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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B66B 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 B66B |
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管理番号 | 1318758 |
審判番号 | 不服2015-18083 |
総通号数 | 202 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-10-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-10-05 |
確定日 | 2016-09-20 |
事件の表示 | 特願2013-542788「エレベータのかごにおける気密装置及び気密装置を備えたエレベータのかご」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月16日国際公開、WO2013/069154、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件出願は、2011年11月11日を国際出願日とする出願であって、平成25年10月8日に特許法第184条の5第1項に規定する国内書面が提出され、平成26年10月15日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成26年12月16日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年6月26日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対して平成27年10月5日に拒絶査定不服審判が請求され、その後、当審において平成28年3月24日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、これに対して平成28年5月27日に意見書が提出されるとともに同日に特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明 本件出願の請求項1ないし9に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明9」という。)は、平成26年12月16日に提出された手続補正書により補正された明細書、平成28年5月27日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲及び国際出願時の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認める。 「 【請求項1】 かごドアに対して一体的に設けられたドア側部材と、 出入口枠に対して一体的に設けられた枠側部材とを備え、 前記ドア側部材と前記枠側部材とは、前記かごドアが前記出入口枠に対して離れるように移動すると、相互に距離が近づくように設けられており、 前記出入口枠は、前記かごドアにおけるかご室内側の裏面に近づくように位置する前端部を有しており、前記かご室内側の前記裏面と、前記出入口枠の前記前端部との間には、ドア-枠間隙間が設けられており、 戸開時、前記ドア側部材及び前記枠側部材の隙間と、前記ドア-枠間隙間とは、昇降路内の風圧又はかご室内の気圧変化により、該ドア側部材及び枠側部材の隙間が拡大すると、該ドア-枠間隙間が縮小し、該ドア側部材及び枠側部材の隙間が縮小すると、該ドア-枠間隙間が拡大する関係にあり、 前記ドア側部材及び前記枠側部材の一方または双方は、該ドア側部材及び該枠側部材の対向面が、復元力のある当接部材で構成され、 前記ドア側部材と前記枠側部材とは、前記かごドアの全閉状態において前記当接部材を圧縮して相互に密着している、 エレベータのかごにおける気密装置。 【請求項2】 前記ドア側部材の後方には、前記ドア-枠間隙間が消滅するまで前記かごドアが前記出入口枠に近づくように移動した場合でも、前記かごドアと一体の前記ドア側部材の移動が阻害されないようにする移動許容空間が確保されている、 請求項1のエレベータのかごにおける気密装置。 【請求項3】 前記ドア側部材及び前記枠側部材の一方または双方は、該ドア側部材及び該枠側部材の対向面が、平面視、前記かごドアの開閉進行方向に対して傾斜しており、 それによって、前記ドア側部材及び前記枠側部材の隙間は、前記かごドアの閉動作に応じて次第に閉塞する、 請求項1又は2の何れか一項のエレベータのかごにおける気密装置。 【請求項4】 前記ドア側部材に対する前後位置変更機構を更に備え、 前記前後位置変更機構は、前記かごドアが少なくとも全開状態にあるときには、前記ドア側部材及び前記枠側部材を非接触状態にし、該かごドアが全閉状態に近づいたときには、前記ドア側部材及び前記枠側部材の接触状態を確保するように、該かごドアの開閉移動に伴って前記ドア側部材の前後方向位置を変更させ、 それによって、前記ドア側部材及び前記枠側部材の隙間は、前記かごドアの閉動作に応じて次第に閉塞する、 請求項1又は2の何れか一項のエレベータのかごにおける気密装置。 【請求項5】 前記前後位置変更機構は、前記出入口枠に前記かごドアの開閉進行方向に延びて設けられる案内部品と前記ドア側部材に設けられるローラーとを備え、 前記案内部品は、平面視、前記かごドアの開閉進行方向に対して傾斜し、前記かごドアの全閉合わせ面側の端が他端よりも前記かごドアに近づくよう設けられ、前記ローラーが係合するレール溝を備える、 請求項4のエレベータのかごにおける気密装置。 【請求項6】 前記ドア側部材及び前記枠側部材の一方または双方は、該ドア側部材及び該枠側部材の対向面が、側面視、上下方向に対して傾斜し、且つ、平面視、前記かごドアの開閉進行方向に対して傾斜しており、 それによって、前記ドア側部材及び前記枠側部材の隙間は、前記かごドアの閉動作に応じて次第に閉塞する、 請求項1又は2の何れか一項のエレベータのかごにおける気密装置。 