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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04W
管理番号 1317692
審判番号 不服2015-3894  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-02-27 
確定日 2016-08-03 
事件の表示 特願2013- 10569「冗長な、向上したアップリンク割当て要求を最小化するための方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月23日出願公開、特開2013-102520〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2005年4月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2004年4月30日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願である特願2007-510863号の一部を,平成21年8月13日に新たな特許出願とした特願2009-187640号の一部を,平成23年10月11日に新たな特許出願とした特願2011-224111号の一部を,平成25年1月23日に新たな特許出願としたものであって,平成26年10月23日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成27年2月27日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同日付けで手続補正がなされたものである。


第2 補正却下の決定
[結論]
平成27年2月27日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本願発明と補正後の発明
平成27年2月27日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,平成25年7月23日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項8に記載された

「【請求項8】
送信のためにアップリンクデータを記憶するステップと,
前記記憶されたアップリンクデータに応じて,MAC(medium access control)層においてスケジュール割当てのための要求を作成して,前記要求を送信するステップと,
前記送信された要求に応じて,割当てタイマを開始するステップと,
スケジュール割当てを受信することに応じて,前記割当てタイマをリセットし,前記スケジュール割当てに従って前記アップリンクデータを送信するステップと,
スケジュール割当てを受信しないことに応じて,前記割当てタイマの満了時に,別の要求を作成して送信し,かつ前記割当てタイマをリセットするステップと,
を含む方法。」

という発明(以下,「本願発明」という。)を,

「【請求項8】
無線送受信ユニット(WTRU)によって使用される方法であって,
送信のためにアップリンクデータを記憶するステップと,
前記記憶されたアップリンクデータに応じて,メディアアクセス制御(MAC)層においてスケジュール割当てのための要求を作成して,前記要求を送信するステップであって,前記要求は優先順位に関連付けられた情報を含む,ステップと,
前記送信された要求に応じて,割当てタイマを開始するステップと,
スケジュール割当てを受信することに応じて,前記割当てタイマをリセットし,前記スケジュール割当てに従って前記アップリンクデータを送信するステップと,
スケジュール割当てを受信しないことに応じて,および前記割当てタイマの満了時に,同じ,または更新された要求を作成して送信し,かつ前記割当てタイマをリセットするステップと,
を含む方法。」

という発明(以下,「補正後の発明」という。)に変更することを含むものである。


2 補正の適否
(1)新規事項の有無,補正の目的要件
上記補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において,
ア 本願発明に,「無線送受信ユニット(WTRU)によって使用される方法であって,」なる記載を追加し,
イ 本願発明の「MAC(medium access control)層において」を,「メディアアクセス制御(MAC)層において」に改め,
ウ 本願発明の「スケジュール割当てのための要求」について,「前記要求は優先順位に関連付けられた情報を含む,」なる記載を追加し,
エ 本願発明の「スケジュール割当てを受信しないことに応じて,前記割当てタイマの満了時に,」を,「スケジュール割当てを受信しないことに応じて,および前記割当てタイマの満了時に,」に改め,
オ 本願発明の「別の要求」を,「同じ,または更新された要求」に改めるものである。

そして,上記アの補正は,「方法」の実行の主体について,「無線送受信ユニット(WTRU)によって使用される」との限定を付して,特許請求の範囲を減縮するものである。
上記イの補正は,形式的なものであって,実質的に技術事項を何ら変更するものでない。
上記ウの補正は,「スケジュール割当てのための要求」について,「前記要求は優先順位に関連付けられた情報を含み,」との限定を付して,特許請求の範囲を減縮するものである。
上記エの補正は,「スケジュール割当てを受信しないことに応じて,」と「前記割当てタイマの満了時に,」という2つの条件の関係を,「および」とすること,すなわち前記2つの条件が同時に満たされる場合に限定することにより,特許請求の範囲を減縮するものである。
上記オの補正は,「別の要求」に関して,「同じ,または更新された要求」との限定を付して,特許請求の範囲を減縮するものである。

