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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03B
管理番号 1318508
審判番号 不服2015-21237  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-11-30 
確定日 2016-08-15 
事件の表示 特願2011-214906「光制御シート、これを備えた透過型スクリーンおよび背面投射型表示装置、ならびに透過型スクリーンの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 4月25日出願公開、特開2013- 76730〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年9月29日の出願であって、平成27年7月7日付けで拒絶理由が通知され、同年9月8日付けで意見書が提出され、同日付けで手続補正がなされ、同年9月30日付けで拒絶査定がされ、これに対して、同年11月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、概略、請求項1ないし10に記載された発明は、本願出願前に日本国内又は外国において頒布された国際公開第2011/111706号(国際公開日:2011年(平成23年)9月15日、以下、「引用例1」という。)に記載された発明及び特開2008-096917号公報(公開日:平成20年4月24日、以下、「引用例2」という。)に記載された技術事項に基づいて、本願出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項11及び12に記載された発明は、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された技術事項及び本願出願前に日本国内又は外国において頒布された特開平11-84312号公報(公開日:平成11年3月26日)に記載された技術事項に基づいて、本願出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない、というものを含むものである。
なお、拒絶査定の備考において、「理由3(特許法第36条第2項)について」と記載されているが、平成27年7月7日付け拒絶理由通知書に記載された理由3は、(進歩性)特許法第29条第2項についての理由であり、前記備考には、引用文献等と共に、「本願の請求項1-12に係る発明とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。」と記載されていることから、拒絶査定の備考における「理由3(特許法第36条第2項)について」は、「理由3(特許法第29条第2項)について」の誤記である。

第3 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし12に係る発明は、以下のとおりのものと認められる。
なお、平成27年9月8日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし12の記載のうち、請求項1及び請求項11に記載された「上低」は、「上底」の誤記と認められるから、以下のとおり認定した。下線は、当審で付与したものであり、誤記を修正した箇所を示す。

