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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G03F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G03F
審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 G03F
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G03F
管理番号 1316954
審判番号 不服2015-10065  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-05-29 
確定日 2016-08-02 
事件の表示 特願2011- 80191「積層体及びそれを用いたロール」拒絶査定不服審判事件〔平成24年11月 8日出願公開,特開2012-215676,請求項の数(12)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 事件の概要
1 手続の経緯
特願2011-080191号(以下「本件出願」という。)は,平成23年3月31日の特許出願であって,その手続の概要は,以下のとおりである。
平成26年12月10日起案:拒絶の理由(同年同月16日発送)
平成27年 2月 6日差出:意見書
平成27年 2月 6日差出:手続補正
平成27年 3月10日起案:拒絶査定(同年同月17日送達)
平成27年 5月29日差出:手続補正(以下「本件補正」という。)
平成27年 5月29日差出:審判請求

2 原査定の理由
原査定の理由は,概略,以下のとおりである。
(1) 36条6項2号
「感光性樹脂組成物」を用いて得られるパターンは,フォトマスクの形状,露光量,露光時間,支持体の材質,厚さ等によって変化するため,「感光性樹脂組成物」の発明の範囲が不明確である。

(2) 29条1項3号
この出願の請求項1?12に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった,引用例1に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない。
引用例1:国際公開第2009/096292号
(特許請求の範囲,【0062】?【0080】及び実施例4,5,8,9等)

3 特許請求の範囲の記載
(1) 本件補正前の特許請求の範囲の記載は,以下のとおりである。
「【請求項1】
支持層;及び
感光性樹脂組成物の全固形分100質量%を基準として,カルボキシル基及びフェニル基を有するアクリル系樹脂を含むアルカリ可溶性高分子:20?90質量%,少なくとも1種の光重合性化合物:5?75質量%,並びに光重合開始剤:0.01?30質量%を含む感光性樹脂組成物から成る感光性樹脂層;
を有する積層体であって,
前記感光性樹脂組成物は,
(A)フォトマスクを用いて露光する露光工程であって,該感光性樹脂組成物上に積層された支持体と該フォトマスクとの距離が50μmである露光工程,及び
(B)30℃の0.4質量%炭酸ナトリウム水溶液で最小現像時間の1.5倍の時間に亘って現像する現像工程
を含む方法により形成される多角形状感光性樹脂パターンの線幅が20μm以下であり,ピッチが200?1000μmであり,かつ高さが45?100μmであることを特徴とし,
前記アルカリ可溶性高分子は,スチレン又はベンジル(メタ)アクリレートを共重合成分として含み,
前記光重合性化合物は,ポリエチレンオキシド基及びポリプロピレンオキシド基を有するジ(メタ)アクリレートを含み,かつ
前記感光性樹脂層は,前記支持層に接して積層されている,
前記積層体。

【請求項2】
前記多角形状感光性樹脂パターンの高さは50?80μmである,請求項1に記載の積層体。

【請求項3】
前記多角形状感光性樹脂パターンの線幅は15μm以下である,請求項1又は2に記載の積層体。

【請求項4】
前記感光性樹脂パターンの前記線幅に対する前記高さの比(アスペクト比)が3.5以上である,請求項1?3のいずれか1項に記載の積層体。

【請求項5】
前記アスペクト比は4.0以上である,請求項4に記載の積層体。

【請求項6】
前記光重合性化合物が,両末端に(メタ)アクリロイル基を有するエチレンオキシド変性ビスフェノールAを含有する,請求項1?5のいずれか1項に記載の積層体。

