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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1316197
審判番号 不服2015-495  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-01-09 
確定日 2016-06-23 
事件の表示 特願2011-548722「マイクロレリーフ構造」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 8月12日国際公開、WO2010/089399、平成24年 8月 2日国内公表、特表2012-517610〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本件出願は,特許法184条の3第1項の規定により,2010年2月8日(パリ条約による優先権主張 2009年2月9日 イギリス)にされたとみなされた特許出願であって,その手続の経緯の概要は,以下のとおりである。

平成25年 2月 5日:手続補正書
平成25年 9月 3日:拒絶理由通知(同年同月11日発送)
平成26年 3月11日:意見書
平成26年 3月11日:手続補正書
平成26年 9月 3日:拒絶査定(同年同月10日送達)
平成27年 1月 9日:手続補正書(以下「本件補正」という。)
平成27年 1月 9日:審判請求

第2 補正却下の決定

[結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
(1) 本件補正前の特許請求の範囲の請求項18の記載は,以下のとおりである(以下,この記載に係る発明を「本願発明」という。)。

「 階層構造における基材上又は前記階層構造の他の適切な層の表面上のマイクロレリーフパターン,回折及び/又はホログラフィック表面レリーフパターンを含むレリーフパターンと,前記階層構造の後続処理の際に下層のレリーフパターンを保護するように配列され,前記レリーフパターンの少なくとも一部に設けられる保護固定層と,を含むことを特徴とする階層構造。」

なお,上記「階層構造」との記載について,請求項18には「前記積層構成の後続処理の際に・・・」と記載されているが,「積層構成」という用語は請求項18において前記されておらず,かつ本願明細書の発明の詳細な説明にも存在していないところ,「積層構成」との記載は,「階層構造」の誤記と認め,本願発明を上記のように認定した。下記(2)においても同様である。

(2) 本件補正後の特許請求の範囲の請求項18の記載は,以下のとおりである(以下,この記載に係る発明を「本件補正後発明」という。)。なお,下線は当審判体が付したものである(以下同じ。)。

「 階層構造における基材上又は前記階層構造の他の適切な層の表面上のマイクロレリーフパターン,回折及び/又はホログラフィック表面レリーフパターンを含むレリーフパターンと,前記階層構造の後続処理の際に下層のレリーフパターンを保護し前記レリーフパターンを埋設するように配列され,前記レリーフパターンの少なくとも一部に設けられる保護固定層と,を含むことを特徴とする階層構造。」

2 補正の目的

本件補正は,(A)願書に最初に添付された明細書の段落【0012】,【0032】の記載に基づいて,本願発明における「レリーフパターン」が「埋設」されることを限定するものであり,(B)本願発明と本件補正後発明の産業上の利用分野は,ともに「マイクロレリーフ構造」(段落【0001】参照。)であり,(C)本願発明と本件補正後発明の解決しようとする課題は,ともに「既知の積層技法においては,屈折率の整合やレリーフの熱可塑性樹脂破壊の結果,回折などに関してマイクロレリーフを完全に消去することがあるため,ポリカーボネートなどの材料内に回折レリーフを埋め込むことは従来からの課題であった。」(段落【0004】参照。),「セキュリティーホログラフィック情報が熱可塑性樹脂体に埋設又は埋め込まれている状態において,材料が乱されると,樹脂から金属要素を容易に除去可能となり,後に偽造セキュリティ装置や関連装置において再利用可能となる。」(段落【0005】参照。)というものであるから,本件補正は,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たすとともに,同法17条の2第5項2号に掲げる事項を目的とするものである。
そこで,本件補正後発明が,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するのか否か(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのか否か)について検討する。

3 独立特許要件
(1) 引用例1に記載の事項
本件出願の優先権主張の日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である,特開2005-7624号公報(【公開日】平成17年1月13日,【発明の名称】転写シート及びその製造方法,【出願番号】特願2003-171678,【出願日】平成15年6月17日,【出願人】凸版印刷株式会社,以下「引用例1」という。)には,図面とともに,以下の事項が記載されている。

