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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A01B
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A01B
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A01B
審判 全部無効 特174条1項  A01B
管理番号 1318316
審判番号 無効2015-800012  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-01-15 
確定日 2016-05-30 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5364783号発明「畦塗り機」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5364783号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。 特許第5364783号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第5364783号(以下「本件特許」という。)の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の特許を無効とすることを求める事件であって、手続の経緯は、以下のとおりである。

平成23年12月28日 本件出願(特願2011-288514号、平成18年 8月11日に出願した特願2006-219185の一部を新たな特許出願としたもの)
平成24年 5月10日 本件公開(特開2012-85651号)
平成25年 9月13日 設定登録(特許第5364783号)
平成27年 1月15日 本件無効審判請求
平成27年 4月 3日 被請求人より答弁書及び訂正請求書提出
平成27年 5月 8日 請求人より審判事件弁駁書提出
平成27年 6月16日 審理事項通知書(起案日)
平成27年 7月15日 請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成27年 7月15日 被請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成27年 7月29日 口頭審理
平成27年 9月29日 審決の予告(起案日)
平成27年12月 4日 被請求人より訂正請求書及び上申書提出
平成28年 1月 8日 請求人より審判事件弁駁書提出

第2 訂正請求
1 訂正請求の内容
被請求人が平成27年12月4日に提出した訂正請求(以下「本件訂正」という。)は、特許請求の範囲について、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、請求項ごとに訂正することを請求するものであって、次の事項をその訂正内容とするものである(下線は、訂正箇所を示す。)。
なお、平成27年4月3日に提出された訂正請求書は、本件訂正がなされたため、特許法第134条の2第6項の規定により、取り下げたものとみなされる。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、
「装着部に」
とあるのを、
「連結フレーム及び前記連結フレームに接続されるヒッチフレームを含む装着部に、」
に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1において、
「作業部が走行機体幅方向に移動可能に支持されたオフセット機構を介して走行機体幅方向に移動可能に支持され」
とあるのを、
「作業部が、走行機体幅方向に移動可能に支持されて前端側が前記ヒッチフレームに回動自在に連結された複数の部材から構成されるオフセット機構を介して、走行機体幅方向に移動可能に支持され」
に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1において、
「前記オフセット機構の前側上方に配置された状態で」
とあるのを、
「収納状態において前記オフセット機構の前側上方に配置された状態で」
に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1において、
「前記装着部に取り付けられている」
とあるのを、
「前記装着部のうち前記ヒッチフレームに取り付けられており、前記タンクの荷重が前記オフセット機構に作用しない」
に訂正する。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 本訂正事項1は、訂正前の「装着部」に係る構成を、「連結フレーム及び前記連結フレームに接続されるヒッチフレームを含む」と特定するものであって、訂正前の請求項1に記載された発明と訂正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。

イ そして、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)には、「装着部10は、左右方向に延びるヒッチフレーム12と、ヒッチフレーム12の前側に取り付けられて走行機体90の後部に設けられた三点リンク連結機構に連結可能な図示しない連結フレームとを有してなり、ヒッチフレーム12の中央下部に取り付けられたギアボックス11内に前述した入力軸11aが設けられている。」(【0013】)との記載があるから、本件特許明細書には、「装着部」が「連結フレーム及び前記連結フレームに接続されるヒッチフレームを含む」ことが記載されているものと認められる。

ウ したがって、本訂正事項1は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
ア 本訂正事項2は、訂正前の「オフセット機構」に係る構成を、「前端側が前記ヒッチフレームに回動自在に連結された複数の部材から構成される」と特定するものであって、訂正前の請求項1に記載された発明と訂正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。

イ そして、本件特許明細書には、「オフセット機構20は、前端側をヒッチフレーム12に回動自在に連結されて後方側へ延びるオフセットフレーム21と、オフセットフレーム21の左側に沿って並設されて前端側がヒッチフレーム12の左側端部に回動自在に連結されたリンク部材25とを有してなる。リンク部材25の後端側は、オフセットフレーム21の後端部に回動自在に設けられた連結部23に繋がる連結アーム部材23aに回動自在に取り付けられている。オフセット機構20は、オフセットフレーム21、リンク部材25、ヒッチフレーム12及び連結アーム部材23aによって平行リンク機構を形成している。」(【0014】)、「オフセットフレーム21は、これとヒッチフレーム12との間に枢結された旋回シリンダ3の伸縮により左右方向に揺動可能である。」(【0015】)との記載があるから、本件特許明細書には、「オフセット機構」が「前端側が前記ヒッチフレームに回動自在に連結された複数の部材から構成される」ことが記載されているものと認められる。

ウ したがって、本訂正事項2は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

エ 請求人は、平成27年7月15日付け口頭審理陳述要領書において、「前記【0014】の「オフセット機構20は・・・・・・オフセットフレーム21と・・・・・・リンク部材25とを有してなる。」という記載および【図1】の図示内容からみて、本件特許明細書等には、「前端側がヒッチフレームに回動自在に連結された2つの部材(オフセットフレーム21およびリンク部材25)から構成されるオフセット機構」のみが記載されている。
換言すると、本件特許明細書等には、「前端側がヒッチフレームに回動自在に連結された3つ以上の部材から構成されるオフセット機構」の記載はなく、示唆すらない。
そうであるにも拘わらず、訂正事項2の「前端側が前記ヒッチフレームに回動自在に連結された複数の部材から構成されるオフセット機構」という記載は、「前端側かヒッチフレームに回動自在に連結された2つの部材から構成されるオフセット機構」に加え、「前端側かヒッチフレームに回動自在に連結された3つ以上の部材から構成されるオフセット機構」をも含むものである。
しかも、訂正事項2の「複数の部材」という記載では、本件特許明細書等に記載されたフレーム部材(オフセットフレーム21)やリンク部材(リンク部材25)には限定されず、いかなる形状や構造の部材であっても、その数が2つ以上であれば、「複数の部材」に該当することとなる。
したがって、本件訂正の訂正事項2は、本件特許明細書等に記載がなかった新たな技術的事項を追加導入するものであり、新規事項追加に該当するから、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項に適合するものではない。」と主張している。
しかしながら、本件特許明細書には、「リンク部材25の後端側は、オフセットフレーム21の後端部に回動自在に設けられた連結部23に繋がる連結アーム部材23aに回動自在に取り付けられている。オフセット機構20は、オフセットフレーム21、リンク部材25、ヒッチフレーム12及び連結アーム部材23aによって平行リンク機構を形成している。」(【0014】)、「オフセットフレーム21は、これとヒッチフレーム12との間に枢結された旋回シリンダ3の伸縮により左右方向に揺動可能である。」(【0015】)と記載されていることから、「オフセット機構20」がオフセットフレーム21及びリンク部材25以外にも、例えば、「連結アーム部材23a」、「旋回シリンダ3」等の部材も有すること、即ち、オフセット機構が3つ以上の部材から構成されることが示唆されているといえる。
また、訂正事項2は「オフセット機構」を構成する部材の数を限定する訂正であって、「複数の部材」がオフセット機構として機能する部材として、当業者が有する技術常識に基づいて、適宜の形状や構造の部材を採用できることは、本件特許明細書及び図面の記載から自明な事項である。
よって、請求人の上記主張は採用できない。

(3)訂正事項3について
ア 本訂正事項3は、訂正前の「前記オフセット機構の前側上方に配置された状態」に関して、「収納状態において」と特定するものであって、訂正前の請求項1に記載された発明と訂正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。

なお、被請求人は、「訂正前の請求項1に記載の特許発明では、「前記オフセット機構の前側上方」という「タンク」の配置について、オフセット移動可能な畦塗り機がどのような状態である場合の配置であるかが明瞭ではありませんでした。これに対して、訂正後の請求項1に記載の特許発明では、「収納状態において前記オフセット機構の前側上方に配置された状態で」とすることにより、畦塗り機が収納状態である場合における「タンク」の配置であることをより明瞭にするものです。以上より、当該訂正事項3は、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものです。」(訂正請求書3頁)と主張する。
しかしながら、訂正前の請求項1に記載された発明の「前記オフセット機構の前側上方」という「タンク」の配置について、オフセット移動可能な畦塗り機がどのような状態であった場合でもそのような配置であると解釈することができるので、オフセット移動可能な畦塗り機がどのような状態である場合の配置であるかが明瞭でなかったとはいえない。

イ そして、本件特許明細書の「畦塗り機の第1実施形態を図1(a)(平面図)及び図2(側面図)を用いて説明する。なお、図2は、畦塗り機を収納するときに用いられるキャスターを取り付けた状態の畦塗り機の側面図を示している。畦塗り機1は、図1(a)及び図2に示すように、走行機体90の後部に設けられた三点リンク連結機構(図示せず)に連結されて、走行機体90の前進動及び後進動に応じて畦塗り作業を行なうものである。」(【0012】)と記載されているとおり、図2は、畦塗り機を収納するときに用いられるキャスターを取り付けた状態の畦塗り機の側面図であり、この図2には、「収納状態において前記オフセット機構の前側上方に配置された状態」が記載されているものと認められる。

ウ したがって、本訂正事項3は、本件特許明細書及び図面に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項4について
ア 本訂正事項4は、訂正前の「装着部に取り付けられている」「タンク」に係る構成を、「装着部のうち前記ヒッチフレームに取り付けられており、前記タンクの荷重が前記オフセット機構に作用しない」と特定するものであって、訂正前の請求項1に記載された発明と訂正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。

イ そして、本件特許明細書には、「装着部10は、左右方向に延びるヒッチフレーム12と、ヒッチフレーム12の前側に取り付けられて走行機体90の後部に設けられた三点リンク連結機構に連結可能な図示しない連結フレームとを有してなり、ヒッチフレーム12の中央下部に取り付けられたギアボックス11内に前述した入力軸11aが設けられている。」(【0013】)、「ヒッチフレーム12に取り付けられたタンク61」(【0025】)、「タンク61内に水を満水状態に入れると、タンク61の重量は重くなるが、タンク61はヒッチフレーム12に取り付けられているので、タンク61の荷重がオフセット機構20に作用することはない。」(【0026】)との記載があるから、本件特許明細書には、「タンク」が「装着部のうち前記ヒッチフレームに取り付けられており、前記タンクの荷重が前記オフセット機構に作用しない」ことが記載されているものと認められる。

ウ したがって、本訂正事項4は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 本件訂正についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、結論のとおり、本件訂正を認める。

第3 本件訂正発明
上記第2のとおり、本件訂正が認められたので、本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件訂正発明1」という。)は、次に記載したとおりのものと認められる。

「走行機体の後部に装着される連結フレーム及び前記連結フレームに接続されるヒッチフレームを含む装着部に、畦塗り作業を行う作業部が、走行機体幅方向に移動可能に支持されて前端側が前記ヒッチフレームに回動自在に連結された複数の部材から構成されるオフセット機構を介して、走行機体幅方向に移動可能に支持され、該作業部は旧畦の一部を切り崩して土盛り作業を行う前処理体と、該前処理体によって前方に盛られた土を切り崩された旧畦上に塗り付けて新畦を形成する整畦体とを有して構成され、前記整畦体の表面に液体を供給する液体供給装置が設けられた畦塗り機であって、
前記液体供給装置は、前記液体を貯留するタンクを有し、
前記タンクは、収納状態において前記オフセット機構の前側上方に配置された状態で前記装着部のうち前記ヒッチフレームに取り付けられており、前記タンクの荷重が前記オフセット機構に作用しない
ことを特徴とする畦塗り機。」

第4 請求人の主張の概要及び証拠方法
請求人は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、証拠として、甲第1号証ないし甲第11号証を提出して、以下の無効理由を主張した。
なお、平成27年5月8日付け審判事件弁駁書を審判事件弁駁書(1)といい、また、平成28年1月8日付け審判事件弁駁書を審判事件弁駁書(2)という。
1 請求人が主張する無効理由の概要
(1)無効理由1
ア 本件訂正発明1は、当業者が、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明及び甲第7号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正発明1についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法123条第1項第2号に該当し、無効にされるべきものである。

イ 相違点1について(審判事件弁駁書(1)15?16頁)
(a)甲2発明は、「畦塗り機」に関するものであり、「整畦体の表面に液体を供給する液体供給装置が設けられた」という構成を有している。
そして、甲1発明および甲2発明は、いずれも畦塗り機の技術分野に属するものである。このため、甲1発明に甲2発明を適用することに、両発明が同一の技術分野に属する以上、動機付けがあり、その一方、その適用を妨げる阻害要因はない。

(b)また、甲第1号証には、【図1】等からみて、ノズル部44を整畦体よりも上方に配置することが記載されており、また、ノズル部44が液体を散布する際に所定の広がりをもって散布することやノズル部44の向きを調整可能とすることは技術常識である。このようなことから、甲第1号証には、ノズル部44から整畦体3の表面に液体を供給することが示唆されているといえる。
したがって、甲1発明において、「整畦体により整畦される土壌表面に液体を供給する液体供給装置」を、甲2発明の「整畦体の表面に液体を供給する液体供給装置」に置換して、相違点1に係る本件訂正発明1の構成にすることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。

ウ 相違点2について(審判事件弁駁書(1)17?18頁)
(a)甲2発明は、「タンクは、装着部のうちヒッチフレームに取り付けられている」という構成を有している。
そして、上述したとおり、甲1発明に甲2発明を適用することに、両発明が同一の技術分野に属する以上、動機付けがあり、その一方、その適用を妨げる阻害要因もない。

(b)甲第1号証には、【0020】の「液体タンク45を本体フレーム2上に設けている」との記載から、タンク(液体タンク45)を装着部のうちヒッチフレーム(本体フレーム2)に取り付けることが示唆されているといえる。
したがって、甲1発明において、甲2発明の前記構成の適用により、タンクを装着部のうちヒッチフレームに取り付けて、相違点2に係る本件訂正発明1の構成にすることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。

