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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1318702
審判番号 不服2015-7396  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-20 
確定日 2016-08-25 
事件の表示 特願2010-267018「赤外線用ワイヤグリッド偏光板」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 6月21日出願公開,特開2012-118237〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続の経緯
本件出願は,平成22年11月30日の特許出願であって,その手続の経緯の概要は,以下のとおりである。

平成26年 7月23日:拒絶理由通知(同年同月29日発送)
平成26年 9月26日:意見書
平成26年 9月26日:手続補正書
平成27年 1月16日:拒絶査定(同年同月20日送達)
平成27年 4月20日:手続補正書
平成27年 4月20日:審判請求
平成28年 3月 7日:拒絶理由通知(同年同月8日発送)
平成28年 5月 9日:意見書(以下「意見書」という。)
平成28年 5月 9日:手続補正書

2 本願発明
本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,以下のとおりである。

「 基材上に周期的に配列された金属ワイヤと,前記金属ワイヤを被覆する透明被覆層と,
を有し,
前記金属ワイヤは,アルミニウム又は銀で形成されており,
前記金属ワイヤの周期が160nm以上300nm以下であり,400nm以上650nm以下における全光透過率の平均値が50%以上,偏光度が80%未満であり,且つ赤外領域における透過光の偏光度が80%以上,全光透過率の平均値が50%未満であり,
前記基材の表面は,凹凸構造を有し,
前記金属ワイヤは,前記基材の凹凸構造における凸部の一方の側の側面に接して設けられ,
前記透明被覆層は,隣接する前記金属ワイヤ間に充填されることを特徴とする赤外線用ワイヤグリッド偏光板。」

3 拒絶の理由
平成28年3月7日の拒絶理由通知による拒絶の理由は,概略,本件出願の請求項1に係る発明は,その出願前日本国内又は外国において頒布された引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

引用例1:特開2010-85917号公報
引用例2:米国特許出願公開第2009/0087192号明細書(周知例)
引用例3:特開2007-233206号公報 (周知例)
引用例4:特開2007-25692号公報(周知例)