また,請求項1及び15の上記イ乃至オに対応する補正についても同様である。

さらに,
カ 請求項1の「送信のためにアップリンクデータを記憶するように構成された回路を有する無線送受信ユニット(WTRU)であって,」を「無線送受信ユニット(WTRU)であって,送信のためにアップリンクデータを記憶するように構成された回路を備え,」に改める補正
キ 請求項2,9,16の「前記記憶されるアップリンクデータ」を「前記記憶されたアップリンクデータ」に改める補正
ク 請求項3,10,17の「前記受信されるスケジュール割当て」を「前記受信されたスケジュール割当て」に改める補正,及び「前記アップリンクデータに関連するデータフローの優先順位」を「前記アップリンクデータに関連付けられたデータフローの優先順位」に改める補正
ケ 請求項4,11,18の「スケジュール割当てをせずに,」を「スケジュール割当て無しに,」に改める補正
コ 請求項7,14,21の「RNC(radio network controller)」を「無線ネットワーク制御装置(RNC)」に改める補正
サ 請求項15に「集積回路(IC)であって,」なる記載を追加する補正

は,いずれも形式的なものであって,実質的に技術事項を何ら変更するものでない。

したがって,本件補正は,特許法第17条の2第3項の規定に適合することは明らかであり,また,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。


(2)独立特許要件
請求項8における補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから,補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのか否かについて,以下検討する。

ア 補正後の発明
上記「1 本願発明と補正後の発明」にて「補正後の発明」とした,以下のとおりのものと認める。

「【請求項8】
無線送受信ユニット(WTRU)によって使用される方法であって,
送信のためにアップリンクデータを記憶するステップと,
前記記憶されたアップリンクデータに応じて,メディアアクセス制御(MAC)層においてスケジュール割当てのための要求を作成して,前記要求を送信するステップであって,前記要求は優先順位に関連付けられた情報を含む,ステップと,
前記送信された要求に応じて,割当てタイマを開始するステップと,
スケジュール割当てを受信することに応じて,前記割当てタイマをリセットし,前記スケジュール割当てに従って前記アップリンクデータを送信するステップと,
スケジュール割当てを受信しないことに応じて,および前記割当てタイマの満了時に,同じ,または更新された要求を作成して送信し,かつ前記割当てタイマをリセットするステップと,
を含む方法。」


イ 引用発明,周知技術及び技術常識
[引用発明]
原査定の拒絶の理由に引用された米国特許第5355516号明細書(以下,「引用例」という。)には,「METHOD FOR REDUCING SUPERFLUOUS CHANNEL ALLOCATION IN A CELLULAR RADIOTELEPHONE COMMUNICATION SYSTEM([当審仮訳]:セルラー無線電話通信システムにおいて余分なチャネル割当てを低減するための方法)」(発明の名称)に関して,図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)「 A typical channel allocation scenario is summarized as follows. A mobile unit sends a channel request over the RACH, starts a guard timer, and awaits a channel assignment signal or an assignment reject signal from the Base Station System (BSS), informing the mobile whether channel allocation was successful or not. Upon expiration of the guard timer, however, the mobile unit will transmit another channel request. This procedure will continue until the mobile unit is successfully assigned a Dedicated Control Channel (DCCH), or until a maximum number of retries has been attempted, as defined by the BSS broadcast channel.」(コラム1第52-64行)
([当審仮訳]:
典型的なチャネル割当てシナリオは次のように要約される。移動ユニットはRACH上でチャネル要求を送信し,ガードタイマを開始し,前記移動ユニットにチャネル割当てが成功したか否かを通知する基地局システム(BSS)からのチャネル割当て信号又は割当て拒否信号を待つ。ガードタイマが満了すると,しかしながら,移動ユニットは別のチャネル要求を送信する。この手順は,移動ユニットへの専用制御チャネル(DCCH)が成功裏に割当てられるまで,又はBSSブロードキャストチャネルにより定義されたように,最大再試行回数の試行が行われるまで,継続する。)

