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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1316818
審判番号 不服2015-7912  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-28 
確定日 2016-08-03 
事件の表示 特願2010-150987「偏光子の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 1月19日出願公開、特開2012- 13989、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は,平成22年7月1日の出願であって,平成25年9月17日付けで拒絶理由が通知され,同年11月21日に意見書及び手続補正書が提出され,平成26年6月25日付けで拒絶理由が通知され,同年8月28日に意見書及び手続補正書が提出されたところ,同年8月28日提出の前記手続補正書による補正が平成27年1月22日付けで却下されるとともに同日付けで拒絶査定がされ,これに対し,同年4月28日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がされ,その後,当審において平成28年3月30日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され,同年6月2日に意見書が提出されるとともに手続補正(以下「本件補正」という。)がされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?3に係る発明は,本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるものと認められるところ,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「 偏光子作製用フィルムを搬送ロールで搬送しながら,該偏光子作製用フィルムに湿式処理と熱ロールを用いる乾燥処理とをこの順で施し,
該湿式処理後かつ該乾燥処理前に,偏光子作製用フィルムと該熱ロールとの接触境界部に0.1MPa?1MPaのニップ圧を加える,偏光子の製造方法。」

第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
本願の請求項1及び5(平成25年11月21日提出の手続補正書による補正後の請求項1及び5)に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の引用例1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない。
また,本願の請求項1?5(平成25年11月21日提出の手続補正書による補正後の請求項1?5)に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の引用例1?3に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。



引用例1:特開2009-258193号公報
引用例2:特開2009-157363号公報
引用例3:国際公開第2009/044673号

2 原査定の理由についての当審の判断
(1) 引用例1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1には,次の記載がある。
ア 「【0001】
本発明は,ヨウ素等の二色性物質や有機性染料からなる二色性染料を染着させたポリビニルアルコール系フィルムを,所定の溶液中で一軸延伸して偏光フィルムを得る,偏光フィルムの製造方法および製造装置に関するものである。」

イ 「【0006】
【特許文献1】特開2008-15000号公報
【0007】
特許文献1には,湿式延伸法を実施するフィルム製造装置であって,ロール位置の変更が可能な複数の延伸ロールが設けられ,複数段にわたってフィルムを延伸することができる,フィルム製造装置が記載されている。ところで,ネックインは主にフィルムが延伸されるときに発生し,フィルムが延伸される距離,いわゆる延伸間距離が長いほどフィルムの幅方向の拘束が働きにくく,ネックインが大きくなる。一般的に,フィルムはロールに巻き付いている区間ではロールによって拘束されて延伸されないので,延伸間距離は,一方の延伸ロールから離れて他方の延伸ロールに接触するまでのフィルムの長さで与えられる。特許文献1に記載のフィルム製造装置においては,ロール位置を変更できるので,延伸間距離を短くしてネックインを抑制することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載のフィルム製造装置によっても,光学特性を確保しつつネックインを抑制して幅広の偏光フィルムを得ることができるが,改良すべき点も見受けられる。すなわち,特許文献1に記載のフィルム製造装置によれば,見かけ上の延伸間距離は短くすることはできるが,従来周知の湿式延伸法と同様に,実際には以下に説明するように実質的な延伸間距離は短くはない。
【0009】
図5には,従来周知の湿式延伸法を実施する,延伸槽と延伸ロール等からなるフィルム製造装置が記載されている。延伸槽81には,所定の溶液82が満たされており,溶液82中に第1,2の延伸ロール83,84と第1,2の延伸ロール83,84に対応して設けられている第1,2のニップロール85,86とが浸漬されている。そして,第1,2のガイドロール87,88が,延伸槽81の上方の所定の位置に設けられている。このようなフィルム製造装置に,ヨウ素からなる二色性物質が染着されたPVAフィルム90が,第1のガイドロール87にガイドされ,第1のニップロール85と第1の延伸ロール83とによって,図面において逆S字状を呈するように巻き付けられている。さらにPVAフィルム90は,符号91で示されているように第1,2の延伸ロール83,84で掛け回され,第2の延伸ロール84と第2のニップロール86とによって,図面においてS字状を呈するように巻き付けられた後,第2のガイドロール88でガイドされて,符号92で示されているように,右方に送られている。本製造装置においては,上流側の第1の延伸ロール83の周速度に対して,下流側の第2の延伸ロール84の周速度を大きくして,PVAフィルム90に張力を与えて一軸延伸している。既に説明したように,延伸間距離は,一方の延伸ロールから離れて他方の延伸ロールに接触するまでのフィルムの長さで与えられるので,符号94で示されている距離になるはずである。しかしながら,矢印95と矢印96で示されている部分から溶液82が巻き込まれ,PVAフィルム90と第1の延伸ロール83との間,PVAフィルム90と第2の延伸ロール84との間に,薄い溶液82の層が形成される。そうすると,PVAフィルム90は第1,2の延伸ロール83,84に密着しないので摩擦力が充分に働かず,符号97,98で示されている点線の部分のPVAフィルム90も拘束されずに延伸されてしまう。すなわち,本フィルム製造装置においては,実質的な延伸間距離は,見かけ上の延伸間距離94に,符号97,98で示されている点線の長さが合計された距離になる。

