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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1317409
審判番号 不服2015-5458  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-24 
確定日 2016-07-20 
事件の表示 特願2012-530175「還元剤として2-ピコリンボランを使用する炭水化物の還元的アミノ化及び分析」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 4月 7日国際公開、WO2011/038873、平成25年 2月21日国内公表、特表2013-506115〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年9月27日(パリ条約による優先権主張日 平成21年9月29日、欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成26年3月4日付けで拒絶理由が通知され、同年6月16日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年11月17日付けで拒絶査定されたのに対し、平成27年3月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
平成27年3月24日付けでなされた手続補正は、補正前の請求項8の「濃度が約0.017Mから約1M、好ましくは約0.033Mから約0.33M」を、平成26年11月17日付けの拒絶査定でその数値範囲が不明確であると指摘されたことを受けて、「濃度が0.017Mから1Mである」と補正するものであるから、特許法第17条の2第5項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものといえる。
してみれば、本願請求項1?17に係る発明は、上記平成27年3月24日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1?17に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
炭水化物の還元的アミノ化のための2-ピコリンボラン(2-PB)の使用であって、2-PBの濃度が炭水化物の匹敵する転換を得るのに必要とされるNaBH(OAc)_(3)又はNaBH_(3)CNの濃度よりも少ない使用。」(以下「本願発明」という。)

第2 引用刊行物及びその記載事項
1 本願の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能とされ、原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第2008/130924号(以下「引用例」という。)には,次の事項が記載されている。なお、当審訳における下線は当審が付与した。
(1-ア)「[0003] The present disclosure provides methods of isotopically-labeling a glycan or a mixture of glycans (e.g., a glycan preparation) via reductive amination. Such a method is useful, for example, in the determination of the relative amounts of a particular glycan present in two or more glycoprotein preparations using mass spectroscopy.」
(当審訳:本件は、グリカン又はグリカン混合物(例えば、グリカン調整物)を還元的アミノ化により同位体で標識する方法を開示するものである。このような方法は、例えば、2つ以上の糖タンパク質調整物において、質量分析によりあるグリカンの相対量を決めること等において有用なものである。)

(1-イ)「[00036] Reductive animation: The terms "reductive amination" are art-understood terms which refer to the reaction between a primary amine with a carbonyl group (e.g., an aldehyde or a ketone) to form an imine, or the reaction between a secondary amine with a carbonyl group (e.g., an aldehyde or a ketone) to form an enamine, accompanied by the loss of one molecule of water and followed by reduction of the respective imine or enamine with a suitable reducing agent to provide an "animated" product. Reductive amination may be indirect or direct. ・・・Direct reductive amination is carried out with reducing agents that are more reactive toward imines/enamine than ketones, such as, for example, sodium cyanoborohydride (NaBH_(3)CN) or sodium triacetoxyborohydride (NaBH(OCOCH_(3))_(3)).」
(当審訳:還元的アミノ化:“還元的アミノ化”との用語は、イミンを生成するカルボニル基(例えば、アルデヒド又はケトン)と第1級アミンとの反応、又は、エナミンを生成するカルボニル基(例えば、アルデヒド又はケトン)と第2級アミンとの反応に関するものとして理解される用語であり、水1分子の生成離脱をともない、適当な還元剤のもとイミン又はエナミンの各々が還元されることにより“アミノ化”された生成物が得られる。還元的アミノ化には、間接的又は直接的に行われるものがある。・・・“直接的還元的アミノ化”は、イミン/エナミンの生成と還元が同時に起きる“ワンポット”反応で行われるものである。直接的還元的アミノ化は、ケトンよりもイミン/エナミンに対してより反応的な還元剤のもとでおこなわれ、そのような還元剤としては、例えば、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(NaBH_(3)CN)又はトリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウム((NaBH(OCOCH_(3))_(3))(当審注:本願発明では「NaBH(OAc)_(3)」と記載)があげられる。)

