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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A61K
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
管理番号 1318917
審判番号 無効2015-800192  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-10-16 
確定日 2016-09-05 
事件の表示 上記当事者間の特許第2557303号発明「抗腫瘍効果増強剤及び抗腫瘍剤」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第2557303号(以下、「本件特許」という。)は、 平成3年9月5日(国内優先権主張 平成2年9月7日)を国際出願日とする出願であって、平成8年9月5日に特許権の設定登録がなされたものである。
これに対して、平成27年10月16日にテバ製薬株式会社により本件特許を無効にすることについての審判の請求がなされたところ、その審判における手続の経緯は以下のとおりである。

平成27年10月16日 審判請求
甲第1?17号証提出(請求人)
同年12月24日 答弁書、乙第1、2号証提出(被請求人)
平成28年 2月16日 審理事項通知
同年 3月14日 口頭審理陳述要領書、
甲第16号証の2、
甲第18?20号証提出(請求人)
同年 3月14日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
同年 3月28日 上申書、口頭審理用スライド提出(請求人)
同年 3月28日 口頭審理
同年 3月31日 上申書、甲第1号証の2提出(請求人)
同年 4月26日 上申書、乙第3?15号証提出(被請求人)
同年 5月17日 上申書、乙第16?18号証提出(被請求人)
同年 5月20日 上申書、乙第19号証提出(被請求人)



第2 本件特許発明
本件特許の請求項1?5に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明5」といい、まとめて「本件特許発明」ともいう。)は、本件特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される以下の通りであると認める。

「【請求項1】抗腫瘍効果増強のために有効な量のフォリン酸又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有することを特徴とする、治療に有効な量のテガフール及び抗腫瘍効果増強のために有効な量のウラシルを含有する抗腫瘍剤の抗腫瘍活性を増強させる抗腫瘍効果増強剤。
【請求項2】治療に有効な量のテガフール、抗腫瘍効果増強のために有効な量のウラシル及び抗腫瘍効果増強のために有効な量のフォリン酸又はその薬学的に許容される塩を含有することを特徴とする抗腫瘍剤。
【請求項3】テガフール1モルに対して0.02?10モルのウラシル及び0.05?10モルのフォリン酸又はその薬学的に許容される塩を含有する請求項2に記載の抗腫瘍剤。
【請求項4】テガフール1モルに対して0.1?8モルのウラシルを含有する請求項2に記載の抗腫瘍剤。
【請求項5】テガフール1モルに対して0.1?5モルのフォリン酸又はその薬学的に許容される塩を含有する請求項2に記載の抗腫瘍剤。」



第3 当事者の主張
1 請求人の主張
請求人が主張する本件審判における請求の趣旨は、「特許第2557303号の特許請求の範囲の請求項1乃至5に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」である。
そして、請求人は、以下の無効理由により、本件特許は無効とされるべきであると主張し、証拠方法として以下の証拠を提出している。

(1) 無効理由1(進歩性欠如)
本件特許発明1?5は、本件優先日前に頒布された甲第1号証?甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。

(2) 無効理由2(進歩性欠如)
本件特許発明1?5は、本件優先日前に頒布された甲第2号証、甲1号証及び甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。

(3) 無効理由3(進歩性欠如)
本件特許発明1?5は、本件優先日前に頒布された甲第3号証、甲第1号証及び甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。

(4) 無効理由4(進歩性欠如)
本件特許発明1?5は、本件優先日前に頒布された甲第2号証又は甲第3号証に記載された発明、並びに、甲第4号証に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識乃至周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。

(5) 無効理由5(進歩性欠如)
本件特許発明1?5は、本件優先日前に頒布された甲第4号証に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識乃至周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。

(6) 無効理由6(サポート要件違反)
本件特許は、平成6年法律第116号による改正前の特許法第36条第5項第1号に規定される要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、同法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきである。

(7) 無効理由7(実施可能要件違反)
本件特許は、平成6年法律第116号による改正前の特許法第36条第4項に規定される要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、本件特許は同法第123条第1項第4号の規定により無効とされるべきである。

(8) 無効理由8(明確性要件違反)
本件特許は、平成6年法律第116号による改正前の特許法第36条第5項第2号に規定される要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであって、本件特許は同法第123条第1項第4号の規定により無効とされるべきである。

(9)証拠方法
甲第1号証 DE CESARE,M. et al., European Review for Medical & Pharmacological Sciences, 1985, VII,p.91-96

甲第2号証 最近の新薬(第36集)-1985年版-,株式会社薬事日報社,昭和60年(1985年),表紙,第110-113頁及び奥付

甲第3号証 特開昭53-124624号公報

甲第4号証 NADAL,J.C. et al., Investigational New Drugs, 1989, Vol.7, p.163-172

甲第5号証 MADAJEWICZ, S. et al., CANCER RESEARCH, 1984, Vol.44, p.4667-4669

甲第6号証 ARBUCK,S.G. et al., Journal of Clinical Oncology, 1986, Vol.4, No.10, p.1510-1517

甲第7号証 ARBUCK,S.G. et al., Journal of Clinical Oncology, 1987, Vol.5, No.8, p.1150-1156

甲第8号証 太田和雄,週刊医學のあゆみ,1987,Vol.141, No.9,表紙, p.572-575,

甲第9号証 GREM,J.L. et al., Cancer Treatment Reports, 1987, Vol.71, No.12, p.1249-1264

甲第10号証 DeLAP,R.J. et al., THE YALE JOURNAL OF BIOLOGY AND MEDICINE, 1988, Vol.61, p.23-34

甲第11号証 相羽恵介,癌と化学療法,1988, Vol.15, No.3, p.392-408
甲第12号証 PERTERS,G.J., Sci.Rep.Res.Inst.Tohoku Univ.,C, 1988, Vol.35, Nos.1-4, p.15-17

甲第13号証 PINEDO,H.M. et al., Journal of Clinical Oncology, 1988, Vol.6, No.10, p.1653-1664

甲第14号証 太田和雄,月刊薬事,1989,Vol.31, No.3, p.35-39

甲第15号証 ARBUCK,S.G., CANCER, 1989, Vol.63, p.1036-1044

甲第16号証 MINI,E. et al., Pharmac.Ther., 1990, Vol.47, p.1-19

甲第17号証 今堀和友 等 監修,生化学辞典,1984年,第146頁
(以上、審判請求書に添付。)

甲第16号証の2 甲第16号証の表紙及び目次

甲第18号証 特許庁審判部編,進歩性検討会報告書,平成19年3月,目次及び第132-133頁

甲第19号証 特許庁審判部編,判決からみた進歩性の判断-審判における留意点と事例分析-,社団法人発明協会,2000年,第153頁

甲第20号証 東京高判平成14年12月26日(平成12年(行ケ)第404号)
(以上、平成28年3月14日付け口頭審理陳述要領書に添付)

甲第1号証の2 甲第1号証の全文翻訳文
(以上、平成28年3月31日付け上申書に添付。)

2 被請求人の主張
被請求人の答弁の趣旨は、「本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は審判請求人の負担とする、との審決を求める」というものであって、証拠方法として以下の証拠を提出する。

(証拠方法)
乙第1号証 試験報告書

乙第2号証 MARTIN,D.S., et al. CANCER RESEARCH, 1982, Vol.42, p.3964-3970
(以上、平成27年12月24日付け審判事件答弁書に添付。)

乙第3号証 甲第4号証第170頁左欄第29?33行の抄訳

乙第4号証 平成28年3月28日口頭審理で被請求人が使用した技術説明資料

乙第5号証 国際公開第92/04028号

乙第6号証 PETERS,G.J. et al., ANNUALS of Oncology, 1991, Vol.2, p.469-480

乙第7号証 WAYSS,K. et al., Med.Oncol.&Tumor Pharmacother. 1985, Vol.2, No.1, p.27-32

乙第8号証 BERTINO,J.R. et al., CANCER RESEARCH, 1977, Vol.37, p.327-328

乙第9号証 PINEDO,H.M. et al., Journal of Clinical Oncology, 1988, Vol.6, No.10, p.1653-1664

乙第10号証 甲第1号証第92頁右欄第18?40行の抄訳

乙第11号証 古江尚,臨床と研究,昭和58年,第60巻,第1号,第189-192頁

乙第12号証 繁田龍雄,小児科,1981年,第22巻,第10号,第1033-1040頁

乙第13号証 昭和五五年四月一〇日薬発第四八三号各都道府県知事あて厚生省薬務局長通知「薬事法の一部を改正する法律の施行について」

乙第14号証 平成4年6月29日薬安第80号各都道被験衛生主幹部(局)長あて厚生省薬務局安全課長通知「医薬品等の副作用の重篤度分類基準について」

乙第15号証 National Cancer Institute-Common Toxicity Criteria, 2001年,第1-34頁
(以上、平成28年4月25日付け上申書に添付。)

乙第16号証 LEYLAND-JONES,B. et al., Cancer Treatment Reports, 1986, Vol.70, No.1, p.219-229

乙第17号証 WADLER,S., CANCER RESEARCH, 1990, Vol.50, p.3473-3486

乙第18号証 CLARK,P.I. et al., Int J Colorect Dis, 1987, Vol.2, p.26-29
(以上、平成28年5月17日付け上申書に添付。)

乙19号証 MARTIN.D.S. et al., NEW AVENUES IN DEVELOPMENTAL CANCER CHEMOTHERAPY, 1987, p.113-162
(以上、平成28年5月20日付け上申書に添付。)



第4 甲号証及びその記載事項
本件優先日(平成2年(1990年)9月7日)前に頒布された刊行物である甲第1?17号証には、次の記載がある。(なお、甲第16号証は、甲第16号証の2として提出された甲第16号証の表紙及び目次から、少なくとも1990年6月1日より前に頒布された刊行物であると認められる。)

1 甲第1号証の記載事項
甲第1号証はイタリア語の文献であるので、以下の記載事項については、請求人による訳文(甲第1号証の2)を記載した。
(甲1-a)
「フトラフール+高用量のフォリン酸の組合せの有効性が大腸癌又は胃癌の進行状態にある14名の対象において調査された。この治療の有効性がフトラフール単剤で治療された12名の患者で得られた結果と比較された。 この目的においては無作為研究が用いられた。 フトラフール+フォリン酸を投与された大腸癌患者(10名)における臨床反応割合は64.3%であり、フトラフール単剤で治療された患者(8名)では41.5%であった。他の研究と同様に、これらのデータは進行大腸癌患者におけるフトラフール+フォリン酸の臨床上の使用の有用性を示唆しているようである。」
(第91頁要約)

(甲1-b)
「 5-FU誘導体のなかで、フトラフール N’(2’フラニジル-5-フルオロウラシル)は9%から50%の範囲の客観的反応割合を記録している。この薬剤は5-FUの「貯蔵」体のように挙動し、5-FUの血漿濃度は、緩徐あるいは持続注入によって投与された5-FUによって得られる血漿濃度と重なり合うことができる。さらに、フトラフール(FT)は、骨髄毒性が最小であることが示されている5-FU誘導体である。
生化学研究は、過剰の還元型葉酸が、より大きなチミジル酸合成酵素阻害のため、フルオロピリミジン類の細胞増殖抑制活性を増大させることを最近示している。」
(第91頁右欄第11?27行)

(甲1-c)
「この実験データを出発点として、Machoverらは、大腸癌及び胃癌に罹患した35人の患者の治療において、高用量のフォリン酸(HDFA)と5-FUの組合せを使用した。 前記二つの化合物を、ほぼ同時に、21日間の間隔を置いて5日間連日投与した。この組合せを用いた場合、高い割合の肯定的な臨床反応 (約56 %)及び僅かな副作用が観察された。」
(第92頁左欄第1?13行)

(甲1-d)
「この論文では、Machoverらの研究に続いて実施した臨床試験の知見を報告する。しかしながら、Machoverの研究とは異なり、我々が実施した試験は無作為化されており、フルオロピリミジンの細胞毒性を最終的に増すことを目的に、フォリン酸の用量を増加させ(400mg/m^(2)/日 対 200 mg/m^(2)/日)、最後に、5-FUを、より低い骨髄毒性のために、フトラフール(FT)に置き換えた。」
(第92頁左欄第14?25行)

(甲1-e)
「まとめ フトラフール単剤と比べたフトラフール+高用量のフォリン酸の組合せの治療上の有効性を評価することを目的として、進行大腸癌及び進行胃癌を罹患した26名の患者の無作為研究を行った。
この薬剤の組み合わせで治療された大腸癌に罹患した10名の患者において、64.3%の奏効率(有効(PR)および軽度寛解(MR))が確認された。一方、フトラフールのみを投与された8名の患者の奏効率(PR+MR)は41.5 %であった。
研究対象の数が少ないため、進行胃癌を罹患した患者において類似の治療比較を行うことは不可能であった。このデータは、進行大腸癌において、この薬剤の組み合わせの使用の腫瘍学臨床治療における有用性を示唆しているようである。」
(第94頁右欄下から第5行?第95頁右欄第7行)

2 甲第2号証の記載事項
(甲2-a)
「D テガフール・ウラシル製剤 Tegaful-Uracil
来歴 テガフールは1966年にHillerらによって合成された抗悪性腫瘍剤で,体内で徐々に5-Fluorouracil (5-FU)に変換され,効果を発揮するいわゆる5-FUの masked compoundである.」
(第110頁左欄第9?15行)

(甲2-b)
「しかし,1978年,藤井らはフッ化ピリミジンとピリミジンの併用に関する一連の実験からテガフールの抗腫瘍効果をウラシルが最も増強し,しかも,その併用比率によっては毒性を強めることなく抗腫瘍効果を高め得ることを見出すとともに,テガフールとウラシルの併用比率はモル比で1 : 4が最適であることを報告した.このようにして開発された薬剤がユーエフティであり,本剤は5-FUのdihydrouracil dehydrogenase による代謝分解をウラシルにより抑制し,腫瘍内の5-FUとその活性代謝物の高濃度維持を可能にし,テガフールあるいは5-FU単独投与では得られない特性を有する.臨床的にも至適配合比,腫瘍内5-FUの高濃度長時間維持が確認され,フッ化ピリミジン系薬剤の無効例にも効果が期待でき,特に胃癌・膵臓癌・胆のう,胆管癌・肝臓癌・結腸・直腸癌・乳癌・肺癌など固型癌治療に期待される.
化学式 化学名は,テガフールが1-(2-tetra-hydrofuryl)-5-fluorouracil,ウラシルが2,4(1H,3H)-pyrimidinedioneで下記の構造を有する。


(第110頁右欄第25行?左欄第2行)

