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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A23L
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A23L
管理番号 1318296
審判番号 無効2011-800215  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-10-25 
確定日 2013-07-23 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3558399号発明「高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3558399号の請求項に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 理 由
第1 手続の経緯(1)

1.本件特許第3558399号の請求項1?4に係る発明についての出願は,平成7年2月8日に出願され,平成16年5月28日にその発明について特許権の設定登録がされたものである。

2.請求人は,平成23年10月25日付審判請求書を提出し,本件の請求項1?4に係る発明の特許は,以下の理由により無効とされるべきものであると主張している。

無効理由1:
本件発明は,甲第1号証に記載された発明であるから,本件特許は,特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものである。

無効理由2:
本件発明は,甲第2号証に記載された発明であるから,本件特許は,特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものである。

無効理由3
本件発明は,甲第1号証あるいは甲第2号証に記載の発明に、当業者が適宜設計できる事項、すなわち、甲第4号証に開示されているような周知の技術的事項を適用することにより当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3.これに対して,被請求人は,平成24年1月10日付で訂正請求書を提出して本件明細書の訂正を求めている。

第2 訂正請求についての判断

1.訂正事項
平成24年1月10日付訂正請求の内容は,本件明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものであり,具体的な訂正事項は以下の通りである。

訂正事項1
特許第3558399号における訂正前明細書の特許請求の範囲を、 「【請求項1】 高温加熱殺菌される飲料に、予めシュクラロースを添加して甘味を付与した後、高温加熱殺菌することを特徴とする高温加熱飲料の甘味付与方法。
【請求項2】 シュクラロースを、0.001重量%から0.5重量%で添加する請求項1記載の高温殺菌飲料の甘味付与方法。
【請求項3】 高温加熱殺菌飲料のpHの範囲が4.6以上である請求項1記載の高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法。
【請求項4】 高温加熱殺菌飲料を、レトルト、オートクレーブ、プレート、チューブ式殺菌による高温処理する請求項1記載の高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法。」から,
「【請求項1】
レトルト、オートクレーブ、プレート又はチューブ式殺菌により高温加熱殺菌される飲料に、予めシュクラロースを添加して甘味を付与した後、前記高温加熱殺菌することを特徴とする高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法。
【請求項2】
シュクラロースを、0.001重量%から0.5重量%で添加する請求項1記載の高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法。
【請求項3】
高温加熱殺菌される飲料のpHの範囲が6.8以上である請求項1記載の高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法。」,に訂正する。

訂正事項2
訂正前明細書の段落【0001】における「より詳細には、長期保存のために、85℃で30分間以上の殺菌、あるいは121℃で4分間以上の加熱殺菌を行う高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法に関する。」の記載を下記のように訂正する。
「より詳細には、長期保存のために、レトルト、オートクレーブ、プレート又はチューブ式殺菌により高温加熱殺菌を行う高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法に関する。」

訂正事項3
訂正前明細書の段落【0005】における「本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、しょ糖と同質の甘味質を与え、高温加熱に対して安定な高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法を提供することを目的としている。」の記載を下記のように訂正する。
「本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、しょ糖と同質の甘味質を与え、レトルト、オートクレーブ、プレート又はチューブ式殺菌による高温加熱殺菌に対して安定な高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法を提供することを目的としている。」

訂正事項4
訂正前明細書の段落【0006】における「本発明者らは高温加熱殺菌飲料の甘味質や熱安定性に関し鋭意研究を重ねた結果、高温加熱殺菌される飲料に、予めシュクラロースを添加して甘味を付与した後、高温加熱殺菌することにより、しょ糖と同等の甘味質を持ち、かつ熱に安定な高温加熱殺菌飲料を得ることができ、本発明を完成するに至った。」の記載を下記のように訂正する。
「本発明者らは高温加熱殺菌飲料の甘味質や熱安定性に関し鋭意研究を重ねた結果、レトルト、オートクレーブ、プレート又はチューブ式殺菌により高温加熱殺菌される飲料に、予めシュクラロースを添加して甘味を付与した後、前記高温加熱殺菌することにより、しょ糖と同等の甘味質を持ち、かつ熱に安定な高温加熱殺菌飲料を得ることができ、本発明を完成するに至った。」

訂正事項5
訂正前明細書の段落【0007】における「本発明における高温加熱殺菌される飲料とは、UHT、HIST、レトルト、オートクレーブ、プレート、チューブラー式殺菌等の高温処理を伴う殺菌方法により殺菌処理される飲料を意味するものである。飲料の具体的な種類は、常温流通を目的とするには、高温加熱殺菌が必要なものであればよく、コーヒー、紅茶、ココア、乳飲料及びこれらの清涼飲料類、緑茶、抹茶、ウーロン茶、汁粉、甘酒、飴湯等の嗜好性飲料や健康飲料類がある。」の記載を下記のように訂正する。
「本発明における高温加熱殺菌される飲料とは、レトルト、オートクレーブ、プレート又はチューブ式殺菌により高温加熱殺菌処理される飲料を意味するものである。飲料の具体的な種類は、常温流通を目的とするには、上記高温加熱殺菌が必要なものであればよく、コーヒー、紅茶、ココア、乳飲料及びこれらの清涼飲料類、緑茶、抹茶、ウーロン茶、汁粉、甘酒、飴湯等の嗜好性飲料や健康飲料類がある。」

訂正事項6
訂正前明細書の段落【0024】の【発明の効果】における「高温殺菌に対しても安定な飲料を提供することができる。」の記載を下記のように訂正する。
「レトルト、オートクレーブ、プレート又はチューブ式殺菌による高温加熱殺菌に対しても安定な飲料を提供することができる。」

2.訂正事項についての判断
訂正事項1は,請求項1に記載する「高温加熱殺菌」を、訂正前の請求項4に記載する「レトルト、オートクレーブ、プレート、チューブ式殺菌による高温加熱殺菌」に限定し、それに伴って請求項4を削除(訂正事項1-1),訂正前の請求項1?3の「高温加熱殺菌」、「高温加熱」及び「高温殺菌」という用語をすべて「高温加熱殺菌」という用語に統一(訂正事項1-2),訂正前の請求項3の,「高温加熱殺菌飲料」を、請求項1の訂正に合わせて「高温加熱殺菌される飲料」と訂正(訂正事項1-3)、pH範囲「4.6以上」を「6.8以上」に限定(訂正事項1-4)するものである。また,訂正事項2乃至6は訂正後の特許請求の範囲の記載に整合させる訂正である。
よって,訂正事項1-1及び1-4は特許請求の範囲の減縮,訂正事項1-2,1-3,及び2乃至6は明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり,これらの訂正はいずれも願書に添付した明細書に記載した事項の範囲の訂正であって,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないことから,本件訂正は,特許法第134条の2第1項ただし書き,及び,同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものであり,適法な訂正と認める。

第3 手続の経緯(2)

1. 上記「第2」で訂正を認めた3の訂正発明に関し、訂正前発明4が訂正発明1に該当することから,本件無効審判においては全ての訂正発明1?3に対して無効審判が請求されていることになっていたが,請求人が平成24年4月12日付口頭審理陳述要領書を提出,訂正発明3についての無効理由1及び2の主張は撤回したこと(同口頭審理陳述要領書第4頁最下行並びに第1回口頭審理調書請求人3の項及び被請求人4の項)から,訂正発明1及び2については上記「第2」の無効理由1乃至3,訂正発明3については上記「第2」の無効理由3が主張されている。

そして請求人は,証拠方法として以下の甲第1?4号証を提出している。
甲第1号証:CAN.J.PHYSIOL.PHARMACOL,72,p.435-439,"The development and applications of sucralose, a new high-intensity sweetener"(発行:1994年)
甲第2号証:特開平5-271101号公報
甲第3号証:実験報告書(平成23年9月5日,佐々木忠明)
甲第4号証:特開平7-8167号公報

2.これに対して,被請求人は,平成24年1月10日付答弁書及び平成24年4月12日付口頭審理陳述要領書を提出し,本件審判の請求は成り立たない旨主張している。

そして被請求人は,証拠方法として以下の乙第1?9号証を提出している。
乙第1号証:「HACCP:衛生管理計画の作成と実践 清涼飲料水実践編」、厚生省生活衛生局食品保健課監修、清涼飲料水のHACCP研究班編著、(中央法規出版(株))、2000年7月15日発行、2-5頁、66-69頁
乙第2号証:「食品の殺菌-その科学と技術-」、著者:高野光男、横山理雄、((株)幸書房)、2003年10月25日発行、8-12頁、116-122頁、127-138頁、217-219頁
乙第3号証:「生化学辞典」(第2版)、今堀和友・山川民夫監修、(株式会社東京化学同人)、1990年11月22日発行、447頁
乙第4号証:「改訂新版 ソフト・ドリンクス」、社団法人全国清涼飲料工業会・財団法人日本炭酸飲料検査協会監修、改訂新版・ソフトドリンクス編集委員会編纂、((株)光琳)、平成元年12月25日発行、546-558頁
乙第5号証:「食品保存便覧」、(株)ビジネスセンター社編集部編集、(株)クリエイティブジャパン発行、1992年6月15日発行、135-137頁
乙第6号証:特開2003-325115号公報
乙第7号証:実験報告書1(2012年4月11日,本件特許権者の従業員(研究者):芳仲幸治作成)
乙第8号証:実験報告書2(2012年4月10日,本件特許権者の従業員(研究者):芳仲幸治作成)
乙第9号証:実験報告書3(2012年4月11日,本件特許権者の従業員(研究者):芳仲幸治作成)