「 【請求項1】
映像光源から投射された映像光を透過して観察者側に出射する透過型スクリーンに用いられる光制御シートであって、
前記光制御シートの映像光出射面の一部を構成する複数の単位光透過部と、前記単位光透過部と交互に配置され、前記光制御シートの映像光出射面の一部を構成し、80μm以上150μm以下の高さを有する複数の単位光吸収部とを備え、
前記単位光吸収部は、厚さ方向の断面形状が略三角形の形状を有し、
前記単位光透過部は、厚さ方向の断面形状が略台形の形状であって、該略台形形状は、映像光出射面が上底、映像光入射側が上底よりも長さが長い下底とするものであり、
前記光制御シートは、曲面をなすようにかつ前記光制御シートの映像光出射面の少なくとも一部が250mm以上2000mm以下の曲率半径を有するように曲っており、
前記単位光透過部が、15%以上50%以下の伸び率を有する光透過性樹脂からなり、
前記単位光吸収部が、15%以上40%以下の伸び率を有する、光吸収材を含有する樹脂からなる、光制御シート。
【請求項2】
前記光制御シートの映像光出射面の少なくとも一部が250mm以上1500mm以下の曲率半径を有する、請求項1に記載の光制御シート。
【請求項3】
映像光源から投射された映像光を透過して観察者側に出射する透過型スクリーンであって、
請求項1または2に記載の光制御シートと、前記光制御シートの映像光出射側に配置された光拡散層とを備える積層体を備え、
前記積層体全体が曲面をなすように曲っている、透過型スクリーン。
【請求項4】
前記積層体全体が三次元曲面をなすように曲がっている、請求項3に記載の透過型スクリーン。
【請求項5】
前記積層体よりも前記映像光源側に配置された、フレネルレンズ部を有するフレネルレンズシートをさらに備え、前記フレネルレンズシートが曲面をなすように曲っている、請求項3または4に記載の透過型スクリーン。
【請求項6】
前記単位光透過部および前記単位光吸収部が、前記透過型スクリーンの横方向に延在している、請求項5に記載の透過型スクリーン。
【請求項7】
前記フレネルレンズ部が、前記フレネルレンズシートのフレネルレンズ部形成面の中心に対して前記透過型スクリーンの縦方向下側に偏心した位置に光学中心を有する、請求項6に記載の透過型スクリーン。
【請求項8】
前記単位光透過部および前記単位光吸収部が、前記フレネルレンズ部形成面の中心と前記フレネルレンズ部の光学中心とを結ぶ方向と略平行でありかつ前記映像光出射面に沿った第1の方向に交互に並べて配置されるとともに、前記第1の方向と略直交しかつ前記映像光出射面に沿った第2の方向に延在している、請求項5に記載の透過型スクリーン。
【請求項9】
請求項3ないし8のいずれか1項に記載の透過型スクリーンと、
前記透過型スクリーンの背面側に配置され、前記透過型スクリーンに映像光を投射する映像光源と
を備えることを特徴とする、背面投射型表示装置。
【請求項10】
前記透過型スクリーンに赤外光を投射する赤外光源と、
前記赤外光を検出可能な赤外光検出器と
をさらに備える、請求項9に記載の背面投射型表示装置。
【請求項11】
映像光源から投射された映像光を透過して観察者側に出射する透過型スクリーンの製造方法であって、
光制御シートであって、前記光制御シートの映像光出射面の一部を構成し、かつ15%以上50%以下の伸び率を有する光透過性樹脂からなる複数の単位光透過部と、前記単位光透過部と交互に配置され、前記光制御シートの映像光出射面の一部を構成し、かつ80μm以上150μm以下の高さを有する複数の単位光吸収部とを有する光制御シートと、前記光制御シートの映像光出射側に配置された光拡散層とを有する積層体を形成する工程と、
前記積層体を加熱することにより軟化させ、前記光制御シートの映像光出射面の少なくとも一部が250mm以上2000mm以下の曲率半径を有するように、軟化した前記積層体を曲面成形する工程と、
を備え、
前記単位光吸収部は、厚さ方向の断面形状が略三角形の形状を有し、
前記単位光透過部は、厚さ方向の断面形状が略台形の形状であって、該略台形形状は、映像光出射面が上底、映像光入射側が上底よりも長さが長い下底とするものであり、
前記単位光吸収部が、15%以上40%以下の伸び率を有する、光吸収材を含有する樹脂からなる、透過型スクリーンの製造方法。
【請求項12】
前記積層体を曲面成形する工程が、前記光制御シートの映像光出射面の少なくとも一部が250mm以上1500mm以下の曲率半径を有するように行われる、請求項11に記載の透過型スクリーンの製造方法。」(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

第4 引用例の記載、引用発明
1 引用例1
(1)引用例1の記載
引用例1(国際公開第2011/111706号)には、次の事項が図面とともに記載されている(なお、下線は当審が付した。)。

ア 「[0017](第1の実施の形態)
以下、図面を参照して、本発明の第1の実施の形態を説明する。図1は本実施の形態に係るスクリーンの模式的な斜視図である。
[0018] 図1に示されるスクリーン1は、タッチパネル機能を有する小型表示装置のディスプレイに使用されるものである。スクリーン1は、映像光の入射側から出射側に向けて、主に、フレネルレンズシート2、透明基材3、光制御シート4、光拡散板5、防眩性シート6の順に重ね合わされて構成されている。ここで、透明基材3、光制御シート4、光拡散板5および防眩性シート6を重ね合わせたものを積層板9と称する。なお、「板」はシートやフィルムとも呼ばれ得るような部材も含む概念である。」

