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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1318695
審判番号 不服2015-13828  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-07-23 
確定日 2016-08-26 
事件の表示 特願2013-513011「ブルースター角を使用してビリルビンのような組織検体を測定する装置及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年12月 8日国際公開、WO2011/151744、平成25年 6月27日国内公表、特表2013-527469〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年4月28日(パリ条約による優先権主張 2010年6月3日 米国(US))を国際出願日とする出願であって、平成26年10月10日付けで拒絶理由が通知され、平成27年1月20日に手続補正書及び意見書が提出され、同年3月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月23日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成27年7月23日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成27年7月23日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
本件補正は、平成27年1月20日に提出された手続補正書に記載された特許請求の範囲の請求項1の記載(下記(1)参照)を、平成27年7月23日に提出された特許請求の範囲の請求項1に記載(下記(2)参照)されたとおりに補正することをその一部に含むものである。

(1) 平成27年1月20日提出の手続補正書に記載された特許請求の範囲の請求項1の記載
「 【請求項1】
組織検体の測定装置であって、
前記測定装置が皮膚表面に隣接して配される場合に、被検体の皮膚表面の方へ非偏光の光を放出するように構成される光源であって、前記測定装置が皮膚表面に対して配される場合、前記非偏光の光が、前記測定装置を出て、皮膚表面の垂線に対し予め決められた角度で皮膚表面に入射するよう構成され、前記予め決められた角度は、人間皮膚の屈折率を使用して決定されるブルースター角であり、かつ前記非偏光の光が皮膚表面に入射する際、s偏光の光のみが皮膚表面によって反射される角度である、光源と、
被検体の皮膚表面によって及び被検体の経皮組織によって反射された光を含む、被検体から反射された光を受け取るように構成される検出器アセンブリであって、偏光フィルタ及び複数の光検出器サブアセンブリを含み、前記偏光フィルタは、s偏光の光をフィルタ除去し、p偏光の光のみを前記複数の光検出器サブアセンブリに通過させるように構成される、検出器アセンブリと、
を有する測定装置。」

(2) 平成27年7月23日提出の手続補正書に記載された特許請求の範囲の請求項1の記載
「 【請求項1】
組織検体の測定装置であって、
前記測定装置が皮膚表面に隣接して配される場合に、被検体の皮膚表面の方へ非偏光の光を放出するように構成される光源であって、前記測定装置が皮膚表面に対して配される場合、前記非偏光の光が、前記測定装置を出て、皮膚表面の垂線に対し予め決められた角度で皮膚表面に入射するよう構成され、前記予め決められた角度は、人間皮膚の屈折率を使用して決定されるブルースター角であり、かつ前記非偏光の光が皮膚表面に入射する際、s偏光の光のみが皮膚表面によって反射される角度である、光源と、
被検体の皮膚表面によって及び被検体の経皮組織によって反射された光を含む、被検体から反射された光を受け取るように構成される検出器アセンブリであって、偏光フィルタ及び複数の光検出器サブアセンブリを含み、前記偏光フィルタは、s偏光の光をフィルタ除去し、p偏光の光のみを前記複数の光検出器サブアセンブリに通過させるように構成される、検出器アセンブリとを有し、
前記検出器アセンブリの配置が、s偏光の反射光の角度と入射光の皮膚内の浸透深さとに基づき予測される、測定装置。」(下線は、補正箇所を示す。)

(3)請求項1の補正の内容について
請求項1に対する補正事項は、検出器アセンブリについて、その配置が「s偏光の反射光の角度と入射光の皮膚内の浸透深さとに基づき予測される」と限定するものである。
このような検出器アセンブリの配置を限定する補正事項は、本件補正前の請求項1に記載の発明特定事項を減縮するものであって、その産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更するものではないから、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、次に、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かすなわち、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定する要件を満たすものであるか否か(いわゆる、「独立特許要件」を有するか否か)について検討する。

