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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G21F
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G21F
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 G21F
管理番号 1317715
審判番号 不服2015-13189  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-07-10 
確定日 2016-08-24 
事件の表示 特願2012-162262「セシウムの除去方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 2月 3日出願公開、特開2014- 21030、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年7月23日の出願であって、平成26年6月4日付け(同年6月20日発送)で拒絶理由が通知され、同年8月12日付けで意見書が提出され、同日付けで手続補正がなされ、同年11月25日付けで拒絶理由が通知され、平成27年3月19日付け(同年4月14日送達)で拒絶査定(以下、「原査定」という)がされ、これに対して、同年7月10日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされ、その後、当審において平成28年4月15日付け(同年5月17日発送)で拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という)が通知され、同年6月20日付けで意見書が提出され、同日付けで手続補正がされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1係る発明は、平成28年6月20日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「【請求項1】
セシウムを含有した汚染水にプルシアンブルーを添加し着色する工程と、
セシウムを含有した汚染水にバーミキュライトを無機酸で処理しミネラル成分を可溶化させたミネラル濃縮液である処理用凝集剤を添加する工程と、
前記処理用凝集剤を添加した後放置することにより、前記プルシアンブルーにセシウムが吸着されると共に前記処理用凝集剤にて凝集させたセシウムを含有した凝集物を汚染水内で生成させる工程と、
前記プルシアンブルーにセシウムが吸着されると共に前記処理用凝集剤にて凝集させたセシウムを含有した凝集物と水を分離する工程を有していることを特徴とするセシウムの除去方法。」

第3 原査定の拒絶理由について
1 原査定の拒絶理由の概要
(1)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(2)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
(3)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(4)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
引 用 文 献 等 一 覧
1.竹下健二,尾形剛志,福島原発事故で発生した汚染水処理へのイオン交換技術の適用,日本イオン交換学会誌,2012年 2月 2日,Vol.23No.1,p.1-5
2.特開昭58-182596号公報
3.浄水プロセスにおける放射性物質の除去性能に関するレビュー,[online],国立保険医療科学院 水道工学部,2011年 3月29日,[平成26年6月4日検索],p.1,8-10,インターネット,URL,http://www.niph.go.jp/soshiki/suido/pdf/h23radioactive/Review_Removal_capability_by_water_treatments-.pdf
4.特許第4238308号公報
5.登録実用新案第3157507号公報

理由1:請求項1-2:引用文献1-5参照
請求項1-2に係る発明は、引用文献1-5記載の技術から、当業者が容易になし得たことであり、その効果も予測の範囲内である。

理由2:請求項1-2
請求項1の「前記処理用凝集剤にて凝集させたセシウムを含有した凝集物」は、処理用凝集剤はセシウムを凝集するのかそれとも、セシウムを吸着(あるいはイオン交換)したプルシアンブルー自体を凝集するのかが明りょうでない。
よって、請求項1-2に係る発明は明確でない。

理由3:請求項1-2
請求項1からは、天然鉱石全てに於いて、また、あらゆるミネラル成分において、本願発明の効果が奏するものと解されるが、本願明細書には、天然鉱石としてバーミキュライトのみが開示されており、技術常識からしても、あらゆる天然鉱石において本願発明の効果を奏するものとはいえないので、請求項1-2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない

理由4:請求項1-2,明細書等
本願発明が顕著な効果を奏するのか、本願明細書等からは把握できない。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1-2に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

2 原査定の拒絶理由の判断
(1)原査定の拒絶の理由1について
ア 引用文献の記載事項
(ア)引用文献1
a 引用文献1には次の事項が記載されている。(下線は当審において付したものである。)
(a)「本稿では,原発で発生した汚染水処理のためのイオン交換技術として,ゼオライト以外の水処理法としてフェロシアン化物を用いた凝集沈殿法及び吸着法を紹介する。」(第2頁左欄第13行?第15行参照。)