イ 「[0035]光制御シート
光制御シート4は、光制御シート4に入射した映像光を透過するとともに二重像の原因となる迷光を吸収するためのものである。
[0036] 図5は図1に示される光制御シート4の概略斜視図であり、図6は図1に示される光制御シート4の縦断面図である。図5および図6に示されるように光制御シート4は、入射した映像光を透過する複数の単位光透過部41と、迷光を吸収する複数の単位光吸収部42とを備えている。
[0037] 単位光透過部41および単位光吸収部42は、光制御シート4の映像光出射面4aの一部を構成するものであり、映像光出射面4aに沿って配置されている。また、単位光透過部41および単位光吸収部42は、スクリーン1の横方向に延在しており、スクリーン1の縦方向に交互に配置されている。
[0038] また、光制御シート4とフレネルレンズシート2との配置関係においては、単位光透過部41および単位光吸収部42は、フレネルレンズ部形成面2aの中心O 1 とフレネルレンズ部22の光学中心O 2 とを結ぶ方向と略平行でありかつ映像光出射面4aに沿った第1の方向に交互に並べて配置されている。この場合、単位光透過部41および単位光吸収部42は、第1の方向と略直交しかつ映像光出射面4aに沿った第2の方向に延在している。
[0039] 単位光透過部41は、光制御シート4の厚さ方向の断面形状が略台形となっているものが好ましい。この台形は、映像光出射面4aが上底、映像光入射側が下底とするものである。
[0040] 単位光透過部41は、映像光を透過する光透過性樹脂で構成されている。光透過性樹脂としては、通常、電子線、紫外線等の電離放射線により硬化する特徴を有する例えばエポキシアクリレート等の樹脂が挙げられる。
[0041] 単位光吸収部42は、単位光吸収部42が隣り合う単位光透過部41により形成される、断面形状がV字状の溝4bまたは断面形状がV字状の頂部を平坦とした形状の溝に形成されていることが好ましい。すなわち、断面形状がV字状の溝4b場合には、単位光吸収部42は光制御シート4の厚さ方向の断面形状が映像光出射面4aを底辺とする略三角形となっており、断面形状がV字状の頂部を平坦とした形状の溝の場合には、光制御シート4の映像光入射側を上底としかつ光制御シート4の映像光出射面4aを下底とする略台形となっている。ここで、「下底」の長さは「上底」の長さより長いものとする。
[0042] 単位光吸収部42は、光吸収材等を含有した透明樹脂から構成することが可能である。透明樹脂は、単位光透過部41を構成する透明樹脂の屈折率より小さい屈折率を有する材料により構成されていることが好ましい。また、透明樹脂として用いられるものも特に限定されることはないが、例えば、電子線、紫外線等の電離放射線により硬化する特徴を有するウレタンアクリレート系、エポキシエクリレート系等のアクリレート系樹脂が挙げられる。」

ウ 「[0061] このような小型表示装置90においては、映像光源92から映像光が発せられると、図9に示されるように映像光はフレネルレンズシート2に入射し、スクリーン面1aの略法線方向に向く略平行な光に変換されてフレネルレンズシート2から出射する。次いで、映像光は、光制御シート4に入射するが、映像光は、フレネルレンズシート2により平行な光に変換されているので、単位光透過部41を介して光制御シート4から出射する。その後、映像光は、光拡散板5で拡散されて、防眩性シート6を介して、スクリーン1の前面から出射する。」