第4 本件発明

以上の通りであるから,本件発明は,平成24年1月10日付訂正請求書に添付された訂正明細書の,特許請求の範囲の請求項1?3に記載された以下の通りのものと認められる(以下,「本件発明1」?「本件発明3」という。)。
「【請求項1】
レトルト、オートクレーブ、プレート又はチューブ式殺菌により高温加熱殺菌される飲料に、予めシュクラロースを添加して甘味を付与した後、前記高温加熱殺菌することを特徴とする高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法。
【請求項2】
シュクラロースを、0.001重量%から0.5重量%で添加する請求項1記載の高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法。
【請求項3】
高温加熱殺菌される飲料のpHの範囲が6.8以上である請求項1記載の高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法。」

第5 無効理由1について

1.請求人の主張
本件無効審判において,請求人は,本件発明1及び2が甲第1号証に記載された発明であり,特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであると主張する。

そこで,まず,本件発明1の新規性について検討する。

2.被請求人の主張
被請求人は,以下のように主張している。
(1)甲第1号証における記載及び示唆
『甲第1号証には「バニラミルク」の加熱殺菌方法として141℃で3.5秒間の加熱殺菌することが記載されているが、本件発明で使用する「レトルト、オートクレーブ、プレート又はチューブ式殺菌による高温加熱殺菌」については記載されていない。
具体的には、本件発明が対象とする「レトルト殺菌」とは、乙第1号証(「HACCP:衛生管理計画の作成と実践 清涼飲料水実践編」、厚生省生活衛生局食品保健課監修、清涼飲料水のHACCP研究班編著、(中央法規出版(株))、2000年7月15日発行、2-5頁及び66-69頁)の69頁2行目及び7?9行目に記載されているように、中心温度120℃・4分間の加熱殺菌、またはこれと同等以上の効力を有する方法で殺菌する方法を意味する。このことは、乙第2号証(「食品の殺菌-その科学と技術-」、著者:高野光男、横山理雄、((株)幸書房)、2003年10月25日発行、8-12頁、116-122頁、127-138頁、217-219頁)の9頁4?7行目及び10頁下から2行目?11頁1行目にも記載されている。なお、乙第1号証は、「清涼飲料水」に関するものであるが、その2頁2?3行目に記載の通り、日本標準食品分類によると、清涼飲料水は「アルコールを含まない飲料」として広く定義されており、これに基づけば、甲第1号証の「バニラミルク」もまた甲第2号証の「チョコレートミルクドリンク」も清涼飲料水に該当する。
また「オートクレーブ殺菌」とは、乙第3号証(「生化学辞典」(第2版)、今堀和友・山川民夫監修、(株式会社東京化学同人)、1990年11月22日発行、447頁)に記載されているように、高圧滅菌器(オートクレーブ)を用いた殺菌処理をいう。具体的には、水をいれた密閉容器で、100℃以上に熱して水蒸気加圧し、水溶液や機器類を滅菌するのに用いる釜(高圧滅菌器)を用いて、例えば、常圧+1kg/cm2(120℃)で30分前後水蒸気加圧することによって殺菌する方法である。
これらからわかるように、本件発明が対象とするレトルト及びオートクレーブ殺菌は、甲第1号証で飲料「バニラミルク」に採用されている加熱殺菌処置と、加熱殺菌条件が相違するのみならず、使用する加熱殺菌装置においても全く相違する、異なる加熱殺菌方法である。
一方、プレート又はチューブ式殺菌は、乙第4号証(「改訂新版 ソフト・ドリンクス」、社団法人全国清涼飲料工業会・財団法人日本炭酸飲料検査協会監修、改訂新版・ソフトドリンクス編集委員会編纂、((株)光琳)、平成元年12月25日発行、546-558頁)の、特に546頁に記載されているように、連続式殺菌装置を用いた殺菌方法である。かかる連続式殺菌装置のうち、チューブ式殺菌は、チューブ式殺菌機(Tubular heat exchanger)、またはチューブ式UHT滅菌装置(Tubular type ultra high temperature heating system)等を用いた殺菌方法であり、プレート式殺菌は、プレート式熱交換機(Plate heat exchanger)、HTSTプレート式殺菌装置(High temperature short time plate heat exchanger)、またはプレート型UHT滅菌装置(Plate type ultra high temperature heating system)等を用いた殺菌方法である。
これに対して、甲第1号証には、前述するように、飲料に相当する「バニラミルク」の加熱殺菌方法として141℃で3.5秒間超高温加熱することが記載されているに過ぎず、本件発明が採用するプレート式及びチューブ式の高温加熱殺菌については記載も示唆もされていない。
(i)本件発明1の新規性
すなわち、請求人主張の分説に従うと、甲第1号証には下記の発明(甲1発明)が記載されているのに対して、本件発明は下記に示す通りであり、これから、1A?1Cを構成とする本件発明1は甲1発明に記載されていない高温加熱殺菌方法による甘味付与用法であること、つまり両者は相違する発明であることは明白である。』(答弁書第12頁第6行?第14頁第4行)

(2)甲第1号証に記載されているのが「バニラミルク」との特定の飲料についてのみであるとの主張
『合議体は、引用例1の表4に「バニラミルク」の他「トロピカル飲料」との項目があることに加えて、表5に「飲料」の項目が記載されていることを理由に、「引用例1には『バニラミルク』に限定されず飲料全体を対象として、シュクラロースを添加して高温殺菌すること、添加されたシュクラロースは高温加熱処理に対して安定であることが記載されている。」(通知書第2頁23-26行目)と認定している。
しかしながら、表5は、高温加熱殺菌処理とは無関係に、単に、カナダ総督によって1991年9月5日にシュクラロースの使用を認められた13品目の飲食品を列挙したものに過ぎない。例えば炭酸飲料のように、飲料であっても、通常、レトルト、オートクレーブ、及びUHT殺菌等の高温加熱殺菌処理を適用しない飲料があることは当業界では常識である。
従って、上記合議体の認定は、かかる当業界の認識を超えて、引用例1の記載を不当に拡大解釈したものである。』(口頭審理陳述要領書第4頁下から第9行?第5頁第4行)

(3)上位概念の下位概念化についての主張
『仮に、引用例1の具体的な記載を「高温加熱殺菌」と上位概念化することができたとしても、引用発明が、上位概念で表現されている場合は、そこに下位概念で表現された発明が示されていることにならないというのが、新規性判断の基本である。しかも、この場合、出願当時の技術常識を参酌して、単に、概念上、下位概念が上位概念に含まれる、あるいは上位概念の用語から下位概念の用語を列挙することができることのみでは、引用発明から下位概念で表現された発明が導き出せる(記載されている)とはしないというのが特許庁の運用である(特許庁編「特許・実用新案審査基準」第II部第2章 新規性進歩性、1.5.3「第29条第1項各号に掲げる発明として引用する発明(引用発明)の認定」(4)参照)。
飲料の「高温加熱殺菌」方法としては、答弁書で主張するレトルト殺菌、オートクレーブ殺菌、高温短時間殺菌(HTST)、及び超高温殺菌(UHT)のほか、熱水浸漬式、熱水噴霧式、及びジャケット式等の種々の方法があり、そのうち、UHT殺菌だけをみても、インジェクション法、インフュージョン法(以上、直接加熱方式)、プレート式、チューブ式、及び表面かき取り式(以上、間接加熱方式)の少なくとも5通りの種類がある。固液混合食品については、さらにジュピターシステム、オーミック滅菌、及びマイクロ波加熱方式がある(乙第2号証、120頁の表6.3参照)。
つまり、本件発明が使用する「レトルト、オートクレーブ、プレート又はチューブ式殺菌」は、従来知られている高温加熱殺菌方法の一部に過ぎず、しかも、本件発明において、これらの高温加熱殺菌方法は、常套手段として任意に選択されるものではなく、上記する本件発明の目的を達成するために採用された特定の高温加熱殺菌である。
従って、仮に引用例1の記載から「高温加熱殺菌方法」という上位概念が抽出されるとしても、本件発明の「高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法」において、直ちに訂正発明1に記載する「レトルト、オートクレーブ、プレート又はチューブ式殺菌」を導き出すことはできないのである。』(口頭審理陳述要領書第10頁第8行?第11頁第11行)

