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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1318503
審判番号 不服2015-4406  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-05 
確定日 2016-08-16 
事件の表示 特願2011-506489「ポリマーペンリソグラフィー」拒絶査定不服審判事件〔平成21年10月29日国際公開、WO2009/132321、平成23年 6月30日国内公表、特表2011-519168〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2009年(平成21年)4月25日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2008年4月25日、2008年6月27日、2008年5月1日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成25年1月31日付けで拒絶理由が通知され、同年8月7日付けで手続補正がなされるとともに意見書が提出され、平成26年5月28日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年10月14日付けで手続補正がなされるとともに意見書が提出されたが、同年10月30日付けで前記平成26年10月14日付け手続補正が却下されるとともに、同日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がなされ、これに対し、平成27年3月5日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに、同時に手続補正がなされ、同年8月5日に上申書が提出され、同年11月12日に請求人からの電話による応対がなされたものである。

第2 平成27年3月5日になされた手続補正(以下、「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容(下線は請求人が付したとおりである。)
本件補正は、本件補正前(平成25年8月7日付け手続補正書によるもの)の特許請求の範囲を、以下のとおりに補正する内容を含むものである。
(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項22につき、
「共通の支持体層に固定された複数のチップを含み、該チップおよび該共通の支持体層が弾性ポリマーから作られており、該チップ各々が、約1μm未満の曲率半径を持ち、かつ該共通の支持体層および該チップが、約200μm未満の全体としての厚みを持つことを特徴とする、チップアレイ。」
とあったものを、
「共通の支持体層に固定された複数のチップおよび該共通の支持体層が接着されている剛性支持体を含み、該チップおよび該共通の支持体層が弾性ポリマーから作られており、該チップ各々が、1μm未満の曲率半径を持ち、該共通の支持体層および該チップが、200μm未満の全体としての厚みを持ち、かつ該チップアレイ、該共通の支持体および該剛性支持体が少なくとも半透明であることを特徴とする、チップアレイ。」に補正(以下、「本件補正1」という。)。
(2)本件補正前の特許請求の範囲の請求項23につき、
「前記共通の弾性ポリマー支持体に固定された複数のチップを含む、少なくとも半透明な積重ね構造を含み、該支持体がガラススライドに固定されていることを特徴とする、チップアレイ。」
とあったものを、
「共通の弾性ポリマー支持体に固定された複数のチップを含む、少なくとも半透明な積重ね構造を含み、該支持体がガラススライドに固定されていることを特徴とする、チップアレイ。」に補正(以下、「本件補正2」という。)。

2 補正の目的
(1)本件補正1は、補正前の請求項22において、「チップアレイ」に係り、「複数のチップを含み」とあったものを「複数のチップおよび該共通の支持体層が接着されている剛性支持体を含み」と補正することで、「チップアレイ」に関して「共通の支持体層が接着されている剛性支持体を含」むとの限定を付加し、あわせて、「かつ該チップアレイ、該共通の支持体および該剛性支持体が少なくとも半透明である」との限定を付加するものであるから、本件補正1は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)本件補正2は、補正前の請求項23において、「前記共通の弾性ポリマー支持体」とあったものを、「共通の弾性ポリマー支持体」と補正するものであって、平成26年5月28日付けの最後の拒絶理由の【理由2】で指摘された記載不備を解消することを目的とするものであるから、本件補正2は、特許法第17条の2第5項第4号に掲げる、拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてする、明りようでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
したがって、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

3 独立特許要件について
そこで、本件補正後の請求項22に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか否か)について検討する。

