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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08G
審判 全部無効 特174条1項  C08G
審判 全部無効 2項進歩性  C08G
管理番号 1318329
審判番号 無効2015-800037  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-02-24 
確定日 2016-06-20 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5498156号発明「放射線-または熱-硬化性バリヤシーラント」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 1 特許第5498156号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正した特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 2 本件審判の請求は,成り立たない。 3 審判費用は,請求人らの負担とする。 
理由 第1 請求
特許第5498156号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。

第2 主な手続の経緯等
1 被請求人は,発明の名称を「放射線-または熱-硬化性バリヤシーラント」とする特許第5498156号(設定登録時の請求項の数は1。以下「本件特許」という。)の特許権者である。
本件特許は,国際出願日である平成18年3月29日にされたとみなされる特許出願(特願2009-502735号)に係るものであり,平成26年3月14日に設定登録されたものである。

2(1) 請求人らは,平成27年2月24日,本件特許の請求項1に記載された発明についての特許(以下「本件特許1」という。)について特許無効審判を請求し,これに対して,被請求人は同年6月10日に答弁書を提出した。
(2) 審判長は,平成27年7月6日付けで両当事者に対し口頭審理における審理事項を通知し(審理事項通知書),これに対して,請求人ら及び被請求人は同年8月25日にそれぞれ口頭審理陳述要領書を提出した。
(3) 平成27年9月8日,請求人ら,被請求人代理人らの出頭のもと,第1回口頭審理が行われた。

3 平成27年9月30日付けで特許法164条の2第1項所定の審決の予告がされた。

4(1) 被請求人は,平成27年12月25日,上申書を提出するとともに,訂正請求書を提出して本件特許に係る特許請求の範囲の訂正(以下「本件訂正」という。)を請求した。
(2) 審判長は,請求人らに対し,平成28年2月4日付けで,平成27年12月25日付け訂正請求書の副本及び同日付け上申書の副本を送付するとともに,期間を指定して(当該副本発送の日から30日),本件訂正の請求に対する意見の有無を確認した。(なお,請求人らからは,指定期間内に何ら応答がなかった。)

第3 本件訂正の可否
1 被請求人の請求の趣旨
結論第1項に同旨である。すなわち,願書に添付した特許請求の範囲について,訂正請求書に添付された訂正した特許請求の範囲のとおりに訂正することを求める。

2 訂正の要旨
訂正請求書の記載によれば,被請求人の求める訂正は,実質,以下のとおりである。
[訂正事項1]
請求項1を以下のとおり訂正する。
・ 訂正前
「(a)以下のエポキシ化合物:
【化1】

(審決注:以下「EPON862」という。);
(b)ジアリールヨードニウム塩カチオン光開始剤;
(c)場合により一種以上の充填剤;
(d)場合により一種以上の接着促進剤
を含むカチオン硬化性バリヤー組成物であって,
さらに以下のもの:
【化2】

(審決注:以下「DCRDGE」という。)

(審決注:以下「RDGE」という。)
及び

(審決注:以下「Epiclon HP-7200」という場合がある。)
からなる群から選ばれるエポキシ化合物を含む組成物。」
・ 訂正後
「(a)以下のエポキシ化合物:
EPON862;
(b)ジアリールヨードニウム塩カチオン光開始剤;
(c)場合により一種以上の充填剤;
(d)場合により一種以上の接着促進剤
を含むカチオン硬化性バリヤー組成物であって,
さらに以下のもの:
DCRDGE
及び
RDGE
からなる群から選ばれるエポキシ化合物を含む組成物。」

3 本件訂正の可否についての判断
訂正事項1の訂正は,請求項1に係る発明を特定する事項である「エポキシ化合物」について,本件訂正前に「DCRDGE RDGE及びEpiclon HP-7200からなる群から選ばれる」との択一的な記載である「DCRDGE」,「RDGE」及び「Epiclon HP-7200」のうち,「Epiclon HP-7200」を削除するものであるから,特許請求の範囲を減縮することを目的とするものであるといえる。しかも,この訂正が,願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであるのは明らかである。
よって,訂正事項1の訂正は,特許請求の範囲を減縮することを目的とし,願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり,また実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもないといえる。

4 小括
上記のとおり,上記訂正事項1に係る訂正は,特許法134条の2第1項ただし書き1号に掲げる事項を目的とするものであり,しかも同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に違反するものでもない。
よって,結論第1項のとおり,本件訂正を認める。

第4 本件発明の要旨
上記第3のとおり本件訂正は認容されるから,審決が判断の対象とすべき特許に係る発明は本件訂正後のものである。そして,その要旨は,その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下「本件訂正発明1」という。なお,本件訂正前の請求項1の記載に係る発明を「本件発明1」という場合がある。)。
「(a)以下のエポキシ化合物:
EPON862;
(b)ジアリールヨードニウム塩カチオン光開始剤;
(c)場合により一種以上の充填剤;
(d)場合により一種以上の接着促進剤
を含むカチオン硬化性バリヤー組成物であって,
さらに以下のもの:
DCRDGE
及び
RDGE
からなる群から選ばれるエポキシ化合物を含む組成物。」

