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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) E01C
管理番号 1317027
判定請求番号 判定2016-600002  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2016-08-26 
種別 判定 
判定請求日 2016-01-26 
確定日 2016-07-29 
事件の表示 上記当事者間の特許第4708354号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号図面及びその説明書に示す「道路」は、特許第4708354号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨

本件判定の請求の趣旨は、イ号図面およびその説明書に示す道路(以下「イ号物件」という。)は、特許第4708354号発明(以下「本件特許発明」という。)の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。


第2 手続の経緯

本件特許発明に係る出願は、2005年9月16日(優先権主張 2004年9月18日、2005年5月17日)を国際出願日とする出願であって、下記1ないし5の経緯を経て、平成23年3月25日に特許権の設定登録がなされたものである。

1 本件特許発明に係る出願は、出願当初、請求項の数を11とし、請求項1には、特許請求の範囲を「所定のメロディーを構成する各音を発生するメロディーロードであって、各音の音階に対応する周波数および車速から特定される溝の間隔と、各音の音符長およびテンポに基づいて求めた音持続時間と車速とから特定される当該音符長の単位施工距離と、各音の音量に対応して特定される溝幅とを備えていることを特徴とするメロディーロード。」とする発明が記載されていた。
2 平成22年8月6日付けで、本件特許出願に係る請求項1ないし6に係る発明は、明確でなく、請求項1ないし5に係る発明は、その出願前に頒布された特開平2-8401号公報(乙第4号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたとして、請求人に対し拒絶理由が通知された(乙第3号証)。
3 請求人は、平成22年9月2日に、特許庁審査官と面接を行い、そこで請求項1を以下のように補正する補正案を提示したところ、特許庁審査官より「単位施工距離」という用語によりどのような構造を限定したことになるのかが不明との指摘がなされた(乙第7号証)。
「複数の溝が形成された路面体上を車両が走行することによって所定のメロディーを奏でるメロディーロードであって、前記メロディーに設定されているテンポおよび前記メロディーを構成する各音の音符長から求められた音持続時間と、前記路面体上を走行する車両の想定速度とに基づいて前記各音の単位施工距離が定められており、それら各音の単位施工距離ごとに形成される複数の溝は、前記各音の音量に対応して溝幅が設けられているとともに、前記各音の音階に対応する周波数と前記車両の想定速度に基づいて溝間隔が定められているメロディーロード。」
4 請求人は、平成22年10月18日付け意見書(乙第6号証)を提出し、同日付け手続補正書(乙第5号証)により、請求項1を以下のように補正した。
「車両が走行することによりメロディーを発生させる複数の溝で構成される溝群が複数配列された路面体からなるメロディーロードであって、一つの前記溝群は、前記メロディーを構成する一音に対応して形成され、前記各溝群は、前記メロディーを構成する各音の発生順に配列されており、前記各溝群は、それぞれ前記各音の音持続時間と車両の想定速度に応じて決定された距離を有する区間内に施工されており、前記溝群を構成する複数の溝は、前記区間内にわたって連続的に形成されているとともに、前記音の音階に応じた周波数と車両の想定速度に基づいて決定される溝間隔で形成されているメロディーロード。」
ここで、「区間内にわたって連続的に形成されている」との記載は、出願当初の明細書等にはなく、明細書の段落【0026】ないし【0034】等の記載を根拠に追加された。
また、上記意見書には以下の記載がある。
(1)「審査官殿は、理由1として、本願の請求項1?6に係る発明は明確でないから、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないと認定されました。
また、理由2として、本願の請求項1?5に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと認定されました。
そこで、出願人は、同日付けで提出した手続補正書によって特許請求の範囲を補正し、請求項1?6に係る発明を明確にするとともに、請求項1?5に係る発明と引用文献1との差異をより明確にしましたので併せてご参酌下さい。」
(2)「本願発明1と引用発明1とを比較しますと、両者の構成上、本願発明1では、「前記各溝群は、それぞれ前記各音の音持続時間と車両の想定速度に応じて決定された距離を有する区間内に施工されており」、「前記溝群を構成する複数の溝は、前記区間内にわたって連続的に形成されている」のに対し、引用発明1では、そのように構成されていない点で相違します。」
5 これに対し、平成23年2月16日付けで特許査定がなされた。

