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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02B
管理番号 1317415
審判番号 不服2015-12700  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-07-03 
確定日 2016-07-20 
事件の表示 特願2012-505006「ローラ制御式ベーンを有する回転機械」拒絶査定不服審判事件〔平成22年10月21日国際公開、WO2010/118518、平成24年10月11日国内公表、特表2012-524199〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2010年4月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年4月16日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成23年10月12日に特許法第184条の5第1項に規定する国内書面が提出され、同年11月25日に同法第184条の4第1項に規定する明細書、請求の範囲、要約書及び図面の翻訳文(以下、「翻訳文」という。)が提出され、平成26年2月6日付けで拒絶理由が通知され、同年8月22日に意見書が提出され、平成27年2月23日付けで拒絶査定がされ、同年7月3日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、同年8月18日に審判請求書の請求の理由を補正する手続補正書(方式)が提出されたものである。

第2 平成27年7月3日付けの手続補正について
1 平成27年7月3日付けの手続補正の内容
平成27年7月3日に提出された手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についての補正であって、本件補正により補正される前の(すなわち、翻訳文の)下記(1)に示す特許請求の範囲の記載を下記(2)に示す特許請求の範囲の記載へ補正するものである。

(1)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
ロータリ・エンジン、ポンプ、またはコンプレッサなどの回転機械であって、
ロータ用のチャンバを形成するステータであり、前記チャンバの両側を画成する2つの側壁と、実質的に連続で、円周方向に延在する内壁とを有し、少なくとも1つの入口と、少なくとも1つの出口を有するステータと、
回転の中心軸周りに回転するように前記チャンバ内に搭載され、前記ステータと共に、前記チャンバの両端に2つの空洞を画成するロータであり、前記中心軸周りに均等に離隔配置された半径方向に延在する少なくとも2つの溝穴を有するロータと、
前記溝穴のそれぞれ1つにそれらのそれぞれが取り付けられた半径方向に移動可能な少なくとも2つのベーンであり、ベーンの半径方向内側部分に取り付けられた第1の主ローラおよび第2の主ローラと、第1の2次ローラおよび第2の2次ローラとをベーンのそれぞれが有し、前記第1の主ローラおよび2次ローラがそれらのそれぞれのベーンの第1の側端に取り付けられ、前記第2の主ローラおよび2次ローラがそれらのそれぞれのベーンの反対側の第2の側端に取り付けられている、少なくとも2つのベーンと、
前記ステータ側壁のそれぞれ1つにそれぞれ設けられ、前記ロータの両側に隣接して中央に配置された2つのローラ・カム装置であり、それぞれが、前記主ローラおよび2次ローラそれぞれの半径方向の移動に係合し、それを制御する主カム面および2次カム面を形成し、前記カム面が、ローラ・カム装置の内部に形成され、各ローラ・カム装置の前記主カム面と2次カム面とが、前記回転軸に対して、軸方向、および実質的に半径方向に互いに偏位する2つのローラ・カム装置と
を備え、
前記回転機械の作動中、前記ベーンの外側先端が、前記ステータの、円周方向に延在する前記内壁に摺動的に係合し、前記主ローラが、前記ベーンに働く遠心力による前記ベーンの外方への移動を制限し、それによって、前記内壁への前記力の伝達を実質的に制限し、前記2次ローラが、前記ベーンの内方への移動を制限し制御する、
回転機械。
【請求項2】
・・・(略)・・・
【請求項7】
前記主ローラが、前記2次ローラと同じ外径を有し、前記主ローラおよび2次ローラ共に、それらの自由回転を容易にするローラ・ベアリングを備える、請求項1から6のいずれか一項に記載の回転機械。
【請求項8】
・・・(略)・・・
【請求項20】
前記エンジン・ブロックに取り付けられ、エンジン作動の着火フェーズ中に燃料と空気の混合体に着火するように構成された複数の着火装置を備える、請求項11から19のいずれか一項に記載のロータリ・エンジン。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
ロータリ・エンジン、ポンプ、またはコンプレッサなどの回転機械であって、
ロータ用のチャンバを形成するステータであり、前記チャンバの両側を画成する2つの側壁と、実質的に連続で、円周方向に延在する内壁とを有し、少なくとも1つの入口と、少なくとも1つの出口を有するステータと、
回転の中心軸周りに回転するように前記チャンバ内に搭載され、前記ステータと共に、前記チャンバの両端に2つの空洞を画成するロータであり、前記中心軸周りに均等に離隔配置された半径方向に延在する少なくとも2つの溝穴を有するロータと、
前記溝穴のそれぞれ1つにそれらのそれぞれが取り付けられた半径方向に移動可能な少なくとも2つのベーンであり、ベーンの半径方向内側部分に取り付けられた第1の主ローラおよび第2の主ローラと、第1の2次ローラおよび第2の2次ローラとをベーンのそれぞれが有し、前記第1の主ローラおよび2次ローラがそれらのそれぞれのベーンの第1の側端に取り付けられ、前記第2の主ローラおよび2次ローラがそれらのそれぞれのベーンの反対側の第2の側端に取り付けられている、少なくとも2つのベーンと、
前記ステータ側壁のそれぞれ1つにそれぞれ設けられ、前記ロータの両側に隣接して中央に配置された2つのローラ・カム装置であり、それぞれが、前記主ローラおよび2次ローラそれぞれの半径方向の移動に係合し、それを制御する主カム面および2次カム面を形成し、前記カム面が、ローラ・カム装置の内部に形成され、各ローラ・カム装置の前記主カム面と2次カム面とが、前記回転軸に対して、軸方向、および実質的に半径方向に互いに偏位する2つのローラ・カム装置と
を備え、
前記回転機械の作動中、前記ベーンの外側先端が、前記ステータの、円周方向に延在する前記内壁に摺動的に係合し、前記主ローラが、前記ベーンに働く遠心力による前記ベーンの外方への移動を制限し、それによって、前記内壁への前記力の伝達を実質的に制限し、前記2次ローラが、前記ベーンの内方への移動を制限し制御する、
回転機械において、
前記主ローラが、前記2次ローラと同じ外径を有し、前記主ローラおよび2次ローラ共に、それらの自由回転を容易にするローラ・ベアリングを備える回転機械。」
(なお、下線は、補正箇所を示すためのものである。)

