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審決分類 審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正しない A41C
審判 訂正 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 訂正しない A41C
審判 訂正 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) 訂正しない A41C
管理番号 1317288
審判番号 訂正2016-390008  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2016-01-20 
確定日 2016-07-11 
事件の表示 特許第5835782号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件訂正審判の請求に係る特許第5835782号は、平成26年4月23日に特許出願され、その請求項1-3に係る発明は、平成27年11月13日にその特許権の設定登録がなされたものであって、平成28年1月20日に本件訂正審判が請求された。
本件訂正審判は、平成28年3月15日付け(発送日3月18日)で訂正拒絶理由が通知され、平成28年4月18日に意見書(以下、「意見書」という。)が提出された。

第2 請求の趣旨及び訂正の内容
本件訂正審判の請求の趣旨は、特許第5835782号の特許権全体に対し、明細書、特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された、訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は、以下のとおりである。(審決注:下線部分が訂正箇所である。)

1. 訂正事項1
本件特許の特許請求の範囲の請求項1に「前記サイドパネルの脇側左右各々の外側縁部の全部又は一部から左右各々の前記サイドボーン近傍までを範囲内とする縫製部に、」とあるのを、「前記一対のカップの外側縁部の下部から左右各々の前記サイドボーン近傍までを範囲内とする縫製部に、」に訂正する。

2. 訂正事項2
特許明細書の段落【0011】に「前記サイドパネルの脇側左右各々の外側縁部の全部又は一部から左右各々の前記サイドボーン近傍までを範囲内とする縫製部に、」とあるのを、「前記一対のカップの外側縁部の下部から左右各々の前記サイドボーン近傍までを範囲内とする縫製部に、」に訂正する。

第3 当審の判断
1.訂正事項1について
(1)訂正の目的について
ア 明瞭でない記載の釈明
明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当するのか検討する。
特許請求の範囲の請求項1には、「一対のカップ、サイドパネル、サイドボーン、及びサイドベルトを含むブラジャー本体」と記載されており、「カップ」と「サイドパネル」が、区別して特定されている。
しかし、特許明細書の段落【0024】には、一対のカップについて「図1に示した従来のブラジャーと基本構成は共通する。」と記載され、図1には、カップ20とサイドパネル60とが点線により区分されて記載されている。また、段落【0026】には、サイドパネルについて「なお、該サイドベルト50は、一般的なブラジャーの発揮する効果となんら変わらないものであり、特に限定されるものではなく、この点において、他のサイドボーン40、サイドベルト50、サイドパネル60、肩紐80、アジャスター90、オスホック100やメスホック110等も同様である。」と記載されている。図2、図3には、サイドパネルを示す符号60は図示されていないが、図1においてカップ20とサイドパネル60とを区分する点線は、図2、図3に記載されている。しかしながら、これらの記載からは、技術常識を考慮しても、カップとサイドパネルとのそれぞれの位置関係、例えば、カップがサイドパネルを内包するのかどうか、は明確ではない。

したがって、訂正事項1の「一対のカップの外側縁部の下部」のうち、「カップ」がブラジャーのどの部位を指すものなのか明確ではないから、訂正事項1の記載自体、明確ではない。よって、訂正事項1に係る訂正は明瞭でない記載の釈明を目的とするものでない。

請求人は、意見書において、次のように主張している。

「一対のカップ」がブラジャーにおいて必ず存在することは自明であり、一方「サイドパネル」は、ブラジャーの種類によって、その配置、位置、形状、構造等に種類がある。伸縮帯体は身体側に配置するものと特定されているから、ブラジャーと伸縮帯体との縫製部が「一対のカップ」の外側に配置されるものであることは自明である。そこで、サイドパネルに基づく表示の仕方は疑義が生ずるおそれがあると思慮し、疑義が生じないように明確にすることを目的とした訂正である。(意見書「B1.A1のご認定事項に対し」)

しかしながら、請求人の主張は「一対のカップの外側縁部の下部」のうち、「カップ」がブラジャーのどの部位を指すものなのかが明確であることを説明するものではなく、依然として、「カップ」がブラジャーのどの部位を指すものなのか明確ではない。したがって、前記主張は採用の限りではない。

