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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 特37 条出願の単一性( 平成16 年1 月1 日から) 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1316245
審判番号 不服2014-25601  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-15 
確定日 2016-07-12 
事件の表示 特願2013-538899「フォトニック結晶のための温度応答性複合材料」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 5月18日国際公開,WO2012/064982,平成25年12月 9日国内公表,特表2013-543994,請求項の数(12)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は,2011年11月10日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2010年11月11日 アメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願であって,平成26年4月3日付けで拒絶理由が通知され,平成26年7月7日付けで意見書及び補正書が提出されたが,平成26年8月12日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がされ,これに対し,平成26年12月15日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がされ,その後,当審において平成27年12月7日付けで拒絶理由(以下,「当審拒絶理由」という)が通知され,平成28年3月8日付けで手続補正(以下,「本件補正」という。)がされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?12に係る発明は,平成28年3月8日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されるものと認められるところ,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「【請求項1】
複合フォトニック結晶であって,
(i)硬化されたかもしくは架橋されたマトリクス物質と,その中における空隙の周期的なアレイとを含む逆オパール構造;および
(ii)該空隙内の重合された充填剤組成物であって,ここで,該複合フォトニック結晶によって反射される放射線のバンドギャップが温度の変化に応じて変化する,充填剤組成物
を含み,そして
該重合された充填剤組成物が側鎖結晶性ポリマーを含む,
複合フォトニック結晶。」

第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
(1)36条4項1号について
この出願は,発明の詳細な説明の記載が下記の点で,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。



【0001】乃至【0004】には,従来技術の構成について述べられているに過ぎず,本願発明が解決しようとする課題がどのようなものであるのか,理解できるとはいえない。特に,【0004】に挙げられている従来技術に比して,本願発明がどのような技術上の意義を有するものであるのか,理解できない。

よって,この出願の発明の詳細な説明は,請求項1乃至20に係る発明について,経済産業省令で定めるところにより記載されたものではない。

(2) 36条6項1号について
この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。



請求項3に係る発明の「充填剤組成物は,温度変化に応じて相変化を受ける」は,発明の詳細な説明に記載されていない。請求項10及び18についても同様である。

(3) 29条1項3号について
この出願の下記の請求項に係る発明は,その優先権主張の日前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。

引用例1:国際公開第2010/009558号
(対応する公表公報:特開2011-528808号公報)
引用例2:特開2006-323231号公報
引用例3:特開2004-46224号公報

2 原査定の理由の判断
(1) 36条4項1号について
本件補正により,特許請求の範囲の記載が補正されたことにより,発明の詳細な説明に記載された従来技術との相違が明らかとなり,その結果,本件出願の発明の詳細な説明の記載は,経済産業省令で定めるところに記載したものであると理解できるものとなった。

(2) 36条6項1号について
本願発明は,前記第2に記載したとおりであり,この発明が,本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであることは,段落【0005】,【0015】,【0016】,【0036】,【0037】等の記載から明らかである。
したがって,本願発明について,発明の詳細な説明に記載したものでないものとはいえなくなった。

(3) 29条1項3号について
ア 引用例1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1には,次の記載がある。原文の引用の後に日本語訳を記載する。なお,日本語訳は,引用例1に対応する公表公報の記載を参考にした。

(ア) 「[0001]The present disclosure relates to tunable photonic crystal-based compositions, including tunable photonic crystal particles suitable for such compositions.

(【技術分野】
【0001】
本開示は,調整可能なフォトニック結晶に基づく組成物であって,そのような組成物に適している調整可能なフォトニック結晶粒子を含む前記組成物に関する。)」

(イ) 「[0009] It is desirable to have a photonic crystal particle, ink or pigment in which the reflected wavelength may be tuned, so as to be responsive to external stimuli or to be controllable. It is also desirable to have a photonic crystal pigment, flake or particle that can be used in standard inks, coatings and paints, in a variety of applications.
Summary
[0010]In some aspects, there is provided a tunable photonic crystal composition comprising: tunable photonic crystal particles having a polymer network with a periodic modulation of refractive indices, the polymer network having a reflectance wavelength, wherein the periodic modulation of refractive indices is responsive to an external stimulus and the reflectance wavelength is shifted in response to the external stimulus; and a carrier in which the particles are dispersed.

([0009]反射される波長を,外部刺激に応答するように又は制御できるように調整することができるフォトニック結晶の粒子,インク又は顔料を有することが望ましい。様々な用途における標準インク,コーティング及びペイントにおいて使用できるフォトニック結晶の顔料,フレーク又は粒子を有することも望ましい。
要約
[0010]いくつかの態様において,屈折率の周期的変調を備えたポリマーネットワークを有し,前記ポリマーネットワークが反射波長を有する調整可能なフォトニック結晶粒子であって,前記屈折率の周期的変調が外部刺激に対して応答性であり,前記反射波長が前記外部刺激に応答して変化する前記フォトニック結晶粒子と,前記粒子が分散している担体とを含む調整可能なフォトニック結晶組成物が提供される。)」

(ウ) 「[0034]An example method of manufacturing a tunable photonic crystal particle is described here for the purpose of illustration, and is not intended to be limiting.
・・・(中略)・・・
[0035]A tunable 3-D photonic crystal film is first formed on a suitable substrate. ・・・(中略)・・・
[0037] Reference is now made to FIG. 1, which is a flowchart showing steps in an example method of manufacture.