(イ)「 If the BSS fails to respond to a mobile unit's initial channel request within the mobile unit's guard time, hereinafter referred to as the channel request retry interval, or simply the retry interval, the mobile unit will send a new request.」(コラム2第5-9行)
([当審仮訳]:
もしBSSが移動ユニットのガード時間(以下では,チャネル要求再試行間隔,又は単純に再試行間隔として参照する。)内での移動ユニットの最初のチャネル要求への応答に失敗した場合,移動ユニットは新たなチャネル要求を送信するだろう。)

(ウ)「 Proceeding to block 280, the BSS next schedules a time when an assignment signal is to be transmitted to the requesting mobile. This scheduling is based on the timing stamp information placed on the channel request at block 220. Finally, at block 290, an assignment signal, corresponding to the mobile units initial channel request, is transmitted to the mobile unit, informing the mobile which frequency and timeslot to tune to in order to begin communication.
As previously discussed, whenever a mobile unit transmits a channel request signal, it starts a guard timer. If the BSS fails to respond to the mobile within this controlled period of time, the mobile unit will be free to transmit yet another channel request.」(コラム4第26-39行)
([当審仮訳]:
ブロック280に進み,BSSは次に,要求中の移動ユニットに対していつ割当て信号が送信されるかの時間をスケジュールする。このスケジューリングはブロック220でチャネル要求に配置されたタイムスタンプ情報に基づく。最後に,ブロック290において,移動ユニットの最初のチャネル要求に対応し,通信を開始するためにどの周波数及び時間スロットに同調するべきかを移動ユニットに知らせる割当て信号が移動ユニットに送信される。
前に議論したように,移動ユニットがチャネル要求信号を送信するときはいつも,カードタイマーを開始する。もしBSSがこの制御された時間の期間内での移動ユニットへの応答に失敗した場合,移動ユニットはさらなる別のチャネル要求の送信が自由に行える。)

(エ)「 Whenever it is desired to reduce the likelihood of more than one channel being assigned to a single mobile unit, the flow chart in FIG. 3 is utilized by a BSS for increasing or decreasing the range of possible channel request retry intervals, that period of time established by the mobile unit guard timer.」(コラム4第50-55行)
([当審仮訳]:
単一の移動ユニットに1を超えるチャネルが割り当てられる可能性の低減が望まれるときはいつでも,移動ユニットのガードタイマにより確立される時間の期間である,可能なチャネル再要求間隔のレンジを増加又は減少させるために,図3のフローチャートがBSSにより利用される。)


上記(ア)乃至(エ)の記載及び当業者の技術常識を考慮すると,
a 引用例のタイトル及び上記(ア)及び(ウ)の記載から,引用例には,「移動ユニットによって使用される方法」が記載されていると認められる。

b 上記(ア)の記載によれば,移動ユニットはチャネル要求を送信し,その結果として「チャネル割当て信号」を受信するから,前記「チャネル要求」はチャネル割当てを要求するものであるといえる。
したがって,引用例には,「チャネル割当て要求を送信する」ことが記載されていると認められる。

c 上記(ア)の記載から,引用例には,「前記送信されたチャネル割当て要求に応じて,ガードタイマを開始する」ことが記載されていると認められる。

d 上記(ウ)の記載によれば,移動ユニットは,通信を開始するためにどの周波数及び時間スロットに同調するべきかを移動ユニットに知らせる割当て信号を受信して,当該割当て信号にて通知される前記周波数及び時間スロットに同調して通信を開始している。
したがって,引用例には,「どの周波数及び時間スロットに同調するべきかを移動ユニットに知らせる割当て信号を受信することに応じて,前記割当て信号に従って通信を開始する」ことが記載されていると認められる。

