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審決分類 |
審判 全部申し立て 特174条1項 H04N 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H04N 審判 全部申し立て 2項進歩性 H04N |
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管理番号 | 1317013 |
異議申立番号 | 異議2016-700255 |
総通号数 | 200 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2016-08-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-03-29 |
確定日 | 2016-07-19 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5787907号発明「自分撮り画像を撮影するための撮像装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5787907号の請求項に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1.手続の経緯 特許第5787907号の請求項1ないし26に係る特許(以下、「請求項1ないし26に係る特許」という。また、請求項毎に「請求項1に係る特許」などという。)についての出願(以下、「本件出願」という。)は、平成23年2月16日(パリ条約による優先権主張 平成22年3月3日 米国)を国際出願日として出願され、平成27年8月7日にその特許権の設定登録がされ、その後、特許に対し、平成28年3月29日に特許異議申立人 辻本 孝良(以下、単に「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2.本件発明 請求項1ないし26に係る特許に係る発明(以下、順に「本件発明1」ないし「本件発明26」という。)は、それぞれ、本件出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「本件特許明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし26に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 画像を撮影するように構成された装置であって: 画像センサ; 前記装置の一の視野内に、一つ以上の顔が存在することを検出するために、前記画像センサの出力を処理するように構成されたプロセッサ;および 前記装置の視野内における顔の存在を検出することに応答して、フィードバックを提供するフィードバック機構であって、前記フィードバック機構は、前記装置の自分撮りモードの間、前記装置と前記検出された顔との間の距離が指定された距離範囲内にあることに応答する場合だけ前記フィードバックを提供し、前記自分撮りモードは前記検出された顔が較正プロセスによって事前に登録された顔を具備するときにアクティブ化され、撮影者が腕を伸ばして前記装置を把持することが可能な状態における前記距離に関する記憶された距離範囲を前記指定された距離範囲が具備する、フィードバック機構; を備える装置。 【請求項2】 前記フィードバックは、前記視野内において検出された顔の個数の表示を具備する、請求項1記載の装置。 【請求項3】 前記フィードバック機構は、音声によるフィードバック機構を具備する、請求項1記載の装置。 【請求項4】 前記音声によるフィードバック機構は、言葉による指示を使用してフィードバックを与えるように構成されている、請求項3記載の装置。 【請求項5】 前記フィードバック機構は、視覚によるフィードバック機構を具備する、請求項1記載の装置。 【請求項6】 前記視覚によるフィードバック機構は、一つ以上のシグナル光源を使用して前記フィードバックを与えるように構成される、請求項5記載の装置。 【請求項7】 前記視覚によるフィードバック機構は、前記装置の前方のディスプレイ画面上にテキストやアイコンを表示することによって前記フィードバックを与えるように構成される、請求項5記載の装置。 【請求項8】 前記フィードバック機構は、振動発生を使用して前記フィードバックを与えるように構成された、触覚のフィードバック機構を具備する、請求項1記載の装置。 【請求項9】 前記フィードバックは、改善された前記視野を提供するために前記装置の向きが修正されるべき方向を提示する方向表示を含んでいる、請求項1記載の装置。 【請求項10】 前記改善された視野は、一つ以上の構図ルールを充足する、請求項9記載の装置。 【請求項11】 デジタル画像の撮影動作を開始するように構成された撮影開始機構をさらに具備し、前記撮影開始機構は、画像撮影ボタン、遠隔制御手段、タイマー機構または音声駆動機構のうちの少なくとも一つ以上を具備している、請求項1記載の装置。 【請求項12】 少なくとも、前記フィードバックが与えられる第1の動作モードと前記フィードバックが全く与えられない第2の動作モードと、のいずれか一方を選択することを可能にするように構成されたユーザ・インターフェース制御部を更に具備する、請求項1記載の装置。 【請求項13】 前記フィードバック機構によって与えられるべきフィードバックのタイプを択一的に選択することを可能にするように構成された制御入力部を更に備える、請求項1記載の装置。 【請求項14】 前記装置から前記顔までの距離は、前記検出された顔の大きさに応じて推定された距離を具備する、請求項1記載の装置。 【請求項15】 前記フィードバック機構は、前記視野との間の相対関係において、前記検出された顔が指定された検出サイズの範囲内に位置する場合のみ、フィードバックを与えるようにさらに構成されている、請求項1記載の装置。 