(甲2-c)
「作用 ○1(当審注:原文では、丸付き1である。) 作用機序 ユーエフテイの抗腫瘍効果はテガフールから徐々に変換させる5-FUに基づいている.
5-FUの作用機序は活性代謝物であるFdUMPがdUMPと桔抗し,thymidylate synthetaseを抑制することによるDNAの合成阻害と,FUTPがRNAに取込まれることによるRNAの機能障害によるものと考えられている(in vitro).また,ユーエフテイに含有されるウラシルによるテガフールの抗腫瘍効果の増強はリン酸化および分解酵素に対する5-FUとウラシルの酵素学的な差により5-FUの分解系が抑制されることに起因し,特に腫瘍内において5-FUとそのリソ酸化活性代謝物が高濃度に維持されることによるものと考えられている(in vitro).
○2 (当審注:原文では、丸付き2である。) 抗腫瘍効果 Walker-256,吉田肉腫,腹水肝癌(ラット)およびSarcoma-180,Ehrlich腫瘍,Lewis肺癌,B-16メラノーマ(マウス)等の各種皮下移植腫瘍,また,ヒト胃癌,乳癌,膵癌皮下移植腫瘍 (ヌードマウス)に対し,ユーエフティは強い腫瘍増殖抑制効果を示し,さらにL-1210移植担癌動物(マウス)に対しても延命効果を示した.」
(第110頁右欄下から第21行?第111頁左欄第5行)

(甲2-d)
「用法 通常成人1日量としてテガフール300?600mg相当量(ユーエフティ3?6カプセル)を, 1日1?3回に分割経口投与,他の抗悪性腫瘍剤との併用の場合は上記に準じて投与.」
(第113頁左欄19?23行)

3 甲第3号証の記載事項
(甲3-a)
「1

〔式中R_(1)及びR_(2)は同-又は相異なって水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アシル基、アロイル基、アルコキシ基、カルボニル基、アリールスルホニル基、アルキルチオメチル基、アルコキシメチル基、テトラヒドロフリル基、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロフルフリル基、シアノアルキル基又はアルキル力ルバモイル基金示す。
〕で表わされる化合物及び一般式

〔式中R_(3)及びR_(4)は同-又は相異なって水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基又はテトラヒドロフルフリル基を示す。但しR_(3)及びR_(4)が共に水素原子であるものを除く。〕で表わされる化合物から選ばれた少くとも1種の5-フルオロウラシル類と
○b(当審注:原文では、丸付きbである。) ウラシルとを有効成分として含有することを特徴とする抗腫瘍剤。」
(特許請求の範囲)

(甲3-b)
「本発明に依れば、ウラシル自体には抗腫瘍効果は認められないが、これと5-フルオロウラシル類とを併用することによって毒性及び副作用を強めることなく抗腫瘍効果を増大し得る。」
(第3頁左下欄第第4?7行)

(甲3-c)
「一般式(1)または(II)で表わされる化合物のうち代表的なものを以下に掲げる。
・ 5-フルオロウラシル(化合物1)
・ 1-(2-テトラヒドロフリル)-5-フルオDウラシル(化合物2)」
(第3頁右下欄第2?6行)

(甲3-d)
「(1)血中及び腫瘍組織中の5-フルオロウラシル濃度の測定
体重200g前後の雄性ドンリュウ系ラットの腋下部皮下にAH-130腫瘍細胞を接種し、7日後腫瘍重量が2g以上に達したものを使用した(1群5匹)。
下記第1表に示す割合で5-フルオロウラシル類とウラシルを配合した抗腫瘍剤を5%アラビアゴムにて用時懸濁調整し、下記第1表に示す量を経口投与した。」
(第10頁右上欄第14行?左下欄第8行)

(甲3-e)
「(2)抗腫瘍効果の測定
継代移植腫瘍であるAH-130腫瘍細胞5×10^(6)個を体重約200gの雄性ドリュウ系ラット(1群10匹)の腋下部皮下に接種した。腫瘍細胞接種24時間後から、下記第2表に示す割合で5-フルオロウラシル類とウラシルとを配合した抗腫瘍剤を5%アラビアゴムにて用時懸濁調整したものを下記第2表に示す量を1日1回、連続7日間経口投与した。」
(第10頁右下欄第2?10行)

(甲3-f)

(第11頁第1表、第2表)

(甲3-g)

(第12頁右上欄第2?9行)

(甲3-h)

(第13頁左上欄第8?15行)

(甲3-i)

(第13頁右上欄第1?6行)

4 甲第4号証の記載事項
(甲4-a)
当該記載事項は、請求人による訳文を記載した。
「5-フルオロウラシル(5FU)のインビボ抗腫瘍活性及び毒性についての、様々な用量とスケジュールで投与されたロイコボリン(LV)の効果を、Balb-c及びC57B1/6マウスにそれぞれ維持された2つのネズミ科結腸癌系、すなわち、Colon 26 (5FUに比較的耐性あり)及びColon 38 (5FUに感受性)で研究した。マウスは最大許容用量の5FU単剤、及び、LVとの組合せで毎週治療された。」
(第163頁要約第1?4行)

(甲4-b)
当該記載事項は、当審合議体による訳文を記載した。
「Colon 26では、5FUとLVとの同時投与も、LVを遅れて投与することと組み合わせた5FUの投与も、5FUの抗腫瘍活性を増強しなかった。LVの2回投与は?1時間前(50mg/kg)その後5FU(100mg/kg)と共に(50mg/kg)?5FU(100mg/kg)単独投与より、両方の腫瘍株の腫瘍増殖について有意に良好な遅延を与えた。」
(第163頁要約第4?8行)

(甲4-c)
当該記載事項は、請求人による訳文を記載した。
「ウリジン(3500mg/kg)を遅れて投与すると、より高用量の5FUを使用することができ、Colon 26への抗腫瘍効果を改善した。」
(第163頁要約第8?10行)

(甲4-d)
当該記載事項は、当審合議体による訳文を記載した。
「略語 5FU- 5-フルオロウラシル、LV- ロイコボリン(フォリン酸、5-フォルミル-テトラヒドロフォレート)、FdUMP- 5-フルオロ 2’-デオキシウリジン 5’モノフォスフェート、TS-チミジレートシンターゼ、CH2-THF- 5-10メチレンテトラヒドロフォレート、UR- ウリジン、・・・」
(第163頁第17?19行)

(甲4-e)
当該記載事項は、請求人による訳文を記載した。

(第163頁右欄表1)

(甲4-f)
当該記載事項は、被請求人による訳文(乙第3号証)を記載した。
「LVの添加により、比較的耐性の腫瘍において高用量の5FU及びUR「レスキュー」の抗腫瘍効果が改善され、このことは、腫瘍における5FUの活性に対するLVの促進効果は、URにより影響を受けないことを示唆している。」
(第170頁左欄第29?33行)

(甲4-g)
当該記載事項は、当審合議体による訳文を記載した。
「LV-LV+5FU-UR-URスケジュールに関連する毒性は、5FU-UR-URよりも高くないため、TSへのFdUMPの結合の増強は、腫瘍よりも正常組織では低いかもしれない。これは、5FUの作用におけるURの効果は組織特異的であると仮定した先の報告をサポートする。この選択的「レスキュー」は、RNAにおける5FUの効果を妨害することによるかもしれないため、LV-5FUとURとの組合せは、5FUの治療効果のさらなる向上にとって、有望なアプローチであるように思われる。」
(第17頁左欄第33?44行)

5 甲第5号証の記載事項
下記の記載事項は、被請求人による訳文を記載した。
(甲5-a)
「これらのデータは5-FUra(訳注:5-フルオロウラシル)と高用量CF(訳注:フォリン酸)の同時投与が、5-FUra単剤に対しては抵抗性であった大腸腫瘍についてさえ5-FUraの抗腫瘍活性を高めうることについて非常に示唆している。」
(第4669頁右欄第15?18行)

6 甲第6号証の記載事項
下記の記載事項は、被請求人による訳文を記載した。
(甲6-a)
「毒性には、粘膜炎、下痢、吐き気及び嘔吐、白血球減少症、皮膚発疹、並びに、腹痛が含まれており、単一の薬剤として使用した5-FU腹腔内投与における以前に報告されたものと同様であった。」
(第1510頁要約左欄下から第6?3行)

(甲6-b)
「エバンズらは、5-FUを10μmo1/Lの1-CF(生物学的に活性な異性体(訳注:l体のフォリン酸))と組み合わせて投与するとS-180細胞及びHep-2細胞の両者において5-FUによる成長阻害が3倍に増加することを実証した。この増強はFdUMP-チミジレートシンターゼー還元葉酸の三元複合体の安定化によるものであり、チミジレートシンターゼの長期阻害をもたらした。大腸癌及び胃癌の臨床試験では、5-FUによる過去の治療で失敗した患者において18?50%の応答率を示した。」
(第1510頁右欄最下行?第1511頁左欄第11行)

7 甲第7号証の記載事項
下記の記載事項は、被請求人による訳文を記載した。
(甲7-a)
「5-フルオロウラシル(5-FU)は胃癌における単一の有効成分として最も大規模に研究されており、400人以上の患者においてその活性が試験されてきた。観察された部分応答率は23%である。完全応答は稀であり、応答の平均持続期間は3?6ヶ月である。 5-FUの効果をロイコボリン(dl-CF、フォリン酸:dl -5-ホルミルテトラヒドロ葉酸)及び他の還元葉酸によるモジュレーションによって増強することが研究室で成功している。例えば、HEp-2細胞の5-FUに対する感受性は、5-FUの添加24時間前に培地中に10μmo1/Lのl-CF(天然の立体異性体)を存在させると3倍に増大した。 10μmol/l の1-CFの存在下における5-FUの増強された活性はフルオロデオキシウリジン(FdUMP)-チミジレートシンターゼー還元葉酸の三元複合体のより強い結合によるものであり、チミジレートシンターゼの長期阻害をもたらす。チミジレートシンターゼはDNA合成に必須である。」
(第1150頁本文右欄第5行?最下行)

8 甲第8号証の記載事項
(甲8-a)
「biochemical modulation という概念は,抗癌剤(effector)を投与するにあたって,その前,同時,あるいは後に,ある薬剤(modulator)の投与によって,この場合その薬剤は抗癌剤であっても非抗癌剤であってもよいが, effectorの薬理動態を変化させて,抗腫瘍作用を増強させたり,正常細胞に対する障害,副作用を軽減し,よって化学療法係数を増大させ,癌化学療法の効果を増強させようとするものである(「サイドメモ」参照)。 表1に臨床的に応用されているbiochemical modulationについてeffector対modulator の薬剤相互関係について示した。」
(第572頁左欄第1?11行)

(甲8-b)
「表1にかかげたmodulation の多くは動物実験ではその作用が認められるものの,人癌においてそのようなmodulation が真に起こっているか,そして明らかな抗腫瘍作用が増強されているかというと,なかにはかならずしも確立された治療法とはみなされていないものが多いのが実情である.ここにそのおもなものを取り上げてその概要を述べる.」
(第572頁左欄第28?34行)

(甲8-c)

(第572頁表1)

(甲8-d)
「2. 5-FUとLV
5-FUのmodulationとしてMTX の研究についでLVを用いた研究がはじまった.その原理は,LV (5-formyl-H4 folate)は活性補酵素であるCH_(2)-H_(4) folateに代謝され,これと5-FU の活性代謝産物FdUMPとthymidylate synthetase とが強固なternary complex をつくり,dUMPからdTMP にいく経路を阻止し,その結果DNA 合成を阻害する.大量のLV を投与することにより細胞内の還元型葉酸の濃度を高めることができ,5-FUの抗腫瘍作用を増強する.」
(第574頁右欄下から第10行?最下行)

(甲8-e)
「フトラフールのmodulation
-フトラ?フール(FT)とウラシル
FT は5-FU のmasked compound であり,主として肝において徐々に5-FUに変換される.FTとウラシルの薬剤相互関係は,まずウラシルは5-FUの活性化のためのphosphorylationは阻害せず, dihydrouracildehydrogenaseによる5-FUのdegradation を抑制することによって5-FUの濃度が高く維持される.したがって,腫瘍組織における5-FUのphosphorylationによる活性代謝物FdUMPの増加によって抗腫瘍作用は増強される. FT は 5-FU のmasked compound であることより,徐々に5-FUに変換され,肝および腫瘍組織における5-FUのリン酸化と分解の量的関係から,動物およびヒトでは FT対ウラシルのモル比が1: 4 の場合に,腫瘍内5-FU 濃度と血中濃度の比がもっとも大となり,したがって副作用は増強することなく抗腫瘍作用が増強することが認められている。」(第575頁右欄第1?17行)

9 甲第9号証の記載事項
下記の記載事項は、被請求人による訳文を記載した。
(甲9-a)
「5-FU単剤でみられた毒性プロファイルは毎週5-FU/フォリン酸の研究においてみられたものと同様である。」
(第1259頁左欄第4?6行)

(甲9-b)
「要するに、5-FU/フォリン酸の組合せはしっかりとした生物化学的基礎を有する。有望な結果が大腸癌及び乳癌でみられている。進行性大腸癌における第III相試験がレジメンの活性のレベルを定義するであろう。第II相試験の結果及び第III相試験からの予備データの結果に基づき、5-FU/フォリン酸の組合せの広範な用途にかなりの強い関心がおきている。」
(第1262頁左欄第18?26行)

10 甲第10号証の記載事項
下記の記載事項は、被請求人による訳文を記載した。
(甲10-a)
「最近の研究室による研究は、ロイコボリンがフルオロウラシルのインビトロでの細胞毒性を高めることができることを示しており、これは明らかに、フルオロウラシルの代謝物であるFdUMP(フロオロデオキシウリジン一リン酸塩;安定で不活性な、FdUMP-還元葉酸-チミジレートシンターゼの複合体が形成される)による、鍵となる酵素であるチミジレートシンターゼの阻害の増強によるものである。ロイコボリン-フルオロウラシルの組合せのパイロット非対照研究は、ロイコボリンが癌患者におけるフルオロウラシルの臨床上の効果及び臨床上の毒性の両方を有意に増大しうることを示唆している。これらの知見により進行性大腸癌患者において、ロイコボリン+フルオロウラシル対フルオロウラシル単剤の複数の無作為化対照試験を開始するに至っている。これらの研究のうちの3つが最近患者登録を完了し、これらの3つの研究のそれぞれにおける予備的な結果から、ロイコボリンーフルオロウラシルの組合せが進行性大腸癌においてフルオロウラシル単剤での使用よりもより良好な治療係数を有することを示している。」
(第23頁第7?17行)

11 甲第11号証の記載事項
(甲11-a)
「FUとLeucovorin(LV)の併用療法もこういったBCMの一つであり,現在盛んに研究されている併用療法の一つである。」
(第392頁右欄下から第4行?下から第2行)