(1-ウ)「[00095] Reductive amination of a glycan proceeds via reaction of an amine with the glycan's reducing (-CHO) end in the presence of a suitable reducing agent (see exemplary reaction, Scheme 1, with suitable reducing agent NaCNBD_(3)). One of ordinary skill in the art will appreciate that a wide variety of reaction conditions may be employed to promote a reductive amination reaction, therefore, a wide variety of reaction conditions are envisioned; see generally, ・・・; and see specifically, ・・・Sato et al., Tetrahedron (2004)60:7899-7906 (e.g., one-pot reductive amination of aldehydes and ketones with amines using α-picoline-borane as a reducing agent in the presence of small amounts of AcOH, MeOH, and/or H_(2)O, and in neat conditions); ・・・・; the entirety of each of which is hereby incorporated herein by reference. 」
(当審訳:グリカンの還元的アミノ化は、適当な還元剤(適当な還元剤としてNaCNBD_(3)を用いた反応の典型例Scheme 1を参照)のもとで、グリカンの還元末端(-CHO)とアミンとの反応により進行する。当業者は、還元的アミノ化反応を促進するための多様な反応条件が適用できることを認識している。したがって、多様な反応条件が想定され、一般的には、・・・が参照でき、具体的には、・・・佐藤等,Tetrahedron(2004)60巻7899-7906頁 (例えば、少量の酢酸、メタノール及び/又は水あるいは非水の状態で、還元剤としてα-ピコリンボランを使うことにより、アルデヒド又はケトンとアミンとの還元的アミノ化をワンポットで行うこと)・・・・が参照でき;ここで参考文献により具体化されるそれぞれで全体が構成される。)

2 引用発明について
上記引用例1の記載事項を総合すると、引用例1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「グリカン又はグリカン混合物(例えば、グリカン調整物)を還元的アミノ化により同位体で標識する方法において、
還元的アミノ化を促進するために、少量の酢酸、メタノール及び/又は水あるいは非水の状態で、還元剤としてα-ピコリンボランを使うことにより、アルデヒド又はケトンとアミンとの還元的アミノ化をワンポットで行う、方法。」(以下「引用発明」という。)

第3 対比・判断
1 対比
(1)本願発明と引用発明とを対比する。
ア 本願発明の「炭水化物」について、本願明細書に「『炭水化物』なる用語には、典型的には1から40成分糖を含む、一又は複数の単糖類、オリゴ糖及び多糖類、又はそのような糖の混合物を含む。適切な炭水化物は、ヒト、動物又は植物由来から、又は組換え的に発現され、又は生物工学的に発現されたタンパク質から誘導されうる。炭水化物を調製するための適切な合成方法は、有機合成、及び多糖類の完全な又は部分的な加水分解又は分解を含む。例は、デキストランの部分的酸加水分解により調製された(ここではグルコースラダーとも称される)オリゴ糖を含む。オリゴ糖を合成する他の方法は当業者に知られているであろう(・・・)。 例えばヒト血漿から調製されるN-グリカン類のような、糖タンパク質及び糖脂質から誘導されるものを含むグリカン類(例えばN-グリカン類)は、本発明で使用することができる炭水化物の更なる例である。」(【0012】?【0014】)と記載されている。
してみれば、引用発明の「グリカン又はグリカン混合物(例えば、グリカン調整物)」は、本願発明の「炭水化物」に相当する。

イ α-ピコリンは2-メチルピリジンの慣用名であり、引用発明の「α-ピコリンボラン」は、本願発明の「2-ピコリンボラン(2-PB)」に相当する。
また、本願発明の「還元的アミノ化」の反応について、本願明細書には「標識化剤及び2-PBとの炭水化物の反応は、任意の適切な長さの時間の間、任意の適切な反応温度で実施されうる。・・・好ましくは、反応はワンポットで実施される。反応は、水、DMSO、(氷)酢酸、アセトニトリル、エタノール、又は上記の一又は複数の混合物を含む、任意の適切な溶媒中で実施されうる。反応は水性又は無水条件下で実施することができる。」(【0026】?【0029】)と記載されており、引用発明の「α-ピコリンボラン」は、少量の酢酸、メタノール及び/又は水の状態で使用することから、ある「濃度」で使用されるものである。