エ 「[0065](第2の実施の形態)
以下、図面を参照して、本発明の第2の実施の形態を説明する。図10は本実施の形態に係るタッチパネル機能を有する小型表示装置の模式的な断面図であり、図11は図10の小型表示装置の内部構造の模式図である。
[0066] 図10に示されるようにタッチパネル機能を有する小型表示装置100は、例えば、スクリーン10、スクリーン10を支持するスクリーン支持体101(筐体)、スクリーン10に映像光を投射する映像光源102、スクリーン10に赤外光を投射する赤外光源103、および赤外光を検出可能な赤外光検出器104等を備えている。なお、スクリーン支持体101、映像光源102、赤外光源103、赤外光検出器104は、それぞれ、スクリーン支持体91、映像光源92、赤外光源93、赤外光検出器94と同様のものである。
[0067] スクリーン10は、スクリーン1と構造が同じものであるが、図10および図11に示されるように三次元曲面をなすように曲がったものである。具体的には、スクリーン10における積層板9およびフレネルレンズシート2が、それぞれ、三次元曲面をなすように曲がっている。ここで三次元曲面をなすように曲がっているとは、単一の軸を中心として二次元的に曲がった二次元曲面、或いは、互いに平行な複数の軸を中心として異なる曲率で二次元的に曲がった二次元曲面とは区別されるものである。すなわち、三次元曲面をなすように曲がっているとは、互い対して傾斜した複数の軸をそれぞれ中心として、部分的または全体的に曲がっていることを意味する。本実施の形態において、積層板9およびフレネルレンズシート2は、略同様に曲がっており、概ね重なり合うようになっている。そしてこの結果、積層板9およびフレネルレンズシート2からなるスクリーン10は、全体として、三次元曲面をなすように曲がっている。
[0068] 上述したように、本実施の形態においては、積層板9およびフレネルレンズシート2は、平坦面状に広げると略矩形状となる形状を有している。そして、一例としての本実施の形態においては、図11に示すように、積層板9およびフレネルレンズシート2は、概ね、一方の対角線と平行でスクリーン10の背面側(入光側)に位置する第1の軸A1を中心とした方向d1に曲がるとともに、他方の対角線と平行でスクリーン10の背面側(入光側)に位置する第2の軸A2を中心とした方向d2にも曲がっている。この結果、スクリーン10は観察者側へ凸となるように曲がっており、スクリーン10の平面形状をなす矩形状の一対の対角線が交わる中央位置Paにおいて、スクリーン10の出光面10b(表示面)は観察者側に最も突出している。」

オ 「[0071] 本実施の形態におけるスクリーン10は、三次元曲面をなすように曲がっているので、小型表示装置100に極めて多様な意匠性を付与することができる。このため、小型表示装置100が設置される場所(位置)や、小型表示装置100が用いられる用途等に対応して求められるデザインを小型表示装置100に付与することが可能となる。とりわけ、昨今においては、例えば自動車やアミューズメント機器といった、意匠性が非常に重要視される分野にも、小型表示装置100が適用されるようになってきた。このような分野に適用される小型表示装置100には、単に、映像を表示する機能が期待されているだけでなく、システム全体との意匠面における調和も強く要望されている。そして、本実施の形態による小型表示装置100によれば、三次元曲面をなすように曲がったスクリーン10に起因して、表示装置に付与し得るデザインが格段に広がる。このように多様な意匠性を表現し得る本実施の形態に係る表示装置によれば、小型表示装置100が適用されるべきシステム全体との意匠面での十分な調和を図ることも可能となり、調和の取れた優れた意匠性を呈する当該システムの需要を効果的に拡大させることもできる。」

カ 「[0075] 光制御シートとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に形成された単位光透過部および単位光吸収部を備え、かつ厚みが0.3mmtのものを使用した。光制御シートの単位光透過部は、紫外線硬化型樹脂(エポキシアクリレート)から構成されており、単位光透過部の屈折率は1.560であった。光制御シートの単位光吸収部は、顔料を含む紫外線硬化型樹脂(エポキシアクリレート)から構成されており、単位光吸収部の屈折率は1.505であった。また、単位光吸収部の幅は映像光出射面において39μmであり、単位光吸収部における映像光入射側の先端部間の距離は65μmであった。さらに、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの法線と単位光吸収部とによって形成される角度は9°であった。」

キ「 [図9] [図10]


(2)引用発明
引用例1に記載された「(第1の実施の形態)」(上記(1)アないしウ参照。)と「(第2の実施の形態)」(上記(1)エないしカ参照。)において、段落[0066]及び段落[0067]の記載を考慮すると、(第1の実施の形態)における「スクリーン1」、「映像光源92」は、それぞれ(第2の実施の形態)における「スクリーン10」、「映像光源102」に対応する。
この対応関係を踏まえ、上記(1)アないしキの記載をまとめると、引用例1には次の発明が記載されているものと認められる。(なお、参考のため括弧内に段落番号を付記する。)

