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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04Q 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H04Q 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04Q |
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管理番号 | 1317572 |
審判番号 | 不服2015-4305 |
総通号数 | 201 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-09-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-03-04 |
確定日 | 2016-07-27 |
事件の表示 | 特願2012-112603「ユーザ手動のハンドオフに基づく、セッション開始プロトコルSIP(SessionInitiationProtocol)」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 8月23日出願公開,特開2012-161101〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,2004年11月30日を国際出願日とする出願である特願2006-542674号(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2003年12月1日 米国)の一部を,平成19年9月27日に新たな特許出願とした特願2007-252312号の一部を,平成23年4月19日に更に新たな特許出願とした特願2011-093285号の一部を,平成24年5月16日に更に新たな特許出願としたものであって,原審において,平成26年3月24日付けで最後の拒絶理由が通知され,平成26年10月1日付けで手続補正され,同年10月28日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成27年3月4日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに,同日付けで手続補正されたものである。 第2 補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成27年3月4日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 本件補正 上記手続補正(以下「本件補正」という。)は,本件補正前の平成26年10月1日付けで手続補正された特許請求の範囲に記載された 「 【請求項1】 モバイルユーザ機器(UE)であって, 第1のネットワークを介して通信し, 第1のセッション開始プロトコル(SIP)メッセージを前記第1のネットワークに送信し,前記第1のSIPメッセージは,他のUEからの通信セッションのハンドオーバーのための要求を示すように構成された送信機 を備えたことを特徴とするモバイルユーザ機器(UE)。 【請求項2】 前記第1のSIPメッセージは,SIPインバイトメッセージまたはSIPハンドオフメッセージであることを特徴とする請求項1に記載のモバイルUE。 【請求項3】 前記第1のSIPメッセージは,インターネットプロトコル(IP)アドレス,Eメールアドレス,または電話番号を使用して,前記他のUEを示すことを特徴とする請求項1に記載のモバイルUE。 【請求項4】 前記送信機は,前記第1のSIPメッセージをサービスサーバに送信するようにさらに構成されたことを特徴とする請求項1に記載のモバイルUE。 【請求項5】 前記第1のSIPメッセージは,メディアタイプ,インターネットプロトコル(IP)アドレス,ビットレート,またはコーデックを使用して,前記通信セッションを示すことを特徴とする請求項1に記載のモバイルUE。 【請求項6】 前記第1のSIPメッセージに応答して,前記ハンドオーバーの肯定応答を示す第2のSIPメッセージを受信するように構成された受信機 をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載のモバイルUE。 【請求項7】 前記他のUEは,前記第1のネットワークと通信するように構成されたことを特徴とする請求項1に記載のモバイルUE。 【請求項8】 前記他のUEは,前記第1のネットワークと異なるアーキテクチャを有する第2のネットワークと通信するように構成されたことを特徴とする請求項1に記載のモバイルUE。 【請求項9】 無線通信の方法であって, 第1のネットワークを介して通信するステップと, 第1のセッション開始プロトコル(SIP)メッセージを第1のモバイルユーザ機器(UE)から前記第1のネットワークに送信するステップであって,前記第1のSIPメッセージは,第2のUEから前記第1のモバイルUEへの通信セッションのハンドオーバーのための要求を示すステップと を備えることを特徴とする方法。 