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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1317762
審判番号 不服2015-8578  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-05-08 
確定日 2016-08-23 
事件の表示 特願2011- 22406「光学フィルムの製造方法、偏光板及び画像表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 8月30日出願公開、特開2012-163652、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年2月4日の出願であって、平成26年7月7日付けで拒絶の理由が通知され、同年9月5日付けで意見書が提出され、平成27年2月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年5月8日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされ、その後、当審において平成28年5月11日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年6月9日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1-3に係る発明は、平成28年6月9日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-3に記載された事項により特定されるものと認められる。
そのうち、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。
「【請求項1】
熱可塑性樹脂からなるフィルムを、フィルムの長手方向に対して斜交する方向に該フィルムを延伸させることにより作製された平面の斜め延伸フィルム上に活性線硬化型樹脂を含有するハードコート層を有し、該ハードコート層が長手方向に周期を持たない不規則な突起形状を有し、かつ当該ハードコート層が微粒子及び前記活性線硬化型樹脂に対し非相溶性である樹脂を実質的に含有しない光学フィルムを製造する光学フィルムの製造方法であって、
前記25℃における粘度が600?3000mPa・sの範囲内にある活性線硬化型樹脂を含有するハードコート層を、少なくとも塗布工程、乾燥工程及び硬化工程を経由して形成し、かつ該乾燥工程における減率乾燥区間の温度を105?160℃の範囲内に維持した条件下で乾燥することを特徴とする光学フィルムの製造方法。」

第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
(1)新規性について
本願の願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項(以下、「当初請求項」という。)1及び2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。



引用例1:国際公開第2007/097454号

引用例1に記載された光学フィルムと、当初請求項1及び2に係る光学フィルムとでは、相違する点がなく、同一である。

(2)進歩性について
当初請求項1-10に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



引用例1:国際公開第2007/097454号
引用例2:特開2008-83307号公報
引用例3:特開2006-8944号公報
引用例4:特開2004-109258号公報
引用例5:特開2006-231845号公報

引用例1に記載された発明に基づいて、当初請求項1及び2に係る発明を導きだすことは、当業者が容易に想到し得たことである。
引用例2に記載された光学フィルムのクリアハードコート層として引用例3のハードコート層用組成物を採用し、ハードコート層の乾燥工程における乾燥温度として引用例3に記載された乾燥温度を採用することで、当初請求項1ないし8に係る発明を導きだすことは、当業者が容易に想到し得たことである。
画像表示装置として、立体画像表示装置及びタッチパネルを選択することは、それぞれ引用例4及び引用例5に記載されており、引用例2ないし4に基づいて当初請求項9に係る発明を、及び引用例2、3及び5に基づいて当初請求項10に係る発明を導きだすことは、当業者が容易に想到し得たことである。


2 原査定の理由の判断
(1)刊行物の記載事項
ア 引用例1について
引用例1には、次の事項が図とともに記載されている。
(ア)「[0006]本発明者らは、前記課題を解決すべく検討した結果、フィルム基材の少なくとも一方の表面に薄膜を形成して積層体を得、次いで該積層体を面内の少なくとも一つの軸方向に収縮させることによって、表面に微細凹凸形状を有するフィルムを容易に大面積で得ることができ、しかも、凸部頂点間の距離、アスペクト比およびその分布度合いを自在に制御できることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。」
(イ)「[0015](フィルム基材)
本発明の製造方法に用いるフィルム基材は、薄膜を積層させた後に、面内の少なくとも一つの軸方向に収縮させることができるものであれば特に限定されない。例えば、フィルム基材自身が加熱などの手段によって収縮するものであってもよいし、一軸延伸させたときに延伸方向に直交する方向が収縮するものであってもよい。
[0016]フィルム基材の収縮前の平均厚さは、ハンドリングの観点から通常5μm?1mm、好ましくは20?200μmである。
[0017]フィルム基材は、通常、樹脂や、ゴム若しくはエラストマーで形成されている。
樹脂としては、スチレン系樹脂、アクリル樹脂、メタクリル系樹脂、有機酸ビニルエステル系樹脂、ビニルエーテル系樹脂、ハロゲン含有樹脂、オレフィン系樹脂、脂環式オレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂、ポリスルホン系樹脂(例えば、ポリエーテルスルホン、ポリスルホンなど)、ポリフェニレンエーテル系樹脂(例えば、2,6-キシレノールの重合体など)、セルロース誘導体(例えば、セルロースエステル類、セルロースカーバメート類、セルロースエーテル類など)、シリコーン樹脂(例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサンなど)などが挙げられる。
[0018]なお、脂環式オレフィン樹脂としては、特開平05-310845号公報や米国特許第5179171号公報に記載されている環状オレフィンランダム共重合体、特開平05-97978号公報や米国特許第5202388号公報に記載されている水素添加重合体、特開平11-124429号公報や国際公開99/20676号公報に記載されている熱可塑性ジシクロペンタジエン系開環重合体及びその水素添加物等が挙げられる。
[0019]またゴム/エラストマーとしては、ポリブタジエン、ポリイソプレンなどのジエン系ゴム、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴムなどが挙げられる。
フィルム基材の材料は、これらのうち、製造が容易な点から熱可塑性樹脂が好ましい。
[0020]フィルム基材を構成する熱可塑性樹脂は、特に限定されないが、加工の容易さの観点からガラス転移温度が60?200℃であるものが好ましく、100?180℃であるものがより好ましい。なお、ガラス転移温度は示差走査熱量分析(DSC)により測定することができる。
[0021]また、フィルム基材を構成する熱可塑性樹脂は、ポリスチレン換算の重量平均分子量が、好ましくは5,000?500,000、より好ましくは8,000?200,000、特に好ましくは10,000?100,000である。重量平均分子量がこの範囲にあることにより成形加工性が良好となり、機械的強度を向上させることができる。この重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより測定することができる。

