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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B01D
管理番号 1317645
審判番号 不服2015-14070  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-07-27 
確定日 2016-08-01 
事件の表示 特願2011- 47051「除湿体及びこれを備えたデシカント除湿装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 9月27日出願公開、特開2012-183460〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本件審判の請求に係る出願(以下、「本願」という。)は、平成23年3月4日の出願であって、その後の手続の経緯は、次のとおりである。

平成26年11月13日付け 拒絶理由通知書
同 年12月19日付け 意見書
同日付け 手続補正書
平成27年 6月 4日付け 拒絶査定(謄本送達日平成27年6月9日)
同 年 7月27日付け 審判請求書
同日付け 手続補正書

第2 本願発明

本願の請求項1に係る発明は、平成27年7月27日付けでなされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「【請求項1】
水分を吸湿するためのポリアクリル系ポリマーからなる除湿材と、アルミニウム、銅、鉄、亜鉛、金、銀から選ばれた少なくとも1種の金属又はこれら金属の酸化物又は硫化物又はこれらの混合物からなる熱伝導率が大きい微粒子であって前記除湿材の粒子径より大きい粒子径を有する微粒子と、前記除湿材及び前記微粒子を保持するためのバインダとが混合されてなる除湿体が、デシカント除湿装置の除湿ロータのハニカム状構造又はコルゲート状構造を構成している母材表面に坦持されてなるデシカント除湿装置用の除湿ロータ。」

なお、平成27年7月27日付けでなされた手続補正は、平成26年12月19日付け手続補正書の特許請求の範囲に記載された(以下、「本件補正前の」という。)請求項1?4を削除するものである(本願発明は、本件補正前の請求項1及び4を引用する請求項5に係る発明に相当するものである。)から、請求項の削除を目的とするものである。

第3 拒絶査定の理由の概要

拒絶査定の理由は、「本願発明は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」として、次の刊行物を引用するものである。

引用例3:特開2000-229216号公報
(拒絶理由通知の引用文献3)
周知例4:特開2008-249311号公報
(拒絶査定時の追加文献4)
周知例5:特開2009-136750号公報
(拒絶査定時の追加文献5)

第4 引用例等

1 引用例3

引用例3には、次の事項が記載されている。
なお、下線は、当審にて付したものである。

(引用3-1):段落【0022】?【0024】
「【0022】除湿ローター1を構成する吸着材1はコルゲートペーパー20の巻き取りによって作製する。コルゲートペーパー20は、中間の波板材21とその上下の平板材22,22とのサンドイッチ構造とした上で、吸着剤とバインダーと微粉末である固形粒子との混合物を波板材21の両面全体と上下の平板材22,22それぞれの内面全体に塗布することにより、固形粒子23をバインダーを介して波板材21および上下の平板材22,22に高密度分布の状態で接着させ、さらに波板材21および平板材22,22の表面全体およびすべての固形粒子23の表面全体にわたって吸着剤24を担持させたものである。1つの通気孔53は図6において示すように、波板材21の1つの山あるいは谷とそれを閉じる平板材22の部分とによって包み囲むことにより各1つずつの通気孔2が形成されている。この通気孔2の内表面の全面に吸着剤24が担持されている。このようにきわめて多数の固形粒子23を付着させることにより吸着剤24の内表面に微細なきわめて多数の凹凸を付与しており、これによって吸着剤24の塗布面積の拡張を図り、吸着材1としての実効的な吸着表面積を増大しているのである。図2の微小な点々や図3の粒々は固形粒子23上の吸着剤24の部分を示している。実効的な吸着表面積の増大の程度については、固形粒子23のサイズ・形状および分布密度にもよるが、コルゲートペーパー20の基材である波板材21と上下の平板材22,22の元の総面積の1.5?3倍程度には増大させることが可能である。2倍以上が好ましいといえる。
【0023】吸着剤24すなわちここでは吸湿剤としては、シリカゲル、ゼオライト、活性化アルミナ、吸着性をもつ塩類などのいずれかまたは任意に組み合わせたものを用いることができる。固形粒子23としては、金属アルミニウム粉や金属銅粉などの金属粉末、あるいは酸化アルミナなどの金属酸化物粉末、あるいはガラス質などを用いることができる。もっとも、固形粒子23は吸着剤24の塗布面積の拡張を図るのが主機能であるから材質を問うものではなく、上記以外の任意の材質のものの採用が可能である。耐熱性・耐久性の観点からは活性化アルミナなどの多孔質セラミックスが適している。耐熱性・コスト面からはガラス質が適している。一旦吸着した水分を奪うことで吸着材を再生するときに高温再生空気の熱を効率良く吸着材に伝えるという観点からは熱伝導率のすぐれた金属粉末が有効である。固形粒子23の粒径については任意に設定してよいが、10μm以上とするのが好ましい。固形粒子23の形状については任意であり、図4では球状の固形粒子23を示している。固形粒子23としては、四角錐、コンペイトー形のほかヒトデ形、多角柱形、不定形多面体などがある。吸着剤とバインダーと固形粒子との混合物において固形粒子は5?85重量パーセントである。
【0024】いずれにしても固形粒子23を分散してあることで吸着材1の実効的な吸着表面積が増大し、吸脱着能力が大幅に向上する。このような吸着材1からなる円盤状の除湿ローター1においては、その吸脱着能力が高いゆえに厚みを薄くすることが可能となる。厚みを薄くされた除湿ローター1は、その熱容量が少なくなるため、所要の脱着性能を発揮させるために除湿ローター1を所定の温度まで昇温させるのに必要なヒーター15の出力を低減することができる。また、熱容量の減少に伴って、脱着ゾーン5で再生のために昇温された吸着材1の領域が吸着ゾーン4に戻る過程で冷却される効率がアップするため、吸着効率が向上する。また、装置全体の小型化により製品コストの低減も図れる。固形粒子23として熱伝導性の高い金属を用いた場合には、再生に要するエネルギーをさらに削減することができる。

