• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  B65D
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B65D
審判 全部無効 2項進歩性  B65D
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  B65D
管理番号 1318957
審判番号 無効2014-800033  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-03-03 
確定日 2015-12-10 
事件の表示 上記当事者間の特許第4779658号発明「青果物用包装袋及び青果物包装体」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
特許第4779658号(以下「本件特許」という。)に係る手続の経緯は、以下のとおりである。
平成18年 1月16日 特許出願(特願2006-7100号)
平成23年 7月15日 特許設定登録
平成24年 9月13日 訂正審判請求(訂正2012-390119号、 明細書の訂正)
同年10月19日 訂正2012-390119号審決(訂正認容)
同年10月29日 上記審決確定
平成25年 4月26日 訂正審判請求(訂正2013-390063号、 明細書及び特許請求の範囲の訂正)
同年 7月 4日 訂正2013-390063号審決(訂正認容)
同年 7月12日 上記審決確定

そして、本件無効審判における手続の主な経緯は、以下のとおりである。
平成26年 3月 3日差出 審判請求書
同年 5月 2日付け 手続補正書(請求人)
同年 5月15日付け 審判事件答弁書
同年 6月 3日付け 審理事項通知書
同年 6月27日付け 手続補正書(請求人)
同年 6月28日付け 口頭審理陳述要領書(請求人)
同年 6月30日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年 7月 1日付け 手続補正書(請求人)
同年 7月12日付け 口頭審理陳述要領書(2)(請求人)
同年 7月14日付け 口頭審理陳述要領書(2)(被請求人)
同年 7月25日付け 審理事項通知書
同年 8月 1日付け 口頭審理陳述要領書(3)(請求人)
同年 8月 1日付け 口頭審理陳述要領書(3)(被請求人)
同年 8月 5日 口頭審理

なお、請求人は、平成26年6月27日付け手続補正書について、「6.補正の内容」を撤回した(第1回口頭審理調書 陳述の要領 請求人2)。

この審決において、訂正審判(訂正2012-390119号及び訂正2013-390063号)による訂正後の明細書及び特許請求の範囲を、それぞれ「本件明細書」及び「本件特許請求の範囲」という。また、記載箇所を行により特定する場合、行数は空行を含む。証拠は、例えば「甲第1号証」を「甲1」のように簡潔に表記することがある。


第2 本件特許に係る発明
本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明3」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、本件特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載されたとおりのものであり、分説して記載すると以下のとおりである。
なお、この分説につき当事者間に争いはない。

「【請求項1】
A.フィルムを含む包装袋であり、
B.前記包装袋に1個以上の切れ込みがあり、
C.切れ込み1個あたりの長さL(mm)/フィルムの厚みT(mm)の比(L/T)が16以上250以下であり、
D.Tが0.01mm以上0.1mm以下であり、
E.青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計が0.08mm以上17mm以下である
F.ことを特徴とする青果物用包装袋。
【請求項2】
G.切れ込み1個あたりの長さが0.1mm以上12mm以下である請求項1に記載の青果物用包装袋。
【請求項3】
H.請求項1から2のいずれかに記載の青果物用包装袋を用いて包装されたことを特徴とする青果物包装体。」


第3 当事者の主張
1.請求の趣旨及び請求人の主張
(1)請求人は、本件発明1ないし3についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求めている。
請求人が主張する無効理由は以下のとおりである(第1回口頭審理調書 陳述の要領 請求人3)。

[無効理由1](特許法36条6項2号)
本件発明1は明確でない。したがって、本件発明1の特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきである。

[無効理由2](特許法36条6項1号)
本件発明1は発明の詳細な説明に記載したものではない。したがって、本件発明1の特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきである。

[無効理由3](特許法36条4項1号)
本件発明1及び2について、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。したがって、本件発明1及び2についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきである。

[無効理由4](特許法29条1項3号)
本件発明1ないし3は、甲1又は甲2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものである。したがって、本件発明1ないし3の特許は、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。

[無効理由5](特許法29条2項)
本件発明1ないし3は、甲1に記載された発明に甲2ないし甲4に記載された発明を組み合わせることにより、又は甲2に記載された発明に甲1、甲3及び甲4に記載された発明を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。したがって、本件発明1ないし3の特許は、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。

なお、個々の無効理由における具体的な主張については、後記「第4 当審の判断」の欄で述べる。

(2)請求人が提出した証拠は以下のとおりである。
甲1:特開2004-284654号公報
甲2:特開2005-112428号公報
甲3:特開2005-230004号公報
甲4:特開2003-274849号公報
甲5:「包装用フイルム概論」株式会社東洋紡パッケージング・プラン・サービス(1997年3月30日発行)61?63頁
甲6:「包装技術便覧」社団法人日本包装技術協会編(日刊工業新聞社、昭和58年7月20日初版1刷発行)412頁、1745頁
甲7:特許庁ホームページ印刷物「特許・実用新案審査基準」第I部第1章「明細書及び特許請求の範囲の記載要件」8?13頁
甲8:農林水産省ホームページ印刷物「農林水産統計 青果物流通統計(平成25年12月分)」農林水産省大臣官房統計部(平成26年1月31日公表)1?11頁
甲9:「日本応用きのこ学会誌」Vol.6 No.3(1998)125?128頁
甲10:横軸を「厚み」、縦軸を「L/T」とし、実施例を「◆」でプロットした図(請求人作成)
甲11:特許庁ホームページ印刷物「特許・実用新案審査基準」第I部第1章「明細書及び特許請求の範囲の記載要件」3?5頁
甲12:特許庁ホームページ印刷物「特許・実用新案審査基準」第I部第1章「明細書及び特許請求の範囲の記載要件」24頁
甲13:「実験成績証明書」平成26年2月10日、株式会社ベルグリーンワイズ技術開発グループ 松澤一将、外2名
甲14:特許庁ホームページ印刷物「特許・実用新案審査基準」第II部第2章「新規性進歩性」24?26頁
甲15:ホームページ印刷物「トーセロ OP(二軸延伸ポリプロピレンフィルム)」カタログ
甲16:「東洋紡パイレンフイルム-OT」カタログ、表紙、1頁、8頁、営業所の住所等が記載された頁
甲17:「標準物性値」グンゼ株式会社プラスチックカンパニー(品種;#20MV2タイプ、#25MV2タイプ、#30MV2タイプ、#40MV2タイプ(以上、制定:1999.11.30、改訂:2006.8.31)、#20SVS2タイプ(制定:2003.11.1、改定:2006.8.31)、#25SVS2タイプ(制定:2003.11.1、改訂:2006.11.30)及び#40SVS2タイプ(2013年10月11日))
甲18:「フィルム気体透過度一覧」と題する文書、平成26年5月30日、サン・トックス株式会社
甲19:「防曇OPPフィルムの水蒸気透過度の件」と題する文書、平成26年6月20日、フタムラ化学株式会社 大垣工場
甲20:ピローパウチに入れられた「豆苗」の市販品の写真(請求人作成)
甲21:特許庁ホームページ印刷物「特許・実用新案審査基準」第I部第1章「明細書及び特許請求の範囲の記載要件」8?9頁
甲22:「実験成績証明書」平成26年3月27日、株式会社ベルグリーンワイズ技術開発グループ、松嶋均、外2名
甲23:「実験成績証明書」平成26年4月8日、株式会社ベルグリーンワイズ技術開発グループ、松嶋均、外2名
甲24:切り込みが形成された袋にそれぞれ「ブロッコリー」と「ほうれん草」を充填し、つり下げたものの写真(請求人作成)
甲25:「サントックス社OPP製品の厚みと水蒸気透過度の関係」と題する図(請求人作成)
甲26:「日本ゴム協会誌」第70巻、第6号(1997)333?339頁
甲27:「OPPフィルムメーカー各社製品の厚みと水蒸気透過度の関係」と題する図(請求人作成)
甲28:「甲1号証 実施例、比較例での検証(各種想定厚みに於けるL/Tと100g当たりの合計切り込み長さ算定値)」と題し、「2.市販豆苗包装例」との見出しが記載された表(請求人作成)
甲29:「甲1号証 実施例、比較例での検証(各種想定厚みに於けるL/Tと100g当たりの合計切り込み長さ算定値)」と題し、「1.市販カイワレ包装例」との見出しが記載された表(請求人作成)
甲30:「試験報告書」産セ第4号の31、平成26年7月1日、岐阜県産業技術研究センター所長
甲31:「依頼分析調査報告書」2014年7月8日、株式会社東洋紡パッケージング・プラン・サービス ヘッドオフィス

なお、甲7、甲8、甲11、甲12、甲14、甲15及び甲21(いずれもホームページ印刷物である。)は、提出された正本が原本である(請求人の平成26年8月1日付け口頭審理陳述要領書(3)2頁16?18行)。
甲1ないし甲31の成立につき当事者間に争いはない。

2.答弁の趣旨及び被請求人の主張
(1)被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求めている。

(2)被請求人が提出した証拠は以下のとおりである。
乙1:「実験報告書」平成26年4月24日、確認者:住友ベークライト株式会社P-プラス開発部 溝添孝陽、作成者:住友ベークライト株式会社P-プラス開発部 中尾悟
乙2:株式会社ベルグリーンワイズホームページ印刷物「オーラパック商品資料」
乙3の1:株式会社ベルグリーンワイズホームページ印刷物「オーラパックの概要」
乙3の2:株式会社ベルグリーンワイズホームページ印刷物「オーラパックの鮮度保持効果」
乙4:株式会社サンコー商事ホームページ印刷物「包装フイルムのトラブル(フイルム加工編)」
乙5:フタムラ化学株式会社ホームページ印刷物「プラスチックフィルム」
乙6:三井化学東セロ株式会社ホームページ印刷物「OP(二軸延伸ポリプロピレンフィルム)」
乙7:帝人デュポンフィルム株式会社ホームページ印刷物「他素材との比較 PET、PENフィルムと他素材の比較」
乙8:東レフィルム加工株式会社ホームページ印刷物「製品:包装材料用“トレファン”BO(YB22A)」
乙9:東洋紡株式会社ホームページ印刷物「二軸延伸ポリエステルフィルム 東洋紡エステルR(審決注:「R」の文字は○で囲まれている。)フィルム」
乙10:フタムラ化学株式会社ホームページ印刷物「二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP) バリアグレード」
乙11:株式会社東ソー分析センターホームページ印刷物「技術レポート No.T1307 2013.12.03 [技術紹介]PETフィルムの透湿度 温度依存性」
乙12:「JIS K 7129:2008 プラスチック-フィルム及びシート-水蒸気透過度の求め方(機器測定法)」
乙13:「JIS Z 0208-1976 防湿包装材料の透湿度試験方法(カップ法)」
乙14:株式会社住化分析センターホームページ印刷物「Technical News 包装材料などの水蒸気透過度測定」
乙15:「実験報告書」平成26年7月9日、確認者:住友ベークライト株式会社P-プラス開発部 溝添孝陽、作成者:住友ベークライト株式会社P-プラス開発部 中尾悟
乙16:特開平10-182899号公報
乙17:特開2000-44630号公報
乙18:特開2001-114908号公報
乙19:特表2004-506788号公報
乙20:特開平8-253633号公報
乙21:特開平9-40822号公報
乙22:特開平10-60196号公報