・・・略・・・

[0025]加熱などの手段によってそれ自身が収縮するフィルム基材は、例えば、前述の樹脂等を公知の成形法で原反フィルムに形成し、該原反フィルムを延伸することによって得ることができる。また、延伸処理の代わりに、磁場や電場を掛けて又はラビング処理して分子を配向させ収縮性を示すフィルム基材とすることができる。ゴム又はエラストマーを公知の成形法で弾性フィルムに形成し、該弾性フィルムを面内方向に引っ張った状態にすることで、弾性による復元力を利用した収縮性を示すフィルム基材とすることができる。さらに硬化性樹脂からなるフィルムをあらかじめ溶剤等で膨潤させ、該膨潤フィルムが乾燥する時に生じる収縮を利用して本発明に用いるフィルム基材とすることができる。これらのうち、原反フィルムを延伸することによって得られる収縮性を示すフィルム基材が好ましい。
[0026]原反フィルムを延伸することによって得られる収縮性を示すフィルム基材は、その延伸方法によって特に制限されず、一軸延伸法、二軸延伸法のいずれで延伸したものであってもよい。二軸延伸の場合は、通常、フィルム面内の二つの方向に収縮することになる。
延伸処理する方法としては、ロール側の周速の差を利用して縦方向に一軸延伸する方法;テンター延伸機を用いて横方向に一軸延伸する方法等の一軸延伸法;固定するクリップの間隔を開いての縦方向の延伸と同時に、ガイドレールの広がり角度により横方向に延伸する同時二軸延伸法や、ロール間の周速の差を利用して縦方向に延伸した後、その両端部をクリップ把持してテンター延伸機を用いて横方向に延伸する逐次二軸延伸法などの二軸延伸法;横又は縦方向に左右異なる速度の送り力若しくは引張り力又は引取り力を付加できるようにしたテンター延伸機を用いてフィルムの幅方向に対して任意の角度θの方向に連続的に斜め延伸する方法;などが挙げられる。」
(ウ)「[0031](薄膜)
次に、フィルム基材の少なくとも一方の表面に薄膜を形成する。薄膜の収縮率は、フィルム基材を収縮させる条件下において、フィルム基材の収縮率の20%以下であることが好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。薄膜の収縮率が大きすぎると微細な凹凸形状が形成しない場合がある。[0032]薄膜の収縮前の平均厚さは、1nm?50μmであることが好ましい。薄膜の厚さは、透過電子顕微鏡にて、薄膜の垂直断面を写真撮影し、該写真像から厚さの平均値を求める。
[0033]薄膜としては、無機薄膜及び有機薄膜がある。
本発明に用いる無機薄膜は無機物質からなるものである。薄膜を構成する無機物質としては、金属;金属酸化物や金属窒化物などの金属化合物;非金属;非金属酸化物などの非金属化合物などが挙げられ、具体的には、アルミニウム、珪素、マグネシウム、パラジウム、白金、亜鉛、錫、ニッケル、銀、銅、金、アンチモン、イットリウム、インジウム、ステンレス鋼、クロム、チタン、タンタル、ジルコニウム、ニオブ、ランタン、セリウム、等の金属若しくは非金属;またはこれらの酸化物や窒化物;又はそれらの混合物が挙げられる。本発明の製造方法で得られるフィルムを光学素子として使用する場合には、可視光を透過する無機物質を選択することが好ましく、その具体的な例としてITO、In_(2)O_(3)、SnO_(2)、SiO_(2)、CuI、TiO_(2)、ZrO_(2)等が挙げられる。これらのうち、薄膜の柔軟性という観点からSiO_(2)が好ましい。
[0034]無機薄膜の平均厚さは、1nm?500nmであることが好ましい。1nmより薄すぎると凹凸形状が形成しづらくなり、500nmより厚すぎると収縮時に無機薄膜層にクラックが発生しやすくなる。無機薄膜を用いると、凸部頂点間の平均距離が50nm?1000nmの微細な凹凸形状が容易に得られる。
[0035]無機薄膜を形成する方法は、特に制限されず、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング、CVD(化学蒸着)等の蒸着法;スピンコート法、ディッピング法、ロールコート法、スプレー法、ベーパー法、グラビアコータやブレードコータなどのコータ法、スクリーン印刷法、インクジェット法等の塗布法;無電解めっき法、電解めっき法などが挙げられる。
[0036]本発明に用いる有機薄膜は、収縮によって薄膜が褶曲構造をとるものであれば特に制限されない。
有機薄膜は、フィルム基材を収縮させる温度条件下での収縮率が、フィルム基材の収縮率より小さいものであることが好ましい。
有機薄膜の平均厚さは、100nm?50μmであることが好ましい。100nmより薄すぎると凹凸形状が形成しづらくなり、50μmより厚すぎるとアスペクト比の制御が難しくなる。有機薄膜を用いると、凸部頂点間の平均距離が500nm?50μmの微細な凹凸形状が容易に得られる。