第5 当事者の主張
1 無効理由に係る請求人らの主張
本件特許1は,下記(1)?(4)のとおりの無効理由があるから,特許法123条1項1号,2号及び4号に該当し,無効とすべきものである(第1回口頭審理調書及び主張の全趣旨)。
また,証拠方法として書証を申出,下記(5)のとおりの文書(甲1?15)を提出する。

(1) 無効理由1(新規事項の追加について)
本件発明1の硬化性バリヤー組成物について,エポキシ化合物としてEPON862及びEpiclon HP-7200が選択される場合のものは,平成25年10月2日付け手続補正(甲3)により追加されたものである。
しかるところ,上記手続補正は,願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲または図面に記載されていない技術的事項を追加するものであって特許法17条の2第3項の規定に違反するから,本件特許1は,特許法123条1項1号の規定により無効とされるべきものである。

(2) 無効理由2(サポート要件違反について)
特許請求の範囲(請求項1)の記載が,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
すなわち,本件発明1に係る硬化性バリヤー組成物のうち,エポキシ化合物としてEPON862及びEpiclon HP-7200が選択される場合のものは,明細書に具体的に記載されておらずかつ当業者が本件発明1の課題を解決できるものと認識することができる範囲内のものでもない。
そして,このような組み合わせを含む本件発明1は,明細書の記載の裏付けを欠くものであって,特許法36条6項1号の規定に違反するから,本件特許1は,特許法123条1項4号の規定により無効とされるべきものである。

(3) 無効理由3(進歩性欠如・その1について)
本件発明1ないし本件訂正発明1は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない発明である。
すなわち,EPON862はバリヤー組成物に含有されるエポキシ化合物として周知であり(甲4?10),ジアリールヨードニウム塩カチオン光開始剤はバリヤー組成物に含有される成分として周知であり(甲4?8),さらに,Epiclon HP-7200もバリヤー組成物に含有されるエポキシ化合物として周知であって(甲7,11?12),本件発明1は,バリヤー組成物に使用される成分として周知のものを単に組み合わせたにすぎない。
あるいは,甲4?8から,EPON862とジアリールヨードニウム塩カチオン光開始剤を含むバリヤー組成物は公知であるといえるところ,本件発明1は,当該公知発明に上述の周知技術(バリヤー組成物の成分としてEpiclon HP-7200を含有させること。甲7,11?12)を組み合わせたにすぎないものである(口頭審理陳述要領書7?8頁)。
したがって,本件特許1は,特許法123条1項2号の規定により無効とされるべきものである。

(4) 無効理由4(進歩性欠如・その2について)
本件発明1ないし本件訂正発明1は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない発明である。
すなわち,本件発明1ないし本件訂正発明1は,甲4を主引例として,甲4に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって,本件特許1は,特許法123条1項2号の規定により無効とされるべきものである。

(5) 証拠方法
・甲1 特許第5498156号公報
・甲2 特表2009-531515号公報
・甲3 特願2009-502735号に係る平成25年10月2日付け手続補正書
・甲4 特開2003-327951号公報
・甲5 特開2004-75929号公報
・甲6 特開2001-139933号公報
・甲7 国際公開第2005/019299号
・甲8 国際公開第2004/075333号
・甲9 特開平5-262850号公報
・甲10 特開平6-329760号公報
・甲11 常識破りの最新鋭エポキシ樹脂,小椋一郎,DIC Technical Review No.11/2005,21?28頁
・甲12 エポキシ樹脂の化学構造と特性の関係,小椋一郎,DIC Technical Review No.7/2001,1?12頁
・甲13 塩月秀平,別冊ジュリストNo.170 2004/2,120?121頁
・甲14 相田義明,AIPPI(2003)Vol.48 No.4 292?311頁
・甲15 特許庁審判部「進歩性検討会報告書(抜粋)」平成19年3月

2 被請求人の主張
(1) 結論第2項に同旨である。すなわち,本件審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人らの負担とする旨の審決を求める。請求人ら主張の無効理由1?4は,いずれも理由がない。

(2) また,証拠方法として書証を申出,以下の文書(乙1?3)を提出する。
・乙1 半導体封止材に用いられる新規高性能結晶性エポキシ樹脂の開発,小椋一郎ら,DIC Technical Review No.5/1999,21?29頁
・乙2 特願2002-135756号の審査段階で特許庁審査官が作成した平成19年1月12日付け拒絶理由通知書
・乙3 特願2002-135756号の審査段階で提出された平成19年3月19日付け意見書

第6 当合議体の判断
当合議体は,本件特許1について,以下述べるように,無効理由1?4にはいずれも理由はないと解する。

1 本件発明について
(1) 本件訂正発明1の要旨
上記第4で認定のとおりである。

(2) 本件訂正発明1の解決課題や技術的意義など
ア 独立請求項に係る発明である本件訂正発明1について,本件の明細書(甲1)には,次の記載がある。(下線は,審決で付記。以下同じ。)
「本発明は,電子及び光電子デバイスで使用するためのバリヤシーラント,接着剤,封入剤及びコーティングに関する。…」(【0003】)
「多くの光電子デバイスは感湿性(moisuture sensitive)または酸素感受性でもあるので,その有効寿命の間に影響を受けないようにする必要がある。一般的なアプローチとしては,デバイスが配置されている不浸透性基板と不浸透性ガラスまたは金属製の蓋との間にデバイスをシールし,放射線硬化性接着剤またはシーラントを使用して蓋の周囲を底の基板にシールまたは接着することである。」(【0005】)
「…電子及び光電子デバイスに関しては,透湿性は酸素透過性よりも重要であることが多い。従って,酸素バリヤ必要条件はそれほど逼迫しておらず,デバイスの良好な性能にとって重要なのは周辺シーラントの防湿(moisture barrier)特性である。」(【0007】)
「本発明は,以下の一般構造:
【化1】