Fig.1


([0034]調整可能なフォトニック結晶粒子を製造する方法の例について,説明のためであり限定することは意図しないでここに記載する。
・・・(中略)・・・
[0035]調整可能な3-Dのフォトニック結晶フィルムを、適当な基材上に最初に形成させる。
・・・(中略)・・・
[0037]製造方法の一例におけるステップを示すフローチャートである図1についてこれから言及する。)」

【図1】


(エ) 「[0038]At step 10, a template for the inverse photonic crystal is first formed using techniques known in the art. The template may be a close-packed 3-D structure. Any suitable substrate may be used. Possible substrates include paper, glass, plastic, metals, and ceramics. The template may be self-assembled from microparticles, or it may be etched, for example out of a solid layer. Self-assembly methods include evaporation-induced self-assembly (EISA), isoconvective heating, sedimentation, shear assembly, parallel plate confinement, spin-coating, dip-coating, and drop- casting. Methods of sphere deposition are disclosed in U.S. Patent No. 6,858,079. Such disclosed methods include the steps of: synthesizing monodisperse silica spheres; purifying the silica spheres; and self-assembling the silica spheres into a plurality of ordered, planar layers on a substrate. Microspheres may be synthesized according to a modified Stδber process. In an example embodiment, the microspheres may have diameters in the range of about 150-900 nm.
([0038]ステップ10において,逆フォトニック結晶のためのテンプレートを,当技術分野で既知の技術を用いて最初に形成する。そのテンプレートは,細密の3-D構造であり得る。任意の適当な基材を使用することができる。可能性のある基材としては,紙,ガラス,プラスチック,金属,及びセラミックが挙げられる。そのテンプレートは,微小粒子から自己組織化させることができるか,又はそれは,例えば,固体層からエッチングすることができる。自己組織化法としては,蒸発が誘起する自己組織化(EISA),同対流加熱(isoconvective heating),沈殿,剪断アセンブリ,平行板閉じ込め,スピンコーティング,ディップコーティング,及びドロップキャスティングが挙げられる。球体堆積(sphere deposition)の方法は,米国特許第6,858,079号に開示されている。上記の開示された方法は,単分散のシリカ球を合成するステップと,そのシリカ球を精製するステップと,そのシリカ球を自己組織化して,基材上の複数の規則化された平面層にするステップとを含む。微小球は,修正型Stober法に従って合成することができる。実施形態の一例において,微小球は,約150?900nmの範囲の直径を有することができる。)」

(オ) 「[0040]At step 12, the microparticles may be sintered or necked together to increase the stability of the structure, and to facilitate later etching of the template. In an example embodiment, an overnight treatment using tetramethoxysilane vapour, results in necking between microparticles. Other suitable necking methods may be used, including necking using silicon tetrachloride vapor. Interconnection of the microparticles in the template by necking will result in interconnected voids in the inverse photonic crystal. Interconnections may aid in later etching away the microparticles.

([0040]ステップ12において,微小粒子は,構造の安定性を増すため,及び後程のテンプレートのエッチングを容易にするために一緒に焼結又はネッキングすることができる。実施形態の一例において,テトラメトキシシラン蒸気を用いる夜通しの処理は微小粒子間のネッキングをもたらす。四塩化ケイ素の蒸気を用いるネッキングを含めたその他の適当なネッキング法を使用してもよい。ネッキングによるテンプレート中の微小粒子の相互連結は,逆フォトニック結晶中に相互連結した空間をもたらす。相互連結は,微小粒子を後程エッチングして取り除くのに役立ち得る。)」

(カ) 「[0041]At step 14, the template is then infiltrated with a polymer precursor, which may be a mixture of monomers or pre-polymers with cross-linkers and initiators. The infiltration may be by way of melt infiltration, solution infiltration, gas-phase infiltration, electrophoresis, sublimation, or other suitable methods. The composition of the precursor mixture may be selected to give a desired viscosity, in order to ensure the template is fully infiltrated.

([0041]ステップ14において,テンプレートに架橋剤及び開始剤を含むモノマー又はプレポリマーの混合物であり得るポリマー前駆物質を浸透させる。その浸透は,溶融浸透,溶液浸透,気相浸透,電気泳動,凝華,又はその他の適当な方法によることができる。前駆物質混合物の組成物は,該テンプレートが十分に浸透されることを確保するために,望ましい粘度を与えるように選択することができる。)」

(キ) 「[0044]For a photonic crystal particle that is electrically tunable, the particle may comprise a polymer material that is responsive to electrical stimulation, such as an electroactive polymer. For example, where the particle is based on a 3-D inverse photonic crystal, the particle may comprise an electroactive polymer network. The electrical response of the electroactive polymer may be due to the presence of atoms or chemical groups on the polymer - either on the polymer backbone itself, as a functional group or chain hanging off the backbone, or mixed with but not bound to the polymer - which respond to an electrical field or current. These may be atoms or groups that can be oxidized or reduced, such as iron atoms or thiophene groups (e.g., as found in the common commercial conducting polymer polythiophene), so that the polymer can maintain an electrical charge even after the electric current is removed. In other examples, the polymer includes groups which respond to the electric field, but do not oxidize or reduce. Such groups include ionic groups which would move within the electric field, but tend to drift back to their original positions once the field is removed. In other examples, the polymer may have piezoelectric properties (e.g., the polymer may be polyvinylidene difluoride), such that the polymer structure itself may exhibit a change in dimensions under the influence of an electrical stimulus such as an electric field.

