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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H05B 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H05B |
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管理番号 | 1318369 |
審判番号 | 不服2015-8981 |
総通号数 | 202 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-10-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-05-14 |
確定日 | 2016-09-06 |
事件の表示 | 特願2014- 25541「発光素子」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 6月19日出願公開、特開2014-112715、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成20年9月4日(優先権主張平成19年9月13日)に出願した特願2008-226584号の一部を平成26年2月13日に新たな特許出願としたものであって、平成26年12月24日付けで拒絶理由が通知され、平成27年2月9日に意見書が提出されたが、同年4月15日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という)がなされ、これに対し、同年5月14日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされ、その後、当審において平成28年5月25日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という)が通知され、同年6月21日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。 なお、平成27年8月20日に前置報告書が作成されている。 第2 本願発明 本願の請求項1及び2に係る発明は、平成28年6月21日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1及び2に係る発明は、それぞれ次のとおりである。 「 【請求項1】 陽極と陰極との間に、発光層と、第1の層と、第2の層と、を有し、 前記第1の層は、前記発光層と前記陽極との間に設けられており、 前記第2の層は、前記発光層と前記陰極との間に設けられており、 前記第1の層は、第1の有機化合物と、第2の有機化合物と、を有し、 前記発光層に含まれる発光材料は、第1の燐光性化合物であり、 前記第1の有機化合物は、正孔輸送性を有し、 前記第2の有機化合物のイオン化ポテンシャルは、前記第1の有機化合物のイオン化ポテンシャルより0.5eV以上大きく、 前記第2の有機化合物は、前記第1の有機化合物中に分散されており、 前記第2の層は、第3の有機化合物と、第4の有機化合物と、を有し、 前記第3の有機化合物は、電子輸送性を有し、 前記第4の有機化合物は、第2の燐光性化合物であり、 前記第4の有機化合物は、電子トラップ性を有し、 前記第4の有機化合物は、前記第3の有機化合物中に分散されていることを特徴とする発光素子。 【請求項2】 陽極と陰極との間に、発光層と、第1の層と、第2の層と、を有し、 前記第1の層は、前記発光層と前記陽極との間に設けられており、 前記第2の層は、前記発光層と前記陰極との間に設けられており、 前記第1の層は、第1の有機化合物と、第2の有機化合物と、を有し、 前記発光層に含まれる発光材料は、第1の燐光性化合物であり、 前記第1の有機化合物は、正孔輸送性を有し、 前記第2の有機化合物のイオン化ポテンシャルは、5.8eV以上であり、 前記第2の有機化合物は、前記第1の有機化合物中に分散されており、 前記第2の層は、第3の有機化合物と、第4の有機化合物と、を有し、 前記第3の有機化合物は、電子輸送性を有し、 前記第4の有機化合物は、第2の燐光性化合物であり、 前記第4の有機化合物は、電子トラップ性を有し、 前記第4の有機化合物は、前記第3の有機化合物中に分散されていることを特徴とする発光素子。」(以下、請求項1に係る発明を「本願発明1」ともいい、請求項2に係る発明を「本願発明2」ともいう。) 第3 原査定の理由について 1.原査定の理由の概要 原査定の理由は、概略、次のとおりである。 