(c)付言すると、甲第1号証には、前記【0020】の「液体タンク45を本体フレーム2上に設けている」との記載から、タンクを装着部のうちヒッチフレームの上部に取り付けることが記載されているともいえる。そうすると、本件訂正発明1と甲1発明との対比において、上記相違点2は存在しない。
この点に関し、被請求人は、答弁書第7頁第9行ないし第15行において、「液体タンク45の向きが、これら各位置における整畦体3及び前処理体4の回動に伴い、整畦体3及び前処理体4を支持する支持フレーム13の長手方向と同じ方向になるように動き、液体タンク45と支持フレーム13の位置関係は変わっていない。このように、液体タンク45は支持フレーム13とともに動いていることから、液体タンク45が支持フレーム13に取り付けられていることは明らかである。」と主張している。
しかしながら、甲第1号証の図面([図2]、[図7]および[図11]を参照すると、確かに、液体タンク45は、支持フレーム13の回動に連動しているが、甲第1号証の明細書には、段落【0020】に「液体タンク45を本体フレーム2上に設けている」と記載されているのみであり、液体タンク45を支持フレーム13に取り付けることについての記載も示唆もない。
このようなことから、液体タンク45は、支持フレーム13の回動に連動するように、本体フレーム(ヒッチフレーム)2の上部に軸11を中心として回動自在に取り付けられた構成であるともいえる。
したがって、「液体タンク45が支持フレーム13に取り付けられていることは明らかである」という被請求人の主張は失当である。

(d)仮に、液体タンク45が支持フレーム13に取り付けられていたとしても、甲2発明の適用により、液体タンク45の取付位置を支持フレーム(オフセット機構)13から本体フレーム(ヒッチフレーム)2に変更することは、当業者にとって容易である。

エ 相違点3について(審判事件弁駁書(1)18?19頁)
(a)甲第7号証には、「畦塗り機」に関し、「前端側が本体フレーム2に回動自在に連結された2つのリンク5,6(平行リンク)から構成されるオフセット機構」を用いる構成が記載されている。
この甲第7号証の「本体フレーム2」は、本件訂正発明1の「ヒッチフレーム」に相当し、また、オフセット機構を構成する「2つのリンク5,6」は、本件訂正発明1の「複数の部材」に相当する。
このため、甲第7号証には、「前端側がヒッチフレームに回動自在に連結された複数の部材から構成されるオフセット機構」を用いる構成が記載されている。
そして、この甲第7号証に記載された構成は、甲1発明と同じ「畦塗り機」に関するものであるから、この構成を甲1発明に適用することに動機付けがある一方、その適用を妨げる阻害要因はない。
したがって、甲1発明において、「前端側がヒッチフレームに回動自在に連結された単一の部材から構成されるオフセット機構」に代えて、甲第7号証記載の前記構成の「前端側がヒッチフレームに回動自在に連結された複数の部材から構成されるオフセット機構」を用いることによって、相違点3に係る本件訂正発明1の構成にすることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。

(b)そもそも、甲第7号証記載の構成を適用するまでもなく、畦塗り機において、走行機体幅方向に移動可能なオフセット機構」を、「単一の部材」で構成するか、「複数の部材」で構成するかは、オフセット機構の強度を考慮して当業者が適宜選択する設計事項に過ぎず、相違点3に係る本件訂正発明1の構成に何ら困難性はない。

(2)無効理由2
ア 本件訂正発明1は、当業者が、甲第1号証に記載された発明、甲第7号証に記載された発明および周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正発明1についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法123条第1項第2号に該当し、無効にされるべきものである。

イ 相違点1について(審判事件弁駁書(1)21?22頁)
本件訂正発明1の(1)の構成(「整畦体の表面に液体を供給する液体供給装置が設けられた」)は、甲第2号証に加え、甲第3号証にも記載があり、本件特許出願前から既に畦塗り機の技術分野において周知技術である。

ウ 相違点2について(審判事件弁駁書(1)21?22頁、審判事件弁駁書(2)8?9頁)
(a)本件訂正発明1の(2)の構成(「タンクは、装着部のうちヒッチフレームに取り付けられている」)についても、甲第2号証に加え、甲第3号証ないし甲第5号証にも記載があり、本件特許出願前から既に畦塗り機の技術分野において周知技術である。

(b)甲1発明において、軸11,11は、本体フレーム2から上下に突設しており、この軸11,11に回動支持部材10が回動自在に支持されている。
そして、甲第1号証の図8をみると、上側の軸11が、液体タンク45にこの液体タンク45を支持する支持部材を介して接触していること、換言すると、上側の軸11が、液体タンク45を支持する支持部材の下面と接触していることがみてとれる。
また、甲第1号証の図2、図7及び図11をみると、液体タンク45が、回動支持部材10と支持フレーム13からなる構成(本件訂正発明1の「オフセット機構」に相当)の回動にともなって回動していることがみてとれる。
これらの記載事項からみて、甲1発明の液体タンク45は、回動支持部材10と支持フレーム13からなる構成(オフセット機構)の回動にともなって回動するものであるが、液体タンク45を支持する支持部材を介して上側の軸11に載置されているといえる。

(c)ここで甲第2号証および甲第4号証の記載事項からみて、畦塗り機においてヒッチフレームにタンクを取り付けることは、本件特許の原出願日前において周知の技術(以下「周知技術2」という。)である。
そして、甲1発明と周知技術2とは、ともにタンクを有する畦塗り機に関する技術で共通しており、また、甲1発明の「本体フレーム」、甲第2号証記載の「主枠2」および甲第4号証記載の「フレーム1」は、いずれもトラクタの三点リンクに連結される部材に連結された部材である点で共通しており、さらに、甲1発明の液体タンク45は、これを支持する支持部材を介して本体フレーム2に作用していると解される。
このようなことから、甲1発明において、液体タンク45を本体フレーム2上方に取り付けるに際し、周知技術2を採用して液体タンク45を支持部材を介して本体フレーム2に載置して固定し、液体タンク45の荷重をオフセット機構には作用させずに本体フレーム2に作用させて、相違点2に係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(d)またそもそも、甲第1号証には「液体タンク45を本体フレーム2上に設けている」ことが記載されており、液体タンク45はこれを支持する支持部材を介して上側の軸11に載置されていることが記載されているから、甲1発明は、液体タンク45の荷重がオフセット機構に作用しないように、「液体タンク45」が支持部材を介して「本体フレーム2」自体に載置されるものであるといえ、相違点2は実質的な相違点ではない。

(3)無効理由3(審判請求書32頁、審判事件弁駁書(1)22?23頁)
ア 平成23年12月28日付け手続補正書による補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないものである。

イ 出願当初の【請求項1】に「前記整畦体の表面に液体を間欠的に供給可能な液体供給装置」とあったのを、「前記整畦体の表面に液体を供給する液体供給装置」とすることにより、「間欠的に供給可能な」という事項が削除されたが、この削除補正は、本件の当初明細書等に記載した事項の範囲内のものではなく、またその記載から自明な事項でもない。
本件訂正特許請求の範囲の【請求項1】における「前記整畦体の表面に液体を供給する液体供給装置」という記載は、「液体を間欠的に供給可能な液体供給装置」に加え、「液体を間欠的に供給できず、液体を常に連続的に供給する液体供給装置」をも含むものである。
しかしながら、本件の当初明細書等には、「液体を間欠的に供給可能な液体供給装置」のみが記載されているに過ぎない。
したがって、平成23年12月28日付け手続補正書による前記削除補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないものである。

ウ 被請求人は、答弁書第21頁第3行ないし第15行において、本件の当初明細書等には「間欠時間をゼロとする連続状態」について記載されているから、補正要件違反ではないと主張している。
しかしながら、この「間欠時間をゼロとする連続状態」は、「液体を間欠的に供給可能な液体供給装置」において、間欠時間がゼロとなるように、操作スイッチの操作によって設定指示される状態である。つまり、「間欠時間をゼロとする連続状態」についての記載は、「液体を間欠的に供給可能な液体供給装置」を前提としたものである。
したがって、被請求人の前記主張は失当である。

(4)無効理由4(審判請求書32頁、審判事件弁駁書(1)22?23頁)
ア 無効理由3のとおり、平成23年12月28日付け手続補正書による補正は特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、同様の理由により、本件特許の分割出願の実質的要件(分割要件)を満たしていないから、その出願日は原出願時に遡及しない。

イ したがって、本件訂正発明1は、本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第6号証(原出願の公開公報)に記載された発明と同一(実質的に同一)である。
また仮に同一でないとしても、本件訂正発明1は、甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)無効理由5(審判請求書33頁、審判事件弁駁書(1)24?25頁)
ア 本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件(特許法施行規則第24条の2)を満たしていないものである。

イ 本件訂正特許請求の範囲の【請求項1】には「前記タンクは、収納状態において前記オフセット機構の前側上方に配置された状態で前記装着部のうち前記ヒッチフレームに取り付けられている」と記載されているが、「タンクを収納状態においてオフセット機構の前側上方に配置すること」により、どのような技術的意義があるのかが、本件明細書の発明の詳細な説明の記載等を考慮しても理解することができない。
したがって、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は、経済産業省令で定めるところにより当業者が本件訂正発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件(特許法施行規則第24条の2)を満たしていないものである。

ウ 被請求人は、答弁書第24頁第13行ないし第23行において、「上述したように、本件訂正発明1は、その発明の詳細な説明の記載から分かるとおり、散水装置のタンクが『収納状態において前記オフセット機構の前側上方に配置された状態で前記装着部のうち前記ヒッチフレームに取り付けられている』という構成を備えることにより、タンクの荷重がオフセット機構に作用することがないため、タンクの重量に対してオフセット機構の強度をさらに強化する必要性がなく、重量及びコストの増大を防止することができ、また畦塗り機の重量の増大によって、畦塗り機を牽引する走行機体が限定される事態を防止することができる([0026])という優れた効果を奏する。このように、本件訂正発明1の発明の詳細な説明の記載から、本件訂正発明1の技術的意義は容易に理解できる。」と主張している。
しかしながら、【0026】には、「タンク61はヒッチフレーム12に取り付けられているので、タンク61の荷重がオフセット機構20に作用することはない。このため、オフセット機構20の強度を強化する必要性がなく、重量及びコストの増大を防止することができ、また畦塗り機の重量の増大によって、畦塗り機を牽引する走行機体が限定される事態を防止することができる。」と記載されており、この記載は「タンクを装着部のうちヒッチフレームに取り付けること」の技術的意義に関する記載である。
したがって、被請求人の前記主張は失当である。

(6)無効理由6(審判請求書34?35頁、審判事件弁駁書(1)25?27頁)
ア 本件訂正特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号および第2号に規定する要件を満たしていないものである。

イ 本件訂正特許請求の範囲の【請求項1】における「前記整畦体の表面に液体を供給する液体供給装置」という記載は、「液体を間欠的に供給できず、液体を常に連続的に供給する液体供給装置」を含むものであるが、本件訂正明細書の発明の詳細な説明には、「液体を間欠的に供給可能な液体供給装置」のみが記載されているに過ぎない。このため、本件訂正発明1は、本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載したものではない。
したがって、本件訂正特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものである。

ウ 本件訂正特許請求の範囲の【請求項1】に記載された「前記タンクは、収納状態において前記オフセット機構の前側上方に配置された状態」とは、「複数の部材から構成されるオフセット機構」と「装着部のうちヒッチフレームに取り付けられたタンク」との位置関係が具体的に収納状態でどのような状態になっていることを意味するのか、本件訂正明細書の発明の詳細な説明には何ら記載がなく、明らかでない。このため、本件訂正発明1は、明確ではない。

エ 本件訂正明細書の【0010】の「【図3】本発明の第2実施形態に係わる畦塗り機を示し」との記載、【0040】の「水供給装置60のタンク61は、後フレーム76に取り付けられ」との記載、および【0041】の「タンク61をオフセット機構75の後フレーム76に取り付ける」との記載等から、本件訂正明細書には、「タンクがオフセット機構の後方に配置された状態」のものまでが、本件訂正発明1の実施形態として記載されている。このため、本件訂正発明1は、明確ではない。

オ 本件訂正明細書には、【0008】に「このような課題を解決するため、本発明は、以下の特徴を有する。特徴の一つは、走行機体の後部に装着される装着部に畦塗り作業を行う作業部が走行機体幅方向に移動可能に支持されたオフセット機構を介して走行機体幅方向に移動可能に支持され、該作業部は旧畦の一部を切り崩して土盛り作業を行う前処理体と、該前処理体によって前方に盛られた土を切り崩された旧畦上に塗り付けて新畦を形成する整畦体とを有して構成され、整畦体の表面に液体を供給する液体供給装置(例えば、実施形態における水供給装置60,除草剤散布装置72,82)が設けられた畦塗り機であって、液体供給装置は、液体を貯留するタンクを有し、タンクは、オフセット機構の前側上方に配置された状態で装着部に取り付けられていることを特徴とする。」と記載され、【0009】に「本発明に係わる畦塗り機によれば、前述の特徴を有することで、畦が粘土質である場合でも良好な畦の整形ができ、畦の土質や水分状態に応じた液体散布量の調整を行って液体供給装置の長時間使用を可能にすることができ、液体散布量を少なくしても整畦体に供給される液体の範囲が狭くならない畦塗り機を提供することができる。」と記載されている。
しかしながら、上記【0008】に記載された特徴(タンクは、オフセット機構の前側上方に配置された状態で装着部に取り付けられていること)と、上記【0009】に記載された作用効果とは、全く結びつかない。また、上記【0008】の記載は、本件訂正特許請求の範囲の記載と整合していない。
このようなことからも、本件訂正発明1は、明確ではない。

カ したがって、本件訂正特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものである。

2 証拠方法
請求人が提出した甲号証は、以下のとおりである。
甲第1号証:特開平10-4707号公報
甲第2号証:特開平8-56403号公報
甲第3号証:特開平11-28005号公報
甲第4号証:特開2001-333604号公報
甲第5号証:特許第3457500号公報
甲第6号証:特開2008-43211号公報
甲第7号証:特開2001-28903号公報
甲第8号証:特開2004-121262号公報
甲第9号証:特開平10-4706号公報
甲第10号証:平成26年(ワ)第33271号の準備書面(2)
甲第11号証:特開2005-102608号公報

第5 被請求人の主張の概要及び証拠方法
被請求人は、答弁書を提出し、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、証拠として、乙第1号証ないし乙第3号証を提出して、請求人の無効理由に対して以下のとおり反論した。
1 無効理由1に対して
(1)相違点1について(答弁書12頁、口頭審理陳述要領書7?9頁)
ア 甲2発明にはそもそも本件訂正発明1における「オフセット機構」に相当する機構が存在しない。具体的には、甲2発明には畦塗り体39及びロータリー21を装着部に対して左右方向に揺動させるための機構は存在せず、単に、畦塗り体39に設けられた左右方向の連結体41を、回転軸38に設けられる複数の連通孔38aのいずれかの所定位置で固定することによって、畦塗り体39の固定位置をわずかに軸方向(左右方向)に調節可能というだけである(甲2[0020]、[0021]、[0026]、図4)。
このように、甲2発明はそもそもオフセット機構に対するタンクの相対的な配置について開示するものではないため、甲2発明には、タンクの荷重がオフセット機構に作用する場合に、オフセット機構の強度を強化する必要性があり、重量及びコストが増大し、畦塗り機の重量の増大によって、畦塗り機を牽引する走行機体が限定される(訂正明細書[0026])という本件訂正発明1の課題が存在しない。また、上記課題は自明ではなく当業者が容易に着想し得る課題でもない。

