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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07F
管理番号 1317859
審判番号 不服2014-18560  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-09-17 
確定日 2016-08-12 
事件の表示 特願2009-522631「表面処理剤および物品」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 1月15日国際公開、WO2009/008380〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 出願の経緯

本願は、平成20年7月4日の国際出願日(特許法第41条に規定される特許出願等に基づく優先権主張 平成19年7月6日)に出願されたものであって、平成25年5月2日付け拒絶理由通知に対し、同年5月30日付けで意見書及び手続補正書が提出され、さらに同年12月20日付け拒絶理由通知に対し、平成26年2月25日付けで意見書、手続補正書及び手続補足書が提出されたが、同年6月13日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年9月17日に拒絶査定不服審判が請求され、これに対して平成27年12月18日付けで、当審から拒絶理由を通知(以下、「当審拒絶理由通知」という。)したところ、平成28年3月2日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明

本願に係る発明は、平成28年3月2日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下の事項により特定されるものである。

「【請求項1】
下式(A)で表される化合物および化合物(B)、または、下式(A)で表される化合物と化合物(B)との部分加水分解縮合物、を必須成分とする表面処理剤であって、
化合物(A)の分子量分布(Mw/Mn)が、1.05?1.3であり、
化合物(B)が、下式(B1)で表される化合物および/または下式(B2)で表される化合物であり、
化合物(A)の総質量に対する化合物(B)の総質量の割合が、0.1?50質量%であることを特徴とする表面処理剤。
R^(F1)O(CF_(2)CF_(2)O)_(a)CF_(2)-(Q)_(b)(-(CH_(2))_(d)-SiL_(p)R_(3-p))_(c) (A)。
ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
R^(F1):炭素数1?20のペルフルオロ1価飽和炭化水素基、または、炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入された炭素数2?20のペルフルオロ1価飽和炭化水素基でありかつ-OCF_(2)O-構造が存在しない基。
a:5?25の整数。
b:0または1。
Q:bが0である場合にはQは存在せず、bが1である場合にはQは-CONH-、-CH_(2)OCONH-、-CH_(2)O-、-CF_(2)O-または-C(O)N=(ただし、Nからのびる=は二重結合ではなく、2つの単結合であることを意味する。)。
c:Qが存在しないまたはQが-CONH-、-CH_(2)OCONH-、-CH_(2)O-または-CF_(2)O-である場合のcは1、Qが-C(O)N=である場合のcは2。
d:2?6の整数。
L:モノオールから水酸基の水素原子を除いた有機基、ハロゲン原子、アシル基、イソシアネート基、またはアミン化合物からアミノ基の水素原子を除いた有機基。
R:水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、またはアリール基。
p:1?3の整数。
X^(2)-CF_(2)O(CF_(2)CF_(2)O)_(u)CF_(2)-X^(2) (B1)、
[R^(F3)O(CF_(2)CF_(2)O)_(v)-]_(z)Y[-O(CF_(2)CF_(2)O)_(w)CF_(2)-X^(3)]_(x) (B2)。
ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
X^(2)、X^(3):それぞれ独立に、下式(X1)で表される基?下式(X7)で表される基から選ばれるいずれかの基を示す(ただし、L、R、およびpは前記と同じ意味を示す。)。
-C(O)NHCH_(2)CH_(2)CH_(2)SiL_(p)R_(3-p) (X1)、
-CH_(2)OC(O)NHCH_(2)CH_(2)CH_(2)SiL_(p)R_(3-p) (X2)、
-CH_(2)OCH_(2)CH_(2)CH_(2)SiL_(p)R_(3-p) (X3)、
-CF_(2)OCH_(2)CH_(2)CH_(2)SiL_(p)R_(3-p) (X4)、
-CH_(2)CH_(2)SiL_(p)R_(3-p) (X5)、
-CH_(2)CH_(2)CH_(2)SiL_(p)R_(3-p) (X6)、
-C(O)N(CH_(2)CH_(2)CH_(2)SiL_(p)R_(3-p))_(2) (X7)。
R^(F3):炭素数1?20のペルフルオロ1価飽和炭化水素基、または、炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入された炭素数2?20のペルフルオロ1価飽和炭化水素基でありかつ-OCF_(2)O-構造が存在しない基。
Yは、(x+z)価のペルフルオロ化飽和炭化水素基、または炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入された(x+z)価のペルフルオロ化飽和炭化水素基でありかつ-OCF_(2)O-構造が存在しない基。
u、v、w:それぞれ独立に、5?50の整数。
x、z:xは2以上の整数であり、zは0以上の整数であり、(x+z)は、3?5の整数であり、zが2以上である場合のR^(F3)O(CF_(2)CF_(2)O)_(v)-で表される基は、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、xが2以上である場合の-O(CF_(2)CF_(2)O)_(w)CF_(2)-X^(3)で表される基は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。」

第3 当審の拒絶理由の概要

当審拒絶理由通知における拒絶理由は、
「本願の請求項1に係る発明は、特開平7-53919号公報及び特開2004-225009号公報に記載された発明(効果についてはさらに特開2005-350404号公報及び特開2004-315712号公報も参照)に基いて当業者であれば容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。」
という理由を含むものである。

第4 当審の判断

(I)本願の優先権主張日前に頒布されたことが明らかな刊行物

1.特開平7-53919号公報(当審拒絶理由通知における引用例D。以下、「引用例1」という。)
2.特開2004-225009号公報(当審拒絶理由通知における引用例B。以下、「引用例2」という。)
3.特開2005-350404号公報(当審拒絶理由通知における参考例。以下、「参考例1」という。)
4.特開2004-315712号公報(当審拒絶理由通知における引用例E。以下、「参考例2」という。)

(II)刊行物に記載の事項

(1)引用例1に記載の事項
(1A)
「【請求項1】(A)下記一般式(1):
【化1】

式中、Rf^(1) は、パーフロロアルキル基またはパーフロロオキシアルキル基であり、
Y^(1) は、アルキレン基であり、基内に、エステル結合、エーテル結合、アミン結合、ケトン結合、アミド結合を含んでいてもよい、
X^(1) は、加水分解性基であり、
R^(1) は、非置換または置換一価炭化水素基であり、
mは、1?3の整数である、で表される有機ケイ素化合物、及び、
(B)下記一般式(2):
【化2】

式中、Rf^(2) は、パーフロロアルキレン基またはパーフロロオキシアルキレン基であり、
Y^(2) は、アルキレン基であり、基内に、エステル結合、エーテル結合、アミン結合、ケトン結合、アミド結合を含んでいてもよい、
X^(2) は、加水分解性基であり、
R^(2) は、非置換または置換一価炭化水素基であり、
nは、1?3の整数である、で表される有機ケイ素化合物、を含有して成る常温硬化性組成物。
【請求項2】成分(A)の有機ケイ素化合物と成分(B)の有機ケイ素化合物とは、
A/B=0.1/99.9?80/20(重量比)
の割合で使用されている請求項1に記載の常温硬化性組成物。」