【請求項7】
前記光重合性化合物の平均分子量が490?750である,請求項1?6のいずれか1項に記載の積層体。

【請求項8】
前記光重合性化合物の全てが分子内に少なくとも1つのエチレンオキシド基を有する,請求項1?7のいずれか1項に記載の積層体。

【請求項9】
前記光重合開始剤はロフィン二量体を含む,請求項1?8のいずれか1項に記載の積層体。

【請求項10】
前記感光性樹脂層の光透過率(波長365nm)が40?60%である,請求項1?9のいずれか1項に記載の積層体。

【請求項11】
請求項1?10のいずれか1項に記載の積層体をロール状に巻き取ることにより得られるロール。

【請求項12】
一カ月保管したときに前記ロールの端面に感光性樹脂の癒着が見られない,請求項11に記載のロール。」

(2) 本件補正後の特許請求の範囲は,以下のとおりである。なお,下線は,当合議体が付したものであり,補正箇所を表す。
「【請求項1】
支持層;及び
感光性樹脂組成物の全固形分100質量%を基準として,カルボキシル基及びフェニル基を有するアクリル系樹脂を含むアルカリ可溶性高分子:20?90質量%,少なくとも1種の光重合性化合物:5?75質量%,並びに光重合開始剤:0.01?0.9質量%を含む感光性樹脂組成物から成る感光性樹脂層;
を有する積層体であって,
前記感光性樹脂組成物は,
(A)四角形のパターン形状を有するフォトマスクを用いて,ストゥーファー21段ステップタブレットを介して露光した場合に残膜する段数が8段ないし9段となるような露光量で露光する露光工程であって,該感光性樹脂組成物上に積層された支持体と該フォトマスクとの距離が50μmであり,かつ前記支持体は16μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルムである露光工程,及び
(B)30℃の0.4質量%炭酸ナトリウム水溶液で最小現像時間の1.5倍の時間に亘って現像する現像工程
を含む方法により形成される多角形状感光性樹脂パターンの線幅が20μm以下であり,ピッチが200?1000μmであり,かつ高さが45?100μmであることを特徴とし,
前記アルカリ可溶性高分子は,スチレン又はベンジル(メタ)アクリレートを共重合成分として含み,
前記光重合性化合物は,ポリエチレンオキシド基及びポリプロピレンオキシド基を有するジ(メタ)アクリレートを含み,かつ
前記感光性樹脂層は,前記支持層に接して積層されている,
前記積層体。

【請求項2】
前記多角形状感光性樹脂パターンの高さは50?80μmである,請求項1に記載の積層体。

【請求項3】
前記多角形状感光性樹脂パターンの線幅は15μm以下である,請求項1又は2に記載の積層体。

【請求項4】
前記感光性樹脂パターンの前記線幅に対する前記高さの比(アスペクト比)が3.5以上である,請求項1?3のいずれか1項に記載の積層体。

【請求項5】
前記アスペクト比は4.0以上である,請求項4に記載の積層体。

【請求項6】
前記光重合性化合物が,両末端に(メタ)アクリロイル基を有するエチレンオキシド変性ビスフェノールAを含有する,請求項1?5のいずれか1項に記載の積層体。

【請求項7】
前記感光性樹脂組成物に含まれる前記光重合性化合物の全体の平均分子量が490?750である,請求項1?6のいずれか1項に記載の積層体。

【請求項8】
前記光重合性化合物の全てが分子内に少なくとも1つのエチレンオキシド基を有する,請求項1?7のいずれか1項に記載の積層体。

【請求項9】
前記光重合開始剤はロフィン二量体を含む,請求項1?8のいずれか1項に記載の積層体。

【請求項10】
前記感光性樹脂層の光透過率(波長365nm)が40?60%である,請求項1?9のいずれか1項に記載の積層体。

【請求項11】
請求項1?10のいずれか1項に記載の積層体をロール状に巻き取ることにより得られるロール。

【請求項12】
20℃で一カ月保管したときに前記ロールの端面に感光性樹脂の癒着が見られない,請求項11に記載のロール。」

第2 本件補正について
1 本件補正の内容
(1) 補正事項1
特許請求の範囲の請求項1において,「光重合開始剤:0.01?30質量%を含む」とあるのを,「光重合開始剤:0.01?0.9質量%を含む」と補正する。

(2) 補正事項2
同請求項1において,「(A)フォトマスクを用いて露光する露光工程であって,該感光性樹脂組成物上に積層された支持体と該フォトマスクとの距離が50μmである露光工程」とあるのを,「(A)四角形のパターン形状を有するフォトマスクを用いて,ストゥーファー21段ステップタブレットを介して露光した場合に残膜する段数が8段ないし9段となるような露光量で露光する露光工程であって,該感光性樹脂組成物上に積層された支持体と該フォトマスクとの距離が50μmであり,かつ前記支持体は16μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルムである露光工程」と補正する。