イ 甲第1号証には「整畦体3により整畦される土壌表面に対して液体(水)を散布するノズル部44」([0020])と土壌表面に対して液体(水)を散布する構成が明記されている反面、これと異なる方向に液体(水)を散布する構成は記載も示唆もされておらず、ノズル部44の向きが変更可能であるという構成も記載されていない。
請求人は、甲第1号証の[図1]に、ノズル部44を整畦体よりも上方に配置することが記載されていることを指摘する(弁駁書16頁)が、ノズル部44を整畦体よりも上方に配置することは、土壌表面に対して液体(水)を散布する甲2発明の構成として自然な配置であるから、当該配置が記載されていることによって、ノズル部から整畦体の表面に液体を供給することが示唆されていると解釈することはできない。
同様に、仮にノズル部44が液体を散布する際に所定の広がりを持って散布することや、ノズル44の向きを調節可能とすることが技術常識であると判断されたとしても、甲第1号証には「整畦体3により整畦される土壌表面に対して液体(水)を散布するノズル部44」([0020])と明記されており、これと異なる方向に液体を散布することについては記載も示唆もされていない以上、甲第1号証にノズル部から整畦体の表面に液体を供給することが示唆されていると解釈することはできない。
したがって、甲1発明に甲2発明を組み合わせて本件訂正発明1に想到する動機づけが存在しない。

(2)相違点2について(答弁書12?13頁、口頭審理陳述要領書9?13頁)
ア 甲2発明の「スタンド58」は甲第2号証に記載の「水タンク61」が載置固定される「載置板59」を支持するための部材であるから、本件訂正発明1において、オフセットフレーム21、リンク部材25及び連結アーム部材23aとともに平行リンク機構を形成し、オフセット機構を回動自在に支持する「ヒッチフレーム12」に含まれる部材ではない。
したがって、「甲2発明は、「タンクは、装着部のうちヒッチフレームに取り付けられている」という構成を有している」との請求人主張には理由がない。
また、甲2発明にはそもそも本件訂正発明1における「オフセット機構」に相当する機構が存在しないため、甲1発明に甲2発明を組み合わせて本件訂正発明1に想到する動機づけが存在しない。

イ 請求人の主張の根拠とする甲1の段落[0020]には、「液体タンク45を本体フレーム2上に設けている。」との記載しかなく、当該記載からは、液体タンク45が本体フレーム2に「取り付けられている」ものとは読み取れない。「上に設ける」ことは、「取り付け」ることとは異なる。むしろ、甲第1号証の液体タンク45は支持フレーム13に取り付けられていると解する他ないこと(下記ウ)からすれば、本体フレーム(ヒッチフレーム)2に取り付けられた構成と解することはできない。したがって、液体タンク45が本体フレーム2に取り付けることが甲1に示唆されているとの請求人主張には理由がない。

ウ 甲1明細書中で本体フレーム2に固着されていると明記されている「支持板36」([0018])は、作業部の回動に連動せず常に一定の位置にある([図4]と[図5]参照)。一方、甲1明細書中で支持フレーム13に固着されていると明記されている「回動支持部材10」([0013])は作業部の回動に伴って移動する([0010])。答弁書7頁1行?8頁において述べたとおり、液体タンク45は作業部の回動に伴い移動する([図2]、[図7]及び[図11])。そうすると、この液体タンク45も、回転支持部材10と同様に、支持フレーム13に取り付けられていると解する他ない。
この点については、回動支持部材10のみならず、フック部40、係合ピン37a?37cの動きに着目することより、さらに明らかとなる。
すなわち、甲1発明において、整畦体3及び前処理体4がオフセットされた通常作業位置から、直角旋回位置及び180度旋回作業位置にそれぞれ係止し、また、離脱する係止機構を可能とする構成は、[0018]に記載されているように、「フック部40」が、「支持板36」にそれぞれ突設された係合ピン37a,37b,37cに対して選択的に係合、離脱することにより実現されている。
このように、係合ピン37a,37b,37cが突設された「支持板36」は、「本体フレーム2の上部及び下部に固着され」([0018])ている。
一方、「回動支持部材10」は「本体フレーム2から上下に突設した軸11,11を介して左右方向に回動自在に支持され、この回動支持部材10の鉛直部分に、整畦体及び前処理体4を支持し伝動軸12を内装した支持フレーム13の先端部が固着されている」([0010])。
そして、答弁書8頁の図及び甲1の図4、図5から明らかなように、「支持フレーム13」及び「タンク45」のみならず、左右両側に設けられた出力側クラッチ9,9と選択的に接断操作する「入力側クラッチ41」([0017])及び「フック部40」の向きも、作業部の回動に連動するように移動している。
これに対して、本体フレーム2の上部及び下部に固着された「支持板36」及び支持板36にそれぞれ突設された「係合ピン37a,37b,37c」([0014])の位置は、本体フレーム2と同様に作業部の回動に連動せず常に一定である。
これらの記載から、甲第1号証には、本体フレーム(ヒッチフレーム)2の上部に軸11を中心として回動自在に取り付けられた構成である「回動支持部材10」は、その先端部が回動支持部材10に固着されている「支持フレーム13」と同様に作業部の回動に伴って移動するのに対して、本体フレーム2に固着された構成である「支持板36」及び支持板36にそれぞれ突設された「係合ピン37a,37b,37c」は、作業部の回動に連動せず常に一定であることは明らかである。
そうすると、作業部の回動に伴って移動している「タンク45」も、「回動支持部材10」と同様に、作業部の回動に伴って移動する「支持フレーム13」に固着されていると解する他ない。

(3)相違点3について(口頭審理陳述要領書14?16頁)
ア 甲第7号証に記載の畦塗り機は液体供給装置を有しない畦塗り機であって、甲第7号証には畦塗り作業中に液体を散布することについても記載も示唆もされていない。このように甲第7号証にはそもそも液体供給装置が記載されていないのであるから、当然ながらタンクを有することやタンクの設置位置についても記載も示唆もされていない。
甲7発明には、タンクの荷重がオフセット機構に作用する場合に、オフセット機構の強度を強化する必要性があり、重量及びコストが増大し、畦塗り機の重量の増大によって、畦塗り機を牽引する走行機体が限定される(訂正明細書[0026])という本件訂正発明1の課題が存在しない。また、上記課題は自明ではなく当業者が容易に着想し得る課題でもない。
また、甲1発明では、上述したようにタンクが本件訂正発明1の「オフセット機構」に相当する「支持フレーム13」に取り付けられているため、まさにタンクの荷重がオフセット機構に作用するという課題が生じる構成を開示するものであり、本件訂正発明1の課題の課題はまったく認識されていない。
したがって、当業者であっても、甲1発明に甲7発明を組み合わせて本件訂正発明1に容易に想到することはできない。

イ オフセット機構は畦塗り機を構成する主要部である作業部を左右幅方向に大きく移動させるための機構であって、単一の部材からなるオフセット機構と、平行リンク機構のような複数の部材からなるオフセット機構とではオフセット動作や機構の構造が大きく異なるため、オフセット機構の構成を変更することによって、畦塗り機を構成する他の部材の具体的構成や配置、動力伝達機構など多岐にわたって様々な変更が必要となる。
また、オフセット機構を単一部材で構成すると、オフセット機構の揺動に伴って作業部の向きが大きく変化してしまうため、作業部の向きを修正するためにさらに別の構成が必要になるのに対して、本件訂正発明1のようにオフセット機構を複数の部材で構成し、複数の部材が略平行にリンクして移動するように構成すると、本件明細書[0018]に記載されているように、「回動リンク機構32を介して連結部23に繋がるフレーム部41が左右方向に平行状態に維持されたままでオフセット移動する」ため、オフセット機構を揺動させても作業部の向きを維持することができるので、作業部の向きを修正するための別の構成が不要になるという作用効果を奏する。
さらに、答弁書19頁3?6行等で主張しているように、本件訂正発明1は、複数の部材によってリンク機構を形成するオフセット機構(訂正明細書[0014])を備えることにより、オフセット機構が単一の部材から構成される場合に当該単一の部材に重量や作業負荷が集中するという不具合を回避し、単一の部材から構成されるオフセット機構よりも強い強度を実現するという本件訂正発明1の構成から明らかな効果を有する。
したがって、オフセット機構を複数の部材で構成することが設計事項であるとは到底いえない。

2 無効理由2に対して
(1)相違点1について(口頭審理陳述要領書18頁)
甲第2号証及び甲第3号証の2件の公知文献に記載されているというだけでは周知技術であるとはいえない。

(2)相違点2について(口頭審理陳述要領書18?19頁、平成27年12月4日付け上申書3?7頁)
ア 甲第3号証の明細書中には「タンク26」がどこに取り付けられるかについて明記されておらず、図1の上面図と図2の側面図を合わせ読むと、図2では「タンク26」が10及び22の上方に独立して記載されているため、「タンク26」が「ミッション7」に取り付けられているか否か不明である。
仮に甲第3号証において「タンク26」が「ミッション7」に取り付けられているとしても、「ミッション7」は本件訂正発明1の「ギアボックス11」([0013])に相当する部材であって、本件訂正発明1の「ヒッチフレーム12」に相当する部材ではない。

イ 審決の予告では、「甲第1号証の図8をみると、軸11,11が、回動支持部材10を貫通し、液体タンク45と接触していることがみてとれる。」と認定されたが、軸11は、液体タンク45と接触していない。その根拠は、これらが接触しているとの記載や、液体タンク45が軸11上に載置されるとの明示的な記載は、甲1には一切見あたらないことであり、図3の軸11と液体タンク45が互いに離間し、接触していない位置関係にあることである。仮に、軸11が液体タンク45の支持部材下面に接していたとすると、液体タンク45が回動する度に、軸11との接触部分で摩擦が生じ、回動が円滑で無くなるだけでなく、当該接触部分が摩耗することになり、当業者が、甲1においてこのような技術的に不合理な構成を採用しているものとは到底考えられない。

ウ 甲1発明は、液体タンクは本体フレーム2に載置されるものでもないし、また液体タンク45の荷重は軸11を介して本体フレーム2に作用するものでもないから、仮に周知技術2が存在したとしても、液体タンク45を本体フレーム2に載置する動機たり得るものが存在しないから、当業者といえども相違点2に容易に想到し得ない。

(3)組合せについて(口頭審理陳述要領書19頁)
イ 甲第3号証及び甲第4号証には甲第2号証と同様に本件訂正発明1における「オフセット機構」及び甲1発明における「支持フレーム13」に相当する機構が存在しない。
また、本件訂正発明1の「オフセット機構」に相当する甲第5号証に記載の「支持フレーム11」(甲5[0013]、[0014]等)は甲第1号証と同様に単一の部材から構成されるものである。
したがって、本件訂正発明1は、甲1発明、甲2発明、及び甲7発明とは異なる新規な構成により甲1発明、甲2発明、及び甲7発明では奏し得ない格別な作用効果を奏するものであり、甲1発明及び甲7発明に甲第2号証から甲第5号証に記載された発明を組み合わせたとしても、本件訂正発明1に想到することはできない。

3 無効理由3及び4に対して(口頭審理陳述要領書20頁)
請求人は本件の当初明細書に「間欠時間をゼロとする連続状態」が記載されていること自体については争っていない(審判事件弁駁書22頁下3行?23頁下6行)。そして、本件の当初明細書に記載された「間欠時間をゼロとする連続状態」が、請求人の言う「液体を常に連続的に供給する」状態に相当することは明らかである。
また、本件の特許請求の範囲の記載を「液体を供給する」と補正する場合、当初明細書に「間欠的に供給可能」であることが記載されており、さらに「連続的に供給可能」であることも記載されていれば、補正の根拠として充分であり、さらに「液体を間欠的に供給することが不可能であって、常に連続的な供給しかできない」ことまで当初明細書に記載されていなければ補正要件に違反するという請求人の主張は独自の見解であって理由がない。

4 無効理由5に対して(口頭審理陳述要領書20?21頁)
請求人は、本件訂正明細書の[0026]の記載は、タンクをヒッチフレームに取り付けることによる作用効果であって、畦塗り機が収納状態であることによる作用効果を記載したものではないと主張するものと思われる(審判事件弁駁書24頁下9行?25頁9行)。
しかし、本件訂正明細書の[0026]には「タンク61の荷重」という記載があり、当業者であれば作業機全体の荷重バランスを考慮することは当然であり、オフセット移動可能な畦塗り機の作業部の位置によって作業機全体の荷重バランスが変化することも構成上明らかである。したがって、本件訂正発明1がオフセット移動可能な畦塗り機の作業部が収納状態である場合におけるタンクの荷重と作業機全体の荷重バランスとを考慮した発明であることは当業者にとって十分理解可能である。

5 無効理由6に対して(答弁書26頁、口頭審理陳述要領書21頁)
(1)請求人の主張のうち、特許法第36条第6項第1号に関する主張については、無効理由3、4で述べたのと同じ理由により、理由がない。

(2)請求人の主張のうち、特許法第36条第6項第2号に関する主張について、収納状態におけるオフセット機構とタンクとの位置関係は、本件訂正明細書の[0012]、図1(a)及び図2から明らかである。

(3)請求人の主張のうち、本件訂正明細書の[0010]、[0040]、及び[0041]の記載に関する部分について、本件訂正明細書には本件訂正発明1に対応する実施例が第1実施形態として明細書中に記載されている以上、第2実施形態として本件訂正発明1と異なる内容が明細書中に記載されているというだけで、本件訂正発明1が不明確になるものではない。

(4)請求人の主張のうち、本件訂正明細書の[0008]の記載に関する部分について、本件訂正明細書の[0008]は[課題を解決するための手段]を記載した段落であるが、[課題を解決するための手段]には、特許請求の範囲に記載した構成に対する説明が記載されていれば足り、訂正後の特許請求の範囲に記載された構成要素を全て書き写す必要はない。したがって、[課題を解決するための手段]の記載が訂正後の特許請求の範囲の記載と一致していないため本件訂正発明1は明確でないという請求人の主張には理由がない。

