• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1318830
審判番号 不服2015-1623  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-01-28 
確定日 2016-09-01 
事件の表示 特願2010-192695「半導体保持装置及びこれを備えた半導体接合装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 3月 8日出願公開,特開2012- 49470〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成22年8月30日の出願であって,平成26年2月5日付けで拒絶の理由が通知され,同年4月1日に意見書と手続補正書が提出され,同年10月23日付けで拒絶査定がされ,平成27年1月28日に前記拒絶査定に対する不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され,平成28年1月12日付けで当審から拒絶の理由を通知し,同年3月22日に意見書が提出されたものである。

第2 本願発明について
1 本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明は,平成27年1月28日に提出された手続補正書により補正された明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載されている事項により特定されるとおりのものであるところ,その内,請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は,以下のとおりである。

「【請求項1】
半導体素子を保持する保持部と,該保持部の周囲に設けられるとともに下方に向かうに従い漸次前記保持部の内側に傾斜する傾斜面を有するフードと,該フードの前記保持部の内側を向く前記傾斜面に向けて不活性ガスを吹き出す吹き出し孔とを備えるとともに,
前記フードの傾斜面と前記保持部の前記吹き出し孔が形成された面との交角が40?50°とされており,
前記保持部と,前記保持部で保持した半導体素子を接合する基板との距離を30μmとし,0.075MPaで前記不活性ガスを供給したときに,前記保持部と前記基板の間に50ppm以下の低酸素濃度の環境が形成されるように構成されていることを特徴とする半導体保持装置。」

第3 当審拒絶理由通知の概要
平成28年1月12日付けで当審から通知した拒絶理由(以下「当審拒絶理由通知」という。)の概要は,次のとおりである。

「1 本件出願は,明細書,特許請求の範囲及び図面の記載が下記の点で不備のため,特許法第36条第4項第1号,第6項第1号,第2号に規定する要件を満たしていない。


・理由 1

・備考
<途中省略>

(2)特許法第36条第6項第1号について
ア 平成26年4月1日に出願人が提出した意見書には,
「なお,この手続補正書において,手続補正1,手続補正2,手続補正3の補正は,本願の当初明細書の段落番号0031の記載,第5図の図示に基づいて行ったものであります。」,及び,
「また,このとき,本願発明1(及び本願発明2)では,『半導体素子を保持する保持部の周囲に設けられ,下方に向かうに従い漸次保持部の内側に傾斜するフードの傾斜面に向けて,吹き出し孔から不活性ガスを吹き出す構成』,すなわち,本願の第1図や第2図,第6図?第11図等のフードや吹き出し孔の形状や配置を採用すれば,本願の第5図に示した通りに『保持部と基板との距離を30μmとし,0.075MPaで不活性ガスを供給したとき,保持部と基板の間が50ppm以下の低酸素濃度の環境となるように構成』することができるのであります。
言い換えれば,『半導体素子を保持する保持部の周囲に設けられ,下方に向かうに従い漸次保持部の内側に傾斜するフードの傾斜面に向けて,吹き出し孔から不活性ガスを吹き出す構成』を採用すれば,引用文献1に何ら記載も示唆もされていない構成,作用効果を実現することができるのであります。
なお,本願発明1においては,『半導体素子を保持する保持部の周囲に設けられ,下方に向かうに従い漸次保持部の内側に傾斜するフードの傾斜面に向けて,吹き出し孔から不活性ガスを吹き出す構成』を備えていることで,本願の第5図に示す通り,不活性ガスの供給圧を0.075MPaよりも大きくすれば,保持部と基板との距離を30μmより大きくしても保持部と基板の間を50ppm以下の低酸素濃度の環境にできることが実証されているのであります。」(下線は,当審で付与した。以下同じ。)との記載がある。