ア 「【発明の属する技術分野】
本発明は,偽造,改ざん,又は,秘密にされるべき情報の盗み読み,等の不正の防止対策や,万一そのような不正が心配されても不正の有無の判別を容易とする対策,これらの対策を必要とされる技術分野に関係する[本明細書ではこれらの対策を偽造防止対策と総称する]。
【0002】
より詳しくは,例えば,商品券やクレジットカード等の有価証券類の偽造防止対策とか,ブランド品や高級品等の一般に高価なものへ適用希望が多い真正品であることの証明をする為の偽造防止対策,これらのニーズに好適な技術,また,デザインによっては装飾性にも優れた視覚効果を得られる技術であって,OVDとの組合せでよりいっそう高い効果を得られる偽造防止転写シート及びその製造方法に関する。」

イ 「【0003】
【従来の技術】
近年,光学効果を発現させる技術の例として,反射光同士の干渉やこの反射光の分散を用いて立体画像や特殊な装飾画像とかあるいは特殊な色の変化などを表現し得るホログラムや回折格子,また,光学特性の異なる薄膜を光学的に適当な多層に重ねることによって見る角度により色の変化(カラーシフト)を生じる多層薄膜,等々の技術を利用した,いわゆるOVDが利用されている。[OVDは,”Optical(ly) Variable Device”の略。尚,OVDの同義語にDOVIDもあり,”Diffractive Optical(ly) Variable Imaging Device”の略である。]
・・・(中略)・・・
【0006】
このようにOVDは一般に精巧な偽造が難しく確認が容易な偽造防止手段であるが,商品券や紙幣,パスポート,若しくは株券等の紙媒体に添付する場合には張り替えが容易でない熱転写方式が多くの場合採用されている。熱転写されたOVDを張り替えようとすると,このOVDに利用されている光学薄膜が物理的に破壊されてしまい,本来の視覚効果が損なわれるため,その張替えの痕が歴然と残るのである。
【0007】
しかしながら,この様に,従来からホログラム等の転写シートを用いて被転写材上に形成する場合,転写時の熱や圧力により転写シートに私用されている樹脂が収縮又は膨張し,この収縮・膨張についていくことのできない光学薄膜に細かいひび割れが生じて,その結果,光学薄膜が白化するという問題があった。
【0008】
この問題に対し,転写時の熱に対して優れた効果を発揮するホログラム転写シートが提案されている[例えば特許文献1]。 これは,光学薄膜と接着層との間に熱硬化性樹脂による耐熱保護層を設けることにより,上記収縮・膨張を防止し,光学薄膜の白化を防止するものである。
【0009】
【特許文献1】
特公平7-92635号公報(第2頁)

