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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04Q
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 H04Q
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H04Q
管理番号 1317817
審判番号 不服2014-26080  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-19 
確定日 2016-09-01 
事件の表示 特願2013-502562「遠隔操作流体分注器」拒絶査定不服審判事件〔平成23年10月 6日国際公開、WO2011/123167、平成25年 6月20日国内公表、特表2013-526122、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年2月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年3月31日 米国)を国際出願日とする出願であって、原審において平成25年12月12日付けで拒絶理由が通知され、平成26年4月17日付けで手続補正がされたが、同年8月12日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、同年12月19日に拒絶査定不服審判が請求され、その後、当審において平成27年12月2日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成28年6月8日付けで手続補正がされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?8に係る発明は、平成28年6月8日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるものと認められる。
本願の請求項8に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「【請求項8】
流体分注器ネットワークの分注器であって、前記流体分注器ネットワークは前記分注器とネットワークを介して通信を行うホストを有し、前記分注器は、
通信ハードウェアと、
前記通信ハードウェアに電気的に通じるように設けられたプロセッサとを含み、
前記プロセッサは、前記ホストから前記通信ハードウェアを介して、所与の接着剤流体のドットサイズを決定させ、前記ドットサイズを分注するためのステッピングモータのステップ数、および、シリンジ内の前記所与の接着剤流体の量の関数として、前記ドットサイズを維持するための後退のステップ数を決定させるソフトウェアアプリケーションプログラムを受信し、
前記プログラムを実行して、前記所与の接着剤流体の前記ドットサイズを提供し、前記ドットサイズを分注するためのステッピングモータのステップ数、および、前記シリンジ内の前記所与の接着剤流体の量の関数として、前記ドットサイズを維持するための後退のステップ数を提供し、前記プログラム中の予め指定されたステップを提供し、
前記プログラム内の前記予め指定されたステップで前記分注器の状態を含む第1のデータを生成し、前記第1のデータを前記ホストにフィードバックし、
前記プログラムに従って前記所与の接着剤流体を分注し、分注された前記所与の接着剤流体の状態を含む第2のデータを生成し、前記第2のデータを前記ネットワークを介して前記ホストにフィードバックする
ことを特徴とする分注器。」

第3 原査定の理由について
1.原審の拒絶理由の概要
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

請求項1?14について
刊行物1:特開2004-185631号公報

刊行物1には、サービス供給装置2から、インターネット等のネットワークを介して、接着剤の塗布機や装着機等の部品実装機の監視・分析、最適化等を行うこと、また、監視するなかで異常が発生した時に、対策のためのフィードバック(NCデータのアップロード等)を行うことや、最適化されたNCデータのアップロード等を行うことが記載されている。
また、引用文献1の段落0046には、サービス供給装置2と部品実装機をネットワーク60を介して直接通信しても良いことが記載されている。
ここで、刊行物1記載の発明を、部品実装ラインにおける周知の実装機の1つである分注器に適用することは、当業者にとって容易である。また、請求項において特定されているステッピングモータのステップ数等は、分注器の制御パラメータとしていずれも各別のものではない。

[原査定の理由の概要]
刊行物1記載の接着剤の塗布機は接着剤をシリンジからエア圧によって押し出す構成を有する分注器であり、ステッピングモータを有する分注器ではない。しかしながら、ステッピングモータによって接着剤を押し出す構成の分注器は、例えば特開平6-48499号公報(特に段落【0002】、【0012】-【0017】参照)、特開2008-290039号公報(特に段落【0011】、【0015】-【0017】参照)などに開示されるよう周知技術であるから、刊行物1記載の発明において、接着剤をエア圧によって押し出す構成の分注器にかえて、接着剤をステッピングモータによって押し出す構成の分注器を採用することは、当業者が適宜なし得ることである。
また、出願人は、請求項14に関して「刊行物1は、分注器がホストと直接に通信する構成を開示も示唆もしておらず、」と主張している。
しかしながら、刊行物1の例えば段落【0046】、【0129】-【0132】等を参照すると、刊行物1には部品実装機がサービス供給装置と直接通信する構成が記載ないし示唆されているといえ、また、段落【0051】には接着剤塗布機が部品実装機の1つである旨が記載されている。
したがって、刊行物1に基いて当業者が容易に想到し得たものである。

当審注:平成28年6月8日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項8は、原審の拒絶理由に記載中の請求項1?14のうちの請求項14に対応する。

2.原査定の理由の判断
(1)刊行物の記載事項
刊行物1(特開2004-185631号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「【技術分野】
【0001】
本発明は、クリーム半田印刷機または接着剤塗布機を用いて実装生産するユーザー側に備えられ、前記クリーム半田印刷機または接着剤塗布機の供給者またはサービス者からのサービスの供給を受けるサービス受給装置、サービス受給方法、前記供給者またはサービス者側に備えられ、実装生産に必要なサービスを供給するサービス供給装置、サービス供給方法に関するものである。また、本発明は、前記サービス受給装置を動作させるためのサービス受給プログラム、および前記サービス供給装置を動作させるためのサービス供給プログラムに関するものである。」(4頁)

ロ.「【0030】
本実施の形態は、 図1に示すような部品実装ライン100と、この部品実装ライン100との情報の送受を行い、この部品実装ライン100を管理する管理装置101と、を備えた部品実装システム120に対するサービスシステムに関するもので、図2に本実施の形態のサービスシステム380の全体システム構成を示している。このサービスシステム380は、部品実装システム120を有する実装機納入先の各工場と納入先企業のサービス受給装置1とをネットワーク3で接続し、このサービス受給装置1と部品実装機供給メーカのサービス供給装置2とをネットワーク60で接続した場合の1つの例を示す。
【0031】
図2において、サービス供給装置2はサービス情報データベース26(以後、サービス情報DBと呼ぶ)を有している。また、納入先企業にあるサービス受給装置1は、ネットワーク60を介して部品実装機供給メーカにあるサービス供給装置2からサービス情報を取り込み、取り込んだサービス情報により、納入先企業の傘下にある工場A,B,C等の各工場の部品実装ライン100a、100b、100cに対して管理装置101を経由してサービスを提供する。」(9頁)