【請求項16】 前記プロセッサは、前記検出された顔の識別名を判定するようにさらに構成され、前記フィードバックは、前記識別名による顔の識別に応じて、カスタマイズされる、請求項1記載の装置。 【請求項17】 前記プロセッサは、顔画像認識を使用して、前記顔が前記装置の視野内に含まれているか否かを判定するようにさらに構成されている、請求項1記載の装置。 【請求項18】 前記プロセッサは、一つ以上の所定の基準が満足された時に、前記撮影者が更なる操作を行うことなく、デジタル画像の撮影動作を自動的に起動するようにさらに構成されている、請求項1記載の装置。 【請求項19】 前記一つ以上の所定の基準は、画像の構図ルールが充足されていること、被写体の人物の眼が開いていること又は被写体の人物の顔が笑っていることが検出されていること、または前記装置の動きが無いことが検出されていることの中の少なくとも一つ以上を含む、請求項18記載の装置。 【請求項20】 前記フィードバック機構は、前記視野内に少なくとも一つの顔の存在を検出することに応答して、前記視野内に前記撮影者が含まれているとき、前記撮影者に対してフィードバックを提供するように構成されている、請求項1記載の装置。 【請求項21】 前記記憶された距離範囲は、前記装置の自分撮りモードにおける較正プロセスによって提供される、請求項1記載の装置。 【請求項22】 前記画像センサ上に撮影シーンの画像を形成するための光学系をさらに具備する、請求項1記載の装置。 【請求項23】 視野内に一つ以上の顔が存在することを検出するために、画像を撮影するように構成された装置の画像センサーの出力をプロセッサが処理するステップ;および 前記装置の視野内における顔の存在を検出することに応答して、フィードバック機構が、フィードバックを提供するステップであって、前記フィードバック機構は、前記装置の自分撮りモードの間、前記装置と前記検出された顔との間の距離が指定された距離範囲内にあることに応答する場合だけフィードバックを提供し、前記自分撮りモードは前記検出された顔が較正プロセスによって事前に登録された顔を具備するときにアクティブ化され、撮影者が腕を伸ばして前記装置を把持することが可能な状態における前記距離に関する記憶された距離範囲を前記指定された距離範囲が具備する、ステップ; を具備する方法。 【請求項24】 前記検出された顔のサイズに基づいて前記装置と前記検出された顔との間の距離を推定するステップをさらに具備する、請求項23記載の方法。 【請求項25】 媒体面上に命令コードが記憶されたコンピュータ読み出し可能記録媒体であって、前記命令コードは、実行された際に: 視野内に一つ以上の顔が存在することを検出するために、画像を撮影するように構成された装置の画像センサーの出力を処理するステップ;および、 前記装置の視野内における顔の存在を検出することに応答して、フィードバックを提供するステップであって、前記フィードバックは、前記装置の自分撮りモードの間、前記装置と前記検出された顔との間の距離が指定された距離範囲内にあることに応答する場合だけ提供され、前記自分撮りモードは前記検出された顔が較正プロセスによって事前に登録された顔を具備するときにアクティブ化され、撮影者が腕を伸ばして前記装置を把持することが可能な状態における前記距離に関する記憶された距離範囲を前記指定された距離範囲が具備する、ステップ; をコンピュータ装置に実行させる、コンピュータ読み出し可能記録媒体。 【請求項26】 前記命令コードは、前記検出された顔のサイズに基づいて前記装置と前記検出された顔との間の距離を推定するステップをさらに具備する、請求項25記載のコンピュータ読み出し可能記録媒体。」 第3.特許異議申立の理由 異議申立人は、証拠方法として、次に示す甲第1ないし10号証を提出し、概ね以下の理由を主張している。 1.証拠方法 (1)甲第1号証:特開2009-065577号公報 (2)甲第2号証:特開2008-283258号公報 (3)甲第3号証:特開2006-319550号公報 (4)甲第4号証:特開2007-150601号公報 (5)甲第5号証:特開2007-150603号公報 (6)甲第6号証:特開2007-274264号公報 (7)甲第7号証:特開2007-259035号公報 (8)甲第8号証:特開昭62-192963号公報 (9)甲第9号証:特開2004-208276号公報 (10)甲第10号証:特開2007-266692号公報 2.理由の概要 (1)特許法第29条第2項について ・理由1 本件発明1ないし6、本件発明8ないし10、本件発明12、本件発明13、及び本件発明15ないし23、25は、甲第1号証記載の甲1発明と甲第2号証及び甲第3号証記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項により特許を受けることができないものであり、請求項1ないし6、請求項8ないし10、請求項12、請求項13、及び請求項15ないし23、25に係る特許は、同法第113条第2項に該当し、取り消されるべきである。(以下、「理由1」という。) ・理由2 本件発明7は、甲第1号証記載の甲1発明と甲第2号証及び甲第3号証記載の事項及び周知技術(甲第7号証記載の事項)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項により特許を受けることができないものであり、請求項7に係る特許は、同法第113条第2項に該当し、取り消されるべきである。(以下、「理由2」という。) ・理由3 本件発明11は、甲第1号証記載の甲1発明と甲第2号証及び甲第3号証記載の事項及び周知技術(甲第8及び9号証記載の事項)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項により特許を受けることができないものであり、請求項11に係る特許は、同法第113条第2項に該当し、取り消されるべきである。