2 本件補正発明についての独立特許要件についての検討
(1)記載不備(特許法第36条第6項第2号)について
本件補正後の請求項1の「前記検出器アセンブリの配置が、s偏光の反射光の角度と入射光の皮膚内の浸透深さとに基づき予測される」という記載について、「予測」という語は、一般的に「将来の出来事や有様をあらかじめ推測すること。前もっておしはかること。「[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]」という意味であることから、上記記載を文言どおりに把握しようとすると、検出器アセンブリが、まだ配置されていないことになる。しかし、測定装置は、検出器アセンブリを有しており、「被検体の皮膚表面によって及び被検体の経皮組織によって反射された光を含む、被検体から反射された光を受け取るように構成される」ものであるから、検出器アセンブリが測定装置の構成部材として配置されていることは明らかであることを踏まえると、本件補正発明を特定する上記記載は、「前記検出器アセンブリの配置が、s偏光の反射光の角度と入射光の皮膚内の浸透深さとに基づき予測され」た配置であるとまでは解することができる。
しかし、「s偏光の反射光の角度と入射光の皮膚内の浸透深さとに基づき予測され」た配置について、この記載は、予測に用いるものを「s偏光の反射光の角度」及び「入射光の皮膚内の浸透深さ」と特定するにとどまり、これらを用いてどのように予測するのかが特定されていない。配置は、予測方法次第でいかようにも予測しうるものであるから、どのように予測するのかが特定されなければ、どのような配置に予測されるものであるのかが特定されているとはいえず、上記記載では、どのような配置を特定しようとするものであるのかが明確でない。
上記記載は請求項1の記載だけでは上述したとおり明確でないので、明細書を参酌して明確であるかどうかを次に検討する。
明細書には、上記記載に関連する記載として段落【0025】の記載が存在するものの、「s偏光の反射光の角度と入射光の皮膚内の浸透深さとに基づき」、どのように配置を予測するかは具体的に記載されておらず、明細書及び図面全体を参酌しても、上記記載により「s偏光の反射光の角度」と「入射光の皮膚内の浸透深さ」に基づいて予測される「検出器アセンブリの配置」がどのような配置であるかが明らかであるとは認められないので、上記記載は明細書を参酌しても不明確である。
したがって、本件補正発明は明確ではないので、本件補正後の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、本件補正発明は、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるということはできない。

(2)実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)について
本件補正発明は、「前記検出器アセンブリの配置が、s偏光の反射光の角度と入射光の皮膚内の浸透深さとに基づき予測される」という発明特定事項を具備している。検出器アセンブリの配置に関して、発明の詳細な説明には、
「 【0019】
ビリルビン測定装置2は更に、例えば新生児のような被検体の皮下組織10から反射される光を受け取るように構造化され構成される検出器アセンブリ8を有する。例えば、1又は複数の光ファイバが、反射光を収集し検出器アセンブリ8へ導くために、検出器アセンブリ8に結合されることができる。検出器アセンブリ8は、例示の実施形態において、反射される光を除いて、すべての光から遮蔽される。」
及び
「 【0024】
1つの例示の実施形態において、ビリルビン測定装置2は、完全一体型システムであり、光源4及び検出器アセンブリ8が、皮膚又は測定表面から僅かに離れて位置付けられる同じ測定基板上に位置付けられ、それにより、光源4によって放出された光が、本明細書に記述されるように反射され検出されることを可能にする。光源4からの直接の光が検出器アセンブリ8に当たることを防ぐために注意が払われるべきである。むしろ、反射光のみが、検出器アセンブリ8に当たることを許されるべきである。
【0025】
更に、検出器サブアセンブリ14A、14B、14C(及び偏光フィルタ12)の最適な配置は、2つのパラメータに基づいて、評価され/予測されることができる。それらのパラメータは、s偏光の反射光の角度(図1に示されるように、入射光のブルースター角(θ_(B))と同じである)と、入射光の皮膚内の浸透深さと、である。皮膚表面6を透過する光は、入射光の強度に依存し、入射光は、表皮の端部(ビリルビンが堆積する皮膚表面6の下)まで透過することが可能である。皮膚表面6を透過した光は、多重散乱及び内部全反射を受ける。散乱光の入射角度がθ_(crt)(臨界角)をより小さい場合、光は後方反射される。従って、例示の実施形態において、皮膚から反射された光が利用できなくなるので、検出器サブアセンブリ14A、14B、14Cは、θ_(crt)(臨界角)を越えて配置されるべきでない。別の代替の実施形態において、検出器信号は、光が皮膚から後方に伝播される角度レンジを評価するために、角度の関数としてスキャンされ、従って、後方に伝播される光がないと判断される外側の境界が確立されることができる。」
という記載が存在し(下線は、検出器アセンブリの配置に関する記載として、当審が付与したものである。)、その配置態様を具体的に示す図面として、
図1:

が存在する。
上記摘記のとおり、発明の詳細な説明の段落【0025】には、検出器サブアセンブリの最適な配置をs偏光の反射光の角度と入射光の皮膚内の浸透深さに基づいて予測されることは記載されているものの、s偏光の反射光の角度と入射光の皮膚内の浸透深さとに基づき、どのように検出器アセンブリの配置を予測するのかが具体的に記載されていない。また、同段落には、散乱光の臨界角と検出器サブアセンブリの配置に関する記載も存在するが、これは、検出器サブアセンブリを有効に配置できる範囲を示すものにすぎない。
そして、図1は、光の経路が、屈折率や反射光と伝播光の関係(両光の進行方向が直角をなす関係)を全く反映しておらず、「光検出器の配置レンジ」の技術的な意味合いが乏しいものであるから、「s偏光の反射光の角度と入射光の皮膚内の浸透深さとに基づき」「検出器アセンブリの配置を」予測する具体的方法を開示する図とはいえない。仮に、光の経路が正しいと仮定しても、「光検出器の配置レンジ」の光源から遠方の端部(図中、右側端)の位置は、皮膚内部の伝播光の皮膚表面において臨界角となる経路の延長線よりもかなり光源側に位置するものであり、「光検出器の配置レンジ」がどのように定まるかを把握することはできず、「s偏光の反射光の角度と入射光の皮膚内の浸透深さとに基づき」「検出器アセンブリの配置を」予測する具体的方法を開示しているとは認められない。
してみると、上記摘記した記載や図面をはじめとする発明の詳細な説明及び図面全体を総合しても、発明の詳細な説明が、上記特定事項を当業者が実施できる程度に記載されているとは認められない。
したがって、発明の詳細な説明は、本件補正発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないので、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(3)進歩性(特許法第29条第2項)について
ア 本件補正発明
本件補正発明は、上記(1)のとおり不明確であるため、そのまま進歩性の判断のための先行技術との対比・判断を行うことが困難であるが、発明が解決しようとする課題が、「経皮ビリルビン濃度測定法のような光を使用する組織検体の解析の分野における」「皮膚の表面からくる光反射の悪影響を克服する」こと(【0005】)であり、その課題を解決する原理が、皮膚への非偏光の光の入射角をブルースター角とし、「非偏光の光が皮膚表面に入射する際にs偏光の光のみが皮膚表面によって反射される」(【0006】)ようにして、反射光中の「s偏光の光をフィルタ除去」(【0006】)することで、「被検体の経皮組織によって反射された光」のみに含まれる「p偏光の光」を検出することであること、更には、本願の明細書に記載されている実施形態は、(1)及び(2)で説示したとおり、具体的にどのようにして配置を予測するかを示すものではないが、「s偏光の反射光の角度と入射光の皮膚内の浸透深さとに基づき予測され」た結果である配置の一態様を示すものと解しうることを踏まえ、その実施形態の概略を示す図1から、検出器アセンブリが、「光検出器の配置レンジ」で示される範囲に配置されること、及び、このレンジが、皮膚表面からの反射光と、皮下組織(10)中で反射された光の両方を受け取る位置であること、つまり「前記検出器アセンブリの配置が、被検体の皮膚表面によって及び被検体の経皮組織によって反射された光を含む、被検体から反射された光を受け取る配置」であることが看取されるから、上記(1)で不明確と指摘した「前記検出器アセンブリの配置が、s偏光の反射光の角度と入射光の皮膚内の浸透深さとに基づき予測される」という態様が、「前記検出器アセンブリの配置が、被検体の皮膚表面によって及び被検体の経皮組織によって反射された光を含む、被検体から反射された光を受け取る配置」を包含するものとして、進歩性について検討する。

イ 引用例の記載事項及び引用発明
(ア) 本願の出願前に頒布された刊行物であって、原査定の拒絶の理由に引用された特開2002-200050号公報(以下、「引用例1」という。)には、つぎの事項が記載されている。(下線は、当審において付与した。)