2 本件補正の目的及び適否
本件補正は、本件補正前の請求項1ないし6及び8ないし20並びに請求項2ないし6を引用する請求項7を削除し、請求項1を引用する請求項7を新たな請求項1としたものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第1号に規定する請求項の削除を目的とするものに該当する。
また、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第4項に規定する要件に違反するものではない。
よって、本件補正は、適法にされたものである。

第3 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲並びに翻訳文の明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2 1(2)の【請求項1】のとおりである。

第4 引用文献の記載等
1 引用文献の記載
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に外国において、頒布された刊行物である米国特許第3250260号明細書(以下、「引用文献」という。)には、「ROTARY ENGINES」(当審訳:ロータリ・エンジン)に関して、図面とともにおおむね次の記載(以下、順に「記載1a」ないし「記載1c」という。なお、当審訳における下線は当審で付したものである。)がある。

1a 「The present invention relates to improved rotary engines. Certain of the features herein disclosed are suitable for the construction of positive displacement engines such as compressors, pumps and hydraulic motors. Particular features are directed to embodiments of an internal combustion engine.
The use of rotary engines having sliding vanes mounted on the rotor is well known. Previous limitations have included low compression ratios, and sealing and wear problems associated with the sliding vanes, leading to low efi'lciency and inadequate life.
Accordingly, the object of the present invention is to provide an efficient long wearing rotary engine of simple construction and light weight and having improved reli ability.
In carrying out the invention I have appreciably re duced the sliding friction, while also minimising rotor vane jamming and inadequate vane-side sealing.
My engine comprises essentially two parts, a stator and a rotor. The stator has an oval or elliptical bore within which the rotor rotates.
The rotor vanes are supported by the rotor and move radially towards and away from the rotor axis of rotation, to maintain contact with the stator bore.」(第1欄第7ないし31行)
(当審訳:本発明は改善されたロータリ・エンジンに関する。本明細書に開示された特徴のいくつかは、コンプレッサ、ポンプ及び油圧モータなどの容積型機関の構築に適している。特定の特徴は、内燃機関の実施形態を対象とする。
ロータに搭載されたスライド・ベーンを有するロータリ・エンジンの使用は周知である。以前の限界は、低圧縮比ならびにスライド・ベーンに関連したシール及び磨耗の問題を含み、低効率と不十分な寿命に繋がってきた。
したがって、本発明の目的は、単純な構造で軽量かつ信頼性が改善された効率的で長持ちするロータリ・エンジンを提供することにある。
発明を実施する際に、ロータ・ベーンのジャミングと不十分なベーン側面シールを最小にしつつ、滑り摩擦をかなり低減させた。
本発明のエンジンは、本質的に、二つの部分、ステータとロータを含む。ステータには卵形すなわち楕円形の内径があり、その内部をロータが回転する。
ロータ・ベーンはロータに支えられ、ロータの回転軸に向かって、又はそれから離れて放射状に移動して、ステータ内径との接触を維持する。)

1b 「In the drawings the following exemplifications are shown:
FIGURE 1 shows an embodiment of the rotor drum;
FIGURE 2 shows a sectioned view of an engine according to the invention;
FIGURE 3 shows a sectioned sketch of the engine on line 3-3 of FIGURE 2;
FIGURE 4 shows a sectioned view of the engine on line 4-4 of FIGURE 2;
FIGURE 5 shows a detail of the stator casing at th line 5-5 of FIGURE 3;
FIGURE 6 shows a side section view of a different embodiment of the engine having reduced diameter rotor end flanges;
FIGURE 6a shows an enlarged detail of the rotor structure of FIGURE 6;
FIGURE 6b shows a partial side section view of FIG- URE 6;
FIGURE 7 shows a side section view of another embodiment of the engine;
FIGURE 8 shows a partial section of an engine similar to that of FIGURE 2 and embodying an internal vane control cam;
FIGURE 9 shows a rotor blade detail for the engine embodied in FIGURE 7; and
FIGURE 10 shows a section on line 10-10 of FIGURE9.」(第1欄第62行ないし第2欄第24行)
(当審訳:図面では、以下の例を示す。
【図1】ロータ・ドラムの一実施形態の図である。
【図2】本発明によるエンジンの断面図である。
【図3】図2の線3-3上の、エンジンの断面図である。
【図4】図2の線4-4上の、エンジンの断面図である。
【図5】図3の線5-5上の、ステータ・ケーシングの詳細である。
【図6】直径が低減されたロータ端フランジを有するエンジンの、異なる実施形態の側断面図である。
【図6a】図6のロータ構造の拡大詳細図である。
【図6b】図6の部分側断面図である。
【図7】エンジンの別の実施形態の側断面図である。
【図8】図2のエンジンと類似し内部ベーン制御カムを具現しているエンジンの部分断面図であり。
【図9】図7で具現されたエンジンのロータ・ブレードの詳細図である。
【図10】図9の線10-10上の、断面図である。)