ハ.「【0051】
なお、高速装着機108a、多機能装着機108bは、部品実装機の1種であり、チップ部品を回路基板上に面実装するものであり、マウンタないしはプレイスメント機ともいう。本実施の形態では挙げないが、部品実装機には、回路基板上のリード挿入穴にアキシャル部品またはラジアル部品等の部品のリードを挿入する部品挿入機も含まれる。部品挿入機はインサータとも呼ばれ、ジャンパーワイヤを挿入することもある。また、部品実装ライン100を構成するクリーム半田印刷機105、クリーム半田印刷検査機106、接着剤塗布機107、装着部品検査機109、リフロー装置110、外観検査機111等も広義には部品実装機である。本実施の形態では、特に断わらない限りこれらのクリーム半田印刷機105、クリーム半田印刷検査機106、接着剤塗布機107、装着部品検査機109、リフロー装置110、外観検査機111等も部品実装機に含まれるものとする。」(12頁)

ニ.「【0062】
(4)接着剤の塗布機107
接着剤の塗布機107は、クリーム半田印刷検査機106から一枚ずつ回路基板を受け取り、受け取った回路基板10上に部品を基板に装着するための接着剤を塗布し、接着剤が塗布された回路基板10を高速装着機108aへ供給する。また、接着剤の塗布に関する設備情報等を無線LAN102を介して管理装置101へ出力する。また、接着剤の塗布機107が接着剤を塗布する位置や接着剤を塗布するための諸条件を指示するNCデータ等を、管理装置101から無線LAN102を介してインストール可能である。
【0063】
ここで、接着剤の塗布機107は、接着剤を貯蔵したシリンジと、このシリンジからエア圧で押し出した接着剤を塗布するシリンジにつながった塗布ノズルと、塗布ノズルの下部に回路基板の塗布位置を位置決めするXYテーブルとを備えている。
【0064】
このような接着剤の塗布機107において、品質を維持するためには、接着剤を塗布する諸条件を考慮し、NCデータにより設定する必要がある。例えば、接着剤の種類、温度、粘度、更に塗布する圧力、塗布時間等を適切に制御して、部品を接着するための適量の接着剤を糸引きが発生することなく塗布することが重要である。また、上記諸条件を制御することにより、ノズル詰まりが発生しないようにもしなければならない。」(13?14頁)

ホ.「【0309】
(11)監視・分析サービス
実装WEB画面において、オペレータが入力部24を操作して「分析」のメニューを選択すると、サービス受給装置1は、サービス供給装置2に対して、監視・分析ソフトウェア372による自らの工場の部品実装ライン100で発生したトラブルの原因分析を行うことを要求する。この要求を受けると、サービス供給装置2は、監視・分析ソフトウェアDB330から取出した監視・分析ソフトウェア372を起動させ、要求のあったサービス受給装置1に対して、定期的に、設備情報211、実装タクト情報213、NCデータ220および検査結果情報212のアップロードを行い、トラブルの原因分析を行う。分析の結果で原因が判明すれば、その原因を除去するための対策をサービス受給装置1にフィードバックを行う。
【0310】
実装WEB画面において、オペレータが入力部24を操作して「監視」のメニューを選択すると、サービス受給装置1は、サービス供給装置2に対して監視・分析ソフトウェア372による自らの工場の部品実装ライン100の監視を行うことを要求する。この要求を受けると、サービス供給装置2は、監視・分析ソフトウェアDB330から取出した監視・分析ソフトウェア372を起動させ、要求のあったサービス受給装置1に対して、定期的に、設備情報211、実装タクト情報213、NCデータ220および検査結果情報212のアップロードを行い、生産状況の監視を行う。監視の結果でトラブルの発生が判明すれば、もしくは、トラブルの予兆が判明すれば、アップロードした設備情報211、実装タクト情報213、NCデータ220および検査結果情報212に対して、そのトラブルまたはトラブルの予兆の原因分析を行う。分析の結果で原因が判明すれば、その原因を除去するための対策をサービス受給装置1にフィードバックを行う。」(48頁)

上記刊行物1の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記ロ.の【0030】の記載、上記ハ.の【0051】における「部品実装ライン100を構成する・・・接着剤塗布機107、・・・等も部品実装機に含まれるものとする。」との記載、及び図1によれば、刊行物1の接着剤塗布機(107)は、サービス受給装置(1)とネットワークを介して通信を行っている。
また、上記ホ.の【0310】の記載によれば、刊行物1の接着剤塗布機(107)は、サービス受給装置(1)に、検査結果情報(212)をアップロードしている。

したがって、上記刊行物1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「サービス受給装置(1)とネットワークを介して通信を行う接着剤塗布機(107)であって、
検査結果情報(212)を前記サービス受給装置(1)にアップロードする
接着剤塗布機(107)。」

また、刊行物2(特開平6-48499号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「【0002】
【従来の技術】この種のディスペンサ-は、通常、容器の吐出口に開閉バルブを設け、上記容器側に所要の気圧をかけて、上記開閉バルブの開放時に、上記気圧で内容物、即ち、接着剤などの流動体を、上記開閉バルブの開放時間に応じて、所要量吐出させる構成にするか、あるいは、容器と吐出口との間にポンプ機構を設けて、上記ポンプ機構の動作で、流動体を所要量を吐出している。」

ロ.「【0012】上記装置フレーム4の上部には、上記スッテッピングモーター10が装着してあり、その出力軸10Aは、下方に延び、カップリング11を介して、上記ねじ軸7に連結されている。そして、上記ステッピングモータ10は、CPUなどの制御手段100の制御で、所要のプログラムに従って、間欠的(あるいは連続的)に駆動され、上記制御手段100からの指令信号に基いて、流動体の各切出し毎に、上記ねじ軸7を所要量回動することが出来る。
【0013】上記制御手段100には、上記容器1の容量、そのシリンダ内径、流動体の充填量などから、上記ピストン3の初期ストロークがデーターとして与えられ、また、上記流動体の材質、粘度などに対応した係数Aが設定されており、上記ピストンおよび/あるいはシリンダに生じる応力歪みに見合う補正値が、上記シリンダ内の流動体の残量(x)の変化に従って変化する関数y=A・f(x)として、設定される。そして、上記補正値で、与えられた微量切出し量に対応する各切出し毎のピストン送り量を定める指令信号を補正して、上記往復駆動手段、すなわち、そのステッピングモーター10に与えるのである。
【0014】なお、f(x)の係数は、このディスペンサーで採用される容器の種類に応じて、例えば、そのシリンダの材質などで設定される。また、図中、符号12は上記ねじ軸7を上記装置フレーム4に軸支するためのベアリングである。
【0015】このような構成では、シリンダ2を上記シリンダ保持体5に着脱自在に保持するとともに、ピストン3を上記ピストン連結駒8Cに着脱自在に保持することで、容器1を装置フレーム4にセッティングでき、その後は、上記制御手段100で設定された送り量に見合うステッピングモーター10の回転動作で、ねじ軸7が回動する。従って、駆動素子8がピストン3の送り動作をなし、容器1内から接着剤などの流動体を吐出用の開口部2Aを介して所定の量で切出すことができる。
【0016】この場合、機械的な部分は、従来の場合と異なり、上記流動体の経路には存在しないので、経路内での流動体の固化などの障害を避けるために、適宜、清掃などのメンテナンスを実施する必要がない。また、場合によっては、上記容器を使い捨てとすることも出来るメリットも得られる。
【0017】特に、本発明では、シリンダ2内の流動体の残量が変化して、流動体に対する残留応力が変化しても、ピストンの駆動手段にピストン送り量を指令する制御手段側で、上述のように、上記流動体の材質、粘度などに対応した設定値で、上記残量に見合う補正を指令信号に与えるから、ピストン3の全ストロークにおいて、一定量の精密な微量切出しが実現できる。」