【請求項10】 前記第1のSIPメッセージは,インターネットプロトコル(IP)アドレス,Eメールアドレス,または電話番号によって前記第2のUEを示すことを特徴とする請求項9に記載の方法。 【請求項11】 前記第1のSIPメッセージは,メディアタイプ,インターネットプロトコル(IP)アドレス,ビットレート,またはコーデックによって前記通信セッションを示すことを特徴とする請求項9に記載の方法。 【請求項12】 前記第1のSIPメッセージに応答して,前記ハンドオーバーの肯定応答を示す第2のSIPメッセージを受信するステップ をさらに備えることを特徴とする請求項9に記載の方法。 【請求項13】 前記第2のUEは,前記第1のネットワークと通信していることを特徴とする請求項9に記載の方法。 【請求項14】 前記第2のUEは,前記第1のネットワークと異なるアーキテクチャを有する第2のネットワークと通信していることを特徴とする請求項9に記載の方法。」 を 「 【請求項1】 モバイルユーザ機器(UE)であって, 第1のネットワークを介して通信し, 第1のセッション開始プロトコル(SIP)メッセージを前記第1のネットワークに送信し,前記第1のSIPメッセージは,第2のネットワークを介して通信する他のUEからの通信セッションのハンドオーバーのための要求を示すように構成された送信機 を備えたことを特徴とするモバイルユーザ機器(UE)。 【請求項2】 前記第1のSIPメッセージは,SIPインバイトメッセージまたはSIPハンドオフメッセージであることを特徴とする請求項1に記載のモバイルUE。 【請求項3】 前記第1のSIPメッセージは,インターネットプロトコル(IP)アドレス,Eメールアドレス,または電話番号を使用して,前記他のUEを示すことを特徴とする請求項1に記載のモバイルUE。 【請求項4】 前記送信機は,前記第1のSIPメッセージをサービスサーバに送信するようにさらに構成されたことを特徴とする請求項1に記載のモバイルUE。 【請求項5】 前記第1のSIPメッセージは,メディアタイプ,インターネットプロトコル(IP)アドレス,ビットレート,またはコーデックを使用して,前記通信セッションを示すことを特徴とする請求項1に記載のモバイルUE。 【請求項6】 前記第1のSIPメッセージに応答して,前記ハンドオーバーの肯定応答を示す第2のSIPメッセージを受信するように構成された受信機 をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載のモバイルUE。 【請求項7】 前記他のUEは,前記第1のネットワークと通信するように構成されたことを特徴とする請求項1に記載のモバイルUE。 【請求項8】 前記他のUEは,前記第1のネットワークと異なるアーキテクチャを有する第2のネットワークと通信するように構成されたことを特徴とする請求項1に記載のモバイルUE。 【請求項9】 無線通信の方法であって, 第1のネットワークを介して通信するステップと, 第1のセッション開始プロトコル(SIP)メッセージを第1のモバイルユーザ機器(UE)から前記第1のネットワークに送信するステップであって,前記第1のSIPメッセージは,第2のネットワークを介して通信する第2のUEから前記第1のモバイルUEへの通信セッションのハンドオーバーのための要求を示すステップと を備えることを特徴とする方法。 【請求項10】 前記第1のSIPメッセージは,インターネットプロトコル(IP)アドレス,Eメールアドレス,または電話番号によって前記第2のUEを示すことを特徴とする請求項9に記載の方法。 【請求項11】 前記第1のSIPメッセージは,メディアタイプ,インターネットプロトコル(IP)アドレス,ビットレート,またはコーデックによって前記通信セッションを示すことを特徴とする請求項9に記載の方法。 【請求項12】 前記第1のSIPメッセージに応答して,前記ハンドオーバーの肯定応答を示す第2のSIPメッセージを受信するステップ をさらに備えることを特徴とする請求項9に記載の方法。 【請求項13】 前記第2のUEは,前記第1のネットワークと通信していることを特徴とする請求項9に記載の方法。 【請求項14】 前記第2のUEは,前記第1のネットワークと異なるアーキテクチャを有する第2のネットワークと通信していることを特徴とする請求項9に記載の方法。」 に補正するものである。 これ以降,本件補正前の特許請求の範囲の請求項を,「補正前の請求項」,また,本件補正前の特許請求の範囲の請求項を,「補正後の請求項」ということとする。 2 新規事項の有無,補正の目的要件について 本件補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面に記載した事項の範囲内において,補正前の請求項1に記載された「他のUE」を「第2のネットワークを介して通信する他のUE」に,また,補正前の請求項9に記載された「第2のUE」を,「第2のネットワークを介して通信する第2のUE」に限定して,特許請求の範囲の請求項1ないし14に係る発明を限定的に減縮するものである。 