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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G01N
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01N
管理番号 1318488
審判番号 不服2015-8925  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-05-13 
確定日 2016-09-06 
事件の表示 特願2013-111936「クロマトグラフィー分離用の秩序領域を有する多孔質無機/有機のハイブリッド材料およびこれらの調製方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月10日出願公開、特開2013-210382、請求項の数(84)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年7月15日(パリ条約による優先権主張 平成16年7月30日(以下「優先日」という。)、米国)を国際出願日とする特願2007-523612号の一部を平成25年5月28日に新たな特許出願としたものであって、平成26年5月7日付けで拒絶理由が通知され、同年11月13日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成27年1月5日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)され、これに対し、同年5月13日に拒絶査定不服審判が請求され、それと同時に手続補正がなされ、その後、当審において平成28年1月5日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年7月8日付けで意見書、誤訳訂正書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし84に係る発明は、平成28年7月8日付けの手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし84に記載された事項により特定されるものと認められ、そのうち、独立項である請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。
「【請求項1】
(a)孔再構成テンプレートを準備する工程と;
(b)多孔質ハイブリッド無機/有機粒子またはモノリスの孔に、孔再構成テンプレートを充填させることで、前記孔を秩序領域に再構成させることによって、前記多孔質ハイブリッド無機/有機粒子またはモノリスの前記孔を再構成させる工程と;および
(c)前記孔再構成テンプレートを前記再構成された孔から除去する工程と
を含む方法によって調製された、秩序領域を含み、クロマトグラフィー的に向上した孔形状を有する多孔質ハイブリッド無機/有機粒子またはモノリスであって、該多孔質ハイブリッド無機/有機粒子またはモノリスは、有機官能性が内部構造または骨格無機構造と、該ハイブリッド粒子またはモノリス表面との両方と一体となっている無機系構造を含み、該秩序領域は、X線粉末回折(XRPD)で測定して0.8から20°スキャン範囲(x軸、2θ単位)に回折ピークを示し、多孔質無機/有機ハイブリッド粒子またはモノリス中に見られる領域であり、
34Å未満の直径の孔が、該粒子またはモノリスの比表面積の110m^(2)/g未満に寄与し、該粒子またはモノリスについて観察される最大回折ピークが、非晶質材料による原子範囲秩序によって得られる20°?23°の回折ピークを排除した2θ位置を示し、
該粒子またはモノリスは、0.25から1.5cm^(3)/gの比孔容積および50から500Åの平均孔径を有する
粒子またはモノリス。」

第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1:国際公開第2003/014450号
刊行物2:国際公開第2003/022392号
刊行物3:特開2001-116737号公報
刊行物4:特開2000-17102号公報
刊行物5:特開2001-340755号公報
本願発明について、刊行物1又は刊行物2に記載の多孔質ハイブリッド無機/有機材料には、X線粉末回折(XRPD)で測定して0.8から20°スキャン範囲(x軸、2θ単位)に回折ピークを示す秩序領域を含むことが記載されていないが、それは刊行物3ないし5の記載から当業者が容易になし得たことである。
そして、請求項2ないし84に係る発明についても、刊行物1又は刊行物2の記載、例示するまでもない周知技術から当業者が容易になし得たことである。

2 原査定の理由の判断
(1)刊行物の記載事項
ア 本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2003/014450号(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。なお、当審訳については、特表2004-538468号公報の記載を参照し、引用発明の認定に関連する箇所の当審訳に下線を付与した。
(1-ア)「Summary Of The Invention
The present invention relates to novel porous inorganic/organic hybrid materials and their use in chromatographic separations, processes for their preparation, and separations devices containing the chromatographic material. Thus, one aspect of the invention is a porous inorganic/organic hybrid material, comprising a chromatographically-enhancing pore geometry.
Another aspect of the invention is directed to a porous inorganic/organic hybrid material, wherein pores of a diameter of less than about 34Å contribute less than about 110 m^(2)/g to less than about 50 m^(2)/g to the specific surface area of the material.
Yet another aspect of the invention is a porous inorganic/organic hybrid monolith material, comprising a chromatographically-enhancing pore geometry.
Still another aspect of the invention is a porous inorganic/organic hybrid monolith material, wherein pores of a diameter of less than about 34Å contribute less than about 110 m^(2)/g to less than about 50 m^(2)/g to the specific surface area of the material.
Another aspect of the invention is a porous inorganic/organic hybrid monolith material, comprising coalesced porous inorganic/organic hybrid particles having a chromatographically-enhancing pore geometry.」(5頁15?32行)。
(当審訳:発明の概要
本発明は、クロマトグラフィーによる分離における、新規な多孔質有機・無機ハイブリッド物質、及びその使用、その製造方法、およびこのクロマトグラフィー物質をを含む分離装置に関する。したがって、ある観点からは、本発明は、クロマトグラフィーを促進する細孔形状を備えた多孔質有機・無機ハイブリッド物質である。
他の観点からは、本発明は、直径が約34Å未満の細孔が、該物質の比表面積の約110m^(2)/g未満?約50m^(2)/g未満を構成する、多孔質有機・無機ハイブリッド物質に関する。
さらに他の観点からは、本発明は、クロマトグラフィーを促進する細孔形状を有する多孔質有機・無機ハイブリッドモノリス状物質である。
さらに他の観点からは、本発明は、直径が約34Å未満の細孔が、該物質の比表面積の約110m^(2)/g未満?約50m^(2)/g未満を構成する、多孔質有機・無機ハイブリッドモノリス状物質である。」
他の観点からは、本発明は、クロマトグラフィーを促進する細孔形状を有する連結された多孔質有機・無機ハイブリッド粒子を含んでなる、多孔質有機・無機ハイブリッドモノリス状物質である。)