2 証拠方法
被請求人が提出した乙号証は、以下のとおりである。
乙第1号証:RKM750H等取扱説明書の写し
乙第2号証:RKM751H等取扱説明書の写し
乙第3号証:RKM752H等取扱説明書の写し

第6 無効理由についての当審の判断
[無効理由2]
1 証拠について
(1)甲第1号証に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の原出願日前に頒布された刊行物である甲第1号証には、次の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。

ア 「【請求項1】 走行機体の後部に本体フレームが装着され、該本体フレームに、整畦体及び前処理体を左右オフセット状態に設けた畦塗り機において、
上記前処理体の側方に設けられる側板を、上下方向にスライド可能、かつ前後方向に回動可能の支点と、前後方向に回動するリンク体とにより支持したことを特徴とする畦塗り機。」

イ 「【0008】
【発明の実施の形態】以下、本発明の一実施の形態を添付の図面を参照して具体的に説明する。図1ないし図3において、符号1は図示しないトラクタの後部に設けられたトップリンク及びロアリンクからなる三点リンク連結機構に連結されて、整畦作業を行う畦塗り機である。この畦塗り機1は、伝動ケースを兼ねる本体フレーム2の後端部に、整畦体3及び前処理体4を左右一方(図1及び図2で右側)にオフセットした通常作業状態に設けている。また、上記整畦体3及び前処理体4は、本体フレーム2に対して左右方向に回動可能に支持され、機体の進行方向に対してオフセットされた通常作業位置から、後述するように直角旋回位置及び180度旋回作業位置に固定、固定解除可能としている。
【0009】上記トラクタの三点リンク連結機構にはオートヒッチカプラ5が連結され、このオートヒッチカプラ5を介して本体フレーム2の前端部に設けられた上部連結部6及び下部連結部7が、自動的に連結され、レバー操作で離脱され、また、自動連結可能状態にセットされる。本体フレーム2の前部から前方に入力軸8が突出しており、この入力軸8に、図示しないトラクタのPTO軸からユニバーサルジョイント及び伝動軸を介して回転動力が伝達される。入力軸8から入力された回転動力は本体フレーム2内で変速され、本体フレーム2の後端部において左右両側に出力され、それぞれの出力端に出力側クラッチ9,9を設けている。
【0010】本体フレーム2の後端部にコ字状の回動支持部材10が、本体フレーム2から上下に突設した軸11,11を介して左右方向に回動自在に支持され、この回動支持部材10の鉛直部分に、整畦体3及び前処理体4を支持し伝動軸12を内装した支持フレーム13の先端部が固着されている。本体フレーム2の左右両側には、上下調節支持部14及び15を介して車輪状ゲージホイール16及びソロバン珠状ゲージホイール17が上下調節可能に設けられている。
【0011】上記支持フレーム13の基端部には、整畦体伝動ケース18及び前処理体伝動ケース19が連結され、該整畦体伝動ケース18及び前処理体伝動ケース19を介して上記整畦体3及び前処理体4が装着されている。整畦体伝動ケース18の基端部は支持フレーム13に対して垂直方向に回動可能であり、この回動操作を整畦体回動調節機構20により行うようにしている。そして、整畦体回動調節機構20の操作により整畦体3は前後方向に回動して、その作業深さ調節及び前処理体4との間隔調節が行われる。」

ウ 「【0013】前処理体4は、前処理体伝動ケース19の先端部から水平方向に突出し、側枠24に支持された水平回転軸25の外周に、多数の爪取付けボックス26を介して多数の掘削爪27を装着している。掘削爪27は、元畦及び田面を縦方向に掘削する縦刃部と、縦刃部から一側に屈曲する横刃部とからなり、元畦及び田面に対して元畦側が浅く、田面側が深くなるように横刃部で階段状に掘削するように、縦刃部の長さ(回転半径)を異ならせている。そして、掘削爪27によって、元畦側が浅く、田面側が深くなる、ほぼ水平の階段が形成される。
【0014】掘削爪27によって元畦及び田面が掘削され、元畦の田面側に形成された水平状の階段面に対して、掘削爪27によって掘削された土壌が、前処理体4の後ろ側に設けられた整畦体3の多角円錐状ドラム22及び水平筒状体23によって塗り付けられ、あるいは表面が叩き付けられて、元畦に新畦造成部分が上塗りされて新畦が整畦される。」

エ 「【0020】上記前処理体4により形成され、整畦体3により整畦される土壌表面に対して液体(水)を散布するノズル部44を前処理体4の上方に設け、該ノズル部44に配管46を介して液体を供給する液体タンク45を本体フレーム2上に設けている。そして、整畦体3により整畦される土壌表面に対して液体を散布し、前処理体4により掘削される土壌が多少乾いていても、整畦体3による元畦上への塗り付け作業が良好に行われる。」

オ 「【図6】本発明による畦塗り機の整畦体及び前処理体をオフセット作業位置から90度回動させた非作業状態の背面図である。」

カ 「【図7】同平面図である。」

キ 上記イを踏まえて、図1及び2をみると、本体フレーム2の後端部に回動支持部材10と支持フレーム13からなる構成の前端側が回動自在に支持されることがみてとれる。

ク 上記エ、オ及びカを踏まえて、図7をみると、非作業状態において回動支持部材10と支持フレーム13からなる構成の前側上方に液体タンク45が配置されることがみてとれる。

そうすると、甲第1号証には、上記アないしクの事項及び図示内容からみて、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「走行機体の後部に設けられた三点リンク連結機構に連結されたオートヒッチカプラ5を介して、本体フレーム2が装着され、該本体フレーム2に整畦体及び前処理体を左右オフセット状態に設けた畦塗り機において、本体フレーム2の後端部に回動支持部材10と支持フレーム13からなる構成の前端側が、本体フレーム2から上下に突設した軸11,11を介して左右方向に回動自在に支持され、この回動支持部材10の鉛直部分に、整畦体3及び前処理体4を支持した支持フレーム13の先端部が固着されており、前処理体4に装着した掘削爪27は元畦を階段状に掘削し、掘削爪27によって掘削された土壌が、前処理体4の後ろ側に設けられた整畦体3によって塗り付けられ、元畦に新畦造成部分が上塗りされて新畦が整畦され、整畦される土壌表面に対して液体(水)を散布するノズル部44に配管46を介して液体を供給する液体タンク45を、非作業状態において回動支持部材10と支持フレーム13からなる構成の前側上方であって、本体フレーム2上方に設ける畦塗り機。」

(2)甲第2号証について
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の原出願日前に頒布された刊行物である甲第2号証には、次の事項が記載されている。

ア 「【請求項1】 機枠と、この機枠に回転自在に設けられ畦際の泥土を畦に向かって跳ね上げる複数の跳上爪を放射状に突設したロータリーと、前記機枠に設けられ前記ロータリーにて跳ね上げられる泥土を畦に向けて案内するカバー体と、前記ロータリーの後方に位置して前記機枠に回転自在に設けられ前記ロータリーにて放出された泥土を畦の頂部及び側部に塗り付ける畦塗り体と、前記機枠に設けられ前記畦塗り体に散水ノズルを臨ませた散水装置と、を具備したことを特徴とする畦塗り装置。」

イ 「【0013】1は機枠で、この機枠1は左右方向に長い中空パイプ状の主枠2を有し、この主枠2の両端部には相対して配設された左右のヒッチアーム3がそれぞれ前方に向かって平行に一体に突設され、この左右のヒッチアーム3の前端部には左右方向のロアピン4がそれぞれ突設されている。また、前記主枠2の中間部にはミッション5が固定され、このミッション5の入力軸6が前方に向かって回転自在に突出され、この入力軸6の前側部は前記左右のヒッチアーム3間に配設固定したステー7に軸受体8を介して回転自在に支持されている。」

ウ 「【0028】つぎに、前記主枠2の上部にはスタンド58が一体に立設され、このスタンド58の載置板59上には上部に注水口60を有する水タンク61が載置固定され、この水タンク61の下端部の排水口にはコック62を介して導管63の一端部が連通接続されている。この導管63は前記畦塗り体39の上方に位置して進行方向の右側に向かって水平状に配設され、この導管63の途中部が前記支持体16に固着された上下方向の支柱64の上端部に固着支持されている。また、前記導管63の長さ方向には所定の間隔をおいて前記畦塗り体39の側部塗り部46及び頂部塗り部50に対して散水する複数の散水ノズル65がそれぞれ側部塗り部46及び頂部塗り部50に臨ませて設けられている。
【0029】そして、前記コック62を開くことにより導管63を介して各散水ノズル65から畦塗り体39の側部塗り部46及び頂部塗り部50に対してそれぞれ散水するようになっており、この側部塗り部46及び頂部塗り部50に散水された水は畦塗り体39の回転方向に沿って流出されるとともに、この側部塗り部46及び頂部塗り部50にて塗り付けられる泥土に対して順次給水されるようになっている。そうして、前記水タンク61、コック62、導管63及び複数の散水ノズル65にて散水装置66が構成されている。なお、図中DはトラクタAの座席である。」

エ 「【0034】また、畦塗り装置が畦際に沿って牽引進行されるとともに、散水装置66のコック62を開くことにより水タンク61内の水が導管63を通って各散水ノズル65から畦塗り体39の円錐形状の側部塗り部46及び円筒状の頂部塗り部50に対して上方から散水される。」

オ 「【0037】この際、この畦塗り体39の側部塗り部46及び頂部塗り部50には散水装置66の各散水ノズル65から順次散水されるため、この畦塗り体39の側部塗り部46及び頂部塗り部50に直接落下される比較的少量の水にて畦塗り体39の側部塗り部46及び頂部塗り部50に接する部分の泥土67には順次畦塗りに好ましい状態に給水され、この畦塗り体39にて既存の畦68に対して泥土67が十分に締め固められるとともに表面がつるつるした平滑状態に仕上げられる。
【0038】また、この畦塗り体39は散水しつつ回転駆動されることにより、畦塗り板を摺動するものに比べ畦塗り時の抵抗が小さく泥土67を進行方向に向かって押し寄せたり、泥土67を後方に向かって掃き出すようなことがなくスムーズに畦塗りされる。また、この畦塗り体39の側部塗り部46及び頂部塗り部50の表面部は合成樹脂被膜46b ,50a ,54a を有するため、この畦塗り時に合成樹脂被膜46b ,50a ,54a に泥土67が付着することが防止される。」

(3)甲第3号証について
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の原出願日前に頒布された刊行物である甲第3号証には、次の事項が記載されている。

ア 「【0007】25は走行車(図示省略)に装着する為の機枠を示し、本実施例ではトラクタの三点リンクに連結される。7はミッションを示し、前記機枠25の中央に支承され、前記した走行車のPTO軸(省略)からユニバーサルジョイント21を介して入力され、第1変速ケース9及び第2変速ケース10へ動力を伝達する。」

イ 「【0009】5は畦形成装置を示し、畦の内側面17を形成する内側円錐回転体18、畦上面を形成する円筒回転体16が分割され独立回転に構成される。この畦形成装置5前記誘導カバー4に連設された、後面視逆さU字状断面をしたカバー体20に被覆され、15はカバー体20の内部に設けたスクレーパである。
【0010】26は水を入れたタンクで、27は動噴で、タンク26から吸水して加圧しながれら給水する。28はモーターを示し、前記した動噴27を回転されるもので図示しないが、トラクタのバッテリーに連結されるものである。
30は動噴に連結された給水管で、加圧給水して29の噴霧ノズルから噴霧させるものである。」

ウ 「【0012】動噴27から給水管30を経由して、加圧給水された水はカバー体20の上面内側に取り付けた噴霧ノズル29によって内側円錐回転体18の斜面に広く散布される。噴霧ノズル29はスクレーパ15の付着土の剥離作用の直後に設けられている。」

(4)甲第4号証について
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の原出願日前に頒布された刊行物である甲第4号証には、次の事項が記載されている。

ア 「【0008】図1について説明する。1はフレームを示し、前方左右に一対のロアピン5を設けている。3は変速箱で、フレーム1の前方中央部に配置されて左右のパイプ枠4-1,4-2によって支持固着される。変速箱3の前方には入力軸2を設け、上部にはトップブラケット6を設けてなる。」

イ 「【0011】フレーム1の前方部に有している前記左右のロアピン5とトップブラケット6は図示していないが、トラクタの公知技術である三点リンクに装着されるものである。トラクタのPTOより前記入力軸2に動力が伝達されて、土盛装置8とディスク体11及び上面ローラ12が駆動される。
【0012】13はマルチ材タンクで14は洗浄材タンクを示し、フレーム1の後部に隣接して搭載される。16は散布供給部を示し、本実施例においてはポンプが内蔵され、切換電磁バルブ22を介して、吸入管15-1,15-2にて液状マルチ材タンク13、及び洗浄剤タンク14から所定の選択によって吸込むものである。吸込まれた液状マルチ材は供給管17-1,17-2を介してノズル19-1,19-2から散布される。これら吸入管、散布供給部、供給管、及びノズルから散布装置を構成されている。」

(5)甲第7号証について
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の原出願日前に頒布された刊行物である甲第7号証には、次の事項が記載されている。

ア 「【0008】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を添付の図面を参照して具体的に説明する。図1及び図2において、符号1は図示しないトラクタの後部に設けられたトップリンク及びロアリンクからなる三点リンク連結機構に連結されて、整畦作業を行う畦塗り機である。この畦塗り機1は、伝動フレームを兼ねる本体フレーム2を、機体の進行方向と直交するようにして設けている。この本体フレーム2には、前端部から前方に向け突出し、トラクタのPTO軸からユニバーサルジョイント及び伝動軸を介して動力を受ける図示しない入力軸が設けられ、また、上方に突出するトップリンク連結部3を設けると共に、下部左右両側にロアリンク連結部4,4を設け、トラクタの三点リンク連結機構に連結するようにしている。
【0009】本体フレーム2の後部に前端が枢着された左右一対の平行リンク5,6の後端部に支持・伝動フレーム7が枢着され、左右方向に移動(オフセット)可能になっている。この支持・伝動フレーム7の左右中央位置に、入力軸から入力された動力が伝動機構8を介して伝達され、ベベルギヤ9,10により変速して後述する前処理体19及び整畦体20に動力伝達する変速ギヤボックス11を設けている。この変速ギヤボックス11の下側に伝動フレーム12の基端部がベアリング13を介して水平方向に回動自在に軸支されている。伝動フレーム12の基端部にはベアリング14,14を介して伝動軸15が軸支され、その上端部は変速ギヤボックス11内に突出していて、ここに上記ベベルギヤ10が固設されている。伝動フレーム12は1つのフレーム構造のもので、伝動軸15に固設されているスプロケットホイール16に巻装されたチェーン17を介して先端側に動力伝達するようにしている。」

