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審決分類 審判 査定不服 発明同一 取り消して特許、登録 B66B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B66B
管理番号 1318728
審判番号 不服2015-17187  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-09-18 
確定日 2016-09-20 
事件の表示 特願2013-508641「エレベータ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年10月11日国際公開、WO2012/137279、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、2011年4月1日を国際出願日とする出願であって、平成25年3月25日に特許法第184条の5第1項に規定する国内書面が提出されるとともに、同日に手続補正書が提出され、平成26年3月5日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成26年5月8日に意見書及び手続補正書が提出され、平成26年9月29日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成26年12月3日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年6月24日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対して平成27年9月18日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出され、平成28年1月14日に上申書が提出され、その後、当審において平成28年3月25日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、これに対して平成28年5月25日に意見書が提出されるとともに同日に特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本件出願の請求項1ないし4に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明4」という。)は、平成28年5月25日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに願書に最初に添付した明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認める。

「 【請求項1】
駆動シーブを有する巻上機、
前記駆動シーブに巻き掛けられている懸架手段、
前記懸架手段により吊り下げられ、前記巻上機により昇降されるかご、
前記懸架手段を介して前記かごに制動力を作用させるブレーキ装置、
かご位置に応じて変化する過大速度検出レベルが設定されており、かご速度が前記過大速度検出レベルに達すると前記ブレーキ装置を制動動作させる過大速度監視部、
前記かごに設けられている非常止め装置、及び
予め設定された設定値を超える加速度が前記かごに発生した場合に、前記非常止め装置を作動させる異常加速度検出機構
を備え、
前記異常加速度検出機構は、前記かごの動きに関連して動作する質量体を有しており、前記かごに前記設定値を超える加速度が発生した場合に、前記質量体に発生する力を利用して前記非常止め装置を作動させ、
前記異常加速度検出機構が作動する加速度は、前記懸架手段が破断していない状態で前記かごが暴走するときの加速度よりも大きくなるように設定されており、
前記かご位置が前記昇降路の中間部の場合には、前記異常加速度検出機構が前記非常止め装置を作動させる前に前記過大速度監視部により前記ブレーキ装置を制動動作させ、
前記かご位置が前記昇降路の終端部付近の場合には、前記過大速度監視部が前記ブレーキ装置を制動動作させる前に前記異常加速度検出機構により前記非常止め装置を作動させるエレベータ装置。
【請求項2】
前記過大速度監視部は、昇降路終端部のかご減速区間内の位置に対して無段階で変化する過大速度検出レベルが設定された終端階強制減速装置である請求項1記載のエレベータ装置。
【請求項3】
前記質量体は、昇降路内に環状に敷設されたロープと、前記ロープが巻き掛けられた綱車とを有している請求項1又は請求項2に記載のエレベータ装置。
【請求項4】
前記かごの過速度を検出する調速機をさらに備え、
前記ロープが巻き掛けられた綱車は、前記調速機に設けられた調速機シーブであり、
前記ロープは、調速機ロープである請求項3記載のエレベータ装置。」


第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
(1)平成26年9月29日付けで通知した拒絶理由
平成26年9月29日付けで通知した拒絶理由の概要は、次のとおりである。

「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。


・請求項1-4
・特願2011-25555号(特開2012-162374号)(以下、「先願」という。)
・備考
(請求項1,3,4)
先願の明細書等に記載された発明(以下、「先願発明」という。)も、かごに設定値を超える加速度が発生した場合に質量体に発生する力を利用して非常止め装置を作動させるものである(特に、【0007】、【0017】-【0019】、【0033】-【0035】、【0037】参照)。
よって、請求項1,3,4に係る発明と先願発明は同一である。

(請求項2)
請求項2に係る発明は「過大速度監視部は、昇降路終端部のかご減速区間内の位置に対して無段階で変化する過大速度検出レベルが設定された終端階強制減速装置」であるのに対し、先願発明はそのような構成を有しているのか不明である点で一応相違する。
しかしながら、エレベータにおいて、昇降路終端部のかご減速区間内の位置に対して無段階で変化する過大速度検出レベルを設定することは、広く知られている周知、慣用技術であり(必要であれば、国際公開第2004/083091号の図19等参照)、先願発明において、昇降路終端部のかご減速区間内の位置に対して無段階で変化する過大速度検出レベルを設定することは、単なる周知、慣用技術の付加にすぎない。
よって、本願発明は、先願発明と実質的に同一である。」

(2)原査定
原査定の概要は、次のとおりである。

「この出願については、平成26年 9月29日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

備考

●理由(特許法第29条の2)について

・請求項1
・引用文献等1-3
請求項1に係る発明と特願2011-25555号(特開2012-162374号)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「先願明細書等」という。)を対比すると、前者は異常加速度検出機構により非常止め装置を作動させる際には、巻上機への給電が遮断されるのに対し、先願明細書等に記載された発明は不明である点で、一応相違する(以下「相違点1」という。)。
上記相違点1について検討するに、エレベータの非常止め装置において、かごに非常止め装置が作動した際に、巻上機への給電を遮断することは、広く知られている周知、慣用技術であり(必要であれば、特開2006-36426号公報の段落0015,特開昭64-22788号公報の第2ページ左下欄第2-5行等参照)、先願明細書等に記載された発明において、かごに非常止め装置が作動した際に、巻上機への給電を遮断することは、単なる周知、慣用技術の付加にすぎない。また、それによって当業者の予測を越える新たな効果を奏するものでもない。
よって、請求項1に係る発明と、先願明細書等に記載された発明は実質的に同一である。