「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 ・請求項1、2、4ないし6 ・引用文献1ないし4 ・備考 本願発明と引用文献1に記載された発明とを対比すると、前者は、『第2の層』が、電子輸送性を有する第3の有機化合物と、燐光性化合物よりなる第4の有機化合物とを有するのに対して、後者は、『電子阻止層28』が、電子輸送層26を製造するための材料と、電子阻止層28を製造するための材料とを含有することのみ記載されている点で相違し、その余の点は一致する。 上記相違点について検討するに、有機EL素子の技術分野において、電子ブロック材料として燐光性化合物を用いることは周知の事項であるところ(引用文献2ないし4参照。)、かかる周知の事項を引用発明に適用し、引用発明の『電子阻止層28』に含有される『電子阻止層28を製造するための材料』として燐光性化合物を採用し、上記相違点に係る構成とすることは当業者が容易に想到するものである。 ・請求項3 ・引用文献1ないし5 ・備考 正孔輸送層に電子輸送材料を含有させる際に、その含有量を1?20重量%とすることは、引用文献5に記載されているように周知の事項である。 引用文献1:特表2005-510025号公報 引用文献2:特表2005-502165号公報 引用文献3:国際公開第2007/004380号 引用文献4:国際公開第2005/009088号 引用文献5:特開平9-298088号公報」 2.原査定の理由についての当審の判断 (1)引用文献1の記載事項 ア 引用文献1には、次の(ア)及び(イ)の事項が記載されている。 (ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 基板上に形成された第1電極; 有機発光層を含み、前記第1電極上に形成された少なくとも1つの有機層; 前記有機層上に形成された第2電極;及び、 前記有機発光層のイオン化ポテンシャルよりも高いイオン化ポテンシャルを有する材料を含み、前記第1電極と前記有機発光層との間に形成された正孔誘導層、及び/又は前記有機発光層の電子親和性よりも高い電子親和性を有する材料を含み、前記第2電極と前記有機発光層との間に形成された電子阻止層 を含む有機発光装置。 ・・・(略)・・・ 【請求項9】 前記第1電極がITO製であり、前記第2電極がAg製であり、前記正孔誘導層がα-NPDとTAZとの混合物を含み、前記有機発光層がAlq_(3)製である、請求項1に記載の有機発光装置。 ・・・(略)・・・」 (イ)「【0011】 《発明の詳細な説明》 図2は、本発明の一実施態様によるOLEDの断面図である。図2に示すように、本発明によるOLEDは、2つの電極間に発光性有機材料を挿入して、電極間に稼動電圧を印加することによって光を放射する。2つの前記電極の内の一方は、放射光を透過するために透明でなければならない。 【0012】 図2に示すように、本発明の一実施態様によるOLEDは、陽極12、正孔注入層14、正孔輸送層16、正孔誘導層18、発光層20、電子阻止層28、電子輸送層26、電子注入層24、及び陰極22を含み、これらは基板10の上に順次形成される。前記正孔注入層14及び前記電子注入層24は、OLEDの構造に基づいて選択的に形成することができる。 【0013】 正孔誘導層18は、正孔輸送層16の上の発光層20のイオン化ポテンシャルよりも高いイオン化ポテンシャルを有する材料をドーピングするか又は蒸着することによって形成することができる。あるいは、前記正孔誘導層18は、前記正孔誘導層18を製造するための材料と前記正孔輸送層16を製造するための材料とを混合し、そして次にそれらを蒸着することによって、混合した形で前記正孔輸送層16内に形成することができる。この場合は、正孔誘導層の実際的な厚さを0?500Å、好ましくは1?100Åとすることができる。 【0014】 発光層20に注入される電子の量を制御する目的で、前記発光層20の上に前記発光層20の電子親和性よりも高い電子親和性を有する材料をドーピングするか又は蒸着することによって、電子阻止層28を形成することができる。あるいは、前記電子阻止層28は、前記電子阻止層28を製造するための材料と電子輸送層26を製造するための材料とを混合し、そして次に、それらを蒸着することによって、混合された形で、前記電子輸送層26内に形成することができる。この場合には、前記電子阻止層の実際的な厚さを0?500Å、好ましくは1?100Åとすることができる。 【0015】 本発明によるOLEDにおいて、正孔誘導層18は、発光層20のイオン化ポテンシャルよりも高いイオン化ポテンシャルを有する材料、すなわち前記発光層20のHOMO準位よりも低いHOMO準位を有する材料で形成される。従って、前記発光層20内の電子を前記正孔誘導層18へ誘導的に注入することができる。これにより、前記発光層20の正孔密度が増加し、そしてOLEDの発光効率が向上する。電子阻止層28は、前記発光層20の電子親和性よりも高い電子親和性を有する材料、すなわち前記発光層20のLUMO準位よりも高いLUMO準位を有する材料で形成される。