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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B66F
管理番号 1316726
審判番号 不服2015-12903  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-07-07 
確定日 2016-07-06 
事件の表示 特願2012-522938「ホイストシステム及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 2月10日国際公開、WO2011/017053、平成25年 1月 7日国内公表、特表2013-500223〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2010年7月26日(パリ条約による優先権主張2009年7月27日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成24年1月26日に特許法第184条の5第1項に規定する国内書面が提出され、平成24年3月23日に特許法第184条の4第1項に規定する明細書、請求の範囲、図面及び要約書についての翻訳文(以下、各翻訳文について「明細書の翻訳文」等という。)が提出され、平成26年5月30日付けで拒絶理由が通知され、平成26年9月2日に意見書が提出されるとともに同日に特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出されたが、平成27年3月6日付けで拒絶査定がされ、平成27年7月7日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2.本願発明
本願の請求項8に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成26年9月2日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに平成24年3月23日に提出された明細書の翻訳文及び図面の翻訳文の記載によれば、特許請求の範囲の請求項8に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。
「車両であって、
シャシと、
前記シャシに配置され、ステアリングポンプに接続されたエンジンと、前記エンジンに接続されるオルタネータと、パワーエレクトロニクスユニットと、を含むエネルギー源と、
前記シャシに配置され、前記エネルギー源に動作的に接続される制御装置と、
前記シャシに配置されるホイストポンプモータ及びホイストポンプであって、該ホイストポンプモータが、該ホイストポンプに機械的に接続され且つ前記パワーエレクトロニクスユニットに電気的に接続され、前記エンジンが、直接的にも間接的にも該ホイストポンプに機械接続されない、ホイストポンプモータ及びホイストポンプと、
前記シャシに配置されるトラクションモータ及び推進システムであって、該トラクションモータが、該推進システムに機械的に接続され且つ前記パワーエレクトロニクスユニットに電気的に接続される、トラクションモータ及び推進システムと、
を含み、
第1の運転モード時は、前記制御装置が前記パワーエレクトロニクスユニットを制御して、前記パワーエレクトロニクスユニットで前記ホイストポンプモータに電力供給することによって、前記ホイストポンプモータで機械的動力を前記ホイストポンプに供給し、第2の運転モード時は、前記制御装置が前記パワーエレクトロニクスユニットを制御して、前記パワーエレクトロニクスユニットで前記ホイストポンプモータではなく前記トラクションモータに電力を供給することによって、前記トラクションモータで機械的動力を前記推進システムに供給して動く、
車両。」

3.引用刊行物
(1)引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物であって、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2006-205777号公報(以下「引用刊行物」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

a)「【0001】
本発明は、ホイールローダなどの走行作業機械に関し、特に、走行体と作業機とを備え走行と作業を同時に行うことがある走行作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
ホイールローダ、油圧ショベルなどの建設機械は、エンジンを駆動源としてブーム、バケットなどの作業機、車輪、履帯などの走行体が作動される構成が従来、一般的である。
【0003】
しかし、近年の環境汚染や石油資源枯渇への対応のために、駆動源としてエンジンと電動モータを併用したり、エンジンを電動モータに置き換えた車両が、一般自動車の分野のみならず建設機械などの走行作業機械の分野においても開発されつつある。
【0004】
後掲する特許文献1には、油圧ショベルのブーム、アーム、バケット、走行体、上部旋回体といった各駆動軸毎に、電動モータを取り付け、個別の電動モータによって、これらブーム、アーム、バケット、走行体、上部旋回体の各駆動軸を作動させるという発明が記載されている。
【特許文献1】特開2001-3398号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、電動モータを各作業機毎に、走行体の各駆動軸毎に個別に設け、個別に作動させる構成とした場合には、駆動軸の要求馬力以上に馬力を出力し得る容量の電動モータを各駆動軸毎に用意しなければならない。このため、個別の電動モータの容量の総和(馬力の総和)が、1つのエンジンで各駆動軸を駆動する従来構成の場合のエンジン馬力と比較して大きなものにならざるを得ない。これにより電動モータが大型化し、装置コストが増大するとともに、エネルギー効率が低下するという問題が招来する。
【0006】
一方で、従来の油圧システムのように、エンジンの駆動力を、油圧ポンプを介して各駆動軸に振り分けていたのと同様に、エンジンを電動モータに置き換えて、電動モータの駆動力を、各駆動軸に振り分けるように構成することも考えられる。
【0007】
しかし、このように電動モータの駆動力を各駆動軸に振り分けた場合には、その構成、制御内容が、油圧システムによって各駆動軸に振り分ける従来の構成、制御内容と比較して、複雑となり、装置コストが増大する。
【0008】
本発明は、こうした実状に鑑みてなされたものであり、電動モータを駆動源として走行作業機械の走行体、作業機を作動させるに際して、電動モータの容量の総和を小さくするとともに、電動モータの駆動力を各駆動軸に振り分けるための構成、制御内容を簡易なものとすることで、装置コストを低減させるとともに、エネルギー効率を向上させることを解決課題とするものである。」(段落【0001】ないし【0008】)

