• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04W
管理番号 1318533
審判番号 不服2015-5245  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-18 
確定日 2016-08-24 
事件の表示 特願2013-107633「マルチキャストブロードキャストマルチメディアサービスのためのスケーラブル符号化」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月24日出願公開、特開2013-219790〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2004年9月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2003年10月14日、米国、2004年7月23日、米国)を国際出願日とした特願2006-535524号の一部を平成22年6月14日に新たな特許出願とした特願2010-135103号の一部を平成25年5月22日に新たな特許出願とした出願であって、原審において平成26年5月20日付けで拒絶理由が通知され、同年8月13日付けで手続補正されたが、同年11月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成27年3月18日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正されたものである。

第2 補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成27年3月18日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本願発明と補正後の発明
上記手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の平成26年8月13日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された

「(a1) 通信チャネル上でマルチキャスティングまたはブロードキャスティング セッションを受け取る方法であって、
(a2) 複数のストリームを受け取ることと、なお、前記複数のストリームの各々は符号化された情報を含み、前記複数のストリームの内の1以上のストリームは、デコーディング認可レベルに関連付けられている;
(a3) 選択されたストリームを選択的にデコードすることと、なお、前記複数のストリームの各々は、前記選択的にデコードするために別々に符号化されており、前記選択的にデコードすることは、前記ストリームに関連付けられた前記デコーディング認可レベル及びデコードする能力に、少なくとも部分的に基づいている;
を備える方法。」

という発明(以下、「本願発明」という。)を、

「(a1)通信チャネル上でマルチキャスティングまたはブロードキャスティング セッションを受け取る方法であって、
(a2)複数のストリームを受け取ることと、なお、前記複数のストリームの各々は符号化された情報を含み、前記複数のストリームの内の1以上のストリームは、デコーディング認可レベルに関連付けられ、さらに、前記複数のストリームの内の1つは、コンテンツのベース部分を含むベースストリームを提供し、残りのストリームの内の少なくとも1つは、前記コンテンツの前記ベース部分への改良を提供するエンハンスメントストリームを提供する;
(a3)選択されたストリームを選択的にデコードすることと、なお、前記複数のストリームの各々は、前記選択的にデコードするために別々に符号化されており、前記選択的にデコードすることは、前記ストリームに関連付けられた前記デコーディング認可レベル及びデコードする能力に、少なくとも部分的に基づき、ここにおいて、前記選択的にデコードすることは、前記エンハンスメントストリームをデコードする前記能力がないと決定された場合、前記ベースストリームだけをデコードすることを含む;
を備える方法。」

という発明(以下、「補正後の発明」という。)に変更することを含むものである。

なお、特許請求の範囲の請求項1には、「ブロードキャティング」と記載されているが、「ブロードキャスティング」の明らかな誤記と認め、上記「本願発明」及び「補正後の発明」のように認定した。

2.新規事項の有無、補正の目的要件について
本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において、補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された、「前記複数のストリームの内の1つ」に関し、「さらに、前記複数のストリームの内の1つは、コンテンツのベース部分を含むベースストリームを提供し、残りのストリームの内の少なくとも1つは、前記コンテンツの前記ベース部分への改良を提供するエンハンスメントストリームを提供する」と限定し、また、「前記選択的にデコードすること」に関し、「ここにおいて、前記選択的にデコードすることは、前記エンハンスメントストリームをデコードする前記能力がないと決定された場合、前記ベースストリームだけをデコードすることを含む」と限定して、特許請求の範囲を減縮するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に適合するとともに、同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3.独立特許要件について
本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、本件補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するかどうか)について以下に検討する。

(1)補正後の発明
上記「1.本願発明と補正後の発明」の項で補正後の発明として認定したとおりである。

(2)引用発明
A 原審の拒絶理由に引用された、本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2000-244908号公報(平成12年9月8日公開、以下、「引用例1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はビットストリーム復号化装置、方法及び記憶媒体に関し、特に、デジタルTV受信装置あるいはデジタル蓄積メデイア再生装置など、符号化されて多重化された画像や音声などのビットストリームを復号化する装置に関する。」(2頁2欄)