なお、乙2?乙11及び乙14(いずれもホームページ印刷物である。)は、提出された正本が原本である(被請求人の平成26年8月1日付け口頭審理陳述要領書(3)3頁7?8行)。
乙1ないし乙22の成立につき当事者間に争いはない。


第4 当審の判断
1.無効理由1について
(1)請求人の主張の要点
無効理由1について、請求人の主張の要点は、以下のア及びイの点で、本件発明1は明確でないというものである。
ア 本件発明1は、青果物自体を構成要素としていない「青果物用包装袋」の発明である。「青果物が包装されていない状態」の青果物用の包装袋においては、充填される青果物の量は、通常、青果物取扱業者(農業従事者等)が決定する。また、通常、予め青果物の品目、充填量等を表示した包装袋が販売されるわけでもなく、「切れ込み」の長さの合計を表示した包装袋が販売されるわけでもない。青果物の品目、充填量等を表示した包装袋が販売されたとしても、青果物取扱業者がそのとおりに青果物を充填するとは限らない。さらに、青果物はその種別によって嵩密度が著しく異なる。「青果物が包装されていない状態」の青果物用の包装袋において、「青果物100gあたりの切れ込みの長さ」が一義的に決まることはあり得ない。したがって、請求項1における構成E「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計が0.08mm以上17mm以下である」の「青果物100g当たりの」との文言は技術的意味内容が不明確であり、「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計」は、発明特定事項として不明確であり、構成Eの数値範囲は曖昧である。よって、本件発明1は明確でない。
(審判請求書9頁下から9行?10頁12行、平成26年6月28日付け口頭審理陳述要領書11頁3行?下から3行)

イ 甲9に示されているように、きのこ類に関しては、ガス透過性の低い包装材料で密封し、冷蔵庫内等の低温下で貯蔵することが鮮度劣化防止のために好ましい、ということが技術常識であり、かかる技術常識を考慮すると、請求項1の構成B?Eによって、きのこ類に関して、包装内のガス濃度を青果物の保存に適した雰囲気にするいわゆるMA(Modified Atomosphere)効果により青果物の鮮度保持が可能であるという作用効果が得られるとは考えられない。また、本件の発明の詳細な説明中には、きのこ類に関する実施例は記載されていない。すなわち、きのこ類に関しては、構成B?Eの技術的意味はまったく理解できないものであり、技術常識を考慮すると、請求項1の発明特定事項だけでは、本件の発明の詳細な説明に記載された作用効果が得られないことは明らかである。甲22、甲23の如く確認実験を行ったところ、本件発明1の要件を満たした包装袋であっても、青果物の種類によってはまったく鮮度保持効果を奏さないことが判明した。本件発明1に係る「包装袋」は、構成A?Fの要件と、充填される青果物の何らかの特性との組合せによって初めて鮮度保持効果を奏するものであるといえる。また、同一の厚みのフィルムであっても、「切れ込み」の形状は内容物及びその充填量で変化する。「切れ込み」の長さの調整のみを意図した本件発明1は、二酸化炭素及び酸素の量を制御するための因子(すなわち、青果物の鮮度を保持するための因子)を把握しきれていないものである。これらの点で、本件発明1は、審査基準の「発明を特定するための事項の技術的意味が理解できず、出願時の技術常識を考慮すると発明を特定するための事項が不足していることが明らかである場合」に該当し、不明確である。
(審判請求書10頁14行?11頁6行、平成26年6月28日付け口頭審理陳述要領書11頁最下行?14頁5行、同年8月1日付け口頭審理陳述要領書(3)6頁22?33行)

(2)無効理由1についての当審の判断
本件発明1は、単なる袋の発明ではなく青果物用包装袋の発明であるところ、内容物として青果物が包装されることが前提となっている。そして、所定長さの切れ込みが設けられた青果物用包装袋において、青果物が包装されている状態のとき、包装された青果物の重量に応じて「青果物100gあたりの切れ込みの長さ」は一義的に定まる数値である。所定長さの切れ込みが設けられ、包装される青果物の重量が予め設定されている青果物用包装袋についても、同様に、設定されている青果物の重量に応じて「青果物100gあたりの切れ込みの長さ」は一義的に定まる数値である。
すなわち、本件発明1において、「青果物100gあたりの切れ込みの長さ」は、袋全体の切れ込み長さの合計と、青果物用包装袋に包装されている青果物の重量又は包装される青果物の予め設定されている重量に基づいて一義的に定まる数値であると解される。したがって、「青果物100g当たりの」との文言は技術的意味内容が不明確とはいえず、また、「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計」は発明特定事項として不明確とはいえず、構成Eの数値範囲は曖昧であるとはいえない。
したがって、本件発明1における、構成E「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計が0.08mm以上17mm以下である」という事項は、発明特定事項として不明確とはいえない。
よって、本件発明1が明確でないとすることはできない。

請求人は、「青果物が包装されていない状態」の青果物用の包装袋において、「青果物100gあたりの切れ込みの長さ」が一義的に決まることはあり得ない、と主張する(上記(1)ア)。
しかしながら、本件発明1は、「青果物用包装袋」という用途が限定された包装袋の発明であり、青果物を包装するという用途に使用される包装袋であると認められる。したがって、所定長さの切れ込みを入れた包装袋に青果物を包装した状態を想定することは自然なことであり、当該状態において、包装した青果物の重量及び包装袋の切れ込み長さの合計は、それぞれ一義的に定まるから、「青果物100gあたりの切れ込みの合計長さ」も一義的に定まる。したがって、「青果物100gあたりの切れ込みの合計長さ」は、技術的思想の創作である本件発明1を特定するための事項として、不明確とはいえない。
請求人の上記主張は、要するに、包装袋が空の状態のときには、本件発明1で特定する「青果物100g当たりの切れ込みの長さの合計」を満たすような使われ方となるかが不明であり、別の使われ方をされるかもしれない、したがって、本件発明1は不明確であると主張するものと解される。しかし、ある包装袋について、それがどのような使われ方をするのかということは、その包装袋が本件発明1の技術的範囲に含まれるかどうかの問題であって、本件発明1の明確性の問題とは異なる。上記したとおり、「青果物100gあたりの切れ込みの合計長さ」は、技術的思想の創作である本件発明1を特定するための事項として不明確とはいえないのであり、請求人の上記主張は採用できない。

また、請求人は、きのこ類について、ガス透過性の低い包装材料で密封し、冷蔵庫内等の低温下で貯蔵することが鮮度劣化防止のために好ましいという技術常識を考慮すると、請求項1の発明特定事項だけでは、本件の発明の詳細な説明に記載された作用効果が得られないことは明らかで、甲22、甲23の確認実験により、本件発明1の要件を満たした包装袋であっても、青果物の種類によってはまったく鮮度保持効果を奏さないことが判明したとし、本件発明1は、発明を特定するための事項の技術的意味が理解できず、出願時の技術常識を考慮すると発明を特定するための事項が不足している、と主張する(上記(1)イ)。
しかしながら、本件発明1は、青果物自身の呼吸速度と包材のガス透過速度のバランスによって包装内のガス濃度を青果物の保存に適した雰囲気とするという「MA(Modified Atmosphere)効果」を利用した青果物の包装に係るものであると認められるところ(本件明細書の段落0002、0004、0006)、そのようなMA効果を利用した包装が、きのこ類にも適用可能であることは、甲2(段落0008)、甲3(段落0005)、乙2(6頁の写真は「きのこ類」であると認められる。)及び乙3の1(2頁)の記載から明らかであり、さらに乙1によっても本件発明1がシイタケについて適用可能であることが示されている。甲22、甲23は、本件発明1の要件を満足する包装袋を用い、青果物としてシイタケ(甲22)及びブロッコリー(甲23)の保存実験の結果であると認められるが、甲22、甲23において、本件発明1の要件を満足しない包装袋を用いた対照実験との対比結果が示されていないから、甲22、甲23によっては、本件発明1が鮮度保持効果を有しないものであるとすることはできない。したがって、きのこ類について、請求項1の発明特定事項だけでは発明の詳細な説明に記載された作用効果が得られないという請求人の主張は採用できない。
そして、本件明細書の発明の詳細な説明において、後記「2.無効理由2について」において示すとおり、種々の青果物について本件発明1の効果が確認される実施例が記載されており、一定の効果を奏する本件発明1を理解できるから、本件発明1が、出願時の技術常識を考慮すると発明を特定するための事項が不足しているということはできない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