1c 「In FIGURE 1, the rotor drum 1 according to the invention has end flanges 2 and 3. End flange 2 carries the output shaft 4 and also serves as a supercharger impeller. The holes 5 drilled radially through the end flange 2 are connected to the main drum aperture 6 by holes 11. Rod bolts, studs and nuts or capscrews or other suitable fasteners, assemble end flanges 2 and 3 to the rotor 1. The vanes or blades 7 not being shown, for clarity. On the outer surface of end flange 3 the cooling fins 8 act as a cooling air impeller within the stator manifold or stator end shield 23.
In my engine the lubricating oil is mixed with the fuel initially if liquid fuel is used. Engines using gaseous fuels are lubricated by means of drip feeding into the combustion air inlet. Very large engines are pressure lubricated by means known in the art.
In FIGURE 2, the carburetor, not shown, fits externally on flange 9, so that the air entering through the centre aperture 6 of the rotor is suitably carburetted. This air-tuel-lubricant mixture enters end flange 2 by holes 11, and is centrifugally compressed into manifold chamber 12.
The manifold chamber 12, in end casing 13, connects by way of port 14 to the admission port 15 of the stator casing central section 16, as shown in FIGURES 2 and 3. For ease of fabrication the admission port 15, adjacent transfer port 14, is closed by a removable cover 17.
In the present embodiment rotor blades or vanes of different forms are shown.
As the rotor rotates, the blades or vanes 7, 7' reciprocate within the slotted recesses 19, 19' with rubbing contact or with mixed rubbing-rolling contact, if friction reducing rollers are bearing the vanes inside the recesses 19, 19. ・・・(略)・・・
The rotor 1 is supported in the three piece stator by an appropriate arrangement of bearings, such as roller, ball or journal.
In the embodiment of FIGURE 7, the radial position of the rotor blades 7' is controlled by cam rings 27 and 28, operating against rollers 22 and 30.
In this fashion the wear of the rotor blades is minimised or prevented, as the force to position the blades radially in their slots is provided by rollers 29 reacting against cam rings 28, and rollers 30 reacting against cam rings 27.
・・・(略)・・・
Clockwise rotation of the rotor induces air, oil and fuel mixture into the space A. Rotation past inlet port 15 seals the space A, and further rotation causes the mixture to compress, as at B. As the leading blade or vane uncovers the first aperture 33, ignition occurs, either from spark or glow plug 31, or by flash-back from the combustion in the preceding space. Continued rotation is now produced by the working stroke, as the gas expands, such as in zones C and D. Finally the expanded gas in zone E passes from exhaust port 34 to atmosphere.
・・・(略)・・・
It is evident that the improved rotor structures may be used with or without the flash-back duct. The disclosure throughout has been directed to radially directed blades or vanes, but variations from the radial direction do not in themselves constitute distinction over the improvements disclosed herein.」(第2欄第25行ないし第5欄第50行)
(当審訳:図1では、本発明によるロータ・ドラム1が、端フランジ2及び3を有する。端フランジ2は出力シャフト4を担持し、過給機インペラとしても働く。端フランジ2を通して径方向に設けられた穴5は、穴11によって主ドラム開口6と接続している。ロッド・ボルト、鋲、ナット又は押えネジ、又は他の適した締付具で、端フランジ2及び3をロータ1に組み付ける。ベーン又はブレード7は、明瞭化のため図示していない。端フランジ3の外側表面において冷却フィン8は、ステータ・マニホールド又はステータ端シールド23内部において、冷却用空気インペラとして作用する。
本発明のエンジンでは、液体燃料を使用する場合は、潤滑油を最初に燃料と混合する。ガス燃料を使用するエンジンでは、燃焼空気入口に滴下供給することにより、潤滑される。非常に大きなエンジンでは、当分野で既知の手段によって、圧力潤滑される。
図2では、図示されていないキャブレタがフランジ9の外部に嵌められており、ロータの中央開口6を通って入る空気は、適切に炭素と化合する。この空気-燃料-潤滑剤混合物は、穴11を経由して端フランジ2に入り、マニホールド・チャンバ12内に遠心圧縮される。
図2及び図3に示すように、マニホールド・チャンバ12は、端ケーシング13内でポート14を経由してステータ・ケーシングの中央部分16の吸気口15に接続する。容易に製作するため、移送口14に隣接する吸気口15は、取り外し可能なカバー17によって閉じられている。
本実施形態では、異なる形態のロータ・ブレード又はロータ・ベーンを示す。
ロータが回転すると、摩擦低減用ベアリングが凹部19、19´内でベーンを支える場合、ブレード又はベーン7、7´が、溝のついた凹部19、19´内で、摩擦接触の状態又は摩擦接触-回転接触が混合した状態で往復運動する。ローラは、図6aのシール・ストリップ20と同様に、シール・ストリップにより保護及びシールされるが、明瞭化のため図示されない。また、図7において、凹部19、19´内のシール・ストリップは、スロット18を通るガスの漏れを防ぐ。ベーン・ブレード7、7´の側面部の接触領域の、凹部を設けられた端フランジに対する運動速度は、従来技術における速度よりもはるかに遅い。また、ブレードへの溝のついた凹部の肩によって付与された、ガスがブレード表面に対して垂直にかける負荷に抵抗するための横方向の支えが、負荷により生じる曲げ応力を低減させる。図6aに示すように、ロータ構造のシール・ストリップは、ガス・シール20及び交換可能なラビング面としての役割を果たす。穴11によって、冷却用空気又は可燃性混合物がロータを通過することが可能である。図6、図6a及び図6bのロータでは、ロータの端フランジは、感覚的にロータ・ドラムの直径と同じ直径である。凹部を設けられた端プレートは、より大きな直径の実施形態が付与するベーンの支えを付与しない。また、ベーン又はブレードは、ステータ端クロージャの側面部に対する滑り運動につき、寸法調整する必要がある。結果として、摩擦損失は、より大きくなり、流体シールは効果的なものではなくなり、比較的低い圧縮比が望ましくなる。このようなロータ構造の利点は、単純かつ安価なことにあり、初期コストが重要因子であり効率と経済性の重要度は低いようなエンジン、たとえば模型エンジン、動力芝刈り機、発電所近くの緊急スタンドなどに相応しい。