e 上記(イ)及び(エ)の記載によれば,ガードタイマはチャネル要求再試行間隔を計測するものであり,上記(ア)及び(イ)の記載によれば,移動ユニットは,割当て信号を受信せずにガードタイマが満了した場合に,別のチャネル要求を送信している。
また,上記(ア)の「この手順は,移動ユニットへの専用制御チャネル(DCCH)が成功裏に割当てられるまで,又はBSSブロードキャストチャネルにより定義されたように,最大再試行回数の試行が行われるまで,継続する。」なる記載から,別のチャネル要求の送信時にガードタイマが再度開始されることは明らかである。
したがって,引用例には,「前記割当て信号を受信しないことに応じて,および前記ガードタイマの満了時に,別のチャネル割当て要求を送信し,かつ前記ガードタイマを開始する」ことが記載されていると認められる。


以上を総合し,各処理を「ステップ」で表現すると,引用例には以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「移動ユニットによって使用される方法であって,
チャネル割当て要求を送信するステップと,
前記送信されたチャネル割当て要求に応じて,ガードタイマを開始するステップと,
どの周波数及び時間スロットに同調するべきかを移動ユニットに知らせる割当て信号を受信することに応じて,前記割当て信号に従って通信を開始するステップと,
前記割当て信号を受信しないことに応じて,および前記ガードタイマの満了時に,別のチャネル割当て要求を送信し,かつ前記ガードタイマを開始するステップと,
を含む方法。」


[周知技術及び技術常識]
本願の優先権主張の日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった「Feasibility Study for Enhanced Uplink for UTRA FDD; (Release 6)([当審仮訳]:UTRA FDDのための向上したアップリンクの実現可能性の検討(リリース6))[online],3GPP TR 25.896 V1.3.1 (2004-02) Technical Report,インターネット<URL:http://www.3gpp.org/ftp/Specs/archive/25_series/25.896/25896-131.zip>,2004年2月26日」には,図面とともに以下の事項が記載されている。

(オ)「7.1.2.5.1 L1 Signalling
Two new L1 messages are introduced in order to enable fast time and rate-control between the Node B and the UE.
-Scheduling Information Update (SI), sent in the uplink by the UE to the Node B. With the SI the UE can provide the Node B buffer occupancy and rate or power information so its scheduler(s) can maintain fairness and determine the UEs TFCS indicator and appropriate transmission time interval.
-Scheduling Assignment or Grant (SA), sent in the downlink by the Node B to the UE. With SA, the Node B can set the TFCS indicator and subsequent transmission start time(s) and time interval(s) to be used by the UE.

7.1.2.5.1.1 Uplink Signalling of Scheduling Information Update

7.1.2.5.1.1.1 Explicit scheduling information update signaling
With the explicit scheduling information update, the UE can provide the Node B with either the amount of data in its buffer or the supportable data rate as well as the transmit power status.
(以下略)」(第22-23ページ)
([当審仮訳]:
7.1.2.5.1 L1シグナリング
2つの新しいL1メッセージが,ノードBとUEとの間の高速な時間及びレート制御を可能にするために導入された。
-スケジューリング情報更新(SI),UEによりノードBにアップリンクにて送信される。スケジューラが公平性を維持しUEのTFCSインジケータと適切な伝送時間間隔を決定することを可能にするために,UEはノードBにバッファ占有量とレート又は電力情報をSIにより供給することが可能である。
-スケジューリング割当て又は許可(SA),ノードBによりUEにダウンリンクにて送信される。ノードBは,UEにより使用されるTFCSインジケータと次の送信開始時間及び時間間隔をSAにより設定することが可能である。

7.1.2.5.1.1 スケジューリング情報更新のアップリンクシグナリング

7.1.2.5.1.1.1 明示的なスケジューリング情報更新のシグナリング
明示的なスケジューリング情報更新のシグナリングにより,UEは,ノードBに,自身のバッファ内のデータの量又はサポート可能なデータレートを,送信電力ステータスと同様に供給することができる。
(以下略))