([0044]電気的に調整可能であるフォトニック結晶粒子について,粒子は,電気的刺激に応答するポリマー材料,例えば電気活性ポリマーなど,を含むことができる。例えば,粒子が,3-Dの逆フォトニック結晶に基づく場合,粒子は電気活性ポリマーネットワークを含むことができる。電気活性ポリマーの電気的応答は,電界又は電流に応答するポリマー上の原子又は(ポリマー骨格それ自体上の官能基,又は骨格にぶら下がっている鎖としての,或いはポリマーと混合されてはいるが結合はしていない)化学基の存在に起因し得る。これらは,該ポリマーが,電流が除去された後でさえも電荷を維持することができるように,酸化又は還元することができる原子又は基,例えば鉄原子又はチオフェン基(例えば,通常の市販されている導電性ポリマーのポリチオフェン中に見出される)であり得る。他の例において,ポリマーは,電界に応答はするが酸化又は還元はしない基を含む。そのような基としては,電界内で移動するが一旦その電界が除去されるとそれらの元の位置に戻る傾向があるイオン基が挙げられる。他の例において,ポリマーは,ポリマー構造それ自体が電界等の電気的刺激の影響下で寸法変化を示すことができるように,圧電特性を有することができる(例えば,該ポリマーは,ポリビニリデンジフルオリドであり得る)。)」

(ク) 「[0051] For a photonic crystal particle that is mechanically tunable, the particle may comprise a polymer material that is responsive to mechanical stimulation, such as a compressible or deformable polymer or elastomer. For example, where the particle is based on a 3-D inverse photonic crystal, the particle may comprise compressible or mechanically deformable polymer network. Suitable example polymers include polystyrenes, polymethacrylates, polyacrylates, polyurethanes, polyesters, polyethylenes, polypropylenes, polyvinylchlorides, polyisoprene, polybutadiene, polydienes, waxes, and copolymers or combinations thereof. Specific polymers include the monomers and pre-polymers listed hereinafter in respect of the elastomers. Elastomers can generally be characterized by cross-linked chains. To make the chain, many monomers may be polymerized together. They are amorphous polymers existing above their glass transition temperature, so that considerable segmental motion is possible. At ambient temperatures elastomers are thus usually relatively soft (E approximately equal to 3MPa) and deformable. Their primary uses are for seals, adhesives and molded flexible parts. Elastomers are usually thermosets (that is, requiring vulcanization) but may also be thermoplastic. The long polymer chains cross-link during curing. The elasticity is derived from the ability of the long chains to reconfigure themselves to distribute an applied stress. The covalent cross-linkages ensure that the elastomer will return to its original configuration when the stress is removed. As a result of this extreme flexibility, elastomers can typically reversibly extend from 5-700%, depending on the specific material. Without the cross-linkages or with short, uneasily reconfigured chains, the applied stress would result in a permanent deformation.
[0052]The polymer may be formed from a monomer and/or pre-polymer selected from the group consisting of methacrylic acid esters, acrylic acid esters, polyisoprene, polybutadiene, polyurethane precursors, crosslinkable polyethers, and mixtures thereof. In the case of a methacrylic acid ester, it may be selected from the group consisting of ethylhexyl methacrylate, lauryl methacrylate, butyl methacrylate, methyl methacrylate, stearyl methacrylate, butoxyethyl methacrylate, and mixtures thereof. In the case of an acrylic acid ester, it may be selected from the group consisting of butoxyethyl acrylate, hydroxyethyl acrylate, 2-carboxyethyl acrylate, stearyl acrylate, lauryl acrylate, butyl acrylate, hexyl acrylate, and mixtures thereof. In the case of a crDsslinkable polyether, it may be selected from the group consisting of polyether diacrylates, polyether acrylates, polyether dimethacrylates, polypropylene glycol diacrylates, polypropylene glycol dimethacrylates, polypropylene glycol acrylates, polypropylene glycol methacrylates, polyethylene glycol diacrylates, polyethylene glycol dimethacrylates, polyethylene glycol acrylates, polyethylene glycol methacrylates, oligoethylene glycol diacrylates, oligoethylene glycol dimethacrylates, oligoethylene glycol acrylates, oligoethylene glycol methacrylates, oligopropylene glycol diacrylates, oligopropylene glycol dimethacrylates, oligopropylene glycol acrylates, oligopropylene glycol methacrylates and mixtures thereof. Other polymers may be used. A wide variety of suitable polymerizable monomers and crosslinkers are available from Sartomer Company, Inc. A suitable polymer may have a network structure, and a glass transition temperature lower than its operational temperature. Oiher possible materials are disclosed in U.S. Patent No. 6,946,086.

