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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B29C
審判 全部申し立て 2項進歩性  B29C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B29C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B29C
管理番号 1318072
異議申立番号 異議2016-700477  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-09-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-05-24 
確定日 2016-08-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第5820571号発明「金属調樹脂組成物及び金属調樹脂成形品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5820571号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5820571号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成22年4月9日に特許出願され、平成27年10月9日に特許権の設定登録がされ、同年11月24日にその特許公報が発行され、その後、平成28年5月24日に特許異議申立人中川賢治(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第5820571号の請求項1?3に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明3」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】ABS系樹脂とポリカーボネートとを混合してなるアロイ樹脂に対して、平均粒径が5?30μmのアルミフレークと、該アルミフレークよりも明度の高い、粒度が5?500μmのパール調顔料とが、それぞれ0.1?5重量%の割合で配合されてなることを特徴とする金属調樹脂組成物。
【請求項2】請求項1に記載の金属調樹脂組成物を用いて得られた、表面が鏡面化されてなる射出成形品にて、構成されていることを特徴とする金属調樹脂成形品。
【請求項3】請求項1に記載の金属調樹脂組成物を用いて射出成形するに際し、成形キャビティのキャビティ面が鏡面研磨されてなる成形用金型を用い、該成形用金型の成形キャビティ内に前記金属調樹脂組成物を射出することにより、前記鏡面研磨されたキャビティ面が転写されて、鏡面化された表面を有する成形品を得ることを特徴とする金属調樹脂成形品の製造方法。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人が申し立てた取消理由の概要は以下のとおりである。

1 特許法第29条第1項第3号(以下「理由1」という。)
本件発明1?3は、本件出願前に頒布された以下の甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
本件発明1?3は、本件出願前に頒布された以下の甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
よって、本件発明1?3に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

甲第1号証:特開2003-73557号公報
甲第2号証:特開2001-113571号公報
(以下、それぞれ「甲1」、「甲2」という。)

2 特許法第29条第2項(以下「理由2」という。)
本件発明1?3は、本件出願前に頒布された以下の甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
本件発明1?3は、本件出願前に頒布された以下の甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
本件発明1?3は、本件出願前に頒布された以下の甲第1号証(主引用例)に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
本件発明1?3は、本件出願前に頒布された以下の甲第2号証(主引用例)に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件発明1?3に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

甲第1号証:特開2003-73557号公報
甲第2号証:特開2001-113571号公報
(以下、上記1と同じく、それぞれ「甲1」、「甲2」という。)

3 特許法第36条第4項第1号(以下「理由3」という。)
発明の詳細な説明は、以下(i)及び(ii)の点で、当業者が本件発明1?3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。
よって、本件発明1?3についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

(i)請求項1には「アルミニウムフレークよりも明度の高い・・・パール調顔料」との記載があるが、発明の詳細な説明には「明度」についての定義はなく、それを測定する方法や測定機器及びその評価法や基準も説明されていない。よって、当該請求項1に係る発明は発明の詳細な説明中に当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。
また、請求項2及び3は請求項1を引用しているので、前記請求項1と同様な理由により発明の詳細な説明中に当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

(ii)前記「明度」の値についての記載がなく、アルミニウムフレーク及びパール調顔料にどの程度の明度が必要であり、かつそれらの明度差がどの程度あれば目的が達成できるのかについて、発明の詳細な説明中に当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

4 特許法第36条第6項第2号(以下「理由4」という。)
本件発明1?3は、以下(i)?(iii)の点で、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえないから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。
よって、本件発明1?3についての特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

(i)請求項1には「アルミニウムフレークよりも明度の高い・・・パール調顔料」との記載があるが、どのように定義される又は測定結果・評価結果による明度なのか不明であるから、当該請求項1に係る発明は明確でない。
また、請求項2及び3は請求項1を引用しているので、前記請求項1と同様な理由により明確でない。

(ii)本件発明の目的を達成し作用効果を奏するためには、アルミニウムフレークやパール調顔料の明度に一定以上の差があることが必要であると推測されるが、請求項1には単に「高い」とだけ記載されており、これでは請求項1に係る発明は明確であるとはいえない。
また、請求項2及び3は請求項1を引用しているので、前記請求項1と同様な理由により明確とはいえない。

(iii)請求項2は樹脂成形品という物に関する発明であるが、請求項2には「表面が鏡面化されてなる」という製造方法が記載されている。当該記載は、「樹脂成形品」の構造又は特性を直接特定することが不可能又は実際的でないという事由が存在しない。それゆえ、請求項2に係る発明は明確でない。

第4 当審の判断
事案に鑑み、理由4、同3、同1、同2の順に判断する。

1 理由4について

(1)特許異議申立人の主張
上記第3の4(i)?(iii)に記載したとおりである。

(2)本件発明1について

ア(ア)特許異議申立人は、(i)の主張において、請求項1には「アルミニウムフレークよりも明度の高い・・・パール調顔料」との記載があるが、どのように定義される又は測定結果・評価結果による明度なのか不明であるから、当該請求項1に係る発明は明確でない、と主張している。

(イ)請求項1の記載は、上記第2に示したとおり、
「ABS系樹脂とポリカーボネートとを混合してなるアロイ樹脂に対して、平均粒径が5?30μmのアルミフレークと、該アルミフレークよりも明度の高い、粒度が5?500μmのパール調顔料とが、それぞれ0.1?5重量%の割合で配合されてなることを特徴とする金属調樹脂組成物」
であり、請求項1においては、パール調顔料の明度がアルミフレークの明度よりも高いことが特定されている。
請求項1には、明度の定義や測定方法は記載されていない。
そこで、本件発明1において、パール調顔料の明度がアルミフレークの明度よりも高いことが、どのようなことを意味し、どのように測定できるのかを検討する。

(ウ)まず、明度は、一般には、市販されている色彩計により、測定対象物の色相、明度及び彩度を測定する際に、得られる数値である。
もっとも、本件発明1においては、アルミフレーク及びパール調顔料の何れも、樹脂組成物の配合成分であり、これが配合された樹脂組成物を用いて成形される樹脂成形品に金属調の外観を与える、いわゆる光輝性顔料である(上記第2の本件発明2及び3参照)。顔料は、粉体であって、樹脂組成物に配合される前の空気中で観察される外観(色相、明度及び彩度)と、樹脂組成物のマトリックス樹脂に配合された状態又は樹脂成形品のマトリックス樹脂に分散している状態での外観とは、異なり、配合量によってもその外観が異なることが、当業者には自明である。
したがって、請求項1に記載された明度が、配合前のアルミフレーク及びパール調顔料の粉体の、空気中で測定される明度を意味しているとは、考え難い。
請求項1では、マトリックス樹脂(ABS系樹脂とポリカーボネートとを混合してなるアロイ樹脂)とアルミフレーク及びパール調顔料の配合量(それぞれ0.1?5重量%の割合)が特定されているので、当業者であれば、アルミニウムフレーク及びパール調顔料の明度は、樹脂組成物のマトリックス樹脂に想定される特定の配合量で配合された状態、又は樹脂成形品のマトリックス樹脂に想定される特定の配合量で分散している状態での明度を意味すると考えると、推認される。

(エ)そこで、次に、本件特許明細書に、パール調顔料の明度がアルミフレークの明度よりも高いことの意味や、明度の定義及び測定方法がどのように記載されているか、また、上記(ウ)で検討した内容と反する又は不整合の記載があるかを、検討する。
本件特許明細書には、明度の定義及び測定方法は、明示はされていないが、パール調顔料の明度がアルミフレークの明度よりも高いことに関して、段落【0007】、【0008】、【0012】、【0024】に以下の記載がある。
「【0007】・・・本発明者の研究によれば、PC/ABS系アロイ樹脂にアルミフレークを配合してなる金属調樹脂組成物を用いて射出成形を行った場合、成形される金属調樹脂成形品の表面にアルミフレークの偏在箇所が発生し、それによって、そのようなアルミフレークの偏在箇所とそれ以外の箇所との間で、明度(輝度)の違いによるスジ状の色ムラが生じ、その結果、金属調樹脂成形品の外観不良が惹起される恐れがあることが判明したのである。」
「【0008】なお、PC/ABS系アロイ樹脂へのアルミフレークの添加量を少なくしたり・・・すれば、上記のようなアルミフレークの偏在による色ムラの発生を抑制乃至は解消することができる。しかしながら、アルミフレークの添加量を減らした場合、アルミフレークの添加量の減少によって、成形される樹脂成形品の表面全体の明度が低下してしまい、そのために、色調の暗い金属調樹脂成形品しか得られなくなる。」
「【0012】そこで、本発明者は、そのような判明事実を基に、金属調樹脂成形品中でのアルミフレークの偏在による色ムラの発生を解消するための方策を、種々検討した。その結果、PC/ABS系アロイ樹脂に対して、アルミフレークと共にパール調顔料を配合し、更に、それらアルミフレークの平均粒径とパール調顔料の粒度、及びそれらの配合割合をそれぞれ特定の範囲内の値として、金属調樹脂組成物を調製し、この金属調樹脂組成物を用いて射出成形を行うことにより、成形される金属調樹脂成形品において、アルミフレークの偏在による色ムラの発生が解消され得ることを、見出したのである。これは、パール調顔料の添加による金属調樹脂成形品表面の明度の向上作用により、金属調樹脂成形品表面のアルミフレークの偏在箇所とそれ以外の箇所との間での明度の差異が可及的に抑えられることによるものと考えられる。」
「【0024】金属調樹脂組成物中に含まれるアルミフレークとパール調顔料は、上記のように、金属調樹脂組成物、更にはそれを用いて得られる内装部品10において光輝性を発現させるための光輝性材料として用いられる。即ち、本実施形態の内装部品10には、アルミフレークと、それよりも明度の高いパール調顔料との組合せからなる光輝性材料が含まれている。このため、内装部品10にあっては、アルミフレークのみからなる光輝性材料を含む金属調樹脂組成物を用いて得られる金属調樹脂成形品とは異なって、内装部品10の表面でのアルミフレークの偏在箇所とそれ以外の箇所の明度の差異によって生ずる色ムラが、パール調顔料による内装部品10表面全体の明度の向上に基づいて発揮される隠蔽作用により、有利に目立たなくされているのである。」
これらの記載、特に段落【0024】の記載によれば、アルミフレークとそれよりも明度の高いパール調顔料が樹脂成形品に含まれることにより、アルミフレークのみからなる光輝性材料を含む金属調樹脂組成物を用いて得られる金属調樹脂成形品では表面でのアルミフレークの偏在箇所とそれ以外の箇所の明度の差異によって生ずる色ムラが、パール調顔料による樹脂成形品表面全体の明度の向上に基づいて発揮される隠蔽作用により、有利に目立たなくされている、というのであり、本件特許明細書では、パール調顔料の明度がアルミフレークの明度よりも高いことは、専ら、アルミフレークのみからなる光輝性材料を含む樹脂成形品表面の明度(明度の違いによる色ムラがある。)と、アルミフレークとそれよりも明度の高いパール調顔料を含む樹脂成形品表面の明度(明度の向上による隠蔽作用により色ムラが目立たなくされている。)の関係で、アルミフレークの偏在による色ムラを、アルミフレークよりも明度の高いパール調顔料が樹脂成形品表面全体の明度を向上させて隠蔽する、という観点で、論じられている。
そして、この、パール調顔料の隠蔽作用については、段落【0031】に、
「【0031】パール調顔料の金属調樹脂組成物中の含有量(PC/ABS系アロイ樹脂に対するパール調顔料の配合割合)は、0.1?5重量%の範囲内の値とされている必要がある。何故なら、かかる含有量が0.1重量%未満であると、金属調樹脂組成物中のパール調顔料量が少な過ぎるため、アルミフレークの偏在によって生ずる色ムラに対するパール調顔料による隠蔽効果が不十分なものとなってしまうからである。」
と記載され、パール調顔料の配合量は0.1?5重量%とするのは、隠蔽効果のために0.1重量%以上必要であるからだとされている。
以上を総合すると、本件特許明細書に記載された、パール調顔料の明度がアルミフレークの明度よりも高いことの意味は、アルミフレークを含む樹脂成形品におけるアルミフレークの偏在による色ムラを、アルミフレークよりも明度の高いパール調顔料が樹脂成形品表面全体の明度を向上させて隠蔽するもので、隠蔽効果のためにパール調顔料の配合量は0.1重量%以上である必要がある、というものである。

