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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C23C
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C23C
管理番号 1317410
審判番号 不服2015-5465  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-24 
確定日 2016-07-20 
事件の表示 特願2012-158769「障壁支持体上に配置されたパネルの吹付け処理」拒絶査定不服審判事件〔平成24年11月22日出願公開、特開2012-229491〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年6月10日を国際出願日とする特願2006-516345号(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理 2003年6月13日 フランス)の一部を平成24年7月17日に新たな特許出願としたものであって、平成26年2月26日付けで拒絶理由が通知され、同年8月20日付けで意見書および手続補正書が提出されたが、同年11月20日付けで拒絶査定されたので、平成27年3月24日付けで拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?5に係る発明は、平成26年8月20日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
主面に平行な全方向に少なくとも10cmのガラスシートを含むパネルであって、前記ガラスシートは、前記ガラスシートの少なくとも1つの主面と全ての端部とを少なくとも1つの薄膜でコーティングされ、
前記ガラスシートの主面と全ての端部とが、全ての端部と主面との間で外観および厚みにおいて均一なパネル特性を有する前記薄膜によってコーティングされていることを特徴とする、パネル。」

第3 原査定の理由
原査定の拒絶の理由は、次の理由1及び2を含むものである。
理由1 明確性要件違反
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない、というもので、下記の点として、本願発明における「外観および厚みにおいて均一なパネル特性を有する」という特定事項の均一性についての客観的な判断基準、すなわち、如何なる測定方法を用い、如何なる数値範囲のものをもって均一というのかが明らかでないことが指摘されている。

理由2 新規性要件違反
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、というもので、下記の請求項に係る発明は本願発明であり、下記の刊行物は本願優先日前に頒布された特開2000-335939号公報(以下、「引用例」という。)である。

第4 当審の判断
当審は、上記の原査定の理由のとおり、本出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、また、本願発明は、同法第29条第1項第3号に該当して特許を受けることができない、と判断する。その理由は次のとおりである。

1 明確性要件違反
物の発明の特定事項が明確であるというためには、当業者が該特定事項から、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術水準を考慮して、その物の特徴を理解できるものでなければならない。
そこで、「外観および厚みにおいて均一なパネル特性を有する」薄膜という特定事項が明確であるかを検討する。

(1)発明の詳細な説明の記載事項
ガラスシートをコーティングする薄膜の均一性に関連して、発明の詳細な説明には、次の記載がある。
a)「【背景技術】【0003】・・・。得られる薄膜は、コーナー近傍および端部を含めて外観および厚みがきわめて均一であることが、一般に分かっている。」
b)「【発明が解決しようとする課題】【0006】
しかしながら、本出願者は、ローラに沿って走行しているパネル上にCVD蒸着を実行する方法では、蒸着コーティングがパネル端部の近傍で均一にならないことを見出した。・・・。この不均一性は裸眼で見える色の不均一性および厚みの不均一性により発現する。本出願者は、端部における正しい蒸着条件は、CVDガスに対する障壁として作用する支持体上に、詳細には、実質的にガス不透過性支持体上に、コーティングされたパネルを配置することにより、回復することを見出した。」
c)「【0020】・・・。膜の厚みおよびそれら膜の厚みの均一性は、詳細には、反射率法または偏光解析法を用いて測定される。」

(2)明確性の検討
記載事項a)は、従来技術における均一性の説明であり、本願発明の均一性を説明するものではない。また、同b)からは、本願発明は、外観における均一性、すなわち、裸眼で見える不均一性を問題としているように理解することもできる。しかし、その場合でも、均一性についての客観的な判断基準は明らかではない。
また、同c)において、膜の厚みおよびそれら膜の厚みの均一性を測定するとされる、反射率法または偏光解析法は、膜の厚さを測定する方法として周知の方法である(この点について必要なら、例えば、特開2003-65977号公報の段落【0001】【0006】(反射率法)や、特開2001-298024号公報の段落【0074】(偏光解析法)を参照されたい。)。このため、同c)の記載をもって膜の厚みを測定する方法が示されたとしても、どの程度の膜厚のばらつきをもって均一であるとするのかという評価基準は明らかでない。
したがって、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、「外観および厚みにおいて均一なパネル特性を有する」薄膜が明確であるとすることはできない。
また、「外観および厚みにおいて均一なパネル特性」について、その均一性の程度が当業者の技術常識や、出願時の技術水準から、明らかであるとすることもできない。
以上のとおりであるので、「外観および厚みにおいて均一なパネル特性を有する」薄膜という特定事項は、均一性についての客観的な判断基準が具体的に明らかではないので、明確であるとすることはできない。