イ そうすると,請求項1の「前記保持部と,前記保持部で保持した半導体素子を接合する基板との距離を30μmとし,0.075MPaで前記不活性ガスを供給したときに,前記保持部と前記基板の間に50ppm以下の低酸素濃度の環境が形成されるように構成されている」との規定は,本願の当初明細書の【0031】の記載,及び,図5を根拠とするものであり,かつ,当該図5によって示される,「本願の第5図に示した通りに『保持部と基板との距離を30μmとし,0.075MPaで不活性ガスを供給したとき,保持部と基板の間が50ppm以下の低酸素濃度の環境となるように構成』することができる」という効果は,「本願の第1図や第2図,第6図?第11図等のフードや吹き出し孔の形状や配置を採用すれば」という条件の下で初めて成り立つことが理解できる。

ウ そこで,発明の詳細な説明の記載を検討すると,発明の詳細な説明には,図5について,以下の記載がある。
「【0024】
本実施形態の半導体接合装置Aは,図1及び図2に示すように,半導体素子(半導体の個片,半導体チップ)1を吸着保持する半導体保持装置Bと,基板2を保持する基板保持部と,半導体素子1を加熱して基板2に接合するためのヒータと,不活性ガス源と,不活性ガス源を制御する制御装置とを備えて構成されている。
【0025】
また,半導体保持装置Bは,搭載ヘッド(不図視)に吸着あるいは他の方法で保持されるフード付コレットであり,半導体素子1を吸着保持する保持部3と,この保持部3の周囲に設けられるとともに下方に向かうに従い漸次保持部3の内側に傾斜する傾斜面4aを有するフード(庇,庇構造)4と,保持部3の内側を向くフード4の傾斜面4aに向けて不活性ガス5を吹き出す吹き出し孔6とを備えて形成されている。さらに,吹き出し孔6に不活性ガス源が接続され,制御装置によって不活性ガス源が制御されて,半導体素子1を基板2に接合する接合時に吹き出し孔6から不活性ガス5が噴出するように構成されている。
【0026】
保持部3は,その中央部に,半導体素子1を吸着固定するための真空孔(吸気孔)7を備えたフラット部8が設けられている。また,このフラット部8の周囲に,フラット部8に対し凹設された掘り込み溝9を備える掘り込み部10が形成されている。そして,この掘り込み溝9が形成された外周側部分(掘り込み部10)に,保持部3の搭載ヘッド(不図示)に固定する一面3aから掘り込み溝9の他面3bに開口(貫通)して吹き出し孔6が形成されている。また,本実施形態では,このように形成された保持部3の一面3a側(背面側)にヒータが設けられている。
【0027】
一方,フード4は,窒化アルミニウム,金属あるいは樹脂で形成されるとともに,保持部3の外周縁に接続した後端から先端に向かうに従い漸次下方に,且つ漸次保持部3の内側に向かうように傾斜して形成されている。なお,フード4は,その傾斜面4aと掘り込み部10の他面3bの交角θが40?50°となるように形成されていることが望ましい。
【0028】
さらに,本実施形態において,フード4は,傾斜面4aが吹き出し孔6の直下に延設され,保持部3の他面3bを内包するように形成されている。また,このフード4は,保持部3のフラット部8で半導体素子1を保持した状態において,その先端が半導体素子1の実装面(接合部11)よりも上方に位置するように形成されている。
【0029】
このように構成した本実施形態の半導体保持装置B及び半導体接合装置Aにおいては,半導体保持装置Bが半導体素子1上に移動するとともに真空孔7を真空吸引することで,半導体素子1がフラット部8に吸着固定される。
【0030】
そして,半導体保持装置Bが基板2の所定位置に移動するとともに,半導体素子1が基板2上(基板2に塗布した接着剤や半田を設けた接続配線上)に接するように下降した段階で,制御装置で制御した不活性ガス源から吹き出し孔6に不活性ガス5が供給され,この不活性ガス5が吹き出し孔6から噴出する。
【0031】
このとき,本実施形態の半導体保持装置Bにおいては,保持部3の外周側にフード4が設けられ,また,フード4の傾斜面4aに向けて不活性ガス5が吹き出すように吹き出し孔6が形成されている。このため,図3及び図4に示すように,噴出した不活性ガス5がフード4の傾斜面4aに当たり,フード4で囲まれた掘り込み溝9を通じ,フード4に案内されて,半導体素子1と基板2の間に向けて不活性ガス5が流れてゆく。これにより,図5の酸素濃度測定結果のように,半導体素子1と基板2の接合部11の周囲が不活性ガス5で満たされ,半導体素子1の全域にわたって均一な低酸素濃度の環境が形成される。」