(1-イ)「"Hybrid", i.e., as in "porous inorganic/organic hybrid particles" or "porous inorganic/organic hybrid monolith" includes inorganic-based structures wherein an organic functionality is integral to both the internal or "skeletal" inorganic structure as well as the hybrid material surface.」(15頁13?16行)
(当審訳:「多孔質有機・無機ハイブリッド粒子」あるいは「多孔質有機・無機ハイブリッドモノリス」における「ハイブリッド」とは、有機官能基が内部または“骨格の”無機構造と、並びにハイブリッド物質表面と一体化している場合の無機ベース構造物を含む。」

(1-ウ)「The present porous inorganic/organic hybrid materials having a cliromatographically-enhancing pore geometry generally have a specific surface area, as measured by N_(2 )sorption analysis, of about 50 to 800 m^(2)/g, preferably about 75 to 600 m^(2)/g, more preferably about 100 to 350 m^(2)/g. The specific pore volume of the hybrid materials is generally about 0.25 to 1.5 cm^(3)/g, preferably about 0.4 to 1.2 cm^(3)/g, more preferably about 0.5 to 1.0 cm^(3)/g. The porous inorganic/organic hybrid materials having a chromatographically-enhancing pore geometry have an average pore diameter of generally about 50 to 500Å, preferably about 60 to 500Å, more preferably about 100 to 300Å. The micropore surface area is less than about 110 m^(2)/g, preferably less than about 105 m^(2)/g, more preferably less than about 80 m^(2)/g, and still more preferably less than about 50 m^(2)/g.
Porous inorganic/organic hybrid materials having a chromatographically- enhancing pore geometry may be made as described below and in the specific instances illustrated in the Examples. Porous spherical particles of hybrid silica may, in one embodiment, be prepared by a multi-step process. In the first step, one or more organoalkoxysilanes such as methyltriethoxysilane, and a tetraalkoxysilane such as tetraethoxy silane (TEOS) are prepolymerized to form a polyorganoalkoxysiloxane (POS), e.g., polyalkylalkoxysiloxane, by co-hydrolyzing a mixture of the two or more components in the presence of an acid catalyst. In the second step, the POS is suspended in an aqueous medium in the presence of a surfactant or a combination of surfactants and gelled into porous spherical particles of hybrid silica using a base catalyst. In the third step, the pore structure of the hybrid silica particles is modified by hydrothermal treatment, producing an intermediate hybrid silica product which may be used for particular purposes itself, or desirably may be further processed, as described below. The above three steps of the process allow much better control of the particle sphericity, morphology, pore volume and pore sizes than those described in the prior art, and thus provide the chromatographically-enhancing pore geometry.」(20頁22行?21頁10行)
(当審訳:クロマトグラフィーを促進する細孔形状を有する本発明の多孔質有機・無機ハイブリッド物質は一般に、約50?800m^(2)/g(好ましくは約75?600m^(2)/g、さらに好ましくは約100?350m^(2)/g)の比表面積(N_(2)吸着分析によって測定)を有する。本発明の多孔質有機・無機ハイブリッド物質の比細孔容積は、一般には約0.25?1.5cm^(3)/gであり、好ましくは約0.4?1.2cm^(3)/gであり、さらに好ましくは約0.5?1.0cm^(3)/gである。クロマトグラフィーを促進する細孔形状を有する本発明の多孔質有機・無機ハイブリッド物質は、一般には約50?500Åの平均細孔直径を有し、好ましくは約60?500Åの平均細孔直径を有し、さらに好ましくは約100?300Åの平均細孔直径を有する。ミクロ細孔の表面積は約110m^(2)/g未満であり、好ましくは約105m^(2)/g未満であり、さらに好ましくは約80m^(2)/g未満であり、さらに好ましくは約50m^(2)/g未満である。
クロマトグラフィーを促進する細孔形状を有する多孔質有機・無機ハイブリッド物質は、後述するように、また実施例に示す特定の例におけるように製造することができる。ハイブリッドシリカの多孔質球状粒子は、ある実施態様においては、複数工程プロセスによって製造することができる。第1の工程においては、1種以上のオルガノアルコキシシラン(例えばメチルトリエトキシシラン)とテトラアルコキシシラン(例えばテトラエトキシシラン(TEOS))とを、酸触媒の存在下で2種以上の成分の混合物を同時加水分解させることによって予備重合してポリオルガノアルコキシシロキサン(POS)(例えばポリアルキルアルコキシシロキサン)を形成させる。第2の工程においては、界面活性剤又は界面活性剤の組み合わせ物の存在下にてPOSを水性媒体中に懸濁し、塩基触媒を使用してゲル化させてハイブリッドシリカの多孔質球状粒子にする。第3の工程においては、後述のように、ハイブリッドシリカ粒子の細孔構造を水熱処理によって変性し、特定の目的それ自体に対して使用できるか、あるいはさらに処理するのが望ましい中間のハイブリッドシリカ生成物を得る。該プロセスの上記3つの工程により、粒子の球形度、モルホロジー、細孔容積、及び細孔サイズに関して、従来技術に記載の制御よりはるかに良好な制御が可能となり、それによって、クロマトグラフィーを促進する細孔形状が提供される。)

上記引用例1の記載事項を総合すると、引用例1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「クロマトグラフィーを促進する細孔形状を有する多孔質有機・無機ハイブリッドモノリス状物質であって、
有機官能基が内部または“骨格の”無機構造と、並びにハイブリッド物質表面と一体化している場合の無機ベース構造物を含み、
直径が約34Å未満の細孔が、該物質の比表面積の約110m^(2)/g未満?約50m^(2)/g未満を構成し、比細孔容積は、約0.25?1.5cm^(3)/gであり、約50?500Åの平均細孔直径を有する、
多孔質有機・無機ハイブリッドモノリス状物質。」(以下「引用発明1」という。)

