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審決分類 審判 一部無効 1項3号刊行物記載  C07C
審判 一部無効 2項進歩性  C07C
管理番号 1316846
審判番号 無効2015-800148  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-07-13 
確定日 2016-07-11 
事件の表示 上記当事者間の特許第4627367号発明「電荷制御剤及びそれを用いた静電荷像現像用トナー」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4627367号は、平成12年11月30日(優先権主張 平成11年12月7日)に出願され、平成22年11月19日に特許権の設定登録がなされたものであり、これに対して、平成27年7月13日に利害関係人である山本通産株式会社により本件特許を無効にすることについての審判の請求がなされたところ、その審判における手続の経緯は、以下のとおりである。

平成27年 7月13日 審判請求書、及び甲第1?2号証提出(請求人)
平成27年 9月29日 答弁書、及び乙第1?2号証提出(被請求人)
平成27年11月19日 弁駁書、及び甲第3号証の1?3提出(請求人)
平成28年 1月12日 審理事項通知書(起案日)
平成28年 1月27日 上申書(1)提出(請求人)
同日 上申書(1)提出(被請求人)
平成28年 2月10日 口頭審理陳述要領書(請求人)
同日 口頭審理陳述要領書、乙第3号証
及び乙第3号証の2?3提出(被請求人)
平成28年 2月24日 口頭審理・証拠調べ
平成28年 3月 9日 上申書(2)、及び乙第4号証提出(被請求人)
平成28年 3月22日 上申書(2)提出(請求人)
平成28年 5月16日 結審通知(起案日)

なお、上申書については提出日の順に「上申書(1)」のように括弧数字を付す。

第2 本件発明
本件特許第4627367号の請求項1?3に係る発明は、本件特許明細書の特許請求の範囲に記載された以下のとおりのものである。

「【請求項1】 一般式(3)で表される金属錯塩化合物を含む電荷制御剤であって、
当該金属錯塩化合物をイオン交換水に1重量%分散させたときの電気伝導度が110μS/cm以下であることを特徴とする電荷制御剤。
【化1】

(式中、X_(1)及びX_(2)は水素原子、炭素数が1?4のアルキル基、炭素数が1?4のアルコキシル基、ニトロ基またはハロゲン原子を表わし、X_(1)とX_(2)は同じであっても異なっていてもよく、m_(1)およびm_(2)は1?3の整数を表わし、R_(1)およびR_(3)は水素原子、炭素数が1?18のアルキル基、炭素数が1?18のアルコキシル基、アルケニル基、スルホンアミド基、スルホンアルキル基、スルホン酸基、カルボキシル基、カルボキシエステル基、ヒドロキシル基、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、またはハロゲン原子を表わし、R_(1)とR_(3)は同じであっても異なっていてもよく、n_(1)およびn_(2)は1?3の整数を表わし、R_(2)およびR_(4)は水素原子またはニトロ基を表わし、A^(+)は水素イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン、有機アンモニウムイオン又はこれらの混合物を表わす。)
【請求項2】 一般式(4)で表される金属錯塩化合物を含む電荷制御剤であって、
当該金属錯塩化合物をイオン交換水に1重量%分散させたときの電気伝導度が110μS/cm以下であることを特徴とする電荷制御剤。
【化2】

(式中A^(+)はアンモニウムイオン、ナトリウムイオン及び水素イオンの混合カチオンを表す。)
【請求項3】 請求項1又は請求項2に記載の電荷制御剤のうち1又は2以上を含有することを特徴とする静電荷像現像用トナー。」

第3 請求人の主張の要点
1.本件審判の請求の趣旨
請求人が主張する本件審判における請求の趣旨は、「特許第4627367号の請求項1に係る発明についての特許は無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。との審決を求める。」である。

2.請求人が主張する無効理由及び証拠方法の概要
請求人は、以下の無効理由1及び2を主張し(第1回口頭審理調書の「請求人5」の項目を参照。)、証拠方法として甲第1号証?甲第3号証の3を提出した。