b)「【0016】
第1発明によれば、図1に示すように、第1および第2の電動モータ5、6の駆動トルクがトルク分配伝達機構に入力され、第1および第2の電動モータ5、6の駆動トルクが走行体13の駆動軸11aと作業機の駆動軸12aに分配されて伝達される。
【0017】
これにより図11に示すように、第1および第2の電動モータ5、6の容量の総和を小さくできる。また、図2に示すように、既存の車載システムに、電動モータ5、6、インバータ3、4、バッテリ2、遊星歯車機構などで構成されるトルク分配伝達機構10、コントローラ20を追加するだけでよく、第1および第2の電動モータ5、6の駆動力を各駆動軸11a、12aに振り分けるための構成、制御内容を簡易なものとすることができる。これにより装置コストが低減し、エネルギー効率が向上する。
【0018】
第2発明によれば、図1に示すように、ホイールローダ1において、第1の電動モータ5の駆動トルクの全部が走行体13の駆動軸11aに伝達され、第2の電動モータ6の駆動トルクの全部または一部が走行体13の駆動軸11aに伝達される。なお、第2の電動モータ6の駆動トルクの一部が走行体13の駆動軸11aに伝達された場合には、第2の電動モータ6の駆動トルクの残りは、作業機18、19の駆動軸12aに伝達される。
【0019】
ホイールローダ1は、掘削時などに走行動力に大きな動力を必要とする。第2発明によれば、第1の電動モータ5の駆動トルクのみならず、通常は作業機動力に振り分けられている第2の電動モータ6の駆動トルクの全部を走行動力に振り分けることが可能であり、ホイールローダ1で掘削作業を行う際に、大きな走行動力を得ることができ、作業効率が向上する。
【0020】
第3発明によれば、たとえば図22(a)、(b)に示す遊星歯車110あるいはディファレンシャルギア130といった差動歯車を用いた差動歯車機構によって、トルク分配伝達機構10が構成される。
【0021】
第4発明によれば、図22(a)に示す遊星歯車110を用いた遊星歯車機構によって、トルク分配伝達機構10が構成される。
【0022】
第5発明によれば、図23(a)に示すように、第2の入力軸10bと、第2の出力軸(作業機出力軸)10dとの係合、係合解除を行うクラッチ61が設けられ、走行動力のみが必要で作業機動力が不要な場合には、クラッチ61の係合が解除され、第1および第2の電動モータ5、6の駆動トルクの全てが、第1の出力軸(走行出力軸)10cに伝達され、第2の出力軸(作業機出力軸)10dには伝達されないように制御される。このため、走行動力のみが必要で作業機動力が不要な状況には、作業機出力軸10dは回転駆動されなくなり、油圧ポンプ12から吐出される圧油が無駄にタンクに排出されてエネルギーロスを生じることが回避される。
【0023】
第6発明によれば、図23(a)に示すように、クラッチ61に加えて、第2の入力軸10bと、ギア10eとの連結、連結解除を行うクラッチ62が設けられ、作業機動力のみが必要で走行動力が不要な場合には、クラッチ62の連結が解除され、第2の電動モータ6によって遊星歯車110のリングギア10Rが回転駆動されないように制御される。このため、作業機動力のみが必要で走行動力が不要な状況には、第2の電動モータ6によって遊星歯車110のリングギア10Rを介して走行出力軸10cが駆動されるようなことがなくなり、エネルギーロスを生じることが回避される。
【0024】
第7発明によれば、図23(a)に示すように、クラッチ61、62に加えて、遊星歯車110のリングギア10Rを制動するブレーキ63が設けられる。これにより、たとえば図23(b)に示すごとく、作業モードA?Eに応じて、クラッチ61、62の係合、解除、ブレーキ63を作動、解除を制御することができるようになり、その結果として、余分な動力の消費が抑制されて、エネルギー効率を高めることができる。」(段落【0016】ないし【0024】)

