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審決分類 審判 全部無効 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降)  B01D
審判 全部無効 2項進歩性  B01D
管理番号 1318313
審判番号 無効2015-800163  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-08-11 
確定日 2016-05-09 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5286580号発明「塗料スプレーミストの処理方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5286580号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 請求項1-2、4-6に記載された発明についての審判の請求は、成り立たない。 請求項3についての審判の請求を却下する。 審判費用は、参加によって生じた費用を含めて、請求人及びその参加人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
平成23年12月21日 本件国際出願(特願2012-509415号(優先権主張平成23年7月8日、日本国))
平成25年 6月14日 設定登録(特許第5286580号)
平成27年 8月11日 無効審判請求
平成27年11月 6日 答弁書、訂正請求書
平成27年12月24日 参加申請書(請求人側)
平成28年 1月21日 審理事項通知(1)
平成28年 1月28日 請求人・口頭審理陳述要領書(1)
平成28年 2月15日 被請求人・口頭審理陳述要領書(1)
平成28年 2月15日 請求人・口頭審理陳述要領書(2)
平成28年 2月17日 参加許否の決定(許可)
平成28年 2月17日 審理事項通知(2)
平成28年 2月25日 請求人・口頭審理陳述要領書(3)
平成28年 2月25日 被請求人・口頭審理陳述要領書(2)
平成28年 3月 1日 請求人・口頭審理陳述要領書(4)
平成28年 3月 1日 口頭審理

本審決において、記載箇所を行により特定する場合、行数は空行を含まない。

第2.利害関係
被請求人は、請求人の利害関係について争う(答弁書3ページ12?18行)ことから、以下、検討する。
請求人、有限会社コヒーレントテクノロジーは、「水及び水処理関連製品の開発」を業務の一つとする法人であり(甲12の1、甲12の2、甲12の3。証拠については後記第5.の2.参照)、電解水関連製品を販売している(甲12の5、甲12の6、甲12の7、甲12の9、甲12の10)。
本件特許に係る「塗料スプレーミストの処理方法」は、電解水を利用して「有機溶剤系塗料スプレーミストの捕集を行う」ものである。
すなわち、請求人は、本件特許に係る方法と、同種の製品を販売しているから、利害関係を有することは明らかである。

第3.訂正請求について
1.訂正請求の内容
被請求人が、平成27年11月6日付け訂正請求書で求める訂正請求の内容は、以下のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「有機溶剤系塗料スプレーミストを強アルカリ電解水を含みPHが9以上でORPは+200mV以下に保たれた水に直接高速で接触させ衝突させて該スプレーミストを捕集する工程」とあるのを、「有機溶剤系塗料スプレーミストを強アルカリ電解水を含みPHが9以上でORPは+200mV以下に保たれた水に直接10m/秒以上で接触させ衝突させて該スプレーミストを捕集する工程」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?6も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「引き続きこの該スプレーミストが捕集された強アルカリ電解水を含む水から生成した固形分を分離する工程を含む」とあるのを、「引き続きこの該スプレーミストが捕集された強アルカリ電解水を含む水から生成した固形分を分離する工程を含み、前記固形分が、沈殿した金属化合物を主成分とする無機フィラー相、及び浮遊した塗料用樹脂を主成分とする相からなる」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?6も同様に訂正する)。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に「有機溶剤系塗料スプレーミストを高速気流に乗せて強アルカリ電解水を含みPHが9以上でORPが+200mV以下に保たれた水に直接高速で接触させ衝突させて強制撹拌混合させ」とあるのを、「有機溶剤系塗料スプレーミストを10m/秒以上の気流に乗せて強アルカリ電解水を含みPHが9以上でORPが+200mV以下に保たれた水に直接10m/秒以上で接触させ衝突させて強制撹拌混合させ」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に「有機溶剤系塗料スプレーミストを・・・・・強制撹拌混合させ、浮遊する塗料用樹脂を主成分とする相と沈殿する金属化合物を主成分とした無機フィラー相とに分離する」とあるのを、「有機溶剤系塗料スプレーミストを・・・・・強制撹拌混合させ、該有機溶剤系塗料スプレーミストを、浮遊する塗料用樹脂を主成分とする相と沈殿する金属化合物を主成分とした無機フィラー相とに分離する」に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に「前記固形分を分離した強アルカリ電解水を含む水を循環させ再利用することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の有機溶剤系塗料スプレーミストの処理方法」とあるのを、「前記固形分を分離した強アルカリ電解水を含む水を循環させ再利用することを特徴とする請求項1記載の有機溶剤系塗料スプレーミストの処理方法」に訂正する。

(7)訂正事項7
明細書の段落【0011】に「有機溶剤系塗料スプレーミストを強アルカリ電解水を含みPHが9以上でORPは+200mV以下に保たれた水に直接高速で接触させ衝突させて該スプレーミストを捕集する工程」とあるのを、「有機溶剤系塗料スプレーミストを強アルカリ電解水を含みPHが9以上でORPは+200mV以下に保たれた水に直接10m/秒以上で接触させ衝突させて該スプレーミストを捕集する工程」に訂正する。

(8)訂正事項8
明細書の段落【0011】に「引き続きこの該スプレーミストが捕集された強アルカリ電解水を含む水から生成した固形分を分離する工程を含む」とあるのを、「引き続きこの該スプレーミストが捕集された強アルカリ電解水を含む水から生成した固形分を分離する工程を含み、前記固形分が、沈殿した金属化合物を主成分とする無機フィラー相、及び浮遊した塗料用樹脂を主成分とする相からなる」に訂正する。

(9)訂正事項9
明細書の段落【0011】に「(3)前記固形分が、沈殿した金属化合物を主成分とした無機フィラー相、及び浮遊した塗料用樹脂を主成分とする相からなることを特徴とする、上記1または2記載の有機溶剤系塗料スプレーミストの処理方法」とあるのを、「(3)前記固形分が、沈殿した金属化合物を主成分とした無機フィラー相、及び浮遊した塗料用樹脂を主成分とする相からなることを特徴とすることは、上記1に記載のとおりである」に訂正する。

(10)訂正事項10
明細書の段落【0011】に「有機溶剤系塗料スプレーミストを高速気流に乗せて強アルカリ電解水を含みPHが9以上でORPが200mV以下に保たれた水に直接高速で接触させ衝突させて強制撹拌混合させ」とあるのを、「有機溶剤系塗料スプレーミストを10m/秒以上の気流に乗せて強アルカリ電解水を含みPHが9以上でORPが200mV以下に保たれた水に直接10m/秒以上で接触させ衝突させて強制撹拌混合させ」に訂正する。

(11)訂正事項11
明細書の段落【0011】に「有機溶剤系塗料スプレーミストを・・・・・強制撹拌混合させ、浮遊する塗料用樹脂を主成分とする相と沈殿する金属化合物を主成分とした無機フィラー相とに分離する」とあるのを、「有機溶剤系塗料スプレーミストを・・・・・強制撹拌混合させ、該有機溶剤系塗料スプレーミストを、浮遊する塗料用樹脂を主成分とする相と沈殿する金属化合物を主成分とした無機フィラー相とに分離する」に訂正する。

(12)訂正事項12
明細書の段落【0011】に「前記固形分を分離した強アルカリ電解水を含む水を循環させ再利用することを特徴とする上記1から5のいずれか1項に記載の有機溶剤系塗料スプレーミストの処理方法」とあるのを、「前記固形分を分離した強アルカリ電解水を含む水を循環させ再利用することを特徴とする上記1記載の有機溶剤系塗料スプレーミストの処理方法」に訂正する。

2.訂正請求についての当審の判断
訂正請求について検討する。
本審判事件においては、全ての請求項が無効審判の請求の対象とされているので、以下の訂正事項に関して、第134条の2第9項で読み替えて準用する第126条第7項の独立特許要件は適用されない。