【請求項7】 前記ドア側部材及び前記枠側部材の一方または双方は、該ドア側部材及び該枠側部材の対向面が、側面視、上下方向に対して傾斜しており、 前記ドア側部材に対する上下位置変更機構を更に備え、 前記上下位置変更機構は、前記かごドアが少なくとも全開状態にあるときには、前記ドア側部材及び前記枠側部材を非接触状態にし、該かごドアが全閉状態に近づいたときには、前記ドア側部材及び前記枠側部材の接触状態を確保するように、該かごドアの開閉移動に伴って前記ドア側部材の上下方向位置を変更させ、 それによって、前記ドア側部材及び前記枠側部材の隙間は、前記かごドアの閉動作に応じて次第に閉塞する、 請求項1又は2の何れか一項のエレベータのかごにおける気密装置。 【請求項8】 かごの昇降に基づいてかご室内の気圧を制御するための気圧制御装置を更に備えた、 請求項1乃至7の何れか一項のエレベータのかごにおける気密装置。 【請求項9】 かご室に対するかご出入口を画定する出入口枠と、 かご出入口を開閉するかごドアと、 かご室内の気密性を高める気密装置とを備えた、エレベータのかごであって、 前記気密装置は、請求項1乃至8の何れか一項に記載の気密装置である、 エレベータのかご。」 第3 原査定の理由について 1 原査定の理由の概要 (1)平成26年10月15日付けで通知した拒絶理由 平成26年10月15日付けで通知した拒絶理由の概要は、次のとおりである。 「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) ・請求項1-4,6 ・引用文献1,2 ・備考 (請求項1-4) 引用文献1には、ドア側部材(遮音部材301)及び前記枠側部材(幕板13)の隙間と、ドア-枠間隙間とは、該ドア側部材及び枠側部材の隙間が拡大すると、該ドア-枠間隙間が縮小し、該ドア側部材及び枠側部材の隙間が縮小すると、該ドア-枠間隙間が拡大する関係にあるエレベータのかごの発明が記載されている(特に、明細書第5ページ第8-12行、第7図参照)。 引用文献2には、エレベータのドアにおいて、ドアの全閉状態において相互に密着させる技術が記載されている(特に、【0020】-【0025】、図4-5b参照)。 そして、引用文献1記載の発明に引用文献2記載の上記技術を適用することは、当業者であれば容易に想到し得たことである。 (請求項6) ドア側部材及び枠側部材の対向面を、側面視、上下方向に対して傾斜させるこ とは、当業者が適宜設計し得る事項である。 ・請求項5 ・引用文献1-3 ・備考 引用文献3には、エレベータのドアにおいて前後位置変更機構を設ける技術が記載されている(特に、【0020】、図1参照)。 そして、引用文献1記載の発明に引用文献3記載の上記技術を適用することは、当業者であれば容易に想到し得たことである。 ・請求項7 ・引用文献1,2,4 ・備考 引用文献4には、エレベータのドアにおいて上下位置変更機構を設ける技術が記載されている(特に、【0030】、図1参照)。 そして、引用文献1記載の発明に引用文献4記載の上記技術を適用することは、当業者であれば容易に想到し得たことである。 ・請求項8,9 ・引用文献等1-5 ・備考 エレベータにおいて、かごの昇降に基づいてかご室内の気圧を制御するための気圧制御装置を設けることは、従来周知の事項である(例えば、文献5の【0004】等参照)。 引 用 文 献 等 一 覧 1.実願昭49-100978号(実開昭51-28655号)のマイクロフィルム 2.特表2002-508291号公報 3.特開2004-284760号公報 4.特開平9-20487号公報 5.特開2003-81561号公報」 (2)原査定の概要 原査定の概要は、次のとおりである。 「この出願については、平成26年10月15日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。 なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。 備考 ●理由(特許法第29条第2項)について ・請求項1-4,6-9 ・引用文献等1-5 引用文献1の明細書第3ページ第7-12行には、かご扉9と主柱12(幕板13)の間には間隙が設けてあることが記載されており、そうすると昇降路内の風圧又はかご室内の気圧変化により該間隙は拡大または縮小すると認められる。 よって、請求項1に係る発明と引用文献1記載の発明を対比すると、以下の点で相違し、その他の点で両者は一致している。 [相違点] 請求項1に係る発明は、ドア側部材と前記枠側部材とが、かごドアの全閉状態において当接部材を圧縮して相互に密着しているのに対し、引用文献1記載の発明は不明である点。 上記相違点について検討するに、引用文献2には、ドアの全閉状態において相互に密着させるエレベータのドアの発明が記載されている(特に、【0020】-【0025】、図4-5b参照)。 そして、引用文献1記載の発明に引用文献2記載の上記発明を適用することは、当業者であれば容易に想到し得たことである。 なお、出願人は平成26年12月16日付け意見書において、「引用文献1には、ドア側部材(遮音部材301)及び前記枠側部材(幕板13)を備えるエレベータのかごが開示されております。しかしながら、引用文献1には、昇降路内の風圧又はかご室内の気圧の変動に応じてかごドアが出入口枠から離れる方向若しくは出入口枠に近づく方向に移動することは開示されておらず、示唆もされておりません。」と主張している(「2.(3)引用文献の説明」の項参照)。 しかしながら、引用文献1に、昇降路内の風圧又はかご室内の気圧の変動に応じてかごドアが出入口枠から離れる方向若しくは出入口枠に近づく方向に移動することが実質的に記載されていると認められることは、上記の通りである。 よって、出願人の上記主張は採用できない。 