エ すなわち,発明の詳細な説明には,「図1及び図2に示すよう」な,
「半導体素子1を吸着保持する保持部3と,この保持部3の周囲に設けられるとともに下方に向かうに従い漸次保持部3の内側に傾斜する傾斜面4aを有するフード(庇,庇構造)4と,保持部3の内側を向くフード4の傾斜面4aに向けて不活性ガス5を吹き出す吹き出し孔6とを備えて形成されている」「半導体保持装置B」であって,
保持部3は,その中央部に,半導体素子1を吸着固定するための真空孔(吸気孔)7を備えたフラット部8」と,「このフラット部8の周囲に,フラット部8に対し凹設された掘り込み溝9を備える掘り込み部10」と,「この掘り込み溝9が形成された外周側部分(掘り込み部10)に,保持部3の搭載ヘッド(不図示)に固定する一面3aから掘り込み溝9の他面3bに開口(貫通)して吹き出し孔6」とを備えるものであり,
「傾斜面4aが吹き出し孔6の直下に延設され,保持部3の他面3bを内包するように形成され」,「保持部3のフラット部8で半導体素子1を保持した状態において,その先端が半導体素子1の実装面(接合部11)よりも上方に位置するように形成されている」,「傾斜面4aと掘り込み部10の他面3bの交角θが40?50°となるように形成され」た「フード4」を備えた「半導体保持装置B」が,
フラット部8に,半導体素子1を吸着固定し,半導体素子1が基板2上(基板2に塗布した接着剤や半田を設けた接続配線上)に接するように下降した段階で,制御装置で制御した不活性ガス源から吹き出し孔6に不活性ガス5が供給され,この不活性ガス5が吹き出し孔6から噴出するときに,噴出した不活性ガス5がフード4の傾斜面4aに当たり,フード4で囲まれた掘り込み溝9を通じ,フード4に案内されて,半導体素子1と基板2の間に向けて不活性ガス5が流れてゆくことにより,
図5の酸素濃度測定結果のように,半導体素子1と基板2の接合部11の周囲が不活性ガス5で満たされ,半導体素子1の全域にわたって均一な低酸素濃度の環境が形成されることが記載されていることが理解される。

オ そうすると,発明の詳細な説明の記載からは,上記エに記載される特定の構造(形状や配置)を有する半導体保持装置において,図5に示されるような効果が奏されることを認め得たとしても,これ以外の構造,例えば,「半導体素子を吸着するフラット部」「を取り囲むように設けられるとともに前記フラット部に対し凹設された」,「吹き出し孔が」「開口して備えられている」「掘り込み部」を備えていないような半導体保持装置,すなわち,図1,図2に示されるようなフラット部8,フード4の形状及び吹き出し孔6の配置を備えていない半導体保持装置においてまでも,図5に示される効果を奏するとまでは認めることはできない。

カ すなわち,出願時の技術常識に照らしても,請求項1に係る発明の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとは認められない。
したがって,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものであるとは認められない。」