その後、平成28年1月26日に本件判定が請求され、これに対し、同年2月15日付けで被請求人に判定請求書副本を送達したところ、同年3月16日付けで被請求人から判定請求答弁書が提出された。

そして、平成28年4月5日付けで請求人に対して審尋をしたところ、同年5月6日付けで請求人から回答書、イ号図面(修正)及びイ号説明書(修正)が提出された。また、同年5月11日付けで被請求人に対して審尋をしたところ、同年6月14日付けで被請求人から回答書が提出されたものである。


第3 本件特許発明

特許第4708354号の特許請求の範囲には請求項1ないし11が記載されているところ、請求人は請求の趣旨においていずれの請求項に係る発明を対象として判定を求めるものか明示していないが、判定請求書「(3)本件特許発明の説明」等の記載からみて、判定の対象とすべき本件特許発明は、特許第4708354号の請求項1に係る発明であると認める。
そして、本件特許発明は、本件特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであり、構成要件ごとに分説すると次のとおりである(以下、分説された構成要件を「構成要件A」?「構成要件F」という。)。

「【請求項1】
A: 車両が走行することによりメロディーを発生させる複数の溝で構成される溝群が複数配列された路面体からなるメロディーロードであって、
B: 一つの前記溝群は、前記メロディーを構成する一音に対応して形成され、
C: 前記各溝群は、前記メロディーを構成する各音の発生順に配列されており、
D: 前記各溝群は、それぞれ前記各音の音持続時間と車両の想定速度に応じて決定された距離を有する区間内に施工されており、
E: 前記溝群を構成する複数の溝は、前記区間内にわたって連続的に形成されているとともに、前記音の音階に応じた周波数と車両の想定速度に基づいて決定される溝間隔で形成されている
F: メロディーロード。」


第4 当事者の主張

1 請求人らの主張

(1)イ号物件について

ア イ号物件は本件特許発明に即して以下のとおり特定される。

「a)車両が走行することによりメロディーを発生させる複数の溝3で構成される溝群2が複数配列された路面体1からなるメロディーロードであって、
b)一つの前記溝群2は、前記メロディーを構成する一音に対応して形成され、
c)前記各溝群2は、前記メロディーを構成する各音の発生順に配列されており、
d)前記各溝群2は、それぞれ前記各音の音持続時間と車両の想定速度に応じて決定された距離を有する区間6内に施工されており、
e)前記溝群2を構成する複数の溝3は、前記区間6内にわたって連続的に形成されているとともに、前記音の音階に応じた周波数と車両の想定速度に基づいて決定される溝間隔4で形成されている
メロディーロード。」

イ 上記アにおける「区間6」は、「溝群2」を含んでいると共に、溝群2より前方に溝3が形成されていない「空白部分7」をさらに含んでいる。

ウ 一音に対応する区間長に対する「空白部分7」の割合は、1割?1割強程度に過ぎない。


(2)対比・判断について

ア イ号物件は、本件特許発明の構成要件Aないし構成要件Fのすべてを充足する。

イ 本件特許発明の構成要件Eは、「わたる」の字義を踏まえると、「区間内はすべて溝が形成されていること」を必須要件とはしない。

ウ 本件特許発明の構成要件Eについて、イ号物件との間に空白部分7の有無に関して差異があるとしても、均等論が適用できるための第一要件ないし第五要件のすべてを満たすので、イ号物件は本件特許発明の均等物に該当する。


2 被請求人らの主張

(1)イ号物件について

ア 請求人が特定するイ号物件は、構成d)、e)の記載において溝3が形成されていない空白部分7の言及がないため正しくない。

イ 被請求人は、「メロディーロード」が請求人らの保有する登録商標であることを認識していてイ号物件においてこれを用いないようにしているにもかかわらず、請求人がイ号物件を「メロディーロード」を用いて特定していることは不誠実。

ウ イ号物件の溝なし部(空白部分7)は、次の区間の音との区切りを明確にするために設けられたものであって、区間長の1割?1割強程度に過ぎない。

(2)対比・判断について

ア 本件特許発明の構成要件Eは、「区間内はすべて溝が形成されていること」を要件としていると解され、空白部分7を含めて特定されるイ号物件は、構成要件Eを充足しない。