(甲11-b)
「III, FUとLVの併用
1.基本理念
1)作用機作
I, IIで述べたごとく FdUMP, TS, CH2-FH4が三元共有結合複合体を形成することにより, dUMP→dTMPの生成が阻害されthymine-less death に至り,抗腫瘍効果が発揮される。FUは活性型のFdUMPに同化された後,その触媒反応に結合しこれを抑制する(inhibition constant〔Ki〕= 10^(-11)M))。そして,TSに結合するためにfolale cosubstrate を要求する。
Fig.2 に示すごとく,まず最初にTSのSH基がFdMUP の第6位の炭素に結合する。次にCH_(2)-FH_(4)が第5位の炭索に結合する。dUMPの場合は第5位の炭素に水素が結合しているが,FdUMPの場合はこれがフッ素に置換されている。そのためこのフッ素イオンはTSによって奪取されない。よってこの三元共有結合複合体が形成された時点で触媒反応はブロックされる。CH_(2)-FH_(4)が取り込まれてしまうためFH_(4)の再生も抑制される。dTMPの生合成が阻害されDNA合成が障害される。以上がFU抗腫瘍効果発現の作用機作のーつである。つまり FUは,target enzyme chemotherapy の性格をも有している。

2)High dose LV 併用の意義
以上の基礎知見からFUの効果増強の一つのアプローチとして,三元共有結合複合体を効率よく形成し,また解離しないように安定化させることで効果増強,耐性打破を図ったのがLV 併用療法である。」
(第397頁左欄第5?35行)

12 甲第12号証の記載事項
下記の記載事項は、被請求人による訳文を記載した。
(甲12-a)
「我々の結果は、LV又はウリジンのいずれかによる5 FUのバイオケミカルモジュレーションによって5FUの治療効果を改善できることを示している。」
(第16頁右欄下から第4行?最下行)

13 甲第13号証の記載事項
下記の記載事項は、被請求人による訳文を記載した。
(甲13-a)


(第165頁表1)

14 甲第14号証の記載事項
(甲14-a)
「5-FUの誘導体にUFTという新抗癌剤が開発されているが,本剤はfutraful (FT)とuracilとの合剤であり,その作用の特徴はFTのuracilによるbiochemicalmodulation によるFTの効果増強である。」
(第35頁右欄第7?11行)

(甲14-b)
「2. HDLV・5-FU併用療法
本併用療法の原理は,LV(5-formyl-H4 folate)は葉酸の活性補酵素であるCH_(2)-H_(4) folateに代謝され,これと5-FUの活性代謝物FdUMPとTSとが強固なternary complexをつくり,DNA合成経路にあるdUMPからdTMPにいく経路を阻止し,その結果DNA合成阻害がおこる。大量のLVを投与することにより細胞内の還元型葉酸の濃度を高めることができ, 5-FUの抗腫瘍作用を増強する。
本治療は主として大腸癌に対して行われており,大きく別けて2通りの方法がある。すなわち週1回法と,5日連続間歇治療である。phaseII studyにおいてLVの用量は20mg/m^(2)から増量され, 200mg/m^(2),500mg/m^(2)の大量が投与された。5-FUの用量は単回投与では大量600mg/m^(2)が,5日連続投与では中等量が用いられた。LV・5-FUの投与間隔は短時間が多く,直後もしくは同時に行われている。その代表的な投与スヶジュ-ルとその効果を表2に示す。
両研究ともかなり高い奏効率が得られている。副作用は口内炎と下痢であるが, 5-FU単独にみられる副作用と同程度であるとしている。」
(第38頁左欄第4?26行)

15 甲第15号証の記載事項
下記の記載事項は、被請求人による訳文を記載した。
(甲15-a)
「未治療進行性大腸癌の治療における5-フルオロウラシル(5-FU)と、5-FU及びロイコボリン(LV)を比較している5つの完了した、及び、2つの現在進行中の第III相試験からの結果を検討した。これらの研究のうちの5つでは、5-FU/LVが5-FU単剤よりも有意に高い応答率をもたらすことが示された。」
(第1036頁第1?4行)

16 甲第16号証の記載事項
下記の記載事項は、被請求人による訳文を記載した。
(甲16-a)
「5-フルオロウラシル(FUra)は様々な固形腫瘍(消化管癌、乳癌、頭頚部癌)の治療に最も有効な細胞毒性剤の1つであるが、寛解率は20?30%にとどまり、通常は、短期間しか持続しない。最近、前臨床研究により、FUraの抗腫瘍活性が他の物質、特に、5-ホルミルテトラヒドロ葉酸(ホリナート、LV)を使用してこの薬剤の代謝を調節することによって増強可能であることが示されている。1 μM以上の濃度の還元葉酸(LV及び5-メチルテトラヒドロ葉酸)は、5,10-メチルテトラヒドロ葉酸の細胞内濃度を上昇させることによって、標的酵素であるチミジレートシンターゼの阻害を増大し長期化させる。これは、前記酵素-前記葉酸補酵素及びフルオロピリミシン阻害剤(5-フルオロデオキシウリジレート)の安定な三元複合体の形成を伴うものである。様々な固形腫瘍を有する患者の治療におけるLV-FUraの組合せにおいて有望な結果が報告された第II相臨床試験後に、大腸癌患者における無作為対照研究がFUra単剤での治療と比較して、当該組合せによる治療の方が応答率が向上することが示された。多剤併用療法へのLV-FUraの組合せの統合は乳癌、胃癌、頭頚部癌の治療に関して現在調査中である。」
(第1頁要約)

17 甲第17号証の記載事項
(甲17-a)
「ウリジン[uridine] =1-β-D-リボフフノシル-2,4(1H,3H)-ピリミジンジオン. C_(9)H_(12)N_(2)O_(6),分子量244.20. リボヌクレオシドの一つで,塩基部分にピリミジン誘導体であるウラシルを含む.三文字略号はUrd, ウリジン残基を示す一文字略号はU.RNAの構成成分で,RNAを加水分解することにより得られる.またシチジンを,亜硝酸処理により,または酵素的に,脱アミノしても得られる.融点165 °C の針状結晶.水に可溶. pH1で262 nm に吸収極大を示す.希酸ではグリコシド結合は分解されず,濃酸によりウラシルとフルフラールに加水分解される.生体内では5’-ヌクレオチダーゼの作用によりウリジル酸から,またシチジンデアミナーゼの作用によりシチジンから生成する.ウリジンキナーゼの作用によりリン酸化されてウリジル酸となり,ウリジンホスホリラーゼの作用により加リン酸的に分解されてウラシルを生じる.」
(第146頁左欄第10?29行)



第5 当審の判断
1 無効理由1(進歩性欠如)について
1-(1) 請求人の主張の要点
平成28年3月14日付け口頭審理陳述要領書には、「無効理由1は甲第1号証を主引例とする一方、甲第2号証及び甲第3号証を副引例とし、また、甲第4号証をも副引例とする。すなわち、無効理由1は甲第4号証を副引例の1つとして使用するものである。」(第5頁第14?16行)、「したがって、甲第1号証記載の発明の副作用を増大させることなくテガフールによって奏される抗腫瘍効果を更に増強させるために甲第1号証記載のテガフール+フォリン酸の組合せに更に第3成分を組み合わせるにあたって、甲第2号証及び甲第3号証に記載のウラシルを使用することは、甲第2号証及び甲第3号証の記載に加えて、甲第4号証をも考慮すれば、明らかに、当業者が容易に想到し得たものである。」(第23頁第9?14行)と記載されている。
したがって、請求人の主張は、主引例である甲第1号証に記載された発明において、副引例である甲第2号証、甲第3号証に記載された発明に加えて、さらに副引例である甲第4号証に記載された発明をも考慮すると、本件特許発明1?5を、当業者が容易に発明をすることができたものであるというものである。

1-(2) 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、フトラフールと高用量のフォリン酸の組合せで治療された大腸癌を罹患した患者10名における臨床反応割合は、フトラフール単剤で治療された患者8名における臨床反応割合と比較して高かった試験結果を根拠に、進行大腸癌において、フトラフールと高用量のフォリン酸の組合せで治療することが有用であることが示唆されると記載されている(記載事項(甲1-a)(甲1-e))。
そして、フトラフールは、N’-(2’フラニジル-5-フルオロウラシル)であることが記載されているところ(記載事項(甲1-b))、当該化学名は、テガフールを意味することは、甲第2号証の記載(記載事項(甲2-b))から明らかである。
また、甲第1号証では、上記の試験の目的に関し、細胞毒性を有するフルオロピリミジン類としてフトラフールを用い、当該フルオロピリミジン類の細胞毒性を増すために、フォリン酸の用量を増加させたと記載されているから(記載事項(甲1-d))、フトラフールは抗腫瘍活性を有する抗腫瘍剤として、フォリン酸は当該抗腫瘍活性を増強させる抗腫瘍効果増強剤として使用され、かつ、フトラフールの使用量は治療に有効な量、フォリン酸の使用量は抗腫瘍効果増強のために有効な量として設定されたものと認められる。
さらに、上記試験は、5-フルオロウラシルとフォリン酸とを同時に投与して観察したMachoverらの研究に続けて実施したことが記載されているから(記載事項(甲1-c)(甲1-d))、フトラフールとフォリン酸とは同時に投与されていると認められる。
そうすると、甲第1号証には、
「抗腫瘍効果増強のために有効な量のフォリン酸を含有する、治療に有効な量のテガフールを含有する抗腫瘍剤の抗腫瘍活性を増強させる抗腫瘍効果増強剤」の発明(以下、「引用発明1A」という。)
及び
「治療に有効な量のテガフール、抗腫瘍効果増強のために有効な量のフォリン酸を含有する抗腫瘍剤」の発明(以下、「引用発明1B」という。)、
が記載されていると認められる。

1-(3) 本件特許発明1について
1-(3)-1 一致点・相違点
本件特許発明1と引用発明1Aとは、「抗腫瘍効果増強のために有効な量のフォリン酸を含有することを特徴とする、治療に有効な量のテガフールを含有する抗腫瘍剤の抗腫瘍活性を増強させる抗腫瘍効果増強剤」である点で一致し、以下の点で相違する。

フォリン酸が抗腫瘍活性を増強させる対象となる「抗腫瘍剤」について
本件特許発明1は、さらに「抗腫瘍効果増強のために有効な量のウラシル」を含有するのに対して、
引用発明1Aは、ウラシルを含有しない点
(以下、「相違点1A」という。)

1-(3)-2 相違点1Aについての検討
・甲第1?3号証について
1種類の抗腫瘍活性を有する薬剤(以下、「エフェクター」という。)の投与にあたって、1種類の他の薬剤(以下、「モジュレーター」という。)を同時または前後して投与することによって、当該エフェクターの薬理動態を変化させて、抗腫瘍効果を高めたり、正常細胞に対する毒性(副作用)を軽減する、バイオケミカルモジュレーションという癌化学療法については、請求人が本件優先日当時の技術常識を示すために提出した甲第8号証においても、様々なエフェクターとモジュレーターとの組合せが臨床的に応用されていることが記載されており(記載事項(甲8-a)(甲8-c))、本件優先日前に公知であったと認められる。
そこで、甲第1号証の記載をさらに検討すると、引用発明1Aは、テガフールをエフェクター、フォリン酸をモジュレーターとする、バイオケミカルモジュレーションによる効果を利用した薬剤であると理解できるところ、甲第1号証には、ウラシルに関する記載はなく、フォリン酸以外のモジュレーターを用いることは記載されていないし、示唆もされていない。
一方、甲第2、3号証には、テガフールとウラシルとを含有する抗腫瘍剤が記載され、当該抗腫瘍剤は、テガフールをエフェクター、ウラシルをモジュレーターとするバイオケミカルモジュレーションによる効果を利用した薬剤であることが理解できる(記載事項(甲2-b)(甲2-c)(甲3-a)?(甲3-i))。しかしながら、甲第2、3号証にも、ウラシル以外のモジュレーターを用いることは記載されていないし、示唆もされていない。
なお、甲第2号証には、テガフールとウラシルを含有する配合剤、ユーエフティの用法において、「他の抗悪性腫瘍剤との併用の場合は上記に準じて投与」と記載されているが(記載事項(甲2-d))、一般に「抗悪性腫瘍剤」とは、それ自体が抗腫瘍活性を有する薬剤を意味し、テガフールの薬理動態を変化させるモジュレーターを意味するとまでは理解できないから、当該記載は、抗腫瘍活性を有する薬剤同士の併用を示唆するにとどまるものといえる。

・甲第4号証について
次に、甲第4号証の記載が、テガフール投与において、フォリン酸及びウラシルという2つのモジュレーターを併用することを示唆するかについて検討する。
フトラフール(すなわち、テガフール(以下、「テガフール」という。))は、5-フルオロウラシルのプロドラッグであることは、請求人が本件優先日当時の技術常識を示すために提出した甲第8号証において記載されているし(記載事項(甲8-e))、ウリジンが体内で代謝されるとウラシルになることも甲第17号証に記載のとおり(記載事項(甲17-a))、当業者の技術常識といえる。
そこで、甲第4号証の記載をみると、甲第4号証には、細胞毒性を有する5-フルオロウラシルと、ウリジン、フォリン酸を組み合わせた癌化学療法について記載されている(記載事項(甲4-a)?(甲4-g))。
また、当該癌化学療法についての研究結果として、フォリン酸投与の1時間後に5-フルオロウラシルとフォリン酸とを同時に投与するというスケジュールで治療した場合、5-フルオロウラシル単独投与よりも抗腫瘍効果が高いこと(記載事項(甲4-b))、そして、当該スケジュールの5-フルオロウラシル投与後さらに時間を空けてウリジンを投与すると、より高用量の5-フルオロウラシルの使用が可能になり、抗腫瘍効果が高まったことも記載されている(記載事項(甲4-c)(甲4-e))。このため、本件優先日当時の技術常識から、甲第4号証に記載された癌化学療法は、細胞毒性を有する5-フルオロウラシルをエフェクター、ウリジン、フォリン酸をモジュレーターとするバイオケミカルモジュレーションによる効果を利用したものであると理解できる。
そして、ウリジンの作用に関する、甲第4号証の記載をみると、ウリジンは、5-フルオロウラシル投与後に遅れて投与することで高用量の5-フルオロウラシル投与を可能するための「レスキュー」であって、フォリン酸の抗腫瘍活性増強効果に影響を与えないことが記載され(記載事項(甲4-f))、ウリジンの効果は、RNAにおける5-フルオロウラシルの効果を妨害することによるものという示唆も記載されている(記載事項(甲4-g)。以上の記載から、甲第4号証に記載されたウリジンは、高用量の5-フルオロウラシル投与によって激烈となる毒性を軽減するために、5-フルオロウラシル投与の一定時間後にRNAにおける5-フルオロウラシルの効果を妨害する目的で投与されるモジュレーターであることまでは、理解できる。しかしながら、甲第4号証には、上記のウリジンの作用が、ウリジンが体内で代謝されて生成したウラシルの作用によるとの記載はない。
一方、ウラシルは、請求人が本件優先日当時の技術常識を示すために提出した甲第8号証において、テガフールをエフェクターとしたときに組み合わすことができるモジュレーターとして記載されており(記載事項(甲8-c)(甲8-e))、このことは本件優先日前に公知であったと認められる。また、甲第8号証には、ウラシルは、5-フルオロウラシルの分解を抑制することによって、5-フルオロウラシルの濃度を高く維持し、抗腫瘍作用を増強することが記載されているし(記載事項(甲8-e))、甲第2号証にも、ウラシルの作用について同様のことが記載されている(記載事項(甲2-a)?(甲2-c))。このため、ウラシルが、5-フルオロウラシルの分解を抑制する作用に起因して、テガフールの抗腫瘍活性を増強させるモジュレーターであることは、本件優先日当時の技術常識であったといえる。
すなわち、甲第4号証に記載されたウリジンの作用は、本件優先日当時の技術常識であったウラシルの作用とは、5-フルオロウラシルの薬理動態への影響の点で異なる。このため、この点からみても、ウリジンの作用は、ウリジンが体内で代謝されて生成したウラシルの作用によるものとは、当業者は理解し得ない。
したがって、甲第4号証に、エフェクターである5-フルオロウラシルの投与において、モジュレーターとしてフォリン酸及びウリジンを併用するバイオケミカルモジュレーションが記載されているとしても、当該記載は、エフェクターであるテガフール投与において、モジュレータとしてフォリン酸及びウラシルを併用することを示唆するものということはできない。