図6の構造では、図6bで示すように、直径が低減されたロータ端フランジは、ステータの中央部分の端カバーに凹部を設けることが必要となった。したがって、ロータの凹部からステータ端カバー面を越えて延在するベーン端のフラッシュ・サーフェイスが、ベーン側面部のシール接触のために設けられる。ロータ端フランジとステータ端カバー凹部の間を環状に走るクリアランスには、それぞれのロータ端で適したタイプのガス・シール21が必要である。
提案されたさらなる改良には、明瞭化のために図示しないが、図6aのシール・ストリップ20に軸方向かつ平行に隣接する位置に搭載されたロータ1のブレード、又はベーン凹部内でローラを支えるブレードを使用して、ブレードの自由な動きに抗して作用する最小の摩擦力を保証することが含まれる。
以前に開示されたベーン軸受けローラ、ベーン・ガイド・ローラ、及びロータ主軸受は、当該技術分野で周知の、二硫化モリブデングリースなどの様々な適切なグリースで半永久的に潤滑され得る。あるいは、それらは、圧力潤滑又は滴下潤滑の公知の手段の一つによって一般的な潤滑装置内に含まれ得る。
様々なタイプのロータ・ブレード又はロータ・ベーンは、軽バネ又はガス圧を径方向外向きの力に使用したり、又は遠心力に頼ったり、前記ベーン制御手段の組み合わせに頼ったりしてエンジンに組み込まれている。ベーンはまた、互いに連結され制御されたベーン動作を実現する、梃又は適切な内径内の小さなピストンによって相互に接続させることもできる。
極めて低い回転での正確なベーン動作を保証するさらなる改良が、図8の内部ベーン制御カム35である。
ローラを使用するさらなる実施形態を以下に開示する。
一般に、図6及び6aに示すような二つの対向部からなる複合ベーン・ブレードが極めて適していることが分かっており、また、ステータ端壁に対するベーン・シール接触が必要な、径が低減されたエンド・プレートを有する図6bに示すような単純な実施形態では、対向するベーン・ブレード半間の径方向及び軸方向の反作用力を生み出すバネ手段の使用によって、必要なシール圧がブレードによって働くことが保証される。
図6aに示すような、輪郭が描かれ積層されたベーンは、より軽量でより強度が高いという利点を提供し、またそれらは、ステータ内径への多くの接触線上にベーン重量を分散させ、それにより、よりよいシールとより少ない磨耗を実現する。
このようなベーン・ブレードを構築する際、隣接して対向するブレード面間のガス漏れを防ぐことが必要である。またこれは、互いにかみあう放射状のランド、又はパッキン押さえ効果を形成する突起、又は耐熱性プラスチック又は様々な材料及び断面の適切なシール・ストリップなどの、当業者に自明の様々な方法によって実現される。
材料の多くの組み合わせが、摺接が生じるステータ及びロータ部品に適することが分かっている。損傷及び摩滅の可能性が生じるので、加工硬化するステンレス鋼の使用は回避すべきである。鋳鉄を含んだモリブデン合金鋼、延性鋳鉄と金属プラスチック化合物を含んだ高炭素鋼、及び、あるアルミニウム合金の組合せが有効であることが分かっている。そして、適切な選択をすれば当業者には困難はもたらされない。
外部冷却空気回路が、ロータのインペラ・ブレード8に空気を入れる吸気口22から作られる。図2、4、5、8に示すように、空気が端部カバーの冷却マニホルド23内に誘導され、フランジの穴24を経由して、ステータの周囲の外面に空気が向けられる中央のステータ・ケースの周囲に位置する、冷却マニホルド23の残りの部分まで通る。穴24はフランジ25に周設され、サイズを少しずつ変えられて制御された冷却をもたらし、熱ひずみを最小化させる。製造と組み立てを容易にするために環状のカバー・ストリップ26が用いられる。理由は、その後、ステータ・ケース16を簡単な技法で鋳造できるからである。
ロータ1は、ローラ、ボール又はジャーナルなどのベアリングの適切な配置によって3ピース・ステータ内で支えられる。
図7の実施形態では、ロータ・ブレード7´の径方向の位置が、ローラ29、30に対して作動するカム・リング27、28によって制御される。
この方法で、ロータ・ブレードの磨耗が最小化されるか又は防がれる。理由は、ブレードをそれらのスロット内の径方向に位置させる力が、カム・リング28に反作用するローラ29、及びカム・リング27に反作用するローラ30によって与えられるからである。
この実施形態では、ブレードを径方向のクリアランスを若干有するように配置することができ、それによって、ブレード先端の磨耗が防がれる。シールは図9、10のシール・ストリップ28によって達成される。
図1のベーン・ガイド凹部19及び図7のベーン・ガイド凹部19´に没入されたベーン・ブレード側面の摩擦を低減させ磨耗を最小化するさらなる改良が、ローラを使用してベーンを前記ガイド凹部内に運ぶことによって与えられる。すなわち、ベーンは、凹部19、19´の肩部に実際に接触せず、ローラのみに接触する。分かり易くするためにローラは図示していない。これらのローラの使用によって、スロット18からのガス漏れを防ぐために図7の凹部19´のシールが必要になる。これらの凹部のシール・ストリップは、形状及び原理において図6aのシール・ストリップ20に類似している。
点火は、接続用開口33により燃焼ゾーンに接続されたハウジング32内で、点火プラグ又はグロー・プラグ31によって開始される。点火システムは図示しないが、タイミングは必要ではないので、燃焼を開始するためにオシレータ又は振動子のコイルからの連続的なスパークが使用され得る、あるいは、グロー・プラグが適用される場合は、任意のソースからの電流が使用され得る。
図3を特に参照したエンジンの操作は、以下のとおりである。
ロータの時計回りの回転により、空気、油及び燃料混合物が空間Aに引き込まれる。吸気口15を通過した回転は、空間Aをシールし、さらなる回転はBでのように混合物を圧縮する。前方のブレード又はベーンが第一開口33の蓋を取るので、スパーク・プラグ又はグロー・プラグ31、あるいは、先行する空間内の燃焼からのフラッシュバックのどちらかから点火が起きる。ガスがゾーンC内及びD内などで膨張するので、爆発工程によって、このとき、継続的な回転が生じる。最終的に、ゾーンE内の膨張ガスが排気口34から大気まで通過する。
図8の実施形態では、静止した混合物ガイドとベーン制御装置37は、可燃性混合物を、気化器からロータの中心を通って、ポート36を経由して混合物ガイドの外へ、ベーン制御カム35を過ぎて、過給機の入口11内に運ぶ。ベーン制御カム35は、遠心力が、ベーンがステータ内径と常時当接する状態を維持するのに不十分なとき、低速での適切なベーンの動きを保証する。
始動は電気スタータ、手動クランク・スタータ、あるいは、圧縮空気又は適切なコンテナに保管された前の運転からの燃焼生成物を、図示しない逆止弁又はエンジンを始動させる他の任意の既知の手段によって、図3の膨張ゾーンDに投入することによって達成することができる。
単純化された構造が使用されるので、非常に大きなエンジンが実現可能である。ロータを通って流れる空気と燃料の混合物の冷却効果は、調整されたステータ温度及び開口33によるフラッシュバック点火と合わせて、よりオクタン価が低く非常に重い燃料の使用を可能にする。
熱力学的効率は、より高い圧縮比を使用することで促進され、また全体的な熱力学的熱収支は、実際の混合物をロータ冷却に使用することによって大きく改善される。回転当りの多くの爆発工程の数がロータ上のベーンの数に等しいので、トルク曲線は極めて平坦である。エンジンの対称性とロータ・ブレードの非常に低い振動質量を考慮して、エンジン速度はレシプロ・エンジンの正常範囲にある。簡単な組み立て方法、及び精巧な部品が不要であることによって、製造及び組み立ての費用が低減され、その結果、この多重ブレード・ロータの設計によって、重量比に対して非常に高いパワーが得られる。
フラッシュバック点火ダクトによって、定常走行時にスパーク・プラグ又はグロー・プラグを接続しないようにすることが可能になり、ダクトを通る高温ガスの通路がスパーク・プラグをクリーンな状態に維持し、オイル・イン・フュエル走行にしばしば伴うオイル・アップが必要なくなる。また、先の点火空間から点火フラッシュバック・ダクトを通って戻る高温ガスの通路が、点火の瞬間の最大ガス圧上昇に役立つことが分かった。
空間C内の高圧ガスの一部は、この空間からダクト33を通って空間Dまで逃げることができる。点火の瞬間とそれに続く空間C内の高圧時に、この空間を形成する二つのベーンの露出領域は、ほとんど平衡であり、この領域内では有益な作業はできない。しかし、ピーク圧力の一部はダクト33を通って空間Dまで流れる。このようにして、ここに圧力が生じ、この瞬間の露出されたベーンの先端の表面積は、尾を引くベーンの露出面積に対して好ましい比率を有するので、実効トルク及び作業量の増大が得られる。
フラッシュバック・ダクトの有無にかかわらず、改善されたロータ構造が使用され得ることは明らかである。本開示の全体にわたって、径方向に向けられたブレード又はベーンを対象としてきたが、径方向からの変形はそれ自体、本明細書に開示した改善に関して区別を構成しない。)