第2 当合議体の判断
1 引用例1の記載及び引用発明
(1) 引用例1の記載
引用例1には,以下の事項が記載されている(下線は,当合議体が付した。以下同じ。)。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,可視光領域において高い反射性を有し,かつ,近赤外線から赤外線にかけての赤外光領域において高い反射性を有する透明熱線反射フィルム,及び,このフィルムを用いた熱線遮断窓ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年,住宅やビルの室内,自動車の車内に流入する太陽光線の熱線領域を遮蔽して,熱暑感の低減,及びエアコンの負荷の低減を図る熱線遮断ガラスの要求が高まってきている。特に,自動車や,窓ガラスの壁面占有率が大きい建物では,太陽光線の室内への入射量が大きく,夏季における室温上昇は著しいものがある。この室温上昇を抑制して適温化するためには,エアコンの出力を相当高めなければならないので,単にエアコンに負担がかかるだけでなく,エネルギー消費量も相当なものとなる。また,自動車の場合は,エアコンのコンプレッサーもエンジン駆動されるので,ガソリン消費量や排気ガス放出量が多くなる。さらに,寒冷地において,冬季に暖房による熱が窓ガラスを通して室外に逸散してしまい余分な暖房エネルギーを必要とすることになり省エネという観点から好ましくないといえる。
【0003】
上記のような問題の解決を図るため,窓ガラスの表面に熱線反射膜を設け,室内あるいは車内の温度上昇を抑制する試み,寒冷地の冬季の暖房熱を逃がさない試み等がなされている。
【0004】
太陽から放射される光は,紫外域から赤外域まで幅広いスペクトルを持っている。可視光は,紫色から黄色を経て赤色光にいたる波長380nm?780nmまでの範囲であり,太陽光の約45%を占めている。赤外光については,可視光に近いものは近赤外線(波長780nm?2500nm)と呼ばれ,それ以上を中赤外線と称し,太陽光の約50%を占めている。この領域の光エネルギーは,紫外線と比較するとその強さは約10分の1以下と小さいが熱的作用は大きく,物質に吸収されると熱として放出され温度上昇をもたらす。このことから熱線とも呼ばれ,これらの光線を遮蔽することにより,室内の温度上昇を抑制することが出来る。また,寒冷地の冬季の暖房熱を室外に逸散することを抑制することも出来る。
【0005】
単一の材料で熱線を反射する能力を有する物質としては,金属や錫ドープ酸化インジウム(ITO)をはじめとする導電性物質がある。これらの物質では,ある程度以上の自由電子密度を有し,この自由電子によるプラズマ反射により,ある波長より長波長側の光を反射し,短波長側の光を透過するという固有の性質を持っている。この境界となる波長は,金属では可視光域に,半導体では近赤外域に存在することが知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
最も一般的な熱線反射膜は,主として直接太陽光の遮蔽に的を絞ったもので,蒸着やスパッタリングでガラス上に金属の薄膜を形成してなるものである(特許文献1)。しかし,より多くの熱を遮蔽するためには金属膜を厚くしなければならず,その結果,透明性が低下してしまう欠点がある。また,金属膜によって電磁波の反射が起こり,携帯電話が通じにくくなるといった問題もある。
【0007】
一方,透明性を重視する場合には,プラズマ反射の立ち上がりが近赤外域にある半導体,例えば錫ドープ酸化インジウム(ITO),酸化錫,あるいは酸化亜鉛のような透明導電酸化物材料をスパッタリング法やスプレー熱分解法で形成する方法がある(特許文献2,特許文献3)。また,別の方法として,光散乱が小さくなるように酸化物の粒子径を0.1μm以下にし,その酸化物を均一に分散してなる塗料をコーティングする方法がある(特許文献4)。この方法によれば,安価な製法で透明の高い熱線反射膜が得られる。しかし,これらの場合,可視光域での透明性は高いものの,赤外域での反射が十分ではない。
【0008】
可視光域での透明性を出来る限り保ちつつ,赤外域の反射率を高めるために,別の態様として,Agなどの金属薄膜と酸化物薄膜とを交互に積層した積層膜や(特許文献5),屈折率の異なる酸化物薄膜を複数層積層してなる積層膜が開示されている(特許文献6)。しかし,この方法で熱線反射膜を大面積に形成する場合は製造コストが高くなるという問題があった。また,用途や顧客の要望に応じて透過・反射特性を自由に設計変更することが難しく,構成材料の制約を受けることが多かった。
【特許文献1】特開2001-179887号公報
【特許文献2】特開2005-343732号公報
【特許文献3】特開2007-152773号公報
【特許文献4】特開平7-70363号公報
【特許文献5】特開2004-217432号公報
【特許文献6】特開平8-239244号公報
【0009】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり,可視光領域において高い透過性を有し,かつ,赤外光領域において高い反射性を有すると共に,安価に大面積である透明熱線反射フィルムを提供することを目的とする。」

イ 「【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の透明熱線反射フィルムは,透明なフレキシブル基板と,前記フレキシブル基板上に配置され,反射性材料で構成されたワイヤグリッドと,を具備することを特徴とする。
【0011】
本発明の透明熱線反射フィルムは,透明なフレキシブル基板と,前記フレキシブル基板上に格子状に配置してなるワイヤグリッドと,を具備する透明熱線反射フィルムであって,前記ワイヤグリッドは,反射性材料で構成されており,300nm?700nmの平均格子ピッチを有することを特徴とする。
【0012】
本発明の透明熱線反射フィルムは,前記反射性材料が,Al,Al合金,Ag,及びAg合金からなる群より選ばれたもので構成されていることが好ましい。
【0013】
本発明の熱線遮断窓ガラスは,板ガラスと,前記板ガラス上に貼り付けられた上記透明熱線反射フィルムと,を具備することを特徴とする。この場合において,この熱線遮断窓ガラス2枚を,それぞれのワイヤグリッドが略直交するように重ねることにより複層型熱線遮断窓ガラスを構成しても良い。
【0014】
本発明の光線分離方法は,上記透明熱線反射フィルムに全波長域の光線を照射することによって,可視光線と赤外光線とを分離することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の透明熱線反射フィルムは,透明なフレキシブル基板と,前記フレキシブル基板上に配置され,反射性材料で構成されたワイヤグリッドと,を具備するので,可視光領域において高い透過性を有し,かつ,赤外光領域において高い反射性を有すると共に,安価に大面積の反射フィルムである。また,この透明熱線反射フィルムは,反射や吸収による電磁波の減衰が小さく,携帯電話などの電子機器を障害なく使用することが出来ると共に,ワイヤグリッドが無機物であるので,熱や光に対する耐久性にも優れている。さらには,用途や顧客の要望に応じて透過・反射特性を自由に設計変更することも可能である。」