第4 当審の判断
1 本願発明1の構成
本願の特許請求の範囲の請求項1(以下「本願請求項1」という。)の記載によれば,本願発明1の「保持部」について,本願請求項1には,「半導体素子を保持する」こと,及び「フードの前記保持部の内側を向く前記傾斜面に向けて不活性ガスを吹き出す吹き出し孔」が形成された面があることが,それぞれ発明特定事項として記載されているだけで,その他の発明特定事項は記載されていない。
また,本願の特許請求の範囲の請求項2には,本願発明1の「保持部」について,更に,「半導体素子を吸着するフラット部と,該フラット部を取り囲むように設けられるとともに前記フラット部に対し凹設された掘り込み部とを備え,前記吹き出し孔が前記掘り込み部に開口して備えられている」との発明特定事項が記載されている。
そうすると,本願請求項1の記載より,本願発明1は,「半導体素子を保持する保持部」であって,「フードの前記保持部の内側を向く前記傾斜面に向けて不活性ガスを吹き出す吹き出し孔」が形成された面を有し,その他の構成は任意である「保持部」を備えた「半導体保持装置」において,「前記フードの傾斜面と前記保持部の前記吹き出し孔が形成された面との交角が40?50°とされており,前記保持部と,前記保持部で保持した半導体素子を接合する基板との距離を30μmとし,0.075MPaで前記不活性ガスを供給したときに,前記保持部と前記基板の間に50ppm以下の低酸素濃度の環境が形成されるように構成され」た「半導体保持装置」を包含すると認められる。
すなわち,本願発明1は,上記「保持部」が,「半導体素子を吸着するフラット部と,該フラット部を取り囲むように設けられるとともに前記フラット部に対し凹設された掘り込み部とを備え,前記吹き出し孔が前記掘り込み部に開口して備えられ」たとの構成を有し,「前記フードの傾斜面と前記保持部の前記吹き出し孔が形成された面との交角が40?50°とされており,前記保持部と,前記保持部で保持した半導体素子を接合する基板との距離を30μmとし,0.075MPaで前記不活性ガスを供給したときに,前記保持部と前記基板の間に50ppm以下の低酸素濃度の環境が形成されるように」された「半導体保持装置」と,上記「保持部」が上記の「半導体素子を吸着するフラット部と,該フラット部を取り囲むように設けられるとともに前記フラット部に対し凹設された掘り込み部とを備え,前記吹き出し孔が前記掘り込み部に開口して備えられ」たとの構成を有しておらず,「前記フードの傾斜面と前記保持部の前記吹き出し孔が形成された面との交角が40?50°とされており,前記保持部と,前記保持部で保持した半導体素子を接合する基板との距離を30μmとし,0.075MPaで前記不活性ガスを供給したときに,前記保持部と前記基板の間に50ppm以下の低酸素濃度の環境が形成されるように」された「半導体保持装置」の両方を包含すると認められる。

2 「発明の詳細な説明」の記載
他方,本願明細書の発明の詳細な説明には,本願発明1において,発明が解決しようとする課題,フードの傾斜面と保持部の吹き出し孔が形成された面との交角,及び,所定の条件下で保持部と基板の間に形成される酸素濃度の環境について,以下の(1)ないし(4)の記載がある。

(1)発明が解決しようとする課題について
「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら,上記従来の半導体接合装置においては,半導体素子の接合部に不活性ガスを吹き付けることができず,接合部に低酸素濃度の環境を作り出せないおそれがあった。すなわち,保持した半導体素子の側面に対し,不活性ガスを斜方に吹き付けるように構成されているため,不活性ガスの流れが妨げられて接合部に低酸素濃度の環境を作り出せないおそれがあった。」