[0037]有機薄膜としては熱可塑性樹脂からなるものと、硬化性樹脂からなるものとが挙げられる。
[0038]熱可塑性樹脂としては、前記フィルム基材に用いることができるものとして例示したものと同様のものを挙げることができる。また、薄膜には、前記フィルム基材に用いる樹脂同様に配合剤を含んでいてもよい。
[0039]熱可塑性樹脂からなる有機薄膜の形成方法としては、(1)フィルム基材を構成する樹脂と、薄膜を構成する樹脂とを共押出する方法;(2)熱可塑性樹脂を薄膜に成形し、これをフィルム基材に貼り合わせる方法;(3)フィルム基材の表面に熱可塑性樹脂を含有する溶液を塗布し乾燥する方法等が挙げられる。
[0040]本発明においては、前記フィルム基材が熱可塑性樹脂1からなるものであり、前記有機薄膜が熱可塑性樹脂2からなるものであり、熱可塑性樹脂2のガラス転移温度が、熱可塑性樹脂1のガラス転移温度よりも20℃以上高いことが好ましい。なお、ガラス転移温度は示差走査熱量分析(DSC)により測定することができる。
[0041]硬化性樹脂としては、熱硬化性のものと、エネルギー線硬化性のものとがある。なお、エネルギー線とは、可視光線、紫外線、電子線、などのことをいう。
[0042]熱硬化性樹脂の具体例としては、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノアルキッド樹脂、メラミン-尿素共縮合樹脂、珪素樹脂、ポリシロキサン樹脂等が挙げられる。
[0043]エネルギー線硬化型樹脂としては特に限定されないが、例えば、ラジカル重合性不飽和基(例えば、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、ビニルオキシ基、スチリル基、ビニル基等)及び/又はカチオン重合性基(エポキシ基、チオエポキシ基、ビニルオキシ基、オキセタニル基等)の官能基を有する樹脂で、具体的には、比較的低分子量のポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹 脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂等が挙げられる。」
(エ)「[0052]本発明の製造方法は、このように収縮条件を変更するだけで、凸部頂点間距離、アスペクト比等を任意に調整できるので各種光学フィルムの製造に好適である。またグリッド偏光子等で要求される面内でストライプ状に細長く伸びた構造も本発明の製造方法によって容易に製造できる。
[0053]微細な凹凸形状は、ランダムに配置されていてもよいし、規則的に配置されていてもよいが、凸部の頂点間の距離の変動係数が40%以下であることが、回折機能や集光機能や偏光機能を付与した光学素子として用いるのに好適である。なお、変動係数は、凸部の頂点間の距離の平均値に対する標準偏差の割合(=標準偏差/平均値×100)である。」
(オ)「[0068] 本発明のフィルムは、光学素子、特に光拡散素子に適用するために、ヘイズが50%以上であることが好ましい。なお、ヘイズは、JIS K7361に基づき、濁度計(日本電色製 NDH2000型)を用いて測定する。」
(カ)「[0079](製造例3)硬化性樹脂薄膜用溶液の製造
6官能ウレタンアクリレートオリゴマー(商品名:NKオリゴ U-6HA、新中村化学社製) 30重量部、ブチルアクリレート 40重量部、イソボルニルメタクリレート(商品名:NKエステル1B、新中村化学社製) 30重量部、および2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン 10重量部をホモジナイザーで混合し、次いでトルエンで濃度20重量%に希釈して、紫外線硬化性樹脂溶液を調製した。
この紫外線硬化性樹脂溶液を支持フィルムにバーコーターで塗布し、80℃で5分間乾燥させ、次いで紫外線を照射(積算光量300mJ/cm^(2))し、樹脂を硬化させ薄膜を得た。製造例2と同様に薄膜の収縮率を計測したところ、収縮率は1.4%であった。」
(キ)「[0088](実施例4)
フィルム基材1B上に、製造例3で得られた溶液を塗布し、80℃で5分間乾燥し、次いで紫外線を照射して樹脂を硬化させ薄膜を形成し積層フィルムを得た。硬化後の薄膜の平均厚さは2.4μmであった。第二層の平均厚さは凹凸形状の平均高さの50.1%であった。
次に積層フィルムを温度140℃の温風を循環させた温風乾燥機を通過させて、主たる収縮方向の収縮率ΔL=36%、主たる収縮方向に直交する方向の収縮率ΔM=20%で収縮させた。 」
(ク)「[図4]