「[0061]映像光源102から映像光が発せられ、
[0018]スクリーン10は、映像光の入射側から出射側に向けて、フレネルレンズシート2、透明基材3、光制御シート4、光拡散板5、防眩性シート6の順に重ね合わされて構成され、
[0068]スクリーン10は観察者側へ凸となるように曲がっており、
[0036]光制御シート4は、入射した映像光を透過する複数の単位光透過部41と、迷光を吸収する複数の単位光吸収部42とを備え、
[0037]単位光透過部41および単位光吸収部42は、光制御シート4の映像光出射面4aの一部を構成するものであり、スクリーン10の縦方向に交互に配置され、
[0039]単位光透過部41は、光制御シート4の厚さ方向の断面形状が略台形となっており、この台形は、映像光出射面4aが上底、映像光入射側が下底とするものであり、
[0040]単位光透過部41は、映像光を透過する光透過性樹脂で構成され、
[0041]単位光吸収部42は光制御シート4の厚さ方向の断面形状が映像光出射面4aを底辺とする略三角形となっており、
[0042]単位光吸収部42は、光吸収材等を含有した透明樹脂から構成され、
[0075]光制御シート4としては、厚みが0.3mmであり、
単位光吸収部42の幅は映像光出射面において39μmであり、単位光吸収部42における映像光入射側の先端部間の距離は65μmであり、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの法線と単位光吸収部42とによって形成される角度は9°であり、
[0071]自動車といった、意匠性が非常に重要視される分野にも、適用され、
曲がったスクリーン10に起因して、表示装置に付与し得るデザインが格段に広がる
[0018]スクリーン。」(以下、「引用発明」という。)

2 引用例2
(1)引用例2の記載
引用例2(特開2008-096917号公報)には、次の事項が図面とともに記載されている(なお、下線は当審が付した。)。

ア 「【0001】
本発明は、プラズマテレビ、液晶表示装置、及びプロジェクションスクリーン等の映像提供機器に用いられる光学シートに関し、詳しくは、輸送、断裁等の取り扱いのときに割れが生じ難い光学シートに関する。」

イ 「【0022】
図1は第一実施形態にかかる本発明の光学シート10の層構成を模式的に表した図である。光学シート10は、セパレータ11と、粘着剤層12と、基材層としてのPETフィルム層13と、光学機能シート層14と、保護フィルム17とを備えている。以下に各層について説明する。」

ウ 「【0030】
光学機能シート層14は、光学シート10のシート面に直交する断面において断面が略台形であるプリズム部15、15、…と、該プリズム部15、15、…の間に配置された三角形断面である光吸収部16、16、…とを備えている。」

エ 「【0034】
また、光吸収部16、16、…は、プリズム部15、15、…と同じ、又は小さい屈折率(Nb)を有する所定の材料により構成されている。また、光吸収部16、16、…の引張破断点伸度は必ずしも10%以上である必要はないが、10%以上、又はプリズム部15、15、…と同じであることが好ましい。」

オ 「【0056】
さらに、光学シート10が用いられる他の場面について説明する。図7は、光学シート10が用いられたプロジェクションスクリーン3の光学シート10が配置された部位における層構成を模式的に示した図である。プロジェクションスクリーン3では、光学シート10のプリズム部15、15、…における台形断面のうち下底が光源側となるように配置される。プロジェクションスクリーン3は、光源側からフレネルレンズ層71と、光学シート10と、拡散シート層72とを備えている。ここで拡散シートとは光を拡散させる機能を有するシートである。
【0057】
光源からの光はフレネルレンズ層71により所定の光路でこれを透過し、光学シート10を介して拡散シート層72をさらに透過し、観察者へ至る。このとき例えば矢印G、H及びIのような光路をとる。すなわち、光学シート10は、入射光の角度を制御して拡散させるように観察者側に出光させる。」