(1)訂正事項1
訂正事項1は、請求項1の「高速」を「10m/秒以上」と特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
「10m/秒以上」と特定する点については、特許明細書の段落【0021】に、「例えば、塗料ミストは排気フアン(吸引ファン)にて発生させた高速気流に捕集され、好ましくは秒速10m/秒以上の高速の気流に乗せられて強アルカリ電解水を含む水と直接高速で接触させ衝突させて攪拌させることにより、塗料ミストの分離が生じる」と、段落【0032】に、「塗装を行う時に生じる塗料ミストの余剰分はこの気流に乗り、スクラバー2の下端部5と循環水12の水面とで形成される僅かな隙間3からスクラバー2に引き込まれ(このとき、上記気流は上記僅かな隙間3を通過する際10メートル/秒以上に達する高速気流となる)、その隙間3近傍に設けた反射板6(又は、断面が円弧状の渦巻き板)により形成された撹拌混合部21で、10メートル/秒以上に達するスピードの高速気流と循環水12と塗料ミスト20とがその反射板6(又は、断面が円弧状の渦巻き板)に沿い強烈に回転しながら強制撹拌混合される」と記載されている。
よって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。

(2)訂正事項2
訂正事項2は、請求項1の「固形分」を「固形分が、沈殿した金属化合物を主成分とする無機フィラー相、及び浮遊した塗料用樹脂を主成分とする相からなる」と特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項2で特定した点は、特許明細書の段落【0009】に、「本発明は、一般塗装に用いられる有機溶剤系塗料の塗料ミストから、塗料用樹脂を主成分とする相(以下、単に樹脂相とも言う。)と金属化合物を主成分とする無機フィラー相(以下、単に無機フィラー相ともいう。)を直接別々に分離回収する方法に関する」と、請求項3には、「前記固形分が、沈殿した金属化合物を主成分とした無機フィラー相、及び浮遊した塗料用樹脂を主成分とする相からなる」と記載されている。
よって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。


(3)訂正事項3
訂正事項3は、請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。

(4)訂正事項4
訂正事項4は、請求項5の「高速」を「10m/秒以上」と特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
「10m/秒以上」と特定する点については、(1)のとおり、特許明細書に記載されている。
よって、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。

(5)訂正事項5
訂正事項5は、請求項5の「有機溶剤系塗料スプレーミストを・・・・・強制撹拌混合させ、浮遊する塗料用樹脂を主成分とする相と沈殿する金属化合物を主成分とした無機フィラー相とに分離する」との記載における「有機溶剤系塗料スプレーミストを」との語が、「浮遊する塗料用樹脂を主成分とする相と沈殿する金属化合物を主成分とした無機フィラー相とに分離する」にまで係ることを明確化するものである。
また、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項5で特定した点は、特許明細書の段落【0012】に、「本発明によれば、塗料ミストがアルカリ電解水を含む水と直接高速で接触させ衝突させて攪拌されることにより、2相状態(即ち、樹脂相と無機フィラー相)に別々に分離されて、塗料ミストを効率的に処理することができる」と、段落【0015】に、「本発明者は塗料ミスト捕集用循環水として、強アルカリ電解水を添加した、PHが9以上でORPは+200mV以下に保たれた水を用いることにより、塗料ミストを再利用可能な樹脂相と無機フィラー相に直接分別して・・・・・」と記載されている。
よって、訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。

(6)訂正事項6
訂正事項6は、多数項を引用している請求項の引用請求項を減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。

(7)訂正事項7?12
訂正事項7?12は、それぞれ、上記訂正事項1?6に係る訂正に伴って、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載との整合を図るもので、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項7?12で特定する点については、(1)?(6)のとおり、特許明細書に記載されている。
よって、訂正事項7?12は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。

(8)一群の請求項
訂正事項1及び2に係る請求項1?6は、当該訂正事項を含む請求項1の記載を、請求項2?6がそれぞれ引用しているものであるから、当該請求項1?6は、特許法134条の2第3項に規定する一群の請求項である。
本件訂正請求は、一群の請求項について行われている。

(9)小括
したがって、上記訂正は、特許法第134条の2第1項の規定に適合し、同条第9項で準用する特許法第126条第4項ないし第8項の規定にも適合するので、上記訂正を認める。
なお、訂正が適法であることについて、両当事者間に争いはない(請求人要領書(3)4ページ5行)。

第4.本件発明
本件特許の請求項1?6に係る発明(以下「本件発明1?6」という。)は、訂正された特許請求の範囲によれば、以下のとおりである。

「【請求項1】
有機溶剤系塗料スプレーミストの捕集を行う方法において、有機溶剤系塗料スプレーミストを強アルカリ電解水を含みPHが9以上でORPは+200mV以下に保たれた水に直接10m/秒以上で接触させ衝突させて該スプレーミストを捕集する工程と、引き続きこの該スプレーミストが捕集された強アルカリ電解水を含む水から生成した固形分を分離する工程を含み、前記固形分が、沈殿した金属化合物を主成分とする無機フィラー相、及び浮遊した塗料用樹脂を主成分とする相からなることを特徴とする有機溶剤系塗料スプレーミストの処理方法。
【請求項2】
前記固形分を分離した強アルカリ電解水を含む水にPHが9.5以上でORPは-960mVから0mVである強アルカリ電解水を添加して、前記PHが9以上でORPは+200mV以下に保たれた水として用いることを特徴とする、請求項1記載の有機溶剤系塗料スプレーミストの処理方法。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記添加する強アルカリ電解水がPH11から14、ORPが-960mVから-200mVであることを特徴とする請求項2記載の有機溶剤系塗料スプレーミストの処理方法。
【請求項5】
有機溶剤系塗料スプレーミストを10m/秒以上の気流に乗せて強アルカリ電解水を含みPHが9以上でORPが+200mV以下に保たれた水に直接10m/秒以上で接触させ衝突させて強制撹拌混合させ、該有機溶剤系塗料スプレーミストを、浮遊する塗料用樹脂を主成分とする相と沈殿する金属化合物を主成分とした無機フィラー相とに分離することを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の有機溶剤系塗料スプレーミストの処理方法。
【請求項6】
前記固形分を分離した強アルカリ電解水を含む水を循環させ再利用することを特徴とする請求項1記載の有機溶剤系塗料スプレーミストの処理方法。」
第5.請求人の主張
1.条文
特許法第29条第2項(第123条第1項第2号)
(請求書4ページ(3)、要領書(3)4ページの第4)

2.証拠
請求人が提出した証拠は、以下のとおりである。
甲第1?4号証(以下「甲1」のように略記)は請求書とともに、甲5?12の10は、その後提出されたものである。
なお、甲4、4の2、6、9、10は、撤回された(請求人要領書(3)第2)。

甲1 特許第3464279号公報
甲2 特開2006-181503号公報
甲3 松尾昌樹「電解水の基礎と利用技術」技報堂出版株式会社、2000年1月25日、8-9、20-25、36-41、110-115ページ
甲5 吉田豊彦ほか編「塗装の事典」朝倉書店、1980年4月30日、166-177ページ
甲7 今岡孝之ほか「電解イオン水を用いた新しい洗浄技術」信学技報、社団法人電子情報通信学会、1995年8月、SDM95-102
甲8 國本文智ほか「活性ラジカル溶液による基板表面洗浄システム」信学技報、社団法人電子情報通信学会、1995年8月、SDM95-103
甲11 特開2003-142441号公報
甲12の1 請求人の会社定款
甲12の2 請求人の履歴事項全部証明書
甲12の3 請求人略歴
甲12の4 請求人代表者、澄田修生の略歴
甲12の5 請求人製品「多室型高電解水生成器REDOX」のカタログ、2005.1.17
甲12の6 請求人製品の納入実績表、平成13年11月4日
甲12の7 請求人製品「レドックスウオーター生成器」仕様書
甲12の8 請求人論文「電解技術を利用した環境適応型洗浄プロセス」平成11年2月3日
甲12の9 請求人製品「レドックスウォータータイプ3生成器 還元水生成用 小型電解装置取扱説明書」平成13年1月26日
甲12の10 請求人製品「レドックスウォータータイプ3生成器 小型電解装置取扱説明書」平成13年12月19日

3.概要
請求人の主張の概要は、以下のとおりである。

(1)総論
請求項1、5、6:甲1を主たる証拠とし、
甲5(スプレーミストの流速)、及び、
ア.甲2(アルカリ性溶液のpH)を適用し容易、又は、
イ.甲3、7?8、11の技術常識(pHとORPの関係)から容易。
請求項2、4:請求項1同様の理由。さらに請求項2特定事項は甲2
(調書の「当事者双方」)

