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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06Q
管理番号 1316142
審判番号 不服2015-6753  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-09 
確定日 2016-06-14 
事件の表示 特願2013- 38797「トランザクションでのフレーズトークンの利用」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 8月 8日出願公開、特開2013-152728〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯

本願は、2007年8月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年8月25日、米国、2006年10月10日、米国)を国際出願日とする特願2009-526853号を平成25年2月28日に新たな特許出願としたものであって、平成26年2月12日付けで拒絶理由通知がなされ、これに対して同年7月1日付けで意見書の提出とともに手続補正がなされたが、同年12月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成27年4月9日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2.本願発明

本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成26年7月1日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
トランザクションを容易にするシステムであって、
プロセッサおよびメモリを有するとともに、1つ以上のトランザクションフレーズトークンに関連した処理情報を含むデータストアを実施するプログラム可能な命令を実行するためのコンピュータシステムを具え、
前記トランザクションフレーズトークンは、トランザクションアカウントに関連し、 前記トランザクションフレーズトークンは、前記トランザクションアカウントにアクセスするのに利用されるトランザクションアカウント識別子ではなく、
少なくとも1つのトランザクションフレーズトークンは、トランザクションフレーズトークン保有者によって完全に選択される文字の一義的な集合からなり、
プロセッサおよびメモリを有するとともに、トランザクションフレーズトークン処理サービスを実施するプログラム可能な命令を実行するためのコンピュータシステムを具え、
前記トランザクションフレーズトークン処理サービスは、依頼人からのトランザクションの遂行を求めるリクエストを処理し、前記トランザクション遂行リクエストは、トランザクションフレーズトークン保有者によって前記依頼人に提供される選択されたトランザクションフレーズトークンの表現を含み、
前記トランザクションフレーズトークン処理サービスは、前記選択されたトランザクションフレーズトークンに関連した処理情報にアクセスし、
前記トランザクションフレーズトークン処理サービスは、前記選択されたトランザクションフレーズトークンに関連した処理情報に基づいて、前記トランザクション遂行リクエストを処理し、
前記トランザクションフレーズトークン保有者は、トランザクションを開始させるために、単に前記少なくとも1つのトランザクションフレーズトークンを前記依頼人に送信するだけでよい、
ことを特徴とするシステム。」

第3.引用文献及び引用発明の認定

(1)原査定の拒絶の理由において引用された特開平11-265413号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。(下線は合議体が付したものである。)

(ア)「【0004】本発明の課題は、金融機関の送金/振込みサービスの利便性を高めるために、口座を持たない相手に送金することのできる送金システムおよびその方法を提供することである。」

(イ)「【0018】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を詳細に説明する。本発明においては、送金人が口座のない相手に送金する際、送金する相手の一般情報と、受取人自身でなければ分からない個人情報と、送金人が一方的に決めた秘密情報とを指定する。金融機関の送金システムは、送金内容に基づいて一時送金口座を自動的に生成し、受取人が正しい手順で送金を引き出した後は、その一時送金口座の消し込みを行う。このような一時送金口座を導入することで、口座のない相手にも簡単に送金することができる。
【0019】本発明の送金方法は、送金する側から見た場合、口座なしの相手への口座振替/振込みを伴わない送金方法であり、送金を受ける側から見た場合、受け取り口座/キャッシュカードなしの現金引出し方法となる。一時送金口座の形態としては、金融機関が管理する受取人の仮口座レコードとして作成する場合と、送金人の口座の関連レコードとして作成する場合とがある。」

(ウ)「【0020】図2は、仮口座レコードを用いた送金システムを示している。図2の送金システムは、ATM11、ATM12、金融処理装置13、顧客管理データベース(DB)14、および仮口座管理データベース15を備える。金融処理装置13は、コンピュータ化されており、端末送受信部16、データベースアクセス部17、演算部18、送金処理部19、およびチェック&引出し処理部20を含む。」