以上のとおり、甲第1?3号証には、2種以上のモジュレーターを併用することの示唆はないし、甲第4号証の記載は、エフェクターであるテガフール投与において、モジュレータとしてフォリン酸及びウラシルを併用することを示唆するものということはできない。

ところで、抗腫瘍活性を有する薬剤の抗腫瘍効果を増強し、かつ、当該薬剤の毒性を軽減することは、自明の課題であるものの、当該課題を解決するための当業者の考え得る周知の手段としては、1種類のモジュレーターを用いたバイオケミカルモジュレーションの他にも、抗腫瘍活性を有する薬剤の類縁化合物を開発すること、抗腫瘍活性を有する薬剤の用量、投与スケジュール、投与形態を検討すること、他の抗腫瘍活性を有する薬剤との併用を検討すること等、多く存在する。
加えて、バイオケミカルモジュレーションにおいて、エフェクターの薬理動態を変化させる作用は、モジュレーターの種類によって様々であるから、2種類のモジュレーターを併用する場合、一方のモジュレーターの抗腫瘍効果増強作用、毒性軽減作用を、他方のモジュレーターが妨害する可能性もあり、1種類のモジュレーターを使用した場合と比べて、必ず高い治療効果を期待できるといえないことは、本件優先日当時の当業者にとって自明である。
このため、抗腫瘍活性を有する薬剤の抗腫瘍効果を増強し、かつ、当該薬剤の毒性を軽減しようとすれば、考え得る多くの手段の中から、当業者が必ず2種類のモジュレーターを併用したバイオケミカルモジュレーションを採用することが明らかとまではいいがたい。
以上のことを勘案すると、上述のとおり、甲第4号証の記載が、エフェクターであるテガフール投与において、モジュレーターとしてフォリン酸とウラシルとを併用することを示唆するものではないという状況においては、2種類のモジュレーターを併用するバイオケミカルモジュレーションについての示唆がない甲第1?3号証に接した当業者が、たとえ上記課題解決のためであったとしても、2種類のモジュレーターを併用するバイオケミカルモジュレーションを採用することが、ごく当然のことであったということもできない。

そうすると、甲第1?3号証に記載された発明が、テガフールをエフェクターとするバイオケミカルモジュレーションに関するものであったとしても、また、甲第4号証の記載を考慮しても、フォリン酸をモジュレーターとして用いた引用発明1Aにおいて、抗腫瘍効果を増強し、毒性を軽減するために、特に、2種類のモジュレーターを併用するバイオケミカルモジュレーションを採用し、さらに、フォリン酸の抗腫瘍増強作用に対する影響が不明なモジュレーターであるウラシルを選択してフォリン酸と併用することは、当業者が容易に想到し得なかったと認められる。

・効果について
エフェクターの薬理動態を変化させる作用は、モジュレーターの種類によって異なるから、2つのモジュレーターを組み合わせた場合、一方のモジュレーターの抗腫瘍効果増強作用、毒性軽減作用を、他方のモジュレーターが妨害する場合があることは、本件優先日当時の当業者にとって自明のことであったといえる。そして、甲第8号証には、表1に記載の組合せの多くは動物実験では効果が認められているものの、人癌については必ずしも確立されていないものが多いと記載されるように(記載事項(甲8-b)(甲8-c))、本件優先日当時、バイオケミカルモジュレーションによる人の治療においては、エフェクターの薬理動態を変化させるモジュレーターの作用を予測するのは、そもそも困難であったから、2種以上のモジュレーターを併用した場合のモジュレーターの作用を予測することはますます困難であったことが理解できる。
一方、本件特許発明1は、モジュレーターであるフォリン酸、ウラシルそれぞれの抗腫瘍効果増強作用、毒性軽減作用に対して悪影響を及ぼさず、これら2つを併用したことで、モジュレーターとしてウラシルのみ使用した場合よりも高い抗腫瘍効果増強効果を奏することが、本件特許明細書の実施例において確認されているから、(乙第1号証を検討するまでもなく)本件特許発明1の効果は、甲第1?4号証から当業者が予測できないものであるといえる。

・口頭審理陳述要領書に記載の請求人の主張について
請求人は、甲第1号証に記載された発明に、甲第2、3号証に記載された発明を適用するという論理付けを肯定するための要素として以下の点を挙げている。
a)甲第1号証に記載された発明に、甲第2、3号証に記載された発明を適用することを妨げる阻害要因は存在しない(第19頁第18行?第20頁最下行)。
b)甲第1号証記載のテガフール+フォリン酸の組合せに更にウラシルを併用した場合にどのような結果となるのかを事前に予測する必要性はそもそも存在しない。(第21頁第1行?第22頁第6行)

上記主張について検討する。
上記a)について
請求人は、甲第18号証、甲第19号証等を引用し、上記a)のような阻害要因は存在しないから、進歩性は否定されると主張している。
しかしながら、そもそも進歩性を否定するためには、阻害要因がないことだけではなく、主引用発明から出発して、当業者が本件特許発明に容易に到達する論理付けができなければならない。
この点は、甲第18号証にも「審査基準では、「刊行物中に請求項に係る発明に容易に想到することを妨げるほどの記載があれば、引用発明としての適格性を欠く。しかし、課題が異なる等、一見論理付けを妨げるような記載があっても、技術分野の関連性や作用、機能共通性等、他の観点から論理付けが可能な場合には、引用発明としての適格性を有している。」とされている。」(第132頁第20?23行)と記載されていることからも明らかである。
そこで、引用発明1Aから出発して、当業者が本件特許発明に容易に到達する論理付けが可能かを検討すると、上述のとおり、引用発明1Aにおいて、フォリン酸と共に、ウラシルを組み合わせる論理付けができない。
したがって、上記a)の点は、上述の判断に影響を与えない。

上記b)について
請求人は、甲第20号証の
i)「しかしながら、本願発明の進歩性を検討するに当たって引用刊行物について考慮すべきことは、同刊行物に接した当業者が、そこに記載された事項を契機として本願発明に容易に想到し得たかどうかである。」(第9頁第13?15行)(以下、「記載i)」という。)、
ii)「およそ、試験や実験というものは、分からないからこそそれを明らかにしようと考え、望ましい結果が出るかもしれないと期待して行うものであって、・・・結果が予測できないからといって、当業者が、そのような試験や実験を行うことをやめるということになるものではない。」(第13頁第24?28行)(以下、「記載ii)」という。)
なる記載を引用し、上記b)の点を主張する。

そこで、甲第20号証の記載をみると、「記載i)」は、主引例となる引用発明(刊行物に記載されている技術)との一致点、相違点の認定について述べたものである。
また、甲第20号証の「記載ii)」の前には、以下の記載がある。
「(5)以上(1)ないし(4)で述べた状況の下では、「気道過敏系モルモットの品種改良を行う際に、兄弟交配やいとこ交配に加えて、近交退化を避けるために、選択交配を組み合わせて」継代選抜を行ってみようと考えること自体は、それを妨げるような特別の事情がない限り、当業者にとってごく当然のことというべきである。
上記周知の事項の下では、継代選抜において、所期のモルモットの出現率を高めようとすれば、継代選抜の世代数を増加させる必要があることは、明らかなことであるから、行うべき継代選抜の世代数として「少なくとも5世代」を選択することも、それを妨げるような特別な事情が認められない限り、当業者にとって何の困難もないことというべきである。」(第13頁第6?16行)
以上の記載からみて、「記載ii)」は、主引用発明に副引用発明を適用すること自体は、当業者にとってごく当然のことであり、何の困難もないという前提においては、結果が予測できないことは、論理付けを否定する要素にならないという意味と理解できる。

次に、「記載i)」を本件にあてはめると、上記「1-(3)-1 一致点・相違点」で述べたとおり、本件特許発明1と主引例となる甲第1号証に記載された発明との相違点は、ウラシルを含有しない点であって、請求人も審判請求書において認めているので、争いがない。
また、「記載ii)」を本件にあてはめると、上記b)の点が、論理付けを肯定するための要素となるには、抗腫瘍活性を有する薬剤の抗腫瘍効果を増強し、かつ、当該薬剤の毒性を軽減するという課題の解決のためには、2種類のモジュレーターを併用するバイオケミカルモジュレーションを採用することが、当業者にとってごく当然のことであることが前提でなければならない。
しかしながら、甲第4号証の記載を考慮しても、甲第1?3号証に接した当業者が、当該課題解決のために当業者が考え得る様々な手段の中から、2種類のモジュレーターを併用するバイオケミカルモジュレーションを採用することが、当業者にとってごく当然のことであったとはいえないのは、上述のとおりである。
したがって、上記b)の請求人の主張は、前提を欠くものである。

以上のことから、請求人が挙げた点は、論理付けを肯定するための要素とはならない。

・平成28年3月31日付け上申書に記載の請求人の主張について
請求人は、本件特許発明は、テガフール及びウラシルを同時に投与しなくてもよいから、甲第4号証の記載に基づいては、テガフールとウラシルとを共に配合しようとはしないという被請求人の主張は、進歩性の議論とは無関係であると主張する(平成28年3月31日付け上申書の第3頁第1行?第4頁最下行)。

しかしながら、本件特許発明1がテガフールとウラシルとを同時に投与しなくてもよいか否かを検討するまでもなく、上記「・甲第4号証について」でも述べたとおり、そもそも甲第4号証の記載は、テガフール投与においてフォリン酸とウラシルとを併用することを示唆するものではない。
よって、上記主張は、採用できない。

なお、請求人が「本件特許発明はテガフール及びウラシルを同時に投与しなくてもよい」と主張する根拠は、本件特許公報第3頁第5欄第14?28行の記載、及び、甲第3号証の記載であるが、本件特許公報第3頁第5欄第14?28行の記載はキットに関する説明であって、本件特許発明1の抗腫瘍効果増強剤や、本件特許発明2?5の抗腫瘍剤に関する説明ではないし、甲第3号証の記載も、本件特許とは別の特許出願に係る出願公開公報の記載であるから、本件特許発明の解釈に影響を及ぼすものではない。
したがって、本件特許発明1の「治療に有効な量のテガフール及び抗腫瘍効果増強のために有効な量のウラシルを含有する抗腫瘍剤」、本件特許発明2の「治療に有効な量のテガフール、抗腫瘍効果増強のために有効な量のウラシル及び抗腫瘍効果増強のために有効な量のフォリン酸又はその薬学的に許容される塩を含有することを特徴とする抗腫瘍剤」における「含有する」の語は、その記載どおりに解釈するものであって、各成分を同時に含まなくてもよい(各成分を同時に投与しなくてもよい)という意味で使用されているとは認められない。

したがって、主引例である甲第1号証に記載された発明において、副引例である甲第2号証、甲第3号証に記載された発明に加えて、さらに副引例である甲第4号証に記載された発明を考慮しても、本件特許発明1を、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

1-(4) 本件特許発明2について
1-(4)-1 一致点・相違点
本件特許発明2と引用発明1Bとは、「治療に有効な量のテガフール、抗腫瘍効果増強のために有効な量のフォリン酸を含有することを特徴とする抗腫瘍剤」である点で一致し、以下の点で相違する。

「抗腫瘍剤」の成分について、
本件特許発明2は、さらに「抗腫瘍効果増強のために有効な量のウラシル」も含有するのに対して、
引用発明1Bは、ウラシルを含まない点(以下、「相違点1B」という。)

1-(4)-2 相違点1Bについての検討
相違点1Bは、抗腫瘍剤がウラシルを含まない点であって、上記相違点1Aと同じである。このため、上記「1-(3)-2 相違点1Aについての検討」と同様に、主引例である甲第1号証に記載された発明において、副引例である甲第2号証、甲第3号証に記載された発明に加えて、さらに副引例である甲第4号証に記載された発明を考慮しても、本件特許発明2を、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

1-(4) 本件特許発明3?5について
本件特許発明3?5は、本件特許発明2をさらに特定するものであるから、上記「1-(4) 本件特許発明2について」と同様に、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

したがって、主引例である甲第1号証に記載された発明において、副引例である甲第2号証、甲第3号証に記載された発明に加えて、さらに副引例である甲第4号証に記載された発明を考慮しても、本件特許発明1?5を、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


2 無効理由2(進歩性欠如)について
2-(1) 請求人の主張の要点
平成28年3月14日付け口頭審理陳述要領書には、「無効理由2は、甲第2号証を主引例とする一方、甲第1号証を副引例とし、また甲第4号証をも副引例とする。」(第6頁第6、7行)、「したがって、甲第2号証又は甲第3号証記載の発明の副作用を増大させることなくテガフールによって奏される抗腫瘍効果を更に増強させるために甲第2号証又は甲第3号証記載のテガフール+ウラシルの組合せに更に第3成分としてフォリン酸を使用することは、甲第1号証の記載に加えて、甲第4号証をも考慮すれば、明らかに、当業者が容易に想到し得たものである。」(第33頁下から第6行?最下行)と記載されている。
したがって、請求人の主張は、主引例である甲第2号証に記載された発明において、副引例である甲第1号証に記載された発明に加えて、さらに副引例である甲第4号証に記載された発明をも考慮すると、本件特許発明1?5を、当業者が容易に発明をすることができたものであるというものである。

2-(2) 甲第2号証に記載された発明
甲第2号証には、テガフールとウラシルとを含有する薬剤としてユーエフティが記載されており、テガフールの抗腫瘍効果をウラシルが増強し、特定の併用比率にすることで毒性を強めることなく抗腫瘍効果を高めた薬剤であることが記載されている(記載事項(甲2-a)?(甲2-c))。
そして、本件優先日当時の技術常識から、ユーエフティは、テガフールをエフェクター、ウラシルをモジュレーターとするバイオケミカルモジュレーションによる効果を利用した薬剤であることが理解できるから(記載事項(甲2-b)(甲2-c))、テガフールは治療に有効な量であること、ウラシルは抗腫瘍効果増強のために有効な量であることも、本件優先日当時の技術常識から明らかである。
そうすると、甲第2号証には、「治療に有効な量のテガフール及び抗腫瘍効果増強のために有効な量のウラシルを含有する抗腫瘍剤」の発明(以下、「引用発明2」という。)
が記載されていると認められる。