(オ)上記(エ)の、本件特許明細書の記載は、上記(ウ)の、請求項1に記載された明度につき、アルミニウムフレーク及びパール調顔料の明度は、樹脂組成物のマトリックス樹脂に想定される特定の配合量で配合された状態、又は樹脂成形品のマトリックス樹脂に想定される特定の配合量で分散している状態での明度を意味すると当業者は考える、との推認と、矛盾するものではない。
実際上は、請求項1では、マトリックス樹脂(ABS系樹脂とポリカーボネートとを混合してなるアロイ樹脂)とアルミフレーク及びパール調顔料の配合量(それぞれ0.1?5重量%の割合)が特定されているので、請求項1に記載のABS樹脂とポリカーボネートとを混合してなるアロイ樹脂に対して、請求項1に記載の所定の寸法のアルミフレークをw_(m) 重量%(0.1≦ w_(m) ≦5)及び請求項1に記載の所定の寸法のパール調顔料をw_(p) 重量%(0.1≦ w_(p) ≦5)配合した樹脂組成物を想定すると、上記のアロイ樹脂にアルミフレークをw_(m) 重量%配合した樹脂組成物から作成した樹脂成形品の試験片の表面で測定した明度と、同じ樹脂にパール調顔料をw_(p) 重量%配合した樹脂組成物から作成した樹脂成形品の試験片の表面で測定した明度を、比べ、後者の明度が高ければ、請求項1の「平均粒径が5?30μmのアルミフレークと、該アルミフレークよりも明度の高い、粒度が5?500μmのパール調顔料とが、それぞれ0.1?5重量%の割合で配合されてなる」を満たすものであると、理解できる。

(カ)なお、審査の過程で、出願人である特許権者が平成27年3月13日付けで提出した上申書に添付された実験成績証明書においても、上記と同様の手法で、アルミフレークとパール調顔料の明度を調べ、樹脂成形品の外観の評価をしている。

(キ)以上のとおりであるから、特許異議申立人の、請求項1には「アルミニウムフレークよりも明度の高い・・・パール調顔料」との記載があるが、どのように定義される又は測定結果・評価結果による明度なのか不明であるから、当該請求項1に係る発明は明確でないとの主張は、採用できない。

イ 特許異議申立人は、(ii)の主張において、本件発明の目的を達成し作用効果を奏するためには、アルミニウムフレークやパール調顔料の明度に一定以上の差があることが必要であると推測されるが、請求項1には単に「高い」とだけ記載されており、これでは請求項1に係る発明は明確であるとはいえない、と主張している。
しかし、「アルミニウムフレークやパール調顔料の明度に一定以上の差があることが必要である」というのは、特許異議申立人の根拠のない推測であり、本件発明1において、パール調顔料の明度がアルミフレークの明度と比べてどの程度の明度差であるかが請求項1に記載されていなければ特許を受けようとする発明が明確でない、とする理由はない。
したがって、特許異議申立人の主張は採用できない。

(3)本件発明2について

ア 特許異議申立人は、請求項2は請求項1を引用しているので、本件発明2は、本件発明1について(i)及び(ii)の主張で述べたとおり、明確でないと主張している。
しかし、本件発明1についての特許異議申立人の(i)及び(ii)の主張が採用できないものであることは、上記(2)で述べたとおりである。
したがって、本件発明2についての特許異議申立人の(i)及び(ii)の主張は採用できない。

イ 特許異議申立人は、(iii)の主張において、請求項2は樹脂成形品という物に関する発明であるが、請求項2には「表面が鏡面化されてなる」という製造方法が記載されている、当該記載は、「樹脂成形品」の構造又は特性を直接特定することが不可能又は実際的でないという事由が存在しない、それゆえ、請求項2に係る発明は明確でない、と主張している。
しかし、請求項2の「表面が鏡面化されてなる」は、射出成形品の表面が鏡面化されている状態を表しているもので、製造方法が記載されている場合(製造に関して経時的な要素の記載がある場合及び製造に関して技術的な特徴や条件が付された記載がある場合)に該当しない。
したがって、特許異議申立人の主張は採用できない。

(4)本件発明3について
特許異議申立人は、請求項3は請求項1を引用しているので、本件発明3は、本件発明1について(i)及び(ii)の主張で述べたとおり、明確でないと主張している。
しかし、本件発明1についての特許異議申立人の(i)及び(ii)の主張が採用できないものであることは、上記(2)で述べたとおりである。
したがって、本件発明3についての特許異議申立人の(i)及び(ii)の主張は採用できない。

(5)理由4についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1?3は、特許を受けようとする発明が明確であり、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合する。
よって、本件発明1?3についての特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、同法第113条第4号に該当せず、理由3によって取り消されるべきものではない。

2 理由3について

(1)特許異議申立人の主張
上記第3の3(i)及び(ii)に記載したとおりである。

(2)本件発明1について

ア 特許異議申立人は、(i)の主張において、請求項1には「アルミニウムフレークよりも明度の高い・・・パール調顔料」との記載があるが、発明の詳細な説明には「明度」についての定義はなく、それを測定する方法や測定機器及びその評価法や基準も説明されていない。よって、当該請求項1に係る発明は発明の詳細な説明中に当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない、と主張している。
しかし、理由1において、上記1(2)アで検討したとおり、本件特許明細書の記載によれば、請求項1に記載された明度につき、アルミニウムフレーク及びパール調顔料の明度は、樹脂組成物のマトリックス樹脂に想定される特定の配合量で配合された状態、又は樹脂成形品のマトリックス樹脂に想定される特定の配合量で分散している状態での明度を意味すると当業者は考える、ということができる。
実際上は、請求項1では、マトリックス樹脂(ABS系樹脂とポリカーボネートとを混合してなるアロイ樹脂)とアルミフレーク及びパール調顔料の配合量(それぞれ0.1?5重量%の割合)が特定されているので、請求項1に記載のABS樹脂とポリカーボネートとを混合してなるアロイ樹脂に対して、請求項1に記載の所定の寸法のアルミフレークをw_(m) 重量%(0.1≦ w_(m) ≦5)及び請求項1に記載の所定の寸法のパール調顔料をw_(p) 重量%(0.1≦ w_(p) ≦5)配合した樹脂組成物を想定すると、上記のアロイ樹脂にアルミフレークをw_(m) 重量%配合した樹脂組成物から作成した樹脂成形品の試験片の表面で測定した明度と、同じ樹脂にパール調顔料をw_(p) 重量%配合した樹脂組成物から作成した樹脂成形品の試験片の表面で測定した明度を、比べ、後者の明度が高ければ、請求項1の「平均粒径が5?30μmのアルミフレークと、該アルミフレークよりも明度の高い、粒度が5?500μmのパール調顔料とが、それぞれ0.1?5重量%の割合で配合されてなる」を満たすものであると、理解できる。
特許異議申立人の、発明の詳細な説明には「明度」についての定義はなく、それを測定する方法や測定機器及びその評価法や基準も説明されていないから、本件発明1は発明の詳細な説明中に当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないとの主張は、採用できない。

イ 特許異議申立人は、(ii)の主張において、前記「明度」の値についての記載がなく、アルミニウムフレーク及びパール調顔料にどの程度の明度が必要であり、かつそれらの明度差がどの程度あれば目的が達成できるのかについて、発明の詳細な説明中に当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない、と主張している。
しかし、理由1において、上記1(2)アで検討したとおり、本件特許明細書には、パール調顔料の明度がアルミフレークの明度よりも高いことの意味は、アルミフレークを含む樹脂成形品におけるアルミフレークの偏在による色ムラを、アルミフレークよりも明度の高いパール調顔料が樹脂成形品表面全体の明度を向上させて隠蔽するもので、隠蔽効果のためにパール調顔料の配合量は0.1重量%以上である必要がある、ということが記載されている。発明の詳細な説明に、アルミニウムフレークとパール調顔料の個別の明度の値や、明度差の値が記載されていなければ、本件発明1を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない、とする理由はない。
したがって、特許異議申立人の主張は採用できない。

(3)本件発明2について
特許異議申立人は、請求項2は請求項1を引用しているので、本件発明2は、本件発明1について(i)及び(ii)の主張で述べたとおり、発明の詳細な説明中に当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないと主張している。
しかし、本件発明1についての特許異議申立人の(i)及び(ii)の主張が採用できないものであることは、上記(2)で述べたとおりである。
したがって、本件発明2についての特許異議申立人の(i)及び(ii)の主張は採用できない。

(4)本件発明3について
特許異議申立人は、請求項3は請求項1を引用しているので、本件発明3は、本件発明1について(i)及び(ii)の主張で述べたとおり、発明の詳細な説明中に当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないと主張している。
しかし、本件発明1についての特許異議申立人の(i)及び(ii)の主張が採用できないものであることは、上記(2)で述べたとおりである。
したがって、本件発明3についての特許異議申立人の(i)及び(ii)の主張は採用できない。

(5)理由3についてのまとめ
以上のとおり、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1?3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、特許法第36条第4項第1号に適合する。
よって、本件発明1?3についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、同法第113条第4号に該当せず、理由4によって取り消されるべきものではない。