(引1ア)「【0008】本発明は、肌色に寄与するメラニン成分、ヘモグロビン成分等の色素成分の精度の高い計測を行うことができる肌色測定装置を提供することを目的とする。また、測定に基づいて被験者の肌色の診断を行う肌色診断装置および所望の化粧をした後の顔画像を表示することができる顔画像処理装置を提供することを目的とする。また、測定に基づいて顧客に対して化粧アドバイスを与えることができるアドバイスシステムを提供することを目的とする。」

(引1イ)「【0015】ここで、入射光を偏光板により、縦方向の偏光面の光として入射したとすると、皮膚の表面反射光はこの入射された縦方向の偏光面を維持して反射する。一方皮膚の内部反射光は、様々な偏光面の光を含んで反射する。このため、反射光を縦方向の偏光のみを通過させる偏光板を通過させると、表面反射光と内部反射光とを含んだ反射光を検出できる。一方、横方向の偏光のみを通過させる偏光板を通過させると、入射光と同じ偏光面の光を遮るので、内部反射光のみを検出できる。これにより、入射光と反射光とをそれぞれ偏光板を通過させて反射光を検出することにより、皮膚の表面で反射される表面反射光を除外することができる。」

(引1ウ)「【0019】このように表面反射光を除外することで、被験者の肌のメラニン成分量、ヘモグロビン成分量を精度よく検出できる。本発明の手法は必要に応じてメラニン成分およびヘモグロビン成分以外の他の色素成分、例えばビルビリン成分およびカロチン成分にも適用される。肌色を構成する色素成分はそれぞれ特徴的な吸収スペクトルを示すことが公知であり、所望の色素成分に対応する波長において反射光を検出することで、その成分量と相対係数とを求めることができる。これに基づいて被験者の肌の評価診断、化粧シミュレーションおよびアドバイスを行う。」

(引1エ)「【0031】本発明第一実施例は、肌色測定装置であって、図1に示すように、光源からの光が皮膚によって反射した反射光の分光データを、偏光を用いて、皮膚の表面で反射した表面反射光成分と皮膚の内部で散乱して反射した内部反射光成分とに分けて検出する反射光検出手段としての偏光板50、51、52およびカメラ装置1および内部光検出部2と、内部反射光成分から、被験者の肌色を構成するメラニン成分またはヘモグロビン成分を求める処理手段としての分析部3とを備え、この求められたメラニン成分またはヘモグロビン成分を出力する肌色測定装置10である。」

(引1オ)「【0035】(第一実施例)本発明第一実施例を図1ないし図3を参照して説明する。本発明第一実施例の肌色測定装置10は、測定の妨げとなっていたメラニン成分量およびヘモグロビン成分量の測定におけるノイズ成分となる肌の表面光成分を除去し、内部光成分による測定を行なうことができるため、正確な値を得ることができる。
【0036】すなわち、図2に示すように、偏光板50を透過することにより偏光面が整えられた光が肌の表面を通過し、内部で散乱を複数回繰り返した後に外に出てくる場合には、偏光板50で整えられた光は内部反射することにより、様々な偏光を有する光すなわち、内部光となって外に出ていく。
【0037】また、図3に示すように、偏光板50を透過することにより偏光面が整えられた光が肌の表面で反射した場合には、偏光板50で整えられた偏光方向は保存される。図3の例では、偏光板50により縦方向の偏光に整えられた光が表面反射することにより、再び縦方向の偏光を有する光すなわち、表面光となって反射される。
【0038】このように偏光により表面光と内部光とを区別できる性質を利用して、図2に示すように、偏光板51および52を透過した光をカメラ装置1によりそれぞれ撮影する。偏光板51を透過して撮影された画像を画像aとする。偏光板52を透過して撮影された画像を画像bとする。ここで、内部光画像を得たいときには、2×画像bとして画像合成を行う。すなわち、画像bには、内部光の要素しか含まれていないので、画像bとしてとらえられる光はそのまま全て内部光画像となる。しかし、内部光の約半分は、偏光板52によって遮光されるので、遮光分を補う目的で、画像bの光量を2倍にする。
【0039】このようにしてノイズ成分となる肌の表面反射成分を除去した内部光成分に対し、分析部3では、前述したメラニン成分量およびヘモグロビン成分量の分析を行なうことにより、これらの正確な値を得ることができる。」