(1)無効理由1
本件請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件請求項1に係る発明についての特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(2)無効理由2
本件請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件請求項1に係る発明についての特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(3)証拠方法(甲第1号証?甲第3号証の3)
請求人が提出した証拠方法は以下のとおりである。
甲第1号証:特開平5-88405号公報
甲第2号証:特開平7-114218号公報
甲第3号証の1:平成27年3月26日付け「保土谷化学工業株式会社の輸入差止申立てに係る侵害物品と認める理由の送付について」と題された書面 東京税関
甲第3号証の2:2015年4月28日付け「補正意見書」の第1頁 山本通産株式会社
甲第3号証の3:平成27年6月3日付け「専門委員意見照会に係る申立人陳述要領書等の送付について」と題された書面 東京税関

第4 被請求人の主張の要点
1 答弁の趣旨
被請求人が主張する答弁の趣旨は、「本件の審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。との審決を求める。」である。

2 証拠方法
被請求人が提出した証拠方法は以下のとおりである。
乙第1号証:特願2013-190019号の平成26年4月21日付け提出の意見書
乙第2号証:特開平11-167250号公報
乙第3号証:陳述書 平成28年2月8日 大久保正樹
乙第3号証の2:販売・製造規格 1998年12月24日 保土谷化学工業株式会社
乙第3号証の3:販売・製造規格 2000年9月27日 保土谷化学工業株式会社
乙第4号証:陳述書 平成28年3月4日 阿部吉彦

なお、証拠の認否について、請求人は、上申書(2)の第2頁第4?15頁において、乙第4号証は真正のものではないという旨の主張をしているが、特許法第151条が準用する民事訴訟法第228条第4項は『私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。』と規定しているところ、乙第4号証には作成者の押印がなされており、乙第4号証が作成者であるとされている者と異なる者によって作成されていると考え得る具体的な根拠も見当たらないから、文章の真正な成立を否定すべき理由があるとはいえない。

第5 甲号証について
1 甲号証及びその記載事項
(1)甲第1号証:特開平5-88405号公報
本件特許出願の優先日(平成11年12月7日)前の平成5年4月9日に頒布された刊行物である甲第1号証には、次の記載がある。

摘記1a:請求項1
「【請求項1】 バインダー樹脂と着色剤を含む電子写真用現像剤において、前記バインダー樹脂が、オフセットを防止する離型剤を内添している結着剤樹脂と、この結着剤樹脂と異なる樹脂で、かつ離型剤を内添していない結着剤樹脂とを混合してなることを特徴とする電子写真用現像剤。」