3 理由1について

(1)甲号各証の記載

ア 甲1
(1a)「【請求項1】樹脂100重量部に、グラファイト0.01?10.0重量部含有してなる金属調光沢を有する樹脂組成物。
【請求項2】さらに、平均粒子径10?250μmの樹脂練り込み用アルミニウムフレークを0.1?10.0重量部配合してなる請求項1に記載の金属調光沢を有する樹脂組成物。
【請求項3】さらに、平均粒子径1?200μmの二酸化チタンコートマイカを0.01?10.0重量部配合してなる請求項1または2に記載の金属調光沢を有する樹脂組成物。
【請求項4】さらに、着色剤を配合してなる請求項1?3の何れかに記載の金属調光沢を有する樹脂組成物。」(2頁、特許請求の範囲の請求項1?4)
(1b)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、自動車、車両用、電気機器部品等の製造に使用される樹脂組成物に関し、特に成形体のフローマーク、ウェルドラインが改善される樹脂組成物に関する。」
(1c)「【0002】【従来の技術】従来より、樹脂成形体に光沢ある外観を付与するために、例えばアルミニウム顔料等の金属粒子が配合されている。これら樹脂成形体では、配合されている金属粒子の粒子形状によって2つの類型に大別することができる。第一は、一般的な粒子を配合した樹脂成形体である。例えば、微粉末ないしは超微粉末の金属粒子を樹脂中に充填することによって、全面が一様な金属調(すなわち、メタリック調)を呈する成形品(特開昭58-37045号公報)等が知られている。ところが、この成型品では、ウエルドマークが顕著に発生することがある。すなわち、この成形品を射出成形により製造する場合、金型内での溶融樹脂の先端には金属粒子を含まない層ができるため、その流れが合流する部分では樹脂のみからなるウエルドマークが形成される。このウエルドマークは金属粒子を含んでいないため、光を吸収して黒みがかったように見え、著しく外観を損なう結果となる。
【0003】第二は、特定形状を有する粒子を配合した樹脂成形体である。例えば、平均相当径30μm以上で平均形状比1/10以下の金属片状粉を樹脂に配合した成形品(特開平5-93091号公報)等が知られている。ところが、この成形品では、樹脂と金属片状粉とを混練する工程及び成形工程の際に、金属片状粉がせん断力を受けて破壊されてしまう。金属片状粉が破壊されると、前記第一の成形体の場合と同様にウエルドマークが顕著に発生することとなる。また、たとえ金属片状粉が破壊されなくても、比較的粗い粒子が混在するため、均一感がなく、落ち着きのない安っぽい外観になるおそれがある。
【0004】【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記のような従来技術に鑑みてなされたものであって、黒を基調とした金属調光沢を有し、成形体中のフローマーク、ウェルドラインの低減が可能な成形体製造用樹脂組成物を提供することを目的としている。」
(1d)「【0005】【課題を解決するための手段】本発明に係る金属調光沢を有する樹脂組成物は、樹脂100重量部に、グラファイトを0.01?10.0重量部含有してなることを特徴としている。上記樹脂組成物は、必要に応じ、平均粒子径10?250μmの樹脂練り込み用アルミニウムフレークを0.1?10.0重量部配合してもよく、また、平均粒子径1?200μmの二酸化チタンコートマイカを0.01?10.0重量部配合してもよい。
【0006】さらに、必要に応じ、着色剤が配合されていてもよい。このような本発明に係る樹脂組成物によれば黒を基調とした金属調光沢を有し、成形体中のフローマーク、ウェルドラインの低減が可能な成形体製造用樹脂組成物が提供される。」
(1e)「【0008】以下、各成分について説明する。
樹脂
まず、主材の樹脂としては、特に限定されず、従来の樹脂成形体に用いられている樹脂を採用することもできる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩素化ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ABS樹脂、AS樹脂等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。
【0009】これらの中でも、本発明においては、特にポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ABS樹脂が好ましく用いられる。
グラファイト
グラファイトは、上記樹脂100重量部に対して、0.01?10.0重量部、好ましくは0.05?5.0重量部、さらに好ましくは0.1?5.0重量部、特に好ましくは0.5?3.0重量部の割合で配合される。上記の配合割合とすることで、黒を基調とした金属調光沢の樹脂組成物が得られ、成形体のフローマーク、ウェルドラインを低減できる。
【0010】ここで用いられるグラファイトとしては、特に限定されず、一般に汎用の黒鉛粉末が適宜に用いられる。しかし、好ましくは平均粒子径が0.1?100μm、特には1?50μmのグラファイトが用いられる。このような平均粒子径のグラファイトを用いると、樹脂中に均一に分散し、金属調光沢をよりあざやかに現すことができる。
【0011】樹脂練り込み用アルミニウムフレーク
必要に応じて用いられる樹脂練り込み用アルミニウムフレークとしては、平均粒子径が10?250μm、好ましくは10?100μm、さらに好ましくは10?70μm、特に好ましくは10?40μmのアルミニウムフレークが用いられる。このような平均粒子径のアルミニウムフレークを用いると、少ない添加量で均一な木目の細かい、より金属調の樹脂光沢が得られる。
【0012】アルミニウムフレークは、上記樹脂100重量部に対して、好ましくは0.1?10重量部、さらに好ましくは0.5?5重量部、特に好ましくは1?3重量部の割合で配合される。上記の配合割合とすることで、樹脂本来の強度等の物性を損なわずに、金属調光沢を現すことができる。アルミニウムフレークを用いる場合、10μm以上の粒子が5重量%以下であることが好ましい。10μm以上の粒子が5重量%を超える場合には、均一感・緻密感がなくなり、大きな粒子がギラギラと目立ってかえって高級感が失われるおそれがある。
【0013】また、アルミニウムフレークの平均厚みは、通常0.1?0.6μm程度であるが、特に0.1?0.4μmであることが好ましい。平均厚みが0.1μm未満である場合は、ウエルドマークが顕著に発生するおそれがある。また、平均厚みが0.6μmを超える場合は、粒子のアスペクト比が小さくなる結果、光輝性及び鮮映性が低下することがある。
【0014】アルミニウムフレークは、さらに、粒度分布をロジン・ラムラー粒度線図で表した場合において、その直線勾配n(均等数)が通常2.1以上であることが好ましく、特に2.2?2.6であることがより好ましい。上記値が2.1未満である場合は、その樹脂成形体においてウエルドマークが発生しやすくなり、また満足できる高級感・均一感が得られなくなるおそれもある。
【0015】なお、アルミニウムフレークのアルミニウム純度は、特に限定されるものではなく、本発明の効果を妨げない限り他の金属が不純物ないし合金成分として含まれていても良い。不純物ないし合金成分としては、例えばSi、Fe、Cu、Mn、Mg、Zn等が挙げられる。アルミニウムフレークは公知の製法に従って製造することができる。例えば、アトマイズ粉、アルミニウム箔、蒸着アルミニウム箔等をボールミル、アトライター、振動ミル、スタンプミル等によって粉砕、摩砕等を施すことにより得ることができる。特に、アトマイズ法によって得られる微細なアルミニウムパウダー(平均粒径1?6μm程度)をボールミルによって摩砕処理することによりアルミニウムフレークを好適に製造することができる。
【0016】二酸化チタンコートマイカ
必要に応じて用いられる二酸化チタンコートマイカとしては、平均粒子径が1?200μm、好ましくは1?100μm、さらに好ましくは1?50μm、特に好ましくは5?50μmの二酸化チタンコートマイカが用いられる。このような平均粒子径の二酸化チタンコートマイカを用いると、樹脂に均一に分散し、真珠光沢を現すことができる。
【0017】二酸化チタンコートマイカは、上記樹脂100重量部に対して、好ましくは0.01?10重量部、さらに好ましくは0.1?5重量部、特に好ましくは0.5?3重量部の割合で配合される。上記の配合割合とすることで、樹脂本来の強度等の物性を損なわずに、真珠光沢を現すことができる。また、二酸化チタンコートマイカは、シランカップリング剤やチタンカップリング剤等で予め処理されていることが、樹脂組成物中への均一分散の点から望ましい。
【0018】二酸化チタンコートマイカは公知の製法に従って製造することができる。
着色剤
必要に応じて用いられる着色剤としては、無機または有機の公知の着色剤が特に制限されることなく用いられる。無機着色剤としては、例えば、二酸化チタン、弁柄、鉄黒、黄鉛、コバルトブルー、カーボンブラック等が挙げられる。有機着色剤としては、例えば、アゾ系顔料、アンスラキノン系顔料、銅フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、インダンスレン系顔料、ペリレン系顔料等が挙げられる。
【0019】このような着色剤は、最終的な樹脂成形体の用途に応じて適宜に選択されるものであり、その使用量は何ら限定されるものではないが、一般的には、上記樹脂100重量部に対して、好ましくは0.001?10重量部、さらに好ましくは0.001?5重量部、特に好ましくは0.01?3重量部の割合で配合される。
その他の成分
本発明の樹脂組成物には、上記各成分のほか、さらに必要に応じて安定剤、分散剤、耐候剤、帯電防止剤、粘度調整剤、離型剤、発泡剤、難燃剤等の公知の添加剤も適宜配合することができる。」
(1f)「【0020】樹脂組成物
本発明の樹脂組成物は、上記樹脂、必須成分としてのグラファイトおよび必要に応じて用いられるアルミニウムフレーク、の二酸化チタンコートマイカ、着色剤、その他の成分を均一に混練することで得られる。混練方法は特に限定されず、たとえば溶融混練、二軸押出などの方法を採用できる。」
(1g)「【0021】得られる樹脂組成物からの成形体の成形方法も特に制限されず、例えば射出成形法、押し出し成形法、カレンダー成形法、ブロー成形法等の公知の成形方法を採用することができる。」
(1h)「【0022】【発明の効果】本発明に係る樹脂組成物によれば、黒を基調とした金属調光沢を有し、成形体中のフローマーク、ウェルドラインの低減が可能な成形体製造用樹脂組成物が提供される。すなわち、かかる樹脂組成物からなる樹脂成形体は、フローマーク、ウエルドマークによる外観不良がなく(すなわち、肉眼では認識できない程度にフローマーク、ウエルドマーク発生が抑制されているか、あるいは商品価値を低下させない程度にその発生が抑制されている)。しかも、得られる樹脂成形体は、黒を基調とした上品な金属調光沢を有し、光輝性・鮮映性にも優れ、高級感・均一感・緻密感を兼ね備えている。
【0023】このような特徴を有する本発明の樹脂組成物は、例えばカメラ、ビデオカメラ等の光学機器、ラジカセ、CDプレーヤー等の音響機器、パソコン、ディスプレイ、プリンター等のOA機器、自動車、オートバイ等の内外装品、テレビ、掃除機、冷蔵庫等の家電製品、その他にもスポーツ用品、化粧品(容器類)等の各種の成形品に好適に用いることができる。」
(1i)「【0025】【実施例1】ポリカーボネート樹脂(日本ジーイープラスチックス社製Lexan 121 R)99.95部にグラファイト(チバスペシャルティケミカルズ(株)製GRAPHITAN 7525、平均粒径10μm)0.05部を添加し、よく混合後ベント付き30mm押出し機(日本製鋼所製TEX30)で、290℃で溶融混合し、ペレットを得た。このペレットを射出成形機(東芝機械製EC160)を用いて280℃のバレル温度で、長さ75mm、幅50mm、厚さ3mmの試験片に成形した。
【0026】【実施例2】ポリカーボネート樹脂(日本ジーイープラスチックス社製Lexan 121 R)99.45部にグラファイト(チバスペシャルティケミカルズ(株)製GRAPHITAN 7525、平均粒径10μm)0.05部、アルミニウムフレーク(Silberline社製Silvet 790-20-E,平均粒径40μm)0.5部を添加し、よく混合後ベント付き30mm押出し機(日本製鋼所製TEX30)で、290℃で溶融混合し、ペレットを得た。このペレットを射出成形機(東芝機械製EC160)を用いて280℃のバレル温度で、長さ75mm、幅50mm、厚さ3mmの試験片に成形した
【0027】【実施例3】ポリカーボネート樹脂(日本ジーイープラスチックス社製Lexan 121 R)99.45部にグラファイト(チバスペシャルティケミカルズ(株)製GRAPHITAN 7525、平均粒径10μm)0.05部、ニ酸化チタンコートマイカ(メルク社製Iriodin 100、平均粒径20μm)0.5部を添加し、よく混合後ベント付き30mm押出し機(日本製鋼所製TEX30)で、290℃で溶融混合し、ペレットを得た。このペレットを射出成形機(東芝機械製EC160)を用いて280℃のバレル温度で、長さ75mm、幅50mm、厚さ3mmの試験片に成形した。
【0028】【実施例4】ポリカーボネート樹脂(日本ジーイープラスチックス社製Lexan 121 R)98.95部にグラファイト(チバスペシャルティケミカルズ(株)製GRAPHITAN 7525、平均粒径10μm)0.05部、アルミニウムフレーク(Silberline社製Silvet 790-20-E,平均粒径40μm)0.5部、ニ酸化チタンコートマイカ(メルク社製Iriodin 100、平均粒径20μm)0.5部を添加し、よく混合後ベント付き30mm押出し機(日本製鋼所製TEX30)で、290℃で溶融混合し、ペレットを得た。このペレットを射出成形機(東芝機械製EC160)を用いて280℃のバレル温度で、長さ75mm、幅50mm、厚さ3mmmmの試験片に成形した。
【0029】【実施例5】ポリカーボネート樹脂(日本ジーイープラスチックス社製Lexan 121 R)98.85部にグラファイト(チバスペシャルティケミカルズ(株)製GRAPHITAN 7525、平均粒径10μm)0.05部、アルミニウムフレーク(Silberline社製Silvet 790-20-,平均粒径40μm)0.5部、ニ酸化チタンコートマイカ(メルク社製Iriodin 100、平均粒径20μm)0.5部、さらに青色染料(クラリアント社製、Sandoplast Blue 2B)0.1部を添加し、よく混合後ベント付き30mm押出し機(日本製鋼所製TEX30)で、290℃で溶融混合し、ペレットを得た。このペレットを射出成形機(東芝機械製EC160)を用いて280℃のバレル温度で、長さ75mm、幅50mm、厚さ3mmの試験片に成形した。
【0030】【比較例1?3】実施例と同様の手順に従い、カーボンブラック(Cabot社製Black Pearls 800)、アルミニウムフレーク、ニ酸化チタンコートマイカをポリカーボネート中に練りこみ、試験片を得た。実施例1?5および比較例1?3の結果を表1に示す。表1中の各物性は下記の方法により測定及び評価した。
【0031】
【表1】

