• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01N
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G01N
管理番号 1317723
審判番号 不服2015-13519  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-07-16 
確定日 2016-08-26 
事件の表示 特願2011-546587「超音波探触子」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 8月 5日国際公開、WO2010/085936、平成24年 7月12日国内公表、特表2012-515901、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年1月14日(パリ条約による優先権主張 2009年1月27日(DE)ドイツ)を国際出願日とする出願であって、平成25年10月29日付けで拒絶の理由が通知され、これに対して、平成26年2月21日に意見書及び手続補正書が提出され、同年6月6日付けで最後の拒絶理由が通知され、これに対して、同年10月9日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年3月11日付けで平成26年10月9日付けの手続補正について却下の決定がなされ、同日付で拒絶査定がなされた。
これに対して、平成27年7月16日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、当審において平成28年5月10日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、これに対して、同年7月15日に意見書及び手続補正書が提出された。

第2 本願発明
本願の請求項1?8に係る発明は、平成28年7月15日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「 【請求項1】
金属加工物である管の横欠陥を非破壊試験するための超音波探触子であって、加工物に接触するために入口くさび部上に振動子素子を列状に配置したものにおいて、
前記入口くさび部が、液体を充填した楔形中空体(7、7’)として形成されており、前記楔形中空体は、横断面が三角形の三角柱状であり、下面が前記加工物に接触する接触面となり、
前記振動子素子が配置された入口くさび部の上面と前記加工物の前記接触面とでなすくさび角度が最大24°であり、前記楔形中空体が、前記加工物への入射角度が最大で70°となるように前記加工物上に配置されており、
前記楔形中空体(7、7’)が、蓋板(7.1、7.2)と、底板(7.3)と、2つの側板(7.4)とを備え、
前記楔形中空体(7、7’)の前記蓋板(7.1、7.2)と前記側板(7.4)が、超音波減衰材料から成り、前記加工物(6)に接触する前記底板(7.3)が、超音波良伝導性材料から成ることを特徴とする超音波探触子。」


第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
本願の請求項1?8に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



引用例1:特開平8-94344号公報
周知例2:特開昭55-129750号公報

引用例1には、超音波の横波を利用して異材肉盛り厚さ等を非破壊で測定する測定装置に関し、該測定装置で用いられるセンサ部は、探触子と、該探触子を所用角度に傾斜させて保持する探触子保持具とからなり、該探触子保持具は、ほぼ直方体状の全体形状を有するとともに透明なアクリル樹脂から成形されてなり、探触子保持具の中央部には水溜部が形成され、該水溜部の底面である測定対象材料Mとの接触面には透明で超音波の透過性に優れるポリプロピレン製のシールテープが貼着等されて内部を密閉して、水溜部内の注入水が漏れないようにしていること(段落【0032】-【0037】、第3図、第4図)、また、段落【0038】には、「水溜部2の上部に連通する固定孔6は測定対象材料Mとの接触面7に対して19°(入射角)の傾きを有して形成されている。この19°という角度は、測定対象材料Mが鋼材の場合、図3に破線で示すように、(水溜部2の)水中から鋼材への屈折角がほぼ45°となり、横波利用の点(進入波と反射波のレベル確保及び受波強度の確保)から好適であるからである。但し、入射角は19°に限定されるものではなく、横波が効果的に利用し得る範囲であれば、それ以下若しくは以上の所定の傾斜角度であってもよい」ことも記載されている。
超音波の入射角度等を測定対象に対して最適となるように設定することは、当業者が適宜なし得る設計的事項に過ぎない。
してみると、本願発明においては振動子が「列状に配置」されているものであるのに対して、引用例1に記載された発明においては列状と明記されていない点において主に相違するものであるが、アレイ状(列状)の振動子を用いて超音波探傷を行うことは例示するまでもなく周知の手法で有り、引用例1に記載の測定装置において、そのようなアレイ状振動子を採用することに格別の技術的困難性も見いだせない。
また、液体を充填したくさび体にトランスデューサを載置する手法も周知である(例えば、周知例2には、「第1図のトランスジューサ8によって送信された音波は、水が充填された中空のくさび体(図示せず)によってプレート6の中と結合される。このくさび体の下縁は薄い音波透過膜を有している・・・中空のくさび体及び水の膜は・・・一般的な構造である」ことが記載されている。第4頁左下欄参照)。
よって、本願の請求項1-8に係る発明は、引用例1に記載された発明および周知技術にもとづいて、当業者であれば容易に発明をすることができたものである。