(b)「2.2 フェロシアン化鉄(紺青)を用いたCs吸着技術
フェロシアン化鉄はCsに対して高い選択性を有するが,微粉体であるため吸着剤としての取り扱いが困難である。そこで我々は吸着と凝集沈殿を組み合わせた方法を提案した。つまり,フェロシアン化鉄でCsを吸着させた後、凝集沈殿法でCsを吸着したフェロシアン化鉄を回収することである。凝集剤にはNPO再生舎が開発した市販の凝集剤であるイオンリアクションNを用いた。」(第2頁右欄第18行?第25行参照。)

b そうすると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「フェロシアン化鉄でCsを吸着させた後、凝集剤にイオンリアクションNを用いた凝集沈殿法でCsを吸着したフェロシアン化鉄を回収する汚染水処理のための方法。」

(イ)引用文献2
a 引用文献2には次の事項が記載されている。(下線は当審において付したものである。)
「〔発明の実施例〕
以下、図面を参照して本発明の一実施例を説明する。
図面は濃縮廃液処理レステムを示すフローシートであり、このような処理システムに基づいて本発明の廃液処理が行われる。1は沈降分離槽で、ここで濃縮廃液Aは沈殿物Bと沈降分離される。沈降分離処理された後の上澄液Cは分析及びジャーテストのためのサンプリング2が行われた後、反応槽兼沈降分離槽6に投入される。ここで上澄液Cに分析及びジャーテスタの結果に基づいて適量の薬剤りが添加されて放射性核種の不溶化処理がなされ、沈殿物Eが沈降分離される。4は攪拌装置である。・・・(途中省略)・・・
その結果により、次の4つの不溶化処理のいずれかに該当する処理が行われる。
(イ)・・・(途中省略)・・・
(ロ)・・・(途中省略)・・・
(ハ)・・・(途中省略)・・・
(ニ) セシウムを含む場合、
セシウムの沈殿剤としてはサバンナリバー研究所その他でKCFCが発見されている。KCFCとはK Co Ferric Cyanate(カリウムコバルト第2鉄シアン化物)の略で、Kの部分にCsが同形置換して結晶の中に入り、沈殿する物質である。この結晶は一般に遷移金属のベルリン酸塩といわれるもので、コバルトの他、ニッケル、第1鉄、亜鉛等の遷移金属のベルリン酸塩がセシウムと不溶性塩を作ることが知られている。
不溶性のベルリン酸塩を生成させるには一般的に黄血塩(フェロシアン化カリウム K_(4)[Fe(CN)_(6))]を加えておき、これに1.4倍当量程度の大過剰の2価または3価の遷移金属塩Fe^(3+)、Co^(2+)、Mn^(2+)、Cr^(2+)、Ni^(2+)、Fe^(2+)、Zn^(2+)等を加えると結晶性のよい沈殿が得られることがわかっており、この添加順序を逆にしたり、黄血塩が過剰であると、溶解度が大きい複塩を生成したり、コロイド化するので、よくないといわれている。いろいろ実験してみたところ、確かにその通りであるが、最初から沈殿性のよい結晶を作ると、セシウムはよく沈殿するが、コロイドや錯体及び比較的酸性で溶解度の大きくなるマンガンやコバルトの沈殿性が悪くなることがわかった。
むしろ逆に、最初にニッケル、コバルト等(沈殿性のよいのはコバルトが1番で、ついでニッケル、鉄とつづく)の塩をpH2?6の弱酸性で50?1000ppmの範囲で加え、そこへ黄血塩を大過剰に加えてコロイド状の沈殿を生成させ、すぐ第2鉄塩またはアルミニウム塩を加えてよく攪拌し、つづいて弱アルカリ性(pH9?12)に調整し、手早く攪拌しながら熟成してやると、セシウムもよく沈殿するとともに、KCFCの生成条件下で可溶化する核種も共沈させられることが判明した。
この操作のポイントは、試薬の添加順序を逆にしてコロイド状のKCFCを生成させ、つづいて遷移金属塩でかつアルカリで沈殿する塩を加えた後、アルカリ性にして晶析させるとともに、吸着共沈させるところにある。」(第3頁左下欄第10行?第4頁右下欄第17行)

b そうすると、引用文献2には、「放射性核種の不溶化処理において、セシウムを含む場合、最初にニッケル、コバルト等の塩を加え、そこへ黄血塩(フェロシアン化カリウムを大過剰に加えてコロイド状の沈殿を生成させ、すぐ第2鉄塩またはアルミニウム塩を加えてよく攪拌し、つづいて弱アルカリ性(pH9?12)に調整し、手早く攪拌しながら熟成してやると、セシウムもよく沈殿する」ことについて記載されていると認められる。