(2)水のpH(後記第7の3.の相違点1)
甲2は、塗料捕集用循環水にアルカリ性溶液を用い、pHが8?10となる点、甲3、7?8、11は、電解水のpHとORPに相関関係がある点についての証拠である。
甲2の請求項1および2に、塗料捕集用循環水にアルカリ性電解水を主成分とするアルカリ性溶液を用いる点が記載されており、その場合のアルカリ性溶液のpHは8?12(請求項3、0019)であり、本件特許発明1のpH範囲と重複する。
甲3の図-1.8及び理論式から200mV以下は還元水であり、pH9の低pH領域では使用される添加薬品(中性NaCl,アルカリNa_(2)CO_(3)等 )によりある程度変動する。
甲7の図3及び甲8の図4のpHとORPの関係図に示されるように、電解水のpHとORPは独立変数ではなく、相関関係がある。この関係図によれば、pH9以上のORPは+200mV以下である。
甲1における電解水のpHと還元電位に関し、請求項1では200mV以下(pHの説明は一切無い)、段落0005に「酸化還元電位を引き下げた水」、段落0023に「ORP値?250mVの還元水」との記載があるが、甲11の段落0035及び図6の記載も参照すると、甲1では、甲11の図6の領域Bの従来の電解カソード水の使用を意図していることは明らかである。
甲11の段落0035及び図6に、電解アノード水と電解カソード水のORPとpHの関係が記載され、電解アノード水は図6の左上の領域Aに位置し、電解カソード水は図6の右側の領域Bに位置する旨が記載されている。
pHとORPとは直線的に対応するものではないが、甲11の図6の領域A,Bに示すように、電解水の場合、大雑把な傾向として、ORPが低下するとpHが大きくなる強い相関関係にあることは、図6から明らかであり、ORP200mV以下ではpH7.5を超えるアルカリ領域になる。
以上の周知事項に基づけば、ORPが200mV以下の範囲において、甲1発明の還元水のpH範囲は、本件発明のpH範囲と殆ど重複していることは明らかである。
塗装ブースであれば、甲7、8、11のように、純水を使わず、水道水や工業用水、地下水など、ORP、pHの素性が純水ほどに定かでないものを使うと考えられる。そうすると、当業者ならば、電解処理した水の水質バラツキを抑える(必ず、ある程度以上に高いpH、低いORPを安定して得る)ために、甲1に、アルカリを添加するという動機はある。
pH9以上とすることは当業者の単なる設計事項にすぎない。甲7(図3)、甲8(図4)、甲11(図6)のpH-ORPのグラフから、pHが大きい方がより低いORPが得られることは周知である。
被請求人は、ORPが200mV以下になるからと言って、PHが9以上になるという関係にはないと主張し、証拠として乙1の図1中に示される「一般のミネラルウォーター」や「アルカリイオン水」などを列挙している。
しかし、これらの水は、そもそも本件発明および甲1で用いる水のように電気的に処理された電解水とは全く異なる種類の水であり、電解水と同列に並べてORP、pHの異同を議論できる対象ではない。被請求人の乙1に基づく主張は失当である。
(請求書9ページ17?24行、要領書(2)8ページ5?14行(当審注.ページは当審で付した)、要領書(3)4ページ22行?5ページ下から3行、要領書(4)3ページ下から6?2行、5ページ1行?6ページ23行、調書の「請求人 1」)

(3)水への接触速度(後記第7の3.の相違点2)
風速を10m/秒以上とする動機は、塗料ミストが強アルカリ電解水に接触したときの捕捉効果を高めることにあることは明白である。この点は、強アルカリ電解水の上記作用が周知であること、及び塗料ミストを5?10m/s、20?30m/sの高速気流により循環水に衝突させる複数の処理方法が記載されている甲5が存在する以上、容易に想起し得る。
(要領書(2)8ページ末行?9ページ5行)

(4)分離工程(後記第7の3.の相違点3)
甲1の段落0022に記載された「・・・ウォーターカーテンCを形成する還元水は噴霧塗装を取り込んでその下に設置した受水タンク20内に落下収容される。」は、本件特許発明1における「引き続きその塗料ミストが捕集された強アルカリ電解水を含む水から生成した固形分を分離する工程」に相当する。
有機塗料は、油脂高分子と無機フィラーの結合体であるから、所定のpHとORPを有するアルカリ電解水との反応に充分な時間があれば、比重1より小さい油脂と、比重1より大きい無機フィラーは、剥離して分かれ、前者の浮遊物と後者の沈殿物に分離することは、周知である。
甲1の段落0005の「電気的処理により酸化還元電位(ORP)を引き下げた水に・・・有機溶剤の溶解作用があることを見出し、・・・。」との記載から、「電気的処理により酸化還元電位(ORP)を引き下げた水」はアルカリ電解水であることは容易に推測することができ、したがって、「受水タンク20内に落下収容される」物は、浮遊する塗料用樹脂を主成分とする相と沈殿する金属化合物を主成分とする無機フィラー相とに分離されたものであることは明白である。
甲1発明、甲2、甲5及び本件発明とでは、塗料ミストの悪臭解消と塗料ミストの捕集という課題(狭義の課題)に多少の相違があるが、これらはいずれも、アルカリ電解水の作用(電解水の活性度)を利用するという技術思想(広義の課題)が共通している。したがって、狭義の課題の相違にかかわらず、甲1、甲2及び甲5に記載された技術的事項を採用することに困難性は見当たらない。
(請求書9ページ下から1行?10ページ29行、要領書(2)9ページ18?23行)

第6.被請求人の主張
1.総論
これに対し、被請求人は、本件審判請求は成り立たないとの審決を求めている。

2.証拠
被請求人が提出した証拠は、以下のとおりである。

乙1 「酸化還元電位とPH値の相関図表」オジカ インダストリーのホームページ

3.概要
被請求人の主張の概要は、以下のとおりである。

(1)水のpH(後記第7の3.の相違点1)
甲第2号証には、ORP+200mV以下のあらゆる水が、必ず9以上のpHを有していることの根拠について何ら開示も示唆もされていない。
また、甲第2号証に記載の発明における、塗料捕集用循環水にアルカリ性溶液を添加する工程は、既に塗料を捕捉した循環水にアルカリ性溶液を添加するものである。
甲1発明の「電圧を印加して酸化還元電位を200mV以下に下げた水」と、甲第2号証に記載の発明におけるアルカリ性溶液は、使用される場面、使用目的が全く異なるものである。
甲第3号証は、ORP+200mV以下のあらゆる水が、必ず9以上のpHを有していることを示すものではない。
また、甲第1号証には、アルカリ性電解水を用いることは何ら開示も示唆もされていないにも関わらず、甲第3号証に記載の強還元水(アルカリ電解水)のpHを、甲1発明の「電圧を印加して酸化還元電位を200mV以下に下げた水」の構成として当業者が採用しようとする根拠が全く不明である。
乙1の図によれば「全国の水道水の領域」、「一般のミネラルウォーター」「アルカリイオン水」「理想の還元水素水」の領域に属する水は、ORPが200mV以下になるからと言って必ずPHが9以上になるという関係にはない。
甲7の図3及び甲8の図4によれば、ORPは+200mV以下であってもpH9以上になるとは限らないことが示されていると考えるのが合理的である。
(答弁書8ページ22行?10ページ末行、要領書(1)4ページ11?5ページ6行、要領書(2)3ページ10?17行)

(2)水への接触速度(後記第7の3.の相違点2)
甲1発明において用いられるような、噴霧塗料を回収するために被塗装物の背後に形成されるウオーターカーテンに対し、10m/秒以上という高速で塗料を吹き付けようとした場合、10m/秒以上の風速によりウオーターカーテンがその形状を維持できずに割れてしまい、塗料ミストと水を十分に接触させることはできない。
そのため、甲1発明において、当業者が「有機溶剤系塗料スプレーミストを直接10m/秒以上で接触させ衝突させる」ことを採用する余地はない。
(答弁書12ページ11?17行)