また、刊行物3(特開2008-290039号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

ハ.「【0011】
本実施形態の液体吐出装置100は、被吐出液体の一例として、所定量の接着剤を接着対象に向けて吐出する接着剤吐出装置である。
液体吐出装置100の概略構成は、図1に示すように、ノズル1(吐出ノズル)、電磁弁6、吐出機構21、洗浄機構22、および制御ユニット20からなる。」

ニ.「【0015】
吐出機構21は、チューブ5Bの他端に接続されたシリンジ7、およびシリンジ7内のピストン7aを不図示の伝動機構により駆動するステッピングモータ9からなる。そして、電磁弁6によって、チューブ5Bの流路がチューブ5Aの流路に連通されたとき、ピストン7aを往復駆動することにより、チューブ5A、5B内の脱気水4をノズル1側に押し出したり、シリンジ7側に吸引したりすることができるようになっている。
【0016】
洗浄機構22は、チューブ5Cの他端に送水口が接続され、吸水口にチューブ5Dが接続された洗浄水ポンプ10と、洗浄水として脱気水4を貯留しチューブ5Dを介して洗浄水ポンプ10に供給できるようにした洗浄水槽11とからなる。
洗浄水ポンプ10は、本実施形態では、制御ユニット20によって常時送水状態に駆動されている。したがって、電磁弁6が切り替えられて、チューブ5Cの流路がチューブ5Aの流路に連通された場合のみ、洗浄水槽11内の脱気水4が、チューブ5C、5Aを介して、ノズル1内に送水され、これによりノズル1内部を洗浄できるようになっている。
【0017】
制御ユニット20は、図3に示すように、電磁弁6、洗浄水ポンプ10、ノズル移動機構23にそれぞれ電気的に接続されており、液体吐出装置100の動作を制御する装置制御部43と、ステッピングモータ9に電気的に接続され装置制御部43からの制御信号に基づいてステッピングモータ9を駆動する吐出機構制御部40と、吐出条件設定部41と、データ記憶部42とからなる。
吐出条件設定部41は、本吐出工程における接着剤2の吐出体積目標値に応じて、吐出機構制御部40に対して、接着剤の押し出し速度、押し出し体積の条件を設定するものである。
データ記憶部42は、吐出条件設定部41が条件を設定する際に参照する設定条件のデータ群を記憶するものである。
このような制御ユニット20の装置構成は、CPU、メモリ、入出力インタフェース、外部記憶装置などを備えるコンピュータや適宜のハードウェアなどからなる。
また、装置制御部43には、操作者が、液体吐出装置100の動作設定を行うため、適宜の入力手段、例えば操作パネル、キーボードやマウスなどからなる操作部24が接続されている。」

したがって、上記刊行物2及び3の上記イ.?ニ.の記載にみられるように、「ステッピングモータによって接着剤を押し出す構成の分注器。」は、周知の技術(以下、「周知技術」という。)ということができる。

(2) 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
a.上記ニ.の【0063】における「接着剤の塗布機107は、接着剤を貯蔵したシリンジと、このシリンジからエア圧で押し出した接着剤を塗布するシリンジにつながった塗布ノズルと、塗布ノズルの下部に回路基板の塗布位置を位置決めするXYテーブルとを備えている。」との記載によれば、引用発明の「接着剤塗布機(107)」は、明らかに「分注器」ということができる。
b.引用発明の「サービス受給装置(1)」は、接着剤塗布機(107)(分注器)を制御している装置であるから、「ホスト」ということができる。
c.引用発明の「検査結果情報(212)を前記サービス受給装置(1)にアップロードする」は、「データを前記ホストにフィードバックする」ということができる。

したがって、本願発明と引用発明は、以下の点で一致ないし相違している。

<一致点>
「分注器であって、ホストとネットワークを介して通信を行い、前記分注器は、
データを前記ホストにフィードバックする、
分注器。」

<相違点1>
一致点の「分注器であって、ホストとネットワークを介して通信を行い」に関し、
本願発明は、「流体分注器ネットワークの分注器」であり、「前記流体分注器ネットワークは前記分注器とネットワークを介して通信を行うホストを有す」るのに対し、引用発明は、「流体分注器ネットワークの」との特定がなく、「サービス受給装置(1)とネットワークを介して通信を行う」点。
加えて、
本願発明の「前記分注器」は、「通信ハードウェアと、前記通信ハードウェアに電気的に通じるように設けられたプロセッサとを含み、前記プロセッサは、前記ホストから前記通信ハードウェアを介して、所与の接着剤流体のドットサイズを決定させ、前記ドットサイズを分注するためのステッピングモータのステップ数、および、シリンジ内の前記所与の接着剤流体の量の関数として、前記ドットサイズを維持するための後退のステップ数を決定させるソフトウェアアプリケーションプログラムを受信す」るのに対し、引用発明の接着剤塗布機(107)は、その様な構成を備えない点。

<相違点2>
本願発明は「前記プログラムを実行して、前記所与の接着剤流体の前記ドットサイズを提供し、前記ドットサイズを分注するためのステッピングモータのステップ数、および、前記シリンジ内の前記所与の接着剤流体の量の関数として、前記ドットサイズを維持するための後退のステップ数を提供し、前記プログラム中の予め指定されたステップを提供す」るのに対し、引用発明は、その様な構成を備えない点。

