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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1318896
審判番号 不服2015-4813  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-11 
確定日 2016-09-09 
事件の表示 特願2010-547246「環状シトルリン化ペプチドに対する抗体のアッセイ方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 8月27日国際公開、WO2009/103988、平成23年 5月 6日国内公表、特表2011-514517〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成21年2月20日(パリ条約による優先権主張 平成20年2月20日 英国,平成20年4月18日 米国)を国際出願日とする国際特許出願であって,平成24年12月11日付けで拒絶理由が通知され,平成25年6月18日に意見書及び手続補正書が提出され,同年11月29日付けで最後の拒絶理由が通知され,平成26年6月5日に意見書が提出されたが,同年11月5日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成27年3月11日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに,それと同時に手続補正がなされたものである。

第2 本願発明について
1 平成27年3月11日付けの手続補正について
平成27年3月11日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,補正前の請求項1の「前記サンプルと少なくとも一つ試薬とを混合して」という記載を,「前記サンプルと少なくとも一つの試薬とを混合して」(下線は補正箇所を示す。以下,同様である。)と補正し,試薬の数を明りょうにするものである。
そして,補正前の請求項1の「前記抗CCPバインダーは少なくとも一つのCCPペプチドであり」を,「前記抗CCPバインダーは少なくとも一つのCCPペプチド抗原であり」と補正することは,「抗CCPバインダー」であるところの「抗CCP抗体」に結合する「CCPペプチド」が,該抗体に結合する「抗原」であることを明りょうにするものである。
そうすると,請求項1に係るいずれの補正事項も,特許法第17条の2第5項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
したがって,本件補正は,特許法17条の2第5項の規定に適合する。

2 本願発明
以上のことから,本願の請求項1ないし13に係る発明は,本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定されるものと認める。そのうち,請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。
なお,(a)?(f)の見出し記号は,当審で付記したものである。
「 【請求項1】
臨床サンプル中の抗CCP抗体をアッセイする方法であって,
(a)前記臨床サンプルは,血液,血液製剤,血清,血漿,尿,脳脊髄液,口腔液,滑液および気腫液から選択され,
(b)前記サンプルを,直径が10?250nmの単分散金属又は高分子ナノ粒子に固定化された抗CCP抗体の特異的バインダーを少なくとも1つ含む少なくとも1つのホモジニアス試薬に接触させることで,ホモジニアスサンプル混合物において抗CCP結合パートナー複合体の溶液または懸濁液を形成する工程と,
(c)ホモジニアス液相の前記抗CCP結合パートナー複合体の存在またはレベルを検出する工程とを含み,
(d)前記検出は,タービジメトリーによって行われ,
(e)前記方法において,前記サンプルと少なくとも一つの試薬とを混合してシグナルを生成し,相分離を伴う分離または洗浄工程を行うことなく,そのシグナルを検出し,
(f)前記抗CCPバインダーは少なくとも一つのCCPペプチド抗原であり,2又はそれ以上の前記ペプチドは各粒子に結合している,方法。」

第3 引用刊行物及びその記載事項
1 刊行物1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先権主張日前に頒布された特表2007-515647号公報(以下,「刊行物1」という。)には,抗CCP抗体およびインターロイキン6の測定による慢性関節リウマチの評価方法について,次の事項が図面とともに記載されている。(下線は当審で付与。)
(刊1ア)「 【0028】
シトルリン酸化されたペプチドは,RAを有する患者の血清中に発見されるような非常に重要な自己抗体についての抗原である。それらは複数の研究者群により過去何年間かにわたり集中的に研究されている(例えば,WO 98/08946; WO 98/22503; WO 99/28344; WO 99/35167, WO 01/46222, およびWO 03/050542)。近年Schellekensおよび共同研究者ら(Schellekens, G.A., Arthritis Rheum. 43 (2000) 155-163)により,直鎖状のペプチドを用いた同じアッセイと比較すると,特異的な環状シトルリン酸化ペプチド(CCP)に基づくELISA試験により,RAの診断の正確さに関して優れた性能特性が示されることが報告された。
【0029】
CCPに対する自己抗体は,すなわち,ほとんどがおそらく,患者血清中で循環しているシトルリン酸化されたペプチドに反応性のある,インビトロアッセイ中でCCPに結合する抗体であり,「抗CCP」と呼ばれる。」