(ケ)「[図5]


(コ)実施例4(上記(キ))は、上記(ア)ないし(オ)に記載された事項を前提にするものであるから、上記(ア)ないし(ケ)から、引用例1には次の発明(以下、「引用発明1」という。なお、段落番号はそのまま併記する。)が記載されているものと認められる。
「[0006]フィルム基材の少なくとも一方の表面に薄膜を形成して積層体を得、次いで該積層体を面内の少なくとも一つの軸方向に収縮させることによって、得られる表面に微細凹凸形状を有するフィルムであって、
[0019]フィルム基材は、熱可塑性樹脂で構成され、[0025]前記熱可塑性樹脂を原反フィルムに形成し、該原反フィルムを延伸することによって得、
[0026]該原反フィルムを延伸処理する方法は、横又は縦方向に左右異なる速度の送り力若しくは引張り力又は引取り力を付加できるようにしたテンター延伸機を用いてフィルムの幅方向に対して任意の角度θの方向に連続的に斜め延伸する方法であり、
[0033]フィルム基材の少なくとも一方の表面に形成された薄膜は、有機薄膜であり、
[0037]有機薄膜は、硬化性樹脂からなるものであり、
[0041]硬化性樹脂は、エネルギー線硬化性のものであり、
[0088]エネルギー線硬化性の硬化性樹脂を基材上に塗布し、80℃で5分間乾燥し、次いで紫外線を照射して樹脂を硬化させて薄膜を形成し、
[0053]微細な凹凸形状は、ランダムに配置されている、
[0068]光学素子、特に光拡散素子に適用される、
光学フィルム。」

イ 引用例2について
引用例2には、次の事項が図とともに記載されている。
(ア)「【請求項1】
偏光子の少なくとも一方の面に偏光板保護フィルムとしてセルロース樹脂を含有しかつ表面にハードコート層を有するλ/4板を有する偏光板であって、該セルロース樹脂がセルロースエステルのアセチル基置換度をX、プロピオニル基置換度をYとした時に、下記式(1)及び式(2)を満たすセルロースエステルであることを特徴とする偏光板。
式(1) 2.3≦X+Y≦2.8
式(2) 0.0<Y≦2.8
【請求項2】
前記ハードコート層がクリアハードコート層または防眩性ハードコート層のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の偏光板。
【請求項3】
前記ハードコート層の表面に少なくとも低屈折率層を有する反射防止層を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の偏光板。

・・・略・・・

【請求項5】
請求項1?4のいずれか1項に記載の偏光板を液晶セルに対して視認側に貼合したことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項6】
請求項1?4のいずれか1項に記載の偏光板に用いられるλ/4板または偏光子が延伸フィルムであり、かつ該λ/4板または偏光子のいずれかを、フィルム延伸工程でフィルム搬送方向に対して45°方向に延伸することを特徴とする偏光板の製造方法。」
(イ)「【0305】
また、本発明ではλ/4板または偏光子のいずれかを、延伸工程でフィルム搬送方向に対して45°方向に延伸することも好ましい。
【0306】
これは、ロール状のポリマーフィルムからなるλ/4板の長手方向と面内の遅相軸との角度が実質的に45゜であると、長手方向と透過軸とが実質的に平行であるロール状の偏光子とλ/4板とをロールtoロールで積層するだけで、ロール状の円偏光板を製造することができる。同様に、ロール状のポリマーフィルムからなる偏光子の長手方向と吸収軸との角度が実質的に45゜であると、長手方向と透過軸とが実質的に平行であるロール状のλ/4板とをロールtoロールで積層するだけで、ロール状の円偏光板を製造することができる。
【0307】
例えば、長手方向と面内の遅相軸との角度が実質的に45゜であるλ/4板は、ロール状のセルロースエステルフィルムを、長手方向に対して実質的に45゜の方向に延伸処理することにより製造することができる。」
(ウ)「【0322】
〔ハードコート層〕
本発明のλ/4板上には、ハードコート層が設けられており、該ハードコート層はクリアハードコート層または防眩性ハードコート層のいずれかであることが好ましい。
【0323】
本発明に用いられるハードコート層は、少なくともλ/4板の一方の面に設けられる。本発明においては、前記ハードコート層上に、少なくとも低屈折率層を含む反射防止層が設けられることが好ましい。特に、車載カーナビゲーション用の場合では、より視認性を向上させる為に、防眩性ハードコート層の上に反射防止層が設けられることが好ましい。
【0324】
本発明に用いられるハードコート層が防眩性である場合は、表面に微細な凹凸形状を有するが、該微細凹凸形状は、ハードコート層に微粒子を含有させることで形成し、下記のような平均粒径0.01μm?4μmの微粒子をハードコート層中に含有させることで形成出来る。また、後述するように、該防眩性ハードコート層上に設けられた反射防止層の最表面の表面粗さとして、JIS B 0601で規定される中心線平均粗さ(Ra)が0.08μm?0.5μmの範囲に調整されることが好ましい。
【0325】
クリアハードコート層の場合は、JIS B 0601で規定される中心線平均粗さ(Ra)が0.001?0.1μmのクリアクリアハードコート層であり、Raが0.002?0.05μmであることが好ましい。中心線平均粗さ(Ra)は光干渉式の表面粗さ測定器で測定することが好ましく、例えばWYKO社製非接触表面微細形状計測装置WYKO NT-2000を用いて測定することができる。」

