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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61B |
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管理番号 | 1317730 |
審判番号 | 不服2015-7957 |
総通号数 | 201 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-09-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-04-28 |
確定日 | 2016-08-23 |
事件の表示 | 特願2011- 69151「画像処理装置及び画像処理装置の制御プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成23年11月10日出願公開、特開2011-224355、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成23年3月28日(国内優先権主張、平成22年3月30日)の出願であって、平成27年2月3日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)されたところ、同年4月28日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。 その後、当審において、平成28年2月16日付けで拒絶理由が通知され、同年4月22日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1ないし10に係る発明は、平成28年4月22日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、以下のとおりである。 「【請求項1】 MRI装置によって被検体の左右の乳房を含む3次元空間を撮像して得られた3次元画像データから、前記左右の乳房それぞれの2次元画像を生成し、生成した各2次元画像における胸壁部分が互いに向き合うように配置することで前記左右の乳房を対称に配置した対比用2次元画像を生成する生成手段と、 前記対比用2次元画像を表示部に表示させる表示制御手段と を備え、 前記被検体を載置するための寝台と、 前記被検体からの磁気共鳴信号を受信し、前記寝台に設けられる受信RFコイルと、 前記受信RFコイルによって受信された磁気共鳴信号に基づいて前記3次元画像データを再構成する再構成手段とを更に備え、 前記生成手段は、前記寝台又は前記受信RFコイルの位置に基づいて、前記胸壁の位置を認識することを特徴とする画像処理装置。」 第3 原査定の理由について 1 原査定の理由の概要 本願の請求項1ないし11に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいてその優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 引用文献1.国際公開第2008/035444号 引用文献2.特表2008-505712号公報 引用文献3.特開2003-260046号公報 引用文献4.特開2009-207561号公報 引用文献5.特開2007-125367号公報 引用文献6.特開2008- 86400号公報 引用文献7.特開2005-124617号公報 引用文献1には、左右の各乳房の全領域を三次元的に撮像する超音波乳房撮像装置10によって得られた画像データAに基づいて、左右の各乳房全体のボクセルデータを作成する乳房ボクセルデータ作成装置20と、この乳房ボクセルデータ作成装置20により作成された左右の各乳房のボクセルデータに基づいて読影診断のための画像を表示する読影画像表示装置30であって、左右の乳房の左右に対称な断面箇所の断面画像を、対称に隣接させて、且つ、乳房の一端側から他端側にかけて所定ピッチで、順次表示する読影画像表示装置30とを備えている超音波乳房診断システム100(段落[0032])において、読影画像表示装置30が左右のボクセルデータに基づいて所定方向の断面画像を表示するための表示画像作成134及び断面画像読み取り135と、これにより作成された読影用表示画面が書込まれる表示メモリ136等を備えること(段落[0042])、サジタル画像又はアキシャル画像を供すること(段落[0046])が記載されている。 引用文献1に記載された発明の読影画像表示装置は、3次元画像データから、左右の乳房それぞれの断層像を生成し、図4のように表示するものであるから、本願発明の生成手段および表示制御手段の機能を有するものである。 引用文献1に記載された発明は、MRI装置によって取得された左右の乳房を含むデータを用いていない。