(引用3-2):【図2】





(引用3-3):【図4】





(引用3-4):【特許請求の範囲】
「【請求項1】 一側面から他側面にかけて貫通する通気孔が形成されたハニカム構造の吸着材であって、前記通気孔の内表面が微細な凹凸を有し、その凹凸を含めて通気孔内表面に吸着剤が担持されている乾式吸着装置における吸着材。
【請求項2】 波板材とその上下の平板材のサンドイッチ構造からなるコルゲートペーパーの巻き取りによって構成されたもので、通気孔の内表面を構成する波板材および平板材の表面に固形粒子を付着することで通気孔の内表面に微細な凹凸を形成してある請求項1に記載の乾式吸着装置における吸着材。」

2 周知例4

周知例4には、次の事項が記載されている。
なお、下線は、当審にて付したものである。

(周知4-1):【特許請求の範囲】
「【請求項1】
除湿剤が担持されている除湿ロータと、該除湿ロータの一方の開口面を、除湿ゾーンと再生ゾーンに分割する第一分割部材と、該除湿ロータの他方の開口面を、除湿ゾーンと再生ゾーンに分割する第二分割部材と、該除湿ゾーンに被処理空気を供給する被処理空気供給手段と、該除湿ゾーンから排出される乾燥空気を、クリーンルーム内に設けられた目的空間に供給するための、乾燥空気供給経路と、再生空気を該再生ゾーンに供給し、再生ゾーン排出空気を直接該クリーンルームに排出するための、再生空気供給手段と、該除湿ロータを回転駆動させる駆動手段と、を有することを特徴とする乾燥空気供給装置。
・・・
【請求項5】
前記除湿剤が、非晶質金属酸化物多孔質体又は吸水性樹脂であることを特徴とする請求項1?4いずれか1項記載の乾燥空気供給装置。
【請求項6】
前記除湿剤が、シリカゲル、シリカアルミナ非晶質多孔質体、メソポーラスシリカ、イオン交換樹脂、ポリアクリル酸塩樹脂及びアルキレンオキサイド樹脂から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1?5いずれか1項記載の乾燥空気供給装置。」

(周知4-2):段落【0035】
「【0035】
該非晶質金属酸化物多孔質体としては、・・・例えば、シリカゲル、シリカアルミナ非晶質多孔質体、メソポーラスシリカ等が挙げられる。また、該吸水性樹脂としては、吸湿量が上記範囲内であれば、特に制限されず、例えば、イオン交換樹脂、ポリアクリル酸塩樹脂、アルキレンオキサイド樹脂等が挙げられる。該除湿剤は、1種単独であっても、2種以上の組み合わせであってもよく、該非晶質金属酸化物多孔質体と該吸水性樹脂との組み合わせであってもよい。そして、該除湿剤が、シリカゲル、シリカアルミナ非晶質多孔質体、メソポーラスシリカ、イオン交換樹脂、ポリアクリル酸塩樹脂及びアルキレンオキサイド樹脂から選ばれる1種又は2種以上であることが、乾燥空気供給装置の除湿性能が高くなる点で好ましい。」