(カ)「10.1 Introduction of new MAC functionality
The new functionalities of Node B controlled Hybrid ARQ and Node B controlled scheduling, considered as enhancements for the uplink dedicated transport channel, require the introduction of new MAC functionalities. These new functionalities could be partly added to the existing MAC-d, e.g. reordering or TFC selection, or included in a new MAC entity, as proposed in chapter 8.1.1. This new MAC entity, which is referred to as MAC-e, is added to the Rel99/4/5 MAC sublayer on UE and on network side and covers HARQ related functionality, e.g. generation of ACK/NACK and retransmissions, as well as the scheduling related functionality.
(以下略)」(第120ページ)
([当審仮訳]:
10.1 新しいMAC機能の導入
アップリンク専用転送チャネルの拡張と考えられる,ノードBにより制御されるハイブリッドARQ及びノードBにより制御されるスケジューリングの新しい機能は,新しいMAC機能の導入を必要とする。これらの新しい機能は,8.1.1節で提案したように,部分的に既存のMAC-d(例えばリオーダリング又はTFC選択),又は新しいMACエンティティに含まれる。MAC-eとして参照されるこの新しいMACエンティティは,UE及びネットワーク側のRel99/4/5MACサブレイヤに追加され,スケジューリングに関連する機能と同様に,HARQに関連する機能,例えばACK/NACKの生成及び再送を扱う。
(以下略))


(オ),(カ)の記載及び図面並びに当業者の技術常識を考慮すると,UEが自身のバッファに「送信のためにアップリンクデータを記憶する」ことは周知であると認める(以下,「周知技術1」という。)。

また,(オ),(カ)の記載及び図面から明らかなように,UEがノードBにスケジューリング情報更新(SI)を送信し,当該スケジューリング情報更新に基づいてノードBがスケジューリングを行ってリソースを割り当てを行うことから,「スケジューリング情報更新」は,「スケジュール割当てのための要求」であるといえる。
さらに,(オ),(カ)の記載及び図面から明らかなように,UEは,バッファに記憶されたアップリンクデータの量の情報を含むスケジューリング情報更新すなわち「記憶されたアップリンクデータに応じたスケジュール割当てのための要求」を作成して送信しており,当該スケジューリングは,新しいMACエンティティにより行われる。
してみると,「記憶されたアップリンクデータに応じて,スケジュール割当てのための要求を作成して,前記要求を送信する」こと(以下,「技術常識1」という。),及び「メディアアクセス制御(MAC)層においてスケジュール割当てのための要求を作成して,前記要求を送信する」こと(以下,「技術常識2」という。)は,いずれも3GPPの技術報告書に記載されている事項であり,技術報告書は多数の提案に基づいて作成され,技術報告書に基づいて技術開発がなされることに鑑みれば,当該事項はいずれも技術常識であると認める。


本願の優先権主張の日前に公開された特開2000-253458号公報には,「移動通信システムと,その移動通信システムで用いられる移動通信交換局および移動無線通信端末」(発明の名称)に関して,図面とともに以下の事項が記載されている。

(キ)「【0044】また優先接続要求手段24bは,優先接続要否受付手段24aにより優先接続を要求する旨の指定が受け付けられた際の発信時に,移動通信交換局3に向けて優先接続の要求を行う。」

(ク)「【0049】そして端末制御ユニット24は,自端末の加入者番号や発信先の加入者番号などを示した周知の発信要求信号を生成し,無線通信ユニット21を介して無線基地局1に向けて送信する。このとき,優先接続が必要であると指定されているならば,端末制御ユニット24は前記発信要求信号に,指定された優先接続レベルを示した優先接続要求を優先接続要求手段24bによって付加する。
【0050】このようにして移動無線通信端末2のいずれか(発信元移動端末)から発信要求信号が送信されると,この発信要求信号は当該発信元移動端末を収容している無線基地局1を介して移動通信交換局3に与えられる。」