ウ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下,本発明の実施の形態について,添付図面を参照して詳細に説明する。
図1及び図2は,本発明の実施の形態に係る透明熱線反射フィルムの一例を示す概略断面図である。図1に示す透明熱線反射フィルムは,透明なフレキシブル基板1と,このフレキシブル基板1上に形成されたワイヤグリッド2とから主に構成されている。ワイヤグリッド2は,紙面手前側から奥側に直線状に延在しており,各ワイヤは所定の間隔(ピッチ)で設けられている。」

【図1】



【図2】


エ 「【0018】
ワイヤグリッド2は,赤外光領域に対して反射性を示す材料(反射性材料)で構成されていることが好ましい。この反射性材料としては,Al,In,Sn,Sb,Bi,Cu,Ag,Au,Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Fe,Co,Ni,Pd,Ptなどの金属やこれらの合金,錫ドープ酸化インジウム(ITO),酸化亜鉛,酸化錫,ニオビウム添加酸化チタン,酸化ルテニウム,酸化イリジウムなどの導電性酸化物を用いることが出来る。特に,Al,Al合金,Ag,Ag合金が赤外光領域の反射性が高いので好ましい。
【0019】
ワイヤグリッド2は,そのピッチが入射光の波長に比べてかなり小さいピッチ(例えば,2分の1以下)であれば,導電体線に対して平行に振動する電場ベクトル成分の光(s偏光)をほとんど反射し,導電体線に対して垂直な電場ベクトル成分の光(p偏光)をほとんど透過させる。したがって,ワイヤグリッドの平均格子ピッチを所定の間隔範囲に設定することによって,s偏光成分に対して,赤外光領域は反射し,可視光領域は透過させることが可能と出来る。好ましい平均格子ピッチは300nm?700nmである。格子ピッチが300nmよりも短いと可視光領域の透過率が低下して視認性が極端に悪化する。また,格子ピッチが700nm以上になると可視光領域の透過率は高く保つことが出来るが,赤外光領域の反射率が低下して熱線反射の効果が低減してしまう。可視光線の透過率及び赤外線の反射率は,共に50%以上であることが好ましい。
【0020】
ワイヤグリッドのワイヤの幅と前記平均格子ピッチとの比が0.25の場合に,平均格子ピッチは400nm?700nmであることが好ましい。あるいは,ワイヤの幅と平均格子ピッチとの比が0.1の場合に,前記平均格子ピッチは300nm?500nmであることが好ましい。
【0021】
ワイヤグリッド2は,真空蒸着やスパッタリングなどの方法で形成することが出来る。ワイヤグリッド2は,基板の平滑表面にAlなどを膜形成した後に,Al膜をワイヤ状にパターニング加工することによって得ることが出来る。また,凹凸を有する基板に斜め入射の蒸着やスパッタリングでAlなどを形成することによってもワイヤグリッドを形成することが出来る。
【0022】
図2は,本発明の透明熱線反射フィルムにおけるワイヤグリッド構造の別形態を示す概略断面図である。ここでは,金属材料でワイヤを形成する場合を例に説明する。図1がフレキシブル基板1の平滑な表面にワイヤグリッド2が形成された構造であったのに対し,図2(a)に示す構成では,紙面手前側から奥側に直線状に延在し,所定の間隔で設けられた凹部を有するフレキシブル基板1の凹部に反射性材料を埋め込んでワイヤグリッド2を形成している。また,図2(b)に示す構成では,紙面手前側から奥側に直線状に延在し,所定の間隔で設けられた凸部を有するフレキシブル基板1の凸部上に反射性材料を成膜してワイヤグリッド2を形成している。また,図2(c)に示す構成では,紙面手前側から奥側に直線状に延在し,所定の間隔で設けられた凸部を有するフレキシブル基板1の凸部上に凸部の片側を覆うような形で側面に反射性材料を成膜してワイヤグリッド2を形成している。このように,反射性材料が所定の間隔で直線状に配列していればよく,ワイヤグリッドの断面形状は特に限定されるものではない。すなわち,矩形,台形,方形,プリズム状や,半円状などの正弦波状,されにはこれらを組み合わせた形状などが挙げられる。例えば,図2(d)に示すように,凸部の断面形状が略三角形状であっても良い。
【0023】
ワイヤグリッド2は,空気中の水分との接触,手で触った時の油脂や塩分などによる腐食,取扱い中や通常の使用中に受ける傷などから保護する目的で,フレキシブル基板1のワイヤグリッド2が形成された面に保護フィルムを貼ることが好ましい。」