3.当審の判断
(1)引用発明
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には,以下の事項が記載されている。
(i)「甘味料の開発において、一群のなかで最も有望なものは、4.1’.6’トリクロロ誘導体である。これは、一般にシュクラロースの名称で知られている。それは、高温・低pHのいずれにおいても抜きんでた安定性と、砂糖に近い甘味特性を有している。
シュクラロースは、その後広く利用されるようになり、カナダでは、SPLENDの商標で一般的に利用されている。」(第426頁左欄第1行?第8行)
(ii)「特定の製品群に添加したときのシュクラロースの分解性を評価するために、通常の製造並びに加工段階での安定性研究が行われた(Qualan & Jenner 1990)。高温、酸性域両方の条件下の水系において、シュクラロースは抜群の安定性を有することが確認された。モデル研究は最初にこの安定性の定量化が行われ(Qualan & Jenner 1989)、次の特定検討は、焼成、低温殺菌、高温殺菌、超高温加工、射出のような加工段階の安定性定量化が行われた。」(第438頁左欄第17行?第26行)
(iii)「保存のために高温処理に頼る食品・飲料における安定性調査の目的で、実際の食品処方を用いて多くの研究が実施された(表4)。製品としては、過酷なPH範囲と温度条件の代表的なものが選ばれた。加工処理は、本来の目的に忠実であるために実際の工業的(生産)設備で行われた。加工処理は、シュクラロースの添加よる影響が殆どなかった(図5)。これらすべてのデーターはこの製品の評価を助力となるようカナダ健康福祉庁に提出された。」(第438頁右欄第22行?第439頁左欄第3行)
(iv)「1991年9月5日に,カナダ総督は13の食品及び飲料のカテゴリーにおけるシュクラロースの使用を認める規則に署名した(表5)。」(第439頁左欄「Approval」項の第1行?第3行)
(v)表4には「バニラミルク」の超高温加熱殺菌(Ultrahigh temperature)(141℃,3.5秒),「トロピカル飲料」の低温加熱殺菌(Pasteurization)(93℃,24秒)を含む具体的な飲食品における加熱殺菌条件が記載されており,図5では当該条件での加熱前後でシュクラロースの含有量がほぼ変わらないことが示されている。
(vi)表5にはシュクラロースを使用できることが認可された分野として「飲料」との項目があり,最大添加量が0.025%とされている。
記載事項(v)(vi)により,表4には「バニラミルク」の他「トロピカル飲料」との項目及び表5に「飲料」との項目が記載されていることから,記載事項(i)?(vi)により,甲第1号証には「バニラミルク」に限定されず飲料全体を対象として,シュクラロースを添加して高温殺菌すること,添加されたシュクラロースは高温加熱処理に対して安定であることが記載されているものと認められる。

ここで,関連する被請求人の主張について検討すると,被請求人は,上記2.(2)のように,表5が、高温加熱殺菌処理とは無関係に、単に、カナダ総督によって1991年9月5日にシュクラロースの使用を認められた13品目の飲食品を列挙したものに過ぎず,例えば炭酸飲料のように、飲料であっても、通常、レトルト、オートクレーブ、及びUHT殺菌等の高温加熱殺菌処理を適用しない飲料があることが当業界では常識であることから,甲第1号証に記載されているのが「バニラミルク」との特定の飲料についてのみであると主張している。しかし,表5自体は高温加熱殺菌処理に直接関係するものではないが,そもそも甲第1号証にはシュクラロースが高温において抜きんでた安定性を有することが記載されており,また,表5により特定の温度の文脈ではなく一般的にシュクラロースが飲料一般さらには食品一般に用いられるということが記載されているのであるから、当業者であれば甲第1号証における「バニラミルク」を飲料の単なる1つの具体例と認識し,これらの記載から,甲第1号証には,飲料一般を対象として,シュクラロースを添加して高温殺菌すること,添加されたシュクラロースは高温加熱処理に対して安定であることが記載されていると認識するのが自然である。また,このことは,甲第1号証に接した当業者が,通常高温加熱殺菌処理をしない飲料も含めてあらゆる飲料についてシュクラロースを添加して高温殺菌することが記載されていると把握すると言っているわけではない。当業者は,技術常識を踏まえ,飲料であっても高温加熱殺菌処理をしない飲料を当然に対象から除いて認識するものであるから,当該技術常識の存在が,飲料にシュクラロースを添加して高温殺菌すること,添加されたシュクラロースは高温加熱処理に対して安定であるという一般的概念が甲第1号証に記載されていると当業者が把握することを妨げるとはいえない。
よって、被請求人の上記主張を採用することはできない。

さらに,シュクラロースの最大添加量が0.025%(表5)であることが記載されている。

以上により,甲第1号証には,「高温加熱殺菌される飲料に,予め最大で0.025重量%のシュクラロースを添加して甘味を付与した後,高温加熱殺菌することを特徴とする,高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法」が記載されている。

(2)対比
本件発明1と甲第1号証に記載された方法とを比較すると,両者は「高温加熱殺菌される飲料に,予めシュクラロースを添加して甘味を付与した後,高温加熱殺菌することを特徴とする,高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法」である点で一致し,その一方,前者では高温加熱殺菌の手法が「レトルト,オートクレーブ,プレート又はチューブ式殺菌」と限定されているのに対し,後者ではそのような手法が明記されていない点で一応相違する。

(3)判断
本件発明1と甲第1号証に記載された発明は上記3.(2)のように高温加熱殺菌の手法の明記の有無で一応相違する。しかし,当業者であれば,ある概念に接した際にその概念を具現する具体的な常套手段まで含めて記載されているに等しい事項として認識できるものであり,「レトルト,オートクレーブ,プレート又はチューブ式殺菌」は,乙第1号証から第5号証によっても示されるように高温加熱殺菌の手法としては常套手段であるから,甲第1号証における「高温加熱殺菌」との概念に接した当業者は高温加熱殺菌の常套手段である「レトルト,オートクレーブ,プレート又はチューブ式殺菌」も含めて認識できるものといえる。また,このように当業者がきわめて容易に例示し得る各種高温加熱殺菌法については,実質的には選択肢として記載されているに等しいということもできる。よって、本件発明1と甲第1号証に記載された発明の一応の相違点は実質的な相違点とはいえず、被請求人が上記2.(1)で主張するように「両者は相違する発明であることは明白である」とはいえない。よって,請求人が訂正前発明4について審判請求書において主張するとおり,本件発明1は甲第1号証により新規性を有さない。
被請求人は,上記2.(3)のように,「レトルト、オートクレーブ、プレート又はチューブ式殺菌」は、従来知られている高温加熱殺菌方法の一部に過ぎず、しかも、本件発明において、これらの高温加熱殺菌方法は、常套手段として任意に選択されるものではなく、上記する本件発明の目的を達成するために採用された特定の高温加熱殺菌であることから,「高温加熱殺菌方法」という上位概念が抽出されるとしても、「特許・実用新案審査基準」第II部第2章 新規性進歩性、1.5.3「第29条第1項各号に掲げる発明として引用する発明(引用発明)の認定」(4)を踏まえると,本件発明の「高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法」において、直ちに本件発明1に記載する「レトルト、オートクレーブ、プレート又はチューブ式殺菌」を導き出すことはできない旨主張している。しかし,審査基準の同項では、そもそも,技術常識を参酌することにより,下位概念で表現された発明が導き出せる場合は認定できる,としており,「レトルト、オートクレーブ、プレート又はチューブ式殺菌」は高温加熱殺菌方法として前述のとおり常套手段であり,きわめて一般的な高温加熱殺菌方法であるから,高温加熱殺菌方法の一部だとしても,単に上位概念の用語から列挙できる下位概念の用語ではなく,当業者が技術常識を参酌することによって上位概念から導き出せる事項であるといえる。
よって、被請求人の上記主張を採用することはできない。

(4)小括
以上の通りであるから,本件発明1は,甲第1号証に記載された発明である。

4.本件発明2について

(1)判断
本件発明2は,本件発明1のシュクラロースの量を「0.001重量%から0.5重量%」に限定したものである。

本件発明2と甲第1号証に記載された方法とを比較すると,後者の「最大で0.025重量%」は前者の「0.001重量%から0.5重量%」に相当するから,本件発明2と甲第1号証に記載された方法は,本件発明1と甲第1号証に記載された方法との対比と同様に高温加熱殺菌の手法の明記の有無についてのみ一見相違し,その点については上記3.(3)で述べたとおり実質的な相違点とはいえず,本件発明2は甲第1号証により新規性を有さない。

(2)小括
以上の通りであるから,本件発明2は,甲第1号証に記載された発明である。

第6 無効理由2について

1.請求人の主張
本件無効審判において,請求人は,本件発明1及び2が甲第2号証に記載された発明であり,特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであると主張する。

そこで,まず,本件発明1の新規性について検討する。

2.被請求人の主張
請求人の主張に対して,被請求人は,以下のように主張している。
(1)『また、「レトルト殺菌」が中心温度120℃・4分間の加熱殺菌、またはこれと同等以上の効力を有する方法で殺菌する方法であること(乙第1及び2号証)、「オートクレーブ殺菌」が高圧滅菌器を用いて、例えば、常圧+1kg/m2(120℃)で30分前後水蒸気加圧する殺菌方法であることも前述した通りである(乙第3号証)。
また、本件発明で対象とするプレート及びチューブ式殺菌は、前述するように、いずれも連続式殺菌装置を用いて殺菌する方法である。具体的には、プレート式殺菌は、プレート式熱交換機、HTSTプレート式殺菌装置、またはプレート型UHT滅菌装置等の連続式殺菌装置を用いた殺菌方法であり、チューブ式殺菌は、チューブ式殺菌機、またはチューブ式UHT滅菌装置等の連続式殺菌装置を用いた殺菌方法である(乙第4号証)。
これに対して、甲第2号証において「チョコレートミルクドリンク」の製造に使用されている加熱滅菌方法は、単に80℃で加熱するというものであり、本件発明の「レトルト、オートクレーブ、プレート、チューブ式殺菌による高温加熱殺菌」については記載も示唆もされていない。
(i)本件発明1の新規性
上記請求人が主張する甲第2号証の分説に従って本件発明を分説すると、下記に示す通りである。
両者を対比すると、1A?1Cを構成とする本件発明1は甲第2号証に記載されていない発明であることは明白である。』(答弁書第16頁第7行?最終行)
(2)『甲第2号証の【0032】には80℃で滅菌することは記載されているが殺菌することは記載されていない。』(第1回口頭審理調書被請求人7の項)