よって、請求人が主張する無効理由1によっては、本件発明1に係る特許を無効とすることはできない。

2.無効理由2について
(1)請求人の主張の要点
無効理由2について、請求人の主張の要点は、以下のアないしウの点で、本件発明1は発明の詳細な説明に記載したものではないというものである。
ア 発明の詳細な説明には、請求項1に記載された「切れ込み1個あたりの長さL(mm)/フィルムの厚みT(mm)の比(L/T)が16以上250以下」及び「Tが0.01mm以上0.1mm以下」という数値範囲について、十分に網羅した実施例が記載されていない。また、発明の詳細な説明に、L/Tの技術的な意味内容について記載されていない。
イ 土物類、きのこ類については、実施例において、その効果がまったく実証されていない。
ウ 実施例で効果が確認されたフィルム素材は、「ポリプロピレン」及び「ポリプロピレンと線状低密度ポリエチレンとのラミネートフィルム」に限られている。
(審判請求書11頁8行?12頁19行、平成26年6月28日付け口頭審理陳述要領書14頁10?27行)

(2)無効理由2についての当審の判断
本件明細書において、以下の記載がある。
「【0008】
本発明の包装袋で鮮度保持可能な青果物としては、例えば、バナナ、マンゴー、ウメなどの果実、ダイコン、ニンジンなどの根菜類、トマト、キュウリ、ナスなどの果菜類、緑豆モヤシ、大豆モヤシ、トウミョウなどの芽物類、シイタケ、エリンギなどの菌茸類、キクやカーネーションといった花卉、或は苗などである。また、これらをカットした、いわゆるカット野菜やカットフルーツ用としても使用可能であり、これらの青果物に限定されるものではない。
【0009】
本発明の包装袋はフィルムを含み、フィルムとしては、合成樹脂フィルム又は半合成樹脂フィルムが好ましい。
合成樹脂フィルムの材質としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ナイロン(ポリアミド)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート・アジペート或いはポリ乳酸などが挙げられる。半合成樹脂フィルムの材質としては、例えば、セロハンをあげることができる。これらの内いずれかの素材を単独あるいはラミネートして用いればよい。包装袋は、これらフィルムと金属箔、紙や不織布を貼り合わせた袋でも良い。
【0010】
フィルムの厚みは、強度の点より0.01mm以上が好ましく、経済的な点を考えると0.1mm以下が好ましく、0.01?0.065mmがより好ましい。また、これらのフィルムは、延伸加工、防曇加工や印刷を施してもよく、銀や銅などの無機系抗菌剤やキチン、キトサン、アリルイソチオシアネートなどの有機系抗菌剤を塗布或はフィルムに練りこんで用いても良い。
【0011】
本発明では、包装袋に長さ0.1mm以上12mm以下の切れ込みを1個以上設ける。切れ込みの長さが12mmを越えると、フィルムの変形によって切れ込み部分が開きやすくなるので酸素透過速度の制御が難しくなる。上限の好ましい範囲は8mm以下、さらに好ましくは5mm以下である。切れ込み長さの下限は0.1mmであり、0.1mm未満では、切れ込みを多く入れる必要があり量産しにくくなり、加工がむずかしくなる。下限の好ましい範囲は0.5mm以上、さらに好ましくは1mm以上である。
【0012】
包装袋に包含した青果物100gあたりの切れ込み長さの合計は、0.08mm以上、20mm以下である。0.08mm未満では、包装した青果物が酸欠(嫌気)状態になって、トロケ(水浮き)やアルコール発酵による異臭発生などの劣化を生じやすく、20mmを超えると、包装袋内が充分な低酸素濃度及び高二酸化炭素濃度にならないため、顕著な鮮度保持効果が得にくい。さらに好ましくは、青果物100gあたりの切れ込み長さの合計は、1mm以上、17mm以下である。なお、包装体内のガス濃度の偏りを軽減するために切れ込み数を複数個とし、適宜これらを散らばらせて配置する方法が好ましい。
【0013】
切れ込み1個分の長さをL(mm)、フィルムの厚みをT(mm)としたとき、L/Tの比が16以上、250以下であることが好ましい。L/Tの比が16未満では、フィルムに加工を施しにくくなる可能性があり、250を超えると切れ込み部が開きやすくなる恐れがある。さらに好ましくは、L/Tの比は30以上、180以下である。
【0014】
包装袋に設けられる切れ込みの形状としては、特に限定されない。切れ込みは一本の直線でもかまわないし、S字型、U字型、半円形、波型のような曲線部を有する形状、V字型、L字型、H字型、T字型、W字型、コ字型、×印のように角を有する形状でもよい。切れ込みの形状は、ここに示したものに限らない。切れ込みの形状は、複数種組み合わせて使用してもよい。
【0015】
フィルムへの切れ込みの加工は、カッターのような鋭利な刃物で切っても良いし、所望の形状の切れ込みができるようにした型で打ち抜いても良い。また、レーザーによる加工も可能である。
切れ込みの加工時期は、特に限定されない。フィルムの製作時に行っても良いし、製袋時、或は製袋後に行っても良い。ロールの状態で加工する場合は、印刷やスリットなどと同時並行して加工することもでき、横ピロー機や縦ピロー機などの自動包装機で青果物を包装する際に加工することもできる。また、切れ込みの加工は、手作業でも可能であり袋1枚でも容易に作製可能である。
【0016】
包装体内の酸素濃度は、0.04?19%、炭酸ガス濃度が2?26%であることが好ましい。酸素濃度が、0.04%未満や二酸化炭素濃度が26%を超えると、青果物はガス障害を起こして異臭、トロケ、内部褐変などの劣化を生じやすい。逆に、酸素濃度が19%を超えたり、二酸化炭素濃度が2%未満であったりする場合は、青果物の呼吸抑制効果が小さいため、黄化防止、褐変防止、内容成分の減少などが起こる可能性がある。」

また、本件明細書の段落0019?0033に記載された実施例における「L/T」及び「T」の値、青果物及びフィルム素材は、次のとおりである。
L/T T(mm) 青果物 フィルム素材
実施例1 167 0.03 バナナ 二軸延伸ポリプ ロピレン
実施例3 33 0.03 緑豆モヤシ 二軸延伸ポリプ ロピレン
実施例4 178 0.045 ブロッコリー ポリプロピレン と線状低密度ポ リエチレンとの ラミネートフィ ルム
実施例5 178 0.045 ブロッコリー ポリプロピレン と線状低密度ポ リエチレンとの ラミネートフィ ルム
実施例8 222 0.045 ホウレンソウ ポリプロピレン と線状低密度ポ リエチレンとの ラミネートフィ ルム
実施例9 111 0.045 ホウレンソウ ポリプロピレン と線状低密度ポ リエチレンとの ラミネートフィ ルム
実施例10 40 0.025 ニンジン 二軸延伸ポリプ ロピレン
実施例11 120 0.025 トマト 線状低密度ポリ エチレン

ア L/Tについて
上記のとおり、本件明細書において、実施例として、L/Tについて、33(実施例3)から222(実施例8)に亘る複数の具体例が記載され、Tについて、0.025mm、0.03mm及び0.045mmの3つの値の具体例が記載されている。
これら、実施例として具体的に記載された数値と、段落0010及び0013の記載を合わせ見れば、請求項1に記載された「切れ込み1個あたりの長さL(mm)/フィルムの厚みT(mm)の比(L/T)が16以上250以下」及び「Tが0.01mm以上0.1mm以下」という数値範囲は、発明の詳細な説明において裏付けられているといえる。
また、L/Tの技術的な意味についても、「L/Tの比が16未満では、フィルムに加工を施しにくくなる可能性があり、250を超えると切れ込み部が開きやすくなる恐れがある。」(段落0013)との記載から明らかであるといえる。

イ 土物類、きのこ類について
本件明細書の段落0008には、本件発明における包装対象としての青果物は、シイタケ等のきのこ類を含み、さらに、果実、根菜類、果菜類、芽物類、花卉、或いは苗、カット野菜、カットフルーツに使用可能であり、これらの青果物に限定されないことが記載されている。さらに、MA効果を利用した包装が土物類やきのこ類にも適用可能であることは、甲2(段落0008)、甲3(段落0005、0021)、甲4(段落0004、0019)の記載から明らかであり、本件明細書にきのこ類や土物類についての実施例が記載されていなくても、本件明細書に接した当業者は、本件発明は実施例で効果が確認された青果物のみならず、土物類やきのこ類を含む青果物全般に適用可能であると理解するというのが相当である。

ウ フィルム素材について
フィルム素材についても、本件明細書の段落0009の記載から明らかなように、実施例で用いられたポリプロピレンやポリプロピレンと線状低密度ポリエチレンとのラミネートフィルムに限られないことは明らかである。

以上のことから、本件発明1が発明の詳細な説明に記載したものではないとすることはできない。
よって、請求人が主張する無効理由2によっては、本件発明1に係る特許を無効とすることはできない。


3.無効理由3について
(1)請求人の主張の要点
無効理由3について、請求人の主張の要点は、以下のとおりである。
本件明細書の実施例において、包装袋への切れ込みの入れ方(すなわち、包装袋のどこにどのように切れ込みを入れるか)、及び評価時の温度や湿度をどのように設定するかについて示されていない。本件の発明の詳細な説明の記載内容のみでは、品質評価方法の記載が不十分であり、本件の請求項1、2に係る発明が本当に作用効果を奏するか否かを把握できない。したがって、本件の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。
本件の実施例は、外気の湿度、内外のガスの分圧差、切れ込みの入れ方によって、鮮度保持結果に違いが生じることや、青果物の種類や入れ方によって切れ込みの開口面積が変化することを考慮していないため再現性がない。発明の詳細な説明に記載された条件だけでは、実施例の包装用袋が鮮度保持効果を奏するか否かを判断することができない。問題の本質は、(同一の青果物用包装袋を用いた場合に)実施例に記載されている環境条件(のみ)が決まれば同様な鮮度保持効果になるのか否かである。すなわち、当業者がある条件(湿度条件、切り込み位置条件)で実施例の再現実験をしたときには良好な鮮度保持効果を示す結果が得られるものの、別の条件(湿度条件、切り込み位置条件)で実施例の再現実験をしたときには鮮度保持効果を示さないのであれば、特許法第36条第4項第1号が要求する「発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること」との要件を満たしているとはいえない。
(審判請求書12頁21行?13頁21行、平成26年7月12日付け口頭審理陳述要領書(2)2頁下から6行?4頁19行)