ウ 「【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら,上記の場合確かに転写時の熱白化防止に対して有効な手段であるが,転写された後の耐熱性に関しては考慮されていない。従来からのカード類へ添付される場合(多くの場合塩化ビニル製カード)には,被転写材(カード)の耐熱性(ガラス転移温度:70℃前後)が比較的低く,高温にさらされることがないため,転写後の耐熱性は考慮する必要がなかった。
【0011】
近年になり,紙媒体への転写が主流と変わりつつあり,特に商品券や紙幣を例に挙げると,サイフやポケットに入れておいたまま気づかずに洗濯してしまうことがある。この場合,多くの使用者はアイロンがけを行い再生を試みると想定される。また,流通の経路や使用者の取り扱いにより皺が発生した場合にも,アイロンがけを行い,皺伸ばしをする場合がある。
【0012】
アイロンの表面温度は高温設定において,150℃?250℃(平均200℃)であり,当て布越しにアイロンが適用されること,及び水分の蒸発によって熱損失がおきることを考慮しても,光学薄膜の到達温度は150℃程度と見積もることができ,皺伸ばし等で直接アイロンがけを行う場合には,200℃程度と見積もることができる。
【0013】
従来例[特許文献1]にある,熱硬化性アクリル樹脂や熱硬化性ウレタン樹脂の場合,ガラス転移温度が-20℃?105℃(硬化前)程度であり,硬化後のガラス転移温度は,せいぜい120?130℃が実用上限界である。硬化度の大きい(反応性の高い)材料を使用したり,高温長時間処理を行って,ガラス転移温度が140℃近辺の硬化膜を得ることも可能であるが,硬化時の収縮(体積変化)やフィルム基材の変形により光学薄膜を歪ませることとなり,本来の目的から大きく逸脱することとなる。また,熱硬化性樹脂は硬化剤を併用することにより実現されるものであるが,他の層(例えば,光学薄膜や接着層)との接着性を付与するための官能基が硬化剤との反応プロセスにより失われ,後に層間剥離を引き起こす等のトラブルも発生している。
【0014】
また,保護層上に直接アイロンがけを行うと,保護層を構成する樹脂が軟化・溶融し,アイロン表面に付着後,ホログラムを破壊することになる。
【0015】
この様に,使用者の不注意であるにしても,偽造防止用に添付されたOVD媒体が,日常生活で起こり得る可能性のある行為によって変形してしまったり,極端な例を言えば破壊・消失してしまったりすることは好ましくない。その結果,真正の有価証券類が偽造と誤解されることとなりかねないのである。有価証券の偽造は犯罪であるから,善良なる使用者が犯罪者との誤解を受けるなどの被害を被ることは絶対に避けねばならないのである。
【0016】
本発明は従来の技術が抱える前記問題点に鑑み提案されたものであり,転写された後の耐熱性(アイロン掛けによる150?250℃(平均200℃)程度の熱がかかった場合[日常生活で起こりうる可能性もある]であっても,本来の視覚効果が損なわれることなく,また皺とか白濁の発生もなく,しかも,転写層は本来の視覚効果を部分的に発現できるようデザインされていて被転写体に意匠性に富む外観を転写シートおよびその製造方法を提供することを目的とする。)

エ 「【0017】
【課題を解決する為の手段】
前記課題を解決するために本発明が提供する手段を次に挙げる。
まず請求項1に示す発明は,シート状の支持体上に,該支持体に近い側から,少なくとも,
該支持体から剥離が可能な耐熱性保護層,
回折光を発生させるための微小な凹凸面を有する透明な回折構造形成層,
前記凹凸面の凹凸に密着して設けられた光学薄膜から成り,該回折構造形成層を透過してきた光を反射させる回折効果層,
該回折効果層を被覆して設けてある耐熱マスク層,
該耐熱マスク層を被覆して,これより大面積に設けてある接着層,
とを具備して構成される転写シートであって,
前記耐熱保護層は,ガラス転移温度が200℃以上である樹脂から構成されていることを特徴とする転写シートである。
・・・(中略)・・・
【0021】
請求項5に示す発明は,前記光学薄膜が光を反射する金属反射膜であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の転写シートである。」

オ 「【0028】
【発明の実施の形態】
以下に,本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1,図2及び図3は,本発明に係る転写シートの一実施形態を示す断面図である。

【図1】

【図2】

【図3】

【0029】
図1?図3に示したように,本発明による転写シートは,少なくとも,シート状の支持体1上に耐熱性保護層2,回折光を発生させるための微少な凹凸面を有する回折構造形成層3,部分的に設けられた回折効果層4,耐熱マスク層5,接着層6が少なくとも設けられたことを特徴とした構成である。なお,回折効果層4は,真空蒸着法,スパッタリング法等の薄膜形成方法によって形成された光学薄膜であって,この回折効果層4により構造色を有する色光である回折光を発生させる。
【0030】
この転写シートを用いれば,ホットスタンプ等の手段を用いて,様々な物品から成る被転写材に対してかなりの自由度をもって,ほぼ任意の形状に形成可能となる。すなわち,被転写材に対し接着層6が接触するように転写シートを重ね,熱および圧を与えることによって接着させた後,不要な支持体1を剥してしまうことにより,偽造防止用の媒体を形成することが可能となる(図示せず)。