(エ)「【0022】まず、送金人aは、ATM11から金融処理装置13に、受取人bに対する送金を依頼する(手順P1)。このとき、端末送受信部16は、ATM11から入力された送金金額(例えば、5万円)、秘密情報、および受取人bの本人情報を受信する。秘密情報は、例えば、送金人aのみが知っているテンポラリパスワード等の情報であり、送金人aが指定する代わりに、金融処理装置13が自動的に生成してもよい。
【0023】受取人bの本人情報は、氏名、生年月日、TEL番号、住所、勤務先等の個人情報であり、このうち、生年月日、TEL番号、住所、勤務先等は、受取人bの個人情報である。この本人情報は、受取人bが送金を引出す際の本人確認のために用いられる。
【0024】次に、データベースアクセス部17は、顧客管理データベース14の送金人aの口座レコードにアクセスし、その残高を送金金額分だけ減らす(手順P2)。例えば、残高が25万円で送金金額が5万円の場合は、更新後の残高は20万円となる。残高の更新は、演算部18により行われる。
【0025】次に、送金処理部19は、受取人bの仮口座レコード21を作成し、データベースアクセス部17を介して、仮口座管理データベース15に格納する(手順P3)。仮口座レコード21には、送金受付日時、受取人bの本人情報、送金人aの口座番号、送金金額、送金人aの氏名等の送金元情報、秘密情報、および有効期限が含まれる。このうち、送金人aの口座番号、送金金額、および送金元情報が、送金情報となる。有効期限が過ぎても仮口座の送金が引出されない場合は、送金元に払い戻され、仮口座レコード21は消去される。」

(オ)「【0026】次に、端末送受信部16から送金人aに処理結果が通知されて(手順P4)、送金が完了する。送金人aは、電話等の方法で、送金内容を受取人bに連絡するとともに、引出しに必要な秘密情報を伝える(手順P5)。秘密情報が自動生成された場合は、それが、金融処理装置13から送金人aを介して、または直接、受取人bに通知される。
【0027】受取人bは、ATM12から金融処理装置13に、送金金額の支払いを依頼する(手順P6)。このとき、端末送受信部16は、ATM12から入力された送金金額、秘密情報、および受取人bの本人情報を受信する。次に、チェック&引出し処理部20は、仮口座管理データベース15から仮口座レコード21を読み込み(手順P7)、その情報を受取人bが入力した情報と比較して、受取人bの本人確認を行う。
【0028】受取人bが本人であることが確認できると、チェック&引出し処理部20は、送金金額分の現金の支払いをATM12に指示し(手順P8)、仮口座レコード21を消去(クリア)する(手順P9)。このように、受取人bの本人情報と秘密情報を併用した本人確認を行うことで、受取人bは、キャッシュカードなしで仮口座から出金することができる。」

上記(ア)?(オ)の記載から、引用文献1には、次のとおりの発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「金融機関の送金/振込みサービスの利便性を高めるために、口座を持たない相手に送金することのできる送金システムであり、送金人が口座のない相手に送金する際、送金する相手の一般情報と、受取人自身でなければ分からない個人情報と、送金人が一方的に決めた秘密情報とを指定し、金融機関の送金システムは、送金内容に基づいて一時送金口座を自動的に生成し、受取人が正しい手順で送金を引き出した後は、その一時送金口座の消し込みを行うシステムであって、
送金システムは、ATM11、ATM12、金融処理装置13、顧客管理データベース(DB)14、および仮口座管理データベース15を備え、金融処理装置13は、コンピュータ化されており、端末送受信部16、データベースアクセス部17、演算部18、送金処理部19、およびチェック&引出し処理部20を含むものであり、
ATM11から金融処理装置13に、受取人bに対する送金を依頼し(手順P1)、このとき、金融処理装置13の端末送受信部16は、ATM11から入力された送金金額、秘密情報、および受取人bの本人情報を受信し、ここで、秘密情報は、送金人aのみが知っているテンポラリパスワード等の情報であり、送金人aが指定するものであり、
金融処理装置13のデータベースアクセス部17は、顧客管理データベース14の送金人aの口座レコードにアクセスし、その残高を送金金額分だけ減らし(手順P2)、残高の更新は、演算部18により行われ、
金融処理装置13の送金処理部19は、受取人bの仮口座レコード21を作成し、データベースアクセス部17を介して、仮口座管理データベース15に格納し(手順P3)、
ここで、仮口座レコード21には、送金受付日時、受取人bの本人情報、送金人aの口座番号、送金金額、送金人aの氏名等の送金元情報、秘密情報、および有効期限が含まれ、このうち、送金人aの口座番号、送金金額、および送金元情報が、送金情報となり、有効期限が過ぎても仮口座の送金が引出されない場合は、送金元に払い戻され、仮口座レコード21は消去されるものであり、
端末送受信部16から送金人aに処理結果が通知されて(手順P4)、送金が完了し、
送金人aは、電話等の方法で、送金内容を受取人bに連絡するとともに、引出しに必要な秘密情報を伝え(手順P5)、
受取人bは、ATM12から金融処理装置13に、送金金額の支払いを依頼し(手順P6)、このとき、端末送受信部16は、ATM12から入力された送金金額、秘密情報、および受取人bの本人情報を受信し、チェック&引出し処理部20は、仮口座管理データベース15から仮口座レコード21を読み込み(手順P7)、その情報を受取人bが入力した情報と比較して、受取人bの本人確認を行い、
受取人bが本人であることが確認できると、金融処理装置13のチェック&引出し処理部20は、送金金額分の現金の支払いをATM12に指示し(手順P8)、仮口座レコード21を消去する(手順P9)、
ことで、受取人bの本人情報と秘密情報を併用した本人確認を行うことで、受取人bはキャッシュカードなしで仮口座から出金することができる、
システム」