しかしながら、引用文献6や引用文献7に記載されているように、MRIを用いて乳房の画像を取得すること、X線投影画像と同様に表示を行うことは、周知技術である。また、MRI撮像において、強調条件などが異なる複数種類の画像を取得することや、胸壁の位置にRFコイルを配置して撮像することも周知である。したがって、引用文献1に記載された発明において、超音波データの代わりにMRI装置によって得られたデータに基づき画像を生成することや、複数種類の画像を生成すること、胸壁に配置したRFコイルからの画像の位置関係に基づいて胸壁を認識することは、当業者が適宜なし得ることである。 2 原査定の理由の判断 (1)引用文献1の記載事項 引用文献1には、以下の記載がある(下線は当審において付加したものである。)。 ア 「請求の範囲 [1] 乳房を垂下浸漬可能な水槽と、前記水槽の底部に機械的走査可能に配置された超音波プローブとを備え、超音波の送受信により左右の各乳房の全領域を三次元的に撮像する超音波乳房撮像装置と、 前記超音波乳房撮像装置によって得られた画像データに基づいて、左右の各乳房全体のボクセルデータを作成する乳房ボクセルデータ作成装置と、 前記乳房ボクセルデータ作成装置により作成された左右の各乳房のボクセルデータに基づいて読影診断のための画像を表示する読影画像表示装置であって、左右の乳房の左右に対称な断面箇所の断面画像を、対称に隣接させて、且つ、乳房の一端側から他端側にかけて所定のピッチで、順次表示する読影画像表示装置とを備えることを特徴とする超音波乳房診断システム。」 イ 「 [2] 前記読影画像表示装置において表示される左右の乳房の断面画像は、サジタル画像とアキシャル画像とのいずれかからなり、乳房の基部側を互いに付き合せて対称に隣接表示されることを特徴とする請求項1に記載の超音波乳房診断システム。」 ウ 「[0004]その典型的な一例は、例えば特許文献1に記載された「水槽式 (水浴式)」と呼ばれる乳腺超音波撮像法であり、乳房を水槽中に垂下浸漬し、その下方に配置された超音波プローブを機械的走査して乳房全領域を撮像する方法である。この水槽式では乳房は保形のために柔軟な薄膜を介して水槽中に浸漬されるが、乳房全体を隆起のあるほぼ自然な形のままで撮像することができる特徴がある。なお、同文献によれば、得られた超音波画像(Bモード画像)は動画としてモニタ表示し、またはー且録画した後に再生表示することによって読影診断に供される。」 エ 「図1 」 オ 上記アに記載された水槽を用いた超音波乳房撮像装置は、上記ウ及びエを参照すると、「乳房を水槽中に垂下浸漬し、その下方に配置された超音波プローブを機械的走査して乳房全領域を撮像する」ものであって、うつ伏せに被検者が寝る必要があるから、上記撮像装置は、撮像を行う際には、被検者をうつ伏せに寝かせる寝台が存在することは自明なことである。 カ かかる事項を上記ア及びイに加えて整理すると、引用文献1には、次のような発明(以下、引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 「(a) 被検者をうつ伏せに寝かせる寝台と、 (b) 乳房を垂下浸漬可能な水槽と、前記水槽の底部に機械的走査可能に配置された 超音波プローブとを備え、超音波の送受信により左右の各乳房の全領域を三次元的に撮像する超音波乳房撮像装置と、 (c) 前記超音波乳房撮像装置によって得られた画像データに基づいて、左右の各乳房全体のボクセルデータを作成する乳房ボクセルデータ作成装置と、 (d) 前記乳房ボクセルデータ作成装置により作成された左右の各乳房のボクセルデータに基づいて読影診断のための画像を表示する読影画像表示装置であって、左右の乳房の左右に対称な断面箇所の断面画像を、乳房の基部側を互いに付き合せて対称に隣接表示させて、且つ、 (e) 乳房の一端側から他端側にかけて所定のピッチで、順次表示する読影画像表示装置とを備えることを特徴とする超音波乳房診断システム。」 (2)対比 本願発明1と引用発明1を対比する。 ア 引用発明1の「被検者をうつ伏せに寝かせる寝台」は、本願発明1の「被検体を載置するための寝台」に相当する。 イ 引用発明1の「超音波の送受信により左右の各乳房の全領域を三次元的に撮像する」「超音波乳房撮像装置」「によって得られた画像データに基づいて」「作成された左右の各乳房全体のボクセルテータ」と、本願発明1の「MRI装置によって被検体の左右の乳房を含む3次元空間を撮像して得られた3次元画像データ」とは、「被検体の左右の乳房を含む3次元空間を撮像して得られた3次元画像データ」である点で共通する。 