2 原査定の理由の判断
(1)引用例の記載事項及び引用例に記載された発明
ア 引用例1の記載事項
引用例1には、次の事項が記載されている。なお、以下の摘記において、引用発明の認定に関連する箇所に下線を付した。

(ア)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、超音波の横波を利用して焼入れ硬化層の深さ、異材肉盛り厚さ等を非破壊で測定する測定装置に関する。」

(イ)「【0032】次に、センサ部Bの詳細な構造について、図3?5を用いて説明する。図3は探触子を探触子保持具に挿着して局部水浸式による測定状態を示す斜視図、図4は、探触子を探触子保持具に挿着した状態を示すもので、(a)は正面図、(b)は右側面図、図5は、注水を説明するための探触子保持具の一部正面断面図である。図3に示すようにセンサ部Bは測定対象材料Mの上面に接触させて配置され、この姿勢状態で測定が行われるようになされている。センサ部Bは探触子11とこの探触子11を所要角度に傾斜させて保持する探触子保持具1とからなる主構成を有する。
【0033】探触子11は、例えば水晶振動子やセラミック材その他の材料から成る圧電素子で構成され、両面に形成された電極間に5MHzや10MHz等の高周波駆動電圧信号が印加されることにより励振され超音波を発生するものである。
【0034】探触子保持具1は、ほぼ直方体状の全体形状を有するとともに透明なアクリル樹脂から成形されてなり、その上面適所に形成された円柱状の固定孔6(図4参照)に探触子11を装着し固定するようになっている。探触子保持具1の素材としてはアクリル樹脂や塩化ビニール樹脂を用いることができるが、透明度及び加工性の点からアクリル樹脂の方が好ましい。そして、探触子11が固定孔6に挿入固定された状態で、その下端の送波面である探触子面12から斜め下方に向けて超音波が送波され(図中、破線で示す)、かつ測定対象材料Mからの反射波が受波される。探触子11の探触子面12の直径は送波エネルギー及び好適な狭指向特性(指向角)を考慮して好適な寸法に設計されている。なお、図には示していないが、探触子面12に対向して音響レンズを設け、この音響レンズによって所要の指向角を得るようにすることもできる。これは、探傷ではむしろ広角探査は好ましいが、層厚測定では、逆にスポット的に超音波の照射を行い、不要な反射ノイズを可及的に排除する必要があるからである。
【0035】図4において、探触子保持具1の中央部には底面から上記固定孔6の下端である探触子面12に連通する高さ位置まで、横断面が例えば四角形状乃至は長円状の凹空間を有する水溜部2が形成され、更にこの水溜部2には、上記固定孔6とは異なる位置で注水孔3と気泡排出孔4とが連通形成されている。
【0036】注水孔3は探触子保持具1の一側面から水溜部2を形成する空間の内側面まで水平に連通形成されてなり、注水チューブコネクタを有する口金13を介して外部から水溜部2に注水し得るように構成されている。気泡排出孔4は探触子保持具1の上面から水溜部2を形成する空間の天井まで垂直乃至はほぼ垂直に連通形成されてなり、開閉弁(図示せず)を有する口金14を介して、水溜部2への給水時に水中に発生し易い気泡を逃がせるように構成されている。このように、注水孔3を探触子面12に対して下方に、気泡排出孔4を水溜部2の上方に配設したので、水溜部2内に残存する存在する空気によって注水時に発生する気泡を確実に外部へ排出できる。
【0037】水溜部2の底面である測定対象材料Mとの接触面7には透明で超音波の透過性に優れるポリプロピレン製のシールテープ5が貼着等されて内部を密閉して、水溜部2内の注入水が漏れないようにしている。この水溜部2は、不要な虚エコーの発生しない程度まで可能な限り小さくして、シールテープ5で密閉されるシール面積を小さくしてシール性を確保するとともに、探触子保持具1を小さくして携帯性を確保する。シールテープ5は測定時に材料面と接触して摩耗するため取替え頻度が高くなるので、取替え作業が容易な粘着テープを用いることが好ましい。
【0038】更に、水溜部2の上部に連通する固定孔6は測定対象材料Mとの接触面7に対して19°(入射角)の傾きを有して形成されている。この19°という角度は、測定対象材料Mが鋼材の場合、図3に破線で示すように、(水溜部2の)水中から鋼材への屈折角がほぼ45°となり、横波利用の点(進入波と反射波のレベル確保及び受波強度の確保)から好適であるからである。但し、入射角は19°に限定されるものではなく、横波が効果的に利用し得る範囲であれば、それ以下若しくは以上の所定の傾斜角度であってもよい。」