(1B)
「【0002】
【従来の技術】パーフロロアルキル基等の含フッ素有機基を含有するシラン化合物やシロキサン化合物は、金属、ガラス、セラミックスなどの表面処理剤、撥水剤、撥油剤として従来から広く使用されている。
【0003】一般に、これらのシラン乃至シロキサン化合物の多くは、含フッ素有機基の片末端にのみ加水分解性シリル基が結合したものであり、その加水分解性シリル基の脱水縮合反応により硬化皮膜を形成するものである(例えばUSP 3,423,234 号、USP 3,442,664 号、USP 3,646,085 号、USP 3,666,538 号、USP 3,772,346 号等参照)。これらから形成される硬化皮膜は、フッ素官能基が外側に、加水分解性シリル基が基材表面側に配向しやすいため、基材表面の撥水撥油性、離型性、潤滑性を向上させることができるのである。しかし、これらの化合物は基材に対する接着性が低いため厚膜化が極めて難しいという問題がある。またこの硬化皮膜はレジン状で硬く、曲げ応力に対して弱いため脆いという欠点があり、さらに化合物中のパーフロロアルキル基が大きくなるにしたがって、膜強度が弱くなるという欠点もある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】これに対し、パーフロロアルキレン基の両末端に加水分解性シリル基が結合した有機ケイ素化合物を主成分とした硬化性組成物が知られている(例えば特公昭63-61336 号公報、USP 3,950,588 号、EP 0151877号等参照)。これらの硬化性組成物では、基材に対する接着力が向上し、厚膜化がしやすくなっている。また、該化合物中のパーフロロアルキレン基が、基内にエーテル結合を含むもの(パーフロロオキシアルキレン基)である時には、形成される硬化皮膜の柔軟性が向上するため、この組成物をコーティング剤や塗料に適用することも可能となる。
【0005】然しながら、パーフロロアルキレン基の両末端に加水分解性シリル基を有する化合物を用いて硬化皮膜を形成する場合には、フッ素官能基以外の部分が皮膜表面に出やすく、これにより、撥水、撥油性や耐候性の低下を免れることができない。これを防止するために、該化合物中のパーフロロアルキレン基部分を大きくし、フッ素含有率を向上させる方法も考えられるが、基材に対する接着力の低下や、膜強度の低下を招くため、有効な手段とは言えない。
【0006】従って本発明の目的は、上述した従来の問題を解決し、強度や撥水、撥油性に優れていると共に、金属、ガラス、セラミック等の各種基材との接着性に優れた硬化皮膜を得ることが可能な常温硬化性組成物を提供することにある」

(1C)
「【0009】
【発明の好適態様】
(A)成分
本発明において、(A)成分の有機ケイ素化合物は、含フッ素有機基の片末端に加水分解性シリル基を有するシラン化合物であり、前記一般式(1)で表される。
【0010】この一般式(1)において、Rf^(1) は一価の含フッ素有機基であり、パーフロロアルキル基またはパーフロロオキシアルキル基である。ここでパーフロロアルキル基としては、下記一般式(1a):
C_(a) F_(2a+1)- (1a)
式中、aは、正の整数である、で表されるものを挙げることができ、特に炭素原子数が1?10の範囲のものが好適である。
【0011】またパーフロロオキシアルキル基としては、下記一般式(1b)?(1d):
【化5】

で表されるものを例示することができ、特に炭素原子数が3?15の範囲のものが好適である。
【0012】また一般式(1)において、Y^(1) は、二価のアルキレン基であり、加水分解性シリル基と前記の含フッ素有機基Rf^(1) との間に介在する。このアルキレン基Y^(1)は、基内に、-CO_(2) -,-SO_(3) -などのエステル結合、-O-,-S-などのエーテル結合、-NR-などのアミン結合、-CO-などのケトン結合、及び-CONR-,-SO_(2) NR-などのアミド結合を含有していてもよい。尚、ここでRは、水素原子または炭素原子数が1?6の一価の炭化水素基、例えばアルキル基である。一般に、このY^(1) が大きくなると、分子中に占めるフッ素原子の含有率が減少するため、フッ素化合物の特徴である撥水性、撥油性、耐薬品性などの性能が低下する恐れがある。従って、このY^(1) は短いものが好ましく、具体的には、炭素原子数が10以下のものが好適である。
【0013】さらにX^(1) は、加水分解性基であり、かかる基の存在により、このケイ素化合物は水分の存在下で加水分解し、さらに脱水縮合を生じ、硬化皮膜を形成することが可能となるのである。このような加水分解性基としては、以下のものを例示することができる。尚、この具体例において、Rは、水素原子または炭素原子数が1?6の一価炭化水素基、例えばアルキル基である。一分子中に2個のRを有するものについては、それらRは、互いに同一でも異なっていてもよい。
【化6】

【0014】一般式(1)中、R^(1) は、非置換または置換の一価炭化水素基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基、イソプロペノキシ基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル等のアラルキル基、及びこれらの基の水素原子がハロゲン原子等で置換されている基、例えば3,3,3-トリフルオロプロピル基、6,6,6,5,5,4,4,3,3-ノナフルオロヘキシル基、クロロメチル基、3-クロロプロピル基等を挙げることができる。これらの中でも、炭素原子数が1?8の範囲のものが好適である。
【0015】またmは、1?3の整数であり、この数から、前記加水分解性基X^(1) は必須の基であるが、上記の一価炭化水素基R^(1) は、必須ではなく、かかるR^(1) が存在しないシラン化合物も使用することができる。
【0016】本発明において、上記の一般式(1)で表されるシラン化合物として代表的なものは、これに限定されるものではないが、以下の通りであり、これらは1種単独でも2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【化7】



(1D)
「【0017】(B)成分
本発明において、(B)成分の有機ケイ素化合物は、含フッ素有機基の両末端に加水分解性シリル基を有するシラン化合物であり、前記一般式(2)で表される。
【0018】この一般式(2)において、Rf^(2) は二価の含フッ素有機基であり、パーフロロアルキレン基またはパーフロロオキシアルキレン基である。ここでパーフロロアルキレン基としては、下記一般式(2a):
-C_(a) F_(2a)- (2a)
式中、aは、正の整数である、で表されるものを挙げることができ、特に炭素原子数が2?10の範囲のものが好適である。
【0019】またパーフロロオキシアルキレン基としては、下記一般式(2b)、(2c)及び(2d):
【化8】

で表されるものを例示することができ、特に炭素原子数が6?40の範囲のものが好適である。
【0020】ところで、前記一般式(2a)で表されるパーフロロアルキレン基は、一般的に言って剛直な性状を示し、このような基を有するケイ素化合物から形成される硬化皮膜は、硬く、高い強度を示すものの、曲げ応力に対して弱く、脆いものとなる場合がある。従って、本発明においては、上述した含フッ素有機基Rf^(2) のなかでは、特にエーテル結合を含有するパーフロロオキシアルキレン基が好適である。
【0021】また一般式(2)中、Y^(2) はアルキレン基であり、該基中には、一般式(1)におけるY^(1) と同様、基内にエステル結合、エーテル結合、アミン結合、ケトン結合及びアミド結合を含有していてもよい。さらに、この基が大きくなると、フッ素化合物の特徴である撥水性、撥油性、耐薬品性などの性能が低下する恐れがあることもY^(1) と同様であり、炭素原子数が10以下のものが好適である。
【0022】さらにX^(2) は、一般式(1)におけるX^(1) と同様の加水分解性基であり、X^(1)について例示したものと同様の基を例示することができ、また一価の炭化水素基R^(2) に関しても、一般式(1)におけるR^(1) と同様の基を挙げることができる。nは、1?3の整数であり、一般式(1)と同様、加水分解性基X^(2) は必須の基であるが、炭化水素基R^(2) は、必須の基ではない。
【0023】本発明において、上記の一般式(1)で表されるシラン化合物として代表的なものは、これに限定されるものではないが、以下の通りであであり、これらは1種単独でも2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【化9】



(1E)
「【0024】硬化性組成物
本発明の硬化性組成物は、上記の(A)成分のシラン化合物と(B)成分のシラン化合物とを均一に混合することによって調製される。これら成分の配合比は、通常、重量基準で、
A/B=0.1/99.9?80/20
特に、5/95?50/50
の範囲内に設定される。この範囲よりも成分(A)のシラン化合物が多量に使用されると、膜強度の低下並びに接着力が低下する傾向があり、また該シラン化合物の使用量が上記範囲よりも少量である場合には、撥水、撥油性が低下する傾向がある。」

(1F)
「【0030】本発明の硬化性組成物は、常温での硬化により、撥水性、撥油性、耐溶剤性、耐薬品性、防汚性、耐候性等の含フッ素皮膜に特有の性質に加え、各種基材に対する接着性、及び強度等の特性に優れた硬化皮膜を形成することができる。従って、本発明の組成物は、建築分野、工業プラント、各種装置類などのコーティング剤あるいは塗料として有用である。また、各種金属、樹脂、コンクリート等に対する接着性に優れることから、特に外装材にコーティングした場合、長期にわたってその美観を保持することができる。さらに、本発明の硬化性組成物は、各種粉体、例えばシリカフィラー、石英粉末、セラミック粉末、金属粉末、さらには砂などの表面処理剤にも応用でき、撥水撥油性を付与できる等の効果がある。」