c)「【0026】
以下、図面を参照して本発明に係る走行作業機械の実施の形態について説明する。なお、以下の説明では、走行作業機械としてホイールローダを想定する。しかし、本発明としては油圧ショベルなどの他の走行作業機機械にも適用可能である。
【0027】
図1(a)は、第1実施例のホイールローダ1の内部の構成を示している。
【0028】
同図1(a)に示すように、駆動部7は、バッテリ2、インバータ3、4、第1および第2の電動モータ5、6からなる。バッテリ2は、インバータ3を介して第1の電動モータ5に電気的に接続されているとともに、インバータ4を介して第2の電動モータ6に電気的に接続されている。バッテリ2は、キャパシタや鉛電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池等の蓄電池や燃料電池によって構成されている。
【0029】
図1(a)の破線で示す駆動部7は、図1(b)に示す構成に置き換えてもよい。図1(b)に示す駆動部7は、エンジン8の出力軸が発電機9の駆動軸に連結され、発電機9がインバータ3、4を介して第1および第2の電動モータ5、6に電気的に接続されるように構成されている。さらに、図1(a)、(b)を組み合わせて駆動部7を構成してもよい。
【0030】
第1および第2の電動モータ5、6の出力軸5a、6aはそれぞれ、トルク分配伝達機構としての遊星歯車機構10の第1の入力軸10a、第2の入力軸10bに連結されている。遊星歯車機構10の第1の出力軸(走行出力軸)10cは、走行体13の駆動軸11aとしての動力伝達機構11の入力軸11aに連結されている。遊星歯車機構10の第2の出力軸(作業機出力軸)10dは、作業機の駆動軸12aとしての可変容量型の油圧ポンプ12の駆動軸12aに連結されている。
【0031】
遊星歯車機構10は、第1および第2の電動モータ5、6の駆動トルクを入力して、第1および第2の電動モータ5、6の駆動トルクを走行体13の駆動軸11aと作業機の駆動軸12aに分配して伝達するように構成されている。また、遊星歯車機構10は、第1の電動モータ5の駆動トルクの全部が走行体13の駆動軸11aに伝達され、第2の電動モータ6の駆動トルクの全部または一部が走行体13の駆動軸11aに伝達されるように構成されている。
【0032】
図12(a)は、遊星歯車110を正面図にて示し、図12(b)は、図1に対応させて遊星歯車110の側面を拡大して示している。 この図12と図1を併せ参照して説明すると、第1の電動モータ5の出力軸5aは、遊星歯車機構10の第1の入力軸10aを介して遊星歯車110のサンギア10Sに連結されている。第2の電動モータ6の出力軸6aは、遊星歯車機構10の第2の入力軸10bを介してギア10eに連結されている。ギア10eは、遊星歯車110のリングギア10Rに歯合している。
【0033】
遊星歯車110のプラネタリウムギア10Pは、プラネタリウムキャリア10PCに連結されており、プラネタリウムキャリア10PCは遊星歯車機構10の第1の出力軸10cを介して、走行体13の駆動軸11aに連結されている。
【0034】
遊星歯車機構10のギア10eは、遊星歯車機構10の第2の出力軸10dを介して、作業機の駆動軸12aに連結されている。
【0035】
動力伝達機構11は、駆動軸11aと、駆動軸11aに連結された減速用ギア11bと、減速用ギア11bに連結されたプロペラシャフト11cと、プロペラシャフト11cに連結されたディファレンシャルギア11dと、ディファレンシャルギア11dに連結されたアクスルシャフト11eと、アクスルシャフト11eに連結されたファイナルギア11fとからなり、ファイナルギア11fは、走行体としての車輪13に連結されている。車輪13は、たとえばホイールローダ1の前輪に相当する。なお、図1に示すプロペラシャフト11cから車輪13までの構成を、前輪、後輪共に同様の構成として、4輪駆動車とする実施も可能である。
【0036】
図2は、油圧ポンプ12を含む各種油圧機器と、これら各種油圧機器と、第1および第2の電動モータ5、6を駆動制御する制御系の構成をブロック図にて示している。
【0037】
すなわち、油圧ポンプ12の吐出口12bは、吐出油路25、方向切換弁14、方向流量制御弁15を介して油圧シリンダ16、17のシリンダ室に連通している。油圧シリンダ16、17はそれぞれ、作業機18、19に連結している。作業機18、19は、たとえばホイールローダ1のブーム、バケットである。
【0038】
油圧シリンダ16、17のシリンダ室は、方向流量制御弁15、方向切換弁14、戻り油路27、タンク22を介して油圧ポンプ12の吸込み口12cに連通している。油圧ポンプ12の斜板の傾転位置は、サーボ機構28によって駆動される。
【0039】
吐出油路25には、油圧ポンプ12の吐出圧を検出する圧力センサ26が設けられている。第2の出力軸10dないしは油圧ポンプ12の駆動軸12aには、油圧ポンプ12の回転数を検出する回転数センサ29が設けられている。
【0040】
第1の出力軸10cないしは動力伝達機構11の駆動軸11aには、駆動トルクを検出するトルクセンサ30が設けられている。また、走行体13には、車速を検出する車速センサ127が設けられている。
【0041】
アクセルペダル23、作業機用操作レバー24は、たとえば運転室に設けられている。なお、ホイールローダ1では、ステアリングの操作によって車体の向きが変化されるが、本実施例では説明の便宜のため省略している。
【0042】
圧力センサ26、回転数センサ29、トルクセンサ30、車速センサ127の検出信号、アクセルペダル23、作業機用操作レバー24の操作量を示す信号は、コントローラ20に入力される。
【0043】
インバータ3、4は、電動モータ用制御器21から出力される制御信号によって駆動制御される。電動モータ用制御器21は、コントローラ20から入力される制御信号によって駆動制御される。
【0044】