カ 「【図7】


キ 「【0061】
実施例として、本発明の光学シート及び従来の光学シートについて、JIS-K7113に規定された引張破断点伸度を得るための曲げ試験を行った。以下に条件等を示す。
<試験条件>
・雰囲気温度、湿度 : 23℃、55%
<試験片>
・大きさ : 1号1/2ダンベル(JIS-K7113)
・標点距離 : 50mm
・変形速度 : 10mm/分
・引張破断点伸度:3.4%(従来例)、14.5%、29.5%、45.6%
【0062】
<評価方法>
上記試験に基づき、曲げ試験を行い、目視判断において
・割れなし : ○
・故意に力を加えると割れ発生 : △
・通常の輸送において割れ発生(200枚積載して輸送) : ×
【0063】
<結果>
表1に結果を示した。
【0064】
【表1】

【0065】
表1からわかるように、引張破断点伸度を大きくすることにより曲げに対する割れ発生を抑制することができる。従来と比較し、引張破断点伸度を10%以上とすれば、これまで問題となっていた割れ発生を十分に防止できる。さらに10%以上である場合において、より大きな引張破断点伸度とすればその効果はさらに顕著なものとなる。」

(2)引用例2に記載された技術事項
以上の記載から、引用例2には、以下の技術事項が記載されていると認められる。
「プロジェクションスクリーン等の映像提供機器に用いられる光学シート10に関し、
光学シート10は、セパレータ11と、粘着剤層12と、基材層としてのPETフィルム層13と、光学機能シート層14と、保護フィルム17とを備え、
光学機能シート層14は、光学シート10のシート面に直交する断面において断面が略台形であるプリズム部15、15、…と、該プリズム部15、15、…の間に配置された三角形断面である光吸収部16、16、…とを備えるものにおいて、
光吸収部16、16、…の引張破断点伸度はプリズム部15、15、…と同じであり、
引張破断点伸度が29.5%であるものを試験片として曲げ試験を行い、割れなしと評価され、
引張破断点伸度を大きくすることにより曲げに対する割れ発生を抑制することができる。」

第5 対比
1 本願発明と引用発明とを、主たる構成要件ごとに順次対比する。

引用発明において、「映像光源102から映像光が発せられ、スクリーン10は、映像光の入射側から出射側に向けて、フレネルレンズシート2、透明基材3、光制御シート4、光拡散板5、防眩性シート6の順に重ね合わされて構成され、スクリーン10は観察者側へ凸となるように曲がって」ているものであるから、引用発明の「スクリーン10」は、映像光源102から発せられた映像光が、入射側から映像光の出射側である観察者側に透過するものである。してみると、引用発明の「スクリーン10」は、本願発明の「映像光源から投射された映像光を透過して観察者側に出射する透過型スクリーン」に相当するといえる。

また、前記相当関係を踏まえると、引用発明のスクリーンを構成する「光制御シート4」は、本願発明の「透過型スクリーンに用いられる光制御シート」に相当する。

引用発明の「光制御シート4は、入射した映像光を透過する複数の単位光透過部41と、迷光を吸収する複数の単位光吸収部42とを備え、単位光透過部41および単位光吸収部42は、光制御シート4の映像光出射面4aの一部を構成するものであり、スクリーン10の縦方向に交互に配置され」ていることと、本願発明の「光制御シートであって、前記光制御シートの映像光出射面の一部を構成する複数の単位光透過部と、前記単位光透過部と交互に配置され、前記光制御シートの映像光出射面の一部を構成し、80μm以上150μm以下の高さを有する複数の単位光吸収部とを備え」ることとは、共に、「光制御シートであって、前記光制御シートの映像光出射面の一部を構成する複数の単位光透過部と、前記単位光透過部と交互に配置され、前記光制御シートの映像光出射面の一部を構成し、複数の単位光吸収部とを備え」ることで共通する。