(ウ)「【0059】次に、異材肉盛り溶接部の肉盛り厚さ測定結果について説明すると、図11に示すように、300mm厚の炭素鋼(SC鋼)の表面にステンレス鋼(SUS鋼)を肉盛り溶接して、その肉盛り厚さを測定した。垂直2分割直接接触法による従来法では図12に示すように、ステンレス鋼内での超音波の減衰が大きく、溶接部境界面からの反射波が不明瞭になり肉盛り厚さは測定不可能である。また、裏面の炭素鋼側から測定するとブラウン管に300mm以上の時間軸を取らねばならず、薄い肉盛り厚さを測定するには精度上問題がある。
【0060】しかし、本測定装置を用いた測定では、傾斜させて超音波を送波する構成であるので、上記したように超音波は横波モードとなり、鋼材表面での減衰が少なくなり、SUS鋼側からの測定が可能となるとともに、SUS鋼側の反射レベルがSC鋼側の反射レベルに比して低いので、両者のレベル差を利用してSUS鋼の溶接肉盛り厚さの測定が可能となる。超音波測定の結果は、図13に示すように、SUS鋼の溶接肉盛り厚さは4.3mmであった。なお、このときの超音波の入射角は19°、屈折角は45°である。」

(エ)図3には以下の図面が示されている。



(オ)図5には以下の図面が示されている。



イ 引用例1に記載された発明の認定
上記ア(ア)?(オ)を含む引用例1全体の記載を総合すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「探触子を探触子保持具に挿着して局部水浸式による測定を行うセンサ部であって、
センサ部は測定対象材料Mの上面に接触させて配置され、
センサ部は探触子11とこの探触子11を所要角度に傾斜させて保持する探触子保持具1とからなる主構成を有するものであり、
探触子11は、例えば水晶振動子やセラミック材その他の材料から成る圧電素子で構成され、両面に形成された電極間に5MHzや10MHz等の高周波駆動電圧信号が印加されることにより励振され超音波を発生するものであり、
探触子保持具1は、ほぼ直方体状の全体形状を有するとともに透明なアクリル樹脂から成形されてなり、その上面適所に形成された円柱状の固定孔6に探触子11を装着し固定するようになっており、
探触子11が固定孔6に挿入固定された状態で、その下端の送波面である探触子面12から斜め下方に向けて超音波が送波され、かつ測定対象材料Mからの反射波が受波されるものであり、
探触子保持具1の中央部には底面から上記固定孔6の下端である探触子面12に連通する高さ位置まで、横断面が例えば四角形状乃至は長円状の凹空間を有する水溜部2が形成され、
水溜部2の底面である測定対象材料Mとの接触面7には透明で超音波の透過性に優れるポリプロピレン製のシールテープ5が貼着等されて内部を密閉して、水溜部2内の注入水が漏れないようにされており、
水溜部2の上部に連通する固定孔6は測定対象材料Mとの接触面7に対して19°(入射角)の傾きを有して形成され、この19°という角度は、測定対象材料Mが鋼材の場合、(水溜部2の)水中から鋼材への屈折角がほぼ45°となり、但し、入射角は19°に限定されるものではなく、横波が効果的に利用し得る範囲であれば、それ以下若しくは以上の所定の傾斜角度であってもよいものであり、
300mm厚の炭素鋼(SC鋼)の表面にステンレス鋼(SUS鋼)を肉盛り溶接した異材肉盛り溶接部の肉盛り厚さを測定する、
センサ部。」


