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審決分類 審判 一部申し立て 1項1号公知  D01F
審判 一部申し立て 1項2号公然実施  D01F
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  D01F
審判 一部申し立て 2項進歩性  D01F
管理番号 1316990
異議申立番号 異議2015-700144  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-08-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-11-04 
確定日 2016-07-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第5720783号発明「炭素繊維束および炭素繊維束の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5720783号の請求項1ないし5、9に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5720783号の請求項1?9に係る特許についての出願は、平成25年4月18日を国際出願日とする出願であって、平成27年4月3日にその特許権の設定登録がされ、その後、請求項1ないし5、9に係る特許について、特許異議申立人東レ株式会社により特許異議の申立てがされ、当審において平成28年1月29日付けで取消理由を通知し、平成28年4月4日付けで意見書が提出されたものである。

2.本件発明
「【請求項1】
炭素繊維束の単繊維繊度が0.8dtex以上2.5dtex以下であり、結節強度が298N/mm^(2)以上である炭素繊維束。
【請求項2】
炭素繊維束の結節強度が345N/mm^(2)以上である請求項1に記載の炭素繊維束。
【請求項3】
炭素繊維束の単繊維繊度が1.2dtex以上1.6dtex以下、結節強度が380N/mm^(2)以上である請求項1に記載の炭素繊維束。
【請求項4】
単繊維本数が6,000本以上50,000本以下である請求項1?3のいずれか一項に記載の炭素繊維束。
【請求項5】
単繊維本数が23,000本以上38,000本以下である請求項4に記載の炭素繊維束。
【請求項9】
請求項1?5のいずれか一項に記載の炭素繊維束を含有する樹脂系複合材料。」

3.取消理由の概要
当審において、請求項1?5、9に係る特許に対して通知した取消理由は、要旨次のとおりである。
(理由1)本件特許の請求項1、2、4、5、9に係る発明に係る発明は、TORAYCA「T620SC-24K-50C」に係る、本件特許の優先日前に、日本国内または外国において公然知られた発明又は公然実施された発明である甲1発明であるから、特許法第29条第1項第1号又は同第2号に該当し、特許を受けることができない。
(理由2)本件特許の請求項1、2、4、5、9に係る発明は、TORAYCA「T620SC-24K-50C」に係る、本件特許の優先日前に、日本国内または外国において公然知られた発明又は公然実施された発明である甲1発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(理由3)本件特許の請求項1、2、4、5、9に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された甲第4号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
本件特許の請求項請求項1?3、9に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された甲第6号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(理由4)本件特許の請求項1、2、4、5、9に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された甲第4号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
本件特許の請求項1?3、9に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された甲第6号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(証拠一覧)
甲第1号証 高性能炭素繊維 TORAYCA T620SC-24C-50Cの出荷規格(平成23年5月)
甲第2号証 ドイツロイド船級協会(GL)の認定書(平成21年12月14日)
甲第3号証 山崎潤の実験成績証明書
甲第4号証 特開2005-256211号公報
甲第5号証 遠藤真の実験成績証明書
甲第6号証 特表2008-509298号公報