(刊1イ)「【0031】
CCPに結合する抗体,すなわち抗CCPは血清学的アッセイで測定される。好ましくはかかるアッセイは,抗原として一つ以上のCCPを用いることおよび試料中に含まれる抗CCP抗体のCCP抗原に対する結合を適切な手段によって,検出することにより構成される。
【0032】
検出の好ましい手段は,特異的な結合アッセイ,特にイムノアッセイ法である。イムノアッセイ法は当業者に周知である。」

(刊1ウ)「【0033】
抗CCP抗体は,例えば,CCPでコートしたラテックス粒子の凝集化による同種のアッセイ形式により検出され得る。」

(刊1エ)「【0034】
好ましくは,不均一系イムノアッセイ法により抗CCPを測定する。かかる異種の測定は,直接または間接的に固相をCCPで覆うこと,抗CCP抗体がCCPに結合可能な条件下で,固相と抗CCP抗体を含むと分かっているまたは予想される試料をインキュベートすること,および直接または間接的に抗CCP抗体の結合を検出することに基づいている。さらなるアッセイ形式はいわゆる二重抗原ブリッジアッセイ(double antigen bridge assay)法であり,抗CCP測定の場合に,CCPはイムノアッセイ法の検出側と固相側の両方において用いられ患者試料中の自己抗体はこれらの「二重」抗原間の架橋を形成する。必要または適当な場合,洗浄の工程を異種のイムノアッセイ法を行う時間に含める。」

(刊1オ)「【0091】
実施例2
測定したマーカー
表2は,使用したアッセイの選択を示し,研究形式ならびにアッセイの供給業者を示す。アッセイのほとんどは,手動式マイクロタイタープレート形式(=MTP)ELISAであった。RFおよびCRPを,同じような試験形式で自動Hitachiアナライザーにて測定した。血清試料のマーカー濃度を,これらの市販のアッセイにより,患者ならびに対照について測定した。
【0092】
【表2】 (表省略) 」

2 刊行物1に記載された発明
(1)上記(刊1ア)に抗CCP抗体(抗CCP)が患者血清中で循環している抗体であること,そして上記(刊1イ)に「抗CCP抗体(抗CCP)は血清学アッセイで測定される」ことが記載されているから,「患者血清試料中の抗CCP抗体をアッセイする方法」についての発明が記載されていると理解される。

(2)上記(刊1イ)に,血清学アッセイで測定される抗CCP抗体(抗CCP)は,「抗原として一つ以上のCCPを用いることおよび試料中に含まれる抗CCP抗体のCCP抗原に対する結合を適切な手段によって検出する」「イムノアッセイ法」で検出されることが記載されている。

(3)上記(刊1エ)に「不均一系イムノアッセイ法により抗CCPを測定する」ことが,そして(刊1オ)に「ELISA」による実施例が記載されている。
他方,上記(刊1ウ)には,「抗CCP抗体は,例えば,CCPでコートしたラテックス粒子の凝集化による同種のアッセイ形式により検出され得る。」と記載されているものの,具体的な実施例は刊行物1に記載されていないが,例示として,前記(刊1ウ)の記載があるのだから,当業者であれば,抗CCP抗体が,「CCPでコートしたラテックス粒子の凝集化による同種のアッセイ形式」,すなわち,ホモジニアスなアッセイ形式により検出され得る発明が刊行物1に記載されていると認識できることは明らかである。

(4)そして,そのアッセイの検出が,前記抗CCP抗体の結合パートナーであるCCP抗原と抗CCP抗体との複合体の存在またはレベルを検出することになることも,当業者であれば普通に理解できることである。