3.当審の判断
(1)引用発明
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には,
(i)「例3 チョコレートミルクドリンク
5%スクロースに等価の甘味を供するようにスクラロース又はスクラロースとネオDCの混和物を使用してチョコレートミルクドリンクを調製した。【表3】
チョコレートミルクドリンクを調製するために、ドライ成分を予備混合しそしてミルクに分散させる。80℃に加熱して滅菌し、均質化しそして4℃に冷却する。」(第6頁【0031】?【0032】),が記載されており,表3にはスクラロースの添加量が0.0075重量%であることが記載されている。

(2)対比
本件発明1と甲第2号証に記載された方法とを比較すると,スクラロースとシュクラロースは同一のものであり,チョコレートミルクドリンクは飲料に相当するから,飲料に、予めシュクラロースを添加して甘味を付与した後、高温加熱処理することを特徴とする高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法である点で共通する。
一方,高温加熱処理が,前者はレトルト、オートクレーブ、プレート又はチューブ式殺菌による高温加熱殺菌であるのに対し,後者は80℃に加熱して滅菌することである点で相違する。

(3)判断
請求人は、平成24年4月12日付口頭審理陳述要領書において,
『<1>(<1>は原文においては丸付き数字の1で記載されている。)訂正発明1の「高温加熱殺菌」について
この点、訂正前の本件特許明細書【0001】には、「本発明は、高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法に関し、より詳細には、長期保存のために、85℃で30分以上の殺菌・・・飲料の甘味付与方法に関する。」と説明されており、甲2発明の「80℃で加熱殺菌」することが、訂正前の本件発明1の「高温加熱殺菌」に該当することが明示されている。
そして、上記【0001】の記載は、訂正により削除されたが、訂正発明1は、訂正により、「加熱方法(殺菌機)」を限定したものの、加熱温度等について、何ら限定していない。
よって、「80℃で加熱殺菌」は、訂正発明1においても「高温加熱殺菌」に該当するものである。
<2>(<2>は原文においては丸付き数字の2で記載されている。)加熱方法(殺菌機)について
この点、「レトルト、オートクレープ、プレート又はチューブ式殺菌」とは、いずれも使用される殺菌機を特定するものであり、加熱温度や時間などの加熱方法とは、直接関係がない。
すくなくとも、前記のうち、プレート式やチューブ式の殺菌機は、1950年代より利用されており、62?65℃で30分間保持する「保持式殺菌法」や71?75℃で15秒以上保持する「高温短時間殺菌法」の殺菌機として、一般的に使用されている[乙4 546頁?548頁]。
よって、甲2の「80℃で加熱殺菌」との記載に接した当業者は、当該殺菌温度を実現するための常套手段である「プレート又はチューブ式殺菌」を含めて認識できるのである。
(3)以上のとおり、甲2発明には、「プレート又はチューブ式殺菌による高温加熱殺菌」が実質的に開示されており、訂正発明1との間に相違点は存在しない。』(第5頁12行?第6頁第13行)と主張している。
しかし,「85℃で30分以上の殺菌」との明細書の記載が,甲第2号証における「80℃で加熱殺菌」との記載が「高温加熱殺菌」に該当することを明示的に示しているとの主張は,そもそも両記載の温度が異なることから合理性を欠く。さらに,被請求人が上記2.(2)で主張しているように「滅菌」と「殺菌」は技術的意味が異なるから,技術常識を参酌しても「80℃に加熱して滅菌」から「レトルト、オートクレーブ、プレート又はチューブ式殺菌による高温加熱殺菌」が導き出せるとまでは言えず,上記3.(2)における相違点は実質的な相違点であるといえる。

(4)小括
以上の通りであるから,本件発明1は,甲第2号証に記載された発明ではない。

4.本件発明2について

(1)判断
本件発明2は,本件発明1のシュクラロースの量を「0.001重量%から0.5重量%」に限定したものであるから,上記3.(2)(3)のとおり本件発明2と甲第2号証に記載された方法とは実質的な相違点を有する。

(2)小括
以上の通りであるから,本件発明2は,甲第2号証に記載された発明ではない。

第7 無効理由3について

1.請求人の主張
本件発明は,甲第1号証あるいは甲第2号証に記載の発明に、当業者が適宜設計できる事項、すなわち、甲第4号証に開示されているような周知の技術的事項を適用することにより当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

そこで,まず,本件発明1の進歩性について検討する。

2.被請求人の主張

被請求人は,以下のように主張している。

(1)プレート及びチューブ式殺菌について
ア 『UHT殺菌には、直接加熱方式であるインジェクション法及びインフュージョン法と、間接加熱方式であるプレート式、チューブ式、及び表面かき取り式の、少なくとも5通りの殺菌方法がある。
しかしながら、引用例1には、「バニラミルク」を141℃で3.5秒間加熱殺菌することが記載されているのみで、上記のいずれの方法で加熱殺菌するかについては記載も示唆もされていない。』(口頭審理陳述要領書第12頁下から第8行?第3行)
イ 『引用例4には、UHT殺菌としてプレート状、コイル式チューブ状の表面熱交換器を用いることが記載されている。しかしながら、前述するように、当該引用例4は、UHT殺菌後に甘味料を添加することを記載内容とするものであるから、甘味料を含有する飲料を高温加熱殺菌することを開示する引用例1に、当該引用例4を組み合わせることはそもそも不適当である。』(口頭審理陳述要領書第13頁第1行?第6行)
ウ 『答弁書で主張したように、当該「バニラミルク」には、乳脂肪、乳タンパク質及び甘味料が含まれていることから、UHT殺菌のうち、とりわけプレートまたはチューブ式殺菌といった間接加熱方式を用いて加熱殺菌する場合は、一般的に、焦げ付きが生じやすいと考えられる(乙第4?5号証)。
前述するように、本件発明の目的は、従来甘味料として使用されていたしょ糖の問題点を解消し、しょ糖と同質の甘味質を与え、高温加熱に対しても安定な高温加熱殺菌飲料を得るための甘味付与方法を提供することである。
そうすると、引用例1に記載する「バニラミルク」の加熱殺菌方法として、一般に焦げ付きやすいとされているプレートまたはチューブ式殺菌という特定の高温加熱殺菌方法が直ちに採用できるとはいえず、しかるに、かかる殺菌方法を採用しようとする動機付けはないものといえる。
この主張に対して、合議体は、本願出願前から、プレートまたはチューブ式殺菌が牛乳に適用されていたことを例に挙げて、乳タンパク質を含む飲料に対してプレートまたはチューブ式殺菌を用いることを妨げる特段の阻害要因が存在したものとはいえないと認定する。
しかしながら、牛乳は、乳タンパク質を含む飲料であるものの、本件発明が対象とする甘味料を含む飲料ではない。加熱殺菌による焦げやすさは、牛乳に含まれる乳タンパク質にのみ起因するのではなく、それに添加配合される甘味料によって助長されることは、前述するメイラード反応等を考えると十分予測できるところである。この点、引用例4にも、前述するように、乳タンパク質を含む飲料に関して、UHT殺菌を行った後に甘味料(ショ糖、果糖、ブドウ糖など)を添加することが記載されている。
また、合議体は、「引用例1にはバニラミルクに限らず飲料一般を対象とした発明が記載されている」と認定したうえで、「バニラミルクの性質に起因する阻害要因が仮にあったとしても、引用例1に記載された発明における高温加熱殺菌方法として、そのような阻害要因のない他の飲料を対象として、一般的に知られている高温加熱殺菌方法であるプレートまたはチューブ式殺菌を採用することは容易といわざるを得ない。」と判断している。
しかし、前述するように、引用例1に記載された発明は、飲料一般を対象としたものではなく、引用例1には、飲料全般についてシュクラロースを添加した飲料を高温加熱殺菌することは記載されていない。すなわち、合議体は、上記判断に際して、その前提とする事実認定を誤っている。』(第13頁第10行?第14頁下から第13行)
エ 『(1) 前述するように、飲料の高温加熱殺菌方法には、レトルト殺菌、オートクレーブ殺菌、高温短時間殺菌(HTST)、超高温殺菌(UHT)、熱水浸漬式、熱水噴霧式、及びジャケット式等といった複数の方法があり、UHT殺菌だけをみても、その種類は、インジェクション法、インフュージョン法(以上、直接加熱方式)、プレート式、チューブ式、及び表面かき取り式(以上、間接加熱方式)の少なくとも5通りの殺菌方法がある。
これらの高温加熱殺菌方法のなかでも、プレート式及びチューブ式は、乙第4号証や乙第5号証等でも指摘されているように、焦げ付き易いとされている高温加熱殺菌方法であり、このことは乙第7号証(実験報告書1)の結果からも明白である。つまり、複数ある高温加熱殺菌方法のなかでも、プレート式及びチューブ式は、焦げ付きを生じやすい高温加熱殺菌方法である。
してみれば、当該高温加熱殺菌方法は、本件発明の「高温加熱に対して安定な高温加熱殺菌飲料を得るための甘味付与方法を提供する」という目的を達成するうえでは、不適当な高温加熱殺菌方法であると認識される。つまり、プレート式及びチューブ式殺菌方法が、たとえ広く知られた高温加熱殺菌方法の一種であったとしても(乙第1?5号証)、これを引用例1に開示された高温加熱殺菌方法(141℃、3.5秒)として採用すると、本件発明の目的に反すると当業界の技術常識から認識される以上、当業者であれば、インジェクション法、インフュージョン法及び表面かき取り式など、他の高温加熱殺菌方法を選択するのが普通であり、敢えて、不適当と認識される高温加熱殺菌方法を採用することはない。
すなわち、本件発明の目的及び当業界の技術常識(乙第4?5号証)に鑑みれば、引用例1に記載された高温加熱殺菌方法に、プレート式、並びにこれと同じ原理であるチューブ式殺菌方法を適用するには阻害要因があると認められる。
(2) また、前述するように、引用例4の記載から、甘味料(ショ糖、果糖、ブドウ糖)を添加した乳飲料をUHT殺菌処理することにより飲料の保存安定性が妨げられる可能性が窺われるところ、事実、乙第8号証(実験報告書2)に示すように、ショ糖(砂糖)を添加した乳飲料をプレート式のUHT殺菌処理をすると、凝集が生じて沈殿やざらつきが生じる。つまり、甘味料を添加した乳飲料をプレート式UHT殺菌処理することにより飲料の保存安定性が妨げられること、つまり、本発明の目的に反することが想定される以上、通常、当業者であれば、当該不適当と認識されるプレート式のUHT殺菌処理を選択することはないと考えられる。
すなわち、本件発明の目的に鑑みれば、引用例1に記載された高温加熱殺菌方法に、引用例4に記載されているプレート式、並びにこれと同じ原理であるチューブ式殺菌方法を適用するには阻害要因があると認められる。』(口頭陳述要領書第16頁下から第14行?第17頁下から第4行)
オ 『前述するように、本件発明の目的は、従来甘味料として使用されていたしょ糖の問題点を解消し、しょ糖と同質の甘味質を与え、高温加熱に対しても安定な高温加熱殺菌飲料を得るための甘味付与方法を提供することである。
そして、甘味料としてシュクラロースを用い、高温加熱殺菌方法としてプレートまたはチューブ式殺菌を採用することによって、当該目的が達成でき、所望の効果が得られることは、上記「実験報告書1」(乙第7号証)及び「実験報告書2」(乙第8号証)からも明らかである。つまり、乙第7号証及び乙第8号証によれば、甘味料として砂糖を配合した飲料は、プレート式殺菌により焦げ付きを生じたり、また凝集や沈殿を生じて、高温加熱に対しても安定な高温加熱殺菌飲料を得ることができないのに対して、甘味料としてシュクラロースを配合した飲料は、そういった問題を回避することができる。しかもプレート式殺菌によっても、飲料にしょ糖と同質の甘味質を与えることができる。また、かかる効果は、プレート式殺菌と同原理による殺菌方法であるチューブ式殺菌についても同様に得られるものと認められる。
こうしたシュクラロースを用いた本件発明の効果は、引用例1の記載から当業者が容易に予測することができないものであるし、また、前述するように甘味料を添加する前にUHT殺菌処理することを開示するに過ぎない引用例4を組み合わせても、当業者が容易に予測することができないものである。』(口頭陳述要領書第17頁下から第1行?第18頁下から第10行)