2 引用文献の記載事項
記載1aないし1c及び図面の記載から、引用文献には、次の事項(以下、順に「記載事項2a」ないし「記載事項2f」という。)が記載されていると認める。

2a 記載1aの「本発明は改善されたロータリ・エンジンに関する。」及び図面によると、引用文献には、ロータリ・エンジンが記載されている。

2b 記載1aの「本発明のエンジンは、本質的に、二つの部分、ステータとロータを含む。ステータには卵形すなわち楕円形の内径があり、その内部をロータが回転する。」、記載1cの「図2及び図3に示すように、マニホールド・チャンバ12は、端ケーシング13内でポート14を経由してステータ・ケーシングの中央部分16の吸気口15に接続する。容易に製作するため、移送口14に隣接する吸気口15は、取り外し可能なカバー17によって閉じられている」、「ロータ1は、ローラ、ボール又はジャーナルなどのベアリングの適切な配置によって3ピース・ステータ内で支えられる。」及び「ロータの時計回りの回転により、空気、油及び燃料混合物が空間Aに引き込まれる。吸気口15を通過した回転は、空間Aをシールし、さらなる回転はBでのように混合物を圧縮する。前方のブレード又はベーンが第一開口33の蓋を取るので、スパーク・プラグ又はグロー・プラグ31、あるいは、先行する空間内の燃焼からのフラッシュバックのどちらかから点火が起きる。ガスがゾーンC内及びD内などで膨張するので、爆発工程によって、このとき、継続的な回転が生じる。最終的に、ゾーンE内の膨張ガスが排気口34から大気まで通過する。」並びに図面を記載事項2aとあわせてみると、引用文献には、ロータ1用のマニホールド・チャンバ12を形成するステータ・ケーシングであり、前記マニホールド・チャンバ12の両側を形成する2つの側壁と、実質的に連続で、円周方向に延在する内壁とを有し、吸気口15と、排気口34を有するステータ・ケーシングが記載されている。