引用発明の「単位光吸収部42は光制御シート4の厚さ方向の断面形状が映像光出射面4aを底辺とする略三角形となって」いることは、本願発明の「前記単位光吸収部は、厚さ方向の断面形状が略三角形の形状を有し」ていることに相当する。

引用発明において、「単位光透過部41は、光制御シート4の厚さ方向の断面形状が略台形となっており、この台形は、映像光出射面4aが上底、映像光入射側が下底とするものであり、」交互に配置される単位光吸収部42は映像光出射面4aを底辺とする略三角形となっていることから、単位光吸収部42の略三角形の底辺の分、単位光透過部41の上底は、下底よりも短い長さとなっている。してみると、引用発明の「単位光透過部41は、光制御シート4の厚さ方向の断面形状が略台形となっており、この台形は、映像光出射面4aが上底、映像光入射側が下底とするもの」は、本願発明の「前記単位光透過部は、厚さ方向の断面形状が略台形の形状であって、該略台形形状は、映像光出射面が上底、映像光入射側が上底よりも長さが長い下底とするもの」に相当する。

引用発明において、「スクリーン10は観察者側へ凸となるように曲がっており、」そのスクリーンを構成する「光制御シート4」も同様に「観察者側へ凸となるように曲がって」いることは明らかであるから、引用発明の「光制御シート4」が「観察者側へ凸となるように曲がって」いることと、本願発明の「前記光制御シートは、曲面をなすようにかつ前記光制御シートの映像光出射面の少なくとも一部が250mm以上2000mm以下の曲率半径を有するように曲って」いることとは、共に、「前記光制御シートは、曲面をなすように曲って」いる点で共通する。

引用発明の「単位光透過部41は、映像光を透過する光透過性樹脂で構成され」ることと、本願発明の「前記単位光透過部が、15%以上50%以下の伸び率を有する光透過性樹脂からな」ることとは、共に、「前記単位光透過部が、光透過性樹脂からな」る点で共通する。

引用発明の「単位光吸収部42は、光吸収材等を含有した透明樹脂から構成され」ることと、本願発明の「前記単位光吸収部が、15%以上40%以下の伸び率を有する、光吸収材を含有する樹脂からなる」こととは、共に、「前記単位光吸収部が、光吸収材を含有する樹脂からなる」点で共通する。

2 以上のことから、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
(1)一致点
「映像光源から投射された映像光を透過して観察者側に出射する透過型スクリーンに用いられる光制御シートであって、
前記光制御シートの映像光出射面の一部を構成する複数の単位光透過部と、前記単位光透過部と交互に配置され、前記光制御シートの映像光出射面の一部を構成し、複数の単位光吸収部とを備え、
前記単位光吸収部は、厚さ方向の断面形状が略三角形の形状を有し、
前記単位光透過部は、厚さ方向の断面形状が略台形の形状であって、該略台形形状は、映像光出射面が上底、映像光入射側が上底よりも長さが長い下底とするものであり、
前記光制御シートは、曲面をなすように曲っており、
前記単位光透過部が、光透過性樹脂からなり、
前記単位光吸収部が、光吸収材を含有する樹脂からなる、光制御シート。」

(2)相違点1
本願発明は、単位光吸収部の高さが80μm以上150μm以下であるのに対し、引用発明は、単位光吸収部の高さについて特定していない点で一応相違する。

(3)相違点2
本願発明は、前記光制御シートの映像光出射面の少なくとも一部が250mm以上2000mm以下の曲率半径を有するのに対し、引用発明は、観察者側へ凸となるように曲がっているスクリーンを構成する光制御シートがどの程度の曲率半径を有しているのか特定していない点で一応相違する。

(4)相違点3
本願発明は、前記単位光透過部が、15%以上50%以下の伸び率を有し、前記単位光吸収部が、15%以上40%以下の伸び率を有しているのに対し、引用発明は、単位光透過部単位光吸収部の伸び率について特定していない点で相違する。