こうして前記発光層20に注入される電子の量を、前記電子阻止層28によって制御することができる。従って、前記発光層20に注入される正孔の量と電子の量とを均衡させることができ、前記発光層20の中での電子と正孔との再結合の可能性が増加し、そしてOLEDの発光効率が向上する。なお、図2に示したOLEDは、前記正孔誘導層18と、前記電子阻止層28の両方を含んでいるが、本発明によるOLEDは、前記の2つの層の内の一方を含むことができる。 【0016】 従来技術及び本発明の一実施態様によるOLEDのエネルギーバンドダイヤグラムを、それぞれ図3a及び3bに示す。図3a及び3bのエネルギーバンドに示した参照番号は、そのエネルギーバンドが、図2において同じ参照番号で示されたエネルギーバンドであることを示す。図3Aに示すように、従来のOLEDでは、陽極12、正孔注入層14、正孔輸送層16、そして発光層20のイオン化ポテンシャルが段階的に増加して、正孔を前記発光層20に自然に誘導し、そして従来のOLEDでは、陰極14、電子注入層24、電子輸送層26、そして前記発光層20の電子親和性が段階的に増加して、電子を発光層20に自然に誘導する。 【0017】 対照的に、図3bに示す本発明の一実施態様によるOLEDは、前記電子輸送層26と前記発光層20との間に、前記発光層20の電子親和性よりも高い電子親和性を有する電子阻止層28を形成して、前記発光層20に注入される電子の量を制御する。更に、前記正孔輸送層16と前記発光層20との間に、前記発光層20のイオン化ポテンシャルよりも高いイオン化ポテンシャルを有する正孔誘導層18を提供して、前記発光層20の正孔密度を増加させる。 【0018】 本発明において、陽極12は、高い仕事関数を有する材料〔例えば、インジウムチンオキサイド(ITO)、ポリアニリン、及び銀(Ag) 〕から製造することができ、そして陰極22は、低い仕事関数を有する材料(例えば、Al、Mg-Ag、Li及びCa)から製造することができる。有機発光層20は、電子阻止層28及び/又は正孔誘導層18を製造するための材料との間で前記エネルギー関係を満足する限り、各種従来の有機化合物から製造することができる。前記有機発光層20を製造するための前記有機化合物は、例えば、トリス(8-キノリノレート)アルミニウム(Alq_(3))、10-ベンゾ[h]キノリノール-ベリリウム錯体(BeBq_(2))、又はトリス(4-メチル-8-キノリノレート)アルミニウム(Almq)であり、これは緑色光(550nm)を発する。青色(460nm)発光単一化合物は、例えば、金属錯体〔例えば、ビス[2-(2-ベンゾオキサゾリル)フェノラト]亜鉛(II)(ZnPBO)又はビス(2-メチル-8-キノリノラト)(パラ-フェニル-フェノラト)アルミニウム(Balq)〕又は有機化合物〔例えば、ストリルアリーレン誘導体、4,4’-ビス(2,2’-ビフェニルビニル)-1,1’-ビフェニル(DPVBi)、オキサジアゾール誘導体、又はビスストリルアントラセン系の誘導体(例えば、 (4,4’-ビス((2-カルバゾール)ビニレン)ビフェニル)〕である。赤色(590nm)発光有機化合物は、例えば、4-(ジシアノメチレン)-2-メチル-6-(p-ジメチルアミノスチリル)-4H-ピラン(DCM)又はDCM系の4-ジシアノメチレン-6-cp-ユロリジノスチリル-2-tert-ブチル-4H-ピラン(DCJTB)である。これらの化合物に加えて、各種の他の有機化合物又は共役オリゴマー若しくは共役ポリマーを用いて、前記有機発光層20を形成することができる。更に、 良好な電子/正孔移動性及び良好な発光効率を有するホスト材料と、多様な色彩を有するドーパントとを混合して、前記有機発光層20を形成することができ、これはゲスト-ホストドーピングシステムと一般に称されている。」 イ そうすると、引用文献1には、 「基板上に形成された第1電極と、 有機発光層を含み、前記第1電極上に形成された少なくとも1つの有機層と、 前記有機層上に形成された第2電極と、 前記有機発光層のイオン化ポテンシャルよりも高いイオン化ポテンシャルを有する材料を含み、前記第1電極と前記有機発光層との間に形成された正孔誘導層、及び、前記有機発光層の電子親和性よりも高い電子親和性を有する材料を含み、前記第2電極と前記有機発光層との間に形成された電子阻止層と、 を含み、 前記第1電極がITO製であり、前記第2電極がAg製であり、前記有機発光層がAlq_(3)製であり、 前記正孔誘導層がα-NPDとTAZとの混合物を含む、 有機発光装置であって、 基板の上に順次形成される、前記第1電極としての陽極、選択的に形成することができる正孔注入層、正孔輸送層、正孔誘導層、有機発光層、電子阻止層、電子輸送層、選択的に形成することができる電子注入層、及び前記第2電極としての陰極を含み、 