をもつメタ-置換反応基をもつ芳香族(官能基)化合物(審決注:【化1】の化学構造式のものを,以下単に「メタ置換反応基をもつ芳香族化合物」という。)と開始剤との組み合わせによって,特に水分に対して優れたバリヤ性能を提供する。式中,全てのR,L及びRF基は,本明細書の目的及び請求の範囲に関して互いに独立して選択され,
R^(1),R^(2),R^(3),R^(4)は,水素,ハロゲン,シアノ,アルキル,アリール及び置換アルキルまたはアリール基からなる群から選択され;R^(5),R^(6)は一般構造:-C_(n)H_(2n)-(式中,n=0?4である)(nが0であるとき,R^(5),R^(6)は存在しないことは理解されよう)をもつ二価炭化水素リンカーであり,R^(1),R^(2),R^(3),R^(4),R^(5),R^(6)のいずれか二つは同一環式構造の一部を形成することができる;
L^(1),L^(2),L^(3),L^(4),L^(5),L^(6)は直接結合であるか,…であり,
RF及びRF’は,脂肪族エポキシ,グリシジルエーテル,脂環式エポキシ,ヒドロキシル(-OH),ビニルエーテル,プロペニルエーテル,クロチルエーテル,スチレン,アクリレート,メタクリレート,イタコネート,マレイミド,マレエート,フマレート,シンナメート,アクリルアミド,メタクリルアミド,カルコン,チオール,アリル,アルケニル及びシクロアルケニル基からなる群から選択される硬化性官能基である。…」(【0016】?【0019】)
「そのようなバリヤ材料は,単独,または他の硬化性樹脂及び種々の充填剤と組み合わせて使用することができる。得られた組成物は電子,光電子,電気泳動及びMEMSデバイスをシール及び封入する際に使用するのにこれらを効果的にするのに,商業的に受け入れられる硬化速度,高架橋密度と分子充填のバランス(低いpermeant移動度/分散性,D),疎水性(低い水溶性,S),及び接着性(強い接着剤/基板界面)を示す。
発明の詳細な説明
本発明は,(a)メタ-置換反応基をもつ芳香族化合物と,(b)カチオン若しくはラジカル開始剤,またはその両方とを含む硬化性バリヤシーラントである。バリヤ接着剤またはシーラントは,場合により(c)一種以上の充填剤と,場合により(d)一種以上の接着促進剤を含む。種々の性能条件を満足するために,一種以上の追加のエポキシ樹脂をカチオンまたはカチオン/ラジカルハイブリッド系で使用することができ,これらの樹脂は,好ましくはビスフェノールFジグリシジルエーテル,ノボラックグリシジルエーテル,多環式エポキシ,及びハロゲン化グリシジルエーテルからなる群から選択される。カチオンまたはラジカル光開始剤を使用すると,放射線-硬化性配合物となり;室温または高温で重合を始動し得るカチオン及び/またはラジカル系を使用すると,熱硬化性配合物となる。得られた組成物は,電子及び光電子デバイスのシール及び封入で使用するのに適している。…」(【0022】?【0023】)
「…好ましいカチオン光開始剤としては,ジアリルヨードニウム塩とトリアリルスルホニウム塩が挙げられる。…ジアリルヨードニウム塩の好ましい増感剤は,イソプロピルチオキサントン(本明細書中,ITXと称する,2-及び4-異性体の混合物として販売されることが多い)及び2-クロロ-4-プロポキシトリキサントンがある。…」(【0026】)
「実施例2:種々のエポキシの透湿性能の比較
カチオンエポキシ数種をUV硬化させ,結果を表1に集めた。それぞれの樹脂は,2%UV9380C(GE Silicones)カチオン光開始剤と混合し,テフロン(登録商標)プレート上にコーティングして,8路可変擦過器(eight-path variable scraper)で2-5ミル薄さのフィルムを製造し,Dymax固定UV硬化装置下で6J UVAで硬化し,続いて175℃で1時間アニールした。フィルムの透湿係数を50℃,100%相対湿度でMocon Permeatran3/33で測定した。標準化した透湿データを表1に示す。…
【表1】

比較すると解るように,レゾルシノールジグリシジルエーテル(RDGE,Aldrich)は,最も低い透湿性の一つを与える。EPON828対BPADGE-BR及びBPADGE-CF3の比較から,ハロゲン化エポキシは通常,その通常の炭化水素類似体よりもよいことも解る。硬化BPADGE-BRフィルムはRDGEよりもさらに透湿性が低いが,このサンプルは固体で,フィルムを作るのに100℃を超える加熱が必要である。」(【0039】?【0043】)
「実施例4.透過係数における芳香族置換の影響
硬化配合物の透過率における種々の樹脂の基幹構造(backbone structure)の影響をタルクを充填した配合物で示す。32.5部EPON862,樹脂添加剤32.5部,タルク35部を含む数種のブレンドを調製し,硬化させた。それぞれの配合物は,樹脂をベースとして2重量%SR1012と0.21重量%ITXを含んでおり,3J UVAで硬化し,続いて70℃/10分,熱アニールした。結果を表2にまとめる。芳香族基幹とメタ置換の影響を比較で示す。
【表2】