したがって、請求項1に係る発明は、引用文献1及び2に記載された発明に基づいて、当業者であれば容易になし得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 また、請求項2-4,6-9に係る発明についても、引用文献1-4に記載された発明及び引用文献5に記載された周知の技術に基づいて、当業者であれば容易になし得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 <審査を行っていない請求項> 平成26年12月16日付け手続補正書による補正後の請求項(5)に係る発明については、新たに追加された請求項であり、当該請求項に係る発明については審査を行っていない。しかしながら、前後位置変更機構をレールとローラから構成することは、当業者が適宜設計し得る事項であり進歩性はないとの心証を得ている。 <引用文献等一覧> 1.実願昭49-100978号(実開昭51-28655号)のマイクロフィルム 2.特表2002-508291号公報 3.特開2004-284760号公報 4.特開平9-20487号公報 5.特開2003-81561号公報(周知技術を示す文献)」 2 原査定の理由に対する当審の判断 (1)刊行物1 ア 刊行物1の記載事項 原査定の理由に引用された刊行物であって、本件出願の出願前に頒布された刊行物である実願昭49-100978号(実開昭51-28655号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 (ア)「この考案はかご室を外部の騒音から遮音したエレベータに関する。 従来エレベータは第1図に示すように昇降路1に対面して各階に昇降口2を設け、この昇降口2に開閉自在に乗場扉3を設けるようにしている。そして昇降路1の頂部に駆動機構に回転駆動されるプーリ4を設け、このプーリ4にワイヤ5を架設し、このワイヤ5の一端に乗かご6、他端にバランスウエイト7を吊設している。 そして、上記乗かご6は、その上部に水平にガイドレール8を設け、このガイドレール8にかご扉9に取着したハンガー10の滑車11を架設し、上記かご扉9を上記ガイドレール8に開閉自在に吊設するようにしている。そして乗かご6とかご扉9との間の両側に一対の主柱12を設け、この主柱12の頂部に幕板13を取着し、かご室6内部に階数を表示するインジケータ14を設けている。」(明細書1ページ15行ないし2ページ12行) (イ)「しかしながらこのようなもので、特に高速エレベータなどにあつては、高速走行時、風騒音、ガイドローラの走行音、ロープ、シーブ等から発生する騒音のためにかご室内が騒がしいという問題があつた。 また、昇降路1内は、乗場口2の構造からその断面積を一定にできないので昇降路1内の空気圧の変動に起因する風騒音がやかましい。 このためにかご室の送風口に各種の遮音対策が考えられているが、かご室の進行方向に間隙を有するかご扉については騒音の主要な進入路であるにもかかわらず、扉が開閉動作しなければならないために遮音構造にすることは困難であつた。 すなわち、かご扉9を円滑に開閉動作させるためには、主柱12とかご扉9との間に5?6mm程度の間隙を設ける必要があり、たとえばこの間隙が6mmでかご扉の大きさが210cm×100cmであれば扉の周囲に872cm^(2) のすきまを形成することになる。したがつてかご室の巾木、送風機風取入口、等のかご室の送風口に遮音対策を施しても前記のような扉の周囲のすきまのために、その遮音効果が滅殺されてしまうという問題があつた。 この考案はこのような事情に鑑みてなされたもので簡単な構成で外部の騒音がかご室内に侵入することを防止したエレベータを提供することを目的とするものである。」(明細書2ページ13行ないし3ページ末行) (ウ)「以下、この考案の一実施例を第3図乃至第5図を参照して説明する。 なお、第1図および第2図と同じ部材には同じ符号を付与してその説明を省略する。 図中101は遮音部材でかご扉9の上部からL字形に突出するように略かご扉9の全巾に取着した金属板である。そしてこの遮音部材の先端部は幕板13の折返し部102に対面しかつこの折返し部102をかご扉9と遮音部材101との間にはさむようにしている。 そして、上記かご扉9の両端部に弾性材104たとえばスポンジゴムを取着し、かご扉9を閉鎖したときにこの弾性材104がかご室6の主柱12に外方から圧接するようにしている。 このような構成であればかご室内部と外部との間に形成されるすきまでかご扉の周囲のもののうち、その上方のすきまは遮音部材101によつて、空気の進路が曲折されるので、騒音が侵入しにくくなる。またかご扉両側のすきまは弾性材104をかご扉9と主柱12との間に挟装するようにしているので閉鎖される。またかご扉9の下方のすきまはかご室9の下方のすきまはかご室の床板によつて空気の通路が直角に曲がるのでここからはほとんど騒音は侵入できない。 なおこの考案は上記実施例に限定されるものではなく、たとえば、第6図に示すように幕板201に溝を設け、この溝内に遮音部材の先端を位置させるようにしてもよい。また第7図および第8図に示すように遮音部材301の先端部にスポンジゴム302を取着したりあるいはブラシ303を植毛して幕板304の折返し部に摺動自在に当接させるようにしてもよい。」(明細書4ページ1行ないし5ページ12行) (エ)「以上詳述したように、この考案は、かご扉の上方に設けた遮音部材およびかご扉の両側に設けた弾性体によつて、かご室と外部との間にかご扉の周囲を介して形成されるすきまから空気を流通しにくくし、それによつて騒音をしや断するようにしたから簡単な構成で騒音がかご室内に侵入することを阻止でき、特に高速運転に適するエレベータを提供できる。」(明細書5ページ13行ないし5ページ末行) イ 上記ア及び図面の記載から分かること (ア)上記ア(ア)ないし(エ)及び第1ないし7図の記載によれば、刊行物1には、エレベータのかごにおける遮音構造が記載されていることが分かる。 (イ)上記ア(ア)及び(ウ)並びに第3及び7図の記載によれば、刊行物1に記載されたエレベータのかごにおける遮音構造において、かご扉9に対して一体的に設けられた遮音部材301と、主柱12及び幕板13からなる枠に対して一体的に設けられた幕板13の折返し部102とを備えていることが分かる。 (ウ)上記ア(ア)及び(ウ)並びに第3及び7図の記載によれば、刊行物1に記載されたエレベータのかごにおける遮音構造において、遮音部材301と幕板13の折返し部102とは、かご扉9が主柱12及び幕板13からなる枠に対して離れるように移動すると、相互に距離が近づくように設けられていることが分かる。 (エ)上記ア(ア)及び(ウ)並びに第3及び7図の記載によれば、刊行物1に記載されたエレベータのかごにおける遮音構造において、主柱12及び幕板13からなる枠は、かご扉9におけるかご室6内側の裏面に近づくように位置する前端部を有しており、前記かご室6内側の前記裏面と、前記主柱12及び幕板13からなる枠の前記前端部との間には、扉-枠間隙間が設けられていることが分かる。 (オ)上記ア(ア)及び(ウ)並びに第3及び7図の記載によれば、刊行物1に記載されたエレベータのかごにおける遮音構造において、扉開時、遮音部材301及び幕板13の折返し部102の間の距離と、扉-枠間隙間とは、該遮音部材301及び幕板13の折返し部102の間の距離が拡大すると、該扉-枠間隙間が縮小し、該遮音部材301及び幕板13の折返し部102の間の距離が縮小すると、該扉-枠間隙間が拡大する関係にあることが分かる。 (カ)上記ア(ウ)及び第7図の記載によれば、刊行物1に記載されたエレベータのかごにおける遮音構造において、遮音部材301及び幕板13の折返し部102の一方または双方は、該遮音部材301及び該幕板13の折返し部102の対向面が、復元力のあるスポンジゴム302で構成されていることが分かる。 ウ 引用発明 上記ア及びイ並びに図面を総合して、本願発明1の表現に倣って整理すると、刊行物1には、次の 事項からなる発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。 「かご扉9に対して一体的に設けられた遮音部材301と、 主柱12及び幕板13からなる枠に対して一体的に設けられた幕板13の折返し部102とを備え、 前記遮音部材301と前記幕板13の折返し部102とは、前記かご扉9が前記主柱12及び幕板13からなる枠に対して離れるように移動すると、相互に距離が近づくように設けられており、 前記主柱12及び幕板13からなる枠は、前記かご扉9におけるかご室6内側の裏面に近づくように位置する前端部を有しており、前記かご室6内側の前記裏面と、前記主柱12及び幕板13からなる枠の前記前端部との間には、扉-枠間隙間が設けられており、 扉開時、前記遮音部材301及び前記幕板13の折返し部102の間の距離と、前記扉-枠間隙間とは、該遮音部材301及び幕板13の折返し部102の間の距離が拡大すると、該扉-枠間隙間が縮小し、該遮音部材301及び幕板13の折返し部102の間の距離が縮小すると、該扉-枠間隙間が拡大する関係にあり、 前記遮音部材301及び前記幕板13の折返し部102の一方または双方は、該遮音部材301及び該幕板13の折返し部102の対向面が、復元力のあるスポンジゴム302で構成されたエレベータのかごにおける遮音構造。」 (2)刊行物2 ア 刊行物2の記載事項 原査定の理由に引用された刊行物であって、本件出願の出願前に頒布された刊行物である特表2002-508291号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 (ア)「【0001】 (技術分野) 本発明は、1つまたはそれ以上のエレベーター昇降路を有する高層建築物に関し、さらに特定すると、昇降路ドアと昇降路入口との間に取り付けられたシーリング構造体に関する。」(段落【0001】) (イ)「【0010】 従って、本発明は、この昇降路ドアと昇降路入口の間の煙、気体および水の通路に対して、効果的な障壁を提供し、それにより、火災中に、煙、気体および水が、このエレベーター昇降路シャフトへと侵入するという問題点を経済的に解決する。さらに、本発明は、このエレベータシステムに乗って移動している人に対して、高いレベルの安全性を維持する。」(段落【0010】) (ウ)「【0011】 (好ましい実施態様の詳細な説明) 今ここで、図面(ここで、同じ参照番号は、同一部分または対応する部分を意味する)を参照し、特に、図1を参照すると、上限6および下限8を有するエレベーター昇降路4を備えた高層建築物2が示されており、その間には、壁構造体10が伸長している。この建築物の各階では、壁構造体10の昇降路開口部12があり、これは、可動性昇降路ドアアセンブリ16により閉鎖可能な昇降路入口14を規定している。エレベーター箱18は、この建築物の階間の垂直移移動のために、昇降路4で移動可能に支持されている。エレベーター箱18が、ある階のエレベーターロビー床20に隣接しており、そして昇降路入口14と直接隣接しているとき、昇降路ドアアセンブリ16は、通常の連動システムにより開放位置へと移動されて、エレベーターに乗っている人は、この昇降路入口を通って、このエレベーター箱に出入りできるようになる。エレベーター箱18がエレベーターロビー床20に隣接していないとき(例えば、階間を移動中)、昇降路ドアアセンブリ16は、閉鎖位置にとどまり、そして昇降路4へのアクセスが阻止される。 【0012】 図2で最もよく分かるように、昇降路ドアアセンブリ16は、通常の支持レール30およびドア支持部材34により移動可能に支持されて、この昇降路ドアアセンブリの縁部と壁構造体10との間で、複数の空間または隙間を規定している。昇降路ドアシール構造体22は、各昇降路入口14に隣接しており、そして建築物2(図1)で火災が発生した場合に、煙、気体および水が昇降路4内へと移動するのを阻止するために、また、煙および気体がこの昇降路から移動するのを防止するために、昇降路開口部12の回りにて、昇降路ドアアセンブリ16と壁構造体10との間でシールを設けるように、配置されている。