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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09J
管理番号 1318409
審判番号 不服2014-23761  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-11-21 
確定日 2016-08-17 
事件の表示 特願2012-204761「微細複製形態を有する接着剤ならびにこれを製造する方法およびこれを使用する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 2月28日出願公開、特開2013- 40336〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 出願の経緯

本願は、平成9年5月30日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理1996年12月31日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願(特願平10-529967)の一部を新たな特許出願(特願2008-196850)としたものの一部を、さらに、新たな特許出願としたものであって、平成24年10月18日付けで手続補正がされ、その後、平成25年8月14日付けの拒絶理由通知に対し、平成26年3月10日付けで意見書及び手続補正書が提出され、さらに、同年3月24日付けの拒絶理由通知に対し、同年7月1日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年7月17日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年11月21日付けで拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 本願に係る発明

本願に係る発明は、平成26年7月1日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下の事項により特定されるものである。

「【請求項1】
接着剤表面の表面形態を制御する方法であって、
接着剤層と支持基材との間に接着界面が確立されると、接着剤が少なくとも35%の接触領域を有し、接着界面の平面から流体が排出されうるように、
45μm未満の高さを有する隆起部の有効三次元パターンを有する表面である微細エンボスパターンを接着剤の層に接触させるステップ、
接着剤表面が接触した微細エンボスパターンと実質的に逆である表面形態を少なくとも一方の主要な実質的に連続な表面に有する連続な感圧接着剤表面を形成するステップ、
を含む方法。」

第3 原査定の拒絶の理由の概要

原査定の拒絶の理由は、要は、
「本願請求項1ないし4に係る発明は、実願平1-128090号(実開平3-67043号)のマイクロフィルム(引用文献1)、特開平7-278508号公報(引用文献2)、特開平6-248243号公報(引用文献3)、特開昭59-53787号公報(引用文献4)、特開昭59-78285号公報(引用文献5)、特開平7-138541号公報(引用文献6)及び特開昭51-45137号公報(引用文献7)に記載の発明(事項)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。」
というものである。

第4 当審の判断

(1)本願の優先日前に頒布されたことが明らかな刊行物

1. 実願平1-128090号(実開平3-67043号)のマイクロフィルム(原査定の引用文献1。以下、「引用例」という。)
2.「単位の辞典」,改訂4版 ,ラテイス株式会社,1996年5月10日,12刷,299?300頁(以下、「参考文献」という。)

(2)刊行物に記載の事項

1.引用例に記載の事項

(ア)1頁 実用新案登録請求の範囲
「シート基材の片面に粘着剤層が設けられ、該粘着剤層の表面に離型紙が剥離可能に積層されているマーキングシートにおいて、
該剥離紙の粘着剤層と接する面には、多数の凹部と凸部を有する凹凸模様が形成され、凹凸模様の各凸部はシート基材の端縁まで連なっているマーキングシート。」

(イ)1頁14?17行
「本発明は、看板、車両、各種物品等の被着体に貼付けるために、シート基材の片面に粘着剤層が設けられているマーキングシート(ラベルを含む)に関する。」

(ウ)2頁15行?3頁5行
「被着体である金属板、塗装板、ガラス板、樹脂板等が平滑板である場合、マーキングシート貼付け時に,マーキングシートと被着板との間に気泡が入り込むことがある。マーキングシートと被着体との間に溜った気泡は脱気しにくいために、針で穴をあけて気泡を外部へ抜く必要があり、貼付作業性が悪いという問題があった。
本考案は、上記従来の問題点を解決するものであり、その目的は、被着体との間に気泡が溜ることなく、貼付け作業が簡単に行えるマーキングシートを提供することにある。」