カ 「【0031】
支持体1としては厚みが安定しており,かつ各層の塗布乾燥の際の熱に耐えられる耐熱性を有するポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムを用いるのが一般的であるが,これに限るものではない。その他の材料としては,ポリエチレンナフタレート樹脂フィルム,ポリイミド樹脂フィルム等が耐熱性の高いフィルムとして知られており,同様の目的で使用することが可能である。また,他のフィルム,例えば,ポリエチレン,ポリプロピレン,耐熱塩化ビニル等の材料でも,塗液の塗工条件,さらに言えば乾燥条件が許せば使用可能である。

キ 「【0033】
耐熱性保護層2は,本発明において最も重要な層であって,支持体1から剥がれる層であり,さらに云えば,剥離した後は回折構造形成層3の上を覆うように形成されていることになって,機械的損傷や携帯時の擦り等の外部損傷,生活物質(酒,水等)に対する耐性を備え,外的要因(特に本発明においては,アイロン耐性)による損傷を保護する役目も兼ねている。」

ク 「【0037】
回折構造形成層3は,その表面に回折格子を構成する凹凸を付与し,この上に,かつ,この凹凸に沿って設けられる回折効果層4に凹凸を付与するものである。そして,回折効果層4の凹凸表面で反射された回折光は互いに干渉して構造色を有するに至る。一般に,この回折現象によって得られる構造色は,観察者の位置によって異なる色彩を有する。
【0038】
回折構造形成層3は,その表面にプレス版にて前記凹凸を成形することが可能であるという性能が要求され,その主となる材質は熱可塑性樹脂,熱硬化性樹脂,紫外線あるいは電子線硬化性樹脂のいずれであっても良い。
・・・(中略)・・・
【0040】
一方,微細凹凸形状を構成する回折格子としては,可干渉な二光線を干渉させて得られる干渉縞を感光材料に感光させるホログラフィ技術が利用できる。このホログラフィ技術によって,例えば,上記構造色を制御して,奥行き感のある立体的画像を構成することが可能である。