(ウ)引用文献3
a 引用文献3には次の事項が記載されている。(下線は当審において付したものである。)
「2.セシウム
・・・(途中省略)・・・
凝集沈殿等
凝集剤として硫酸アルミニウム、硫酸鉄、塩化鉄を用いた、ジャーテストによる^(137)Cs-^(137)Ba(1.9×10^(4)?1.739×10^(7)cpm/L、pH6.5?7.8)の除去率は、・・・」

b そうすると、引用文献3には、「硫酸鉄や硫酸アルミニウムは、セシウムの凝集沈殿に用いられる凝集剤である」ことが記載されていると認められる。

(エ)引用文献4
a 引用文献4には次の事項が記載されている。(下線は当審において付したものである。)
「【0014】
このように、飲料水用改質剤によれば、飲料水にミネラル成分としての亜鉛を安定的に含ませることができると共に、飲料水に十分な制菌効果を付与できるという利点がある。
【0015】
ここで、飲料水用改質剤に、必要に応じて、硫酸アルミニウムや硫酸鉄からなる無機凝集剤を含ませておけば、飲料水中の有機物や不純物を凝集させることができるので、飲料水を浄化できるという利点がある。しかも、微生物の餌となる有機物が凝集により除去されるので、制菌効果をより高めることができる。この場合、改質飲料水は、フィルター(孔の直径:1μm)等でろ過することにより、凝集物をろ別しておくのが望ましい。
【0016】
また、飲料水用改質剤は、天然鉱石を硫酸で溶解、抽出した水溶液を含むものであってもよい。この場合、天然鉱石が10?20重量%の割合となるように10?40%硫酸で溶解、抽出するのが望ましい。また、抽出した水溶液だけでは亜鉛の割合が少なければ、適当量の硫酸亜鉛等を別途添加すればよい。このように、原料に比較的安価な天然鉱石を使用できるので、コストダウンを図ることができるという利点がある。なお、このような天然鉱石は特に限定されるものではないが、例えば、緑泥石(クロライト)を主要構成鉱物とするナキジン変成岩(ナキジンクロライト)等を好適に使用できる。」

b そうすると、引用文献4には、「飲料水用改質剤は、天然鉱石を硫酸で溶解、抽出した水溶液であって、亜鉛が一定量以上含まれる水溶液を含み、この飲料水用改質剤によれば、ミネラル成分を安定的に含ませることができる」ことについて記載されていると認められる。

(オ)引用文献5
a 引用文献5には次の事項が記載されている。(下線は当審において付したものである。)
「【0001】
本考案は、水道水や井戸水等の原水中にミネラルを含む水処理用凝集剤を添加するだけで、不純物を除去し良質なミネラルウォーターを生成可能なミネラルウォーター生成器に関する。」
「【0016】
原水容器2内の原水に添加する水処理用凝集剤としては、例えば、特許第4238308号に示されている飲料水用改質剤(無機酸溶液の存在下で得られる鉱物由来の複数の金属および非金属と無機酸との塩、複塩を主成分として含有し、リン、鉄、カルシウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、銅、亜鉛、マンガン、コバルト、ニッケル、バナジウム、ケイ素、アルミニウム、リチウム、フッ素、イオウ、ストロンチウム、ベリリウム、ヨウ素等の元素が必須ミネラルとして含有されたもの)が好適であり、原水の水素結合によって大きく結合された水の分子集団の細分化作用、水の分子間に溶け込む身体に有害な影響を及ぼす元となる遊離塩素や有機塩素化合物その他の有機物の凝集作用、さらには、大腸菌群等の雑菌の制菌作用を奏する。」

b そうすると、引用文献5には、「無機酸溶液の存在下で得られる鉱物由来の複数の金属および非金属と無機酸との塩、複塩を主成分として含有する水処理用凝集剤を有するミネラルウォーター生成器」について記載されていると認められる。