ウ 周知例2の記載事項
(ア)「第1図のトランスジューサ8によって送信された音波は、水が充填された中空のくさび体(図示せず)によってプレート6の中へと結合される。このくさび体の下縁は薄い音波透過膜を有している。更に、音波を対象物体の中へと結合するために上記膜とプレート6との間には薄い水の膜が維持される。中空のくさび体及び水の膜は図示明瞭化のため及びこれらが一般的な構造のものであるため第1図には示してない。」(第4頁左下欄第1行?第9行)


(2)対比
本願発明と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の「測定対象材料M」である「300mm厚の炭素鋼(SC鋼)の表面にステンレス鋼(SUS鋼)を肉盛り溶接した異材肉盛り溶接部」は、本願発明の「金属加工物」に相当する。

イ 引用発明1の「センサ部」は、「超音波測定」により「測定対象材料M」の「肉盛り厚さ」を測定するためのものであるから、引用発明1の当該「センサ部」と、本願発明の「金属加工物である管の横欠陥を非破壊試験するための超音波探触子」とは、「金属加工物を非破壊試験するための超音波探触子」という点で共通する。

ウ 引用発明1の「センサ部」は、「測定対象材料Mの上面に接触させて配置され」るものである。また、引用発明1の「探触子保持具1」は、「ほぼ直方体状の全体形状を有するとともに透明なアクリル樹脂から成形されてなり、その上面適所に形成された円柱状の固定孔6に探触子11を装着し固定するようになって」いるから、引用発明1の「探触子保持具1」を有する「センサ部」が、「探触子11を装着し固定」する入口部(固定孔)を構成することになるのは明らかである。
そして、この「探触子11」は、「圧電素子で構成され」「超音波を発生するもの」であるから、引用発明1の当該「圧電素子で構成」された「探触子11」を備えた「センサ部」と、本願発明の「加工物に接触するために入口くさび部上に振動子素子を列状に配置した」「超音波探触子」とは、「加工物に接触するために入口部上に振動子素子を配置した」「超音波探触子」という点で共通する。

エ 引用発明1の「センサ部」は、「探触子保持具1」と「水溜部2」を有しており、このうち「水溜部2」は、「水溜部2の底面である測定対象材料Mとの接触面7には透明で超音波の透過性に優れるポリプロピレン製のシールテープ5が貼着等されて内部を密閉して、水溜部2内の注入水が漏れないようにされて」おり、「探触子保持具1」の形状と合わせて、水が封入される中空体を形成するものである。
したがって、引用発明1の当該「探触子保持具1」及び「水溜部2」を有する「センサ部」と、本願発明の「前記入口くさび部が、液体を充填した楔形中空体(7、7’)として形成されており、前記楔形中空体は、横断面が三角形の三角柱状であり、下面が前記加工物に接触する接触面」となる「超音波探触子」とは、「前記入口部が、液体を充填した中空体として形成されており、前記中空体は、下面が前記加工物に接触する接触面とな」る「超音波探触子」という点で共通する。