(2)周知技術1
当審で周知例として引用する特開2004-240764号公報(以下、「周知例1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

(カ)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、パーソナル・コンピュータ等の情報処理装置、情報処理装置用制御方法及び情報処理装置用制御プログラムに係り、詳しくはセキュリティ・ハードウェアを装備しシステム・ログオン時にセキュリティ・ハードウェア内のセキュリティ・キー情報に基づいてユーザ認証を行うようになっている情報処理装置、情報処理装置用制御方法、及び情報処理装置用制御プログラムに関するものである。」

(キ)「【0020】
ユーザ認証用の入力データは、例えば第1の形式のOS起動の際にユーザがキー入力するデータである。図3はセキュリティ・ハードウェアのセキュリティ・キー情報に基づくユーザ認証用の窓を例示したものである。図3の窓は、情報処理装置10としてのPCでは、第1の形式のOS起動の際にPCのディプレイに表示される。ユーザは、図3の窓に対して、ユーザ名の欄及びパスフレーズの欄に、自己に係るユーザ名及びパスフレーズ(例:”本日は晴天なり”)を、キーボードを使って入力する。その次に、”OK”ボタンをクリックすると、ユーザ名及びパスフレーズがCPUに取り込まれ、セキュリティ・ハードウェア11内のセキュリティ・キー情報に係るデータと照合され、ユーザが正当であると認証されれば、第1の形式のOS起動が実行される。OS起動の際にユーザ認証用の入力データは、ユーザがキーボードを介して入力するパスワードやパスフレーズに限定されず、ユーザから検出したユーザの指紋や虹彩に係るデータであってもよい。」

上記(カ)、(キ)の記載から、周知例1には、次の事項(以下、「周知例1」という。)が記載されていると認められる。
「ユーザ認証用の入力データとして、パスフレーズ(例:”本日は晴天なり”)を用いること。」

(3)周知技術2
当審で周知例として引用する国際公開第2004/006194号(以下、「周知例2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

(ク)「技術分野
本発明は、銀行のキャッシュカードを用いたATM(Automated Teller Machine)端末での取引や、店舗でのデビットカードによる取引や、信販会社のクレジットカードによるショッピング/キャッシングなど、クレジットカードやキャッシュカード等の決済カードを用いた取引に用いて好適のシステム、および、同システムにおいて用いられる取引端末装置に関する。」(明細書第1頁5?10行)

(ケ)「また、本実施形態では、ホストサーバ30側で暗証番号認証処理に係るソフトウェアを変更することなく、既存の暗証番号とは異なるパスワード(パスフレーズ)を設定してそのパスワードによる認証を行なうことができる。つまり、ユーザ認証に際して、従来の暗証番号(4桁の数字)による認証以外に、暗証番号とは異なる書式、例えば英数字、ひらがな、カタカナ、漢字、記号などからなる文字列をパスワードとして用いることができる。このような任意文字のパスワードを用いると、当然、従来の4桁数字の暗証番号よりも、ずっと強固なセキュリティ性を確保することができる。
ただし、任意文字のパスワードを用いると、ユーザが記憶すべき情報量(つまり文字数)は暗証番号よりも増えることになるが、その代わり、ユーザにとって覚えやすいフレーズ(例えば「ことしはいよいよだいがくそつぎょう」)や単純な置換(ローマ字の「MURASHITA」を「<ITSDJOYS」にする;つまり、キーボード配置で1文字横のキーを打つ)をパスワードとして用いたとしても、第三者によってパスワードを類推され難くなる。従って、任意文字のパスワードを用いることにより、セキュリティレベルを大幅に向上させ、且つ、覚えやすいパスワードを設定できるという効果が得られる。」(明細書第20頁18行?第21頁4行)