(2)当審の判断
本件発明1、2は、青果物用包装袋という物の発明である。物の発明について、実施をすることができるとは、その物を作ることができ、かつ、その物を使用できることである。
そこで、本件明細書の発明の詳細な説明において、当業者が本件発明1、2の青果物用包装袋を作ることができ、かつ、その青果物用包装袋を使用できるように、記載されているか検討する。
上記した本件明細書の段落0011ないし0016の記載から、本件発明1、2の青果物用包装袋の「切れ込み」は、包装袋内の酸素及び二酸化炭素の濃度を青果物の保存に適した範囲内にするために設けるものと理解される。そして、段落0011、0012及び0013の記載から、切れ込みの長さ、青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計及びL/Tの比の技術的な意義を理解することができる。段落0012には、複数の切れ込みを設けることについて、「包装体内のガス濃度の偏りを軽減するために切れ込み数を複数個とし、適宜これらを散らばらせて配置する方法が好ましい。」とも記載されている。
また、本件明細書には、各実施例において、包装袋の材料及び寸法、切れ込みの長さ及び数、包装する青果物の種類及び量並びに保管時の温度及び保管日数が記載されている。さらに、各実施例において、包装袋内の酸素濃度、二酸化炭素濃度及び青果物の品質評価結果が記載されている。
これら、発明の詳細な説明の記載から、当業者は本件発明1、2の技術的意義を理解することができるのであり、各発明の青果物用包装袋を作ることができ、かつ、その青果物用包装袋を使用することができるといえる。

請求人は、「本件の実施例は、外気の湿度、内外のガスの分圧差、切れ込みの入れ方によって、鮮度保持結果に違いが生じることや、青果物の種類や入れ方によって切れ込みの開口面積が変化することを考慮していないため再現性がない。発明の詳細な説明に記載された条件だけでは、実施例の包装用袋が鮮度保持効果を奏するか否かを判断することができない。」と主張する。
しかしながら、外気の湿度、内外のガスの分圧差、切れ込みの入れ方、青果物の種類や入れ方等の条件によって鮮度保持結果に多少の違いが生じるとしても、本件発明1、2の青果物用包装袋を作ること及びその青果物用包装袋を青果物を包装するために使用することは可能である。そして、前記諸条件を一定にして、本件発明1、2の青果物用包装袋の鮮度保持効果を具体的に確認することも可能である。当業者が、本件発明1、2の青果物用包装袋を作り、使用するために、過度の試行錯誤が必要であるとも認められない。本件明細書の実施例と同等程度の鮮度保持効果の再現に多少の試行錯誤が必要であるとしても、そのことをもって、本件発明1、2の実施をすることができないとまではいえない。

よって、請求人が主張する無効理由3によっては、本件発明1、2に係る特許を無効とすることはできない。


4.無効理由4について
(1)甲1の記載事項、甲1発明、及び本件発明1と甲1発明との一致点・相違点
ア 甲1の記載事項
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲1には、以下の記載がある。
「【請求項1】
透湿度が5?30g/(m^(2)・24hrs)のフィルムを用いた包装袋において、
長さが0.5?1.5mmであるスリットを少なくとも一つ以上有し、かつ、前記フィルムの総面積に対し前記スリットの合計全長が50?400mm/m^(2)の比率となるように前記スリットが形成されていることを特徴とする青果物用鮮度維持包装袋。」

「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、包装袋に関し、特には水分を多く含む野菜、果実、きのこ類や水分を含んだスポンジ等を苗床に使う水耕栽培の農作物等の鮮度を維持するために内部水蒸気圧を制御する青果物用鮮度維持包装袋に関する。
【0002】
【従来の技術】
収穫された野菜や果物、きのこ類等を販売流通させる際、根や株を付けた状態の方が鮮度維持に適していることが知られている。また、最近では、水分を含んだスポンジ等を苗床に使って前述の根や株に土や雑菌が付かない水耕栽培の方法が発達し、用いられるようになっている。そして、これらの青果物をより新鮮な状態に保ちながら販売流通させるには、青果物の水分保持のためにトレイラップ包装やフィルム包装等を行う必要がある。
【0003】
ところが、青果物の根や株を切り取らずに包装する場合では、容器内部に余剰な水分が充満し、青果物に水っぽさ、腐り、異臭、とろけ等様々な悪影響を及ぼすだけでなく、容器内部への水滴の付着によって見た目が悪くなるという問題があった。
【0004】
この問題を解決する方法として、トレイラップ包装やフィルム包装等の容器に所定の開孔面積を有した補助穴を設ける手段が一般化している(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、例えば、図5に示したように、補助穴が貫通した大きな穴(貫通孔)50である場合は、該貫通孔50の開孔部51が常に所定の開孔面積で開放した状態となる。そのため、常に水分が容器外部へ放出されることとなり、鮮度維持に必要な水分が蒸散して過度の乾燥が進行し、青果物等がしおれてしまうという現象が起こる。一方、レーザーや加熱針等で設けた小さな穴である場合では、水滴によってその穴がふさがってしまう等の問題があるため水分の制御が難しく、それに加えてコストも上がってしまうという欠点があった。また、他の方法としては、水分の蒸発量を予め計算しておき、それに応じて流通させることも可能であるが、流通環境の変化による蒸発量の推測が極めて困難であり、実用的ではなかった。
【0005】
【特許文献1】
特開平4-53445号公報(第2頁)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
この発明は前記の点に鑑みなされたものであって、青果物の根や株等を切り取らずに包装する際に、余剰な水分による悪影響を抑えかつ水分蒸散によるしおれが起こらない内部水蒸気圧を制御する青果物用鮮度維持包装袋を提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
すなわち、請求項1の発明は、透湿度が5?30g/(m^(2)・24hrs)のフィルムを用いた包装袋において、長さが0.5?1.5mmであるスリットを少なくとも一つ以上有し、かつ、前記フィルムの総面積に対し前記スリットの合計全長が50?400mm/m^(2)の比率となるように前記スリットが形成されていることを特徴とする青果物用鮮度維持包装袋に係る。」

「【0028】
次に、この発明の包装袋10について、具体的な実施例を説明する。以下の実施例では、被包装物M1として水耕栽培されたカイワレ100g、被包装物M2として水耕栽培された豆苗300gを用いた。そして、以下に示す実施例及び比較例のように包装袋10のフィルム材質及びフィルムの透湿度を適宜変更し、前述した製造工程にしたがって該包装袋10を製造してカイワレまたは豆苗を包装した。
【0029】
この実施例及び比較例では、それぞれフィルムの透湿度及びフィルム材質の異なるフィルム1?5を使用した。「フィルム1」は透湿度5.2g/(m^(2)・24hrs)の延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)、「フィルム2」は透湿度18.1g/(m^(2)・24hrs)の延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)、「フィルム3」は透湿度28.0g/(m^(2)・24hrs)の直鎖状低密度ポリエチレンフィルム(LLDPE)、「フィルム4」は透湿度168.0g/(m^(2)・24hrs)の延伸ポリスチレンフィルム(OPS)、「フィルム5」は透湿度28.0g/(m^(2)・24hrs)の延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)である。」

「【0031】
「実施例1」
「フィルム1」を使用し、フィルム1m^(2)あたりにスリット長1.0mmのスリットを50個形成して「実施例1」を得た。実施例1において、フィルム1m^(2)あたりのスリットの合計全長(スリット率)は50(mm/m^(2))である。
【0032】
「実施例2」
「フィルム1」を使用し、フィルム1m^(2)あたりにスリット長1.0mmのスリットを100個形成して「実施例2」を得た。実施例2において、フィルム1m^(2)あたりのスリットの合計全長は100(mm/m^(2))である。
【0033】
「実施例3」
「フィルム1」を使用し、フィルム1m^(2)あたりにスリット長1.0mmのスリットを250個形成して「実施例3」を得た。実施例3において、フィルム1m^(2)あたりのスリットの合計全長は250(mm/m^(2))である。
【0034】
「実施例4」
「フィルム1」を使用し、フィルム1m^(2)あたりにスリット長1.0mmのスリットを400個形成して「実施例1」を得た。実施例4において、フィルム1m^(2)あたりのスリットの合計全長は400(mm/m^(2))である。
【0035】
「実施例5」
「フィルム2」を使用し、フィルム1m^(2)あたりにスリット長1.0mmのスリットを50個形成して「実施例2」を得た。実施例5において、フィルム1m^(2)あたりのスリットの合計全長は50(mm/m^(2))である。
【0036】
「実施例6」
「フィルム2」を使用し、フィルム1m^(2)あたりにスリット長1.0mmのスリットを100個形成して「実施例6」を得た。実施例6において、フィルム1m^(2)あたりのスリットの合計全長は100(mm/m^(2))である。
【0037】
「実施例7」
「フィルム2」を使用し、フィルム1m^(2)あたりにスリット長0.5mmのスリットを500個形成して「実施例7」を得た。実施例7において、フィルム1m^(2)あたりのスリットの合計全長は250(mm/m^(2))である。
【0038】
「実施例8」
「フィルム2」を使用し、フィルム1m^(2)あたりにスリット長1.0mmのスリットを250個形成して「実施例8」を得た。実施例8において、フィルム1m^(2)あたりのスリットの合計全長は250(mm/m^(2))である。
【0039】
「実施例9」
「フィルム2」を使用し、フィルム1m^(2)あたりにスリット長1.5mmのスリットを180個形成して「実施例9」を得た。実施例9において、フィルム1m^(2)あたりのスリットの合計全長は270(mm/m^(2))である。」

イ 甲1発明
以上の記載から、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「透湿度が5.2又は18.1g/(m^(2)・24hrs)の延伸ポリプロピレンフィルムを用いた包装袋において、長さが0.5、1.0又は1.5mmであるスリットを少なくとも一つ以上有し、かつ、前記延伸ポリプロピレンフィルムの総面積に対し前記スリットの合計全長が50、100、250、270又は400mm/m^(2)の比率となるように前記スリットが形成されている包装袋に、水耕栽培されたカイワレ100g又は水耕栽培された豆苗300gを包装した包装袋。」