(2)レトルト及びオートクレーブ殺菌について
ア 『答弁書で説明したように、本件発明が対象とする「レトルト、オートクレーブ」式の高温加熱殺菌処理は、引用例1記載の141℃・3.5秒間加熱殺菌する方法とは明らかに相違する殺菌方法である。しかも、引用例4にも、当該高温加熱殺菌処理は記載されていない。
すなわち、引用例1及び4のいずれにも、本件発明で対象とする「レトルト、オートクレーブ」式の高温加熱殺菌処理は記載も示唆もされていない。』(口頭審理陳述要領書第18頁下から第4行?第19頁第3行)
イ 『しかし、答弁書でも主張したように、レトルト及びオートクレーブで採用される加熱殺菌条件は、引用例1に記載されている141℃・3.5秒間の加熱殺菌等のUHT殺菌よりも過酷であり、それがゆえに、適用する飲料やその成分に対するダメージは計り知ることができない。
本件明細書の実験例1の表1では、前述するように、甘味料としてしょ糖、シュクラロース、アスパルテーム、またはレバゥディオサイド(ステビア甘味料)をそれぞれ用いて調製した甘味料溶液を、120℃及び140℃でそれぞれ30分間加熱すると、アスパルテームおよびレバゥディオサイドは甘味度が著しく低下し、苦味が発現することが示されている。
しかしながら、今般提出する、本件特許権者の従業員(研究者)である芳仲幸治氏作成の「実験報告書3」(乙第9号証)によれば、これらのアスパルテームやレバゥディオサイド(ステビア抽出物)を含有する飲料(バニラミルク)でも、141℃・3.5秒の「UHT殺菌」に対しては、甘味度及び色調ともに安定であることが示されている。
また、これらの甘味料(アスパルテーム、ステビア抽出物)に限らず、ネオテーム、果糖、及びぶどう糖といった甘味料を含む飲料も、141℃・3.5秒の「UHT殺菌」に対しては甘味度の低下と着色はみられないものの、120℃・20分の過酷条件下の「レトルト殺菌」に対してはダメージを受け、甘味度が有意に減少するか(アスパルテーム、ステビア抽出物、及びネオテーム)、または強く褐変する(果糖、及びぶどう糖)(乙第9号証の表3参照)。
つまり、上記するように、甘味料を含有する飲料を「UHT殺菌」した場合に、当該甘味料が安定であったからといって、それよりも過酷条件である「レトルト殺菌」した場合に、当該飲料に配合した甘味料が安定であり、また当該飲料の風味や外観が損なわれないか否かは、実際に実験して確認してみなければわからないのが現実である。
すなわち、本件発明の目的に鑑みれば、高温加熱殺菌方法として141℃・3.5秒の「UHT殺菌」を開示する引用例1において、これに代えて過酷条件での高温加熱殺菌方法である「レトルトやオートクレーブ殺菌」を採用しようとする動機付けはないといえる。』(口頭審理陳述要領書第19頁下から第15行?第20頁下から第11行)
ウ 『前述するように、飲料の高温加熱殺菌方法のうち、レトルト及びオートクレーブ殺菌は、引用例1に記載されているUHT殺菌に比べて、極めて過酷な加熱殺菌方法であり、このことは乙第9号証(実験報告書3)の結果からも明白である。つまり、複数ある高温加熱殺菌方法のなかでも、レトルト及びオートクレーブ殺菌は、甘味度の低下や褐変等、飲料にダメージを与えやすい高温加熱殺菌方法である。
してみれば、当該レトルト及びオートクレーブ殺菌は、本件発明の「高温加熱に対して安定な高温加熱殺菌飲料を得るための甘味付与方法を提供する」という目的を達成するうえでは、不適当な高温加熱殺菌方法であると認識される。つまり、当該レトルト及びオートクレーブ殺菌が、たとえ常套の高温加熱殺菌方法の一種であったとしても(乙第1?5号証)、これを引用例1に開示された高温加熱殺菌方法(141℃、3.5秒)に代えて採用すると上記本件発明の目的に反すると想定される以上、当業者は敢えて、不適当と想定される高温加熱殺菌方法を採用することはないと考えられる。
すなわち、本件発明の目的と当業者の技術常識に鑑みれば、引用例1に記載された高温加熱殺菌方法に代えて、レトルト及びオートクレーブ殺菌方法を適用するには阻害要因があると認められる。』(口頭審理陳述要領書第20頁下から第8行?第20頁第10行)
エ 『本件明細書の実験例1及び実施例2?8、並びに乙第9号証に示すように、シュクラロースは、前述する各種甘味料(アスパルテーム、ステビア抽出物、ネオテーム、果糖、及びぶどう糖)とは異なって、「UHT殺菌」に対して安定であるだけでなく、それよりも過酷条件下での加熱殺菌処理である「レトルト殺菌」に対しても安定であり、砂糖と同質の良質な甘味質を飲料に付与することができる。
特に乙第9号証に示すように、飲料の着色についても、甘味料として果糖やぶどう糖を配合した飲料(バニラミルク)は、上記のように「レトルト殺菌」により強く褐変するのに対して、シュクラロースを配合した飲料(バニラミルク)は、甘味料を配合しない飲料と同程度にわずか褐変するに過ぎない(つまり、シュクラロースを配合した乳飲料に認められる「わずかな褐変」は、シュクラロースに起因するものではなく、乳成分に起因するものと考えられる)。これからわかるように、シュクラロースは「レトルト殺菌」において飲料に悪影響を及ぼさない。
また、当該レトルト殺菌と同様の原理及び条件による高温加熱殺菌方法であるオートクレーブ殺菌(乙第3号証)についても同様のことがいえる。
かかる本件発明におけるシュクラロースの効果は、単に141℃・3.5秒のUHT加熱殺菌条件でシュクラロースが安定であったことを開示するに過ぎない引用例1から当業者が容易に予測することができないものであるし、また、引用例4を組み合わせても、当業者が容易に予測することができないものである。』(口頭審理陳述要領書第21頁第13行?第22頁第5行)

3.当審の判断
(1)引用発明
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載されている事項は第5 3.(1)のとおりである。