(4)分離工程(後記第7の3.の相違点3)
甲1は、単に汚染空気の浄化処理方法を提供すること目的としており、本件発明1で対象としているような樹脂相無機フィラー相を直接別々に分離回収し、それぞれリサイクルすることを可能にするという技術的思想は全く存在しない。その上、甲1では「公衆便所や食品工場若しくは塗装工場における消臭」のように樹脂相と無機フィラー相の分離回収とは全く無縁の臭気までも等しく対象としているので、甲1の開示の中から殊更に飛散噴霧塗料の回収のみに着目し、相違点3に係る構成を採用する動機付けは見出せない。
(要領書(1)7ページ18行?8ページ3行、答弁書13ページ18?20行)

第7.当審の判断
1.本件発明1
訂正された本件発明1は、上記第4.のとおりと認められる。

2.証拠記載事項
(1)甲1
甲1には、以下の記載がある。

「【請求項3】 悪臭乃至は有害有機物を含む汚染空気を排気ダクト内に取り込み、電圧を印加して酸化還元電位を200mV以下に下げた水を噴霧することを特徴とする消臭乃至は有害有機物の処理方法。
【請求項4】 ウオーターカーテンにより飛散噴霧塗料を回収する噴霧塗料処理方法において、電圧を印加して酸化還元電位を200mV以下に下げた水によって該ウオーターカーテンを形成することを特徴とする消臭乃至は有害有機物の処理方法。」

「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、空気中に飛散する悪臭乃至は有害有機物の処理方法に関し、特に公衆便所におけるアンモニア臭や食品工場における硫黄酸化物等の悪臭の除去、若しくは塗装工場における塗料噴霧による有機溶剤の悪臭の除去乃至は回収無毒化等のように悪臭や有害有機物の発生場所の空気を浄化する処理方法に関する。」

「【0011】
【作用】室内に充満したアンモニアや公衆便所の便器に付着した尿酸等、硫黄酸化物、若しくは有機溶剤等に還元水を噴霧するとアンモニア臭、腐敗臭、刺激臭等の悪臭が消滅するとともに、有機溶剤が通常の水道水(ORPが500mV程度)に比較してはるかに大きな度合で当該還元水中に溶解する。ダクト内に取り込んで還元水を噴霧する場合、塗料がウオーターカーテン、タンク水面に吹き付けられる場合も消臭作用を含め同様の現象がみられる。還元水は、還元装置の貯水タンク内につくられ、ポンプ、導管等からなる給水機構にて供給される。」

「【0018】なお、図示しないが、貯水タンク8は一般水道等の給水源に連結され、随時水の補給ができるようにしているものである。このように構成された還元装置5によって還元水をつくるには、水道水その他の処理水を貯水タンク8に満たして、所定時間、乃至は間欠的にタイマー(図示せず)をセットしてスイッチオン状態にしておけばよい。・・・。」

「【0021】第5図は、本発明方法の他の実施例を示すもので、スプレー塗装において排気ファン(図示せず)によって作業室内に一定方向への気流をつくるとともに、スプレー被塗装物Tの背後にウオーターカーテンCが形成される。
【0022】ウオーターカーテンCは水平に設置されたパイプ6aの下側に形成された溝状の給水口から排出される還元水によって形成される。このパイプ6aには上記実施例におけると同じ還元装置5にて貯水タンク8につくられた還元水がポンプ7及び供給管6を経て供給される。ウオーターカーテンCを形成する還元水は噴霧塗料乃至混合溶剤を取り込んでその下に設置した受水タンク20内に落下収容される。この受水タンク内の水溶液はポンプ7a及び排水管9bを経て還元装置5の貯水タンク8に循環されるようにしている。」

これらを、技術常識を踏まえ、本件発明1に照らして整理すると、甲第1号証には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。

「飛散噴霧塗料を回収する噴霧塗料処理方法において、
電圧を印加して酸化還元電位を200mV以下に下げた還元水によってウォーターカーテンを形成し、飛散噴霧塗料を、排気ファンによる気流によりウォーターカーテンに接触させて、ウォーターカーテンを形成する還元水に取り込んで、飛散噴霧塗料を取り込んだ還元水を受水タンク内に落下収容する、消臭乃至は有害有機物の処理方法。」

甲1発明の認定について、両当事者間に争いはない(請求人要領書(2)7ページ(1)、被請求人要領書(1)3ページ(3-1))。

(2)甲2
甲2には、以下の記載がある。

「【請求項1】
塗装ブースの塗料捕集用循環水にアルカリ性溶液を添加するステップと、前記アルカリ性溶液が添加された循環水を濾過して濾液と残渣に分離するステップと、前記濾液を中和するステップと、前記中和された濾液を塗料捕集用循環水として再利用するステップとを有する塗装ブース循環水の処理方法。
【請求項2】
前記アルカリ性溶液は、アルカリ性電解水を主成分とすることを特徴とする請求項1記載の塗装ブース循環水の処理方法。
【請求項3】
前記アルカリ性溶液のpHは、8?12であることを特徴とする請求項1または2記載の塗装ブース循環水の処理方法。」

「【0006】
本発明は、水系塗料を使用する塗装ブースであっても塗料捕集用循環水から塗料成分を簡便に分離抽出することができる塗装ブース循環水の処理方法及び装置を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明の塗装ブース循環水の処理方法は、塗装ブースの塗料捕集用循環水にアルカリ性溶液を添加するステップと、前記アルカリ性溶液が添加された循環水を濾過して濾液と残渣に分離するステップと、前記濾液を中和するステップと、前記中和された濾液を塗料捕集用循環水として再利用するステップとを有することを特徴とする。」

「【0024】
以上のとおり、本実施形態に係る循環水の処理方法及び処理装置によれば、布フィルタ又はステンレスフィルタといった簡便な濾過装置のみを用いることにより、循環水に溶解した水系塗料成分を分離することができ、そして、濾液たる循環水を再利用することができる。特に、アルカリ性溶液としてアルカリ性電解水を用い、中和剤として酸性電解水を用いると、取り扱い上の安全性が著しく向上し、また時間が経てば普通の水に戻るので後処理等の必要もない。」

(3)甲3
甲3の「図-1.8 電解中のpHとORPの変化」には、酸化水、還元水、それぞれのpHとORPが、時間の経過とともに図示されている。
これによれば、還元水のORPの低下とpHのアルカリ傾向とに正の相関があり、10分程度経過後に安定していることが理解できる。

(4)甲5
甲5には、各種塗装ブースが記載され、「うず流式」における排気は5?10m/sで通過される点が、「ベンチュリー式」における通過空気の速度が20?30m/sである点が記載されている。

(4)甲7、8
甲7の「図3.電解イオン水pH-酸化還元電位相関図」、甲8の「図・4 電解イオン水pH-酸化還元電位相関」には、アノード水(酸添加)、アノード水(超純水)、カソード水(アルカリ添加)、カソード水(超純水)について、電解イオン水pHと酸化還元電位との関係が図示されている。
これによれば、カソード水(アルカリ添加)の酸化還元電位(ORP)の低下とpHのアルカリ傾向とに正の相関があることが理解できる。

(5)甲11
甲11には、以下の記載がある。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、半導体装置の製造工程等で利用される洗浄技術に関するものであり、特に、表面に金属材料が露出した基板を洗浄する基板洗浄技術に関するものである。」

「【0035】図6は、本発明による洗浄液と従来の洗浄液の関係を示す。本発明に係る洗浄液は、純水よりも低いpH及び低い酸化還元電位を有し、図中左下の領域に位置する。これに対し、従来の酸を用いた薬液(SPM(硫酸-過酸化水素水)、HPM(塩酸-過酸化水素水))や電解アノード水、オゾン水は図中左上の領域(図中、A)に位置する。一方、APM(アンモニア-過酸化水素水)や従来のアルカリ性薬液及び電解カソード水は図中右側の領域(図中、B)に位置する。」

図6には、pHと酸化還元電位との関係が図示され、電解カソード水(B領域)はpHが7.5以上、酸化還元電位が130mV以下であることが看取できる。

3.本件発明1と甲1発明との対比
甲1発明の「飛散噴霧塗料」は本件発明1の「有機溶剤系塗料スプレーミスト」に相当し、同様に、「回収する」は「捕集を行う」に、「接触させて」は「直接」「接触させ衝突させて」に、「還元水に取り込んで」は「捕集する工程」に、それぞれ相当する。
甲1発明の「電圧を印加して酸化還元電位を200mV以下に下げた還元水」と本件発明1の「強アルカリ電解水を含みPHが9以上でORPは+200mV以下に保たれた水」とは「ORPは+200mV以下に保たれた水」である限りにおいて一致する。