ケ 「【0043】
回折効果層4は,前述のように,前記凹凸表面で入射光を反射回折させるもので,反射された回折光は互いに干渉して構造色を有するに至る。回折効果層4としては,金属反射膜7と透明反射膜8のどちらか1種若しくは2種の複合(図3a,図3b,図3c)膜が利用できる。いずれの場合にも,真空中で薄膜を付着形成させる真空成膜技術で形成することが望ましい。真空成膜法で形成された回折効果層4は,高輝度の回折光を発生して明瞭な構造色を再現できるからである。成膜法としては,例えば,真空蒸着法,スパッタリング法,あるいは化学的薄膜形成法(CVD法)などが適用できる。真空成膜法で形成された回折効果層4の膜厚は5?1000nmであり,このため,被転写材に転写された後,これを剥がそうとすると物理的に破壊され,被転写材の偽造を防止することができる。
【0044】
回折効果層4に用いる材料を例示すると,金属反射膜7の場合,Al,Sn,Cr,Ni,Cu,又は,Au,等の金属材料の単体か,若しくは,その化合物が挙げられる。
【0045】
透明反射膜8の回折効果層4の材料には,回折構造形成層3のレリーフ形成面を構成する材料よりも屈折率が高い高屈折率材料を使用する必要がある。その屈折率の差は,好ましくは,0.2以上である。屈折率の差を0.2以上取ることによって,回折構造形成層3との界面で屈折及び反射が起こり,透光性を有しつつ良好な光反射によって構造色を得ることができる。つまり,視覚的に実効性の高いホログラム(又は回折格子)を得ることができる。
【0046】
透明反射膜8の回折効果層4の材料としては,例えば,Sb_(2)O_(3)(3.0),Fe_(2)O_(3)(2.7),TiO_(2)(2.6),CdS(2.6),CeO_(2)(2.3),ZnS(2.3),PbC1_(2)(2.3),CdO(2.2),Sb_(2)O_(3)(2.0),WO_(3)(2.0),SiO(2.0),Si_(2)O_(3)(2.5),In_(2)O_(3)(2.0),PbO(2.6),Ta_(2)O_(3)(2.4),ZnO(2.1),ZrO_(2)(2.0),MgO(1.6),Si_(2)O_(2)(1.5),MgF_(2)(1.4),CeF_(3)(1.6),CaF_(2)(1.3?1.4),AlF_(3)(1.6),Al_(2)O_(3)(1.6),GaO(1.7),等がが使用可能である。
【0047】
なお,真空成膜法以外の方法で前記回折効果層4を形成することもできる。回折効果層4が金属反射膜である場合には,例えば,アルミニウムや真鍮を500nm以下に微粉砕し,バインダー樹脂に分散して作成された高輝性光反射インキを塗布又は印刷して回折効果層4を形成しても良い。塗布・印刷手段としては,グラビア印刷法,フレキソ印刷法,スクリーン印刷法等の公知印刷手段が適用できる。このような印刷方式にて回折効果層4を設ける場合には,乾燥後の膜厚が0.1?10μm程度になるように調整すれば良い。
【0048】
また,回折効果層4が透明反射膜である場合には,粒子径が500nm以下,屈折率2.0以上の高屈折微粉末材料をバインダー樹脂中に分散して得られる高輝性光透過インキを塗布又は印刷して透明反射膜を形成することができる。
【0049】
なお,回折効果層4を部分的に設けることもできる。回折効果層4を部分的に設ける際にはその手法としては以下の手法が利用できる。
【0050】
すなわち,回折構造形成層3上に,溶剤溶解性の樹脂を所望のパターンをネガパターンに形成,金属薄膜を設けた後,溶解性樹脂とその部分の金属薄膜層を溶剤(例えば,水)にて洗浄し除去する手法や,回折効果層4上に耐酸あるいは耐アルカリ性樹脂を用いてポジパターンを印刷した後,金属薄膜を酸やアルカリでエッチングする方法が挙げられる。さらには露光することによって,溶解するあるいは溶解し難くなる感光性樹脂材料を塗布し,所望のパターン状のマスク越しに露光した後,感光性樹脂材料の不要部分を洗浄して除去し,次にこの除去部分から露出した回折効果層4をエッチングで除去する手法が挙げられる。なお,感光性樹脂材料の不要部分と回折効果層4とは,一工程で同時に除去することも可能である。
【0051】
また,回折構造形成層3上に密着の悪い樹脂をパターン状に形成,回折効果層4を設けた後,粘着ロール等に通過させ,前記密着の悪い樹脂形成部分の回折効果層4を除去する手法や,蒸着装置の釜内にマスク部を設け部分的に薄膜形成することも可能である。また,レーザー光などで回折効果層4を焼くことにより物理的に除去する手法なども可能な例として挙げられる。以上は一例であり,これらに限定されるものではなく,公知の部分的に金属薄膜を形成する技術であれば適宜利用可能である。
【0052】
以上の部分的に設けた回折効果層は,例えば,明確な意味を持たないランダムなパターンでも良いが,任意の絵柄,図形,模様,文字,数字,記号,等を適宜用いたパターンである情報パターンに形成することにより,適宜に情報を付与させることも可能である。
【0053】
更に,光反射膜7及び光透過膜8の複数層(2以上)の組合せによって回折効果層を構成することもできる。」