(エ)3頁15行?6頁4行
「本考案で用いられる離型紙は、通常,紙の表面に樹脂をラミネートして形成される。その樹脂には、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。
これらの樹脂を紙とラミネートしたラミネート材料又はこれらの樹脂フイルムの表面に、凹凸模様を付ける方法には公知の方法が用いられる。樹脂としてPEを用いる場合、PEを紙の上に押出してラミネートした直後、エンボス加工された冷却ロール間を通すことによってPE表面に凹凸加工を施すことが好ましい。樹脂としてPET、PPを用いる場合、サンドブラスト法により樹脂膜表面に凹凸加工を施すことが好ましい。
離型紙表面に形成された凹凸模様の凸部は、シート基材の端部にまで連なっている。この凹凸模様は、多数の溝を有するストライプ模様や多数の溝が碁盤目状に設けられた模様、角状、丸状の突起部を有する格子模様、水玉模様であってもよい。
多数の溝を碁盤目状に設ける場合、凹凸加工に用いられるロール表面の凹凸サイズは、50?300メッシュが好ましい。具体的には、第2図に示すロール6表面の断面図において凸部7上面の幅をa、凹部8の開口幅をb、凸部7の高さをcとすると、a=15μm?5μm、b=490μm?80μm、c=200μm?15μmが好ましい。
次に凹凸加工が施された樹脂膜表面に、離型剤を塗布して離型紙を作製する。離型剤の塗布には、シリコーン加工が好ましい。ここで、離型剤の塗布厚は凹凸加工の寸法に比して非常に小さいので、凹凸加工は、離型紙にそのまま残ることになる。
よって、このようにして作製された離型紙の離型剤表面には、凹凸模様が形成されている。この離型紙の表面に粘着剤を塗布し、乾燥後、これにシート基材を積層接着してマーキングシートが得られる。
このようにして作製されたマーキングシートの離型紙を剥すと、粘着剤層の表面には離型紙表面と同様に凹部と凸部を有する凹凸模様が転写されている。このマーキングシートを被着体に貼付ける際、粘着剤層の凸部が被着体表面に接触したとき、被着体の表面と凹部との間に形成される空間部がシートの端縁部まで通じているので、この空間部を通して、粘着剤層と被着体との間に入り込んだ気泡を外部へ逃がすことができる。粘着剤層表面の凹凸模様が300メッシュより小さい場合は、脱泡しにくく、50メッシュより大きい場合は、凹部に気泡が残存しやすい傾向にある。」

(オ)6頁6?17行
「本考案のマーキングシートの離型紙は、離型剤が塗布されたラミネート材料又は樹脂フイルム上に凹凸模様が施されている。凹凸模様を有する離型紙に粘着剤が塗布されるので、離型紙を剥すと粘着剤にはこの凹凸模様が転写されている。すなわち、マーキングシートの被着体との接触面は凹凸模様を有している。この凹凸模様は、凹部がシート端縁部へ連通する溝のようなものである。よって、マーキングシートを貼付ける際に被着体との間に入り込んだ空気が、この溝を通じてシート外部へ逃げることができるのでマーキングシートと被着体との間に大きな気泡が生じることがない。」

(カ)第2図




2.参考文献に記載の事項

(キ)
「メッシュ mesh (種)粒度 粉体または粒体の粒のあらさをあらわす単位で,それには ASTM(アメリカ合衆国規格),JIS(日本工業規格)など種々あるが,メッシュはアメリカのタイラー Tyler によるふるいの目の開きによる呼び名で,1平方インチのなかに含まれるふるいの目の数(公比=√2)によってあらわされる.メートル法に換算すると74μが200メッシュにあたる.つぎに JIS,ASTM との対照表をかかげる.



(3)引用例に記載の発明

(A)上記(エ)には、上記(ア)に記載されたマーキングシートの製造方法が記載されているが、その製造過程で、マーキングシートの粘着剤層の離型紙と接する面には、凹凸模様が形成されることからして、引用例には、「マーキングシートの粘着剤層の離型紙と接する面に凹凸模様を形成する方法」が記載されていると認められる。
そして、引用例に記載のマーキングシートは、上記(ア)、(エ)によれば、ポリエチレン等の樹脂を紙にラミネートしたラミネート材料又はこれらの樹脂フイルムの表面に凹凸模様が形成され、離型剤が塗布されてなる離型紙が、シート基材の片面に設けられた粘着剤層に剥離可能に積層されているものである。

(B)上記(エ)によれば、引用例には、上記「凹凸模様を形成する方法」の一例として、「樹脂としてポリエチレンを用いる場合、ポリエチレンを紙の上に押出してラミネートした直後、エンボス加工された冷却ロール間を通すことによってポリエチレン表面に凹凸加工を施し、次に凹凸加工が施されたポリエチレンよりなる樹脂膜表面に、離型剤を塗布して離型紙を作製し、この離型紙の表面に粘着剤を塗布する工程」が記載されていると認められる。

(C)上記(エ)の「このようにして作製されたマーキングシートの離型紙を剥すと、粘着剤層の表面には離型紙表面と同様に凹部と凸部を有する凹凸模様が転写されている」との記載からして、引用例には、「粘着剤層の表面に離型紙表面と同様に凹部と凸部を有する凹凸模様を転写(形成)する」ことが記載されていると認められる。

