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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H05B
管理番号 1316417
審判番号 不服2015-11464  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-17 
確定日 2016-07-12 
事件の表示 特願2012-549872「有機エレクトロルミネッセンス素子及び有機エレクトロルミネッセンス照明装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 6月28日国際公開、WO2012/086758、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成23年12月22日(国内優先権主張平成22年12月24日)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成25年 6月19日提出 :国内書面,出願審査請求書
平成25年 6月19日提出 :手続補正書
平成26年 4月21日付け :拒絶理由通知書
(同年4月24日発送)
平成26年 6月19日提出 :意見書,手続補正書
平成26年 8月11日付け :最後の拒絶理由通知書
(同年8月19日発送)
平成26年10月20日提出 :意見書,補正書
平成27年 3月 9日付け :補正の却下の決定
(平成26年10月20日提出の手続補正書による補正)
平成27年 3月 9日付け :拒絶査定(同年3月17日送達)
平成27年 6月17日提出 :審判請求書,手続補正書


第2 平成27年6月17日付けの手続補正書による補正(以下「本件補正という。」)の適否

1.本件補正の適否

(1)本件補正は、特許請求の範囲の請求項1についての補正(以下、「補正事項1」)を含むものである。
本件補正の補正事項1は、請求項1に記載した「補助電極」を構成する「低抵抗層」と「被覆層」について、「低抵抗層」が、「アルミニウムネオジム合金、アルミニウムニッケル合金、アルミニウム銀合金、アルミニウムコバルト合金、及びアルミニウムゲルマニウム合金から選ばれるいずれか1種以上を含む」こと、また、「被覆層」が、「モリブデンニオブ合金、モリブデンバナジウム合金、及びモリブデンタングステン合金から選ばれるいずれか1種以上を含み」、「低抵抗層の上面及び側面を被覆している」ことを付加し、限定的に減縮するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

(2)本件発明

本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?6のうち請求項1に係る発明は、請求項1に記載された次のとおりのものである。(なお、下線は補正箇所を示す。)

「透光性基板上に設けられる透光性電極層と、該透光性電極層と対をなす電極層と、これらの電極層に挟持され、有機エレクトロルミネッセンス物質を含有する有機層とを有し、該透光性電極層上に積層される該有機層の発光領域の該透光性電極層の一部に接触して設けられる遮光性の補助電極と、該補助電極を被覆する絶縁被膜とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、
該補助電極が、透光性電極層に対する比抵抗が低い低抵抗材料からなる低抵抗層と、該低抵抗層上に設けられ、該低抵抗材料より高融点を有する高融点材料からなる被覆層とを有し、前記低抵抗層がアルミニウムネオジム合金、アルミニウムニッケル合金、アルミニウム銀合金、アルミニウムコバルト合金、及びアルミニウムゲルマニウム合金から選ばれるいずれか1種以上を含み、前記被覆層がモリブデンニオブ合金、モリブデンバナジウム合金、及びモリブデンタングステン合金から選ばれるいずれか1種以上を含み、前記被覆層は、前記低抵抗層の上面及び側面を被覆していることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。」(以下「本件発明1」という。)


(3)引用例とその記載事項

ア 原査定の拒絶の理由で引用された特開2009-140817号公報(以下「引用例1」という。)について

(ア)引用例1には、「有機EL面状発光装置」(発明の名称)に関して、図と共に次の記載がある(なお、下線は、後述する引用発明の認定に関連する箇所を示す。)。

a 【技術分野】
「【0001】
本発明は、たとえば照明用途あるいは広告表示用途に用いられる有機EL面状発光装置に関する。」

b 【発明が解決しようとする課題】
「【0007】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、均一な輝度の面状光を出射することが可能な有機EL面状発光装置を提供することをその課題とする。」