【0032】(1)L^(*)値(明度)
CIE 1931によりMacbeth Color Eye 7000A(Gretagmacbeth社製)を用いて測定した。
(2)均一感
成形体表面を肉眼で観察した。○は粒子が均一に分散しており、表面が滑らかなもの、△は並(従来品と同程度)、×は異物が混ざっている印象があり、ギラギラした部分も認められ、均一性に欠けるもの、と評価した。
(3)高級感
成形体表面を肉眼で観察した。○はプラスチック単体の安っぽさがなく、メタリック感・フリップフロップ感に優れ、また粗雑さも認められないもの、△は並(従来品と同程度)、×は安っぽい印象があり、粗雑さも認められるもの、と評価した。
(4)メタリック感
成形体表面を肉眼で観察した。○は優又は良、△は並(従来品と同程度)、×は不良、と評価した。
(5)ウエルドマーク
成形体の表面状態を肉眼で観察した。○はウエルドマークの発生が肉眼では認識できないもの又はウエルドマークによる外観不良がないもの、△はウエルドマークの発生が容易に認識できるもの、×はウエルドマークが目立ち、全く商品価値がないもの、と評価した。」

イ 甲2
(2a)「【請求項1】鱗片状光輝材を含有した熱可塑性樹脂にて形成され、その成形品の表面に縮みシボが形成されたことを特徴とする樹脂成形品。
【請求項2】縮みシボは、幅50?150μmの多数の屈曲した紐状の凸部が集合して形成された迷路状模様を呈することを特徴とする請求項1記載の樹脂成形品。」(2頁、特許請求の範囲の請求項1及び2)
(2b)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は樹脂成形品に関する。」
(2c)「【0002】【従来の技術】射出成形によって樹脂成形品を成形することが、従来から盛んに行われている。この種の樹脂成形品のうち、他の物品のためのカバーとして使用されるものなどは、板状の本体部にて構成されるのが一般的である。そして、このような本体部に、装飾を目的として、ロゴマーク、すなわち浮き出しマーク部を一体に成形することが行われている。
【0003】また、このように浮き出しマーク部が形成された樹脂成形品として、装飾性をさらに増大させることを目的として、樹脂の中に微細な金属粉などを混入させることにより、成形品の表面をメタリック調に仕上げたものが知られている。
【0004】【発明が解決しようとする課題】しかし、特に板状の本体部に浮き出しマーク部が一体に形成された樹脂成形品や開口部のある樹脂成形品を射出成形によって成形する場合などには、射出成形時の樹脂の流れ方向に沿った浮き出しマーク部の後流側における本体部の表面に、一般にはフローマークやウエルドラインなどと称される流れ模様が発生することが多い。このような流れ模様が発生すると、製品表面の美観を著しく損ねる。この流れ模様は、特に、上述のように樹脂中に微細な金属粉などを混入させることによって、射出成形時の樹脂の流動性が低下した場合などにおいて、顕著に発生することが知られている。
【0005】このような流れ模様を解消する為に、成形品の表面に、凹状又は凸状のシボや梨地のシボを形成する事が提案されている。しかし、例えば自動車のエンジンカバーなどのように板状の本体部の面積の大きいものについては、上記のような凹凸状あるいは梨地のシボでは十分な流れ模様の解消ができない。また、このようなシボを形成すると、成形品の光沢感や艶が低下するとともに成形品の表面に発現したメタリック感が低減して、製品の美観を損ねるものとなる。
【0006】そこで本発明は、この種の樹脂製の成形品において、流れ模様の発生を効果的に防止できるとともにメタリック感に優れた成形品とすることを目的とする。」
(2d)「【0007】【課題を解決するための手段】この目的を達成するため本発明は、鱗片状光輝材を含有した熱可塑性樹脂にて形成され、その成形品の表面に縮みシボが形成されるように構成したものである。すなわち本発明は、鱗片状光輝材を含有した熱可塑性樹脂の射出成形品を製造するに際し、縮みシボを形成すれば、浮き出しマーク部などの流れ模様の発生原因となる部位が形成されていても、縮みシボによりその流れ模様が目立ちにくくなるとともに、メタリック感を損なうことがなくなるという知見にもとづいてなされたものである。」
(2e)「【0008】【発明の実施の形態】本発明の樹脂成形品は、鱗片状光輝材を含有した熱可塑性樹脂にて板状やその他の形状に成形され、その成形品の表面に縮みシボが形成される必要がある。鱗片状光輝材とは、顔料の一種でその形状が粒子径に比べて厚みがかなり小さい形状のものである。このような形状の顔料を熱可塑性樹脂に配合すると成形品の表面に光沢感やメタリック感が発現するが、球状もしくはそれに近い形状の顔料では、光沢感に劣るものとなる。この鱗片状光輝材を含有した熱可塑性樹脂からなる樹脂成形品は、高輝度のメタリック感や光沢感を有するため、例えばエンジンカバーやパソコンの筐体などのように金属の代替品として使用される。そのためベースとなる熱可塑性樹脂には、耐熱性や強度などが要求される。
【0009】鱗片状光輝材を含有した熱可塑性樹脂からなる樹脂成形品の表面には、上述のように高輝度のメタリック感や光沢感が発現するが、射出成形する際に発生するフローマークと呼ばれる流れ模様は、球状の顔料を配合した場合よりも目立ち易くなる。この流れ模様を目立たなくする目的で、本発明では、成形品の表面に縮みシボを形成する。
【0010】このシボが単なる凹凸状のものもしくは梨地状のものである場合には、流れ模様を目立たなくする効果が十分に得られない。なお、フローマークを目立たなくするためには、顔料の形状を球状のものに近づけれはよいが、顔料の形状が球状になると上述のように光沢感に劣るものとなる。」
(2f)「【0011】ベースとなる熱可塑性樹脂は、耐熱性や強度を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ナイロン6やナイロン66などのポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、AS樹脂、AES樹脂、ABS樹脂、AAS樹脂、SAS樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリアリレート、変性ポリフェニレンオキサイド、変性ナイロン、ポリブチレンテレフタレート、アイオノマー、アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、強化ポリアミド樹脂、またはこれらの2種類以上からなるアロイなどが挙げられ、特にポリアミド樹脂に層状珪酸塩0.1?10質量%が分子レベルで均一に分散された強化ポリアミド樹脂が軽量で耐熱性に優れている点で好適に使用できる。層状珪酸塩としては、たとえば膨潤性フッ素雲母鉱物やモンモリロナイトを利用するのが好適である。
【0012】上記の熱可塑性樹脂に配合する鱗片状光輝材としては、例えばアルミニウム、ニッケル、錫、銅、鉄、金、銀、白金などの粒子、またはこれらの金属を基質とする黄銅、ステンレスなどの合金の粒子、真鍮粒子、金属コーティングしたマイカ粒子、ワラストナイト粒子、カーボン粒子、ガラス粒子などが挙げられ、特にアルミニウムや、マイカやガラス粒子を酸化チタンでコーティングしたマイカ製パール顔料が好適に使用できる。なお、これらの鱗片状光輝材は、単独で使用するだけでなく、2種類以上を混合して使用しても良い。
【0013】熱可塑性樹脂に対する鱗片状光輝材の配合割合は特に限定されるものではないが、熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.5?10質量部を配合することが好ましい。鱗片状光輝材の配合割合が0.5質量部より少ないとメタリック感や光沢感に優れた成形品とすることができず、配合割合が10質量部を超えると、熱可塑性樹脂の割合が少なくなって機械的強度に優れた成形品が得られない。
【0014】樹脂組成物を成形品にしたときの外観は、鱗片状光輝材の粒子径と、粒子径をその厚みで割ったアスペクト比あるいは厚みとに依存する。鱗片状光輝材の粒子径は10?100μmであることが好ましく、平均粒子径が10μm未満では、成形品としたさいに高輝感が高くなりすぎ、平均粒子径が100μmを超えると分散性が悪くなりメタリック色を発現しないものとなる。また、アスペクト比は5?200であることが好ましく、7?100であることが特に好ましい。アスペクト比が5よりも小さくなると光沢感に劣り艶のないものとなり、アスペクト比が200を超えるものは製造するのが難しい。」
(2g)「【0015】上記のような鱗片状光輝材を含有した熱可塑性樹脂にて射出成形された成形品は、メタリック感があり光沢感に優れているが、フローマークやウエルドラインなどの流れ模様が目立ちやすい。しかし、成形品の表面に本発明に特有の縮みシボをつけることで、流れ模様が目立ちにくくなる。
【0016】図1は、本発明にもとづき樹脂製の射出成形品の表面に形成される縮みシボの拡大模式図、図2は図1の縮みシボの断面構造を示す模式図である。この縮みシボは、幅50?150μmの多数の屈曲した紐状の凸部1が集合して形成された迷路状模様を呈する。3は一つの紐状部である。紐状部3はそれぞれ任意の方向を向いており、その長さは0.5?100mm、凸部1の高さは好ましくは30?150μm、より好ましくは60?80μmである。
【0017】隣接する凸部1と凸部1の間には、凸部1の幅と同程度、又は予めその幅よりも相対的に広い幅もしくは狭い幅を有する凹部2が形成されており、この凹部2の幅は70?200μmの範囲にあることが好ましい。また、凸部1から凹部2までの深さは40?120μmであり、凹部2と凸部1との面積比は、20/80?80/20である。
【0018】このような縮みシボを形成することで、上記の鱗片状光輝材によって目立ち易くなった成形品の表面のフローマークなどの流れ模様を目立たなくすることができるとともに、成形品の表面に発現したメタリック感や光沢感を損なうことなく外観性の良いものが得られる。なお、この縮みシボの代わりに凹状あるいは凸状のシボや梨地のシボを付けた場合には、フローマークなどの流れ模様は目立たなくなるが、光沢感に劣って艶がなくなり、本発明の樹脂成形品が有するようなメタリック調の外観を有することはできない。」
(2h)「【0019】・・・なお、本発明の樹脂成形品を形成する際には、材料となる樹脂組成物に、その特性を大きく損なわない限りにおいて、光安定剤、耐候剤、可塑剤、滑剤、着色剤、離型剤、顔料、難燃剤、層状珪酸塩以外の強化剤などの添加剤を添加してもよく、これらは樹脂組成物を溶融混練もしくは溶融成形する際に加えられる。」
(2i)「【0021】本発明の樹脂成形品は、通常の成形加工法で目的の成形品とすることができ、例えば、射出成形、押出成形、吹き込み成形などの熱溶融成形法によって製造できるが、中でも射出成形による方法が好ましい。」
(2j)「【0022】・・・以下の実施例、比較例における各種物性値の測定は以下の方法により実施した。
(1)荷重たわみ温度(℃):ASTM D-648に記載の方法に準じて、荷重1.86MPaの応力下で測定した。
(2)曲げ弾性率(GPa):ASTM D-790に記載の方法に準じて測定した。
(3)外観性の評価:縮みシボを有する金型を用いて、板状の本体部に浮き出しマーク部が形成されたエンジンカバーを作成した。そして、フローマークが目立たたず、メタリック感に優れていた物を○で評価した。
実施例1
成形材料として、メタリック調のナノコンポジットナイロン6を使用した。すなわち、ナイロン6樹脂に層状珪酸塩である膨潤性フッ素雲母鉱物が強化剤として分子レベルで均一に分散されたナノコンポジットナイロン6(ユニチカ社製、M2350)100質量部に、鱗片状光輝材として平均粒子径が55μmで厚みが7.5μmすなわちアスペクト比が7.3のアルミニウム微粒子(大和金属社製、102C)1質量部と、平均粒径が20μmで厚みが0.3μmのパール顔料(メルクジャパン社製、イリオジン#100)0.2質量部とを配合したものを用いた。
【0023】このメタリック調の強化ポリアミド樹脂を用い、シリンダー温度を250℃に設定した射出成形機(東芝機械社製、型番IS-100E)によって、樹脂成形温度250℃、金型温度80℃、射出圧力100MPa、速度設定90%の条件下で、幅12.7mm、長さ127mm、厚さ3mmの長方形板状の樹脂成形品を射出成形した。
【0024】そして、上記に記載の測定方法に従って、荷重たわみ温度と曲げ弾性率を測定した。得られた樹脂成形品の曲げ弾性率、荷重たわみ温度を表1に示す。
【0025】
【表1】