(D)上記(エ)の「このマーキングシートを被着体に貼付ける際、粘着剤層の凸部が被着体表面に接触したとき、被着体の表面と凹部との間に形成される空間部がシートの端縁部まで通じているので、この空間部を通して、粘着剤層と被着体との間に入り込んだ気泡を外部へ逃がすことができる」との記載からして、引用例には、「マーキングシートを被着体に貼付ける際、粘着剤層の凸部が被着体表面に接触し、被着体の表面と凹部との間に形成される、シートの端縁部まで通じた空間部を通して、粘着剤層と被着体との間に入り込んだ気泡を外部へ逃がすことができるように」することが記載されていると認められる。

上記(A)ないし(D)の検討事項より、引用例には、
「樹脂を紙にラミネートしたラミネート材料又はこれらの樹脂フイルムの表面に凹凸模様が形成され、離型剤が塗布されてなる離型紙が、シート基材の片面に設けられた粘着剤層に剥離可能に積層されているマーキングシートの粘着剤層の離型紙と接する面に凹凸模様を形成する方法であって、樹脂としてポリエチレンを用いる場合、ポリエチレンを紙の上に押出してラミネートした直後、エンボス加工された冷却ロール間を通すことによってポリエチレン表面に凹凸加工を施し、次に凹凸加工が施されたポリエチレンよりなる樹脂膜表面に、離型剤を塗布して離型紙を作製し、この凹凸模様を有する離型紙の表面に粘着剤を塗布する工程を有し、それにより、マーキングシートを被着体に貼付ける際、粘着剤層の凸部が被着体表面に接触し、被着体の表面と凹部との間に形成される、シートの端縁部まで通じた空間部を通して、粘着剤層と被着体との間に入り込んだ気泡を外部へ逃がすことができるように、粘着剤層の表面に離型紙表面と同様に凹部と凸部を有する凹凸模様を転写(形成)する、マーキングシートの粘着剤層の離型紙と接する面に凹凸模様を形成する方法。」(以下、「引用例記載の発明」という。)が記載されていると認められる。

(4)対比・検討
本願発明と引用例記載の発明とを対比する。
○引用例記載の発明の「粘着剤」は、本願発明の「感圧接着剤」に相当し、したがって、引用例記載の発明の『「マーキングシートの粘着剤層の」「面に凹凸模様を形成する方法」』は、本願発明の「接着剤表面の表面形態を制御する方法」に相当する。

○引用例記載の発明の『「離型紙の表面」の「凹凸模様」』は、本願発明の「隆起部の有効三次元パターン」に相当し、引用例記載の発明の「凹凸模様を有する離型紙の表面」は、本願発明の「隆起部の有効三次元パターンを有する表面である微細エンボスパターン」に相当し、したがって、引用例記載の発明の「凹凸模様を有する離型紙の表面に粘着剤を塗布」は、本願発明の「隆起部の有効三次元パターンを有する表面である微細エンボスパターンを接着剤の層に接触」に相当する。

○本願発明の「接着剤表面が接触した微細エンボスパターンと実質的に逆である表面形態を少なくとも一方の主要な実質的に連続な表面に有する連続な感圧接着剤表面を形成する」は、感圧接着剤(層)の表面に微細エンボスパターンと逆の表面形態(微細エンボスパターンと同様に凹部と凸部を有する凹凸模様)を転写することを技術的に意味すると認められるので、引用例記載の発明の「粘着剤層の表面に離型紙表面と同様に凹部と凸部を有する凹凸模様を転写(形成)する」は、本願発明の「接着剤表面が接触した微細エンボスパターンと実質的に逆である表面形態を少なくとも一方の主要な実質的に連続な表面に有する連続な感圧接着剤表面を形成する」に相当する。

○引用例記載の発明の「被着体」は、本願発明の「支持基材」に相当し、また、引用例記載の発明において、「マーキングシートを被着体に貼付ける際、粘着剤層の凸部が被着体表面に接触」すれば、「接着剤層」(粘着剤層)と「支持基材」(被着体)「との間に接着界面が確立される」ことは当然の事項であり、さらに、引用例記載の発明の『「被着体の表面と凹部との間に形成される」「空間部を通して、粘着剤層と被着体との間に入り込んだ気泡を外部へ逃がすことができる」』と、本願発明の「接着界面の平面から流体が排出されうる」とは、技術的に同義であるから、引用例記載の発明の「マーキングシートの被着体との接触面は凹凸模様を有し、被着体の表面と凹部との間に形成される、シートの端縁部まで通じた空間部を通して、粘着剤層と被着体との間に入り込んだ気泡を外部へ逃がすことができるように」は、本願発明の『「接着剤層と支持基材との間に接着界面が確立されると、」「接着界面の平面から流体が排出されうるように」』に相当する。