【図5】


【0010】
特許文献1に記載のフィルム製造装置においても,従来周知のフィルム製造装置と同様に,フィルムと延伸ロールの間に薄い溶液の層が生じてしまうので,フィルムは延伸ロールに巻き付いている部分においても延伸されてしまう。すなわち,実質的な延伸間距離は長くなってしまい,ネックインを充分に抑制できてはいない。
【0011】
さらに,ネックインはフィルムの乾燥のときにも生じる。一軸延伸されたフィルムは所定の水分を含んでいるので乾燥する必要があるが,延伸の際に生じて内部に残留している応力の働きにより,フィルムが乾燥するときに幅方向に収縮してしまう。すなわち,ネックインが生じる。特許文献1に記載のフィルム製造装置においては,フィルムの乾燥時に発生するネックインを抑制する点については格別に考慮されていない。
【0012】
本発明は,上記したような従来の問題点あるいは課題を解決した,偏光フィルムの製造方法,およびそのような製造方法を実施する製造装置を提供することを目的とし,具体的には優れた光学特性を有する偏光フィルムを製造できる湿式延伸法を適用しているにも拘わらず,実質的な延伸間距離を短くすることができ,それによってネックインを充分に抑制して幅広の偏光フィルムを得ることができる,偏光フィルムの製造方法,および製造装置を提供することを目的としている。さらに本発明は,フィルムを乾燥させるときに発生するネックインを充分に抑制できるフィルムの乾燥方法を備えた,偏光フィルムの製造方法,および製造装置を提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は,上記目的を達成するために,原料のフィルムを上流の一対のロールで挟んで送り出し,さらに下流の一対のロールで挟んで引き取り,上流と下流のロールの周速度の違いにより張力を与えて原料のフィルムを湿式延伸するとき,上流側の一対のロールを構成する1本のロールを,そのロール面の一部が大気中に露出するようにして溶液に浸す。そして,原料のフィルムを上流側の一対のロールで挟むとき,大気中に露出している部分で挟み,フィルムをロールに密着させながら溶液中に導くように構成される。また,延伸されたフィルムを乾燥用のロールに巻き付けながら乾燥するように構成される。
【0014】
すなわち,請求項1に記載の発明は,ポリビニルアルコール,ポリビニルホルマールまたはポリビニルアセタールからなるポリビニルアルコール系のフィルムを,二色性物質または二色性染料で染着して,所定の溶液に浸漬しながら一軸延伸して偏光フィルムを得る,偏光フィルムの製造方法であって,前記フィルムを,一対のロールで挟んで送り出すと共に,前記一対のロールよりも下流側に配置され,前記一対のロールの周速度よりも大きな周速度で駆動される他の一対のロールで挟んで引き取って一軸延伸するとき,前記フィルムを大気中で前記一対のロールで挟み込み,そして前記所定の溶液中に導くように構成される。また,請求項2に記載の発明は,請求項1に記載の方法において,前記一軸延伸を複数回繰り返すように構成される。さらに,請求項3に記載の発明は,請求項1,2のいずれかの項に記載の方法において,前記一軸延伸した前記フィルムを,乾燥用のロールに巻き付けて乾燥するように構成される。
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0016】
以上のように,本発明によると,フィルムを大気中で一対のロールで挟み込み,フィルムを溶液中に導いているので,ロール面とフィルムの間には溶液が巻き込まれない。従って,フィルムはロール面と実質的に密着して拘束されるので,ロール面上では延伸されず,実質的な延伸間距離を短くすることが出来る。このため,ネックインを抑制して幅広の偏光フィルムを得ることができる。また,フィルムは溶液中に導かれて湿式延伸されるので,充分に延伸してもフィルムが破断する恐れが少なく,必要な光学特性を備えた偏光フィルムを容易に製造することができる。請求項2に記載の発明によると,上記したような湿式延伸法を複数回,すなわち複数段実施するので,ネックインを抑制しながら充分にフィルムを延伸することが出来,より光学特性に優れた幅広の偏光フィルムを得ることができる。さらに,請求項3に記載の発明によると,一軸延伸したフィルムを乾燥用のロールに巻き付けて乾燥するので,延伸時に生じた応力がフィルム内に残留していても,フィルムは乾燥用のロールに密着して乾燥して幅方向の収縮が抑制される。従って,幅広の偏光フィルムを得ることができる。また,請求項4に記載の発明によると,延伸装置は所定の溶液が満たされた延伸槽と,第1,2の一対のロールを有するだけなので,湿式延伸法を実施できる従来周知の延伸装置と,必要な構成設備や構成部品においては相違は無い。従って,従来周知の延伸装置において,構成部品のロールの配置を変えるだけで,本発明に係る延伸装置を構成することができ,安価に偏光フィルムの製造装置を構成することができる。」