本件発明1と甲1発明は、以下の点で一致する。
「有機溶剤系塗料スプレーミストの捕集を行う方法において、有機溶剤系塗料スプレーミストをORPは+200mV以下に保たれた水に直接接触させ衝突させて該スプレーミストを捕集する工程を含む有機溶剤系塗料スプレーミストの処理方法。」

本件発明1と甲1発明は、次の点で相違する。
相違点1
「ORPは+200mV以下に保たれた水」について、本件発明1では「強アルカリ電解水を含みPHが9以上」の水であるが、甲1発明では「電圧を印加」した「還元水」である点。

相違点2
水への接触について、本件発明1では「10m/秒以上で」接触させるが、甲1発明では「排気ファンによる気流によりウォーターカーテンに」接触させる点。

相違点3
本件発明1は「スプレーミストが捕集された強アルカリ電解水を含む水から生成した固形分を分離する工程を含み、前記固形分が、沈殿した金属化合物を主成分とする無機フィラー相、及び浮遊した塗料用樹脂を主成分とする相からなる」「処理方法」であるが、甲1発明は分離工程を含むか不明な「飛散噴霧塗料を取り込んだ水を受水タンク内に落下収容する、消臭乃至は有害有機物の処理方法」である点。

かかる一致点、相違点の認定について、両当事者間に争いはない(請求人要領書(2)7ページ(2)、(3)、被請求人要領書(1)3ページ(3-1))。

4.本件発明1についての判断
相違点1について検討する。
まず、本件発明1が「PHが9以上」としたことの技術的意義について検討する。
本件特許明細書には、以下の記載がある。

「【0016】
本発明においては塗料ミストと接触する強アルカリ電解水を含む水はPHが9以上でORPは+200mV以下、好ましくは0mVから-960mV、更に好ましくは-200mVから-960mVの電位に保たれた水である必要がある。
PHが9未満でORPは+200mV超では塗料ミストと接触しても樹脂相や無機フィラー相を分離する能力が不足し、充分に分離できないため好ましくない。
・・・。
ここで使用する強アルカリ電解水を含む水はPHが好ましくは11以上、最も好ましくは12以上である。一般的にはPHの上限は14程度とされており、この程度のPHまでは使用可能である。」

すなわち、アルカリが強いほど望ましいことは明らかであるが、「PHが9」に臨界的意義があるとは認められない。

甲1発明の「還元水」は、飛散噴霧塗料を回収するため「水道水その他の処理水」(段落0018)から作られるものである。
「水道水」の成分、品質は必ずしも全国一定ではなく、地域により差違がある。また「処理水」であれば、なおさら成分、品質は一定でない。
甲1発明は、「悪臭や有害有機物の発生場所の空気を浄化する」(段落0001)ための「消臭乃至は有害有機物の処理方法」であるから、かかる課題を確実に達成することが望ましいことは明らかである。
そのためには、甲1発明における「還元水」を、安定して確実に「酸化還元電位を200mV以下」とするために、何らかの工夫が必要である。
電解により得られた還元水において、ORPとpHとは一定の関係があり、ORPの低下とpHのアルカリ化とが正の相関関係にあることは技術常識である(甲3、7、8、11)。
してみると、甲1発明における「還元水」を、もとの水の成分、品質にかかわらず、安定して確実に「酸化還元電位を200mV以下」とするために、アルカリ化することは、十分な動機がある。
その際、ORPとpHとの関係についての技術常識を踏まえると、確実に「酸化還元電位を200mV以下」とするためには、アルカリが強いほど望ましい。
また、本件発明1の「PHが9以上」としたことによる技術的意義は、上記のとおり、アルカリが強いほど望ましいということであるから、これにより格別な効果、臨界的意義があるとは認められない。
よって、甲1発明において、技術常識を踏まえ、相違点1に係る構成とすることは、容易想到である。

被請求人は、ORPが+200mV以下であってもpH9以上になるとは限らない旨、主張する。
しかし、上記のとおり、甲1発明の「ORPが+200mV以下」の水のアルカリを強くする動機はあるから、被請求人の主張は採用できない。

相違点2について検討する。
甲1発明の「ウォーターカーテン」は、段落0022のとおり、これにより「飛散噴霧塗料を回収」するものである。
そのためには、飛散噴霧塗料が、ウォーターカーテンを形成する還元水に適切に接触する必要があるが、飛散噴霧塗料の速度を高くすると接触度合いが低下することは明らかである。
したがって、甲1発明において、飛散噴霧塗料の速度を高くする、すなわち「10m/秒以上で」接触させる動機はないから、相違点2に係る構成を容易想到とすることはできない。
請求人は、「10m/秒以上で」接触させる点は、甲5に記載されている旨、主張する。
しかし、甲5の装置は、「うず流式」、又は「ベンチュリー式」であって、甲1発明で用いている「ウォーターカーテン」を用いたものではなく、装置の前提が異なるから、請求人の主張は採用できない。

相違点3について検討する。
本件発明1は、「再利用可能に分別処理」(段落0001、0009)するために、「固形分を分離する工程」を含むものである。
甲1発明は、「悪臭や有害有機物の発生場所の空気を浄化する」(段落0001)ために、「飛散噴霧塗料を取り込んだ水を受水タンク内に落下収容する」ものである。
すなわち、甲1発明と本件発明1とでは、解決すべき課題が異なる。
また、甲1発明においては、すでに「悪臭や有害有機物の発生場所の空気を浄化する」という課題を解決していることから、さらに「固形分を分離する工程」を設ける動機は存在しない。
請求人は、甲1発明の受水タンク内において、十分な時間があれば、無機フィラーと樹脂とに分離することは周知である旨、主張する。
しかし、甲1発明の課題は、消臭のためであるから、受水タンク内に落下収容する水は、通常は、直ちに処分すべきものであって、あえて十分な時間溜めておく動機はない。
請求人の主張は採用できない。

以上、相違点1に係る構成は容易想到であるものの、相違点2、3に係る構成は容易想到と認められないから、本件発明1を当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。

5.本件発明2?6についての判断
本件発明2、4?6は、本件発明1を引用するものであるから、本件発明1の構成を全て含むものである。
そうすると、本件発明1を当業者が容易に発明をすることができたとすることができない以上、本件発明2、4?6についても、同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。
なお、本件発明3は、訂正により削除された。