(引1カ) 図1に、「肌色測定装置」、「光源」、及び「光源」からの光を偏光にする「偏光板50」を組み合わせたシステムが記載されていると認められる。
図1:

(引1イ)の「入射光を偏光板により、縦方向の偏光面の光として入射したとすると、皮膚の表面反射光はこの入射された縦方向の偏光面を維持して反射する。」という記載の「入射光」と(引1エ)の「光源からの光が皮膚によって反射した反射光の分光データを」という記載の「光源からの光」は、ともに皮膚への「入射光」を意味することは当業者にとって自明である。また、(引1イ)の「入射光を偏光板により、縦方向の偏光面の光として入射したとすると、」という記載の「偏光板」は、光源側の偏光板であることは図1から明らかであるから、「偏光板50」を指すことは明らかであり、(引1イ)の「横方向の偏光のみを通過させる偏光板を通過させると」という記載の「偏光板」が、皮膚からの反射光が通過する「偏光板52」であることは図1から明らかである。
これらのことを踏まえて、(引1ア)から(引1オ)の記載事項及び(引1カ)の図1から認定される事項によれば、引用例1には次の発明が記載されていると認められる。
「肌色測定装置、光源、及び光源からの光(入射光)を偏光にする偏光板50を組み合わせたシステムであって、
肌色測定装置は、
入射光が皮膚によって反射した反射光の分光データを、偏光を用いて、皮膚の表面で反射した表面反射光成分と皮膚の内部で散乱して反射した内部反射光成分とに分けて検出する反射光検出手段としての偏光板51、52およびカメラ装置1および内部光検出部2とを備えており、
皮膚への入射光が偏光板50により、縦方向の偏光面の光として入射した場合に、反射光を横方向の偏光のみを通過させる偏光板52を通過させて、内部反射光のみを検出できるようにすることで、色素成分に対応する波長において反射光成分を検出し、肌のメラニン成分量、ヘモグロビン成分量を精度良く検出できる
システム。」(以下、「引用発明」という。)

(イ) 本願の出願前に頒布された刊行物であって、原査定の拒絶の理由に引用された特開2007-10576号公報(以下、「引用例2」という。)には、つぎの事項が記載されている。(下線は、当審において付与した。)

(引2ア)「【0002】
物体を照明光で照明するとともに物体によって反射された反射光を受光し、反射光の波長毎の強度を計測することによって、物体の色彩を定量的に測定する技術が開発されている。
物体によって反射された反射光には、照明光が物体表面において表面反射された表面反射光と、照明光が物体内部において拡散反射された拡散反射光とが含まれている。そのうちの表面反射光は、照明光が鏡面的に反射されたものであり、その波長毎の強度には照明光の波長毎の強度が強く反映される。物体の色彩を正確に測定するためには、表面反射光を除外し、拡散反射光の波長毎の強度を計測する必要がある。
特許文献1には、偏光を利用して、人の肌の色を測定する技術が開示されている。この技術では、照明手段と肌との間に第1の偏光フィルタを用意し、照明光を直線偏光に変換した上で、肌に入射させている。特許文献1によると、肌に直線偏光を入射した場合、表面反射では照明光の偏光状態が維持されることから、表面反射光は直線偏光になるという。一方、拡散反射では振動方向が様々に変化することから、拡散反射光はあらゆる方向に振動する非偏光になるという。そのことから、特許文献1の技術では、肌と受光手段との間に、第1の偏光フィルタと偏光方向が直交する第2の偏光フィルタを用意することによって、表面反射光を吸収するようにしている。
【特許文献1】特開2002-200050号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1の技術では、照明手段と測定対象との間に位置する第1の偏光フィルタと、測定対象と受光手段との間に位置する第2の偏光フィルタを用意する必要がある。第1の偏光フィルタでは、照明光の光強度の略半分が吸収されてしまう。第2の偏光フィルタでは、拡散反射光の光強度の略半分が吸収されてしまう。そのことから、受光手段において拡散反射光を十分な強度で受光するためには、比較的に出力の大きい照明手段を用意することが必要となる。
本発明は、2つの偏光フィルタを用いることなく、表面反射光を除外し、拡散反射光の波長毎の強度を計測することができる技術を提供する。」