ウ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下,本発明の実施の形態を説明する。本実施の形態に係る偏光フィルム製造装置1は,図1の(ア)に模式的に示されているように,原料のフィルムを膨潤させる膨潤槽2,ヨウ素等の二色性物質または有機性染料からなる二色性染料でフィルムを染着する染着槽3,架橋剤を添加して高分子を網目構造にしてフィルムに所定の強度を与える架橋槽4,所定の溶液中でフィルムを延伸する延伸装置5,延伸されたフィルムの色相調節を行う補色槽6,水分を含んだフィルムを所定の水分含有率まで乾燥する第1の乾燥装置7,さらにフィルムを乾燥する第2の乾燥装置8,そして前記各槽2,3,…間に設けられフィルムを挟んで送り出す複数本のニップロールN,N,…,フィルムをガイドする案内ロール2b,3b,A,…等から構成されている。

【図1】(ア)



エ 「【0022】
本実施の形態に係る乾燥装置,すなわち第1の乾燥装置7について説明する。第1の乾燥装置7は,図1の(ウ)に示されているように,フィルムを引き取りながらフィルムの水切りを行う一対の水切りロール51,51と,フィルムに付着している水滴を吹き飛ばすエアーナイフ52,52と,フィルムを巻き付けながら乾燥する乾燥用ロール53と,乾燥用ロール53の所定のロール面を覆うように設けられ,フィルムに乾燥空気を吹き付けるエアーノズル54と,乾燥用ロール53のロール面に接するように設けられているニップロール55と,案内ロール57と,から構成されている。このような乾燥用ロール53は,ロール面が鏡面加工されていると共に,内部にヒータ等の加熱手段が備えられてロール面を所定の温度,例えば50℃±5℃に保持できるようになっている。

【図1】(ウ)