(1G)
「【0031】
【実施例】以下の例において、「部」は「重量部」を意味する。
【0032】実施例1
下記式:
C_(8) F_(17)CH_(2) CH_(2) Si(OCH_(3) )_(3)
で表されるシラン化合物 10部と、下記式:
【化11】

で表されるシラン化合物 90部を、メタキシレンヘキサフロライドに希釈溶解し、20重量%濃度の溶液を調製した。この溶液に、スライドガラスを30秒ディッピングした後、室温にて18時間放置して硬化皮膜を形成した。この皮膜の強度(鉛筆硬度)、並びにヘキサデカンおよび純水を皮膜上に1滴のせたときの接触角を測定した。結果を表1に示す。
【0033】実施例2
実施例1で用いた2種のシラン化合物に加えてさらにジブチルスズジラウレート0.2部を使用し、これら、メタキシレンヘキサクロライドで希釈溶解させ、50重量%濃度の溶液を調製した。この溶液をスライドガラス上に塗布し、室温にて6時間放置し、厚さ 100μm の硬化皮膜を形成させ、その物性を実施例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0034】実施例3
実施例2において、2種のシラン化合物の使用量をそれぞれ50部とした以外は実施例2と同様にして硬化皮膜を形成し、その物性を測定した。結果を表1に示す。
【0035】実施例4
下記式:
【化12】

で表されるシラン化合物 20部と、下記式:
【化13】

で表されるシラン化合物 80部を、メタキシレンヘキサフロライドに希釈溶解し、50重量%濃度の溶液を調製した。この溶液をスライドガラス上に塗布し、次いで120 ℃、30分で硬化させて、厚さ 100μm の硬化皮膜を形成させ、その物性を実施例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0036】実施例5
下記式:
【化14】

で表されるシラン化合物 20部と、下記式:
【化15】

で表されるシラン化合物 80部、及びジブチルスズジラウレート0.2部を混合し、メタキシレンヘキサフロライドに希釈溶解し、50重量%濃度の溶液を調製した。この溶液を用いて、実施例2と同様の方法で厚さ 100μm の硬化皮膜を形成させ、その物性を実施例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0037】実施例6
下記式:
【化16】


で表されるシラン化合物 20部と、下記式:
【化17】

で表されるシラン化合物 80部、及びジブチルスズジラウレート0.2部を混合し、酢酸エチルに希釈溶解し、50重量%濃度の溶液を調製した。この溶液を用いて、実施例2と同様の方法で厚さ 100μm の硬化皮膜を形成させ、その物性を実施例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0038】実施例7
下記式:
C_(8) F_(17)CH_(2) CH_(2) Si(OCH_(3) )_(3)
で表されるシラン化合物 30部と、下記式:
【化18】

で表されるシラン化合物 70部を、メタキシレンヘキサフロライドに希釈溶解し、50重量%濃度の溶液を調製した。この溶液を用いて、実施例2と同様の方法により、厚さ 100μm の硬化皮膜を形成させ、その物性を実施例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0039】比較例1
下記式:
【化19】

で表されるシラン化合物 100部に、ジブチルスズジラウレート0.2部を添加混合し、酢酸エチルで希釈溶解させ、50重量%濃度の溶液を調製した。この溶液をスライドガラス上に塗布し、室温にて6時間放置し、厚さ50μm の硬化皮膜を形成し、上述した実施例と同様にその物性を測定した。結果を表1に示す。
【0040】比較例2
実施例2において、下記式:
C_(8) F_(17)CH_(2) CH_(2) Si(OCH_(3) )_(3)
で表されるシラン化合物を使用しなかった以外は実施例2と全く同様にして(即ち、他のシラン化合物のみを使用)、厚さ 100μm の硬化皮膜を形成させ、その物性を測定した。結果を表1に示す。
【0041】比較例3
比較例2において、シラン化合物として、下記式:
【化20】

で表されるシラン化合物を用いた以外は、比較例2と同様にして厚さ 100μm の硬化皮膜を形成させ、その物性を測定した。結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】尚、上記の例において、各比較例は、以下のシラン化合物を用いた場合を例にとって、本発明例(実施例)と比較としたものである。
比較例1:片末端にのみ加水分解性シリル基を有するシラン化合物をのみを使用した例である。
比較例2:両末端に加水分解性シリル基を有するシラン化合物をのみを使用した例である。
比較例3:両末端に加水分解性シリル基を有するシラン化合物のみを使用した例であり、特に大きなパーフロロオキシアルキレン基を有するものを使用した例である。
【0044】上記の表1から明らかな通り、実施例1?7で得られた硬化皮膜は、何れも良好な撥水、撥油性を有し、また皮膜強度も高い(鉛筆硬度H以上)。これに対し、比較例1および3で得られた硬化皮膜は、撥水、撥油性は良好なものの、皮膜強度が弱い。また、比較例2で得られた硬化皮膜は、皮膜強度は強いが、撥水、撥油性(特に撥油性)が低下していることが理解される。」

(2)引用例2に記載の事項
(2A)
「【請求項1】
一般式(I)、(II)または(III)で示されるケイ素含有有機含フッ素ポリエーテル:
【化1】

[式中、
R^(a)の各々は、同一であっても異なっていてもよく、R^(b)の各々は、同一であっても異なっていてもよく、R^(a)及びR^(b)の一方は、水素原子を示し、他方はCH_(2)R^(f)基を示し{ここで、R^(f)は、炭素数1?16の直鎖或いは分岐鎖のフルオロアルキル基又はフルオロアルキルエーテル基を示す。}、R^(c)及びR^(d)の一方は、水素原子を示し、他方は炭素数1?16の直鎖或いは分岐鎖のアルキル基又はアルキルエーテル基を示す、
(但し、-(CHR^(a)CHR^(b)O)_(a1)-(CHR^(c)CHR^(d)O)_(a2)-は、-CHR^(a)CHR^(b)O-に対応する少なくとも1種のフッ素系エポキシ化合物(必須成分)と-CHR^(c)CHR^(d)O-に対応する少なくとも1種の非フッ素系エポキシ化合物(任意成分)の反応により得られるものであればよく、両方のエポキシ化合物を使用する場合には、その順序は問わない)
R^(1)は、炭素数1?16の直鎖或いは分岐鎖のフルオロアルキル基又はフルオロアルキルエーテル基、又は炭素数1?16の直鎖或いは分岐鎖のアルキル基又はアルキルエーテル基を示す。
a1は2以上の整数を表す。
a2は0以上の整数を表す。
OR^(2)は、O-C(O)N(H)またはO-C(O)を表し、R^(2)Oは、N(H)C(O)-OまたはC(O)-Oを表す。
R^(3)は、水酸基又は加水分解可能な置換基を表す。
R^(4)は、水素または1価の炭化水素基を表す。
lは、0または1を表す。
mは、同一又は異なり0または1以上の整数を表す。
nは、同一又は異なり1、2又は3を表す。
bは、2,3または4を示す。
R^(5)は、フッ素原子で置換されていてもよいb価の炭化水素基を示す。]
【請求項2】
一般式(IA):
【化2】

[式中、R^(a)、R^(b)、R^(c)、R^(d)、R^(1)、R^(3)、R^(4)、m、n、a1及びa2は前記に定義される通りである。]
で表され、平均分子量が3×10^(2)?1×10^(5)である請求項1記載のポリエーテル。
【請求項3】(省略)
【請求項4】(省略)
【請求項5】
平均分子量が5×10^(2)?1×10^(5)である請求項1?4のいずれかに記載のポリエーテルを含む表面処理組成物。」