([0051]機械的調整が可能であるフォトニック結晶粒子については,該粒子は,機械的刺激に対して応答するポリマー材料,例えば,圧縮可能な又は変形可能なポリマー又はエラストマーなどを含むことができる。例えば,該粒子が3-Dの逆フォトニック結晶に基づく場合,該粒子は,圧縮可能な又は機械的に変形可能なポリマーネットワークを含むことができる。適切なポリマー例としては,ポリスチレン,ポリメタクリレート,ポリアクリレート,ポリウレタン,ポリエステル,ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリ塩化ビニル,ポリイソプレン,ポリブタジエン,ポリジエン,ワックス,及びこれらのコポリマー又は組合せが挙げられる。特定のポリマーは,エラストマーに関して下文で記載するモノマー及びプレポリマーを含む。エラストマーは,一般に,架橋した鎖を特徴とする。鎖を作製するためには多くのモノマーを一緒に重合することができる。それらは,かなりのセグメント運動が可能であるように,それらのガラス転移温度より上に存在する非晶質ポリマーである。そのため,周囲温度においてエラストマーは通常は比較的柔らかく(Eはほぼ3MPaに等しい),変形可能である。それらの主要な用途は,シール,接着剤及び成形した柔軟な部品である。エラストマーは,通常は熱硬化する(即ち,加硫を必要とする)が,熱可塑性でもあり得る。長いポリマー鎖は,硬化中に架橋する。弾力性は,長鎖が加えられた応力を分配するためにそれ自体を再構成する能力から生じる。共有結合の架橋は,応力を除去されたときに,エラストマーがその元の形状に戻ることを確保する。この著しい柔軟性の結果,エラストマーは,特定の材料によって,一般的には5%から700%まで可逆的に伸びることができる。架橋なしか,又は短くて容易に再構成されない鎖では加えられた応力は永久歪みをもたらすであろう。
[0052]ポリマーは,メタクリル酸エステル,アクリル酸エステル,ポリイソプレン,ポリブタジエン,ポリウレタン前駆体,架橋性ポリエーテル,及びこれらの混合物からなる群から選択されたモノマー及び/又はプレポリマーから形成することができる。メタクリル酸エステルの場合,それは,エチルヘキシルメタクリレート,ラウリルメタクリレート,ブチルメタクリレート,メチルメタクリレート,ステアリルメタクリレート,ブトキシエチルメタクリレート,及びこれらの混合物からなる群から選択することができる。アクリル酸エステルの場合,それは,ブトキシエチルアクリレート,ヒドロキシエチルアクリレート,2-カルボキシエチルアクリレート,ステアリルアクリレート,ラウリルアクリレート,ブチルアクリレート,ヘキシルアクリレート,及びこれらの混合物からなる群から選択することができる。架橋性ポリエーテルの場合,それは,ポリエーテルジアクリレート,ポリエーテルアクリレート,ポリエーテルジメタクリレート,ポリプロピレングリコールジアクリレート,ポリプロピレングリコールジメタクリレート,ポリプロピレングリコールアクリレート,ポリプロピレングリコールメタクリレート,ポリエチレングリコールジアクリレート,ポリエチレングリコールジメタクリレート,ポリエチレングリコールアクリレート,ポリエチレングリコールメタクリレート,オリゴエチレングリコールジアクリレート,オリゴエチレングリコールジメタクリレート,オリゴエチレングリコールアクリレート,オリゴエチレングリコールメタクリレート,オリゴプロピレングリコールジアクリレート,オリゴプロピレングリコールジメタクリレート,オリゴプロピレングリコールアクリレート,オリゴプロピレングリコールメタクリレート及びこれらの混合物からなる群から選択することができる。他のポリマーを使用することができる。多種多様の適当な重合性モノマー及び架橋剤が,Sartomer Company, Inc.から入手できる。適切なポリマーは,ネットワーク構造,及びその作動温度より低いガラス転移温度を有することができる。その他の可能性のある材料は,米国特許第6,946,086号に開示されている。)」

(ケ) 「[0055]At step 16, once the template is infiltrated, the precursor is cured by ultraviolet (UV) or other means to form a polymer network. Other possible curing methods include air-curing, heat, electron beam, and other types of radiation. If the curing method is by using an electron beam, it may not be necessary to include initiators and/or cross-linkers in the precursor mixture.

([0055]ステップ16において,テンプレートが一旦浸透されると,該前駆物質はポリマーネットワークを形成するために紫外線(UV)又はその他の手段によって硬化される。その他の可能性のある硬化方法としては,空中養生,加熱,電子線,及びその他のタイプの放射線が挙げられる。硬化方法が電子線を使用することによる場合,前駆物質混合物中に開始剤及び/又は架橋剤を含むことを必要としない。)」

(コ) 「[0056]At step 18, extra polymer material may be removed from the surface of the template, such as by mechanical peeling or abrading from the upper surface.

([0056]ステップ18において,必要以上のポリマー材料は,テンプレートの表面から,例えば,上部表面からの機械的剥離又は磨耗などによって除去することができる。)」

(サ) 「[0057]At step 20, the film with the template still embedded is removed from the substrate. This may be done, for example, by mechanically scraping off from the substrate using a blade. Where the substrate is a polymer or elastic material, the film may be removed by stretching and releasing the substrate or sharply bending the substrate, causing film to break off or otherwise detach from the substrate. The film may also be simply floated off the substrate, for example in a bath of distilled water.

([0057]ステップ20において,まだ組み込まれているテンプレートと一緒のフィルムは,基材から剥がす。これは,例えば,ブレードを用いて基材から機械的にこすり落とすことによって行うことができる。その基材がポリマー又は弾性材料である場合,そのフィルムは,その基材を引き伸ばして解き放つか又はその基材を鋭く曲げてフィルムが折れて取れるようにするか,さもなければ基材から引き離すことによって除去することができる。そのフィルムは,例えば蒸留水の浴中で単純に基材から浮かせて離すこともできる。)」

(シ) 「[0058]Once released from the substrate, at step 22, the film can be ground up or milled into flakes or particles for use in a composition, such as an ink, a coating or a paint, using any suitable method.