(2)対比
本件発明1と甲第1号証に記載されている方法との比較については第5 3.(2)のとおりである。

(3)判断
上記第5 3.(2)における一応の相違点が仮に実質的な相違点であったとした場合に本件発明1が進歩性を有するかどうかについて検討する。
プレート式やチューブ式殺菌は飲料におけるUHT殺菌等の高温加熱殺菌方法として本願出願日前における周知技術の1つである(例えば,乙第4号証や甲第4号証)から,甲第1号証に記載された方法における高温加熱殺菌方法としてプレート式やチューブ式殺菌を採用することは当業者が容易に想到し得ることである。
そして,シュクラロースが高温においてぬきんでた安定性を有することが甲第1号証によって知られているから,本件発明1が甲第1号証から予測される以上の顕著な効果を奏するものともいえない。

上記2.(1)の被請求人の主張について検討する。
上記2.(1)アの主張について,甲第1号証にプレートやチューブ式殺菌について明示的な記載がないとしても,一般的な高温加熱殺菌方法であることから,(3)で前述のとおり,甲第1号証に接した当業者にはそれを採用する動機付けがある。
また,上記2.(1)イの主張において甲第4号証における甘味料の添加とUHT殺菌の順序について主張しているが,プレート式やチューブ式殺菌は飲料におけるUHT殺菌等の高温加熱殺菌方法として本願出願日前における周知技術の1つであり,甲第4号証は高温加熱殺菌の方法としてプレート式やチューブ式殺菌が周知技術であることについての一例でしかないから,甲第4号証における甘味料の添加とUHT殺菌の順序が上述した甲第1号証と周知技術に基づく本件発明の進歩性に関する判断に影響するものではない。
また,高温加熱殺菌としてプレート又はチューブ式殺菌を採用する動機付けはないとする上記2.(1)ウの主張において,「加熱殺菌による焦げやすさは牛乳に含まれる乳タンパク質にのみ起因するのではなく,それに添加配合される甘味料によって助長されることは,前述するメイラード反応等を考えると十分予測できることである」としているが,甲第1号証によりスクラロースが高温でもぬきんでた安定性を有することが知られている以上,プレート式やチューブ式殺菌といった飲料におけるUHT殺菌等の高温加熱殺菌方法として周知の方法を適用することを妨げる程度にシュクラロースについても同様の焦げやすさがあると甲第1号証に接した当業者が認識するものとはいえないから,プレート式やチューブ式殺菌が飲料におけるUHT殺菌等の高温加熱殺菌方法として周知の方法であることをもって,当業者にはそれらの方法を適用する動機付けが十分にあるものといえる。また,上記第4 3.(1)で述べたように,甲第1号証にはバニラミルクに限らず飲料一般を対象とした発明が記載されていることから,乳タンパク質を含まない他の飲料については,そもそも甲第1号証に記載された発明における高温加熱殺菌方法として,一般的に知られている高温加熱殺菌方法であるプレートまたはチューブ式殺菌を採用することは容易といわざるを得ない。
また,プレート又はチューブ式殺菌を採用することに阻害要因があるとする2.(1)エの主張において,被請求人は「複数ある高温加熱殺菌方法のなかでも、プレート式及びチューブ式は、焦げ付きを生じやすい高温加熱殺菌方法である。してみれば、当該高温加熱殺菌方法は、本件発明の「高温加熱に対して安定な高温加熱殺菌飲料を得るための甘味付与方法を提供する」という目的を達成するうえでは、不適当な高温加熱殺菌方法であると認識される。」としているが,これはあくまでも被請求人が言及している乙第7号証のように砂糖等のシュクラロース以外の甘味料を用いた場合のことであり,全く異なる甘味料であるシュクラロースについては甲第1号証により高温でもぬきんでた安定性を有することが知られているのであるから,プレート式及びチューブ式が砂糖等の他の甘味料を用いた場合に焦げ付きやすい加熱殺菌方法であるとの事実が,高温で安定であることが知られているスクラロースを添加した飲料についてプレート式及びチューブ式の加熱殺菌方法を適用することの阻害要因になるものとはいえない。また,「引用例4の記載から、甘味料(ショ糖、果糖、ブドウ糖)を添加した乳飲料をUHT殺菌処理することにより飲料の保存安定性が妨げられる可能性が窺われるところ、事実、乙第8号証(実験報告書2)に示すように、ショ糖(砂糖)を添加した乳飲料をプレート式のUHT殺菌処理をすると、凝集が生じて沈殿やざらつきが生じる。つまり、甘味料を添加した乳飲料をプレート式UHT殺菌処理することにより飲料の保存安定性が妨げられること、つまり、本発明の目的に反することが想定される以上」としているが,この点についても同様に,シュクラロースについては甲第1号証により高温でもぬきんでた安定性を有することが知られているのであるから,砂糖等の他の甘味料についての事実をもって,当業者にとってシュクラロースを添加した飲料についてプレート式及びチューブ式の加熱殺菌方法を適用すると本発明の目的に反することが予想されるとはいえず,シュクラロースを添加した飲料についてプレート式及びチューブ式の加熱殺菌方法を適用することの阻害要因になるものとはいえない。
また,本件発明の効果は引用例から当業者が予期できないものであるとする上記2.(1)オの主張において,被請求人は「甘味料として砂糖を配合した飲料は、プレート式殺菌により焦げ付きを生じたり、また凝集や沈殿を生じて、高温加熱に対しても安定な高温加熱殺菌飲料を得ることができないのに対して、甘味料としてシュクラロースを配合した飲料は、そういった問題を回避することができる。しかもプレート式殺菌によっても、飲料にしょ糖と同質の甘味質を与えることができる。」としているが,上記2.(1)ウ及びエの主張についての検討にて既に述べているように,甲第1号証によりシュクラロースが高温でもぬきんでた安定性を有することが知られているのであるから,これらのことが甲第1号証から予測される以上の格別の効果であるということはできない。
よって,被請求人の上記主張は採用できない。

また,レトルト及びオートクレーブについても,高温加熱殺菌の手法としては一般的なものであるから,甲第1号証に記載された飲料の発明の加熱殺菌方法として採用することは当業者が容易に想到し得ることであり,本件発明が甲第1号証から予測される以上の格別の効果を奏するものともいえない。

上記2.(2)の 被請求人の主張について検討する。
上記2.(2)アの主張について,甲第1号証や甲第4号証にレトルト及びオートクレーブ式殺菌について明示的な記載がないとしても,(3)で前述のとおり,一般的な高温加熱殺菌方法であることから,甲第1号証に接した当業者にはそれを採用する動機付けがある。
また,高温加熱殺菌としてレトルト又はオートクレーブ殺菌を採用する動機付けはないとする上記2.(2)イの主張において,「甘味料を含有する飲料を「UHT殺菌」した場合に、当該甘味料が安定であったからといって、それよりも過酷条件である「レトルト殺菌」した場合に、当該飲料に配合した甘味料が安定であり、また当該飲料の風味や外観が損なわれないか否かは、実際に実験して確認してみなければわからないのが現実である。すなわち、本件発明の目的に鑑みれば、高温加熱殺菌方法として141℃・3.5秒の「UHT殺菌」を開示する引用例1において、これに代えて過酷条件での高温加熱殺菌方法である「レトルトやオートクレーブ殺菌」を採用しようとする動機付けはないといえる。」としているが,レトルト及びオートクレーブは高温加熱殺菌の手法としては一般的なものであり,また,甲第1号証によりシュクラロースが高温でもぬきんでた安定性を有することが知られているのであるから,甲第1号証に接した当業者には,シュクラロースがレトルト及びオートクレーブによる高温加熱殺菌において安定であることを期待し適用する十分な動機付けがある。また,仮にたとえアスパルテーム等がUHT殺菌には安定でレトルト及びオートクレーブ殺菌には風味や外観が損なわれることが知られていたとしても,前提としてシュクラロースがアスパルテーム等と同等の熱安定性を有するとの技術常識が存在したことが示されているわけではなく,また,甲第1号証では表1(第436頁)でアスパルテーム等を甘味料として認識したうえでそれを踏まえてシュクラロースが高温でもぬきんでた安定性を有するとしていることから,甲第1号証に接した当業者にとって,シュクラロースがレトルト及びオートクレーブによる高温加熱殺菌において安定であることを期待し適用することの阻害要因とはならない。
また,レトルト又はオートクレーブ殺菌を採用する阻害要因があるとする上記2.(2)ウの主張において,「つまり、複数ある高温加熱殺菌方法のなかでも、レトルト及びオートクレーブ殺菌は、甘味度の低下や褐変等、飲料にダメージを与えやすい高温加熱殺菌方法である。してみれば、当該レトルト及びオートクレーブ殺菌は、本件発明の「高温加熱に対して安定な高温加熱殺菌飲料を得るための甘味付与方法を提供する」という目的を達成するうえでは、不適当な高温加熱殺菌方法であると認識される。」としているが,これはあくまでも被請求人が言及している乙第9号証のようにアスパルテーム等のシュクラロース以外の甘味料を用いた場合のことであり,全く異なる甘味料であるシュクラロースについては甲第1号証により高温でもぬきんでた安定性を有することが知られているのであるから,レトルト又はオートクレーブ殺菌がアスパルテーム等の他の甘味料を用いた場合に風味や外観を損なわせる加熱殺菌方法であるとの事実が,高温で安定であることが知られているシュクラロースを添加した飲料についてのレトルト又はオートクレーブ殺菌といった加熱殺菌方法を適用することの阻害要因になるものとはいえない。
また,本件発明の効果が予期できないものであるとする上記2.(2)エの主張において,「シュクラロースは、前述する各種甘味料(アスパルテーム、ステビア抽出物、ネオテーム、果糖、及びぶどう糖)とは異なって、「UHT殺菌」に対して安定であるだけでなく、それよりも過酷条件下での加熱殺菌処理である「レトルト殺菌」に対しても安定であり、砂糖と同質の良質な甘味質を飲料に付与することができる。」としているが,上記2.(2)イ及びウの主張について既に述べているように,甲第1号証によりスクラロースが高温でもぬきんでた安定性を有することが知られているのであるから,これらのことが甲第1号証から予測される以上の格別の効果であるということはできない。
よって,被請求人の上記主張は採用できない。