ロ.「【0020】図1は、本実施の形態を示すビットストリーム復号化装置の構成を示すブロック図である。図1において、101は符号化されたビットストリーム入力端子、102はデスクランブル手段、103は多重化されたデータを分離する手段、104は分離されたオーディオ信号を復号する手段である。
【0021】また、105?107は分離された各VOP(Vide Object P1ane)信号を復号する復号化手段、108はシーン記述を復号するシーン記述復号化手段、109はオーディオ信号や各VOPを合成する合成手段である。
【0022】また、110?112は切り替えスイッチ、113はプライオリティデコーダ、114は電話回線などの通信回線端子、115はモデム、116はCPU、117はICカード、118はリモコンをそれぞれ示している。
【0023】上述のように構成された本実施の形態のビットストリーム復号化装置は、従来例と同様に、入力端子101から多重化されたビットストリームが入力される。そして、視聴許可がある場合にはCPU116からの解除キーの供与によりデスクランブル手段102においてスクランブルが解除される。
【0024】スクランブルが戻されたストリームは分離手段103において、オーディオ、VOP0、VOP1、VOP2、シーン記述の各ストリームに分離される。ここで、VOPとはMPEG4では基本的なビデオ画像の単位であり、正しくはビデオオブジェクトの瞬間的な値(画像)を示している。
【0025】MPEG4には多くのレイヤが用意されており、例えばVOPを空間または時間的に拡張して解像度を上げたVOL(Video Object Layer)と呼ばれる上位レイヤとか、さらにVOLを集めたVO(Video Object)などがあり、1つの画像を分割するには無数の切り口が考えられる。
【0026】ここでは、簡単のため最も基本的なVOPでこれらの切り口を代表している点を了解されたい。VOPの数もこの例では3個に限定して説明する。分離された各ストリームは各々オーディオ復号化手段104、各VOP復号化手段105、106、107、シーン記述復号化手段108で復号化された後、合成手段109で合成されて出力される。
【0027】なお、シーン記述というのは、オブジェクトに分割されたVOPを空間的な位置合わせと時聞的な同期をとって1つの映像とするための言語による記述である(オーディオもまた1つのオブジェクトと考え時間的な同期をとる)。
【0028】空間的な位置合わせ以外に時間的な同期も必要となるのは、各オブジェクトが多重化による時間シフトや復号の遅れのバラツキの影響を受けるためであり、図1中の各復号化手段の前後には実際にはバッファが必要となるが、図1では煩雑となるため省略している。
【0029】図1の説明に戻ると、スイッチ110、111、112は各VOPの復号出力を合成手段109に送るか否かを示しており、これらのスイッチをオフにした場合は、本来のMPEG4で得られるビデオ出力とは異なる出力が得られる。
【0030】すなわち、あるスイッチをオフにするとそれに相当するオブジェクトが画面に表示されないように作用する。これらのスイッチ110、111、112はCPU116の出力値をプライオリティデコーダ113によりデコードして制御する。
【0031】プライオリティデコーダ113は、例えば図3に示すように働くため、映像を符号化する際にあらかじめ重要なビデオオブジェクトから順にプライオリティデコーダVOP0、1、2...と割り当ててあれば、整数値0、1、2、3をユーザーごとの契約に応じて与えることで、同じ番組に対して画像の精細度を多段階に分けたサービスを提供できる。
【0032】契約の手順としては、従来例と同様に行い、番組IDと解除キーに加えて整数値をICカードに余分に1つだけ記憶するだけである。また、ペイパービューの場合も同様に、管理センターへ送信する視聴情報にこの数値を付加するだけでよい。
【0033】さらに、明示的なサービスの差別化の例として、図2のブロック図を参照する。これは、図1の合成手段109を具体化した一例であり、ここでのVOPは上述した解像度方向への拡張であるVOLに該当するものである。VOP0は、最低解像度の画像であり、VOP1、VOP2が与えられない場合、ビデオ出力は小画面の縦横を単純に引き延ばしただけの画像となる。
【0034】VOP1やVOP2は、画像の高精細情報であり、合成手段109に供給された場合は、ビデオ出力には高品位な画像が得られる。したがって、契約に応じた整数値により共通なビットストリームに対して、ユーザーの契約内容ごとに異なる複数の画質レベルの画像を提供することが可能となる。
【0035】図3の数値を例にとると、"3"を契約したユーザーが最も高画質なサービスを受けることになる。なお、図3だけを見ると、一見MPEG2の階層符号化を用いても実現できそうであるが、上述したようにビデオオブジェクトという概念が基本であり、画面上のある物体だけの解像度を変えることもできる点に注意する。MPEG2では、画面全体を対象とした階層化だけが可能である。」(4頁5欄?5頁7欄)