3 周知例5

周知例5には、次の事項が記載されている。
なお、下線は、当審にて付したものである。

(周知5-1):【特許請求の範囲】
「【請求項1】
吸湿部と前記吸湿部より高温の再生部とを有して回転可能に構成され、前記吸湿部に通流される気体の水分を吸着し、その吸着した水分を前記再生部に通流される気体に放出する除湿ロータを備えたデシカント除湿器であって、
前記吸湿部及び前記再生部の熱が伝達され、前記再生部の温度未満で磁性を発現する除湿ロータ用感温性磁性部材を、前記除湿ロータの回転軸の周囲に設け、
前記再生部の側から前記吸湿部の側に向けて前記除湿ロータ用感温性磁性部材に磁力を付与し、前記吸湿部を吸引する除湿ロータ駆動用永久磁石を備えたデシカント除湿器。」

(周知5-2):段落【0030】
「【0030】
吸湿体には、無機吸湿体又は有機吸湿体を使用することができる。無機吸湿体を構成する物質としては、例えば、シリカゲル、ゼオライト、酸化チタン等が挙げられる。これらの無機吸湿体は単独使用のみならず、混合物としても使用することができる。有機吸湿体を構成する物質としては、吸水性ポリマー又は感温性ポリマーが好適である。吸水性ポリマー又は感温性ポリマーの例としては、ポリアクリル酸塩系ポリマー、アクリルアミド系ポリマー、イソブチレン/マレイン酸塩系ポリマーブレンド、デンプン/ポリアクリル酸塩系ポリマーブレンド、ポリビニルアルコール(PVA)/ポリアクリル酸塩系ポリマーブレンド、デンプン/アクリルアミド/ポリアクリル酸塩系ポリマーブレンド、架橋PVA系ポリマー、架橋カルボキシメチルセルロース(CMC)系ポリマー等が挙げられる。
これらの有機吸湿体は単独使用のみならず、混合物としても使用することができる。有機吸湿体としてより好適であるのは、吸湿能力が高いポリアクリル酸塩系ポリマー又はアクリルアミド系ポリマーである。」

4 引用発明

前記1の(引用3-1)?(引用3-4)によれば、引用例3には、「コルゲートペーパーの巻き取りによって作製」された「ハニカム構造」を有する「除湿ロータ」であって、そのハニカム状構造を構成している部材の表面に、「吸着剤とバインダーと微粉末である固形粒子との混合物」が「塗布」され、「吸着剤の塗布面積の拡張を図」るための、好ましくは「10μm以上」の「固形粒子」が「バインダーを介して」「高密度分布の状態で接着」されたものが記載されていること、その吸着剤すなわち「吸湿剤」として、「シリカゲル、ゼオライト、活性化アルミナ、吸着性をもつ塩類など」が、また、「固形粒子として」、「金属アルミニウム粉や金属銅粉などの金属粉末、あるいは酸化アルミナなどの金属酸化物粉末」などが例示されていること、特に、「吸着材を再生するときに高温再生空気の熱を効率良く吸着材に伝えるという観点からは熱伝導率のすぐれた金属粉末が有効である」とも開示されていることなどが明らかであるから、引用例3には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているということができる。

「シリカゲル、ゼオライト、活性化アルミナ、吸着性をもつ塩類などからなる吸湿剤としての吸着剤と、アルミニウム、銅などの金属粉末からなる熱伝導率に優れた固形粒子であって、吸着剤の塗布面積の拡張を図るに足る、好ましくは10μm以上の粒径の固形粒子と、前記吸着剤と前記固形粒子とバインダーとの混合物が、除湿ロータのハニカム状構造又はコルゲート状構造を構成している部材表面に塗布され接着されてなる乾式吸着装置用除湿ローター。」

第5 本願発明と引用発明の対比

ア 本願発明と引用発明を対比すると、引用発明の「シリカゲル、ゼオライト、活性化アルミナ、吸着性をもつ塩類などからなる吸湿剤」は、本願発明の「水分を吸湿するための」「除湿材」に相当する。