イ 対比
(ア)本願発明と引用発明とを対比する。
フェロシアン化鉄は、プルシアンブルーであることは明らかであるから、本願発明と、引用発明は、
「セシウムを含有した汚染水にプルシアンブルーを添加し着色する工程と、
セシウムを含有した汚染水に処理用凝集剤を添加する工程と、
前記プルシアンブルーにセシウムが吸着されると共に前記処理用凝集剤にて凝集させたセシウムを含有した凝集物を汚染水内で生成させる工程と、
前記プルシアンブルーにセシウムが吸着されると共に前記処理用凝集剤にて凝集させたセシウムを含有した凝集物と水を分離する工程を有していることを特徴とするセシウムの除去方法。」の点で一致している。

(イ)他方、本願発明と引用発明とは、次の点で相違する。
セシウムを含有した凝集物を汚染水内で生成させる工程を、本願発明は、処理用凝集剤として「バーミキュライトを無機酸で処理しミネラル成分を可溶化させたミネラル濃縮液」「を添加した後放置する」ことで行うのに対し、引用発明は、処理用凝集剤として「イオンリアクションN」を添加するものであり、また、添加した後、どのようにするかの特定がない点。(以下、「相違点1」という。)

ウ 判断
上記相違点1について検討する。
原査定で提示された引用文献の記載事項に、セシウムを含有した凝集物を汚染水内で生成させる工程を、処理用凝集剤としてバーミキュライトを無機酸で処理しミネラル成分を可溶化させたミネラル濃縮液を添加した後放置することで行うことについて記載はない。すなわち、相違点1に係る本願発明の構成については、原査定で提示されたいずれの引用文献においても開示されていない。

そして、本願発明は、相違点1に係る上記の構成を備えることによって、添加した後放置すること、つまり、撹拌することなくセシウムを含有した凝集物を汚染水内で生成させるという顕著な効果を奏するのであるから、本願発明は、引用発明及び引用文献2ないし5に記載された事項に基いて当業者が容易に想到し得るものということはできない。

エ 小活
したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献2ないし5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
すなわち、原査定の拒絶の理由1によっては、本願を拒絶することはできない。

(2)原査定の拒絶の理由2について
本願の特許請求項の範囲の請求項1は、平成28年6月20日付けの手続補正により、「前記プルシアンブルーにセシウムが吸着されて着色されると共に前記処理用凝集剤にて凝集させたセシウムを含有した凝集物を汚染水内で生成させる工程と、前記プルシアンブルーにセシウムが吸着されて着色されると共に前記処理用凝集剤にて凝集させたセシウムを含有した凝集物と水を分離する工程を有している」と補正されたことで、本願発明の処理用凝集剤は、セシウムを吸着したプルシアンブルー自体を凝集することが明確になった。
よって、原査定の拒絶の理由2は解消された。

(3)原査定の拒絶の理由3について
同補正により、「セシウムを含有した汚染水にバーミキュライトを無機酸で処理しミネラル成分を可溶化させたミネラル濃縮液である処理用凝集剤を添加する工程」と補正されたことで、本願発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとなった。(下線は当審において付したものである。)
よって、原査定の拒絶の理由3は解消された。

(4)原査定の拒絶の理由4について
同補正により、「前記プルシアンブルーにセシウムが吸着されて着色されると共に前記処理用凝集剤にて凝集させたセシウムを含有した凝集物を汚染水内で生成させる工程と、前記プルシアンブルーにセシウムが吸着されて着色されると共に前記処理用凝集剤にて凝集させたセシウムを含有した凝集物と水を分離する工程を有している」と補正されたことで、本願発明は、添加した後放置すること、つまり、撹拌することなくセシウムを含有した凝集物を汚染水内で生成させるという顕著な効果を奏するものとなった。
よって、原査定の拒絶の理由4は解消された。