(4)以上のことを整理すると,刊行物1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「 患者血清試料中の抗CCP抗体をアッセイする方法であって,
(I)抗CCP抗体を,CCP抗原でコートしたラテックス粒子の凝集化によるホモジニアスなアッセイ形式により検出するために,前記血清サンプルを,CCP抗原でコートしたラテックス粒子に接触させることで,抗CCP抗体の結合パートナーであるCCP抗原と抗CCP抗体との複合体を形成する工程と,
(II)前記接触により生じるサンプル混合物の抗CCP抗体の結合パートナーであるCCP抗原と抗CCP抗体との複合体の存在またはレベルを検出する工程,と
を含む方法。」

3 刊行物3の記載事項
同じく,原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先権主張日前に頒布された特開昭62-218865号公報(以下,「刊行物3」という。)には,リウマチ因子の定量法について,次の事項が記載されている。(下線は,当審で付与。)

(刊3ア)「こういつた動向から低濃度の各種血漿蛋白の測定には免疫ラテツクス凝集法が開発されてきている(特公昭58-11575号公報,特開昭53-62826号公報)。
(発明が解決しようとする問題点)
免疫ラテツクス凝集法はレーザー光を用いるので高感度ではある」(第2頁左上欄5行?11行)

(刊3イ)「上記試料としては,血清等がある。
上記の不溶性担体としては,診断用ポリスチレン系ラテツクス粒子等公知のものが使用でき,該担体にヒト-γグロブリンを物理的又は化学的に吸着させてヒト-γグロブリンが感作された不溶性担体とされる。不溶性担体は,測定感度向上の点から,粒径が0.05?0.2μmであるのが好ましい。」(第2頁右上欄9行?16行)

(刊3ウ)「上記ラテツクス凝集反応開始後,混合液の光学的強度が適当な波長を選択して測定される。
ここで,光学的強度とは吸光度又は散乱光強度を意味する。波長は2通常500?1,000nmの範囲から選択される。」(第3頁右上欄末行?左下欄4行)

4 刊行物4の記載事項
同じく,原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先権主張日前に頒布された特開2001-74742号公報(以下,「刊行物4」という。)には,ラテックス免疫比濁法について,次の事項が記載されている。(下線は,当審で付与。)

(刊4ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 被検物質を含む検体と,前記被検物質と抗原抗体反応する物質を感作した粒子の懸濁液とを混合し,前記抗原抗体反応による粒子の凝集状態を測定して,前記検体中における前記被検物質を定量するラテックス免疫比濁法」

(刊4イ)「【0002】
【従来の技術】臨床検査の分野において,検体中の微量物質の定量法として,抗原抗体反応を利用した免疫測定法が広く行われている。なかでも粒子を用いたラテックス免疫比濁法は簡便で,測定時間が短いことから,近年の迅速検査の要求に応じて広く用いられるようになってきた。ラテックス免疫比濁法による検体中の被検物質(抗原または抗体)の定量は,粒子の凝集による吸光度の変化を光学的に検出することにより行われる。この吸光度の変化は,粒子の凝集によって見かけの粒子径が変化することに基づくものである。」

(刊4ウ)「【0017】本発明のラテックス免疫比濁法に使用する粒子の径は特に制限はないが,平均粒子径d(数平均粒子径)が30?1,000nmの範囲にあることが好ましく,更に好ましくは50?1,000nmとされる。この平均粒子径dが過小である場合には,被検物質の低濃度域での測定感度(低値感度)が不足する傾向がある。一方,この平均粒子径dが過大である場合には,感度が高すぎたり,粒子の沈降が速すぎたりする傾向がある。」

第4 対比,判断
1 対比
そこで,本願発明と引用発明とを対比する。
(1) 本願発明の「アッセイ方法」について
引用発明の「患者血清試料」は,「臨床サンプル」の一種の「血清」に他ならないから,引用発明の「患者血清試料中の抗CCP抗体をアッセイする方法」は,本願発明の「臨床サンプル中の抗CCP抗体をアッセイする方法」に相当する。