上記(キ)、(ク)の記載から、周知例2には、次の事項(以下、「周知技術2」という。)が記載されていると認められる。

「ユーザ認証に際して、ユーザにとって覚えやすいフレーズ(例えば「ことしはいよいよだいがくそつぎょう」)をパスワードとして用いること。」
第4.本願発明と引用発明との対比

本願発明と引用発明とを対比する。

(a)引用発明の送金システムは、「口座を持たない相手に送金することのできる」ものであるから、「送金」という金融取引(本願発明における「トランザクション」に相当する)を「容易」にする「システム」であるということができる。

してみれば、引用発明と本願発明とは、
「トランザクションを容易にするシステム」
である点で共通している

(b)「トランザクションフレーズトークン」について、

(b-1)引用発明の「送金人aの口座」が本願発明の「トランザクションアカウント」に相当する。
ここで、引用発明では、仮口座レコード21には「送金人aの口座番号」と「秘密情報」が含まれていることから、仮口座レコードにおいて「送金人aの口座」と「秘密情報」とが「関連付け」られていることは明らかである。

(b-2)次に、引用発明において、「秘密情報」は、送金という金融取引(トランザクション)において使用されるものであることから、「トランザクショントークン」であるということができる。
また、引用発明における「秘密情報」は「送金人aのみが知っているテンポラリパスワード等」からなるところ、一般にパスワードは、「文字の集合からなる」ものであり、「送金人aのみが知っているテンポラリ」なものことから、第三者が振込を行う時など口座にアクセスするのに利用される口座番号のような、固定的に用いられる口座の識別子とは異なるものであることは明らかである。
さらに、引用発明における「秘密情報」は「送金人aが一方的に決めた」ものであり、「送金人aが指定する」ものであるから、「送金人によって完全に選択される」ものであるということができる。

(b-3)加えて、引用発明の「送金人a」は、送金内容を受取人bに連絡するとともに、引出しに必要な秘密情報を伝えること、「受取人b」は、ATM12から金融処理装置13に送金金額の支払いを依頼し、このとき該秘密情報がATMから入力されることから、引用発明の「送金人a」は、「受取人bに提供される秘密情報」を「保有」しており、受取者bに提供する「者」、すなわち「秘密情報」の「保有者」であり、「受取人b」は送金金額の支払いという「トランザクションの遂行」を求める「人」、すなわち「トランザクションの遂行を求める依頼人」である。
以上のことから、引用発明の「送金人a」と「受取人b」は本願発明の「トランザクションフレーズトークン保有者」「依頼人」に対応する。

(b-4)上記(b-1)?(b-3)を総合すると、
引用発明の「秘密情報」と本願発明の「トランザクションフレーズトークン」とは、後記する点で異なるものの、
「トランザクションアカウントに関連し」「トランザクションアカウントにアクセスするのに利用されるトランザクションアカウント識別子ではなく」「トランザクショントークン保有者によって完全に選択される文字の集合からなるトランザクショントークン」
の点で共通している。