ウ 引用発明1は「左右の各乳房のボクセルデータに基づいて読影診断のための画像を表示する」にあたって、「左右の乳房の左右に対称な断面箇所の断面画像」を採用しており、「断面画像」が2次元画像であることは明らかであり、また、左右の乳房の断面画像を生成していることから、本願発明1と引用発明1は、「被検体の左右の乳房を含む3次元空間を撮像して得られた3次元画像データから、前記左右の乳房それぞれの2次元画像を生成」する点で共通する。 エ 引用発明1において、「左右の乳房の左右に対称な断面箇所の断面画像を、乳房の基部側を互いに付き合せて対称に隣接表示させ」ることは、左右の乳房の2次元画像を対称に配置することであり、左右の対比用の画像を生成していることは明らかであるから、本願発明1と引用発明1は、「生成した各2次元画像」「が互いに向き合うように配置することで前記左右の乳房を対称に配置した対比用2次元画像を生成する」点で共通するとともに、その「生成手段」を備える点でも共通する。 オ 引用発明1の「読影画像表示装置」は、「読影診断のための画像」を表示するためのものであるから、本願発明1の「対比用2次元画像」の「表示部」に相当する。そして、引用発明1の「読影診断のための画像を表示する読影画像表示装置」が、何らかの表示制御手段を備えることは、当業者にとって明らかであるから、本願発明1と引用発明1は、「対比用2次元画像を表示部に表示させる表示制御手段」を備える点で一致する。 カ 引用発明1の「超音波乳房診断システム」が「画像処理」を行うことは明らかである。 よって、本願発明1と引用発明1は、「画像処理装置」の発明である点で一致する。 キ 以上のことから、本願発明1と引用発明1は、以下の点で一致する。 「被検体の左右の乳房を含む3次元空間を撮像して得られた3次元画像データから、前記左右の乳房それぞれの2次元画像を生成し、生成した各2次元画像が互いに向き合うように配置することで前記左右の乳房を対称に配置した対比用2次元画像を生成する生成手段と、 前記対比用2次元画像を表示部に表示させる表示制御手段と を備え、 前記被検体を載置するための寝台と を更に備える画像処理装置。」 そして、両者は以下の点で相違する。 <相違点> 3次元画像データが、本願発明1は、MRI装置によって得られたものであり、それゆえに、被検体からの磁気共鳴信号を受信し、寝台に設けられる受信RFコイル、及び、前記受信RFコイルによって受信された磁気共鳴信号に基づいて前記3次元画像データを再構成する再構成手段とを更に備え、対比用2次元画像を生成するにあたって、各2次元画像における胸壁部分が互いに向き合うように配置するための胸壁の位置を、寝台又は受信RFコイルの位置に基づいて、認識するように構成されているのに対して、引用発明1は、超音波乳房撮像装置によって得られたものであることから、受信RFコイル、及び、前記受信RFコイルによって受信された磁気共鳴信号に基づいて前記3次元画像データを再構成する再構成手段を有しておらず、上記のように構成されていない点。 (3)判断 上記相違点について、以下に検討する。 MRI装置を用いて乳房の画像を取得することは、例えば引用文献6や引用文献7に記載されているように、本願優先日前に周知の技術であるが、寝台又は受信RFコイルの位置に基づいて、胸壁の位置を認識する点については、原査定において示した何れの文献にも記載されていない。 また、上記の点が、当業者であれば、適宜なし得る設計的事項であることを示す客観的根拠も見出せない。 したがって、相違点に係る構成は、引用発明1及び引用文献2ないし7に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。 (4)小括 したがって、本願発明1は、当業者が、引用発明1及び引用文献2ないし7に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 また、本願の請求項2ないし9に係る発明は、本願発明1の発明特定事項をすべて含み、本願発明1をさらに限定したものであるので、本願発明1と同様に、引用発明1及び引用文献2ないし7に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 さらに、請求項10に係る発明は、「画像処理装置」の発明である本願発明1のカテゴリーを「画像処理プログラム」に変更したものに過ぎない。したがって、請求項10に係る発明は、本願発明1と同様の理由により、引用発明1及び引用文献2ないし7に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 第4 当審の平成28年2月16日付け拒絶理由の概要 当審の平成28年2月16日付け拒絶理由の概略は、次のとおりである。 本願の請求項1ないし8、10、11に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2008-86400号公報(以下、「引用文献A」という。上記「引用文献6」に相当する。)