差異に差示的に感応する特徴を有する光を、精子細胞の配向情報を含む少なくとも1つの信号に変換する工程;
f.配向情報を分析する工程;
g.該検出器に対する、該精子細胞の配向を決定する工程、
を包含する、方法。」である点で一致し、以下の点で相違すると認められる。

<相違点>
f.配向情報を分析する工程として、本願発明は、
「 a.電子信号をある時間にわたってプロットする工程;
b.該電子信号に対応するプロットの面積を積分する工程;および
c.該プロットの積分を、配向した精子細胞と比較する工程 」を含むのに対して、引用発明は、電子信号を分析するものであるが、分析の具体的な方法は特定されていない点。

(2)当審の判断
本願発明のf工程のa?c工程は、その記載からは具体的な工程が十分に明確であるとは認められないことから、本願明細書の記載をみると、段落【0291】には「本発明のビームシェイビング光学要素(30)は、図15および16に示されるように、フローサイトメーターに組み込まれ得る。理解されるように、精子内に含まれるDNAに結合した蛍光色素のレーザー励起によって放出された光(31)は、励起レーザービームパターンを通じてフローするとき、精子頭部の平坦表面(28)に対して0度および90度で位置された光電子増倍管(32)によって検出され得る。」、段落【0292】には「染色された精子は、各精子の頭部が光電子増倍管(0度検出器である)に向ったその精子頭部の平坦表面にそって配向されるように、正確な様式で励起ビームまたは照射ビームによって操作されなければならない。精子のDNA含量の正確な測定は、パドル形状の精子頭部(28)の平坦表面からのみ測定され得る。従って、適切な方向で励起ビームを入れる精子の割合のみが、正確に測定され、そしてDNA含量に基づいて選別され得る。」、段落【0298】には「本発明の配向ノズルを用いてさえ、ビームパターンで適切に配向されていない、特定の数の精子、または粒子が存在する。上記のように、精子頭部の方向が適切でなければ、DNA含量は、放射光に基づいて正確に測定され得ない。本発明の特定の実施形態は、流体流中の所望されない配向されていない精子(RUUS)または粒子の除去を提供する。」、段落【0300】には「哺乳動物のうちの1種の配向された精子について確立された、各発光信号プロットの形状(または積分された面積もしくはその両方)を標準発光信号プロット(または積分された面積もしくはその両方)と比較することによって、配向されていない精子が同定され得(単変量分布ヒストグラムまたは二変量分布ヒストグラムから差し引かれた信号)、そして配向されていない精子が、肯定的に除去され得、その結果、所望される場合、配向されていない精子は、X染色体保有集団もY染色体保有集団もいずれも収集されない。」と記載されており、これらの記載から、本願明細書には、蛍光色素(発光物質)で染色した精子にレーザービームを照射し、蛍光色素から放出される放出光を0度と90度の2つの検出器で検出し、不適切な配向の精子はDNA量が正確に測定できないから、各(サンプル)発光信号プロットと標準発光信号プロットの積分面積とを比較することによって不適切な配向の精子を同定して除去し、一方、適切な配向の精子は、精子の頭部の平坦表面から放出される放出光が0度検出器を検出し、DNA量の違いによってX染色体保有精子とY染色体保有精子とを区別することが記載されていると認められる。
また、本願発明のf工程のc工程の「c.該プロットの積分を、配向した精子細胞と比較する工程」は、日本語としても何を意味するか明らかではないが、本願発明のf工程は情報(データ)を分析する工程であって、「精子細胞の配向を決定する」ことによって「精子細胞を区別する」ものであり、サンプルのデータを分析する際に予め用意したデータと比較することは技術常識であるから、上記c工程は、サンプル精子の電子信号のプロットの積分値と、予め用意した適切な配向の精子の電子信号のプロットの積分値(標準値)とを比較する工程を意味していると認められる。
したがって、本願明細書の記載及び技術常識から、本願発明のf工程のa?c工程とは、d工程で光を検出したサンプル精子が適切な配向、不適切な配向のいずれであるかを区別するために、e工程で得た電子信号を時間軸に沿ってプロットし(fのa)、プロットの面積を積分して積分値を算出し(fのb)、サンプル精子の電子信号のプロットの積分値を、予め用意した適切な配向の精子の電子信号のプロットの積分値と比較する(fのc)ことによって、サンプル精子が適切な配向、不適切な配向のいずれであるかを区別することを特定するものであると認められる。
しかし、本願優先日より10年以上も前の文献である引用例2の[従来の技術]の項に、「従来の粒子解析装置において、例えばフローサイトメータではフローセルの中央部の微細な断面を有する流通部を流れる検体粒子にレーザービームを照射して得られる散乱光・蛍光の信号パルスの波高値或いは積分値から検体粒子の性質・構造等を解明することが可能である。」と記載されており、フローサイトメーターの信号パルス(電子信号に相当すると認められる。)を分析する際に、信号パルスのグラフ(横軸は通常、時間であると認められる。)の積分値を用いることは、本願優先日における周知技術であると認められる。
そして、引用発明は、検出器からの情報に基づいて配向状態を分析し、適切に配向されていない精子を選別して排除するものであるが、そのような分析を標準となるデータと比較することによって行うことは、当業界の技術常識であり、引用発明は、ウマ精子細胞の配向が適切であるかどうかを分析するのであるから、標準となるのは適切に配向した精子のものであるといえる。
そうすると、引用発明において精子細胞の配向状態を分析するために、標準となるデータとして適切な配向の精子のもの(「配向した精子」)を用いることは、当業者が容易になし得ることであり、その際に、引用発明はフローサイトメーターの電子信号を分析するものであるから、電子信号を時間軸にプロットしてグラフ化(「電子信号をある時間にわたってプロット」)し、グラフの積分面積の値を求め(「該電子信号に対応するプロットの面積を積分」)、この積分値を用いて比較する(「該プロットの積分を、配向した精子細胞と比較する」)ことにも格別の困難性はない。
そして、本願発明において、f工程においてa?c工程を採用したことによって、引用例1、2の記載から予測できないような効果が奏されたとも認められない。
したがって、本願発明は、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得るものである。

3.審判請求人の主張について
審判請求人は平成27年11月24日付け意見書において、いずれの引用例にも、プロットの積分された面積が細胞選別器内の配向された精子から配向されない精子をより良好に区別することを教示、示唆するものは存在せず、また、事後分析的である旨主張している。

しかし、引用例2の上記記載は、引用発明と同じくフローサイトメーターにおける電子信号の分析について記載するものであるから、引用例2に記載された事項を引用発明に結びつけることは当業者であれば容易である。しかも、引用例2の[従来の技術]の項に記載された事項は、本願優先日における周知技術といえるものであるから、直接的な教示や示唆が引用例1、2になくとも、当業者であれば容易に想到する事項である。

4.むすび
以上のとおり、請求項1に係る発明は、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-01-18 
結審通知日 2016-01-19 
審決日 2016-02-01 
出願番号 特願2011-166045(P2011-166045)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鳥居 敬司幸田 俊希原 大樹  
特許庁審判長 田村 明照
特許庁審判官 中島 庸子
飯室 里美
発明の名称 高純度のX染色体保有精子集団およびY染色体保有精子集団  
代理人 森下 夏樹  
代理人 山本 秀策  

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