摘記1b:段落0045末行?段落0053
「(実施例1)トナーの組成を下記の通りにした。
【0046】低分子量ポリプロピレンワックス(ビスコール550P,三洋化成社製)を1.5重量部内添したスチレン-アクリル樹脂(TB-8824,三洋化成社製)とポリエステル樹脂(TM-4,花王社製)とを60:40の重量比で混合したもの100重量部、カーボンブラック(MA-100,三菱化成社製)5重量部、低分子量ポリプロピレンワックス(ビスコール660P,三洋化成社製)1重量部を加熱溶融混練し、冷却後粉砕し、分級して体積平均粒径9μm,5?14μmの粒径のトナー粒子を得た。このトナー100重量部に対して、疎水性シリカ(R-972,日本アエロジル社製)0.2重量部を混合し、トナーを得た。
(実施例2)トナーの組成を下記の通りにした。
【0047】低分子量ポリプロピレンワックス(ビスコール550P,三洋化成社製)を4重量部内添したスチレン-アクリル樹脂(Uni3500,三洋化成社製)とポリエステル樹脂(TM-4,花王社製)を40:60の重量比で混合したもの100重量部、カーボンブラック(MA-100,三菱化成社製)5重量部、低分子量ポリプロピレンワックス(ビスコール660P,三洋化成社製)1重量部を加熱溶融混練し、冷却後粉砕し、分級して体積平均粒径9μm,5?14μmの粒径のトナー粒子を得た。このトナー100重量部に対して、疎水性シリカ(R-972,日本アエロジル社製)0.2重量部を混合し、トナーを得た。
(実施例3)トナーの組成を下記の通りにした。
【0048】低分子量ポリプロピレンワックス(ビスコール550P,三洋化成社製)を3重量部内添したポリエステル樹脂(TB-509,三洋化成社製)とスチレン-アクリル樹脂(CPR-100,三井東圧化学社製)を50:50の重量比で混合したもの100重量部、カーボンブラック(MA-100,三菱化成社製)5重量部、低分子量ポリプロピレンワックス(ビスコール660P,三洋化成社製)1重量部、荷電制御剤(T-77、保土ヶ谷化学社製)1重量部を加熱溶融混練し、冷却後粉砕し、分級して体積平均粒径9μm,5?14μmの粒径のトナー粒子を得た。このトナー100重量部に対して、疎水性シリカ(R-972,日本アエロジル社製)0.2重量部を混合し、トナーを得た。
(比較例)トナーの組成を下記の通りにした。
【0049】スチレン-アクリル樹脂(CPR-100,三井東圧化学社製)100重量部、カーボンブラック(MA-100,三菱化成社製)5重量部、低分子量ポリプロピレンワックス(ビスコール660P,三洋化成社製)3重量部、荷電制御剤(T-77、保土ヶ谷化学社製)1重量部を加熱溶融混練し、冷却後粉砕し、分級して体積平均粒径9μm,5?14μmの粒径のトナー粒子を得た。このトナー100重量部に対して、疎水性シリカ(R-972,日本アエロジル社製)0.2重量部を混合し、トナーを得た。
(評価結果)以下に評価結果を示す。表1に初期の状態を示す。また、表2は高温度、高湿度(30℃、80%RH)の条件での結果を示す。表3は2万枚連続べた画像複写後の結果を示す。
【0050】結果から、十分な画像濃度が得られ、負極性トナーとして安定した帯電量を持ち、十分な定着範囲を持ち、耐ブロッキング性(保存性)をもつことが明らかである。また、30℃、80%RHの高温度、高湿度下での摩擦帯電特性や現像特性、定着特性に変化がないことがわかった。さらに、2万枚の連続ベタ画像複写を行った後でも、複写画像の品質の低下は見られず、2万枚後の摩擦帯電特性や現像特性に変化がなく、トナー飛散も発生しないことがわかった。
【0051】【表1】

【0052】【表2】

【0053】【表3】



(2)甲第2号証:特開平7-114218号公報
本件特許出願の優先日前の平成7年5月2日に頒布された刊行物である甲第2号証には、次の記載がある。

摘記2a:請求項1
「【請求項1】 バインダー樹脂、着色剤及び荷電制御剤を主成分とするトナーにおいて、該荷電制御剤が下記一般式化1で示される含鉄アゾ染料からなり、しかもその粒度分布が100μmのアパーチャを用い、測定領域が1.00?40.0μmであるコールター法による測定において、4.0μm以下の成分が個数%で75%以下、16μm以上の成分が重量%で10%以下、重量平均径が5.0?9.0μmの範囲となるようあらかじめ調整されたものであることを特徴とする静電荷像現像用負帯電性トナー。
【化1】



摘記2b:段落0029
「【0029】本発明のトナーにおいて荷電制御剤として使用される前記一般式化1で示される含鉄アゾ染料の代表的な具体例としては、保土谷化学工業社製、アイゼンカラー T-77が挙げられるが、これに限定されるものではない。また、その使用量は、バインダー樹脂の種類、必要に応じて使用される添加剤の有無、分散方法を含めたトナー製造方法によって決定されるもので、一義的に限定されるものではないが、好ましくはバインダー樹脂100重量部に対して、1?10重量部の範囲で用いられる。特に、好ましくは、2?5重量部の範囲である。1重量部未満では、トナーの負帯電が不足し実用的でないし、逆に10重量部を越える場合には、トナーの帯電性が大きすぎ、キャリアとの静電的吸引力の増大のため、現像剤の流動性低下や、画像濃度の低下を招く。」

摘記2c:段落0073
「【0073】比較例1
実施例1において、荷電制御剤Aの代りに保土谷化学工業社製アンゼンカラーT-77を用いたこと以外は、実施例1と同様にして現像剤を得、画像テストを行なった。初期画像は、カブリのない鮮明な画像が得られたが、2万枚頃から、カブリのある不鮮明な画像になり感光体表面にはトナーのフィルミングが見られた。また、35℃、90%RHの高湿環境下で画像テストを行なったところ、画像濃度が0.85と低く、カブリのある不鮮明な画像が得られた。また、実施例1と同様に帯電量を測定したところ、初期の帯電量は-18.4μC/gであったが、2万枚後には-7.7μC/gと低下していた。なお、実施例1及び比較例1における現像剤の帯電量の推移は、図1で示される。」