2c 記載1aの「ロータ・ベーンはロータに支えられ、ロータの回転軸に向かって、又はそれから離れて放射状に移動して、ステータ内径との接触を維持する。」及び図面を記載事項2a及び2bとあわせてみると、引用文献には、回転の中心軸周りに回転するようにマニホールド・チャンバ12内に搭載され、ステータ・ケーシングと共に、前記マニホールド・チャンバ12の両端に2つの空洞を画成するロータ1であり、前記中心軸周りに均等に離隔配置された半径方向に延在する少なくとも2つの溝穴を有するロータ1が記載されている。

2d 記載1aの「ロータ・ベーンはロータに支えられ、ロータの回転軸に向かって、又はそれから離れて放射状に移動して、ステータ内径との接触を維持する。」及び記載1cの「図7の実施形態では、ロータ・ブレード7´の径方向の位置が、ローラ29、30に対して作動するカム・リング27、28によって制御される。」並びに図面を記載事項2aないし2cとあわせてみると、引用文献には、溝穴のそれぞれ1つにそれらのそれぞれが取り付けられた半径方向に移動可能な少なくとも2つのロータ・ブレード7´であり、ロータ・ブレード7´の半径方向内側部分に取り付けられた2つのローラ30(便宜上、一方を「ローラ30a」、他方を「ローラ30b」といい、区別しない場合「ローラ30」という。)と、2つのローラ29(便宜上、一方を「ローラ29a」、他方を「ローラ29b」といい、区別しない場合「ローラ29」という。)とをロータ・ブレード7´のそれぞれが有し、前記ローラ30aとローラ29aがそれらのそれぞれのロータ・ブレード7´の第1の側端に取り付けられ、前記ローラ30bとローラ29bがそれらのそれぞれのロータ・ブレード7´の反対側の第2の側端に取り付けられている、少なくとも2つのロータ・ブレード7´が記載されている。

2e 記載1aの「ロータ・ベーンはロータに支えられ、ロータの回転軸に向かって、又はそれから離れて放射状に移動して、ステータ内径との接触を維持する。」及び記載1cの「図7の実施形態では、ロータ・ブレード7´の径方向の位置が、ローラ29、30に対して作動するカム・リング27、28によって制御される。」並びに図面を記載事項2aないし2dとあわせてみると、引用文献には、ステータ・ケーシング側壁のそれぞれ1つにそれぞれ設けられ、ロータ1の両側に隣接して中央に配置された2つのカム・リング27とカム・リング28からなるカム・リングセット(便宜上、このように表現する。)であり、それぞれが、ローラ30およびローラ29それぞれの半径方向の移動に係合し、それを制御するカム・リング27の内周面とカム.リング28の外周面を形成し、前記カム・リング27の内周面とカム.リング28の外周面が、カム・リング27とカム・リング28からなるカム・リングセットの内部に形成され、各カム・リング27とカム・リング28からなるカム・リングセットの前記カム・リング27の内周面とカム.リング28の外周面とが、回転の中心軸に対して、軸方向、および実質的に半径方向に互いに偏位する2つのカム・リング27とカム・リング28からなるカム・リングセットが記載されている。

2f 記載1aの「ロータ・ベーンはロータに支えられ、ロータの回転軸に向かって、又はそれから離れて放射状に移動して、ステータ内径との接触を維持する。」及び記載1cの「図7の実施形態では、ロータ・ブレード7´の径方向の位置が、ローラ29、30に対して作動するカム・リング27、28によって制御される。
この方法で、ロータ・ブレードの磨耗が最小化されるか又は防がれる。理由は、ブレードをそれらのスロット内の径方向に位置させる力が、カム・リング28に反作用するローラ29、及びカム・リング27に反作用するローラ30によって与えられるからである。」並びに図面を記載事項2aないし2eとあわせてみると、引用文献には、ロータリ・エンジンの作動中、ロータ・ブレード7´の外側先端が、ステータ・ケーシングの、円周方向に延在する内壁に摺動的に係合し、ローラ30が、ロータ・ブレード7´に働く遠心力による前記ロータ・ブレード7´の外方への移動を制限し、それによって、前記内壁への前記力の伝達を実質的に制限し、ローラ29が、前記ロータ・ブレード7´の内方への移動を制限し制御することが記載されている。

3 引用発明
記載1aないし1c、記載事項2aないし2f及び図面の記載を整理すると、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「ロータリ・エンジンであって、
ロータ1用のマニホールド・チャンバ12を形成するステータ・ケーシングであり、前記マニホールド・チャンバ12の両側を形成する2つの側壁と、実質的に連続で、円周方向に延在する内壁とを有し、吸気口15と、排気口34を有するステータ・ケーシングと、
回転の中心軸周りに回転するように前記マニホールド・チャンバ12内に搭載され、前記ステータ・ケーシングと共に、前記マニホールド・チャンバ12の両端に2つの空洞を画成するロータ1であり、前記中心軸周りに均等に離隔配置された半径方向に延在する少なくとも2つの溝穴を有するロータ1と、
前記溝穴のそれぞれ1つにそれらのそれぞれが取り付けられた半径方向に移動可能な少なくとも2つのロータ・ブレード7´であり、ロータ・ブレード7´の半径方向内側部分に取り付けられた2つのローラ30(ローラ30aとローラ30b)と、2つのローラ29(ローラ29aとローラ29b)とをロータ・ブレード7´のそれぞれが有し、前記ローラ30aとローラ29aがそれらのそれぞれのロータ・ブレード7´の第1の側端に取り付けられ、前記ローラ30bとローラ29bがそれらのそれぞれのロータ・ブレード7´の反対側の第2の側端に取り付けられている、少なくとも2つのロータ・ブレード7´と、
前記ステータ・ケーシング側壁のそれぞれ1つにそれぞれ設けられ、前記ロータ1の両側に隣接して中央に配置された2つのカム・リング27とカム・リング28からなるカム・リングセットであり、それぞれが、前記ローラ30およびローラ29それぞれの半径方向の移動に係合し、それを制御するカム・リング27の内周面とカム.リング28の外周面を形成し、前記カム・リング27の内周面とカム.リング28の外周面が、カム・リング27とカム・リング28からなるカム・リングセットの内部に形成され、各カム・リング27とカム・リング28からなるカム・リングセットの前記カム・リング27の内周面とカム.リング28の外周面とが、前記回転の中心軸に対して、軸方向、および実質的に半径方向に互いに偏位する2つのカム・リング27とカム・リング28からなるカム・リングセットと
を備え、
前記ロータリ・エンジンの作動中、前記ロータ・ブレード7´の外側先端が、前記ステータ・ケーシングの、円周方向に延在する内壁に摺動的に係合し、前記ローラ30が、前記ロータ・ブレード7´に働く遠心力による前記ロータ・ブレード7´の外方への移動を制限し、それによって、前記内壁への前記力の伝達を実質的に制限し、前記ローラ29が、前記ロータ・ブレード7´の内方への移動を制限し制御する、
ロータリ・エンジン。」