(3) 補正事項3
同請求項7において,「前記光重合性化合物の平均分子量が490?750である」とあるのを,「前記感光性樹脂組成物に含まれる前記光重合性化合物の全体の平均分子量が490?750である」と補正する。

(4) 補正事項4
同請求項12において,「一カ月保管したときに前記ロールの端面に感光性樹脂の癒着が見られない」とあるのを,「20℃で一カ月保管したときに前記ロールの端面に感光性樹脂の癒着が見られない」と補正する。

2 補正の適否
(1) 補正事項1
補正事項1は,本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件補正前発明」という。)における「光重合開始剤」の分量の上限値を,明細書の段落【0052】の記載に基づいて,「30質量%」から「0.9質量%」に限定するものである。また,本件補正前発明の産業上の利用分野及び発明が解決しようとする課題と,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)の産業上の利用分野及び発明が解決しようとする課題は,いずれも,本件出願の明細書の段落【0001】及び【0006】に記載されているとおりのものであって,同一である。
また,請求項1の記載を引用して記載された請求項2?12に係る発明についてみても,同様である。
したがって,補正事項1は,特許法第17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。また,本件補正1は,特許法17条の2第3項及び同条4項の規定に適合する。

(2) 補正事項2?4
補正事項2?4は,特許請求の範囲の請求項1,7及び12の記載を,それぞれ,明細書の段落【0100】?【0115】,【0046】及び【0110】の記載に基づいて発明が明確になるよう補正するものである。
また,これら請求項の記載を引用して記載された各請求項についてみても,同様である。
したがって,特許法第17条の2第5項4号に掲げる明瞭でない記載の釈明に該当する。また,補正事項2?4は,特許法17条の2第3項及び同条4項の規定に適合する。

3 独立特許要件違反
本件補正のうち補正事項1は,請求項1について,特許請求の範囲の減縮を目的とする補正であるから,本件補正後発明が特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。
(1) 原査定の理由で挙げられた引用例1の記載
引用例1には,以下の事項が記載されている。
ア 「[0001] 本発明は感光性樹脂積層体,及びその用途に関し,より詳しくは,プリント配線板,フレキシブル基板,リードフレーム基板,COF(チップオンフィルム)用基板,半導体パッケージ用基板,液晶用透明電極,液晶用TFT用配線,PDP(プラズマディスプレイパネル)用電極等の導体パターンの製造に適した感光性樹脂積層体,及びそれを用いたレジストパターンの形成方法に関する。」

イ 「[0004] また,近年のパソコン等に搭載されるプリント配線板の微細化に対応し,レジストの高解像性及び密着性が求められている(以下,特許文献1参照)。高解像度とするには一般的には感光性樹脂組成物の架橋密度を向上させることにより達成されるが,架橋密度を向上させると露光後の硬化レジストパターンが硬く,もろくなり,搬送工程でレジストパターンの欠けという問題点が発生することがある。また,特に感光層が10μm程度以下の薄膜では,露光時に透過光が基材表面でハレーションを起こすため,未露光であるべき感光性樹脂層までも感光してしまい,これが硬化レジストパターンに反映されるため,ショートの原因ともなる。また,ハレーションにより,硬化膜の底面はスソと呼ばれる現像残渣が発生することがある。スソが発生するとその大きさにもよるがエッチング工程で銅回路にガタツキが発生するという不具合が生じることがある。」

ウ 「[0009] 本発明は,ラミネート時の追従性が良好であり,高解像性及び高密着性を発現し,現像後の硬化レジストパターンにサイドウオールのガタツキや表面の凹みがなく良好で,且つ現像後のスソが極めて小である特性を有する感光性樹脂積層体を提供すること,並びに該積層体を用いたレジストパターンの形成方法,及び導体パターンの製造方法を提供することを目的とする。
[0010] 上記課題を解決するため検討した結果,特定の感光性樹脂積層体を用いることにより,支持フィルムの剥離性に問題がなく,ラミネート時の追従性が良好であり,現像後の硬化レジストパターンにサイドウオールのガタツキや表面の凹みがなく良好で,現像後のスソが極めて小である感光性樹脂積層体を提供することが可能なことを見出し,本発明に至った。」