(以下、「理由3」という。) ・理由4 本件発明14、24、26は、甲第1号証記載の甲1発明と甲第2号証及び甲第3号証記載の事項及び周知技術(甲第10号証記載の事項)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項により特許を受けることができないものであり、請求項14、24、26に係る特許は、同法第113条第2項に該当し、取り消されるべきである。(以下、「理由4」という。) (2)特許法第36条第6項第1号について ・理由5 本件発明1ないし8、本件発明11ないし18、本件発明20ないし26が備えるフィードバック機構は、「前記装置と前記検出された顔との間の距離が指定された距離範囲内にあることに応答する場合だけ」フィードバックをするものであるが、この構成は「腕を目一杯伸ばした長さでカメラが保持されているかどうか」を判断しているだけで、「カメラが正しい方向に向けられているか否かを」判定することは不可能である。したがって、請求項1ないし8、請求項11ないし18、請求項20ないし26の記載は、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて請求するものであるから特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないので、請求項1ないし8に係る特許、請求項11ないし18に係る特許、請求項20ないし26に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきである。(以下、「理由5」という。) (3)特許法第36条第6項第2号について ・理由6 ユーザがカメラを把持して自撮りを行う際には、顔と装置との距離が指定された距離範囲内にあることは当然であり、指定された距離範囲内にある場合にフィードバックがなされても、腕を伸ばしてカメラを把持しているユーザにしてみれば、カメラが腕を伸ばした範囲内にあるという当然のことを確認できるだけであり、本件発明1ないし8、本件発明11ないし18、本件発明20ないし26がどういう技術的意味を有するのか皆目見当がつかない。したがって、請求項1ないし8、請求項11ないし18、請求項20ないし26の記載は、発明特定事項の技術的意味を当業者が理解できず、不明確であるから特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないので、請求項1ないし8に係る特許、請求項11ないし18に係る特許、請求項20ないし26に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきである。(以下、「理由6」という。) (4)特許法第17条の2第3項について ・理由7 本件発明1、23、25において、出願人が平成27年3月30日に行った補正により追加された構成要件「前記自分撮りモードは前記検出された顔が較正プロセスによって事前に登録された顔を具備するときにアクティブ化され、」のうち、顔が「事前に登録された」ものである点は、当初明細書に記載されておらず、当初明細書の記載から自明な事項でもない。したがって、当該補正は、当初明細書に記載した事項の範囲内でするものとは言えないから特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないので、請求項1ないし26に係る特許は、同法第113条第1号に該当し、取り消されるべきである。(以下、「理由7」という。) 第4.当審の判断 1.理由1について (1)甲第1号証の記載事項 本件優先権主張の日前に頒布された刊行物である甲第1号証には、図面とともに次の事項が記載されている。(なお、下線は当審にて付与した。) (ア)「本発明は、カメラなどの撮像装置および撮像方法に関するもので、特に撮影者自らが被写体となって撮影する場合に好適な撮像装置および撮像方法に関するものである。」(【0001】) (イ)「・・・前段省略・・・ レンズ81,82を通過した被写体光は、絞り83を介して固体撮像素子の受光面に結像される。固体撮像素子は、CCD85で構成されており、その受光面には、所定の配列構造(ベイヤー、Gストライプなど)で配列された赤(R)、緑(G)、青(B)のカラーフィルタを介して多数のフォトダイオード(受光素子)が二次元的に配置されている。 レンズ81,82を通過した被写体光は、CCD85の各フォトダイオードによって受光され、入射光量に応じた量の信号電荷に変換される。 ・・・途中省略・・・ このデジタルのRGB信号が、センサ入力制御部44を介し、Raw-RGB画像データ55としてメモリ(SDRAM)54に取り込まれる。」(【0028】、【0029】) (ウ)「最近のデジタルカメラは、「フェイスモード」を搭載している機種がある。このフェイスモードは、被写体として画面内にある人物の顔を自動的に認識し、ピント、露出、ホワイトバランスを人物の顔に合わせて最適に調整して撮影することができる撮影モードである。被写体が画像の中心にいない場合や、複数の顔がある場合(最大数人のレベル)でも、カメラが顔を認識し、顔に合った最適な条件で撮影する。フェイスモードに設定されているデジタルカメラは、顔を検出すると、液晶モニタ9に表示された画像に、例えば図4に示すような顔検出枠K1を表示する。一旦顔を検出すると、次は検出した顔を追尾する「顔追尾」状態となり、デジタルカメラは顔検出枠K1を動かしながら検出した顔を追尾し続ける。 この顔検出技術は、既に公知の技術である。本実施例にかかるデジタルカメラは、顔検出部53にて顔を検出し、以下のようにして上記機能を実現する。画像信号処理部46で生成された輝度/色差信号が図3に示す制御系統中の顔検出部53に出力されると、顔検出部53は、入力された輝度/色差信号から、画像内の顔を抽出する。顔の抽出は、たとえば、画像内の人間の顔にある様々な明暗差(目はほほより暗く、あごは唇より明るい、などの法則を複数持つ)を捉えることにより、または肌色データを抽出することにより、画像中の人物の顔を検出する。