イ 上記アに関して、均等論が適用できるための第一、第二、第四、第五要件を満たさないため、均等論は適用できない。


第5 イ号物件の特定

1 甲第1号証には、芦ノ湖スカイラインに設けられた、残酷な天使のテーゼが流れるメロディペーブが記載されている。

2 上記1を踏まえて甲第3号証に係る現地調査動画をみると、上記アの残酷な天使のテーゼが流れるメロディーペーブが、車両が走行することによりメロディーを発生させる複数の溝で構成される溝群が複数配列された路面体からなる道路であることが把握できる。

3 甲第4号証には、「残酷な天使のテーゼ」の楽譜が記載されている。

4 イ号説明書(修正)の「(3)調査結果の詳細」において、甲第5号証に関して以下の説明がなされている。
ア 「甲第5号証における「原曲音階」「原曲音長」は甲第4号証の楽譜に基づく。「原曲音長」は、四分音符の長さを1としたときの各音の相対的な長さを示す。」
イ 「甲第5号証における「チョーク数値(1)」「チョーク数値(2)」は、各溝群2の路面にチョーク書きで記載されていた数値を示す。「チョーク数値(1)」は溝3同士の間隔に対応する溝ピッチを示す数値であり、「チョーク数値(2)」は区間長を示す数値であると推測された。前者の推測は後述の「溝ピッチ」の導出結果に基づく。後者の推測は、現地調査においていくつかの溝群2に関して溝群2の区間長を実測した際、チョーク数値と測定結果がいずれもほぼ一致したことに基づく。」
ウ 「甲第5号証における「音長」は、「チョーク数値(2)」が示す長さを有する各区間を想定時速40kmの自動車が通過するのに要する時間を表す。「音長比」は、0.612[s]を1としたときの各音長の相対的な大きさを示す。「音長比」は、調査対象とした音のうち、音符番号12、13、38及び39以外では、「原曲音長」に一致した。音符番号12、13、38及び39に関して、原曲における16分音符+4分休符を、路面体1では付点8分音符+8分休符にアレンジしているようである。」
エ 「甲第5号証における「溝ピッチ」は下記のように導出した。音符番号1?4及び40?43(甲第4号証において黄色マーカが付された範囲)については、複数本(例えば、10本程度)の連続する溝3を選び、選んだ溝3のうち、最も離れた溝3同士の距離を測定し、その測定距離を(溝数-1)で除算した。また、このように得られた「溝ピッチ」との照合により、「チョーク数値(1)」が溝ピッチを示していることが分かった。」
オ 「甲第5号証における「周波数」は、想定時速40kmで各溝群2を通過した場合にタイヤが1秒間に通過する溝3の本数を示す。音符番号1?4及び40?43(甲第4号証において黄色マーカが付された範囲)については、想定時速40kmの場合、1秒間に11111.11…mm進むので、11111.11…を「溝ピッチ」で除算することにより「周波数」を算出した。その他の音符番号においては、「チョーク数値(1)」を取得しているものについては、11111.11…を「チョーク数値(1)」で除算することにより「周波数」を算出した(かっこ書きの数値に対応)。」
カ 「甲第5号証における「推測音階」は、甲第5号証における「周波数」と平均律の各音階における周波数(特許第4708354号の図7参照)とを比較し、値が最も近いものに対応する音階とした。これによると、「原曲音階」の音程を2度(ピアノの鍵盤で、黒鍵を含めて2つ分)下げると「推測音階」と一致することが分かる。高い周波数が入ると溝ピッチが狭くなり耐久性が低下することから、このようなアレンジが施されたものと考えられる。このように、曲全体に渡って音程を一定値だけ変えるのは、絶対音感を持った人以外には一般にまったく違和感がないと考えられる。」

5 上記4に関し、判定請求答弁書において、「請求人らが甲第5号証で利用した、路面に残されたチョーク書きの各数値は被請求人の一人である末広産業株式会社の工事担当者がイ号発明を施工する際に作業用のメモとして耐候性のある特殊なチョークで路面に書いたもの・・・。・・・チョーク書きの各数値は正しいものであることは認めます。」(第3頁第11行ないし第15行)との説明がある。