・請求項2
・引用文献等1
請求項2に係る発明と先願明細書等に記載された発明を対比すると、前者は異常加速度検出機構が作動する加速度は、懸架手段が破断していない状態でかごが暴走するときの加速度よりも大きくなるように設定されているのに対し、先願明細書等に記載された発明は不明である点で、一応相違する(以下「相違点2」という。)。
上記相違点2について検討するに、先願明細書の段落0033には、「ロープ切れ時に生じる通常のエレベータ加速度を超えたかご落下の加速度に応じて発生する慣性力により非常止め装置を高応答で動作させることができる。」と記載されており、ロープが切れた場合に非常止め装置を作動させることを想定していることは明らかである。そうすると、先願明細書等に記載された発明において、ロープが破断していない状態でのかごの加速度では非常止め装置を作動させないようにすることは、課題解決のための具体化手段における微差であって、実質的な差異ではない。
よって、請求項2に係る発明と、先願明細書等に記載された発明は実質的に同一である。

・請求項3-5
・引用文献等1-5
エレベータにおいて、昇降路終端部のかご減速区間内の位置に対して無段階で変化する過大速度検出レベルを設定することは、広く知られている周知、慣用技術であり(必要であれば、国際公開第2004/083091号の図19、再公表特許第2006/106575号の図2等参照)、先願明細書等に記載された発明において、昇降路終端部のかご減速区間内の位置に対して無段階で変化する過大速度検出レベルを設定することは、単なる周知、慣用技術の付加にすぎない。また、それによって当業者の予測を越える新たな効果を奏するものでもない。
よって、請求項3-5に係る発明と、先願明細書等に記載された発明は実質的に同一である。

<引用文献等一覧>
1.特願2011-25555号(特開2012-162374号)
2.特開2006-36426号公報(周知技術を示す文献として新たに引用)
3.特開昭64-22788号公報(周知技術を示す文献として新たに引用)
4.国際公開第2004/083091号(周知技術を示す文献)
5.再公表特許第2006/106575号(周知技術を示す文献として新たに引用)」

2 原査定の理由の判断
(1)刊行物1
ア 刊行物1の記載事項
原査定の理由に引用された本件出願の日前の他の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた特願2011-25555号(特開2012-162374号)(以下、「先願」という。)の願書に最初に添付した明細書には、図面とともに次の事項が記載されている。

(ア)「【0007】
本発明は、前述した従来技術における実状からなされたもので、その目的は、特別な装置を要することなく、ロープ切れ時等のかごの動きの加速度に応じて、作動可能な非常止め装置を提供することにある。」(段落【0007】)

(イ)「【0012】
本実施形態におけるエレベーター装置は、ダブルデッキエレベーター装置となっており、図1は本実施形態におけるダブルデッキエレベーターの概略全体構成図を示す。図1に示すように、昇降路1内を昇降するかご枠2と、一端がかご枠2に連結される主索3と、主索3の他端に連結され、昇降路1内を昇降するつり合いおもり4と、昇降路1上部の機械室5に設置されるとともに、主索3の中間部が巻き掛けられ、主索3を駆動する駆動装置6と、機械室5にあって駆動装置6の近傍に配置され、主索3が巻き掛けられるそらせ車7と、機械室5に配置され、ダブルデッキエレベーターの運転を制御する制御装置8とを有している。なお、制御装置8は駆動装置6とケーブル9を介して接続されている。
【0013】
図2は本実施形態におけるダブルデッキエレベーターのかごの全体構成図である。かご枠2は、図2に示すように、上枠2a,中間枠2b,下枠2c、及び縦枠2dからなるとともに、その四隅に配置されたガイド部材10を介して昇降路1に立設されたガイドレール11により案内される。また、かご枠2には、かご枠2内を互いに上下反対方向に移動可能な上かご12及び下かご13と、上かご12及び下かご13の移動を案内するガイドレール14と、上かご12及び下かご13を駆動する駆動手段15とが設けられている。
【0014】
駆動手段15は、例えばモーター151と、上かご12及び下かご13の下部に各々複数個備えられるかご下プーリ152と、モーター151のシーブ151a、及びかご下プーリ152に掛け渡されるとともに、一端が上枠2aに固定されるとともに、他端が中間枠2bに固定される複数のロープ153とを備えている。
【0015】
そして、本実施例のダブルデッキエレベーター装置は、図2に示すように、かご枠2に調速機16a,16bを、その下方にテンションプーリ17a,17bをそれぞれ設置し、これらを調速機ロープ18a,18bにて連結している。また、調速機ロープ18a,18bは上かご12及び下かご13に設けられた非常止め装置の引き上げレバー19a,19bと連結されることにより、上かご12及び下かご13と連結され、上かご12及び下かご13の動きを調速機16a,16bに伝達している。」(段落【0012】ないし【0015】)