コントローラ20では、油圧ポンプ12のサーボ機構28を駆動制御するための制御信号、方向流量制御弁15の弁位置を駆動制御するための制御信号、第1および第2の電動モータ5、6を駆動制御するための制御信号が生成され、サーボ機構28、方向流量制御弁15、電動モータ用制御器21にそれぞれ出力される。
【0045】
コントローラ20から、第1の電動モータ5で正(+)極性のトルクを発生させるための制御信号が出力されると、インバータ3は、第1の電動モータ5が電動機として作動するように制御する。この場合には、バッテリ2に蓄積された直流電力は、インバータ3で交流電力に変換されて第1の電動モータ5に供給され、第1の電動モータ5の出力軸5aが回転駆動される。これにより第1の電動モータ5でトルクが発生し、このトルクは、第1の電動モータ5の出力軸5aを介して遊星歯車機構10の第1の入力軸10aに伝達される。
【0046】
コントローラ20から、第1の電動モータ5で負(-)極性のトルクを発生させるための制御信号が出力されると、インバータ3は、第1の電動モータ5が発電機として作動するように制御する。この場合には、第1の電動モータ5の出力軸5aのトルクが、第1の電動モータ5に吸収されて発電が行われる。第1の電動モータ5で発生した交流電力は、インバータ3で直流電力に変換されて、直流電源線を介してバッテリ2に供給され直流電力として蓄積される。
【0047】
コントローラ20から、第2の電動モータ6で正(+)極性のトルクを発生させるための制御信号が出力されると、インバータ4は、第2の電動モータ6が電動機として作動するように制御する。この場合には、バッテリ2に蓄積された直流電力は、インバータ4で交流電力に変換されて第2の電動モータ6に供給され、第2の電動モータ6の出力軸6aが回転駆動される。これにより第2の電動モータ6でトルクが発生し、このトルクは、第2の電動モータ6の出力軸6aを介して遊星歯車機構10の第2の入力軸10bに伝達される。
【0048】
コントローラ20から、第2の電動モータ6で負(-)極性のトルクを発生させるための制御信号が出力されると、インバータ4は、第2の電動モータ6が発電機として作動するように制御する。この場合には、第2の電動モータ6の出力軸6aのトルクが、第2の電動モータ6に吸収されて発電が行われる。第2の電動モータ6で発生した交流電力は、インバータ4で直流電力に変換されて、直流電源線を介してバッテリ2に供給され直流電力として蓄積される。
【0049】
第1の電動モータ5で発生した駆動トルクは、遊星歯車機構10の第1の入力軸10a、サンギア10S、プラネタリウムギア10P、プラネタリウムキャリア10PC、第1の出力軸10cを介して、走行体13の駆動軸11aに伝達される。一方、第2の電動モータ6で発生した駆動トルクは、遊星歯車機構10の第2の入力軸10b、第2の出力軸10dを介して、作業機18、19の駆動軸12a、つまり油圧ポンプ12の駆動軸12aに伝達されるとともに、遊星歯車機構10の第2の入力軸10b、ギア10e、リングギア10R、プラネタリウムギア10P、プラネタリウムキャリア10PC、第1の出力軸10cを介して、走行体13の駆動軸11aに伝達される。
【0050】
図1(a)に示すバッテリ2を、図1(b)に示すエンジン8、発電機9に置き換えた場合には、エンジン8の出力トルクが発電機9で吸収されて発電が行われ、第1および第2の電動モータ5、6に電力が供給され、第1および第2の電動モータ5、6が電動機として作動する(正(+)極性のトルクが発生する)。また、第1および第2の電動モータ5、6が発電機として作動する(負(-)極性のトルクが発生する)と、第1および第2の電動モータ5、6で発生した交流電力が、インバータ3、4で直流電力に変換されて、発電機9に供給されて発電機9が電動機として作動して、発電機9で発生したトルクがエンジン8の出力軸に伝達されて、エンジン8で発生したトルクに加算される。
【0051】
図3(a)、(b)は、図1(a)、図2に示す構成要素のうち主要な構成要素、つまりバッテリ2、電動モータ5、6、遊星歯車機構10、油圧ポンプ12の車体への配置例を示している。図3(a)は、ホイールローダ1の上面図で、図3(b)は、ホイールローダ1の側面図である。
【0052】
図6は、第1および第2の電動モータ5、6の制御系、つまりコントローラ20の構成をブロック図で示している。
【0053】
同図6に示すように、アクセルペダル23の操作量(ペダル踏込み量)αを示す信号は
、偏差演算部30に入力される。車速センサ127で検出された現在の車速(走行出力軸10cの現在の回転数)βを示す信号は、偏差演算部30に入力される。偏差演算部30では、ペダル踏込み量αと現在の車速βとの偏差α-βが演算されて、この偏差α-βに応じた制御指令が第1の電動モータ5に与えられる。トルクセンサ30では、走行出力軸10cの現在のトルクが検出され、この現在のトルクがフィードバック量として第1の電動モータ5に与えられる。第1の電動モータ5は、偏差α-βに応じて、回転数とトルクが調整される。
【0054】
また、操作レバー24の操作量εを示す信号は、方向流量制御弁15に入力される。方向流量制御弁15では、操作量εに応じて弁位置が変化され、スプールの開口面積が変化され、油圧シリンダ16、17に供給される圧油の流量が変化され、作業機18、19の作動速度が変化される。油圧ポンプ12から所望の吐出流量(単位時間当たりのポンプ吐出量)の圧油が吐出されるように、回転数センサ29で検出された作業機出力軸10dの現在の回転数γに応じて、油圧ポンプ12の斜板の傾転位置(容量;ポンプ1回転当たりのポンプ吐出量)が調整される。油圧ポンプ12の現在の容量、圧力センサ26で検出された現在の圧油の圧力がフィードバック量として第2の電動モータ6に与えられ、第2の電動モータ6は、偏差α-βに応じて回転数が調整されるとともに、作業機出力軸10dの現在の回転数γに応じて、トルクが調整される。」(段落【0026】ないし【0054】)