よって,本件補正は,特許法第17条の2第3項の規定に適合するとともに,特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当する。 3 独立特許要件について 本件補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするのものであるから,本件補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定)について以下に検討する。 (1)特許法第29条第2項(進歩性)について ア 補正後の発明 補正後の請求項1に係る発明(以下,「補正後の発明」という。)は,以下のものである。 「 モバイルユーザ機器(UE)であって, 第1のネットワークを介して通信し, 第1のセッション開始プロトコル(SIP)メッセージを前記第1のネットワークに送信し,前記第1のSIPメッセージは,第2のネットワークを介して通信する他のUEからの通信セッションのハンドオーバーのための要求を示すように構成された送信機 を備えたことを特徴とするモバイルユーザ機器(UE)。」 イ 引用発明 原審の拒絶理由に引用された,本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に頒布された刊行物である,後藤泰隆,中西孝夫,セッション継続におけるユーザ認識方式に関する一考察,電子情報通信学会ソサイエティ大会講演論文集2003年_通信(2)(B-6-123),2003年9月10日,一般社団法人電子情報通信学会,第123ページ(インターネット<URL:http://ci.nii.ac.jp/naid/110003322424>)(以下,「引用例」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。(なお,システムの仕様上,丸囲み数字が使用できないので,「○1」ないし「○7」との表記により代用した。) (ア)「2.ユビキタス環境でのサービス継続 ユビキタス環境では,1人のユーザが,同一サービスを利用するときにADSL環境ではデスクトップPCで,外出先の無線LAN配下では,PDAでアクセスする可能性がある。 またストリーミング中や,VoIPで通信中の場合は,セッション継続中にユーザ環境に合わせてデバイスを切り替える(ハンドオーバ[2])必要がでてくる。(図1) そのときService Provider(SP)では,ハンドオーバ先が,同一のユーザのデバイスであるかを確認するユーザ認証が必要になってくる。」(左欄上部) (イ)「 」(左欄中程) (ウ)「3.ユーザ認証における前提条件 本稿では,SIP(Session Initiation Protoco1)を用いたVoIP通信中におけるデバイス間のハンドオーバをケーススタディとしてユーザ認証を検討する。 <前提条件> ○1 SPは,デバイスとのセッション接続時に任意のユーザ認証を行う。 ○2 SPからユーザに付与されたSIP-URIは1つとする。 (複数のデバイスでS IP-URIを共用) ○3 SPが,各デバイスからREGISTERを受信すると位置情報を上書きする。 ○4 デバイスAは,デバイスBをローカル手順(例:Bluetooth)て検出し,暗号化した情報の送受信ができる。 ○5 ハンドオーバの要求は,デバイスBからのREGISTER契機にSPで認識しSPからデバイスBに着信要求する。 ○6 ハンドオーバ時一時的にデバイスAとデバイスBは,二重ログイン状態になる(セッションを継続させるため)。 ○7 アクセス網のログイン認証は検討の対象外とする。」(左欄下部) エ 「4.実現方式 (…中略…) 案3の共通鍵認証方法を図2のシーケンスにそって説明する。 ○1 デバイスAは,セッション起動時にSPが生成した乱数kと共通鍵から演算結果f(k)を生成し,SPに送信し,その演算結果を保持 ○2 SPは,ユーザ認証を行い,同しく演算結果f(k)を保持 ○3 デバイスAがデバイスBにサービス切替旨示を行うときに演算結果f(k)を通知 ○4 デバイスBは,共通鍵で再演算した演算結果f(f(k))をSPに通知 ○5 SPはデバイスBから受信した演算結果f(f(k))とSPで保持していた演算結果f(k)に再演算した値が同一値であることを確認」(左欄下部?右欄上部) オ 「 」(右欄中程) 以下,前記アないしオの記載及びこの分野における技術常識を考慮しつつ,引用例に記載された技術事項について検討する。 (ア)前記アの「ユビキタス環境では,1人のユーザが,同一サービスを利用するときにADSL環境ではデスクトップPCで,外出先の無線LAN配下では,PDAでアクセスする可能性がある。」及び「またストリーミング中や,VoIPで通信中の場合は,セッション継続中にユーザ環境に合わせてデバイスを切り替える(ハンドオーバ[2])必要がでてくる。