第4 対比
本願発明と引用発明を対比する。

引用発明における「ロータリ・エンジン」は、その機能、構成または技術的意義からみて、本願発明における「ロータリ・エンジン、ポンプ、またはコンプレッサなどの回転機械」及び「回転機械」に相当し、以下、同様に、「ロータ1」は「ロータ」に、「マニホールド・チャンバ12」は「チャンバ」に、「ステータ・ケーシング」は「ステータ」に、「吸気口15」は「少なくとも1つの入口」に、「排気口34」は「少なくとも1つの出口」に、「ロータ・ブレード7´」は「ベーン」に、「ローラ30」は「主ローラ」に、「ローラ30a」は「第1の主ローラ」に、「ローラ30b」は「第2の主ローラ」に、「ローラ29」は「2次ローラ」に、「ローラ29a」は「第1の2次ローラ」に、「ローラ29b」は「第2の2次ローラ」に、「カム・リング27とカム・リング28からなるカム・リングセット」は「ローラ・カム装置」に、「カム・リング27の内周面」は「主カム面」に、「カム.リング28の外周面」は「2次カム面」に、「前記回転の中心軸」は「前記回転軸」に、それぞれ、相当する。

したがって、両者は、
「ロータリ・エンジン、ポンプ、またはコンプレッサなどの回転機械であって、
ロータ用のチャンバを形成するステータであり、前記チャンバの両側を画成する2つの側壁と、実質的に連続で、円周方向に延在する内壁とを有し、少なくとも1つの入口と、少なくとも1つの出口を有するステータと、
回転の中心軸周りに回転するように前記チャンバ内に搭載され、前記ステータと共に、前記チャンバの両端に2つの空洞を画成するロータであり、前記中心軸周りに均等に離隔配置された半径方向に延在する少なくとも2つの溝穴を有するロータと、
前記溝穴のそれぞれ1つにそれらのそれぞれが取り付けられた半径方向に移動可能な少なくとも2つのベーンであり、ベーンの半径方向内側部分に取り付けられた第1の主ローラおよび第2の主ローラと、第1の2次ローラおよび第2の2次ローラとをベーンのそれぞれが有し、前記第1の主ローラおよび2次ローラがそれらのそれぞれのベーンの第1の側端に取り付けられ、前記第2の主ローラおよび2次ローラがそれらのそれぞれのベーンの反対側の第2の側端に取り付けられている、少なくとも2つのベーンと、
前記ステータ側壁のそれぞれ1つにそれぞれ設けられ、前記ロータの両側に隣接して中央に配置された2つのローラ・カム装置であり、それぞれが、前記主ローラおよび2次ローラそれぞれの半径方向の移動に係合し、それを制御する主カム面および2次カム面を形成し、前記カム面が、ローラ・カム装置の内部に形成され、各ローラ・カム装置の前記主カム面と2次カム面とが、前記回転軸に対して、軸方向、および実質的に半径方向に互いに偏位する2つのローラ・カム装置と
を備え、
前記回転機械の作動中、前記ベーンの外側先端が、前記ステータの、円周方向に延在する前記内壁に摺動的に係合し、前記主ローラが、前記ベーンに働く遠心力による前記ベーンの外方への移動を制限し、それによって、前記内壁への前記力の伝達を実質的に制限し、前記2次ローラが、前記ベーンの内方への移動を制限し制御する、
回転機械。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>
本願発明においては、「前記主ローラが、前記2次ローラと同じ外径を有し、前記主ローラおよび2次ローラ共に、それらの自由回転を容易にするローラ・ベアリングを備える」のに対し、引用発明においては、そのような構成を備えていない点(以下、「相違点」という。)。

第5 相違点についての判断
そこで、相違点について、以下に検討する。

引用文献には、本願発明における「主ローラ」及び「2次ローラ」に相当する「ローラ30」及び「ローラ29」について、外径等の寸法を限定する記載やその構造を限定する記載は特にない。
他方、ローラ・カム装置に使用するローラの寸法をどうするかは、各ローラに加わる荷重や製作容易性等を考慮して、当業者が適宜決めるべき設計的事項である。
また、ローラ・カム装置に使用される2つのローラの外径を同程度にすること及びローラ・カム装置に使用されるローラをローラ・ベアリングを備えたものとすることは、本願の優先日前に周知(必要であれば、下記1等を参照。以下、「周知技術」という。)である。そして、ローラ・ベアリングが、ローラの自由回転を容易にするものであることは、当業者に自明な事項である。
したがって、引用発明において、周知技術を適用し、「ローラ30」及び「ローラ29」の外径を同じにし、「ローラ30」及び「ローラ29」に、それらの自由回転を容易にするローラ・ベアリングを備えるようにして、相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