エ 「[0030] 本発明の感光性樹脂層の膜厚は用途によって異なるが,厚みの上限は,100μm以下が好ましく,50μm以下がより好ましく,30μm以下がさらに好ましく,10μm以下が最も好ましい。また,下限は,0.5μm以上が好ましく,更に1μm以上が好ましい。」

オ 「[0051]
…(省略)…
本発明の感光性樹脂積層体における感光性樹脂組成物は,(c)光重合開始剤を,感光性樹脂組成物全体に対して0.1?20質量%含有することが好ましい。十分な感度を得る観点から,0.1質量%以上,露光時にフォトマスクを通した光のハレーション防止の観点から20質量%以下が好ましい。」

カ 「[0062] 以下に,実施例及び比較例の評価用サンプルの作製方法並びに得られたサンプルについての評価方法及び評価結果を説明する。
〔実施例1?15,比較例1?4〕
1.評価用サンプルの作製
実施例及び比較例における感光性樹脂積層体は次の様にして作製した。
<感光性樹脂積層体の作製>
表1に示す第一層のメチルエチルケトン溶液を16μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ製16QS48水準3)の表面にバーコーターを用いて均一に塗布し,95℃の乾燥機中で2分間乾燥して支持フィルム上に均一な第一層を形成した。第一層の厚みは20μmであった。次に表1に示す第二層の組成物の水溶液をよく撹拌,混合し,前記第一層を積層された支持フィルムの第一層の表面にバーコーターを用いて均一に塗布し,100℃の乾燥機中で3分間乾燥して第一層上に均一な第二層を形成した。第二層の厚みは2μmであった。さらに,支持フィルムに積層された第二層上に,表1に示す感光性樹脂組成物をバーコーターを用いて均一に塗布し,95℃の乾燥機中で3分間乾燥して均一な感光性樹脂層を形成した。感光性樹脂層の厚みは2μmであった。
次いで,感光性樹脂層上の表面上に,保護層として25μm厚のポリエチレンフィルムを張り合わせて感光性樹脂積層体を得た。
[0063]<基板>
解像度,密着性,現像後のスソ,硬化レジストパターンのサイドウオールのガタツキ及び表面状態は,絶縁樹脂に8μm銅箔を積層した住友金属(株)製エスパーフレックスを用いて評価した。また,ラミネート後のラミネートエアーボイドの評価に関してはRa=0.2程度のフレキシブル基材を用いて評価した。
<ラミネート>
本発明の感光性樹脂積層体の保護層を剥がしながらホットロールラミネーター(旭化成エンジニアリング(株)社製,AL-70)により,ロール温度105℃でラミネートした。エアー圧力は0.35MPaとし,ラミネート速度は1.0m/minとした。ラミネートエアーボイド評価(追従性評価)においてはエアー圧力は0.2MPa,ラミネート速度は2.0m/minとした。
<露光>
ポリエチレンテレフタレートフィルムに第一層が積層された支持フィルムを剥離した後,感光性樹脂層の評価に必要なマスクフィルムを第二層上に置き,超高圧水銀ランプ(オーク製作所製,HMW-801)により140mJ/cm^(2)の露光量で露光した。
<現像>
30℃の0.5質量%Na_(2)CO_(3)水溶液を所定時間スプレーし,感光性樹脂層の未露光部分を溶解除去した。この際,未露光部分の感光性樹脂層が完全に溶解するのに要する最も少ない時間を最小現像時間とした。実際の現像時間は最小現像時間の2倍で現像し,硬化レジストパターンを得た。」

キ 「[0074][表1]