顔検出部53で検出された顔の位置データは、CPU40に出力される。CPU40は、検出された顔の位置にしたがい、OSDMIX部48に対して図4に示す顔検出枠K1を設定する。OSDMIX部48では入力されたYUV画像データ(ライブビュー画像)の輝度/色差信号に、顔検出枠のオンスクリーンディスプレイデータを重ね合わせて合成され、ビデオエンコーダ65および液晶モニタ信号処理部49に出力する。これにより、図4のような顔検出枠K1を表示する。 」(【0040】、【0041】) (エ)「・・・前段省略・・・ 前述の「自分撮り」や「依頼撮り」を行う場合、撮影者(依頼者)自身は液晶モニタ9が見えないため、撮影者(依頼者)自身が撮影する画像の構図等を決定することができない。そこで、本実施例のデジタルカメラには、撮影を補助する機能として顔検出技術を用いた撮影ガイド機能が備えられている。 ・・・以下省略・・・ 」(【0042】) (オ)「以上、一連の修正処理により、画像中における被写体の顔の位置が、顔配置枠の中央に位置するので、ステップS33において、撮影可能ガイドを実行する(表1(7)、表2(7)、表3(7)参照)。音声ガイドの場合、「撮影して下さい」という音声をスピーカー7から出力する。これで撮影ガイドの処理を終了する。」(【0070】) (カ)「本実施例にかかるデジタルカメラは、図15(b)に示すように、11種類の静止画撮影用シーンモードを持ち、そのうち1つに「自分撮りモード」を備えている。「自分撮りモード」を選択するには、デジタルカメラ本体30のモード切替スイッチ11を「SCENE」に合わせ(図15(a)参照)、↑/MODEボタン15を押す。液晶モニタ9に図15(b)のようなシーン選択画面が表示される。撮影者は、↑/MODEボタン15、→/クイックレビューボタン16、↓/マクロボタン18、←/フラッシュボタン19を使用して、上下左右4方向へカーソルを動かしシーンモードを選択する。MENU/OKボタン17を押すと、シーンモードが決定される。」(【0071】) (キ)「「自分撮りモード」では、被写体の顔検出を開始し、人物の顔を検出すると、その人物の顔に対してピント、露出、ホワイトバランスを調整する。同時に、スピーカー7からの音声ガイド(表3)により、被写体の顔が顔配置枠に属するように撮影ガイドをする。この動作を図16に示す。」(【0072】) (ク)「図16において、まず、ステップS40で、「自分撮りモード」の設定有無を判定する。デジタルカメラ本体30のモード切替スイッチ11をSCENEに合わせた後、MODEボタンを押して液晶モニタ9上に表示されるシーンモード選択画面にあるアイコンを、↑↓←→ボタンを押して選択し、MENU/OKボタン17を押し、確定操作を行うことにより「自分撮りモード」を設定する。(図15参照)。次に、ステップS41で、検出開始をユーザへ知らせるために、開始ガイドを実行する(表1(1)、表2(1)、表3(1)参照)。次に、ステップS42で、前記CCD85から得た画像に基づき、顔検出部53で人物の顔位置の検出を行なう。さらに、ステップS43で、顔検出部53の検出結果に基づき、撮影する画像中に人物の顔があるか否か判定する。判定の結果、撮影する画像中に人物の顔がないと判定すると、本処理を終了する。一方、ステップS43で、撮影する画像の中に人物の顔が検出されると、ステップS44に進み、その人物の顔の数に基づいて、顔配置枠設定処理(図9参照)を実行する。続いて、ステップS45で、顔検出(グループ)枠が顔配置枠領域に属しているか否か判定し、その結果に対してガイドを行う撮影ガイド処理(図14参照)を実行する。 ・・・以下省略・・・ 」(【0073】) したがって、上記(ア)ないし(キ)の記載事項から、本件発明1の表現にならって整理すると、甲第1号証には次の事項からなる発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。 ・甲1発明 「画像を撮影するように構成された装置であって、 固体撮像素子、 被写体として撮影する画像内に一つ以上の顔が存在することを検出するために、固体撮像素子の出力を処理するように構成されたCPU、 撮影する画像内における顔の存在を検出することに応答して、フィードバックを提供するフィードバック機構、 自分撮りモードの間、被写体の顔の位置が設定された顔配置枠内にある場合に撮影可能である旨のフィードバックを提供する構成、 撮影者がモード切替スイッチを操作することにより自分撮りモードがアクティブ化される構成、 を備える装置。」 (2)甲第2号証の記載事項 本件優先権主張の日前に頒布された刊行物である甲第2号証には、図面とともに次の事項が記載されている。(なお、下線は当審にて付与した。) (ク)「ステップS56において、CPU21は合焦時のフォーカスレンズ12の位置が所定範囲内か否かを判定する。CPU21は、自分の撮影に適した距離に被写体(本例ではユーザの顔)が存在する場合に、ステップS56を肯定判定してステップS57へ進む。具体的には、ズームレンズ11の位置(上記焦点距離範囲)に対応させて20cm?1mの範囲を適切な被写体距離(電子カメラ1からユーザの顔までの距離)とする。そして、合焦後の被写体距離が、上記20cm?1mの距離範囲内であればステップS56を肯定判定する。」(【0056】) (ケ)「図8のステップS57において、CPU21は表示回路30に指示を送り、合焦を示すマークを表示モニタ31に表示させる。CPU21はさらに、AF補助光源26を点滅発光させる。この点滅発光は、ユーザに対して撮影準備が整ったことを報知するものである。」(【0059】) (コ)「(5)上記(3)に加えて、被写体距離の近距離側を所定距離(20cm)より長い範囲でなければ撮影(ステップS61)へ進まないようにした(ステップS56)。