」(【0049】?【0051】)
「実施例5.RDGE-ベースのバリヤシーラント1
RDGE/EPON862混合物,光開始系(カチオン光開始剤及びITX)とシラン接着促進剤をプラスチックジャーに入れ,透明になるまで1時間,渦巻きミキサー(vortex mixer)で混合した。次いでミクロンサイズのシリカをジャーに添加し,サンプル全体を渦巻きミキサーでさらに1時間攪拌した。得られたペーストをさらにセラミック3ロールミルで攪拌し,真空チャンバで脱気した。組成と重量部を表4に示す。…
【表4】

透湿性を測定するために,配合材料1?2グラムをテフロンコーティングアルミニウムプレート上に置いた。8-路可変擦過器を使用して均等な厚さのフィルムをキャストした。次いでサンプルをDymax固定UV硬化装置下におき,中圧水銀ランプを使用して70秒間(3.3J/cm^(2) UVA)で硬化させた。サンプル表面上の放射照度は,UV Power Puck高エネルギーUV放射計(EIT Inc.,Sterling,VA)で測定し,それぞれ47(UVA),32(UVB),3(UVC),35(UVV)mW/cm^(2)であった。上記フィルムの透湿係数(50℃,100%相対湿度)をMocon Permeation 3/33で測定し,3.0g・ミル/100平方インチ・日であることが判明した。」(【0056】?【0059】)
「実施例6.RDGE-ベースのバリヤシーラント#2
多環式エポキシを含むバリヤシーラント#2をバリヤシーラント#1と同様に製造し,成分を表5に列記する。
【表5】

Eliclon(審決注:「Epiclon」の誤記と認められる。) HP-7200(DAINIPPON INK&CHEMICALS)は以下の構造をもつ:
【化18】

6J UVA後の上記サンプルの透湿係数(50℃,100%相対湿度)をMocon Permeatran 3/33で測定し,2.6g・ミル/100平方インチ・日であることが判明した。…」(【0061】?【0064】)
イ 上記アの摘記から,本件訂正発明1について,概ね次のことがいえる。
(ア) 多くの光電子デバイスは感湿性又は酸素感受性であり,デバイスが配置されている不浸透性基板と不浸透性ガラス又は金属製の蓋との間で放射線硬化性接着剤またはシーラントを使用して蓋の周囲を底の基板にシール又は接着する際,その有効寿命に影響を受けないようにする必要があった。特に,電子及び光電子デバイスの良好な性能にとって重要なのは,酸素透過性よりも,周辺シーラントの防湿特性であるという課題があった。
(イ) 本件訂正発明1は,メタ置換反応基をもつ芳香族化合物とカチオン若しくはラジカル開始剤との組み合わせを含む硬化性バリヤ組成物が,特に水分に対して優れたバリヤ性能を発揮することに着目してなされたものであるといえる。

2 証拠について
(1) 甲4の記載
本件特許に係る出願日(特許法184条の3第1項のみなし規定によるもの。)の前に日本国内において頒布された刊行物である甲4には,次の記載がある。
「【請求項1】 (A)オキセタン環を有する化合物,(B)少なくとも1つのエポキシ基を有する多環式化合物,および(C)光カチオン開始剤を含有し,25℃の粘度が0.01ないし300Pa・sの範囲であることを特徴とするシール材用光硬化型樹脂組成物。…
【請求項6】 前記シール材用光硬化型樹脂組成物が,さらに(F)前記少なくとも1つのエポキシ基を有する多環式化合物(B)と異なる,エポキシ基を有する化合物を含有することを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載のシール材用光硬化型樹脂組成物。…
【請求項9】 (G)カチオン重合性化合物,
(C)光カチオン開始剤
を含有し,25℃の粘度が0.01ないし300Pa・sの範囲であり,硬化物のフィルムスティフネス強度が50?200N/mm^(2.5)であることを特徴とするシール材用光硬化型樹脂組成物。
【請求項10】 前記カチオン重合性化合物(G)が,(H)エポキシ基を有する化合物及び/又は(A)オキセタン環を有する化合物であることを特徴とする請求項9に記載のシール材用光硬化型樹脂組成物。…」(【特許請求の範囲】)
「【発明の技術分野】本発明は,シール材用光硬化型樹脂組成物,その用途,特に液晶ディスプレイ用シール材およびエレクトロルミネッセンスディスプレイ用シール材に関する。さらに詳しくは,接着強度,耐透湿性,光硬化性に優れ,特に接着強度に優れるシール材用光硬化型樹脂組成物及びその用途に関する。」(【0001】)
「【発明の具体的説明】本発明に係るシール材用光硬化型樹脂組成物は,(A)オキセタン環を有する化合物,(B)少なくとも1つのエポキシ基を有する多環式化合物,および(C)光カチオン開始剤を含有し,25℃の粘度が0.01ないし300Pa・sの範囲であることを特徴としている(発明1)。
また,本発明に係るシール材用光硬化型樹脂組成物は,(G)カチオン重合性化合物,(C)光カチオン開始剤を含有し,25℃の粘度が0.01ないし300Pa・sの範囲であり,硬化物のフィルムスティフネス強度が50?200N/mm^(2.5)とであることを特徴としている(発明2)。」(【0039】?【0040】)
「…[(B)エポキシ基を有する脂環式化合物] 本発明1で用いられる少なくとも一つのエポキシ基を有する多環式化合物(B)は,多環式骨格を有し,エポキシ基を少なくとも1つ有する化合物である。
このような少なくとも一つのエポキシ基を有する多環式化合物(B)のエポキシ基は,少なくとも1つがグリシジル基であることが好ましい。
さらに,少なくとも一つのエポキシ基を有する多環式化合物(B)の多環式骨格は,ノルボルネン環を少なくとも1つ有することが好ましい。
このような本発明で用いられる少なくとも一つのエポキシ基を有する多環式化合物(B)としては,…下記一般式(32)で表されるジシクロペンタジェンフェノール型エポキシ樹脂が挙げられる。…
【化36】