(ウ)「【0016】
次に、ロープ153が切断され上かご12又は下かご13が落下した場合について図2に基づいて基本動作を説明する。上かご12又は下かご13に連結された、非常止め装置の引き上げレバー19a,19bは、調速機ロープ18a,18bを引き下げようとする。
【0017】
調速機ロープ18a,18bは、調速機16a,16bと共にテンションプーリ17a,17bを回転させようとする。この時、テンションプーリ17a,17bに付加した回転慣性質量により、テンションプーリ17a,17bの回転に対して慣性力が生じ、テンションプーリ17a,17bの回転を止めようとするため、調速機ロープ18a,18bにテンションが加わり、結果的に下方に移動する上かご12又は下かご13との相対移動により、引き上げレバー19a,19bを引き上げる方向に動作させることになり、非常止め装置を動作させる。この回転慣性質量は調速機16a,16bの回転体に付加されても同様の効果を生む。またテンションプーリ17a及び調速機16aの両者、テンションプーリ17b及び調速機16bの両者に付加する構成であってもよい。
【0018】
図3は本実施形態におけるダブルデッキエレベーターのテンションプーリの概要を示す正面構成図である。テンションプーリ17は、レバー33によりかご枠2を構成するかご枠部材30に回転可能に固定されており、ロープの弾性による上下動作を許容している。レバー33の先端には調速機ロープ18に張力を与えるための付加質量32が固定している。この質量によりテンションプーリ17と調速機ロープ18には摩擦を生じさせ、かごの落下加速度が発生しても調速機ロープ18が滑らないようにしている。
【0019】
図4は本実施形態におけるダブルデッキエレベーターのテンションプーリの概要を示す側面構成図である。回転慣性質量21は金属製の円板でテンションプーリ17に側面から固定している。このときテンションプーリ17と同心にして回転時の振動が発生しないようにしている。また、回転慣性質量21の円板は1枚から複数枚と取付枚数を調整することでロープ張力と、慣性力を調整できる構成である。これによりかごの質量に応じた回転慣性質量を付加することができ、これにより調速機ロープ18a,18bに作用する慣性力を調整することができる。このような構成は調速機16a,16bの回転体に回転慣性質量が付加された形態や、テンションプーリ17a及び調速機16aの両者、テンションプーリ17b及び調速機16bの両者に回転慣性質量が付加された形態であっても適用できる。
【0020】
図5は本実施形態におけるダブルデッキエレベーターの非常止め装置周辺の概要を示す正面図である。同図では上かご12を例に挙げて説明する。上かご12の下部にはかご枠部材53が設けられ、かご枠部材53は防振ゴム54を介して上かご室60を固定している。引き上げレバー19aは支点58bを中心に回転可能であると共に、一端に支点58bを中心として回転する回転力が付与されるように、本実施形態では調速機ロープ18aと連結されて構成されている。
【0021】
また引き上げレバー19aは作動アーム57bに連結されており、引き上げレバー19aが引き上げられることで作動アーム57bも支点58bを中心に回転するように構成されている。また、作動アーム57bは制動部作動ロッド56bを保持しており、作動アーム57bの回転により制動部作動ロッド56bを引き上げ、制動部作動ロッド56bが所定の引き上げ量引き上げられると、制動部52bが動作し、制動部52bが動作すると制動部52bは図5には図示していない図2に記載したガイドレール14を掴んで制動力を付与し、上かご12が制動されるように構成されている。
【0022】
さらに、図5に示すように上かご12の引き上げレバー19aと連結された作動アーム57bが設けられた側のガイドレール14と対向するガイドレール14に対しても、ガイドレール14を掴んで制動力を付与し、上かご12を制動する制動部52aと、所定の引き上げ量が引き上げられると制動部52aを動作させる制動部作動ロッド56aと、制動部作動ロッド56aを保持し、支点58aを中心に回転することで制動部作動ロッド56aを引き上げる作動アーム57aが設けられている。そして、作動アーム57aの上端と
作動アーム57bの下端は連結ロッド55により連結されている。
【0023】
このような構成により、引き上げレバー19aが引き上げられて作動アーム57bが支点58bを中心に反時計回りに回転すると、作動アーム57bは徐々に制動部作動ロッド56bを引き上げつつ、連結ロッド55を引っ張る。引っ張られた連結ロッド55は作動アーム57aを、支点58aを中心にして時計回りに回転させて、制動部作動ロッド56aを引き上げる。そして本実施形態では引き上げレバー19aが支点58bと回転力が付与される調速機ロープ18aに連結された引き上げレバー19aの一端が水平となる位置(以後、水平位置62という)に至ると、制動部作動ロッド56a,56bが所定量引き上げられて制動部52a,52bが動作するように構成されている。つまり、制動部作動ロッド56a,56b、作動アーム57a,57b、連結ロッド55によって制動部作動機構が構成されている。
【0024】
なお、連結ロッド55には抑止力付与手段である抑止ばね51が設けられており、この抑止ばね51は一端がかご枠部材53に固定された抑止ばね保持片59aに保持されている。また抑止ばね51の他端は連結ロッド55に固定された抑止ばね保持片59bに保持されている。このような構成により引き上げレバー19aが引き上げられると、連結ロッド55が引っ張られ保持片59a,59b間で抑止ばね51が圧縮され、引き上げレバー19aが引き上げられるほど、抑止ばね51のばね力が引き上げレバー19aを引き下げるように強く働くように構成されている。即ち引き上げレバー19aは、抑止ばね51のばね力に打ち勝って引き上げられた際に制動部を作動させる構造となっている。
【0025】
このように本実施形態の非常止め装置は引き上げレバー19a、制動部52a,52b、制動部動作機構である制動部作動ロッド56a,56b、作動アーム57a,57b、連結ロッド55と、抑止力付与手段である抑止ばね51によって構成されている。そしてこのような構成により、非常止め装置を作動させる必要のない振動や揺れにより非常止め装置が作動してしまうことを防止している。」(段落【0016】ないし【0025】)

(エ)「【0033】
以上説明したように、本実施形態は、かご枠内を互いに上下反対方向に移動可能な上かご及び下かごに設置されるテンションプーリに回転慣性質量を付加する構成で、非常止め装置の引き上げレバーを水平から下方向の範囲で動作させる構成とし、またテンションプーリのロープとの摩擦によりロープ張力を1.2倍から1.8倍の範囲で調整できるようにする構成で、上かご及び下かごを駆動するロープ切れ時に生じる通常のエレベーター加速度を超えたかご落下の加速度に応じて発生する慣性力により非常止め装置を高応答で動作させることができる。
【0034】
このように構成した本実施形態の非常止め装置及びエレベーター装置では、何らかの理由によりロープが切断されかごに落下の加速度が発生すると、調速機のテンションプーリに付加した回転慣性質量の効果によりかごの非常止め装置に連結された調速機ロープに慣性力が加わり非常止め装置を動作することができる。また、上記のロープ張力となるようにすることでかごの小さな加速度での非常止め装置の誤動作はなく構成できる。
【0035】
したがって、本実施形態は、かごの落下の加速度を検知する構成となり、調速機本体が動作前であっても調速機ロープに慣性力が加わることで非常止め装置を動作し、通常走行での加速度では非常止め装置は誤動作しない。
【0036】
このように本実施形態におけるダブルデッキエレベーターの上かご及び下かごを駆動するロープ切れ時のかご落下の加速度を確実に検出することができ、これによって、乗客の安全を確保することができる。
【0037】
なお、本発明を説明するに当たり、本実施形態ではダブルデッキエレベーターを例に挙げて説明した。確かに本実施形態の非常止め装置を非常に昇降行程の短いかご枠2内の乗りかごである上かご12や下かご13に適用すると、通常の調速機では対応できないことが想定されるかごの落下等にも対応することが可能であるため、非常に有効である。しかし、ダブルデッキエレベーターに限らず本発明の非常止め装置を適用したエレベーター装置とすることは、非常止め装置の異常時の応答性を挙げるのに有効であるため、通常のエレベーター装置に適用することも可能である。」(段落【0033】ないし【0037】)