イ 本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2003/022392号(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。なお、当審訳については、特表2005-502061号公報の記載を参照し、引用発明の認定に関連する箇所の当審訳に下線を付与した。
(2-ア)「Summary Of The Invention
The present invention relates to a novel material for chromatographic separations, processes for its preparation, and separations devices containing the chromatographic material. In particular, one aspect of the invention is a porous inorganic/organic hybrid material, comprising porous inorganic/organic hybrid particles having a chromatographically-enhancing pore geometry.」(3頁15?20行)
(当審訳:発明の概要
本発明は、クロマトグラフィー分離用の新規物質、前記物質の製造法、及びクロマトグラフィー物質を含有する分離装置に関する。特に、本発明の1つの態様は、クロマトグラフィーを促進する細孔形状を有する多孔質有機・無機ハイブリッド粒子を含んだ多孔質有機・無機ハイブリッド物質である。)

(2-イ)「In another aspect, the invention is directed to a porous inorganic/organic hybrid material, comprising a chromatographically-enhancing pore geometry.
Yet another aspect of the invention is a porous inorganic/organic hybrid material, wherein pores of a diameter of less than about 34Å contribute less than about 110 m^(2)/g to less than about 50 m^(2)/g to the specific surface area of the material.」(8頁25?29行)
(当審訳:本発明のさらに他の態様は、クロマトグラフィーを促進する細孔形状を含んだ多孔質有機・無機ハイブリッド物質に関する。
本発明のさらに他の態様は、約34Å未満の直径を有する細孔が当該物質の比表面積の約110m^(2)/g未満?約50m^(2)/g未満を構成する、という多孔質有機・無機ハイブリッド物質である。)

(2-ウ)「"Hybrid", i.e., as in "porous inorganic/organic hybrid particles" includes inorganic-based structures wherein an organic functionality is integral to both the internal or "skeletal" inorganic structure as well as the hybrid material surface. 」(9頁28?30行)
(当審訳:“ハイブリッド”、すなわち“多孔質有機・無機ハイブリッド粒子”は、有機官能価が内部または“骨格の”無機構造と、並びにハイブリッド物質表面と一体化している場合の無機ベース構造物を含む。)

(2-エ)「The present porous inorganic/organic hybrid particles having a chromatographically-enhancing pore geometry generally have a specific surface area, as measured by N_(2) sorption analysis, of about 50 to 800 m^(2)/g, preferably about 75 to 600 m^(2)/g, more preferably about 100 to 350 m^(2)/g. The specific pore volume of the particles is generally about 0.25 to 1.5 cm^(3)/g, preferably about 0.4 to 1.2 cm^(3)/g, more preferably about 0.5 to 1.0 cm^(3)/g. The porous inorganic/organic hybrid particles having a chromatographically-enhancing pore geometry have an average pore diameter of generally about 50 to 500Å, preferably about 60 to 500Å, more preferably about 100 to 300Å. The micropore surface area is less than about 110 m^(2)/g, preferably less than about 105 m^(2)/g, more preferably less than about 80 m^(2)/g, and still more preferably less than about 50 m^(2)/g.
Porous inorganic/organic hybrid particles having a chromatographically- enhancing pore geometry may be made as described below and in the specific instances illustrated in the Examples. Porous spherical particles of hybrid silica may, in a preferred embodiment, be prepared by a multi-step process. In the first step, one or more organoalkoxysilanes such as methyltriethoxysilane, and a tetraalkoxysilane such as tetraethoxysilane (TEOS) are prepolymerized to form a polyorganoalkoxysiloxane (POS), e.g., polyalkylalkoxysiloxane, by co-hydrolyzing a mixture of the two or more components in the presence of an acid catalyst. In the second step, the POS is suspended in an aqueous medium in the presence of a surfactant or a combination of surfactants and gelled into porous spherical particles of hybrid silica using a base catalyst. In the third step, the pore structure of the hybrid silica particles is modified by hydrothermal treatment, producing an intermediate hybrid silica product which may be used for particular purposes itself, or desirably may be further processed below. The above three steps of the process allow much better control of the particle sphericity, morphology, pore volume and pore sizes than those described in the prior art, and thus provide the chromatographically-enhancing pore geometry.」(15頁8?34行)
(当審訳:クロマトグラフィーを促進する細孔形状を有する本発明の多孔質有機・無機ハイブリッド粒子は一般に、約50?800m^(2)/g(好ましくは約75?600m^(2)/g、さらに好ましくは約100?350m^(2)/g)の比表面積(N_(2)吸着分析によって測定)を有する。本発明の多孔質有機・無機ハイブリッド粒子の比細孔容積は、一般には約0.25?1.5cm^(3)/gであり、好ましくは約0.4?1.2cm^(3)/gであり、さらに好ましくは約0.5?1.0cm^(3)/gである。クロマトグラフィーを促進する細孔形状を有する本発明の多孔質有機・無機ハイブリッド粒子は、一般には約50?500Åの平均細孔直径を有し、好ましくは約60?500Åの平均細孔直径を有し、さらに好ましくは約100?300Åの平均細孔直径を有する。ミクロ細孔の表面積は約110m^(2)/g未満であり、好ましくは約105m^(2)/g未満であり、さらに好ましくは約80m^(2)/g未満であり、さらに好ましくは約50m^(2)/g未満である。
クロマトグラフィーを促進する細孔形状を有する多孔質有機・無機ハイブリッド粒子は、後述するように、また実施例に示す特定の例におけるように製造することができる。ハイブリッドシリカの多孔質球状粒子は、好ましい実施態様においては、複数工程プロセスによって製造することができる。第1の工程においては、1種以上のオルガノアルコキシシラン(例えばメチルトリエトキシシラン)とテトラアルコキシシラン(例えばテトラエトキシシラン(TEOS))とを、酸触媒の存在下で2種以上の成分の混合物を同時加水分解させることによって予備重合してポリオルガノアルコキシシロキサン(POS)(例えばポリアルキルアルコキシシロキサン)を形成させる。第2の工程においては、界面活性剤又は界面活性剤の組み合わせ物の存在下にてPOSを水性媒体中に懸濁し、塩基触媒を使用してゲル化させてハイブリッドシリカの多孔質球状粒子にする。第3の工程においては、ハイブリッドシリカ粒子の細孔構造を水熱処理によって変性し、特定の目的それ自体に対して使用できるか、あるいは後述のようにさらに処理するのが望ましい中間のハイブリッドシリカ生成物を得る。該プロセスの上記3つの工程により、粒子の球形度、モルホロジー、細孔容積、及び細孔サイズに関して、従来技術に記載の制御よりはるかに良好な制御が可能となり、それによって、クロマトグラフィーを促進する細孔形状が提供される。)