第6 判断
以下、相違点について検討する。
1 相違点1について
引用発明は、「光制御シート4としては、厚みが0.3mmであり、単位光吸収部の幅は映像光出射面において39μmであり、単位光吸収部42における映像光入射側の先端部間の距離は65μmであり、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの法線と単位光吸収部42とによって形成される角度は9°であ」る構成を有している。
ここで、単位光吸収部42の幅は映像光出射面において39μmであり、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの法線と単位光吸収部42とによって形成される角度は9°であることから、
「単位光吸収部42の高さ=単位光吸収部42の幅の半分(39μm/2)/tan9°」
の式で表される関係にあり、単位光吸収部42の高さは約123μmと求められる。
そして、この高さは、本願発明が特定する高さの条件である「80μm以上150μm以下」を満たすものであるから、相違点1は、実質的な相違点ではない。

2 相違点2について
引用発明は、「自動車といった、意匠性が非常に重要視される分野にも、適用され、曲がったスクリーン10に起因して、表示装置に付与し得るデザインが格段に広がるスクリーン」である。
そして、自動車の表示装置のスクリーンとして適用される際に、曲がったスクリーンは、使用者がデザイン上認識し得る曲率半径を有する。
ここで、自動車の表示装置は、その設置空間及び使用環境から比較的小型の表示装置であることが想定され、そのような比較的小型の表示装置のスクリーンとして、曲がったスクリーンをデザイン上認識し得るためには、引用発明のスクリーンの曲率半径として、平らに近い大きな曲率半径は想定し難く、本願発明が特定する曲率半径の条件である「250mm以上2000mm以下」の範囲に該当する蓋然性が高いといえるから、引用発明のスクリーンの曲率半径は、本願発明が特定する曲率半径の条件を満たすか、または、本願発明が特定する曲率半径の条件は、設置空間及び使用環境から当業者が適宜設定し得る程度のものであるといえる。
したがって、引用発明の観察者側へ凸となるように曲がっているスクリーン10を構成する光制御シート4を、相違点2に係る構成である「光制御シートの映像光出射面の少なくとも一部が250mm以上2000mm以下の曲率半径を有する」ようにすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

3 相違点3について
本願発明における「伸び率」とは、本願の発明の詳細な説明の段落0044の記載によれば、「伸び率(%)=(破断時のフィルム試片長さ-試験前のフィルム試片長さ(10cm))/試験前のフィルム試片長さ(10cm))×100」であるから、引用例2に記載された「引張破断点伸度」は、本願発明における「伸び率」ともいえるものである。

引用発明と、引用例2に記載された技術事項とは、いずれも、スクリーンを構成する光制御シート(引用例2に記載された技術事項における「光学機能シート層」)が、断面が略台形である単位光透過部(引用例2に記載された技術事項における「プリズム部」)と断面形状が略三角形である単位光吸収部(引用例2に記載された技術事項における「光吸収部」)からなる点で共通するものである。
そして、引用発明は、曲がったスクリーンであるところ、引用例2に記載された「引張破断点伸度を大きくすることにより曲げに対する割れ発生を抑制することができる」との技術事項に鑑み、引用発明における単位光透過部及び単位光吸収部の材料として引張破断点伸度を大きい、例えば、引張破断点伸度が29.5%のものを採用し、つまり、相違点3に係る構成とし、曲がったスクリーンであっても割れ発生を抑制することは、当業者が容易に想到し得ることである。

4 そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明及び引用例2に記載された技術事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

5 したがって、本願発明は、引用発明及び引用例2に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用例2に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-06-17 
結審通知日 2016-06-21 
審決日 2016-07-04 
出願番号 特願2011-214906(P2011-214906)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 請園 信博  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 森 竜介
松川 直樹
発明の名称 光制御シート、これを備えた透過型スクリーンおよび背面投射型表示装置、ならびに透過型スクリーンの製造方法  
代理人 浅野 真理  
代理人 永井 浩之  
代理人 勝沼 宏仁  
代理人 末盛 崇明  

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