(キ),(ク)の記載及び図面並びに当業者の技術常識を考慮すると,「移動無線通信端末が送信する要求信号が優先接続レベルを示す情報を含む」ことは周知であると認める(以下,「周知技術2」という。)。


ウ 対比・判断
補正後の発明と引用発明とを対比すると,

(ア)補正後の発明の「無線送受信ユニット(WTRU)」に関し,本願明細書の【0013】によれば,当該用語は,UE(ユーザ装置),移動局,固定又は移動加入者装置,ページャ,又は,無線環境で動作可能な任意の他の種類の装置を含んでいるから,引用発明の「移動ユニット」を含んでいる。
したがって,引用発明の「移動ユニットによって使用される方法」は,補正後の発明の「無線送受信ユニット(WTRU)によって使用される方法」に含まれる。

(イ)補正後の発明の「メディアアクセス制御(MAC)層においてスケジュール割当てのための要求を作成して,前記要求を送信する」ことに関し,本願明細書の【0015】,【0016】には,WTRUがMAC層において送信する「要求」として,E-DCH割当て要求などの「チャネル割当て要求」が記載されていることから,補正後の発明の「スケジュール割当てのための要求」は,引用発明の「チャネル割当て要求」を少なくとも含んでいる。
また,引用発明において,「チャネル割当て要求を送信する」際に,移動ユニットが当該チャネル割当て要求を「作成」することは明らかである。
したがって,下記相違点1及び相違点2は別として,補正後の発明の「前記記憶されたアップリンクデータに応じて,メディアアクセス制御(MAC)層においてスケジュール割当てのための要求を作成して,前記要求を送信するステップであって,前記要求は優先順位に関連付けられた情報を含む,ステップ」と,引用発明の「チャネル割当て要求を送信するステップ」とは,「スケジュール割当てのための要求を作成して,前記要求を送信するステップ」の点で共通する。

(ウ)引用発明の「ガードタイマ」は,その満了時に別のチャネル割当て要求を送信するためのものであるから,補正後の発明の「割当てタイマ」に相当する。
また,引用発明の「前記送信されたチャネル割当て要求」は,明らかに補正後の発明の「前記送信された要求」に含まれる。
したがって,引用発明の「前記送信されたチャネル割当て要求に応じて,ガードタイマを開始するステップ」は,補正後の発明の「前記送信された要求に応じて,割当てタイマを開始するステップ」に含まれる。

(エ)引用発明の「どの周波数及び時間スロットに同調するべきかを移動ユニットに知らせる」とは,リソースのスケジュール割当て(の結果)を移動ユニットに知らせることであるから,引用発明の「どの周波数及び時間スロットに同調するべきかを移動ユニットに知らせる割当て信号」は,補正後の発明の「スケジュール割当て」に相当する。
また,補正後の発明の「前記スケジュール割当てに従って前記アップリンクデータを送信する」と,引用発明の「前記割当て信号に従って通信を開始する」とは,「通信」が「アップリンクデータの送信」であるか否かは別として,「前記スケジュール割当てに従って通信を開始する」点で共通する。
したがって,下記相違点1及び相違点3は別として,補正後の発明の「スケジュール割当てを受信することに応じて,前記割当てタイマをリセットし,前記スケジュール割当てに従って前記アップリンクデータを送信するステップ」と,引用発明の「どの周波数及び時間スロットに同調するべきかを移動ユニットに知らせる割当て信号を受信することに応じて,前記割当て信号に従って通信を開始するステップ」とは,「スケジュール割当てを受信することに応じて,前記スケジュール割当てに従って通信を開始するステップ」の点で共通する。