第8.むすび
以上、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明1?2、4?6に係る特許を無効とすることはできない。
また、他に本件発明1?2、4?6に係る特許を無効とすべき理由を発見しない。
本件発明3は、訂正により削除された。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
塗料スプレーミストの処理方法
【技術分野】
【0001】
本発明は有機溶剤系塗料の余剰塗料スプレーミスト(以下、単に塗料ミストとも言う)を塗料用樹脂を主成分とする相と、顔料や充填剤など主として金属化合物である無機フィラー相とに、有効かつ再利用可能に分別処理できる有機溶剤系塗料の余剰塗料スプレーミストの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば金属塗装、プラスチック塗装、等の分野において、塗料を噴霧して被塗物の塗装を行う方法が知られている。
このような方法では、実際に噴霧された塗料の全てが被塗物に塗着するのではなく、20?80%が塗着せずに余剰塗料スプレーミストとなるのが現状である。
【0003】
このような余剰塗料スプレーミストはそのままでは放置できないため、塗料ミストを捕集して何らかの処理をする必要がある。余剰塗料ミストを捕集する方法として、吸引フアンにより吸引捕集して、作業従事者が呼吸時に体内に取り込むことを防ぐのが一般的であるが、この吸引捕集した後の余剰塗料ミストの処理を必要としていた。
通常、塗装には多くは塗装ブース(湿式塗装ブース)が用いられる。
この塗装ブース(湿式塗装ブース)には塗装ミストを処理する装置が併設され、水道水、工業用水、地下水などを循環水として蓄えたプールを用意し、そこに塗料ミストを接触・捕集することにより塗料ミストを処理する方法が知られている。
湿式塗装ブースの一例を図2に示す。
図2において循環水系の循環水12はポンプ23を有する配管11により樋24に送水され、片側より溢れ出た循環水は水幕板22を流れ落ちながら、塗装スプレーガン19から噴霧された塗料ミスト20を吸気フアン8が作る空気流27に乗せて捕集し塗料ミスト20を水槽1に貯留する。
【0004】
循環水12に混入した塗料ミスト20を固形分と水とに分離するために、循環水12に凝集剤25(アルカリ性薬剤もしくは酸性薬剤)を添加し、更には変性剤を添加して塗料ミスト20を沈降させスラッジ15化していた。
循環水12を再利用する時、配管11などに詰まるなどの影響を防止する必要が有るため、フィルター26を設け濾過し、ポンプ23を有する配管11により、樋24に返送循環する。
このようにして湿式塗装ブースでは、循環水12を利用して塗料ミスト20の塗料成分を捕集回収しているのが現状である。
【0005】
しかし、塗料には目的によってさまざまな種類が有り、種類の異なる塗料の全てに効果的な凝集剤や変性剤はない。
また、仮に塗料と相性の良い薬剤であったとしても、その効果を発揮するためには循環水に含まれる濃度を常に正しく管理する必要がある。
【0006】
そして、従来の有機溶剤系塗料の塗料ミストの処理方法では、一般に仮に前記の条件がすべて整ったとしても、そのスラッジ15は樹脂分である例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、アルキド・メラミン樹脂などの樹脂相と、顔料や充填剤などの主に金属化合物である無機フィラー相が混ざり合ったスラッジとなり、それぞれを有効かつ再利用可能な形で分別処理することは出来なかった(例えば、特許文献1段落[0003]参照)。
【0007】
従来の前記方法の湿式塗装ブースで使用されている水は単に市水、工業用水、地下水などであり、例えば市水の場合でも地域によって異なるが、PHは6.5から7.5、ORPは+400mVから+650mV程度である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006-181503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、一般塗装に用いられる有機溶剤系塗料の塗料ミストから、塗料用樹脂を主成分とする相(以下、単に樹脂相とも言う。)と金属化合物を主成分とする無機フィラー相(以下、単に無機フィラー相ともいう。)を直接別々に分離回収する方法に関する。
【0010】
従来の塗装ブース循環水を用いて塗料ミストを処理する方法によれば、塗料ミストは微細な塗料粒で混濁した状態のスラッジ状になるが、このスラッジは上記したように樹脂相と無機フィラー相が混じり合った状態のスラッジである。
このようなスラッジはハンドリングが難しく、樹脂相と無機フィラー相が混じり合った状態でのスラッジであるため、直接別々に分離回収はできず、廃棄処分するしかなかった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の通りのものである。
(1)有機溶剤系塗料スプレーミストの捕集を行う方法において、有機溶剤系塗料スプレーミストを強アルカリ電解水を含みPHが9以上でORPは+200mV以下に保たれた水に直接10m/秒以上で接触させ衝突させて該スプレーミストを捕集する工程と、引き続きこの該スプレーミストが捕集された強アルカリ電解水を含む水から生成した固形分を分離する工程を含み、前記固形が、沈殿した金属化合物を主成分とする無フィラー相、及び浮遊した塗料用樹脂を主成分とする相からなることを特徴とする有機溶剤系塗料スプレーミストの処理方法。
(2)前記固形分を分離した強アルカリ電解水を含む水にPHが9.5以上でORPは-960mVから0mVである強アルカリ電解水を添加して、前記PHが9以上でORPは+200mV以下に保たれた水として用いることを特徴とする、上記1記載の有機溶剤系塗料スプレーミストの処理方法。
(3)前記固形分が、沈殿した金属化合物を主成分とした無機フィラー相、及び浮遊した塗料用樹脂を主成分とする相からなることを特徴とすることは、上記1に記載のとおりである。
(4)前記添加する強アルカリ電解水がPH11から14、ORPが-960mVから-200mVであることを特徴とする上記2記載の有機溶剤系塗料スプレーミストの処理方法。
(5)有機溶剤系塗料スプレーミストを10m/秒以上の気流に乗せて強アルカリ電解水を含みPHが9以上でORPが200mV以下に保たれた水に直接10m/秒以上で接触させ衝突させて強制撹拌混合させ、該有機溶剤系塗料スプレーミストを、浮遊する塗料用樹脂を主成分とする相と沈殿する金属化合物を主成分とした無機フィラー相とに分離することを特徴とする、上記1から4のいずれか1項に記載の有機溶剤系塗料スプレーミストの処理方法。
(6)前記固形分を分離した強アルカリ電解水を含む水を循環させ再利用することを特徴とする上記1記載の有機溶剤系塗料スプレーミストの処理方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、塗料ミストがアルカリ電解水を含む水と直接高速で接触させ衝突させて攪拌されることにより、2相状態(即ち、樹脂相と無機フィラー相)に別々に分離されて、塗料ミストを効率的に処理することができる。
【0013】
本発明の処理工程によれば、更に周辺環境に悪臭を拡散することがなく、よりよい作業環境及び周辺環境を提供することができ、また分離した塗料スラッジは、それぞれ手動、もしくは自動的に分別することが可能である。浮遊した樹脂相は濃縮・乾燥などの後、弱アルカリ性を有する樹脂としてセメントなどの副材料に利用でき、一方無機フィラー相もさらに精製することによって塗料への添加材や顔料添加剤としてリサイクルすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一つの実施形態に係る塗装ブースを含む塗料ミスト処理装置の断面及び強アルカリイオン水生成装置を示す図。
【図2】従来の塗装ブースを含む有機溶剤系塗料の塗料ミスト処理装置の一例を示す図。
【図3】本発明の別の実施形態に係る塗装ブースを含むシャワー式塗料ミスト処理装置の一例を示す図。
【図4】本発明の塗料ミストが分離するメカニズムの想定図。
【図5】分離したスラッジのサンプル・イメージを示す図。
【図6】比較例1の分離しなかったスラッジのサンプル・イメージを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者は塗料ミスト捕集用循環水として、強アルカリ電解水を添加した、PHが9以上でORPは+200mV以下に保たれた水を用いることにより、塗料ミストを再利用可能な樹脂相と無機フィラー相に直接分別して回収することが出来る処理方法を見出し本発明を完成させたものである。
本発明者が鋭意検討したところでは、従来の循環水での捕集とは異なり、特定の作用を有する強アルカリ電解水を含む水を用いることによって、効率的かつ有効に樹脂相と無機フィラー相に直接分別して回収することが可能となったものである。
【0016】
本発明においては塗料ミストと接触する強アルカリ電解水を含む水はPHが9以上でORPは+200mV以下、好ましくは0mVから-960mV、更に好ましくは-200mVから-960mVの電位に保たれた水である必要がある。
PHが9未満でORPは+200mV超では塗料ミストと接触しても樹脂相や無機フィラー相を分離する能力が不足し、充分に分離できないため好ましくない。
ここでPHは水の酸性・アルカリ性を示す尺度であり、ORPとは酸化還元電位の単位である。ある物質のORPが0mV以下であると還元力が有り、0mV以上では酸化力を持つ、いずれも市販の計測器が使用可能である。
本発明者は計測器としては東亜ディーケーケー株式会社製HM-30P型、PH計とRM-30P型、ORP計を用いて測定した。
ここで使用する強アルカリ電解水を含む水はPHが好ましくは11以上、最も好ましくは12以上である。一般的にはPHの上限は14程度とされており、この程度のPHまでは使用可能である。
【0017】
本発明では、塗料ミストは排気フアン(吸引フアン)(図1の8参照)により捕集され、強アルカリ電解水を含む水と直接高速で接触させ衝突させて撹拌されることにより反応し、後述するメカニズムにより大部分の塗料ミストは浮遊する樹脂相と沈殿した無機フィラー相とに分離する。
本発明で用いることが出来る有機溶剤系塗料にはアルキド樹脂系、アミノアルキド樹脂系、アクリル樹脂系、エポキシ樹脂系、ウレタン樹脂系、不飽和ポリエステル樹脂系などのものが有り、これらに対して適用可能である。
【0018】
有機溶剤系塗料にはチタン、バリウム、アルミニウム、鉛化合物などの無機金属化合物が含まれており、これらを無機フィラー相として分離することが出来る。もちろん無機フィラーの形状は、円柱状、剣状、塊状などさまざまな形状となる場合があり、いずれの形状であっても本発明の処理方法により分離可能である。
【0019】
また、無機フィラー相には付着したわずかの樹脂を含むこともあり、逆に樹脂相にはわずかの無機フィラーを含むこともある。樹脂相は石油化合物であるため比重は小さく、さらに無機フィラーが抜けてポーラスになるため浮力が発生しやすい形状となり水に浮くことになる。また無機フィラー相は金属化合物成分を含むため比重が大きく沈降することになる。
【0020】
本発明に用いる強アルカリ電解水を含む水は循環・再利用することが経済的に好ましい。また樹脂相及び無機フィラー相を分離した後であっても微細な粒状の成分が強アルカリ電解水を含む水に含まれることがあるが特に問題はない。
【0021】
本発明においては、塗料ミストと強アルカリ電解水を含む水とを直接高速で接触させ衝突させて攪拌させる必要がある。
例えば、塗料ミストは排気フアン(吸引ファン)にて発生させた高速気流に捕集され、好ましくは秒速10m/秒以上の高速の気流に乗せられて強アルカリ電解水を含む水と直接高速で接触させ衝突させて攪拌させることにより、塗料ミストの分離が生じる。(図1参照)
塗料ミストは樹脂成分、溶剤及び樹脂成分中に混練された無機フィラーから構成されている微粒子であるが、塗装工程において被塗物に塗着しなかった余剰の塗料ミストは、塗装ブースの排気フアン(吸気フアン)(図1の8参照)によって作り出される気流(図1の16参照)に乗って撹拌混合部(図1の21参照)に引き寄せられ、この撹拌混合部で生じるより好ましくは30m/秒以上の高速気流の働きにより(尚、この際前記気流16は、狭い隙間3を通過する時に高速化されレイノルズ効果により乱流となるとともに負圧を発生させて前記強アルカリ電解水を含む水を吸い上げ上昇させる)、該塗料ミストと強アルカリ電解水を含む水とが直接高速で接触させ衝突させられることにより、強制撹拌混合が創出され、強アルカリ電解水を含む水は塗料ミストに強くアタックし、樹脂中から無機フィラーを放出させる。
この処理により樹脂成分は無機フィラーが抜けたことにより多孔質となり、いわゆるポーラスな浮遊状態となり樹脂相を形成する。また同時に金属化合物成分を含む無機フィラーは沈降分離し無機フィラー相とすることができる(図4の分離するメカニズムの想定図参照)。
これに対して、図2に示すような従来行われている有機溶剤系塗料の塗料ミストの処理方法、即ち、塗装ブース(湿式塗装ブース)の塗装ミスト処理装置において、水道水、工業用水、地下水などを循環水として蓄えたプールを用意し、そこに該循環水に吸収させた有機溶剤系塗料の塗料ミストを捕集する方法においては、該プールに本願発明で使用する強アルカリ電解水を添加しても、本願発明の「塗料ミストを強アルカリ電解水を含みPHが9以上でORPは+200mV以下に保たれた水に直接高速で接触させ衝突させる」の作用が存在しないので、塗料ミストは微細な塗料粒で混濁した状態のスラッジ状となり、このスラッジは樹脂相と無機フィラー相が混じり合った状態のスラッジが得られるだけである。
【0022】
次に強アルカリ電解水について述べる。
本発明に使用する通常の強アルカリ電解水生成機で得られる強アルカリ電解水のORPは約-960mVであるが-960mV以下であっても良い。
強アルカリ電解水は水と電気によって製造(生成)され、原理・製法は広く公開されていて周知の技術である。
強アルカリ電解水を生成する際に用いる電解質として好適な電解質は炭酸カリウム溶液である。炭酸カリウムを電解質として使用するが、生成された強アルカリ電解水には炭酸カリウムは含まれない。化学合成物質を全く含まれないためBOD(生物化学的酸素要求量)、COD(化学的酸素要求量)、N-ヘキサン(油含有量)、SS(浮遊性物質)の値はゼロである。
【0023】
本発明に使用する強アルカリ電解水は、その特徴として電子を多量に持った溶液で強力な分子間引力(電子剥離作用)が有り、その作用によって殺菌効果を有し、また溶存水素量が多く溶存酸素量は少ないため電解水自身の腐敗を防止し消臭作用がある。
溶存酸素量が純水の1/10以下であるところから、金属表面に不動態皮膜を形成し、金属の腐食を抑制する効果がある。
【0024】
本発明に使用する強アルカリ電解水は表1の様な特性を持つ。
【表1】