c【発明を実施するための最良の課題】
「【0014】
図1および図2は、本発明に係る有機EL面状発光装置の第1実施形態を示している。本実施形態の有機EL面状発光装置A1は、基板1、透明電極層2、金属層3、絶縁層4、有機層5、および金属電極層6を備えている。有機EL面状発光装置A1は、基板1下面の発光領域7から星型の面状光を出射するボトムエミッション型の発光装置として構成されており、照明用途や広告表示用途に供される。なお、図1においては、理解の便宜上、絶縁層4、有機層5、および金属電極層6を省略している。
【0015】
基板1は、たとえばガラスからなる透明基板であり、本実施形態においては、星型とされている。基板1は、透明電極層2、金属層3、絶縁層4、有機層5、および金属電極層6を支持するためのものである。
【0016】
透明電極層2は、電源の+極に接続されており、正孔を供給するためのアノード電極である。透明電極層2は、たとえばITOからなり、基板1よりも一回り小さい星型とされている。
【0017】
有機層5は、有機材料からなり、たとえば正孔注入層、正孔輸送層、発光層、および電子輸送層が積層された構造とされている。有機層5は、透明電極層2とほとんど同じ大きさの星型とされている。有機層5を基板1下面に投影した領域が、発光領域7となっている。上記正孔注入層は、透明電極層2から上記発光層への正孔注入効率を向上させる役割を有するものであり、たとえばCuPcからなる・・(略)・・
【0018】
上記発光層は、発光物質を含んでおり、透明電極層2からの正孔と金属電極層6からの電子とが再結合することにより励起子を生成する場である。上記励起子が上記発光層内を移動する過程において上記発光物質が発光する。上記発光層に含まれる発光物質の種類を選択することにより、赤色光、緑色光および青色光などを自発光するように構成されている。上記発光物質としては、たとえばトリス(8-キノリノラト)アルミニウム錯体、ビス(ベンゾキノリノラト)ベリリウム錯体、ジトルイルビニルビフェニル、トリ(ジベンゾイルメチル)フェナントロリンユーロピウム錯体(Eu(DBM)3(Phen))、およびフェニルピリジンイリジウム化合物などの蛍光またはりん光性発光物質を使用することができる。・・(略)・・
【0019】
上記電子輸送層は、上記発光層への電子の移動を効率良く行うとともに、上記発光層における電子と正孔との再結合効率を高める役割を有するものである。上記電子輸送層を構成する材料としては、たとえばアントラキノジメタン、・・(略)・・
【0020】
金属層3は、透明電極層2と有機層5との間に介在しており、平面視において発光領域7内に形成されている。金属層3は、帯状であり、有機層5の端縁5aに沿った星型を描く形状とされている。金属層3は、たとえばMo,Al,Ni,Cr,Ag,Au,Mgあるいはこれらを含む合金からなり、透明電極層2よりも低抵抗であり、かつ熱伝導率が高い層となっている。
【0021】
絶縁層4は、たとえばSiO_(2)などの絶縁材料からなり、金属層3を覆っている。これにより、絶縁層4は、金属層3と有機層5および金属電極層6とを絶縁している。
【0022】
金属電極層6は、電源の-極に接続されており、電子を供給するためのカソード電極である。金属電極層6は、たとえばAlからなり、比較的反射率が高い層とされている。
【0023】
次に、有機EL面状発光装置A1の作用について説明する。
【0024】
本実施形態によれば、電源の+極に導通する透明電極層2および金属層3を合わせた部分の抵抗分布に着目すると、金属層3が設けられた領域が相対的に低抵抗となる。金属層3は有機層5の端縁5aに沿うように配置されているため、有機層5の端縁5a付近の部分と電源との間の電圧降下を縮小することが可能である。したがって、有機層5の端縁5a付近の部分から発せられる光の輝度が不当に低下することを抑制可能であり、均一な輝度分布の面状光を発することができる。」


d 下記の図2から、有機EL面状発発光装置A1の中央部分は、基板1、透明電極層2、有機層5、金属電極層6の順に積層されており、当該積層された層の端縁5aでは、基板1、透明電極層2、金属層3、絶縁層4、有機層5、および金属電極層6の順に積層されていることが看取できる。
また、絶縁層4は、上記端縁5aの透明電極層2、金属層3を覆い、当該絶縁層4によって、金属層3から有機層5、および金属電極層6を離間していることが看取できる。