2-(3) 本件特許発明1について
2-(3)-1 対比
本件特許発明1は、「抗腫瘍効果増強のために有効な量のフォリン酸又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有することを特徴とする、治療に有効な量のテガフール及び抗腫瘍効果増強のために有効な量のウラシルを含有する抗腫瘍剤の抗腫瘍活性を増強させる抗腫瘍効果増強剤」の発明であるのに対して、
引用発明2は、「治療に有効な量のテガフール及び抗腫瘍効果増強のために有効な量のウラシルを含有する抗腫瘍剤」の発明であって、本件特許発明1が抗腫瘍活性を増強させる対象となる抗腫瘍剤である点で相違する。
(以下、「相違点2A」という。)

2-(3)-2 相違点2Aについての検討
上記「2-(2) 甲第2号証に記載された発明」で述べたとおり、引用発明2は、テガフールをエフェクター、ウラシルをモジュレーターとするバイオケミカルモジュレーションによる効果を利用した薬剤であることが理解できる。
しかしながら、甲第2号証には、「1 無効理由1(進歩性欠如)について」「1-(3)-2 相違点1Aについての検討」の「・甲第1?3号証について」でも述べたとおり、ウラシル以外のモジュレーターを用いることは記載されていないし、示唆もされていない。

一方、甲第1号証には、上記「1 無効理由1(進歩性欠如)について」「1-(2) 甲第1号証に記載された発明」で述べたとおり、進行大腸癌において、テガフールと高用量のフォリン酸の組合せで治療することが有用であることが記載され、引用発明2とは、テガフールという同じエフェクターを用いたバイオケミカルモジュレーションの効果を利用する点で一見類似する(記載事項(甲1-a)(甲1-e))。
しかしながら、甲第1号証に、フォリン酸以外のモジュレーターを用いることは記載されていないし、示唆もされていないことは、上記「1 無効理由1(進歩性欠如)について」「1-(3)-2 相違点1Aについての検討」の「・甲第1?3号証について」で述べたとおりである。
また、甲第4号証の記載は、上記「1 無効理由1(進歩性欠如)について」「1-(3)-2 相違点1Aについての検討」の「・甲第4号証について」で述べたとおり、エフェクターであるテガフール投与において、モジュレータとしてフォリン酸及びウラシルを併用することを示唆するものではない。

そして、上記「1-(3)-2 相違点1Aについての検討」でも述べたように、抗腫瘍活性を有する薬剤の抗腫瘍効果を増強し、かつ、当該薬剤の毒性を軽減しようとすれば、考え得る多くの手段の中から、当業者が必ず2種類のモジュレーターを併用したバイオケミカルモジュレーションを採用することが明らかとまではいえず、甲第4号証の記載が、エフェクターであるテガフール投与において、モジュレーターとしてフォリン酸とウラシルとを併用することを示唆するものでもないという状況においては、2種類のモジュレーターを併用するバイオケミカルモジュレーションについての示唆がない甲第1、2号証に接した当業者が、たとえ上記課題解決のためであったとしても、2種類のモジュレーターを併用するバイオケミカルモジュレーションを採用することが、ごく当然のことであったということもできない。

そうすると、甲第1、2号証に記載された発明が、たとえテガフールをエフェクターとするバイオケミカルモジュレーションに関するものであったとしても、また、甲第4号証の記載を考慮しても、ウラシルをモジュレーターとして用いた引用発明2において、抗腫瘍効果を増強し、毒性を軽減するために、特に、2種類のモジュレーターを併用するバイオケミカルモジュレーションを採用し、さらに、ウラシルの抗腫瘍増強作用に対する影響が不明なモジュレーターであるフォリン酸を有効成分として選択して、引用発明2の抗腫瘍剤の抗腫瘍活性を増強させる抗腫瘍効果増強剤とすることは、当業者が容易に想到し得なかったと認められる。

さらに、人に対する治療において、エフェクターの薬理動態を変化させるモジュレーターの作用を予測するのは困難であること、また、2つのモジュレーターの組み合わせた場合、一方のモジュレーターの抗腫瘍効果増強、毒性軽減の作用を、他方のモジュレーターが妨害する場合があることは、上記「1 無効理由1(進歩性欠如)について」「1-(3)-2 相違点1Aについての検討」の「・効果について」で述べたとおり、自明であったから、本件特許明細書の実施例において、テガフールウラシル配合剤の抗腫瘍効果をフォリン酸が増強することを確認する本件特許発明1の効果は、(乙第1号証の結果を検討するまでもなく)甲第1号証、第2号証、第4号証から当業者が予測できないものであるといえる。

・口頭審理陳述要領書に記載の請求人の主張について
請求人は、甲第2号証に記載された発明に、甲第1号証に記載された発明を適用するという論理付けを肯定するための要素として、
a')阻害要因は存在しない点、
b')甲第2号証記載のテガフール+ウラシルの組合せに更にフォリン酸を併用した場合にどのような結果となるのかを事前に予測する必要性はそもそも存在しない点
を挙げている(第30頁第2行?第32頁第7行)。
しかしながら、上記「1 無効理由1(進歩性欠如)について」「1-(3)-2 相違点1Aについての検討」の「・口頭審理陳述要領書に記載の請求人の主張について」での検討と同様、引用発明2において、ウラシルと共にフォリン酸を組み合わせる論理付けができないから、上記a')の点は、上述の判断に影響を与えないし、甲第4号証の記載を考慮しても、甲第1、2号証に接した当業者が、エフェクターであるテガフールの抗腫瘍効果増強、毒性軽減のために、2種類のモジュレーターを併用するバイオケミカルモジュレーションを採用することが、当業者にとってごく当然のことともいえないから、上記b')の点は、前提を欠くものである。
よって、請求人が挙げた点は、論理付けを肯定するための要素とはならない。

・平成28年3月31日付け上申書に記載の請求人の主張について
請求人は、本件特許発明は、テガフール及びウラシルを同時に投与しなくてもよいから、甲第4号証の記載に基づいては、テガフールとウラシルとを共に配合しようとはしないという被請求人の主張は、進歩性の議論とは無関係であると主張する(平成28年3月31日付け上申書の第3頁第1行?第4頁最下行)。
しかしながら、上記「1 無効理由1(進歩性欠如)について」「1-(3)-2 相違点1Aについての検討」の「・平成28年3月31日付け上申書に記載の請求人の主張について」と同様の理由で、上記主張は採用できない。

したがって、本件特許発明1は、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2-(4) 本件特許発明2について
2-(4)-1 一致点・相違点
本件特許発明2と引用発明2とは、「治療に有効な量のテガフール、抗腫瘍効果増強のために有効な量のウラシルを含有することを特徴とする抗腫瘍剤」の点で一致し、以下の点で相違する。

「抗腫瘍剤」の成分について、
本件特許発明2は、さらに「抗腫瘍効果増強のために有効な量のフォリン酸」を含有するのに対して、
引用発明2は、フォリン酸を含まない点
(以下、「相違点2B」という。)

2-(4)-2 相違点2Bについての検討
甲第1号証には、進行大腸癌において、テガフールと高用量のフォリン酸の組合せで治療することが記載され、引用発明2と、テガフールという同じエフェクターを用いたバイオケミカルモジュレーションの効果を利用する点で一見類似する。
しかしながら、上記「2-(3)-2 相違点2Aについての検討」でも述べたとおり、甲第1号証には、フォリン酸以外のモジュレーターを用いること、甲第2号証には、ウラシル以外のモジュレーターを用いることが記載も示唆もされていないし、甲第4号証の記載は、エフェクターであるテガフール投与において、モジュレータとしてフォリン酸及びウラシルを併用することを示唆するものではない。
また、抗腫瘍活性を有する薬剤の抗腫瘍効果を増強し、かつ、当該薬剤の毒性を軽減しようとすれば、考え得る多くの手段の中から、当業者が必ず2種類のモジュレーターを併用したバイオケミカルモジュレーションを採用することが明らかとまではいえず、甲第4号証の記載が、エフェクターであるテガフール投与において、モジュレーターとしてフォリン酸とウラシルとを併用することを示唆するものでもないという状況においては、2種類のモジュレーターを併用するバイオケミカルモジュレーションについての示唆がない甲第1、2号証に接した当業者が、たとえ抗腫瘍効果を増強し、かつ、毒性を軽減するためであったとしても、2種類のモジュレーターを併用するバイオケミカルモジュレーションを採用することが、ごく当然のことであったといいがたいことも、上記「2-(3)-2 相違点2Aについての検討」で述べたとおりである。

このため、甲第1、2号証に記載された発明が、テガフールをエフェクターとするバイオケミカルモジュレーションに関するものであったとしても、また、甲第4号証の記載を考慮しても、ウラシルをモジュレーターとして用いた引用発明2において、抗腫瘍効果を増強し、毒性を軽減するために、当業者が考え得る手段の中から、特に、2種類のモジュレーターを併用するバイオケミカルモジュレーションを採用し、さらに、ウラシルの抗腫瘍増強作用に対する影響が不明なモジュレーターであるフォリン酸を選択してウラシルと併用することは、当業者が容易に想到し得なかったと認められる。

本件特許発明2の効果についても、上記「2-(3)-2 相違点2Aについての検討」と同様に、甲第1号証、第2号証、第4号証から当業者が予測できないものであるといえる。

2-(5) 本件特許発明3?5について
本件特許発明3?5は、本件特許発明2をさらに特定するものであるから、上記「2-(4) 本件特許発明2について」と同様に、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

したがって、本件特許発明1?5は、主引例である甲第2号証に記載された発明において、副引例である甲第1号証に記載された発明に加えて、さらに副引例である甲第4号証に記載された発明をも考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


3 無効理由3(進歩性欠如)について
3-(1) 請求人の主張の要点
平成28年3月14日付け口頭審理陳述要領書には、「無効理由3は甲第3号証を主引例とする一方、甲第1号証を副引例とし、また、甲第4号証をも副引例とする。」と記載されている(第6頁下から第2行?最下行)、「したがって、甲第2号証又は甲第3号証記載の発明の副作用を増大させることなくテガフールによって奏される抗腫瘍効果を更に増強させるために甲第2号証又は甲第3号証記載のテガフール+ウラシルの組合せに更に第3成分としてフォリン酸を使用することは、甲第1号証の記載に加えて、甲第4号証をも考慮すれば、明らかに、当業者が容易に想到し得たものである。(第33頁下から第6行?最下行)と記載されている。
したがって、請求人の主張は、主引例である甲第3号証に記載された発明において、副引例である甲第1号証に記載された発明に加えて、さらに副引例である甲第4号証に記載された発明をも考慮すると、本件特許発明1?5を、当業者が容易に発明をすることができたものであるというものである。

3-(2) 甲第3号証に記載された発明
甲第3号証には、5-フルオロウラシル類とウラシルとを含有する抗腫瘍剤が記載されており、5-フルオロウラシル類として1-(2-テトラヒドロフリル)-5-フルオロウラシル(当該化学名から「テガフール」を意味すると認められる。以下、「テガフール」という。)を用いた実施例が記載されている(記載事項(甲3-a)?(甲3-i))。また、ウラシル自体には抗腫瘍効果は認められないが、5-フルオロウラシル類の毒性及び副作用を強めることなく、抗腫瘍効果を増大することが記載されていることから(記載事項(甲3-b))、当該抗腫瘍剤は、テガフールを抗腫瘍活性を有するエフェクター、ウラシルをモジュレーターとするバイオケミカルモジュレーションによる効果を利用した薬剤であることが当業者の技術常識から理解できる。このため、テガフールは、治療に有効な量であること、また、ウラシル、抗腫瘍効果増強のために有効な量であることも、本件優先日当時の技術常識から明らかである。
そうすると、甲第3号証には、「治療に有効な量のテガフール及び抗腫瘍効果増強のために有効な量のウラシルを含有する抗腫瘍剤」の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。

3-(3) 本件特許発明1について
3-(3)-1 対比
本件特許発明1は、「抗腫瘍効果増強のために有効な量のフォリン酸又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有することを特徴とする、治療に有効な量のテガフール及び抗腫瘍効果増強のために有効な量のウラシルを含有する抗腫瘍剤の抗腫瘍活性を増強させる抗腫瘍効果増強剤」の発明であるのに対して、
引用発明3は、「治療に有効な量のテガフール及び抗腫瘍効果増強のために有効な量のウラシルを含有する抗腫瘍剤」の発明であって、本件特許発明1が抗腫瘍活性を増強させる対象となる抗腫瘍剤である点で相違する。(以下、「相違点3A」という。)

3-(3)-2 相違点3Aについての検討
上記「3-(2) 甲第3号証に記載された発明」で述べたとおり、引用発明3は、テガフールをエフェクター、ウラシルをモジュレーターとするバイオケミカルモジュレーションによる効果を利用した薬剤であることが理解できる。しかしながら、甲第3号証には、ウラシル以外のモジュレーターを用いることの記載も示唆もない。

一方、甲第1号証には、上記「1 無効理由1(進歩性欠如)について」「1-(2) 甲第1号証に記載された発明」で述べたとおり、進行大腸癌において、テガフールと高用量のフォリン酸の組合せで治療することが有用であることが記載され、引用発明3とは、テガフールという同じエフェクターを用いたバイオケミカルモジュレーションの効果を利用する点で一見類似する(記載事項(甲1-a)(甲1-e))。
しかしながら、甲第1号証にも、フォリン酸と他のモジュレーターとを併用することについて記載も示唆もないことは、上記「1 無効理由1(進歩性欠如)について」「1-(3)-2 相違点1Aについての検討」の「・甲第1?3号証について」で述べたとおりである。
また、甲第4号証の記載は、上記「1 無効理由1(進歩性欠如)について」「1-(3)-2 相違点1Aについての検討」の「・甲第4号証について」で述べたとおり、エフェクターであるテガフール投与において、モジュレータとしてフォリン酸及びウラシルを併用することを示唆するものではない。

そして、上記「1-(3)-2 相違点1Aについての検討」でも述べたように、抗腫瘍活性を有する薬剤の抗腫瘍効果を増強し、かつ、当該薬剤の毒性を軽減しようとすれば、考え得る多くの手段の中から、当業者が必ず2種類のモジュレーターを併用したバイオケミカルモジュレーションを採用することが明らかとまではいいがたいから、甲第4号証の記載が、エフェクターであるテガフール投与において、モジュレーターとしてフォリン酸とウラシルとを併用することを示唆するものでもないという状況においては、2種類のモジュレーターを併用するバイオケミカルモジュレーションについての示唆がない甲第1、3号証に接した当業者が、たとえ上記課題解決のためであったとしても、2種類のモジュレーターを併用するバイオケミカルモジュレーションを採用することが、ごく当然のことであったということもできない。