6 甲第3号証、甲第5号証を踏まえてイ号図面(修正)をみると、
ア 一つの溝群2は、メロディーを構成する一音に対応して形成され、
イ 各溝群2は、メロディーを構成する各音の発生順に配列されており、
ウ 各溝群2及び各溝群2の車両進行方向前方に設けられた溝3が形成されていない空白部分7がそれぞれ、各音の音持続時間と車両の想定速度に応じて決定された距離を有する区間6内に施工されており、
エ 溝群2を構成する複数の溝3は、各溝群2及び空白部分7で構成される区間6内において、溝群2に対応する範囲においてのみ連続的に形成されているとともに、音の音階に応じた周波数と車両の想定速度に基づいて決定される溝間隔4で形成されている、
ことが看て取れる。

7 請求人ら及び被請求人らは、溝3が形成されていない空白部分7が、区間長の1割?1割強程度であると主張しているところ(上記「第4 1(3)」、「第4 2(3)」を参照。)、乙第1号証に記載された測定データは当該主張と整合していることから、両当事者の主張のとおりであると認められる。

8 上記1ないし7から、イ号物件は、次のaないしfの構成からなるものとするのが妥当である(以下、分説した構成を「構成a」などという。)。なお、符号は平成28年5月6日付け回答書に添付されたイ号図面(修正)のものを採用した。

「a:車両が走行することによりメロディーを発生させる複数の溝で構成される溝群が複数配列された路面体からなる道路であって、
b:一つの前記溝群2は、前記メロディーを構成する一音に対応して形成され、
c:前記各溝群2は、前記メロディーを構成する各音の発生順に配列されており、
d:前記各溝群2及び各溝群2の車両進行方向前方に設けられた溝3が形成されていない空白部分7は、それぞれ前記各音の音持続時間と車両の想定速度に応じて決定された距離を有する区間6内に施工されており、前記空白部分7は区間6の1割?1割強程度であって、
e:前記溝群2を構成する複数の溝3は、各溝群2及び空白部分7で構成される前記区間6内において、溝群2に対応する範囲においてのみ連続的に形成されているとともに、前記音の音階に応じた周波数と車両の想定速度に基づいて決定される溝間隔4で形成されている、
f:道路。」

9 上記8で特定したイ号物件は、請求人らが主張するイ号物件に関し(上記「第4 1(1)」を参照。)、区間6が溝群2、及び、区間6の1割?1割強程度である空白部分7から構成されるとし、さらに、「メロディーロード」を、「道路」に置き換えたものに相当するが、上記「第4 1(1)」及び「第4 2(1)」に記載した両当事者の主張に概ね沿うものである。


第6 対比・判断

1 構成要件の充足性について

イ号物件が、本件特許発明の構成要件を充足するか否かについて、検討する。

(1)構成要件A及び構成要件Fについて

本件特許発明の構成要件Aとイ号物件の構成a、及び、本件特許発明の構成要件Fとイ号物件の構成fとを対比すると、イ号物件の構成a及び構成fの「道路」は、車両が走行することによりメロディーを発生させる複数の溝で構成される溝群が複数配列された路面体からなるので、本件特許発明の構成要件A及び構成要件Fの「メロディーロード」に相当することは明らかである。
したがって、イ号物件の構成a、構成fは、それぞれ、本件特許発明の構成要件A、構成要件Fを充足する。

(2)構成要件B及び構成要件Cについて

イ号物件の構成b、構成cが、それぞれ、本件特許発明の構成要件B、構成要件Cに相当することは明らかであるから、イ号物件の構成b、構成cは、それぞれ、本件特許発明の構成要件B、構成要件Cを充足する。

(3)構成要件Dについて

イ号物件の構成dである「前記各溝群2及び各溝群2の車両進行方向前方に設けられた溝3が形成されていない空白部分7は、それぞれ前記各音の音持続時間と車両の想定速度に応じて決定された距離を有する区間6内に施工されており、該空白部分7は区間6の1割?1割強程度であって、」は、「前記各溝群2は、それぞれ前記各音の音持続時間と車両の想定速度に応じて決定された距離を有する区間6内に施工されており、」なる技術事項を包含するため、本件特許発明の構成要件Dに相当することは明らかである。
したがって、イ号物件の構成dは本件特許発明の構成要件Dを充足する。