(1)本願補正発明の認定
本願補正発明は、上記1(1)において、本件補正1として記載したとおりのものと認める。

(2)刊行物の記載及び引用発明(1頁右欄17?20行)
ア 原査定における拒絶理由に引用された、本願の最先の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である「J.M.Hong et al.,"A micromachined elastmetric tip array for contact printing with variable dot size and density",Journal of Micromechanics and Microengineering,米国,2007年11月28日,18(1),pp.1-6」(以下「引用文献1」という。)には、図面と共に以下の記載がある(訳文を付した。下線は当審にて付した。以下同じ。なお、丸付きRは(R)で代用した。)。
(ア)「In this work, we demonstrate micrcontact printing of arrayed dot patterns with variable dot size and density using a single elastomeric stamp consisting of a 2D array of pyramidal PDMS tips.」(1頁右欄17?20行)
(この研究で、我々は、2次元配列のピラミッド状のPDMSチップからなる1つのエラストマースタンプを用いて、ドットパターン配列のサイズと密度が可変のマイクロコンタクトプリンティングを実証する。)

(イ)「This technique eliminates the need for the fabrication of multiple stamps (for different pattern sizes) and electron beam lithography (for sub-micron printing) and thus is especially useful for parametric study applications.」(2頁左欄15?19行)
(この技術は多数のスタンプの製作の必要(異なったパターンのために大きさ)を無くします、そして電子線リソグラフィー(サブミクロンの印刷のため)、及び、それによって特にパラメータ的な研究への適用に有用です。)(2頁左欄15?19行)

(ウ)「Thus, a silicon mold consisting of a 2D array of uniform pyramidal cavities with atomic apex sharpness (bounded by the four {111} crystal surfaces) can be readily obtained(figure 2(a)). This fabrication of the silicon master mold does not require any complex process or special equipment, which results in a simple, straghtforward and low-cost fabrication process. To make the stamp, the PDMS solution was prepared from a mixture of Sylgard (R)184 silicon elastomer base and silicon elastomer curing agent (from Dow Corning) with a ratio of 10:1. To ensure easy detachment of the PDMS stamp from the silicon mold after PDMS curing, tridecafluoro-1,1,2,2,-tetrahydrocytyl-1-trichlorsilane (from Sigma-Aldrich) was coated on the silicon mold as an anti-sticking surfactant(figure 2(b)). Ideally, only a monolayer of the surfactant is needed and a thick coating of the surfactant can cover the end-point of pyramidal cavities and thus reduce the sharpness of the molded PDMS tips.(・・・途中省略・・・) Next, the mixed PDMS solution was poured on the silicon mold and cured in the oven for 1 h at 90℃. Finally, the cured PDMS stamp was directly peeled off from the silicon master mold(figure 2(c)).」(2頁右欄3?28行)
(それで、原子サイズの頂上の鋭さを持つ(4つの{lll}結晶表面によって囲まれた)同一形状のピラミッド状の空洞の2D配列でできているシリコン型は容易に得ることができる(図2(a))。このシリコンの種型の製作はどんな複雑なプロセスあるいは特殊な装置を必要としない結果、単純、簡単、低コスト製作プロセスとなる。スタンプを作るために、PDMS溶液として、Sylgard(R)184シリコンエラストマーベースとシリコンエラストマー硬化剤(Dow Corning製)を10:1の割合で混合したものを用意する。PDMS硬化後シリコン型当該PDMSスタンプの容易な剥離を確実にするために、トリデカフルオロ-1,1,2,2,-テトラヒドロキシル-1-トリクロロシラン(Sigma-Aldrich製)を、固着防止界面活性剤としてシリコン型の上に塗布した(図2(b))。理想的には、単一層の界面活性剤が必要とされ、界面活性剤を厚く塗布するとピラミッド状の空洞の先端も覆い、結果として型成形されたPDMSチップの先端の鋭さが減少することがある。(・・・途中省略・・・)次に、PDMSの混合溶液をシリコン型の上に注いで、炉で90℃で1時間かけて硬化した。最終的に、硬化したPDMSスタンプはシリコンのマスター型から直接剥離された(図2(c))。)