(4)小括
以上の通りであるから,本件発明1は,甲第1号証に記載された発明及び周知技術から当業者が容易になし得るものである。

4.本件発明2について

(1)対比・判断
本件発明2は,本件発明1のシュクラロースの量を「0.001重量%から0.5重量%」に限定したものである。

本件発明2と甲第1号証に記載された方法とを比較すると,後者の「最大で0.025重量%」は前者の「0.001重量%から0.5重量%」に相当するから,本件発明2と甲第1号証に記載された方法は,本件発明1と甲第1号証に記載された方法との対比と同様である。よって、上記3.(3)で述べたとおり本件発明2は甲第1号証及び周知技術により進歩性を有さない。

(2)小括
以上の通りであるから,本件発明2は,甲第1号証に記載された発明及び周知技術から当業者が容易になし得るものである。

5.本件発明3について

(1)被請求人の主張
ア 『引用例1には、シュクラロースは「高温・低pHのいずれにおいて抜きんでた安定性と砂糖に近い甘味特性を有している」(436頁左欄3-5行目)と記載されているが、全てのpH範囲、特にpH6.8以上といった中?高pH範囲においても、高温で安定であるとは記載されていない。また、図4は、単に、30℃におけるpH3及び4.0?7.5でのシュクラロースの水溶液中での安定性を示したものに過ぎず、高温加熱殺菌条件でのスクラロースの安定性を示すものではない。
引用例1には、飲料に関して、単に、TABLE 4及びFIG.5に、スクラロースを含むバニラミルク(pH6.5)を141℃で3.5秒間超高温処理し、またシュクラロースを含むトロピカル飲料(pH2.8)を93℃で24秒間加熱殺菌した場合に、殺菌前後でシュクラロースの含有量が変わらなかったことが記載されているに過ぎない。
合議体の“引用例1には「pH4-7.5の範囲の食品にわたってシュクラロースを添加して甘味を付与した後、高温加熱殺菌する方法を適用することも記載されている」(原文で下線は下点線)(下点線部は被請求人が補足)という認定は、引用例1の上記436頁左欄3-5行目、及び図4の記載を、根拠なく拡大解釈したものであり、不当である。』(口頭審理陳述要領書第4頁第3行?下から第11行)
イ 『引用例1には、pH6.8以上の飲料を高温加熱殺菌すること、さらに高温加熱殺菌しても甘味質が良好で、しかも高温加熱殺菌に対して安定な飲料が得られることについては記載も示唆もされていない。』(口頭審理陳述要領書第22頁第19行?下から第16行)
ウ 『訂正明細書【0014】の表1によればレバウディオサイド及びアスパルテームと比較した場合にpHの限定により効果がある。』(第1回口頭審理調書 被請求人8の項)

(2) 引用発明
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には,第5 3.(1)に記載の事項に加えて,以下の事項が記載されている。
(i)「図4はモデル研究を示していて,そこには30℃及び様々なpHにおけるシュクラロースの分解が決定されグラフで表されている(Jenner 1989)。これは,大部分の従来の食品におけるpH域である4-7.5及び炭酸飲料やジュース飲料のpHである3.0の2つの広いpH水準をカバーしている。」(引用例1第438頁右欄第3行?第8行)

(3)対比・判断
本件発明3は,本件発明1のシュクラロースの量を「0.001重量%から0.5重量%」に限定したものである。

本件発明3と甲第1号証に記載された方法とを比較すると,上記3.(2)及び(3)で述べた点に加え,前者ではpHの範囲が6.8以上と特定されているのに対し,後者では特定されていない点で相違する。

上記のpHに関する相違点について検討する。甲第1号証には上記5(2)の記載事項(i)のとおり,大部分の従来の食品におけるpH域である4-7.5という広範囲のpH域においてシュクラロースを用いることが示唆されているから,pH6.8以上というそもそも従来の食品のpH域に含まれる範囲においてシュクラロースを添加した高温加熱殺菌法を適用することは当業者が容易になし得ることである。そして,6.8以上のpH域において格別顕著な効果が奏されるものともいえないから,pH6.8以上との特定は技術的な臨界的意義を有さない。

被請求人は,上記5(1)アの主張において,「引用例1には「pH4-7.5の範囲の食品にわたってシュクラロースを添加して甘味を付与した後、高温加熱殺菌する方法を適用することも記載されている」(原文で下線は下点線)(下点線部は被請求人が補足)という認定は、引用例1の上記436頁左欄3-5行目、及び図4の記載を、根拠なく拡大解釈したものであり、不当である。」としているが,そもそも「pH4-7.5の範囲の食品にわたってシュクラロースを添加して甘味を付与した後、高温加熱殺菌する方法を適用すること」が甲第1号証に記載されているとは認定しておらず,上記で述べているように,甲第1号証では,大部分の従来の食品におけるpH域である4-7.5という広範囲のpH域においてシュクラロースを用いることが示唆されている,としているのであるから,当該主張は妥当ではない。
また,上記5(1)イの主張について,甲第1号証には,大部分の従来の食品におけるpH域である4-7.5という広範囲のpH域においてシュクラロースを用いることが示唆されているから,pH6.8以上との特定が技術的な臨界的意義を有さないのであれば,甲1号証にはpH6.8以上というそもそも従来の食品のpH域に含まれる範囲においてシュクラロースを添加した高温加熱殺菌法を適用する十分な示唆があるといえる。
また,上記5(1)ウの主張について,pH7に近づくにつれてアスパルテーム及びレバウディオサイドの甘味度が下がることは実験結果から把握できるが,pH6.8の内外で顕著な相違があるとまではいえないことから,pH6.8以上との特定が技術的な臨界的意義を有するとはいえない。
よって,被請求人の上記主張は採用できない。

第8 むすび
以上のように,本件特許の訂正後の請求項1、2に係る発明の特許は,特許法第29条第1項第3号に該当し,また,本件特許の訂正後の請求項1ないし3に係る発明の特許は,特許法第29条第2項,に違反して特許されたものであるから同法第123条第2号に該当し,無効とすべきものである。