イ 「【0011】上記平行リンク5,6の一方のリンク5の支持・伝動フレーム7との枢支位置と、他方のリンク6の中間部との間に、オフセット量調節用電動シリンダ22が介装され、この電動シリンダ22の伸縮作動により前処理体19及び整畦体20の左右のオフセット量が無段階に調節可能である。そして、前処理体19及び整畦体20を右側にオフセットした図1及び図2の状態から、図4の前処理体19及び整畦体20を機体中央側に寄せた状態、図5の前処理体19及び整畦体20を180度回転させて左側にオフセットした状態、図6の前処理体19及び整畦体20を180度回転させて機体中央側に寄せた状態まで、無段階に調節可能である。」

2 本件訂正発明1について
(1)本件訂正発明1と甲1発明との対比
ア 本件訂正発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「走行機体」は、本件訂正発明1の「走行機体」に相当し、
以下同様に、
「オートヒッチカプラ5」は、「連結フレーム」に、
「走行機体の後部(に設けられた三点リンク連結機構)に連結されたオートヒッチカプラ5」は、「走行機体の後部に装着される連結フレーム」に、
「オートヒッチカプラ5を介して」「装着され」た「本体フレーム2」は、「連結フレームに接続されるヒッチフレーム」に、
「オートヒッチカプラ5」と「本体フレーム」とからなる構成は、「装着部」に、
「整畦体3及び前処理体4」は、「畦塗り作業を行う作業部」に、
「左右方向」は、「走行機体幅方向」に、
「元畦」は、「旧畦」に、
「元畦を階段状に掘削」することは、「旧畦の一部を切り崩」すことに、
「掘削爪27によって掘削された土壌」を作成することは、「土盛り作業を行う」ことに、
「液体タンク45」は、「液体を貯留するタンク」に、
「非作業状態」は、「収納状態」に、
それぞれ相当する。

イ 甲1発明の「回動支持部材10と支持フレーム13からなる構成の前端側」は、「本体フレーム2の後端部」に「左右方向に回動自在に支持され」、また甲1発明の「整畦体3及び前処理体4を支持」する「支持フレーム13」は、「回動支持部材10」に固着されており、さらに、甲1発明の「整畦体3及び前処理体4」は「左右オフセット状態に設け」られるから、甲1発明の「回動支持部材10」と「支持フレーム13」からなる構成は、本件訂正発明1の「オフセット機構」に相当する。

ウ 上記イを踏まえると、甲1発明の「本体フレーム2の後端部」に「左右方向に回動自在に支持され」る「回動支持部材10と支持フレーム13からなる構成の前端側」、及び、「回動支持部材10」に固着される「整畦体3及び前処理体4を支持」する「支持フレーム13」と、本件訂正発明1の「走行機体幅方向に移動可能に支持されて前端側が前記ヒッチフレームに回動自在に連結された複数の部材から構成されるオフセット機構」は、「走行機体幅方向に移動可能に支持されて前端側が前記ヒッチフレームに回動自在に連結された部材から構成されるオフセット機構」で共通する。

エ 上記アを踏まえると、甲1発明の「装着した掘削爪27」が「元畦を階段状に掘削」して、「整畦体3によって塗り付け」る「土壌」を「掘削」する「前処理体4」は、本件訂正発明1の「旧畦の一部を切り崩して土盛り作業を行う前処理体」に相当する。

オ 甲1発明の「前処理体4に装着した掘削爪27」「によって掘削された土壌」を「塗り付け」る「整畦体3」は、「前処理体4に装着した掘削爪27」「によって掘削された土壌」は当然、新畦の前方に盛られることになるので、本件訂正発明1の「前処理体によって前方に盛られた土を切り崩された旧畦上に塗り付けて新畦を形成する整畦体」に相当する。

カ 甲1発明の「整畦される土壌表面に対して水を散布するノズル部44に配管46を介して液体(水)を供給する液体タンク45」と、本件訂正発明1の「整畦体の表面に液体を供給する液体供給装置」は、「液体を供給する液体供給装置」で共通する。

キ 上記1(1)エの「該ノズル部44に配管46を介して液体を供給する液体タンク45を本体フレーム2上に設けている」との記載事項によると、甲1発明の「液体タンク45」が「本体フレーム2上方に設け」られることと、本件訂正発明1の「タンク」が「ヒッチフレームに取り付けられている」こととは、「タンクがヒッチフレーム上方に取り付けられている」点で共通する。

ク したがって、本件訂正発明1と甲1発明とは、
「走行機体の後部に装着される連結フレーム及び前記連結フレームに接続されるヒッチフレームを含む装着部に、畦塗り作業を行う作業部が、走行機体幅方向に移動可能に支持されて前端側が前記ヒッチフレームに回動自在に連結された部材から構成されるオフセット機構を介して、走行機体幅方向に移動可能に支持され、該作業部は旧畦の一部を切り崩して土盛り作業を行う前処理体と、該前処理体によって前方に盛られた土を切り崩された旧畦上に塗り付けて新畦を形成する整畦体とを有して構成され、液体を供給する液体供給装置が設けられた畦塗り機であって、
前記液体供給装置は、前記液体を貯留するタンクを有し、
前記タンクは、収納状態において前記オフセット機構の前側上方に配置された状態で前記装着部のうち前記ヒッチフレーム上方に取り付けられている
ことを特徴とする畦塗り機。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
「液体供給装置」に関して、本件訂正発明1は「整畦体の表面に液体を供給する」のに対し、甲1発明は整畦される土壌表面に対して液体を散布する点。

(相違点2)
「ヒッチフレーム上方に取り付けられている」「タンク」に関して、本件訂正発明1は「ヒッチフレームに取り付けられており、前記タンクの荷重が前記オフセット機構に作用しない」のに対し、甲1発明は、液体タンク45が、回動支持部材10と支持フレーム13からなる構成の前側上方であって、本体フレーム2上方に取り付けられている点。

(相違点3)
「ヒッチフレームに回動自在に連結された部材から構成されるオフセット機構」に関して、本件訂正発明1は「ヒッチフレームに回動自在に連結された」「部材」が「複数」であるのに対し、甲1発明は、「本体フレーム2」(ヒッチフレーム)に連結された部材が「回動支持部材10」のみである点。

(2)相違点に係る判断
ア 相違点1について
(ア)当審の判断
(a)上記1(2)及び(3)で摘記した甲第2号証及び甲第3号証の記載事項を踏まえると、整畦体の表面に液体を供給する液体供給装置を設けることは、本件特許の原出願日前において周知の技術(以下「周知技術1」という。)である。

(b)そうすると、甲1発明と上記周知技術1は、共に整畦体に関する技術であって、最終的には畦を構成する土に水分が供給される点で共通しているので、甲1発明において、整畦される土壌表面に対して液体を散布することに代えて、上記周知技術1を採用し、相違点1に係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(イ)被請求人の主張について
被請求人は、「甲2発明はそもそもオフセット機構に対するタンクの相対的な配置について開示するものではないため、甲2発明には、タンクの荷重がオフセット機構に作用する場合に、オフセット機構の強度を強化する必要性があり、重量及びコストが増大し、畦塗り機の重量の増大によって、畦塗り機を牽引する走行機体が限定される(訂正明細書[0026])という本件訂正発明1の課題が存在しない。」、「また、甲第1号証には「整畦体3により整畦される土壌表面に対して液体(水)を散布するノズル部44」([0020])と土壌表面に対して液体(水)を散布する構成が明記されている反面、これと異なる方向に液体(水)を散布する構成は記載も示唆もされておらず、ノズル部44の向きが変更可能であるという構成も記載されていない。」などと主張する。

しかしながら、相違点1は、液体供給装置に関して、本件訂正発明1は「整畦体の表面に液体を供給する」のに対し、甲1発明は整畦される土壌表面に対して液体を散布する点であって、この相違点1を判断するのにあたり、甲第1号証ないし甲第3号証に、オフセット機構に対するタンクの相対的な配置が記載されているか否かという事項は何ら影響を及ぼさない。
また、甲1発明の「本体フレーム2」、甲第2号証に記載された「主枠2」、甲第3号証に記載された、「ミッション7」が「支承され」る「機枠25の中央」は、いずれもトラクタの三点リンクに連結される部材に連結された部材である点で共通しているので、甲1発明に上記周知技術1を採用することに困難性はなく、甲1発明が、土壌表面と異なる方向に液体を散布する構成や、ノズル部44の向きが変更可能であるという構成を有しないものであるとしても、上記(ア)(b)で説示したとおり、整畦される土壌表面に対して液体を散布することに代えて、上記周知技術1を採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。

よって、被請求人の上記主張は採用できない。

イ 相違点2について
(ア)当審の判断
(a)甲1発明において、「軸11,11」は、「本体フレーム2から上下に突設」しており、この「軸11,11」に「回動支持部材10」が「回動自在に支持され」ている。
そして、甲第1号証の図1、3、6、8及び10をみると、液体タンク45が回動支持部材10に支持されているものと解することができる。
また、甲第1号証の図2、7、11をみると、液体タンク45が回動支持部材10と支持フレーム13からなる構成の回動にともなって回動していることがみてとれる。
これらの記載事項を踏まえると、甲第1号証には、液体タンク45は回動支持部材10及び軸11を介して本体フレーム2に支持されていると解することができる。

(b)ここで、甲第2号証には、上記1(2)で摘記したように、主枠2の上部にスタンド58が一体に立設され、このスタンド58の載置板59上には上部に注水口60を有する水タンク61が載置固定されること(【0028】)が記載されている。
よって、甲第2号証には、ヒッチフレーム(「主枠2」、「スタンド58」、及び、「載置版59」)にタンク(「水タンク」61)が載置されること、あるいは、ヒッチフレーム(「主枠2」)に、「スタンド58」、及び、「載置版59」を介してタンク(「水タンク」61)が載置されることが記載されているといえる。

(c)甲第4号証には、上記1(4)で摘記したように、マルチ材タンク13及び洗浄材タンク14が、フレーム1の後部に隣接して搭載されること(【0012】)が記載されている。

(d)そして、甲第2号証及び甲第4号証に記載された事項を踏まえると、畦塗機においてヒッチフレームにタンクを載置することは、本件特許の原出願日前において周知の技術である(以下「周知技術2」という。)。

(e)タンクを畦塗り機に設ける際の配置をどのようにするかは、当業者が、畦塗り機の構造や、タンクの取付けの容易性、畦塗り機や液体(水)散布機の機能性等を考慮して、適宜決定すべき設計事項にすぎないといえるところ、畦塗り機のタンクはその中に液体を入れて使用することから相当の重量があるので、タンクを畦塗り機に配置固定するに際して、そのような重いタンクを支えるのに適した配置とすることは、当業者であれば当然に考慮することである。
また、甲1発明の液体タンク45は、上記(a)で述べたように、回動支持部材10及び軸11を介して本体フレーム2に支持されている(すなわち、液体タンク45の荷重は本体フレーム2に作用している)と解される。
さらに、甲第1号証には「液体タンク45を本体フレーム2上に設けている」(段落【0020】)との記載があり、甲1発明は、「液体タンク45」が「本体フレーム2」自体に載置されるものであることが示唆されていると解することもできる。
加えて、甲1発明と上記周知技術2は、共にタンクを有する畦塗機に関する技術で共通しており、甲1発明の「本体フレーム2」、甲第2号証に記載された「主枠2」、甲第4号証に記載された、「フレーム1」は、いずれもトラクタの三点リンクに連結される部材に連結された部材である点で共通している。
したがって、甲1発明において、液体タンク45を本体フレーム2上方に取り付けるに際し、上記周知技術2を採用して本体フレームに載置して固定し、液体タンク45の荷重を本体フレームに作用させて、オフセット機構には作用させないようにして、相違点2に係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
なお、甲1発明の液体タンク45が、回動支持部材10と支持フレーム13からなる構成の回動にともなって回動することによる効果は、例えば配管46の引き回しの容易性等が想定されるが、液体タンクを本体フレームに固定しても、他の手段により配管を引き回す程度のことは、当業者であれば当然想到し得ることである。

(イ)被請求人の主張について
被請求人は、甲第4号証には甲第2号証と同様に本件訂正発明1における「オフセット機構」及び甲1発明における「支持フレーム13」に相当する機構が存在しないと主張する。

しかしながら、甲第2号証及び甲第4号証に、本件訂正発明1における「オフセット機構」及び「支持フレーム13」に相当する機構が存在しなくとも、上記(ア)で説示したとおり、甲1発明の「本体フレーム2」、甲第2号証に記載された「主枠2」、甲第4号証に記載された「フレーム1」は、いずれもトラクタの三点リンクに連結される部材に連結された部材である点で共通しているから、タンクをヒッチフレームに載置することは当業者が容易に想到し得たことであって、被請求人の上記主張は採用できない。

ウ 相違点3について
(ア)当審の判断
(a)甲第7号証には、上記1(5)で摘記したように、本体フレーム2の後部に前端が枢着された左右一対の平行リンク5,6の後端部に支持・伝動フレーム7が枢着され、左右方向に移動(オフセット)可能になっていること(【0009】)が記載されている。

(b)そうすると、甲1発明と上記甲第7号証に記載された事項は、共にオフセット機構を有する畦塗機に関する技術で共通しているので、甲1発明において、本体フレーム2に回動自在に支持された回動支持部材10及び支持フレーム13に代えて、オフセット機構として甲第7号証に記載された事項を採用し、相違点3に係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(イ)被請求人の主張について
被請求人は、「甲第7号証にはそもそも液体供給装置が記載されていないのであるから、当然ながらタンクを有することやタンクの設置位置についても記載も示唆もされていない。」、「甲7発明はそもそも液体供給装置が設けられた畦塗り機について開示するものではないため、甲7発明には、タンクの荷重がオフセット機構に作用する場合に、オフセット機構の強度を強化する必要性があり、重量及びコストが増大し、畦塗り機の重量の増大によって、畦塗り機を牽引する走行機体が限定される(訂正明細書[0026])という本件訂正発明1の課題が存在しない。また、上記課題は自明ではなく当業者が容易に着想し得る課題でもない。」などと主張する。