前記正孔誘導層は、前記正孔輸送層の上の前記有機発光層のイオン化ポテンシャルよりも高いイオン化ポテンシャルを有する材料をドーピングするか又は蒸着することによって形成するか、あるいは、前記正孔誘導層を製造するための材料と前記正孔輸送層を製造するための材料とを混合し、それらを蒸着することによって、混合した形で前記正孔輸送層内に形成することができ、 前記電子阻止層は、前記有機発光層に注入される電子の量を制御する目的で、前記有機発光層の上に前記有機発光層の電子親和性よりも高い電子親和性を有する材料をドーピングするか又は蒸着することによって形成するか、あるいは、前記電子阻止層を製造するための材料と前記電子輸送層を製造するための材料とを混合し、それらを蒸着することによって、混合した形で前記電子輸送層内に形成することができるものである、 有機発光装置。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 (2)引用文献2の記載事項 引用文献2には、次のア及びイの事項が記載されている。 ア「【特許請求の範囲】 【請求項1】 少なくとも1つの阻止層を含む発光デバイスであって、該阻止層が少なくとも1種の遷移金属錯体を含む上記デバイス。 ・・・(略)・・・ 【請求項4】 前記阻止層が電子阻止層である請求項1に記載の発光デバイス。 ・・・(略)・・・ 【請求項6】 前記阻止層が本質的に前記金属錯体からなる請求項1に記載の発光デバイス。 ・・・(略)・・・ 【請求項8】 前記遷移金属がイリジウムである請求項1に記載の発光デバイス。 ・・・(略)・・・」 イ「【0032】 さらに他の態様では、本発明は、発光デバイス中で電子を発光層に閉じ込める方法であって、発光層が陽極側と陰極側を含み、デバイスが、発光層の陰極側に隣接した阻止層を含み、阻止層が、発光層のLUMOエネルギーレベルより高いLUMOエネルギーレベルを有しかつ少なくとも1種の金属錯体を含む方法を提供する。該方法はデバイスに電圧を印加することを含むことが好ましい。」 (3)引用文献3の記載事項 引用文献3には、次のア及びイの事項が記載されている。 ア「請求の範囲 [1]下記一般式(A)を部分構造として有する金属錯体であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子材料。 [化1] 〔式中、Xa、Xb、Xc、Xd、Xe、Xfは各々炭素原子、CRa、窒素原子、NRb、酸素原子、硫黄原子を表すが、その少なくとも一つはCRaである。Ya、Yb、Ycは各々炭素原子、または、窒素原子を表し、Ydは窒素原子を表すが、YaとYbが同じ原子である場合には、Ycは窒素原子になることはない。Ra、Rbは水素原子、または、置換基を表すが、Raの少なくとも一つは芳香族炭化水素環基、または、芳香族複素環基を表す。Maは元素周期表における8族?10族の金属を表す。環Z_(1)、環Z_(2)は各々5員単環を表し、環Z_(1)、環Z_(2)を各々形成する結合は、各々単結合、または、二重結合を表し、各々単環である。〕 ・・・(略)・・・ [6]前記一般式(A)のMaが、イリジウムまたは白金であることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子材料。・・・(略)・・・ [13]構成層として電子阻止層を有し、該電子阻止層が請求の範囲第1項?10項のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子材料を含有することを特徴とする有機エレクトロミネッセンス素子。 ・・・(略)・・・」 イ「[0161]本発明の有機EL素子の層構成の好ましい具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されない。 (i)陽極/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極 (ii)陽極/電子阻止層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極 (iii)陽極/正孔輸送層/電子阻止層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極 (iv)陽極/正孔輸送層/電子阻止層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極 (v)陽極/正孔輸送層/電子阻止層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極 (vi)陽極/陽極バッファー層/正孔輸送層/電子阻止層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極 (vii)陽極/陽極バッファー層/正孔輸送層/電子阻止層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファ一層/陰極 ・・・(略)・・・」 (4)引用文献4の記載事項 引用文献4には、次の事項が記載されている。 