上記より、本願発明と引用例記載の発明とは、
「接着剤表面の表面形態を制御する方法であって、
接着剤層と支持基材との間に接着界面が確立されると、接着界面の平面から流体が排出されうるように、
隆起部の有効三次元パターンを有する表面である微細エンボスパターンを接着剤の層に接触させるステップ、
接着剤表面が接触した微細エンボスパターンと実質的に逆である表面形態を少なくとも一方の主要な実質的に連続な表面に有する連続な感圧接着剤表面を形成するステップ、
を含む方法。」 である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
接着剤層と支持基材との間に接着界面が確立される際の接着剤について、本願発明では、「少なくとも35%の接触領域を有」することが特定されているのに対し、引用例記載の発明では斯かる事項が特定されていない点。

<相違点2>
微細エンボスパターンが有する隆起部の有効三次元パターンについて、本願発明では、「45μm未満の高さを有する」と特定されているのに対し、引用例記載の発明では斯かる事項が特定されていない点。

<相違点1>について
一般に、接着剤物品は、支持基材と接触した際にある程度の接着力を発揮することを目的とするものであり、かかる目的のため、所望の接着力が得られる程度に接触領域を確保すべきことは、文献を挙げるまでもなく、技術的に自明の事項(技術常識)である。
そして、上記(イ)によれば、引用例記載の発明のマーキングシートとは、「車両、各種物品等の被着体に貼付けるために、シート基材の片面に粘着剤層が設けられているマーキングシート(ラベルを含む)」であるところ、これらが使用時に簡単に剥がれては困ることは明らかであるから、引用例記載の発明を実施するに際し、当該技術常識を踏まえ、どの程度の接着領域を確保するかは、当業者が適宜決定しうる数値の最適化の範疇にすぎない。

<相違点2について>
上記(ウ)によれば、引用例記載の発明は、「マーキングシート貼付け時に、マーキングシートと被着体との間に気泡が溜ることなく、貼付け作業が簡単に行えるマーキングシートを提供すること」を目的とするものであり、上記(オ)によれば、「マーキングシートの被着体との接触面は凹凸模様を有しており、この凹凸模様は、凹部がシート端縁部へ連通する溝のようなものであり、マーキングシートを貼付ける際に被着体との間に入り込んだ空気が、この溝を通じてシート外部へ逃げることができるのでマーキングシートと被着体との間に大きな気泡が生じることがない」ことで、上記の目的が達成されるといえる。そして、引用例記載の発明において、「被着体との接触面」で上記「溝」を画定する「粘着剤層の表面」の「凹凸模様」は、「凹凸模様を有する離型紙の表面」が転写されることにより形成されることから、引用例記載の発明において、『「離型紙の表面」が有する「凹凸模様」』(『「微細エンボスパターン」が有する「隆起部の有効三次元パターン」』)は、空気をシート外部へ逃がすのに十分な溝を、粘着剤層の表面に形成し得る高さを有するものであることは当然である。
そうすると、引用例記載の発明を実施するに際し、『「離型紙の表面」が有する「凹凸模様」』(『「微細エンボスパターン」が有する「隆起部の有効三次元パターン」』)は、粘着剤層の表面に、空気をシート外部へ逃がすのに十分な溝を形成し得る高さの凹凸模様を転写できる限りにおいて、任意の高さに設定可能であるといえ、具体的な高さを決定することは、当業者にとって、数値の最適化の範疇を超えるものでない。