(図1)」の記載,及び,前記イの記載において,「同一ユーザが移動」の上にある矢印が,「デバイスA」から「デバイスB」へ向かっていることを考慮すると,引用例には,あるユーザが,ストリーミング又はVoIP通信に使用するデバイスを,デバイスAであるデスクトップPCからデバイスBであるPDAへデバイスを切り替える,すなわち,ハンドオーバすることが記載されている。そして,デスクトップPCは,ハンドオーバの切り替え元であり,PDAは,ハンドオーバの切り替え先である。 また,前記イの「図1 セッション継続(ハンドオーバ)構成図」との記載からすると,「ハンドオーバ」は,異なるデバイス間でセッションを継続することを意味することが明らかである。 以上を総合すると,引用例には,ストリーミング又はVoIP通信に関するセッションを,切り替え元であるデスクトップPCから,切り替え先であるPDAへハンドオーバすることが記載されている。 (イ)前記イの記載から,デバイスAは「アクセス網x」を介して,また,デバイスBは「アクセス網y」を介して,コアNW(ネットワーク)及びSP(Service Provider:サービスプロバイダ)と接続することが見てとれる。 前記(ア)を参酌すると,デバイスAであるデスクトップPCは,「アクセス網xを介して通信」するものであり,デバイスBであるPDAは,アクセス網yを介して通信するものである。 (ウ)前記ウの「○5 ハンドオーバの要求は,デバイスBからのREGISTER契機にSPで認識しSPからデバイスBに着信要求する。」,及び,前記オにおいて,「ハンドオーバ要求」との文字列を含む吹き出しが,「REGISTER f(f(k))」が付された矢印の起点から出ており,当該矢印の起点は,デバイスBであり,終点がSP(サービスプロバイダ)である。よって,引用例には,デバイスBが,「REGISTER f(f(k))」を「SP(サービスプロバイダ)」に送信し,「REGISTER f(f(k))」が,「ハンドオーバ要求」と言い得るものであることが記載されている。 また,前記(イ)を参酌すると,「REGISTER f(f(k))」が,直接的にはアクセス網yに送信されることは自明である。 また,前記ウの「本稿では,SIP(Session Initiation Protoco1)を用いたVoIP通信中におけるデバイス間のハンドオーバをケーススタディとしてユーザ認証を検討する。」との記載,及び,「SIP」に関する優先日前における技術常識からして,「REGISTER」は,登録に関するSIPメッセージである。 よって,(ア)及び(イ)を参酌しつつ以上を総合すると,引用例には,PDAが,「SIPメッセージREGISTER f(f(k))を,アクセス網yに送信し,SIPメッセージREGISTER f(f(k))は,セッションを,アクセス網xを介して通信するデスクトップPCからPDAにハンドオーバするためのハンドオーバ要求であること」が記載されている。 したがって,前記アないしオ及び前記(ア)ないし(ウ)の検討より,引用例には,以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認める。 「 PDAであって, アクセス網yを介して通信し, SIPメッセージREGISTER f(f(k))を前記アクセス網yに送信し,前記SIPメッセージREGISTER f(f(k))は,セッションを,アクセス網xを介して通信するデスクトップPCからPDAにハンドオーバするためのハンドオーバ要求であること,を特徴とするPDA。」 ウ 対比・判断 (ア)対比 補正後の発明と引用発明とを対比する。 a.引用発明の「PDA」は,「Personal Digital Assistance」又は「Personal Data Assistant」の略称であり,ユーザが携帯して用いる携帯型の,すなわち,モバイルな情報端末であることは優先日前における技術常識である。 よって,引用発明の「PDA」は,補正後の発明の「モバイルユーザ機器(UE)」に相当する。 b.引用発明の「アクセス網y」及び「アクセス網x」のそれぞれは,補正後の発明の「第1のネットワーク」及び「第2のネットワーク」に相当する。 c.引用発明の「セッション」は,通信のためのものであることは自明であるから,補正後の発明の「通信セッション」に相当する。 d.引用発明の「SIPメッセージREGISTER f(f(k))」は,SIPメッセージの一つであり,これを「第1のSIPメッセージ」と称することは任意である。 e.引用発明の「ハンドオーバ要求」は,補正後の発明の「ハンドオーバーのための要求」に相当する。 f.前記d.を参酌すると,引用発明において,「SIPメッセージREGISTER f(f(k))」が「ハンドオーバーのための要求」であることは,補正後の発明において,「第1のSIPメッセージ」が「ハンドオーバのための要求を示す」ことに相当する。 g.