しかしながら、甲第7号証に液体供給装置が記載されていないとしても、上記(ア)で説示したとおり、甲第7号証に記載された、左右方向に移動可能な構造を、甲1発明の本体フレーム2に回動自在に支持された回動支持部材10及び支持フレーム13に代えて採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。

よって、被請求人の上記主張は採用できない。

(3)本件訂正発明1が奏する効果について
(ア)当審の判断
上記相違点1ないし3に係る本件訂正発明1の構成が奏する効果は、当業者が甲第1号証に記載された発明、甲第7号証に記載された事項及び周知の技術から予測し得る程度のものであって、格別のものではない。

(イ)被請求人の主張について
被請求人は、「本件訂正発明1は、「走行機体幅方向に移動可能に支持されて前端側か前記ヒッチフレームに回動自在に連結された複数の部材から構成されるオフセット機構」を備えることにより、当該複数の部材によってリンク機構を形成し、オフセット機構が単一の部材から構成される場合に当該単一の部材に重量や作業負荷が集中するという不具合を回避し、単一の部材から構成されるオフセット機構よりも強い強度を実現するという本件訂正発明1の構成から明らかな効果を有する。」、「本件訂正発明1は、複数の部材から構成されるオフセット機構を備える畦塗り機において、散水装置のタンクが「収納状態において前記オフセット機構の前側上方に配置された状態で前記装着部のうち前記ヒッチフレームに取り付けられている」という構成を備えることにより、タンクの荷重がオフセット機構に作用することがないため、タンクの重量に対してオフセット機構の強度をさらに強化する必要性がなく、重量及びコストの増大を防止することができ、また畦塗り機の重量の増大によって、畦塗り機を牽引する走行機体が限定される事態を防止することができる(訂正明細書[0026])という優れた効果を奏する。」、「本件訂正発明1は、タンクが畦塗り機の「収納状態において前記オフセット機構の前側上方に配置された状態」であるという構成を備えることによって、タンクが載置された場合の畦塗り機全体の重量バランスを良好な状態に維持するという本件訂正発明1の構成から明らかな効果を有する。具体的には、オフセット機構を備える畦塗り機は、作業位置の移動(前進作業位置、後進作業位置、収納位置等)に応じて畦塗り機全体の幅方向の重量バランスが変動するところ、圃場での作業時には作業の必要に応じて様々な作業位置に移動されて使用されるのに対して、作業時以外の圃場への出入り、圃場や道路での移動の際には作業機を格納位置に合わせた状態で移動することが推奨されている(乙第1号証?乙第3号証)ことから、オフセット機構を備える畦塗り機において、重量バランスが問題となる状況で最も多く用いられる作業位置は格納位置であるといえる。」などと主張する。

しかしながら、オフセット機構を単一の部材から構成するか、複数の部材から構成するかは、部材の数の違いによるコスト、強度等のバランスを考慮して決定されるべきものであって、複数の部材からオフセット機構を構成することにより、コストは上がるものの、強度が増すことは、当業者であれば予測し得る程度のものである。
また、上記(2)イで説示したとおり、タンクをオフセット機構に設けるか、ヒッチフレームに設けるかは、オフセット機構に設けてタンクと共に回転するようにして、配管の引き回し構造を簡素にするか、ヒッチフレームに設けて、オフセット機構の負担を軽減するか、できあがった製品のコンセプトに応じて適宜決定される程度のものにすぎず、タンクをヒットフレームに設けて、オフセット機構の負担を軽減することは、当業者であれば予測し得る程度のものである。
さらに、甲1発明において、「液体タンク45」は、非作業状態において支持フレーム13の前側上方であって、本体フレーム2上に設けられている。

よって、被請求人の上記主張は採用できない。

3 まとめ
以上の検討によれば、本件訂正発明1は、当業者が、甲第1号証に記載された発明、甲第7号証に記載された事項及び周知の技術に基づいて、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許受けることができないものである。

[無効理由1]
1 証拠について
甲第1号証、甲第2号証及び甲第7号証の記載事項は、上記[無効理由2]1(1)、(2)、(5)に記載したとおりである。

2 対比
上記[無効理由2]2(1)に記載したとおり、本件訂正発明1と甲1発明とは、
「走行機体の後部に装着される連結フレーム及び前記連結フレームに接続されるヒッチフレームを含む装着部に、畦塗り作業を行う作業部が、走行機体幅方向に移動可能に支持されて前端側が前記ヒッチフレームに回動自在に連結された部材から構成されるオフセット機構を介して、走行機体幅方向に移動可能に支持され、該作業部は旧畦の一部を切り崩して土盛り作業を行う前処理体と、該前処理体によって前方に盛られた土を切り崩された旧畦上に塗り付けて新畦を形成する整畦体とを有して構成され、液体を供給する液体供給装置が設けられた畦塗り機であって、
前記液体供給装置は、前記液体を貯留するタンクを有し、
前記タンクは、収納状態において前記オフセット機構の前側上方に配置された状態で前記装着部のうち前記ヒッチフレーム上方に取り付けられている
ことを特徴とする畦塗り機。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
「液体供給装置」に関して、本件訂正発明1は「整畦体の表面に液体を供給する」のに対し、甲1発明は整畦される土壌表面に対して液体を散布する点。

(相違点2)
「ヒッチフレーム上方に取り付けられている」「タンク」に関して、本件訂正発明1は「ヒッチフレームに取り付けられており、前記タンクの荷重が前記オフセット機構に作用しない」のに対し、甲1発明は、液体タンク45が、回動支持部材10と支持フレーム13からなる構成の前側上方であって、本体フレーム2上方に取り付けられている点。

(相違点3)
「ヒッチフレームに回動自在に連結された部材から構成されるオフセット機構」に関して、本件訂正発明1は「ヒッチフレームに回動自在に連結された」「部材」が「複数」であるのに対し、甲1発明は、「本体フレーム2」(ヒッチフレーム)に連結された部材が「回動支持部材10」のみである点。

3 相違点に係る判断
(1)相違点1について
(a)上記[無効理由2]1(2)で摘記した事項から、甲第2号証には、畦塗り体に水を給水する構成が記載されている(以下「甲2記載事項A」という。)。

(b)そうすると、甲1発明と甲2記載事項は、共に整畦体に関する技術であって、最終的には畦を構成する土に水分が供給される点で共通しており、また、甲1発明の「本体フレーム2」、及び、甲第2号証に記載された「主枠2」は、いずれもトラクタの三点リンクに連結される部材に連結された部材である点で共通しているので、甲1発明において、整畦される土壌表面に対して液体を散布することに代えて、甲2記載事項Aを採用し、相違点1に係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について
(a)甲1発明において、「軸11,11」は、「本体フレーム2から上下に突設」しており、この「軸11,11」に「回動支持部材10」が「回動自在に支持され」ている。
そして、甲第1号証の図1、3、6、8及び10をみると、液体タンク45が回動支持部材10に支持されているものと解することができる。
また、甲第1号証の図2、7、11をみると、液体タンク45が回動支持部材10と支持フレーム13からなる構成の回動にともなって回動していることがみてとれる。
これらの記載事項を踏まえると、甲第1号証には、液体タンク45は回動支持部材10及び軸11を介して本体フレーム2に支持されていると解することができる。

(b)ここで、甲第2号証には、[無効理由2]1(2)で摘記したように、主枠2の上部にスタンド58が一体に立設され、このスタンド58の載置板59上には上部に注水口60を有する水タンク61が載置固定されること(【0028】)が記載されている。
よって、甲第2号証には、ヒッチフレーム(「主枠2」、「スタンド58」、及び、「載置版59」)にタンク(「水タンク」61)が載置されること、あるいは、ヒッチフレーム(「主枠2」)に、「スタンド58」、及び、「載置版59」を介してタンク(「水タンク」61)が載置されることが記載されているといえる(以下「甲2記載事項B」という。)。

(c)タンクを畦塗り機に設ける際の配置をどのようにするかは、当業者が、畦塗り機の構造や、タンクの取付けの容易性、畦塗り機や液体(水)散布機の機能性等を考慮して、適宜に決定する設計事項であるといえるところ、
畦塗り機のタンクはその中に液体を入れて使用することから相当の重量があるので、タンクを畦塗り機に配置固定するに際して、そのような重いタンクを支えるのに適した配置とすることは、当業者であれば当然に考慮することであって、
甲1発明の液体タンク45は、上記(a)で述べたように、回動支持部材10及び軸11を介して本体フレーム2に支持されていると解され、すなわち、液体タンク45の荷重は本体フレーム2に作用していると解され、
また、甲第1号証には「液体タンク45を本体フレーム2上に設けている」(段落【0020】)との記載があり、甲1発明は、「液体タンク45」が「本体フレーム2」自体に載置されるものであることが示唆されていると解することもでき、
さらに、甲1発明と甲2記載事項Bは、共にタンクを有する畦塗機に関する技術で共通しており、甲1発明の「本体フレーム2」、及び、甲第2号証に記載された「主枠2」は、いずれもトラクタの三点リンクに連結される部材に連結された部材である点で共通しているから、
甲1発明において、液体タンク45を本体フレーム2上方に取り付けるに際し、上記甲2記載事項Bを採用して本体フレームに載置して固定し、液体タンク45の荷重を本体フレームに作用させて、オフセット機構には作用させないようにして、相違点2に係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
なお、甲1発明の液体タンク45が、回動支持部材10と支持フレーム13からなる構成の回動にともなって回動することによる効果は、例えば配管46の引き回しの容易性等が想定されるが、液体タンクを本体フレームに固定しても、他の手段により配管を引き回す程度のことは、当業者であれば当然想到し得ることである。

(3)相違点3について
(a)甲第7号証には、上記1(5)で摘記したように、本体フレーム2の後部に前端が枢着された左右一対の平行リンク5,6の後端部に支持・伝動フレーム7が枢着され、左右方向に移動(オフセット)可能になっていること(【0009】)が記載されている。

(b)そうすると、甲1発明と上記甲第7号証に記載された事項は、共にオフセット機構を有する畦塗機に関する技術で共通しているので、甲1発明において、本体フレーム2に回動自在に支持された回動支持部材10及び支持フレーム13に代えて、オフセット機構として甲第7号証に記載された事項を採用し、相違点3に係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(4)本件訂正発明1が奏する効果について
上記相違点1ないし3に係る本件訂正発明1の構成が奏する効果は、当業者が甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された事項及び甲第7号証に記載された事項から予測し得る程度のものであって、格別のものではない。

(5)被請求人の主張について
上記[無効理由2]2(2)、(3)で説示したとおり、被請求人の上記主張は採用できない。

3 まとめ
以上の検討によれば、本件訂正発明1は、当業者が、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された事項及び甲第7号証に記載された事項に基づいて、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許受けることができないものである。

[無効理由3]
1 補正の概要
平成23年12月28日付けの手続補正は特許請求の範囲の請求項1の記載の補正を含む補正であり、特許請求の範囲の請求項1は、
補正前の
「【請求項1】
走行機体の後部に装着され、旧畦の一部を切り崩して土盛り作業を行う前処理体と、該前処理体によって前方に盛られた土を切り崩された旧畦上に塗り付けて新畦を形成する整畦体とを備えた畦塗り機において、
前記整畦体の表面に液体を間欠的に供給可能な液体供給装置を設けたことを特徴とする畦塗り機。」
から、
補正後(平成23年12月28日付けの手続補正)の
「【請求項1】
走行機体の後部に装着される装着部に畦塗り作業を行う作業部が走行機体幅方向に移動可能に支持されたオフセット機構を介して走行機体幅方向に移動可能に支持され、該作業部は旧畦の一部を切り崩して土盛り作業を行う前処理体と、該前処理体によって前方に盛られた土を切り崩された旧畦上に塗り付けて新畦を形成する整畦体とを有して構成され、前記整畦体の表面に液体を供給する液体供給装置が設けられた畦塗り機であって、
前記液体供給装置は、前記液体を貯留するタンクを有し、前記タンクは、前記オフセット機構の前側上方に配置された状態で前記装着部に取り付けられている
ことを特徴とする畦塗り機。」
へ補正された(下線部は補正箇所を示す。)。
特に、補正前の「間欠的に供給可能な」の記載が削除されている(以下「本件補正」という。)。

2 本件補正の適否
(1)当審の判断
願書に最初に添付した明細書には、
「【0035】
制御装置69は、タイマー回路を装備し、操作スイッチ71のON操作によって作動する。タイマー回路は、操作スイッチ71のダイヤル操作に応じてポンプ63を駆動するモータを間欠的に駆動させるとともに、間欠時間を連続状態から任意の時間に設定可能である。旧畦の水分が不足する場合には、操作スイッチ71のダイヤル操作によって、間欠時間をゼロとする連続状態に設定指示する。
なお、制御装置69は走行機体90から電力供給を受けて作動する。
【0036】
操作スイッチ71は回動可能なダイヤル部71aを備え、このダイヤル部71aを回転操作すると、制御装置69のON・OFF操作ができ、またポンプ63を駆動するモータの間欠動作を連続状態から任意の間欠時間に設定指示することができる。」と記載されている。

そして、本件補正により、本件訂正発明1の「整畦体の表面に液体を供給する液体供給装置」という記載が、「整畦体の表面に液体を間欠的に供給可能な液体供給装置」に加え、「整畦体の表面に液体を連続的に供給する液体供給装置」を含むものであるとしても、上記のとおり、願書に最初に添付した明細書には、ポンプ63を駆動するモータを間欠的に駆動させること、及び、ポンプ63を駆動するモータを連続状態で駆動させることが記載されていると認められるから、本件補正は、願書に最初に添付した特許請求の範囲、明細書及び図面全体(以下「当初明細書等」という。)に記載されているし、当初明細書等から自明な事項であるといえる。

したがって、本件補正は当初明細書等に記載された事項の範囲内においてしたものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしている。