ハ.「【0048】また、本発明のその他の特徴によれば、優先順位づけのための付加回路や付加ソフトウェアを軽微で済ますことができる。さらに、符号化側でVOPに優先順位を付けた場合に、受信側の能力が低く例えばVOPを2個までしか復号できないような装置でも大きな破綻を避けるようにすることができる。」(6頁9欄)

上記引用例1の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記イ.の【0001】における「本発明はビットストリーム復号化装置、方法及び記憶媒体に関し、特に、デジタルTV受信装置あるいはデジタル蓄積メデイア再生装置など、符号化されて多重化された画像や音声などのビットストリームを復号化する装置に関する。」との記載によれば、引用例1のビットストリーム復号化方法は、デジタルTV放送を受け取るものである。
また、上記ロ.の【0024】における「スクランブルが戻されたストリームは分離手段103において、オーディオ、VOP0、VOP1、VOP2、シーン記述の各ストリームに分離される。」との記載、及び図1によれば、引用例1のビットストリーム復号化方法は、複数のストリーム(VOP0、VOP1、VOP2)を分離している。ここで、同ロ.の【0024】における「VOPとはMPEG4では基本的なビデオ画像の単位であり」との記載によれば、複数のストリーム(VOP0、VOP1、VOP2)の各々はMPEG4の符号化された情報を含むことは明らかである。
また、上記ロ.の【0031】における「プライオリティデコーダ113は、例えば図3に示すように働くため、映像を符号化する際にあらかじめ重要なビデオオブジェクトから順にプライオリティデコーダVOP0、1、2...と割り当ててあれば、整数値0、1、2、3をユーザーごとの契約に応じて与えることで、同じ番組に対して画像の精細度を多段階に分けたサービスを提供できる。」との記載、同ロ.の【0034】における「VOP1やVOP2は、画像の高精細情報であり、合成手段109に供給された場合は、ビデオ出力には高品位な画像が得られる。したがって、契約に応じた整数値により共通なビットストリームに対して、ユーザーの契約内容ごとに異なる複数の画質レベルの画像を提供することが可能となる。」との記載、及び図1、3によれば、引用例1のビットストリーム復号化方法は、ストリームVOP0のみの場合、整数値1が割り当てられ、ストリームVOP0及びVOP1の場合、整数値2が割り当てられ、ストリームVOP0、VOP1、及びVOP2の場合、整数値3が割り当てられているから、複数のストリーム(VOP0、VOP1、VOP2)は、整数値に関連付けられているということができる。ここで、同ロ.の【0033】における「VOP0は、最低解像度の画像であり」との記載、同ロ.の【0034】における「VOP1やVOP2は、画像の高精細情報であり」との記載によれば、VOP0は、ビデオの最低解像度の画像を含むストリームを提供し、VOP1及びVOP2は、ビデオのVOP0を拡張した画像の高精細情報を含むストリームを提供するということができる。
また、上記ロ.の【0021】における「105?107は分離された各VOP(Vide Object P1ane)信号を復号する復号化手段」との記載、同ロ.の【0030】における「あるスイッチをオフにするとそれに相当するオブジェクトが画面に表示されないように作用する。これらのスイッチ110、111、112はCPU116の出力値をプライオリティデコーダ113によりデコードして制御する。」との記載、及び図1によれば、引用例1のビットストリーム復号化方法は、復号化してストリームを選択している。そして、複数のストリーム(VOP0、VOP1、VOP2)の各々は、復号化してストリームを選択するために別々に符号化されていることは明らかである。
また、上記ロ.の【0031】における「プライオリティデコーダ113は、例えば図3に示すように働くため、映像を符号化する際にあらかじめ重要なビデオオブジェクトから順にプライオリティデコーダVOP0、1、2...と割り当ててあれば、整数値0、1、2、3をユーザーごとの契約に応じて与えることで、同じ番組に対して画像の精細度を多段階に分けたサービスを提供できる。」との記載、及び図3によれば、引用例1のビットストリーム復号化方法は、復号化してストリームを選択することはストリームに関連づけされた整数値に基づいているということができる。