(エ)「Figure 3 shows the scanning electron microscopic (SEM) images of some molded PDMS tips.The radius of curvature of the PDMS tip is estimated to be around 100 nm from the zoom-in SEM image. In the current design, a base size of 6x6μm^(2) and a tip-to-tip spacing of 10μm were chosen as a balance of the tip density and height. Based on the fixed taper angle of the PDMS tip(70.5°) defined by the pyramidal cavity, the height of the PDMS tip is determined as 4.24μm. Other combinations of tip base size and spacing can also be selected to suit the needs of different applications.」(2頁右欄29行?3頁左欄2行)
(図3は、モールド成形したPDMSチップの走査電子顕微鏡(SEM)の画像である。当該PDMSチップの曲率半径はズームインしたSEM画像からみて約100nmと推定される。最新のデザインでは、チップ密度と高さのバランスを考慮して、べースサイズとして6×6μm^(2)、そして、チップ間隔として10μmが選ばれた。ピラミッド状の空洞により定義されるPDMSチップの一定のテーパー角度(70.5°)に基づく、PDMSチップの高さは4.24μmである。異なる応用先のニーズに合わせて、他のチップサイズと間隔の組み合わせを選択することができる。)

(オ)図2及び図3(Fig.2及びFig.3)は次のものである。


(カ)上記(ア)ないし(エ)を踏まえて、上記(オ)の図2(c)(Fig.2(c))を見ると、PDMSの混合溶液をシリコン型の上に注いで、炉で90℃で1時間かけて硬化した後に、シリコンのマスター型から直接はがされた、硬化したPMGSチップからなるエラストマースタンプは、複数のピラミッド状のPDMSチップ部分と、上記図2(c)中に「PDMS」と記載された共通の支持体層部分からなるものであることがみてとれる。
また、上記(ア)ないし(エ)を踏まえて、上記(オ)の図3(b)(Fig.3(b))を見ると、「モールド成形したPDMSチップ」の大きさを説明するものとして「1μm」及び「5μm」の数値がみてとれる。

(キ)引用発明
上記(ア)ないし(カ)によれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「シリコンエラストマーベースとシリコンエラストマー硬化剤を混合した、PDMSの混合溶液を用い、
前記PDMSの混合溶液をシリコン型の上に注いで、硬化した後に、剥離して得たPMGSチップからなるエラストマースタンプであって、
前記PDMSチップの曲率半径は約100nmであり、
2次元配列の複数のピラミッド状のPDMSチップ部分と、共通の支持体層部分からなる、
エラストマースタンプ。」

イ 原査定における拒絶理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特表平9-511710号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の記載がある。
(ア)「リソグラフィ・プロセス用のスタンプ
本発明は、一般に、リソグラフィ・プロセスに関する。より具体的には、本発明は、このようなリソグラフィ・プロセスで使用するための弾性スタンプに関する。」(4頁2?5行)

(イ)「スタンプ・リソグラフィと呼ばれるこのプロセスでは、所望のパターンのネガによってマスタ上にポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)を鋳造することにより、スタンプが製作される。PDMSスタンプは、硬化後にマスタから剥離され、スタンプとの過渡的な接触により基板に転写される『インク』にさらされる。PDMSの弾性特性により、粗い表面または湾曲した表面上でも接触が可能になる。この方法により、1?100ミクロンの範囲のフィーチャが実施される。スタンプとフィーチャがこれより大きい(1cm?200ミクロン)場合、事前にUV光にさらされた領域を溶解するために弱い石鹸液を使用する従来のUVリソグラフィにより、パターンがスタンプに直接エッチングされる。ミクロン未満のフィーチャを備えたリソグラフィにこの方法を適用する場合、Kumar他が普及させたタイプのスタンプでは、ICの大量生産に必要な再現性のある結果がまったく得られないことが分かっている。このパターン転写方法の主な限界は、パターンの支持体として使用するエラストマである。この材料は、変形可能なので、実用的なリソグラフィに必要な高い解像度で基板にパターンを繰り返し正確に転写することが不可能である。」(4頁24行?5頁11行)