(2B)
「【0063】
本発明では、上記のケイ素含有有機含フッ素ポリエーテルを、シーラントや塗料に添加配合したり、シーラントや塗料の硬化剤の一部または全部として配合して塗料組成物またはシーラント組成物を得ることができる。シーラントや塗料を構成するポリマーの種類は、何ら限定されないが、未反応のオイル成分がシーラントや塗膜の表面またはその周辺に移行し、汚れが付着しやすいという問題をもつシリコーン系ポリマーを挙げることができる。
【0064】
一方、ブリードアウトして汚れ付着の原因となる低分子ポリマー成分を抑制することができることから、シーラントや塗料を構成するポリマーとしては、リビング重合方法等により得られる分子量分布の狭い単分散ポリマーが好ましい。
【0065】
本発明における単分散ポリマーとは、ポリマーの重量平均分子量をM1 、数平均分子量をM2 と表したとき、M1 /M2 =1.1?1.3となるポリマーである。数値が小さい程、ポリマーの分子量分布が狭くなり、低分子ポリマー成分のブリードアウトが少なくなるため、より好ましい。」

(3)参考例1に記載の事項
(3A)
「【0002】
ペルフルオロ化された化合物は、撥水、撥油性もしくは物品の剥離性を向上する表面改質剤等として広く使用される。ガラス基材をはじめとする無機基材の撥水性向上のために、フルオロアルキル基を含む化合物やジメチルシロキサンなどの化合物をガラス表面に塗布する試みがなされている。
【0003】
このような化合物としては、たとえば下式(i)で表される化合物、および下式(ii)で表される化合物(ただし、式中のd、e、f、gは、それぞれ独立に1以上の整数を示す。)が知られている。
CF_(3)O-(CF_(2)CF_(2)O)_(d)-(CF_(2)O)_(e)-CF_(3)・・・(i)
CF_(3)O-(CF(CF_(3))CF_(2)O)_(f)-(CF_(2)O)_(g)-CF_(3)・・・(ii)
しかし、これらの化合物は基材と化学的な結合を形成することのできる官能基を有していない。したがって、長期の使用に際しては塗布された該化合物が失われ、潤滑性などの機能が消失するという問題があった。
【0004】
この課題を解決する化合物、特に無機材料表面の処理剤としては、一般に、ポリフルオロアルキル基含有シラン化合物または該化合物の部分加水分解縮合物と、アルコキシシラン化合物またはハロゲノシラン化合物とからなることが知られている。たとえば、末端基にシランカップリング基を有す化合物として下式(iii)(特許文献1および2参照)で表される化合物、下式(iv)(ダイキン社製;オプツール)(特許文献3参照)で表される化合物等が知られている。(ただし、式中のhは1以上の整数を示す。)
【0005】
CF_(3) (CF_(2) )_(7) (CH_(2) )_(2) Si(NCO)_(3)・・・(iii)
CF_(3)CF_(2)CF_(2)O-(CF_(2)CF_(2)CF_(2)O)_(h)-CF_(2)CF_(2)(CH_(2 ))_(3) Si(OCH_(3))_(3)・・・(iv)
【0006】
該化合物(iii)または化合物(iv)を無機材料、例えばガラス基材上に塗布した場合、化合物末端のシランカップリング基は基材表面に移行し、加水分解性基である基材上の水酸基、もしくは系中の水分によって分解してシラノール基となる。同部分は部分的に縮合してオリゴマーとなって、基材上に速やかに吸着して水素結合的に結合する。その後、基材上の水酸基と脱水縮合反応して強固な化学結合を形成する。
【0007】
このように、シランカップリング基は水酸基を有する材料とは強い吸着性と反応性を有すため、様々な用途で優れたコーティング剤として用いられる。さらに、形成する結合は一般的に化学結合と水素結合を有しており、熱応力などにも柔軟に対応できることが知られている(非特許文献1参照)。
【0008】
シランカップリング基が基材と結合を生じると、対極のフルオロアルキル基および/またはフルオロポリエーテル基は大気側に配列する。化合物(iii)の場合はペルフルオロオクチル基が配列して、撥水性を向上させる。具体的には自動車用ガラスの表面改質剤として用いられており、既往の文献では、剛直なペルフルオロアルキル基が配列することによって高い撥水、撥油性能を実現すると報告されている。
【0009】
しかし、付着した油脂汚れの除去性に関しては、これらの剛直なペルフルオロアルキル基は化合物(iv)に代表されるフルオロポリエーテル基に比べ性能が劣る。これはフルオロポリエーテル基の構造が、剛直なフルオロアルキル基を酸素が分断した柔軟なものであることが要因である。
フルオロポリエーテル基は柔軟で運動性に優れるため、表面に付着した油脂を容易にふき取ることができ、一方で撥水撥油性を保持することが出来る。しかし、化合物(iv)は炭素3原子に酸素が1原子という構造であるため、充分な性能を得るためにはhに大きな値であること、すなわち多数の繰り返し単位が必要であった。
【0010】
酸素含有率の高い他の繰り返し単位を持つものとしては上記の化合物が挙げられる。
(ただし、式中のi、j、kは、それぞれ独立に1以上の整数を示す。)
CF_(3)CF_(2)CF_(2)O-(CF(CF_(3))CF_(2)O)_(i)-CF(CF_(3))(CH_(2))_(3 )Si(OCH_(3))_(3)・・・(v)
(OCH_(3))_(3)Si(CH_(2))_(3)CF_(2)O-(CF_(2)CF_(2)O)_(j)-(CF_(2)O)_(k)-CF_(2)(CH_(2))_(3)Si(OCH_(3))_(3)・・・(vi)
【0011】
化合物(v)は主鎖の酸素含有率が大きいものの、側鎖であるCF_(3)が存在するため運動性が制限され、油脂のふき取り性は充分でない。一方で、化合物(vi)は酸素含有率も大きく、側鎖も持たないものの、安定性に問題がある。
【0012】
同フルオロポリエーテル部分はテトラフルオロエチレンの光酸化重合によって合成されるが、この際、(CF_(2)O)で表される部位の生成が不可避であり、一般的にj/kはほぼ1.0である。この(CF_(2)O)は酸触媒存在下、極めて容易に分解が進行することが報告されている(非特許文献2?4参照)。さらに、同フルオロポリエーテル部分はその製造法から、片方の末端に官能基を有すものを得ることが困難で、両方の末端に官能基を有すものとの混合物となる。したがって基材に塗布した場合、既に述べた撥水撥油、油脂ふき取り性を発現するフルオロポリエーテルを大気側に構成できないという問題があった。
【0013】
【特許文献1】特開2002-145645号公報
【特許文献2】特開平9-286639号公報
【特許文献3】特開2000-094567号公報
【非特許文献1】「接着の技術」,2002年,第22巻,第2号,第67頁
【非特許文献2】シー・トーネリら(C.Tonelli et al)、ジャーナル・オブ・フルオリンケミストリー (J.Fluorine Chem.),1999年,第95巻,第51頁-第70頁
【非特許文献3】ジェー・シェールス(J.Scheirs)著、現代フッ素ポリマー(Modern Fluoropolymers)、ジョン・ウイリィー・アンド・サンズ社(John Wiley & Sons Ltd.),1997年,第466頁-第468頁
【非特許文献4】ピー・エッチ・カサイ(P.H.Kasai)、マクロモレキュール(Macromolecules),1992年,第25巻,第6791頁」

(4)参考例2に記載の事項
(4A)
「【請求項3】
(i)下記式(A)
X_(m)R^(1)_(3-m)Si-Y-SiR^(1)_(3-m)X_(m) (A)
(式中、R^(1)は炭素数1?6の1価炭化水素基、Yはフッ素原子を1個以上含有する2価有機基、Xは加水分解性基、mは1、2又は3である。)
で示されるジシラン化合物又はその(部分)加水分解物
(ii)下記式(B)
Rf-SiX_(3) (B)
(式中、Rfはフッ素原子を1個以上含有する1価有機基、Xは加水分解性基である。)
で示されるフッ素原子置換有機基を含有する有機珪素化合物又はその(部分)加水分解物
からなり、上記(i)成分の含有率が60重量%以上100重量%未満である混合物を共加水分解したものを主成分として含有することを特徴とする保護被膜形成用コーティング剤組成物。」