【図2】


(イ)引用例1に記載された発明
上記(ア)において摘記した記載事項a?cと図2から看取した事項dとから、引用例1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていることが認められる。

「基板1、透明電極層2、金属層3、絶縁層4、有機層5、および金属電極層6を備え、照明用途や広告表示用途に供される有機EL面状発光装置A1であって、
基板1は、たとえばガラスからなる透明基板であり、透明電極層2、金属層3、絶縁層4、有機層5、および金属電極層6を支持し、
透明電極層2は、たとえばITOからなる アノード電極であり、
金属層3は、透明電極層2と有機層5との間に介在し、帯状であり、有機層5の端縁5aに沿った形状とされ、たとえばMo,Al,Ni,Cr,Ag,Au,Mgあるいはこれらを含む合金からなり、透明電極層2よりも低抵抗であり、かつ熱伝導率が高い層であり、
絶縁層4は、たとえばSiO_(2)などの絶縁材料からなり、金属層3を覆っており、これにより、絶縁層4は、金属層3と有機層5および金属電極層6とを絶縁し、
有機層5は、有機材料からなり、たとえば正孔注入層、正孔輸送層、発光層、および電子輸送層が積層された構造であり、有機層5を基板1下面に投影した領域が、発光領域7となっており、
上記発光層は、たとえば、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム錯体などの蛍光またはりん光性発光物質等の発光物質を含んでおり、透明電極層2からの正孔と金属電極層6からの電子とが再結合することにより生成された励起子により、発光し、
金属電極層6は、たとえばAlからなり、比較的反射率が高い層からなる、カソード電極であり、
有機EL面状発光装置A1の中央部分は、基板1、透明電極層2、有機層5、金属電極層6の順に積層されており、当該積層された層の端縁5aでは、基板1、透明電極層2、金属層3、絶縁層4、有機層5、および金属電極層6の順に積層され、絶縁層4は、端縁5aの透明電極層2、金属層3を覆い、当該絶縁層4によって、金属層3から有機層5、および金属電極層6を離間し、
透明電極層2および金属層3を合わせた部分の抵抗分布が、金属層3が設けられた領域が相対的に低抵抗となり、有機層5の端縁5a付近の部分と電源との間の電圧降下を縮小する
有機EL面状発光装置。」


イ 原査定の拒絶の理由に引用された特開2003-264193号公報(以下「引用例2」という。)について

(ア)引用例2には、「配線構造、その製造方法、および光学装置」(発明の名称)について、次の記載がある。

a 「【0004】
【発明が解決しようとする課題】また、アルミニウム等の低抵抗金属により構成された配線にモリブデン等の高融点金属により構成された保護層を設けることにより、ウィスカ・ヒロックが改善される。さらに、配線材料としてネオジウム等のランタノイド元素を含むアルミニウム合金を用いることによりエレクトロマイグレーションが改善される。」

b 「【0016】配線層は、ネオジウムをさらに含み、中間相はネオジウムをも含むことができる。また、配線層はランタノイド元素を含んでもよく、中間相はランタノイド元素を含むことができる。配線層中のネオジウム含有量は、好ましくは1atomic%以上、より好ましくは2atomic%以上とする。このようにすれば、エレクトロマイグレーション耐性を改善することができる。一方、上限については、好ましくは10atomic%以下、より好ましくは5atomic%以下とする。このようにすることにより、配線層の比抵抗を低く保ちつつ、エレクトロマイグレーション耐性を改善することができる。また、ネオジウムと化学的性質が基本的に同じである他のランタノイドを用いても同様の効果が得られる。」

c 「【0049】また、配線層112は、ネオジウム等のランタノイド元素を含んでもよい。アルミニウム等の低抵抗金属にランタノイド元素を添加することにより、配線のエレクトロマイグレーション耐性が向上する。本実施の形態において、配線層112は、アルミニウムネオジウム合金(Nd-Al)により構成される。本実施の形態において、アルミニウムネオジウム合金中のネオジウムの含有量は、2atomic%である。」