オ 引用発明1の「探触子11」が固定される「水溜部2の上部に連通する固定孔6」は、「測定対象材料Mとの接触面7に対して19°(入射角)の傾きを有して形成され、この19°という角度は、測定対象材料Mが鋼材の場合、(水溜部2の)水中から鋼材への屈折角がほぼ45°」となるものである。引用発明1において「19°(入射角)の傾き」であることは、「角度が最大24°」であることを満たすから、引用発明1の当該「19°(入射角)の傾き」であることと、本願発明の「前記振動子素子が配置された入口くさび部の上面と前記加工物の前記接触面とでなすくさび角度が最大24°」であることとは、「前記振動子素子が配置された入口部の上面と前記加工物の前記接触面とでなす角度が最大24°」である点で共通する。また、引用発明1の当該「屈折角がほぼ45°」であることは、本願発明の「前記加工物への入射角度が最大で70°」であることを満たす。
そうすると、引用発明1の「探触子11」が固定される「水溜部2の上部に連通する固定孔6」を有する「センサ部」と、本願発明の「前記振動子素子が配置された入口くさび部の上面と前記加工物の前記接触面とでなすくさび角度が最大24°であり、前記楔形中空体が、前記加工物への入射角度が最大で70°となるように前記加工物上に配置されて」いる「超音波探触子」とは、「前記振動子素子が配置された入口部の上面と前記加工物の前記接触面とでなす角度が最大24°であり、前記中空体が、前記加工物への入射角度が最大で70°となるように前記加工物上に配置されて」いる「超音波探触子」という点で共通する。

カ 引用発明1の「探触子保持具1」と「水溜部2」は、その内部に水を保持するために、「水溜部2」の底部に「シールテープ5」を備え、「探触子保持具1」には蓋部及び複数の側部が設けられるものであることが明らかである。そして、引用発明1の「シールテープ5」が、本願発明の「底板」に相当する。
したがって、引用発明1の当該「探触子保持具1」と「水溜部2」とを有する「センサ部」と、本願発明の「前記楔形中空体(7、7’)が、蓋板(7.1、7.2)と、底板(7.3)と、2つの側板(7.4)とを備え」る「超音波探触子」とは、「前記中空体が、蓋部と、底板と、複数の側部とを備え」る「超音波探触子」という点で共通する。

キ 引用発明1の「水溜部2の底面である測定対象材料Mとの接触面7」に形成された「ポリプロピレン製のシールテープ5」は、「透明で超音波の透過性に優れる」ものであるから、引用発明1の当該「シールテープ5」は、本願発明の「超音波良伝導性材料から成る」「前記加工物(6)に接触する前記底板(7.3)」に相当する。

したがって、本願発明と引用発明1とは、
(一致点)
「金属加工物を非破壊試験するための超音波探触子であって、加工物に接触するために入口部上に振動子素子を配置したものにおいて、
前記入口部が、液体を充填した中空体として形成されており、前記中空体は、下面が前記加工物に接触する接触面となり、
前記振動子素子が配置された入口部の上面と前記加工物の前記接触面とでなす角度が最大24°であり、前記中空体が、前記加工物への入射角度が最大で70°となるように前記加工物上に配置されており、
前記中空体が、蓋部と、底板と、複数の側部とを備え、
前記加工物に接触する前記底板が、超音波良伝導性材料から成る超音波探触子。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
「金属加工物」の「非破壊試験」について、本願発明は「管の横欠陥」を検査するものであるのに対して、引用発明1は「300mm厚の炭素鋼(SC鋼)の表面にステンレス鋼(SUS鋼)を肉盛り溶接した異材肉盛り溶接部」の「肉盛り厚さ」を検査するものである点。

(相違点2)
「振動子素子」について、本願発明は「列状」に配置されているのに対して、引用発明1はそのような構成を有するものであるのか不明である点。

(相違点3)
「入口部」及び「中空体」の構成について、本願発明は「くさび部」及び「楔形」であって「横断面が三角形の三角柱状」であり、「超音波減衰材料」から成る「蓋板」と「2つの側板」を有するものであるのに対して、引用発明1はそのような構成を有しない点。

(3)判断
上記(相違点3)について検討する。
ア 周知例2(上記(1)ウ(ア)を参照)には、「水が充填された中空のくさび体」を用いた超音波トランスジューサが記載されているものの、「横断面が三角形の三角柱状」であることは示されていない。
したがって、周知例2には、上記(相違点3)に係る技術的事項が記載されていない。

なお、上記第1「手続の経緯」で記載した平成27年3月11日付けの補正の却下の決定において、周知例として特開2006-47328号公報(以下「周知例3」という。)が提示されているので、これについても以下検討する。