(2)請求人の主張について
請求人は、「本件訂正特許請求の範囲の【請求項1】における「前記整畦体の表面に液体を供給する液体供給装置」という記載は、「液体を間欠的に供給可能な液体供給装置」に加え、「液体を間欠的に供給できず、液体を常に連続的に供給する液体供給装置」をも含むものである。」、「この「間欠時間をゼロとする連続状態」は、「液体を間欠的に供給可能な液体供給装置」において、間欠時間がゼロとなるように、操作スイッチの操作によって設定指示される状態である。つまり、「間欠時間をゼロとする連続状態」についての記載は、「液体を間欠的に供給可能な液体供給装置」を前提としたものである。」などと主張する。

上記(1)で説示したとおり、本件訂正発明1の「整畦体の表面に液体を供給する液体供給装置」という記載は、「整畦体の表面に液体を間欠的に供給可能な液体供給装置」に加え、「整畦体の表面に液体を連続的に供給する液体供給装置」を含むものである。
そして、当初明細書等の【0035】、【0036】には、ポンプ63を駆動するモータを間欠的に駆動させること、及び、ポンプ63を駆動するモータを連続状態で駆動させることが記載されているから、本件補正は、当初明細書等に記載されているし、当初明細書等から自明な事項であるといえる。
また、「液体を間欠的に供給できず、液体を常に連続的に供給する液体供給装置」も、当初明細書等の【0035】、【0036】の記載事項及び液体供給装置における技術常識から自明であるといえる。

よって、請求人の上記主張は採用できない。

3 まとめ
以上の検討によれば、平成23年12月28日付け手続補正書による補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしている。

[無効理由4]
1 請求人の主張
無効理由3のとおり、平成23年12月28日付け手続補正書による補正は特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、同様の理由により、本件特許の分割出願の実質的要件(分割要件)を満たしていないから、その出願日は原出願時に遡及しない。(審判請求書32頁、審判事件弁駁書22?23頁)

2 当審の判断
上記[無効理由3]で説示したとおり、平成23年12月28日付け手続補正書による補正は特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしてしているから、請求人の分割要件に係る主張も理由がない。

3 まとめ
以上のとおり、本件特許出願は特許法第44条第1項に規定する分割出願の実質的要件を満たしている。

[無効理由5]
1 当審の判断
発明の詳細な説明の【0026】には、「タンク61内に水を満水状態に入れると、タンク61の重量は重くなるが、タンク61はヒッチフレーム12に取り付けられているので、タンク61の荷重がオフセット機構20に作用することはない。このため、オフセット機構20の強度を強化する必要性がなく、重量及びコストの増大を防止することができ、また畦塗り機の重量の増大によって、畦塗り機を牽引する走行機体が限定される事態を防止することができる。」と記載されている。
そして、「タンク61の荷重がオフセット機構20に作用することはない」という効果は、タンクが収納状態であるか否かにかかわらず、また、タンクがオフセット機構の前側上方に配置されるか否かにかかわらず奏するものであることは明らかである。
そうすると、「前記タンクは、収納状態において前記オフセット機構の前側上方に配置された状態で前記装着部のうち前記ヒッチフレームに取り付けられている」ことによる技術的意義は、「タンク61の荷重がオフセット機構20に作用することはな」く、「オフセット機構20の強度を強化する必要性がなく、重量及びコストの増大を防止することができ、また畦塗り機の重量の増大によって、畦塗り機を牽引する走行機体が限定される事態を防止することができる」ことであって、明確である。

2 請求人の主張について
請求人は、「「タンクを収納状態においてオフセット機構の前側上方に配置すること」により、どのような技術的意義があるのかが、本件明細書の発明の詳細な説明の記載等を考慮しても理解することができない。」、「【0026】には、「タンク61はヒッチフレーム12に取り付けられているので、タンク61の荷重がオフセット機構20に作用することはない。このため、オフセット機構20の強度を強化する必要性がなく、重量及びコストの増大を防止することができ、また畦塗り機の重量の増大によって、畦塗り機を牽引する走行機体が限定される事態を防止することができる。」と記載されており、この記載は「タンクを装着部のうちヒッチフレームに取り付けること」の技術的意義に関する記載である。」などと主張する。

しかしながら、上記1で説示したとおり、「前記タンクは、収納状態において前記オフセット機構の前側上方に配置された状態で前記装着部のうち前記ヒッチフレームに取り付けられている」ことによる技術的意義は、「タンク61の荷重がオフセット機構20に作用することはな」く、「オフセット機構20の強度を強化する必要性がなく、重量及びコストの増大を防止することができ、また畦塗り機の重量の増大によって、畦塗り機を牽引する走行機体が限定される事態を防止することができる」ことであって、「タンクを収納状態においてオフセット機構の前側上方に配置すること」に限定した技術的意義について、発明の詳細な説明に明示的な記載がなくても明らかである。

よって、請求人の上記主張は採用できない。

3 まとめ
以上の検討によれば、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件(特許法施行規則第24条の2)を満たしている。

[無効理由6]
1 特許法第36条第6項第1号について
(1)当審の判断
本件訂正発明1の「整畦体の表面に液体を供給する液体供給装置」という記載が、「整畦体の表面に液体を連続的に供給する液体供給装置」を含むものであるとしても、本件訂正明細書の【0028】、【0029】には、ポンプ63を駆動するモータを間欠的に駆動させること、及び、ポンプ63を駆動するモータを連続状態で駆動させることが記載されているから、本件訂正発明1は、本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載されているといえる。また、液体を間欠的に供給できず、液体を常に連続的に供給することも、液体供給装置の技術常識を踏まえれば自明であるといえる。

(2)請求人の主張について
請求人は、「本件訂正特許請求の範囲の【請求項1】における「前記整畦体の表面に液体を供給する液体供給装置」という記載は、「液体を間欠的に供給できず、液体を常に連続的に供給する液体供給装置」を含むものであるが、本件訂正明細書の発明の詳細な説明には、「液体を間欠的に供給可能な液体供給装置」のみが記載されているに過ぎない。このため、本件訂正発明1は、本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載したものではない。」と主張するが、上記(1)で説示したとおりであるので、請求人の主張は採用できない。

2 特許法第36条第6項第2号について
(1)当審の判断
本件訂正発明1の「前記タンクは、収納状態において前記オフセット機構の前側上方に配置された状態」という記載によって、「(複数の部材から構成される)オフセット機構」と「(装着部のうちヒッチフレームに取り付けられた)タンク」との位置関係は、収納状態において、「(装着部のうちヒッチフレームに取り付けられた)タンク」が、「(複数の部材から構成される)オフセット機構」の前側上方に位置することが明確に把握できる。

(2)請求人の主張について
請求人は、「「複数の部材から構成されるオフセット機構」と「装着部のうちヒッチフレームに取り付けられたタンク」との位置関係が具体的に収納状態でどのような状態になっていることを意味するのか、本件訂正明細書の発明の詳細な説明には何ら記載がなく、明らかでない。」、「本件訂正明細書の【0010】の「【図3】本発明の第2実施形態に係わる畦塗り機を示し」との記載、【0040】の「水供給装置60のタンク61は、後フレーム76に取り付けられ」との記載、および【0041】の「タンク61をオフセット機構75の後フレーム76に取り付ける」との記載等から、本件訂正明細書には、「タンクがオフセット機構の後方に配置された状態」のものまでが、本件訂正発明1の実施形態として記載されている。このため、本件訂正発明1は、明確ではない。」、「上記【0008】に記載された特徴(タンクは、オフセット機構の前側上方に配置された状態で装着部に取り付けられていること)と、上記【0009】に記載された作用効果とは、全く結びつかない。また、上記【0008】の記載は、本件訂正特許請求の範囲の記載と整合していない。」などと主張する。

しかしながら、上記(1)で説示したとおり、本件訂正発明1の特許請求の範囲の記載から、収納状態において、「(装着部のうちヒッチフレームに取り付けられた)タンク」が、「(複数の部材から構成される)オフセット機構」の前側上方に位置することが明確に把握できるし、本件訂正明細書の図1及び2からも収納状態において、「(装着部のうちヒッチフレームに取り付けられた)タンク」が、「(複数の部材から構成される)オフセット機構」の前側上方に位置することが読み取れる。
また、本件訂正発明1の記載から把握される発明以外の実施形態が、本件訂正明細書に記載されているからといって、本件訂正特許請求の範囲の記載が明確でなくなるということはないし、【0008】と【0009】の記載が結びつかなく、また、【0008】の記載が本件訂正特許請求の範囲の記載と同一でないとしても、それが本件訂正特許請求の範囲の記載が明確でないことの理由にはならない。