イ 上記ア及び図面の記載から分かること
(ア)上記ア(ア)ないし(エ)及び図1ないし5の記載によれば、先願の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下、「先願明細書等」という。)には、エレベーター装置が記載されていることが分かる。

(イ)上記ア(イ)並びに図2及び5の記載によれば、先願明細書等に記載されたエレベーター装置において、モーター151のシーブ151aを有する駆動手段15、前記モーター151のシーブ151aに巻き掛けられているロープ153、及び、前記ロープ153により吊り下げられ、前記駆動手段15により昇降される上かご12又は下かご13を備えることが分かる。

(ウ)上記ア(イ)並びに図2及び5の記載によれば、先願明細書等に記載されたエレベーター装置において、調速機16a,16bを備えることが分かる。

(エ)上記ア(ア)、(ウ)及び(エ)並びに図2ないし5の記載によれば、先願明細書等に記載されたエレベーター装置において、上かご12又は下かご13に設けられている非常止め装置、及び、ロープ153が切断された時の加速度が前記上かご12又は下かご13に発生した場合に、前記非常止め装置を作動させる異常加速度検出機構を備えることが分かる。

(オ)上記ア(ア)、(ウ)及び(エ)並びに図2ないし5の記載によれば、先願明細書等に記載されたエレベーター装置において、異常加速度検出機構は、上かご12又は下かご13の動きに関連して動作する調速機16a,16b、調速機ロープ18a,18b及びテンションプーリ17a,17bにより構成された質量体を有しており、前記上かご12又は下かご13にロープ153が切断された時の加速度が発生した場合に、前記質量体に発生する力を利用して非常止め装置を作動させることが分かる。
ここで、先願明細書等の段落【0017】において、「調速機ロープ18a,18bは、調速機16a,16bと共にテンションプーリ17a,17bを回転させようとする。この時、テンションプーリ17a,17bに付加した回転慣性質量により、テンションプーリ17a,17bの回転に対して慣性力が生じ、テンションプーリ17a,17bの回転を止めようとする ・・・」と記載されており、テンションプーリ17a,17bが慣性力を生じることを意図した質量体であることが理解でき、また、調速機16a,16bのプーリや調速機ロープ18a,18bが慣性力を生じる質量体であることも理解できるから、先願明細書等に記載されたエレベーター装置において、上かご12又は下かご13の動きに関連して動作する調速機16a,16b、調速機ロープ18a,18b及びテンションプーリ17a,17bにより構成された質量体を有することが分かる。

ウ 引用発明A
上記ア及びイを総合して、本願発明1の表現に倣って整理すると、刊行物1には、次の事項からなる発明(以下「引用発明A」という。)が記載されていると認める。
「モーター151のシーブ151aを有する駆動手段15、
前記モーター151のシーブ151aに巻き掛けられているロープ153、
前記ロープ153により吊り下げられ、前記駆動手段15により昇降される上かご12又は下かご13、
調速機16a,16b、
前記上かご12又は下かご13に設けられている非常止め装置、及び
前記ロープ153が切断された時の加速度が前記上かご12又は下かご13に発生した場合に、前記非常止め装置を作動させる異常加速度検出機構
を備え、
前記異常加速度検出機構は、前記上かご12又は下かご13の動きに関連して動作する調速機16a,16b、調速機ロープ18a,18b及びテンションプーリ17a,17bにより構成された質量体を有しており、前記上かご12又は下かご13に前記ロープ153が切断された時の加速度が発生した場合に、前記質量体に発生する力を利用して前記非常止め装置を作動させるエレベーター装置。」

(2)本願発明1について
ア 対比
本願発明1と引用発明Aとを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
・引用発明Aにおける「モーター151のシーブ151a」は、本願発明1における「駆動シーブ」に相当し、以下同様に、「駆動手段15」は「巻上機」に、「ロープ153」は「懸架手段」に、「上かご12又は下かご13」は「かご」に、「非常止め装置」は「非常止め装置」に、「ロープ153が切断された時の加速度」は「予め設定された設定値を超える加速度」に、「異常加速度検出機構」は「異常加速度検出機構」に、「調速機16a,16b、調速機ロープ18a,18b及びテンションプーリ17a,17bにより構成された質量体」は「質量体」に、「エレベーター装置」は「エレベータ装置」に、それぞれ相当する。

・引用発明Aにおける「調速機16a,16b」は、本願発明1における「懸架手段を介してかごに制動力を作用させるブレーキ装置、かご位置に応じて変化する過大速度検出レベルが設定されており、かご速度が前記過大速度検出レベルに達すると前記ブレーキ装置を制動動作させる過大速度監視部」に、「速度調整機構」という限りにおいて一致する。

したがって、両者は、
「駆動シーブを有する巻上機、
前記駆動シーブに巻き掛けられている懸架手段、
前記懸架手段により吊り下げられ、前記巻上機により昇降されるかご、
速度調整機構、
前記かごに設けられている非常止め装置、及び
予め設定された設定値を超える加速度が前記かごに発生した場合に、前記非常止め装置を作動させる異常加速度検出機構
を備え、
前記異常加速度検出機構は、前記かごの動きに関連して動作する質量体を有しており、前記かごに前記設定値を超える加速度が発生した場合に、前記質量体に発生する力を利用して前記非常止め装置を作動させるエレベータ装置。」の点で一致し、次の点で相違している。

[相違点1A]
「速度調整機構」に関し、本願発明1においては、「懸架手段を介してかごに制動力を作用させるブレーキ装置、かご位置に応じて変化する過大速度検出レベルが設定されており、かご速度が前記過大速度検出レベルに達すると前記ブレーキ装置を制動動作させる過大速度監視部」であるのに対して、引用発明Aにおいては、「調速機16a,16b」である点(以下、「相違点1A」という。)。