【0025】
次に、本願発明の特徴である「有機溶剤系塗料スプレーミストを強アルカリ電解水を含みPHが9以上でORPは+200mV以下に保たれた水に直接高速で接触させ衝突させ」について更に詳しく述べる。
本発明で用いる「有機溶剤系塗料スプレーミストを高速気流に乗せて強アルカリ電解水を含みPHが9以上でORPが+200mV以下に保たれた水に直接高速で接触させ衝突させ」の目的は、塗料用樹脂及び無機フィラーが混錬されて溶剤に分散された塗料スプレーミストの粒子20を、電子を多量に持った強アルカリ電解水を含む水のシャワーゾーンを通過させ(図3・33参照)、もしくは好ましくは高速で撹拌混合し接触の頻度を増すことにより(図1・21参照)、塗料スプレーミストの各粒子に電気的剥離作用がくまなく働くことにより溶剤分を剥離放出し、さらに樹脂及び金属化合物の無機フィラーとの間に電気的反発力が生じ、樹脂と無機フィラーは剥離する(図4参照)。
【0026】
剥離・離脱した樹脂と無機フィラーは、樹脂は比重が小さく浮遊して樹脂相45となり、金属化合物の無機フィラーは比重が大きいため沈降して無機フィラー相47となり分離する(図4?5参照)。
【0027】
分離槽9では循環水中の塗料スラッジは、比重差により浮遊するものと沈殿するものに分離できる(図1、3参照)。
無機フィラーは分離した後、金属が持つ分子間電位の影響により引き合い0.1?3mm程度の粒状に成長し安定する。
【実施例】
【0028】
以下本発明の態様を実施例で示すが、説明した実施形態は本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、下記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0029】
以下、本発明の実施形態を図1?5に基づいて説明する。
【実施例1】
【0030】
図1において塗装ブース17に併設される塗料ミスト処理装置は、大きくは循環水12(即ち、強アルカリ電解水を含みPHが9?12でORPは+200mV?900mV(該PHとORPは循環水12の測定位置に応じて変化する)に保たれた水)を貯えた貯留槽1とスクラバー(空気と水の分離装置)2と分離槽9から構成されている。
【0031】
塗装ブース(湿式塗装ブース)17の構造は、被塗物18向かって塗装ガン19より溶剤系塗料(アクリル樹脂系塗料に更に薄め液を添加し、粘度カップで計量しながら10秒程度に調整して得た塗料)を噴霧し、塗装を行った。
排気フアン(吸気フアン)8より空気を排気することでスクラバー2の中は負圧になり、スクラバー2の下端部5と循環水12の水面とで形成される僅かな隙間3を通して矢印で示す高速の空気流が生じる。
【0032】
塗装を行う時に生じる塗料ミストの余剰分はこの気流に乗り、スクラバー2の下端部5と循環水12の水面とで形成される僅かな隙間3からスクラバー2に引き込まれ(このとき、上記気流は上記僅かな隙間3を通過する際10メートル/秒以上に達する高速気流となる)、その隙間3近傍に設けた反射板6(又は、断面が円弧状の渦巻き板)により形成された撹拌混合部21で、10メートル/秒以上に達するスピードの高速気流と循環水12と塗料ミスト20とがその反射板6(又は、断面が円弧状の渦巻き板)に沿い強烈に回転しながら強制撹拌混合される。
【0033】
さらに高速気流に運ばれた混合循環水12は、スクラバー2内のエリミネーター(衝突板)4に衝突し、勢いが衰え、塗料ミスト20を捕集した循環水12は水滴となって落下し、スクラバー2の落とし口7から分離槽9に流れる。その工程の間に大部分の溶剤分は排気フアン(吸気フアン)8によって大気に排気放出される。
【0034】
分離槽9には堰10が設けられている。堰10は水槽1の底に取り付けられ、上部は水面より水深の1/4程没している。そのため沈降した無機フィラー相のスラッジ47(図4?5参照)は水流が堰10に遮られてその手前に集まり、浮上した樹脂相45(図4?5参照)は流れに乗って分離槽9の内壁面に集まる。
【0035】
分離槽9の下流には貯留槽1と連通する配管11を経由して前記貯留槽1に戻り再度捕集用循環水12とする。
【0036】
分離槽9では、沈降体に変性した無機フィラー相47は堰10に、浮遊体に変性した樹脂相45(図4?5参照)は分離槽9の内壁面に留まり堆積するので、それを自動もしくは手動にて排出する。
【0037】
図1では、撹拌混合部21で強制撹拌混合作用が順調に創出されるために、貯留槽1の循環水12の水面を制御し上記隙間3を調整し、併せて循環水12のPHとORPを調整するため、強アルカリ電解水生成機13から強アルカリ電解水41を適宜供給している。
【0038】
また、図4に示すように、有機溶剤系塗料ミスト40の強アルカリ電解水41を含む水(即ち、循環水12)による主たる分離メカニズムについては、以下のように考えられる。
1)有機溶剤系塗料ミスト40中の無機フィラー44が強アルカリ電解水41を含む水(即ち、循環水12)のアタックを受け、塗料中から析出され沈殿物となる。
2)強アルカリ電解水41のアタックを最も受けやすい無機フィラー44はチタン成分(酸化チタン)である。
【0039】
析出した無機フィラー44部分は空隙部46となり比重が小さくなり、樹脂相は浮遊45し無機フィラー相は沈降47する。すなわち分離が容易となる。
【0040】
本発明者が前記、段落0029から0039で説明した通りに図1構造の塗装ブース17に併設される塗料ミスト処理装置を使って塗料ミストを捕集した後、スクラバー2の落とし口7近傍より採取した循環水12を観察したところ、ほぼ数時間以内に塗料樹脂相45と無機フィラー相47に分離している事が観察された。(図5参照)
【0041】
沈殿物(無機フィラー相)47及び浮遊物(樹脂相)45を分析したところチタン、アルミ、バリウムなどの成分が確認された。表2は塗料スラッジ(無機フィラー相、樹脂相)の含有金属測定値である。
【表2】