(4B)
「【0059】
[合成例1]
撹拌機、コンデンサー及び温度計を備えた1リットルフラスコに、下記ジシラン化合物(I)29.9g(0.05モル)、及びt-ブタノール125gを仕込み、25℃で撹拌しているところに、0.1N酢酸水10gを10分かけて滴下した。更に25℃で20時間撹拌し、加水分解を終了し、ここに縮合触媒としてアルミニウムアセチルアセトナート2g、レベリング剤としてポリエーテル変性シリコーン1gを加え、更に30分間撹拌し、保護被膜形成用コーティング剤溶液(A)を得た。
この溶液に、エタノール670g、プロピレングリコールモノメチルエーテル40g、ジアセトンアルコール40gを加えて希釈し、保護被膜形成用コーティング剤溶液(A)-dを調製した。
(CH_(3)O)_(3)Si-C_(2)H_(4)-C_(6)F_(12)-C_(2)H_(4)-Si(OCH_(3))_(3) (I)
【0060】
[合成例2]
撹拌機、コンデンサー及び温度計を備えた2リットルフラスコに、下記ジシラン化合物(II)29.1g(0.05モル)、エタノール125gを仕込み、25℃で撹拌しているところに、陽イオン交換樹脂ピューロライト1gを加え、水10gを10分かけて滴下した。更に25℃で20時間撹拌し、加水分解を終了した。イオン交換樹脂を濾別した後、縮合触媒としてアルミニウムアセチルアセトナート2g、レベリング剤としてポリエーテル変性シリコーン1gを加え、更に30分間撹拌し、保護被膜形成用コーティング剤溶液(B)を得た。
この溶液に、エタノール650g、プロピレングリコールモノメチルエーテル50g、及びジアセトンアルコール50gを加えて希釈し、保護被膜形成用コーティング剤溶液(B)-dを得た。
(C_(2)H_(5)O)_(3)Si-C_(2)H_(4)-C_(4)F_(8)-C_(2)H_(4)-Si(OC_(2)H_(5))_(3) (II)
【0061】
[合成例3]
合成例1において、ジシラン化合物(I)の代わりに、ジシラン化合物(III)39.9g(0.05モル)を用いて、合成例1の(A)-dと同様に実施し、保護被膜形成用コーティング剤溶液(C)-dを得た。
(CH_(3)O)_(3)Si-C_(2)H_(4)-C_(10)F_(20)-C_(2)H_(4)-Si(OCH_(3))_(3) (III)
【0062】
[合成例4]
合成例1において、ジシラン化合物(I)の代わりに、ジシラン化合物(I)23.9g(0.04モル)とCF_(3)CH_(2)CH_(2)-Si(OCH_(3))_(3)(IV)2.2g(0.01モル)の混合物を用いて、合成例1の(A)-dと同様に実施し、保護被膜形成用コーティング剤溶液(D)-dを得た。
【0063】
[合成例5]
合成例1において、ジシラン化合物(I)の代わりに、ジシラン化合物(I)28.7g(0.048モル)とC_(8)F_(17)CH_(2)CH_(2)-Si(OCH_(3))_(3)(V)1.1g(0.002モル)の混合物を用いて、合成例1の(A)-dと同様に実施し、保護被膜形成用コーティング剤溶液(E)-dを調製した。
【0064】
[合成例6](比較例)
撹拌機、コンデンサー及び温度計を備えた3リットルフラスコに、ジシラン化合物(I)9.0g(0.015モル)、上記含Fシラン(V)11.4g(0.02モル)、Si(OCH_(3))_(4)2.3g(0.015モル)、及びt-ブタノール570gを仕込み、25℃で撹拌しているところに、1%塩酸水3.7gを加え、25℃で24時間撹拌し、保護被膜形成用コーティング剤溶液(F)を調製した。
【0065】
[合成例7](比較例)
撹拌機、コンデンサー及び温度計を備えた3リットルフラスコに、ジシラン化合物(VI)22.5g(0.025モル)、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン5.9g(0.025モル)、及びジアセトンアルコール520gを仕込み、10℃以下に維持しながら撹拌しているところに、1%酢酸水3.4gを10分間で滴下し、10℃以下で1時間、25℃で5日間撹拌した。その後、縮合触媒としてアルミニウムアセチルアセトナート1.1gを加え、保護被膜形成用コーティング剤溶液(G)を調製した。
(CH_(3)O)_(3)Si-C_(2)H_(4)CF(CF_(3))C_(8)F_(16)CF(CF_(3))C_(2)H_(4)-Si(OCH_(3))_(3) (VI)
【0066】
[合成例8](比較例)
撹拌機、コンデンサー及び温度計を備えた0.1リットルフラスコに、上記含Fシラン(V)2.84g(0.005モル)、上記含Fシラン(IV)7.2g(0.033モル)、Si(OC_(2)H_(5))_(4)2.6g(0.013モル)及びイソブタノール5gを仕込み、室温撹拌下0.2Nの酢酸水3gを5分かけて滴下した。更に、アセチルアセトナート0.1gを仕込み、室温で8時間撹拌し、加水分解縮合を終了させた。
この溶液10gに、ジアセトンアルコール15g、エタノール150g、及びポリエーテル変性シリコーン0.1gを加え、保護被膜形成用コーティング剤溶液(H)を調製した。
【0067】
[合成例9](比較例)
合成例1において、ジシラン化合物(I)の代わりに、ジシラン化合物(I)12.0g(0.02モル)と上記含Fシラン(V)17.0g(0.03モル)の混合物を用いて、以下合成例1の(A)と同様に実施し、保護被膜形成用コーティング溶液(J)を調製した。」

(4C)
「【0081】
[実施例4?8、比較例1?4]
PETフィルムに、上記合成例1?16で得られた保護層形成用コーティング剤溶液(M,P,Q,R,S)、高屈折率層形成用コーティング剤溶液(N,K)、保護被膜形成用コーティング剤溶液((A)-d,(B)-d,(C)-d,(D)-d,(E)-d,F,G,H,J)を順次塗装・硬化して積層体を作製した。これら積層体の被膜特性を上記した測定方法及び評価方法により確認した。結果を表2に示す。
【0082】
【表2】

【0083】
表2の結果から、本発明による保護被膜形成用コーティング剤組成物により得られる被膜は、耐擦傷性並びに耐薬品性が良好で、更に反射防止性も優れていることがわかる。」

(III)刊行物記載の発明

(1)引用例1記載の発明

(ア) 上記摘示事項(1A)によれば、引用例1には、「(A)下記一般式(1):
【化1】

式中、Rf^(1) は、パーフロロアルキル基またはパーフロロオキシアルキル基であり、
Y^(1) は、アルキレン基であり、基内に、エステル結合、エーテル結合、アミン結合、ケトン結合、アミド結合を含んでいてもよい、
X^(1) は、加水分解性基であり、
R^(1) は、非置換または置換一価炭化水素基であり、
mは、1?3の整数である、で表される有機ケイ素化合物、及び、
(B)下記一般式(2):
【化2】

式中、Rf^(2) は、パーフロロアルキレン基またはパーフロロオキシアルキレン基であり、
Y^(2) は、アルキレン基であり、基内に、エステル結合、エーテル結合、アミン結合、ケトン結合、アミド結合を含んでいてもよい、
X^(2) は、加水分解性基であり、
R^(2) は、非置換または置換一価炭化水素基であり、
nは、1?3の整数である、で表される有機ケイ素化合物、を含有して成り、
成分(A)の有機ケイ素化合物と成分(B)の有機ケイ素化合物とは、
A/B=0.1/99.9?80/20(重量比)
の割合で使用されている常温硬化性組成物」が記載されていると認められる。
そして、「A/B=0.1/99.9?80/20(重量比)」とは、成分(A)の総質量に対する成分(B)の総質量の割合で表すと、25?99900質量%である。

(イ) 上記摘示事項(1C)の【0011】によれば、引用例1の一般式(1)中のRf^(1)であるパーフロロオキシアルキル基として、一般式(1b)?(1d):
【化5】

で表されるものを例示することができ、特に炭素原子数が3?15の範囲のものが好適であることが分かる。

(ウ) 上記摘示事項(1D)の【0019】によれば、引用例1の一般式(2)中のRf^(1)であるパーフロロオキシアルキル基として、一般式(2b)、(2c)及び(2d):
【化8】