(オ)上記(ウ)及び(エ)で述べたとおり,引用発明の「ガードタイマ」は補正後の発明の「割当てタイマ」に相当し,引用発明の「割当て信号」は補正後の発明の「スケジュール割当て」に相当する。
また,補正後の発明の「同じ,または更新された要求」は,2回目以降に送信される要求であることから,引用発明の「別の要求」に含まれる。そして,上記(イ)で述べたとおり,別の要求を送信する際に,当該別の要求を「作成」することは明らかである。
さらに,引用発明において,「ガードタイマを開始する」処理は,「ガードタイマの満了時」に行う処理であるから,開始に際し,既に満了した前記ガードタイマを「リセット」することは明らかである。
したがって,下記相違点4は別として,補正後の発明の「スケジュール割当てを受信しないことに応じて,および前記割当てタイマの満了時に,同じ,または更新された要求を作成して送信し,かつ前記割当てタイマをリセットするステップ」と,引用発明の「前記割当て信号を受信しないことに応じて,および前記ガードタイマの満了時に,別のチャネル割当て要求を送信し,かつ前記ガードタイマを開始するステップ」とは,「スケジュール割当てを受信しないことに応じて,および前記割当てタイマの満了時に,別の要求を作成して送信し,かつ前記割当てタイマをリセットするステップ」の点で共通する。


以上を総合すると,補正後の発明と引用発明とは,以下の点で一致し,また,相違している。

(一致点)
「 無線送受信ユニット(WTRU)によって使用される方法であって,
スケジュール割当てのための要求を作成して,前記要求を送信するステップと,
前記送信された要求に応じて,割当てタイマを開始するステップと,
スケジュール割当てを受信することに応じて,前記スケジュール割当てに従って通信を開始するステップと,
スケジュール割当てを受信しないことに応じて,および前記割当てタイマの満了時に,別の要求を作成して送信し,かつ前記割当てタイマをリセットするステップと,
を含む方法。」

(相違点1)
一致点の「スケジュール割当てを受信することに応じて,前記スケジュール割当てに従って通信を開始するステップ」における「通信を開始する」ことが,補正後の発明は「前記アップリンクデータを送信する」ことであるのに対し,引用発明では当該構成が明らかではなく,それにともない,補正後の発明は,更に「送信のためにアップリンクデータを記憶するステップ」を具備するとともに,一致点の「スケジュール割当てのための要求を作成して,前記要求を送信するステップ」が「前記記憶されたアップリンクデータに応じて」行われるのに対し,引用発明では,「送信のためにアップリンクデータを記憶する」こと,及び「スケジュール割当てのための要求を作成して,前記要求を送信するステップ」が「前記記憶されたアップリンクデータに応じて」行われることがいずれも明らかではない点。

(相違点2)
一致点の「スケジュール割当てのための要求を作成して,前記要求を送信するステップ」に関し,上記相違点1に加えて,補正後の発明は,「メディアアクセス制御(MAC)層において」行われるのに対し,引用発明では,当該構成が明らかではない点,及び補正後の発明は,「前記要求は優先順位に関連付けられた情報を含む」のに対し,引用発明では,当該構成が明らかではない点。

(相違点3)
一致点の「スケジュール割当てを受信することに応じて,前記スケジュール割当てに従って通信を開始するステップ」に関し,上記相違点1に加えて,補正後の発明は,スケジュール割当てを受信することに応じて,「前記割当てタイマをリセット」するのに対し,引用発明では,当該構成が明らかではない点。

(相違点4)
一致点の「別の要求」に関し,補正後の発明は,「同じ,または更新された要求」であるのに対し,引用発明では,当該構成が明らかではない点。


以下,上記各相違点について検討する。

(相違点1について)
WTRUにより行われる「通信」として,「アップリンクデータを送信する」ことは普通に行われていることに過ぎない。また,上記「イ 引用発明,周知技術及び技術常識」の項で認定したとおり,「送信のためにアップリンクデータを記憶する」こと(周知技術1)は周知の事項であり,「記憶されたアップリンクデータに応じて,スケジュール割当てのための要求を作成して,前記要求を送信する」こと(技術常識1)は技術常識であるから,引用発明の「通信を開始する」ことを「アップリンクデータを送信する」こととして、引用発明において,「送信のためにアップリンクデータを記憶するステップ」を具備するとともに,「スケジュール割当てのための要求を作成して,前記要求を送信するステップ」を,「記憶されたアップリンクデータに応じて」行うようにすることは,当業者が適宜なし得たことである。
したがって,相違点1は,格別困難なことではなく,当業者が適宜なし得たことである。