第6 当審の判断
1 無効理由1(特許法第29条第1項第3号)について
(1)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証の段落0048?0049(摘記1b)の「(実施例3)…荷電制御剤(T-77、保土ヶ谷化学社製)…(比較例)…荷電制御剤(T-77、保土ヶ谷化学社製)」との記載からみて、甲第1号証の刊行物には、
『荷電制御剤(T-77、保土ヶ谷化学社製)。』についての発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。

(2)本件請求項1に係る発明と甲1発明との対比
本件請求項1に係る発明と甲1発明とを対比する。
甲第2号証の段落0029(摘記2b)には「前記一般式化1で示される含鉄アゾ染料の代表的な具体例としては、保土谷化学工業社製、アイゼンカラー T-77が挙げられる」との記載がなされているところ、当該「一般式化1」で示される化学式は、甲第2号証の請求項1(摘記2a)に記載されているとおりのものであるから、当該「アイゼンカラー T-77」の具体的な化学構造は、甲第2号証の請求項1に記載された範囲の化学構造を有するものと認められる。
してみると、両者は『一般式(3)で表される金属錯塩化合物を含む電荷制御剤。

(式中、X_(1)及びX_(2)は水素原子、炭素数が1?4のアルキル基、炭素数が1?4のアルコキシル基、ニトロ基またはハロゲン原子を表わし、X_(1)とX_(2)は同じであっても異なっていてもよく、m_(1)およびm_(2)は1?3の整数を表わし、R_(1)およびR_(3)は水素原子、炭素数が1?18のアルキル基、炭素数が1?18のアルコキシル基、アルケニル基、スルホンアミド基、スルホンアルキル基、スルホン酸基、カルボキシル基、カルボキシエステル基、ヒドロキシル基、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、またはハロゲン原子を表わし、R_(1)とR_(3)は同じであっても異なっていてもよく、n_(1)およびn_(2)は1?3の整数を表わし、R_(2)およびR_(4)は水素原子またはニトロ基を表わし、A^(+)は水素イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン、有機アンモニウムイオン又はこれらの混合物を表わす。)』に関するものである点において一致し、
当該金属錯塩化合物をイオン交換水に1重量%分散させたときの電気伝導度が、前者においては「110μS/cm以下」であるのに対して、後者においてはその特定がない点において相違する。

(3)相違点について
上記相違点について検討する。
甲第1号証の刊行物には、その実施例3及び比較例で用いられた「T-77」という製品名の荷電制御剤の「電気伝導度」について示唆を含めて記載がなく、甲第2号証の刊行物にも、その「アイゼンカラー T-77」という製品名の含鉄アゾ染料を含む荷電制御剤の「電気伝導度」について示唆を含めて記載がない。
そして、本件特許明細書の段落0107の表1に記載された例えば比較例1における『310μS/cm』のように、本件請求項1に記載された一般式(3)で表される金属錯塩化合物を含む電荷制御剤として、その電気伝導度が110μS/cmを超える場合のものが実際に存在しているので、甲第1号証の「荷電制御剤(T-77、保土ヶ谷化学社製)」の電気伝導度が必ず110μS/cm以下の数値範囲にあると解することもできない。
また、本件優先日の技術水準において、甲第1号証の実施例3及び比較例で使用されている「荷電制御剤(T-77、保土ヶ谷化学社製)」の「イオン交換水に1重量%分散させたときの電気伝導度」が「110μS/cm以下」という数値範囲にあると解し得る技術常識の存在も見当たらない。
してみると、本件特許の請求項1に係る発明が、甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。