【0023】
本実施の形態に係る偏光フィルム製造装置1の作用を説明する。偏光フィルムの原料となるフィルムには,ポリビニルアルコール,ポリビニルホルマール,ポリビニルアセタール等の,ポリビニルアルコール系のフィルム,いわゆるPVA系フィルムが適用される。原料のPVA系フィルムは所定の幅に揃えられてロール状に巻かれた原反として供給されている。このような原反10を偏光フィルム製造装置1の最上流部,すなわち膨潤槽2の近傍に取り付ける。フィルム11を原反10から引き出して膨潤槽2に導いて,膨潤槽2の溶液2a中で膨潤させる。膨潤されたフィルム11を,染着槽3に導いて溶液3a中で染着する。次いでフィルム11を,架橋槽4の溶液4a中で架橋処理した後,ニップロールNを経由して延伸装置5に導く。
【0024】
フィルム11を,延伸装置5内の各ロール21,22,…,31,32,…に以下のようにして掛け回す。最初に,フィルム11を第1のニップロール31に約半周巻き付けながら,第1の延伸ロール21と第1のニップロール31によって大気中の符号41で示される位置で挟み,そして,第1の延伸ロール21に密着させながら溶液15a中に導く。従って,フィルム11は,ロールの軸方向から見ると図1の(イ)に示されているように,第1のニップロール31と第1の延伸ロール21に,逆S字状を呈するように巻き付けられることになる。次いで,フィルム11を引き出して第2の延伸ロール22に巻き付けながら大気中まで引き出し,大気中において第2の延伸ロール22と第2のニップロール32とで挟んだ後,再び第2の延伸ロール22に巻き付けながら溶液15a中に導く。フィルム11を溶液15aに没した案内ロール36を経由させた後に大気中に引き出す。フィルム11を第3のニップロール33と第3の延伸ロール23に,逆S字状を呈するように巻き付けて再び溶液15a中に導く。このとき,フィルム11は第3の延伸ロール23と第3のニップロール33によって,大気中の符号43で示されている位置で挟まれることになる。フィルム11を引き出して第4の延伸ロール24に巻き付けながら大気中まで引き出し,大気中において第4の延伸ロール24と第4のニップロール34とで挟んで引き取った後,案内ロール37を経由して下流に送り出す。

【図1】(イ)


【0025】
第1?4の延伸ロール21,22,…は,それぞれ独立して周速度を制御して駆動でき,第1の延伸ロール21よりも第2の延伸ロール22の方が,第3の延伸ロール23よりも第4の延伸ロール24の方が周速度を大きい。従って,フィルム11を,第1,2の延伸ロール21,22の間において一軸延伸して,第3,4の延伸ロール23,24の間でさらに一軸延伸する。第2,3の延伸ロール22,23の間では積極的にはフィルム11を延伸しないが,フィルム11が弛まないように,第3の延伸ロール23は,第2の延伸ロール2よりもわずかに周速度を大きくして所定の張力を与えているので,フィルム11はわずかに延伸される。フィルム11が第1,2の延伸ロール21,22の間で一軸延伸される状態を詳しく説明する。フィルム11は,図2に示されているように大気中の符号41で示されている部分で第1の延伸ロール21と第1のニップロール31とで挟まれて,第1の延伸ロール21に密着したまま溶液15a中に導かれている。従って,矢印Y1で示されている方向からはフィルム11と第1の延伸ロール21との間に溶液15aが巻き込まれることはない。フィルム11と第1の延伸ロール21のロール面の間には溶液15aの層は形成されないので滑りは生じない。従って,フィルム11を溶液15a中で一軸延伸するとき,延伸されるフィルム11の区間,すなわち延伸間距離は,符号46で示されている点線部分のみになる。フィルム11を第3,4の延伸ロール23,24の間で一軸延伸するときも同様に延伸間距離は短い。すなわち,フィルム11は大気中の,符号43で示されている部分で第3の延伸ロール23と第3のニップロール33で挟まれるので,矢印Y2の方向から溶液15aが入り込むことはない。従って,フィルム11は第3の延伸ロール23に密着して滑らないので,フィルム11は符号47で示されている点線部分でのみ延伸される。本実施の形態に係る延伸装置5によれば延伸間距離を短くすることができるので,ネックインを充分に抑制することができる。
【0026】
延伸装置5で一軸延伸されたフィルム11を案内ロールA,ニップロールNを経由して補色槽6に導く。フィルム11を補色槽6の溶液6aに浸漬して色相調整する。フィルム11を,ニップロールNを経由して第1の乾燥装置7に導く。
【0027】
フィルム11を,水切りロール51,51で引き取るときに水切りして,大部分の水滴を除く。わずかに付着して残った水滴も,エアーナイフ52,52によって吹き飛ばす。このようにしてフィルム11の表面に付着した水滴を除去した後,フィルム11を乾燥用ロール53に巻き付ける。乾燥用ロール53のロール面を所定の温度になるように制御してフィルム11を加熱すると共に,エアーノズル54からフィルム11に乾燥用空気を吹き付ける。乾燥用空気と乾燥用ロール53の熱とによって,フィルム11は乾燥用ロール53のロール面に密着しながら乾燥する。フィルム11はロール面によって幅方向の収縮が規制されるので,乾燥時に発生するネックインが抑制される。フィルム11を,ニップロール55,案内ロール57を経由して第2の乾燥装置8に送り出す。なお,第1の乾燥装置7でフィルム11を完全に乾燥しても良いが,本実施の形態においては,第1の乾燥装置7においては水分含有率が約30%になるようにフィルム11を乾燥している。水分含有率が30%以下になると,その後従来周知の方法でフィルムを乾燥しても生じるネックインは比較的小さいからである。
【0028】
第2の乾燥装置8で,従来周知のようにフィルム11を乾燥すると偏光フィルムが得られる。得られた偏光フィルムを,図に示されていない巻き取り機で巻き取る。あるいは,他の装置に送って,所定の強度を得ると共に湿度から保護するため,トリアセチルセルロース(TAC)等からなる保護層を貼り合わせる。」