2 新規性要件違反
上記のとおり、本願発明は、均一性についての客観的な判断基準が具体的に明らかではないので、「外観および厚みにおいて均一なパネル特性を有する」という、不明確な特定事項を含むものである。そこで、以下の新規性要件の検討では、均一性の程度を、特段の限定のない「どれもすべて一様なこと」(大辞林)程度の意味であると理解して、本願発明が新規性要件を具備するかについて検討する。
(1)引用例に記載された発明
ア 引用例の記載事項
引用例には、次の事項が記載されている。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 基板の表面および裏面および側面に被覆された基板カバー膜を有する薄膜半導体素子用基板において、前記基板の前記基板カバー膜による被覆率が99%以上であり、かつ前記基板カバー膜の膜厚が100nm以上であることを特徴とする薄膜半導体素子用基板。」
(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、アクティブマトリックス液晶デイスプレイ、 密着型イメージセンサ等の情報入出力装置、 携帯機器等に用いられる薄膜トランジスタ(TFT)等の薄膜半導体素子を形成するための基板、 特にガラス製の基板からの不純物汚染を抑制する為の基板カバー膜を有する基板およびその製造方法に関するものである。」
(ウ)「【0014】
【発明の実施の形態】本発明の第1の実施の形態を図1から図3を参照して説明する。まず基板カバー膜をCVD法として減圧CVD法(以下LPCVDと称す)を使用して堆積させる場合の基板支持方法を説明する。最初に、基板を横置きにした場合についての基板保持方法を図1に示す。」
(エ)「【0016】・・・。堆積させた基板カバー膜の被覆の状態は図3に示す様になり、図3(a)は平面図、図3(b)に図3(a)のA-A‘線に沿った断面図を示す。」
(オ)「【0026】次に本発明の薄膜半導体素子用基板を使用して薄膜トランジスタを作製する工程例について図面を参照して説明する。図8は薄膜トランジスタ作製工程を説明する要部の概略断面図である。 ・・・LPCVD内で基板を保持させる為の基板保持方法は、例えば本発明の第1の実施の形態に示す様に基板横置きにしてサセプタ13を用い、計8点で支持させた。 基板カバー膜20として用いる酸化シリコン膜のLPCVD法を用いた場合の成長条件はシラン100sccm、酸素500sccmで反応管の内部温度を均一に400℃で保たせ、酸化シリコン膜を堆積させる。基板表面、裏面、および側面で堆積する膜厚はほぼ同程度となり、酸化シリコン膜の被覆率は基板を支持していない面で100%、基板を基板支持点している面で99%となる。」
(カ)「図1


図3




イ 引用例に記載された発明
記載事項(ア)によれば、引用例には、基板の表面および裏面および側面に被覆された基板カバー膜を有する薄膜半導体素子用基板が記載されており、これは、同(イ)によれば、薄膜トランジスタ(TFT)等の薄膜半導体素子を形成するための、基板カバー膜を有するガラス製の基板である。
そして、同(ウ)によれば、該基板カバー膜は、減圧CVD法(LPCVD法)を使用してガラス基板上に堆積させたものであり、同(エ)(カ)によれば、基板支持点と基板面との接触面である非被覆領域を除く、ガラス基板の基板表面、裏面及び側面が基板カバー膜で被覆されている。この基板カバー膜に関する同(オ)の記載によれば、基板表面、裏面、および側面で堆積する膜厚はほぼ同程度となっている。
したがって、引用例には、「基板カバー膜で被覆されたガラス基板であって、非被覆領域を除く基板表面、基板の裏面及び全ての側面が、同程度の膜厚の基板カバー膜で覆われたガラス基板。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(2)対比と判断
ア 対比
引用発明における「基板表面」又は「基板の裏面」はいずれもガラス基板の主面で有り、一方の主面である基板表面には非被覆領域があるが、他方の主面である基板の裏面は基板カバー膜で覆われている。
また、本願の発明の詳細な説明において「連続リボンを切断することで得られるガラスシートは、パネルである」【0004】としているように、限定された長さと幅を有しているガラスシートはパネルである。
このため、引用発明における「基板の裏面」、「全ての側面」、「被覆」、「基板カバー膜」及び「ガラス基板」は、本願発明における「少なくとも1つの主面」、「全ての端部」、「コーティング」、「薄膜」及び「ガラスシートを含むパネル」に相当する。
したがって、本願発明と引用発明とは、「ガラスシートを含むパネルであって、前記ガラスシートは、前記ガラスシートの少なくとも1つの主面と全ての端部とを少なくとも1つの薄膜でコーティングされたパネル。」である点で一致し、次の点で一応相違する。
a パネルが、本願発明では、「主面に平行な全方向に少なくとも10cmのガラスシートを含むパネル」であるのに対し、引用発明のパネルの大きさが明らかではない点(以下、「一応の相違点a」という。)。
b 薄膜が、本願発明では、「ガラスシートの主面と全ての端部とが、全ての端部と主面との間で外観および厚みにおいて均一なパネル特性を有する」のに対し、引用発明では、同程度の膜厚である点(以下、「一応の相違点b」という。)。

イ 判断
まず、一応の相違点aに関しては、引用発明に係るガラス基板が対象とするTFT等のディスプレイ基板の大きさは、300mm×400mmや550mm×650mmといった、10cm×10cm以上であることは周知である(この点について必要なら、例えば、審査の段階で引用された特開2000-169179号公報の段落【0019】や特開2001-151534号公報の段落【0006】を参照されたい。)。したがって、引用例には、ガラス基板の大きさについて具体的な記載はないものの、大きさは10cm×10cm以上であることは当業者に自明である。
したがって、一応の相違点aは、実質的な相違点ではない。
次に、一応の相違点bに関しては、上記1の明確性要件違反の検討で述べたとおり、均一性についての客観的な判断基準が明らかではないので、本願発明での均一性とは「どれもすべて一様なこと」程度の意味である。
そうすると、引用発明においても、少なくとも1つの主面と全ての端部とを少なくとも1つの薄膜でコーティングされ、その膜厚は同程度であるのだから、「どれもすべて一様な程度」に均一な膜厚であるといえる。
このため、一応の相違点bは、実質的な相違点とすることはできない。
したがって、本願発明は、引用例に記載された発明である。

5 結論
以上のとおりであるので、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定を充足しないから、本願は特許を受けることができず、また、本願発明は、引用例に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-02-12 
結審通知日 2016-02-16 
審決日 2016-03-09 
出願番号 特願2012-158769(P2012-158769)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C23C)
P 1 8・ 537- Z (C23C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 若土 雅之  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 真々田 忠博
萩原 周治
発明の名称 障壁支持体上に配置されたパネルの吹付け処理  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  

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