引用発明において,「セッションを,…デスクトップPCからPDAにハンドオーバする」からして,「デスクトップPCからPDA」へ,同じ「セッション」を「ハンドオーバ」していることから,「デスクトップPC」と「PDA」とは,同じユーザが利用することを前提としていることは明らかであり,前記a.を参酌すると,「デスクトップPC」も「ユーザ機器」すなわち「UE」であるといえ,そして,「PDA」からみると,「デスクトップPC」は,「他のUE」となる。 h.前記b.ないしg.を総合すると,引用発明において,「SIPメッセージREGISTER f(f(k))が,セッションを,アクセス網xを介して通信するデスクトップPCからPDAにハンドオーバするためのハンドオーバ要求であること」は,補正後の発明の「前記第1のSIPメッセージは,第2のネットワークを介して通信する他のUEからの通信セッションのハンドオーバーのための要求を示す」ことに相当する。 (イ)一致点・相違点 前記(ア)から,補正後の発明と引用発明とは,以下の点で一致ないし相違している。 [一致点] 「 モバイルユーザ機器(UE)であって, 第1のネットワークを介して通信し, 第1のセッション開始プロトコル(SIP)メッセージを前記第1のネットワークに送信し,前記第1のSIPメッセージは,第2のネットワークを介して通信する他のUEからの通信セッションのハンドオーバーのための要求を示す ことを特徴とするモバイルユーザ機器(UE)。」 [相違点] 本願発明は,「送信機」を備え,当該「送信機」は,「第1のセッション開始プロトコル(SIP)メッセージを前記第1のネットワークに送信し,前記第1のSIPメッセージは,第2のネットワークを介して通信する他のUEからの通信セッションのハンドオーバーのための要求を示す」ように構成されたものであるのに対し,引用発明は,「送信機」に関して明示がない点。 (ウ)判断 PDAのようなモバイルユーザ機器が,「送信機」を備え,当該「送信機」が,送信すべき情報を送信するように構成されていることは,優先日前における技術常識である。 よって,引用発明において,「第1のセッション開始プロトコル(SIP)メッセージを前記第1のネットワークに送信し,前記第1のSIPメッセージは,第2のネットワークを介して通信する他のUEからの通信セッションのハンドオーバーのための要求を示す」ように構成された「送信機」を備えるようにすることは当業者が容易に想到し得たことである。 (エ)請求人の主張 請求人は,審判請求書の請求の理由において, 「(i)理由(ア)について (a)本願発明の説明 請求項1および請求項9を補正して,2つのネットワークについて明確に記載しました。 (b)引用発明の説明 引用文献1は,2つのネットワークを教示していません。 拒絶査定に,「引用文献1には,第1の装置と第2の装置とを,異なるネットワーク(「ADSL」と「無線LAN」)上の装置とすることも示されている」と記載されています。しかしながら,「非対称型デジタル加入者回線(ADSL)」と「無線LAN」は,異なるネットワークではありません。 異なるネットワークは,本願で説明されているように,例えば,UMTSとWLANです。引用文献1において,WLANは,機器のためにADSLへのアクセスを提供していると思われ,それゆえ,本願の文脈において,異なるネットワークではありません。 (c)本願発明と引用発明との対比 したがって,本願の請求項1-14に係る発明は,引用文献に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでありません。」 と主張しており,この主張の趣旨は,本願発明(補正後の発明)は,UMTSとWLANという2つの異なるネットワークを特定する点において引用発明と相違するということである。 しかしながら,補正後の発明(本件補正後の請求項)は,「ネットワーク」について,「第1のネットワーク」及び「第2のネットワーク」としか特定しておらず,かつ,「第1のネットワーク」及び「第2のネットワーク」との文言は,互いに異なる「ネットワーク」であればいかなる「ネットワーク」も包含するという意味において明確であるから,明細書等の記載を参酌して補正後の発明を解釈することにより「UMTS」及び「WLAN」といった具体的なネットワークに限定して解釈しなければならない特別な事情が存在するとは認められない。 よって,上記主張は,請求項の記載に具体的に基づいたものではないから,採用することができない。 仮に,上記主張を採用したとしても,PHS網と無線LANといった異なる無線ネットワークの間をハンドオーバすることは優先日前における周知技術(例えば,特開2003-304251号公報,特に【0063】,図8参照。)であり,PHS網を次世代の「UMTS」に拡張することは当業者が適宜なし得ることであるから,引用発明に,当該周知技術を採用し,引用発明に記載の「アクセス網x」及び「アクセス網y」を「UMTS」及び「WLAN」又はその逆とすることは当業者が容易に想到し得たことである。 