<相違点3>
一致点の「データを前記ホストにフィードバックする」に関し、
本願発明は、「前記プログラム内の前記予め指定されたステップで前記分注器の状態を含む第1のデータを生成し、前記第1のデータを前記ホストにフィードバックし、前記プログラムに従って前記所与の接着剤流体を分注し、分注された前記所与の接着剤流体の状態を含む第2のデータを生成し、前記第2のデータを前記ネットワークを介して前記ホストにフィードバックする」のに対し、引用発明は、「検査結果情報(212)を前記サービス受給装置(1)にアップロードする」点。

(判断)
そこで、まず、上記相違点1について検討する。
引用発明の「接着剤塗布機(107)」は、「サービス受給装置(1)とネットワークを介して通信を行う」ものであるが、刊行物1の図1に記載されているように、管理装置(101)が、クリーム半田印刷機(105)、クリーム半田印刷検査機(106)、接着剤塗布機(107)、高速装着機(108a)、多機能装着機(108b)、装着部品検査機(109)、リフロー装置(110)、及び外観検査機(111)を一括して通信を行うネットワークの構成をとって部品実装ラインとして成り立っている。そして、これらの各手段との通信によりトラブルの解析などの課題を達成するものである。このため、このネットワークの構成を接着剤塗布機(107)のみのネットワーク構成とすること、すなわち、相違点1に係る本願発明の「流体分注器ネットワーク」構成とすることには阻害要因があるから、引用発明から本願発明を導き出すことはできない。

(4)小括
したがって、本願発明は、上記相違点2、3について検討するまでもなく、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

請求項1について
請求項1に係る発明は、本願発明と同様の技術的特徴を有するものであって、引用発明に対して相違点4と同様の相違点があるから、上記(3)と同じ理由により、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

請求項2?4について
請求項2?4に係る発明は、上述の請求項1に係る発明をさらに限定したものであるから、上記(3)と同じ理由により、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

請求項5について
請求項5に係る発明は、本願発明と同様の技術的特徴を有するものであって、引用発明に対して相違点4と同様の相違点があるから、上記(3)と同じ理由により、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

請求項6、7について
請求項6、7に係る発明は、上述の請求項5に係る発明をさらに限定したものであるから、上記(3)と同じ理由により、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について
1.当審拒絶理由の概要
「1)本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。
2)本件出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
3)本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

理由1について
1.請求項1において、「前記プログラム中の指定されたステップに休止位置を提供し」との記載があるが、当該動作の主体はプログラム自体であるから、プログラム自体が「前記プログラム中の指定されたステップに休止位置を提供する」こととなり意味不明である。また、本願明細書段落【0029】(ステップ72)を参酌しても「休止位置」は見当たらず、発明の詳細な説明のいずれに記載されているのか不明である。請求項9、14についても、同様に不明瞭である。

2.請求項1において、「分注を中止するステップ」との記載があるが、本願明細書段落【0029】(ステップ72)を参酌しても「分注を中止するステップ」は見当たらず、発明の詳細な説明のいずれに記載されているのか不明である。「分注を中止するステップ」と、前段の「ステップに休止位置を提供し」との関係(異同)が不明である。

3.請求項1において、「前記ホストが、前記1台以上の流体分注器に停止して局地の人に通知するよう指令する」との記載があるが、上記1.及び2.に関連して、「休止」、「中止」及び「停止」相互の関係が不明瞭である。また、「通知するよう指令する」との記載があるが、「・・・指令する」ことの技術的意味が不明であり、「通知」するのみなのか不明瞭である。
また、ホストが、ソフトウェアアプリケーションプログラムをダウンロードしたすべての流体分注器に停止する指令を出すのか、ホストが、すべての流体分注器のうち許容可能でない場合の流体分注器のみに停止する指令を出すのか不明瞭である。また、本願明細書段落【0029】(ステップ77)を参酌しても、発明の詳細な説明のいずれに記載されているのか不明である。請求項9、14についても、同様に不明瞭である。

4.請求項4において、「前記ツールによって開発されたアプリケーション」との記載があるが、如何なる機能に係るアプリケーションか不明であり、引用する請求項1のアプリケーションプログラムとの関係も不明である。

5.請求項5において、「1つのアプリケーションは、分注器が基準を満たすように動作することを確実にすることに向けられている」、請求項6において、「前記基準が、異なる場所の分注器に有効であってよい」との記載があるが、「基準」が、全ての場所で共通なのか、個別の基準なのか不明瞭である。

6.請求項7において、「ウェビナー(Webinar)」との記載があるが、本願明細書段落【0011】における「情報「ウェビナー」」を参酌しても、用語の技術的意味が不明瞭である。

7.請求項8において、「前記ホストが分注器を含む」との記載があるが、ホストが分注器を含むと、引用する請求項1のネットワーク構成と対応しなくなり、流体分注器ネットワークとして、構成が不明瞭である。また、発明の詳細な説明のいずれに記載されているのか不明である。

8.請求項10において、「前記ホストを介して中継する」との記載があるが、「開発」する主体、「ホストを介して中継する」主体が不明である。また、発明の詳細な説明のいずれに記載されているのか不明である。

9.請求項13において、「前記状態を検討することは、前記ホストによって、前記1台以上の流体分注器の流体分注器の前記状態を、前記1台以上の流体分注器の残りの流体分注器に報告する」との記載があるが、1台以上の流体分注器の残りの流体分注器に状態を送信して、1台以上の流体分注器の残りの流体分注器において状態を検証することなのか否か不明確であり、如何なる技術的意味なのか不明瞭である。また、発明の詳細な説明のいずれに記載されているのか不明である。

10.請求項15?17において、「1台以上の分注器は、第1の分注器と第2の分注器とを含み、前記第1の分注器は、分注処理を詳述する分注プログラムを開発するとともに、前記ホストおよび前記第2の分注器のうちの少なくとも一方と通信して、前記分注プログラムを送信する」との記載があるが、分注プログラムをホストにアップロードすることなのか否か不明確であり、如何なる技術的意味なのか不明瞭である。また、発明の詳細な説明のいずれに記載されているのか不明である。

理由2について
1.請求項3において、「前記ホストまたは前記1台以上の分注器で開発された訓練プログラムであって、前記1台以上の分注器によって、前記ネットワークを介して、かつ前記ネットワークに接続された他の場所にて、アクセスされてよい訓練プログラムをさらに含む」との記載があるが、請求項3に係る発明は、発明の詳細な説明に「教育/訓練プログラム」(段落【0026】)の記載があるにすぎず、出願時の技術常識を考慮しても、どのようにして実施できるのか不明である。したがって、発明の詳細な説明は、請求項3に係る発明を当業者が実施できる程度に十分に記載されていない。