(ウ)「スタンプが、基板の厚さの変動とその表面上の不純物に対処する、共形接触用の変形可能または弾性層と、所望のパターンを帯びた第2の(パターン化)層とを含むことは、本発明の重要な特徴の1つであると見なす。この層は、10^(4)?10^(7)、より好ましくは、0.25*10^(6)?5*10^(6)ダイン/cm^(2)という範囲のヤング係数を有する材料から作られることが好ましい。この特性を有する材料としては、ポリ(ブチルジエン)、ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(ブチルスチレン)、およびこのようなタイプのコポリマーが考えられる。所望の量の柔軟性を制御するように弾性層の特性を最適化することが望ましい。
本発明によるスタンプには、既知の均一弾性スタンプを上回る利点がいくつかある。両方の層の材料は、かなりの程度まで互いに独立して最適化することができる。したがって、リソグラフィ・プロセスによってミクロン未満のフィーチャを容易に書き込めるパターン化層を設けることが望ましい。また、このパターン化層は、特定の「インク」材料に容易に接着するかまたはその材料を吸収するはずである。さらに、リソグラフィ・プロセスで繰り返し適用した後でもパターン・フィーチャを正確に保持するような、好ましくは非変形可能な材料からパターン化層を生成することが望ましい。このパターン化層は、ヤング係数が高く、好ましくは10^(6)ダイン/cm^(2)を上回る材料から作ることができる。適当な材料としては、所望の特性および応用分野に応じて、ポリ(スチレン)またはポリ(メタクリル酸メチル)などの有機絶縁体、金、白金、パラジウム、ニッケル、チタン、およびその酸化物などの金属絶縁体、アルミナ、シリコン、シリカ、ペロブスカイトなどの無機絶縁体が考えられる。
本発明の好ましい実施例の弾性層は、10ミクロン未満、好ましくは1ミクロン?1nmの範囲の許容誤差の範囲内で、剛性サポート構造上に取り付けられる。好ましいサポート材料は、基板材料に近い熱膨張率を備えている。このサポートは、ガラス、石英ガラス、剛性プラスチック材料、シリコンなどの基板またはウェハ材料からなるグループから選択されることが好ましい。サポート構造上に取り付ける場合、弾性層自体を薄くすることができる。その厚さは、10?1000ミクロンの範囲内であることが好ましい。この厚さの範囲では、いかなる変形も弾性層によって吸収することができ、リソグラフィ・プロセス中にスタンプを押し付けてもパターンのフィーチャはその寸法を維持する。以下に記載するように突出した自動位置合せ手段を使用すると、弾性層の厚さは、好ましいことに10?10000ミクロンの範囲から選ぶことができる。上記のサポート構造がKumar他による既知の1層スタンプにも有利に適用できることは明らかである。」(5頁23行?7頁2行)

(3)対比・判断
ア 対比
本願補正発明と引用発明を対比する。
(ア)引用発明の「エラストマースタンプ」は、「2次元配列の複数のピラミッド状のPDMSチップ部分と、共通の支持体層部分からなる」ところ、「PDMSチップ部分」及び「共通の支持体層部分」は、「PDMSの混合溶液をシリコン型の上に注いで、硬化した後に、剥離して得た」ものであって一体に作られるから、「PDMSチップ部分」は「共通の支持体層部分」に固定されたものであるといえる。
そうすると、引用発明の、「2次元配列の複数のピラミッド状のPDMSチップ部分と、共通の支持体層部分からなる」「エラストマースタンプ」は、本願補正発明の、「共通の支持体層に固定された複数のチップおよび該共通の支持体層が接着されている剛性支持体を含」む「チップアレイ」と、「共通の支持体層に固定された複数のチップを含」む「チップアレイ」の点で一致する。

(イ)引用発明の「PDMSチップ部分」及び「共通の支持体層部分」は、「PDMSの混合溶液をシリコン型の上に注いで、硬化した後に、剥離して得た」ものであって一体に作られるものであるところ、「エラストマースタンプ」をなす「PDMS」が弾性ポリマーであることは技術常識であって、本件請求人も認めていることである(本願明細書【0026】「弾性ポリマーは、メチルクロロシラン、エチルクロロシラン、およびフェニルクロロシラン、ポリジメチルシロキサン(PDMS)を含む。」との記載参照。)。
したがって、引用発明の「PDMSの混合溶液をシリコン型の上に注いで、硬化した後に、剥離して得た」「PDMSチップ部分」及び「共通の支持体層部分」は、本願補正発明の「弾性ポリマーから作られて」いる「該チップ」及び「該共通の支持体層」にそれぞれ相当する。