[0075]<記号説明>
P-1:ベンジルメタクリレート80質量%,メタクリル酸20質量%の2元共重合体のメチルエチルケトン溶液(固形分濃度50質量%,重量平均分子量2.5万,酸当量430,分散度2.7)
P-2:メタクリル酸メチル50質量%,メタクリル酸25質量%,スチレン25質量%の三元共重合体のメチルエチルケトン溶液(固形分濃度35質量%,重量平均分子量5万,酸当量344,分散度3.1)
[0076] M-1:平均12モルのプロピレンオキサイドを付加したポリプロピレングリコールにエチレンオキサイドをさらに両端にそれぞれ平均3モル付加したポリアルキレングリコールのジメタクリレート
M-2:ビスフェノールAの両端にそれぞれ平均2モルのプロピレンオキサイドと平均6モルのエチレンオキサイドを付加したポリアルキレングリコールのジメタクリレート
M-3:ビスフェノールAの両端にそれぞれ平均2モルのエチレンオキサイドを付加したポリエチレングリコールのジメタクリレート(新中村化学工業(株)製NKエスエルBPE-200)
[0077] M-4:ビスフェノールAの両端にそれぞれ平均5モルのエチレンオキサイドを付加したポリエチレングリコールのジメタクリレート(新中村化学工業(株)製NKエスエルBPE-500
M-5:2,2-ビス{4-(メタクリロキシペンタエトキシ)シクロヘキシル}プロパン
M-6:ヘキサメチレンジイソシアネートとオリゴプロピレングリコールモノメタクリレート(日本油脂(株)製,ブレンマーPP1000)との反応物であるウレタンポリプロピレングリコールジメタクリレート
[0078] M-7:トリメチロールプロパントリメタクリレート
M-8:トリオキシエチルトリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学工業(株)製 NKエステルA-TMPT-3EO)
M-9:ノナエチレングリコールジアクリレート
G-1:4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン
G-2:2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体
J-1:ダイアモンドグリーン(保土ヶ谷化学(株)製 アイゼン(登録商標) DIAMOND GREEN GH)
J-2:ロイコクリスタルバイオレット
[0079] L-1:1-(2-ジ-n-ブチルアミノメチル)-5-カルボキシルベンゾトリアゾールと1-(2-ジ-n-ブチルアミノメチル)-6-カルボキシルベンゾトリアゾールの1:1混合物
L-2:ペンタエリスリトールの3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオン酸テトラエステル(チバスペシャリティケミカルズ(株)製IRGANOX245)」

(2) 引用発明
引用例1の[0062]及び[0074]の[表1]には,実施例4の感光性樹脂積層体として,以下の発明が記載されている。なお,[表1]に基づいて計算すると,実施例4の感光性樹脂組成物は,組成物全体で164.3質量部である。
「 支持フィルム上に均一な第一層を形成し,
第一層上に均一な第二層を形成し,
第二層上に感光性樹脂組成物を塗布し,乾燥して均一な感光性樹脂層を形成し,
感光性樹脂層上の表面上に保護層を張り合わせた,感光性樹脂積層体であって,
感光性樹脂層の厚みは2μmであり,
感光性樹脂組成物は,組成物全体で164.3質量部であり,
P-2:メタクリル酸メチル50質量%,メタクリル酸25質量%,スチレン25質量%の三元共重合体のメチルエチルケトン溶液(固形分濃度35質量%,重量平均分子量5万,酸当量344,分散度3.1)を115質量部,
M-1:平均12モルのプロピレンオキサイドを付加したポリプロピレングリコールにエチレンオキサイドをさらに両端にそれぞれ平均3モル付加したポリアルキレングリコールのジメタクリレートを5質量部,
M-2:ビスフェノールAの両端にそれぞれ平均2モルのプロピレンオキサイドと平均6モルのエチレンオキサイドを付加したポリアルキレングリコールのジメタクリレートを5質量部,
M-3:ビスフェノールAの両端にそれぞれ平均2モルのエチレンオキサイドを付加したポリエチレングリコールのジメタクリレート(新中村化学工業(株)製NKエスエルBPE-200)を15質量部,
M-6:ヘキサメチレンジイソシアネートとオリゴプロピレングリコールモノメタクリレート(日本油脂(株)製,ブレンマーPP1000)との反応物であるウレタンポリプロピレングリコールジメタクリレートを5質量部,
M-7:トリメチロールプロパントリメタクリレートを5質量部,
M-8:トリオキシエチルトリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学工業(株)製 NKエステルA-TMPT-3EO)を10質量部,
G-1:4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンを0.3質量部,
G-2:2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体を3質量部,
J-1:ダイアモンドグリーン(保土ヶ谷化学(株)製 アイゼン(登録商標) DIAMOND GREEN GH)を0.2質量部,
J-2:ロイコクリスタルバイオレットを0.5質量部,
L-1:1-(2-ジ-n-ブチルアミノメチル)-5-カルボキシルベンゾトリアゾールと1-(2-ジ-n-ブチルアミノメチル)-6-カルボキシルベンゾトリアゾールの1:1混合物を0.1質量部,
L-2:ペンタエリスリトールの3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオン酸テトラエステル(チバスペシャリティケミカルズ(株)製IRGANOX245)を0.2質量部含む,
感光性樹脂積層体。」