d)「【0147】
図23(a)は、第1実施例に、クラッチ61、クラッチ62、ブレーキ63を付加した第4実施例を示している。
【0148】
すなわち、第1実施例では、走行動力のみが必要で作業機動力が不要な状況であっても、作業機出力軸10dが常時回転駆動しているため、油圧ポンプ12から吐出される圧油が無駄にタンクに排出されてエネルギーロスが生じることがあった。そこで、図23(a)に示すように、第2の入力軸10bと、第2の出力軸(作業機出力軸)10dとの係合、係合解除を行うクラッチ61を設け、走行動力のみが必要で作業機動力が不要な場合には、クラッチ61の係合を解除し、第1および第2の電動モータ5、6の駆動トルクの全てが、第1の出力軸(走行出力軸)10cに伝達され、第2の出力軸(作業機出力軸)10dには伝達されないように制御してもよい。
【0149】
また、第1実施例では、作業機動力のみが必要で走行動力が不要な状況であっても、第2の電動モータ6が作業機出力軸10dのみならず遊星歯車110のリングギア10Rを
常時回転駆動しているため、エネルギーロスが生じることがあった。そこで、図23(a)に示すように、第2の入力軸10bと、ギア10eとの連結、連結解除を行うクラッチ62を設け、作業機動力のみが必要で走行動力が不要な場合には、クラッチ62の連結を解除して、第2の電動モータ6によって第2の出力軸(作業機出力軸)10dのみ回転駆動させ、遊星歯車110のリングギア10Rを回転駆動させないように制御してもよい。
【0150】
また、遊星歯車110のリングギア10Rを制動するブレーキ63を設け、作業モードに応じて、クラッチ61、62の係合、解除、ブレーキ63を作動、解除を制御してもよい。ブレーキ63が作動すると、リングギア10Rが定位置に固定され、ブレーキ63の作動が解除すると、リングギア10Rが自由回転状態になる。
【0151】
図23(b)は、作業モードと、動力配分される駆動軸(走行出力軸、作業機出力軸)と、クラッチ61、62の係合、解除状態、ブレーキ63の作動、解除状態と、動力源との関係を示した表である。
【0152】
作業モードAの場合には、第2の電動モータ6のみが動力源として回転駆動され、クラッチ61は係合され、クラッチ62は解除され、ブレーキ63は作動されるように制御される。この場合には、第2の電動モータ6の動力が、第2の出力軸(作業機出力軸)10dに伝達される。
【0153】
作業モードBの場合には、第1および第2の電動モータ5、6が動力源として回転駆動され、クラッチ61は解除され、クラッチ62は係合され、ブレーキ63は解除されるように制御される。この場合には、第1および第2の電動モータ5、6の動力が、合算されて、第1の出力軸(走行出力軸)10cに伝達される。
【0154】
作業モードCの場合には、第1の電動モータ5が動力源として回転駆動され、クラッチ61は解除され、クラッチ62は解除され、ブレーキ63は作動されるように制御される。この場合には、第1の電動モータ5の動力が、第1の出力軸(走行出力軸)10cに伝達される。
【0155】
作業モードDの場合には、第1および第2の電動モータ5、6が動力源として回転駆動され、クラッチ61は係合され、クラッチ62は係合され、ブレーキ63は解除されるように制御される。この場合には、第1および第2の電動モータ5、6の動力が、配分されて、第1の出力軸(走行出力軸)10c、第2の出力軸(作業機出力軸)10dに伝達される。
【0156】
作業モードEの場合には、第1および第2の電動モータ5、6が動力源として回転駆動され、クラッチ61は係合され、クラッチ62は解除され、ブレーキ63は作動されるように制御される。この場合には、第1および第2の電動モータ5、6の動力がそれぞれ、独立して、第1の出力軸(走行出力軸)10c、第2の出力軸(作業機出力軸)10dに伝達される。
【0157】
たとえば、作業モードA?Eを選択するスイッチを、ホイールローダの運転室の操作パネルに、設け、選択スイッチの操作に応じて、図23(b)に示すごとく、クラッチ61、62の係合、解除、ブレーキ63の作動、解除を自動的に制御するように構成することができる。
【0158】
ホイールローダでは、作業機出力軸10dに比べて走行出力軸10cに、より大きい動力が必要とされる状況で運転されることが多い。このような状況のときに作業モードBを選択すれば、2つの電動モータ5、6を合算した動力のすべてが、走行出力軸10cのみに伝達されるため、より作業効率を高めることができる。
【0159】
また、一般道を巡航走行するような場合に、作業モードCを選択すれば、1つの電動モータ5の動力によって走行されるため、燃費が向上する。
【0160】
また、積込み作業時に、作業モードAを選択し、掘削時に、状況に応じて、作業モードDまたは作業モードEを選択することで、Vシェープ運転全体を通して作業効率が向上する。特に、Vシェープ運転では、前述のとおり、掘削、運搬、積込みを短時間で繰り返すため、前述の作業モードの選択を操作パネル上で行うことは困難となる。そこで、図24に示すように自動的に作業モードを選択する実施も可能である。すなわち、基本的にVシェープ運転を想定すると、作業モードDを選択してから一定時間、作業機用操作レバー24が操作されない場合には、クラッチ61が解除され、自動的に作業モードBに移行される。この場合、積み荷がバケット内にあることが想定される。このため作業機が落下しないように制御弁15のスプールの開口が閉じられる。また、作業モードBで運転中に作業機用操作レバー24が操作されると、クラッチ61が係合して、作業モードDに戻る。また、作業モードDを選択してから一定時間アクセルペダル23が踏み込まれない場合には、クラッチ62が解除され、ブレーキ63が作動されて、作業モードAに移行する。また、作業モードAで運転中にアクセルペダル23が踏み込まれると、作業モードDに戻る。
【0161】
このように本実施例によれば、作業状態に応じて、クラッチ61、62の係合、解除、ブレーキ63の作動、解除を制御するようにしたので、余分な動力の消費が抑制され、エネルギー効率を高めることができる。」(段落【0147】ないし【0161】)