理由3について
請求項1?17に対して、刊行物A及びB。
刊行物A:特開平7-36703号公報(新たに引用する文献)
刊行物B:特開平7-236852号公報(新たに引用する文献)

備考:刊行物A(【0024】?【0039】、図1?5)には、マスター装置と伝送路を介して通信を行う端末装置を備えるシステムにおいて、マスター装置が、プログラムを端末装置にダウンロードし、端末装置が、プログラムの停止位置でシミュレーション制御演算結果をマスター装置にフィードバックし、シミュレーション制御演算結果をマスター装置で判定して、シミュレーション制御演算結果が予め設定された許容範囲に入っている場合、新規プログラムとし、許容範囲に入っていない場合、停止して現行プログラムとするシステムが記載されている。また、刊行物B(【0019】?【0053】、図1?3)には、液体供給装置において、接着剤を定量供給する際のステッピングモータのステップ数、及び逆回転のステップ数を制御することが記載されている。ここで、液体供給装置において、ステップ数を制御する以上、プログラムを有することは自明である。
そして、刊行物Aに記載されたシステムにおいて、プログラムを、刊行物Bに記載された接着剤を定量供給する液体供給装置の用途のプログラムに換えることは格別困難なことではない。
また、プログラムの特定の位置に停止ステップを設定すること、及び、フィードバック結果が、許容範囲に入っていない場合、端末装置を停止して人に通知することは当業者が適宜なし得ることである。
したがって、請求項1?17に係る発明は、刊行物A及びBに記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得るものである。」

2.当審拒絶理由の判断
(1)理由1及び2について
イ.請求項1、9、14に記載された「前記プログラム中の指定されたステップに休止位置を提供し」は、「前記プログラム内の予め指定されたステップで」と補正された。これにより、本願明細書段落【0029】の記載「プログラムのステップが実行されるにつれて、予め指定されたステップで」に対応するものとなった。よって、理由1の1.及び3.は解消した。

ロ.請求項1に記載された「分注を中止するステップ」は削除され、また、請求項4、6?8、10、13、15?17は削除された。これにより、請求項1?8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものとなった。よって、理由1の2.、4.?10.は解消した。

ハ.請求項3に記載された発明は、教育/訓練プログラムが、「分注訓練において使用される訓練プログラム」であることが明らかになり、当業者が実施できる程度に十分に発明の詳細な説明に記載されたものとなった。よって、理由2は解消した。

(2)理由3について
ア 刊行物の記載事項
刊行物A(特開平7-36703号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「【0001】
【産業上の利用分野】本発明はマスター装置から伝送路を介して端末装置にプログラムやパラメータ等のデータをダウンロードするダウンロード方法に関する。」(2頁1欄)

ロ.「【0024】
【実施例】以下本発明の一実施例を図面を用いて説明する。図1は実施例のダウンロード方法が適用される制御システムの概略構成図である。伝送路4に対して例えば監視制御装置等のマスター装置5及び複数の例えば制御装置からなる端末装置6が接続されている。
【0025】前記各端末装置6は例えば図2に示すように構成されている。バスライン7に対して、各制御演算処理を実行するCPU8,OSプログラム等の固定データを記憶するROM9,各種可変データを記憶するRAM10,伝送路4を介してマスター装置5との間で情報交換を行うための伝送インタフェース11,異常警告や各種情報を表示する表示器12,図示しないプラントの各機器からプロセスデータが入力されると共に、制御演算結果である操作量を各機器へ送出するための入出力インタフェース13等が接続されている。
【0026】前記RAM10内には、図3に示すように、現在使用中の現行データを記憶する現行情報領域10aと、マスター装置5からダウンロードされた新規データを記憶する新規情報領域10bと、各機器から入力したプロセスデータや各機器へ送出する操作量等のデータを一時記憶するデータバッファ10c等が形成されている。
【0027】前記現行情報領域10a及び新規情報領域10b内には、この端末装置6が各機器に対する制御処理を実行するためのプログラムを記憶するプログラム領域と各種パラメータや係数等を記憶するパラメータ領域とが形成されている。
【0028】そして、一つの端末装置6に設定されたプログラムやパラメータを変更する場合、マスター装置5は、図4に示す流れ図に従って、ダウンロード処理を実行するようにプログラム構成されている。
【0029】流れ図が開始されると、伝送路4を介して該当端末装置6へ新規データの送信処理を開始する(P1)。そして、全ての新規データの送信処理が終了すると、送信先の端末装置6からの該当新規データに対するシミュレーション制御演算結果が送信されて来るのを待つ。
【0030】該当該当端末装置6かのらシミュレーション制御演算結果を受信すると(P2)、このシミュレーション制御演算結果の妥当性を解析する。具体的には、a) プログラム自体の誤りによりプログラム暴走の有無b) パラメータや係数の設定誤りに起因するプログラム暴走の有無c) シミュレーション制御演算結果が物理的意味を持つか、又は値が予め設定された許容範囲に入っているか否か等で判定する。
【0031】そして、その判定結果が妥当(良)であれば(P3)、該当端末装置6に対して新規データへの切換指令を送出する(P4)。また、判定結果が不良であれば(P3)、該当端末装置6に対して新規データを用いたシミュレーション制御演算を停止して、現行データでの制御演算の継続指令を送出する(P5)。
【0032】また、各端末装置6は図5の流れ図に示すように動作する。すなわち、通常状態においては、RAM10の現行情報領域10aに記憶されているプログラムやパラメータ等の現行データを用いてプラントを構成する機器に対する制御演算処理を実行している。
【0033】そして、マスター装置5からの新規データを例えば受信バッファに受信した場合は、その受信した新規データをRAM10の新規情報領域10bへ格納する(P8)。
【0034】全ての新規データが該当新規情報領域10bのプログラム領域及びパラメータ領域に書込まれた時点で、この新規情報領域10bのプログラム及びパラメータや係数を用いて前記機器に対するシミュレーション制御演算を実施する(P9)。なお、このシミュレーション制御演算処理は、現行情報領域10aの現行データを用いて実際の機器に対する制御演算処理の空き時間を利用して実行される。したがって、このシミュレーション制御演算を実施している期間においても、プラントの機器は現行データを用いて継続して制御されている。また、シミュレーション制御演算においては、現行データを用いた実際の制御演算に使用するプロセスデータと同一のプロセスデータを使用する。
【0035】一連のシミュレーション制御演算が終了すると、新規データのプログラムが暴走したか否かの情報、及びシミュレーション演算結果を伝送路4を介してマスター装置5へ送信する(P10)。なお、シミュレーション制御演算が暴走したことはCPUにおける保護(プロテクト機能)及びこの端末装置6自体のOSプログラムによった検出され、新規データのプログラムによる制御演算処理は自動的に停止される。そして、マスター装置5からの判断結果を待つ。
【0036】P11にて、マスター装置5から切換指令が入力すると、今回ダウンロードされた新規データは誤りのない妥当なデータであると判断してP12へ進む。P12においては、実際の制御演算処理に使用するプログラム及びパラメータの各データを現行情報領域10aの現行データから、新規情報領域10bの新規データへ切り換える(P12)。その後、シミュレーション制御演算を完全に停止して、今回の新規データに対する一連のダウンロード処理を終了して、P1へ戻る。
【0037】なお、P11にて、マスター装置5から切換指令でなくて、継続指令が入力すると、今回ダウンロードされた新規データは何等かの誤りがあり、実際の機器に対する制御演算に使用できないと判断して、P14へ進む。P14においては、シミュレーション制御演算を完全に停止してP1へ戻る。したがって、この場合、現行情報領域10aの現行データを用いた制御演算処理がそのまま継続されることになる。
【0038】このように構成されたダウンロード方法によれば、新規データがダウンロードされると、この新規データは現行データの現行情報領域10aとは異なる新規情報領域10bに書込まれる。そして、現行データを用いて機器に対する実際の制御演算処理はそのまま継続しながら、その演算処理の空き時間を利用して新規データに対するシミュレーション制御演算処理が実施される。
【0039】したがって、新規データをダウンロードするために、プラントの機器に対する制御処理を中断することはないので、機器に対する制御の連続性を維持できる。また、たとえシュレーション制御演算処理が暴走したり、制御演算結果が不良であったとしても、実際の機器に対して悪影響を与えることはないので、プラント全体の操業に支障が生じることを未然に防止でき、システム全体の信頼性を向上できる。」(3頁4欄?4頁6欄)