(2)フードの傾斜面と保持部の吹き出し孔が形成された面との交角について
「【0024】
本実施形態の半導体接合装置Aは,図1及び図2に示すように,半導体素子(半導体の個片,半導体チップ)1を吸着保持する半導体保持装置Bと,基板2を保持する基板保持部と,半導体素子1を加熱して基板2に接合するためのヒータと,不活性ガス源と,不活性ガス源を制御する制御装置とを備えて構成されている。
【0025】
また,半導体保持装置Bは,搭載ヘッド(不図視)に吸着あるいは他の方法で保持されるフード付コレットであり,半導体素子1を吸着保持する保持部3と,この保持部3の周囲に設けられるとともに下方に向かうに従い漸次保持部3の内側に傾斜する傾斜面4aを有するフード(庇,庇構造)4と,保持部3の内側を向くフード4の傾斜面4aに向けて不活性ガス5を吹き出す吹き出し孔6とを備えて形成されている。さらに,吹き出し孔6に不活性ガス源が接続され,制御装置によって不活性ガス源が制御されて,半導体素子1を基板2に接合する接合時に吹き出し孔6から不活性ガス5が噴出するように構成されている。
【0026】
保持部3は,その中央部に,半導体素子1を吸着固定するための真空孔(吸気孔)7を備えたフラット部8が設けられている。また,このフラット部8の周囲に,フラット部8に対し凹設された掘り込み溝9を備える掘り込み部10が形成されている。そして,この掘り込み溝9が形成された外周側部分(掘り込み部10)に,保持部3の搭載ヘッド(不図示)に固定する一面3aから掘り込み溝9の他面3bに開口(貫通)して吹き出し孔6が形成されている。また,本実施形態では,このように形成された保持部3の一面3a側(背面側)にヒータが設けられている。
【0027】
一方,フード4は,窒化アルミニウム,金属あるいは樹脂で形成されるとともに,保持部3の外周縁に接続した後端から先端に向かうに従い漸次下方に,且つ漸次保持部3の内側に向かうように傾斜して形成されている。そして,フード4は,その傾斜面4aと掘り込み部10の他面(保持部3の吹き出し孔6が形成された面)3bの交角θが40?50°となるように形成されていることが望ましい。」

(3)所定の条件下で保持部と基板の間に形成される酸素濃度の環境について
「【0031】
このとき,本実施形態の半導体保持装置Bにおいては,保持部3の外周側にフード4が設けられ,また,フード4の傾斜面4aに向けて不活性ガス5が吹き出すように吹き出し孔6が形成されている。このため,図3及び図4に示すように,噴出した不活性ガス5がフード4の傾斜面4aに当たり,フード4で囲まれた掘り込み溝9を通じ,フード4に案内されて,半導体素子1と基板2の間に向けて不活性ガス5が流れてゆく。これにより,図5の酸素濃度測定結果のように,保持部3と基板2との距離を30μmとし,0.075MPaで不活性ガス5を供給するようにした場合であっても,保持部3と基板2の間に50ppm以下の低酸素濃度の環境が形成される。すなわち,半導体素子1と基板2の接合部11の周囲が不活性ガス5で満たされ,半導体素子1の全域にわたって均一な低酸素濃度の環境が形成される。」

(4)本願に係る発明の変形例について
「【0042】
すなわち,図6や図7に示すように不活性ガス5の流入口径よりも流出口径(吹き出し溝8に開口する噴出口径)を大きくしたり,逆に流入口径よりも流出口径を小さくして吹き出し孔6が形成されていてもよい。そして,この場合には,流入口径と流出口径をそれぞれ適宜設定することで,吹き出し孔6から噴出する不活性ガス5の流量,流速を調節でき,半導体素子1の接合部11に低酸素濃度の環境を確実に作り出して好適に接合を行うことが可能になる。
【0043】
また,図8に示すように,保持部3の一面3aから他面3bに向けて斜めに貫設するように吹き出し孔6を形成してもよい。この場合には,吹き出し孔6から不活性ガス5がフード4の傾斜面4aに当たることで,半導体素子1の接合部11は勿論,半導体素子1の周囲を確実に低酸素濃度の環境にすることが可能になる。
【0044】
さらに,図9,図10,図11に示すように,吹き出し部10の吹き出し孔6から外周側の他面3b部分とフード4の保持部3(フラット部8)側を向く面4aとの間の隙間Hを埋めるようにしてもよい。この場合には,吹き出し孔6から噴出した不活性ガス5がこの隙間Hで回旋することをなくすることができ,流入径路上での不活性ガス5の流速の減衰を少なく抑えることが可能になる。このため,低酸素濃度の環境にするまでの時間を短縮することができる。また,製作の容易性が向上し,安価に半導体保持装置Bを製造することが可能になる。」

・また,本願の図面の図6ないし図11には,いずれも,半導体素子を保持する保持部が,半導体素子を吸着するフラット部と,該フラット部を取り囲むように設けられるとともに前記フラット部に対し凹設された掘り込み部とを備え,前記吹き出し孔が前記掘り込み部に開口して備えられている構成を有する本発明の一実施形態に係る半導体保持装置(半導体接合装置)の変形例を示す断面図が記載されている。