(2)引用刊行物の記載事項及び図面の記載から分かること
以下、図1ないし6に主要部の構成が示された第1実施例のホイールローダを基本構成として参照しつつ、図23に主要部の構成が示された第4実施例のホイールローダに着目して記載する。
a)上記(1)a)ないしd)及び図3の記載(特に、段落【0001】の記載)によれば、引用刊行物には、ホイールローダが記載されていることが分かる。

b)上記(1)c)及び図3の記載(特に、段落【0051】の記載)によれば、ホイールローダは、車体を含むことが分かる。

c)上記(1)c)及び図1ないし3の記載(特に、段落【0029】、【0050】及び【0051】並びに図1(b)の記載)によれば、ホイールローダは、エンジン8と、前記エンジン8に接続される発電機9と、インバータ3、4と、を含む電力の供給源を含むことが分かる。

d)上記(1)c)及び図1ないし3の記載(特に、段落【0043】及び図2の記載)によれば、ホイールローダは、インバータ3、4に制御信号を出力するよう接続される電動モータ用制御器21及びコントローラ20を含むことが分かる。

e)上記(1)c)及びd)並びに図1ないし6の記載(特に、段落【0030】、【0031】、【0149】及び【0160】並びに図1、2、6及び23の記載)によれば、ホイールローダは、車体に配置される第2の電動モータ6及びバケット内の積み荷を昇降させる作業機に用いられる油圧ポンプ12であって、該第2の電動モータ6が、該油圧ポンプ12にトルク分配伝達機構10を介して機械的に接続され且つ前記インバータ4に電気的に接続され、前記エンジン8が、直接的にも間接的にも該油圧ポンプ12に機械接続されない、第2の電動モータ6及び油圧ポンプ12を含むことが分かる。
ここで、油圧ポンプ12が、バケット内の積み荷を昇降させる作業機に用いられることは、ホイールローダのバケットが昇降可能な構造を有することからみて明らかである。
また、エンジン8と油圧ポンプの接続関係については、エンジン8の動力が発電機9によって電力に変換され、変換された電力によりインバータ4を介して第2の電動モータ6により油圧ポンプ12が駆動されるのであるから、エンジン8が、直接的にも間接的にも該油圧ポンプ12に機械接続されないことは明らかである。

f)上記(1)c)及びd)並びに図1ないし6の記載(特に、段落【0030】、【0031】、【0148】、【0153】及び【0154】並びに図1、2、6及び23の記載)によれば、ホイールローダは、車体に配置される第1の電動モータ5並びにトルク分配伝達機構10、動力伝達機構11及び車輪13からなる走行のためのシステムであって、該第1の電動モータ5が、該走行のためのシステムに機械的に接続され且つ前記インバータ3に電気的に接続される、第1の電動モータ5及び走行のためのシステムを備えることが分かる。
ここで、トルク分配伝達機構10、動力伝達機構11及び車輪13については、第1の電動モータ5が発生した機械的動力が、トルク分配伝達機構10及び動力伝達機構11を経て、走行体としての車輪13に伝達されることにより、ホイールローダが走行することになるから、トルク分配伝達機構10、動力伝達機構11及び車輪13が走行のためのシステムを構成していることは明らかである。

g)上記(1)c)及びd)並びに図1ないし3及び23の記載(特に、段落【0043】、【0044】、【0047】、【0152】及び【0156】並びに図23の記載)によれば、ホイールローダにおいて、作業モードA又はEの場合は、電動モータ用制御器21及びコントローラ20がインバータ4を制御して、前記インバータ4で第2の電動モータ6に電力供給することによって、前記第2の電動モータ6で機械的動力を油圧ポンプ12に供給することが分かる。

h)上記(1)c)及びd)並びに図1ないし3及び23の記載(特に、段落【0043】ないし【0045】、【0154】及び【0156】並びに図23の記載)によれば、ホイールローダにおいて、作業モードC又はEの場合は、電動モータ用制御器21及びコントローラ20がインバータ3を制御して、前記インバータ3で第2の電動モータ6ではなく第1の電動モータ5に電力を供給することによって、前記第1の電動モータ5で機械的動力を走行のためのシステムに供給して動くことが分かる。