上記引用例2の記載事項を総合すると、引用例2には,以下の発明が記載されていると認められる。
「クロマトグラフィーを促進する細孔形状を有する多孔質有機・無機ハイブリッド粒子を含んだ多孔質有機・無機ハイブリッド物質であって、
“ハイブリッド”、すなわち“多孔質有機・無機ハイブリッド粒子”は、有機官能価が内部または“骨格の”無機構造と、並びにハイブリッド物質表面と一体化している場合の無機ベース構造物を含み、
約34Å未満の直径を有する細孔が当該物質の比表面積の約110m^(2)/g未満?約50m^(2)/g未満を構成し、比細孔容積は、約0.25?1.5cm^(3)/gであり、約50?500Åの平均細孔直径を有する、
多孔質有機・無機ハイブリッド物質。」(以下「引用発明2」という。)

ウ 本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2001-116737号公報(以下「引用例3」という。)には、次の事項が記載されている。
(3-ア)「【0017】本発明の吸着分離方法は、炭素原子を1以上有する有機基と、該有機基中の同一若しくは異なる炭素原子に結合した2以上の金属原子と、該金属原子に結合した1以上の酸素原子とからなる骨格を有する結晶性の有機無機複合材料からなり、細孔を有する多孔質粒子を、吸着分離材として用いるものである。」

(3-イ)「【0092】(実施例1)
1,2-ビス(トリメトキシシリル)エタンの合成
・・・
【0093】多孔質粒子前駆体の合成
100mLビーカーに0.432g(1.35mmol)のn-ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド(界面活性剤)と、30gのイオン交換水と1.5gの6規定NaOH水溶液(7.5mmolのNaOHを含有する)とを導入した。室温で激しく攪拌しながら、BTMeを2.03g(7.5mmol)加え、3時間攪拌した。室温で14時間静置後に、12.5時間攪拌し、再び14時間静置した後に6.9時間攪拌し、濾過した。沈殿は300mLのイオン交換水で2回洗い、風乾後に、1.90gの固形物を得た。この固形物は多孔質粒子前駆体であり、細孔内に上記界面活性剤を有するものである。
【0094】多孔質粒子の生成
次に述べるような方法で多孔質粒子前駆体から界面活性剤を除去し、多孔質粒子を得た。すなわち、上記の多孔質粒子前駆体1.0gを150mL無水エタノールと3.8g濃塩酸の混合物に加え、50℃で6時間攪拌し、濾過した。回収した沈殿は同じ条件でもう一回無水エタノールと濃塩酸の混合物で処理した。最終的に得られた沈殿を150mL無水エタノールで2回洗い、風乾することにより、多孔質粒子を得た。」

エ 本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2000-17102号公報(以下「引用例4」という。)には、次の事項が記載されている。
(4-ア)「【請求項1】(a)金属原子を含む高分子主鎖を有し、(b)1又は2以上の炭素原子を含む有機基が、当該炭素原子において前記主鎖を構成する金属原子に2点以上で結合しており、(c)細孔分布曲線における最大ピークを示す細孔直径の±40%の範囲に全細孔容積の60%以上が含まれる細孔を有する、有機/無機複合高分子多孔材料。」

(4-イ)「【0036】
(実施例2)メソポーラス物質の合成
(1)
界面活性剤の存在下でNaOHを触媒としてMEMeを加水分解と縮重合させた。100mLのビーカーに1.152g(3.6mmol)のn-ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド[C_(16)H_(33)N (CH_(3) )_( 3 )Cl]と30gのイオン交換水と1.5gの6NNaOH水溶液(7.5mmolのNaOHを含有)を入れた。室温で激しく攪拌しながら、BEMeを2.03g(7.5mmol) 加え、3時間攪拌した。室温で14時間静置後に、12.5時間攪拌し、さらに14時間静置後に6.9時間攪拌し、濾過した。沈殿は300mLのイオン交換水で2回洗い、風乾後に、1.90gの固形生成物を得た。界面活性剤の除去は、1.0gの固形生成物を、150mL無水エタノールと3.8g濃塩酸の混合物に加え、50℃で6時間攪拌し、濾過することにより行った。回収した沈殿は同じ条件でもう1回HCl-EtOHで処理を繰り返した。150mL無水エタノールで2回洗い、風乾することにより多孔材料を得た。」

オ 本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2001-340755号公報(以下「引用例5」という。)には、次の事項が記載されている。
(5-ア)「【0031】(細孔壁の骨格組成)このようなメソ孔を有する多孔体は、無機系骨格の細孔壁、または、無機/有機ハイブリッド系骨格の細孔壁を有している。すなわち、本発明のガス吸着分離用多孔体における細孔壁は、無機系骨格あるいは無機/有機ハイブリッド系骨格を有している。」