「請求の範囲 ・・・(略)・・・ 5.陰極と陽極との間にリン光性化合物を含有する発光層を少なくとも有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記発光層と前記陽極との間にあり、前記発光層に隣接して電子阻止層1を有し、前記電子阻止層1がリン光性化合物を含有し、該リン光性化合物の含有率が前記発光層のリン光性化合物の含有率の0.1?50%であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。 ・・・(略)・・・」 (5)引用文献2ないし4の記載事項から把握される周知技術 引用文献2は発光デバイス中で電子を発光層に閉じ込める方法に関するものであるから、同文献における「発光層の陰極側に隣接した阻止層」が電子阻止層であることは明らかである。また、イリジウムや白金の金属錯体が燐光性化合物であることは技術常識である。しかしながら、引用文献2の請求項4と請求項8は、それぞれ独立に請求項1に従属しており、請求項4の発明特定事項と請求項8の発明特定事項の両方を含む請求項はなく、また、実施例として、阻止層が正孔阻止層であるものは記載されているが、阻止層が電子阻止層であるものは記載されていないから、引用文献2には、「発光層の陰極側に隣接した」「電子阻止層」が「イリジウム」錯体(燐光性化合物)を含む発光デバイスが記載されているとはいえない。 また、引用文献3には、「発光層」と「陽極」との間に「電子阻止層」を設ける層構成は記載されているが、「発光層」と「陰極」との間に「電子阻止層」を設ける層構成は記載されていない。 さらに、引用文献4には、「発光層」と「陽極」との間に「発光層」に隣接して「電子阻止層」を有する有機エレクトロルミネッセンス素子のみが記載されている。 以上のことに鑑みれば、上記(2)ないし(4)に摘記した引用文献2ないし4の記載事項から、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に、「陽極と陰極と発光層と電子阻止層を有する発光デバイス又は有機エレクトロルミネッセンス素子において、発光層の陽極側に配置された電子阻止層が燐光性化合物を含有すること」については周知(以下「周知技術」という。)であったものと認められるものの、発光層の陰極側に配置された電子阻止層が燐光性化合物を含有することについては、周知であったとは認められない。 (6)対比 ア 本願発明1と引用発明との対比 (ア)一致点及び相違点 a 引用発明の「『第1電極』としての『陽極』」、「『第2電極』としての『陰極』」、「有機発光層」及び「有機発光装置」は、それぞれ、本願発明1の「陽極」、「陰極」、「発光層」及び「発光素子」に相当する。 b 引用発明の「正孔誘導層」は、「第1電極」(本願発明1の「陽極」に相当。)と「有機発光層」(本願発明1の「発光層」に相当。)との間に形成されたものであるから、本願発明1の「発光層と陽極との間に設けられ」た「第1の層」に相当する。 また、引用発明の「電子阻止層」は、「第2電極」(本願発明1の「陰極」に相当。)と「有機発光層」(「発光層」)との間に形成されたものであるから、本願発明1の「発光層と陰極との間に設けられ」た「第2の層」に相当する。 c 「α-NPD」は正孔輸送性の有機化合物であり、「TAZ」のイオン化ポテンシャルは5.8eV以上であり、かつ、「TAZ」と「α-NPD」のイオン化ポテンシャルの差は0.5eV以上である(特開2008-166745号公報の段落【0222】、【0225】、【0226】を参照。)から、引用発明の「TAZ」は本願発明1の「第2の有機化合物」に相当し、引用発明の「α-NPD」は本願発明1の「第1の有機化合物」に相当する。また、引用発明の「正孔誘導層」にドーピングするか又は蒸着することによって形成される「有機発光層のイオン化ポテンシャルよりも高いイオン化ポテンシャルを有する材料」は、本願発明1の「イオン化ポテンシャル」が「第1の有機化合物のイオン化ポテンシャルより0.5eV以上大き」い「第2の有機化合物」に相当し、引用発明の「正孔輸送層を製造するための材料」は、本願発明1の「第1の有機化合物」に相当する。 d 引用発明の「電子輸送層を製造するための材料」は、本願発明1の「第3の有機化合物」に相当し、引用発明の「電子阻止層を製造するための材料」は、本願発明1の「第4の有機化合物」に相当する。 e 引用発明の「TAZ」又は「有機発光層のイオン化ポテンシャルよりも高いイオン化ポテンシャルを有する材料」が、「α-NPD」又は「正孔輸送層を製造するための材料」に分散されていることは明らかである。