そして、本願発明を全体としてみても、本願発明は、引用発明及び周知技術からみて、格別顕著な効果を奏するともいえない。

なお、請求人は、平成27年8月18日提出の手続補正書(方式)において、「そして、このような構成を備えることにより、明細書の段落
【0031】
に記載された次のとおりの効果を奏するのであります。
(1)その構造は、ベーン・シール部品の数を削減し、
(2)その構造は、接触面積を損なわずに2つのコーナ・シールの熱膨張を許容し、それによって、圧力を維持し、
(3)コーナ・シールを使用することによって、シール間隙を減少させ、ガスの吹き抜けを防止し、各コーナ・シールの側方脚284を介して振動を吸収することによって、シールがびびる可能性を減少させる。」旨主張するが、本願明細書の段落【0031】に「また図10には、2つの完全なコーナ・シール270、272が示され、それらのそれぞれは直角を形成し、それらのそれぞれは、他方のシールの端部と重なり合う変形した端部274を有する。各コーナ・シールの例示的形態は、硬化鋼から製作されるが、これらシールを、セラミックまたは他の適切な既知のエンジン・シール材料から製造することも可能である。これら2つのシールは、3つの波形リーフ・スプリング276?278を用いてスプリング偏倚されている。これらスプリングは、シールと共にベーンの両側に形成された側面溝280およびベーン先端溝282(図15に最も良く見られる)内に収容されている。この改良型ベーン・シール構造は、以下を含めていくつかの利点を有する。すなわち、(1)その構造は、ベーン・シール部品の数を削減し、
(2)その構造は、接触面積を損なわずに2つのコーナ・シールの熱膨張を許容し、それによって、圧力を維持し、
(3)コーナ・シールを使用することによって、シール間隙を減少させ、ガスの吹き抜けを防止し、各コーナ・シールの側方脚284を介して振動を吸収することによって、シールがびびる可能性を減少させる。」と記載されているように、請求人の主張する効果は、本願の図10に開示されたような「2つの完全なコーナ・シール270、272」及び「3つの波形リーフ・スプリング276?278」を備えた改良型ベーン・シール構造によるものであり、本願の特許請求の範囲の請求項1には、本願の図10に開示されたような「2つの完全なコーナ・シール270、272」及び「3つの波形リーフ・スプリング276?278」を備えた改良型ベーン・シール構造に関する発明特定事項は記載されていないので、請求人の主張する効果は本願発明の効果とはいえない。

したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

1 特表2008-520878号公報の記載
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に日本国内において、頒布された刊行物である特表2008-520878号公報には、「直線運動を回転運動に変換するパワー伝達機構」に関して、図面とともにおおむね次の記載(なお、下線は当審で付したものである。)がある。

・「【0016】
本発明の前記メインローラー9及び/またはサブローラー37の外表面は、図9に示すように、前記内腔溝カムの内向けに傾斜する上部円周カム輪郭7及び/又は下部円周カム輪郭8に合わせるように、円柱形または錐形に形成される。これは、尖縁効果を減軽しまたメインローラーとサブローラーが内腔溝カムの溝内における間隔を調整できるためである。前記メインローラー9は常に下部円周カム輪郭8に接触し、上部円周カム輪郭7に接触しない。前記サブローラー37は常に上部円周カム輪郭7に接触し、下部円周カム輪郭8に接触しない。そのため、メインローラー9とサブローラー37は、ピストンロッドユニットにおいて上下方向に往復運動するとき、逆方向のトルクが発生しない。メインローラー9とサブローラー37が同軸に設置しなくてもよく、ローラー軸との間に、荷重の受ける能力を向上するため、円柱ローラーからなるころ軸受或いは摺動軸受が使用される。」(段落【0016】)

・「【0054】
本発明の前記内腔溝カムのパワー伝達機構の前記実施例は、内腔溝カム下端と端面軸受の間、スライダーと固定レールの間に摺動軸受(転動軸受も除かない)を設置し、これらは平面運動部件であり、設計の空間に余裕があり、圧力潤滑油を使用してオイルシールを形成することにより内腔溝カムとスライダーを支持して機械の効率を向上させる。図3に示すように、潤滑システムの一部及び油路は、内腔溝カムの下端輸出軸がオイルポンプ42を動作させて圧力油を輸出させることから内腔溝カム下端面及び上端までの貫通孔6iと、上端面軸受33aの環状溝33a1及びその貫通孔と固定レール4面に有する孔66が連通する油路である。スライダー27により該孔66を密封する。図10aに示すように、メインローラー9、サブローラー37として転動軸受を採用すると、固定レール座4dの側面に油路と連通する小噴孔78が設置され、ローラー軸が1/2程度上昇するとき、小噴孔78から噴射され潤滑油がメインローラー9へ噴射してメインローラー9を潤滑、冷却する。図10bに示すように、メインローラー9として転動軸受を使用すると、スライダー27の摺動面にローラー軸芯孔への孔が設置され、ローラー軸にメインローラー9が取付けられた位置にローラー軸芯孔への孔があり、メインローラー9を潤滑、冷却する。」(段落【0054】)

・図10a及び図10bから、「メインローラー9」及び「サブローラー37」の外径は同程度であることが看取される。

第6 むすび
上記第5のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-02-05 
結審通知日 2016-02-16 
審決日 2016-02-29 
出願番号 特願2012-505006(P2012-505006)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石黒 雄一佐藤 健一  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 加藤 友也
槙原 進
発明の名称 ローラ制御式ベーンを有する回転機械  
代理人 尾原 静夫  
代理人 真田 雄造  

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