上記刊行物Aの記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記ロ.の【0024】の記載、同ロ.の【0025】の記載、及び図1によれば、刊行物Aの端末装置(6)は、マスター装置(5)と伝送路を介して通信を行っている。
また、上記ロ.【0033】の記載、及び図5によれば、刊行物Aのマスター装置(5)は、新規データを端末装置(6)にダウンロードしている。
また、上記ロ.の【0034】の記載、同ロ.の【0035】の記載、及び図5によれば、刊行物Aの端末装置(6)は、新規データを実行して、プログラムの停止位置でシミュレーション演算結果をマスター装置にフィードバックしている。

したがって、上記刊行物Aには、以下の発明(以下、「引用発明A」という。)が記載されているものと認められる。

「端末装置(6)であって、マスター装置(5)と伝送路を介して通信を行い、前記端末装置(6)は、
マスター装置(5)が、新規データを端末装置(6)にダウンロードし、
新規データを実行して、プログラムの停止位置でシミュレーション演算結果を前記マスター装置にフィードバックする
端末装置(6)。」

また、刊行物B(特開平7-236852号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、供給すべき液体をシリンジ内に充填した後、ピストンを押して吐出させ、所定の場所に所定量供給するための液体の定量供給方法に関するものである。」(2頁1欄)

ロ.「【0019】(第1の実施例)図1は、本発明の、液体の定量供給方法を実施するのに好適な定量供給装置の第1の実施例を備える組立装置の概略構成図である。
【0020】図1において、30?50μm程度の半田粒子とフラックスが混練されてなるクリーム半田や高粘度のグリスなどを所定の場所に供給して組立部品を組み立てる組立装置40は、不図示のXYZ直交型ロボットを備えている。
【0021】このロボットのアーム部44の先端部には、液体の定量供給装置12が取り付けられている。アーム部44は、ロボットの動作により、図中上下左右方向、及び紙面に垂直な方向に3次元的に移動可能にされている。このため、定量供給装置12もロボットのアーム部44と同様に3次元的に移動可能となっている。
【0022】この供給装置12は、図5に示した従来のシリンジとピストンを用いた供給装置と同様のものであるが、その構成についてさらに詳しく述べる。
【0023】供給装置12のフレームを構成する略コの字形の支持部材14は、アーム部44に、その腕部14a,14bを水平線に沿わせた状態で取り付けられている。このコの字形の支持部材14の図中下側の腕部14bには、シリンジ22が取り付けられている。シリンジ22は、内部に液体を収容する空間を有する円筒状のシリンジ本体24と、このシリンジ本体24に挿入されたピストン26と、シリンジ本体24の先端部に着脱自在に取り付けられ、シリンジ22の先端部を構成するニードル28とから構成されている。そして、シリンジ本体24が、その中心軸線を垂直線に沿わせた状態で、コの字形の支持部材14の図中下側の腕部14bの先端部に着脱自在に取り付けられている。
【0024】また、ピストン26の後端部には、スライド部材30が取り付けられており、このスライド部材30がコの字形の支持部材14に対して上下方向(シリンジの軸線に沿う方向)に移動することにより、ピストン26がシリンジ24内で上下動し、液体11の吐出および吸引が行われる。
【0025】このピストン26をコの字形の支持部材14に対して上下方向に移動させる機構は以下の様に構成されている。コの字形の支持部材14の上下の腕部14a,14bの間には、その軸線を垂直線に沿わせた状態で、ガイドシャフト16が固定されている。また、コの字形の支持部材14の上下の腕部14a,14bの間には、さらにこのガイドシャフト16に平行にされた状態でボールねじ18が回転自在に支持されている。このボールネジ18の上端部には、コの字形の支持部材14の図中上側の腕部14aに固定されたステッピングモータ20が連結されており、このステッピングモータ20の回転により、支持部材14に対して、ボールねじ18がその軸線回りに回転駆動されるように構成されている。
【0026】一方、ピストン26の上端部に取り付けられたスライド部材30には、ガイドシャフト16に嵌合する嵌合穴が穿設されており、また、この嵌合穴に隣接した位置には、ボールねじ18に嵌合するボールブッシュ(不図示)が取り付けられている。したがって、ステッピングモータ20が回転すると、そのスライド部材30は、ガイドシャフト16にガイドされながら、ボールねじ18に沿って上下方向に駆動されることになる。そして、ピストン26の上下方向の移動量は、ステッピングモータ20の回転ステップ数により決定され、これにより、液体11の吐出量および吸引量が制御される。
【0027】なお、シリンジ本体24は、支持部材14の図中下側の腕部14bに対して、前述したように着脱自在に取り付けられており、また、ピストン26も、スライド部材30に対して着脱自在に取り付けられているので、シリンジ22は必要に応じて、支持部材14から取り外すことが可能である。