(c)「トランザクションフレーズトークンに関連した処理情報」について、

(c-1)本願明細書【0009】に「次に、トークン処理サービスは少なくとも1つのトランザクションフレーズトークンのコンフィギュレーションに基づいてトランザクション遂行リクエストを処理する」という記載が、
さらに【0014】に「例示的な実施形態では、コンフィギュレーション情報は、トランザクションフレーズトークンに関連付けられたトランザクションアカウント(例えば、銀行口座、クレジットカード口座、サービスプロバイダが作った口座など)に許されている調整動作のタイプ(例えば、引き落とし又は入金)、特定のベンダー、商品/サービス、取引金額、有効期限に関する処理規則の仕様などに関するものであってよい」という記載があり、
加えて、【0043】-【0044】に「次に図4Bを参照して、ターゲットトランザクションフレーズトークンのコンフィギュアを容易にするためにコンピューティングデバイスによって生成されるスクリーンディスプレイ450を示したブロック図の説明を行う。・・・さらに別の例では、トランザクションフレーズトークン保有者は、トランザクションフレーズトークンをトランザクションに使用できる有効期限(例えば、日付又は時間範囲)をコントロール470において指定することができる。」という記載があることから、
本願発明の「トランザクションフレーズトークンに関連した処理情報」の1つとして「トランザクションフレーズトークンに関連付けられるコンフィギュレーション情報」があり、該「コンフィギュレーション情報」の1つに「トランザクションフレーズをトランザクションに使用できる有効期限」があることがいえる。

(c-2)一方、引用発明において、仮口座レコード21には、「送金受付日時、受取人bの本人情報、送金人aの口座番号、送金金額、送金人aの氏名等の送金元情報、秘密情報、および有効期限が含まれ」ており、「有効期限を過ぎても仮口座の送金が引出されない場合は、送金元に払い戻され、仮口座レコード21は消去される」ことから、
引用発明においては、仮口座レコードに関して、秘密情報と「有効期限」が関連していることは明らかである。

(c-3)上記(b-4)、(c-1)、(c-2)を総合すると、
引用発明の「有効期限」と本願発明の「トランザクションフレーズトークンに関連した処理情報」は、後記する点で異なるものの、
「トランザクショントークンに関連した処理情報」
である点で共通している。

(d)引用発明の「金融処理装置13」はコンピュータ化されており、金融処理装置13の送金処理部19は、「受取人bの仮口座レコード21を作成し、データベースアクセス部17を介して、仮口座管理データベース15に格納」すること、「仮口座レコード21には、送金受付日時、受取人bの本人情報、送金人aの口座番号、送金金額、送金人aの氏名等の送金元情報、秘密情報、および有効期限が含まれ」ること、またコンピュータ化されている金融処理装置13はプロセッサおよびメモリを有することは自明であること、から、
引用発明は、後記する点で異なるものの、本願発明の「プロセッサおよびメモリを有するとともに、1つ以上のトランザクションフレーズトークンに関連した処理情報を含むデータストアを実施するプログラム可能な命令を実行するためのコンピュータシステムを具え」るものと、
「プロセッサおよびメモリを有するとともに、1つ以上のトランザクショントークンに関連した処理情報を含むデータストアを実施するプログラム可能な命令を実行するためのコンピュータシステムを具え」
る点で共通している。

(e)「トランザクションフレーズトークン処理サービス」について
上記(b-3)のとおり、引用発明の「送金人a」「受取人b」は、本願発明の「トランザクションフレーズトークン保有者」「依頼人」に対応する。
また、「秘密情報」は「送金人aのみが知っているテンポラリパスワード等」からなり、「トランザクショントークン保有者によって完全に選択される文字の集合からなるトランザクショントークン」である、「パスワード等」は何らかの「表現」を有することは自明である。
したがって、引用発明における「秘密情報」は「トランザクショントークン保有者によって前記依頼人に選択されたトランザクションの表現」ということができる。

以上のことから、引用発明の「受取人bは、ATM12から金融処理装置13に、送金金額の支払いを依頼し(手順P6)、このとき、端末送受信部16は、ATM12から入力された送金金額、秘密情報、および受取人bの本人情報を受信」することは、
本願発明の「依頼人からのトランザクションの遂行を求めるリクエストを処理し、前記トランザクション遂行リクエストはトランザクショントークン保有者によって前記依頼人に選択されたトランザクションの表現を含み」という事項に対応する。

また、引用発明の「チェック&引出し処理部20は、仮口座管理データベース15から仮口座レコード21を読み込み(手順P7)、その情報を受取人bが入力した情報と比較して、受取人bの本人確認を行」うことは、仮口座レコード21に、「送金受付日時、受取人bの本人情報、送金人aの口座番号、送金金額、送金人aの氏名等の送金元情報、秘密情報、および有効期限が含まれ」ることを踏まえると、
本願発明の「選択されたトランザクションフレーズトークンに関連した処理情報にアクセス」することに対応する。