なお、甲1発明の認定につき当事者間に争いはない。

ウ 本件発明1と甲1発明との一致点・相違点
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「延伸ポリプロピレンフィルム」は、本件発明1における「フィルム」に相当する。同様に、「延伸ポリプロピレンフィルムを用いた包装袋」は「フィルムを含む包装袋」に、「スリット」は「切れ込み」に、「スリットを少なくとも一つ以上有し」は「1個以上の切れ込みがあり」に、それぞれ相当する。
甲1発明における「水耕栽培されたカイワレ」及び「水耕栽培された豆苗」は、本件発明1における「青果物」に相当する。
甲1発明における「包装袋」は、「水耕栽培されたカイワレ」又は「水耕栽培された豆苗」という青果物を包装するために用いられているから、「青果物用包装袋」であるといえる。
したがって、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「A.フィルムを含む包装袋であり、
B.前記包装袋に1個以上の切れ込みがある
F.青果物用包装袋。」

[相違点1A]
本件発明1においては、フィルムの厚みT(mm)について、構成D「Tが0.01mm以上0.1mm以下であり」との特定がされているのに対し、甲1発明においては、そのような特定はされていない点。

[相違点1B]
本件発明1においては、構成C「切れ込み1個あたりの長さL(mm)/フィルムの厚みT(mm)の比(L/T)が16以上250以下であり」との特定がされているのに対し、甲1発明においては、そのような特定はされていない点。

[相違点1C]
本件発明1においては、構成E「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計が0.08mm以上17mm以下である」との特定がされているのに対し、甲1発明においては、そのような特定はされていない点。

なお、上記の一致点及び相違点の認定につき当事者間に争いはない。

以下、相違点1Aないし1Cが実質的な相違点であるか否か検討する。

[相違点1Aについて]
甲1には、甲1発明における延伸ポリプロピレンフィルムフィルム(以下「OPP」ということがある。)の厚みについて明示する記載はない。
また、甲1発明における延伸ポリプロピレンフィルムフィルムについての「透湿度が5.2又は18.1g/(m^(2)・24hrs)」という事項が、本件発明1におけるフィルムの厚みT(mm)についての「Tが0.01mm以上0.1mm以下であり」という事項に相当するとも認められない。
したがって、甲1発明における延伸ポリプロピレンフィルムの厚みは特定できず、当該厚みが「0.01mm以上0.1mm以下」という数値範囲内にあるということはできない。
よって、相違点1Aは、実質的な相違点である。

請求人は、甲5の記載から、20μmのポリプロピレンフィルムの水蒸気透過度は7g/m^(2)・24Hであることが明らかであり、甲6の記載から、同一の素材のフィルムの場合には透湿度(水蒸気透過度)とフィルムの厚みとの間に逆比例の関係が成立するということが技術常識であるとして、甲1に記載された「透湿度が5?30g/(m^(2)・24hrs)のフィルム(OPPフィルム)」という記載は、「厚みが4.7μm?28μmのフィルム(OPPフィルム)」と同義となり、相違点1Aは実質的な相違点ではない、と主張する(審判請求書20頁下から5行?21頁最下行、平成26年6月28日付け口頭審理陳述要領書2頁下から3行?4頁9行、同年7月12日付け口頭審理陳述要領書(2)4頁21行?5頁23行、同年8月1日付け口頭審理陳述要領書(3)2頁25行?3頁29行)。
しかしながら、甲5、乙16、乙18?乙22には、以下に示すとおり、種々の包装用延伸ポリプロピレンフィルムの特性が記載されており、これら特性から、包装用途に使用される延伸ポリプロピレンフィルムの水蒸気透過度と厚みの関係は、必ずしも全てのフィルムにおいて一定であるとは認められない。

[甲5、乙16、乙18?乙22に記載された延伸ポリプロピレンフィルムの特性」
甲5(62?63頁):厚み20μm、水蒸気透過度(WVTR)7g/m^(2)・24H(40℃×90%RH)(測定方法:JIS K7129)
乙16(【0047】?【0048】、【0049】表1):25μm透湿度4.8、2.9、5.2、6.1(g/m^(2)・d)(測定方法JIS Z0208)
乙18(【0079】、【0084】表2):厚み25μm、水蒸気透過度3.4、3.2、5.0(g/m^(2)day)(測定方法:JIS K7129B法)
乙19(【0073】、【0106】表4):水蒸気透過度(WVTR)5.5、5.3、5.6、5.8、8.4(25.4μm当りg/m^(2)/日)(測定方法:ASTM F 372)
乙20(【0016】、【0025】表1、【0026】表2):透湿度(g/m^(2)・日/20μm)2.4?4.0(測定方法:JIS Z0208B(40℃、90%))
乙21(【0053】?【0057】、【0064】表3):厚み25μm、透湿度(g/cm^(2))4.1?5.8(測定方法:塩化カルシウム40℃、90%、24時間)
乙22(【0017】、【0020】表1):透湿度(g/m^(2)・日/20μm)2.4?3.9(測定方法:JIS Z0208B(40℃、90%))

すなわち、包装用途に使用される延伸ポリプロピレンフィルムは、製品によっては、厚みが同じであっても透湿度が異なるものが存在する、換言すれば、透湿度が同じであっても厚みが異なるものが存在すると認められる。
そして、例えば、乙20の実施例2に記載された透湿度2.4(g/m^(2)・日/20μm)のOPPフィルムは、甲1発明における「透湿度が5.2又は18.1g/(m^(2)・24hrs)の延伸ポリプロピレンフィルム」に当てはめて換算すると、厚みは9.2μm(すなわち0.0092mm)又は2.7μm(すなわち0.0027mm)となる。したがって、甲1発明の延伸ポリプロピレンフィルムの厚みは、必ずしも本件発明1における「0.01mm以上0.1mm以下」の数値範囲内にあるとはいえない。
全く同一の素材のフィルムの場合には、透湿度(水蒸気透過度)とフィルムの厚みとの間に逆比例の関係が成立することが請求人の主張するとおりであるとしても、全ての延伸ポリプロピレンフィルムについて、水蒸気透過度と厚みの関係が一定であること(すなわち、甲6でいう気体透過係数Pの値が製品によらない定数であること)が技術常識であると認めることはできない。むしろ、延伸ポリプロピレンフィルムは、水蒸気透過度と厚みの関係は一定ではない(すなわち、気体透過係数Pの値が製品によって異なる値となる)という事項が知られていたというべきである。甲5、乙16、乙18及び乙20ないし乙22はいずれも甲1の出願日より前に頒布された刊行物であり、乙19の国際公開日は甲1の出願日より前であるから、遅くとも甲1の出願時には、前記事項は当業者に知られていたといえる。したがって、本願出願時点において甲1の記載に触れた当業者が、甲1発明における延伸ポリプロピレンフィルムについて、必ずしも甲5に記載されたOPPフィルムと同一の素材が用いられていると理解するとはいえない。請求人の上記主張は失当であり採用できない。

また、請求人は、「乙16ないし乙22に記載されているフィルムは特殊なものであって、バリア性の向上を意図したものである。したがって、このフィルムを甲1のような青果物を包装する用途には使用しない。」(第1回口頭審理調書 陳述の要領 請求人6)と主張する。
しかしながら、乙16ないし乙22に記載されたような、厚み20?25μmで水蒸気透過度が2?5g/(m^(2)・24hrs)程度のフィルムであっても、フィルムの厚みが薄いものは、水蒸気透過度が甲1発明におけるOPPフィルムの透湿度「5.2又は18.1g/(m^(2)・24hrs)」程度になることは十分に考えられ、甲1には、フィルムの厚みについて限定する旨の記載はないから、そのような薄いフィルムであっても甲1におけるフィルムとして採用することができるといえる。
したがって、乙16ないし乙22に記載されているフィルムを甲1のような青果物を包装する用途には使用しないとの請求人の上記主張は採用できない。

さらに、請求人は、「甲1の技術水準の判断において、甲1の出願時における技術常識を考慮すべきである。」と主張する(第1回口頭審理調書 陳述の要領 請求人7)。
そこで検討するに、上記したとおり、延伸ポリプロピレンフィルムは水蒸気透過度と厚みの関係は一定ではない(すなわち、気体透過係数Pの値が製品によって異なる値となる)という事項は、遅くとも甲1の出願時には当業者に知られていたといえるから、甲1の出願時における技術常識を考慮しても、本願出願時点において甲1の記載に触れた当業者が、甲1発明における延伸ポリプロピレンフィルムについて、必ずしも甲5に記載されたOPPフィルムと同一の素材が用いられていると理解するとはいえない。

[相違点1Bについて]
上記[相違点1Aについて]で述べたとおり、甲1発明における延伸ポリプロピレンフィルムの厚みは特定できないから、甲1発明における切れ込み1個あたりの長さ(mm)/フィルムの厚み(mm)の比も特定できない。
したがって、甲1発明において、切れ込み(スリット)1個あたりの長さ(mm)/フィルムの厚み(mm)の比が16以上250以下であるとはいえない。
よって、相違点1Bは、実質的な相違点である。

[相違点1Cについて]
甲1発明において、青果物(水耕栽培されたカイワレ100g又は水耕栽培された豆苗300g)を包装する包装袋は、スリットの合計全長が50、100、250、270又は400mm/m^(2)の比率となるように前記スリットが形成された延伸ポリプロピレンフィルムで構成されているが、包装袋の形状や大きさは特定されておらず、包装袋を構成するフィルムの面積は不明であり、包装袋のスリットの長さの合計も不明である。
結果として、甲1発明において、「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計」を特定することはできない。
したがって、甲1発明において、青果物100gあたりの切れ込み(スリット)の長さの合計が0.08mm以上17mm以下であるとはいえない。
よって、相違点1Cは、実質的な相違点である。