に記載された発明に基づいて、また、本願の請求項9に係る発明は、引用文献A及び国際公開第2009/150566号(以下、「引用文献B」という。)に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第5 当審の判断 1 引用文献Aに記載された事項 引用文献Aには、以下の記載がある(下線は当審において付加したものである。)。 ア 【請求項1】 「乳房を垂下浸漬可能な水槽と、前記水槽の底部に機械的走査可能に配置された超音波プローブとを備え、超音波の送受信により乳房全領域を三次元的に撮像する超音波乳房撮像装置と、 前記超音波乳房撮像装置によって得られた画像データに基づいて、乳房全体の乳房超音波ボクセルデータを作成する乳房超音波ボクセルデータ作成装置と、 垂下された乳房を収容する乳房専用コイルを備え、核磁気共鳴信号により乳房全領域を三次元的に撮像する乳房MRI装置と、 前記乳房MRI装置によって得られた画像データに基づいて、乳房全体の乳房MRIボクセルデータを作成する乳房MRIボクセルデータ作成装置と、 前記乳房超音波ボクセルデータと前記乳房MRIボクセルデータとに基づいて、一方の乳房の三次元形状を他方の乳房の三次元形状に一致するように非剛体変形してそれらの三次元形状を合わせる乳房三次元形状合わせ処理装置と、 前記乳房三次元形状合わせ処理装置によって処理された前記乳房超音波ボクセルデータと前記乳房MRIボクセルデータとに基づいて、乳房の対応する任意の断面個所の超音波断面画像とMRI断面画像とを合わせて表示する読影画像表示装置と を備えることを特徴とする乳房画像診断システム。 【請求項2】 前記読影画像表示装置において、前記乳房の対応する任意の断面個所の超音波断面画像とMRI断面画像とは並列して表示されることを特徴とする請求項1に記載の乳房画像診断システム。」 イ 【0025】 「 本実施形態の乳房画像診断システム100は、図1に示すように、乳房を垂下浸漬可能な水槽11と、この水槽11の底部に機械的走査可能に配置された超音波プローブ12とを備え、超音波の送受信により乳房全領域を三次元的に撮像する超音波乳房撮像装置10と、この超音波乳房撮像装置10によって得られた画像データAに基づいて、乳房全体の乳房超音波ボクセルデータBを作成する乳房超音波ボクセルデータ作成装置20と、垂下された乳房を収容する乳房専用コイル31を備え、核磁気共鳴信号により乳房全領域を三次元的に撮像する乳房MRI装置30と、この乳房MRI装置30によって得られた画像データCに基づいて、乳房全体の乳房MRIボクセルデータDを作成する乳房MRIボクセルデータ作成装置40と、乳房超音波ボクセルデータBと乳房MRIボクセルデータDとに基づいて、一方の乳房の三次元形状を他方の乳房の三次元形状に一致するように非剛体変形してそれらの三次元形状を合わせる乳房三次元形状合わせ処理装置50と、この乳房三次元形状合わせ処理装置50によって処理された乳房超音波ボクセルデータBと乳房MRIボクセルデータDとに基づいて、乳房の対応する任意の断面個所の超音波断面画像とMRI断面画像とを合わせて表示する読影画像表示装置60とを備えている。」 ウ 図1 「 」 エ 【0034】 「 乳房MRI装置30は、垂下された乳房を収容する乳房専用コイル31を備えたMRI装置であって、核磁気共鳴信号に基づいて乳房の断層像が特に高感度に得られるようにしたものである。この乳房専用コイル31は円筒の形態が一般的であり、垂下された乳房を取り囲んで収容するための十分な広さを有するものであるが、このような乳房MRI装置30はすでに種々の機種として一般に実用化されており、本実施形態ではそのような機種にかかわらずいずれも利用することができる。そして、乳房の撮像は、寝台の上にうつ伏せ状態となって、左右の乳房をそれぞれその乳房専用コイル31の中に垂下させて行われる。したがって、乳房は垂下した自然の形状のままに撮像されることができる。ただし、この乳房の撮像に際しては、必要に応じて適宜に乳房の保形をすることもできる。」 オ 【0035】 「 この乳房MRI装置30によって乳房の全体は多くの断層像(スライス画像)として撮像されるが、その画像データに基づいて乳房全体の単一の三次元データであるボクセルデータを作成する乳房MRIボクセルデータ作成装置40は、その断層面とは異なった断面の画像を診断のために表示する等の目的で、一般にその乳房MRI装置30に一体化されて備えられている。ただ、乳房MRI装置30による乳房の撮像は、左右の乳房についてそれぞれなされる場合もあるが、左右の乳房を共に含む胸部全体についてなされるのがむしろ一般的である。そのため、そのような場合には、この乳房MRIボクセルデータ作成装置40は左右の乳房を各々別に分ける処理を含むものであることが必要である。」 カ 上記ウに摘示した図1において、乳房専用コイルの上方の左右に板状の部材が示されており、上記エを参照すると、当該部材は寝台であると認められる。