(4)構成要件Eについて

ア 構成要件Eの「区間内にわたって連続的に」との記載は、平成22年10月18日付け手続補正書による補正によって加えられており、出願当初の明細書等には存在しない(上記第2 4の経緯を参照。)。このため、溝群を構成する複数の溝を形成することに関する説明がなされており、上記補正の根拠としても挙げられている、明細書の段落【0026】ないし【0034】の記載を参酌しつつ、構成要件Eの技術的意義を把握することとする。なお、明細書の上記記載は、補正されておらず、出願当初から存在するものである。

イ 明細書の段落【0026】ないし【0034】には、以下の記載がある。(下線は当審で付した。以下同様。)
「【0026】
また、本第1実施形態のメロディーロード1は、図1および図2に示すように、車両の進行方向Dに対して直交方向に延設される溝Gが、車両の進行方向Dに沿って複数本形成されている。そして、隣接する溝Gの間隔L、各溝幅Wおよび各音当たりの単位施工距離Kを適宜設計することにより、車両のタイヤ6が所望の音階、音量および音符長を発生させてメロディーを奏でるようになっている。
【0027】
つまり、本第1実施形態のメロディーロード1は、少なくともメロディーを構成する各音の音階に対応する周波数および車速から特定される溝Gの間隔Lと、各音の音符長およびテンポに基づいて求めた音持続時間と車速とから特定される当該音符長の単位施工距離Kと、各音の音量に対応して特定される溝幅Wとを備えるように施工されている。
【0028】
まず、本第1実施形態のメロディーロード1を施工するのに必要な各種の条件を設計する方法について説明する。まず、溝Gによって所定の音階を発生させるためには、隣り合う溝Gと溝Gの溝間隔Lを設定する。音階は周波数によって定められるため、所望の音階に対応する周波数を算出し、この周波数を有する振動を発生させれば、当該周波数に対応する音階が聴取される。本第1実施形態では、十二平均律を用いて音階を設定しているため、所望の音階に対応する周波数は以下の式(2)に基づいて算出される。
(周波数[Hz])=F_(0)×2±n/12 …(2)
ただし、F_(0)は基準とする音階に対応する周波数であり、例えば、周波数が440Hzの「ラ」の音を基準にした場合、F_(0)=440[Hz]である。また、nは基準とする音階と周波数を取得しようとする音階との階数差に対応する整数である。したがって、例えば、「ソ」の音の周波数を算出する場合、基準とする「ラ」の音より2段階下の音階であるため、n=-2となる。
【0029】
そして、本第1実施形態のメロディーロード1上を車両が走行する際の想定速度を適宜設定すると、1秒間にタイヤ6が通過する距離が算出される。このため、当該距離内に周波数分の溝Gを形成することにより、所望の周波数に対応する音階を発生させられる。したがって、隣接する溝Gと溝Gの間隔Lは、以下の式(3)に基づいて算出される。
(溝G間隔L[mm])=(想定速度[km/h]/周波数[Hz])×1000000/3600 …(3)
・・・
【0033】
つぎに、溝Gによって所定の音を所定の時間だけ持続して発生させるためには、1周期分の溝Gをどれだけ繰り返すか、つまり、路面に形成する溝Gの単位施工距離Kを設定することになる。このため、まず各音の持続時間を算出する。音の持続時間は、奏でようとするメロディーに設定されるテンポと、各音に設定される音符長により決定されるものである。したがって、本第1実施形態における各音の持続時間は、以下の式(1)に基づいて算出される。
(音持続時間[秒])=(60/テンポ)×(四分音符長に対する取得音符長の比率) …(1)
ここで、例えば、取得しようとする音の音符長が二分音符である場合、二分音符は四分音符の2倍の音符長であるため、四分音符長に対する取得音符長の比率は2である。また、休符の持続時間についても、上記式(1)により同様に算出することができる。
【0034】
上記式(1)により算出した音持続時間と、本第1実施形態のメロディーロード1上を車両が走行する際の想定速度とに基づいて、各音に対応する単位施工距離Kは以下の式(4)により算出される。
(単位施工距離K[m])=(想定速度[km/h])×(音持続時間[秒])×1000000/3600 …(4)
したがって、所定の溝間隔Lおよび所定の溝幅Wで、所定の単位施工距離Kだけ溝Gが形成された路面上を所定の走行速度で車両を走行させることにより、所定の音階が所定の音量で所定時間だけ持続して発生する。」