これにより、撮影画像において顔の領域が大きすぎることがなく、画像の比較に適したサイズで顔を撮影することができる。20cm?1mの範囲は人の手の長さに対応しており、自らの手で電子カメラ1を構えて自分を撮影する場合に適している。なお、被写体距離の範囲は、温度環境等による距離検出の誤差も加味して少し広めの設定をしている。」(【0072】) (サ)「以上説明した第一の実施形態によれば、次の作用効果が得られる。 (1)参照用画像を撮影する場合、焦点距離を所定値(50mm)より短い広角側の範囲へズームレンズ11を駆動するようにした(ステップS20において実行する図8のステップS63)。これにより、焦点距離が50mmより長い望遠側での撮影が禁止されるので、遠方からの盗撮によるなりすましを防止することができる。 (2)上記(1)に加えて、焦点距離の広角側を所定値(28mm)までに制限した(ステップS20において実行する図8のステップS63)。これにより、撮影画像において顔の領域が小さすぎることがなく、画像の比較に適したサイズで顔を撮影することができる。 (3)比較用画像を撮影する場合、参照用画像の撮影時の焦点距離(たとえば37mm)を含む所定範囲内の焦点距離(たとえば33mm?45mm)に制御したので(ステップS14において実行する図8のステップS63)、参照用画像および比較用画像の撮影倍率を近づけることができる。これにより、撮影倍率が揃っていない場合に比べて比較処理が簡単になり、登録ユーザか否かを判定するまでに要する時間を短くすることができる。さらに、参照用画像を撮影する場合と同様に、遠方からの盗撮によるなりすましを防止しつつ、画像の比較に適したサイズで顔を撮影することができる。 (4)参照用画像および比較用画像を撮影する場合、被写体距離が所定距離(1m)より短い範囲でなければ撮影(ステップS61)へ進まないようにした(ステップS14、ステップS20において実行する図8のステップS56)。これにより、被写体距離が1mより長い場合の撮影が禁止されるので、遠方からの盗撮によるなりすましを防止することができる。」(【0068】?【0071】) ここで、上記(ケ)に記載の「点滅発光」は、ユーザ(撮影者)に対して撮影準備が整ったことを報知するものであるから、ユーザ(撮影者)に対する『フィードバック』といえる。 また、上記(ケ)に記載の「20cm?1mの範囲を適切な被写体距離」は、予め装置(電子カメラ)に記憶されているものであることは自明である。 したがって、上記(ク)ないし(サ)の記載事項から、本件発明1の表現にならって整理すると、甲第2号証には次の事項からなる技術(以下、「甲2-1技術」、「甲2-2技術」という。)が記載されている。 ・甲2-1技術 「装置(電子カメラ)と顔との距離が所定範囲内にある場合のみ、撮影準備が整ったことをフィードバックする技術。」 ・甲2-2技術 「撮影準備が整ったことをフィードバックする条件となる距離範囲として、撮影者が手を伸ばして装置(電子カメラ)を構えることが可能な状態における装置(電子カメラ)と顔との距離が指定され、その距離範囲は装置(電子カメラ)に記憶されているフィードバック機構。」 (3)甲第3号証の記載事項 本件優先権主張の日前に頒布された刊行物である甲第3号証には、図面とともに次の事項が記載されている。(なお、下線は当審にて付与した。) (シ)「まず、同定部52aは、顔検出部51によって検出された顔の画像に対し、特徴量を取得する複数の点(以下、「特徴点位置」と呼ぶ)を設定する。同定部52aは、例えば特徴点位置のテンプレートを用いることによって、特徴点位置を決定しても良い。次に、同定部52aは、決定された各特徴点位置において、所定の特徴量を取得する。特徴量の具体例には、上述した画像の輝度値ベクトルがある。次に、同定部52aは、画像から取得された特徴量と、予め特徴量記憶部4に記憶される特徴量とを比較することにより、両特徴量が同一人物の特徴量であると認められるか否か判断する。両特徴量の比較処理は、正規化相関やユークリッド距離を使用することにより実現できる。もしも特徴量記憶部4に複数人の特徴量が記憶されている場合には、同定部52aは、撮像装置1aの所有者の特徴量として記憶されている特徴量を使用する。そして、同定部52aは、両特徴量が同一人物のものであると認められる場合に、顔検出部51によって検出された顔は、撮像装置1aの所有者の顔であると判断する。」(【0042】) (ス)「同定部52aは、撮像された顔が一つであり、その顔が撮像装置1aの所有者の顔であると認められる場合は、シャッター音を出力しないように出力部6を制御する。一方、同定部52aは、撮像された顔が複数あると認められる場合や、撮像装置1aの所有者以外の顔が撮像されたと認められる場合は、シャッター音を出力するように出力部6を制御する。即ち、同定部52aは、撮像された顔が一つであり、その顔が撮像装置1aの所有者の顔であると認められる場合は、盗撮抑止動作を実行しないように出力部6を制御する。一方、同定部52aは、撮像された顔が複数あると認められる場合や、撮像装置1aの所有者以外の顔が撮像されたと認められる場合は、盗撮抑止動作を実行するように出力部6を制御する。」(【0043】) (セ)「また、人によっては顔認証処理の実施にかかわらず自身の顔を撮像したいと考える場合もある(いわゆる「自分撮り」と呼ばれる行為)。しかしながら、このような行為を恥ずかしいと感じる者もいる。従って、シャッター音が出力されると、人の多い場所や静かな場所で自分撮りをすることが躊躇される場合がある。このような場合にも、撮像装置1aでは、自身の顔を撮像する限りにおいてはシャッター音が出力されないため、周囲の目を気にすることなく自分撮りを行うことが可能となる。」(【0049】) ここで、上記(シ)に記載されている様に、「同定部52aは、画像から取得された特徴量と、予め特徴量記憶部4に記憶される特徴量とを比較することにより、両特徴量が同一人物の特徴量であると認められるか否か判断する」のであるから、撮像装置1aの所有者の顔の特徴量は、事前に撮像装置1aの特徴量記憶部4に登録されていることは明らかである。 