前記一般式(32)中,nは好ましくは1?30の整数,さらに好ましくは1?10の整数である。
これらの少なくとも一つのエポキシ基を有する多環式化合物(B)成分は,1種単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
このような少なくとも一つのエポキシ基を有する多環式化合物(B)を,オキセタン環を有する化合物(A)と併用して用いると,硬化物の可とう性が向上し,優れた接着性を発揮することができる。」(【0118】?【0126】)
「[(H)エポキシ基を有する化合物] 本発明2で用いることのできるエポキシ基を有する化合物(H)は,エポキシ基を少なくとも1つ有する化合物であればいずれでも使用することができる。エポキシ基を有する化合物(H)としては以下のものが例示できる。
例えばエポキシ基を好ましくは1?15,さらに好ましくは1?10,特に好ましくは1?4含有する化合物が挙げられる。…
<エポキシ基を2個または3個以上有する化合物> 3個以上のエポキシ基を有する化合物としては,下記一般式…(47)で示される化合物などが挙げられる。…
(一般式(47)で表される化合物) 一般式(47)で表される化合物は,好ましくはエポキシ基を2?32個,さらに好ましくは2?12個有する下記一般式で表される化合物である。kは好ましくは0?30,さらに好ましくは0?10の整数を示す。
【化52】

式(47)において,R^(1)は一般式(33)と同様に水素原子,フッ素原子,メチル基,エチル基,プロピル基,ブチル基,ペンチル基,ヘキシル基等の炭素原子数1?6個のアルキル基,トリフルオロメチル基,パーフルオロメチル基,パーフルオロエチル基,パーフルオロプロピル基等の炭素原子数1?6個のフルオロアルキル基,フェニル基,ナフチル基等の炭素数6?18のアリール基,フリル基またはチエニル基である。一般式(47)中のR^(1)は互いに同じでも異なっていてもよい。
また,R^(10)はメチレン基,エチレン基,プロピレン基,ブチレン基等の炭素原子1?6のアルキレン基のほか,下記式…(51)に示す構造のものが用いられる。…
【化56】

」(【0129】?【0174】)
「[(C)光カチオン開始剤] 本発明1および2で用いられる光カチオン開始剤(C)は,光により,前記(A),前記(B)成分からなる樹脂のカチオン重合を開始する化合物であれば特に限定はなく,いずれでも使用することができる。
光カチオン開始剤の好ましい例として下記一般式(60)で表される構造を有するオニウム塩を挙げることができる。
このオニウム塩は,光反応し,ルイス酸を放出する化合物である。
[R^(12)_(a)R^(13)_(b)R^(14)_(c)R^(15)_(d)W]^(m+)[MX_(n+m)]^(m-) (60)
前記式(60)中,カチオンはオニウムイオンであり,Wは,S,Se,Te,P,As,Sb,Bi,O,I,Br,Cl,またはN≡Nであり,R^(12),R^(13),R^(14),およびR^(15)は同一または異なる有機基であり,a,b,cおよびdはそれぞれ0?3の整数であって,(a+b+c+d)は((Wの価数)+m)に等しい。
Mは,ハロゲン化錯体[MX_(n+m)]の中心原子を構成する金属またはメタロイドであり,例えば,B,P,As,Sb,Fe,Sn,Bi,Al,Ca,In,Ti,Zn,Sc,V,Cr,Mn,Co等である。
Xは例えば,F,Cl,Br等のハロゲン原子であり,mはハロゲン化物錯体イオンの正味の電荷であり,nはMの原子価である。
前記式(60)においてオニウムイオンの具体例としては,ジフェニルヨードニウム,4-メトキシジフェニルヨードニウム,ビス(4-メチルフェニル)ヨードニウム,ビス(4-tert-ブチルフェニル)ヨードニウム,ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウム,トリフェニルスルホニウム,ジフェニル-4-チオフェノキシフェニルスルホニウム,ビス〔4-(ジフェニルスルフォニオ)-フェニル〕スルフィド,ビス〔4-(ジ(4-(2-ヒドロキシエチル)フェニル)スルホニオ)-フェニル〕スルフィド,η5-2,4-(シクロペンタジェニル)〔1,2,3,4,5,6-η-(メチルエチル)ベンゼン〕-鉄(1+)等が挙げられる。」(【0206】?【0212】)
「[(F)エポキシ基を有する化合物] 本発明1に係るシール材用光硬化型樹脂組成物は,前記少なくとも一つのエポキシ基を有する多環式化合物(B)と異なる,エポキシ基を有する化合物(F)を含有していてもよい。このようなエポキシ基を有する化合物(F)としては,たとえば,エポキシ基を1個有する化合物としてはフェニルグリシジルエーテル,ブチルグリシジルエーテル等が挙げられ,エポキシ基を2個以上有する化合物としては,ヘキサンジオールジグリシジルエーテル,テトラエチレングリコールジグリシジルエーテル,トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル,ビスフェノールAジグリシジルエーテル,ビスフェノールFジグリシジルエーテル,ノボラック型エポキシ化合物等が挙げられる。」(【0231】)