第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
(1)(明確性)本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


請求項1の「プルシアンブルーにセシウムが吸着されて着色される」との発明特定事項の記載では、プルシアンブルーに、セシウムが吸着されることにより着色されると解釈するのが自然であるが、プルシアンブルー自体は、その名のとおり、元来、着色されているものであり、セシウムの吸着の有無と着色の有無とは関係のないことが当業者における技術常識である。
そうすると、請求項1の上記発明特定事項は、技術常識に反するものであることは明らかであり意味不明であるから、明瞭とはいえない。
したがって、請求項1に係る発明は、明確でない。

(2)(進歩性)本願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
引用例1:竹下健二,尾形剛志,福島原発事故で発生した汚染水処理へのイオン交換技術の適用,日本イオン交換学会誌,2012年 2月 2日,Vol.23No.1,p.1-5

引用例2:清水智史,長岡亨,緊急シンポジウム「福島第一原子力発電所汚染水の処理に係る課題」参加報告,原子力バックエンド研究 会議参加記,2011年6月,Vol.18No.1 p.37-40([平成28年4月13日検索],インターネット,URL,http://nuce.aesj.or.jp/jnuce/vol18/Jnuce-Vol18-1-p37-40.pdf)

引用例3:「アタカ大機 溶融飛灰からの放射性セシウムの分離除去技術を開発」,[online],2012年7月5日,[平成28年4月13日検索],インターネット,URL,http://www.gomutimes.co.jp/?p=35010

引用例4:特公平1-44363号公報

2 当審拒絶理由の判断
(1)当審拒絶理由(明確性)について
本願の特許請求項の範囲は、平成28年6月20日付けの手続補正により、
「セシウムを含有した汚染水にプルシアンブルーを添加し着色する工程と、・・・
前記プルシアンブルーにセシウムが吸着されると共に前記処理用凝集剤にて凝集させたセシウムを含有した凝集物を汚染水内で生成させる工程と、
前記プルシアンブルーにセシウムが吸着されると共に前記処理用凝集剤にて凝集させたセシウムを含有した凝集物と水を分離する工程・・・。」(なお、下線は補正箇所を示す。)と補正されたことで、プルシアンブルーを添加することで、添加されたもの(汚染水)が着色され、プルシアンブルーが吸着することで、吸着されたもの(セシウム)が着色されることが明確になった。
よって、当審拒絶理由(明確性)は解消された。

(2)当審拒絶理由(進歩性)について
ア 引用例の記載事項
(ア)引用例1
引用例1は、原査定の拒絶の理由における「引用文献1」と同じであるので、その記載事項、引用発明は、上記「第3 原査定の拒絶理由について」の「2 原査定の理由の判断」の「(1)原査定の拒絶の理由1について」「ア 引用文献の記載事項」「(ア)引用文献1」を参照のこと。

(イ)引用例2
a 引用例2には次の事項が記載されている。(下線は当審において付したものである。)

「吸着剤(フェロシアン化鉄)と凝集剤(硫酸アルミニウムなど)を組み合わせることで高効率にCsを除去可能であることを示した.」(第37頁右欄第22行?第24行)

b そうすると、引用例2には、「吸着剤(フェロシアン化鉄)と凝集剤(硫酸アルミニウムなど)を組み合わせることで高効率にCsを除去すること」について記載されていると認められる。

(ウ)引用例3
a 引用例3には次の事項が記載されている。(下線は当審において付したものである。)

「同社は、プルシアンブルーを合成する際に用いる鉄イオンが水処理で一般的に用いられている無機系凝集剤であることに着目し、鉄イオンを過剰に加えることで、発生したプルシアンブルー微細粒子を凝集して固液分離の問題を解決し、鉄イオンを過剰に加えることでより除染効果を高め、放射性二次廃棄物の減容化を図ることができると語る。」(第3段落)

b そうすると、引用例3には、「鉄イオンを過剰に加えることで、発生したプルシアンブルー微細粒子を凝集させること」について記載されていると認められる。

(エ)引用例4
a 引用例4には次の事項が記載されている。(下線は当審において付したものである。)