【0028】また、シリンジ本体24の上端部において蓋体31が腕部14bに着脱自在に取り付けられており、蓋体31は、1ヶ所の穴部31aを除いてシリンジ本体24を密閉状態に保っている。ピストン26は蓋体31を上下に摺動自在である。
【0029】蓋体31の穴部31aには、圧縮空気を供給するチューブ32の一端が取り付けられており、チューブ32の他端は制御弁33に取り付けられている。
【0030】制御弁33のINポート側には圧縮空気源となるポンプ(不図示)が接続され、制御弁33は、圧縮空気源となるポンプとチューブ32との間を結んでいる。
【0031】この制御弁33は3方弁であり、非通電時には、チューブ32を通じたシリンジ本体24への圧縮空気供給経路内は、大気圧と同じ(開放)であり、通電時のみ圧縮空気が供給される構造となっている。したがって、圧縮空気の供給後、通電を切るとシリンジ本体24およびチューブ32内の圧縮空気は大気へ開放されることとなる。
【0032】さらに、組立装置40全体を制御するための全体制御部41が設置されており、この全体制御部41は、少なくとも、定量供給装置12のステッピングモータ20の制御、制御弁33の制御、ロボットコントローラー42からの信号のやりとり等を行い、組立部品の所定の場所への液体の供給を好適に制御するものである。
【0033】図2は、本発明の、液体の定量供給方法を実施するのに好適な定量供給装置の第1の実施例を備える組立装置の制御動作を説明するためのフローチャートを示している。そこで、上述した構成の、液体の定量供給装置を備える組立装置の動作を、図1を参照するとともに、図2に示すフローチャートに従って以下に説明する。
【0034】組立装置40を起動する起動スイッチなどが作業者により押されると、全体制御部41は、ロボットコントローラ42によってXYZ直交型ロボット(不図示)を動作させ、アーム部44に取り付けられたシリンジ22のニードル28を組立部品上の所定の場所へ原点より移動させる(ステップS1)。
【0035】全体制御部41は、シリンジ22のニードル28が組立部品の所定の場所に到達したかどうかを確認し(ステップS2)、移動終了信号を確認するまで次の命令を出力しない。
【0036】ここで、ロボットコントローラ42より移動終了信号が出力されて、全体制御部41は、シリンジ22の移動終了を確認すると、制御弁33を通電状態にさせ、シリンジ22内への圧縮空気の供給を開始する(ステップS3)。
【0037】そして、全体制御部41は、設定パルス数、ステッピングモータ20を正転させる(ステップS4)。これにより、ボールねじ18に沿ってスライド部材30とともにピストン26が所定量下降し、このピストン22の先端がシリンジ22内の液体11を押し下げて、液体11がニードル28より吐出される。
【0038】ステッピングモータ20が設定パスル数の回転を行なった後、全体制御部41は、制御弁33を非通電状態にさせ、シリンジ22内への圧縮空気の供給を終了する(ステップS5)。このとき、シリンジ本体24およびチューブ32内の圧縮空気は大気へ開放される。
【0039】圧縮空気の供給を終了したら、全体制御部41は、設定パルス数、ステッピングモータ20を逆転させる(ステップS6)。これにより、ニードル28の先端の液体11が吸引されて、所定の場所に供給した液体との切れを良くすることができる。
【0040】全体制御部41は、吐出が終了したかどうかを確認し(ステップS7)、吐出終了信号が確認されるまで次の命令を出力しない。
【0041】そして、ステッピングモータ20による設定パルス数の逆転が終了して、全体制御部41は、吐出終了信号を確認すると、ロボットコントローラ42を通じてXYZ直交型ロボット(不図示)を動作させ、アーム部44に取り付けられたシリンジ22のニードル28を組立部品上の所定の場所から原点に移動させる(ステップS8)。」(3頁3欄?4頁6欄)

ハ.「【0048】(第2の実施例)図3は、本発明の、液体の定量供給方法を実施するのに好適な定量供給装置の第2の実施例を備える組立装置の概略構成図である。
【0049】ここでは、供給すべき液体として、空気中の水分と反応し硬化する、シリコーン系接着剤を採用し、ピストンの背面には、前記供給すべき液体とは反応しない窒素ガスを充填する場合について説明する。また、図3において、図1に示した第1の実施例と同様の構成について同一の符号を付し、その説明を省略する。」(5頁7欄)

上記刊行物Bの記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記ロ.の【0019】の記載、同ロ.の【0026】における「ステッピングモータ20の回転ステップ数により決定され、これにより、液体11の吐出量および吸引量が制御される。」との記載、同ハ.の【0049】における「供給すべき液体として、空気中の水分と反応し硬化する、シリコーン系接着剤を採用し」との記載、及び図1?3によれば、刊行物Bの液体定量供給装置は、接着剤を定量供給する際ステッピングモータのステップ数、及び逆回転のステップ数を制御していることが読み取れる。ここで、液体定量供給装置において、ステップ数を制御する以上、プログラムを有することは自明である。