したがって、上記引用例1には、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「(α)デジタルTV放送を受け取る方法であって
(β)複数のストリーム(VOP0、VOP1、VOP2)を分離することと、なお、前記複数のストリーム(VOP0、VOP1、VOP2)の各々は符号化された情報を含み、前記複数のストリーム(VOP0、VOP1、VOP2)は、整数値に関連付けられ、さらに、前記VOP0は、ビデオの最低解像度の画像を含むストリームを提供し、前記VOP1及びVOP2は、前記ビデオの前記VOP0を拡張した画像の高精細情報を含むストリームを提供する;
(γ)復号化してストリームを選択することと、なお、前記複数のストリーム(VOP0、VOP1、VOP2)の各々は、前記復号化してストリームを選択するために別々に符号化されており、前記復号化してストリームを選択することは、前記ストリームに関連づけされた前記整数値に基づくことを含む;
を備えるビットストリーム復号化方法。」

B 原審の拒絶理由に引用された、本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平6-22289号公報(平成6年1月28日公開、以下、「引用例2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「【0019】図4は本発明による多解像度画像復号装置の一実施例の構成を示すブロック図である。以下構成と各部の動作を説明する。他の端末から送信されてくる符号入力信号451は、各フレーム毎に低解像度の画像符号信号から高解像度の画像符号信号の順に到着する。シーケンサ414はそれに従い階層切替フラグ456を発生し、選択器407a、407b、407cを制御する。復号器401は受信した符号入力信号451を入力し、画像信号を復元すると同時に、各ブロックのフレーム内/フレーム、階層間選択信号452、動きベクトル454、階層内/階層間選択信号455を抽出する。このとき復号には、選択器407aに選択された低域符号セット404、中域符号セット405、高域符号セット406のいずれかを使用する。一方、高解像度参照フレームメモリ410、中解像度参照フレームメモリ411、低解像度参照フレームメモリ412には、復号された各解像度の画像が記憶されている。
【0020】まず最も低い解像度の画像信号の復号中は、選択器407bは低解像度参照フレームメモリ412に記憶されている1フレーム前の低解像度の復号画像を参照画像として選択入力する。また選択器409は階層内/階層間選択信号455に従い、選択器407bの選択した参照画像信号を選択し、動き補償部408に送る。動き補償部408は動きベクトル454に従い参照画像を変位させる。選択器403は、フレーム内/フレーム、階層間選択信号452が、フレーム内の場合は復号器452の出力をそのまま選択し、フレーム、階層間の場合は復号器452の出力と、動き補償部408の出力を加算器402で加算し選択し、復号画像出力453とする。同時に復号画像出力は、書込フレームメモリ選択器413により、低解像度参照フレームメモリ412に書き込まれ、このフレームの中解像度画像の復号と、次のフレームの復号に使用される。低解像度の画像のみが必要な場合は、復号画像出力453を表示し、中解像度以降の手順は実行せずに次のフレームの低解像度画像信号を受信するまで停止する。
【0021】中解像度以上の画像が必要な場合は、低解像度の画像は表示せずに、以下の手順を続行する。中解像度画像信号と高解像度画像信号の復号手順も、概ね低解像度画像信号の上記の復号手順と同等である。選択器407bは、中解像度参照フレームメモリ410あるいは高解像度参照フレームメモリ411から、対応する1フレーム前の復号画像信号を選択する。同時に選択器407cで、中解像度参照フレームメモリあるいは低解像度参照フレームメモリから、復号中の画像より1階層低い解像度の復号画像信号を選択し、画像拡大器415で復号中の画像の解像度まで補間拡大する。選択器409は、階層内/階層間選択信号455により、階層内の場合は選択器407bの選択した1フレーム前の復号画像信号を選択し参照画像信号とする、階層間の場合は選択器407cの選択した拡大画像を選択し参照画像とする。動き補償部408は、動きベクトル454に従い参照画像を変位させる。以下は低解像度の時と同等に復号画像出力を生成し、対応する参照フレームメモリに書き込む。これを必要な解像度まで繰り返し、必要な解像度の復号画像が得られると、これを表示装置に表示する。
【0022】なお上記の実施例は、高解像度までの画像を受信可能な例であるが、低解像度や中解像度のみの復号装置も構成することできる。これらの場合は、高解像度参照フレームメモリ410や、中解像度参照フレームメモリ411や、対応する符号セットを省略し、中域や高域の不要な受信情報は受信されないか、あるいは受信後復号せずに廃棄する。」(5頁7?8欄)