オ 小括 よって,補正後の発明は,引用発明に基づいて技術常識又は周知技術を参酌することにより当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,独立して特許を受けることができるものではない。 (2)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について ア 補正後の請求項5の記載事項 補正後の請求項5は,次のように記載されている。 「 前記第1のSIPメッセージは,メディアタイプ,インターネットプロトコル(IP)アドレス,ビットレート,またはコーデックを使用して,前記通信セッションを示すことを特徴とする請求項1に記載のモバイルUE。」 また,補正後の請求項5が引用する請求項1の記載事項は,上記補正後の発明に係る記載事項のことである。 補正後の請求項1には,「第1のSIPメッセージ」について,「第1のセッション開始プロトコル(SIP)メッセージを前記第1のネットワークに送信し,前記第1のSIPメッセージは,第2のネットワークを介して通信する他のUEからの通信セッションのハンドオーバーのための要求を示すように構成された送信機を備えたことを特徴とするモバイルユーザ機器(UE)。」と記載されている。 これらの記載からすると,補正後の請求項5に係る発明において,「第1のSIPメッセージ」は,「モバイルユーザ機器(UE)」が送信するものであって,「ハンドオーバーのための要求を示す」と共に, 「メディアタイプ,インターネットプロトコル(IP)アドレス,ビットレート,またはコーデックを使用して,前記通信セッションを示す」ものである。 イ 明細書等の記載事項に基づく判断 (ア)請求項5に記載の「メディアタイプ,インターネットプロトコル(IP)アドレス,ビットレート,またはコーデックを使用して,前記通信セッションを示す」に関して, 「メディアタイプ,インターネットプロトコル(IP)アドレス,ビットレート,またはコーデック」を使用することについて,明細書の段落【0014】には,「サービスサーバ22は,S13において,メディアタイプのリストと,IPアドレスと,ビットレートと,コーデックなどを示すSIPインバイトメッセージを送り,それはS14においてIPネットワーク18を介してUMTSネットワーク23へ順に運ばれ,そしてS15においてUMTSネットワーク23からUE32へ順に運ばれる。SIPインバイトメッセージを受信すると,UE32は,S16において,受信可能なメディアタイプとコーデックとビットレートとIPアドレスに肯定応答するSIP200OKメッセージを送信する。」,段落【0022】には,「サービスサーバ22は,S12において,メディアタイプのリストと,IPアドレスと,ビットレートと,コーデックなどを示すSIPインバイトメッセージを送り,それはS13においてIPネットワーク18を介してWLANネットワーク14へ順に運ばれ,そしてS14においてWLANネットワーク14からPC12へ順に運ばれる。PC12は,S15においてSIPインバイトメッセージを受信すると,受信可能なメディアタイプとコーデックとビットレートとIPアドレスに肯定応答するSIP200OKメッセージをWLAN14へ送信する。」と記載されており,これらの記載によると,「サービスサーバ」が「メディアタイプ,インターネットプロトコル(IP)アドレス,ビットレート,またはコーデック」を送信しており,UE(ユーザ機器)は,この送信内容に対して「肯定応答」を返信しているにすぎない。また,これらの記載から,「メディアタイプ,インターネットプロトコル(IP)アドレス,ビットレート,またはコーデック」を使用して「通信セッションを示す」ことを把握することはできない。 よって,これらの記載を根拠として,補正後の請求項5に係る発明が発明の詳細な説明に記載しているとはいえない。 (イ)「モバイルユーザ機器(UE)」が送信する,「ハンドオーバのための要求」のための「SIPメッセージ」に関して, 明細書の段落【0017】には,「一度UE32との接続が確立されると,S7においてユーザは,UE32へのハンドオフを引き起こすことを決め,S8においてUE32は,SIPハンドオフメッセージ,または既存のセッションを示す新しい情報要素のSIPインバイトメッセージメッセージのどちらか一方であるかもしれないSIPメッセージを送信する。」と記載され,段落【0025】には,「ひとたび,PC12との接続が確立され,S7においてユーザがPC12へのハンドオフを決定すると,S8においてUE32は,新しいSIPハンドオフメッセージまたは既存のセッションを示す新しい情報要素のSIPインバイトメッセージメッセージのいずれかであろうSIPメッセージを送信する。」と記載され,図3及び図5には「S8」に付随して「SIPメッセージ:新しいハンドオフメッセージ,または現在のセッションを示す新しい情報要素を持つSIPインバイトメッセージ」と記載されている。これらの記載からすると,「モバイルユーザ機器(UE)」が送信する,「ハンドオーバのための要求」のための「SIPメッセージ」は,「新しいハンドオフメッセージ,または現在のセッションを示す新しい情報要素」を示すものと把握することができる。