([0058]ステップ22において,基材から一旦解き放たれたら,そのフィルムは,任意の適当な方法を用いて,インク,コーティング又はペイント等の組成物中で使用するためのフレーク又は粒子に粉砕又は摩砕することができる。)」

(ス) 「[0059]At step 24, the template may be etched away using techniques known in the art, for example by introducing hydrofluoric acid. For example, where the template comprises silica spheres, they may be etched by hydrofluoric acid, as taught by Blanco et al. in Nature 405 (6785):437-440 (May 25, 2000). They may also be etched by sodium hydroxide, as taught by Her in The Chemistry of Silica: Solubility, Polymerization, Colloid and Surface Properties and Biochemistry of Silica, published by Wiley-Intersiences (May 1979).

([0059]ステップ24において,テンプレートは,当技術分野では既知の技術を用いて,例えば,フッ化水素酸を導入することによってエッチング除去することができる。例えば,テンプレートがシリカ球を含む場合,それらは,Nature 405 (6785):437?440 (2000年5月25日)においてBlancoらにより教示されているようにフッ化水素酸によりエッチングすることができる。それらはWiley-Intersiencesにより出版された(1979年5月) The Chemistry of Silica: Solubility, Polymerization, Colloid and Surface Properties and Biochemistry of SilicaにおいてIlerらにより教示されているように水酸化ナトリウムによりエッチングすることもできる。)」

(セ) 「[0060]Once the film is reduced to flakes, pigments or particles and the template is etched away, at step 26, the particles may be purified. For example, purification may involve washing the particles in distilled way to remove any remaining chemicals. Purification may also include sedimentation of the particles to fractionate them with respect to size of particle. Purification may also include filtration of the particles through a controlled pore-size filter. The particles may further be dried using heat, vacuum, or gas flow, for example using an inert gas such as nitrogen.

([0060]ステップ26において,一旦フィルムが,フレーク,顔料又は粒子に変換され,テンプレートがエッチングされて取り除かれたら,その粒子は精製することができる。例えば,精製は,残留しているいずれの化学物質も除去するために,蒸留法で粒子を洗浄することを含むことができる。精製は,粒子の大きさに対してそれらを分別するための粒子の沈殿を含むこともできる。精製は,細孔の大きさが制御されたフィルターを通す粒子の濾過を含むこともできる。粒子は,更に,熱,真空,又は例えば窒素のような不活性ガスを用いる気体流を用いて乾燥させることができる。)」

(ソ) 「Composition Formulations
[0063]The tunable photonic crystal particles may be incorporated into compositions, such as standard ink or paint compositions, to produce tunable photonic compositions, including ink, coating or paint compositions. The terms "ink", "coating" or "paint" may be used interchangeably, and are intended to cover all inks, coatings, paints, sprays, fluids, dry inks and similar compositions in which the tunable photonic crystal particles may be dispersed.
[0064]Such compositions may include components commonly found in standard inks or paints, including a carrier, which may include binders, additives, and solvent. These components may be slightly flexible or elastic when set, to allow the photonic crystal particles to expand and contract in response to external stimulation. These components may be flexible only when expanded by an inflow of solvent or electrolytes.

(組成物の配合
[0063]調整可能なフォトニック結晶粒子は,インク,コーティング又はペイント組成物を含む調整可能なフォトニック組成物を製造するために,標準的なインク又はペイント組成物等の組成物中に組み込むことができる。用語の「インク」,「コーティング」又は「ペイント」は,互換的に使用することができ,調整可能なフォトニック結晶粒子を分散させることができる全てのインク,コーティング,ペイント,スプレー,流体,ドライインク及び同様の組成物を対象とすることを意図している。
[0064]上記の組成物は,バインダー,添加剤,及び溶媒を含むことができる担体を含む標準的なインク又はペイント中に普通に見出される成分を含むことができる。これらの成分は,固まったとき,フォトニック結晶粒子が外部刺激に応答して膨張及び収縮することを可能にするために少し柔軟性又は弾力性であってよい。これらの成分は,溶媒又は電解液の流入によって膨張するときのみ柔軟性であり得る。)」

(タ) 「[0068]Example compositions have formulations where the carrier includes a binder and a solver, and the composition contains up to about 10 wt% (weight %) photonic crystal particles, up to about 45 wt% binder, and up to about 45 wt% solvent. Suitable binders include Incorez# W2600 (from Industrial Copolymers Ltd.), and suitable solvents include ethylene glycol. Optionally, the formulation may include up to about 1 wt% surfactant, such as Zonyl# 9361 by Dupont. The addition of a surfactant may be desirable to achieve a composition that better wets surfaces, including glass or plastic surfaces.

([0068]いくつかの例において,担体の一つ又は複数の成分は,フォトニック結晶粒子の細孔中に浸透することができ,その場合,一つ又は複数の浸透成分は,固化又は硬化後でさえもフォトニック結晶粒子における屈折率の周期的変調を保つように設計することができる。)」

(チ) 「[0070]An example suitable binder is a polymeric resin.