イ その他の訂正の目的要件
特許法第126条第1項ただし書各号のその他の事項を目的とするものであるかについて検討する。
まず、「サイドパネルの脇側左右各々の外側縁部」に対して「一対のカップの外側縁部」が、ブラジャーの特定の部分について、限定的に説明する表現であると認めることもできないから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であるとも認められない。
さらに、誤記又は誤訳の訂正及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものに該当しないことも明らかである。

この点について、請求人は、意見書において、次のように主張している。

本件訂正は、審査段階において担当審査官による「サイドパネルの表示を用いて縫製部の領域を特定しなければ不明確である」という認定に対して、「サイドパネル」との関係から明確に特定しなければならなかったという事情によるものであり、実質的に特許権の範囲の拡張や変更に該当しない。また、特許法70条2項の規定や、禁反言の法理から出願経過を参酌して特許請求の範囲を特定する点を鑑みれば、本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書各号の規定に違反しないと判断する余地もあると思慮する。(意見書「B2.A2のご認定事項に対し」)

しかしながら、審査段階での経緯があるにしても、訂正事項1に係る訂正が、特許法第126条第1項ただし書各号のいずれの規定にも該当しないのは明らかであり、前記主張は採用できない。

ウ 小括
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書各号に掲げる事項を目的とするものであるとはいえない。

(2)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことの要件について

訂正事項1は、伸縮帯体を固定する縫製部の範囲について、訂正前はその範囲の一方の端点をサイドパネルの脇側左右各々の外側縁部の全部又は一部としているのに対して、訂正後はカップの外側縁部の下部としている。ここで、訂正前の請求項1における「少なくとも、一対のカップ、サイドパネル、・・・を含むブラジャー本体」や「前記一対のカップ及び前記サイドパネルの身体に触れる側」とあるとおり、カップとサイドパネルとは別の部位であることは明らかである。すなわち、「サイドパネルの脇側左右各々の外側縁部」と「カップの外側縁部」とが当然に同一の部分を意味するとはいえない。そもそも、前述のとおり、特許請求の範囲の請求項1には、「カップ」と「サイドパネル」を区別して特定されている。

この点、請求人は審判請求書において、「なぜなら、サイドパネルは、カップの一番脇側でバストがこれよりも外に流れるのを防止する機能を発揮させるための存在であり、バストアップや胸の谷間を強調させる効果を備えるブラジャーにおけるカップに用いられ、当該カップの構成には2枚構成、3枚構成あるいは4枚構成というような分割構造が採用されており、係る場合における「サイドパネルの脇側左右各々の外側縁部の全部又は一部から」という特定は、「一つのカップの外側縁部の下部から」という指定領域を一部含むものであり、減縮に該当します。」(審判請求書4ページ4行目から10行目まで)と述べているが、サイドパネルが「カップの一番脇側」の部位である点やサイドパネルの脇側の外側縁部とカップの外側縁部とが同一の部分を指すことは、本件特許明細書に記載はないから、本件特許明細書に基づかない主張である。
また、当該技術分野において当然に認められることでもない。例えば、特開2015-48559号公報(以下「引用文献1」と呼ぶ)においては、「・・・一対のサイドパネル10,11が、・・・、各カップ部2,3の脇側外面を覆うように配置されている。」(段落【0024】)のように記載されている。また特開2008-163490号公報(以下「引用文献2」と呼ぶ)においても、「サイドパネルのカップ側・フロント側のラインは、カップ脇辺上端24から上カップ部22脇側、下カップ部23脇側に連結してカップ脇辺下端34に至り、そこからほぼ垂直にバンド下辺Aに垂下してサイドパネルの前下端43となる」(段落【0017】及び図1)のように記載されている。これらに記載されたとおり、サイドパネルの脇側の外側縁部とカップの外側縁部とは同一の部分を指すことは当該技術分野において当然とはいえない。
以上のことから、訂正前の「サイドパネルの脇側左右各々の外側縁部」と訂正後の「一対のカップの外側縁部」とがそれぞれどのような位置関係にあるかを把握することができず、「サイドパネルの脇側左右各々の外側縁部」が、「一対のカップの外側縁部」を含むものとは、直ちにはいえない。
よって、「前記サイドパネルの脇側左右各々の外側縁部の全部又は一部から」とあるのを、「前記一対のカップの外側縁部の下部から」と訂正することによって伸縮帯体が固定される縫製部の範囲を拡張又は変更するものでないと認めることができない。