請求人は、甲1発明の包装袋のフィルムの面積が、表裏2枚のシートからなる8号サイズの袋、又は市販の豆苗包装袋若しくはカイワレ包装袋と同程度であることを前提として、相違点1Cが実質的な相違点ではないと主張する(審判請求書22頁1?18行、平成26年6月28日付け口頭審理陳述要領書4頁下から8行?5頁下から6行、同年7月12日付け口頭審理陳述要領書(2)7頁15行?下から6行、同年8月1日付け口頭審理陳述要領書(3)4頁10?31行)。
しかしながら、上記したとおり、甲1発明において包装袋の形状や大きさは特定されていないのであり、甲1には、甲1発明における包装袋の大きさをを特定する記載は認められない。甲1発明における包装袋のフィルムの面積が、請求人のいうような8号袋又は市販の豆苗包装袋若しくはカイワレ包装袋と同程度であるとする根拠は見出せない。したがって、請求人の上記主張は根拠がなく採用できない。

エ 小括
以上のとおり、本件発明1は、相違点1Aないし相違点1Cにおいて甲1発明と相違するから、本件発明1が甲1発明であるということはできない。

(2)甲2の記載事項、甲2発明、及び本件発明1と甲2発明との一致点・相違点
ア 甲2の記載事項
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲2には、以下の記載がある。
「【請求項1】
高分子フィルムを合掌背貼りした袋であり、前記袋の合掌背貼り部のシール強度が0.1?0.6kgf/15mm(JIS Z 0238)であり、前記合掌背貼り部以外の袋のシール強度より小さく、合掌背貼り部のシール幅が1?20mmであり、合掌背貼り方向と平行方向にある袋の長さ(LP)と合掌背貼り方向と垂直方向にある袋の長さ(LV)の比LP/LVが1以上10以下であることを特徴とする包装袋。
・・・(中略)・・・
【請求項10】
高分子フィルムが、開口部1個の開孔面積が0.05mm^(2)以下である微細孔、未貫通及び/又は貫通のクラック、或いは切り込みの内少なくとも1種を有している請求項1記載の包装袋。」

「【技術分野】
【0001】
本発明は、電子レンジで加熱可能な包装袋に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、調理済み冷凍食品やチルド食品等を包装袋から取り出し食器に移し代えて電子レンジで加熱調理するかわりに、包装袋ごと加熱調理する食品が増えてきている。しかし、密封した包装体では、加熱時に発生する水蒸気により膨張、破裂し内容物の飛散で電子レンジを汚したり、取りだそうとした際にやけどをしたりする危険性がある。
また、青果物においても、包装袋から取り出し食器等に移し代えて電子レンジで加熱調理するかわりに、包装袋ごと加熱する青果物が増えてきているが、上記と同様の問題が発生している。
一方、青果物に関しては、消費者の食品に対する安全性、衛生性を求める傾向が強まり、鮮度が良くて添加剤を含まないものが要求され始めてきた。
青果物をすぐ食べられるようにカット、洗浄した状態で流通販売し、消費者が購入後電子レンジでそのまま加熱調理し、すぐに食べられるという商品があれば、新鮮な食品を簡便に食べるという消費者の要求に適した商品となる。
【0003】
だが、消費者が簡便に食することができるようにカット、洗浄した青果物は鮮度を保つことが難しく、満足のいく状態で消費者に届けることは困難であった。この新鮮さ、衛生性に関して、添加物等を用いずに青果物自身の呼吸により包装内のガス濃度を野菜の保存に適した雰囲気にするというMA(Modified Atmosphere)効果を有する青果物用鮮度保持資材が開発され、主に流通用に使用されている。青果物は収穫後も呼吸を続けており、大気(酸素約21%、二酸化炭素約0.04%)よりも酸素濃度が低く、二酸化炭素濃度が高い環境下に置くと呼吸が抑制され鮮度保持が可能であることが知られている。しかし、包装体内が過度に低酸素、高二酸化炭素の環境になると、青果物が呼吸障害を起こして劣化を促進することになってしまい、逆に酸素濃度が高すぎたり、二酸化炭素濃度が低すぎると十分な鮮度保持効果が得られない。このため包装内を適切な酸素濃度、炭酸ガス濃度にコントロールすることが極めて重要である。
【0004】
青果物は種類、温度や切り方等により呼吸量が全く異なるため、青果物のMA包装においては、それらに応じて包装体のガス透過量を調節する必要がある。そこで、フィルムに設けた微細孔(孔径数百μm以下)や傷を作りその数や大きさによってガスの透過量を調節するフィルムが複数のメーカーによって開発されている。
このMA包装技術を用い、かつ電子レンジで簡便に加熱調理できる食品を作ろうとする場合、いくつかの問題があった。これらのフィルムで青果物を包装する場合、袋状に加工された後内容物を入れ、ヒートシールなどによって密封して使用する。しかし、多くは生食用であり加熱調理用のものもそのまま電子レンジにかけて食するというところまで簡便化された商品はほとんどなかった。
このように密封した包装体では、加熱時に発生する水蒸気により膨張、破裂し内容物の飛散で電子レンジを汚したり、取りだそうとした際にやけどをしたりする危険性がある。密封を必要とするMA包装ではこれらの問題を防ぐための工夫ができなかった。
【0005】
一般の調理済み食品や半調理済み食品に用いられている包装に穴をあけるという方法は、MA包装の場合、加熱調理時の水蒸気を十分に逃せるぐらいまでに、大きな穴をあけたり、ガス透過率の高いフィルムを使うと、流通時では包装内が大気と成分が変わらずMA包装による保存性が出なくなってしまう。
それ以外の方法でも、コスト高、技術的に困難、生産性が悪いなどの理由で実用性に乏しかった。素材自体を易剥離性にして内圧の上昇で開封させる方法は比較的実用性のある方法であるが、青果物の包装としては大きな問題があった。青果物包装において包装内の防曇性はきわめて重大な役割を持っている。1つは中味がよく見えると言うことである。青果物を買う際には注意深く観察してから買う消費者が多いため包装が曇っているとそれだけで売れ行きに悪い影響が出る。また、包装内が結露している場合、青果物の多くでその水滴が付着した部分から腐敗など品質低下が始まり、よりはやく商品価値が失われることが知られている。そのため、一般に青果物の包装材は防曇性のすぐれた材料がよく用いられている。しかし、イージーピール層をもうけた易剥離性素材で、青果物包装として十分な防曇性がある素材は今のところない。
【0006】
特開平7-184538号公報では、部分的にシール部にあらかじめコート剤を塗布することにより開封しやすくした鮮度保持包装であるが、この形態では内圧の上昇で開封する際に蒸気がそちらの方向に強く吹き出しているためやけどをしやすく、また電子レンジ内を汚す危険性も高い。また中にたまった水分があればこぼれてやけどや電子レンジの汚れの原因になる。
以上のように青果物の鮮度保持包装として必要な特性を有しかつ、そのまま電子レンジで加熱調理できるような青果物包装体はなかった。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、そのまま袋ごと電子レンジによる加熱調理でき、その際確実に開口し、開口後も持ち運びしやすく、簡便でかつ低コストの包装袋を提供することを目的とする。更に、本発明は、新鮮な青果物の流通中における鮮度低下を抑えられかつ、そのまま袋ごと電子レンジによる加熱調理でき、その際確実に開口し、開口後も持ち運びしやすい簡便かつ低コストの青果物鮮度保持用の包装袋を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
高分子フィルムを合掌背貼りした袋であり、前記袋の合掌背貼り部のシール強度が0.1?0.6kgf/15mm(JIS Z 0238)であり、前記合掌背貼り部以外の袋のシール強度より小さく、合掌背貼り部のシール幅が1?20mmであり、合掌背貼り方向部と平行方向にある袋の長さ(LP)と合掌背貼り方向と垂直方向にある袋の長さ(LV)の比LP/LVが1以上10以下である包装袋である。
更に好ましい形態としては、高分子フィルムの厚みが15?40μmであり、高分子フィルムが延伸ポリプロピレンフィルムまたは少なくともポリオレフィン層をもつ単層または多層の高分子フィルムであり、合掌背貼り部の高分子フィルムが、厚さ0.01μm以上の樹脂層を有し、樹脂層がコート剤であり、コート剤がポリオレフィン系のコート剤であり、包装袋が電子レンジ用の袋であり、密封シールされた包装袋を電子レンジにて加熱調理した場合、合掌背貼り部から開口し、包装袋がレトルト食品又は冷凍食品用の包装袋であり、包装袋が青果物用の包装袋であり、高分子フィルムが、開口部1個の開孔面積が0.05mm^(2)以下である微細孔、未貫通及び貫通のクラック、あるいは切り込みの内少なくとも1種を有しており、青果物を入れて包装袋の口を密封シールした後、24時間以内の包装袋内の酸素濃度が0.2?18%、炭酸ガス濃度が2?21%であり、包装される青果物が、エダマメ、カットブロッコリー、カットカリフラワー、カットゴボウ、カットカボチャ、皮むきソラマメ、アスパラガス、エノキタケ、シメジ、マイタケ、皮むきスイートコーン、ニンジン、インゲン、サヤエンドウ、皮むきタマネギ、ジャガイモ、サツマイモの中から選ばれる少なくとも1種である包装袋である。」

「【0017】
包装袋に青果物をいれて保存する場合、青果物に対する鮮度保持効果が得られるためには、青果物を入れてシール後24時間以内に包装体内の酸素濃度を内容物に応じて0.2?18%、二酸化炭素濃度2?21%の範囲内にし、その状態が開封するまで安定して保持されることが好ましい。酸素濃度が下限値未満であれば、青果物が嫌気呼吸を行いエタノール、アセトアルデヒドを生じ劣化が早まり、上限値を超えれば呼吸抑制効果が小さく鮮度保持効果が弱くなる可能性がある。二酸化炭素濃度が21%を長期的に超えたままだと、炭酸ガス障害が生じるという問題がある。例えば、ブロッコリーでは酸素5?15%、ニンジンでは酸素8?17%で鮮度保持効果が大きい(二酸化炭素はいずれも21%以下が好ましい)。24時間以内であるのは、いたみ易い青果物の場合、ガス濃度の変化が遅すぎると、その間に変色など品質低下が生じるためで、カットゴボウ、カットタマネギ、カットジャガイモなど変色しやすい青果物では包装体内のガス濃度を早く所定の範囲にするためにガス置換等の手段を用いても構わない。包装体全体の酸素透過量は、内容物の青果物の呼吸量に応じてコントロールすることが好ましい。
包装体内の酸素濃度を精度良くにコントロールするためには、高分子フィルムに微細孔(開口面積0.05mm^(2)以下)や貫通・未貫通の傷、クラック、全長5mm以下の切れ目等少なくとも1種の加工が施されているのが好ましい。」