(2)してみれば,本願発明と引用発明とは、
(一致点)
「炭水化物の還元的アミノ化のための2-ピコリンボラン(2-PB)の使用であって、2-PBのある濃度での使用。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
2-PBの濃度ついて、本願発明は「炭水化物の匹敵する転換を得るのに必要とされるNaBH(OAc)_(3)又はNaBH_(3)CNの濃度よりも少ない」と特定されているのに対し、引用発明では、その濃度が不明である点。

2 当審の判断
(1)相違点について
ア 本願発明の「炭水化物の匹敵する転換を得るのに必要とされるNaBH(OAc)_(3)又はNaBH_(3)CNの濃度よりも少ない」ことの技術的意味を明確にする上で本願明細書を参照するに、本願明細書には「広く使用されている標識化技術は、還元的アミノ化によるオリゴ糖のアミン置換発色団又はフルオロフォアへのカップリングを含む。可逆反応において、炭水化物の開環型がアミン基と反応し、水を除去してシッフ塩基を形成する。第二の不可逆反応において、シッフ塩基が還元されて第二級アミンを形成する。この反応において最も広く使用されている還元剤はシアノ水素化ホウ素ナトリウム(NaBH_(3)CN)である。・・・。代替の還元剤であるトリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウム(NaBH(OAc)_(3))が、・・・。本発明は、炭水化物の還元的アミノ化のための2-ピコリンボラン(2-PB)の使用を提供することにより上記及び他の不具合に取り組んでいる。驚いたことに、本発明者は、2-PBが炭水化物の標識化のための還元的アミノ化試薬として特に有効かつ有用であることを見出した。よって、本発明は、炭化水素(当審注:「炭水化物」誤記と認められる)を標識化する方法であって、2-PBの存在下で炭水化物を標識化剤と接触させ、標識された炭水化物を製造することを含む方法をまた提供する。」と記載されており、本願発明の「炭水化物の」「転換」とは、炭水化物が還元剤のもと標識化剤と還元的アミノ化反応することといえる。そして、本願発明の「NaBH(OAc)_(3)又はNaBH_(3)CN」は、その還元剤として従来用いられていたものである。
してみれば、2-PBの濃度ついて、本願発明で「炭水化物の匹敵する転換を得るのに必要とされるNaBH(OAc)_(3)又はNaBH_(3)CNの濃度よりも少ない」と特定している技術的意味は、炭水化物を標識化剤と還元的アミノ化反応させる際に、還元剤として従来用いられていたNaBH(OAc)_(3)又はNaBH_(3)CNを用いた時と同等の(匹敵する)反応を起こさせるための2-PBの濃度が、その時のNaBH(OAc)_(3)又はNaBH_(3)CNの濃度より少なくてもよいことを特定したものといえる。
引用発明は、還元剤としてα-ピコリンボラン(2-PB)を使用する発明であるが、引用例1の上記摘記(1-イ)には、還元剤としてNaBH(OAc)_(3)又はNaBH_(3)CNを用いることも記載されており、還元剤として2-PBを用いる際にその濃度はNaBH(OAc)_(3)又はNaBH_(3)CNの濃度より多くなるか少なくなるかのどちらかとなるものであり、従来より、還元剤として2-PBを用いる際にNaBH(OAc)_(3)又はNaBH_(3)CNの濃度より多くなければならないという技術常識もないため、用いる標識化剤、その他の反応条件等を考慮して、2-PBの濃度ついて「炭水化物の匹敵する転換を得るのに必要とされるNaBH(OAc)_(3)又はNaBH_(3)CNの濃度よりも少な」くしてみようとすることは当業者が容易になし得たことといわざるを得ない。