さらに、引用発明の「受取人bが本人であることが確認できると、金融処理装置13のチェック&引出し処理部20は、送金金額分の現金の支払いをATM12に指示し(手順P8)、仮口座レコード21を消去する(手順P9)」ことは、
本願発明の「選択されたトランザクションフレーズトークンに関連した処理情報に基づいて、前記トランザクション遂行リクエストを処理」することに対応する。

そして、引用発明における金融処理装置13において上記の処理を行うことは、本願発明の「トランザクションフレーズトークン処理サービスを実施する」ことに対応し、金融処理装置13はコンピュータ化されていることから、プロセッサおよびメモリを有することは自明であることから、
引用発明は、後記する点で異なるものの、本願発明の「プロセッサおよびメモリを有するとともに、トランザクションフレーズトークン処理サービスを実施するプログラム可能な命令を実行するためのプログラム可能な命令を実行するためのコンピュータシステムを具え」るものと、
「プロセッサおよびメモリを有するとともに、トランザクショントークン処理サービスを実施するプログラム可能な命令を実行するためのプログラム可能な命令を実行するためのコンピュータシステムを具え」
る点で共通する。

(f)また、上記(e)とも関連するが、
引用発明は「送金人aは、電話等の方法で、送金内容を受取人bに連絡するとともに、引出しに必要な秘密情報を伝え(手順P5)」ることは、本願発明の「前記トランザクションフレーズトークン保有者は、トランザクションを開始させるために、単に前記少なくとも1つのトランザクションフレーズトークンを前記依頼人に送信するだけでよい」という処理と、後記する点で相違するものの、
「トランザクショントークン保有者は、少なくとも1つのトランザクショントークンを依頼人に伝える」
点で共通する。

また、本願明細書【0033】に「既に述べたように、トランザクションフレーズトークンの送信は、通信ネットワークソフトウェアアプリケーション、携帯電話、専用ハードウェア/ソフトウェア、口頭、及び/又は他のアプリケーションの仕組みを含む多様な通信方法のうちのどれを使用してもよい」とあり、本願発明における「送信」とは引用発明における「電話等の方法で連絡する」ことを含むといえるから、
引用発明と本願発明は、
「トランザクショントークン保有者は、少なくとも1つのトランザクショントークンを依頼人に送信することを含む」
点で一致する。

上記(a)-(f)からすると、本願発明と引用発明は、以下の点で一致する。

(一致点)
「トランザクションを容易にするシステムであって、
プロセッサおよびメモリを有するとともに、1つ以上のトランザクショントークンに関連した処理情報を含むデータストアを実施するプログラム可能な命令を実行するためのコンピュータシステムを具え、
前記トランザクショントークンは、トランザクションアカウントに関連し、 前記トランザクショントークンは、前記トランザクションアカウントにアクセスするのに利用されるトランザクションアカウント識別子ではなく、
少なくとも1つのトランザクショントークンは、トランザクショントークン保有者によって完全に選択される文字の集合からなり、
プロセッサおよびメモリを有するとともに、トランザクショントークン処理サービスを実施するプログラム可能な命令を実行するためのコンピュータシステムを具え、
前記トランザクショントークン処理サービスは、依頼人からのトランザクションの遂行を求めるリクエストを処理し、前記トランザクション遂行リクエストは、トランザクショントークン保有者によって前記依頼人に提供される選択されたトランザクションフレーズトークンの表現を含み、
前記トランザクショントークン処理サービスは、前記選択されたトランザクショントークンに関連した処理情報にアクセスし、
前記トランザクショントークン処理サービスは、前記選択されたトランザクショントークンに関連した処理情報に基づいて、前記トランザクション遂行リクエストを処理し、
前記トランザクショントークン保有者は、少なくとも1つのトランザクショントークンを前記依頼人に送信することを含む、
ことを特徴とするシステム。」

一方、本願発明と引用発明は、以下の点で相違する。

(相違点1)
トランザクショントークンが、本願発明では「トランザクションフレーズトークン」であるのに対して、引用発明は「テンポラリパスワード等の情報である秘密情報」である点。

(相違点2)
トランザクショントークンが、本願発明は、「トークン保有者によって完全に選択される文字の一義的集合」であるのに対して、引用発明は「送金人aによって完全に選択される文字の集合」ではあるが、一義的かどうかは明らかではない点。