(ウ)引用発明の「PDMSチップの曲率半径は約100nmであ」ることは、本願補正発明の「該チップ各々が、1μm未満の曲率半径を持」つことに相当する。

(エ)引用発明の「PDMS」は硬化後も光を透過するものであることは技術常識であって、本願出願人も認めていることである(本願明細書【0010】「該ポリマーは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)を含むことができる。該PDMSは、トリメチルシロキシ末端を持つビニルメチルシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー、メチルヒドロシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー、またはこれらの混合物を含むことができる。・・・該チップアレイ、該共通の支持体、および/または該剛性支持体は、少なくとも半透明であり得、また透明であってもよい。」との記載参照。)。
したがって、引用発明の「PDMSの混合溶液をシリコン型の上に注いで、硬化した後に、剥離して得た」「PDMSチップ部分」及び「共通の支持体層部分」は、本願補正発明の「少なくとも半透明である」「該チップアレイ、該共通の支持体および該剛性支持体」と、「少なくとも半透明である」「該チップアレイおよび該共通の支持体」の点で一致する。

(オ)一致点及び相違点
上記(ア)ないし(エ)によれば、本願補正発明と引用発明は、
「共通の支持体層に固定された複数のチップを含み、該チップおよび該共通の支持体層が弾性ポリマーから作られており、該チップ各々が、約1μm未満の曲率半径を持ち、かつ該チップアレイおよび該共通の支持体が少なくとも半透明である、チップアレイ。」
である点で一致し、下記各点で相違する。

a 本願補正発明の「チップアレイ」は、「共通の支持体層が接着されている剛性支持体」を含み、「該剛性支持体」が「少なくとも半透明である」のに対して、引用発明の「エラストマースタンプ」は、剛性支持体を有するとはと特定されない点(以下「相違点1」という。)。

b 本願補正発明の「該共通の支持体層および該チップ」は、「全体としての厚み」が「200μm未満」であるのに対して、引用発明の「PDMSチップ」及び「共通の支持体層」は、全体としての厚みが特定されない点(以下「相違点2」という。)。

イ 判断
(ア)上記相違点1について検討する。
a 引用発明の「エラストマースタンプ」は、引用文献1に「この技術は多数のスタンプの製作の必要(異なったパターンのために大きさ)を無くします、そして電子線リソグラフィー(サブミクロンの印刷のため)、及び、それによって特にパラメータ的な研究への適用に有用です」(上記(2)ア(イ)参照)と記載されているから、リソグラフィー・プロセスで使用するための「エラストマースタンプ」であるといえる。
また、引用発明の「エラストマースタンプ」の「PDMSチップ部分」及び「共通の支持体層部分」は、上記ア(イ)で検討したとおり、弾性ポリマーである「PDMS」からなるものであるから、弾性スタンプであるといえる。。
これに対して、このような「リソグラフィ・プロセスで使用するための弾性スタンプ」である「PDMSスタンプ」は、「パターン転写方法」として「パターンの支持体として使用するエラストマである」ため、「この材料は、変形可能なので、実用的なリソグラフィに必要な高い解像度で基板にパターンを繰り返し正確に転写することが不可能である」との「限界」があることが引用文献2(上記(2)イ)に記載されているとおり公知の事項である。

b そして、このような限界を解決するために、引用文献2(上記(2)イ)には「弾性層」である「PDMSスタンプ」を、「剛性サポート構造上に取り付け」る点、及び、「好ましいサポート材料は、基板材料に近い熱膨張率を備えている」「ガラス、石英ガラス、剛性プラスチック材料、シリコンなどの基板またはウェハ材料からなるグループから選択されることが好ましい」点が記載されている。