次に上記のメタリック調の強化ポリアミドを用いて、上記に記載したエンジンカバーを作成した。具体的には、図3(a),(b)に示すように、厚さが2mm、縦×横が400×500mmの板状の本体部5に「エンジンカバー」という文字からなる高さ2mmの浮き出しマーク部6を有するエンジンカバー4を形成した。そして、このエンジンカバー4の表面に縮みシボを形成した。7はゲートである。
【0026】縮みシボの詳細を説明すると、成形品における紐状の凸部および凹部の長さはそれぞれ1.0mm、その幅はそれぞれ200μmとなるようにした。凸部から凹部までの深さは、80μm、凸部と凹部との面積比は50/50となるようにした。そうしたところ、成形したエンジンカバー4の表面では、浮き出しマーク部6よりも後流側において、流れ模様としてのウエルドラインは消失していた。また、メタリック感にも優れ、良好な外観を有していた。
実施例2?実施例11
表1に示す熱可塑性樹脂を用いて、それぞれ表1に示す成形条件で試験片およびエンジンカバーを作成した。
【0027】得られた試験片の物性およびエンジンカバーの外観性を表1に示す。なお、表1に示す熱可塑性樹脂は、それぞれ以下のものである。ポリカーボネート(帝人化成社製、パンライトL-1225)、ポリアセタール(旭化成社製、テナックSH710)、ポリアリレート(ユニチカ社製、UポリマーP3001、UポリマーAX-1500)、変性ポリフェニレンオキサイド(日本ジーイープラスチック社製、ノリルSEI)、ポリフェニレンオキサイドとポリアミドとの混合物(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、ユピエースNX9000)、ポリカーボネートとABS樹脂のアロイ(日本ジーイープラスチックス社製、サイコロイC1200)、ポリアミドとポリプロピレンのアロイをタルクとガラス繊維で強化した変性ナイロン、タルクで強化した強化ポリプロピレン、ガラス繊維で強化した強化ナイロン6(ユニチカ社製、ユニチカナイロン6A1030GFL10)。
【0028】実施例1?実施例11は、いずれも鱗片状光輝材を含有した熱可塑性樹脂にて形成され、その成形品の表面に縮みシボが形成されていたため、流れ模様が目立たずメタリック調の外観性の良いものが得られた。特に、実施例1は、熱可塑性樹脂として層状珪酸塩で強化したポリアミド樹脂を用いたため、荷重たわみ温度および曲げ弾性率のいずれにも優れており、自動車のエンジンカバーとして好適に使用できるものであった。
実施例12?18
熱可塑性樹脂として、上記実施例1で使用したナノコンポジットナイロン6(ユニチカ社製、M2350)を用いて、アルミ粉およびパール顔料の配合割合を表2に示すようにした。
【0029】そしてそれ以外は実施例1と同様にして、試験片およびエンジンカバーの物性を測定した。得られた測定結果を表2に示す。
【0030】
【表2】

実施例12?18は、いずれも層状珪酸塩で強化した強化ポリアミド樹脂が使用されていたため、荷重たわみ温度や曲げ弾性率に優れたものであった。また、強化ポリアミド樹脂樹脂に対するアルミ粉とパール顔料の配合割合をそれぞれ表2に示すように変化させたが、いずれも良好な外観性が得られた。
【0031】実施例19?実施例26
熱可塑性樹脂として、上記実施例1で使用したナノコンポジットナイロン6(ユニチカ社製、M2350)を用いて、鱗片状光輝材の種類および配合割合を表3に示すようにした。
【0032】そしてそれ以外は実施例1と同様にして、試験片およびエンジンカバーの物性を測定した。得られた測定結果を表3に示す。
【0033】
【表3】

実施例19?26も、上記実施例実施例12?18と同様に層状珪酸塩で強化した強化ポリアミド樹脂を使用したため、荷重たわみ温度や曲げ弾性率に優れたものが得られた。また、強化ポリアミド樹脂樹脂に対する顔料を表3に示すように各種のものを用いたが、いずれも良好な外観性が得られた。
比較例1
比較例として、表面にシボが形成されない成形品を成形した。すなわち、実施例1と同様に、厚さが2mm、縦×横が400×500mmの板状の本体部5に高さ2mmの浮き出しマーク部6を有するエンジンカバー4を形成した。ただし、このエンジンカバー4を成形する金型の内面には、縮みシボの代わりに鏡面仕上げを施した。
【0034】成形材料、この成形材料における顔料の組成、成形条件は、実施例1と同様とした。このような条件のもとで成形を行ったところ、成形品に形成される浮き出しマーク部6の後流側において、流れ模様としてのウエルドラインが目立った。」
(2k)「【0035】【発明の効果】以上のように本発明によると、鱗片状光輝材を含有した熱可塑性樹脂にて形成され、その成形品の表面に縮みシボが形成されているため、メタリック調の外観を損なうことなく、樹脂製の射出成形品の表面に流れマークが現れることを効果的に防止できる。
【0036】従って、本発明の樹脂成形品は、エンジンカバー、シリンダーヘッドカバーなどの車両部品や、パソコンの筐体、ランプリフレクターなどの家電製品の内外装カバーなどのカバー材として好適に使用でき、中でも特にエンジンカバーとして好適に使用できる。」
(2L)「【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にもとづき樹脂製の射出成形品の表面に形成される縮みシボの拡大模式図である。
【図2】図1の縮みシボの断面構造を示す模式図である。
【図3】実施例で作成したエンジンカバーの平面図および側面図である。
【符号の説明】
1 凸部
2 凹部
3 紐状部
4 エンジンカバー
5 本体部
6 浮き出しマーク部
7 ゲート
【図1】

【図2】

【図3】

」(6頁、図面の簡単な説明及び図1?3)

(2)甲1及び甲2に記載された発明

ア 甲1に記載された発明
甲1は、グラファイトが含有されることにより金属調光沢を有する樹脂組成物について記載した特許文献であり(摘示(1a)?(1d))、請求項1には「樹脂100重量部に、グラファイト0.01?10.0重量部含有してなる金属調光沢を有する樹脂組成物」の発明が、請求項2には「さらに、平均粒子径10?250μmの樹脂練り込み用アルミニウムフレークを0.1?10.0重量部配合してなる請求項1に記載の金属調光沢を有する樹脂組成物」の発明が、請求項3には「さらに、平均粒子径1?200μmの二酸化チタンコートマイカを0.01?10.0重量部配合してなる請求項1または2に記載の金属調光沢を有する樹脂組成物」の発明が、請求項4には「さらに、着色剤を配合してなる請求項1?3の何れかに記載の金属調光沢を有する樹脂組成物」の発明が、それぞれ記載されている(摘示(1a))。
そして、樹脂組成物の各成分(摘示(1e))、樹脂組成物の調製方法(摘示(1f))、樹脂組成物からの成形体の成形方法(摘示(1g))が説明され、発明の効果として、その樹脂組成物によれば「黒を基調とした金属調光沢を有し、成形体中のフローマーク、ウェルドラインの低減が可能な成形体製造用樹脂組成物が提供され」、その樹脂組成物からなる樹脂成形体は「フローマーク、ウエルドマークによる外観不良がなく(すなわち、肉眼では認識できない程度にフローマーク、ウエルドマーク発生が抑制されているか、あるいは商品価値を低下させない程度にその発生が抑制されている)」、また「黒を基調とした上品な金属調光沢を有し、光輝性・鮮映性にも優れ、高級感・均一感・緻密感を兼ね備えている」ことが記載され、各種の成形品用途が記載されている(摘示(1h))。
また、実施例として、請求項1に係る発明を具体化したものに相当する実施例1、請求項2に係る発明を具体化したものに相当する実施例2及び3、請求項3に係る発明を具体化したものに相当する実施例4、請求項5に係る発明を具体化したものに層とする実施例5が、樹脂組成物にグラファイトを用いない比較例1?3とともに、記載されている(摘示(1i))。
してみると、甲1には、その請求項3に係る発明の一態様である請求項2を引用する発明として、以下の
「樹脂100重量部に、グラファイト0.01?10.0重量部含有し、さらに、平均粒子径10?250μmの樹脂練り込み用アルミニウムフレークを0.1?10.0重量部と、平均粒子径1?200μmの二酸化チタンコートマイカを0.01?10.0重量部配合してなる、金属調光沢を有する樹脂組成物」
の発明(以下「甲1発明1」という。)が記載されているということができる。
また、甲1には、その実施例4に係る発明として、以下の
「ポリカーボネート樹脂(日本ジーイープラスチックス社製Lexan 121 R)98.95部にグラファイト(チバスペシャルティケミカルズ(株)製GRAPHITAN 7525、平均粒径10μm)0.05部、アルミニウムフレーク(Silberline社製Silvet 790-20-E,平均粒径40μm)0.5部、ニ酸化チタンコートマイカ(メルク社製Iriodin 100、平均粒径20μm)0.5部を添加し、よく混合後ベント付き30mm押出し機(日本製鋼所製TEX30)で、290℃で溶融混合し、ペレットとした、樹脂組成物」
の発明(以下「甲1発明2」という。)が記載されているということができる。