([0070]適切なバインダーの例は,ポリマー樹脂である。)」

(ツ) 「[0071]For compositions containing electrically tunable photonic crystal pigments, flakes or particles, one or more components of the carrier in which the particles are dispersed may be electrically conductive. For example, the carrier may be provided with electrical conductivity by the inclusion of, conductive materials such as carbon, metal (e.g., silver), or conductive polymers. Alternatively, the carrier may be provided as a relatively small component of the composition such that the particles are physically in close proximity or in contact with each other, enabling direct electrical conduction among the particles.
[0072]For compositions containing mechanically tunable photonic crystal particles, the carrier may be mechanically deformable, such as compressible or flexible. It may be that standard carriers and additives commonly used in inks and paints are sufficiently flexible or compressible for this application without requiring any modification. For example, components typically found in common latex paints may provide sufficient flexibility. Alternatively, the carrier may be provided as a relatively small component of the composition such that even if such components are inflexible or incompressible, suitable pressure may still be transferred to the photonic crystal particles in the cured ink or paint.

([0071]電気的に調整可能なフォトニック結晶の顔料,フレーク又は粒子を含有する組成物については,粒子が分散している担体の一つ又は複数の成分が導電性であり得る。例えば,担体は,炭素,金属(例えば銀),又は導電性ポリマー等の導電性材料の含有によって電気伝導性を提供することができる。別法では,担体は,粒子が物理的に近接近状態であるか又は互いに接触した状態であり,粒子間の直接の電気伝導を可能にするように,組成物の比較的小さい成分として提供することができる。
[0072]機械的に調整可能なフォトニック結晶粒子を含有する組成物については,その担体は,機械的に変形可能であり得,例えば圧縮可能であるか又は柔軟性であり得る。それは,インク及びペイント中で普通に使用される標準的な担体及び添加剤が,如何なる修飾も必要とせずにこの用途に対して十分に柔軟性であるか又は圧縮可能であることである。例えば,普通のラテックスペイント中に一般的に見られる成分は,十分な柔軟性を提供することができる。別法では,上記の成分が柔軟性がないか又は圧縮可能ではない場合であってさえ,適切な圧力が硬化したインク又はペイント中のフォトニック結晶粒子に依然として伝わるように,担体は組成物の比較的小さい成分として提供することができる。)」

(テ) 上記(ア)?(ツ)から,引用例1には,以下の発明が記載されているものと認められる(以下「引用発明」という。)。なお,段落番号は,引用発明の認定に活用した引用例1の記載箇所を示すために併記したものである。
段落[0040]の「微小粒子」は,[0038]における「シリカ球」を含む概念であることは明らかであるところ,混乱を避けるために,「シリカ球」と統一して表記した。また,図1のフローチャートにおける「顔料フレーク」は,段落[0058]では「フレーク又は粒子」,段落[0060]では「フレーク,顔料又は粒子」又は「その粒子」と表記されているが,混乱を避けるために,単に「粒子」と統一して表記した。そして,段落[0038]では,「フォトニック結晶」を「逆フォトニック結晶」と呼んでいるが,これも混乱を避けるために,単に「フォトニック結晶」と統一して表記した。さらに,段落[0057],[0058]の「フィルム」は,テンプレートと共に基材上に存在している(していた)ものであるから,段落[0035]に記載された,基材上に形成される「フォトニック結晶フィルム」と同じものであることは明らかであるので,混乱を避けるために,「フォトニック結晶フィルム」と統一して表記した。

「調整可能なフォトニック結晶であって,
[0063]前記調整可能なフォトニック結晶は,標準的なインク又はペイント組成物等の組成物中に組み込まれ,
[0064]前記組成物は,バインダー,添加物,及び溶媒を含むことができる担体を含む標準的なインク又はペイント中に普通に見出される成分を含むものであり,
[0070]前記バインダーは,ポリマー樹脂であり,
[0068]前記担体の一つ又は複数の成分は,前記調整可能なフォトニック結晶粒子の細孔中に浸透しており,
ここで,前記調整可能なフォトニック結晶の製造方法は,
[0035]フォトニック結晶フィルムを,適当な基材上に形成させる工程であって,
[0038]単分散のシリカ球を合成するステップと,そのシリカ球を合成するステップと,そのシリカ球を自己組織化して,基材上の複数の規則化された平面層にするステップにより,フォトニック結晶のためのテンプレートを形成し,
[0041]前記テンプレートにポリマー前駆物質を浸透させ,
[0055]前記前駆物質を硬化させ,
[0056]必要以上のポリマー材料を前記テンプレートの表面から除去する工程,
[0057]前記テンプレートと一緒の前記フォトニック結晶フィルムを,前記基材から剥がす工程,
[0058]前記フォトニック結晶フィルムを,粒子に粉砕又は摩砕し,
[0059]前記テンプレートをエッチング除去する工程,
[0060]前記粒子を精製する工程から
[0034]製造される,調整可能なフォトニック結晶。」

イ 対比
(ア) 引用発明の「ポリマー前駆物質」及び「担体」は,それぞれ,本願発明の「マトリクス物質」及び「充填剤組成物」に相当する。

(イ) 引用発明の「ポリマー前駆物質」は「硬化」されるのであるから,本願発明の「硬化されたかもしくは架橋されたマトリクス物質」との要件を満たす。

(ウ) 引用発明のフォトニック結晶は,概略,「シリカ球を自己組織化し」,「フォトニック結晶のためのテンプレート」を精製し,「テンプレートにポリマー前駆物質を浸透させ」,「前記前駆物質を硬化させ」,「テンプレートをエッチング除去」することで製造されるものであるから,この製造方法は,本願明細書の段落【0013】において説明される「逆オパール構造」の製造方法に対応するものであり,また,このような製造方法により製造された構造を「逆オパール構造」と呼称することは,当業者に広く知られているところでもある。そして,逆オパール構造とは,必然的に空隙の周期的なアレイを有するものである。
したがって,引用発明の「フォトニック結晶」は,「その中における空隙の周期的なアレイとを含む逆オパール構造」を有している。