(2) 甲4に記載された発明
上記(1),特に請求項1を引用する請求項6に係る発明の記載から,甲4には,次のとおりの発明(以下「甲4発明」という。)が記載されていると認めることができる。
「(A)オキセタン環を有する化合物,(B)少なくとも1つのエポキシ基を有する多環式化合物,(C)光カチオン開始剤及び(F)前記少なくとも1つのエポキシ基を有する多環式化合物(B)と異なる,エポキシ基を有する化合物を含有し,25℃の粘度が0.01ないし300Pa・sの範囲であることを特徴とするシール材用光硬化型樹脂組成物。」

3 無効理由についての判断
(1) 無効理由1について
ア 本件特許は,特許法184条の3第1項の規定により特許出願とみなされた国際出願(外国語特許出願)に係るものであるから,17条の2第3項の規定は184条の12第2項の規定により読み替えて適用される。また,職権で調査したところによれば,本件においては,誤訳訂正書を提出して明細書などを補正していない。そうすると,本件において17条の2第3項の規定により補正ができる範囲は,184条の12第2項所定の「翻訳文等」に記載した事項の範囲内ということになる。
そこで,甲3による補正が,上記翻訳文等に記載した事項の範囲内においてしたものであるか,すなわち,翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものであるかについて,以下検討する。
イ 本件における翻訳文等の内容は,甲2に記載されているとおりであって(23?27頁の【手続補正書】に関する記載を除く。),特許請求の範囲の記載を除き,本件特許に係る明細書(甲1)の記載と同一である。
すなわち,本件における翻訳文等には,上記1(2)イで述べたように,デバイスが配置されている不浸透性基板と不浸透性ガラス又は金属製の蓋との間で使用され,蓋の周囲を底の基板にシール又は接着するための硬化性バリヤ組成物について,特に水分に対して優れたバリヤ性能(防湿特性)を奏する組成物を提供するという設定課題の下,メタ置換反応基をもつ芳香族化合物とカチオン若しくはラジカル開始剤との組み合わせを含む構成とすることで上記課題を解決するという技術的事項が開示されているということができる。
そして,甲3の補正における特許請求の範囲(本件訂正前のものに係る本件発明1に同じ。)に記載の組成物についてみるに,「EPON862」はメタ置換反応基をもつ芳香族化合物であるということはできない。また,「DCRDGE,RDGE及びEpiclon HP-7200からなる群から選ばれるエポキシ化合物」のうち「Epiclon HP-7200」についてもメタ置換反応基をもつ芳香族化合物であるということができない。
そうすると,甲3の補正における特許請求の範囲の記載に係る発明(組成物)について,「DCRDGE,RDGE及びEpiclon HP-7200からなる群から選ばれるエポキシ化合物」のうち「Epiclon HP-7200」が選択される場合,上記組成物はメタ置換反応基をもつ芳香族化合物を有しないものとなり,結果,甲3による補正は,メタ置換反応基をもつ芳香族化合物を有しないエポキシ化合物とカチオン若しくはラジカル開始剤との組み合わせのみからなる組成物であっても,上記課題を解決することができるという新たな技術的事項を導入するものであるといえる。
ウ しかし,上記第3のとおり,本件訂正は請求項1の記載から「Epiclon HP-7200」を削除する訂正をするものであり,しかも本件訂正は認容できると判断される。そして,上記イで述べるところのいわゆる新規事項の追加の違法性は,本件訂正が認容されることで治癒されることは明らかである。
エ したがって,甲3による補正は,翻訳文等に記載した事項の範囲内においてしたものであるとはいえず,新規事項を追加する補正であるといわざるを得ないものの,本件訂正が認容されることで請求人らの主張する無効理由1は実質的に解消される。
無効理由1には,理由がない。