(エ)「【0337】
(活性エネルギー線硬化樹脂)
本発明に用いられるハードコート層は、紫外線等活性エネルギー線照射により硬化するを含有する。」
(オ)「【0556】
次いで、上記λ/4板101?111の一方の面上に下記ハードコート層を設け、λ/4板101hc?111hcを作製した。
【0557】
《ハードコート層の塗布》
下記ハードコート層塗布液を塗布幅1.4mでダイコートし、80℃で乾燥した後、120mJ/cm^(2)の紫外線を高圧水銀灯で照射して硬化後の膜厚が6μmになるようにクリアハードコート層を設けた。
【0558】
(ハードコート層用塗布液)
アセトン 45質量部
酢酸エチル 45質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテル 10質量部
ペンタエリスリトールトリアクリレート 30質量部
ペンタエリスリトールテトラアクリレート 45質量部
ウレタンアクリレート(商品名U-4HA 新中村化学工業社製) 25質量部
1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン (イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製) 5質量部
2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モノフォリノ-1-オン (イルガキュア907、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製) 3質量部
BYK-331(シリコーン界面活性剤、ビックケミー・ジャパン(株)製) 0.5質量部
《偏光板の作製》
次いで、各λ/4板101hc?111hc及び比較のλ/4板112を用いて偏光板を作製した。」
(カ)引用例2には、「本発明のλ/4板上には、ハードコート層が設けられており、該ハードコート層はクリアハードコート層または防眩性ハードコート層のいずれかであることが好ましい。」(段落【0322】)と記載されている。
(キ)上記(カ)に示した引用例2に記載の前記「防眩性ハードコート層」について、引用例2には「本発明に用いられるハードコート層が防眩性である場合は、表面に微細な凹凸形状を有するが、該微細凹凸形状は、ハードコート層に微粒子を含有させることで形成」(段落【0324】)すると記載されているところ、本願発明の「ハードコート層」は、「微粒子・・・略・・・を実質的に含有しない」ものであるので、本願発明と対比すべき引用例2に記載された発明は、ハードコート層に微粒子を含有しない、前記「クリアハードコート層」を有する発明である。
(ク)そして、上記(カ)及び(キ)で示した引用例2に記載の前記「クリアハードコート層」については、上記(オ)(段落【0556】ないし【0558】)に、具体的な製造方法が記載されている。
(ケ)したがって、上記(ア)ないし(ケ)から、引用例2には次の発明(以下、「引用発明2」という。なお、段落番号はそのまま併記する。)が記載されているものと認められる。
「【請求項1】偏光子の少なくとも一方の面に偏光板保護フィルムとしてセルロース樹脂を含有しかつ表面にハードコート層を有するλ/4板を有する偏光板の、
【請求項2】前記ハードコート層がクリアハードコート層であり、
【請求項6】λ/4板が延伸フィルムであり、かつ該λ/4板を、フィルム延伸工程でフィルム搬送方向に対して45°方向に延伸することを特徴とする偏光板の製造方法であって、
【0557】クリアハードコート層の形成の際に、下記ハードコート層塗布液を塗布幅1.4mでダイコートし、80℃で乾燥した後、120mJ/cm^(2)の紫外線を高圧水銀灯で照射して硬化後の膜厚が6μmになるようにクリアハードコート層を設けた偏光板の製造方法。
【0558】
(ハードコート層用塗布液)
アセトン 45質量部
酢酸エチル 45質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテル 10質量部
ペンタエリスリトールトリアクリレート 30質量部
ペンタエリスリトールテトラアクリレート 45質量部
ウレタンアクリレート(商品名U-4HA 新中村化学工業社製) 25質量部
1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン (イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製) 5質量部
2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モノフォリノ-1-オン (イルガキュア907、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製) 3質量部
BYK-331(シリコーン界面活性剤、ビックケミー・ジャパン(株)製) 0.5質量部


ウ 引用例3について
引用例3には、次の事項が図とともに記載されている。
(ア)「【請求項10】
請求項1?9のいずれかに記載の光学用セルロースアシレートフィルムを少なくとも1枚、偏光子の保護膜として用いた偏光板。