選択された昇降路ドア設計で使用される複数のドアシール構造体は、同時係属中の米国特許出願第08/423,958号(これは、1996年4月18日に出願され、「Hoistway Door Seal Structure」の表題である)で開示されており、その内容は、本明細書中で参考として援用されている。 【0013】 昇降路ドアシール構造体22は、この昇降路ドアアセンブリが閉鎖位置にあるとき、昇降路ドアアセンブリ16と壁構造体10との間の空間または隙間を係合可能に密封して、昇降路開口部12を通る空気の流れを限定する。昇降路ドアシール構造体22は、シール(これは、以下でさらに詳細に述べる)を包含し、これは、温度に耐性のある成形材料または他の材料(例えば、軽量金属、シリコーン、または金属製ブラシ)から構成されており、これらは、昇降路ドアアセンブリ16がそれとの係合へと移動するとき、僅かに圧縮でき、実質的にエレベーター昇降路開口部12の周囲の回りにて、この昇降路ドアアセンブリと壁構造体10との間で、効果的なシールを作成するが、複数の昇降路ドアを有する代替実施態様の昇降路ドアシール構造体22では、これらの昇降路ドアの合流縁部に隣接して、シールが設けられ、このシールは、内部および外部ドアパネルの間のドア間側方縁部に隣接していて、これらの昇降路ドアとドアパネルとの間の空間を密封する。 【0014】 本明細書中で記述した実施態様は、火災が発生した場合に、煙および気体の流れを阻止する昇降路ドアアセンブリ16の回りのシールに関して記述されているものの、これらのシールはまた、通常の建築物操作中などにて、この昇降路ドアアセンブリとエレベーター昇降路4との間の空気などの流れを阻止するのに効果的である。火災が発生した場合には、これらのシールはまた、火災のある階から昇降路シャフトへの水の流れを制限するのに効果的であり、それにより、このエレベーター箱に乗っている人に対して、高い安全性レベルを与える。 【0015】 図2で最もよく分かるように、壁構造体10の昇降路入口14は、長方形の開口部であり、これは、左側方三方枠24a、右側方三方枠24b、下枠32、およびこの下枠とは反対側の頭壁26のヘッド27により規定されている。昇降路入口14に隣接した昇降路ドアシール構造体22は、昇降路ドアアセンブリ16を包含し、これは、開放位置(これは、想像線で示されており、このエレベーター昇降路へのアクセスを可能にする)と閉鎖位置(これは、実線で示されている)との間で、略垂直面にて、この昇降路入口に対して側方に移動する。この閉鎖位置では、昇降路ドアアセンブリ16は、実質的に、昇降路入口14を覆う。 【0016】 図示した実施態様では、昇降路ドアアセンブリ16は、一対の対向昇降路ドア28aおよび28bを包含し、これらは、昇降路入口14に対して側方に移動可能である。昇降路ドア28aおよび28bは、通常の連動機構により相互連絡されており、その結果、この開放位置と閉鎖位置との間でのこれらの昇降路ドアの側方移動は、同時進行するようにされる。この連動機構は、エレベーター箱18(図1)の通常のエレベーター箱ドアアセンブリと係合するように、昇降路ドア28aおよび28bと連結されて、それにより、これらの昇降路ドアおよびエレベーター箱ドアアセンブリを開放または閉鎖位置へと同時に移動させて、このエレベーター箱からの進入または退出を可能にする。図示した実施態様は、一対の対向昇降路ドア28aおよび28bを包含するものの、ドアアセンブリ16は、他の構成(例えば、単一ドア構成、または以下で述べるように、複数のドアパネルを備えた一対の対向ドアを有する構成)を有し得る。 【0017】 対向昇降路ドア28aおよび28bの対は、細長ドア支持部材30(これは、昇降路入口14の上の略水平位置で、頭壁26にしっかりと取り付けられている)により、昇降路入口14の外側に隣接して移動可能に支持されている。昇降路ドア28aおよび28bの各々は、一対のドア支持体34(これは、これらの昇降路ドアが開放および閉鎖位置間を移動するとき、このドア支持部材に沿って側方に移動する)により、ドア支持部材30に移動可能に装着されている。 【0018】 複数のシール構造体36は、昇降路入口14の回りで、昇降路ドア28aおよび28bと壁構造体10との間に配置されている。シール構造体36は、これらの昇降路ドアが閉鎖位置にあるとき、昇降路ドア28aおよび28bと壁構造体10との間の空間を実質的に密封する。従って、シール構造体36は、火災が発生した場合に、これらの空間を通る気体、煙および水の通過を制限する。昇降路ドア28aおよび28bは、これらの昇降路ドアが部分的に閉じた位置から完全に閉じた位置へと移動するにつれて、シール構造体36と密封可能に係合するように移動する。 【0019】 図2および3で最もよく分かるように、対向昇降路ドア28aおよび28bは、エレベーター箱18に隣接して示されている。昇降路ドア28aおよび28bは、開放位置(これは、想像線で示されており、エレベーター箱18へのアクセスを可能にする)と閉鎖位置(これは、実線で示されており、ここで、これらの昇降路ドアは、実質的に、昇降路入口14を覆い、そしてこのエレベーター箱および昇降路4へのアクセスを阻止する)との間で移動する。以下でさらに詳細に述べるように、シール構造体36は、昇降路ドア28aおよび28bの横上端38(図2)と頭壁26のとの間、ならびにこれらの昇降路ドアの下端40と下枠32との間に設けられている。シール構造体36はまた、昇降路ドア28aおよび28bの後縁42と、それぞれ、右および左三方枠壁24aおよび24bとの間に設けられている。 【0020】 図4および5aで最もよく分かるように、昇降路ドアシール構造体22は、横シール構造体46を包含し、これは、頭壁26にしっかりと取り付けられたほぼ三角形の形状の壁取付部分47を有する。壁取付部分47は、一般に、水平に配向されており、そして略U形の断面(図5a)を有し、これは、垂直第一脚部48(これは、頭壁26に留められている)、下部ウエブ50(これは、垂直脚部48に装着されており、そして頭壁26から離れて伸長している)、および垂直第二脚部52(これは、第一脚部から離れて間隔を空けて配置されており、そしてこの頭壁に対して二方向で角度が付けられている)により、規定されている。