したがって、訂正事項1は、特許法第126条第6項の規定に違反するものである。

この点について、請求人は、意見書において、次のように主張している。

「サイドパネル」は、「一対のカップ」の外側に配置されるものである。具体的には、引用文献1の「サイドパネル」では、「一対のカップ」の外側に配置され、カップの胸の中心にむかってカップを覆う構造であり、引用文献2の「サイドパネル」では、カップを覆うことなく、カップの外側に配置されており、「サイドパネル」の位置、大きさ、範囲はそもそも異なる。そこで、「サイドパネル」の表現からより配置関係が明確であるカップに基づいて位置を特定することは、実質的な権利範囲を拡張するものではない。係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されているすべての事項を総合することにより、導かれる技術的事項であり、新たな技術的事項を導入するものではなく、特許権設定登録時の技術的事項の範囲内であると思量する。(意見書「B3.訂正請求人の意見」)

しかしながら、前述のとおり、訂正事項1が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないというためには、訂正事項1により、伸縮帯体が固定される縫製部の範囲を拡張又は変更するものでないといえる必要がある。請求人の前記主張にもあるとおり、「サイドパネル」はカップを覆うことなく外側に配置されることもあり、このときの「サイドパネルの脇側左右各々の外側縁部」は、「一対のカップの外側縁部」よりもサイドボーン側に存在することとなる。したがって、伸縮帯体が固定される縫製部の範囲は、訂正事項1に係る訂正により、訂正前の範囲より、拡張された範囲も含みうるものである。したがって、前記主張は採用できない。

(3)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることの要件について

特許明細書の段落【0028】には、「形状については図3に形状のバリエーションを例示した」、「このように、本願発明に係る胸の谷間強調ブラジャー10では、かかる伸縮帯体30の形状、幅、及び縫製部Hの位置によって、「胸の谷間」や「バストアップ」、或いはそれらの強弱を自由に強調することができる。」旨記載され、図3に形状のバリエーションが示されているものの、同じく段落【0028】には、「ただし、図3に示した(a)から(d)形状に限定されるものではなく、本願発明に係る伸縮帯体30としての機能を発揮するものであればよい」とも記載されており、図3に示された縫製部の位置は一例にすぎず、その範囲の一方の端点を「カップの外側縁部の下部」とすることについては記載も示唆もない。また、前述の「伸縮帯体30としての機能を発揮するものであればよい」との記載等からその範囲の一方の端点がカップの外側縁部の下部であることが自明であるともいえない。
また、他に訂正事項1の根拠となる記載を願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面から見出すことができない。

したがって、当該記載は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されているすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項に対し、新たな技術的事項を導入するものである。よって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものと認められず、特許法第126条第5項の規定に違反するものである。

2.訂正事項2について
訂正事項2は、訂正事項1に係る請求項1の訂正に伴い、対応する明細書の記載を訂正するものであり、前記1.(1)?(3)で述べた理由と同様に、特許法第126条第1項ただし書各号に掲げる事項を目的とせず、さらに、同条第5項及び第6項の規定に違反するものである。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本件審判の請求に係る訂正事項1、2は、特許法第126条第1項ただし書各号に規定された目的に該当せず、かつ同条第5項、第6項の規定にも違反するものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-05-17 
結審通知日 2016-05-19 
審決日 2016-05-31 
出願番号 特願2014-89529(P2014-89529)
審決分類 P 1 41・ 851- Z (A41C)
P 1 41・ 854- Z (A41C)
P 1 41・ 841- Z (A41C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 新田 亮二  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 井上 茂夫
星野 昌幸
登録日 2015-11-13 
登録番号 特許第5835782号(P5835782)
発明の名称 胸の谷間強調ブラジャー  
代理人 上吉原 宏  

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