で表されるものを例示することができ、特に炭素原子数が6?40の範囲のものが好適であることが分かる。

(エ) 上記摘示事項(1F)によれば、引用例1の常温硬化性組成物は、「外装材にコーティングした場合、長期にわたってその表面の美観を保持することができる」ものであるから、表面処理剤であるといえ、また、「各種粉体、例えばシリカフィラー、石英粉末、セラミック粉末、金属粉末、さらには砂などの表面処理剤」としての用途も明記されている。

上記(ア)ないし(エ)の検討事項より、引用例1には、
「(A)下記一般式(1):
【化1】

式中、Rf^(1) は、パーフロロアルキル基またはパーフロロオキシアルキル基であって、一般式(1b)?(1d):
【化5】

で表されるものを例示することができ、特に炭素原子数が3?15の範囲のものが好適であり、
Y^(1) は、アルキレン基であり、基内に、エステル結合、エーテル結合、アミン結合、ケトン結合、アミド結合を含んでいてもよい、
X^(1) は、加水分解性基であり、
R^(1) は、非置換または置換一価炭化水素基であり、
mは、1?3の整数である、で表される有機ケイ素化合物、及び、
(B)下記一般式(2):
【化2】

式中、Rf^(2) は、パーフロロアルキレン基またはパーフロロオキシアルキレン基であって、一般式(2b)、(2c)及び(2d):
【化8】

で表されるものを例示することができ、特に炭素原子数が6?40の範囲のものが好適であり、
Y^(2) は、アルキレン基であり、基内に、エステル結合、エーテル結合、アミン結合、ケトン結合、アミド結合を含んでいてもよい、
X^(2) は、加水分解性基であり、
R^(2) は、非置換または置換一価炭化水素基であり、
nは、1?3の整数である、で表される有機ケイ素化合物、を含有して成り、
成分(A)の有機ケイ素化合物の総質量に対する成分(B)の有機ケイ素化合物の総質量の割合は25?99900質量%である表面処理剤。」(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(IV)対比・検討

本願発明と引用発明とを対比する。
○引用発明の「一般式(1)で表される有機ケイ素化合物」と本願発明の「式(A)で表される化合物」、「化合物(A)」とは、加水分解性シリル基を一つ有する化合物である点で一致する。

○引用発明の「一般式(2)で表される有機ケイ素化合物」と本願発明の「式(B1)で表される化合物」、「式(B2)で表される化合物」、「化合物(B)」とは、加水分解性シリル基を複数有する化合物である点で一致する。

上記より、本願発明と引用発明とは、
「加水分解性シリル基を一つ有する化合物および加水分解性シリル基を複数有する化合物を必須成分とする表面処理剤。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
加水分解性シリル基を一つ有する化合物が、本願発明では、
「R^(F1)O(CF_(2)CF_(2)O)_(a)CF_(2)-(Q)_(b)(-(CH_(2))_(d)-SiL_(p)R_(3-p))_(c) (A)。
ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
R^(F1):炭素数1?20のペルフルオロ1価飽和炭化水素基、または、炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入された炭素数2?20のペルフルオロ1価飽和炭化水素基でありかつ-OCF_(2)O-構造が存在しない基。
a:5?25の整数。
b:0または1。
Q:bが0である場合にはQは存在せず、bが1である場合にはQは-CONH-、-CH_(2)OCONH-、-CH_(2)O-、-CF_(2)O-または-C(O)N=(ただし、Nからのびる=は二重結合ではなく、2つの単結合であることを意味する。)。
c:Qが存在しないまたはQが-CONH-、-CH_(2)OCONH-、-CH_(2)O-または-CF_(2)O-である場合のcは1、Qが-C(O)N=である場合のcは2。
d:2?6の整数。
L:モノオールから水酸基の水素原子を除いた有機基、ハロゲン原子、アシル基、イソシアネート基、またはアミン化合物からアミノ基の水素原子を除いた有機基。
R:水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、またはアリール基。
p:1?3の整数。」であり、及び、「分子量分布(Mw/Mn)が、1.05?1.3」であるのに対し、引用発明では、
「一般式(1):
【化1】

式中、Rf^(1) は、パーフロロアルキル基またはパーフロロオキシアルキル基であって、一般式(1b)?(1d):
【化5】

で表されるものを例示することができ、特に炭素原子数が3?15の範囲のものが好適であり、
Y^(1) は、アルキレン基であり、基内に、エステル結合、エーテル結合、アミン結合、ケトン結合、アミド結合を含んでいてもよい、
X^(1) は、加水分解性基であり、
R^(1) は、非置換または置換一価炭化水素基であり、
mは、1?3の整数である」であり、及び、「分子量分布(Mw/Mn)が、1.05?1.3」であるか明らかでない点。

<相違点2>
加水分解性シリル基を複数有する化合物が、本願発明では、
「X^(2)-CF_(2)O(CF_(2)CF_(2)O)_(u)CF_(2)-X^(2) (B1)、
[R^(F3)O(CF_(2)CF_(2)O)_(v)-]_(z)Y[-O(CF_(2)CF_(2)O)_(w)CF_(2)-X^(3)]_(x) (B2)。
ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
X^(2)、X^(3):それぞれ独立に、下式(X1)で表される基?下式(X7)で表される基から選ばれるいずれかの基を示す(ただし、L、R、およびpは前記と同じ意味を示す。)。
-C(O)NHCH_(2)CH_(2)CH_(2)SiL_(p)R_(3-p) (X1)、
-CH_(2)OC(O)NHCH_(2)CH_(2)CH_(2)SiL_(p)R_(3-p) (X2)、
-CH_(2)OCH_(2)CH_(2)CH_(2)SiL_(p)R_(3-p) (X3)、
-CF_(2)OCH_(2)CH_(2)CH_(2)SiL_(p)R_(3-p) (X4)、
-CH_(2)CH_(2)SiL_(p)R_(3-p) (X5)、
-CH_(2)CH_(2)CH_(2)SiL_(p)R_(3-p) (X6)、
-C(O)N(CH_(2)CH_(2)CH_(2)SiL_(p)R_(3-p))_(2) (X7)。
R^(F3):炭素数1?20のペルフルオロ1価飽和炭化水素基、または、炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入された炭素数2?20のペルフルオロ1価飽和炭化水素基でありかつ-OCF_(2)O-構造が存在しない基。
Yは、(x+z)価のペルフルオロ化飽和炭化水素基、または炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入された(x+z)価のペルフルオロ化飽和炭化水素基でありかつ-OCF_(2)O-構造が存在しない基。
u、v、w:それぞれ独立に、5?50の整数。
x、z:xは2以上の整数であり、zは0以上の整数であり、(x+z)は、3?5の整数であり、zが2以上である場合のR^(F3)O(CF_(2)CF_(2)O)_(v)-で表される基は、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、xが2以上である場合の-O(CF_(2)CF_(2)O)_(w)CF_(2)-X^(3)で表される基は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。」であるのに対し、引用発明では、
「一般式(2):
【化2】

式中、Rf^(2) は、パーフロロアルキレン基またはパーフロロオキシアルキレン基であって、一般式(2b)、(2c)及び(2d):
【化8】

で表されるものを例示することができ、特に炭素原子数が6?40の範囲のものが好適であり、
Y^(2) は、アルキレン基であり、基内に、エステル結合、エーテル結合、アミン結合、ケトン結合、アミド結合を含んでいてもよい、
X^(2) は、加水分解性基であり、
R^(2) は、非置換または置換一価炭化水素基であり、
nは、1?3の整数である」である点。

<相違点3>
加水分解性シリル基を一つ有する化合物の総質量に対する加水分解性シリル基を複数有する化合物の総質量の割合が、本願発明では、「0.1?50質量%」であるのに対し、引用発明では「25?99900質量%」である点。