イ 甲2に記載された発明
甲2は、鱗片状光輝材を含有した熱可塑性樹脂にて形成され、その成形品の表面に縮みシボが形成された樹脂成形品について記載した特許文献である(摘示(2a)?(2e))。
そして、成形用樹脂組成物の各成分(摘示(2f)(2h))、縮みシボの形状寸法及び作用(摘示(2g)(2L))、成形体の成形方法(摘示(2i))が説明され、発明の効果として、「鱗片状光輝材を含有した熱可塑性樹脂にて形成され、その成形品の表面に縮みシボが形成されているため、メタリック調の外観を損なうことなく、樹脂製の射出成形品の表面に流れマークが現れることを効果的に防止できる」ことが記載され、各種の成形品用途が記載されている(摘示(2k))。
また、実施例として、各種の樹脂組成物を用い、縮みシボを有する金型を用いて浮き出しマーク部が形成されたエンジンカバーを作成した実施例1?26が記載され、実施例1と同じ樹脂組成物を用い表面にシボが形成されない成形品を成形した例が、比較例1として記載されている(摘示(2j))。実施例1?26のうちの実施例8は、熱可塑性樹脂として表1に「PC/ABSアロイ」「サイコロイC1200」と表示される樹脂を用い、鱗片状光輝材はアルミ粉とパール顔料を用いた例である(摘示(2j))。その樹脂は、摘示(2j)の段落【0026】?【0028】に「実施例2?実施例11」に関して記載された「ポリカーボネートとABS樹脂のアロイ(日本ジーイープラスチックス社製、サイコロイC1200)」であり、そのアルミ粉及びパール顔料は、上記段落【0026】?【0028】に特段の記載がなく、実施例2?実施例11は実施例1とともに表1に纏められていることからみて、実施例1で用いられている「平均粒子径が55μmで厚みが7.5μmすなわちアスペクト比が7.3のアルミニウム微粒子(大和金属社製、102C)」及び「平均粒径が20μmで厚みが0.3μmのパール顔料(メルクジャパン社製、イリオジン#100)」であると認められる。
してみると、甲2には、その実施例8に係る発明として、以下の
「ポリカーボネートとABS樹脂のアロイ(日本ジーイープラスチックス社製、サイコロイC1200))100質量部に、鱗片状光輝材として平均粒子径が55μmで厚みが7.5μmすなわちアスペクト比が7.3のアルミニウム微粒子(大和金属社製、102C)1質量部と、平均粒径が20μmで厚みが0.3μmのパール顔料(メルクジャパン社製、イリオジン#100)0.2質量部とを配合した成形材料」
の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているということができる。

(3)本件発明1について

ア 甲1発明1との対比

(ア)本件発明1と甲1発明1との対比
本件発明1と甲1発明1とを対比すると、
本件発明1の「ABS系樹脂とポリカーボネートとを混合してなるアロイ樹脂」は「樹脂」の一種であり、
甲1発明1の「樹脂練り込み用アルミニウムフレーク」は、本件発明1の「アルミフレーク」に相当し、
甲1発明1の「二酸化チタンコートマイカ」は、本件特許明細書の段落【0038】実施例において「酸化チタンによってマイカ表面が38%被覆されたパール調顔料」が用いられていることからも明らかなように、本件発明1の「パール調顔料」に相当し、
甲1発明1の「金属調光沢を有する樹脂組成物」は、本件発明1の「金属調樹脂組成物」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明1とは、
「樹脂に対して、アルミフレークとパール調顔料とが配合されてなる金属調樹脂組成物」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本件発明1においては、金属調樹脂組成物が、ABS系樹脂とポリカーボネートとを混合してなるアロイ樹脂に対して、平均粒径が5?30μmのアルミフレークと、該アルミフレークよりも明度の高い、粒度が5?500μmのパール調顔料とが、それぞれ0.1?5重量%の割合で配合されてなると特定されているのに対し、甲1発明1においては、樹脂の種類がそのように特定されず、アルミフレークは平均粒子径10?250μmで樹脂100重量部に対する配合割合が0.1?10.0重量部であり、パール調顔料は平均粒子径1?200μmで樹脂100重量部に対する配合割合が0.01?10.0重量部であり、アルミフレークよりもパール調顔料の明度が高いことが特定されていない点

(イ)相違点についての検討
相違点1について検討する。
甲1発明1においては、樹脂の種類が特定されず、アルミフレークは本件発明1よりも大粒径でもよく配合割合も本件発明1より広範で、パール調顔料は本件発明1よりも小粒径でもよく配合割合も本件発明1より広範である。また、アルミフレークよりもパール調顔料の明度が高いことは、甲1には記載されておらず、技術常識であるともいえない。
したがって、相違点1は、実質的な相違点でないとはいえない。

(ウ)したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえない。

(エ)特許異議申立人の主張について

a 特許異議申立人は、甲1には、以下の「甲第1号証発明」が記載されていると主張し、それに基づいて、本件発明1は、甲1に記載された発明であると主張している。
「(a1)ABS系樹脂とポリカーボネートとを混合してなるアロイ樹脂に対して、
(b1)平均粒子径10?250μmの樹脂練り込み用アルミニウムフレークと、
(c1)平均粒子径1?200μmの二酸化チタンコートマイカとが、
(d1)アルミニウムフレークを0.1?10.0重量部、二酸化チタンコートマイカが0.01?10.0重量部配合されてなる、
(e1)金属調樹脂組成物」

b しかし、甲1には、甲1の請求項3に係る発明において、その樹脂がABS系樹脂とポリカーボネートとを混合してなるアロイ樹脂であると特定されるような発明は、記載されていないから、特許異議申立人が主張する「甲第1号証発明」は、甲1に記載された発明であるということはできない。
よって、特許異議申立人の主張は採用できない。

イ 甲1発明2との対比

(ア)本件発明1と甲1発明2との対比
本件発明1と甲1発明2とを対比すると、
甲1発明1の「ポリカーボネート樹脂(日本ジーイープラスチックス社製Lexan 121 R)」と、本件発明1の「ABS系樹脂とポリカーボネートとを混合してなるアロイ樹脂」は、いずれも「樹脂」の一種であり、
甲1発明2の「アルミニウムフレーク(Silberline社製Silvet 790-20-E,平均粒径40μm)」は、本件発明1の「アルミフレーク」に相当し、
甲1発明2の「ニ酸化チタンコートマイカ(メルク社製Iriodin 100、平均粒径20μm)」は、本件特許明細書の段落【0038】実施例において「酸化チタンによってマイカ表面が38%被覆されたパール調顔料」が用いられていることからも明らかなように、本件発明1の「パール調顔料」に相当し、
甲1発明2の「樹脂組成物」は、甲1の請求項3の「金属調光沢を有する樹脂組成物」を具体化したものであるから、本件発明1の「金属調樹脂組成物」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明1とは、
「樹脂に対して、アルミフレークとパール調顔料とが配合されてなる金属調樹脂組成物」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点2)
本件発明1においては、金属調樹脂組成物が、ABS系樹脂とポリカーボネートとを混合してなるアロイ樹脂に対して、平均粒径が5?30μmのアルミフレークと、該アルミフレークよりも明度の高い、粒度が5?500μmのパール調顔料とが、それぞれ0.1?5重量%の割合で配合されてなると特定されているのに対し、甲1発明2においては、樹脂の種類がポリカーボネート樹脂であって異なり、アルミフレークは平均粒子径40μmで配合割合が0.5重量%であり、パール調顔料は平均粒子径20μmで配合割合が0.5重量%であり、アルミフレークよりもパール調顔料の明度が高いことが特定されていない点

(イ)相違点についての検討
相違点2について検討する。
甲1発明2においては、樹脂の種類が相違し、アルミフレークは本件発明1よりも大粒径であり、また、アルミフレークよりもパール調顔料の明度が高いことは、甲1には記載されておらず、技術常識であるともいえない。
したがって、相違点2は、実質的な相違点でないとはいえない。

(ウ)したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえない。

(エ)特許異議申立人の主張について
上記ア(エ)で述べたとおりである。

ウ 甲2発明との対比

(ア)本件発明1と甲2発明との対比
本件発明1と甲2発明とを対比すると、
甲2発明の「ポリカーボネートとABS樹脂のアロイ(日本ジーイープラスチックス社製、サイコロイC1200))」は、本件発明1の「ABS系樹脂とポリカーボネートとを混合してなるアロイ樹脂」に相当し、
甲2発明の「平均粒子径が55μmで厚みが7.5μmすなわちアスペクト比が7.3のアルミニウム微粒子(大和金属社製、102C)」は、本件発明1の「アルミフレーク」に相当し、
甲2発明の「平均粒径が20μmで厚みが0.3μmのパール顔料(メルクジャパン社製、イリオジン#100)」は、本件発明1の「パール調顔料」に相当し、
甲2発明の「成形材料」は、甲2の請求項1の樹脂成形品は、メタリック感に優れた、メタリック調の外観を有するものであり(摘示(2j)段落【0022】(3)の評価項目、摘示(2k))、その成形品を作るための樹脂組成物であるから、本件発明1の「金属調樹脂組成物」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明1とは、
「ABS系樹脂とポリカーボネートとを混合してなるアロイ樹脂に対して、アルミフレークとパール調顔料とが配合されてなる金属調樹脂組成物」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点3)
本件発明1においては、金属調樹脂組成物が、ABS系樹脂とポリカーボネートとを混合してなるアロイ樹脂に対して、平均粒径が5?30μmのアルミフレークと、該アルミフレークよりも明度の高い、粒度が5?500μmのパール調顔料とが、それぞれ0.1?5重量%の割合で配合されてなると特定されているのに対し、甲2発明においては、アルミフレークは平均粒子径55μmで樹脂100重量部に対する配合割合が1重量部であり、パール調顔料は平均粒子径20μmで樹脂100重量部に対する配合割合が0.2重量部であり、アルミフレークよりもパール調顔料の明度が高いことが特定されていない点

(イ)相違点についての検討
相違点3について検討する。
甲2発明においては、アルミフレークは本件発明1よりも大粒径であり、また、アルミフレークよりもパール調顔料の明度が高いことは、甲2には記載されておらず、技術常識であるともいえない。
したがって、相違点3は、実質的な相違点でないとはいえない。