<効果>について
本願明細書【0021】に、ライナー20のエンボス加工工具の表面形態について、「パターン24および26により形成される接着剤の実施態様に関し、表面22に対するランド部27(Tに対するA)の面積の割合は約35%?約99%の範囲であってもよい。望ましくは、この割合は約50%?約98%の範囲であってもよい。好ましくは、この割合は約60%?約97%の範囲であってもよい。さらに好ましくは、この割合は約70%?約96%の範囲であってもよい。最も好ましくは、Tに対するAの割合は約85%?約95%の範囲であってもよく、支持基材との接着性に有害な影響を与えることなく、適当な流体の流出を提供する」と記載されているが、ライナー20の表面22はランド部27と隆起部28よりなるところ(【0019】参照)、ランド部27が転写される接着剤層の部位が支持基材との接着に寄与し、隆起部28が転写される接着剤層の部位が適当な流体の流出に寄与することは当然の事項であるから、ランド部27と隆起部28の面積を適当に調整することで、「支持基材との接着性に有害な影響を与えることなく、適当な流体の流出を提供」できることは明らかであり、ライナー20の表面22のランド部27が転写されることで形成される、接着剤層が有する「接触領域」を「少なくとも35%」と特定することにより、特に予期せぬ効果が奏されるとは認められない。
また、本願明細書【0023】に、「ランド部27を形成するパターン24のエンボスは材料を移動させて隆起部28を形成する。大きい陸の塊が移動することによって山脈が形成されるように、隆起部28は表面22から生ずる。ランド部のエンボスの深さは数マイクロメーターの深さをもたらすにすぎないが、隆起部は表面22から約3?約45μm、好ましくは約5?約30μm、最も好ましくは約6?約20μmの範囲の高さまで生ずる」と記載されているが、45μmを超えるとどうなるかが記載されておらず、また、そのような比較例も示されていないことから、本願明細書には、隆起部を表面から45μm以下とすることで予期せぬ効果が奏されることが記載されているとは認められない。
したがって、本願発明は引用例記載の発明と比して、当業者が予期せぬ程の有利な効果を有しない。

〔なお、特開平6-248243号公報(原査定における引用文献3)には、写真製版用粘着テープに関する技術が記載されており、これは、「粘着剤層表面に空気の流通経路を形成し得る溝形状が設けられている」ことを特徴とするものであるが、【0036】によると、実施例は、「表面に2mm幅、深さ5μmのストライプ状の溝形状を10mmピッチで流れ方向に対して、形成された粘着剤層を設け」るものであり、これは、粘着剤層の接触領域が80%(=(10-2)/10×100)、エンボスパターンの隆起部の有効三次元パターンの高さが5μmの態様にあたる。
また、特開昭59-78285号公報(原査定における引用文献5)には、粘着フイルムに関する技術が記載されており、これは、「剥離フイルムが高さ1?15μmの連続した凸線状にエンボス加工されている合成樹脂フイルムである」ことを特徴とするものであるが、2頁左上欄4?9行には、「この連続した凸線が粘着剤層の粘着面(被着材との接着面)に転写され、連続した凹線を形成する。この凹線(溝)があることにより貼りつけに際し、空気の巻込みを防止し、また巻き込まれた空気の除去が容易に行なえる」ことが記載されている。
さらに、特開平7-138541号公報(原査定における引用文献6)には、粘着加工フィルムに関する技術が記載されており、これは、「粘着フィルム本体1の粘着面4側に、所定のパターンを持って連続する細凹溝3を凹設した」ものであり、【0014】によれば、「粘着フィルム本体の粘着面を、端の方から順次被貼着け面に貼着けて行けば、細凹溝から空気が抜けるため、気泡は貼り込まれ」ないものであるが、【0031】には、「本実施例では、幅寸法Wと相互間隔Sと深さ寸法Dを、各々、1.0mm,5.0mm,0.05mmに設定した」とあり、これは、粘着剤層の接触領域が69%(=5^(2)/6^(2)×100)、エンボスパターンの隆起部の有効三次元パターンの高さが50μmの態様にあたる。
このように、本願の優先日前において、空気を排出するために粘着剤層表面に設ける溝の形状として、種々の寸法が適宜採用されていたことを付記する。〕