(5-イ)「【0101】実施例1
非イオン系界面活性剤として(EO)_(17)(PO)_(58)(EO)_(17)の組成式で表されるトリブロックコポリマー(以下、単にP104という。BASF製)を用い、骨格成分としてテトラエチルシリケート(TEOS)を用いた。P104の存在下、TEOSを塩酸を触媒として加水分解せしめて縮重合させた。
【0102】すなわち、1.76gのP104(0.00035モル)を105mlのイオン交換水に溶解させ、この界面活性剤溶液に12N塩酸20ml(0.24モル)を加えた(全水量6.67モル、界面活性剤濃度:14.67g/l)。45℃の湯浴中で、この混合液に対して4.73gのTEOS(0.021モル)を一度に加えて、8時間撹拌した。さらに、80℃のオイルバス中に8時間静置した。生成した白色沈殿を吸引濾過により収集し、多量のイオン交換水で十分洗浄した後、45℃の乾燥器中に一晩放置した。界面活性剤の除去は、エアーを流しながら(流速0.5ml/min)、室温から550℃まで2時間かけて昇温し、550℃で6時間焼成することにより行った。この結果、試料1の多孔体(粉末)を得た。」

(2)対比
ア 本願発明と引用発明1とを対比する。
(ア)引用発明1の「クロマトグラフィーを促進する細孔形状を有する多孔質有機・無機ハイブリッドモノリス状物質」は、本願発明の「クロマトグラフィー的に向上した孔形状を有する多孔質ハイブリッド無機/有機モノリス」に相当する。

(イ)引用発明1の「有機官能基が内部または“骨格の”無機構造と、並びにハイブリッド物質表面と一体化している場合の無機ベース構造物」は、本願発明の「有機官能性が内部構造または骨格無機構造と、該ハイブリッドモノリス表面との両方と一体となっている無機系構造」に相当する。

(ウ)引用発明1の「直径が約34Å未満の細孔が、該物質の比表面積の約110 m^(2)/g未満?約50 m^(2)/g未満を構成」することは、本願発明の「34Å未満の直径の孔が、該モノリスの比表面積の110m^(2)/g未満に寄与」することに相当する。

(エ)引用発明1の「比細孔容積は、約0.25?1.5cm^(3)/gであり、約50?500Åの平均細孔直径を有する」ことは、本願発明の「0.25から1.5cm^(3)/gの比孔容積および50から500Åの平均孔径を有する」ことに相当する。

してみれば、本願発明と引用発明1とは、
(一致点)
「クロマトグラフィー的に向上した孔形状を有する多孔質ハイブリッド無機/有機モノリスであって、
該多孔質ハイブリッド無機/有機モノリスは、有機官能性が内部構造または骨格無機構造と、該ハイブリッドモノリス表面との両方と一体となっている無機系構造を含み、
34Å未満の直径の孔が、該モノリスの比表面積の110m^(2)/g未満に寄与し、
該モノリスは、0.25から1.5cm^(3)/gの比孔容積および50から500Åの平均孔径を有する、モノリス。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本願発明1は、「(a)孔再構成テンプレートを準備する工程と;(b)多孔質ハイブリッド無機/有機粒子またはモノリスの孔に、孔再構成テンプレートを充填させることで、前記孔を秩序領域に再構成させることによって、前記多孔質ハイブリッド無機/有機粒子またはモノリスの前記孔を再構成させる工程と;および(c)前記孔再構成テンプレートを前記再構成された孔から除去する工程とを含む方法によって調製された」ものであるのに対し、引用発明1は、そのように調整されたものではない点。

(相違点2)
本願発明は、「秩序領域を含み」、「該秩序領域は、X線粉末回折(XRPD)で測定して0.8から20°スキャン範囲(x軸、2θ単位)に回折ピークを示し、多孔質無機/有機ハイブリッド粒子またはモノリス中に見られる領域であり」、「該粒子またはモノリスについて観察される最大回折ピークが、非晶質材料による原子範囲秩序によって得られる20°?23°の回折ピークを排除した2θ位置を示」すものであるのに対し、引用発明1は、そのようなものであるのか不明である点。

ア 本願発明と引用発明2とを対比する。
(ア)引用発明2の「クロマトグラフィーを促進する細孔形状を有する多孔質有機・無機ハイブリッド粒子」は、本願発明の「クロマトグラフィー的に向上した孔形状を有する多孔質ハイブリッド無機/有機粒子」に相当する。

(イ)引用発明2の「“ハイブリッド”、すなわち“多孔質有機・無機ハイブリッド粒子”は、有機官能価が内部または“骨格の”無機構造と、並びにハイブリッド物質表面と一体化している場合の無機ベース構造物」は、本願発明の「有機官能性が内部構造または骨格無機構造と、該ハイブリッド粒子表面との両方と一体となっている無機系構造」に相当する。

(ウ)引用発明2の「約34Å未満の直径を有する細孔が当該物質の比表面積の約110m^(2)/g未満?約50m^(2)/g未満を構成」することは、本願発明の「34Å未満の直径の孔が、該粒子またはモノリスの比表面積の110m^(2)/g未満に寄与」することに相当する。

(エ)引用発明2の「比細孔容積は、約0.25?1.5cm^(3)/gであり、約50?500Åの平均細孔直径を有する」ことは、本願発明の「0.25から1.5cm^(3)/gの比孔容積および50から500Åの平均孔径を有する」ことに相当する。