ウ 原査定の拒絶の理由に引用された特開2010-272270号公報(以下「引用例3」という。)について

(ア)引用例3には、「有機EL表示装置」(発明の名称)について、次の記載がある。

a 「【0038】
ゲート電極105を覆って層間絶縁膜106がSiN等によって形成される。層間絶縁膜106の上には、ソース配線108、ドレイン配線107が形成される。本実施例では、映像信号線はドレイン配線107と同義である。ソース配線108、ドレイン配線107には有機EL層114を発光させるための電流が流れるので、抵抗が低い金属であるAlが用いられ、厚さも700nm程度と、厚く形成される。なお、Al配線の下層には、Alによる半導体等への汚染を防止するためのバリアメタルがMoあるいはTi等の高融点金属で形成され、Al配線の上方には、Alのヒロックを防止するためのキャップメタルがMoあるいはTi等の高融点金属で形成される。」


エ 原査定の拒絶の理由に引用された特開2010-185903号公報(以下「引用例4」という。)について

(ア)引用例4には、「表示装置、表示装置の製造方法、電子機器」(発明の名称)について、次の記載がある。

a 「【0004】
Alはウェットエッチング、ドライエッチングどちらも可能であり、また安価である。しかし、Al配線を単層で用いた場合にはヒロック、スパイク等の不良発生が懸念される。」

b 「【0006】
これらの不良に対する対策として、熱に強い高融点金属でAl配線を挟む積層構造とすることが考えられている。その結果、Alを電流供給金属層として用いた場合の上部金属層の表面は、対ヒロック、対スパイクを目的とした金属層が表れる。」


オ 原査定の拒絶の理由に引用された特開2003-316291号公報(以下「引用例5」という。)について

(ア)引用例5には、「発光装置」(発明の名称)について、次の記載がある。

a 「【0037】図4はA-A'線に対応する縦断面図であり、第1補助配線20は抵抗率の小さい導電性材料で形成され、具体的には、アルミニウム、アルミニウムとチタン、スカンジウム、ニオブ、銅又はシリコンとの合金、或いはチタン、窒化チタン、タンタル、タングステン、モリブデンの単体又はこれらの合金で形成することができる。特に、アルミニウムを含む材料が適しているが、耐熱性や耐腐食性を考慮するとその上下にチタンなどの高融点金属層を形成しおくことが望ましい。第1補助配線20は、側面部にテーパー部を形成し、第2補助配線の被覆性を確保している。これは厳密な意味で角度を規定されるテーパー形状とする必要はなく、シャドーマスクと組み合わせた蒸着又はスパッタリング法により必然的に作り込まれても良いし、勿論エッチング加工時に形成しても良い。」


カ 原査定の拒絶の理由に引用された特開2004-212493号公報(以下「引用例6」という。)について

(ア)引用例6には、「配線接続構造、配線接続構造の製造方法および有機エレクトロルミネッセンス表示装置」(発明の名称)について、次の記載がある。

a 「【0096】
その後、DCスパッタ法により、MoNb(10原子%)、Al、MoNb(10原子%)の順番で成膜した。例1のMoの代わりにMoNbを用いたのは、耐食性を改善することができるためである。膜厚はMoNbが100nm、Alが350nm程度とした。その後、フォトリソグラフィによりレジストをパターニングし、燐酸、酢酸、硝酸の混合水溶液を用いて、前記積層金属膜をエッチングし、レジスト剥離した。これにより、周辺配線3aおよび引き出し配線3bと共に、コンタクトパターン2aに重なる層2dを同一マスクで形成した。これにより、周辺配線3a、引き出し配線3b、層2dの位置関係を精度よく形成することができた。」


キ 原査定の拒絶の理由に引用された特開2004-140319号公報(以下「引用例7」という。)について

(ア)引用例7には、「薄膜配線」(発明の名称)について、次の記載がある。

a 「【0023】
耐熱性には物質の融点が大きく関係する。低融点の材料でかつ高い純度を有するほど、低い温度で原子の移動が起こり結晶粒の成長等によりその形態が変化し易く耐熱性は劣る。CuまたはAgの融点は1000℃前後であり、FPD製造時等の数100℃の加熱工程により、原子が移動し、凝集等により耐熱性が低下することは上述の通りである。一方、Moの融点はCuまたはAgの倍以上高く、数100℃程度の加熱では原子が移動しにくいため、耐熱性に優れている。このため、CuまたはAgを主成分とする膜の下層または上層、またはその両方にMo合金膜を形成することは、加熱時のCuやAgの原子移動を抑制することから耐熱性を向上させる効果がある。しかし、Moのみでは上述のように耐食性が劣るために、MoにVおよび/またはNbを添加した合金膜を用いることが適している。」