したがって、上記(シ)ないし(セ)の記載事項から、本件発明1の表現にならって整理すると、甲第3号証には次の事項からなる技術(以下、「甲3技術」という。)が記載されている。 ・甲3技術 「顔検出部によって検出された顔が事前に登録された顔を具備する時、自分撮りとしてシャッター音を出力しない様に制御する構成。」 (4)本件発明1と甲1発明の対比 本件発明1と甲1発明を対比する。 a)甲1発明の「固体撮像素子」は、本件発明1でいうところの『画像センサ』に対応する。 b)甲1発明の「被写体として撮影する画像内に一つ以上の顔が存在することを検出するために、固体撮像素子の出力を処理するように構成されたCPU」は、本件発明1でいうところの『装置の一の視野内に、一つ以上の顔が存在することを検出するために、前記画像センサの出力を処理するように構成されたプロセッサ』に対応する。 c)甲1発明の「撮影する画像内における顔の存在を検出することに応答して、フィードバックを提供するフィードバック機構」は、本件発明1でいうところの『装置の視野内における顔の存在を検出することに応答して、フィードバックを提供するフィードバック機構』に対応する。 d)甲1発明の「自分撮りモードの間、被写体の顔の位置が設定された顔配置枠内にある場合に撮影可能である旨のフィードバックを提供する構成」は、本件発明1でいうところの『フィードバック機構は、装置の自分撮りモードの間、前記フィードバックを提供』することに対応する。 したがって、両者は、 「画像を撮影するように構成された装置であって: 画像センサ; 前記装置の一の視野内に、一つ以上の顔が存在することを検出するために、前記画像センサの出力を処理するように構成されたプロセッサ;および 前記装置の視野内における顔の存在を検出することに応答して、フィードバックを提供するフィードバック機構であって、前記フィードバック機構は、前記装置の自分撮りモードの間、前記フィードバックを提供するフィードバック機構; を備える装置。」 という点で一致し、以下の点で相違している。 <相違点1> フィードバックを提供するタイミングについて、本件発明1は「装置と前記検出された顔との間の距離が指定された距離範囲内にあることに応答する場合だけ」と限定されているのに対し、甲1発明にはその旨の限定がない点。 <相違点2> 自分撮りモードのアクティブ化について、本件発明1は「検出された顔が較正プロセスによって事前に登録された顔を具備するとき」であるのに対し、甲1発明においては「撮影者がモード切替スイッチを操作する」という点。 <相違点3> 本件発明1は「撮影者が腕を伸ばして前記装置を把持することが可能な状態における前記距離に関する記憶された距離範囲を前記指定された距離範囲が具備する」との事項を備えているのに対し、甲1発明にはその旨明示されていない点。 (5)判断 (5-1)相違点1及び3について 上記(2)で言及した様に、甲第2号証には、「電子カメラと顔との距離が所定範囲内にある場合のみフィードバックを行う技術」(「甲2-1技術」)や「フィードバックを行う条件としての距離範囲が電子カメラに記憶されているという技術」(「甲2-2技術」)が開示されているが、当該技術は上記(2)の(コ)及び(サ)に記載されている様に、“画像の比較に適したサイズで顔を撮影する”ためや“遠方からのなりすましを防止する”ために用いられるものである。 一方、甲1発明は、顔検出枠が顔配置枠に属するように撮影ガイドを行うことで、上記(1)の(エ)に記載されている様に、「「自分撮り」や「依頼撮り」を行う場合、撮影者(依頼者)自身は液晶モニタ9が見えないため、撮影者(依頼者)自身が撮影する画像の構図等を決定することができない」との課題を解決した発明であり、デジタルカメラと顔との距離に関係なく、顔検出枠が顔配置枠に属するように撮影を補助する機能としてのガイドが実行されれば良いのであるから、甲1発明においては、“自分撮りの際、デジタルカメラと顔との距離が特定の距離範囲内の場合のみ撮影ガイドを行う”とする様な機能や“ガイドを行う条件としての距離範囲をデジタルカメラに記憶させておく”とする様な機能、を備える必要性があるとはいえず、また、その様な必要性を示唆する記載も甲第1号証にはない。 更に、甲1発明に係る顔検出は、デジタルカメラが撮影する画像内に顔があることを検出できれば良いのであって、検出された顔を“デジタルカメラに予め記憶されている顔との比較のために使用したり、自分取りの際のなりすましの防止のために使用したり”するものではない。 してみると、デジタルカメラと顔との距離に特別な関連性を必要としない甲1発明に対して、“画像の比較に適したサイズで顔を撮影する”ためや“遠方からのなりすましを防止する”ために用いられる「甲2-1技術」及び「甲2-2技術」を適用する合理的な動機があるとはいえない。 (5-2)相違点2について 上記(3)で言及した様に、甲第3号証には、人の多い場所や静かな場所で周囲の目を気にすることなく自分撮りを行うことを可能とするために、「顔検出部によって検出された顔が事前に登録された顔を具備する時、自分撮りとしてシャッター音を出力しない様に制御する構成。」(甲3技術)が開示されている。 一方、上記(5-1)で言及した様に、甲1発明は、顔検出枠が顔配置枠に属するように撮影ガイドを行うことで、上記(1)の(エ)に記載されている様に、「「自分撮り」や「依頼撮り」を行う場合、撮影者(依頼者)自身は液晶モニタ9が見えないため、撮影者(依頼者)自身が撮影する画像の構図等を決定することができない」との課題を解決した発明であり、撮影者がモード切替スイッチを操作することで前記撮影ガイドを実行させている。そして、甲1発明は、デジタルカメラが撮影する画像内に顔があることを検出できれば良いのであるから、検出した顔が事前に登録されたものであるか否かを判断する必要性があるとはいえず、更に、検出した顔が事前に登録されたものであればデジタルカメラのモードを撮影ガイドが実行されるモードにする、との技術的必要性を示唆する記載もない。 