そうすると、甲第1、3号証に記載された発明が、テガフールをエフェクターとするバイオケミカルモジュレーションに関するものであったとしても、また、甲第4号証の記載を考慮しても、ウラシルをモジュレーターとして用いた引用発明2において、抗腫瘍効果を増強し、毒性を軽減するために、特に、2種類のモジュレーターを併用するバイオケミカルモジュレーションを採用し、さらに、ウラシルの抗腫瘍増強作用に対する影響が不明なモジュレーターであるフォリン酸を有効成分として選択して、引用発明3の抗腫瘍剤の抗腫瘍活性を増強させる抗腫瘍効果増強剤とすることは、当業者が容易に想到し得なかったと認められる。


そして、人に対する治療において、エフェクターの薬理動態を変化させるモジュレーターの作用を予測するのは困難であること、また、2つのモジュレーターの組み合わせた場合、一方のモジュレーターの抗腫瘍効果増強、毒性軽減の作用を、他方のモジュレーターが妨害する場合があることは、上記「1 無効理由1(進歩性欠如)について」「1-(3)-2 相違点1Aについての検討」の「・効果について」で述べたとおり、自明であったから、本件特許明細書の実施例において、テガフールウラシル配合剤の抗腫瘍効果をフォリン酸が増強することを確認する本件特許発明1の効果は、(乙第1号証の結果を検討するまでもなく)甲第1号証、第3号証、第4号証から当業者が予測できないものであるといえる。

・口頭審理陳述要領書に記載の請求人の主張について
請求人は、甲第3号証に記載された発明に、甲第1号証に記載された発明を適用するという論理付けを肯定するための要素として、
a'')阻害要因は存在しない点、
b'')甲第3号証記載のテガフール+ウラシルの組合せに更にフォリン酸を併用した場合にどのような結果となるのかを事前に予測する必要性はそもそも存在しない点
を挙げている(第30頁第2行?第32頁第7行)。
しかしながら、上記「1 無効理由1(進歩性欠如)について」「1-(3)-2 相違点1Aについての検討」の「・口頭審理陳述要領書に記載の請求人の主張について」での検討と同様、引用発明3において、ウラシルと共にフォリン酸を組み合わせる論理付けができないのは上述のとおりであるから、上記a'')の点は、上述の判断に影響を与えないし、甲第4号証の記載を考慮しても、甲第1、3号証に接した当業者が、エフェクターであるテガフールの抗腫瘍効果増強、毒性軽減のために、2種類のモジュレーターを併用するバイオケミカルモジュレーションを採用することが、当業者にとってごく当然のことともいえないから、上記b'')の点は、前提を欠くものである。
よって、請求人が挙げた点は、論理付けを肯定するための要素とはならない。

・平成28年3月31日付け上申書に記載の請求人の主張について
請求人は、本件特許発明は、テガフール及びウラシルを同時に投与しなくてもよいから、甲第4号証の記載に基づいては、テガフールとウラシルとを共に配合しようとはしないという被請求人の主張は、進歩性の議論とは無関係であると主張する(平成28年3月31日付け上申書の第3頁第1行?第4頁最下行)。
しかしながら、上記「1 無効理由1(進歩性欠如)について」「1-(3)-2 相違点1Aについての検討」の「・平成28年3月31日付け上申書に記載の請求人の主張について」と同様の理由で、上記主張は採用できない。

したがって、本件特許発明1は、甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3-(4) 本件特許発明2について
3-(4)-1 一致点・相違点
本件特許発明1と引用発明3とは、「治療に有効な量のテガフール、抗腫瘍効果増強のために有効な量のウラシルを含有することを特徴とする抗腫瘍剤」の点で一致し、以下の点で相違する。

「抗腫瘍剤」の成分について、
本件特許発明2は、さらに「抗腫瘍効果増強のために有効な量のフォリン酸又はその薬学的に許容される塩」を含有するのに対して、
引用発明3は、フォリン酸を含まない点
(以下、「相違点3B」という。)

3-(4)-2 相違点3Bについての検討
甲第1号証には、進行大腸癌において、テガフールと高用量のフォリン酸の組合せで治療することが記載され、引用発明3と、テガフールという同じエフェクターを用いたバイオケミカルモジュレーションの効果を利用する点で類似する。
しかしながら、上記「3-(3)-2 相違点3Aについての検討」でも述べたとおり、甲第3号証には、ウラシル以外のモジュレーターを用いることについて、甲第1号証にも、フォリン酸と他のモジュレーターとを併用することについて記載も示唆もない、甲第4号証の記載は、エフェクターであるテガフール投与において、モジュレータとしてフォリン酸及びウラシルを併用することを示唆するものではない。
また、抗腫瘍活性を有する薬剤の抗腫瘍効果を増強し、かつ、当該薬剤の毒性を軽減しようとすれば、考え得る多くの手段の中から、当業者が必ず2種類のモジュレーターを併用したバイオケミカルモジュレーションを採用することが明らかとまではいえず、甲第4号証の記載が、エフェクターであるテガフール投与において、モジュレーターとしてフォリン酸とウラシルとを併用することを示唆するものでもないという状況においては、2種類のモジュレーターを併用するバイオケミカルモジュレーションについての示唆がない甲第1、3号証に接した当業者が、たとえ抗腫瘍効果を増強し、かつ、毒性を軽減するためであったとしても、2種類のモジュレーターを併用するバイオケミカルモジュレーションを採用することが、ごく当然のことであったといいがたいことも、上記「3-(3)-2 相違点3Aについての検討」で述べたとおりである。

このため、甲第1、3号証に記載された発明が、テガフールをエフェクターとするバイオケミカルモジュレーションに関するものであったとしても、また、甲第4号証の記載を考慮しても、ウラシルをモジュレーターとして用いた引用発明3において、抗腫瘍効果を増強し、毒性を軽減するために、当業者が考え得る手段の中から、特に、2種類のモジュレーターを併用するバイオケミカルモジュレーションを採用し、さらに、ウラシルの抗腫瘍増強作用に対する影響が不明なモジュレーターであるフォリン酸を選択してウラシルと併用することは、当業者が容易に想到し得なかったと認められる。

本件特許発明2の効果についても、上記「3-(3)-2 相違点3Aについての検討」と同様に、甲第1号証、第3号証、第4号証から当業者が予測できないものであるといえる。

3-(5) 本件特許発明3?5について
本件特許発明3?5は、本件特許発明2をさらに特定するものであるから、上記「3-(4) 本件特許発明2について」と同様に、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


したがって、本件特許発明1?5は、主引例である甲第3号証に記載された発明において、副引例である甲第1号証に記載された発明に加えて、さらに副引例である甲第4号証に記載された発明をも考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


4 無効理由4(進歩性欠如)について
4-(1) 請求人の主張の要点
平成28年3月14日付け口頭審理陳述要領書には、「無効理由4は甲第2号証又は甲第3号証を主引例とする一方、(甲第5号証?甲第16号証に示される)本件優先日当時の技術常識、並びに、甲第4号証を本件特許発明の進歩性欠如の根拠として使用する。すなわち、無効理由4においては(甲第5号証?甲第16号証に示される)本件優先日当時の技術常識と並行して甲第4号証を副引例として使用する。」(第7頁第12?16行)、「上記の記載は、本件優先日当時の技術常識乃至周知技術に加えて、甲第4号証をも考慮すれば、甲第2号証又は甲第3号証記載のテガフール+ウラシルの組合せに更にフォリン酸を併用することは当業者が更に容易に想到し得たものであることを述べたものである。」(第42頁第10から13行)と記載されている。
したがって、請求人の主張は、主引例である甲第2号証、甲第3号証に記載された発明において、甲第5?16号証に示される本件優先日当時の技術常識乃至周知技術に加えて、さらに副引例である甲第4号証に記載された発明をも考慮すると、本件特許発明1?5は当業者が容易に発明をすることができたものであるというものである。

4-(2) 甲第2号証、甲第3号証に記載された発明
上記「2 無効理由2(進歩性欠如)について」の「2-(2) 甲第2号証に記載された発明」及び「3 無効理由3(進歩性欠如)について」の「3-(2) 甲第3号証に記載された発明」で述べたとおりである。

4-(3) 本件特許発明1について
4-(3)-1 一致点・相違点
本件特許発明1と、引用発明2、3との一致点、相違点は、上記「2 無効理由2(進歩性欠如)について」の「2-(3)-1 対比」、及び、「3 無効理由3(進歩性欠如)について」の「3-(3)-1 対比」で述べたとおり、相違点2A、3Aである。

4-(3)-3 相違点2A、3Aについての検討
上記「2 無効理由2(進歩性欠如)について」の「2-(3)-3 相違点2Aについての検討」、及び、上記「3 無効理由3(進歩性欠如)について」の「3-(3)-3 相違点3Aについての検討」で述べたように、甲第2、3号証には、2種以上のモジュレーターを併用することについて、記載も示唆もない。

一方、甲第5?16号証には、5-フルオロウラシルを用いた治療においてフォリン酸を組み合わせることによって、5-フルオロウラシルの抗腫瘍活性を高めることが記載されており(記載事項(甲5-a)(甲6-a)(甲6-b)(甲7-a)(甲8-c)(甲8-d)(甲9-a)(甲9-b)(甲10-a)(甲11-a)(甲11-b)(甲12-a)(甲13-a)(甲14-b)(甲15-a)(甲16-a)、(記載事項として示していないが甲第9号証の表2、3、甲第10号証の表2、3、甲第11号証の表2、3にも多くの試験例が記載されている。))、5-フルオロウラシルをエフェクターとして用いたバイオケミカルモジュレーションにおいて、モジュレーターとしてフォリン酸を用いることは、本件優先日当時の技術常識であったと認められる。
しかしながら、甲第8号証には、テガフール(上記「1 無効理由1(進歩性欠如)について」の「1-(2) 甲第1号証に記載された発明」で述べたとおり、「フトラフール」は、「テガフール」を意味する。)が、5-フルオロウラシルのプロドラッグであることが記載されているところ、臨床学的に応用されているバイオケミカルモジュレーションの組合せを記載する表1には(記載事項(甲8-c))、テガフールと組み合わせられるモジュレーターとしては、ウラシルのみ記載され、同じく表1で記載される5-フルオロウラシルと組み合わせられるモジュレーター(メソトレキセート、ロイコボリン、ピリミジン、アロプリノール)とは異なっている。当該記載からみて、5-フルオロウラシルで組み合わせられるモジュレーターが、テガフールとも組み合わせられることが、本件優先日当時の当業者の技術常識または周知事項であったということはできない。
そうすると、5-フルオロウラシルを用いたバイオケミカルモジュレーションにおいて、モジュレーターとしてフォリン酸を用いることが、本件優先日当時の技術常識であったとしても、当該技術常識から、テガフールを用いたバイオケミカルモジュレーションにおいて、モジュレーターとしてフォリン酸を組み合わせることが、当業者にとって自明のこととはいえない。

加えて、甲第4号証の記載は、上記「1 無効理由1(進歩性欠如)について」「1-(3)-2 相違点1Aについての検討」の「・甲第4号証について」のとおり、そもそもテガフール投与におけるフォリン酸とウラシルとを併用することを示唆するものではない。

ところで、上記「1 無効理由1(進歩性欠如)について」「1-(3)-2 相違点1Aについての検討」でも述べたように、抗腫瘍活性を有する薬剤の抗腫瘍効果を増強し、かつ、当該薬剤の毒性を軽減しようとすれば、考え得る多くの手段の中から、当業者が必ず2種類のモジュレーターを併用したバイオケミカルモジュレーションを採用することが明らかとまではいいがたい。
このため、甲第4号証の記載が、エフェクターであるテガフール投与において、モジュレーターとしてフォリン酸とウラシルとを併用することを示唆するものではないという状況においては、2種類のモジュレーターを併用するバイオケミカルモジュレーションについての示唆がない甲第2、3号証に接した当業者が、たとえ上記課題解決のためであったとしても、2種類のモジュレーターを併用するバイオケミカルモジュレーションを採用することが、ごく当然のことであったということもできない。

以上のことから、本件優先日当時の技術常識及び周知事項に加えて、甲第4号証の記載を考慮しても、引用発明2、3の抗腫瘍活性を増強させる薬剤として、フォリン酸を採用する動機付けを見いだせない。

さらに、人に対する治療において、エフェクターの薬理動態を変化させるモジュレーターの作用を予測するのは困難であること、また、2つのモジュレーターの組み合わせた場合、一方のモジュレーターの抗腫瘍効果増強、毒性軽減の作用を、他方のモジュレーターが妨害する場合があることは、上記「1 無効理由1(進歩性欠如)について」「1-(3)-2 相違点1Aについての検討」の「・効果について」で述べたとおり、自明であったから、本件特許明細書の実施例において、テガフールウラシル配合剤の抗腫瘍効果をフォリン酸が増強することを確認する本件特許発明2の効果は、(乙第1号証を検討するまでもなく)甲第2号証、第3号証、第4号証、本件優先日当時の技術常識及び周知事項から当業者が予測できないものであるといえる。

・平成28年3月31日付け上申書に記載の請求人の主張について
請求人が、本件特許発明は、テガフール及びウラシルを同時に投与しなくてもよいから、甲第4号証の記載に基づいては、テガフールとウラシルとを共に配合しようとはしないという被請求人の主張は、進歩性の議論とは無関係であると主張する点(平成28年3月31日付け上申書の第3頁第1行?第4頁最下行)については、上記「1 無効理由1(進歩性欠如)について」「1-(3)-2 相違点1Aについての検討」の「・平成28年3月31日付け上申書に記載の請求人の主張について」と同様の理由により、採用できない。

したがって、甲第2号証、甲第3号証に記載された発明において、甲第5?16号証に示される本件優先日当時の技術常識乃至周知技術に加えて、甲第4号証に記載された発明をも考慮しても、本件特許発明1は当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4-(4) 本件特許発明2について
4-(4)-1 一致点・相違点
本件特許発明2と、引用発明2、3との一致点、相違点は、上記「2 無効理由2(進歩性欠如)について」の「2-(4)-1 一致点・相違点」及び「3 無効理由3(進歩性欠如)について」の「3-(4)-1 一致点・相違点」で述べたとおり、相違点2B、3Bである。

4-(4)-2 相違点2B、3Bについての検討
上記「4-(3)-2 相違点2A、3Aについての検討」でも述べたとおり、甲第2、3号証には、2種以上のモジュレーターを併用することについて、記載も示唆もなく、本件優先日当時の技術常識から、テガフールを用いたバイオケミカルモジュレーションにおいて、モジュレーターとしてフォリン酸を組み合わせることが、当業者にとって自明ともいえない。また、甲第4号証の記載は、テガフール投与においてフォリン酸とウラシルとを併用することを示唆するものでもない。
さらに、甲第4号証の記載が、エフェクターであるテガフール投与において、モジュレーターとしてフォリン酸とウラシルとを併用することを示唆するものではないという状況においては、2種類のモジュレーターを併用するバイオケミカルモジュレーションについての示唆がない甲第2、3号証に接した当業者が、たとえ抗腫瘍効果を増強し、かつ、毒性を軽減するためであったとしても、2種類のモジュレーターを併用するバイオケミカルモジュレーションを採用することが、ごく当然のことであったということができない点も、上記「4-(3)-2 相違点2A、3Aについての検討」でも述べたとおりである。