イ また、引用発明の「アルミニウム、銅などの金属からなる熱伝導率に優れた固形粒子」は、本願発明の「アルミニウム、銅から選ばれた少なくとも1種の金属からなる熱伝導率が大きい微粒子」に相当すること、引用発明の「前記吸着剤と前記固形粒子とバインダとの混合物」は、本願発明の「前記除湿材及び前記微粒子を保持するためのバインダとが混合されてなる除湿体」に相当すること、引用発明の「除湿ロータのハニカム状構造又はコルゲート状構造を構成している部材表面に塗布され接着されてなる」は、本願発明の「除湿ロータのハニカム状構造又はコルゲート状構造を構成している母材表面に担持されてなる」に相当すること、引用発明の「ローター」は、本願発明の「ロータ」に相当することは明らかである。

ウ したがって、本願発明と引用発明を対比すると、両者は、

「水分を吸湿するための除湿材と、アルミニウム、銅から選ばれた少なくとも1種の金属からなる熱伝導率が大きい微粒子と、前記除湿材及び前記微粒子を保持するためのバインダとが混合されてなる除湿体が、除湿ロータのハニカム状構造又はコルゲート状構造を構成している母材表面に担持されてなる除湿ロータ。」

である点で一致し、次の3点で相違する。

(相違点1):除湿材について、前者が「ポリアクリル系ポリマーからなる」のに対して、後者は「シリカゲル、ゼオライト、活性化アルミナ、吸着性をもつ塩類などからなる」点、

(相違点2):除湿材と微粒子の大小関係について、前者が「前記除湿材の粒子径より大きい粒子径を有する微粒子」と特定するのに対して、後者は「吸着剤の塗布面積の拡張を図るに足る、好ましくは10μm以上の粒径の固形粒子」である点

(相違点3):除湿ロータの用途について、前者が「デシカント除湿装置」用であることを特定するのに対して、後者は「乾式吸着装置」用である点

第6 相違点の判断

1 相違点1について

ア ポリアクリル酸塩樹脂は、前記第4の2(周知4-1)?(周知4-2)において、除湿ロータの除湿剤を構成する材料として、非晶質金属酸化物のシリカゲルなどとともに、吸水性樹脂の一例として示され、シリカゲルなどと並列的に「乾燥空気供給装置の除湿性能が高くなる点で好ましい」と説明されており、また、前記第4の3(周知5-2)においても、ポリアクリル酸塩系ポリマーは、除湿ロータの吸湿体を構成する材料として、無機吸湿体であるシリカゲル、ゼオライトなどとともに、有機吸湿体である吸水性ポリマーの一例として示され、「有機吸湿体としてより好適であるのは、吸湿能力が高いポリアクリル酸塩系ポリマー」であると説明されているものである。

イ これらによれば、ポリアクリル系ポリマーは、除湿ロータの除湿材を構成する材料の候補として、ゼオライト、シリカゲルなどとともに並列的に挙げられるべき代表的な吸湿性樹脂材料の一つであることが、本願出願当時、当業者に周知の事項(技術常識)であったと認められる。

ウ ここで、本願発明においてポリアクリル系ポリマーを採用する技術的意義を確認するために、本願の明細書における「ポリアクリル系ポリマー」に関する記載を摘記すると、次のとおりである。
なお、下線は、当審にて付したものである。

(本願1):段落【0005】
「【0005】
除湿材としては、一般的に、塩化リチウムなどの化学吸湿材や、活性アルミナ、シリカゲル、ゼオライト、吸湿性高分子などの物理吸湿材が広く用いられている。特に、シリカゲルや吸湿性高分子は水分吸湿量が多く、また安価に入手することができるために、デシカント除湿装置においても使用されることが多い。」

(本願2):段落【0033】
「【0033】
混合体42に含まれる除湿材24は、粒子径が0.1?20μm程度であり、この除湿材としては、ゼオライト、シリカゲル、ポリアクリル系ポリマーなどが用いられる。ゼオライトとしては、A型、Y型、X型などの合成ゼオライト、又はモルデナイト、シャバサイト、ホウフッ石、エリオナイト、フェリエライトなどの天然ゼオライトから任意に選択することができる。また、ゼオライト中の陽イオンをマグネシウム、鉄、銅などのアルカリ土類や遷移金属、若しくはランタン、セリウム、プラセオジウムなどの希土類元素に置換したものなども有効である。シリカゲルとしては、A、B型などから任意に選択することができる。また、ポリアクリル系ポリマーとしては、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸カリウムなどから任意に選択することができる。」