審判に対する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。

よって,結論の通り審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レトルト、オートクレーブ、プレート又はチューブ式殺菌により高温加熱殺菌される飲料に、予めシュクラロースを添加して甘味を付与した後、前記高温加熱殺菌することを特徴とする高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法。
【請求項2】
シュクラロースを、0.001重量%から0.5重量%で添加する請求項1記載の高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法。
【請求項3】
高温加熱殺菌される飲料のpHの範囲が6.8以上である請求項1記載の高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法に関し、より詳細には、長期保存のために、レトルト、オートクレーブ、プレート又はチューブ式殺菌により高温加熱殺菌を行う高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
従来から、pH4.6以上の弱酸性からpH8付近の中性の領域において流通、販売する飲料を製造する場合には、85℃、30分間以上の加熱殺菌、120℃、4分間以上の加熱殺菌又はこれらと同等以上の加熱処理することが必要であり、現実には、レトルト殺菌の場合、例えば、126℃、30分の殺菌が行われている。
【0003】
上記のような飲料に、甘味を付与するものとしては、しょ糖、ぶどう糖、果糖等の糖類、ソルビトール、マルチトール等の糖アルコール類があり、これらの飲料に使用できる可能性のある高甘味度甘味料には、アスパルテーム、グリチルリチン、ステビア、サッカリン、アセサルファムカリウム等の高甘味度甘味料がある。
【0004】
しかし、上記のような甘味料を用いて、高温加熱処理を経た飲料においては、飲料の色調が変化して褐色になったり、pHがかなり低下して、腐敗、酸敗等を起こさせたり、あるいはガスの発生や配合した素材の性質により製品の品質を著しく劣化させる等の問題を生じている。
また、飲料の低カロリー化の目的のため、糖アルコールや高甘味度甘味料が使用される例があるが、糖アルコールは甘味の質がしょ糖と異なり、多量摂取により下痢を引き起こすことがあり、飲料に多量に使用できないことが問題になっている。既存の高甘味度甘味料については甘味質に満足できるものはなく、苦味や後引きをもち、嗜好性を著しく低下させる。例えば、アスパルテームは熱に対して非常に不安定で、高温処理により甘味を消失するため、高温加熱殺菌処理を伴う飲料に使用しても商品化ができない。また、ステビアは、弱酸性から中性付近の飲料に使用したときに、味がとても苦くなり、アスパルテームと同様、商品化ができないのが実情である。
【0005】
上記の理由から、特に高い嗜好性と室温90日間以上、あるいは常温2年近くの長期安定性が要求される高温加熱殺菌飲料については、しょ糖を使用したものが一般的であるが、しょ糖においても高い温度処理によるカラメル化での褐変の問題は、完全には解決できていない。
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、しょ糖と同質の甘味質を与え、レトルト、オートクレーブ、プレート又はチューブ式殺菌による高温加熱殺菌に対して安定な高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法を提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは高温加熱殺菌飲料の甘味質や熱安定性に関し鋭意研究を重ねた結果、レトルト、オートクレーブ、プレート又はチューブ式殺菌により高温加熱殺菌される飲料に、予めシュクラロースを添加して甘味を付与した後、上記高温加熱殺菌することにより、しょ糖と同等の甘味質を持ち、かつ熱に安定な高温加熱殺菌飲料を得ることができ、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明における高温加熱殺菌される飲料とは、レトルト、オートクレーブ、プレート又はチューブ式殺菌により高温加熱殺菌処理される飲料を意味するものである。飲料の具体的な種類は、常温流通を目的とするには、上記高温加熱殺菌が必要なものであればよく、コーヒー、紅茶、ココア、乳飲料及びこれらの清涼飲料類、緑茶、抹茶、ウーロン茶、汁粉、甘酒、飴湯等の嗜好性飲料や健康飲料類がある。飲料の形態は缶、瓶、ブリックパック、ペットボトル等の長期保存可能なものであれば限定されるものではない。
【0008】
本発明におけるシュクラロースとは4,1’,6’-トリク口ロ-4,1’,6’-トリデオキシ-ガラクトスクロースまたは1’,6’-ジクロロ-1’,6’-ジデオキシ-β-D-フラクトフラノシル4-クロロ-4-デオキシ-α-D-ガラクトピラノシドとして知られており、しょ糖より約650倍甘く、非代謝性のノンカロリー高甘味度甘味料である。
【0009】
本発明の飲料中に添加するシュクラロースの添加量は、その飲料に求められる甘味度、カロリー等により任意に調整される。従って、シュクラロース単独で添加しても良い。好ましくは、高温加熱殺菌飲料に添加するシュクラロースの使用量が、0.001から0.5%(重量以下同じ)が好ましい。他の甘味料、即ち、しょ糖、ぶどう糖、果糖等の糖類、ソルビトール、マルチトール等の糖アルコール類、アスパルテーム、グリチルリチン、ステビア、ソーマチン、サッカリン、アセサルファム等の高甘味度甘味料等の中から1種または、2種以上と併用してもよい。この場合には、要求する甘さにより、シュクラロースの添加量を調整することができる。
【0010】
また、シュクラロースを高温加熱殺菌飲料に添加する方法は、その飲料の製造方法によって任意に選択することができる。
【0011】
【実施例】
本発明の高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法を以下に説明する。
実験例1 シュクラロース及び他の甘味料の耐熱性について
シュクラロース及び他の甘味料の試験区の調製
実験の条件として、クエン酸及びクエン酸ナトリウムにてpHの調整を行う。また、加熱条件は、85℃・30分、100℃・30分、120℃・30分、140℃・30分の4段階を用いた。
【0012】
本実験例に使用した各甘味料の処理濃度として、グラニュー糖30%(重量、以下同じ)、シュクラロース0.12%、アスパルテーム0.4%、レバゥディオサイド0.3%の溶液を溶解し、pH調整後、加熱処理した各甘味料は、pH無調整、未加熱のときの6%グラニュー糖に相当する濃度に調整し、これら溶液と標準液を比較することにより、甘味の残存率を求めた。
標準液の調製
各甘味料標準液は、6%グラニュー糖に相当する各甘味料溶液を稀釈することにより調製した。すなわち、6%グラニュー糖に相当する各甘味料溶液をイオン交換水で10%単位で稀釈し、甘味として10分割し、このグラニュー標準液の甘味割合をそれぞれ10、20、30、40、50、60、70、80、90、100%と定義した。
【0013】
官能検査では、パネリストは、5名の男性と5名の女性で構成した。官能試験は各試験区溶液の甘味と同じ甘味を呈する同種甘味料の標準液を選ぶようパネリストに指示した。その結果を集計し、表1にその結果を示した。なお、未加熱溶液を甘味標準液とした。
【0014】
【表1】

【0015】
備考
甘味度は、対象溶液と比較し、百分率を用いて表記した。
評価は、溶液を試飲した後に、気づいた点を記した。
シュクラロースと砂糖はpH4.6,5.5,7でいずれの加熱温度においても甘味は減少しない。
【0016】
アスパルテームはpH7で甘味が著しく減少する。pH4.6で少し苦くなる。レバウデイオサイドは、加熱によってあまり甘味の減少は観察されないが、後味が苦く、飲料にならないものになった。
実施例1 フルーツ牛乳
砂糖15部、果糖ぶどう糖液糖(75%)5.5部の甘味料の配合をそれぞれ、シュクラロース0.02部あるいはアスパルテーム0.1部にて置換して飲料を調製する。残りの配合は、脱脂粉乳6.7部、1/5アップル透明果汁1.3部、50%乳酸1.2部、クエン酸(結晶)0.1部、安定剤0.7部、食用色素製剤0.0026部、香料0.3部にて水で全量を200部とする。
【0017】
フルーツ乳飲料を上記3種の処方にて調製し、140℃、18秒の条件でプレート式殺菌機に供したところ、砂糖、果糖ぶどう糖液糖添加区と、シュクラロース添加区はほとんど差がなく、良好な味をしていたがアスパルテーム添加区は明らかに甘味が減少していた。
実施例2 ココア飲料
シュクラロース0.01部あるいはステビア0.1部にて、甘味を付与し、残りの配合を全脂粉乳4部、ココア末1.4部、乳化安定剤製剤(カラギナン、アビセル、ローカストビーンガム)1.4部、食塩0.1部、食用色素製剤0.20部、香料0.2部にて水で全量を200部とする。
【0018】
上記2種の処方でココア飲料を作成し、缶に密封し125℃40分レトルト殺菌機に供した。
ステビアを添加したものは苦味が発現したが、シュクラロースは苦味の発現はなかった。
実施例3 紅茶飲料
シュクラロース0.05部あるいはアスパルテーム0.12部にて甘味料付けした紅茶飲料を調整する。残りの原料として、紅茶エキストラクト10部、香料0.3部、水で全量を200部とする。
上記2種の処方で紅茶飲料を作成し121℃、20分間レトルト殺菌機に供したところアスパルテーム添加区は全く甘味が感じられなかったが、シュクラロース添加区は殺菌前と変わらず風味の良い甘味を有していた。
実施例4 コーヒー
還元乳糖13.00部、シュクラロース0.025部、全脂粉乳1.1部、脱脂粉乳0.7部、乳化剤(ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル)0.2部、コーヒーエキストラクト20部、香料0.2部、炭酸水素ナトリウムpH6.8に調整し、水で全量を200部とする。
【0019】
上記の処方にて缶コーヒーを作成し、125℃30分レトルト殺菌機に供したところ、シュクラロース添加によっても明らかに褐変がなく、コクのある甘味を有していた。
実施例5 飴湯
サッカリンナトリウム0.5部あるいはシュクラロース0.25部にて甘味を付与し、残りの原料として、生姜エキス0.05部、香料0.025部、黒糖エキス2.5部、黒糖香料0.25部にて、水で全量を200部とする。
【0020】
上記2種の処方にて飴湯を作成し、121℃24分レトルト殺菌機に供したところ、サッカリンナトリウム添加区は苦味、後引きを有していたが、シュクラロース添加区はコクのある甘味を有していた。
実施例6 甘酒
砂糖10部の甘味のところを、シュクラロース0.02部にて甘味を置換した。のこりの原料を酒粕8部、米麹5部、50%乳酸0.05部、生姜エキス0.05部、食塩0.05部、香料0.1部、日本酒香料0.03部にて、水で全量を100部する。
【0021】
上記砂糖とシュクラロースによる2つの処方にて甘酒飲料を作成し、121℃30分レトルト殺菌機に供したところ、シュクラロース添加区は庶糖添加区よりも明らかに褐変が少なかった。
実施例7 汁粉
こしあん56部、シュクラロース0.1部、キサンタンガム0.1部、乳化剤0.2部、食塩0.05部、色素0.2部、香料0.2部にて、水で全量を200部とする。
【0022】
上記処方にて汁粉を作成し121℃、30分間レトルト殺菌機に供しても殺菌、前と甘味は変化が無く、汁粉特有の香りを呈し、良好な味の汁粉が得られた。
実施例8 コーヒー濃縮液
ポリデキストロース65部、シュクラロース0.5部、全脂粉乳6部、脱脂粉乳4部、乳化剤(ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル)1部、コーヒーエキストラクト100部、香料2部、炭酸水素ナトリウムpH6.8に調整し、水で全量を200部とする。
【0023】
上記の処方にてコーヒー濃縮液を作成し、125℃30分レトルト殺菌機に供した。
得られたコーヒー濃縮液は、10倍に稀釈して、引用に供したところ、シュクラロース添加によっても明らかに褐変がなく、コクのある甘味を有していた。
【0024】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、しょ糖と同等の甘味質を持ち、レトルト、オートクレーブ、プレート又はチューブ式殺菌による高温加熱殺菌に対しても安定な飲料を提供することができる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2012-05-17 
出願番号 特願平7-20368
審決分類 P 1 113・ 113- ZA (A23L)
P 1 113・ 121- ZA (A23L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鈴木 恵理子  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 冨永 みどり
伏見 邦彦
登録日 2004-05-28 
登録番号 特許第3558399号(P3558399)
発明の名称 高温加熱殺菌飲料の甘味付与方法  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 溝内 伸治郎  
代理人 井上 裕史  
代理人 溝内 伸治郎  
代理人 田中 千博  
代理人 田中 千博  
代理人 村林 ▲隆▼一  
代理人 小林 幸夫  
代理人 小林 幸夫  

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