(引2イ)
「【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の技術は、物体等の色彩を測定するための測色装置に具現化することができる。この測色装置は、入射軸に沿った照明光で試料を照明する照明手段と、試料によって反射された反射光を受光する受光手段と、試料と受光手段との間に介在している偏光フィルタとを備えている。そして、偏光フィルタは、反射光が透過するときに、入射面に対して垂直に振動している成分を吸収することを特徴とする。ここでいう入射面とは、照明光の入射軸と試料表面の法線とを含む平面を示す。
【0005】
試料に入射した照明光は、その一部が試料表面において表面反射されるとともに、その一部が試料内部において拡散反射される。
試料表面における表面反射では、照明光のなかで入射面に対して垂直に振動する成分と、照明光のなかで入射面に対して平行に振動する成分が、互いに異なる反射率によって反射される。各振動方向の成分に対する反射率は、照明光が試料表面へ入射するときの入射角に応じて変化する。このとき、入射面に対して平行に振動する成分については、その反射率がゼロとなる入射角が存在する。この入射角は、一般にブリュースタ角と呼ばれている。照明光の入射角がブリュースタ角に等しい場合、照明光が非偏光であっても、表面反射光は入射面に対して垂直に振動する成分のみを持つ直線偏光となる。一方、試料内部において拡散反射された拡散反射光は、常に非偏光となる。従って、照明光の入射角をブリュースタ角に調整するとともに、反射光のなかで入射面に対して平行に振動している成分のみを抽出できれば、表面反射光を除外した上で拡散反射光の波長毎の強度を計測することが可能となる。
本発明によって具現化される測色装置では、試料と受光手段との間に、入射面に対して垂直に振動する成分を吸収する偏光フィルタが用意されている。それにより、反射光のなかで入射面に対して平行に振動している成分のみを受光することができる。照明光の入射角をブリュースタ角に調整することによって、表面反射光が偏光フィルタによって除外されることとなり、拡散反射光の波長毎の強度を正しく計測することができる。
この測色装置によると、2つの偏光フィルタを用いることなく、表面反射光を除外し、拡散反射光の波長毎の強度を計測することができる。」

ウ 本件補正発明と引用発明の対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明は、「肌色測定装置」を備えていることから、皮膚の肌色を測定する「システム」であるから皮膚という組織を検体として測定するものといえるので、引用発明の「システム」は、本件補正発明の「組織検体の測定装置」に相当する。

(イ)引用発明の「光源」は、皮膚へ光を照射するためのものであり、引用発明の「肌色測定装置」は肌の色を測定するものであるから、「光源」と「肌色測定装置」を含む「システム」が皮膚から離れて配置されると、「縦方向の偏光面の光」である入射光以外の非偏光光である外乱光が皮膚に入射する事態が生じたり、皮膚からの反射光以外の外乱光も肌色測定装置で検出される事態が生じる。これらの事態が、「内部反射光のみを検出できるようにすることで、色素成分に対応する波長において反射光成分を検出し、肌のメラニン成分量、ヘモグロビン成分量を精度良く検出でき」ない事態であることを踏まえれば、引用発明が、このような事態が生じうる「システム」を皮膚から離れて配置されるという態様ではなく、「システム」を皮膚表面に隣接して配置する態様で使用する場合があることは技術的に明らかである。
してみると、引用発明の「光源、及び光源からの光(入射光)を偏光にする偏光板」と、本件補正発明の「前記測定装置が皮膚表面に隣接して配される場合に、被検体の皮膚表面の方へ非偏光の光を放出するように構成される光源であって、前記測定装置が皮膚表面に対して配される場合、前記非偏光の光が、前記測定装置を出て、皮膚表面の垂線に対し予め決められた角度で皮膚表面に入射するよう構成され、前記予め決められた角度は、人間皮膚の屈折率を使用して決定されるブルースター角であり、かつ前記非偏光の光が皮膚表面に入射する際、s偏光の光のみが皮膚表面によって反射される角度である、光源」とは、「測定装置が皮膚表面に隣接して配される場合に、被検体の皮膚表面の方へ光を放出するように構成される光源」という点で共通する。