しかしながら,「新しいハンドオフメッセージ」又は「現在のセッションを示す新しい情報要素」が何を示すものであるのかについて,明細書及び図面の他の記載を参酌しても具体的な記載はなく,「メディアタイプ,インターネットプロトコル(IP)アドレス,ビットレート,またはコーデック」を示すものであることが,出願時の技術常識(例えば,セッションを示す情報として,セッション識別子(ID)を用いること)等から自明ともいえない。 また,「UE(ユーザ機器)」が送信する,「ハンドオーバのための要求」のための「SIPメッセージ」に,「サービスサーバ」が送信する,「メディアタイプ,インターネットプロトコル(IP)アドレス,ビットレート,またはコーデック」を適用し得ることは自明とはいえない。 以上より,補正後の請求項5に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものではない。 ウ 請求人の主張について 請求人は,審判請求書の請求の理由において, 『(ii)理由(イ)について 本願の請求項1は,ハンドオーバーの考え方を対象にしています。 SIPメッセージが,「既存のセッション」および/または「メディアタイプ,IPアドレス,ビットレート,またはコーデック」を含むことの根拠は,明細書の段落[0017](“既存のセッションを示す・・・要素”)および段落[0014](“メディアタイプ・・・と,IPアドレスと,ビットレートと,コーデック”)を少なくとも含む明細書全体に見られます。』 と主張しているが,明細書の段落【0017】等に記載の「既存のセッションを示す…要素」と,段落【0014】等に記載の「メディアタイプ・・・と,IPアドレスと,ビットレートと,コーデック」との関係について何ら具体的な説明をしていない。そして,明細書の段落【0017】等の記載において,「UE(ユーザ機器)が,「ハンドオーバのための要求」のための「SIPメッセージ」として送信する,「既存のセッションを示す…要素」に,明細書の段落【0014】等の記載において,「サービスサーバ」が送信する「メディアタイプ・・・と,IPアドレスと,ビットレートと,コーデック」を適用し得ないことは,前記イの(イ)で述べたとおりである。 よって,上記主張は,採用することができない。 エ 小括 よって,補正後の請求項5に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものではないから,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず,独立して特許を受けることができるものではない。 4 結語 したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願について 平成27年3月4日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の特許請求の範囲は,上記「第2 補正却下の決定」の「1.本願発明と補正後の発明」の項で,平成26年10月1日付けで手続補正された特許請求の範囲となるので,本願の特許請求の範囲に記載された請求項(以下,「本願請求項」という。)の特許性について検討する。 1 特許法第29条第2項(進歩性)について (1)本願発明 本願請求項1(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。 「モバイルユーザ機器(UE)であって, 第1のネットワークを介して通信し, 第1のセッション開始プロトコル(SIP)メッセージを前記第1のネットワークに送信し,前記第1のSIPメッセージは,他のUEからの通信セッションのハンドオーバーのための要求を示すように構成された送信機 を備えたことを特徴とするモバイルユーザ機器(UE)。」 (2)引用発明 引用発明は,上記「第2 補正却下の決定」の「3.独立特許要件について」の「(1)特許法第29条第2項(進歩性)について」の「イ 引用発明」の項で認定したとおりである。 (3)対比・判断 本願発明は,上記補正後の発明から本件補正に係る「他のUE」についての「第2のネットワークを介して通信する」との限定を省いたものである。 そうすると,本願発明は,上記「第2 補正却下の決定」の「3.独立特許要件について」の「(1)特許法第29条第2項(進歩性)について」の「ウ 対比・判断」の項で検討したとおり,引用発明に基づいて技術常識又は周知技術を参酌することにより当業者が容易に発明することができたものである。 2.特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について (1)原審の拒絶理由及び拒絶査定の趣旨 原審における平成26年3月24日付けの拒絶理由の概要は,以下のとおりである。 「 この出願は,次の理由によって拒絶をすべきものです。これについて意見がありましたら,この通知書の発送の日から3か月以内に意見書を提出してください。 