(4)請求人の主張について
この点に関して、請求人は、審判請求書の第9頁第27行?第10頁第4行において『甲第1号証に記載の発明によれば、本件特許発明と同様に画像濃度(O.D.)が1.20以上となるのであるから、甲第1号証に記載の荷電制御剤(T-77、保土ヶ谷化学社製)は、「イオン交換水に1重量%分散させたときの電気伝導度が110μS/cm以下」の電荷制御剤であるといわざるを得ない。』と主張している。
しかしながら、甲第1号証に記載された実施例3と比較例のものは、両者とも「荷電制御剤(T-77、保土ヶ谷化学社製)1重量部」を配合して得られたトナーであるにもかかわらず、その「画像濃度」の結果は、高温度、高湿度(30℃、80%RH)の条件での結果を示す表2において、ポリエステル樹脂とスチレンアクリル樹脂を50:50の重量比で混合したもの100重量部を用いた実施例3のものが「1.40」であり、スチレン-アクリル樹脂100重量部を用いた比較例のものが「1.36」となっている。
このように、全く同じ「T-77」という製品名の荷電制御剤を全く同じ配合量でトナーに使用した場合であっても、トナーに配合する他の成分の違いなどの試験系の異なりによって、得られる「画像濃度」の値に変動が生じ得てしまうことは明らかであるから、試験系が異なる試験結果を単純に比較することはできない。
そして、甲第1号証の実施例3及び比較例のトナーは、本件特許明細書の実施例1のトナーで使用されていない「疎水性シリカ(R-972,日本アエロジル社製)」などの成分を配合してなるものであるから、甲第1号証の実施例3及び比較例の試験系と本件特許明細書の実施例1の試験系は相互に異なるものであって、このような試験系が異なる試験結果を単純に比較できないことは上述のとおりである。
してみると、甲第1号証の実施例3のトナーにおいて「1.40」の画像濃度が得られているからといって、甲第1号証の実施例3及び比較例で使用されている「荷電制御剤(T-77、保土ヶ谷化学社製)」の「イオン交換水に1重量%分散させたときの電気伝導度」が、本件特許明細書の実施例1のトナーで使用されている電荷制御剤と同等な数値範囲にあると直ちに解することはできない。
したがって、請求人の主張及び提出した証拠方法によっては、上記相違点が実質的な差異を構成するものではないとすることはできない。

(5)無効理由1のまとめ
以上のとおり、本件請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。
したがって、請求人の主張及び提出した証拠方法によっては、本件特許の請求項1に係る発明が特許法第29条第1項第3号に該当するものであるということはできない。
よって、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してなされたものではないから、特許法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由1には理由がない。

2 無効理由2(特許法第29条第2項)について
(1)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証の刊行物には、上記『第6 1(1)』に示したとおりの「甲1発明」が記載されている。

(2)本件請求項1に係る発明と甲1発明との対比
本件請求項1に係る発明と甲1発明とを対比すると、両者は上記『第6 1(2)』に示したとおりの一致点及び相違点を有しているものと認められる。