また、引用発明の「電子阻止層を製造するための材料」が「電子輸送層を製造するための材料」に分散されていることは明らかである。 f そうすると、本願発明1と引用発明とは、 「陽極と陰極との間に、発光層と、第1の層と、第2の層と、を有し、 前記第1の層は、前記発光層と前記陽極との間に設けられており、 前記第2の層は、前記発光層と前記陰極との間に設けられており、 前記第1の層は、第1の有機化合物と、第2の有機化合物と、を有し、 前記第1の有機化合物は、正孔輸送性を有し、 前記第2の有機化合物のイオン化ポテンシャルは、前記第1の有機化合物のイオン化ポテンシャルより0.5eV以上大きく、 前記第2の有機化合物は、前記第1の有機化合物中に分散されており、 前記第2の層は、第3の有機化合物と、第4の有機化合物と、を有し、 前記第3の有機化合物は、電子輸送性を有し、 前記第4の有機化合物は、前記第3の有機化合物中に分散されている発光素子。」である点で一致する。 他方、本願発明1と引用発明は、次の点において相違する。 相違点1: 前記「発光層に含まれる発光材料」が、 本願発明1では、「第1の燐光性化合物」であるのに対し、 引用発明では、燐光性化合物ではない点。 相違点2: 前記「第4の有機化合物」が、 本願発明1では、「第2の燐光性化合物」であるとともに、「電子トラップ性を有」するのに対し、 引用発明では、燐光性化合物ではなく、電子トラップ性も有しない点。 (イ)相違点2についての判断 上記(5)で述べたとおり、引用文献2ないし4の記載事項から、本願の優先日前に、陽極と陰極と発光層と電子阻止層を有する発光デバイス又は有機エレクトロルミネッセンス素子において、発光層の陽極側に配置された電子阻止層が「燐光性化合物を含有すること」については、周知であったものと認められるが、発光層の陰極側に配置された電子阻止層が燐光性化合物を含有することについては、周知であったとは認められず、ましてや、本願の優先日前に、陽極と陰極と発光層と電子阻止層を有する発光デバイス又は有機エレクトロルミネッセンス素子において、発光層の陰極側又は陽極側に配置された電子阻止層が、「燐光性化合物であるとともに、電子トラップ性を有すること」については、何の証拠もなく、周知であったとは認められない。なお、燐光性化合物は必ずしも電子トラップ性とは限らない(例えば、特開2006-86482号公報(前置報告書の引用文献4)の【0086】の「本発明におけるイリジウム錯体は、正孔注入材料、正孔輸送材料、発光材料、電子注入材料、電子輸送材料、正孔ブロック材料、電子ブロック材料、励起子ブロック材料のいずれに用いることも可能である・・・」と記載されているように、イリジウム錯体は、電子輸送材料、すなわち電子トラップ性ではない材料としても用いられるものである。)。 なお、前置報告書において、周知技術を示す文献として新たに引用された特開2007-161886号公報、特開2006-86482号公報、米国特許出願公開第2007/0087221号公報にも、陽極と陰極と発光層と電子阻止層を有する発光デバイス又は有機エレクトロルミネッセンス素子において、発光層の陰極側又は陽極側に配置された電子阻止層が、「燐光性化合物であるとともに、電子トラップ性を有すること」については何ら記載されていない。 そうすると、引用発明において、当業者が、「発光層と陰極との間に設けられ」る「第2の層」が有する「第4の有機化合物」を「燐光性化合物」となすことについても、「電子トラップ性を有する」ものとなすことについても、それらのことが容易であることを示す証拠はないのであるから、そのようになすことを当業者が容易に想到し得るとはいえない。 (ウ)小括 したがって、相違点1について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 イ 本願発明2と引用発明との対比 (ア)一致点及び相違点 a 本願発明2の構成要素と引用発明の構成要素との相当関係等は、上記ア(ア)aないしeで述べた本願発明1の構成要素と引用発明の構成要素との相当関係等と同様である。 b そうすると、本願発明2と引用発明とは、 「陽極と陰極との間に、発光層と、第1の層と、第2の層と、を有し、 前記第1の層は、前記発光層と前記陽極との間に設けられており、 前記第2の層は、前記発光層と前記陰極との間に設けられており、 前記第1の層は、第1の有機化合物と、第2の有機化合物と、を有し、 前記第1の有機化合物は、正孔輸送性を有し、 前記第2の有機化合物のイオン化ポテンシャルは、5.8eV以上であり、 前記第2の有機化合物は、前記第1の有機化合物中に分散されており、 前記第2の層は、第3の有機化合物と、第4の有機化合物と、を有し、 前記第3の有機化合物は、電子輸送性を有し、 前記第4の有機化合物は、前記第3の有機化合物中に分散されている発光素子。」である点で一致し、次の点において相違する。 