(2) 本願発明の(a)の特定事項について
上記(1)に鑑み,引用発明の「患者血清試料」は,本願発明の(a)の「前記臨床サンプルは,血液,血液製剤,血清,血漿,尿,脳脊髄液,口腔液,滑液および気腫液から」「血清」が「選択され」た場合に対応する。

(3)本願発明(b),(f)の特定事項について
ア 引用発明の(I)における「ラテックス粒子」は,高分子の微粒子であることは技術常識であるから,本願発明の(b)の「直径が10?250nmの単分散金属又は高分子ナノ粒子」とは,「高分子微粒子」という点で共通する。

イ 引用発明の(I)における「CCP抗原」は,本願発明の(f)の「少なくとも一つのCCPペプチド抗原」であるところの「抗CCP抗体の特異的バインダー」に相当する。

ウ 引用発明の(I)における「CCP抗原でコートしたラテックス粒子」は,「ホモジニアスなアッセイ形式により検出するため」のもので,アッセイ系に添加されるものであるから,ホモジニアスなアッセイのための試薬として認識できるものである。
そして,引用発明の「CCP抗原でコートしたラテックス粒子」は,CCP抗原からみれば,「ラテックス粒子」に「コート」された「CCP抗原」を意味する。「コート」が必ずしも「固定化」を意味するとは限らない。

そうすると,引用発明の(I)における「CCP抗原でコートしたラテックス粒子」と,本願発明の「高分子ナノ粒子に固定化された抗CCP抗体の特異的バインダーを少なくとも1つ含む少なくとも1つのホモジニアス試薬」とは,「高分子微粒子に付けられた抗CCP抗体の特異的バインダーを少なくとも1つ含む少なくとも1つのホモジニアス試薬」である点で共通する。

エ そうすると,引用発明の(I)の「抗CCP抗体を,CCP抗原でコートしたラテックス粒子の凝集化によるホモジニアスなアッセイ形式により検出するために,前記血清サンプルを,CCP抗原でコートしたラテックス粒子に接触させることで,抗CCP抗体の結合パートナーであるCCP抗原と抗CCP抗体との複合体を形成する工程」と,本願発明の(b)の「前記サンプルを,直径が10?250nmの単分散金属又は高分子ナノ粒子に固定化された抗CCP抗体の特異的バインダーを少なくとも1つ含む少なくとも1つのホモジニアス試薬に接触させることで,ホモジニアスサンプル混合物において抗CCP結合パートナー複合体の溶液または懸濁液を形成する工程」とは,「前記サンプルを,高分子微粒子に付けられた抗CCP抗体の特異的バインダーを少なくとも1つ含む少なくとも1つのホモジニアス試薬に接触させることで,抗CCP結合パートナー複合体の溶液または懸濁液を形成する工程」である点で共通する。

オ また,引用発明においてラテックス粒子は,CCP抗原でコートされていることから,複数のCCP抗原がラテックス粒子に付けられていることは明らかであって,引用発明の「CCP抗原でコートしたラテックス粒子」の「CCP抗原」と,本願発明の(f)の「前記抗CCPバインダーは少なくとも一つのCCPペプチド抗原であり,2又はそれ以上の前記ペプチドは各粒子に結合している」は,「前記抗CCPバインダーは少なくとも一つのCCPペプチド抗原であり,2又はそれ以上の前記ペプチドは各粒子に付けられている」点で共通する。

(4) 本願発明の(c)の特定事項について
引用発明の「抗CCP抗体を,CCP抗原でコートしたラテックス粒子の凝集化によるホモジニアスなアッセイ形式により検出」することについて,凝集化は「血清サンプル」を「CCP抗原でコートしたラテックス粒子に接触させる」ことにより,液体中で起きることであるが,凝集を「血清サンプル」と「CCP抗原でコートしたラテックス粒子」を混合した液体中にある状態,すなわち,ホモジニアス液相中で検出しているかは不明である。
よって,引用発明の「血清サンプル」に含まれる「抗CCP抗体を,CCP抗原でコートしたラテックス粒子の凝集化によるホモジニアスなアッセイ形式により検出」する工程と, 本願発明の(c)の「ホモジニアス液相の前記抗CCP結合パートナー複合体の存在またはレベルを検出する工程」とは,「(c)前記抗CCP結合パートナー複合体の存在またはレベルを検出する工程」という点で共通する。