コ 「【0056】
次に耐熱マスク層5について説明する。耐熱マスク層5は,本発明において最も重要な第二の層であり,前記回折構造形成層3及び回折効果層4のレリーフ形状を,日常生活において起こりうる可能性のある外部からの熱的要因(例えばアイロンがけ)を受けた場合においても,上述した耐熱保護層と共にレリーフ形状を維持する役割を果たす。 上記の目的を達成するために,筆者らの鋭意研究の結果,耐熱マスク層の材料には,ガラス転移温度が150℃以上である樹脂成分を60%以上含むことが重要であるとの結論に至った。ガラス転移温度が150℃未満であると,アイロン等の熱がかかった場合に,結晶状態を保つことができずに耐熱マスク層自体が軟化し,レリーフ形状を維持することができない。耐熱マスク層には,ガラス転移温度150℃以上の樹脂以外に40%まで,従来既知の各種フィラー,充填剤,着色剤等を混ぜることができる。ここでは,特に材質に関しては限定しない。添加量に関して説明をすると,40%を超えて着色剤等を添加した場合,分散性が悪く塗膜強度が低下するため耐熱性が劣る結果となる。また,印刷適性が悪い(塗液の流動性や版乾き等),塗液の保存性(沈降,凝集等)が悪いなどの理由が挙げられる。添加量の40%は,単純な重量比のことでは無く,比重を1と換算した場合の比率である。例えば,白色顔料である沈降性硫酸バリウム(比重5.5)を添加する場合には,比重1の樹脂成分60重量部に対して,220重量部まで添加することが可能である。
・・・(中略)・・・
【0058】
耐熱マスク層5としては,酸やアルカリに対する耐久性を持っていることが好ましい。その理由としては,上述した回折効果層4を部分的に設ける手段として,耐熱マスク層5を設けた後にエッチング処理を施すと効率が良いからである(図1,図2の構成)。一般的な,エッチング手法として一例を挙げると,40?50℃程度に熱した1.0N前後のNaOH溶液をエッチング液とし,この中に,10?20秒浸すものであるため,2倍の40秒程度浸して塗膜に変化なければ十分な耐性があると判断される。上述した耐熱材料は,十分な化学薬品に対する耐性を有している。」

サ「【0059】
次に接着層6であるが,様々な被転写材(例えば,紙・プラスチック)に接した状態で熱および圧力を与えられることにより,被転写材に接着する機能を有する公知の感熱樹脂(感熱性接着材料)が使用される。」

(2) 引用例1には,以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。なお,段落番号は,引用発明の認定に活用した引用例1の記載箇所を示すために併記したものである。

「【0017】シート状の支持体上に,該支持体に近い側から,該支持体から剥離が可能な耐熱性保護層,回折光を発生させるための微小な凹凸面を有する透明な回折構造形成層,前記凹凸面の凹凸に密着して設けられた光学薄膜から成り,該回折構造形成層を透過してきた光を反射させる回折効果層,該回折効果層を被覆して設けてある耐熱マスク層,該耐熱マスク層を被覆して,これより大面積に設けてある接着層,とを具備し,
【0049】回折効果層を部分的に設けた,
【0017】転写シート。」

(3) 対比
本件補正後発明と引用発明を対比すると,以下のとおりである。

ア 階層構造,マイクロレリーフパターンについて
検討に先立ち,本件補正後発明における「階層構造における基材上又は前記階層構造の他の適切な層の表面上のマイクロレリーフパターン,回折及び/又はホログラフィック表面レリーフパターンを含むレリーフパターン」との記載について検討する。
本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0010】には「従って,本発明の一態様によると,基材本体に対して又は上記構造への保護層/膜材料の提供を介して形成される,例えば回折及び/又はホログラフィック構造などのマイクロレリーフ構造の固定方法を提供することが理解されよう。」と記載されている。このような記載からみて,本件補正後発明における「回折及び/又はホログラフィック表面レリーフパターンを含むレリーフパターン」との記載は,本件補正後発明の「マイクロレリーフパターン」が「回折及び/又はホログラフィック表面レリーフパターンを含むレリーフパターン」であることを説明しているものと解される。