上記引用例2の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記イ.の【0020】における「まず最も低い解像度の画像信号の復号中は、選択器407bは低解像度参照フレームメモリ412に記憶されている1フレーム前の低解像度の復号画像を参照画像として選択入力する。・・・低解像度の画像のみが必要な場合は、復号画像出力453を表示し、中解像度以降の手順は実行せずに次のフレームの低解像度画像信号を受信するまで停止する。」との記載、同イ.の【0021】における「中解像度以上の画像が必要な場合は、低解像度の画像は表示せずに、以下の手順を続行する。中解像度画像信号と高解像度画像信号の復号手順も、概ね低解像度画像信号の上記の復号手順と同等である。・・・これを必要な解像度まで繰り返し、必要な解像度の復号画像が得られると、これを表示装置に表示する。」との記載、及び図4によれば、引用例2の多解像度画像復号装置は、(α)選択されたフレームを選択的に復号している。
また、上記イ.の【0022】における「なお上記の実施例は、高解像度までの画像を受信可能な例であるが、低解像度や中解像度のみの復号装置も構成することできる。これらの場合は、高解像度参照フレームメモリ410や、中解像度参照フレームメモリ411や、対応する符号セットを省略し、中域や高域の不要な受信情報は受信されないか、あるいは受信後復号せずに廃棄する。」との記載において、低解像度のみの復号装置を構成する場合に着目すれば、高解像度までの画像を受信可能な例であるが、高解像度・・・や、中解像度・・・や、対応する符号セットを省略し、中域や高域の不要な受信情報は・・・受信後復号せずに廃棄するから、引用例2の多解像度画像復号装置は、(β)フレームを選択的に復号しており、中解像度及び高解像度を復号する能力がない場合、低解像度のみを復号している。