(ウ)引用発明の「偏光板52」は、皮膚の内部で散乱して反射した内部反射光成分だけを透過するものであり、この内部反射光成分は、経皮組織によって反射された光の成分にほかならないから、引用発明の「偏光板52」は、本件補正発明の「偏光フィルタ」と、皮膚表面によって反射された光を除去し、経皮組織によって反射された光だけを通過させるための「偏光フィルタ」という点で共通するものである。
また、引用発明の「カメラ装置」は、「偏光板51、52」を通過した反射光を検出するものであり、皮膚の表面で反射した表面反射光成分と、皮膚の内部で散乱して反射した内部反射光成分を検出するように構成されているから、引用発明の「カメラ装置」が両光成分を受け取ること、及び光検出をすることは明らかであり、本件補正発明の「光検出サブアセンブリ」に対応するものである。
そうすると、引用発明の「カメラ装置」及び「偏光板52」の組み合わせと、本件補正発明の「被検体の皮膚表面によって及び被検体の経皮組織によって反射された光を含む、被検体から反射された光を受け取るように構成される検出器アセンブリであって、偏光フィルタ及び複数の光検出器サブアセンブリを含み、前記偏光フィルタは、s偏光の光をフィルタ除去し、p偏光の光のみを前記複数の光検出器サブアセンブリに通過させるように構成される、検出器アセンブリ」とは、「被検体の皮膚表面によって及び被検体の経皮組織によって反射された光を含む、被検体から反射された光を受け取るように構成される反射光検出関連部材であって、経皮組織によって反射された光だけを通過させる偏光フィルタと光検出手段を含み、偏光フィルタが、皮膚表面によって反射された光を除去し、経皮組織によって反射された光だけを通過させるように構成された反射光検出関連部材」という点で共通する。

(エ)上記(3)アで説示したように、本件補正発明の「前記検出器アセンブリの配置が、s偏光の反射光の角度と入射光の皮膚内の浸透深さとに基づき予測される」については、「前記検出器アセンブリの配置が、被検体の皮膚表面によって及び被検体の経皮組織によって反射された光を含む、被検体から反射された光を受け取る配置」を包含するという解釈で検討を行うこととする。
引用発明の「カメラ装置」は、「偏光板51、52」を通過した反射光を検出するものであり、皮膚の表面で反射した表面反射光成分と、皮膚の内部で散乱して反射した内部反射光成分を検出するように構成されており、引用発明の「カメラ装置」が両光成分を受け取るように配置されていることは明らかであるから、本件補正発明の「検出器アセンブリ」に対応する引用発明の「カメラ装置」及び「偏光板52」の組み合わせのこのような配置は、本件補正発明に包含される「被検体の皮膚表面によって及び被検体の経皮組織によって反射された光を含む、被検体から反射された光を受け取る配置」に相当するものである。

(オ)以上のことから、両者はつぎの一致点において一致し、つぎの相違点において相違する。
<一致点>
「 組織検体の測定装置であって、
前記測定装置が皮膚表面に隣接して配される場合に、被検体の皮膚表面の方へ光を放出するように構成される光源と、
被検体の皮膚表面によって及び被検体の経皮組織によって反射された光を含む、被検体から反射された光を受け取るように構成される反射光検出関連部材であって、経皮組織によって反射された光だけを通過させる偏光フィルタと光検出手段を含み、偏光フィルタが、皮膚表面によって反射された光を除去し、経皮組織によって反射された光だけを通過させるように構成された反射光検出関連部材とを有し、
前記検出部材群の配置が、被検体の皮膚表面によって及び被検体の経皮組織によって反射された光を含む、被検体から反射された光を受け取る配置である、測定装置。」

<相違点>
相違点1:光源について、本件補正発明は、「非偏光の光を放出するように構成され」、「前記測定装置が皮膚表面に対して配される場合、前記非偏光の光が、前記測定装置を出て、皮膚表面の垂線に対し予め決められた角度で皮膚表面に入射するよう構成され、前記予め決められた角度は、人間皮膚の屈折率を使用して決定されるブルースター角であり、かつ前記非偏光の光が皮膚表面に入射する際、s偏光の光のみが皮膚表面によって反射される角度」であるのに対して、引用発明は、偏光の光であり、入射角度が特定されていない点。
相違点2:偏光フィルタ及び光検出手段を含む反射光検出関連部材について、本件補正発明は、「検出器アセンブリ」であって、「光検出器サブアセンブリ」が「複数」であり、「偏光フィルタ」が「s偏光の光をフィルタ除去し、p偏光の光のみを前記複数の光検出器サブアセンブリに通過させるように構成される」のに対して、引用発明は、「カメラ装置」と「偏光板」が「検出器アセンブリ」としてアセンブルされるとは特定されておらず、「カメラ装置」が複数でなく、偏光板が、内部反射光成分だけを透過するものの、s偏光とp偏光に対する特性については特定されていない点。