理 由 A.(…省略…) B.この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第1号又は第2号に規定する要件を満たしていない。 記 (1)(…省略…) (2)(…省略…) (3)(…中略…) また,請求項5が引用する請求項1には,「前記第1のSIPメッセージは,別のUEからの通信セッションのハンドオーバーのための要求を示す」と記載されており,発明の詳細な説明には,別のUEからの通信セッションのハンドオーバーのための要求を示す「第1のSIPメッセージ」が,「通信セッションを示す」ための情報を有することは記載されている(段落【0017】の「既存のセッションを示す新しい情報要素のSIPインバイトメッセージメッセージ」)ものの,「通信セッションを示す」際に,「メディアタイプ,インターネットプロトコル(IP)アドレス,ビットレート,またはコーデック」を用いることは,記載も示唆もされていない。 よって,請求項5に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものでない。 (…後略…)」 また,拒絶査定の概要は,以下のとおりである。 「 この出願については,平成26年3月24日付け拒絶理由通知書に記載した理由A,B及び平成25年8月6日付け拒絶理由通知書に記載した理由A?Cによって,拒絶をすべきものです。 なお,意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが,拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。 備考 (ア)(…省略…) (イ)平成26年3月24日付け拒絶理由通知書の理由Bの(3)について 請求項5には,「前記第1のSIPメッセージは,メディアタイプ,インターネットプロトコル(IP)アドレス,ビットレート,またはコーデックを使用して,前記通信セッションを示す」と記載されているが,「メディアタイプ」等の情報を使用して,「通信セッションを示す」ことは,発明の詳細な説明には記載も示唆もされていない。 よって,請求項5に係る発明は,依然として,発明の詳細な説明に記載したものでなく,請求項5に係る発明は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 (…後略…)」 以上より,原審の拒絶理由及び拒絶査定の趣旨は,本願請求項5に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものではなく,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないということである。 (2)判断 本願請求項5に係る発明は,補正後の請求項5に係る発明から,本件補正に係る「他のUE」についての「第2のネットワークを介して通信する」との限定を省いたものである。そして,この限定に係る構成は,「第1のSIPメッセージ」の内容に影響するものではなく,補正後の請求項5に係る発明が,上記「第2 補正却下の決定」の「3.独立特許要件について」の「(2)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について」の項で検討したとおり,発明の詳細な説明に記載したものではない以上,本願請求項5に係る発明も,発明の詳細な説明に記載したものではない。 4 むすび 以上のとおり,本願発明は,引用発明に基づいて技術常識又は周知技術を参酌して当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 また,本願請求項5に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものではないから,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから,特許を受けることができない。 したがって,本願は,その余の請求項に論及するまでもなく拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-02-23 |
結審通知日 | 2016-03-01 |
審決日 | 2016-03-14 |
出願番号 | 特願2012-112603(P2012-112603) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H04Q)
P 1 8・ 575- Z (H04Q) P 1 8・ 537- Z (H04Q) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 東 昌秋 |
特許庁審判長 |
新川 圭二 |
特許庁審判官 |
山中 実 林 毅 |
発明の名称 | ユーザ手動のハンドオフに基づく、セッション開始プロトコルSIP(SessionInitiationProtocol) |
代理人 | 特許業務法人 谷・阿部特許事務所 |