オ 前記ア?エから,引用例1には,以下の発明が記載されているものと認められる(以下「引用発明」という。)。なお,段落番号は,引用発明の認定に活用した引用例1の記載箇所を示すために併記したものである。

「【0001】所定の溶液中で一軸延伸して偏光フィルムを得る,偏光フィルムの製造方法であって,
【0023】フィルムを原反から引き出して膨潤槽に導いて,膨潤槽の溶液中で膨潤させ,膨潤されたフィルムを,染着槽に導いて溶液中で染着し,次いでフィルムを,架橋槽の溶液中で架橋処理した後,ニップロールNを経由して延伸装置に導き,
【0026】 延伸装置で一軸延伸されたフィルムを案内ロール,ニップロールNを経由して補色槽に導き,フィルムを補色槽の溶液に浸漬して色相調整し,フィルムを,ニップロールNを経由して第1の乾燥装置に導き,
【0027】フィルムを,水切りロールで引き取るときに水切りして,大部分の水滴を除き,わずかに付着して残った水滴も,エアーナイフによって吹き飛ばし,フィルムの表面に付着した水滴を除去した後,フィルムを乾燥用ロールに巻き付け,乾燥用ロールのロール面を所定の温度になるように制御してフィルムを加熱すると共に,エアーノズルからフィルムに乾燥用空気を吹き付け,乾燥用空気と乾燥用ロールの熱とによって,フィルムを乾燥用ロールのロール面に密着しながら乾燥し,フィルムを,ニップロール55,案内ロールを経由して第2の乾燥装置に送り出し,
【0028】第2の乾燥装置で,フィルムを乾燥させ,偏光フィルムを得る,
偏光フィルムの製造方法。」

(2) 対比
ア 引用発明の「偏光フィルム」及び「フィルム」は,それぞれ,本願発明の「偏光子」及び「偏光子作製用フィルム」に相当する。
また,引用発明の「ニップロールN」及び「案内ロール」は,いずれも本願発明の「搬送ロール」に相当する。

イ 引用発明の「偏光フィルムの製造方法」は「所定の溶液中で一軸延伸して偏光フィルムを得る」のであるから,引用発明の「延伸」の処理は,「湿式処理」であると認められる。また,引用発明では,「フィルムを原反から引き出して膨潤槽に導いて,膨潤槽の溶液中で膨潤させ」るのであるから,引用発明の「膨潤」させる処理も「湿式処理」であると認められる。そして,引用発明では,「膨潤されたフィルムを,染着槽に導いて溶液中で染着」するのであるから,引用発明の「染着」する処理も「湿式処理」であると認められる。さらに,引用発明では,「フィルム11を,架橋槽の溶液中で架橋処理」するのであるから,引用発明の「架橋処理」も「湿式処理」であると認められる。
してみれば,引用発明の「延伸」,「膨潤」,「染着」及び「架橋」の処理は,併せて本願発明の「湿式処理」に相当する。