(3)引用発明
上記(1)及び上記(2)を総合して、本願発明の表現にならって整理すると、引用刊行物には、次の事項からなる発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認めることができる。
「ホイールローダであって、
車体と、
前記車体に配置され、エンジン8と、前記エンジン8に接続される発電機9と、インバータ3、4と、を含む電力の供給源と、
前記インバータ3、4に制御信号を出力するよう接続される電動モータ用制御器21及びコントローラ20と、
前記車体に配置される第2の電動モータ6及びバケット内の積み荷を昇降させる作業機に用いられる油圧ポンプ12であって、該第2の電動モータ6が、該油圧ポンプ12にトルク分配伝達機構10を介して機械的に接続され且つ前記インバータ4に電気的に接続され、前記エンジン8が、直接的にも間接的にも該油圧ポンプ12に機械接続されない、第2の電動モータ6及び油圧ポンプ12と、
前記車体に配置される第1の電動モータ5並びにトルク分配伝達機構10、動力伝達機構11及び車輪13からなる走行のためのシステムであって、該第1の電動モータ5が、該走行のためのシステムに機械的に接続され且つ前記インバータ3に電気的に接続される、第1の電動モータ5及び走行のためのシステムと、
を含み、
作業モードA又はEの場合は、前記電動モータ用制御器21及びコントローラ20が前記インバータ4を制御して、前記インバータ4で前記第2の電動モータ6に電力供給することによって、前記第2の電動モータ6で機械的動力を前記油圧ポンプ12に供給し、作業モードC又はEの場合は、前記電動モータ用制御器21及びコントローラ20が前記インバータ3を制御して、前記インバータ3で前記第2の電動モータ6ではなく前記第1の電動モータ5に電力を供給することによって、前記第1の電動モータ5で機械的動力を前記走行のためのシステムに供給して動く、
ホイールローダ。」

4.対比
本願発明(以下、「前者」ともいう。)と引用発明(以下、「後者」ともいう。)とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
・後者における「ホイールローダ」は前者における「車両」に相当し、以下同様に、「エンジン8」は「エンジン」に、「発電機9」は「オルタネータ」に、「電力の供給源」は「エネルギー源」に、「電動モータ用制御器21及びコントローラ20」は「制御装置」に、「第2の電動モータ6」は「ホイストポンプモータ」に、「油圧ポンプ12にトルク分配伝達機構10を介して機械的に接続され」は「ホイストポンプに機械的に接続され」に、「第1の電動モータ5」は「トラクションモータ」に、「トルク分配伝達機構10、動力伝達機構11及び車輪13からなる走行のためのシステム」又は「走行のためのシステム」は「推進システム」に、「作業モードA又はEの場合」は「第1の運転モード時」に、「作業モードC又はEの場合」は「第2の運転モード時」に、それぞれ相当する。

・本願の明細書の翻訳文の段落【0018】における「パワーエレクトロニクスユニット50は、モータドライバ(電源供給を受けると共にモータを駆動させるように構成された信号を出力する、可変速インバータドライブ等の回路)、インバータ、パワートランジスタ、及びその他のパワー素子、回路保護装置、及びスイッチング素子の1つ以上を含み得る。」という記載によれば、後者における「インバータ3、4」、「インバータ3」又は「インバータ4」もパワーエレクトロニクスユニットに含まれるものといえるから、後者における「インバータ3、4」、「インバータ3」又は「インバータ4」は、前者における「パワーエレクトロニクスユニット」に相当する。

・後者における「インバータ3、4に制御信号を出力するよう接続される電動モータ用制御器21及びコントローラ20」は、インバータ3、4が電力の供給源に含まれるものであり、また、電動モータ用制御器21及びコントローラ20から出力される制御信号によってインバータ3、4が動作するのであるから、前者における「エネルギー源に動作的に接続される制御装置」に相当する。

・本願の明細書の翻訳文の段落【0012】における「本明細書において使用する場合、「ホイスト」とは、負荷を上昇又は下降させるために用いる装置を指す。」という記載によれば、後者における「バケット内の積み荷を昇降させる作業機」もホイストに含まれるものといえるから、後者における「バケット内の積み荷を昇降させる作業機に用いられる油圧ポンプ12」又は「油圧ポンプ12」は、前者における「ホイストポンプ」に相当する。