以下、上記相違点について順次検討する。
<相違点1>について
引用発明の一般式(1)中のRf^(1)の具体例として、一般式(1b)が選択でき、その場合、炭素原子数は3?15の範囲であるものが好適であるとされているから、一般式(1)において一般式(1b)を選択したとき、炭素原子数に関して、(3+2a+b=3?15)という関係式が得られ、a、bは任意であると解するのが自然であるから、b=0も選択肢として包含され、その場合、a=0?6となる。
そして、さらに、Y^(1)のアルキレン基が、基内にエーテル結合等を含んでいない炭素数2?6のもの、または、炭素数7であって基内にエーテル結合を含んだものであり、X^(1)の加水分解性基が、モノオールから水酸基の水素原子を除いた有機基、または、アシル基(上記摘示事項(1C)【0013】参照)であり、R^(1)の非置換または置換一価炭化水素基が、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、または、アリール基(上記摘示事項(1C)【0014】参照)であるとき、本願発明の式(A)のP^(F1)が炭素数2のペルフルオロ1価飽和炭化水素基であり、b=0もしくはb=1であってQが-CH_(2)O-である場合に相当する。
とするならば、本願発明の式(A)と引用発明の一般式(1)とは重複一致し、その限りで実質的に相違するものでなく、したがって、上記相違点1は、実質的には、分子量分布の特定の有無となる。
そして、この点について検討すると、ケイ素含有有機含フッ素ポリエーテルを含む表面処理組成物に関する発明(上記摘示事項(2A)参照)が記載されている引用例2の上記摘示事項(2B)には、「ブリードアウトして汚れ付着の原因となる低分子ポリマー成分を抑制することができることから、・・塗料を構成するポリマーとしては、・・分子量分布の狭い単分散ポリマーが好ましい。」、「単分散ポリマーとは、ポリマーの重量平均分子量をM1、数平均分子量をM2と表したとき、M1/M2=1.1?1.3となるポリマーである。」ことが記載されており、表面処理組成物の成分であるケイ素含有有機含フッ素ポリエーテルの分子量分布が1.1?1.3のものを選択することが汚れ付着防止の観点から好適であることが、本願出願前公知であったことが理解される。
そして、汚れ付着防止は、表面処理剤である引用発明でも当然に求められる技術課題であるから、引用発明において、ケイ素含有有機含フッ素ポリエーテルである一般式(1)で表される有機ケイ素化合物の分子量分布を1.1?1.3の範囲であるようにすることは、当業者であれば容易に想到しうることである。
したがって、上記相違点1に係る構成は、引用例発明及び引用例2記載の事項に基いて当業者が容易に発明することができたものである。

〔なお、参考例1の上記摘示事項(3A)【0011】によれば、
CF_(3)CF_(2)CF_(2)O-(CF(CF_(3))CF_(2)O)_(i)-CF(CF_(3))(CH_(2))_(3) Si(OCH_(3))_(3)・・・(v)
である化合物(v)は主鎖の酸素含有率が大きいものの、側鎖であるCF_(3)が存在するため運動性が制限され、油脂のふき取り性は充分でないとの知見が公知であったことが理解されるところ、引用発明も、上記摘示事項(1b)の【0006】によれば、撥油性等が求められるものであるから、この点においては、側鎖のCF_(3)が存在する一般式(1c)、(1d)よりも、側鎖のCF_(3)が存在しない一般式(1b)の方が好適であることは自明であり、例示されている3つの一般式の中で、特に一般式(1b)に着目することが、当業者にとって自然であるといえる点を付記する。〕

<相違点2>について
引用発明の一般式(2)中のRf^(2)の具体例として、一般式(2b)が選択でき、その場合、炭素原子数は6?40の範囲であるものが好適であるとしているから、一般式(2)において一般式(2b)を選択したとき、炭素原子数として、(2+2a+b=6?40)という関係式が得られ、a、bは任意であると解するのが自然であるから、b=0も選択肢として包含され、その場合、a=2?19となる。
そして、さらに、Y^(2)のアルキレン基が、基内にエーテル結合等を含んでいない炭素数2?3のもの、または、炭素数4であって基内にエーテル結合を含んだものであり、X^(2)の加水分解性基が、モノオールから水酸基の水素原子を除いた有機基、または、アシル基(上記摘示事項(1D)【0022】参照)であり、R^(2)の非置換または置換一価炭化水素基が、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、または、アリール基(上記摘示事項(1D)【0022】参照)であるとき、本願発明の式(B1)であって、式(X3)、(X5)、(X6)が選択された場合に相当する。
したがって、本願発明の式(B)と引用発明の一般式(2)とは重複一致し、その限りで、両発明は、上記相違点2に係る構成で実質的に相違するものでない。

<相違点3>について
加水分解性シリル基を一つ有する化合物の総質量に対する加水分解性シリル基を複数有する化合物の総質量の割合に関し、引用発明は、本願発明で規定される「0.1?50質量%」と重複する「25?99900質量%」の範囲が許容されるから、両発明は、「25?50質量%」の範囲が許容される点で実質的に相違しない。

また、上記摘示事項(1E)によると、引用発明において、一般式(1)〔(A)成分〕のシラン化合物を多量に配合する〈その場合、一般式(2)〔(B)成分〕のシラン化合物が少なすぎる〉と、膜強度の低下並びに接着力が低下する傾向にあり、逆に一般式(1)〔(A)成分〕のシラン化合物の使用量が少量である〈その場合、一般式(2)〔(B)成分〕のシラン化合物が多すぎる〉と、撥水、撥油性が低下する傾向にあることが理解されるから、要は、引用発明において、加水分解性シリル基を一つ有する化合物の総質量に対する加水分解性シリル基を複数有する化合物の総質量の割合は、撥水・撥油性の向上と、膜強度・接着力の向上という2つの効果のバランスを考慮して適宜調整しうる事項であることが理解される。とするならば、引用発明において、表面処理剤に求められる特性に応じ、許容される範囲である「25?99900質量%」の中で、撥水・撥油性の一層の向上を図るため、加水分解性シリル基を一つ有する化合物の総質量を多くする(その場合、加水分解性シリル基を一つ有する化合物の総質量に対する加水分解性シリル基を複数有する化合物の総質量の割合は小さくなる。)ことは、当業者が適宜なし得ることでしかなく、また、本願明細書を参酌しても、加水分解性シリル基を一つ有する化合物の総質量に対する加水分解性シリル基を複数有する化合物の総質量の割合として、50質量%という数値に臨界的意義は認められない。

<効果>について
本願発明が奏する作用効果は、本願明細書の【0017】によれば、「撥水撥油性、油脂汚れの除去性に優れ、酸触媒の存在かつ高温条件下において劣化耐性に優れた塗膜を形成できる」ことにある。
そして、本願発明は、主に、「化合物(A)及び化合物(B)ともに、ペルフルオロポリエーテル基部位がテトラフルオロエチレンオキサイドのみを繰り返し単位として有すること」、及び、「化合物(A)(加水分解性シリル基を一つ有する化合物)と化合物(B)(加水分解性シリル基を複数有する化合物)とを併用すること」により、上記の作用効果を奏するものと理解される。
しかしながら、上記摘示事項(3A)によれば、テトラフルオロエチレンオキサイドのみを繰り返し単位として有するものが酸触媒の存在かつ高温条件下において劣化耐性に優れることや油脂汚れの除去性に優れることが本願出願前既知の技術事項であることが理解されるから、本願発明において、ペルフルオロポリエーテル基部位をテトラフルオロエチレンオキサイドのみを繰り返し単位として有するものに限定したことにより得られるとされる効果を、予期せぬものとは認められない。
次に、本願明細書の実施例(比較例)を参照すると、確かに、化合物(B)のみを用いた例11(比較例)では、撥水撥油性が劣り、また、構造が不明な市販品(ダイキン工業社製 オプツールDSX)のみを用いた例12(比較例)では、耐摩擦性、耐アルカリ性が劣り、化合物(A)と化合物(B)とを併用することで、撥水撥油性及び耐久性(耐摩耗性、耐アルカリ性)がともに優れることが確認されている。しかしながら、引用例1の上記摘示事項(1G)の【0042】【表1】及び【0043】を参照すると、本願発明の化合物(A)、(B)と類似する(加水分解性基の数が同等の)2種の化合物が併用された実施例と比較して、本願発明の化合物(A)と類似する化合物のみを用いた比較例1では皮膜強度が劣り、また、本願発明の化合物(B)と類似する化合物のみを用いた比較例2では撥水撥油性が劣り、両者を併用することで撥水撥油性を有し、かつ、皮膜強度も高い硬化皮膜が得られることが確認されている(さらに、上記摘示事項(1C)の【0006】によれば、当該硬化皮膜が各種基材との接着性に優れることも認識されている。)。さらに、ジシラン化合物と有機珪素化合物の混合物を共加水分解したものを主成分とする保護被膜形成用コーティング剤組成物に関する発明(上記摘示事項(4A)参照)が記載されている参考例2の上記摘示事項(4B)及び(4C)の【0082】【表2】によれば、本願発明の化合物(B)と同様に加水分解性基を複数有するジシラン化合物(I)?(III)のみを用いた実施例4?6、及び、ジシラン化合物(I)に本願発明の化合物(A)と同様に加水分解性基を一つ有する含Fシラン(IV)?(V)を少量混合して用いた実施例7、8では、耐擦傷性、及び、耐薬品性、特に「0.1N NaOH」、すなわちアルカリに対して良好な耐性を示したのに対し、含Fシラン(IV)?(V)のみが用いられた比較例3では、耐擦傷性、及び、耐アルカリ性がともに劣ることが確認されている。
このように、加水分解性基を一つ有する化合物と加水分解性基を複数有する化合物をバランス良く併用したとき、それぞれの化合物がもつ良好な特性を毀損することなく、全体として特性が向上する、つまり、皮膜強度・耐擦傷性(耐摩耗性)、耐アルカリ性及び撥水撥油性のそれぞれが良好となることは、本願出願前既知の技術事項(効果)にすぎないので、本願明細書の実施例(比較例)で確認されている化合物(A)、(B)を併用する効果も、当業者にとって予期せぬこととは認められない。