ウ 引用発明は,「フィルムを乾燥用ロールに巻き付け,乾燥用ロールのロール面を所定の温度になるように制御してフィルムを加熱すると共に,エアーノズルからフィルムに乾燥用空気を吹き付け,乾燥用空気と乾燥用ロールの熱とによって,フィルムを乾燥用ロールのロール面に密着しながら乾燥」するから,引用発明の「乾燥用ロール」は,本願発明の「熱ロール」に相当する。また同時に,引用発明の乾燥処理は,本願発明の「熱ロールを用いる乾燥処理」との要件を満たす。
また,引用発明の乾燥処理は,「膨潤」,「染着」,「架橋」及び「延伸」の処理(本願発明の「湿式処理」に相当)の後に行われるのであるから,引用発明の製造方法は,本願発明の「偏光子作製用フィルムに湿式処理と熱ロールを用いる乾燥処理とをこの順で施す」との要件を満たす。

エ 前記ア?ウから,本願発明と引用発明とは,

「 偏光子作製用フィルムを搬送ロールで搬送しながら,該偏光子作製用フィルムに湿式処理と熱ロールを用いる乾燥処理とをこの順で施す,偏光子の製造方法。」

である点で一致し,次の点で相違する。

相違点:本願発明は,湿式処理後かつ乾燥処理前に,偏光子作成用フィルムと熱ロールとの接触境界部に0.1MPa?1Mpaのニップ圧を加えるのに対し,引用発明では,そのような構成について特定されていない点。

(3) 判断
前記相違点について検討する。
引用発明では,乾燥用ロール(本願発明の「熱ロール」に相当)とニップロールとでフィルムを挟んでいるから,この箇所において,ニップ圧が加えられているものと認められる。
しかし,前記ニップロールは,前記乾燥用ロールによる乾燥処理を経た後に,乾燥用ロールからフィルムが離れる「接触境界部」に設けられており,本願発明のように,「乾燥処理前」にニップ圧を加えるものではないものと認められる。さらにいえば,引用発明ではニップロールを用いることは記載されているものの,ニップ圧がどの程度であるのかについて,記載も示唆もされていない。
なお,引用例1の段落【0034】には,「さらには,乾燥装置において乾燥用ロールは2本以上設けても良い。」と記載されている。
しかし,このような構成を採用した場合,ニップ圧を加えるタイミングは,湿式処理後かつ乾燥処理中となる。
したがって,本願発明は,引用発明と同一であるとはいえない。
また,引用例1の他の箇所にも,上記相違点に係る構成について何ら記載も示唆もされていない。そして,原査定の拒絶の理由において引用される引用例2及び3は,いずれも,従属請求項において特定されているニップロールの材質(シリコンゴム)が周知であることを示すために引用されているにすぎず,上記相違点に係る構成について,何ら記載も示唆もされていない。
してみれば,前記相違点に係る構成を具備する本願発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4) 小括
したがって,本願発明は,引用発明と同一ではなく,かつ,当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
本願の請求項2及び3に係る発明は,本願発明をさらに限定したものであるので,本願発明と同様に,引用発明と同一ではなく,かつ,当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
よって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
(1) 36条6項2号(明確性要件)
当審拒絶理由は,概略,本件補正前の請求項5は「偏光子」という物の発明であって,当該請求項5には「請求項1から4のいずれかに記載の偏光子の製造方法により製造された」との記載があり,当該記載は,製造方法の発明を引用する場合に該当するため,当該請求項にはその物の製造方法が記載されているといえるところ,当該製造方法の記載により,請求項5に係る発明は明確でないものとなっている,というものである。

(2) 36条6項1号(サポート要件)
当審拒絶理由は,概略,本件補正前の請求項1に係る発明は,ニップ圧の大きさについて特定されていないため,発明の詳細な説明の記載又はその示唆により,当業者が,当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認めることができない,というものである。

2 当審拒絶理由についての判断
(1) 本件補正により,本件補正前の請求項5は削除された。よって,明確性要件に係る前記当審拒絶理由は解消した。

(2) 本件補正により,発明の課題を解決するために必要なニップ圧の大きさが特定された。よって,サポート要件に係る前記当審拒絶理由は解消した。

(3) 小括
前記(1)及び(2)で検討したように,もはや,当審で通知した拒絶理由によって本願を拒絶することはできない。

第5 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-07-22 
出願番号 特願2010-150987(P2010-150987)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
P 1 8・ 537- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 薄井 義明  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 清水 康司
道祖土 新吾
発明の名称 偏光子の製造方法  
代理人 籾井 孝文  

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