以上のことから、本件優先日当時の技術常識及び周知事項に加えて、甲第4号証の記載を考慮しても、引用発明2、3の抗腫瘍活性を増強させる薬剤として、フォリン酸を採用する動機付けを見いだせない。

さらに、上記「4-(3)-2 相違点2A、3Aについての検討」と同様、本件特許発明2の効果は、(乙第1号証を検討するまでもなく)甲第2号証、第3号証、第4号証、本件優先日当時の技術常識及び周知事項から当業者が予測できないものであるといえる。

4-(5) 本件特許発明3?5について
本件特許発明3?5は、本件特許発明2をさらに特定するものであるから、上記「4-(4) 本件特許発明2について」と同様に、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

したがって、主引例である甲第2号証、甲第3号証に記載された発明において、甲第5?16号証に示される本件優先日当時の技術常識乃至周知技術に加えて、副引例である甲第4号証に記載された発明をも考慮しても、本件特許発明1?5は当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

5 無効理由5(進歩性欠如)について
5-(1) 請求人の主張の要点
請求人の主張は、本件特許発明1?5は、甲第4号証に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識乃至周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるというものである(審判請求書第9頁第14?19行)。

5-(2) 甲第4号証に記載された発明
甲第4号証には、細胞毒性を有する5-フルオロウラシル、ウラシルと構造が類似するウリジン、フォリン酸を用いた癌化学療法について記載されている(記載事項(甲4-a)?(甲4-g))。また、フォリン酸投与の1時間後に5-フルオロウラシルとフォリン酸とを同時に投与するというスケジュールで治療した場合、5-フルオロウラシル単独投与よりも抗腫瘍効果が高いこと(記載事項(甲4-b))、そして、当該スケジュールの5-フルオロウラシル投与後さらに時間を空けてウリジンを投与すると、より高用量の5-フルオロウラシルの使用が可能になり、抗腫瘍効果が高まったことが記載されている(記載事項(甲4-c)(甲4-e))。
このため、本件優先日当時の技術常識から、甲第4号証に記載された癌化学療法は、細胞毒性を有する5-フルオロウラシルをエフェクター、ウリジン、フォリン酸をモジュレーターとするバイオケミカルモジュレーションを利用したものであると理解できる。そして、フォリン酸は、5-フルオロウラシルの細胞毒性(すなわち抗腫瘍活性)を高める目的で使用されていると理解できるから、その使用量は抗腫瘍効果増強のために有効な量と認められるし、細胞毒性を有する5-フルオロウラシルの使用量は、治療に有効な量であると認められる、
一方、ウリジンについて、甲第4号証では、5-フルオロウラシルと同時に投与されておらず、5-フルオロウラシル投与後に遅れて投与することで高用量の5-フルオロウラシル投与を可能するための「レスキュー」であること、フォリン酸の抗腫瘍活性増強効果に影響を与えないことが記載され(記載事項(甲4-f))、ウリジンの効果は、RNAにおける5-フルオロウラシルの効果を妨害することによるものという示唆も記載されている(記載事項(甲4-g))。このため、ウリジンは、5-フルオロウラシルの高用量投与により激烈となる毒性を軽減するために、当該高用量投与の一定時間後に投与することで、RNAにおける5-フルオロウラシルの効果を妨害する目的で投与されるモジュレーターであると理解でき、高用量の5-フルオロウラシルの使用を可能にして抗腫瘍効果が高まるという意味で、抗腫瘍効果増強のために有効な量が使用されていると認められる。

そうすると、甲第4号証には、
「成分が、抗腫瘍効果増強のために有効な量のフォリン酸、抗腫瘍効果増強のために有効な量のウリジンであって、
最初に投与されるフォリン酸を含む第1の薬剤、
第1の薬剤投与1時間後に5-フルオロウラシルと共に投与されるフォリン酸を含む第2の薬剤、
第2の薬剤投与後さらに時間を空けて投与されるウリジンを含む第3の薬剤からなる、5-フルオロウラシルの抗腫瘍活性を増強させる抗腫瘍効果増強剤」の発明(以下、「引用発明4A」という。)、
及び、
「成分が、治療に有効な量の5-フルオロウラシル、抗腫瘍効果増強のために有効な量のフォリン酸、抗腫瘍効果増強のために有効な量のウリジンであって、
最初に投与されるフォリン酸を含む第1の薬剤、
第1の薬剤投与1時間後に投与される5-フルオロウラシルとフォリン酸を含む第2の薬剤、
第2の薬剤投与後さらに時間を空けて投与されるウリジンを含む第3の薬剤からなる、抗腫瘍剤」の発明(以下、「引用発明4B」という。)、
が記載されていると認められる。

5-(3) 本件特許発明1について
・本件特許発明1の「治療に有効な量のテガフール及び抗腫瘍効果増強のために有効な量のウラシルを含有する抗腫瘍剤」における「含有する」の意味について

当該用語は、その記載どおり各成分を同時に含むと解釈するものであって、各成分を同時に投与しなくてもよいという意味で使用されているとは認められないことは、上記「1 無効理由1(進歩性欠如)について」「1-(3)-2 相違点1Aについての検討」の「・平成28年3月31日付け上申書に記載の請求人の主張について」で検討した通りである。

5-(3)-1 一致点・相違点
本件特許発明1と引用発明4Aとは、成分が「抗腫瘍効果増強のために有効な量のフォリン酸」である「抗腫瘍効果増強剤」の点で一致し、以下の点で相違する。

フォリン酸以外の「抗腫瘍効果増強剤」の成分について
本件特許発明1は、フォリン酸以外の成分は存在しないのに対して、引用発明4Aは、「抗腫瘍効果増強のために有効な量のウリジン」も存在する点(以下、「相違点4A-1」という。)

「抗腫瘍剤」の成分について
本件特許発明1は、「治療に有効な量のテガフール及び抗腫瘍効果増強のために有効な量のウラシルを含有する抗腫瘍剤」であるのに対して、引用発明4Aは、「5-フルオロウラシル」である点(以下、「相違点4A-2」という。)

抗腫瘍効果増強剤の剤形について
本件特許発明1は、フォリン酸を含有する単一の剤であるのに対して、引用発明4Aは、「最初に投与されるフォリン酸を含む第1の薬剤」、「第1の薬剤投与1時間後に5-フルオロウラシルと共に投与されるフォリン酸を含む第2の薬剤」、「第2の薬剤投与後さらに時間を空けて投与されるウリジンを含む第3の薬剤」の3つの薬剤からなる点(以下、「相違点4A-3」という。)

5-(3)-2 相違点4A-1、4A-2、4A-3についての検討
・相違点4A-1、4A-2について
(引用発明4Aにおいて、5-フルオロウラシルとウリジンを、テガフールとウラシルへ換えることの容易想到性について)

上記「5-(2) 甲第4号証に記載された発明」で述べたとおり、引用発明4Aは、細胞毒性を有する5-フルオロウラシルをエフェクター、ウリジン、フォリン酸をモジュレーターとするバイオケミカルモジュレーションを利用した薬剤である。
一方、テガフール(フトラフール)とウラシルの配合剤が、テガフールをエフェクター、ウラシルをモジュレーターとしたバイオケミカルモジュレーションであることは、本件優先日当時の技術常識と認められる(必要であれば、本件優先日当時の技術常識を示すために提出した甲第8号証の記載事項(甲8-e)参照)。そして、引用発明4Aの5-フルオロウラシルのプロドラッグがテガフールであること、引用発明4Aのウリジンは体内で分解されてウラシルとなることは、本件優先日当時の技術常識であった(記載事項(甲8-e)(甲17-a))から、引用発明4Aにおける、5-フルオロウラシルとウリジンというエフェクターとモジュレーターの関係は、テガフールとウラシルの配合剤におけるエフェクターとモジュレーターの関係と、一見類似する。
しかしながら、テガフールとウラシルの配合剤におけるウラシルの作用は、5-フルオロウラシルの分解を抑制することに起因し、5-フルオロウラシルの濃度を高く維持し、抗腫瘍効果を増強することであるのは、甲第8号証にも記載されるように本件優先日当時の技術常識である(記載事項(甲8-e))。これに対して、引用発明4Aのウリジンの作用は、RNAにおける5-フルオロウラシルの効果を妨害することに起因し、毒性を軽減することと理解できるのは、上記「5-(2) 甲第4号証に記載された発明」で述べたとおりである。
このため、甲第4号証の記載を検討すると、引用発明4Aのウリジンは、テガフールとウラシルの配合剤におけるウラシルと、5-フルオロウラシルの薬理動態への影響が異なる作用を有するモジュレータであるといえる。

加えて、バイオケミカルモジュレーションにおいて、2種類以上のモジュレーターを併用する場合には、少なくとも、互いの作用を妨害しないこと、毒性が上昇しないことを要する。
しかしながら、テガフールとウラシルの配合剤におけるウラシルは、ウリジンと5-フルオロウラシルの薬理動態への影響が異なる作用のモジュレーターである以上、甲第4号証に5-フルオロウラシルをエフェクター、ウリジン、フォリン酸をモジュレーターとするバイオケミカルモジュレーションが記載されているとしても、テガフールをエフェクター、フォリン酸とウラシルをモジュレーターとするバイオケミカルモジュレーションにおいて、ウラシルに、甲第4号証に記載のウリジンと同じ作用を期待できないから、フォリン酸とウラシルが互いの作用を妨害しないこと、毒性が上昇しないことも、甲第4号証の記載から理解できない。

以上のことから、引用発明4Aにおいて、5-フルオロウラシルとウリジンを、テガフールとウラシルへ換えることの動機付けを見いだせない。

・相違点4A-3について
上述のとおり、引用発明4Aにおいて、5-フルオロウラシルとウリジンを、テガフールとウラシルへ換えることの動機付けがない以上、相違点4A-3についてさらに検討するまでもなく、引用発明4Aから当業者が本件特許発明1に容易に到達する論理付けができない。

・効果について
人に対する治療において、モジュレーターがエフェクターの薬理動態を変化させる作用を予測するのは困難であることが、本件優先日当時の技術常識であるのは、上記「1 無効理由1(進歩性欠如)について」「1-(3)-2 相違点1Aについての検討」の「・効果について」で述べたとおりである。また、ウリジンは副作用を軽減するためのものであって、抗腫瘍効果を増強するためのものではないことが、甲第4号証の記載から理解できるから、本件特許発明1の効果は、(乙第1号証を検討するまでもなく)甲第4号証から当業者が予測できないものであるといえる。

したがって、本件特許発明1は、甲第4号証に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識乃至周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

5-(4) 本件特許発明2について
・本件特許発明2の「治療に有効な量のテガフール、抗腫瘍効果増強のために有効な量のウラシル及び抗腫瘍効果増強のために有効な量のフォリン酸又はその薬学的に許容される塩を含有することを特徴とする抗腫瘍剤」における「含有する」の意味について

当該用語は、その記載どおり各成分を同時に含むと解釈するものであって、各成分を同時に投与しなくてもよいという意味で使用されているとは認められないことは、上記「1 無効理由1(進歩性欠如)について」「1-(3)-2 相違点1Aについての検討」の「・平成28年3月31日付け上申書に記載の請求人の主張について」で検討した通りである。

5-(4)-1 一致点・相違点
本件特許発明2と引用発明4Bとは、成分の一つが「抗腫瘍効果増強のために有効な量のフォリン酸」である「抗腫瘍剤」であって、当該「抗腫瘍剤」の成分がフォリン酸を含め3成分存在する点で一致し、以下の点で相違する。

フォリン酸以外の2成分について
本件特許発明2は、「治療に有効な量のテガフール」、「抗腫瘍効果増強のために有効な量のウラシル」であるのに対して、
引用発明4Bは、「治療に有効な量の5-フルオロウラシル」、「抗腫瘍効果増強のために有効な量のウリジン」である点
(以下、「相違点4B-1」という。)

「抗腫瘍剤」の剤形について、
本件特許発明2は、「治療に有効な量のテガフール」「抗腫瘍効果増強のために有効な量のウラシル」の3成分を同時に含有する単一の剤であるのに対して、
引用発明4Bは、「最初に投与されるフォリン酸を含む第1の薬剤」、「第1の薬剤投与1時間後に投与される5-フルオロウラシルとフォリン酸を含む第2の薬剤」、「第2の薬剤投与後さらに時間を空けて投与されるウリジンを含む第3の薬剤」という異なる3つの薬剤からなる点
(以下、「相違点4B-2」という。)

5-(4)-2 相違点4B-1、4B-2についての検討
・相違点4B-1について
(引用発明4Bにおいて、5-フルオロウラシルとウリジンを、テガフールとウラシルへ換えることの容易想到性について)

上記「5-(3)-2 相違点4A-1、4A-2、4A-3についての検討」の「・相違点4A-1、4A-2について(引用発明4Aにおいて、5-フルオロウラシルとウリジンを、テガフールとウラシルへ換えることの容易想到性について)」と同様、甲第4号証の記載を検討すると、引用発明4Bのウリジンは、テガフールとウラシルの配合剤におけるウラシルと、5-フルオロウラシルの薬理動態への影響が異なる作用を有するモジュレータであるといえる。また、バイオケミカルモジュレーションにおいて、2種類以上のモジュレーターを併用する場合には、少なくとも、互いの作用を妨害しないこと、毒性が上昇しないことを要するが、テガフールをエフェクター、フォリン酸とウラシルをモジュレーターとするバイオケミカルモジュレーションにおいて、フォリン酸とウラシルが互いの作用を妨害しないこと、毒性が上昇しないことも、甲第4号証の記載から理解できない。

このため、引用発明4Bにおいて、5-フルオロウラシルとウリジンを、テガフールとウラシルへ換えることの動機付けを見いだせない。

・相違点4-2について
上述のとおり、引用発明4Bにおいて、5-フルオロウラシルとウリジンを、テガフールとウラシルへ換えることの動機付けがない以上、相違点4B-2についてさらに検討するまでもなく、引用発明4Bから当業者が本件特許発明2に容易に到達する論理付けができない。

・効果について
上記「5-(3)-2 相違点4A-1、4A-2、4A-3についての検討」と同様に理由で、本件特許発明2の効果は、(乙第1号証を検討するまでもなく)甲第4号証から当業者が予測できないものであるといえる。

したがって、本件特許発明2は、甲第4号証に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識乃至周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

5-(5) 本件特許発明3?5について
本件特許発明3?5は、本件特許発明2をさらに特定するものであるから、上記「5-(4) 本件特許発明2について」と同様に、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

したがって、本件特許発明1?5は、甲第4号証に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識乃至周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

6 無効理由6(サポート要件)について
6-(1) 請求人の主張の要点
請求人は、実施例1、3の結果(第1表、第4表)からみて、本件特許発明の目的の1つである「毒性(特に消化管毒性)を上昇させることなく」を実現できていないから、本件特許発明は本件特許明細書の記載によってサポートされていないと主張する(審判請求書第70頁第1行?第71頁最下行)。