・後者における「車体」は、前者における「シャシ」に、「車体」という限りにおいて一致する。

したがって、両者は、
「車両であって、
車体と、
前記車体に配置され、エンジンと、前記エンジンに接続されるオルタネータと、パワーエレクトロニクスユニットと、を含むエネルギー源と、
前記エネルギー源に動作的に接続される制御装置と、
前記車体に配置されるホイストポンプモータ及びホイストポンプであって、該ホイストポンプモータが、該ホイストポンプに機械的に接続され且つ前記パワーエレクトロニクスユニットに電気的に接続され、前記エンジンが、直接的にも間接的にも該ホイストポンプに機械接続されない、ホイストポンプモータ及びホイストポンプと、
前記車体に配置されるトラクションモータ及び推進システムであって、該トラクションモータが、該推進システムに機械的に接続され且つ前記パワーエレクトロニクスユニットに電気的に接続される、トラクションモータ及び推進システムと、
を含み、
第1の運転モード時は、前記制御装置が前記パワーエレクトロニクスユニットを制御して、前記パワーエレクトロニクスユニットで前記ホイストポンプモータに電力供給することによって、前記ホイストポンプモータで機械的動力を前記ホイストポンプに供給し、第2の運転モード時は、前記制御装置が前記パワーエレクトロニクスユニットを制御して、前記パワーエレクトロニクスユニットで前記ホイストポンプモータではなく前記トラクションモータに電力を供給することによって、前記トラクションモータで機械的動力を前記推進システムに供給して動く、
車両。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
車体に関し、本願発明においては、「シャシ」であるのに対して、引用発明においては、「車体」であるものの、それ以上の特定はされていない点(以下、「相違点1」という。)。

[相違点2]
エネルギー源、ホイストポンプモータ及びホイストポンプ、並びに、トラクションモータ及び推進システムに関し、本願発明においては、「シャシに配置され」ているのに対して、引用発明においては、「車体に配置され」ている点(以下、「相違点2」という。)

[相違点3]
制御装置に関し、本願発明においては、「シャシに配置され」ているのに対して、引用発明においては、シャシに配置されているか否か不明である点(以下、「相違点3」という。)

[相違点4]
エンジンに関し、本願発明においては、「ステアリングポンプに接続された」ものであるのに対して、引用発明においては、そのような特定はされていない点(以下「相違点2」という。)

5.判断
上記相違点について検討する。
[相違点1ないし3について]
ホイールローダ等の車両において、車体にシャシを有することは、本願の優先日前に技術常識であるから、相違点1は実質的な相違点ではない。
そして、引用発明において、エンジン8等を含む電力の供給源、第2の電動モータ6及び油圧ポンプ12、並びに、第1の電動モータ5及び走行のためのシステムは、いずれも機械的動力を扱うものであり、一般的に重い部材であるから、これらの設置をする際に、車体の強度が高い箇所に設置することは、設計上当然に考慮することである。
一方、車両において、シャシは強度が高く、これにエンジン、モータ、動力伝達機構等の車両の走行に必要な部材が配置されることは、本願の優先日前に技術常識であるから、引用発明において、エンジン8等を含む電力の供給源(本願発明における「エネルギー源」に相当する。)、第2の電動モータ6(本願発明における「ホイストポンプモータ」に相当する。)及び油圧ポンプ12(本願発明における「ホイストポンプ」に相当する。)、並びに、第1の電動モータ5(本願発明における「トラクションモータ」に相当する。)及び走行のためのシステム(本願発明における「推進システム」に相当する。)をシャシに配置し、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が当然になし得ることである。
また、引用発明における電動モータ用制御器21及びコントローラ20(本願発明における「制御装置」に相当する。)は、第1の電動モータ5や第2の電動モータ6が電気的に接続されたインバータ3、4(本願発明における「パワーエレクトロニクスユニット」に相当する。)に制御信号を出力するよう接続されるものであるところ、組立て作業(特に、配線作業)やメンテナンスの容易化、電気的損失の低減等のために電気系統の部材を集約して配置することは、いずれも本願の優先日前にごく普通に行われていること(以下、「慣用手段」という。)であるから、引用発明において、電動モータ用制御器21及びコントローラ20を第1の電動モータ5や第2の電動モータ6と共に、シャシに配置し、上記相違点3に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が適宜なし得ることである。

[相違点4について]
エンジンの機械的動力を電力に変換して、モータを駆動する機構を有する車両において、エンジンにステアリングポンプを接続することは、本願の優先日前に周知の技術(以下、「周知技術」という。必要であれば、特開2005-163344号公報(特に、段落【0031】及び【0032】並びに図4及び5)及び特開2003-269205号公報(特に、段落【0026】及び【0047】並びに図1及び図6)を参照。)であるから、同じく、エンジン8の機械的動力を電力に変換して、第1の電動モータ5及び第2の電動モータ6を駆動する機構を有する引用発明において、上記周知技術を適用し、上記相違点4に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。

そして、本願発明は、全体としてみても、引用発明、慣用手段及び周知技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。
したがって、本願発明は、引用発明、慣用手段及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-02-02 
結審通知日 2016-02-09 
審決日 2016-02-22 
出願番号 特願2012-522938(P2012-522938)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B66F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 日下部 由泰  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 金澤 俊郎
槙原 進
発明の名称 ホイストシステム及び方法  
代理人 黒川 俊久  
代理人 小倉 博  
代理人 田中 拓人  
代理人 荒川 聡志  

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