(2) 無効理由2について
ア 特許請求の範囲の記載が,サポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と明細書の発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断される。
イ 本件の明細書の記載から,上記1(2)イで述べたとおり,デバイスが配置されている不浸透性基板と不浸透性ガラス又は金属製の蓋との間で使用され,蓋の周囲を底の基板にシール又は接着するための硬化性バリヤ組成物について,特に水分に対して優れたバリヤ性能(防湿特性)を奏する組成物を提供するという設定課題の下,メタ置換反応基をもつ芳香族化合物とカチオン若しくはラジカル開始剤との組み合わせを含む構成とすることで上記課題の解決を図ることができることを当業者は認識できるといえる。
ところで,本件発明1の「DCRDGE,RDGE及びEpiclon HP-7200からなる群から選ばれるエポキシ化合物」のうち「Epiclon HP-7200」が選択される場合,本件発明1の組成物は,メタ置換反応基をもつ芳香族化合物を有しないエポキシ化合物とカチオン若しくはラジカル開始剤との組み合わせのみからなる組成物となるのは,上記(1)ウで述べたとおりである。
そして,本件の明細書(甲1)には,メタ置換反応基をもつ芳香族化合物とカチオン若しくはラジカル開始剤との組み合わせを含む組成物が上記課題を解決できることの記載はあるが,メタ置換反応基をもつ芳香族化合物を有しないエポキシ化合物とカチオン若しくはラジカル開始剤との組み合わせのみからなる組成物までもが課題を解決できることについての記載はない。また,その記載や示唆がなくとも,当業者が出願時の技術常識に照らして課題を解決できると認識できる範囲のものであるということもできない。
そうすると,「DCRDGE,RDGE及びEpiclon HP-7200からなる群から選ばれるエポキシ化合物」のうち「Epiclon HP-7200」が選択される場合における本件発明1に係る特許請求の範囲の記載は,当業者が本件発明1の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるといえず,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるかということもできないから,サポート要件に違反するものである。
ウ しかし,上記第3のとおり,本件訂正は請求項1の記載から「Epiclon HP-7200」を削除する訂正をするものであり,しかも本件訂正は認容できると判断される。そして,上記イで述べるところのいわゆるサポート要件違反の違法性は,本件訂正が認容されることで治癒されることは明らかである。
エ したがって,本件訂正前に係る本件発明1はサポート要件に違反するといわざるを得ないものの,本件訂正が認容されることで請求人らの主張する無効理由2は実質的に解消される。
無効理由2には,理由がない。

(3) 無効理由4について
ア 本件訂正発明1と上記2(2)で認定した甲4発明を対比すると,甲4発明の光カチオン開始剤(C)が,光により,オキセタン環を有する化合物(A),少なくとも1つのエポキシ基を有する多環式化合物(B)及び他のエポキシ基を有する化合物(F)成分からなる樹脂のカチオン重合を開始する化合物であることからすれば,甲4発明の「シール材用光硬化型樹脂組成物」は本件訂正発明1の「カチオン硬化性バリヤー組成物」ないしは「組成物」に相当する。
また,本件訂正発明1の「EPON862」は甲4発明の「(F)前記少なくとも1つのエポキシ基を有する多環式化合物(B)と異なる,エポキシ基を有する化合物」に,「ジアリールヨードニウム塩カチオン光開始剤」は光カチオン開始剤であるという点で「(C)光カチオン開始剤」にそれぞれ対応するものである。
イ そうすると,本件訂正発明1と甲4発明との一致点,相違点はそれぞれ次のとおりである。
・ 一致点
「エポキシ基を有する化合物及び光カチオン開始剤を含むカチオン硬化性バリヤー組成物」である点。
・ 相違点1
エポキシ基を有する化合物について,本件訂正発明1は具体的な構造からなる「EPON862」を含み,さらに「DCRDGE」及び「RDGE」からなる群から選ばれると特定するのに対し,甲4発明はそのような特定を有しない点。
・ 相違点2
光カチオン開始剤について,本件発明1は「ジアリールヨードニウム塩カチオン光開始剤」と特定するのに対し,甲4発明はそのような特定を有しない点。
ウ 上記相違点について検討する。
(ア) まず相違点1について検討する。
本件訂正発明1の「EPON862」は,いわゆるビスフェノールFジグリシジルエーテルと呼ばれるものであるところ,甲4には,甲4発明の(F)成分である「前記少なくとも1つのエポキシ基を有する多環式化合物(B)と異なる,エポキシ基を有する化合物」の具体例として,「ビスフェノールFジグリシジルエーテル」の記載がある(【0231】など)。
そうすると,甲4発明の「前記少なくとも1つのエポキシ基を有する多環式化合物(B)と異なる,エポキシ基を有する化合物」について,甲4に具体的に例示されるビスフェノールFジグリシジルエーテル(EPON862)を採用する程度のことは,当業者にとって格別困難なことでない。
しかし,カチオン硬化性バリヤー組成物(シール材用光硬化型樹脂組成物)に含まれるエポキシ化合物として,「DCRDGE」若しくは「RDGE」が公知ないしは周知であると認めるに足りる証拠はない。しかも,請求人らは,審判請求書2?3頁において構成要件Fとして整理するエポキシ化合物のうち,「DCRDGE」若しくは「RDGE」が選択される場合における本件発明1ないし本件訂正発明1については何ら主張していない。
したがって,甲4発明から,相違点1に係る構成を想到することが容易であるということはできない。
(イ) 次に相違点2について検討する。
甲4は,甲4発明の(C)成分である「光カチオン開始剤」の好ましい例として[R^(12)_(a)R^(13)_(b)R^(14)_(c)R^(15)_(d)W]^(m+)[MX_(n+m)]^(m-) で表されるオニウム塩を挙げ,このオニウムイオンの具体例として「ジフェニルヨードニウム,4-メトキシジフェニルヨードニウム,ビス(4-メチルフェニル)ヨードニウム,ビス(4-tert-ブチルフェニル)ヨードニウム,ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウム」を例示する(【0206】?【0212】)。すなわち,甲4には,本件訂正発明1と同じ「ジアリールヨードニウム塩カチオン光開始剤」が例示されている。
そして,甲4発明の「光カチオン開始剤」について,甲4に具体的に例示されるジアリールヨードニウム塩カチオン光開始剤を採用する程度のことは,当業者であれば想到容易である。
エ 以上のとおり,相違点2については当業者であれば想到容易であるといえるものの,相違点1については想到容易とはいえないから,本件訂正発明1は,甲4に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって特許法29条2項の規定により特許を受けることができない発明であるということはできない。
無効理由4には,理由がない。