(相違点2について)
上記「イ 引用発明,周知技術及び技術常識」の項で認定したとおり,「メディアアクセス制御(MAC)層においてスケジュール割当てのための要求を作成して,前記要求を送信する」こと(技術常識2)は技術常識であり,「移動無線通信端末が送信する要求信号が優先接続レベルを示す情報を含む」こと(周知技術2)は周知の事項であるから,引用発明において,「スケジュール割当てのための要求を作成して,前記要求を送信するステップ」を「メディアアクセス制御(MAC)層において」行うよう構成するとともに,「前記要求」が「優先順位に関連付けられた情報を含む」よう構成することは,当業者が適宜なし得たことである。
したがって,相違点2は,格別困難なことではなく,当業者が適宜なし得たことである。

(相違点3について)
上記「イ 引用発明,周知技術及び技術常識」のeの項で述べたとおり,引用発明の「ガードタイマ」はチャネル要求再試行間隔を計測するものであって,上記「イ 引用発明,周知技術及び技術常識」の(イ)及び(エ)の摘記事項によれば,ガードタイマが計測するチャネル再要求間隔の間に移動ユニットが応答を受信しない場合に別のチャネル要求を送信することから,引用発明において,前記応答を正常に受信して別のチャネル要求を送信するための計時の必要がなくなった場合に,ガードタイマをリセットすることは,例えば特開平5-206937号公報の【0032】-【0033】にも記載されているように当然である。
したがって,相違点3は,格別困難なことではなく,当業者が適宜なし得たことである。

(相違点4について)
要求を再度送信する際に,その内容を前回と同じものとすることは,一般的に行われていることに過ぎないから,引用発明の「別の要求」を「同じ要求」とすることは,当業者が適宜なし得たことである。
したがって,相違点4は,格別困難なことではなく,当業者が適宜なし得たことである。


そして,補正後の発明の作用効果も,引用発明,周知技術及び技術常識に基づいて当業者が予測できる範囲のものである。

以上のとおり,補正後の発明は,引用発明,周知技術及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


3 結語
したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成27年2月27日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願発明は,上記「第2 補正却下の決定」の項中の「1 本願発明と補正後の発明」の項の「本願発明」のとおりのものと認める。


2 引用発明,周知技術及び技術常識
引用発明,周知技術及び技術常識は,上記「第2 補正却下の決定」の項中の「2 補正の適否」の項中の「(2)独立特許要件」の項中の「イ 引用発明,周知技術及び技術常識」の項で認定したとおりである。


3 対比・判断
そこで,本願発明と引用発明とを対比するに,本願発明は補正後の発明から当該補正に係る限定を省いたものである。

そうすると,本願発明の構成に当該補正に係る限定を付加した補正後の発明が,上記「第2 補正却下の決定」の項中の「2 補正の適否」の項中の「(2)独立特許要件」の項中の「ウ 対比・判断」の項で検討したとおり,引用発明,周知技術及び技術常識に基づいて容易に発明できたものであるから,本願発明も同様の理由により,容易に発明できたものである。


4 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明,周知技術及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。


よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-03-03 
結審通知日 2016-03-08 
審決日 2016-03-22 
出願番号 特願2013-10569(P2013-10569)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H04W)
P 1 8・ 121- Z (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 神田 裕之倉本 敦史石原 由晴  
特許庁審判長 新川 圭二
特許庁審判官 山中 実
▲高▼橋 真之
発明の名称 冗長な、向上したアップリンク割当て要求を最小化するための方法及び装置  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  

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