下部ウエブ50は、水平に伸長している縁部を有し、これは、昇降路入口14の垂直中心線と整列された頂点53(図4)から離れた二方向で、外向きに伸長している。下部ウエブ50の水平縁部は、この下部ウエブが頂点53から離れて伸長するにつれて、段々と頭壁26に近づいて配置されている。 【0021】 横シール構造体46の第二脚部52は、左および右部分52aおよび52bを有し、これらは、この水平縁部に装着されており、それに沿って伸長し、そして頂点53にて、互いに接続されている。左および右部分52aおよび52bの各々は、略垂直配向されたシール接合面52cを有し、これは、頭壁26から離れて面している。各左および右部分52aおよび52bのシール接合面52cのうち、頂点53に隣接している部分は、各個のシール接合面のうち、各個の左または右三方枠壁24aおよび24bの上に位置している側方外側部分よりも、頭壁26から遠く間隔を空けて配置されている。従って、左および右部分52aおよび52bは、それぞれ、頂点53から外向きに、そして頭壁26の方へ内向きに伸長している。 【0022】 横シール構造体46は、ドア取付部分49を有し、これは、昇降路ドア28aおよび28bが閉鎖位置にあるとき、壁取付部分47に外向きに隣接している。各ドア取付部分49は、水平脚部54(これは、各個の昇降路ドア28aおよび28bの横上端38にしっかりと取り付けられている)、および垂直脚部56(これは、この昇降路ドアの横端38から離れて上方に伸長している)を包含する。水平脚部54は、実質的に三角形の形状を有し、この三角形の斜辺は、垂直脚部56に接続されており、そして頭壁26に対して一定角度を成して、この垂直脚部は、昇降路ドア28aおよび28bが閉鎖位置にあるとき、横シール構造体の第二脚部52の各個の左および右部分52aおよび52bと実質的に平行となる。各ドア取付部分49の垂直脚部56は、その間で横空間58を設けるために、各個の左および右部分52aおよび52bの第二脚部51から離れて間隔を空けて配置されている。 【0023】 図5aで最もよく分かるように、各ドア取付部分49の垂直脚部56は、シール係合面59を有し、これは、壁取付部分47のシール接合面52cに面している。シール係合面59の各々には、細長横シール68が取り付けられ、それが取り付けられたシール係合面59と対向シール接合面52cとの間に形成された横空間58へと伸長しており、そして昇降路ドア28aおよび28bが完全に閉じた位置にあるとき、対向シール接合面52cと密封可能に係合している。昇降路ドア28aおよび28bが部分的に閉じた位置にあるとき、細長横シール68は、シール接合面52cとの係合から解かれている。 【0024】 昇降路ドア28aおよび28bが部分的に閉じた位置(図5aで示すような)と開放位置との間で側方に移動するとき、横シール68は、壁取付部分47の対向シール接合面52cとの係合が解かれたままであり、それにより、昇降路開口部14に対するこの昇降路の側方移動との摩擦抵抗を最小にする。昇降路ドア28aおよび28bが閉鎖位置に向かって移動するとき、対向シール係合面59およびシール接合面52cは、実質的に平行なままであり、その間の距離は、これらの昇降路ドアが共に近づいて移動するにつれて、この対向シール係合面およびシール接合面の角度を付けた配向のために、小さくなる。昇降路ドア28aおよび28bが完全に閉じた位置へと移動するにつれて、細長横シール68は、対向シール接合面52cに対して押し付けられ、それと密封可能に係合して、横空間58を密封し、そこを通る煙および気体の移動を防止する。好ましい実施態様では、細長横シール68の各々は、温度に耐性のある弾力性成形材料から構成されており、これは、昇降路ドア28aおよび28bが完全に閉じた位置へと移動するとき、僅かに圧縮される。 【0025】 図5bで最もよく分かるように、横シール構造体46の代替実施態様は、壁取付部分47のシール接合面52cに取り付けられた細長横シール68を有し、そして対向シール係合面59に向かって、横空間58へと伸長している。昇降路ドア28aおよび28bが完全に閉じた位置へと側方に移動するとき、ドア取付部分49のシール係合面59は、対向横シール68と密封可能に係合するように押し付けられて、横空間58を実質的に密封し、そこを通る煙および気体の移動を防止する。」(段落【0011】ないし【0025】) イ 上記ア及び図面の記載から分かること (ア)上記ア(ア)ないし(ウ)及び図1ないし5bの記載によれば、刊行物2には、エレベータシステムの昇降路ドアシール構造体22が記載されていることが分かる。 (イ)上記ア(ア)ないし(ウ)及び図1ないし5bの記載(特に、段落【0020】及び【0022】並びに図4ないし5bの記載)によれば、刊行物2記載されたエレベータシステムの昇降路ドアシール構造体22において、昇降路ドア28a,28bに対して一体的に取り付けられた横シール構造体46のドア取付部分49を備えることが分かる。 (ウ)上記ア(ア)ないし(ウ)及び図1ないし5bの記載(特に、段落【0020】及び図4ないし5bの記載)によれば、刊行物2記載されたエレベータシステムの昇降路ドアシール構造体22において、壁構造体10の昇降路入口14を規定する頭壁26に対して一体的に取り付けられた横シール構造体46の壁取付部分47を備えることが分かる。 (エ)上記ア(ア)ないし(ウ)及び図1ないし5bの記載(特に、段落【0020】ないし【0025】及び図4ないし5bの記載)によれば、刊行物2記載されたエレベータシステムの昇降路ドアシール構造体22において、ドア取付部分49と壁取付部分47とは、昇降路ドア28a,28bの全閉状態において細長横シール68を圧縮して相互に密着するようにしたことが分かる。 ウ 刊行物2記載の技術 上記ア及びイ並びに図面の記載を総合すると、刊行物2には、次の事項からなる技術(以下、「刊行物2記載の技術」という。)が記載されていると認める。 