(4)対比・判断
ア 引用発明の「有機EL面状発光装置A1」、「基板1」及び「ガラスからなる透明基板」並びに「透明電極層2」及び「ITOからなる アノード電極」、そして「発光領域7」は、それぞれ本件発明1の「有機エレクトロルミネッセンス素子」、「透光性基板」並びに「透光性電極層」、そして「発光領域」に相当する

イ 引用発明の「金属電極層6」は、「透明電極層2、有機層5、金属電極層6の順に」、或いは、「透明電極層2、金属層3、絶縁層4、有機層5、および金属電極層6の順に積層」されており、「透明電極層2」と「金属電極層6」とで「有機層5」を挟み、「透明電極層2からの正孔と金属電極層6からの電子とが再結合することにより生成された励起子により」、有機層5を構成する「発光層」を「発光」させることから、本件発明1の「透光性電極層と対をなす電極層」に相当し、引用発明の「発光層」を有する「有機層5」は、本件発明1の「これらの電極層に挟持され、有機エレクトロルミネッセンス物質を含有する有機層」に相当する。

ウ 引用発明では、「有機層5を基板1下面に投影した領域が、発光領域7となっており」、「端縁5aでは、基板1、透明電極層2、金属層3、絶縁層4、有機層5、および金属電極層6の順に積層され」ており、 「金属層3」は、「透明電極層2および金属層3を合わせた部分の抵抗分布が、金属層3が設けられた領域が相対的に低抵抗となり、有機層5の端縁5a付近の部分と電源との間の電圧降下を縮小する」ものであるから、引用発明の「金属層3」と、本件発明1の「透光性電極層上に積層される該有機層の発光領域の該透光性電極層の一部に接触して設けられる遮光性の補助電極」とは、「透光性電極層上に積層される該有機層の発光領域の該透光性電極層の一部に接触して設けられる補助電極」である点で一致する。
また、引用発明の「金属層3」は、「たとえばMo,Al,Ni,Cr,Ag,Au,Mgあるいはこれらを含む合金からなり、透明電極層2よりも低抵抗であ」るから、本件発明1の「補助電極が、透光性電極層に対する比抵抗が低い低抵抗材料からなる低抵抗層と、該低抵抗層上に設けられ、該低抵抗材料より高融点を有する高融点材料からなる被覆層とを有し、前記低抵抗層がアルミニウムネオジム合金、アルミニウムニッケル合金、アルミニウム銀合金、アルミニウムコバルト合金、及びアルミニウムゲルマニウム合金から選ばれるいずれか1種以上を含み、前記被覆層がモリブデンニオブ合金、モリブデンバナジウム合金、及びモリブデンタングステン合金から選ばれるいずれか1種以上を含み」とは、「補助電極が、透光性電極層に対する比抵抗が低い低抵抗材料からなる低抵抗層」を含み、「Al,Ni,Ag」を含む合金」を含んでいる点で一致する。

エ 上記ア?ウから、本件発明1と引用発明とは、
「透光性基板上に設けられる透光性電極層と、該透光性電極層と対をなす電極層と、これらの電極層に挟持され、有機エレクトロルミネッセンス物質を含有する有機層とを有し、該透光性電極層上に積層される該有機層の発光領域の該透光性電極層の一部に接触して設けられる補助電極と、該補助電極を被覆する絶縁被膜とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、
該補助電極が、透光性電極層に対する比抵抗が低い低抵抗材料からなる低抵抗層を有し、前記低抵抗層がAl,Ni,Agを含む合金から選ばれるいずれか1種以上を含んでいる有機エレクトロルミネッセンス素子。」
の点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
本件発明1は、「補助電極」が「遮光性」であるのに対して、引用発明は、「補助電極」が「遮光性」であるのかどうか記載されていない点。