【0042】
また、図1では、本発明の強アルカリ電解水41を含む水を用いるので貯留槽中1の循環水12は腐敗が発生せず、周辺環境に悪臭を拡散することがなく、よりよい作業環境及び周辺環境を提供することができ、クローズドなシステムが可能となり、年間を通して循環水12の交換を必要としなくなり経費負担は減少した。
【0043】
図4では、強アルカリ電解水41を含む水を用いると、これが有機溶剤系塗料ミスト40に強くアタックし、樹脂43中から無機フィラー44を放出させる。この処理により樹脂相43と無機フィラー相44が分離するとき、繋がっていた粘性質も分断するため泡立ちも減少しスラッジの粘度も減少する。
このため最終処分までのハンドリング時に粘性、泡立ちで悩む事が少なくなった。
【実施例2】
【0044】
図3に示すシャワー式塗料ミスト処理装置を用いる以外は実施例1と同様にして、塗料ミスト20と循環水12のシャワー29を高速撹拌混合して、実施例とほぼ同様に樹脂相と無機フィラー相とを分離回収した。
[比較例1]
【0045】
実施例1において、強アルカリ電解水41を含む水の代わりに一般市水(PH6.5、ORP+680mVであった)を用いる以外は実施例1と同様にして実験したところ、有機溶剤系塗料ミスト40は浮遊物と沈殿物に分離しなかった。(図6参照)
【0046】
また、一般市水を用いた場合、一般市水は数週間で腐敗が始まり、さらに凝集剤のような薬剤を使っても腐敗の進行の歯止めにはほとんどならない。
さらには、樹脂分の多い塗料では、循環水と接触すると泡立ち現象が発生しやすく、それを防止するため薬剤(消泡剤)を投入し泡立ちを抑える事が必要であった。そのため循環水を年間3回ないし4回の交換を必要とし、特に夏季の気温や湿度の高い季節では腐敗の進行が早く、排水設備の完備していない企業では産業廃棄物処理業者に委託しなければならず、大きな経費負担になっている。
[比較例2]
【0047】
図2に示す有機溶剤系塗料ミスト20の処理方法において、水槽1の循環水12として実施例1で用いた「強アルカリ電解水を含みPHが9?12でORPは+200mV?-900mVに保たれた水」を用いて、有機溶剤系塗料ミスト20の処理を行ったが、回収された塗料ミスト20は微細な塗料粒で混濁した状態のスラッジ状で、このスラッジは樹脂相43と無機フィラー相44が混じり合った状態のスラッジであった(図4・6参照)。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、一般塗装に用いられる有機溶剤系塗料の塗料ミストから、樹脂相と無機フィラー相を直接別々に分離回収する用途に用いることができる。
【符号の説明】
【0049】
1 貯留槽
2 スクラバー
3 隙間
4 衝突板
5 下端部
6 反射板
7 落とし口
8 排気フアン(吸気フアン)
9 分離槽
10 堰
11 配管
12 循環水
13 強アルカリ電解水生成機
14 原水
15 スラッジ
16 空気流
17 塗装ブース
18 被塗物
19 塗装スプレーガン
20 塗料ミスト
21 混合撹拌部
22 水幕板
23 ポンプ
24 樋
25 凝集剤
26 フィルター
27 空気流
28 シャワーノズル
29 シャワー
30 エリミネータ
31 ダクト
32 ケーシング
33 シャワーゾーン
40 塗料ミスト
41 強アルカリ電解水を含む水
42 強制撹拌混合
43 樹脂相
44 無機フィラー
45 浮遊した樹脂相
46 空隙
47 沈降した無機フィラー相
48 容器
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤系塗料スプレーミストの捕集を行う方法において、有機溶剤系塗料スプレーミストを強アルカリ電解水を含みPHが9以上でORPは+200mV以下に保たれた水に直接10m/秒以上で接触させ衝突させて該スプレーミストを捕集する工程と、引き続きこの該スプレーミストが捕集された強アルカリ電解水を含む水から生成した固形分を分離する工程を含み、前記固形分が、沈殿した金属化合物を主成分とする無機フィラー相、及び浮遊した塗料用樹脂を主成分とする相からなることを特徴とする有機溶剤系塗料スプレーミストの処理方法。
【請求項2】
前記固形分を分離した強アルカリ電解水を含む水にPHが9.5以上でORPは-960mVから0mVである強アルカリ電解水を添加して、前記PHが9以上でORPは+200mV以下に保たれた水として用いることを特徴とする、請求項1記載の有機溶剤系塗料スプレーミストの処理方法。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記添加する強アルカリ電解水がPH11から14、ORPが-960mVから-200mVであることを特徴とする請求項2記載の有機溶剤系塗料スプレーミストの処理方法。
【請求項5】
有機溶剤系塗料スプレーミストを10m/秒以上の気流に乗せて強アルカリ電解水を含みPHが9以上でORPが+200mV以下に保たれた水に直接10m/秒以上で接触させ衝突させて強制撹拌混合させ、該有機溶剤系塗料スプレーミストを、浮遊する塗料用樹脂を主成分とする相と沈殿する金属化合物を主成分とした無機フィラー相とに分離することを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の有機溶剤系塗料スプレーミストの処理方法。
【請求項6】
前記固形分を分離した強アルカリ電解水を含む水を循環させ再利用することを特徴とする請求項1記載の有機溶剤系塗料スプレーミストの処理方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2016-03-09 
結審通知日 2016-03-11 
審決日 2016-03-30 
出願番号 特願2012-509415(P2012-509415)
審決分類 P 1 113・ 832- YAA (B01D)
P 1 113・ 121- YAA (B01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮崎 大輔  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 千葉 成就
蓮井 雅之
登録日 2013-06-14 
登録番号 特許第5286580号(P5286580)
発明の名称 塗料スプレーミストの処理方法  
代理人 永井 浩之  
代理人 中村 行孝  
代理人 アイアット国際特許業務法人  
代理人 アイアット国際特許業務法人  
代理人 小島 一真  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 永井 浩之  
代理人 朝倉 悟  
代理人 中村 行孝  
代理人 朝倉 悟  
代理人 柏 延之  
代理人 小島 一真  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 柏 延之  
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