イ また、引用例1には、「具体的には、・・・佐藤等,Tetrahedron(2004)60巻7899-7906頁 (例、少量の酢酸、メタノール及び/又は水あるいは非水の状態で、還元剤としてα-ピコリンボランを使うことにより、アルデヒド又はケトンとアミンとの還元的アミノ化をワンポットで行うこと)・・・・が参照でき」と記載されていることから、当業者であれば、佐藤等,Tetrahedron(2004)60巻7899-7906頁の文献(以下「公知文献」という。)を参照するのが、ごく通常のことである。
この公知文献は「One-pot reductive amination of aldehydes and ketones with α-picoline-borane in methanol, in water, and in neat conditions」(当審訳:メタノール、水、非水の状態でのα-ピコリンボランによるアルデヒドとケトンのワンポット還元的アミノ化)と題する文献であり、そのabstractの欄に、アルデヒド及びケトンとアミンとのワンポット還元的アミノ化で還元剤としてα-ピコリンボランを用いること、そして、それを用いると高効率であることが記載され、2.Results and discussionの欄に、NaBH_(3)CN又はpyr-BH_(3)に対してα-ピコリンボランが、還元的アミノ化の目的で使用する場合、安く、便利なもので、NaBH(OAc)_(3)等の還元剤よりもアミノ化生成物の優れた収率をもたらすことが記載され、その7904頁44?46行には、カルボニル基に対するイミンの還元について、α-ピコリンボランが高い選択性があることも記載されている。そして、3.Conclusionの欄には、α-ピコリンボランの使用は、NaBH_(3)CN、NaBH(OAc)_(3)、pyr-BH_(3)のような還元剤の使用により直面する問題を解決するものであり、環境的にもよいものであることが記載されている。ここで、糖はアルデヒド又はケトンを持つものであるから、アルデヒドとケトンの還元的アミノ化とは、糖の還元的アミノ化も含むものであることは明らかである。
上記公知文献を参照した当業者であれば、α-ピコリンボランを還元剤として用いれば還元的アミノ化生成物が収率よく生成されるのであるから、同じ量の還元的アミノ化された生成物を得る(同じ量の還元的アミノ化反応を起こす)ための2-PBの量は、NaBH_(3)CN又はNaBH(OAc)_(3)より少なくてもよい、すなわち、「炭水化物の匹敵する転換を得るのに必要とされるNaBH(OAc)_(3)又はNaBH_(3)CNの濃度よりも少な」くしてみようとすることは当業者が容易になし得たことである。

ウ 加えて、言うなら、還元的アミノ化反応の還元剤としてNaBH(OAc)_(3)又はNaBH_(3)CNに代えてα-ピコリンボラン用いることは本願の優先日前に周知(例えば、「純正ニュース」第21号、第4版、2009年7月10日(下記刊行物)参照)であり、そこには、2-ピコリン-ボランの特徴として「穏和な還元剤であり、還元的アミノ化に最適であり、高収率をもたらす。」ことが記載されており、これからも2-PBの濃度ついて「炭水化物の匹敵する転換を得るのに必要とされるNaBH(OAc)_(3)又はNaBH_(3)CNの濃度よりも少な」くしてみようとすることは当業者が容易になし得たことといえる。
刊行物:


(2)本願発明の効果について
本願発明の効果として、本願明細書には「【0027】(先行技術と比較して)本発明の容易さ、効果、減少した毒性及び/又は減少したコストは、それがハイスループットの分析に適用できることを意味する。」と記載されているが、CNのない(シアン化合物でない)α-ピコリンボランがNaBH_(3)CNに比べて毒性が少ないことは自明のことであり、その他の効果についても、当業者の予期し得る範囲のものといえる。

(3)請求人の主な主張について
請求人は、審判請求の理由で「引用文献1に対する本願発明の進歩性の判断は、還元剤としての2-PBの使用に関し、2-PBの選択が可能かどうかではなく、2-PBを当業者が選択しようと思うかどうかに基づくと思料します。」(下線は請求人が引いたものである。)と主張しているが、引用文献1(上記引用例1)には、具体的に「佐藤等,Tetrahedron(2004)60巻7899-7906頁 (例えば、少量の酢酸、メタノール及び/又は水あるいは非水の状態で、還元剤としてα-ピコリンボランを使うことにより、アルデヒド又はケトンとアミンとの還元的アミノ化をワンポットで行うこと)」と記載されている以上、還元剤としてα-ピコリンボランを選択した発明が記載されていると判断せざるを得ない。

3 小括
したがって、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり、審決する。
 
審理終結日 2016-02-16 
結審通知日 2016-02-23 
審決日 2016-03-08 
出願番号 特願2012-530175(P2012-530175)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 萩田 裕介  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 三崎 仁
▲高▼見 重雄
発明の名称 還元剤として2-ピコリンボランを使用する炭水化物の還元的アミノ化及び分析  
代理人 園田・小林特許業務法人  

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