[相違点2A]
本願発明1においては、「異常加速度検出機構が作動する加速度は、懸架手段が破断していない状態でかごが暴走するときの加速度よりも大きくなるように設定されて」いるのに対して、引用発明Aにおいては、異常加速度検出機構が作動する加速度について、そのように設定されているか否か明らかでない点(以下、「相違点2A」という。)。

[相違点3A]
本願発明1においては、「かご位置が昇降路の中間部の場合には、異常加速度検出機構が非常止め装置を作動させる前に過大速度監視部によりブレーキ装置を制動動作させ、前記かご位置が前記昇降路の終端部付近の場合には、前記過大速度監視部が前記ブレーキ装置を制動動作させる前に前記異常加速度検出機構により前記非常止め装置を作動させる」のに対して、引用発明Aにおいては、そのような動作をするものか否か明らかでない点(以下、「相違点3A」という。)。

イ 判断
事案に鑑み、まず、相違点3Aについて検討する。
原査定の理由において、かごに非常止め装置が作動した際に、巻上機への給電を遮断することが周知・慣用技術であることの例証として挙げられた、特開2006-36426号公報及び特開昭64-22788号公報、並びに、エレベータにおいて、昇降路終端部のかご減速区間内の位置に対して無段階で変化する過大速度検出レベルを設定することが周知・慣用技術であることの例証として挙げられた、国際公開第2004/083091号及び再公表特許第2006/106575号には、上記相違点3Aに係る本願発明1の発明特定事項に相当する技術は何ら開示されておらず、示唆もされていない。
また、上記相違点3Aに係る本願発明1の発明特定事項に相当する技術が本件出願の出願前に周知・慣用技術であったことを示す刊行物は見当たらない。
そうすると、上記相違点3Aに係る本願発明1の発明特定事項に相当する技術が、本件出願の出願前に周知・慣用技術であるとは認められないから、上記相違点3に係る本願発明1の発明特定事項は、引用発明Aにおいて、周知・慣用技術の付加又は転換をすることによって備えることができたものとは認めることができない。
また、本願発明1は、上記相違点3Aに係る発明特定事項を備えることにより、引用発明Aから当業者が予測し得ない、かご位置が昇降路の終端部付近の場合に、かごの速度が低い段階で異常加速度検出機構によって早期に非常止め装置を作動させることができ、これにより、緩衝器ストロークを十分に短縮することができるという効果と、かご位置が昇降路の中間部の場合には、非常止め装置を作動させなくてもブレーキ装置の制動動作によってかごを停止させることができ、非常止め装置を不必要に作動させることを防止することができるという効果を奏するものである。
してみれば、上記相違点3Aは、課題解決のための具体化手段における微差であるということはできない。
したがって、本願発明1は、上記相違点1A及び2Aの検討をするまでもなく、引用発明Aと同一ではないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないとすることはできない。

よって、原査定の理由によっては、本件出願を拒絶することはできない。


第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は、次のとおりである。

「本件出願の請求項1ないし4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (刊行物については刊行物一覧参照)
・請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)について
・刊行物1
・備考
(1)本件出願前に日本国内において頒布された刊行物1(特に、1ページ左下欄17行ないし2ページ右下欄16行及び第1ないし3図)には、本願発明1の表現に倣って整理すると、次の事項からなる発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認めることができる。
「駆動シーブを有する巻上機2(巻上機)、
前記駆動シーブに巻き掛けられているロープ2a(懸架手段)、
前記ロープ2aにより吊り下げられ、前記巻上機2により昇降されるかご4(かご)、
前記かご4に設けられている非常停止装置5(非常止め装置)、及び
保持ばね101gによって定まる通常ではない加速度(予め設定された設定値)を超える加速度が前記かご4に発生した場合に、前記非常停止装置5を作動させる作動機構10(異常加速度検出機構)を備え、
前記作動機構10は、昇降路1内において、前記かご4の動きに関連して動作する、調速ロープ8と、前記調速ロープ8が巻き掛けられた調速機シーブと、案内車7とを有している前記かご4の過速度を検出する調速機6における前記調速ロープ8に連結されており、前記かご4に前記保持ばね101gによって定まる通常ではない加速度を超える加速度が発生した場合に、前記非常停止装置5を作動させるエレベータ装置(エレベータ装置)。」(括弧内に本件出願の請求項1に係る発明の用語を示す。)

(2)本願発明1と引用発明とを対比すると、以下の点で相違し、その余は一致する。
[相違点1]
本願発明1においては、「懸架手段を介してかごに制動力を作用させるブレーキ装置」及び「かご位置に応じて変化する過大速度検出レベルが設定されており、かご速度が前記過大速度検出レベルに達するとブレーキ装置を制動動作させる過大速度監視部」を備えるのに対して、引用発明においては、そのような構成を有するものであるか否か不明である点。

[相違点2]
「異常加速度検出機構は、かごに設定値を超える加速度が発生した場合に、非常止め装置を作動させ」ることに関し、本願発明1においては、「異常加速度検出機構は、かごの動きに関連して動作する質量体を有しており、前記かごに設定値を超える加速度が発生した場合に、前記質量体に発生する力を利用して非常止め装置を作動させ」るのに対して、引用発明においては、「作動機構10は、昇降路1内において、かご4の動きに関連して動作する、調速ロープ8と、前記調速ロープ8が巻き掛けられた調速機シーブと、案内車7とを有している前記かご4の過速度を検出する調速機6における前記調速ロープ8に連結されており、前記かご4に保持ばね101gによって定まる通常ではない加速度を超える加速度が発生した場合に、非常停止装置5を作動させる」点。

[相違点3]
本願発明1においては、「異常加速度検出機構が作動する加速度は、懸架手段が破断していない状態でかごが暴走するときの加速度よりも大きくなるように設定されている」のに対して、引用発明においては、「保持ばね101gによって定まる通常ではない加速度」について、そのような設定がされているか否か不明である点。