「【0023】
・・・(中略)・・・
《実施例4》
東洋紡績(株)製の厚み30μmの片面熱シール性二軸延伸防曇ポリプロピレンフィルムに長さ2mmの切れ目を0.02個/cm^(2)の割合で開けた。また、合掌背貼り部分には大日本インキ化学工業のディックシールA-811Pを厚み2μmコートした。
このフィルムを120×190mmの合掌背貼り袋に加工し(LP/LV=1.58、背貼り部分の幅5mm、背貼り部分のシール強度0.4kgf/15mm、その他の部分は1.0kgf/15mm)、これにあらかじめ7cmにカットしたグリーンアスパラガス(約100g)を入れてヒートシールにより密封包装した。12℃で保存したところ48時間経過後の酸素濃度は8.8?10.7%、二酸化炭素濃度10.1?12.0%であり、保存5日目でも外観、臭気ともほとんど変化がなく新鮮な状態が保たれた。そのままの状態で電子レンジで3分加熱したところ、約1分で背貼りの中央部分が破裂することなく開き、加熱調理されていた。このときレンジ内に水分などの漏れは無く、包装体上部をつまんで持ち上げても水分やアスパラガスがこぼれることなく運ぶことができた。食味も初期の状態とほとんど差がなかった。」

イ 甲2発明
以上の記載から、甲2には次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「厚み30μmの片面熱シール性二軸延伸防曇ポリプロピレンフィルムに長さ2mmの切れ目を0.02個/cm^(2)の割合で開け、このフィルムを120×190mmの合掌背貼り袋に加工し、これにあらかじめ7cmにカットしたグリーンアスパラガス(約100g)を入れてヒートシールにより密封包装した包装袋。」

なお、甲2発明の認定につき当事者間に争いはない。

ウ 本件発明1と甲2発明との一致点・相違点
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明における「片面熱シール性二軸延伸防曇ポリプロピレンフィルム」、「切れ目」は、それぞれ本件発明1における「フィルム」、「切れ込み」に相当する。
甲2発明における「包装袋」は、「片面熱シール性二軸延伸防曇ポリプロピレンフィルム」を袋に加工したものであるから、「フィルムを含む包装袋」であるといえる。
甲2発明における「カットしたグリーンアスパラガス」は、本件発明1における「青果物」に相当する。
甲2発明における「包装袋」は、「カットしたグリーンアスパラガス」という青果物を包装するために用いられているから、「青果物用包装袋」であるといえる。
甲2発明において、包装袋における切れ目の個数は9.12個(審判請求書15頁6?23行と同様の計算による)であるから、本件発明1の「包装袋に1個以上の切れ込みがあり」との要件を満たす。
甲2発明における片面熱シール性二軸延伸防曇ポリプロピレンフィルムの厚み「30μm」(すなわち0.03mm)という数値は、本件発明1の「Tが0.01mm以上0.1mm以下」という数値範囲内にある。
甲2発明において、切れ目1個あたりの長さ(2mm)/フィルムの厚み(30μm、すなわち0.03mm)の比は、66.7であり、青果物100gあたりの切れ目の長さの合計は、18.24mmである(いずれも審判請求書15頁6?23行と同様の計算による)。前記「66.7」という数値は、本件発明1の比L/Tの「16以上250以下」という数値範囲内にあり、前記「18.24mm」という数値は、本件発明1の青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計の「0.08mm以上17mm以下」という数値範囲と、「0.08mm以上」の数値である限りにおいて共通する。
したがって、本件発明1と甲2発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「A.フィルムを含む包装袋であり、
B.前記包装袋に1個以上の切れ込みがあり、
C.切れ込み1個あたりの長さL(mm)/フィルムの厚みT(mm)の比(L/T)が16以上250以下であり、
D.Tが0.01mm以上0.1mm以下であり、
E’.青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計が0.08mm以上である
F.青果物用包装袋。」

[相違点2A]
青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計について、本件発明1においては「0.08mm以上17mm以下」と限定されているのに対し、甲2発明においては、前記長さの合計は、18.24mmである点。

なお、上記の一致点及び相違点の認定につき当事者間に争いはない。

以下、相違点2Aが実質的な相違点であるか否か検討する。

[相違点2Aについて]
甲2発明において、青果物100gあたりの切れ込み(切れ目)の長さの合計18.24mmは、本件発明1における0.08mm以上17mm以下の数値範囲外である。
したがって、相違点2Aは実質的な相違点である。

請求人は、甲2発明における「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計」は、18.24mmであり、これは訂正2013-390063号による訂正前の本件特許の請求項1における数値範囲であれば完全に重複し、また、本件発明1の構成Eの最大値を示す「17」という数値に臨界的意義を見出すことができないから、相違点2Aは形式的な相違点にすぎず、実質的な相違点とはいえないと主張する(平成26年6月28日付け口頭審理陳述要領書9頁25行?10頁5行、同年8月1日付け口頭審理陳述要領書(3)5頁22行?6頁10行)。
しかしながら、訂正2013-390063号による訂正によって、本件発明1における「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計」の上限値は「17mm以下」に訂正されているのであるから、訂正前の請求項1の記載に基づく請求人の主張は、前提において失当であり採用できない。また、本件発明1において、青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計について、「0.08mm以上17mm以下」と数値範囲が明確に特定されているのであり、当該数値範囲に臨界的意義があるか否かは、相違点2Aが実質的なものか否かの判断に影響するものではない。したがって、前記数値範囲に臨界的意義がないから相違点2Aが形式的な相違点に過ぎないとする請求人の主張は、失当であり採用できない。

エ 小括
以上のとおり、本件発明1は、相違点2Aにおいて甲2発明と相違するから、本件発明1が甲2発明であるということはできない。

(3)本件発明2、3について
本件の請求項2、3は、いずれも請求項1を引用して記載されており、本件発明2、3は、いずれも本件発明1の特定事項をすべて備えている。
したがって、本件発明2、3は、本件発明1について検討したのと同様の理由により、甲1発明であるとも、甲2発明であるともいえない。

(4)無効理由4についてのまとめ
よって、請求人が主張する無効理由4によっては、本件発明1ないし3に係る特許を無効とすることはできない。


5.無効理由5について
(1)本件発明1について
ア 甲1を主引例とした場合
(ア)甲1の記載事項、甲1発明、及び本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、上記4.(1)アないしウに記載したとおりである。

以下、相違点について検討する。
事案に鑑み、まず、相違点1Cについて検討する。

(イ)相違点1Cについて
甲1発明において、延伸ポリプロピレンフィルムの総面積に対するスリットの合計全長の比率が「50、100、250、270又は400mm/m^(2)」と特定されているものの、包装袋の形状や寸法が不明であり、包装袋を構成する延伸ポリプロピレンフィルムの面積も不明である。その結果、甲1発明において、青果物100gあたりの切れ込み(スリット)の長さの合計の値は不明である。そして、甲1には、包装袋における切れ込み(スリット)の長さの合計を青果物の量に応じて好適化するという技術的思想について、記載も示唆もされていない。
したがって、甲1に基づいて、本件発明1における構成E「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計が0.08mm以上17mm以下である」との事項を導くことはできない。

甲2ないし甲4を参照しても、甲1発明において、相違点1Cに係る本件発明1の構成E「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計が0.08mm以上17mm以下である」との事項を具備せしめることを、当業者が容易に想到し得るとはいえない。その理由は、以下のとおりである。

(ウ)上記4.(1)アに摘記した甲1の【請求項1】、【0001】及び【0006】の記載から、甲1に記載された包装袋は、青果物を包装した包装袋内の内部水蒸気圧を制御することを技術的課題としていることが理解される。
一方、甲2には、上記したとおり甲2発明が記載されているところ、上記4.(2)アに摘記した甲2の【0001】?【0007】の記載から、甲2発明は、包装袋内の酸素及び二酸化炭素の濃度を青果物の保存に適した雰囲気にするというMA効果を有しており、かつ、青果物を包装したまま電子レンジによる加熱調理が可能な包装袋を提供することを技術的課題としていることが理解される。
ここで、甲1における「青果物を包装した包装袋内の内部水蒸気圧を制御する」ことと、甲2における「包装袋内の酸素及び二酸化炭素の濃度を青果物の保存に適した雰囲気にする」こととは、制御しようとするガスの種類が異なり、ガスの出所も異なる。すなわち、甲1において制御しようとするガスは内部水蒸気であり、その内部水蒸気は根や株を切り取っていない青果物又は水分を含んだスポンジ等の苗床に由来するものがほとんどであるのに対し、甲2において制御しようとするガスは酸素及び二酸化炭素であり、それら酸素及び二酸化炭素は空気中の酸素及び青果物の呼吸による二酸化炭素に由来するものがほとんどである。したがって、甲1発明と甲2発明は、青果物の鮮度維持の手段が同一又は同等のものとはいえない。よって、両発明は、フィルムにスリット(甲2発明における「切れ目」)を設ける点で共通しているとしても、スリットを設ける際の条件、例えばスリットの長さ、密度等についての好適条件は必ずしも一致するとはいえない。
したがって、甲1発明におけるフィルムのスリットの長さ、密度等の条件を、甲2発明においてフィルムに設けられるスリット(切れ目)と同様の条件とすることについて、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
仮に、甲1発明におけるフィルムのスリットの長さ、密度の条件を、甲2発明においてフィルムに設けられるスリット(切れ目)と同様の条件としたとしても、甲2発明において、青果物100gあたりの切れ目の長さの合計は18.24mmである。そして、後記「イ 甲2を主引例とした場合(イ)」で詳述するとおり、甲2発明における「長さ2mmの切れ目を0.02個/cm^(2)の割合で開け」という事項は、「120×190mmの合掌背貼り袋」に「7cmにカットしたグリーンアスパラガス(約100g)」という内容物を入れて保存する場合に、袋内の酸素濃度及び二酸化炭素濃度が当該内容物について鮮度保持効果が得られる数値範囲内となるように、好適な条件として設定されているものであり、既に好適化が図られている甲2発明において、切れ目の長さや密度、あるいは袋の大きさ等の条件をあえて変更することについて、動機付けとなるものが存在するとはいえない。したがって、仮に甲1発明に甲2発明を組み合わせたとしても、本件発明1における構成E「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計が0.08mm以上17mm以下である」との事項を導くことはできない。