ウ 上記イの摘記事項を参酌すると、「単位施工距離」とは、溝群を構成する複数の溝が、所定の音階を発生させるために車両の想定速度と所定の音階の周波数に基づいて設定される溝間隔Lで形成される距離のことであると把握できる。言い換えると、「単位施工距離」内において、所定の音階を発生させるために車両の想定速度と所定の音階の周波数に基づいて設定される間隔Lの溝と溝の間の領域(L-W)以外に、溝が形成されていない領域を設けることは想定されていないといえる。

エ ここで、構成要件Eの「区間」は、各音の音持続時間と車両の想定速度に応じて決定された距離を有する(構成要件D)ところ、段落【0034】の式(4)を踏まえると、当該距離が上記イの摘記事項における「単位施工距離」のことであることは明らかであるから、上記ウを踏まえると、構成要件Eの「区間」において、間隔Lの溝と溝の間の領域(L-W)以外に、溝が形成されていない領域を設けることは想定されていないと解するのが自然である。
そうすると、構成要件Eの「前記溝群を構成する複数の溝は、前記区間内にわたって連続的に形成されているとともに、前記音の音階に応じた周波数と車両の想定速度に基づいて決定される溝間隔で形成されている」における「溝群を構成する複数の溝は、区間内にわたって連続的に形成されている」との構成は、区間の一方から他方に達する領域のすべてにおいて、溝Gが(所定の音階を発生させるために車両の想定速度と所定の音階の周波数に基づいて設定された)間隔Lをおいて、つらなりつづく構成のことを指すと認められる。

オ そして、イ号物件の構成eは、区間6内に溝群を構成する複数の溝3が形成されていない空白部分7を有しており、当該空白部分7は、区間6の1割?1割強を占めるため、音の音階に応じた周波数と車両の想定速度に基づいて決定される溝間隔に相当しないことが明らかであるから、本件特許発明の構成要件Eの「溝群を構成する複数の溝は、区間内にわたって連続的に形成されている」を充足しない。

カ 請求人は、本件特許発明の構成要件Eは、「わたる」の字義を踏まえると、「区間内はすべて溝が形成されていること」を必須要件とはしないと主張するが(上記「第4 1(2)イ」)、「わたる」の字義が「一定の過程を経て一方から他方へ及ぶ。」であり、「及ぶ」の字義が「ある所・時・程度にとどく。いたる。達する。」(株式会社岩波書店 広辞苑第六版)であることから、「わたる」の字義を踏まえても、「溝群を構成する複数の溝は、区間内にわたって連続的に形成されている」との構成は、上記エのとおり解釈される。


2 構成要件Eについての均等論適用の可否について

本件特許発明とイ号物件の異なる部分である構成要件Eにつき、最高裁判決(最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決、最高裁平成6年(オ)1083号)が判示する次の5つの要件にしたがって、均等論適用の可否について検討する。

「特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存在する場合であっても、

(第一要件)その部分が特許発明の本質的部分ではなく、
(第二要件)その部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、
(第三要件)このように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、
(第四要件)対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれからその出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、
(第五要件)対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、

その対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である。」

(1)第一要件について

ア 本件特許発明の構成要件Eがイ号物件と異なる部分、すなわち「溝群を構成する複数の溝は、区間内にわたって連続的に形成されている」ことが本件特許発明の本質的部分であるか否かについて検討する。