(5)審判請求書における主張について

審判請求人は、平成27年1月8日付け手続補正書(方式)の4頁5?34行において、
「文献1の第4頁第17行?第5頁第2行には、離型紙の凹凸加工に用いられるロール表面の凹凸のサイズについて、「第2図に示すロール6表面の断面図において凸部7上面の幅をa、凸部8の開口幅をb、凸部7の高さをcとすると、a=15μm?5μm、b=490μm?80μm、c=200μm?15μmが好ましい。」と記載されています。文献1に記載のロール表面の凹凸パターンが、離型紙に粘着剤を塗布し、乾燥させた後に形成される粘着剤の層の凹凸パターンに対応すると仮定すると、凹凸加工に用いられるロール表面の凸部の上面の幅及び凹部の開口幅はそれぞれ離型紙を介して凹凸パターンが転写された粘着剤の凸部の幅及び凹部の幅に対応し、文献1に記載の粘着剤層について、凸部の幅の最大値(15μm)と凹部の幅の最小値(80μm)から、凸部の面積の割合の最大値は、100×(15μm)^(2)/(15μm+80μm)^(2)=2.5%と求められます。この2.5%という値は、本願請求項1に規定される接触領域の数値範囲「少なくとも35%」の下限である「35%」の値を大きく下回ります。・・従って、文献1に、凹凸加工に用いられるロール表面の凹凸のサイズについて、凸部の高さc=200?15μmが好ましい旨の記載があるとしても、文献1は、粘着剤層の凸部の上面の面積が粘着剤層の全表面接触面積のたかだか3%であることを教示しているものでありますから、最終的な基材上でのバッキング材料の外観に及ぼす影響を最小限に抑えつつ、被着体(基材)への貼り付け時に取り込まれた空気などの流体の接着面からの流出性(または排出性)を良好なレベルに維持し、かつ、接着剤の接着面積を大きくすることにより接着剤の性能を十分に発揮させることを可能にすることを教示又は示唆するものではありません。」
との主張を行っている。

引用例(上記「文献1」に相当)には、上記(エ)のとおり、「多数の溝を碁盤目状に設ける場合、凹凸加工に用いられるロール表面の凹凸サイズは、50?300メッシュが好ましい。具体的には、第2図に示すロール6表面の断面図において凸部7上面の幅をa、凹部8の開口幅をb、凸部7の高さをcとすると、a=15μm?5μm、b=490μm?80μm、c=200μm?15μmが好ましい。」と記載されている。
ここで、「a=15μm?5μm、b=490μm?80μm」は、(エンボス加工された冷却)ロールの表面形状に関する寸法であるが、この形状が離型紙の樹脂膜に転写され、さらに、その形状が粘着剤層に再度転写されることから、粘着剤層の表面形状は冷却ロールの表面形状と一致する。そうすると、当該粘着剤層の表面を二次元で表すと、白地部分が凸部で、薄墨部分が凹部の

という碁盤目状になる。
一方、「メッシュ」とは、上記(キ)によれば、「アメリカのタイラー Tyler によるふるいの目の開きによる呼び名」であり、「表-1」によれば、50メッシュとは、295μm強であり、300メッシュとは43?53μmの間の長さを意味することが分かる。そして、上記碁盤目状の図に着目すると、「ふるいの目の開き」と形容され、「メッシュ」で長さを表された箇所は、aで表される一辺であると考えるのが自然である。そうすると、「50?300メッシュ」とは、下限値が「43?53μmの間」であり、上限値が「295μm強」となるが、それと対応すべきaは「a=15μm?5μm」であり、整合性がとれていない。
このように、引用例の上記(エ)に記載の「多数の溝を碁盤目状に設ける場合、凹凸加工に用いられるロール表面の凹凸サイズは、50?300メッシュが好ましい。具体的には、第2図に示すロール6表面の断面図において凸部7上面の幅をa、凹部8の開口幅をb、凸部7の高さをcとすると、a=15μm?5μm、b=490μm?80μm、c=200μm?15μmが好ましい。」との記載は、何らかの誤記を含むものであると理解すべきであり、誤記を含む当該記載のみを根拠として、本願発明が引用例記載の発明から非容易想到であるとの審判請求人の主張は、採用することができない。
そして、引用例記載の発明は、実施例(一態様)に拘束されることなく、その目的を踏まえて、許容される具体的態様を検討すべきであり、また、そのように検討するならば、上記(4)で記載したとおり、本願発明は、引用例記載の発明に基いて当業者が容易に発明することができたものである。

(6)当審の判断のまとめ

以上のとおり、本願発明は、引用例記載の発明に基いて当業者であれば容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができるものでない。

第5 むすび

したがって、本願は、他の請求項に係る発明につき検討するまでもなく、特許法第49条第2号の規定に該当し、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり、審決する。
 
審理終結日 2016-03-16 
結審通知日 2016-03-22 
審決日 2016-04-04 
出願番号 特願2012-204761(P2012-204761)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C09J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 澤村 茂実  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 岩田 行剛
須藤 康洋
発明の名称 微細複製形態を有する接着剤ならびにこれを製造する方法およびこれを使用する方法  
代理人 小林 良博  
代理人 石田 敬  
代理人 出野 知  
代理人 古賀 哲次  
代理人 青木 篤  

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