・・・略・・・

【請求項14】
請求項10?13のいずれかに記載の偏光板の他方側保護膜の表面にハードコート層、防眩層、反射防止層の少なくとも一層を設けた偏光板。」
(イ)「【0126】(流延)
上述のドープをバンド流延機を用いて流延した。残留溶剤量が25から35質量%でバンドから剥ぎ取ったフィルムを、テンターを用いて15%?23%の延伸率(表2)で幅方向に延伸して、セルロースアシレートフィルムを製造した。テンターでは熱風を当てて乾燥をしながら、幅方向に延伸した後、約5%収縮させ、その後テンター搬送からロール搬送に移行し、更に乾燥し、ナーリングし巻き取った。延伸率はテンター入口のフィルム幅とテンター出口のフィルム幅から算出した値を表2に示してある。
作製したセルロースアシレートフィルム(光学補償シート)について、エリプソメーター(M-150、日本分光(株)製)を用いて、25℃60%RHで波長630nmにおけるReレターデーション値(Re[60])およびRthレターデーション値(Rth[60])を測定した。また、フィルムを25℃10%RH、25℃80%RHに2時間以上調湿して2枚のガラス板間にシリコーンを介してサンプルフィルムを挟み込み密閉した状態でReレターデーション値およびRthレターデーション値を測定した。このときの80%RHから10%RHへのセルロースアシレートフィルムのレターデーションRe、Rthの変化量(|Re[10]-Re[80]|、|Rth[10]-Rth[80]|)をそれぞれΔRe、ΔRthとして表2に示す。」
(ウ)「【0137】<2-4-1>
(ハードコート層用塗布液の調製)
トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA、日本化薬(株)製)750.0質量部に、質量平均分子量3000のポリ(グリシジルメタクリレート)270.0質量部、メチルエチルケトン730.0g、シクロヘキサノン500.0g及び光重合開始剤(イルガキュア184、日本チバガイギー(株)製)50.0gを添加して攪拌した。孔径0.4μmのポリプロピレン製フィルターで濾過してハードコート層用の塗布液を調製した。」
(エ)「【0144】<2-4-6>
(反射防止層付透明保護膜02の作製)
膜厚80μmのトリアセチルセルロースフィルム(フジタックTD80UF、富士写真フイルム(株)製)上に、ハードコート層用塗布液をグラビアコーターを用いて塗布した。100℃で乾燥した後、酸素濃度が1.0体積%以下の雰囲気になるように窒素パージしながら160W/cmの空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて、照度400mW/cm2 、照射量300mJ/cm2の紫外線を照射して塗布層を硬化させ、厚さ8μmのハードコート層を形成した。
ハードコート層の上に、中屈折率層用塗布液、高屈折率層用塗布液、低屈折率層用塗布液を3つの塗布ステーションを有するグラビアコーターを用いて連続して塗布した。

・・・略・・・

【0148】[実施例3]
(パネルへの実装)
【0149】[実施例3-1]
(VAパネルへの実装)(1枚型)
図3の液晶表示装置を作製した。即ち、観察方向(上)から上側偏光板(TAC2-1(機能性膜有り/なし)、偏光子、TAC1-1)、VAモード液晶セル、下側偏光板(TAC1-2、偏光子、TAC2-2)を積層し、さらにバックライト光源を配置した。以下の例では、上側偏光板に市販品の偏光板(HLC2-5618)を用いて、下側偏光板に光学補償フィルムと一体型になった偏光板を使用しているが、これが逆であっても機能的には何ら問題がない。ただし、一体型偏光板としては、下側偏光板として使用する場合が高い(上側偏光板として使用すると機能性膜を観察側(上側)に設ける必要性があり生産得率が下がる可能性があるため)と考えられ、より好ましい実施形態であると考えられる。」

エ 引用例4について
引用例4には、次の事項が図とともに記載されている。
(ア)「【請求項1】透明な支持体上に位相差フィルムが積層されるとともに、当該位相差フィルムが所定の間隔で帯状に切削除去されてなる立体映像表示部材において、
上記支持体は、有機無機ナノコンポジット基板からなることを特徴とする立体映像表示部材。

・・・略・・・

【請求項5】上記紫外線硬化樹脂組成物の表面にハードコート層が形成されていることを特徴とする請求項3記載の立体映像表示部材。」
(イ)「【0027】
本実施形態の立体映像表示部材は、例えばノート型コンピュータの液晶パネルに取り付けて使用され、極めて簡単な構造で立体映像の表示を可能とするものである。図1は、本発明の立体映像表示部材(分割波長板フィルター)1のノート型コンピュータ2の液晶パネル部3への装着状態を示すものである。
【0028】
ノート型コンピュータ2は、折りたたみ構造の液晶パネル部3を有しており、この液晶パネル部3から視差を含む映像を表示することができる。液晶パネル部3自体は、通常のノート型コンピュータの液晶パネル部と同様のものでよく、立体映像を表示するためのアプリケーションが開いていない場合は、通常の画像(動画並びに静止画)を表示することが可能である。」
(ウ)「【0064】
上記により切削溝24を紫外線硬化樹脂25で埋め込んだ後、紫外線硬化樹脂25上にハードコート層を形成することも可能である。ガラス転移温度の低いモノマーを配合した紫外線硬化樹脂組成物を用いた場合、紫外線硬化樹脂25が柔軟性を有することになる。上記ハードコート層の形成は、表面硬度や表面平滑性を確保する上で有効である。
【0065】
例えば、オリゴマー20重量部、水添ジシクロペンタジエニルジアクリレート80重量部、ラジカル系光重合開始剤(商品名イルガキュア184)5重量部、安定剤(商品名イルガノックス505)0.5重量部なる配合とし、照度100mW/cm^(2)、積算光量700mJ/cm^(2)なる硬化条件で硬化したところ、紫外線硬化樹脂25上に良好なハードコート層が形成された。」