エ 「 【0030】
次に,本発明の効果を明確にするために本発明の実施例について説明する。
図1に示す透明熱線反射フィルムにおいて,フレキシブル基板1を厚さ100μmのトリアセチルセルロース(TAC)フィルムとし,ワイヤグリッド2にアルミニウム(Al)を用いた場合のs偏光に対する透過率及び反射率を図6に示す。なお,ワイヤグリッド2の平均格子ピッチを420nmとし,Alワイヤの高さを100nmとした。」

オ 「【0032】
図6では,格子ピッチを固定してデューティ,すなわちアルミニウムワイヤの幅とピッチの比を変化させた場合のs波成分の透過率と反射率を示す。図6(a)?(c)から明らかなように,デューティが大きくなるに従い,可視光領域の透過率が減少し,その一方で赤外光領域の反射率が増加する。図6において透過率と反射率がクロスする波長(以下,クロス波長と呼ぶこととする)は,透明領域と反射領域を分ける一つの指標とすることが出来る。

【図6】


カ 「【0033】
また,熱線反射の指標として,波長1500nmでの反射率(以下,熱線反射率と呼ぶこととする)を取り上げる。図7は,格子ピッチが250nm,300nm,420nm,560nm,650nm,700nm及び1000nmで,デューティが0.1,0.25及び0.5の場合の,クロス波長及び熱線反射率のピッチ依存性を示す。図7(a)から,ピッチが300nm以上であればクロス波長が700nmとなる条件が存在することが分かる。すなわち,ピッチを300nm以上にすれば,波長700nm以下の領域で透過率が反射率を上回り,その結果,可視光領域での透明度が高い。また,図7(b)から,ピッチが狭くなるのに伴い熱線反射率が高くなる。図7(a),(b)両者から,透明熱線反射フィルムとして適した格子ピッチが存在する。例えば,デューティが0.25の場合,ピッチが400nm?700nmの範囲が好ましく,デューティが0.1の場合は,ピッチが300nm?500nmの範囲が好ましい。このようなデューティ及びピッチでは,50%以上の可視光線透過率及び赤外線反射率を得ることが出来る。」

【図7】


(2) 引用発明
上記(1)のア?エから,引用例1には,以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。なお,引用箇所を明示することを目的として段落番号を併記した。また,引用例1では,用いる基板について,単に「基板」と表記する場合と「フレキシブル基板」と表記する場合とが混在しているが,混乱を避けるために,「基板」と統一して表記した。

「 【0022】所定の間隔で設けられた凸部を有する基板の凸部上に凸部の片側を覆うような形で側面に反射性材料を成膜してワイヤグリッドを形成し,
【0021】前記ワイヤグリッドは,凹凸を有する基板に斜め入射の蒸着やスパッタリングでAlなどを形成したものであり,
【0019】前記ワイヤグリッドの平均格子ピッチを所定の間隔範囲に設定することによって,s偏光線分に対して,赤外光領域は反射し,可視光領域は透過させることが可能とできるものであり,
【0019】好ましい平均格子ピッチは300nm?700nmである,
透明熱線反射フィルム。」