(3)上記相違点について検討する。
[相違点1について]
エレベータ装置において、かごの過速度を抑制するために、「懸架手段を介してかごに制動力を作用させるブレーキ装置」を備えるとともに、「かご位置に応じて変化する過大速度検出レベルが設定されており、かご速度が前記過大速度検出レベルに達するとブレーキ装置を制動動作させる過大速度監視部」を備えることは、本件出願前に周知の技術(以下、「周知技術1」という。必要であれば、国際公開第2004/083091号(特に、6ページ10及び11行、24ページ1ないし27ページ3行並びに図18及び19)及び国際公開第2006/106575号(特に、段落[0012]ないし[0016]、[0025]ないし[0029]及び図1ないし3)を参照。)である。
そうすると、引用発明において、過速度の防止をより確実に行うために、周知技術1を適用し、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

[相違点2について]
引用発明において、作動機構10は、昇降路1内において、かご4の動きに関連して動作する、調速ロープ8と、前記調速ロープ8が巻き掛けられた調速機シーブと、案内車7とを有している前記かご4の過速度を検出する調速機6における前記調速ロープ8に連結されているところ、調速機におけるロープ、案内車(張り車)及び調速機のシーブ等が慣性を有する質量体であることは、本件出願前に技術常識(必要であれば、特開平5-319724号公報(特に、段落【0005】及び【0006】)及び実公昭55-27670号公報(特に、第1欄28行ないし第2欄5行)を参照。)である。
そうすると、引用発明においても、作動機構10は、かご4の動きに関連して動作する質量体を有しており、当該質量に発生する力(慣性力)を利用して非常停止装置5を作動させるものといえ、相違点2は実質的な相違点ではない。

[相違点3について]
エレベータ装置において、懸架手段であるロープが破断した時に非常止め装置を作動させることは、本件出願前に技術常識(必要であれば、特開2004-345803号公報(特に、段落【0001】及び【0089】)及び特開昭64-22788号公報(特に、1ページ右欄16行ないし2ページ左上欄10行)を参照。)であり、また、非常止め装置の誤動作を防止することは当然に考慮することであるから、引用発明において、非常停止装置5が作動する加速度を、異常加速度検出機構が作動する加速度を、ロープ2aが破断していない状態でかご4が暴走するときの加速度よりも大きくなるように設定し、上記相違点3に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が適宜なし得ることである。

(4)そして、本願発明1は、全体としてみても、引用発明及び周知技術1から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

(5)したがって、本願発明1は、引用発明及び周知技術1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

・請求項2に係る発明について
・刊行物1
・備考
エレベータ装置において、過速度の防止をするにあたり、昇降路終端部のかご減速区間内の位置に対して無段階で変化する過大速度検出レベルを設定することは、本件出願前に周知の技術(以下、「周知技術2」という。必要であれば、国際公開第2004/083091号(特に、25ページ17ないし19行及び図19)及び国際公開第2006/106575号(特に、段落[0026]及び図2)を参照。)であり、引用発明において、周知技術2を適用し、本件出願の請求項2に記載された事項のように構成することは、当業者が容易に想到し得たことである。

・請求項3及び4に係る発明について
・刊行物1
・備考
本願発明1についての[相違点2について]の検討を踏まえると、引用発明においても、本件出願の請求項3及び4に記載された事項を備えている。