相違点3: 前記「発光層に含まれる発光材料」が、 本願発明2では、「第1の燐光性化合物」であるのに対し、 引用発明では、燐光性化合物ではない点。 相違点4: 前記「第4の有機化合物」が、 本願発明2では、「第2の燐光性化合物」であるとともに、「電子トラップ性を有」するのに対し、 引用発明では、燐光性化合物ではなく、電子トラップ性も有しない点。 (イ)相違点4についての判断 相違点4は、本願発明1と引用発明との相違点2(上記ア(ア)参照。)とまったく同じものであり、したがって、これについての判断も、相違点2についての判断(上記ア(イ)参照。)とまったく同じである。 (ウ)小括 したがって、相違点3について検討するまでもなく、本願発明2は、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 (7)まとめ したがって、本願発明1は、当業者が引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 また、本願発明2も、当業者が引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 第4 当審拒絶理由について 1.当審拒絶理由の概要 当審拒絶理由は、概略、次のとおりである。 「この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 (1)・・・(略)・・・ (2)本願発明が解決しようとする課題は、寿命の長い発光素子を提供することにある(本願明細書【0012】参照。)が、この課題を解決するため、本願発明は、 陽極と陰極との間に、発光層、第1の層(発光層と陽極との間に設けられている)、第2の層(発光層と陰極との間に設けられている)を有し、 前記第1の層は、第1の有機化合物(正孔輸送性を有する)と第2の有機化合物とを有し、前記第2の有機化合物は、前記第1の有機化合物中に分散されており、 前記第2の層は、第3の有機化合物(電子輸送性を有する)と第4の有機化合物(燐光性化合物である)とを有し、前記第4の有機化合物は、前記第3の有機化合物中に分散されていることを、その基本的な構成としている。 ところが、本願明細書の発明の詳細な説明には、第4の有機化合物が燐光性化合物であることに関する記載は、【0146】の「・・・(略)・・・」との記載のみである(・・・略・・・)。すなわち、発明の詳細な説明には、発光層に含まれる発光材料が燐光性化合物(・・・(略)・・・)であり、かつ、第4の有機化合物が燐光性化合物(・・・(略)・・・)であるものは記載されているものの、発光層に含まれる発光材料が燐光性化合物ではないが、第4の有機化合物が燐光性化合物であるものは、何処にも記載されていない。 ・・・(略)・・・ (3)発光層に含まれる発光材料と第4の有機化合物が共に燐光性化合物であることしか記載されていない本願の発明の詳細な説明に開示された内容を、発光層に含まれる発光材料については何ら限定せず、第4の有機化合物のみが燐光性化合物であるとする請求項1又は2の範囲にまで拡張又は一般化することはできない。 したがって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。 (4)発明の詳細な説明において、第4の有機化合物が燐光性化合物であることについての記載は、上述のとおり【0146】にのみ存在するが、当該【0146】は「第2の実施形態」についての説明の一部であるところ、同じく「第2の実施形態」について説明している【0136】?【0141】及び図6には、「電子の移動を制御する層」(請求項1及び2の「第2の層」)における電子輸送速度の制御(抑制)の概念が説明されており、当該説明中、【0137】には、「・・・第4の有機化合物は、電子をトラップする機能を有する有機化合物であることが好ましい。つまり、第4の有機化合物は、第3の有機化合物の最低空軌道準位(LUMO準位)より0.3eV以上低い最低空軌道準位(LUMO準位)を有する有機化合物であることが好ましい」と記載され、図6には、電子(・・・(略)・・・)が、電子の移動を制御する層215中で、第4の有機化合物にトラップされる様子が矢印によって表現されている。そして、【0138】には、電子の移動を制御する層における電子輸送速度が抑制される機序について、「第4の有機化合物が含まれることにより、層全体としては、第3の有機化合物のみからなる層よりも電子の移動速度が小さくなる。つまり、第4の有機化合物を添加することにより、キャリアの移動を制御することが可能となる」との説明がある。 そうすると、「第4の有機化合物は、電子をトラップする機能を有する有機化合物である」という構成、又は、「第4の有機化合物は、第3の有機化合物の最低空軌道準位(LUMO準位)より0.3eV以上低い最低空軌道準位(LUMO準位)を有する有機化合物である」という構成は、本願発明の電子の移動を制御する層において電子輸送速度が抑制される機序の核心となる構成であると認められる。 