2 対比及び判断
(1) 対比
ア 引用発明の「基板」,「ワイヤグリッド」及び「ワイヤグリッドの平均格子ピッチ」は,それぞれ,本願発明の「基材」,「金属ワイヤ」及び「金属ワイヤの周期」に相当する。
また,引用発明は,「ワイヤグリッド」によって,「s偏光成分に対して,赤外光領域は反射」する「反射フィルム」なのであるから,引用発明の「透明熱線反射フィルム」は,本願発明の「赤外線用ワイヤグリッド偏光板」に相当するものと認められる。

イ 引用発明の「ワイヤグリッド」は,「Alなど」である。したがって,引用発明の「ワイヤグリッド」は,本願発明の「前記金属ワイヤは,アルミニウム又は銀で形成されており」との要件を満たす。

ウ 引用発明は,「凹凸を有する基板」を用いる。したがって,引用発明の「基板」は,本願発明の「基材の表面は,凹凸構造を有し」との要件を満たす。

エ 引用発明は,「所定の間隔で設けられた凸部を有する基板の凸部上に凸部の片側を覆うような形で側面に反射性材料を成膜してワイヤグリッドを形成」する。したがって,引用発明の「ワイヤグリッド」は,本願発明の「基材上に周期的に配列され」,「金属ワイヤは,前記基材の凹凸構造における凸部の一方の側の側面に接して設けられ」との要件を満たす。

(2) 一致点
上記(1)から,本願発明と引用発明は,以下の構成において一致する。

「 基材上に周期的に配列された金属ワイヤを有し,
前記金属ワイヤは,アルミニウム又は銀で形成されており,
前記基材の表面は,凹凸構造を有し,
前記金属ワイヤは,前記基材の凹凸構造における凸部の一方の側の側面に接して設けられる,
赤外線用ワイヤグリッド偏光板。」

(3) 相違点
本願発明と引用発明は,以下の点において相違する。
ア 相違点1
本願発明は透明被覆層を有し,該透明被覆層が,隣接する金属ワイヤ間に充填されるのに対し,引用発明は,このような構成を具備することが明らかとされていない点。

イ 相違点2
本願発明は,金属ワイヤの周期が160nm以上300nm以下であるのに対し,引用発明におけるワイヤグリッドの平均格子ピッチは300nm?700nmである点。

ウ 相違点3
本願発明は,光学特性について「400nm以上650nm以下における全光透過率の平均値が50%以上,偏光度が80%未満であり,且つ赤外領域における透過光の偏光度が80%以上,全光透過率の平均値が50%未満である」ことが特定されているのに対し,引用発明は,この点が明記されていない点。

(4) 判断
相違点についての判断は,以下のとおりである。

ア 相違点1について
上記相違点1について検討するに,引用例1には,段落【0023】に,ワイヤグリッドを保護すべきことが示唆されている。そして,ワイヤグリッドを保護するために,隣接する金属ワイヤ間に充填されるように透明な被覆層で覆うこと自体は,当業者にとって周知技術である(例えば,引用例2の段落[0034]?[0037]及びFig.3A等,引用例3の【0074】,【0075】及び図1等,引用例4の段落【0007】,【0047】及び図1等を参照されたい)。
してみれば,引用発明においても,ワイヤグリッドを保護するために,上記周知技術を採用することは,当業者が容易になし得たことである。