また、寝台が乳房を挿入する開口を備えていると認められる。 上記アないしカの記載を含む、引用文献A全体の記載を総合すると、引用文献Aには、 「垂下された乳房を収容する乳房専用コイルを備え、核磁気共鳴信号により乳房全領域を三次元的に撮像する乳房MRI装置と、 前記乳房MRI装置によって得られた画像データに基づいて、乳房全体の乳房MRIボクセルデータを作成する乳房MRIボクセルデータ作成装置と、 前記乳房MRIボクセルデータに基づいて、乳房の任意の断面個所のMRI断面画像を表示する読影画像表示装置と、 前記乳房専用コイルの上方に設けられた、乳房を挿入する開口を備えた寝台と、 を備え、 この乳房MRI装置によって乳房の全体は多くの断層像(スライス画像)として撮像され、 その画像データに基づいて乳房全体の単一の三次元データであるボクセルデータを作成する乳房MRIボクセルデータ作成装置は、その乳房MRI装置に一体化されて備えられ、 乳房MRI装置による乳房の撮像は、左右の乳房を共に含む胸部全体についてなされ、 この乳房MRIボクセルデータ作成装置は左右の乳房を各々別に分ける処理を含む 乳房画像診断システム。」 の発明(以下、「引用発明A」という。)が開示されていると認められる。 2 請求項1について (1) 対比 本願発明1と、引用発明Aを対比する。 ア(ア) 引用発明Aの「乳房」が、「被検体」の「乳房」であることは明らかである。 (イ) 引用発明Aの「乳房MRI装置」は、「核磁気共鳴信号により乳房全領域を三次元的に撮像する」ものであるから、本願発明1の「被検体の左右の乳房を含む3次元空間を撮像」する「MRI装置」に相当する。 (ウ) 引用発明Aの「乳房全体の乳房MRIボクセルデータ」は、「三次元データ」であるから、本願発明1の「被検体の左右の乳房を含む3次元空間を撮像して得られた3次元画像データ」に相当する。 (エ) 引用発明Aの「乳房MRIボクセルデータ作成装置」は、「左右の乳房を各々別に分ける処理を含む」ものであり、また、「前記乳房全体の乳房MRIボクセルデータに基づいて、乳房の任意の断面個所のMRI画像」が「表示」されることから、「乳房の任意の断面個所のMRI画像」が生成されることは明らかであり、また、「断面個所のMRI画像」は2次元画像であることから、本願発明1と引用発明Aは、3次元画像データから、左右の乳房それぞれの2次元画像を生成する点で一致する。 (オ) 引用発明Aの「読影画像表示装置」が、何らかの表示制御手段を備えることは、当業者にとって明らかであるから、本願発明1と引用発明Aは、「画像を表示部に表示させる表示制御手段」を備える点で一致する。 (カ) よって、本願発明1と引用発明Aは、「MRI装置によって被検体の左右の乳房を含む3次元空間を撮像して得られた3次元画像データから、前記左右の乳房それぞれの2次元画像を生成する生成手段と、前記2次元画像を表示部に表示させる表示制御手段とを備え」る点で一致する。 イ(ア) 引用発明Aにおいて、「乳房専用コイルの上方に設けられた、乳房を挿入する開口を備えた寝台」は、本願発明1の「被検体を載置するための寝台」に相当する。 (イ) 引用発明Aにおける「乳房専用コイル」が、乳房からの核磁気共鳴信号を検出するものであることは明らかであるから、引用発明Aにおける「乳房専用コイル」は、本願発明1の「被検体からの磁気共鳴信号を受信」する「受信RFコイル」に相当し、また、引用発明Aにおいて、「乳房を挿入する開口」と「乳房専用コイル」との位置が固定されていることは明らかであるから、「乳房専用コイル」は「乳房を挿入する開口を備えた寝台」に設けられたものと認められる。 (ウ) 引用発明Aにおける「乳房MRIボクセルデータ作成装置」は、「乳房MRI装置によって乳房の全体は多くの断層像(スライス画像)として撮像され」た「画像データ」から、「三次元データであるボクセルデータを作成する」ものであるから、3次元画像データを再構成する再構成手段を備えていることは、当業者にとって明らかである。 (エ) よって、本願発明1と引用発明Aは、「前記被検体を載置するための寝台と、前記被検体からの磁気共鳴信号を受信し、前記寝台に設けられる受信RFコイルと、前記受信RFコイルによって受信された磁気共鳴信号に基づいて前記3次元画像データを再構成する再構成手段とを更に備え」る点で一致する。 ウ 引用発明Aの「乳房画像診断システム」が「画像処理」を行うことは明らかである。 よって、本願発明1と引用発明Aは、「画像処理装置」の発明である点で一致する。 エ 以上のことから、本願発明1と引用発明Aは、以下の点で一致する。 「 MRI装置によって被検体の左右の乳房を含む3次元空間を撮像して得られた3次元画像データから、前記左右の乳房それぞれの2次元画像を生成する生成手段と、 前記2次元画像を表示部に表示させる表示制御手段と を備え、 前記被検体を載置するための寝台と、 前記被検体からの磁気共鳴信号を受信し、前記寝台に設けられる受信RFコイルと、 前記受信RFコイルによって受信された磁気共鳴信号に基づいて前記3次元画像データを再構成する再構成手段とを更に備える 画像処理装置。」 