してみると、“検出した顔が事前に登録されたものであるか否かを判断する必要性がなく”、かつ、“撮影者がモード切替スイッチを操作することで前記撮影ガイドを実行させている”甲1発明に対して、自分撮りとしてシャッター音を出力しない様に制御する「甲3技術」を適用する合理的な動機があるとはいえない。 また、仮に、異議申立人が主張する様に「甲第4乃至第6号証の記載事項を鑑みると、カメラ撮影の分野において、ユーザの利便性を高めることは一般的な課題であって、この課題を解決するために顔認識の結果に応じて自動的に所定のモードをアクティブ化することは、従来から広く行われていた。」(異議申立書49頁3行?6行)として、ユーザの利便性を高めるためとの動機により、甲1発明に甲3技術を適用したとしても、顔検出部によって検出された顔が事前に登録された顔を具備する時、自分撮りとしてシャッター音を出力しない様に制御するだけであり、甲1発明において、「操作者がモード切替スイッチを操作するすることにより自分撮りモードをアクティブ化させていた構成」を代替するとはいえない。 (6)小括 したがって、本件発明1は、甲1発明と甲2-1技術、甲2-2技術、及び甲3技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (7)本件発明2ないし6、本件発明8ないし10、本件発明12、本件発明13、及び本件発明15ないし23、25について (7-1)請求項2ないし6、8ないし10、12、13、15ないし22は、いずれも請求項1を引用するものであって、請求項1にさらに限定を付加するものであるので、本件発明2ないし6、8ないし10、12、13、15ないし22は、いずれも本件発明1をさらに限定したものである。 したがって、本件発明2ないし6、8ないし10、12、13、15ないし22は、本件発明1と同様に、甲1発明と甲2-1技術、甲2-2技術、及び甲3技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (7-2)請求項23及び25は、単に、請求項1に係る発明のカテゴリーを方法に変更したもの、又は請求項1に係る発明をコンピュータに実行させるためのコンピュータ読み出し可能記録媒体、としたものであり、請求項1と実質的に同じ発明特定事項を有するものであるから、本件発明1と同様に、甲1発明と甲2-1技術、甲2-2技術、及び甲3技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (8)理由1についてのむすび 以上のとおりであるから、請求項1ないし6、請求項8ないし10、請求項12、請求項13、及び請求項15ないし23、25に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2項に該当するものではない。 2.理由2、理由3、理由4について 請求項7、11、14は、いずれも請求項1を引用するものであって、請求項1にさらに限定を付加するものであるので、本件発明7、11、14は、いずれも本件発明1をさらに限定したものである。 また、請求項24及び26は、それぞれ請求項23、25を引用するものであって、請求項23、25にさらに限定を付加するものであるので、本件発明24、26は、いずれも本件発明23、25をさらに限定したものである。 したがって、本件発明7、11、14、24、26は、上記「1.理由1について」で言及したとおり、本件発明1と同様に、異議申立人が異議申立書において、甲第7号証、甲第8号証、甲第9号証、甲第10号証として示した周知技術について検討するまでもなく、甲1発明と甲2-1技術、甲2-2技術、及び甲3技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 よって、本件発明7、11、14、24、26は、甲1発明と甲2-1技術、甲2-2技術、甲3技術、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 以上のとおりであるから、請求項7、11、14、24、26に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2項に該当するものではない。 3.理由5について 本件発明1は、撮影者自身を含む画像を撮影するために、腕を目一杯伸ばした長さでカメラが保持されている場合において、カメラが正しい方向に向けられているか否かを、撮影者自身であるユーザが旨い具合に判定するために、フィードバックを提供するものである。(【0012】参照。) そうすると、ユーザは、フィードバックが提供されることによって、「カメラが正しい方向に向けられているか否かを」判定できることは明らかである。 したがって、本件発明1が備える「前記フィードバック機構は、前記装置の自分撮りモードの間、前記装置と前記検出された顔との間の距離が指定された距離範囲内にあることに応答する場合だけ前記フィードバックを提供し、」との発明特定事項によって、検出された顔が登録された顔を具備すると自分撮りモードがアクティブ化されるのであり、このアクティブ化されている間に所定距離の検出をしているから「登録された顔」が視野内に存在すること、すなわち、「カメラが正しい方向に向けられているか否かを」ユーザが判定することが可能となるので、本件特許明細書における請求項1に記載された事項により特定される本件発明1は、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて請求するものとはいえないから、請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではなく、同法第113条第4号に該当するものではない。 