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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
管理番号 1317006
異議申立番号 異議2016-700307  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-08-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-04-13 
確定日 2016-07-19 
異議申立件数
事件の表示 特許第5794333号発明「セメント組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5794333号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯

本件特許第5794333号は、平成26年3月12日に出願された特願2014-48972号について、平成27年8月21日に設定登録がされたものであり、その後、その請求項1,2に係る特許に対し、特許異議申立人「千葉 奈々枝」により特許異議の申立てがされたものである。

第2.本件発明

本件特許の請求項1,2に係る発明(以下、「本件発明1,2」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1,2に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認められる。

【請求項1】
セメントクリンカおよび石膏を含むセメント組成物であって、
前記セメントクリンカは、前記セメント組成物の質量に対して、50?60質量%の2CaO・SiO_(2)および1.3?4質量%の3CaO・Al_(2)O_(3)を含み、
スズ換算で、前記セメントクリンカ1kgに対して40?250mgの酸化スズをさらに含み、
前記セメント組成物の質量に対する前記石膏の割合は、SO_(3)換算で0.5?2.2質量%であり、
前記セメント組成物のブレーン比表面積は3000?4000cm^(2)/gであり、
前記石膏は半水石膏を含み、
前記半水石膏の220面のX線回折強度に対する114面のX線回折強度の強度比は65?115である、セメント組成物。
【請求項2】
前記セメント組成物中の3CaO・Al_(2)O_(3)の質量に対する前記石膏のSO_(3)換算の質量の割合が1.4以下である、請求項1に記載のセメント組成物。

第3.申立理由

特許異議申立人は、証拠として、下記の甲第1?7号証(以下、「甲1?7」という。)を提出し、本件発明1,2は、甲1?7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである旨主張している。

甲1:特開平7-144941号公報
甲2:特開2007-169084号公報
甲3:特開2014-40346号公報
甲4:「X線回折の手引 改訂第四版」1991年1月31日
理学電機株式会社,134-135頁
甲5-1:POWDER DIFFRACTION FILE [SET24]
JOINT COMMITTEE ON POWDER DIFFRACTION STANDARDS,1974
甲5-2:POWDER DIFFRACTION FILE [SET33]
JOINT COMMITTEE ON POWDER DIFFRACTION STANDARDS,1983
甲6-1:POWDER DIFFRACTION FILE [SET41],INORGANIC and ORGANIC
DATA BOOK,INTERNATIONAL CENTRE FOR DIFFRACTION DATA,1991
甲6-2:POWDER DIFFRACTION FILE [SET45],INORGANIC and ORGANIC
DATA BOOK,INTERNATIONAL CENTRE FOR DIFFRACTION DATA,1995
甲7:特開2009-173494号公報

第4.当審の判断

1.引用発明の認定

甲1には、
【0009】に、
「なお、ここでいうポルトランドセメントの鉱物組成とは、種々の不純物を除く主要な4成分すなわち、エーライト(C_(3)Sつまり3CaO・SiO_(2))と、ビーライト(C_(2)Sつまり2CaO・SiO_(2))、及び間隙質として、カルシウムアルミネート(C_(3)Aつまり3CaO・Al_(2)O_(3))と、カルシウムアルミノフェライト(C_(4)AFつまり4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3))のことであり、これらの鉱物組成の値は、SiO_(2)、Al_(2)O_(3)、Fe_(2)O_(3)、CaO、SO_(3)の5成分よりBogueの計算式を用いて算出したものである。」
【0016】に、
「・・・各種のセメント用原料を配合を変えて調合した混合原料を1550度で焼成し、表1に示す各種の鉱物組成のクリンカーを作り、このクリンカーを粗粉砕した後、石膏を2重量%添加し、さらに、ブレーン比表面積3500±100cm^(2)/gとなるように微粉砕して、実施例及び比較例のポルトランドセメント組成物を得た。・・・」
【表1】に、

がそれぞれ記載されている。
すなわち、甲1には、実施例1のポルトランドセメント組成物として次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「クリンカーに石膏を2重量%添加したポルトランドセメント組成物であって、
前記クリンカーは、50重量%の2CaO・SiO_(2)および2重量%の3CaO・Al_(2)O_(3)を含み、
前記ポルトランドセメント組成物のブレーン比表面積は3500±100cm^(2)/gであるポルトランドセメント組成物。」