(3) 対比
本件補正後発明と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。
ア 感光性樹脂組成物
引用発明の「感光性樹脂組成物」は,本件補正後発明の「感光性樹脂組成物」に相当する。
ここで,引用発明の感光性樹脂組成物の固形分は,「P-2」(115質量部)の固形分が35%,すなわち,40.25質量部であることを考慮すると,164.3-(115-40.25)=89.55質量部である。
したがって,引用発明の「P-2」の分量は,感光性樹脂組成物の全固形分100質量%を基準として,40.25÷89.55=約45質量%となる。同様に,引用発明の「M-1」,「M-2」,「M-3」,「M-6」,「M-7」及び「M-8」(以下「M-1等」と総称する。)の分量は,(5+5+15+5+5+10)÷89.55=約50質量%,「G-1」及び「G-2」(以下「G-1等」と総称する。)の分量は,(0.3+3)÷89.55=約4質量%となる。

イ アルカリ可溶性高分子
まず,引用発明の「P-2」の固形分は,「メタクリル酸メチル50質量%,メタクリル酸25質量%…の三元共重合体」であるから,アクリル系樹脂である。また,引用発明の「P-2」の固形分は,「…メタクリル酸25質量%,スチレン25質量%の三元共重合体」であるから,メタクリル酸を前駆体とするカルボキシル基を有するとともに,スチレンを前駆体とするフェニル基を有する。さらに,引用発明の「P-2」の固形分は,「…スチレン25質量%の三元共重合体」であるから,スチレンを共重合成分として含んでいる。そして,引用発明の「P-2」の固形分は,カルボキシル基を有するから,アルカリ可溶性高分子である。
次に,引用発明の「P-2」成分の固形分は,感光性樹脂組成物の全固形分100質量%を基準として,約45質量%であるから,20?90質量%の範囲内である。
そうしてみると,引用発明の「P-2」の固形分は,本件補正後発明の「アルカリ可溶性高分子」に相当するとともに,「感光性樹脂組成物の全固形分100質量%を基準として,カルボキシル基及びフェニル基を有するアクリル系樹脂を含むアルカリ可溶性高分子:20?90質量%」の要件,及び「前記アルカリ可溶性高分子は,スチレン又はベンジル(メタ)アクリレートを共重合成分として含み」の要件を満たす。

ウ 光重合性化合物
まず,引用発明の「M-1等」は,いずれも,「…メタクリレート」又は「…アクリレート」であるから,光重合性化合物である。
次に,引用発明の「M-1」は,「平均12モルのプロピレンオキサイドを付加したポリプロピレングリコールにエチレンオキサイドをさらに両端にそれぞれ平均3モル付加したポリアルキレングリコールのジメタクリレート」であるから,平均3モルのエチレンオキサイドを前駆体とするポリエチレンオキシド基を有するとともに,平均12モルのプロピレンオキサイドを前駆体とするポリプロピレンオキシド基を有し,また,ジメタクリレートである。
次に,引用発明の「M-1等」は,感光性樹脂組成物の全固形分100質量%を基準として,約50質量%であるから,5?75質量%の範囲内である。
そうしてみると,引用発明の「M-1等」は,本件補正後発明の「少なくとも1種の光重合性化合物」に相当するとともに,「前記光重合性化合物は,ポリエチレンオキシド基及びポリプロピレンオキシド基を有するジ(メタ)アクリレートを含み」の要件を満たす。