(3)相違点について
上記相違点について検討する。
甲第1号証に記載された発明は、電子写真用現像剤に用いられる「バインダー樹脂」を工夫することに特徴がある発明であって、甲第1号証の刊行物には、その「T-77」という製品名の荷電制御剤の「電気伝導度」について着目した記載がなく、その電気伝導度を特定の範囲に調整することについての動機付けを与える記載は見当たらない。
また、甲第2号証に記載された発明は、荷電制御剤の「粒度分布」を特定領域の範囲に調整することに特徴がある発明であって、甲第2号証の刊行物には、その「T-77」という製品名の荷電制御剤の「電気伝導度」について着目した記載がなく、その電気伝導度を特定の範囲に調整することについての動機付けを与える記載は見当たらない。
してみると、甲第1号証を含む甲各号証の公知刊行物には、甲1発明の荷電制御剤について、その「電気伝導度」を特定の範囲に調整することの動機付けを与える記載が示唆を含めて存在しないので、本件特許の請求項1に係る発明の構成を導き出すことが当業者にとって容易であるとはいえない。
そして、本件優先日の技術水準において、甲第1号証の実施例3及び比較例で使用されている「荷電制御剤(T-77、保土ヶ谷化学社製)」の「イオン交換水に1重量%分散させたときの電気伝導度」を「110μS/cm以下」という数値範囲にすることが、当業者の技術常識に基づき容易になし得るといえる技術常識の存在も見当たらない。
また、本件特許明細書の段落0108の「表1から明らかなように、イオン交換水に1重量%分散させたときの電気伝導度が110μS/cm以下である金属錯塩化合物を含有する静電荷像現像用トナーは、安定した画像が得られ、環境安定性に優れている。」との記載にあるように、本件特許の請求項1に係る発明は、金属錯塩化合物をイオン交換水に1重量%分散させたときの電気伝導度を「110μS/cm以下」とすることにより、安定した画像が得られ、環境安定性に優れているという効果を奏するに至ったものであるから、その「電気伝導度」を特定の数値範囲に調整することが、単なる設計事項にすぎないものであるともいえない。
してみると、請求人の主張及び提出した証拠方法によっては、本件特許の請求項1に係る発明が、甲第1号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(4)請求人の主張について
この点に関して、請求人は、審判請求書の第10頁第8?19行において『仮に、本件特許発明が甲第1号証に記載された発明と同一である、とはいえないとしても、上述のように、甲第1号証に記載の発明によれば、安定した画像が得られるのであり、特に30℃、80%RHの高温度、高湿度の条件で「1.20」以上の高い画像濃度が得られているので、この点において、本件特許発明が、甲第1号証に記載された発明に比して、顕著な効果を奏するものということはできない。そして「イオン交換水に1重量%分散させたときの電気伝導度が110μS/cm以下」となる点は、洗浄工程に依存し、洗浄の程度によって電気伝導度が異なるものと解されるのであり、そうとすると、どの程度の洗浄をするかは明らかに「設計的事項」であるから、上記の相違点は、当業者が容易に想到することができる範囲内のものというべきである。』と主張している。
しかしながら、甲第1号証を含む甲各号証の公知刊行物には、上述のとおり、荷電制御剤の「電気伝導度」を特定の数値範囲に調整することについての動機付けを与える記載がなく、本件特許明細書の段落0014に記載される「電気伝導度を大きくする物質」の「混入量」などの様々な要因と、安定した画像濃度との因果関係を示唆する記載もない。
また、請求人が提出した証拠方法によっては、本件優先日の技術水準において、電気伝導度が洗浄工程に依存することが当業者の技術常識になっていたと認めるに足る具体的な根拠は見当たらず、その洗浄の程度が当業者にとって「設計的事項」に属するといえる具体的な根拠も見当たらない。
そして、甲第1号証の実施例1?3及び比較例のものの「画像濃度」の結果が、高温度、高湿度(30℃、80%RH)の条件での結果を示す表2において、実施例1?3のものが「1.40」であり、比較例のものが「1.36」であるとしても、これらの結果は、乙第2号証(特開平11-167250号公報)の段落0004において「疎水性シリカの外添により、画像部の濃度…は飛躍的に改善される」と記載されている「疎水性シリカ」を添加していたことによるものとも解されるので、本件特許発明の電荷制御剤の電気伝導度を調整するものとは手段が違っており、試験系が異なる試験結果を単純に比較することはできないことは上記『第6 1(3)』に示したとおりであるから、甲第1号証の結果に基づき、本件特許発明が顕著な効果を奏するものではないとすることはできない。
したがって、上記の相違点が当業者にとって容易に想到することができる範囲内のものであるとすることはできない。

(5)無効理由2のまとめ
以上のとおり、本件請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
したがって、請求人の主張及び提出した証拠方法によっては、本件特許の請求項1に係る発明が、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。
よって、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してなされたものではないから、特許法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由2には理由がない。

第7 むすび
以上検討したように、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-05-16 
結審通知日 2016-05-18 
審決日 2016-05-31 
出願番号 特願2000-364684(P2000-364684)
審決分類 P 1 123・ 121- Y (C07C)
P 1 123・ 113- Y (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 斉藤 貴子  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 木村 敏康
佐藤 健史
登録日 2010-11-19 
登録番号 特許第4627367号(P4627367)
発明の名称 電荷制御剤及びそれを用いた静電荷像現像用トナー  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 坂西 俊明  
代理人 清水 義憲  
代理人 大井 正彦  
代理人 城戸 博兒  
代理人 吉住 和之  
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