オ 引用例5について
引用例5には、次の事項が図とともに記載されている。
(ア)「【請求項1】基材フィルムの少なくとも片面に、平滑度指数が0.01以上、0.07以下であり、表面エネルギーが、40mJ/m^(2)以上、50mJ/m^(2)以下であるハードコート層が積層されたことを特徴とするハードコートフィルム。
【請求項2】ハードコート層が重量平均分子量1000以上、5000以下、絶対粘度100mPa・s/25℃以上、3000mPa・s/25℃以下のアクリルポリマーを含有することを特徴とする請求項1に記載のハードコートフィルム。
【請求項3】ハードコート層の鉛筆硬度が2H以上、かつスチールウール硬度が2kg/cm^(2)以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のハードコートフィルム。
【請求項4】該ハードコート層が活性線硬化型または熱硬化型アクリレート硬化物を含有することを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載のハードコートフィルム。」
(イ)「【0092】本発明のハードコートフィルムは平滑性に優れ、表面自由エネルギーが特定範囲にあるので光学用、特にCSR、液晶、プラズマ、リアプロダクション、SEDなどの平面型テレビの反射防止フィルム基材、タッチパネル用基材などに好適に使用できるものである。」


(2)対比及び判断
ア 本願発明と引用発明1との対比及び判断
本願発明と引用発明1とでは、少なくとも以下の点で相違する。

相違点1:
本願発明では、「平面の斜め延伸フィルム上に活性線硬化型樹脂を含有するハードコート層を有し、該ハードコート層が長手方向に周期を持たない不規則な突起形状を有し」た光学フィルムの製造方法であるのに対し、
引用発明1では、「フィルム基材の少なくとも一方の表面に薄膜を形成して積層体を得、次いで該積層体を面内の少なくとも一つの軸方向に収縮させることによって、得られる表面に微細凹凸形状を有する」ように製造するものであって、「平面の斜め延伸フィルム」上に薄膜が形成されているものではない点。

相違点2:
ハードコート層の形成工程において、
本願発明では、「25℃における粘度が600?3000mPa・sの範囲内にある活性線硬化型樹脂を含有するハードコート層を、少なくとも塗布工程、乾燥工程及び硬化工程を経由して形成し、かつ該乾燥工程における減率乾燥区間の温度を105?160℃の範囲内に維持した条件下で乾燥する」ものであるのに対し、
引用発明1では、エネルギー線硬化性の硬化樹脂の25℃における粘度及び減率乾燥区間について明らかでない点。

引用発明1は、上記相違点1及び2において本願発明と相違していることから、本願発明は、引用発明と同一でなく、引用例1に記載された発明ではない。
さらに、引用発明1は、「フィルム基材の少なくとも一方の表面に薄膜を形成して積層体を得、次いで該積層体を面内の少なくとも一つの軸方向に収縮させることによって、得られる表面に微細凹凸形状を有するフィルム」の製造方法であるから、上記相違点1及び2に係る構成が引用例1に記載されていると、当業者が理解することはない。
よって、引用例1に記載された発明に基づいて、本願発明を導きだすことが当業者にとって容易に想到し得たことであるとはいえない。

イ 本願発明と引用発明2との対比
本願発明と引用発明2とでは、少なくとも以下の点で相違する。

相違点3:
ハードコート層の形成工程において、
本願発明では、「25℃における粘度が600?3000mPa・sの範囲内にある活性線硬化型樹脂を含有するハードコート層を、少なくとも塗布工程、乾燥工程及び硬化工程を経由して形成し、かつ該乾燥工程における減率乾燥区間の温度を105?160℃の範囲内に維持した条件下で乾燥する」ものであるのに対し、
引用発明2では、エネルギー線硬化性の硬化樹脂の25℃における粘度及び減率乾燥区間について明らかでない点。