エ 光重合性開始剤
引用発明の「G-1等」は,技術的にみて,光重合開始剤である。

オ 感光性樹脂層
引用発明の「感光性樹脂層」は,「第二層上に感光性樹脂組成物を塗布し,乾燥し」て「形成し」たものであるから,引用発明の「感光性樹脂層」は,本件補正後発明の「感光性樹脂層」に相当するとともに,「感光性樹脂組成物から成る感光性樹脂層」の要件を満たす。

カ 支持層
引用発明の「支持フィルム」は,「感光性樹脂積層体」との関係において,「支持」する役割を果たし,また,「フィルム」であるから,本件補正後発明の「支持層」に相当する。

キ 積層体
上記ア?カからみて,引用発明の「感光性樹脂積層体」は,本件補正後発明の「積層体」に相当する。

(4) 一致点及び相違点
ア 一致点
本件補正後発明と引用発明は,以下の構成において一致する。
「 支持層;及び
感光性樹脂組成物の全固形分100質量%を基準として,カルボキシル基及びフェニル基を有するアクリル系樹脂を含むアルカリ可溶性高分子:20?90質量%,少なくとも1種の光重合性化合物:5?75質量%,並びに光重合開始剤を含む感光性樹脂組成物から成る感光性樹脂層;
を有する積層体であって,
前記アルカリ可溶性高分子は,スチレン又はベンジル(メタ)アクリレートを共重合成分として含み,
前記光重合性化合物は,ポリエチレンオキシド基及びポリプロピレンオキシド基を有するジ(メタ)アクリレートを含む,
前記積層体。」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は,少なくとも以下の点で相違する。
(相違点)
本件補正後発明の「光重合開始剤」の分量は,「感光性樹脂組成物の全固形分100質量%を基準として」,「0.01?0.9質量%」であるのに対し,引用発明の「G-1等」の分量は,感光性樹脂組成物の全固形分100質量%を基準として,約4質量%である点。

(5) 判断
光重合開始剤の分量に関して,引用例1の段落[0051]には,「感光性樹脂組成物は,(c)光重合開始剤を,感光性樹脂組成物全体に対して0.1?20質量%含有することが好ましい。十分な感度を得る観点から,0.1質量%以上,露光時にフォトマスクを通した光のハレーション防止の観点から20質量%以下が好ましい。」と記載されている。
したがって,例えば,「露光時にフォトマスクを通した光のハレーション防止の観点から」,引用発明の「光重合開始剤」の「約4質量%」を「0.01?0.9質量%」の範囲内に減ずることについて論理付けができるならば,前記相違点は,「一定の課題を解決するための数値範囲の最適化又は好適化」,すなわち,当業者における単なる設計変更にすぎないといえる。
しかしながら,光重合開始剤の上限に関して,引用例1には,「ハレーション防止の観点から20質量%以下」とのみ記載され,「20質量%以下」で必要十分なのか,ハレーション防止の程度に応じて「20質量%」を「0.01?0.9質量%」の範囲内にまで減ずる必要があるのか,判らない。

ところで,引用例1の段落[0004]には,「特に感光層が10μm程度以下の薄膜では,露光時に透過光が基材表面でハレーションを起こすため,未露光であるべき感光性樹脂層までも感光してしまい,これが硬化レジストパターンに反映されるため,ショートの原因ともなる。また,ハレーションにより,硬化膜の底面はスソと呼ばれる現像残渣が発生することがある。」と記載されている。すなわち,引用例1からは,特に感光層が10μm程度以下の薄膜において,ハレーションが問題となることが理解できる。また,この知見を敷衍すると,引用発明の感光層の厚さをより薄くした場合に光重合開始剤の量を減ずることは,「一定の課題を解決するための数値範囲の最適化又は好適化」,すなわち,当業者における単なる設計変更にすぎないかもしれない。
しかしながら,引用発明の「感光性樹脂層の厚みは2μm」である。また,引用例1の段落[0030]には,「本発明の感光性樹脂層の膜厚は用途によって異なるが,…下限は,0.5μm以上が好ましく,更に1μm以上が好ましい。」と記載されている。そして,仮に,引用発明の感光性樹脂層の厚みを下限値の0.5μmに薄くした場合を想定しても,光重合開始剤の量を「0.01?0.9質量%」の範囲内まで減ずる必要があるとはいえない(基材表面に達してハレーションを起こす光の強度は,感光性樹脂層の厚みに反比例しない。)。
その他,引用例1には,引用発明の「光重合開始剤」の「約4質量%」を「0.01?0.9質量%」の範囲内に減ずることについての一定の課題は記載されておらず,また,示唆もされてない。すなわち,引用例1には,一応,光重合開始剤の分量について「0.1?20質量%」との数値範囲が示されているとしても,引用例1の段落[0074]の[表1]に開示された光重合開始剤の質量部は,一律に0.3質量部(G-1)及び3質量部(G-2)にすぎない。