(エ) 引用発明の「担体」は「バインダー」を含み,かつ「バインダー」は「ポリマー樹脂」なのであるから,引用発明の「担体」は,本願発明の「重合された充填剤組成物」との要件を満たす。さらに,引用発明の担体は,フォトニック結晶粒子の細孔中に浸透するのであるから,引用発明の「担体」は,フォトニック結晶粒子の「空隙内」に存在することもまた明らかである。

(オ) 引用発明の「調整可能なフォトニック結晶」は,逆オパール構造部分を構成する「硬化」された「ポリマー前駆物質」(本願発明の「マトリクス物質」に相当)と,その空隙内の「担体」(本願発明の「充填剤組成物」に相当)とを有するから,本願発明にいう「複合フォトニック結晶」であるといえる。

(カ) 前記(ア)?(オ)から,本願発明と引用発明は,

「複合フォトニック結晶であって,
(i)硬化されたかもしくは架橋されたマトリクス物質と,その中における空隙の周期的なアレイとを含む逆オパール構造;および
(ii)該空隙内の重合された充填剤組成物を含む,
複合フォトニック結晶。」

である点で一致し,次の点で相違する。

相違点1:本願発明は,重合された充填剤組成物が側鎖結晶性ポリマーを含むのに対し,引用発明は,側鎖結晶性ポリマーを用いることは特定されていない点。

相違点2:本願発明は,該複合フォトニック結晶によって反射される放射線のバンドギャップが温度の変化に応じて変化する充填剤組成物を含むのに対し,引用発明では,この点が明らかでない点。

ウ 判断
相違点1及び2について検討する。
引用発明の担体の材料は,ポリマー樹脂であることは記載されているものの,その具体的な材料として側鎖結晶性ポリマーを用いることは,記載も示唆もされていない。また,引用発明において,外部刺激によって反射される放射線のバンドギャップが調整可能とされる構成部分は,段落[0044]の「電気的に調整可能であるフォトニック結晶粒子について,粒子は,電気的刺激に応答するポリマー材料,例えば電気活性ポリマーなど,を含むことができる。」との記載や,段落[0051]の「機械的調整が可能であるフォトニック結晶粒子については,該粒子は,機械的刺激に対して応答するポリマー材料,例えば,圧縮可能な又は変形可能なポリマー又はエラストマーなどを含むことができる。」との記載から明らかなように,フォトニック結晶粒子を構成する部分,すなわち,硬化された「ポリマー前駆物質」の部分である。
このように,引用発明は,担体(本願発明の「充填剤組成物」)の部分を利用することで,反射される放射線のバンドギャップを調整するものではないから,担体を調整可能な材料を選択するという技術的思想は開示されていない。してみれば,引用例1には,フォトニック結晶によって反射される放射線のバンドギャップが温度の変化に応じて変化するように,担体として,側鎖結晶性ポリマーを用いることが実質的に記載されていたものと認めることはできない。

エ 小括
したがって,本願発明は,引用例1に記載された発明であるとはいえなくなった。

オ 引用例2,3の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用例2及び引用例3についても,フォトニック結晶によって反射される放射線のバンドギャップが温度に変化に応じて変化するように,逆オパール構造の空隙に充填される部材に「側鎖結晶性ポリマー」を用いることは,記載されていないし,また記載されているに等しい事項であるともいえない。
したがって,本願発明は,引用例2に記載された発明であるともいえず,引用例3に記載された発明であるともいえない。

カ 請求項2?12について
本願の請求項2?12に係る発明についても同様に,当業者が引用例1?3に記載された発明であるとはいえない。

(4) 前記(1)?(3)で検討したように,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
(1) 29条1項3号及び29条2項について
本願発明は,その優先権主張の日前に日本国内又は外国において,頒布された下記の引用例1,4,5に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。
また,本願発明は,その優先権主張の日前に日本国内又は外国において,頒布された下記の引用例1,3?5に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。



引用例1:特開2010-277028号公報
引用例3:特開2004-46224号公報
(当審拒絶理由通知における引用例4)
引用例4:特表2002-527335号公報
(当審拒絶理由通知における引用例2)
引用例5:特開2003-295143号公報
(当審拒絶理由通知における引用例3)

(当合議体注:上記括弧書きにて示すように,実際の当審拒絶理由通知においては,前記引用例3は引用例4として,前記引用例4は引用例2として,前記引用例5は引用例3として引用されたものであるが,前記「第3 原査定の理由について」の1(3)における引用例番号と整合をとるために,引用例番号を振り直した。)

(2) 36条4項1号及び36条6項1号について
この出願は,特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載が下記の点で,特許法36条4項1号及び6項1号に規定する要件を満たしていない。