イ 周知例3の記載事項
(ア)「【0038】
実施の形態2.
図5は、実施の形態2に適用する超音波探傷装置を示す模式図であり、図中、図1と同一部分は同一符号を付してある。この超音波探傷装置においては、くさび3は断面の形状が直角三角形状であり、溶接部2側の端面(超音波ビーム進行側)をこれと反対側の端面より大きくしてある。そして、くさび3の斜面上に、64CHからなるアレイ探触子4が配置されている。くさび3の溶接部2側の端面には、くさび3内部の乱反射を抑制するための吸音材13が張り付けられている。」

(イ)図5には以下の図面が示されている。


ウ 周知例3(上記イ(ア)及び(イ)を参照)には、くさびの断面形状を直角三角形状とすることは記載されているものの、これは「液体を充填した中空体」に関するものではない。
したがって、周知例3にも、上記(相違点3)に係る技術的事項は記載されていない。

エ よって、上記(相違点3)に係る技術的事項は、周知例2及び3には記載されておらず、さらに、その技術的事項が設計的事項であるともいえないことから、引用発明1において、上記(相違点3)の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

(4)小括
よって、本願発明は、その余の相違点について検討するまでもなく、当業者が引用発明1及び周知例2?3に記載の技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
また、本願の請求項2?8に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるから、本願発明と同様に、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。


第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないので、特許を受けることができない。



(1)請求項1の「金属加工物、特に管の横欠陥を非破壊検査する」との記載では、「特に」が「管」にのみ係っているのか、「管の横欠陥」に係っているのか、日本語として不明瞭である。
(2)請求項1には、「横欠陥」との記載があるが、「横欠陥」は通常の技術用語ではないため、どのような欠陥を意図しているのかが不明瞭である。
(3)請求項1の「楔形中空体(7、7’)」との記載のみでは、形状が明確でなく、本願の図1及び図2に示されている、「横断面が三角形の三角柱状であり、下面が加工物に接触する接触面を持つ」ものを意図しているのか否か、明確でない。
(4)請求項1の「音波減衰材料」との記載は、「超音波減衰材料」とするところの誤記と思われる。
(5)請求項1の「音波良伝導性材料」との記載は、「超音波良伝導性材料」とするところの誤記と思われる。
(6)請求項7には、「前記楔形中空体(7、7’)内の液体が、音波速度および減衰を有する」と記載されているが、「液体が音波速度を有する」や「液体が減衰を有する」との記載は、日本語として意味不明である。
(7)上記(1)?(6)の点は、請求項1を引用する請求項2?8についても該当し、上記(6)の点は、請求項7を引用する請求項8についても該当する。
したがって、請求項1?8に係る発明は明確でない。


2 当審拒絶理由の判断
(1)平成28年7月15日に提出された手続補正書によって、請求項1において、「金属加工物、特に管の横欠陥」との記載が、「金属加工物である管の横欠陥」と補正され、「楔形中空体」が「横断面が三角形の三角柱状であり、下面が前記加工物に接触する接触面」となることが特定され、「音波減衰材料」及び「音波良伝導性材料」との記載が、「超音波減衰材料」及び「超音波良伝導性材料」と補正され、請求項7においては、「前記楔形中空体(7、7’)内の液体が、音波速度および減衰を有する」との記載が、「前記楔形中空体(7、7’)内の液体が、小さい音波速度および減衰を有する」と補正された。また、同日付の意見書において、「横欠陥」とは、例えば「管の周方向に延びる傷」であるとの釈明をしている。
したがって、請求項1?8に係る発明は、明確となった。

(2)したがって、もはや、当審で通知した拒絶理由によって本願を拒絶することはできない。


第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当審の拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-08-16 
出願番号 特願2011-546587(P2011-546587)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01N)
P 1 8・ 537- WY (G01N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 高橋 亨  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 ▲高▼橋 祐介
田中 洋介
発明の名称 超音波探触子  
代理人 有原 幸一  
代理人 松島 鉄男  
代理人 奥山 尚一  
代理人 河村 英文  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