あるいは,引用例1の段落[0030]には,「本発明の感光性樹脂層の膜厚は用途によって異なるが,厚みの上限は,100μm以下が好ましく,」と記載されている。したがって,引用例1には,感光性樹脂層の膜厚を最大100μmにまですることが開示されている。また,厚膜において光重合開始剤の分量を多くすると,露光光が厚膜の内部まで達しなくなり露光不良となることは,当業者における技術常識である。
しかしながら,例えば,特開2000-327742号公報の段落【0012】には,「光重合開始剤の配合割合(光増感剤を併用する場合にはこれらの合計量)は,前記樹脂化合物(A)100重量部当り1?30重量部,好ましくは5?25重量部が適当である。光重合開始剤の使用量が,上記範囲より少ない場合,組成物の光硬化性が悪くなり,一方,多い場合は,光重合開始剤自身の吸収により厚膜での光硬化性が劣るので好ましくない。」と記載されている。同様に,特開2002-293762号公報の段落【0026】には,「光重合開始剤の配合割合(光増感剤を併用する場合にはこれらの合計量)は,前記一般式(1)の化合物100重量部当り0.1?30重量部程度,好ましくは1?10重量部程度が適当である。光重合開始剤の使用量が,上記範囲の下限以上である場合,組成物の光硬化性が良好であり,一方,上限以内である場合は,光重合開始剤自身の吸収により厚膜での光硬化性が劣るおそれがないので好ましい。」と記載されている。
仮に,引用発明の感光性樹脂層を厚膜とする場合を考慮しても,引用発明の「光重合開始剤」の「約4質量%」を「0.01?0.9質量%」の範囲内に減ずることが当業者における単なる設計変更であるとまではいえない。

以上のとおりであるから,本件補正後発明は,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
請求項1の記載を引用して記載された,請求項2?12に係る発明についても,同様である。

(6) 小括
本件補正の補正事項1は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合する。

4 むすび
本件補正は,特許法17条の2第3項ないし6項の規定に適合する。

第3 本願発明
以上のとおりであるから,本件出願の特許請求の請求項1?12に係る発明は,前記「第1」3(2)に記載のとおりのものである。
そして,本件出願については,原査定の拒絶の理由を検討しても,その理由によって拒絶すべきものとすることはできない。すなわち,原査定の理由のうち,前記「第1」2(1)の36条6項2号の理由については,本件補正により,特許請求の範囲の請求項1において,フォトマスクの形状,露光量,露光時間,支持体の材質,厚さ等が特定されたため,解消した。また,原査定の理由のうち,前記「第1」2(2)の29条1項3号の理由については,本件補正により,前記「第2」3(4)イの相違点が存することとなったため,解消した。
そして,他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-07-19 
出願番号 特願2011-80191(P2011-80191)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G03F)
P 1 8・ 113- WY (G03F)
P 1 8・ 575- WY (G03F)
P 1 8・ 537- WY (G03F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 高橋 純平倉持 俊輔  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 樋口 信宏
鉄 豊郎
発明の名称 積層体及びそれを用いたロール  
代理人 齋藤 都子  
代理人 古賀 哲次  
代理人 三間 俊介  
代理人 青木 篤  
代理人 石田 敬  
代理人 中村 和広  

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