そして、両者は以下の点で相違する。 <相違点> 生成手段が、本願発明1では、生成した各2次元画像における胸壁部分が互いに向き合うように配置することで前記左右の乳房を対称に配置した対比用2次元画像を生成するものであり、寝台又は受信RFコイルの位置に基づいて、前記胸壁の位置を認識するのに対して、引用発明Aでは、そのように配置した対比用2次元画像を生成していない点。 (2) 判断 上記の相違点について、以下に検討する。 本願の優先日前に頒布された国際公開第2008/035444号(上記引用文献1に相当する。)の段落【0007】には、背景技術の説明として、「すでに実用化もなされていることであるが、X線マンモグラフィによる画像診断において右側と左側の乳房の各画像(透過像)を「背中合わせ」にして、すなわち乳房基底部側を互いに付き合わせて左右対称に隣接して表示する技術に関して開示されている。」との記載がある。 また、本願の優先日前に頒布された特開2000-287957号公報の段落【0071】、【0108】、【0111】、図3、図5の記載、同特開2006-43187号公報の段落【0003】、【0028】、図6の記載、同特開2006-55419号公報の段落【0003】、【0018】、図6の記載を参照すると、医師による比較読影を容易とするために、左右の乳房画像を並べて表示することが周知の技術である旨が記載されており、また、乳房画像を生成するためのモダリティとしてMRIが示唆されている。 したがって、前記生成手段が、左右の乳房それぞれの画像を生成し、生成した各断層像における胸壁部分が互いに向き合うように配置することは、本願優先日前周知の事項であり、また、乳房画像を生成するためのモダリティとしてMRIが示唆されている以上、引用発明Aに、医師等による比較読影を容易とするという動機付けのもと、上記周知の事項を採用し、左右の乳房を対称に配置した対比用2次元画像を生成することは、当業者が容易に想到し得る程度のことといえる。 しかしながら、上記対比用2次元画像の生成にあたって、「寝台又は受信RFコイルの位置に基づいて」胸部の位置を認識する点については、本願優先日前周知の事項を示すために提示した何れの文献にも記載されていない。 そして、上記の点が、当業者であれば、適宜なし得る設計的事項であることを示す客観的根拠も見出せない。 したがって、上記相違点に係る構成は、引用発明Aに基づいて、当業者が容易に想到しうるものとはいえない。 (3) 小括 よって、本願発明1は、引用発明A、及び、本願優先日前周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえなくなった。 3 請求項2ないし9について 本願の請求項2ないし9に係る発明は、本願発明1の発明特定事項をすべて含み、本願発明1をさらに限定したものであるので、本願発明1と同様に、当業者が引用発明A、及び、本願優先日前周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえなくなった。 4 請求項10について 請求項10に係る発明は、「画像処理装置」の発明である請求項1に係る発明のカテゴリーを「画像処理プログラム」に変更したものに過ぎない。 したがって、請求項10に係る発明は、請求項1に係る発明と同様の理由により、引用発明A、及び、本願優先日前周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえなくなった。 5 小括 以上のとおり、本願の請求項1ないし10に係る発明は、当業者が引用発明A、及び、本願優先日前周知の事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえなくなったから、もはや、当審の拒絶理由によっては本願を拒絶することはできない。 第6 むすび 以上のとおり、原査定の理由、及び、当審の拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2016-08-08 |
出願番号 | 特願2011-69151(P2011-69151) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(A61B)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 宮澤 浩 |
特許庁審判長 |
郡山 順 |
特許庁審判官 |
▲高▼橋 祐介 渡戸 正義 |
発明の名称 | 画像処理装置及び画像処理装置の制御プログラム |
代理人 | 特許業務法人酒井国際特許事務所 |