引用発明の「支持体」,「耐熱性保護層」,「回折構造形成層」,「回折効果層」,「耐熱マスク層」及び「接着層」を有する「転写シート」は,本件補正後発明の「階層構造」に相当する。また,引用発明の「回折構造形成層」は,本件補正後発明の「階層構造における基材」又は「前記階層構造の他の適切な層」に相当する。さらに,引用発明の「回折格子形成層」に設けられた「回折光を発生させるための微小な凹凸面」は,本件補正後発明の「階層構造における基材上又は前記階層構造の他の適切な層の表面上のマイクロレリーフパターン」及び「回折及び/又はホログラフィック表面レリーフパターンを含むレリーフパターン」に相当する。

イ 保護固定層について
引用発明の「回折効果層」及び「耐熱マスク層」は,本件補正後発明の「保護固定層」に相当する。

ウ レリーフパターンの埋設について
引用発明は,「回折効果層を被覆して設けてある耐熱マスク層,該耐熱マスク層を被覆して,これより大面積に設けてある接着層,とを具備」しているのであるから,引用発明の「部分的に設け」られた「回折効果層」は,本件補正後発明における「前記階層構造の後続処理の際に下層のレリーフパターンを埋設するように配列され,前記レリーフパターンの少なくとも一部に設けられる保護固定層」との要件を満たす(このことは,引用例1の【図1】及び【図2】からも見て取れる。)。

エ 一致点に関する補足(上記(3)アについて)
上記(3)アにおいて,本件補正後発明における「回折及び/又はホログラフィック表面レリーフパターンを含むレリーフパターン」との記載は,本件補正後発明の「マイクロレリーフパターン」が,「回折及び/又はホログラフィック表面レリーフパターンを含むレリーフパターン」であることを説明しているものと解して,引用発明との対比を行った。
念のため,「マイクロレリーフパターン」が,基材又は階層構造の他の適切な層の表面に設けられたマイクロレリーフパターン(すなわち,エンボス加工等によって形成される,凹凸構造からなるパターン)であり,「レリーフパターン」が,保護固定層によって固定されたパターン(例えば,本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0034】における「ストライプ22」,「ストライプ24」や,段落【0035】における「パターン(模様)」)であると解した場合についても検討する。
引用発明では,「回折効果層」は,部分的に設けられるのであるから,一定のパターンを有していることは明らかである(なお,引用例1の段落【0052】には,「以上の部分的に設けられた回折格子層は,例えば,明確な意味を持たないランダムなパターンでも良いが,任意の絵柄,図形,模様,文字,数字,記号,等を適宜用いたパターンである情報パターンに形成することにより,適宜に情報を付与させることも可能である。」と記載されているところでもある。)。すなわち,「回折光を発生させるための微小な凹凸面」のうち「回折効果層」が設けられた部分はパターン化されているのであるから,引用発明において,「回折光を発生させるための微小な凹凸面」のうち「回折効果層」が設けられた部分は,本願発明の「回折及び/又はホログラフィック表面レリーフを含むレリーフパターン」に相当することとなる(このことは,引用例1の【図1】及び【図2】からも読み取れる。)。
したがって,仮に,前記「レリーフパターン」との記載を,保護固定層によって固定されたパターンと解したとしても,本件補正後発明と引用発明との間に,相違点は認められない。

(4) 一致点及び相違点
上記(3)の検討から明らかなように,本件補正後発明と引用発明は,以下の構成において一致し,相違点は存在しない。
「 階層構造における基材上又は前記階層構造の他の適切な層の表面上のマイクロレリーフパターン,回折及び/又はホログラフィック表面レリーフパターンを含むレリーフパターンと,前記階層構造の後続処理の際に下層のレリーフパターンを保護し前記レリーフパターンを埋設するように配列され,前記レリーフパターンの少なくとも一部に設けられる保護固定層と,を含むことを特徴とする階層構造。」