そして、上記(α)及び(β)より、引用例2には、多解像度画像復号方法について記載されているということができる。

したがって、上記引用例2には、以下の発明(以下、「引用発明2-1」及び「引用発明2-2」という。)が記載されているものと認められる。

(引用発明2-1)「多解像度画像復号方法において、受信された複数種類の画像符号信号のうち復号が必要な画像符号信号のみを選択的に復号すること。」

(引用発明2-2)「多解像度画像復号方法において、復号装置の復号能力に基づいて各解像度の画像符号信号を選択的に復号すること。」

(3)対比・判断
補正後の発明と引用発明1とを対比する。
a.引用発明1の「デジタルTV放送」は、ブロードキャストであり、デジタルTV放送には開始と終了があることは技術常識であるから、補正後の発明の「ブロードキャスティング セッション」ということができる。
b.引用発明1の「複数のストリーム(VOP0、VOP1、VOP2)を分離する」は、複数のストリーム(VOP0、VOP1、VOP2)を分離して受け取っているから、補正後の発明の「複数のストリームを受け取る」ということができる。
c.本願明細書段落【0048】における「デコードされたストリームは、無線デバイスの加入レベル、或いはその受信品質に依存して変わるかもしれない。例えば、ユーザーは、受信コンテンツへの異なるレベルのエンハンスメントをそれに応じて異なる費用で契約(subscribe)できる。」との記載、段落【0050】における「ブロック706では、コンテンツのエンハンスメントストリームをデコードすることを、WCDが能力をもっている (capable)のかどうか、そして契約している(subscribed)のかどうか又は認可されている(authorized)のかどうか、が決定される。もしWCDが能力あり、且つエンハンスメントストリームをデコードすることが認可されている場合は、フローはブロック708に続く。ブロック708では、認可されたエンハンスメントストリームがデコードされる。」との記載によれば、補正後の発明の「デコーディング認可レベル」は、ユーザに対する加入契約により認可された、デコードするエンハンスメントストリームを選択するために用いられるレベルと解される。一方、上記引用例1の上記ロ.の【0031】における「プライオリティデコーダ113は、例えば図3に示すように働くため、映像を符号化する際にあらかじめ重要なビデオオブジェクトから順にプライオリティデコーダVOP0、1、2...と割り当ててあれば、整数値0、1、2、3をユーザーごとの契約に応じて与えることで、同じ番組に対して画像の精細度を多段階に分けたサービスを提供できる。」との記載、及び図3によれば、引用発明1の「整数値」は、ユーザに対する契約により認可された、復号化されたストリームを選択するために用いられる信号(レベル)と解される。
したがって、引用発明1の「整数値」と、補正後の発明の「デコーディング認可レベル」とは、後述する相違点を除いて、ストリームを選択するために用いられる「認可レベル」という点で一致する。
d.引用発明1の「前記VOP0は、ビデオの最低解像度の画像を含むストリーム」は、ビデオがコンテンツといえ、最低解像度の画像がベース部分といえるから、補正後の発明の「前記複数のストリームの内の1つは、コンテンツのベース部分を含むベースストリーム」ということができる。
e.引用発明1の「前記VOP1及びVOP2は、前記ビデオの前記VOP0を拡張した画像の高精細情報を含むストリーム」は、VOP0を拡張した画像の高精細情報が、ベース部分への改良を提供する「エンハンスメント」部分といえるから、補正後の発明の「残りのストリームの内の少なくとも1つは、前記コンテンツの前記ベース部分への改良を提供するエンハンスメントストリーム」ということができる。
f.引用発明1の「復号化してストリームを選択する」と、補正後の発明の「選択されたストリームを選択的にデコードする」とは、後述する相違点を除いて、「選択されたストリームをデコードする」という点で一致する。

したがって、補正後の発明と引用発明1は、以下の点で一致ないし相違している。

(一致点)
「(a1)ブロードキャスティング セッションを受け取る方法であって、
(a2)複数のストリームを受け取ることと、なお、前記複数のストリームの各々は符号化された情報を含み、前記複数のストリームの内の1以上のストリームは、認可レベルに関連付けられ、さらに、前記複数のストリームの内の1つは、コンテンツのベース部分を含むベースストリームを提供し、残りのストリームの内の少なくとも1つは、前記コンテンツの前記ベース部分への改良を提供するエンハンスメントストリームを提供する;
(a3)選択されたストリームをデコードすることと、なお、前記複数のストリームの各々は、前記ストリームをデコードするために別々に符号化されており、前記ストリームをデコードすることは、前記ストリームに関連付けられた前記認可レベルに、少なくとも部分的に基づくことを含む;
を備える方法。」

(相違点1)
一致点の「ブロードキャスティング セッション」に関し、
補正後の発明は、「通信チャネル上で」マルチキャスティングまたはブロードキャスティング セッションを受け取るのに対し、引用発明1は、当該「通信チャネル上」との特定がない点。

(相違点2)
一致点の「認可レベル」に関し、
補正後の発明の「デコーディング認可レベル」は、デコードするストリームを選択するためのものであるのに対し、引用発明1の「整数値」は、復号化されたストリームを選択するためのものである点。

(相違点3)
一致点の「選択されたストリームをデコードする」に関し、
補正後の発明は、「選択されたストリームを選択的にデコードする」のに対し、引用発明1は、選択されたストリームのみならず、選択されないストリームも復号する点。