したがって、上記刊行物Bには、以下の発明(以下、「引用発明B」という。)が記載されているものと認められる。

「液体定量供給装置において、接着剤を定量供給する際ステッピングモータのステップ数、及び逆回転のステップ数を制御するプログラム。」

イ 対比
本願発明と引用発明Aとを対比する。
a.引用発明Aの「端末装置(6)」と、本願発明の「分注器」とは、後述する相違点を除いて、「装置」という点で一致する。
b.引用発明Aの「伝送路」は、ネットワークにほかならないから、「ネットワーク」ということができる。
c.引用発明Aの「マスター装置(5)」は、端末装置(6)を制御するから、「ホスト」ということができる。
d.引用発明Aの「マスター装置(5)が、新規データを端末装置(6)にダウンロードし」と、本願発明の「前記プロセッサは、前記ホストから前記通信ハードウェアを介して、所与の接着剤流体のドットサイズを決定させ、前記ドットサイズを分注するためのステッピングモータのステップ数、および、シリンジ内の前記所与の接着剤流体の量の関数として、前記ドットサイズを維持するための後退のステップ数を決定させるソフトウェアアプリケーションプログラムを受信し」とは、後述する相違点を除いて、「制御に関する情報を受信し」という点で一致する。
e.引用発明Aの「新規データを実行して、プログラムの停止位置でシミュレーション演算結果を前記マスター装置にフィードバックする」と、本願発明の「前記プログラム内の前記予め指定されたステップで前記分注器の状態を含む第1のデータを生成し、前記第1のデータを前記ホストにフィードバックし、 前記プログラムに従って前記所与の接着剤流体を分注し、分注された前記所与の接着剤流体の状態を含む第2のデータを生成し、前記第2のデータを前記ネットワークを介して前記ホストにフィードバックする」とは、後述する相違点を除いて、「制御に関する情報を実行して、特定の位置でデータを前記ホストにフィードバックする」という点で一致する。

したがって、本願発明と引用発明Aは、以下の点で一致ないし相違している。

<一致点>
「装置であって、ホストとネットワークを介して通信を行い、前記装置は、
制御に関する情報を受信し、
制御に関する情報を実行して、特定の位置でデータを前記ホストにフィードバックする
装置。」

<相違点1>
一致点の「装置であって、ホストとネットワークを介して通信を行い」に関し、
本願発明は、「流体分注器ネットワークの分注器」であり、「前記流体分注器ネットワークは前記分注器とネットワークを介して通信を行うホストを有す」るのに対し、引用発明Aは、「流体分注器ネットワーク」を有しておらず、「マスター装置(5)と伝送路を介して通信を行う」点。

<相違点2>
一致点の「装置」に関し、
本願発明は、「分注器」であるのに対し、引用発明Aは、「端末装置(6)」である点。
加えて、
本願発明の「分注器」は、「通信ハードウェアと、前記通信ハードウェアに電気的に通じるように設けられたプロセッサとを含む」のに対し、引用発明Aの「端末装置(6)」は、その様な構成を含むか明らかでない点。

<相違点3>
本願発明の「前記プロセッサは、前記ホストから前記通信ハードウェアを介して、所与の接着剤流体のドットサイズを決定させ、前記ドットサイズを分注するためのステッピングモータのステップ数、および、シリンジ内の前記所与の接着剤流体の量の関数として、前記ドットサイズを維持するための後退のステップ数を決定させるソフトウェアアプリケーションプログラムを受信す」るのに対し、引用発明A、は、「マスター装置(5)が、新規データを端末装置(6)にダウンロードす」る点。

<相違点4>
本願発明は、「前記プログラムを実行して、前記所与の接着剤流体の前記ドットサイズを提供し、前記ドットサイズを分注するためのステッピングモータのステップ数、および、前記シリンジ内の前記所与の接着剤流体の量の関数として、前記ドットサイズを維持するための後退のステップ数を提供し、前記プログラム中の予め指定されたステップを提供す」るのに対し、引用発明Aは、その様な構成を備えない点。

<相違点5>
一致点の「制御に関する情報を実行して、特定の位置でデータを前記ホストにフィードバックする」に関し、
本願発明は、「前記プログラム内の前記予め指定されたステップで前記分注器の状態を含む第1のデータを生成し、前記第1のデータを前記ホストにフィードバックし、前記プログラムに従って前記所与の接着剤流体を分注し、分注された前記所与の接着剤流体の状態を含む第2のデータを生成し、前記第2のデータを前記ネットワークを介して前記ホストにフィードバックする」のに対し、引用発明Aは、「新規データを実行して、プログラムの停止位置でシミュレーション演算結果を前記マスター装置にフィードバックする」点。

ウ 判断
そこで、まず、上記相違点5について検討する。
引用発明Aは、「新規データを実行して、プログラムの停止位置でシミュレーション演算結果を前記マスター装置にフィードバックする」ものであり、シミュレーション演算結果に基づいて段落【0030】の判断をするものである。一方、本願発明は、段落【0008】に記載されているように、分注した結果であるドットまたはビーズの状態を判断するものである。そして、引用発明Aのプログラム自体の誤りによりプログラム暴走の有無、パラメータや係数の設定誤りに起因するプログラム暴走の有無等を判断をするためにはシミュレーション演算結果である必要があるから、「新規データを実行して、プログラムの停止位置でシミュレーション演算結果を前記マスター装置にフィードバックする」ことに換えて、「前記プログラム内の前記予め指定されたステップで前記分注器の状態を含む第1のデータを生成し、前記第1のデータを前記ホストにフィードバックし、前記プログラムに従って前記所与の接着剤流体を分注し、分注された前記所与の接着剤流体の状態を含む第2のデータを生成し、前記第2のデータを前記ネットワークを介して前記ホストにフィードバックする」ことを採用する動機付けは見出せない。

エ 小活
よって、本願発明は、上記相違点1?4について検討するまでもなく、引用発明A及びBに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえなくなった。

請求項1について
請求項1に係る発明は、本願発明と同様の技術的特徴を有するものであって、引用発明Aに対して相違点5と同様の相違点があるから、上記(3)と同じ理由により、引用発明A及びBに基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえなくなった。

請求項2?4について
請求項2?4に係る発明は、請求項1に係る発明をさらに限定したものであるから、上記(3)と同じ理由により、引用発明A及びBに基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえなくなった。

請求項5について
請求項5に係る発明は、本願発明と同様の技術的特徴を有するものであって、引用発明Aに対して相違点5と同様の相違点があるから、上記(3)と同じ理由により、引用発明A及びBに基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえなくなった。

請求項6、7について
請求項6、7に係る発明は、請求項5に係る発明をさらに限定したものであるから、上記(3)と同じ理由により、引用発明A及びBに基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえなくなった。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-08-19 
出願番号 特願2013-502562(P2013-502562)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H04Q)
P 1 8・ 537- WY (H04Q)
P 1 8・ 536- WY (H04Q)
最終処分 成立  
前審関与審査官 宮田 繁仁  
特許庁審判長 菅原 道晴
特許庁審判官 山中 実
萩原 義則
発明の名称 遠隔操作流体分注器  
代理人 岡部 讓  
代理人 三村 治彦  
代理人 久保田 智樹  
代理人 岡部 洋  
代理人 吉澤 弘司  

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