請求項3,10,18には,充填剤組成物の導電性,屈折率又はコンホメーションは,温度変化に応じて変化することが記載されている。また,請求項6では,前記充填剤組成物は,温度変化に応じて導電性を変化させることが記載され,請求項8では,前記充填剤組成物は,温度変化に応じて膨張することが記載されている。また,請求項9を引用する請求項11では,充填剤組成物は側鎖結晶性ポリマーを用いることが記載されている。
しかし,本願明細書の発明の詳細な説明において,具体的に実施例として開示されているのは,ある特定の材料を用いて複合フォトニック結晶を(1種類)作成したこと,及び前記複合フォトニック結晶の回折波長が温度によって変化したことのみである。さらにいえば,実施例において,温度変化によって充填剤組成物の物性についてどのような変化があったのかすら特定されていない。
温度変化によって屈折率変化が起こること,またこのような屈折率変化によって光学特性を可変とできることは当業者にとって周知のことにすぎないから,その点はおくとしても,温度変化によって,発明の実施が現実に可能な程度の,すなわち回折波長の有意な変化が生じるほどの導電性変化又はコンホメーション変化を起こすことができるのか,すなわち本願発明が解決しようとする課題が解決されるのか,本願明細書の発明の詳細な説明の記載をみても理解することが困難である。してみれば,請求項3,その従属請求項である請求項4,5,請求項6,請求項8,請求項10,請求項11,請求項18,その従属請求項である請求項19,20に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものでない。
同様の理由により,請求項3?6,8,10,11,18?20に係る発明について,発明の詳細な説明の記載は,当該記載に当たった当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとも認めることができない。

(3) 37条について
この出願は,下記の点で特許法37条に規定する要件を満たしていない。


上記理由1で検討したように,本願発明1,2は新規性がなく,先行技術に対する貢献を明示する技術的特徴,すなわち,特別な技術的特徴を有していない。本願発明1が特別な技術的特徴を有しないところ,少なくとも本願発明3(導電性又はコンホメーションが温度変化),本願発明6(導電性が温度変化),本願発明7(屈折率差が温度変化),本願発明8(温度に応じて膨張),本願発明9(温度変化検出),本願発明17(逆オパール構造)が,同一の又は対応する特別な技術的特徴を有していないことは明白である。
してみれば,本件出願は,経済産業省令で定める技術的関係を有しない複数の発明を含むものであるから,37条に規定する要件を満たしていない。

2 当審拒絶理由の判断
(1) 29条1項3号及び29条2項について
ア 引用例1の記載事項
前記第3の2(3)アと同様である。

イ 対比
前記第3の2(3)イと同様である。

ウ 判断
29条1項3号については,前記第3の2(3)ウと同様である。
以下,29条2項について検討する。
引用例1には,担体(本願発明の「充填剤組成物」)の部分を利用することで,反射される放射線のバンドギャップを調整することは記載も示唆もされていないのであるから,担体として,そのような調整可能な材料を選択する動機は存在しない。さらに,光学材料として側鎖結晶性ポリマーを用いることで,光学部材の特性波長を変動させることが,当該技術分野において技術常識であったものともいえない。
したがって,引用発明において,温度の変化によって反射される放射線のバンドギャップが変化するように,担体として側鎖結晶性ポリマーを用いることが,当業者にとって容易になし得たものとはいえない。
してみれば,相違点1及び2に係る構成を具備する本願発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

エ 小括
したがって,本願発明は,引用例1に記載された発明であるとはえいなくなった。また,本願発明は,引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものともいえなくなった。

オ 引用例3?5の記載事項
当審拒絶理由で引用された引用例3?5についても,フォトニック結晶によって反射される放射線のバンドギャップが温度の変化に応じて変化するように,逆オパール構造の空隙に充填される部材に「側鎖結晶性ポリマー」を用いることは,記載も示唆もされていない。また,上記ウで述べたように,光学材料として側鎖結晶性ポリマーを用いることで,光学部材の特性波長を変動させることが,当該技術分野において技術常識であったものともいえない。
したがって,本願発明は,引用例4,5に記載された発明であるともいえないし,引用例3?5に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものともいえなくなった。

カ 請求項2?12について
本願の請求項2?12に係る発明についても同様に,引用例1,4,5に記載された発明であるとはいえないし,引用例1,3?5に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものともいえない。

(2) 36条4項1号及び36条6項1号について
本願発明は,前記第2に記載したとおりである。そして,本願発明について,段落【0005】,【0015】,【0016】に一般的な記載があり,その具体的な実施例が段落【0036】,【0037】に記載されている。
してみれば,本願発明は,発明の詳細な説明に記載したものといえる。また,本願発明について,発明の詳細な説明は,当該記載に当たった当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
請求項2?12についても同様である。

(3) 37条について
本願発明は,前記第2に記載したとおりである。そして,本願発明が新規性及び進歩性を有すること,すなわち先行技術に対する貢献を明示する技術的特徴を有するものであることは,前記第3の2(3)カや前記第4の2(3)カから明らかである。
してみれば,もはや,本件出願は経済産業省令で定める技術的特徴を有しない複数の発明を含むものである,とはいえなくなった。

(4) 前記第(1)?(3)で検討したように,当審で通知した拒絶理由によっては,本願を拒絶することはできない。

第5 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-06-30 
出願番号 特願2013-538899(P2013-538899)
審決分類 P 1 8・ 65- WY (G02B)
P 1 8・ 113- WY (G02B)
P 1 8・ 537- WY (G02B)
P 1 8・ 121- WY (G02B)
P 1 8・ 536- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 吉川 陽吾  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 道祖土 新吾
清水 康司
発明の名称 フォトニック結晶のための温度応答性複合材料  
代理人 山本 秀策  
代理人 森下 夏樹  

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