してみれば、本願発明と引用発明2とは、
(一致点)
「クロマトグラフィー的に向上した孔形状を有する多孔質ハイブリッド無機/有機粒子であって、
該多孔質ハイブリッド無機/有機粒子は、有機官能性が内部構造または骨格無機構造と、該ハイブリッド粒子表面との両方と一体となっている無機系構造を含み、
34Å未満の直径の孔が、該粒子の比表面積の110m^(2)/g未満に寄与し、
該粒子は、0.25から1.5cm^(3)/gの比孔容積および50から500Åの平均孔径を有する、粒子」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1’)
本願発明は、「(a)孔再構成テンプレートを準備する工程と;(b)多孔質ハイブリッド無機/有機粒子またはモノリスの孔に、孔再構成テンプレートを充填させることで、前記孔を秩序領域に再構成させることによって、前記多孔質ハイブリッド無機/有機粒子またはモノリスの前記孔を再構成させる工程と;および(c)前記孔再構成テンプレートを前記再構成された孔から除去する工程とを含む方法によって調製された」ものであるのに対し、引用発明2は、そのように調整されたものではない点。

(相違点2’)
本願発明は、「秩序領域を含み」、「該秩序領域は、X線粉末回折(XRPD)で測定して0.8から20°スキャン範囲(x軸、2θ単位)に回折ピークを示し、多孔質無機/有機ハイブリッド粒子またはモノリス中に見られる領域であり」、「該粒子またはモノリスについて観察される最大回折ピークが、非晶質材料による原子範囲秩序によって得られる20°?23°の回折ピークを排除した2θ位置を示」すものであるのに対し、引用発明2は、そのようなものであるのか不明である点。

(3)相違点についての判断
ア 本願発明と引用発明1とを対比したときの相違点1及び2と、本願発明と引用発明2とを対比したときの相違点1’及び2’は同じであり、相違点1及び2についての判断は、相違点1’及び2’の判断と同じである。

イ 相違点1についての検討
引用発明1の多孔質有機・無機ハイブリッドモノリス状物質は、引用例1の摘記(1-ウ)に「第1の工程においては、1種以上のオルガノアルコキシシラン(例えばメチルトリエトキシシラン)とテトラアルコキシシラン(例えばテトラエトキシシラン(TEOS))とを、酸触媒の存在下で2種以上の成分の混合物を同時加水分解させることによって予備重合してポリオルガノアルコキシシロキサン(POS)(例えばポリアルキルアルコキシシロキサン)を形成させる。第2の工程においては、界面活性剤又は界面活性剤の組み合わせ物の存在下にてPOSを水性媒体中に懸濁し、塩基触媒を使用してゲル化させてハイブリッドシリカの多孔質球状粒子にする。第3の工程においては、後述のように、ハイブリッドシリカ粒子の細孔構造を水熱処理によって変性し、特定の目的それ自体に対して使用できるか、あるいはさらに処理するのが望ましい中間のハイブリッドシリカ生成物を得る。該プロセスの上記3つの工程により、粒子の球形度、モルホロジー、細孔容積、及び細孔サイズに関して、従来技術に記載の制御よりはるかに良好な制御が可能となり、それによって、クロマトグラフィーを促進する細孔形状が提供される。」と記載されている方法により多孔質物質を得るものである。
引用発明2の多孔質有機・無機ハイブリッド物質についても、引用例2の摘記(2-エ)に記載されているとおり、上記引用例1の方法と同じ方法によって多孔質物質を得るものである。
それに対し、本願発明は、「(a)孔再構成テンプレートを準備する工程と;(b)多孔質ハイブリッド無機/有機粒子またはモノリスの孔に、孔再構成テンプレートを充填させることで、前記孔を秩序領域に再構成させることによって、前記多孔質ハイブリッド無機/有機粒子またはモノリスの前記孔を再構成させる工程と;および(c)前記孔再構成テンプレートを前記再構成された孔から除去する工程とを含む方法によって調製され」ることによって得られるものであり、既に得られた「多孔質ハイブリッド無機/有機粒子またはモノリス」の「孔」に対して、「孔再構成テンプレートを充填させ」、「前記孔を秩序領域に再構成させることによって、前記多孔質ハイブリッド無機/有機粒子またはモノリスの前記孔を再構成させ」、「前記孔再構成テンプレートを前記再構成された孔から除去する」ものである。
この点、本願明細書にも「【0103】
一実施形態においては、再構成テンプレートは、臨界ミセル濃度(CMC)を超える濃度のテンプレート分子を使用し、場合によりテンプレート膨潤分子を併用することによって形成される。これによって、種々の形状、大きさ、および配列の孔テンプレート分子のミセル、ベシクル、または網目構造が形成され、たとえば、図1に示されるような六方最密充填網目構造が形成される。」
「【0107】
図2に例示されるように、孔テンプレート分子は、ハイブリッドシリケートの溶解/沈殿過程を介してハイブリッド材料の孔に入る。この過程のこの時点で、ハイブリッド材料の孔が、秩序化された孔テンプレートミセルの束で充填される。これらの束が、孔を秩序領域に再構成する。」と記載されていると共に、【図1】及び【図2】が添付されている。


してみれば、本願発明の多孔質ハイブリッド無機/有機粒子またはモノリスは、引用発明1の多孔質有機・無機ハイブリッドモノリス状物質又は引用発明2の多孔質有機・無機ハイブリッド物質の「孔」に対して、さらに、「孔再構成テンプレートを充填させ」、「前記孔を秩序領域に再構成させることによって、前記多孔質ハイブリッド無機/有機粒子またはモノリスの前記孔を再構成させ」、「前記孔再構成テンプレートを前記再構成された孔から除去する」工程により作られるものである。該工程を経た本願発明の「孔」は、該工程を経る前の引用発明1及び引用発明2の「孔」と比較して、「孔再構成テンプレート」の形状通りに、秩序領域に再構成されている点で同じ「孔」であるとはいえない。