イ 本件特許発明における、「溝群を構成する複数の溝は、区間内にわたって連続的に形成されている」との構成が解決する課題に関し、本件特許明細書に、「メロディーを奏でるのに必要な全音符や四分音符といった各種の音符長を忠実に実現することができないという問題がある。」(段落【0007】)との記載があり、上記構成の効果について、「 以上のような本第1実施形態によれば、1.メロディーを構成する各音の音階、音符長および音量を正確に発生させることができ、所望のメロディーを譜面に忠実に奏でることができる。2.路面上に形成すべき溝Gを個別具体的かつ正確に設計することができる。3.発生する音の音質や音色を変化させることができる。4.充填用物質7を充填させれば、溝G内に粉塵やゴミ等が詰まるのを防止すると共に、溝G自体の強度を向上することができる等の効果を奏する。」(段落【0056】)との記載がある。
そして、上記構成における「区間」が有する距離は、各音の音持続時間と車両の想定速度に応じて決定された距離であるから(構成要件D)、溝群を構成する複数の溝が区間内のすべての領域に形成されていることが、メロディーを構成する各音の音符長を正確に発生させることにつながることは、当業者にとって明らかである。

ウ したがって、本件特許発明の「溝群を構成する複数の溝は、区間内にわたって連続的に形成されている」は、イ号物件の構成eと異なり、メロディーを構成する各音の音符長を正確に発生させる効果を備えるから、本件特許発明の本質的部分というべきである。

エ よって、本件特許発明の構成要件とイ号物件の構成は、均等成立の要件に係る第一要件を満たさない。

(2)第五要件について

ア 本件特許発明に係る出願は、上記「第2 1」ないし「第2 5」に記載のとおりの経緯を有する。

イ 上記アの経緯によると、出願当初の請求項1には、溝が「区間内にわたって連続的に形成されている」とは特定されていなかった。しかし、請求人は、上記「第2 2」の拒絶理由の通知を受けたので、上記「第2 4」の補正により、請求項1に係る発明に対して上記特定を付すとともに、意見書にて以下の主張を行った(下線は、当審で付した。)。その後、本件出願は特許査定された。
(ア)「審査官殿は、理由1として、本願の請求項1?6に係る発明は明確でないから、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないと認定されました。また、理由2として、本願の請求項1?5に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと認定されました。そこで、出願人は、同日付けで提出した手続補正書によって特許請求の範囲を補正し、請求項1?6に係る発明を明確にするとともに、請求項1?5に係る発明と引用文献1との差異をより明確にしましたので併せてご参酌下さい。」
(イ)「本願発明1と引用発明1とを比較しますと、両者の構成上、本願発明1では、「前記各溝群は、それぞれ前記各音の音持続時間と車両の想定速度に応じて決定された距離を有する区間内に施工されており」、「前記溝群を構成する複数の溝は、前記区間内にわたって連続的に形成されている」のに対し、引用発明1では、そのように構成されていない点で相違します。」

ウ 上記イから外形的にみれば、請求人(出願人)は,上記「第2 4」の補正において、溝が区間内にわたって連続的に形成されていないものを本件特許発明から意識的に除外したものと認められる。

エ よって、本件特許発明の構成要件とイ号物件の構成は、均等成立の要件に係る第五要件を満たさない。


(3)構成要件Eの充足性についての結論

上記(1)、(2)のとおり、最高裁判決が判示する均等論が適用できるための5つの要件のうち、少なくとも、第一の要件及び第五の要件を満たさないから、第二の要件ないし第四の要件について検討するまでもなく、本件特許発明とイ号物件の異なる部分である構成要件Eにつき、均等論を適用することはできない。


3 小括

上記1及び2のとおり、イ号物件は、本件特許発明の構成要件Eを充足しない。


第7 むすび

以上のとおり、イ号物件は、本件特許発明の構成要件Eを充足しないから、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。


よって、結論のとおり判定する。

 
判定日 2016-07-21 
出願番号 特願2006-535236(P2006-535236)
審決分類 P 1 2・ 1- ZB (E01C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西田 秀彦  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 谷垣 圭二
小野 忠悦
登録日 2011-03-25 
登録番号 特許第4708354号(P4708354)
発明の名称 メロディーロードおよびメロディーロード設計プログラム  
代理人 木村 満  
代理人 木村 満  
代理人 木村 満  
代理人 特許業務法人梶・須原特許事務所  
代理人 特許業務法人梶・須原特許事務所  
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