(本願3):段落【0043】
「【0043】
実施例1及び2として、各原料(除湿材、微粒子及びバインダ)の混合比率が表1で示す通りの混合体を調製して母材に塗布して除湿ロータ70を製作し、各除湿ロータ70における混合体(換言すると、各実施例1及び2の除湿体)の除湿能力(即ち、除湿量)を計測した。実施例1及び2では、除湿材としてポリアクリル系ポリマーを使用し、熱伝導率の高い微粒子としてアルミニウムを用いた。この微粒子の平均粒径が200μmであった。また、バインダとしてはエポキシ系ポリマーを用いた。除湿ロータ70に塗布した除湿材と微粒子の合計重量は150gであった。」

エ 前記ウによれば、本願発明における除湿材としてのポリアクリル系ポリマーは、ゼオライト、シリカゲルなどと並列的に示される吸湿性高分子の一例であり、「特に、シリカゲルや吸湿性高分子は水分吸湿量が多く、また安価に入手することができるために、デシカント除湿装置においても使用されることが多い」ものとしてシリカゲルと並んで説明されるが、除湿ロータにおいて採用されるポリアクリル系ポリマーに固有の技術的意義が説明されるものではない。本願明細書中、他に、除湿ロータにおいて採用されるポリアクリル系ポリマーに言及するところはない。

オ 以上によれば、本願出願当時、引用例3に接した当業者において、前記イの技術常識に基づいて、引用発明における除湿剤として、ポリアクリル系ポリマーを採用することは、容易になし得るところであり、本願発明においてポリアクリル系ポリマーを採用する技術的意義を確認しても、前記エに示したとおり、この点の判断を覆すに及ぶ作用効果はない。
よって、相違点1に係る構成は、本願出願当時、当業者が引用例3の記載及び技術常識に基づいて容易になし得たものである。

2 相違点2について

ア 前記第4の4のとおり、引用発明における固形粒子は、「吸着剤の塗布面積の拡張を図るに足る、好ましくは10μm以上の粒径の固形粒子」であるところ、前記(引用3-3)に図示されるとおり、固形粒子23は、バインダーと混合された吸着剤24によって波板材21及び平板材22の表面(「除湿ロータのハニカム状構造又はコルゲート状構造を構成している母材表面」に相当。)に担持されたものとして存在することによって、吸着剤24の塗布面積を拡張するものであるから、固形粒子が吸着剤よりも大きい粒径を有するものであることは、引用例3に接した当業者において明らかである。

イ ここで、念のため、本願発明において「前記除湿材の粒子径より大きい粒子径を有する微粒子」と特定する技術的意義を確認するために、本願の明細書において関連する記載を摘記すると、次のとおりである。
なお、下線は、当審にて付したものである。

(本願4):段落【0018】
「【0018】
また、本発明の請求項3に記載の除湿体によれば、熱伝導率の大きい微粒子(例えば、金属又は金属酸化物)の粒子径が1?500μmであるので、母材に除湿材を塗布担持させる際に、除湿材の塗布担持状態が三次元的状態となって表面積を大きくすることができる。それ故に、乾燥すべきガス(例えば、空気)が塗布担持され除湿材により接し易くなり、その結果、除湿体全体の単位体積当たりの除湿能力が向上し、被乾燥ガスに含まれた水分をより効果的に除湿することができる。」

(本願5):段落【0031】
「【0031】
次に、図3を参照して、除湿ロータ20の具体的構成について説明する。除湿体として機能する除湿ロータ20は、除湿材24を担持するための母材40を備え、この母材40によりハニカム状構造が形成され、ハニカム状構造の母材40の表面に除湿材24を含む混合体42が塗布されている。この実施例では、混合体42は、除湿材24と、除湿材24を三次元的に担持させるための微粒子44と、これらを保持するためのバインダ46とを含んでいる。」

ウ 前記(本願4)は、内容的には、請求項1を引用する請求項2に係る発明の説明に相当するが、本願発明はこれを含む関係にあるので、検討すると、本願発明が、除湿材と微粒子の大小関係について、「前記除湿材の粒子径より大きい粒子径を有する微粒子」と特定する技術的意義は、「除湿材の塗布担持状態」を「三次元的状態」とすることによって、除湿に有効に寄与し得る「表面積を大きくすること」にあり、これによって除湿をより効率的に実施するものであると認められ、除湿のための有効な表面積を拡大するという点において、引用発明における「吸着剤の塗布面積の拡張を図るに足る、好ましくは10μm以上の微粉末である固形粒子」が狙うところと変わらないということができる。