なお、、請求項2ないし8に係る特許、請求項11ないし18に係る特許、請求項20ないし26に係る特許についても同様である。 4.理由6について 本件発明1は、撮影者自身を含む画像を撮影するために、腕を目一杯伸ばした長さでカメラが保持されている場合において、カメラが正しい方向に向けられているか否かを、撮影者自身であるユーザが旨い具合に判定するために、フィードバックを提供するものである。(【0012】参照。) そうすると、カメラが正しい方向に向けられているか否かをユーザが旨い具合に判定するためには、フィードバックが提供される必要があり、そして当該フィードバックが提供されるためには、カメラ動作モードが自分撮り撮影モードに切り替わっていなければならない。 そこで、本件特許明細書における【0069】の「本発明の代替的な実施形態においては、顔までの距離325が、顔までの距離の指定された数値範囲内にあると検出された場合、デジタル・カメラのカメラ動作モード320は、自分撮り撮影モードに自動的に切り替わる。これは、ユーザがユーザ・インターフェースを使用して自分撮り撮影モードを明示的に選択することの必要性を取り除く。」という記載、及び【0091】の「自分撮り撮影モードに関しては、較正プロセスを提供することが望ましい。特に、写真撮影装置が単一のユーザにより使用される場合、自分撮り撮影モードが正常に作動することが可能な距離の範囲は非常に限られているだろう。何故ならば、任意の所与のユーザに関して、撮影装置をユーザが保持することができる距離のばらつきは比較的小さいからである。従って、顔までの距離がそのような限定された距離範囲の中に収まることを撮影装置が検出した場合、その装置は自動的に自分撮り撮影モードに移行するように構成され得る。」という記載によると、カメラと顔までの距離が指定された数値範囲内にあるとカメラによって検出された場合、自分撮り撮影モードに自動的に切り替わることになる。 してみると、本件発明1が備える「前記フィードバック機構は、前記装置の自分撮りモードの間、前記装置と前記検出された顔との間の距離が指定された距離範囲内にあることに応答する場合だけ前記フィードバックを提供し、」との発明特定事項は、撮影者自身を含む画像を撮影するために、腕を目一杯伸ばした長さでカメラが保持されている場合において、カメラが正しい方向に向けられているか否かをユーザが旨い具合に判定するために、“撮影者自身であるユーザに対してフィードバックを提供できる様にカメラのカメラ動作モードを自分撮り撮影モードに設定する”ための事項であるとの技術的意味を有していると認められる。 したがって、本件特許明細書における請求項1に記載された事項により特定される本件発明1は明確であるから、請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではなく、同法第113条第4号に該当するものではない。 なお、請求項2ないし8に係る特許、請求項11ないし18に係る特許、請求項20ないし26に係る特許についても同様である。 5.理由7について 本件特許出願の出願当初の明細書における【0064】の「・・・本発明の他の実施形態においては、上記した判定動作は、検出された顔が撮影者210の顔と一致するか否かを判定する動作を更に追加的に実行することにより実現され得る。・・・」という記載、及び【0091】の「・・・本発明の幾つかの実施形態においては、較正プロセスは、撮影者210の顔を認識することができるように、デジタル・カメラ10を訓練するために使用することも可能である。それにより、撮影画像プレビュー動作ステップ300においてキャプチャされたプレビュー画像302の中から、顔判定動作ステップ305が撮影者210の顔を認識した時にのみ、自分撮り撮影モードが有効になるようにすることができる。」という記載によると、撮影者の顔と検出された顔とが一致するかを判定するために、撮影者の「顔」がカメラ側に事前に登録されていることは明示的な記載がなくとも自明な事項である。 したがって、出願人が平成27年3月30日に行った補正により追加された構成要件「前記自分撮りモードは前記検出された顔が較正プロセスによって事前に登録された顔を具備するときにアクティブ化され、」のうち、顔が「事前に登録された」ものである点は、出願当初の明細書の記載から自明な事項であるから、当該補正は、出願当初の明細書に記載した事項の範囲内でするものであり、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしており、請求項1ないし26に係る特許は、同法第113条第1号に該当するものではない。 第5.むすび 上記「第4.当審の判断」のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、請求項1ないし26に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1ないし26に係る特許を取り消すべき理由も発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2016-07-07 |
出願番号 | 特願2012-556093(P2012-556093) |
審決分類 |
P
1
651・
55-
Y
(H04N)
P 1 651・ 537- Y (H04N) P 1 651・ 121- Y (H04N) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 佐藤 直樹 |
特許庁審判長 |
水野 恵雄 |
特許庁審判官 |
佐藤 智康 吉田 隆之 |
登録日 | 2015-08-07 |
登録番号 | 特許第5787907号(P5787907) |
権利者 | インテレクチュアル ベンチャーズ ファンド 83 エルエルシー |
発明の名称 | 自分撮り画像を撮影するための撮像装置 |
代理人 | 大貫 進介 |
代理人 | 伊東 忠彦 |
代理人 | 伊東 忠重 |