相違点2:
本件発明1は、「該補助電極が、透光性電極層に対する比抵抗が低い低抵抗材料からなる低抵抗層と、該低抵抗層上に設けられ、該低抵抗材料より高融点を有する高融点材料からなる被覆層とを有し、前記低抵抗層がアルミニウムネオジム合金、アルミニウムニッケル合金、アルミニウム銀合金、アルミニウムコバルト合金、及びアルミニウムゲルマニウム合金から選ばれるいずれか1種以上を含み、前記被覆層がモリブデンニオブ合金、モリブデンバナジウム合金、及びモリブデンタングステン合金から選ばれるいずれか1種以上を含み、前記被覆層は、前記低抵抗層の上面及び側面を被覆している」のに対して、引用発明は、「金属層3」 は、「たとえばMo,Al,Ni,Cr,Ag,Au,Mgあるいはこれらを含む合金からなり、透明電極層2よりも低抵抗」である層のみからなる点。


オ 上記相違点2についてまず検討する。
本件発明1は、「透光性電極層上の一部に形成する補助電極を、透光性電極層と比較して比抵抗(または体積抵抗率)の小さい低抵抗材料からなる低抵抗層と、これを被覆する被覆層とを有し、該被覆層を低抵抗材料より高融点を有する高融点材料で形成することにより、透光性電極層の低抵抗化を図り、素子の中央部における電圧降下による発光効率の低下の抑制を図」(【0010】る発明であって、引用発明との相違点2に係る構成に関し、「低抵抗層31aと、この低抵抗層31aの上面及び側面を被覆したインレイ形状、即ち、クラッド構造を有する被覆層31bとからなる補助電極31であってもよい。クラッド構造を形成する被覆層31bは、低抵抗層のマイグレーションに対する抑制効果が高く、好ましい。」(【0023】)との効果を有しているものである。
一方、引用例2?7には、「該補助電極が、透光性電極層に対する比抵抗が低い低抵抗材料からなる低抵抗層と、該低抵抗層上に設けられ、該低抵抗材料より高融点を有する高融点材料からなる被覆層とを有し、」「前記被覆層は、前記低抵抗層の上面及び側面を被覆している」との構成が記載されていない。
また、前置報告書に挙げられた引用文献10?17のうち、引用文献14(特開平8-8255号公報)、引用文献15(特開2010-108000号公報)、引用文献16(特開平2-184824号公報)(前置報告書に挙げられた「特開平5-184824号公報」は「インジェクタ用フィルター」に係るものであり、「薄膜トランジスタマトリクス」に係る「特開平2-184824号公報」の誤りと認められる。)及び引用文献17(特開平9-152624号公報)には、いずれの引用文献にも、低抵抗材料から成る層の上面及び側面を覆う高融点金属層を有する配線構造が示されているが、液晶表示素子等に用いる薄膜トランジスタアレイのバス配線、ゲート配線等の配線構造自体に適用するものであり、引用発明の有機発光層の発光領域において用いられる透明電極層の上部に配置される補助電極に変えてそれらの構造を適用する動機づけはない。

したがって、上記相違点1の容易想到性について判断を示すまでもなく、本件発明1は、引用例1?7に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたといえない、或いは、引用例1?7に記載された発明及び引用文献10?17に記載された技術事項に基づいても、当業者が容易に発明をすることができたといえない。

よって、本件補正の請求項1についての補正事項1は、特許法第17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合する。

本件補正のその余の補正事項についても、特許法第17条の2第3ないし第6項に違反するところはない。

3.むすび

本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。


第3 本願発明

本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1-6に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-6に記載された事項により特定されるとおりのものである。
そして、本願については、原査定の拒絶の理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-06-29 
出願番号 特願2012-549872(P2012-549872)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H05B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 井亀 諭  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 河原 正
清水 康司
発明の名称 有機エレクトロルミネッセンス素子及び有機エレクトロルミネッセンス照明装置  
代理人 宮崎 昭夫  
代理人 緒方 雅昭  

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