(ウ)したがって、本件発明1は、甲2に記載された発明であるとはいえない。

(エ)特許異議申立人の主張について

a 特許異議申立人は、甲2には、以下の「甲第2号証発明」が記載されていると主張し、それに基づいて、本件発明1は、甲2に記載された発明であると主張している。
「(a2)ABS系樹脂とポリカーボネートとを混合してなるアロイ樹脂に対して、
(b2)平均粒子径が10?100μmの樹脂練り込み用アルミニウムフレークと、
(c2)平均粒子径1?100μmの二酸化チタンコートマイカとが、
(d2)アルミニウムフレークを1.0重量部、二酸化チタンコートマイカが0.2重量部配合されてなる、
(e2)メタリック調樹脂組成物」

b しかし、甲2には、樹脂としてポリカーボネートとABS樹脂のアロイを用いることが具体的に記載されているのは、その実施例8のみであり、その場合に上記の(b2)の「平均粒子径が10?100μmの樹脂練り込み用アルミニウムフレーク」と(c2)の「平均粒子径1?100μmの二酸化チタンコートマイカ」とを上記(d2)の配合量で用いるという技術思想の発明が記載されているとはいえないから、特許異議申立人が主張する「甲第2号証発明」は、甲2に記載された発明であるということはできない。
よって、特許異議申立人の主張は採用できない。

(4)本件発明2及び3について
本件発明2は、本件発明1に係る金属調樹脂組成物を用いて得られた、金属調樹脂成形品に係るものであり、また、本件発明3は、本件発明1に係る金属調樹脂組成物を用いる金属調樹脂成形品の製造方法に係るものであるから、本件発明1と同様に、本件出願前に頒布された甲1又は甲2に記載された発明であるとはいえない。

(5)理由1についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1?3は、本件出願前に頒布された甲1又は甲2に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、ということはできない。
よって、本件発明1?3についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるということはできず、同法第113条第2号に該当せず、理由1によって取り消されるべきものではない。

4 理由2について

(1)甲号各証の記載

ア 甲1の記載事項は、上記3(1)アに記載したとおりである。

イ 甲2の記載事項は、上記3(1)イに記載したとおりである。

(2)甲1及び甲2に記載された発明

ア 甲1に記載された発明は、上記3(2)アに記載したとおりである。甲1発明1及び甲1発明2を再掲する。
甲1発明1:
「樹脂100重量部に、グラファイト0.01?10.0重量部含有し、さらに、平均粒子径10?250μmの樹脂練り込み用アルミニウムフレークを0.1?10.0重量部と、平均粒子径1?200μmの二酸化チタンコートマイカを0.01?10.0重量部配合してなる、金属調光沢を有する樹脂組成物」
甲1発明2:
「ポリカーボネート樹脂(日本ジーイープラスチックス社製Lexan 121 R)98.95部にグラファイト(チバスペシャルティケミカルズ(株)製GRAPHITAN 7525、平均粒径10μm)0.05部、アルミニウムフレーク(Silberline社製Silvet 790-20-E,平均粒径40μm)0.5部、ニ酸化チタンコートマイカ(メルク社製Iriodin 100、平均粒径20μm)0.5部を添加し、よく混合後ベント付き30mm押出し機(日本製鋼所製TEX30)で、290℃で溶融混合し、ペレットとした、樹脂組成物」

イ 甲2に記載された発明は、上記3(2)イに記載したとおりである。甲2発明を再掲する。
甲2発明:
「ポリカーボネートとABS樹脂のアロイ(日本ジーイープラスチックス社製、サイコロイC1200))100質量部に、鱗片状光輝材として平均粒子径が55μmで厚みが7.5μmすなわちアスペクト比が7.3のアルミニウム微粒子(大和金属社製、102C)1質量部と、平均粒径が20μmで厚みが0.3μmのパール顔料(メルクジャパン社製、イリオジン#100)0.2質量部とを配合した成形材料」

(3)本件発明1について

ア 甲1発明1との対比・判断

(ア)本件発明1と甲1発明1との一致点及び相違点は、上記3(3)アに記載したとおりである。一致点及び相違点1を再掲する。
一致点:
「樹脂に対して、アルミフレークとパール調顔料とが配合されてなる金属調樹脂組成物」
相違点1:
本件発明1においては、金属調樹脂組成物が、ABS系樹脂とポリカーボネートとを混合してなるアロイ樹脂に対して、平均粒径が5?30μmのアルミフレークと、該アルミフレークよりも明度の高い、粒度が5?500μmのパール調顔料とが、それぞれ0.1?5重量%の割合で配合されてなると特定されているのに対し、甲1発明1においては、樹脂の種類がそのように特定されず、アルミフレークは平均粒子径10?250μmで樹脂100重量部に対する配合割合が0.1?10.0重量部であり、パール調顔料は平均粒子径1?200μmで樹脂100重量部に対する配合割合が0.01?10.0重量部であり、アルミフレークよりもパール調顔料の明度が高いことが特定されていない点


(イ)相違点についての検討
相違点1について検討する。

a 樹脂の種類をABS系樹脂とポリカーボネートとを混合してなるアロイ樹脂とする点について
甲1には、主剤の樹脂として、「特に限定されず、従来の樹脂成形体に用いられている樹脂を採用することもできる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩素化ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ABS樹脂、AS樹脂等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、本発明においては、特にポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ABS樹脂が好ましく用いられる。」(摘示(1e))と記載されているが、2種以上併用する態様は明示されず、実施例もポリカーボネートを用いた例のみである(摘示(1i))から、甲1の記載のみからは、樹脂の種類をABS系樹脂とポリカーボネートとを混合してなるアロイ樹脂とする点は、容易に想到できるとはいえない。
しかし、甲1と同様にアルミニウムフレークを配合した金属調外観を有する樹脂成形品について記載した甲2には、その実施例8に成形用樹脂としてポリカーボネートとABS樹脂のアロイを用いた例が記載されている(摘示(2j))から、甲2の記載を参酌すれば、甲1発明1において、樹脂の種類をABS系樹脂とポリカーボネートとを混合してなるアロイ樹脂とすることは、当業者が容易に想到し得る。

b 特定の平均粒径及び配合割合のアルミフレークと、アルミフレークよりも明度が高い特定の粒度及び配合割合のパール調顔料を併用する点について

(a)本件発明1において、アルミフレークの平均粒径及び配合割合、パール調顔料粒度及び配合割合並びにアルミフレークよりもパール調顔料の明度が高いことを特定しているのは、本件特許明細書の段落【0002】?【0012】及び【0024】の記載によると、アルミフレークを配合した金属調外観を有する樹脂成形品において、耐衝撃性を高める観点から樹脂としてABS樹脂とポリカーボネートが混合されたアロイ樹脂を用いた場合、アルミフレークがABS系樹脂相に偏ってしまう現象が生じて樹脂成形品に色ムラが生じるのを、明度の高いパール調顔料との組合せによってパール調顔料による成形体表面全体の明度の向上に基づいて発揮される隠蔽作用により目立たなくするためであり、同段落【0025】及び【0026】の記載によれば、上記の色ムラは、つぶつぶ感のある金属調の外観が表現される場合(アルミフレークの平均粒径が30μmを超える場合)は目立たないが、つぶつぶ感のない30μm以下のアルミフレークを用いる場合に目立つものである。
そして、アルミフレークの平均粒径の下限及び上限は、5μm未満では色ムラを隠蔽効果で目立たなくさせることが困難であり、30μmを超えるとつぶつぶ感のある外観になること(同段落【0025】)、アルミフレークの配合割合の下限及び上限は、光輝性の発現効果と機械強度の観点(同段落【0027】)、パール調顔料の粒度の下限及び上限は、5μm未満ではスジが発生し、500μmを超えるとつぶつぶ感が生じること(同段落【0030】)、パール調顔料の配合割合の下限及び上限は、隠蔽効果と機械強度の観点(同【0031】)で、それぞれ説明されている。

(b)甲1には、パール調顔料に相当する二酸化チタンコートマイカについて、好ましい平均粒径として「5?50μm」、好ましい配合割合として「0.1?5重量部」が記載され、実施例で用いているものも20μm、0.5重量%であるから、相違点1のうちパール調顔料の粒度と配合割合の点は、当業者が容易に想到し得る。

(c)しかし、甲1には、アルミフレークについては、好ましい配合割合は「0.5?5重量部」が記載されている(同段落【0012】)が、好ましい平均粒子径は「10?40μm」とされ(同段落【0011】)、実施例でも40μm、0.5重量%である(摘示(1i))。
また、アルミフレークとパール調顔料の明度に関しては、表1の比較例2及び3に、ポリカーボネートにアルミフレークを0.5重量%配合した成形体の明度「66.8」及びポリカーボネートに二酸化チタンコートマイカを0.5重量%配合した成形体の明度「79.0」が記載されているが(摘示(1i))、実施例で用いたアルミフレーク及び二酸化チタンコートマイカであるとすると、40μmのアルミフレークと、20μmの二酸化チタンコートマイカであり、その場合の成形体の明度を示しているにすぎない。甲1には、アルミフレークと、二酸化チタンコートマイカの明度についての記載は、他にはない。また、甲1発明1は、そもそも、グラファイトを0.10?10重量部配合することを必須の発明特定事項とし、そのことにより、黒を基調とした金属調光沢を有する成形体を得ることを意図したものであり(摘示(1e)段落【0009】、(1h))、樹脂成形体の明度を敢えて高くすることを、動機づけるものはない。
してみると、甲1発明1においてアルミフレークの平均粒子径が「10?250μm」と特定されているものから、5?30μmのものを選択し、かつその平均粒子径のアルミフレークよりも明度の高いパール調顔料を組み合わせることは、甲1の記載からは、動機づけられない。

(d)甲2を参照すると、アルミフレークの粒子径については、パール調顔料とともに、好ましい範囲が「10?100μm」と記載され(摘示(2f)段落【0014】)、実施例では平均粒子径55μmのものが用いられている(摘示(2j))。また、アルミフレークと、パール調顔料の明度についての記載は、特にない。
してみると、甲2の記載を組み合わせても、甲1発明1においてアルミフレークの平均粒子径が「10?250μm」と特定されているものから、5?30μmのものを選択し、かつその平均粒子径のアルミフレークよりも明度の高いパール調顔料を組み合わせることは、動機づけられない。

c したがって、甲1発明1に、甲1及び甲2に記載された事項を組み合わせても、甲1発明1において、相違点1に係る「金属調樹脂組成物が、ABS系樹脂とポリカーボネートとを混合してなるアロイ樹脂に対して、平均粒径が5?30μmのアルミフレークと、該アルミフレークよりも明度の高い、粒度が5?500μmのパール調顔料とが、それぞれ0.1?5重量%の割合で配合されてなる」との構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到できたとはいえない。

(ウ)発明の効果について
本件特許明細書の段落【0015】?【0016】には、発明の効果として「本発明に従う金属調樹脂組成物においては、それに含まれる光輝性材料として、アルミフレークとパール調顔料とが組み合わされて使用され、そして、それらが、それぞれ、特定の平均粒径及び粒度をもって、特定の割合で含有されているところから、かかる金属調樹脂組成物を用いた射出成形の実施によって得られる金属調樹脂成形品表面でのアルミフレークの偏在に起因した色ムラの発生が有利に解消され得る。このため、かかる金属調樹脂組成物を用いる場合には、成形されるべき金属調樹脂成形品表面でのアルミフレークの偏在の発生抑制のために、アルミフレークの添加量を減少させたり、或いはキャビティ面に凹凸模様が形成された成形用金型を用いて射出成形を行ったりする必要がない。それ故、そのような金属調樹脂組成物を用いた射出成形を行うことによって、金属調樹脂成形品が、アルミフレークの添加量の減少による表面全体の明度の低下や、キャビティ面に凹凸模様が形成された成形用金型の使用による表面の鏡面性の低下等を惹起させることなく、有利に得られる」、「アルミフレークの偏在による色ムラの発生がなく、しかも、表面の明度や表面性状に対して何等の制限が加えられることのない、所望の外観を有する金属調樹脂成形品を極めて有利に成形することができるのである」と記載されている。
そして、この効果は、特定の平均粒径及び配合割合のアルミフレークと、アルミフレークよりも明度が高い特定の粒度及び配合割合のパール調顔料を併用することについて、何ら着目するものではない甲1及び甲2の記載から、当業者が予測することができないものである。