3 判断
ア 上記2より本願明細書の発明の詳細な説明には,「半導体素子を保持する保持部」であって,「フードの前記保持部の内側を向く前記傾斜面に向けて不活性ガスを吹き出す吹き出し孔」が形成された面を有する「保持部」が,「半導体素子を吸着するフラット部と,該フラット部を取り囲むように設けられるとともに前記フラット部に対し凹設された掘り込み部とを備え,前記吹き出し孔が前記掘り込み部に開口して備えられ」たとの構成を有する「半導体保持装置」において,フードの傾斜面と掘り込み部の他面(保持部の吹き出し孔が形成された面)の交角が40?50°となるように形成する(【0026】,【0027】)ことで,図3及び図4に示すように,噴出した不活性ガスがフードの傾斜面に当たり,フードで囲まれた掘り込み溝を通じ,フードに案内されて,半導体素子と基板の間に向けて不活性ガスが流れ,これにより,図5の酸素濃度測定結果のように,保持部と基板との距離を30μmとし,0.075MPaで不活性ガスを供給するようにした場合であっても,保持部と基板の間に50ppm以下の低酸素濃度の環境が形成される,すなわち,半導体素子と基板の接合部の周囲が不活性ガスで満たされ,半導体素子の全域にわたって均一な低酸素濃度の環境が形成される(【0031】,図3ないし図5)ことが記載されていると認められる。
さらに,上記2より,本願明細書の発明の詳細な説明における,本願に係る発明の一実施形態に係る半導体保持装置の変形例(【0042】ないし【0044】,図6ないし11)においても,専ら,上記「保持部」が,「半導体素子を吸着するフラット部と,該フラット部を取り囲むように設けられるとともに前記フラット部に対し凹設された掘り込み部とを備え,前記吹き出し孔が前記掘り込み部に開口して備えられ」たとの構成を有する半導体保持装置における,吹き出し孔の形状及び向き,並びにフードの保持部側を向く面と保持部の他面との隙間の埋め込みの変形例が記載されていると認められる。

イ これに対し,「半導体素子を保持する保持部」が「半導体素子を吸着するフラット部と,該フラット部を取り囲むように設けられるとともに前記フラット部に対し凹設された掘り込み部とを備え,前記吹き出し孔が前記掘り込み部に開口して備えられている」との構成を有していない半導体保持装置,例えば,「半導体素子を保持する保持部」が,「半導体素子を吸着するフラット部と,該フラット部を取り囲むように設けられるとともに前記フラット部と同一の平面をなす外周部とを備え,前記吹き出し孔が前記外周部に開口して備えられている」との構成を有する半導体保持装置では,前記不活性ガスは,前記「フラット部と同一の平面をなす外周部」の表面と,前記フードの先端縁部とによって画定される開口から,前記外周部が含まれる平面の表面に沿って噴出し,前記半導体素子の側面に直接吹き付けるように構成されていることとなる。