(5) 以上のことから,本願発明と引用発明は,次の点:
(一致点)
「 臨床サンプル中の抗CCP抗体をアッセイする方法であって,
(a)前記臨床サンプルは,血清が選択され,
(b)前記サンプルを,高分子微粒子に付けられた抗CCP抗体の特異的バインダーを少なくとも1つ含む少なくとも1つのホモジニアス試薬に接触させることで,ホモジニアスサンプル混合物において抗CCP結合パートナー複合体の溶液または懸濁液を形成する工程と,
(c)前記抗CCP結合パートナー複合体の存在またはレベルを検出する工程とを含み,
(f)前記抗CCPバインダーは少なくとも一つのCCPペプチド抗原であり,2又はそれ以上の前記ペプチドは各粒子に付けられている,方法。」
で一致するが,次の点で相違する:
(相違点1)
使用する高分子微粒子が,本願発明では「直径が10?250nm」であるのに対し,引用発明では,直径が10?250nmのナノ粒子であることは特定されていない点。
(相違点2)
抗CCP結合パートナー複合体の存在またはレベルの検出が,本願発明では(c)?(e)の工程を有するのに対し,引用発明では,具体的検出工程が不明な点。
(相違点3)
ペプチドであるところの抗CCP抗体の特異的バインダーが高分子微粒子に付けられていることが,本願発明では「固定化」され「結合され」ているのに対し,引用発明では「コート」されている点。

2 判断
(1) 相違点1及び相違点2について
相違点1及び相違点2については,相互に関連するので,まとめて検討する。
ア 「タービジメトリー」について
「タービジメトリー」は,英語の“turbidimetry”をカタカナ表記したものと理解されるが,この用語については,「比濁法」という日本語が,分析分野において通常,訳語として使用されている。

イ ラッテクス粒子の凝集化とタービジメトリーについて
一方,検体(サンプル)中の被検物質(抗体)を定量するために,被検物質を含む検体と,前記被検物質と抗原抗体反応する物質(抗原)を感作したラテックス粒子の懸濁液とを混合し,前記抗原抗体反応による抗原が感作されたラテックス粒子の凝集化により,見かけの粒子径が変化することを吸光度の変化として光学的に検出する方法は,例えば,刊行物4の上記(刊4ア),(刊4イ)に記載されているように,「ラテックス免疫比濁法」として,本願優先権主張日前に周知の抗体の定量方法にすぎない。

ウ ラテックス免疫比濁法における相分離を伴う分離や洗浄工程について
前記周知のラテックス免疫比濁法においては,刊行物3の上記(刊3ウ)に「上記ラテツクス凝集反応開始後,混合液の光学的強度が適当な波長を選択して測定される。」と記載されているように,サンプルとラテックス粒子は「混合液」となり,「凝集反応」が「混合液」,すなわち,「相分離を要さないホモジニアス液相の状態」で光学的強度が測定されることとなるものである。
そして,前記周知のラテックス免疫比濁法は,刊行物4に「前記被検物質と抗原抗体反応する物質」(刊4ア)により形成される「抗原抗体反応による粒子の凝集」とされているように,どのような被検物質による凝集、すなわち、凝集反応で生じるどのような複合体にも対応できる一般的な技術であって,検出対象となる複合体の種類を特に決めていない。
そうすると,前記周知のラテックス免疫比濁法の工程と,本願発明の(c)の工程とは,検出対象複合体が「前記抗CCP結合パートナー複合体」であることを除けば,本願発明の(c)の工程と一致する。