(相違点4)
一致点の「前記認可レベルに、少なくとも部分的に基づく」に関し、
補正後の発明は、「前記デコーディング認可レベル及びデコードする能力に、少なくとも部分的に基づき、ここにおいて、前記選択的にデコードすることは、前記エンハンスメントストリームをデコードする前記能力がないと決定された場合、前記ベースストリームだけをデコードする」のに対し、引用発明1は、前記整数値に基づくものの、「デコードする能力」について特定がない点。

そこで、まず、上記相違点1について検討する。
通信チャネル上でマルチキャストまたはブロードキャストすることは、例えば、原審の拒絶理由で挙げられたNortel Networks,MBMS service priority,3GPP TSG-SA2#31,Tdoc S2-031210,2003年4月12日に記載されているように周知の技術である。
そうすると、引用発明1の「デジタルTV放送」に上記周知技術を採用し、「通信チャネル上で」マルチキャスティングまたはブロードキャスティング セッションを受け取ること、すなわち、上記相違点1のように構成することは、当業者が適宜なし得ることである。

次に、上記相違点2及び3についてまとめて検討する。
上記「(2)引用発明」の項Bのとおり、引用例2には、「多解像度画像復号方法において、受信された複数種類の画像符号信号のうち復号が必要な画像符号信号のみを選択的に復号すること。」との引用発明2-1が記載されている。
そして、引用発明1と引用発明2-1とは、多段階の解像度の画像情報を選択的に復号する技術分野に属する点で共通するから、引用発明1の「ストリーム」を「復号」する際に、上記引用発明2-1を採用し、復号が必要なストリームのみ選択的に復号すること、すなわち、上記相違点3のように構成することは、当業者が容易に想到し得るものである。その際、引用発明1の「整数値」により、復号されるストリームが選択されることになるから、補正後の発明の「デコーディング認可レベル」に相当するものとなること(相違点2)は当然である。

次に、上記相違点4について検討する。
上記引用例1の【0048】には、「受信側の能力が低く例えばVOPを2個までしか復号できないような装置でも大きな破綻を避けるようにすることができる。」と記載されていることから、引用発明1の前提として、受信側には復号能力の低い復号化装置を含み得ると解するのが自然である。そして、引用発明2-2には、「多解像度画像復号方法において、復号装置の復号能力に基づいて各解像度の画像符号信号を選択的に復号すること。」が記載されている。
そうすると、引用発明1に引用発明2-2を付加して、「整数値」及び「復号能力」に基づいて複数のストリームを選択的に復号することは、当業者が容易に想到し得るものである。その際、「整数値」は契約に応じて適宜設定し得る性質のものであることを考慮すると、復号装置が最低の復号能力(引用発明1の「VOP0」)しか有しない場合に最低解像度の画像を含むストリームのみを復号すること、すなわち、上記相違点4のように構成することは、当業者が必要に応じてなし得る事項である。

そして、補正後の発明の作用効果も、引用発明1、2及び周知技術から当業者が容易に予測できる範囲のものである。

以上のとおり、補正後の発明は引用発明1、2及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.結語
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成27年3月18日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、上記「第2 補正却下の決定 1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりである。

2.引用発明及び周知技術
引用発明は、上記「第2 補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項中の「(2)引用発明」の項で認定したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は上記補正後の発明から本件補正に係る限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成に本件補正に係る限定を付加した補正後の発明が、上記「第2 補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項で検討したとおり、引用発明1、2及び周知技術に基づいて容易に発明できたものであるから、本願発明も同様の理由により、容易に発明できたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1、2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項に論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-03-15 
結審通知日 2016-03-22 
審決日 2016-04-08 
出願番号 特願2013-107633(P2013-107633)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04W)
P 1 8・ 575- Z (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊東 和重  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 ▲高▼橋 真之
萩原 義則
発明の名称 マルチキャストブロードキャストマルチメディアサービスのためのスケーラブル符号化  
代理人 奥村 元宏  
代理人 福原 淑弘  
代理人 井関 守三  
代理人 蔵田 昌俊  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