そして、引用例3?5には、上記(1)「刊行物の記載」のウ?オに記載されているとおり、上記相違点1に係る本願発明の特定事項については記載も示唆もされていない。
してみれば、引用発明1又は引用発明2に引用例3?5の記載の技術事項を適用したとしても、上記相違点1の本願発明の特定事項のように構成することできない。

(4)小括
したがって、本願発明は、相違点2(すなわち相違点2’)を検討するまでもなく、引用発明1又は引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本願請求項2に係る発明も、本願発明と同じ「(a)孔再構成テンプレートを準備する工程と;(b)多孔質ハイブリッド無機/有機粒子またはモノリスの孔に、孔再構成テンプレートを充填させることで、前記孔を秩序領域に再構成させることによって、前記多孔質ハイブリッド無機/有機粒子またはモノリスの前記孔を再構成させる工程と;および(c)前記孔再構成テンプレートを前記再構成された孔から除去する工程とを含む方法によって調製された」との発明特定事項を含むため、本願請求項2に係る発明についても、本願発明と同じ判断により、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
そして、本願請求項3ないし84に係る発明は、本願発明又は本願請求項2に係る発明をさらに限定したものであるから、本願発明又は本願請求項2に係る発明と同様に、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
(1)本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

請求項1に係る発明は、「粒子またはモノリス」という物の発明であるが、
「(a)孔再構成テンプレートを準備する工程と;(b)多孔質ハイブリッド無機/有機粒子またはモノリスの孔を、孔再構成テンプレートと接触させることで、前記孔を秩序領域に再構成させることによって、前記多孔質ハイブリッド無機/有機粒子またはモノリスの前記孔を再構成させる工程と;および(c)前記孔再構成テンプレートを前記再構成された孔から除去する工程とを含む方法によって調製された」との記載は、製造に関して経時的な要素の記載がある場合及び製造に関して技術的な特徴が付された記載がある場合に該当するため、当該請求項にはその物の製造方法が記載されているといえる。
ここで、物の発明に係る特許請求の範囲にその物を製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時(本願については分割出願であるため出願遡及日)において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、平成24年(受)第2658号)。
しかしながら、本願明細書等には不可能・非実際的事情について何ら記載がなく、当業者にとって不可能・非実際的事情が明らかであるとも言えない。
したがって、請求項1並びに請求項1を直接又は間接的に引用する請求項3?37及び50?84に係る発明は明確ではなく、特許法36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(2)本願請求項1ないし84に係るは、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1:国際公開第2003/014450号
刊行物2:国際公開第2003/022392号
刊行物3:特開2001-116737号公報
刊行物4:特開2000-17102号公報
刊行物5:特開2001-340755号公報
刊行物6:国際公開第2004/041398号
刊行物7:国際公開第2002/060562号
ここで、刊行物1ないし5は、第3の1「原査定の理由の概要」に記載されているとおり、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である刊行物1ないし5と同じ刊行物である。当審拒絶理由においては、本願請求項2に係る発明において特定されている組成について開示されている刊行物6及び7をさらに追加した。