4.判断
(1)理由1及び理由2について
甲第1号証及び甲第2号証によれば、TORAYCA「T620SC-24K-50C」(以下、「T620SC」という。)は、本件特許の優先日前である平成23年5月には、日本国内又は外国において公然知られたもの又は公然実施されたものである。
T620SCの物性について、甲第1号証によれば、フィラメント数が24000本であり、1000mあたりの質量は最小1800g?最大1900gであるから、単繊維繊度は最小0.75?最大0.79dtexである。甲第1号証及び甲第2号証には、T620SCの結節強度については記載はない。
甲第3号証では、甲第1号証に記載されるT620SCの単繊維繊度及び結節強度を測定したとされている。
しかし、甲第3号証には、製造日を明らかにすることができるはずのT620SCのロット番号の記載が無く、炭素繊維の物性に大きく影響する保管場所・保管条件の記載もない。
また、甲第3号証によれば、実験を行った炭素繊維束(5ロット)の製造時期は2010年12月?2011年12月であるが、実験は2015年9月に行われている。すなわち、実験が行われた時期は、製造時期からおおよそ4?5年経過している。
ここで、甲第1号証の第2頁「5)Marking(マーキング)」の欄には、T620SCには「Sizing Type(サイズ剤タイプ)」が「5」のサイズ剤が用いられていることが記載され、このサイズ剤について、乙第1号証(炭素繊維TORAYCAのサイズ剤タイプ5の化学物質等安全データシート(2003年7月9日改訂))の第4頁にある第10項の「Stability」の欄及び第11項の「Allergenic and/or Sensitizing effects」の欄には、それぞれ次の記載がある。
「Resin sizing sometimes changes under some environmental conditions.(樹脂サイズ剤は環境条件によって変質することもある。)」
「A resin sizing component contains Bisphenol A epoxy resin.(樹脂サイズ剤成分は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を含む。)」
すなわち、乙第1号証には、サイズ剤タイプ5にはビスフェノールA型エポキシ樹脂が含まれること、及び、このサイズ剤は保管環境により変質することがあることが記載されている。
これは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂は反応性が高いために、経時的に炭素繊維束の中(単繊維と単繊維の間)で硬化反応が進行し、硬化したサイズ剤は炭素繊維の単繊維同士を接着し、この接着によって単繊維同士の間で力が伝達されるので、単繊維同士の間で応力が分散均化し、その結果、結節強度が高くなるためと理解される。このような事象は結節強度に影響を及ぼすことは明らかであり、甲第3号証の実験では、T620SCの本来の結節強度を測定できていない可能性を排除できない。
この点について、甲第1号証の第1頁の「2) Requirements」の欄には、「The fibre shall comply with the requirements given in the table (see overleaf) for a period of 24 months after production if stored under normal conditions.(本繊維は、標準的条件下で保管された場合、製造後24月間、表に示される要件(裏面参照)を満たす。)」と記載されており、2年を超える保管によってT620SCの物性が変化する可能性を示すものである。
そうすると、甲第3号証において示されたT620SCの炭素繊維束の物性は、甲第1号証のT620SCの炭素繊維束の物性を示すものとは必ずしもいえない。
しかも、甲第3号証には単繊維繊度の測定結果「0.8dtex」が示されているが、この値は甲第1号証に定められる「最大 1900g/1000m」(=0.79dtex)を超える規格外の値である。
したがって、TORAYCA「T620SC-24K-50C」の単繊維繊度及び結節強度が、本件特許の請求項1、2、4、5、9で規定する範囲にあったものとは、直ちにはいえるものではない。
よって、本件特許の請求項1、2、4、5、9に係る発明は、TORAYCA「T620SC-24K-50C」に係る発明ではなく、また、TORAYCA「T620SC-24K-50C」に係る発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものでもない。

(2)理由3及び理由4(甲第4号証に基づく理由)について
甲第4号証には、実施例1として、単繊維繊度1.3dtexの前駆体繊維を12000本合糸した炭素繊維束が記載されている(段落【0069】?【0070】)。
特許異議申立書によれば、「甲第5号証には、甲第4号証の実施例1の炭素繊維束の単繊維繊度が0.9dtex、結節強度が566N/mm^(2)であることが示される」とされる。
甲第5号証は、甲第4号証の実施例1を追試しようとする実験成績証明書であり、実験方法に関して「甲第4号証の【0069】、【0070】、[表1](実施例1)に記載の方法に準じて炭素繊維を製造した」と記載されている。しかし、焼成工程の延伸比が炭素繊維の単繊維繊度に大きく影響することは明白であるが、甲第4号証の実施例1には焼成工程の延伸比が示されていない。
また、甲第5号証には「炭素繊維の結晶サイズは15Åであり、甲第4号証の[表1]に記載の主要物性を再現できていることを確認できた」と記載されている。しかし、結晶サイズが同一であるからといって二つの炭素繊維が同一であるとは限らない。実際、甲第4号証の表1によれば、実施例1、実施例4及び比較例3において結晶サイズは同じ15Åでありながら、他の炭素繊維物性が異なっており、これら炭素繊維は同一ではない。また炭素繊維の単繊維繊度は、炭素繊維の太さと相関し、すなわちμmオーダーの構造体に関係する物性値である。一方で、炭素繊維の結晶サイズはÅオーダーの微細構造に関する物性値である。よって両者の間に相関はなく、結晶サイズが同一であっても様々な太さ(よって様々な単繊維繊度)の炭素繊維が存在し得る。
したがって、甲第4号証の実施例1に従って形成されたとする甲第5号証の炭素繊維束は、必ずしも甲第4号証の実施例1で得られていた炭素繊維束と同一であるとはいえない。
また、甲第4号証には、前駆体繊維の単繊維繊度の記載があるだけで、できあがった炭素繊維の単繊維繊度についての記載はない。
以上から、甲第4号証の実施例1に記載される炭素繊維束の単繊維繊度及び結節強度が、本件特許の請求項1、2、4、5、9で規定される範囲にあると認めることはできない。
よって、本件特許の請求項1、2、4、5、9に係る発明は、甲第4号証に記載された発明でなく、また甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものでもない。