刊 行 物 一 覧
刊行物1:特開昭58-119573号公報」

2 当審拒絶理由の判断
(1)刊行物1
ア 刊行物1の記載事項
当審拒絶理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である特開昭58-119573号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「まず、第1図によって従来のエレベータ装置を説明する。
図中、(1)はエレベータの昇降路で、(la)はこれの上部、(lb)は下部、(2)は下部(1b)に設置された巻上機で、(2a)はこれのロープ、(3)は上部(la)に枢着されてロープ(2a)が巻き掛けられた吊り車、(4)は吊り車(3)を介してロープ(2a)によって吊持されたかご、(5)はかご(4)に設けられた周知の非常停止装置で、(5a)はこれの作動機構、(6)は昇降路(1)の上部(1a)に固定された調速機で、(7)はこれに対応して昇降路(1)の下部(1b)に配置され一端が昇降路(1)壁に枢着されたレバーの他端に枢着されたおもり付の張り車、(8)は無端状をなし調速機(6)、張り車(7)に巻き掛けられ一側が作動機構(5a)に保持された調速ロープ、(9)は上部(1a)に設けられた調速機(6)の点検孔である。
すなわち、かご(4)の昇降によって調速ロープ(8)を介して調速機(6)が駆動されて、かご(4)が異常速度で下降したときには調速機(6)が動作して調速ロープ(8)の運動を拘束し、作動機構(5a)によって非常停止装置(5)が動作するように構成されている。しかし調速機(6)が昇降路(1)の上部に設置されているため、調速機(6)の保守に不便であり、また点検孔(9)も建物の構造によっては設置不能であることもあって、調速機(6)の設置ができない場合もあった。このような不具合を解消するため調速機(6)を昇降路(1)下部に設けることが考えられるが、調速ロープ(8)に張力を付与する機構が複雑になって製造費がかさみ、また設置スペースを要するため配置が制約される欠点がある。
この発明は上記の欠点を解消するもので、調速機が昇降路の下部に設置され、簡易な構成によって調速ロープに張力が付与されたエレベータ装置を提供しようとするものである。
以下、第2、第3図によってこの発明の一実施例を説明する。
図中、第1図と同符号は相当部分を示し、(6)は昇降路(1)の下部(1b)に設置された調速機、(7)は上部(la)に枢着された案内車、(10)は非常停止装置(5)の作動機構、(101)は作動機構(10)の一部をなす伝動装置、(101a)は伝動装置(101)を構成し一端がかご(4)に枢着され、他端には貫通孔(101b)が、中間部には突子(101c)が設けられた第1レバー、(101d)はかご(4)の下部に一端が枢着され他端によって非常停止装置(5)の制動片(図示しない)を保持した第2レバー、(101e)は両端がそれぞれ第1、第2レバー(101a)(101d)の中間に枢着されたロッド、(101f)はかご(4)及び突子(101c)に遊挿通されてこれらに保持されたボルトで、(101g)はこれに遊嵌されてかご(4)と突子(101c)の間に配置され圧縮コイルばねからなる保持ばね、(102)は第1レバー(101a)の自由端に装着された振動吸収機構で、(102a)はこれを構成する連結棒であり上端には調速ロープ(8)の一端が連結されて貫通孔(101b)に遊挿通され、下端には連結穴(102b)が設けられている。(102c)は連結棒(102a)に嵌合され第1レバー(101a)の上下にそれぞれ配置され、連結棒(102a)にねじ込まれたナット(102d)によって第1レバー(101a)に接して設けられた圧縮コイルばねからなる吸振ばね、(103)は第1レバー(101a)に設けられた摩擦減衰機構で、(103a)は第1レバー(101a)に設けられてこれの端面及び貫通孔(101b)に開口した穴(103b)に遊嵌された第1摺動子、(103c)は貫通孔(101b)と連結棒(102a)の間に設けられて第1摺動子(103a)と対向して配置された第2摺動子、(103d)は穴(103b)の第1レバー(101a)の回動端側にねじ込まれた押圧子、(103e)は穴(103b)内に配置されて第1摺動子(103a)と押圧子(103d)の間に設けられた圧縮コイルばねからなる押圧ばね、(11)は上端が連結棒(102a)の連結穴(102b)に係合された引張コイルばねからなる緊張装置、(8)は一端が連結棒(102a)の上端に連結されて上方に延長され、案内車(7)に巻き掛けられて下降し調速機(6)に巻き掛けられて上昇し他端は緊張装置(11)の下端に連結された調速ロープである。
すなわち、緊張装置(11)によって張力が付与された調速ロープ(8)が振動吸収機構(102)、伝動装置(101)すなわち作動機構(10)を介してかご(4)に保持され、かご(4)の昇降によって調速機(6)が駆動される。このときに保持ばね(101g)によってかご(4)の通常の加速度により伝動装置(101)が動作状態とならないよう非動作状態に保持される。またかご(4)内の乗客が跳びはねること等によってかご(4)に異常振動が生じ、これによって伝動装置(101)が誤動作、すなわち非常停止装(5)が誤動作しないように異常振動が振動吸収機構(102)によって吸収される。また、摩擦減衰機構(103)によって異常振動を減衰し非常停止装置(5)の誤動作を防ぐように構成されている。そして、かご(4)が所定値を超えた速度で下降したときには調速機(6)によって調速ロープ(8)が拘束されるが、この拘束力は緊張装置(11)には関係なく作動機構(10)に作用しこれの動作を介して非常停止装置が動作する。したがって、調速機(6)が昇降路(1)下部(lb)に設置されたもので、これに振動吸収機構(102)、摩擦減衰機構(103)が付加されたものであっても簡易な装置構成によって要時に所要の非常停止動作を得ることができる。」(1ページ左下欄17行ないし2ページ右下欄16行)

イ 上記ア及び図面の記載から分かること
(ア)上記ア及び第1ないし3図の記載によれば、刊行物1には、エレベータ装置が記載されていることが分かる。

(イ)上記ア及び第1ないし3図の記載(特に、1ページ左下欄17行ないし同ページ右下欄12行の記載)によれば、刊行物1に記載されたエレベータ装置において、駆動シーブを有する巻上機2、前記駆動シーブに巻き掛けられているロープ2a、前記ロープ2aにより吊り下げられ、前記巻上機2により昇降されるかご4を備えることが分かる。

(ウ)上記ア及び第1ないし3図の記載(特に、2ページ左上欄12行ないし同ページ左下欄末行並びに第2及び3図の記載)によれば、刊行物1に記載されたエレベータ装置において、かご4に設けられている非常停止装置5、及び、保持ばね101gによって定まる通常ではない加速度を超える加速度が前記かご4に発生した場合に、前記非常停止装置5を作動させる作動機構10を備えることが分かる。

(エ)上記ア及び第1ないし3図の記載(特に、2ページ左上欄12行ないし同ページ右下欄16行並びに第2及び3図の記載)によれば、刊行物1に記載されたエレベータ装置において、作動機構10は、昇降路1内において、かご4の動きに関連して動作する、調速ロープ8と、前記調速ロープ8が巻き掛けられた調速機シーブと、案内車7とを有している前記かご4の過速度を検出する調速機6における前記調速ロープ8に連結されており、前記かご4に前記保持ばね101gによって定まる通常ではない加速度を超える加速度が発生した場合に、非常停止装置5を作動させるものであることが分かる。

ウ 引用発明B
上記ア及びイを総合して、本願発明1の表現に倣って整理すると、刊行物1には、次の事項からなる発明(以下「引用発明B」という。)が記載されていると認める。
「駆動シーブを有する巻上機2、
前記駆動シーブに巻き掛けられているロープ2a、
前記ロープ2aにより吊り下げられ、前記巻上機2により昇降されるかご4、
前記かご4に設けられている非常停止装置5、及び
保持ばね101gによって定まる通常ではない加速度を超える加速度が前記かご4に発生した場合に、前記非常停止装置5を作動させる作動機構10を備え、
前記作動機構10は、昇降路1内において、前記かご4の動きに関連して動作する、調速ロープ8と、前記調速ロープ8が巻き掛けられた調速機シーブと、案内車7とを有している前記かご4の過速度を検出する調速機6における前記調速ロープ8に連結されており、前記かご4に前記保持ばね101gによって定まる通常ではない加速度を超える加速度が発生した場合に、前記非常停止装置5を作動させるエレベータ装置。」