「エレベータシステムの昇降路ドアシール構造体22において、昇降路ドア28a,28bに対して一体的に取り付けられた横シール構造体46のドア取付部分49と壁構造体10の昇降路入口14を規定する頭壁26に対して一体的に取り付けられた横シール構造体46の壁取付部分47とは、昇降路ドア28a,28bの全閉状態において細長横シール68を圧縮して相互に密着するようにした技術。」 (3)本願発明1について ア 対比 本願発明1と引用発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。 ・引用発明における「かご扉9」は、本願発明1における「かごドア」に相当し、以下同様に、「遮音部材301」は「ドア側部材」に、「主柱12及び幕板13からなる枠」は「出入口枠」に、「幕板13の折返し部102」は「枠側部材」に、「かご室6内側の裏面」は「かご室内側の裏面」に、「前端部」は「前端部」に、「扉-枠間隙間」は「ドア-枠間隙間」に、「扉開時」は「戸開時」に、「昇降路1」は「昇降路」に、「スポンジゴム302」は「当接部材」に、「エレベータのかごにおける遮音構造」は「エレベータのかごにおける気密装置」に、それぞれ相当する。 ・引用発明における「扉開時、遮音部材301及び幕板13の折返し部102の間の距離と、扉-枠間隙間とは、該遮音部材301及び幕板13の折返し部102の間の距離が拡大すると、該扉-枠間隙間が縮小し、該遮音部材301及び幕板13の折返し部102の間の距離が縮小すると、該扉-枠間隙間が拡大する関係にあり」は、本願発明1における「戸開時、ドア側部材及び枠側部材の隙間と、ドア-枠間隙間とは、昇降路内の風圧又はかご室内の気圧変化により、該ドア側部材及び枠側部材の隙間が拡大すると、該ドア-枠間隙間が縮小し、該ドア側部材及び枠側部材の隙間が縮小すると、該ドア-枠間隙間が拡大する関係にあり」に、「戸開時、ドア側部材及び枠側部材の間の距離と、ドア-枠間隙間とは、該ドア側部材及び枠側部材の間の距離が拡大すると、該ドア-枠間隙間が縮小し、該ドア側部材及び枠側部材の間の距離が縮小すると、該ドア-枠間隙間が拡大する関係にあり」という限りにおいて一致する。 したがって、両者は、 「かごドアに対して一体的に設けられたドア側部材と、 出入口枠に対して一体的に設けられた枠側部材とを備え、 前記ドア側部材と前記枠側部材とは、前記かごドアが前記出入口枠に対して離れるように移動すると、相互に距離が近づくように設けられており、 前記出入口枠は、前記かごドアにおけるかご室内側の裏面に近づくように位置する前端部を有しており、前記かご室内側の前記裏面と、前記出入口枠の前記前端部との間には、ドア-枠間隙間が設けられており、 戸開時、前記ドア側部材及び前記枠側部材の間の距離と、前記ドア-枠間隙間とは、該ドア側部材及び枠側部材の間の距離が拡大すると、該ドア-枠間隙間が縮小し、該ドア側部材及び枠側部材の間の距離が縮小すると、該ドア-枠間隙間が拡大する関係にあり、 前記ドア側部材及び前記枠側部材の一方または双方は、該ドア側部材及び該枠側部材の対向面が、復元力のある当接部材で構成されたエレベータのかごにおける気密装置。」の点で一致し、次の点で相違している。 [相違点1] 「戸開時、ドア側部材及び枠側部材の間の距離と、ドア-枠間隙間とは、該ドア側部材及び枠側部材の間の距離が拡大すると、該ドア-枠間隙間が縮小し、該ドア側部材及び枠側部材の間の距離が縮小すると、該ドア-枠間隙間が拡大する関係にあ」ることに関し、本願発明1においては、「戸開時、ドア側部材及び枠側部材の隙間と、ドア-枠間隙間とは、昇降路内の風圧又はかご室内の気圧変化により、該ドア側部材及び枠側部材の隙間が拡大すると、該ドア-枠間隙間が縮小し、該ドア側部材及び枠側部材の隙間が縮小すると、該ドア-枠間隙間が拡大する関係にあ」るのに対して、引用発明においては、「扉開時、遮音部材301及び幕板13の折返し部102の間の距離と、扉-枠間隙間とは、該遮音部材301及び幕板13の折返し部102の間の距離が拡大すると、該扉-枠間隙間が縮小し、該遮音部材301及び幕板13の折返し部102の間の距離が縮小すると、該扉-枠間隙間が拡大する関係にあ」る点(以下、「相違点1」という。)。 [相違点2] 本願発明1においては、「ドア側部材と枠側部材とは、かごドアの全閉状態において当接部材を圧縮して相互に密着している」のに対して、引用発明においては、遮音部材301と幕板13の折返し部102とが、かご扉9の全閉状態においてスポンジゴム302を圧縮して密着しているか否か不明である点(以下、「相違点2」という。)。 イ 判断 (ア)事案に鑑み、相違点2について検討する。 刊行物2記載の技術は、エレベータシステムの昇降路ドアシール構造体22に関するもの、換言すれば、建築物側の乗降口に設けられたエレベータ扉の昇降路ドアシール構造体22関するものであって、所期の気密性を確保するために昇降路の内圧又はかご室内の気圧変化を考慮する必要があるエレベータのかごにおける気密装置に関するもの、換言すれば、昇降移動するエレベータのかごにおける気密装置ではない。 また、刊行物2記載の技術は、上記(2)ア(イ)の刊行物2の記載(段落【0010】の記載)によれば、火災中に、煙、気体および水が、エレベーター昇降路シャフトへと侵入するという問題点を経済的に解決することを目的とするものである。 一方、引用発明は、エレベータのかごにおける遮音構造(本願発明1の「エレベータのかごにおける気密装置」に相当。)に関するものであって、上記(1)ア(イ)の刊行物1の記載によれば、簡単な構成で外部の騒音がかご室内に侵入することを防止したエレベータを提供することを目的とするものである。 そうすると、引用発明と刊行物2記載の技術とは、前提となる使用箇所が異なるとともに、解決しようとする課題も異なるのであるから、引用発明に刊行物2記載の技術を適用する動機付けはないというべきである。 (イ)仮に、引用発明に刊行物2記載の技術を適用する動機付けがあったとしても、引用発明においては、かご扉9(本願発明1の「かごドア」に相当。