(4) 無効理由3について
ア(ア) いわゆる進歩性有無の判断は,通常,特許発明と,先行技術のうち特許発明の構成に近似する特定の先行技術(主たる引用発明)とを対比して,両者の相違する構成を認定し,主たる引用発明に,それ以外の先行技術(従たる引用発明),技術常識ないし周知技術を組み合わせ,特許発明と主たる引用発明との相違する構成を補完ないし代替させることによって特許発明に到達することが容易であったか否かを基準として行われるべきである。
そして,このような手法は,多くの裁判例において採用されている判断手法でもある(例えば,知財高平成22年11月30日判決(平成22年(行ケ)第10096号),知財高平成24年2月28日判決(平成23年(行ケ)第10191号)の付言など)。
(イ) 上記(ア)を踏まえて審判請求書の記載をみるに,無効理由3に係る請求人らの主張は,上述の手法に沿うことなく,本件発明1は周知の成分を単に組み合わせたものである旨を主張するにとどまり,主たる引用発明を具体的に特定すること(引用発明の認定),本件発明1と主たる引用発明とを対比して両者の相違する構成を認定すること(一致点,相違点の認定),従たる引用発明,技術常識ないし周知技術に照らし,相違点に係る構成を補完ないし代替させることが容易であること等を何ら主張しない。
そこで,当合議体は,請求人らが考えるところの主たる引用発明,本件発明1と主たる引用発明との一致点及び相違点,当該相違点に係る構成が想到容易であることについての主張(論理)を明確にした上で審理するのが望ましいとの見解を示しつつ,請求人らに対し無効理由3の主張の整理を求めたが(審理事項通知書),請求人らは,主位的に,上述の手法に沿わなくとも違法とはならず,本件発明1は周知の成分を単に組み合わせたにすぎない旨主張し(口頭審理陳述要領書4?7頁),予備的に,甲4?8のいずれかに記載された発明を主たる引用発明としたとき本件発明1は進歩性を欠如する旨主張する(同7?8頁)。
イ そこでまず,請求人らの上記主位的主張について検討するに,確かに上述の手法によらなくとも不適法とはならないと思われるが,当該主張は,多くの裁判例においても採用されている判断手法によらない進歩性欠如の無効主張であるといわざるを得ず,また,このことをおくとしても,上記(3)ウ(ア)で検討のとおり,カチオン硬化性バリヤー組成物に含有されるエポキシ化合物として「DCRDGE」若しくは「RDGE」が公知ないしは周知であると認めるに足りる証拠はない。
よって,請求人らの上記主位的主張は採用できない。
ウ 次に,上記予備的主張について検討するに,上述のとおり,カチオン硬化性バリヤー組成物に含まれるエポキシ化合物として「DCRDGE」若しくは「RDGE」が公知ないしは周知であると認めるに足りる証拠はなく,しかも,請求人らは,上記構成要件Fとして整理するエポキシ化合物のうち「DCRDGE」若しくは「RDGE」が選択される場合における本件発明1ないし本件訂正発明1について何ら主張していない。
したがって,甲4?8のいずれかに記載された発明を主たる引用発明としても,当該引用発明から,本件発明1ないし本件訂正発明1を想到することが容易であるということはできないのは明らかである。
よって,請求人らの上記予備的主張も採用できない。
エ 以上のとおり,無効理由3には理由がない。

第7 むすび
以上のとおり,請求人らの主張する無効理由1?4にはいずれも理由がないから,本件特許1を無効とすることはできない。
審判に関する費用については,特許法169条2項で準用する民事訴訟法61条の規定により,請求人らが負担すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)以下のエポキシ化合物:
【化1】

(b)ジアリールヨードニウム塩カチオン光開始剤;
(c)場合により一種以上の充填剤;
(d)場合により一種以上の接着促進剤
を含むカチオン硬化性バリヤー組成物であって、
さらに以下のもの:
【化2】

からなる群から選ばれるエポキシ化合物を含む組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2016-03-29 
結審通知日 2016-03-31 
審決日 2016-05-09 
出願番号 特願2009-502735(P2009-502735)
審決分類 P 1 113・ 537- YAA (C08G)
P 1 113・ 55- YAA (C08G)
P 1 113・ 121- YAA (C08G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久保 道弘  
特許庁審判長 菊地 則義
特許庁審判官 小柳 健悟
小野寺 務
登録日 2014-03-14 
登録番号 特許第5498156号(P5498156)
発明の名称 放射線-または熱-硬化性バリヤシーラント  
復代理人 渡邉 伸一  
代理人 伊藤 克博  
代理人 小野 暁子  
代理人 小野 暁子  
代理人 伊藤 克博  
復代理人 渡邉 伸一  
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