そして,前記周知のラテックス免疫比濁法は,「混合液」の状態で測定されるから,相分離は必要なく,本願発明の(e)の「前記方法において,前記サンプルと少なくとも一つの試薬とを混合してシグナルを生成し,相分離を伴う分離または洗浄工程を行うことなく,そのシグナルを検出」する工程を具備することは明らかである。

エ ラテックス粒子の粒径について
ラテックス粒子を使用した比濁法(タービジメトリー)において,粒径が感度に関連することは,刊行物4の(刊4ウ)に「【0017】本発明のラテックス免疫比濁法に使用する粒子の径は特に制限はないが,平均粒子径d(数平均粒子径)が30?1,000nmの範囲にあることが好ましく,更に好ましくは50?1,000nmとされる。この平均粒子径dが過小である場合には,被検物質の低濃度域での測定感度(低値感度)が不足する傾向がある。一方,この平均粒子径dが過大である場合には,感度が高すぎたり,粒子の沈降が速すぎたりする傾向がある。」と記載されているように周知の事項である。
しかも,刊行物3に「測定感度向上の点から,粒径が0.05?0.2μmであるのが好ましい。」(刊3イ)と,本願発明の高分子ナノ粒子の直径「10?250nm」の範囲に完全に包含される,50?200nmの直径を好ましいとするものも普通に知られている。

オ 小括
そうすると,本願発明の(c)?(e)の工程は,上記ア?ウで述べたように周知のラテックス免疫比濁法における工程を示しているものに過ぎないから,引用発明において,抗原抗体複合体である抗CCP結合パートナー複合体の検出に,周知の「ラテックス免疫比濁法」を採用し,その際,上記エで述べたように感度向上の観点から前記周知のラテックス免疫比濁法において普通に採用されているラテックス粒子の直径を単に選ぶことにより,相違点1及び相違点2に記した本願発明のごとくの構成とすることは,当業者にとって困難なことではない。

(2) 相違点3について
引用発明の「患者血清試料中の抗CCP抗体をアッセイする方法」における「(I)抗CCP抗体を,CCP抗原でコートしたラテックス粒子の凝集化によるホモジニアスなアッセイ形式により検出する」ことは,患者血清試料中に含まれる「抗CCP抗体」と「ラテックス粒子」にコートされた「CCP抗原」とが抗原抗体反応で結合することでラテックス粒子同士が凝集し,その凝集物を検出することを原理とすることは自明な事項である。
この原理において,引用発明の「ラテックス粒子」にコートした「CCP抗原」が脱落すると測定が正確に行えないことは当然のことであり,ラッテクス粒子に抗原抗体反応を司る物質を固定化し,結合することは例示するまでもなく,本願優先日前から普通に行われていることである。

そうすると,引用発明において,「CCP抗原」が「ラテックス粒子」から脱落しないように,「CCP抗原」を該粒子に固定し,結合させて「コート」し,相違点3に記載の本願発明の特定事項のごとくすることは,当業者が普通に採用する事項にすぎない。

(3)効果について
請求項1の特定事項からなる本願発明は,結局,患者血清試料中の抗CCP抗体をホモジニアスなアッセイ形式でアッセイする引用発明を,刊行物3,4にも記載されているような周知のラテックス免疫比濁法で行ってみて,それによる検出結果を確認した程度のものであり,上記「(1)エ ラテックス粒子の粒径について」で述べたように,粒径を最適化することで感度が向上することも知られているのだから,本願発明の効果は,当業者が予測できる程度のものであって,予測される範囲を超えて顕著なものということはできない。

第5 むすび
以上のとおり,本願発明は,本願の優先権主張日前に頒布された上記刊行物1に記載された発明並びに上記刊行物3及び刊行物4に記載されているような周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項について論及するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-04-07 
結審通知日 2016-04-12 
審決日 2016-04-26 
出願番号 特願2010-547246(P2010-547246)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 赤坂 祐樹  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 郡山 順
渡戸 正義
発明の名称 環状シトルリン化ペプチドに対する抗体のアッセイ方法  
代理人 特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ  

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