c そうすると、引用文献2の記載に接した当業者であれば、引用発明が既に有している課題である「エラストマースタンプ」の「変形可能」性に伴う「実用的なリソグラフィに必要な高い解像度で基板にパターンを繰り返し正確に転写することが不可能である」との課題を解決するために、引用発明の「エラストマースタンプ」の「共通の支持体層部分」を、「ガラス、石英ガラス、剛性プラスチック材料、シリコンなどの基板またはウェハ材料からなるグループから選択されることが好ましい」「剛性サポート構造上に取り付け」ることは、容易に想到し得たことであり、また、このように構成することに格別の困難は認められない。
そして、「好ましいサポート材料」として、特に「ガラス、石英ガラス」を挙げており、当該「ガラス、石英ガラス」は一般に「少なくとも半透明である」から、引用発明において、上記引用文献2に記載された事項に基づいて、上記相違点1に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が容易になし得たことである。

(イ)上記相違点2について検討する。
引用発明におけるピラミッド状のPDMSチップ部分と、共通の支持体層部分の全体としての厚みは、当業者が発明を実施するに際して適宜定められるものであって、200μm未満の適宜の厚みのものとなし、上記相違点2に係る本願補正発明の構成となすことに格別の技術的困難性は認められない。

(4)まとめ
したがって、本願補正発明は、引用発明並びに引用文献1及び2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 補正却下の決定についてのむすび
上記3の検討によれば、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
上記のとおり、本件補正は却下されたので、本願の特許請求の範囲の各請求項に係る発明は、平成25年8月7日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし23に記載されたとおりのものであるところ、その請求項22及び23に係る発明(以下、それぞれ「本願発明22」及び「本願発明23」という。)は、前記第2、[理由]1において、本件補正前のものとして示したとおりのものである。

2 刊行物の記載及び引用発明
上記第2、[理由]3(2)アのとおりである。

3 対比・判断
(1)本願発明22について
上記「第2、[理由]2 補正の目的」のとおり、本件補正は、補正前の請求項22において、「チップアレイ」に係り、「複数のチップを含み」とあったものを、「複数のチップおよび該共通の支持体層が接着されている剛性支持体を含み」と補正し、「チップアレイ」に関して「共通の支持体層が接着されている剛性支持体を含」むとの限定を付加し、あわせて、「かつ該チップアレイ、該共通の支持体および該剛性支持体が少なくとも半透明である」との限定を付加するものである。
したがって、本願発明22は、上記「第2、[理由] 3」で検討した、本願補正発明を特定するための事項である、「チップアレイ」に関して「共通の支持体層が接着されている剛性支持体を含」む、及び、「かつ該チップアレイ、該共通の支持体および該剛性支持体が少なくとも半透明である」、との限定を省いたものである。
すると、本願補正発明から上記限定を省いた本願発明22は、上記第2、[理由]3での検討と同様の理由により、引用発明及び引用文献1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明し得るものである。

(2)本願発明23について
ア 対比
上記「第2、[理由]3(3)ア」における本願補正発明と引用発明の対比に照らせば、本願発明23と引用発明は、
「共通の弾性ポリマー支持体に固定された複数のチップを含む、少なくとも半透明な構造を含む、チップアレイ。」
の点で一致し、下記点で相違すると認められる。

・本願発明23の「チップアレイ」は、「半透明な積重ね構造を含み、該支持体がガラススライドに固定され」るのに対して、引用発明の「エラストマースタンプ」は、そのような特定がない点(以下「相違点3」という。)。

イ 判断
上記「第2、[理由]3(3)イ(ア)」での検討と同様、引用発明において、上記引用文献2に記載された事項に基づいて、上記相違点3に係る本願発明23の構成となすことは、当業者が容易になし得たことである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明22は、引用発明及び引用文献1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本願発明23は、引用発明並びに引用文献1及び2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、それぞれ特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-03-22 
結審通知日 2016-03-24 
審決日 2016-04-05 
出願番号 特願2011-506489(P2011-506489)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長井 真一  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 松川 直樹
土屋 知久
発明の名称 ポリマーペンリソグラフィー  
代理人 浅井 賢治  
代理人 山崎 一夫  
代理人 箱田 篤  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 市川 さつき  
代理人 辻居 幸一  

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