イ 相違点2について
上記相違点2について検討するに,引用発明は,ワイヤグリッドの格子ピッチが300nm?700nmとなっており,本願発明と重なりはあるものの,全体的に,本願発明よりもピッチがやや大きいものが想定されている。これは,本願発明の金属ワイヤ間に充填される透明被覆層を有しているのに対して,引用発明は,透明被覆層を有しておらず,ワイヤグリッド間に存在するものが空気(屈折率=1)となっているためであると解される。
ここで,引用例1では,具体的な基板材料としてTACを用いた実施例が記載されているところ(段落【0030】を参照されたい。),TACの屈折率は概ね1.5程度である。そして,積層膜からなる光学シートにおいては,界面で光を反射させる目的がないのであれば,両者の屈折率を揃えることにより,界面での反射を減少させることが技術常識である。そして,上記引用例3の段落【0074】や引用例4の段落【0007】においても,ワイヤグリッドを被覆する透明被覆層は,基板と同程度の屈折率のものを用いるべきことが記載されている。したがって,引用例1に記載の装置を透明被覆層で覆う際には,通常,その屈折率は1.5程度のものが利用されることとなる。また,一般的に用いられる光学用の薄膜の屈折率は,1.5程度のものが多いこともまた当業者に広く知られているところであり,このような観点からみても,透明被覆層として屈折率が1.5程度のものを採用することに,特段の困難性は認められない(例えば,引用例3の段落【0083】では,保護層の屈折率は1.51であることが記載されている。また,光学用の薄膜として慣用されるPMMAやPET等も,その屈折率は,通常1.5?1.6程度である)。
してみれば,引用発明において,透明被覆層を用いた場合,その格子のピッチは,本願発明1と同程度(例えば,屈折率を1.5とすると,300nm?700nmを1.5で除した200nm?467nm程度)となるものと認められる(なお,引用例1の段落【0020】には,ワイヤ幅と平均格子ピッチとの比(デューティ)が0.1の場合には,平均格子ピッチは300nm?500nmであることが好ましい旨記載されており,この場合にも,屈折率を1.5とし,前記平均格子ピッチを1.5で除すると,200?333nm程度となる。)。
あるいは,要求される可視光の透過率・赤外光の透過率を得るために,実際に実験を行いつつ格子ピッチの最適化を行うことは,引用例1にも記載されており(段落【0032】,【0033】及び図6,7を参照されたい。可視光線を透過させ赤外線を反射させるためのデューティと格子ピッチの最適化が行われている。),引用発明に対して透明被覆層を適用した場合においても,同様になされるべきことである。そのような観点からみても,本願発明で特定される金属ワイヤの周期の数値限定を根拠として,本願発明の進歩性を認めることはできない。

ウ 相違点3
上記相違点3について検討するに,可視光領域において高い透過性を有し,かつ赤外光領域において高い反射性を有させるという引用発明の目的(段落【0009】等を特に参照されたい)及びワイヤグリッド偏光子に期待される性能からみて,本願発明の光学特性が得られるような設計とすることは,当業者が容易になし得たことである。

(5) 効果について
本願発明の効果は,引用発明及び周知技術から期待される効果の範囲内にとどまる。

3 小括
本願発明は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

4 請求人の主張について
(1) 透明被覆層に関して
請求人は,意見書において,「本願発明は,所定の周期で配置された「金属ワイヤを透明被覆層で覆う」構成とすることにより,赤外領域と可視領域の境界領域における,S偏光成分の透過率の変化率を大きくできるという効果があります(本願明細書の段落番号[0020]の記載参照)。」(意見書「(4.2)本願発明と引用文献記載の発明との対比」の3?8行)と主張している。しかし,本願明細書の段落【0020】は,「これは,周期が160nm以上300nm以下で配置された金属ワイヤ102を透明被覆層103で覆う構成とすることにより,赤外領域と可視領域の境界領域における,S偏向成分の透過率の変化率を大きくできるという効果があり,可視領域と赤外領域で偏光分離特性に顕著な違いを作ることができるためである。」と記載されているにすぎない。すなわち,光学設計に携わる技術者にはよく知られているように,いわゆる「光路長」は,その周囲の物質の屈折率に影響を受けるものであるところ,段落【0020】の記載は,ワイヤグリッド偏光板の光学特性は,金属ワイヤの周期とその周囲環境によって定まることが開示されているにすぎない。このことは,本願明細書の段落【0048】に記載された,透明被覆層で覆わない比較例1の実験結果である図3や,段落【0050】に記載された,ピッチ幅をより狭くした比較例2の実験結果である図4では,本願発明の実験結果とされる図2と比べて,偏光分離波長が短波長側にずれていることからも明らかである。