「本発明は、雲母系鉱物が風化したバーミキユライトを無機酸水溶液に溶解して得た多種の金属塩及び非金属塩を主成分として含有する酸性添加剤よりなり、被処理液に添加することにより多種の金属塩、非金属塩によつて懸濁物質を非分散性の凝集物にするとともに溶解した有機物を分散して析出させ、前記凝集物とともに凝集させるものである。」(第2欄第10行?第17行)

「上述の原材料に25%硫酸水溶液を原材料:硫酸水溶液が4:3?4の重量比で加え、時々撹拌しながら数日間放置するか、或は100℃に加温しながら撹拌しつつ数時間経過させると、原材料中のSi、Al、Mg、Fe、K、Na等の元素や酸化物が硫酸水溶液中に溶出して上記の金属や非金属の硫酸塩や酸化物となり、これらは単純な硫酸塩や酸化物の他複塩や錯塩として生成されるものである。さらに上記以外に微量であるが元素または酸化物として含まれるLi、Zr、V、Ni、Co、P、Ba、S等の硫酸塩も生成される。
以上のようにして得られた硫酸塩類を含む酸性液を原材料の残渣である砂状物とともに乾固して固形凝集剤を得る。この固形凝集剤が含有する種々の金属塩組成物は全体で略25%である。
また100Kgの原材料に75Kgの25%硫酸水溶液を加えて塩類と残渣を含む酸性液を生成し、次にこの水分の一部を蒸発させて120Kgとした後80Kgの水を加えて原材料の倍量の200Kgの水溶液とした後残渣を過して液状凝集剤を得る場合もある。」(第3欄第24行?第43行)

「液状凝集剤を添加すると直ちに凝集反応が起り、静かに添加すると凝集物は徐々に沈殿するが、撹拌または振盪すれば多量の炭酸ガスが発生し凝集物は浮上する。そしてその後徐々に沈殿する。」(第10欄第19行?第23行)

b そうすると、引用例4には、「バーミキユライトを無機酸水溶液に溶解することで原材料中のSi、Al、Mg、Fe、K、Na等の元素や酸化物が硫酸水溶液中に溶出した液状凝集剤を、添加、撹拌し沈殿させること」について記載されていると認められる。

イ 対比
本願発明と引用発明との対比における、一致点及び相違点については、上記「第3 原査定の拒絶理由について」の「2 原査定の理由の判断」の「(1)原査定の拒絶の理由1について」「イ 対比」の(ア)の一致点で一致し、及び(イ)の相違点1で相違する。

ウ 判断
上記相違点1について検討する。
当審拒絶理由で提示された引用例2?4の記載事項に、セシウムを含有した凝集物を汚染水内で生成させる工程を、処理用凝集剤としてバーミキュライトを無機酸で処理しミネラル成分を可溶化させたミネラル濃縮液を添加した後放置することで行うことについて記載はない。すなわち、相違点1に係る構成については、当審拒絶理由で提示された引用例2?4のいずれにおいても開示されていない。

そして、本願発明は、上記の相違点1に係る上記の構成を備えることによって、添加した後放置すること、つまり、撹拌することなくセシウムを含有した凝集物を汚染水内で生成させるという顕著な効果を奏するのであるから、本願発明は、引用発明及び引用例2ないし4に記載された事項に基いて当業者が容易に想到し得るものということはできない。

エ 小活
したがって、本願発明は、引用発明及び引用例2ないし4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
すなわち、当審拒絶理由(進歩性)によって、本願を拒絶することはできない。

第5 結論
以上のとおりであり、原査定の拒絶理由によって本願を拒絶することはできない。また、他に、本願を拒絶する理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-08-12 
出願番号 特願2012-162262(P2012-162262)
審決分類 P 1 8・ 536- WY (G21F)
P 1 8・ 537- WY (G21F)
P 1 8・ 121- WY (G21F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山口 敦司  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 森 竜介
井口 猶二
発明の名称 セシウムの除去方法  
代理人 有賀 昌也  

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