(エ)したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、また、甲1(主引用例)に記載された発明及び甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(オ)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、甲1には、理由1について上記3(3)ア(エ)aに示した「甲第1号証発明」が記載されていると主張し、それに基づいて、本件発明1は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、甲1(主引用例)に記載された発明及び甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると主張している。
しかし、上記3(3)ア(エ)bに示したとおり、特許異議申立人が主張する「甲第1号証発明」は、甲1に記載された発明であるということはできない。
よって、特許異議申立人の主張は、誤った引用発明の認定に基づくものであり、採用できない。

イ 甲1発明2との対比・判断

(ア)本件発明1と甲1発明2との一致点及び相違点は、上記3(3)イに記載したとおりである。一致点及び相違点2を再掲する。
一致点:
「樹脂に対して、アルミフレークとパール調顔料とが配合されてなる金属調樹脂組成物」
相違点2:
本件発明1においては、金属調樹脂組成物が、ABS系樹脂とポリカーボネートとを混合してなるアロイ樹脂に対して、平均粒径が5?30μmのアルミフレークと、該アルミフレークよりも明度の高い、粒度が5?500μmのパール調顔料とが、それぞれ0.1?5重量%の割合で配合されてなると特定されているのに対し、甲1発明2においては、樹脂の種類がポリカーボネート樹脂であって異なり、アルミフレークは平均粒子径40μmで配合割合が0.5重量%であり、パール調顔料は平均粒子径20μmで配合割合が0.5重量%であり、アルミフレークよりもパール調顔料の明度が高いことが特定されていない点

(イ)相違点についての検討
相違点2について検討する。

a 樹脂の種類をABS系樹脂とポリカーボネートとを混合してなるアロイ樹脂とする点について
上記ア(イ)aで述べたのと同様であり、甲2の記載を参酌すれば、甲1発明1において、樹脂の種類をABS系樹脂とポリカーボネートとを混合してなるアロイ樹脂とすることは、当業者が容易に想到し得る。

b 特定の平均粒径及び配合割合のアルミフレークと、アルミフレークよりも明度が高い特定の粒度及び配合割合のパール調顔料を併用する点について
甲1発明2においては、パール調顔料に相当する二酸化チタンコートマイカは、平均粒径が20μm、配合割合が0.5重量%であるから、相違点2のうちパール調顔料の粒度と配合割合の点は、相違しない。
その他の点は、上記ア(イ)bで述べたのと同様である。甲1発明2においてアルミフレークの平均粒子径が40μmと特定されているものから、5?30μmのものへと変更し、かつその平均粒子径のアルミフレークよりも明度の高いパール調顔料を組み合わせることは、甲1の記載からは、動機づけられない。甲2の記載を組み合わせても、甲1発明2においてアルミフレークの平均粒子径が40μmと特定されているものから、5?30μmのものへと変更し、かつその平均粒子径のアルミフレークよりも明度の高いパール調顔料を組み合わせることは、動機づけられない。
したがって、甲1発明2に、甲1及び甲2に記載された事項を組み合わせても、甲1発明2において、相違点2に係る「金属調樹脂組成物が、ABS系樹脂とポリカーボネートとを混合してなるアロイ樹脂に対して、平均粒径が5?30μmのアルミフレークと、該アルミフレークよりも明度の高い、粒度が5?500μmのパール調顔料とが、それぞれ0.1?5重量%の割合で配合されてなる」との構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到できたとはいえない。

(ウ)発明の効果について
上記ア(ウ)で述べたのと同様である。

(エ)したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、また、甲1(主引用例)に記載された発明及び甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(オ)特許異議申立人の主張について
上記ア(オ)で述べたのと同様である。

ウ 甲2発明との対比・判断

(ア)本件発明1と甲2発明との一致点及び相違点は、上記3(3)イに記載したとおりである。一致点及び相違点3を再掲する。
一致点:
「ABS系樹脂とポリカーボネートとを混合してなるアロイ樹脂に対して、アルミフレークとパール調顔料とが配合されてなる金属調樹脂組成物」
相違点3:
本件発明1においては、金属調樹脂組成物が、ABS系樹脂とポリカーボネートとを混合してなるアロイ樹脂に対して、平均粒径が5?30μmのアルミフレークと、該アルミフレークよりも明度の高い、粒度が5?500μmのパール調顔料とが、それぞれ0.1?5重量%の割合で配合されてなると特定されているのに対し、甲2発明においては、アルミフレークは平均粒子径55μmで樹脂100重量部に対する配合割合が1重量部であり、パール調顔料は平均粒子径20μmで樹脂100重量部に対する配合割合が0.2重量部であり、アルミフレークよりもパール調顔料の明度が高いことが特定されていない点

(イ)相違点についての検討
相違点3について検討する。
特定の平均粒径及び配合割合のアルミフレークと、アルミフレークよりも明度が高い特定の粒度及び配合割合のパール調顔料を併用する点について検討する。

(a)本件発明1において、アルミフレークの平均粒径及び配合割合、パール調顔料粒度及び配合割合並びにアルミフレークよりもパール調顔料の明度が高いことを特定している理由は、上記ア(イ)b(a)で述べたとおりである。

(b)甲2発明においては、パール調顔料に相当するパール顔料は、平均粒径が20μm、配合割合が樹脂100質量部に対し0.2質量部(決定注:約0.2重量%に当たる。)であるから、相違点3のうちパール調顔料の粒度と配合割合の点は、相違しない。

(c)しかし、甲2発明において、アルミフレークに相当するアルミニウム微粒子については、配合割合は樹脂100質量部に対し1質量部(決定注:約1重量%に当たる。)であるが、平均粒子径が55μmである。甲2には、アルミニウム微粒子の粒子径については、パール調顔料とともに、好ましい範囲が「10?100μm」と記載されている(摘示(2f)段落【0014】)。また、アルミフレークと、パール調顔料の明度についての記載は、特にない。
してみると、甲2発明においてアルミフレークの平均粒子径が55μmと特定されているものから、5?30μmのものを選択し、かつその平均粒子径のアルミフレークよりも明度の高いパール調顔料を組み合わせることは、甲2の記載からは、動機づけられない。また、甲2発明は、そもそも、甲2の請求項1に記載された「鱗片状光輝材を含有した熱可塑性樹脂にて形成され、その成形品の表面に縮みシボが形成されたことを特徴とする樹脂成形品」のための成形用樹脂として記載されているものであり、甲2の上記樹脂成形品は、成形品の表面に縮みシボ(摘示(2L)図1)が形成されているため、メタリック調の外観を損なうことなく樹脂製の射出成形品の表面に現れる流れ模様(ブローマーク、ウエルドライン)が目立ちにくくなるというものである(摘示(2c)段落【0007】、(2k))。甲2には、メタリック調の外観を有する成形品の表面の色ムラを目立ちにくくするために、配合する鱗片状光輝材のアルミフレーク及びパール調顔料の、粒径や明度について、検討する契機となるものがない。

(d)甲1を参照すると、アルミフレークについては、好ましい平均粒子径は「10?40μm」とされ(摘示(1e)段落【0011】)、実施例では40μmのものが用いられている(摘示(1i))。アルミフレークと、パール調顔料の明度についての記載は、表1の比較例2及び3に、ポリカーボネートにアルミフレークを0.5重量%配合した成形体の明度「66.8」及びポリカーボネートに二酸化チタンコートマイカを0.5重量%配合した成形体の明度「79.0」が記載されているが(摘示(1i))、実施例で用いたアルミフレーク及び二酸化チタンコートマイカであるとすると、40μmのアルミフレークと、20μmの二酸化チタンコートマイカであり、その場合の成形体の明度を示しているにすぎない。甲1には、アルミフレークと、二酸化チタンコートマイカの明度についての記載は、他にはない。
してみると、甲1の記載を組み合わせても、甲2発明においてアルミフレークの平均粒子径が55μmと特定されているものから、5?30μmのものを選択し、かつその平均粒子径のアルミフレークよりも明度の高いパール調顔料を組み合わせることは、動機づけられない。

c したがって、甲2発明に、甲1及び甲2に記載された事項を組み合わせても、甲2発明において、相違点3に係る「金属調樹脂組成物が、ABS系樹脂とポリカーボネートとを混合してなるアロイ樹脂に対して、平均粒径が5?30μmのアルミフレークと、該アルミフレークよりも明度の高い、粒度が5?500μmのパール調顔料とが、それぞれ0.1?5重量%の割合で配合されてなる」との構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到できたとはいえない。

(ウ)発明の効果について
上記ア(ウ)で述べたのと同様である。

(エ)したがって、本件発明1は、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、また、甲2(主引用例)に記載された発明及び甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(オ)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、甲2には、理由1について上記3(3)ウ(エ)aに示した「甲第2号証発明」が記載されていると主張し、それに基づいて、本件発明1は、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、甲2(主引用例)に記載された発明及び甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると主張している。
しかし、上記3(3)ウ(エ)bに示したとおり、特許異議申立人が主張する「甲第2号証発明」は、甲2に記載された発明であるということはできない。
よって、特許異議申立人の主張は、誤った引用発明の認定に基づくものであり、採用できない。

(4)本件発明2及び3について
本件発明2は、本件発明1に係る金属調樹脂組成物を用いて得られた、金属調樹脂成形品に係るものであり、また、本件発明3は、本件発明1に係る金属調樹脂組成物を用いる金属調樹脂成形品の製造方法に係るものであるから、本件発明1と同様に、本件出願前に頒布された甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、甲1(主引用例)に記載された発明及び本件出願前に頒布された甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないし、また、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、甲2(主引用例)に記載された発明及び甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(5)理由2についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1?3は、本件出願前に頒布された甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、甲1(主引用例)に記載された発明及び本件出願前に頒布された甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないし、また、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、甲2(主引用例)に記載された発明及び甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。
よって、本件発明1?3についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるということはできず、同法第113条第2号に該当せず、理由1によって取り消されるべきものではない。

第5 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?3に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに本件発明1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-07-29 
出願番号 特願2010-90102(P2010-90102)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B29C)
P 1 651・ 536- Y (B29C)
P 1 651・ 113- Y (B29C)
P 1 651・ 537- Y (B29C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 細井 龍史新留 豊  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 加藤 幹
中田 とし子
登録日 2015-10-09 
登録番号 特許第5820571号(P5820571)
権利者 日本エイアンドエル株式会社 小島プレス工業株式会社
発明の名称 金属調樹脂組成物及び金属調樹脂成形品  
代理人 中島 三千雄  
代理人 中島 三千雄  
代理人 中島 正博  
代理人 中島 正博  

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