(3)判断
上記(2)イの相違点3について検討する。
ア 引用例3には、ハードコート層用の塗布液に「トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA、日本化薬(株)製)」を含有することが記載されている(上記2(1)ウ)ところ、当該塗布液に含有された化合物が「25℃における粘度が600?3000mPa・sの範囲内」であることについて、記載ないし示唆もなく、技術常識からみても明らかであるとはいえない。
イ さらに、引用例3にはハードコート層の乾燥工程において温度100℃で乾燥することについては記載されているものの、「減率乾燥区間の温度を105?160℃の範囲内に維持した条件下で乾燥する」ことについて、記載ないし示唆はない。
ウ したがって、引用発明2に引用例3の技術事項を適用したとしても、ハードコート層の塗布液が「「25℃における粘度が600?3000mPa・sの範囲内にある活性線硬化型樹脂を含有」しているとはいえず、かつ、乾燥工程の温度は100℃になるのであって、本願発明の「乾燥工程における減率乾燥区間の温度を105?160℃の範囲」外の温度となる。
エ さらに、引用発明2は、乾燥温度が80℃(上記2(1)ア)であることが記載されているのみであって、本願発明のように「減率乾燥区間の温度を高温処理とすることで、ハードコート層の形成時に塗膜樹脂中で対流が生じるため、その結果、ハードコート層表面に不規則な表面粗れが発現しやすい。この結果、前記した算術平均粗さRaに制御しやす」(本願の願書に最初に添付された明細書段落【0061】)いという知見については、特段記載ないし示唆はないので、引用発明2において「乾燥工程における減率乾燥区間の温度を105?160℃の範囲内に維持した条件下で乾燥すること」についての動機づけもない。
オ そして、引用例3ないし5には、本願発明の上記相違点3に係る構成及び上記エで示した知見を導きだす記載ないし示唆はないことから、引用例2ないし5に基づいて、本願発明の上記相違点3に係る構成を導きだすことが、当業者であれば容易に想到し得たことであるとはいえない。

(4)小括
したがって、本願発明は、当業者が引用発明1、引用発明2、引用例3ないし5に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。また、本願の請求項2及び3に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるので、同様に、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
(1)サポート要件について
本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備であり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。



本願明細書の発明の詳細な説明には、活性線硬化型樹脂の25℃における粘度が20mPa・s以上、600mPa・s未満のときに、減率乾燥区間温度を105℃以上、160℃以下とする際に、平成27年5月8日付けで手続補正された請求項1に係る発明の前提である「該ハードコート層が長手方向に周期を持たない不規則な突起形状を有し、かつ当該ハードコート層が微粒子及び前記活性線硬化型樹脂に対し非相溶性である樹脂を実質的に含有しない」という構造を形成することができ、かつ本件出願の発明の効果を奏することができるのか、明確に記載されていないことから、平成27年5月8日付けで手続補正された請求項1及び請求項1の記載を引用する請求項2ないし8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。

(2)明確性について
本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



平成27年5月8日付けで手続補正された請求項4は、「偏光板」という物の発明であるが、「請求項1?3のいずれか1項に記載の光学フィルムの製造方法により製造された光学フィルム」との記載は、製造方法の発明を引用する場合に該当するため、当該請求項にはその物の製造方法が記載されているといえる。
そして、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という)についても何ら記載がなく、当業者にとって不可能・非実際的事情が明らかであるとも言えないので、平成27年5月8日付けで手続補正された請求項4ないし8に係る発明は明確でない。

(3)進歩性について
平成27年5月8日付けで手続補正された請求項4ないし8に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用例に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



引用例A:特開2008-83307号公報
引用例B:特開2006-258880号公報
引用例C:特開2010-117554号公報
引用例D:特開2004-109258号公報
引用例E:特開2010-151910号公報


引用例Aに記載された発明に、引用例B及びCに記載された周知技術を採用して、平成27年5月8日付けで手続補正された請求項4、請求項4の記載を引用する請求項5及び6に係る発明を導きだすことは、当業者が容易に想到し得たことである。
偏光板を有する画像表示装置として、立体画像表示を選択すること、及びタッチパネル付き画像表示装置を選択することは、それぞれ引用例D及び引用例Eに記載されており、引用例AないしEに基づいて、平成27年5月8日付けで手続補正された請求項7及び8に係る発明を導きだすことは、当業者が容易に想到し得たことである。

2 当審拒絶理由の判断
(1)サポート要件について
平成28年6月9日付け手続補正書によって、本願の請求項1は「・・・略・・・25℃における粘度が600?3000mPa・sの範囲内にある活性線硬化型樹脂を含有するハードコート層を、少なくとも塗布工程、乾燥工程及び硬化工程を経由して形成し、かつ該乾燥工程における減率乾燥区間の温度を105?160℃の範囲内に維持した条件下で乾燥する・・・略・・・」と補正された。このことにより、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとなった。
よって、上記1(1)で示した当審拒絶理由は解消した。

(2)明確性について
平成28年6月9日付け手続補正書によって、上記1(2)の当審拒絶理由に対応する請求項4ないし8が削除された。
よって、上記1(2)で示した当審拒絶理由は解消した。

(3)進歩性について
平成28年6月9日付け手続補正書によって、上記1(3)の当審拒絶理由に対応する請求項4ないし8が削除された。
よって、上記1(3)で示した当審拒絶理由は解消した。

(4)小括
そうすると、もはや、当審で通知した拒絶理由によって本願を拒絶することはできない。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-08-09 
出願番号 特願2011-22406(P2011-22406)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (G02B)
P 1 8・ 537- WY (G02B)
P 1 8・ 121- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 川口 聖司  
特許庁審判長 鉄 豊郎
特許庁審判官 渡邉 勇
樋口 信宏
発明の名称 光学フィルムの製造方法、偏光板及び画像表示装置  
代理人 小谷 昌崇  
代理人 小谷 悦司  
代理人 治下 正志  

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