(相違点3)
トランザクションを開始させるために、本願発明は、「トランザクションフレーズトークン保有者は、単に少なくとも1つのトランザクションフレーズトークンを依頼人に送信するだけでよい」のに対して、引用発明においては、「トランザクションを開始させるために「トランザクショントークン保有者は、単に少なくとも1つのトランザクショントークンを依頼人に送信するだけでよい」かどうか、については明らかではない点。

第5.当審の判断

上記相違点について検討する。

(相違点1について)
パスワードのようなユーザ認証データとして、所定のフレーズを用いることは周知技術1,2にあるように周知技術にすぎず、引用発明において、当該周知技術のように、所定パスワードに所定のフレーズを用いるようにすることにより、トランザクショントークンを「トランザクションフレーズトークン」とすることは、当業者が必要に応じてなし得る設計的事項にすぎない。

(相違点2について)
引用発明の「秘密情報」は、送金された金額を受取人が引出す際、受取人の確認を行うためのものであり、他の秘密情報と同じものを流用したのでは、本人確認を行うに当たり不都合が生じることからすると、これを「一義的なもの」とすることは当業者にとって格別の創作能力を要するものではない。

(相違点3について)
当該事項に関連し、平成26年7月1日付け意見書によれば、補正の根拠として本願明細書段落0009、0024、図2Aが上げられている。そこで、これらを精査するに、
本願明細書【0009】には
「トランザクションフレーズトークンに関連付けられたトランザクションアカウントから引き落としを行わせるために、送信側はトランザクションフレーズトークンを受信側に送るだけでよい。」
という記載が、
【0024】には
「図2Aを参照すると、トランザクションは2つのトランザクションフレーズトークン保有者、すなわち受信者102Dと送信者102Aの対話で始まるものとしてよい」
という記載がある(下線は合議体が付した)。

ところで、トランザクションフレーズトークンを送信するに当たっては、トランザクションフレーズトークンを得る必要があるから、トランザクションフレーズトークンを送信する前に、明細書【0036】および図3の300から始まる処理である、トランザクションフレーズトークン割当てルーチンを行う必要であることは自明である。
ところが、上記明細書【0024】の記載からすると、「トランザクションはトランザクションフレーズトークン保有者である受信者102Dと送信者102Aの対話で始まるとしてよい」(下線は合議体が付した)とされていることから、本願発明においては、受信者102Dと送信者102Aの対話、すなわち送信者からトランザクションフレーズトークンを受信者に送信すること、に先立って行う必要があるトランザクションフレーズトークン割当てルーチンは「トランザクションの開始前に行われる処理であり、トランザクションではない」ものであり、「トランザクションフレーズトークン保有者がトランザクションフレーズトークンを依頼人に送信すること」を「トランザクションの開始」と便宜上定義したにすぎないものである。

一方、引用発明においても、「送金人aは、電話等の方法で、送金内容を受取人bに連絡するとともに、引出しに必要な秘密情報を伝え(手順P5)」る前に、手順P1から手順P4の処理を行うが、この手順P1から手順P4の処理を「トランザクション開始前に行われる処理であり、トランザクションではない」として、手順P5のうち「送金人aが送金人bに引き出しに必要な秘密情報を伝え」ることを「トランザクションの開始」と便宜上定義すれば、「送金人aが送金人bに引き出しに必要な秘密情報を伝え」るだけでトランザクションを開始させることになるのであるから、
引用発明において、上記のように、手順P5のうち「送金人aが送金人bに引き出しに必要な秘密情報を伝え」ることを「トランザクションの開始」とすることで、本願発明同様「トランザクションフレーズトークン保有者は、トランザクションを開始させるために、単に少なくとも1つのトランザクションフレーズトークンを依頼人に送信するだけでよい」とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願発明の作用効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

第6.むすび

以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は他の請求項について検討するまでもなく拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-01-13 
結審通知日 2016-01-18 
審決日 2016-01-29 
出願番号 特願2013-38797(P2013-38797)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田付 徳雄  
特許庁審判長 金子 幸一
特許庁審判官 川崎 優
小田 浩
発明の名称 トランザクションでのフレーズトークンの利用  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 久野 琢也  
代理人 大谷 令子  

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