(3)理由3及び理由4(甲第6号証に基づく理由)について
甲第6号証には、炭素繊維の直径が6?9μmである連続炭素繊維1000本のストランドが少なくとも2本撚り合わされた、結節強度が234.6?467.3N/mm^(2)である糸が記載されている(特許請求の範囲、段落【0001】、【0013】、【0019】?【0020】、表1)。
特許異議申立書によれば「甲第6号証には結節強度が298N/mm^(2)以上である炭素繊維が記載されるに等しい」とされる。
甲第6号証の表1には、糸B、C及びDの結節強度としてそれぞれ441.6、467.3及び405.4という値が示される。しかし、そもそも甲第6号証は、炭素繊維のストランドが少なくとも2本撚り合わされることによって成る糸(撚糸)に関し(甲第6号証の請求項1、段落【0001】等)、このような撚糸は、本件特許発明の「炭素繊維束」とは異なる。仮に、甲第6号証に本件特許発明の炭素繊維束に対応する物が記載されるとしても、それは、段落【0013】に記載される「炭素繊維(フィラメント数100?2000本)」あるいは「糸を製造する場合の出発材料」である。甲第6号証の表1は「糸(撚糸)」の物性を示しており、「炭素繊維束」の物性を示すものではない。
また、甲第6号証の実施例では、炭素繊維束として「Tenax HTA 5641 67tex f1000 Z15(以下、「HTA5641」という。)」が用いられている。HTA5641は、フィラメント1000本で67texなので単繊維繊度が0.67dtexであり(この値は本件特許の請求項1?3、9に規定する範囲(請求項1では0.8dtex以上2.5dtex以下)を外れている)、それ自体が15[t/m]のZ撚りを有する炭素繊維のストランドである。甲第6号証の表1には、HTA5641を2本撚り合わせた撚り回数が150[t/m]の撚糸(糸A)ですら結節強度が234.6N/mm^(2)にすぎないことが示される。
したがって、HTA5641自体の結節強度はこれよりも小さく、すなわち本件特許の請求項1?3、9に規定する範囲(請求項1では298N/mm^(2)以上)を外れている蓋然性が高い。実際、乙第5号証(Markus Schneiderら、「Carbon fibre sewing yarn and binder yarn for preform applications」、第26回SAMPE欧州国際会議(2005年4月5?7日)予稿原稿)の第2頁のFigure 1には、HTA5641の「knot tensile strength(結節強度)」が、51.5MPa(51.5N/mm^(2))であることが示されている。
よって、本件特許請求項1?3、9に係る発明は、甲第6号証に記載された発明でなく、また甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものでもない。

5.むすび
したがって、上記取消理由によっては、請求項1?5、9に係る特許を取り消すことができない。
また、他に請求項1?5、9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-07-01 
出願番号 特願2013-522035(P2013-522035)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (D01F)
P 1 652・ 113- Y (D01F)
P 1 652・ 112- Y (D01F)
P 1 652・ 111- Y (D01F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 斎藤 克也  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 蓮井 雅之
井上 茂夫
登録日 2015-04-03 
登録番号 特許第5720783号(P5720783)
権利者 三菱レイヨン株式会社
発明の名称 炭素繊維束および炭素繊維束の製造方法  
代理人 緒方 雅昭  
復代理人 鈴木 雄太  
代理人 宮崎 昭夫  
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