以下、括弧内に本願発明1の用語又は上位概念の用語を示す。)が主柱12及び幕板13からなる枠(出入口枠)から離れる方向において、遮音部材301(ドア側部材)と幕板13の折返し部102(枠側部材)とが、スポンジゴム302(当接部材)を圧縮して相互に密着するのに対して、刊行物2記載の技術においては、昇降路ドア28a,28b(所定箇所のドア)が壁構造体10の昇降路入口14を規定する頭壁26(所定箇所の出入口を規定する枠)に近づく方向において、昇降路ドア28a,28bに対して一体的に取り付けられた横シール構造体46のドア取付部分49(所定箇所のドアに一体的に設けられたドア側部材)と壁構造体10の昇降路入口14を規定する頭壁26に対して一体的に取り付けられた横シール構造体46の壁取付部分47(所定箇所の出入口を規定する枠に対して一体的に設けられた枠側部材)とが、細長横シール68(当接部材)を圧縮して相互に密着することから、引用発明と刊行物2記載の技術とは、ドア側部材と枠側部材の密着の形態が異なることから、引用発明に刊行物2記載の技術をただちに適用することはできない。 (ウ)以上を総合すると、引用発明において、刊行物2記載の技術を適用し、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 したがって、本願発明1は、上記相違点1の検討をするまでもなく、引用発明及び刊行物2記載の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (4)まとめ 以上のとおり、本願発明1は、引用発明及び刊行物2記載の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 また、本願発明2、3、5及び6は、本願発明1をさらに限定したものであるので、同様に、引用発明及び刊行物2記載の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 また、本願発明4は、本願発明1をさらに限定したものであるので、同様に、引用発明、刊行物2記載の技術及び刊行物3記載の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 また、本願発明7は、本願発明1をさらに限定したものであるので、同様に、引用発明、刊行物2記載の技術及び刊行物4記載の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 さらに、本願発明8及び9は、本願発明1をさらに限定したものであるので、同様に、引用発明、刊行物2記載の技術及び刊行物5が例証として挙げられた周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 よって、原査定の理由によっては、本件出願を拒絶することはできない。 第4 当審拒絶理由について 1 当審拒絶理由の概要 当審拒絶理由の概要は、次のとおりである。 「本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 記 本件出願の請求項1(以下、単に「請求項1」という。)には、一方では、「前記ドア側部材及び前記枠側部材の隙間と、前記ドア-枠間隙間とは、昇降路内の風圧又はかご室内の気圧変化により、該ドア側部材及び枠側部材の隙間が拡大すると、該ドア-枠間隙間が縮小し、該ドア側部材及び枠側部材の隙間が縮小すると、該ドア-枠間隙間が拡大する関係にあり」と記載されており、請求項1に係る発明においては、「かごドア」の「全閉状態」において、「ドア側部材」と「枠側部材」との間には「隙間」があることが前提とされている。 しかし、請求項1には、他方では、「前記ドア側部材と前記枠側部材とは、前記かごドアの全閉状態において前記当接部材を圧縮して相互に密着している」と記載されており、請求項1に係る発明においては、「かごドア」の「全閉状態」において、「ドア側部材」と「枠側部材」との間には「隙間」がないことが前提とされている。 このように、請求項1においては、同時には成り立たない、相反する事象が記載されていることが明らかであるから、請求項1に係る発明は明確でなく、請求項1を引用する本件出願の請求項2ないし9に係る発明も明確でない。 なお、本件出願の明細書における発明の詳細な説明には、「【0018】・・・・・中略・・・・・ドア側部材21あるいは枠側部材23の一部を構成する当接部材25・・・・・中略・・・・・。」と記載されていることにも留意されたい。」 2 当審拒絶理由の判断 平成28年5月27日提出の手続補正書による特許請求の範囲についての補正によって、特許請求の範囲の記載における請求項1の記載は上記第2に記載したとおりのものとなった。 このことにより、本件出願の請求項1においては、同時には成り立たない、相反する事象が記載されているとはいえなくなった。 よって、当審拒絶理由は解消した。 第5 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本件出願を拒絶することはできない。 また、他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2016-09-05 |
出願番号 | 特願2013-542788(P2013-542788) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WY
(B66B)
P 1 8・ 121- WY (B66B) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 藤村 聖子 |
特許庁審判長 |
伊藤 元人 |
特許庁審判官 |
梶本 直樹 槙原 進 |
発明の名称 | エレベータのかごにおける気密装置及び気密装置を備えたエレベータのかご |
代理人 | 武井 義一 |
代理人 | 吉田 潤一郎 |
代理人 | 飯野 智史 |
代理人 | 梶並 順 |
代理人 | 曾我 道治 |
代理人 | 大宅 一宏 |
代理人 | 上田 俊一 |