よって、請求人の主張は採用できない。

3 まとめ
以上の検討によれば、本件訂正特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしている。

第7 むすび
以上のとおり、本件訂正発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効理由1及び2により無効とすべきものである。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
畦塗り機
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行機体の後部に装着され、前処理体、整畦体、液体供給装置を備えた畦塗り機に関する。
【背景技術】
【0002】
畦塗り機は、前処理体によって旧畦の一部を切り崩して土盛りを行い、盛られた土を整畦体によって切り崩された旧畦上に塗り付けて新畦を形成するが、旧畦の土質や水分状態によっては堅牢な畦が形成されない場合が生じることから、特許文献1に記載されているように、畦塗り体の表面に対して水を供給可能な水供給装置(文献では散水装置)を備えた畦塗り機が提案されている。
【0003】
この特許文献1に記載の水供給装置は、機枠に取り付けられた水タンクと、この水タンクの下部に設けられたコックを介して連接されて整畦体(文献では畦塗り体)の円筒部(頂部塗り部)及び多面体ドラム(側部塗り部)の上部に臨ませた複数の散水ノズルを有する導管とを有して構成される。散水ノズルは導管の延びる方向に沿って設けられている。導管は、一端がコックに接続され、他端側が整畦体の上方を水平方向に整畦体の回転中心軸に沿って延びる。コックが開放されると、水タンク内の水は導管を流れて散水ノズルから落下して整畦体に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8-56403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した従来の畦塗り機の水供給装置は、コックを一旦開くと水が連続的に導管を流れて散水ノズルから落下するので、旧畦の土が粘土質である場合に、旧畦に水を連続的に散水すると、粘土の陶器を作るときのように、土は、回転する円筒部や多面体ドラムの回転方向に沿った向きに引き込まれずに、前方に押し出されることがある。このようになると、新畦を形成する土が不足して新畦の側面等に穴が開き、畦塗りの仕上がりが悪くなるという問題が発生する。
【0006】
また従来の水供給装置は、コックの開度調整によって散水量の調整をすることができるが、水タンクから散水が連続的に行われるので、散水量の調整範囲をより細かくすることができない。このため、散水量を少量にしようとしても過剰な散水が行われ、水供給装置の使用時間が短くなるという問題が発生する。またコックを絞って散水量を少なくすると、導管に設けられた複数の散水ノズルのうちの下流側の散水ノズルに水が供給されなくなって、上流側の散水ノズルのみから水が落下する場合が生じる。このような状態になると、整畦体に供給される水の範囲が狭くなって、水供給装置の性能が低下して、整形不良の畦が形成されるという問題が発生する。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、旧畦の土が粘土質である場合でも良好な畦整形ができ、畦の土質や水分状態に応じた散水量の調整を行って水供給装置の長時間使用を可能にし、散水量を絞っても整畦体に供給される水の範囲が狭くならない液体供給装置を備えた畦塗り機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するため、本発明は、以下の特徴を有する。特徴の一つは、走行機体の後部に装着される装着部に畦塗り作業を行う作業部が走行機体幅方向に移動可能に支持されたオフセット機構を介して走行機体幅方向に移動可能に支持され、該作業部は旧畦の一部を切り崩して土盛り作業を行う前処理体と、該前処理体によって前方に盛られた土を切り崩された旧畦上に塗り付けて新畦を形成する整畦体とを有して構成され、整畦体の表面に液体を供給する液体供給装置(例えば、実施形態における水供給装置60,除草剤散布装置72,82)が設けられた畦塗り機であって、液体供給装置は、液体を貯留するタンクを有し、タンクは、オフセット機構の前側上方に配置された状態で装着部に取り付けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係わる畦塗り機によれば、前述の特徴を有することで、畦が粘土質である場合でも良好な畦の整形ができ、畦の土質や水分状態に応じた液体散布量の調整を行って液体供給装置の長時間使用を可能にすることができ、液体散布量を少なくしても整畦体に供給される液体の範囲が狭くならない畦塗り機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施形態に係わる畦塗り機を示し、同図(a)は畦塗り機の平面図であり、同図(b)は同図(a)のb矢視部分の部分拡大図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係わる畦塗り機の側面図を示す。
【図3】本発明の第2実施形態に係わる畦塗り機を示し、同図(a)は畦塗り機の平面図であり、同図(b)は同図(a)のb矢視部分の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係わる畦塗り機の実施形態を図1から図3に基づいて説明する。なお、本実施形態は、水を供給する水供給装置を備えた畦塗り機と、除草剤を散布する除草剤散布装置を備えた畦塗り機について説明する。先ず、水供給装置を備えた畦塗り機について説明する。
【0012】
[第1実施形態]
畦塗り機の第1実施形態を図1(a)(平面図)及び図2(側面図)を用いて説明する。なお、図2は、畦塗り機を収納するときに用いられるキャスターを取り付けた状態の畦塗り機の側面図を示している。畦塗り機1は、図1(a)及び図2に示すように、走行機体90の後部に設けられた三点リンク連結機構(図示せず)に連結されて、走行機体90の前進動及び後進動に応じて畦塗り作業を行なうものである。畦塗り機1は、走行機体90からの動力が入力される入力軸11aを備えた装着部10と、装着部10に取り付けられた旋回シリンダ3によって装着部10から左右方向に揺動可能なオフセット機構20と、オフセット機構20の移動端側(後端側)に配設されて入力軸11aから伝達される動力によってオフセット作業を行なう作業部40とを有してなる。
【0013】
装着部10は、左右方向に延びるヒッチフレーム12と、ヒッチフレーム12の前側に取り付けられて走行機体90の後部に設けられた三点リンク連結機構に連結可能な図示しない連結フレームとを有してなり、ヒッチフレーム12の中央下部に取り付けられたギアボックス11内に前述した入力軸11aが設けられている。入力軸11aは、走行機体90のPTO軸(図示せず)から伝動軸(図示せず)を介して動力が伝達されるようになっている。
【0014】
オフセット機構20は、前端側をヒッチフレーム12に回動自在に連結されて後方側へ延びるオフセットフレーム21と、オフセットフレーム21の左側に沿って並設されて前端側がヒッチフレーム12の左側端部に回動自在に連結されたリンク部材25とを有してなる。リンク部材25の後端側は、オフセットフレーム21の後端部に回動自在に設けられた連結部23に繋がる連結アーム部材23aに回動自在に取り付けられている。オフセット機構20は、オフセットフレーム21、リンク部材25、ヒッチフレーム12及び連結アーム部材23aによって平行リンク機構を形成している。
【0015】
オフセットフレーム21は、これとヒッチフレーム12との間に枢結された旋回シリンダ3の伸縮により左右方向に揺動可能である。オフセットフレーム21内には図示しない動力伝達機構が設けられ、この動力伝達機構によって、走行機体90から入力軸11aに伝達された動力がオフセットフレーム21の後端側に回動自在に配設された従動軸22に伝達されるようになっている。
【0016】
従動軸22の下部にはこれと同軸上に配置されて下方へ延びる図示しない回動中心軸が連結されている。この回動中心軸は、オフセットフレーム21の後端下部に回動自在に取り付けられた連結部23を貫いて下方へ延びて連結部23と非結合状態にあり、連結部23は回動中心軸を回動支点Oとして回動自在である。回動中心軸の下端部に作業部40から延びるフレーム部41が取り付けられている。
【0017】
フレーム部41は、オフセットフレーム21とフレーム部41との間に繋がれた連結機構30の伸縮シリンダ31の伸縮によって回動支点Oを回動中心として回動可能である。連結機構30は、連結部23と、連結部23及びフレーム部41間に繋がれた回動リンク機構32と、回動リンク機構32及び作業部40間に繋がれて回動リンク機構32を伸縮させる伸縮シリンダ31とを有する。回動リンク機構32は、伸縮シリンダ31が全縮状態になるとフレーム部41を左右方向右側に平行に延ばし、伸縮シリンダ31が全伸長状態になるとフレーム部41を左右方向左側に平行に延ばすように構成されている。
【0018】
このように構成された連結機構30は、フレーム部41が左右方向に平行に延びた状態で伸縮シリンダ31の伸縮を規制すると、フレーム部41と連結部23とを一体化させる。その結果、フレーム部41と連結部23とが一体化した状態でオフセット機構20が左右に揺動すると、回動リンク機構32を介して連結部23に繋がるフレーム部41が左右方向に平行状態に維持されたままでオフセット移動する。
【0019】
フレーム部41には巻き掛け伝動機構(図示せず)が内蔵されており、この巻き掛け伝動機構を介して回転中心軸に伝達された動力がフレーム部41の先端部に伝達されるようになっている。
【0020】
フレーム部41の先端下部には駆動軸ケース42が下方へ延び、この駆動軸ケース42に作業部40が接続されている。駆動軸ケース42内には図示しない動力伝達機構が内蔵され、この動力伝達機構は、フレーム部41内の巻き掛け伝動機構を介して動力が伝達されるようになっている。
【0021】
作業部40は、圃場の周辺に沿って形成された旧畦の上部を切り崩す天場処理体45と、切り崩した土の土盛りを行なう前処理体49と、盛られた土を切り崩された旧畦上に塗り付ける整畦体53を有してなる。
【0022】
天場処理体45は回転自在な図示しない天場処理ロータを備え、この天場処理ロータは駆動軸ケース42の動力伝達機構から伝達される動力を受けて回転駆動するようになっている。前処理体49は、回転自在な図示しない耕耘ロータを備え、この耕耘ロータは駆動軸ケース42の動力伝達機構から伝達される動力を受けて回転駆動するようになっている。整畦体53は、左右方向に延びて回転自在に支持された回転軸54に取り付けられた多面体ドラム55と、多面体ドラム55の右側端部に取り付けられて横方向に延びる円筒部56を有する。整畦体53は駆動軸ケース42の動力伝達機構から伝達される動力を受けて回転駆動するようになっている。
【0023】
作業部40は、フレーム部41が左右方向に平行に延びた状態において、整畦体53の回転軸54がフレーム部41の延びる方向と平行になるようにフレーム部41に対して配設されている。つまり、作業部40は、フレーム部41が左右方向に平行に延びた状態になると、作業部40の向きを示す作業方向軸O2が走行機体90の進行方向Aと平行になるように配設されている。
【0024】
このように構成された作業部40は、走行機体90が前進走行すると、それに伴って進行して、天場処理体45が圃場の一辺の旧畦の上部を切り崩し、前処理体49が切り崩した土の土盛りを行ない、整畦体53が盛られた土を切り崩された旧畦上に塗り付けて、圃場の一辺を連続的に畦塗りする。
【0025】
このような畦塗り作業は、圃場の土質や水分状態によって新畦をきれいに整形することができない場合がある。そこで、本実施形態の畦塗り機1には、整畦体53に水を供給する水供給装置60が装備されている。この水供給装置60は、ヒッチフレーム12に取り付けられたタンク61と、タンク61に装着されてモータにより駆動されるポンプ63と、ポンプ63に一端側が接続されて他端側が整畦体53に延びる配管65と、配管65の他端側端部に取り付けられたノズル67と、ポンプ63のモータの動作を制御する制御装置69と、走行機体90に設けられてポンプ63を遠隔操作可能な操作スイッチ71とを有してなる。
【0026】
タンク61は、上部に設けられた注入口61aから水の供給が可能であり注入口61aに着脱可能なキャップ61bが取り付けられている。タンク61の下部にはモータ駆動のポンプ63が取り付けられている。モータは電動式であって制御装置69と電気的に接続され、制御装置69によってモータ回転数が制御される。タンク61内に水を満水状態に入れると、タンク61の重量は重くなるが、タンク61はヒッチフレーム12に取り付けられているので、タンク61の荷重がオフセット機構20に作用することはない。このため、オフセット機構20の強度を強化する必要性がなく、重量及びコストの増大を防止することができ、また畦塗り機の重量の増大によって、畦塗り機を牽引する走行機体が限定される事態を防止することができる。
【0027】
配管65に取り付けられたノズル67は、ノズル67の基軸部67aに対して回動可能に取り付けられて散水方向の調整が可能である。ノズル67は、多面体ドラム55の上側を覆うカバー部57の後端部に取り付けられた支持部材68を介して支持されており、ノズル67の吐出口は多面体ドラム55の表面側に向いている。このため、ノズル67から吐出する水は、多面体ドラム55の表面に散布される。
【0028】
制御装置69は、タイマー回路を装備し、操作スイッチ71のON操作によって作動する。タイマー回路は、操作スイッチ71のダイヤル操作に応じてポンプ63を駆動するモータを間欠的に駆動させるとともに、間欠時間を連続状態から任意の時間に設定可能である。旧畦の水分が不足する場合には、操作スイッチ71のダイヤル操作によって、間欠時間をゼロとする連続状態に設定指示する。
なお、制御装置69は走行機体90から電力供給を受けて作動する。
【0029】
操作スイッチ71は回動可能なダイヤル部71aを備え、このダイヤル部71aを回転操作すると、制御装置69のON・OFF操作ができ、またポンプ63を駆動するモータの間欠動作を連続状態から任意の間欠時間に設定指示することができる。
【0030】
このような水供給装置60によって、水が多面体ドラム55の表面に散布されると、多面体ドラム55に接する圃場の耕土に給水され、ドラム表面と耕土との接触抵抗も小さくなり、回転する多面体ドラム55によって旧畦に対して耕土が十分に締め固められるとともに畦表面がきれいに仕上げられる。
【0031】
例えば、耕土が粘土質である場合には、多面体ドラム55に水を供給しないと、多面体ドラム55の表面に耕土が付着し、この付着した耕土によって新畦の表面が荒らされるとともに、締め固めようとする多面体ドラム55の表面に新畦の耕土が付着して、新畦の整形が殆どできなくなる。
【0032】
このような場合、水供給装置60によって、多面体ドラム55に間欠的に水を供給すると、多面体ドラム表面に付着しようとする粘土質の耕土が水によってスリップして、多面体ドラム表面への耕土の付着を防止することができる。そして、この耕土は、多面体ドラム55の回転方向に沿って移動するとともに締め固められる。また形成過程の新畦は、多面体ドラム表面に接触しても、多面体ドラム55に供給された水によってスリップして多面体ドラム表面に新畦の耕土が付着することはない。このため、きれいな新畦を形成することができる。
【0033】
しかしながら、多面体ドラム55に供給される水の量が多すぎると、粘土の陶器を作るときのように、耕土は、回転する円筒部56や多面体ドラム55の回転方向に沿った向きに引き込まれずに、前方に押し出されてしまい、その結果、新畦を形成する土が不足して新畦の側面等に穴が開いて仕上がりの悪い新畦が形成される。
【0034】
本実施形態の畦塗り機1の水供給装置60は、前述したように間欠的に水を多面体ドラム55に供給するとともに間欠時間の調整も可能であるので、水の供給量を細かく調整することができる。このため、耕土の状態に応じて、多面体ドラム表面に耕土が付着せず且つ回転する円筒部56や多面体ドラム55の回転方向に沿った向きに耕土が引き込まれるように、水の供給量の調整をすることができる。従って、どのような土質や水分状態であっても、常に仕上がりがきれいな新畦を形成することができる。また畦の土質や水分状態に応じた水の供給調整が可能であるので、土質等に拘わらずに常に連続散水する場合と比較して、水供給装置60の長時間使用を可能にすることができる。さらに、ノズル67から散水される水は、ポンプ63によって加圧されてノズル67から吐出するので、間欠時間の間隔を開けて水の供給量を減らしても、ノズル67から吐出する水の勢いは変わらない。このため、多面体ドラム55に散布される水の供給範囲は変わらず、水の供給能力が低下することもない。
【0035】
なお、前述した実施例では、タンク61に水を入れた場合を示したが、このタンク61内に液体の除草剤を入れてもよい。除草剤をタンク61に入れると、前述した水供給装置60を除草剤散布装置72として使用することができる。新畦の形成と同時に整形された新畦に対して除草剤を散布したい場合には、図1(b)(部分拡大図)に示すように、ノズル67の吐出口を畦塗り機1の後方側に向ける。
【0036】
[第2の実施の形態]
次に、畦塗り機の第2実施形態を説明する。第2実施形態では第1実施形態との相違点のみを説明し、第1実施形態と同一態様部分については同一符号を附してその説明を省略する。
【0037】
第2実施形態の畦塗り機1’は、図3(a)(平面図)に示すように、平行リンク機構を有するオフセット機構75の後端部に設けられた後フレーム76に作業部77が取り付けられ、オフセット機構75の左右方向の揺動によって作業部77をオフセット移動させるものである。
【0038】
オフセット機構75は、ヒッチフレーム12と、この左右両端部に枢結された左右一対のリンク部材78と、これらリンク部材78の後端部を枢結した後フレーム76とを有して構成され、調整ロッド79の伸縮によって左右方向に揺動可能である。
【0039】
ヒッチフレーム12と後フレーム76との間には、ユニバーサルジョイント及び伝動シャフトからなる伝動装置80と動力入力部81が設けられ、走行機体90から入力軸11aに入力された動力は、伝動装置80及び動力入力部81を介して作業部77に伝達されるようになっている。作業部77は、前側から前処理体49及び整畦体53を有して構成されて、後フレーム76に取り付けられている。
【0040】
水供給装置60のタンク61は、後フレーム76に取り付けられ、タンク61から延びる配管65はタンク61から整畦体53を覆うカバー部57の後方へ延びて、カバー部57に取り付けられたノズル67の基軸部67aに接続されている。
【0041】
このように水供給装置60のタンク61をオフセット機構75の後フレーム76に取り付けることで、オフセット機構75の左右揺動に拘わらずにタンク61と整畦体53の相対位置を常に一定にすることができるとともに、タンク61を整畦体53の近傍位置に配置することができる。このため、配管65の引き回しが容易となり、且つ配管65の長さを短縮化することができる。
【0042】
なお、第2実施形態の水供給装置60のタンク61に液体の除草剤を入れると、前述した水供給装置60を除草剤散布装置82として使用することができる。新畦の形成と同時に整形された新畦に対して除草剤を散布したい場合には、図3(b)(部分拡大図)に示すように、ノズル67の吐出口は畦塗り機1’の後方側に向ける。
【符号の説明】
【0043】
1 畦塗り機
10 装着部
20 オフセット機構
49 前処理体
53 整畦体
60 水供給装置(液体供給装置)
61 タンク
72 除草剤散布装置(液体供給装置)
90 走行機体
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体の後部に装着される連結フレーム及び前記連結フレームに接続されるヒッチフレームを含む装着部に、畦塗り作業を行う作業部が、走行機体幅方向に移動可能に支持されて前端側が前記ヒッチフレームに回動自在に連結された複数の部材から構成されるオフセット機構を介して、走行機体幅方向に移動可能に支持され、該作業部は旧畦の一部を切り崩して土盛り作業を行う前処理体と、該前処理体によって前方に盛られた土を切り崩された旧畦上に塗り付けて新畦を形成する整畦体とを有して構成され、前記整畦体の表面に液体を供給する液体供給装置が設けられた畦塗り機であって、
前記液体供給装置は、前記液体を貯留するタンクを有し、
前記タンクは、収納状態において前記オフセット機構の前側上方に配置された状態で前記装着部のうち前記ヒッチフレームに取り付けられており、前記タンクの荷重が前記オフセット機構に作用しない
ことを特徴とする畦塗り機。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2016-04-04 
結審通知日 2016-04-06 
審決日 2016-04-20 
出願番号 特願2011-288514(P2011-288514)
審決分類 P 1 113・ 537- ZAA (A01B)
P 1 113・ 121- ZAA (A01B)
P 1 113・ 536- ZAA (A01B)
P 1 113・ 55- ZAA (A01B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 有家 秀郎  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 谷垣 圭二
小野 忠悦
登録日 2013-09-13 
登録番号 特許第5364783号(P5364783)
発明の名称 畦塗り機  
代理人 幸谷 泰造  
代理人 福永 健司  
代理人 北島 志保  
代理人 高橋 雄一郎  
代理人 樺澤 聡  
代理人 小林 幸夫  
代理人 福永 健司  
代理人 林 佳輔  
代理人 高見 憲  
代理人 高橋 雄一郎  
代理人 弓削田 博  
代理人 幸谷 泰造  
代理人 和田 祐造  
代理人 林 佳輔  
代理人 河部 康弘  
代理人 山田 哲也  
代理人 鮫島 正洋  
代理人 鮫島 正洋  
代理人 高見 憲  
代理人 和田 祐造  
代理人 樺澤 襄  
代理人 北島 志保  

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