6-(2) 本件特許明細書の記載
・本件特許発明の課題について
本件特許明細書の発明の詳細な説明では、本件特許発明の課題に関して、以下の記載がある。
6-a)「抗腫瘍剤の研究開発は従来から活発に行なわれており、臨床的にも種々の優れた抗腫瘍剤が悪性腫瘍の化学療法に導入されている。その成績は年々改善されつつあるが、尚多くの場合一時的な効果が認められるだけであり、腫瘍の増殖を完全に抑制し、患者を長期生存させるには必ずしも満足な結果は得られていない。例えばテガフールは、生体内で活性化を受けて活性本体である5-フルオロウラシル(以下、5-FUと称する)を放出する薬剤であり、5-FUにおける毒性又は副作用を軽減したものである。又、このテガフールとウラシルの配合剤については、5-FUは生体内において速やかに代謝されて不活性化されるが、この不活性化をそれ自身全く抗腫瘍活性を有さないウラシルが抑制することにより著しく抗腫瘍効果の増強が得られるというものである。
しかし、癌治療の現状を考える時、さらに抗腫瘍効果の高い薬剤の開発が望まれている。」(本件特許公報第1頁第2欄第10行?第2頁第3欄第10行)。
6-b)「本発明者はこのような現状に鑑み、テガフールとウラシルの配合剤の抗腫瘍効果を更に高める目的で研究を重ねた結果、抗腫瘍効果をそれ自身有さないフォリン酸をテガフールとウラシルの配合剤からなる抗腫瘍剤と共に使用する時、毒性(特に消化管毒性)を上昇させることなく、当該抗腫瘍剤の抗腫瘍効果を著しく増強できることを見出し、本発明を完成するに至った。」(本件特許公報第2頁第3欄第12?18行)

・本件特許明細書の実施例には、以下の記載がある。
6-c)


(実施例1の第1表)

6-d)

(実施例2の第2、3表)

6-e)

(実施例3の第4表)

6-(3) 判断
本件特許発明の課題について、上記6-a)、6-b)の記載から、テガフールとウラシルの配合剤は、ウラシルがテガフールの抗腫瘍効果を増強した抗腫瘍剤であることは、出願時における当業者の技術常識であって、本件特許発明の課題は、「テガフールとウラシルの配合剤の抗腫瘍効果を増強すること」であり、「毒性(特に消化管毒性)を上昇させることなく」とは、フォリン酸をテガフールとウラシルの配合剤からなる抗腫瘍剤と共に使用したことによる本件特許発明の効果であると認められる。

一方、本件特許明細書の上記6-c)?6-e)の記載をみると、テガフールとウラシルの配合剤にフォリン酸を組み合わせることで、テガフールウラシル配合剤の腫瘍増殖抑制率が高まっていることが理解できる。このため、本件特許発明は、「テガフールとウラシルの配合剤の抗腫瘍効果を増強すること」という課題を解決できていると、当業者は認識するものである。
したがって、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものとは認められない。

なお、仮に、「毒性(特に消化管毒性)を上昇させることなく」テガフールとウラシルの配合剤の抗腫瘍効果を増強することが、本件特許発明の課題であるとしても、本件特許明細書の上記6-c)のとおり、消化管毒性に関係する糞便の状態について、テガフールとウラシルの配合剤を投与した結果と、当該配合剤とフォリン酸とを投与した結果とで変化がないことを確認しているから、本件特許発明は当該課題を解決できていると当業者は認識できる。


7 無効理由7(実施可能要件)について
7-(1) 請求人の主張の要点
請求人は、請求項1及び2において、フォリン酸の「抗腫瘍効果増強のために有効な量」、テガフールの「治療に有効な量」、ウラシルの「抗腫瘍効果増強のために有効な量」が不明瞭であるから、本件特許発明1、2の実施に過度の試行錯誤を要すると主張する(審判請求書第72頁第1行?最下行)。

7-(2) 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載
・本件特許発明の目的について、本件特許明細書には、以下の記載がある。
7-a)「抗腫瘍剤の研究開発は従来から活発に行なわれており、臨床的にも種々の優れた抗腫瘍剤が悪性腫瘍の化学療法に導入されている。その成績は年々改善されつつあるが、尚多くの場合一時的な効果が認められるだけであり、腫瘍の増殖を完全に抑制し、患者を長期生存させるには必ずしも満足な結果は得られていない。例えばテガフールは、生体内で活性化を受けて活性本体である5-フルオロウラシル(以下、5-FUと称する)を放出する薬剤であり、5-FUにおける毒性又は副作用を軽減したものである。又、このテガフールとウラシルの配合剤については、5-FUは生体内において速やかに代謝されて不活性化されるが、この不活性化をそれ自身全く抗腫瘍活性を有さないウラシルが抑制することにより著しく抗腫瘍効果の増強が得られるというものである。
しかし、癌治療の現状を考える時、さらに抗腫瘍効果の高い薬剤の開発が望まれている。」(本件特許公報第1頁第2欄第10行?第2頁第3欄第10行)。
7-b)「本発明者はこのような現状に鑑み、テガフールとウラシルの配合剤の抗腫瘍効果を更に高める目的で研究を重ねた結果、抗腫瘍効果をそれ自身有さないフォリン酸をテガフールとウラシルの配合剤からなる抗腫瘍剤と共に使用する時、毒性(特に消化管毒性)を上昇させることなく、当該抗腫瘍剤の抗腫瘍効果を著しく増強できることを見出し、本発明を完成するに至った。」(本件特許公報第2頁第3欄第12?18行)

・本件特許発明の構成について、本件特許明細書には、以下の記載がある。
7-c)「本発明抗腫瘍硬化増強剤における有効成分であるフォリン酸又はその薬学的に許容される塩の量、又は抗腫瘍剤における有効成分であるテガフール、ウラシル、及びフォリン酸又はその薬学的に許容される塩の量は、剤型、投与経路、投与計画等により変り、特に限定されず適宜選択すれば良いが、いずれも通常製剤中の有効成分量を1?70重量%程度とするのが良い。」(本件特許公報第4頁第7欄第1?7行)

7-d)「本発明の抗腫瘍効果増強剤を使用するに際して、抗腫瘍剤として用いるテガフールとウラシルの配合剤における両成分の配合割合は、通常の公知の配合剤と同様で良く、一般にはテガフール1モルに対してウラシルを0.02?10モル、好ましくは0.1?10モルとするのがよい。」(本件特許公報第2頁第4欄第6?10行)

7-e)「本発明の抗腫瘍効果増強剤はそれ単独で各種の投与単位形態に製剤し、やはり各種の投与単位形態に製剤したテガフールとウ
ラシルの配合剤と、それぞれ別々に又は同時に投与することができる。」(本件特許公報第2頁第4欄第24?27行)

7-f)「本発明では、テガフールとウラシルの配合剤に、フォリン酸又はその塩を配合して、抗腫瘍効果増強剤を配合した抗腫瘍剤とすることができる。」(本件特許公報第2頁第4欄第32?34行)、

7-g)「本発明では、前記したようにフォリン酸又はその塩を含有する抗腫瘍効果増強剤と、テガフール及びウラシルの配合剤とを含む混合製剤形態、或いは、抗腫瘍効果増強剤と、テガフール及びウラシルの配合剤からなる抗腫瘍剤とをそれぞれ単独で含む製剤形態に調製される。」(本件特許公報第2頁第4欄第41?45行)

7-h)「通常経口投与の場合、テガフールの量が0.1?100mg/kg/日程度、好ましくは1?30mg/kg/日程度、ウラシルが0.1?100mg/kg/日程度、好ましくは1?50mg/kg/日程度、フォリン酸又はその薬学的に許容される塩の量が0.1?500mg/kg/日程度、好ましくは0.2?300mg/kg/日程度の範囲となる量を目安とするのが良い。本発明製剤は1日に1?4回程度に分けて投与することができる。注射剤の場合、例えば静脈投与の場合、通常成人1日当たりテガフール量として1?50mg/kg程度を必要に応じて生理食塩水又はブドウ糖注射液で希釈し、5分以上かけて徐々に投与する。坐剤の場合、通常成人に対し、テガフール量として1?100mg/kg程度を1日1?2回、6?12時間の間隔をおいて直腸内に挿入して投与する」(本件特許公報第4頁第7欄第16?31行)

・本件特許発明の効果について、本件特許明細書には、上記「6-(2) 本件特許明細書の記載」における6-c)?6-e)で述べたとおりの記載がある。

7-(3) 判断
テガフールとウラシル配合剤が抗腫瘍剤であることは、当業者の技術常識であると認められること、及び、本件特許明細書の上記7-c)?7-h)の記載を勘案すると、そもそも本件特許発明1、2における、フォリン酸の「抗腫瘍効果増強のために有効な量」、テガフールの「治療に有効な量」、ウラシルの「抗腫瘍効果増強のために有効な量」は、出願時の技術常識から当業者が設定できる程度の量であって、通常の試行錯誤で容易に決定できるといえる。

さらに、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、上記7-a)、7-b)の記載から、本件特許発明の目的は、「テガフールとウラシルの配合剤の抗腫瘍効果を増強すること」と把握できるし、本件特許発明の構成、すなわち、テガフール、ウラシル、フォリン酸の量に関し、具体的な条件が上記7-c)?7-h)において記載されている。また、効果についても、本件特許明細書の実施例(上記6-c)?6-e))の記載をみれば、テガフールとウラシルの配合剤にフォリン酸を組み合わせることで、テガフールウラシル配合剤の腫瘍増殖抑制率が高まっていることが理解できる。

したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、当業者が本件特許発明1、2の実施を可能とする程度に、目的、構成及び効果の記載があると認められる。


8 無効理由8(明確性要件)について
8-(1) 請求人の主張の要点
請求人は、請求項1及び2において、フォリン酸の量について「抗腫瘍効果増強のために有効な量」、テガフールの量について「治療に有効な量」、ウラシルの量について「抗腫瘍効果増強のために有効な量」と記載されている点が不明瞭であると主張する(審判請求書第73頁第1行?第7行)。

8-(2) 判断
テガフール、ウラシル、フォリン酸の量について、本件特許明細書には、「本発明抗腫瘍硬化増強剤における有効成分であるフォリン酸又はその薬学的に許容される塩の量、又は抗腫瘍剤における有効成分であるテガフール、ウラシル、及びフォリン酸又はその薬学的に許容される塩の量は、剤型、投与経路、投与計画等により変り、特に限定されず適宜選択すれば良いが、いずれも通常製剤中の有効成分量を1?70重量%程度とするのが良い。」(本件特許公報第4頁第7欄第1?7行)と記載されている。
すなわち、テガフール、ウラシル、フォリン酸の量は、特に限定されるものではなく製剤中1?70重量%の範囲で、剤型、投与経路、投与計画等により適宜選択すればよい程度のものと理解できる。

そして、特に、本件特許発明1の抗腫瘍効果増強剤については、
「本発明の抗腫瘍効果増強剤を使用するに際して、抗腫瘍剤として用いるテガフールとウラシルの配合剤における両成分の配合割合は、通常の公知の配合剤と同様で良く、一般にはテガフール1モルに対してウラシルを0.02?10モル、好ましくは0.1?10モルとするのがよい。」(本件特許公報第2頁第4欄第6?10行)
「本発明の抗腫瘍効果増強剤はそれ単独で各種の投与単位形態に製剤し、やはり各種の投与単位形態に製剤したテガフールとウラシルの配合剤と、それぞれ別々に又は同時に投与することができる。」(本件特許公報第2頁第4欄第24?27行)
と記載され、
本件特許発明2の抗腫瘍剤については、
「本発明では、テガフールとウラシルの配合剤に、フォリン酸又はその塩を配合して、抗腫瘍効果増強剤を配合した抗腫瘍剤とすることができる。」(本件特許公報第2頁第4欄第32?34行)、「本発明では、前記したようにフォリン酸又はその塩を含有する抗腫瘍効果増強剤と、テガフール及びウラシルの配合剤とを含む混合製剤形態、或いは、抗腫瘍効果増強剤と、テガフール及びウラシルの配合剤からなる抗腫瘍剤とをそれぞれ単独で含む製剤形態に調製される。」(本件特許公報第2頁第4欄第41?45行)
と記載されており、本件特許発明におけるテガフール、ウラシルの量は、通常の公知のテガフールとウラシルの配合剤の量と異なるものではないことが理解できる。

加えて、上記「6-(3) 判断」でも述べたとおり、テガフールとウラシルの配合剤は、ウラシルがテガフールの抗腫瘍効果を増強した抗腫瘍剤であることは、出願時における当業者の技術常識であると認められるところ、本件特許明細書には、1日あたり、体重1kgあたり投与量として「本発明では、製剤の各有効成分の投与量は、用法、患者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度等により適宜選択できる。通常経口投与の場合、テガフールの量が0.1?100mg/kg/日程度、好ましくは1?30mg/kg/日程度、ウラシルが0.1?100mg/kg/日程度、好ましくは1?50mg/kg/日程度、フォリン酸又はその薬学的に許容される塩の量が0.1?500mg/kg/日程度、好ましくは0.2?300mg/kg/日程度の範囲となる量を目安とするのが良い。本発明製剤は1日に1?4回程度に分けて投与することができる。注射剤の場合、例えば静脈投与の場合、通常成人1日当たりテガフール量として1?50mg/kg程度を必要に応じて生理食塩水又はブドウ糖注射液で希釈し、5分以上かけて徐々に投与する。坐剤の場合、通常成人に対し、テガフール量として1?100mg/kg程度を1日1?2回、6?12時間の間隔をおいて直腸内に挿入して投与する」(本件特許公報第4頁第7欄第16?31行)という条件や、実施例において、処方例として具体的な含有量も示されている。
このため、技術常識及び課題を参酌して、本件特許明細書のテガフール、ウラシル、フォリン酸の量に関する、本件特許明細書の上記の記載をみると、本件特許発明1、2における、フォリン酸の「抗腫瘍効果増強のために有効な量」、テガフールの「治療に有効な量」、ウラシルの「抗腫瘍効果増強のために有効な量」とは、特定の数値範囲に限定する意味はなく出願時の技術常識から当業者が設定できる程度の量を意味すると解釈でき、具体的な値が特定されていなくても不明瞭であるとはいえない。



第6 むすび
以上のとおりであるから、請求人が主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-07-08 
結審通知日 2016-07-12 
審決日 2016-07-25 
出願番号 特願平3-514805
審決分類 P 1 113・ 121- Y (A61K)
P 1 113・ 537- Y (A61K)
P 1 113・ 536- Y (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上條 のぶよ  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 松澤 優子
穴吹 智子
登録日 1996-09-05 
登録番号 特許第2557303号(P2557303)
発明の名称 抗腫瘍効果増強剤及び抗腫瘍剤  
代理人 ▲高▼見 憲  
代理人 古城 春実  
代理人 実広 信哉  
代理人 篠田 淳郎  
代理人 宅間 仁志  
代理人 鮫島 正洋  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
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