エ 相違点に対する当審の判断
(ア) 相違点1及び相違点2は、ともに測定原理に密接に関わるものであるから、まとめて検討する。
上記(引2ア)及び(引2イ)の摘記事項から、引用例2には、「非偏光の照明光の入射角をブリュースタ角に調整することによって、表面反射光は入射面に対して垂直に振動する成分のみを持つ直線偏光となり、試料内部において拡散反射された拡散反射光は、常に非偏光となるので、表面反射光を偏光フィルタによって除外し、反射光のなかで入射面に対して平行に振動している成分のみを抽出して、拡散反射光の波長毎の強度を正しく計測する」技術(以下、(引用例2に記載の技術」という。)が記載されていると認められる。
引用例2に記載の上記技術は、(引2ア)の摘記にあるとおり、引用発明が光源側と検出側の両方に偏光板が必要なことを改善するためのものであるから、引用発明に引用例2に記載の技術を適用して、光源側の偏光板を取り除き、非偏光の光を放出する光源だけとし、皮膚表面に対して配される場合に、入射面に対して垂直に振動する成分のみを持つ直線偏光、つまりs偏光の光のみが皮膚表面によって反射されるブルースター角で皮膚に入射するように構成するとともに、反射光を透過させる偏光板を、s偏光の光を除去し、反射光のなかで入射面に対して平行に振動している成分、つまりp偏光のみを抽出するように構成することは当業者が容易になし得ることである。
その際、引用発明は、「色素成分に対応する波長において反射光成分を検出し、肌のメラニン成分量、ヘモグロビン成分量を精度良く検出分光データを得る」ものであること、分光データを得るための手段として、検出する波長帯域の異なる光検出器を複数組み合わせて光検出手段が周知(例えば、特開平4-127035号公報を参照。)であることや複数の部材を組み付けてアセンブリとすることが慣用手段であることに鑑みれば、必要となる波長帯域の分光データだけを得るために、カメラ装置に変えて、色素成分に対応する波長域の光を検出する複数の光検出手段とし、この複数の光検出手段と偏光板をアセンブルして、本件補正発明の「検出器アセンブリであって、偏光フィルタ及び複数の光検出器サブアセンブリを含」む構成とする程度のことは、当業者が適宜なし得ることにすぎない。

(イ) 本件補正発明の効果の検討
本件補正発明が奏する効果は、引用例1の記載事項及び引用例2の記載事項から当業者が予想しうる範囲内のものである。

オ まとめ
したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用例2に記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、本件補正発明は、特許出願の際に独立して特許を受けることができない。

3 補正の却下の決定のまとめ
上記2で検討したように、本件補正発明は、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるということはできないから、特許法第17条の2第6項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定に違反するものである。

したがって、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記補正却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正(平成27年7月23日に提出された手続補正書による補正)は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし12に係る発明は、平成27年1月20日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載されたとおりのものであるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2の1(1)で摘記したとおりのものである。

2 引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1及び2の記載事項は、前記第2の2(3)イにおいてそれぞれに記載したとおりである。

3 本願発明と引用発明との対比・判断
本願発明は、本件補正発明から、検出器アセンブリの配置についての特定事項を除いたものであるから、本願発明は、本件補正発明を包含するものであり、本件補正発明が、上記第2の2(3)ウ及びエで検討したとおり、引用発明及び引用例2に記載の技術により、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び引用例2に記載の技術により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない 。

したがって、その他の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-03-31 
結審通知日 2016-04-05 
審決日 2016-04-18 
出願番号 特願2013-513011(P2013-513011)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (G01N)
P 1 8・ 575- Z (G01N)
P 1 8・ 121- Z (G01N)
P 1 8・ 537- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼場 正光加々美 一恵  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 松本 隆彦
藤田 年彦
発明の名称 ブルースター角を使用してビリルビンのような組織検体を測定する装置及び方法  
代理人 津軽 進  
代理人 五十嵐 貴裕  
代理人 笛田 秀仙  

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