(2)対比
本願発明1と引用発明Bとを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
・引用発明Bにおける「駆動シーブ」は、本願発明1における「駆動シーブ」に相当し、以下同様に、「巻上機2」は「巻上機」に、「ロープ2a」は「懸架手段」に、「かご4」は「かご」に、「非常停止装置5」は「非常止め装置」に、「保持ばね101gによって定まる通常ではない加速度」は「予め設定された設定値を超える加速度」に、「作動機構10」は「異常加速度検出機構」に、「エレベータ装置」は「エレベータ装置」に、それぞれ相当する。

・引用発明Bにおける「作動機構10は、昇降路1内において、かご4の動きに関連して動作する、調速ロープ8と、前記調速ロープ8が巻き掛けられた調速機シーブと、案内車7とを有している前記かご4の過速度を検出する調速機6における前記調速ロープ8に連結されており、前記かご4に保持ばね101gによって定まる通常ではない加速度を超える加速度が発生した場合に、非常停止装置5を作動させる」は、本願発明1における「異常加速度検出機構は、かごの動きに関連して動作する質量体を有しており、前記かごに設定値を超える加速度が発生した場合に、前記質量体に発生する力を利用して非常止め装置を作動させ」るに、「異常加速度検出機構は、かごに設定値を超える加速度が発生した場合に、非常止め装置を作動させ」るという限りにおいて一致する。

したがって、両者は、
「駆動シーブを有する巻上機、
前記駆動シーブに巻き掛けられている懸架手段、
前記懸架手段により吊り下げられ、前記巻上機により昇降されるかご、
前記かごに設けられている非常止め装置、及び
予め設定された設定値を超える加速度が前記かごに発生した場合に、前記非常止め装置を作動させる異常加速度検出機構
を備え、
前記異常加速度検出機構は、前記かごに設定値を超える加速度が発生した場合に、非常止め装置を作動させるエレベータ装置。」の点で一致し、次の点で相違している。

[相違点1B]
本願発明1においては、「懸架手段を介してかごに制動力を作用させるブレーキ装置」及び「かご位置に応じて変化する過大速度検出レベルが設定されており、かご速度が前記過大速度検出レベルに達するとブレーキ装置を制動動作させる過大速度監視部」を備えるのに対して、引用発明Bにおいては、そのような構成を有するものであるか否か不明である点(以下、「相違点1B」という。)。

[相違点2B]
「異常加速度検出機構は、かごに設定値を超える加速度が発生した場合に、非常止め装置を作動させ」ることに関し、本願発明1においては、「異常加速度検出機構は、かごの動きに関連して動作する質量体を有しており、前記かごに設定値を超える加速度が発生した場合に、前記質量体に発生する力を利用して非常止め装置を作動させ」るのに対して、引用発明Bにおいては、「作動機構10は、昇降路1内において、かご4の動きに関連して動作する、調速ロープ8と、前記調速ロープ8が巻き掛けられた調速機シーブと、案内車7とを有している前記かご4の過速度を検出する調速機6における前記調速ロープ8に連結されており、前記かご4に保持ばね101gによって定まる通常ではない加速度を超える加速度が発生した場合に、非常停止装置5を作動させる」点(以下、「相違点2B」という。)。

[相違点3B]
本願発明1においては、「異常加速度検出機構が作動する加速度は、懸架手段が破断していない状態でかごが暴走するときの加速度よりも大きくなるように設定されている」のに対して、引用発明Bにおいては、「保持ばね101gによって定まる通常ではない加速度」について、そのような設定がされているか否か不明である点(以下、「相違点3B」という。)。

[相違点4B]
本願発明1においては、「かご位置が昇降路の中間部の場合には、異常加速度検出機構が非常止め装置を作動させる前に過大速度監視部によりブレーキ装置を制動動作させ、前記かご位置が前記昇降路の終端部付近の場合には、前記過大速度監視部が前記ブレーキ装置を制動動作させる前に前記異常加速度検出機構により非常止め装置を作動させる」のに対して、引用発明Bにおいては、そのような動作をするものか否か明らかでない点(以下、「相違点4B」という。)。

(3)判断
事案に鑑み、先ず、相違点4Bについて検討する。
当審拒絶理由において、周知技術1の例証として挙げた国際公開第2004/083091号及び国際公開第2006/106575号並びに技術常識の例証として挙げた特開平5-319724号公報、実公昭55-27670号公報、特開2004-345803号公報及び特開昭64-22788号公報には、上記相違点4Bに係る本願発明1の発明特定事項に相当する技術は何ら開示されておらず、示唆もされていない。
また、上記相違点4Bに係る本願発明1の発明特定事項に相当する技術が本件出願の出願前に周知・慣用技術であったとは認められない。
そうすると、引用発明Bにおいて、上記相違点4Bに係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たこととは認められない。

そして、本願発明1は、上記相違点4Bに係る発明特定事項を備えることにより、引用発明B、周知技術1及び技術常識から当業者が予測し得ない、かご位置が昇降路の終端部付近の場合に、かごの速度が低い段階で異常加速度検出機構によって早期に非常止め装置を作動させることができ、これにより、緩衝器ストロークを十分に短縮することができるという効果と、かご位置が昇降路の中間部の場合には、非常止め装置を作動させなくてもブレーキ装置の制動動作によってかごを停止させることができ、非常止め装置を不必要に作動させることを防止することができるという効果を奏するものである。

(4)小括
したがって、相違点1Bないし3Bの検討をするまでもなく、本願発明1は、引用発明B、周知技術1及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえなくなった。
また、本願発明2ないし4についても、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらに減縮したものであるので、同様に、引用発明B、周知技術1及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえなくなった。
そうすると、もはや、当審拒絶理由によって本件出願を拒絶することはできない。


第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本件出願を拒絶することはできない。
また、他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-09-05 
出願番号 特願2013-508641(P2013-508641)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B66B)
P 1 8・ 161- WY (B66B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 藤村 聖子  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 槙原 進
梶本 直樹
発明の名称 エレベータ装置  
代理人 曾我 道治  
代理人 吉田 潤一郎  
代理人 飯野 智史  
代理人 大宅 一宏  
代理人 梶並 順  
代理人 上田 俊一  
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