ウ しかしながら,このような,「フラット部と同一の平面をなす外周部」の表面と,前記フードの先端縁部とによって画定される開口から,前記外周部が含まれる平面の表面に沿って不活性ガスが噴出し,前記半導体素子の側面に直接吹き付ける構成を備えた半導体保持装置においては,本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたような,噴出した不活性ガスがフードの傾斜面に当たり,フードで囲まれた掘り込み溝を通じ,フードに案内されて,半導体素子と基板の間に向けて不活性ガスが流れることにはならず,前記「フラット部と同一の平面をなす外周部」の表面と,前記フードの先端縁部とによって画定される開口から噴出した不活性ガスは,保持した半導体素子の側面に対し,直接吹き付けることから,当該半導体素子によって前記不活性ガスの流れが妨げられて,接合部に低酸素濃度の環境を作り出せないおそれがあることは,当該技術分野における技術常識,及び,本願明細書の発明の詳細な説明の【0008】等の記載に照らせば明らかであるから,半導体素子を保持する保持部と,該保持部の周囲に設けられるとともに下方に向かうに従い漸次前記保持部の内側に傾斜する傾斜面を有するフードと,該フードの前記保持部の内側を向く前記傾斜面に向けて不活性ガスを吹き出す吹き出し孔とを備えた半導体保持装置において,フードの傾斜面と保持部の吹き出し孔が形成された面との交角が40?50°となるように形成することで,図5の酸素濃度測定結果のように,保持部と基板との距離を30μmとし,0.075MPaで不活性ガスを供給するようにした場合であっても,保持部と基板の間に50ppm以下の低酸素濃度の環境が形成される,すなわち,半導体素子と基板の接合部の周囲が不活性ガスで満たされ,半導体素子の全域にわたって均一な低酸素濃度の環境が形成されるとは認められない。

エ そうすると,本願明細書の発明の詳細な説明には,「半導体素子を保持する保持部」であって,「フードの前記保持部の内側を向く前記傾斜面に向けて不活性ガスを吹き出す吹き出し孔」が形成された面を有する「保持部」が,「半導体素子を吸着するフラット部と,該フラット部を取り囲むように設けられるとともに前記フラット部に対し凹設された掘り込み部とを備え,前記吹き出し孔が前記掘り込み部に開口して備えられ」たとの構成を有する「半導体保持装置」において,フードの傾斜面と掘り込み部の他面(保持部の吹き出し孔が形成された面)の交角が40?50°となるように形成することで,図5の酸素濃度測定結果のように,保持部と基板との距離を30μmとし,0.075MPaで不活性ガスを供給するようにした場合であっても,保持部と基板の間に50ppm以下の低酸素濃度の環境が形成されることが記載されていると認められるにとどまり,当該技術分野における技術常識を参酌しても,本願明細書の発明の詳細な説明には,上記「保持部」が,「半導体素子を吸着するフラット部と,該フラット部を取り囲むように設けられるとともに前記フラット部に対し凹設された掘り込み部とを備え,前記吹き出し孔が前記掘り込み部に開口して備えられ」との構成を有していない「半導体保持装置」において,フードの傾斜面と保持部の吹き出し孔が形成された面との交角が40?50°となるように形成することで,図5の酸素濃度測定結果のように,保持部と基板との距離を30μmとし,0.075MPaで不活性ガスを供給するようにした場合であっても,保持部と基板の間に50ppm以下の低酸素濃度の環境が形成されることが記載されているとは認められない。

オ 上記1のとおり,本願発明1は,「半導体素子を保持する保持部」であって,「フードの前記保持部の内側を向く前記傾斜面に向けて不活性ガスを吹き出す吹き出し孔」が形成された面を有すること以外の構成は任意である「保持部」を備えた「半導体保持装置」において,「半導体素子を吸着するフラット部と,該フラット部を取り囲むように設けられるとともに前記フラット部に対し凹設された掘り込み部とを備え,前記吹き出し孔が前記掘り込み部に開口して備えられ」たとの構成を有しておらず,「前記フードの傾斜面と前記保持部の前記吹き出し孔が形成された面との交角が40?50°とされており,前記保持部と,前記保持部で保持した半導体素子を接合する基板との距離を30μmとし,0.075MPaで前記不活性ガスを供給したときに,前記保持部と前記基板の間に50ppm以下の低酸素濃度の環境が形成されるように」された「半導体保持装置」を包含すると認められる。
他方,上記アないしオのとおり,当該技術分野における技術常識を参酌しても,本願明細書の発明の詳細な説明には,「半導体素子を保持する保持部」であって,「フードの前記保持部の内側を向く前記傾斜面に向けて不活性ガスを吹き出す吹き出し孔」が形成された面を有する「保持部」が,「半導体素子を吸着するフラット部と,該フラット部を取り囲むように設けられるとともに前記フラット部に対し凹設された掘り込み部とを備え,前記吹き出し孔が前記掘り込み部に開口して備えられ」たとの構成を有していない「半導体保持装置」において,フードの傾斜面と保持部の吹き出し孔が形成された面との交角が40?50°となるように形成することで,図5の酸素濃度測定結果のように,保持部と基板との距離を30μmとし,0.075MPaで不活性ガスを供給するようにした場合であっても,保持部と基板の間に50ppm以下の低酸素濃度の環境が形成されることが記載されているとは認められない。
そうすると,本願発明1は,本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたものとは認められず,本願発明1は,本願明細書の発明の詳細な説明に記載された発明の範囲を超えるものと認められる。