2 当審拒絶理由の判断
(1)特許法第36条第6項第2号について
平成28年7月8日付け手続補正書によって、請求項1の
「(a)孔再構成テンプレートを準備する工程と;
(b)多孔質ハイブリッド無機/有機粒子またはモノリスの孔を、孔再構成テンプレートと接触させることで、前記孔を秩序領域に再構成させることによって、前記多孔質ハイブリッド無機/有機粒子またはモノリスの前記孔を再構成させる工程と;および
(c)前記孔再構成テンプレートを前記再構成された孔から除去する工程とを含む方法によって調製された」との記載は、
「(a)孔再構成テンプレートを準備する工程と;
(b)多孔質ハイブリッド無機/有機粒子またはモノリスの孔に、孔再構成テンプレートを充填させることで、前記孔を秩序領域に再構成させることによって、前記多孔質ハイブリッド無機/有機粒子またはモノリスの前記孔を再構成させる工程と;および
(c)前記孔再構成テンプレートを前記再構成された孔から除去する工程と
を含む方法によって調製された」(下線は補正箇所)と補正された。
そして、請求人は、意見書において、以下の主張をしている。
「しかしながら、本願発明は、出願時(出願遡及日)において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(不可能・非実際的事情)が存在するものであり、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するものです。
本願発明は、「(a)孔再構成テンプレートを準備する工程と;(b)多孔質ハイブリッド無機/有機粒子またはモノリスの孔に、孔再構成テンプレートを充填させることで、前記孔を秩序領域に再構成させることによって、前記多孔質ハイブリッド無機/有機粒子またはモノリスの前記孔を再構成させる工程と;および(c)前記孔再構成テンプレートを前記再構成された孔から除去する工程とを含む方法によって調製された」多孔質ハイブリッド無機/有機粒子またはモノリスであるので、秩序領域を含み、クロマトグラフィー的に向上した孔形状を有する、(従来技術と比較してクロマトグラフィー性能が改善された)多孔質ハイブリッド無機/有機粒子またはモノリスを提供できるという顕著な効果を奏することができます(本願明細書段落[0012]、[0052]、[0053]及び[0107]の記載並びに同段落[0115]以降の実施例の記載等を参照されたい)。本明細書段落[0107]には、「図2に例示されるように、孔テンプレート分子は、ハイブリッドシリケートの溶解/沈殿過程を介してハイブリッド材料の孔に入る。この過程のこの時点で、ハイブリッド材料の孔が、秩序化された孔テンプレートミセルの束で充填される。これらの束が、孔を秩序領域に再構成する。」と記載されています。すなわち、秩序領域を含む、クロマトグラフィー的に向上した孔形状を有する多孔質ハイブリッド無機/有機粒子またはモノリスを得るためには、まず、(a)孔再構成テンプレートを準備し、(b)多孔質ハイブリッド無機/有機粒子またはモノリスの孔に、孔再構成テンプレートを充填させることで、前記孔を秩序領域に再構成させることによって、前記多孔質ハイブリッド無機/有機粒子またはモノリスの前記孔を再構成させ、さらに、(c)前記孔再構成テンプレートを前記再構成された孔から除去する工程(方法)により調製されます(図2もご参照)。すなわち、多孔質ハイブリッド無機/有機粒子またはモノリスが有するクロマトグラフィー的に向上した孔形状は、孔再構成テンプレートに合わせたものであり、かかる孔形状は、「孔再構成テンプレートに合わせた」もの(形状)としてしか規定できません。また、多孔質ハイブリッド無機/有機粒子またはモノリスのこのような孔形状を再構成(形成)した「孔再構成テンプレート」は、その後(工程(c)で)除去されるものであり、製造された最終的な多孔質ハイブリッド無機/有機粒子またはモノリスにはもはや存在しないものです。さらに、このような「孔再構成テンプレートに合わせた」ものである孔形状はいろいろな形状があり、まさに千差万別です。このような形状を、特定の形状で特定すること及び/又はかかる形状を特定の構造や物性で特定することは実際的ではなく、ほとんど不可能です。また、仮に孔形状を構成するうちの1つの孔の形状を特定することができたとしても、多孔質ハイブリッド無機/有機粒子またはモノリスは非常に多くの孔を備えて構成されており、また、これらの孔の形状も全てが同じ形状のものではありません。「孔再構成テンプレート」について、本明細書段落[0022]には、「「孔再構成テンプレート」は、熱水処理中にシリケートが溶解し沈殿することで、ハイブリッド材料内に秩序領域を形成させるために、ハイブリッドシリケートの組織化を行う物質として定義される。1種類以上の孔テンプレート分子と、場合により1種類以上のテンプレート膨潤分子とで構成される。・・・」と記載され、さらに同段落[0023]には、「「孔テンプレート分子」は、たとえば円柱、球状、六方晶系、立方晶系、三斜晶系、・・・液滴、ワームホール、逆転またはこの他の高次の網目構造などの様々な形状、大きさ、対称性、および配列のミセル、ベシクル、または網目構造を形成するために、他の孔テンプレート分子と併用される分子として定義される。1種類の孔テンプレート分子、または2種類以上の孔テンプレート分子の組み合わせを使用することができる。・・・」と記載されています。このように「孔再構成テンプレート」は、2種類以上の孔テンプレート分子の組み合わせを使用することができ、多種多様な孔形状となります。さらに、構成(形成)される孔形状は、孔テンプレート分子の充填の仕方によっても異なってきます(同段落[0106]等をご参照)。したがって、調製された孔形状は多種多様なもの(孔形状)となり、そして、最終的な多孔質ハイブリッド無機/有機粒子またはモノリスも同様に多種多様なものとなります。よって、多孔質ハイブリッド無機/有機粒子またはモノリスの全体を特定するためには、特には2種以上の孔テンプレート分子を組み合わせた(多種多様な)孔形状をそれぞれ特定していく必要がありますが、このような作業は非常に多大な時間と費用がかかるのでおよそ実際的ではなく、殆んど不可能です。
従いまして、本願発明は、出願時(本願では出願遡及日)において、当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(不可能・非実際的事情)が存在するので、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するものであることが明らかになったものと思料します。」

そこで検討するに、本願発明は、「(a)孔再構成テンプレートを準備する工程と;(b)多孔質ハイブリッド無機/有機粒子またはモノリスの孔に、孔再構成テンプレートを充填させることで、前記孔を秩序領域に再構成させることによって、前記多孔質ハイブリッド無機/有機粒子またはモノリスの前記孔を再構成させる工程と;および(c)前記孔再構成テンプレートを前記再構成された孔から除去する工程とを含む方法によって調製された」「多孔質ハイブリッド無機/有機粒子またはモノリス」であり、調整された「多孔質ハイブリッド無機/有機粒子またはモノリス」にはもはや「孔再構成テンプレート」は存在せず、その調整の途中に孔に充填される「孔再構成テンプレート」の種類、形状、充填状況によって、最終調整物である「多孔質ハイブリッド無機/有機粒子またはモノリス」の孔の状態は異なってくるものであることが、本願明細書から理解される。
そして、その最終調整物には存在しない「孔再構成テンプレート」の種類、形状、充填状況によって異なってくる「孔」の状態を、その構造又は特性により直接特定することは不可能なことであって、最判平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号および同2658号に判示された「不可能・非実際的事情」が存在するといえるから、請求項1に係る特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえる。
よって、上記当審拒絶理由(1)は解消した。

(2)特許法第29条第2項について
当審拒絶理由において追加した刊行物6及び7は、本願請求項2に係る発明において特定されている組成が本願の優先日前に既に公知であることを指摘するためのものであるから、第3の2「原査定の理由の判断」の(3)「相違点についての判断」で述べた相違点1(すなわち相違点1’)が、刊行物6及び7の記載によっても、当業者が容易になし得たものではないとの判断には変わりはない。
したがって、本願発明及び請求項2に係る発明は、第3の2「原査定の理由の判断」で述べたとおり、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、本願発明又は本願請求項2に係る発明をさらに限定した本願請求項3ないし84に係る発明も、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、上記当審拒絶理由(2)で本願を拒絶することはできない。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当審の拒絶の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-08-24 
出願番号 特願2013-111936(P2013-111936)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G01N)
P 1 8・ 121- WY (G01N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 高田 亜希東松 修太郎福田 裕司  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 渡戸 正義
三崎 仁
発明の名称 クロマトグラフィー分離用の秩序領域を有する多孔質無機/有機のハイブリッド材料およびこれらの調製方法  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  

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