(2) 基材の表面の凹凸構造に関して
請求人は,意見書において,「基材の表面が凹凸構造を有することで,可視光領域の透過率を上げることができます(本願明細書の段落番号[0026]の記載参照)。」(意見書「(4.2)本願発明と引用文献記載の発明との対比」の9?10行)と主張している。しかし,本願明細書の段落【0026】には,「また,基材101として,表面に所定の周期を有する凹凸構造を有していてもよい。この場合,基材101の表面において,所定の方向に延在する格子状凸部に金属膜を選択的に設けることにより金属ワイヤ102を形成することができる。基材101表面に形成する格子状凹凸形状としては,例えば,台形,矩形,方形,プリズム状や,半円状などの正弦波状などが挙げられる。ここで,正弦波状とは凹部と凸部の繰り返しからなる曲線部をもつことを意味する。なお,曲線部は湾曲した曲線であればよく,例えば,凸部にくびれがある形状も正弦波状に含める。透過率の観点から基材断面形状は矩形もしくは正弦波状であることが好ましい。」と記載されているのみであって,「基材の表面が凹凸構造を有することで,可視光領域の透過率を上げることができ」ることは記載されていない。さらにいえば,引用発明は,基板の表面に凹凸構造を有しており,この点はそもそも相違点ではないから,この請求人の主張を採用することで,本願発明の進歩性を認めることはできない。

(3) ワイヤグリッドの保護に関して
請求人は,意見書において,「引用文献1においては,基板上に配置されたワイヤグリッドを保護するために保護フィルムを貼ることが好ましい記載がありますが(引用文献1の段落番号[0023]の記載参照),保護フィルムを貼るだけでは隣接するワイヤ間には空気が存在し,可視光領域と赤外領域の間で偏光成分の変化率を大きくする効果を発揮することはできません。」(意見書「(4.2)本願発明と引用文献記載の発明との対比」の18?21行)と主張している。しかし,引用例1の段落【0023】の記載は,「ワイヤグリッド2は,空気中の水分との接触,手で触った時の油脂や塩分などによる腐食,取扱い中や通常の使用中に受ける傷などから保護する目的で,フレキシブル基板1のワイヤグリッド2が形成された面に保護フィルムを貼ることが望ましい。」というものである。当該記載に接した当業者は,(A)ワイヤグリッドを保護すべきことの示唆があること(B)その具体例の一つとして保護フィルムを貼ることが開示されていること,を認識するものというべきである。そして,ワイヤグリッドを保護するために,隣接する金属ワイヤ間に充填されるように透明な被覆層で覆うことは,上記2(4)アで検討したように周知技術にすぎず,上記周知技術を採用して本願発明のような構成とすることが,当業者にとって容易になし得たものであることも,上記2(4)アで検討したとおりである。
また仮に,引用例1の開示事項は,引用発明においてワイヤグリッドを保護する際には「保護フィルム」を採用することであるとしても,ワイヤグリッドを保護する部材としてワイヤグリッドの間を充填するような透明被覆層は周知であることを考慮すれば,引用例1に記載された前記「保護フィルムに」代えて周知技術である「透明被覆層」を採用することや,あるいは「保護フィルム」と「透明被覆層」の両者を併用することは,当業者が容易に想到できる程度のことである。
また,透明被覆層により「可視光領域と赤外領域の間で偏光成分の変化率を大きくする効果」については,上記2(4)イや上記(1)で検討したとおりであり,格別顕著な効果であるとはいえない。

第3 まとめ
以上のとおりであるから,他の請求項について審理するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-06-21 
結審通知日 2016-06-28 
審決日 2016-07-11 
出願番号 特願2010-267018(P2010-267018)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 亮治  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 道祖土 新吾
鉄 豊郎
発明の名称 赤外線用ワイヤグリッド偏光板  
代理人 天田 昌行  
代理人 三輪 正義  
代理人 青木 宏義  
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