カ 以上から,本願の特許請求の範囲の請求項1は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するとはいえない。

4 請求人の主張について
請求人は,平成28年3月22日に提出した意見書において,次のように主張する。
「特許法第70条の規定の通り,図面は,特許発明の技術的範囲を特定するために参酌するためのものなのであるから,平成26年4月1日付け意見書における『本願の当初明細書の段落番号0031の記載,第5図の図示に基づいて』,『本願の第1図や第2図,第6図?第11図等のフードや吹き出し孔の形状や配置を採用すれば』,『本願の第5図に示す通り,・・・・実証されている』の記載は,当然に,『『例えば,』本願の当初明細書の段落番号0031の記載,第5図の図示に基づいて』,『『例えば,』本願の第1図や第2図,第6図?第11図等のフードや吹き出し孔の形状や配置を採用すれば』,『『例えば,』本願の第5図に示す通り,・・・・実証されている』の意であります。
言い換えれば,当然に,『図1に記載されたフード4の角度が0.1°異なっていたら』,『保持部3,フラット部8の相対的な厚さが図1と厳密的に異なっていたら』,本願発明の作用効果が得られないというものではないのであって,『請求項1は,本願の当初明細書の段落番号0031の記載,及び,図5を根拠とするものであり,かつ,図5によって示される『50ppm以下の低酸素濃度の環境となるように構成することができる』という効果は,『本願の第1図や第2図,第6図?第11図等のフードや吹き出し孔の形状や配置を採用すれば』という条件の下で初めて成り立つことが理解できる。』とすること自体に,あまりに無理があり過ぎると言わざるを得ません。」

しかし,請求人の前記の主張を採用することはできない。その理由は以下のとおりである。
すなわち,当審拒絶理由通知の趣旨は,「発明の詳細な説明の記載からは,上記エに記載される特定の構造(形状や配置)を有する半導体保持装置において,図5に示されるような効果が奏されることを認め得たとしても,これ以外の構造,例えば,『半導体素子を吸着するフラット部』『を取り囲むように設けられるとともに前記フラット部に対し凹設された』,『吹き出し孔が』『開口して備えられている』『掘り込み部』を備えていないような半導体保持装置,すなわち,図1,図2に示されるようなフラット部8,フード4の形状及び吹き出し孔6の配置を備えていない半導体保持装置においてまでも,図5に示される効果を奏するとまでは認めることはできない。
・・・すなわち,出願時の技術常識に照らしても,請求項1に係る発明の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとは認められない。」(当審拒絶理由通知1(2)オ及びカ)というものであって,請求人の主張するような「『図1に記載されたフード4の角度が0.1°異なっていたら』,『保持部3,フラット部8の相対的な厚さが図1と厳密的に異なっていたら』,本願発明の作用効果が得られない」というものではないから,前記請求人の主張はその前提を欠くものである。
そして,前記3のとおり,本願請求項1に係る発明が本願明細書の発明の詳細な説明に記載された発明とは認められない。

第5 むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものではないから,本願は,特許請求の範囲の記載が,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって,本願の他の請求項に係る発明については検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-06-28 
結審通知日 2016-07-05 
審決日 2016-07-19 
出願番号 特願2010-192695(P2010-192695)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 関根 崇  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 加藤 浩一
柴山 将隆
発明の名称 半導体保持装置及びこれを備えた半導体接合装置  
代理人 森 隆一郎  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 松尾 直樹  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