(V)審判請求人の主張について
審判請求人は、平成28年3月2日付け意見書において、以下の点を挙げて、本願発明の非容易想到性を主張している。
a.引用例1の一般式(1)、一般式(2)は、本願発明の式(A)、式(B1)と重複する範囲があるものの、無数の他の選択肢を包含している。
b.平成27年12月18日付け拒絶理由通知において、引用例1、参考例2記載の事項によれば「化合物(A)、(B)それぞれの配合比を調整することで、上記の皮膜強度(耐摩耗性)や耐薬品性のそれぞれが良好な表面処理剤が得られるということは、当業者にとって予期せぬこととは認められない。」と認定しているが、引用例1の実施例で用いられた(A)類似化合物、(B)類似化合物は、ペルフルオロポリエーテル基が-(CF_(2)CF_(2)O)-単位のみからなる化合物ではなく、また、参考例2の実施例で用いられた(A)類似化合物、(B)類似化合物は、ペルフルオロポリエーテル基を有しておらず、本願発明の化合物(A)、化合物(B)とは構造の一部が異なる化合物であるところ、構造の一部が異なる化合物の間では、同じような特性が得られるとは限らないことは、化学分野における一般常識である。
c.引用例1、参考例2の実施例の結果からは、単純に(B)類似化合物を多くすれば、塗膜の耐摩耗性、耐アルカリ性が向上する傾向が見られるが、平成26年9月17日付け審判請求書に添付した実験成績証明書に示すように、化合物(A)のみでは密着性(塗膜の耐摩耗性、耐アルカリ性)が不充分であるだけではなく、化合物(B)のみでも密着性(塗膜の耐摩耗性、耐アルカリ性)が不充分という結果が出ている。

まず、上記a.について検討すると、審判請求人が認めるように、少なくとも本願発明の式(A)、式(B1)と引用発明の一般式(1)、一般式(2)とは重複一致する範囲(態様)を有することから、引用例1には、本願発明の式(A)、式(B1)の構成が記載されていると認められる。しかも、分子中のペルフルオロポリエーテル基部位がテトラフルオロエチレンオキシドのみを繰り返し単位として有すること及びその有利な点は、上記摘示事項(3A)によれば、参考例1に記載の公知事項にすぎないから、引用例1において、引用発明の一般式(1)、一般式(2)における一般式(1b)、一般式(2b)の中には、本願発明の式(A)、式(B1)と重複しない選択肢が包含されるものの、少なくとも本願の優先日前の当業者にとって、引用発明の一般式(1)、一般式(2)における一般式(1b)、一般式(2b)には、テトラフルオロエチレンオキシドのみを繰り返し単位とする、すなわち、a≠0、b=0のものが具体的に含まれていると認識できることは明らかである。とするならば、上記a.の点は、結論を左右するものでない。
次に、上記b.について検討する。確かに、審判請求人がいうように、化学分野においては、構造の一部が異なることで、予期し得ない結果が奏されることもあるから、実際に構造を変えて実験し、その差異により奏される予期せぬ効果が立証されれば、進歩性を肯定する有力な証拠となり得るが、本願明細書では、例11(比較例)として、化合物(B)のみを用いた実験例が開示され、また、例12(比較例)として、構造が不明な市販の化合物(ダイキン工業社製 オプツールDSX)のみを用いた実験例が開示されているにすぎず、これらから、ペルフルオロポリエーテル基が-(CF_(2)CF_(2)O)-単位のみからなる化合物であるか否かによる効果の差異まで検討されているとは認められず、本願明細書において、具体的に検討していると認められる範囲は、加水分解性シリル基の数が異なる化合物を二種類併用するか、どちらか一種類のみ用いるかによる効果の相違のみである。そして、このような加水分解性シリル基の数の相違により奏されることが確かめられている作用効果は、引用例1の実施例にかかわらず、上記(IV)の「<効果>について」で検討したとおり、引用例1、参考例2に記載の事項から容易に想到しうる範囲である。したがって、少なくとも、本願明細書中で客観的に検討され、把握できる範囲の効果については、「当業者にとって予期せぬこととは認められない」との認定に誤りはない。
次に、上記c.について検討する。審判請求人は、実験成績証明書を示し、「化合物(A)のみでは密着性(塗膜の耐摩耗性、耐アルカリ性)が不充分であるだけではなく、化合物(B)のみでも密着性(塗膜の耐摩耗性、耐アルカリ性)が不充分」との結果を示した。まず、「化合物(A)のみでは密着性(塗膜の耐摩耗性、耐アルカリ性)が不充分」については、上記(IV)の「<効果>について」で検討したとおり、引用例1、参考例2の実施例の結果より公知の事項である。また、「化合物(B)のみでも密着性(塗膜の耐摩耗性、耐アルカリ性)が不充分」については、本願明細書の【0168】【表1】で、例11(比較例)の耐摩耗性、耐アルカリ性の欄が「-」とされているように、本願明細書中で、具体的に検討されていない事項である。また、同【0077】で、「化合物(B)を用いることにより、表面処理剤から得られる塗膜と基材との密着性を向上させうる。」と記載されているように、本願明細書中では、化合物(B)は密着性向上を目的として配合するものと認識されていたと認められ、化合物(B)のみでは「密着性(塗膜の耐摩耗性、耐アルカリ性)が不充分」になるとの技術事項が開示されているとは認められないし、また、本願出願時の技術水準であったとも認められない。とするならば、実験成績証明書を示された「化合物(B)のみでも密着性(塗膜の耐摩耗性、耐アルカリ性)が不充分」になるとの技術事項は、当初明細書の記載に基づかないものであるから、参酌することはできない。

よって、審判請求人のいずれの主張も参酌することができない。

(VI)当審の判断のまとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用例2に記載の事項(効果についてはさらに参考例1、2も参照)に基いて当業者であれば容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができるものでない。

第5 むすび

したがって、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、特許法第49条第2号の規定に該当し、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり、審決する。
 
審理終結日 2016-06-09 
結審通知日 2016-06-14 
審決日 2016-06-27 
出願番号 特願2009-522631(P2009-522631)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C07F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 天野 皓己  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 岩田 行剛
橋本 栄和
発明の名称 表面処理剤および物品  
代理人 志賀 正武  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 鈴木 三義  
代理人 柳井 則子  
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