2.発明の対比

本件発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「クリンカー」は本件発明の「セメントクリンカ」に相当する。
また、引用発明において、クリンカーに対して特定された2CaO・SiO_(2)、3CaO・Al_(2)O_(3)及び石膏の量を、本件発明1同様、石膏を含むセメント組成物に対して特定すると、それぞれ約49質量%、約1.96質量%及び約1.96質量%となり、さらに、石膏についてSO_(3)換算すると、無水石膏であれば約1.15質量%、二水石膏であっても約0.91質量%となる。
してみると、本件発明1のうち、
「セメントクリンカおよび石膏を含むセメント組成物であって、
前記セメントクリンカは、前記セメント組成物の質量に対して、1.3?4質量%の3CaO・Al_(2)O_(3)を含み、
前記セメント組成物の質量に対する前記石膏の割合は、SO_(3)換算で0.5?2.2質量%であり、
前記セメント組成物のブレーン比表面積は3000?4000cm^(2)/gである、セメント組成物。」の点は、引用発明と一致し、両者は次の点で相違する。

相違点1:2CaO・SiO_(2)含有量が、本件発明1は「50?60質量%」であるのに対し、引用発明は「約49質量%」である点。

相違点2:本件発明1は、「スズ換算で、前記セメントクリンカ1kgに対して40?250mgの酸化スズをさらに含」むが、引用発明は含まない点。

相違点3:本件発明1の石膏は、「半水石膏を含み、前記半水石膏の220面のX線回折強度に対する114面のX線回折強度の強度比は65?115である」が、引用発明の石膏が、当該X線回折強度の半水石膏を含むか否か明らかでない点。

3.相違点の判断

事案に鑑み、相違点2から検討するに、甲1?6には、酸化スズに関する記載も示唆もないが、甲7の【0016】には、
「(実験例1?10)
[使用材料]
以下に示す材料を使用した。
(1)セメント:
・普通ポルトランドセメント(ブレーン比表面積3340cm2/g、宇部三菱セメント(株)製)
(2)還元剤
(i)スズ化合物(II):
・市販の硫酸スズ(II)(和光純薬社製、特級,純度96%以上)
・市販の酸化スズ(II)(和光純薬社製、特級,純度95%以上)
(ii)硫酸鉄(II):・・・」
【表1】には、六価クロムの溶出試験結果として、

が記載されている。
すなわち、甲7には、セメントに酸化スズを0.025質量%(スズ換算でセメントクリンカ1kgに対して約197mgの酸化スズに相当)を添加した「実験例5」が記載されている。
しかしながら、甲7の【0020】には、
「表1より、硫酸スズ(II)は、硫酸鉄(II)の添加量の1/2?1/3の添加量で同等の六価クロム溶出抑制効果を有することがわかる。また、酸化スズ(II)は、硫酸スズ(II)に比べて、六価クロム溶出抑制効果が非常に小さいことがわかる。」と記載されており、該実験例は、甲7において課題とする六価クロムの抑制効果が不十分な例として記載されているにすぎない。
してみると、当業者が、甲7の記載に基づき、引用発明において、セメント組成物に、スズ換算でセメントクリンカ1kgに対して40?250mgの酸化スズをさらに含ませること、すなわち、相違点2を解消することを容易になし得たとはいえない。しかも、本件発明1は、この相違点2により、こわばり現象の抑制と強度の向上という、甲1?7の記載からは予期し得ない作用効果も奏する(本件明細書【0023】【表1】参照)。
したがって、相違点1,3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1?7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
本件発明1を引用する本件発明2についても同様である。

第5.むすび

以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1,2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1,2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-07-08 
出願番号 特願2014-48972(P2014-48972)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 末松 佳記正 知晃佐溝 茂良  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 瀧口 博史
大橋 賢一
登録日 2015-08-21 
登録番号 特許第5794333号(P5794333)
権利者 住友大阪セメント株式会社
発明の名称 セメント組成物  
代理人 大谷 保  

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