「第2の実施形態」における電子輸送速度抑制の機序が、上記【0136】?【0141】及び図6で説明されたようなものであるならば、「第2の実施形態」に基づく本願発明においても、第4の有機化合物が電子をトラップする機能を有する(電子トラップ性である)こと、又は、第4の有機化合物が、第3の有機化合物の最低空軌道準位(LUMO準位)より0.3eV以上低い最低空軌道準位(LUMO準位)を有する有機化合物であることは、第2の層(電子の移動を制御する層)において電子輸送速度が抑制される機序における核心となる構成であり、したがって、当該構成は、電子が発光層中を突き抜けて正孔輸送層まで達して正孔輸送層を劣化させることを抑制して寿命の長い発光素子を提供するという課題(【0141】)を解決するための手段の一部であると認められる。 (5)しかしながら、請求項1及び2において、第4の有機化合物が電子をトラップする機能を有する(電子トラップ性である)こと、又は、第4の有機化合物が、第3の有機化合物の最低空軌道準位(LUMO準位)より0.3eV以上低い最低空軌道準位(LUMO準位)を有する有機化合物であることについては何ら特定されていない。・・・(略)・・・ そうすると、当該請求項1及び2の記載には、課題を解決するための手段の一部が反映されていないといわざるを得ない。 したがって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。 (6)まとめ 以上のとおり、本願の請求項1及び2に係る発明は、上記(3)の点及び上記(5)の点に鑑みて、発明の詳細な説明に記載したものでないといわざるを得ない。」 2.当審拒絶理由についての当審の判断 (1)平成28年6月21日になされた手続補正 平成28年6月21日になされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、本願の特許請求の範囲を次のアないしウのように補正するものである。 ア 本件補正前の請求項1に記載された発明特定事項である「発光層」について、当該「発光層」に含まれる「発光材料」が「第1の燐光性化合物」であることを特定するとともに、本件補正前の請求項1に記載された発明特定事項である(「第4の有機化合物」の材料である)「燐光性化合物」を「第2の燐光性化合物」に補正する。 イ 本件補正前の請求項1に記載された発明特定事項である「第4の有機化合物」について、当該「第4の有機化合物」が「電子トラップ性を有」することを特定する。 ウ 本件補正前の請求項2に記載された発明特定事項である「発光層」について、上記アと同様に、当該「発光層」に含まれる「発光材料」が「第1の燐光性化合物」であることを特定するとともに、本件補正前の請求項2に記載された発明特定事項である(「第4の有機化合物」の材料である)「燐光性化合物」を「第2の燐光性化合物」に補正する。 エ 本件補正前の請求項2に記載された発明特定事項である「第4の有機化合物」について、上記イと同様に、当該「第4の有機化合物」が「電子トラップ性を有」することを特定する。 (2)当審拒絶理由についての判断 上記(1)ア及びウの補正により、本件補正後の請求項1及び2に係る発明において、「発光層」に含まれる「発光材料」が「燐光性化合物」であることが特定されたため、当該請求項1及び2における、発光層の発光材料についての記載は、発明の詳細な説明に記載された技術的範囲を超えて拡張ないしは一般化されているとは、もはやいえなくなった。 また、上記(1)イ及びエの補正により、本件補正後の請求項1及び2に係る発明において、「第4の有機化合物」が「電子トラップ性を有」することが特定されたため、当該請求項1及び2における、第4の有機化合物についての記載には、発明の詳細な説明に記載された課題を解決するための手段の一部が反映されていないとは、もはやいえなくなった。 (3)小括 したがって、本願の請求項1及び2に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえなくなった。 そうすると、もはや、当審で通知した拒絶理由によって本願を拒絶することはできない。 第5 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2016-08-22 |
出願番号 | 特願2014-25541(P2014-25541) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WY
(H05B)
P 1 8・ 121- WY (H05B) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 素川 慎司 |
特許庁審判長 |
樋口 信宏 |
特許庁審判官 |
西村 仁志 清水 康司 |
発明の名称 | 発光素子 |