(5) 請求人の主張について
請求人は,審判請求書において,以下のとおり主張している。

「 引用文献3は、転写シート及びその製造方法に関して開示しており、アイロンなどを用いた熱によるラベルの転写についての課題を解決するものであって、本願発明と何ら共通点ものがない異なる技術であります。引用文献3の重点は回折層を形成するやり方にあり、装置は転写に適しています。上述のように、本願出願では更なる工程のためにレリーフの一部のみを保護する特別な方法を検討しています。本願発明において後続(又は最終)工程は非常に重要なであり、請求項1に強調されています。
・・・(中略)・・・
このように、これらの引用文献1-7には、補正後の請求項1に係る本願発明の特徴である「階層構造における基材上又は前記階層構造の他の適切な層の表面上に、マイクロレリーフパターン、回折及び/又はホログラフィック表面レリーフパターンを含むレリーフパターンを形成し、次に、前記階層構造の後続処理の際に下層のレリーフパターンを保護する保護固定層を前記レリーフパターンの少なくとも一部に形成することを特徴とする階層構造の一部としてレリーフパターンを形成する方法。」について何ら開示されていません。また、補正後の請求項18に係る本願発明についても同様です。
本願発明において後続処理とは、カードなどを形成するための一の層と他の層からなる積層基材の加工処理を意味しています。従って、要素(エレメント)は埋設されることになります。また後続処理とは、二つの層を積層することを意味し、ここで層は要素を含みます。
本願発明は、既知の積層技法においては、屈折率の整合やレリーフの熱可塑性樹脂破壊の結果、回折などに関してマイクロレリーフを完全に消去することがあるため、ポリカーボネートなどの材料内に回折レリーフを埋め込むことは従来からの課題だった点について(段落0004)、補正後の請求項に係る本願発明を提供し、セキュリティーホログラフィック情報が熱可塑性樹脂体に埋設又は埋め込まれている状態において、材料が乱されると、樹脂から金属要素を容易に除去可能となり、後に偽造セキュリティ装置や関連装置において再利用可能という顕著な効果を奏します(段落0006)。
従いまして、引用文献1?7を参照しても、当業者は本願発明を容易に想到することは困難であると考えます。 」
(審決注:審判請求書における「本願発明」は,本審決における「本件補正後発明」に相当する。また,審判請求書における「引用文献3」は,本審決における「引用例1」に相当する。)

要するに,請求人は,(ア)引用発明は,本件補正後発明の構成を開示していない(イ)引用発明は,本件補正後発明と課題や効果が異なる,との点を主張しているものと考えられる。
しかし,引用発明は,本件補正後発明と構成上の相違点が無いことは,上記(3)及び(4)において検討したとおりである。そして,構成が同じである以上,発明が解決する課題や発明が奏する効果についても,格別異なるところはないものと認められる。
したがって,上記請求人の主張は採用することができない。

(6) 小活
したがって,本件補正後発明は,その優先権主張の日前に日本国内において頒布された引用例1に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

4 補正却下のまとめ
本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項において読み替えて準用する同法第53条1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので,本件出願の特許請求の範囲の請求項18に係る発明(本願発明)は,前記「第2」1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,概略,本件出願の請求項18に係る発明は,本件出願の優先権主張の日前に日本国又は外国において頒布された引用例1に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができない,というものである。

3 引用例1に記載の事項及び引用発明について
引用例1に記載の事項及び引用発明については,前記第2[理由]3(1)及び(2)に記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は,本件補正後発明における「レリーフパターン」が「埋設」されるとの特定が除かれたものである。
そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本件補正後発明が,前記第2[理由]3に記載したとおり,引用例1に記載された発明であるから,本願発明も同様の理由により,引用例1に記載された発明である。

第4 まとめ
以上のとおり,本願発明は,本件出願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された引用例1に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について審理するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-01-25 
結審通知日 2016-01-27 
審決日 2016-02-12 
出願番号 特願2011-548722(P2011-548722)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 亮治  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 清水 康司
道祖土 新吾
発明の名称 マイクロレリーフ構造  
代理人 佐々木 敬  
代理人 亀谷 真太郎  
代理人 池田 憲保  

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