エ 以上によれば、相違点2は、実質的には相違点ではないということができる。

3 相違点3について

前記第4の3(周知5-1)において明記されているとおり、除湿剤で水分を取り除く「除湿ロータ」を備えた装置は、「デシカント除湿装置」とも呼ばれ、前記第4の2(周知4-1)の「乾燥空気供給装置」や、前記第4の1(引用3-4)の「乾式吸着装置」と同種の装置であることは、当業者に周知である。
したがって、相違点3も、実質的には相違点ではない。

以上のとおりであるから、本願発明の構成は、当業者が引用例3の記載及び技術常識に基づいて容易になし得たものである。

4 本願発明の効果について

ア 本願発明においてポリアクリル系ポリマーを採用することによる作用効果は、前記1において、相違点1に係る構成の技術的意義として確認したが、本願の明細書には、本願発明の効果に関し、次の記載もある。
なお、下線は、当審にて付したものである。

(本願6):段落【0009】?【0010】
「【0009】
本発明の目的は、除湿材の再生を高め、その結果として除湿性能を向上させることができる除湿体を提供することである。
【0010】
また、本発明の他の目的は、空気中の水分を充分に除湿することができるデシカント除湿装置を提供することである。」

(本願7):段落【0016】?【0017】
「【発明の効果】
【0016】
本発明の請求項1に記載の除湿体によれば、除湿体に熱伝導率の大きい微粒子が含まれているので、高温の空気にさらされて吸着している水分を放出して再生される際に、高温空気の熱が効率良く除湿体全体に伝わり、除湿材の再生が効率良く実施され、その結果、除湿体の吸湿/放湿性能を向上させることができる。
【0017】
また、本発明の請求項2に記載の除湿体によれば、熱伝導率の大きい微粒子が金属、金属酸化物又は金属硫化物から形成されているので、除湿体に容易に混入することができるとともに、再生の際に高温空気の熱を効率良く除湿体全体に伝えることができ、除湿材の再生を効率良く実施することができる。」

イ 特に、除湿材の吸湿過程に関し、本件審判の請求人は、審判請求書(7頁3?7行)において、次のとおり主張する。

「ポリアクリル系ポリマーは、吸湿により熱を発生するので、この吸湿過程は発熱反応になります。よって、発熱した熱を除去した方が吸湿過程がより効率よく進行することになります。そこで熱伝導率が大きい微粒子が共存するとポリアクリル系ポリマーが吸湿時に発生する熱を熱伝導率が大きい微粒子が効率的に放散させることができポリアクリル系ポリマーの吸湿過程が促進されることになります。」

ウ 検討するに、前記第4の1(引用3-1)によれば、「一旦吸着した水分を奪うことで吸着材を再生するときに高温再生空気の熱を効率良く吸着材に伝えるという観点からは熱伝導率のすぐれた金属粉末が有効である。」との説明があり、「固形粒子として熱伝導性の高い金属を用いた場合には、再生に要するエネルギーをさらに削減することができる。」とも説明があるから、引用例3に接した当業者においては、引用発明が、前記ア(本願7)の「除湿体の吸湿/放湿性能」のうちの、再生過程に相当する「放湿」性能を向上するものと直ちに理解することができる。一方、除湿体の「吸湿」性能については、ポリアクリル系ポリマーに限らず、吸湿剤が吸湿過程で吸着熱を生じ得るとの技術常識に基づいて、吸湿過程で生じる熱を想起し、引用発明においても、これについて除湿体全体に拡散して効率よく放熱していると予測することは格別困難なことではない(要すれば、特開2003-251133号公報の段落【0028】の記載「粒状体としてアルミニウムや銅などの熱伝導のよい粒子を用いた場合、・・・。さらに吸着に際しても吸着熱が伝導されるため、吸着シートの一部に湿度の高い空気が接触しても吸着熱が速やかに分散され、吸着効果が高くなる。」を参照のこと。)

5 まとめ

前記1?4を総合すれば、本願発明は、当業者が引用例3に記載された発明及び技術常識に基づいて容易に発明をすることができたものであるということができる。

第7 むすび

以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-06-02 
結審通知日 2016-06-07 
審決日 2016-06-20 
出願番号 特願2011-47051(P2011-47051)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡谷 祐哉山本 吾一  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 板谷 一弘
山本 雄一
発明の名称 除湿体及びこれを備えたデシカント除湿装置  
代理人 岸本 忠昭  

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