(エ)甲3には、以下の記載がある。
「【請求項1】
青果物の最大投影面積を包装袋の青果物収納可能部分の最大投影面積で除した値が、0.5以上、1以下であることを特徴とする青果物の包装体。
・・・(中略)・・・
【請求項5】
包装袋が、開口部1個の開孔面積が0.05mm^(2)以下である微細孔、未貫通及び/又は貫通のクラック、或いは距離5mm以下の切り込みの内少なくとも1種を有している請求項1、2、3又は4に記載の青果物の包装体。」

「【0002】
近年、青果物の鮮度保持を目的とし、青果物自身の呼吸により包装内のガス濃度を野菜の保存に適した雰囲気にするというMA(Modified Atmosphere)効果を有する青果物用鮮度保持資材が開発されたことや、消費者の安全志向の高まり等もあり、通常は裸或いはネット等で包装されていたものも樹脂フィルム製の袋で包装されるようになってきた。
樹脂フィルム製の袋で包装される場合、フィルムに遊び部分が多いと手で掴む、輸送中に転がるなどして徐々に余分なフィルム部分にシワが入っていってしまう。量販店店頭での見栄えは無視できないため、MA包装等で鮮度保持効果が顕著な場合でも、通常の四角い袋で包装すると袋内の空隙が大きすぎて見た目が悪いため使用を控えるケースが少なくない。
また、このように空隙が大きいと輸送、販売中に袋内で青果物が動き回り、特にセロハンやポリスチレンフィルムなどシワが生じやすいフィルムで包装した場合は、フィルムがシワだらけになり著しく外観が不良となってしまう。また、青果物が袋内で動き回るため、青果物自身も傷みやすくなるという欠点も見受けられた。」

「【0012】
包装袋に青果物をいれて保存する場合、青果物に対する鮮度保持効果が得られるためには、青果物を入れてシールした後24時間後の包装体内の酸素濃度を0.05?18%、二酸化炭素濃度を2?25%の範囲内にし、その状態が開封するまで安定して保持されることが好ましい。更には12時間後に上記の範囲であることがより好ましい。酸素濃度が下限値未満であれば、青果物が嫌気呼吸を行いエタノール、アセトアルデヒドを生じ劣化が早まり、上限値を超えれば呼吸抑制効果が小さく鮮度保持効果が弱くなる可能性がある。二酸化炭素濃度が25%を長期的に超えたままだと、炭酸ガス障害が生じるという問題がある。例えば、ブロッコリーでは酸素6?15%、二酸化炭素6?15%、ニンジンでは酸素8?17%、二酸化炭素4?13%で鮮度保持効果が大きい。
【0013】
包装袋の青果物100gあたりの酸素透過速度は、50?5000cc/100g・day・atmであることが好ましい。酸素透過速度がこの範囲を外れると青果物の鮮度保持が保てなく可能性がある。
【0014】
合成樹脂フィルム或いは半合成樹脂フィルム自体の酸素透過速度では、多種の青果物に対してそれらの鮮度保持に必要な酸素透過速度に及ばない場合がある。この場合は、開口部1個の開孔面積が0.05mm^(2)以下である微細孔、未貫通及び/又は貫通のクラック、或いは距離5mm以下の切り込みのいずれかをフィルムに加工して酸素透加速度を調節することが好ましい。
開口面積が0.05mm^(2)を超えたり、切り込みの距離が5mmを超えると1袋あたりのこれら加工数が少なくなり、包装体あたりの酸素透加速度を調節する精度が悪くなる可能性がある。」

上記記載から、甲3には、甲2発明と同じく、包装袋内の酸素及び二酸化炭素の濃度を青果物の保存に適した雰囲気にするというMA効果を利用した包装袋であって、距離5mm以下の切り込みを有する包装袋が記載されていると理解される。
ここで、上記(ウ)で述べた「甲1発明と甲2発明は、青果物の鮮度維持の手段が同一又は同等のものとはいえない。」ことと同様に、甲1発明と甲3に記載された包装袋とは、青果物の鮮度維持の手段が同一又は同等のものとはいえず、両者は、フィルムにスリット(甲3における「切り込み」)を設ける点で共通しているとしても、スリットを設ける際の条件、例えばスリットの長さ、密度等についての好適条件は必ずしも一致するとはいえない。
よって、甲1発明におけるフィルムのスリットの長さ、密度等の条件を、甲3の記載に基づいて好適化することが、当業者にとって容易に想到し得ることであるとはいえない。

(オ)甲4には、以下の記載がある。
「【請求項1】 酸素透過速度および二酸化炭素透過速度が1,000?700,000cc/m^(2)・day・atmかつ水蒸気透過量50?300g/m^(2)・day・atm(at40℃・90%RH)の合成樹脂フィルムを用いて青果物を密封した包装体において、包装体内の一部または全ての青果物と合成樹脂フィルムの間に0.0015<重量(g)/体積(cc)<0.6の通気性を有する物体を介在させてなることを特徴とする青果物の包装体。
・・・(中略)・・・
【請求項5】 包装体が開孔面積7.1×10^(-8)m^(2)以下の微細孔を1個以上有する合成樹脂製フィルムまたは表面に貫通あるいは未貫通の傷、クラックや長さ5mm以下の切り込みを有する合成樹脂フィルムで構成されてなる請求項1?4のいずれか1項に記載の青果物の包装体。
【請求項6】 通気性を有する物体が銀、銅、亜鉛、酸化チタン、キチン、キトサン、ポリフェノール、竹または果実の種からの抽出物の内1種以上の抗菌効果を有する物質を含有してなる請求項1?5のいずれか1項に記載の青果物の包装袋。」

「【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、MA効果によって青果物の鮮度が保持でき、かつ通常青果物を密封包装すると発生しやすくなるカビが発生し難くい青果物の包装体を提供することである。」

「【0012】包装体の酸素および二酸化炭素透過速度を速くするには、開孔面積7.1×10^(-8)以下の微細孔や貫通あるいは未貫通の傷、クラックや長さ5mm以下の切り込みをフィルムに1個以上もうければよい。開孔面積は7.1×10^(-8)m^(2)以下、切り込みは5mm以下であるのは、孔や切り込みが大きすぎると酸素や二酸化炭素などの透過速度を制御するのが困難になるためである。」

上記記載から、甲4には、甲2発明及び甲3に記載された包装袋と同じく、包装袋内の酸素及び二酸化炭素の濃度を青果物の保存に適した雰囲気にするというMA効果を利用した包装袋であって、長さ5mm以下の切り込みを有する包装袋が記載されていると理解される。
ここで、上記(ウ)で述べた「甲1発明と甲2発明は、青果物の鮮度維持の手段が同一又は同等のものとはいえない。」ことと同様に、甲1発明と甲4に記載された包装袋とは、青果物の鮮度維持の手段が同一又は同等のものとはいえず、両者は、フィルムにスリット(甲4における「切り込み」)を設ける点で共通しているとしても、スリットを設ける際の条件、例えばスリットの長さ、密度等についての好適条件は必ずしも一致するとはいえない。
よって、甲1発明におけるフィルムのスリットの長さ、密度等の条件を、甲4の記載に基づいて好適化することが、当業者にとって容易に想到し得ることであるとはいえない。

以上のことから、甲1ないし甲4に基づいて、甲1発明において、相違点1Cに係る本件発明1における構成E「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計が0.08mm以上17mm以下である」との事項を具備せしめることを、当業者が容易に想到し得るとはいえない。

(カ)さらに、請求人が提出したその他の証拠について検討すると、以下のとおりである。

甲5には、包装用フィルムの水蒸気透過度(透湿度)及びガスバリヤー性(酸素透過度)について記載されている。
甲6には、ポリプロピレンフィルムの特性及びフィルムの気体透過性について記載されている。
甲7、甲11、甲12、甲14及び甲21は、「特許・実用新案審査基準」の抜粋である。
甲8には、青果物流通統計のデータが記載されている。
甲9には、「マイタケ子実体の鮮度劣化についての一考察」と題する研究レポートが記載され、「マイタケ子実体の家庭内貯蔵は可能な限り短期間とすべきであるが、家庭で食品としての鮮度劣化を遅らせるためには、ガス透過性の低い包装材料で子実体を密封し,冷蔵庫内等の低温下で貯蔵することが望まれる。」との記載がある。
甲10には、本件明細書の実施例について、横軸を「厚み」、縦軸を「L/T」としてプロットした図が記載されている。
甲13には、本件明細書の実施例10の追実験の実験成績が記載されている。
甲15、甲16には、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの物性が記載されている。
甲17には、グンゼ株式会社プラスチックカンパニーの品種;#20MV2タイプ、#25MV2タイプ、#30MV2タイプ、#40MV2タイプ、#20SVS2タイプ、#25SVS2タイプ及び#40SVS2タイプの標準物性値が記載されている。
甲18には、サン・トックス株式会社のフィルム気体透過度一覧が記載されている。
甲19には、防曇OPPフィルムの水蒸気透過度が記載されている。
甲20は、ピローパウチに入れられた「豆苗」の写真である。
甲22には、本件発明1について、シイタケの保存実験を実施した実験成績が記載されている。
甲23には、本件発明1について、ブロッコリーの保存実験を実施した実験成績が記載されている。
甲24は、切れ込みが形成された袋にそれぞれ「ブロッコリー」と「ほうれん草」を充填した場合の写真である。
甲25には、サントックス社OPP製品の厚みと水蒸気透過度の関係を示す図が記載されている。
甲26には、「コロナ処理による表面改質」と題する記事が記載されている。
甲27には、「OPPフィルムメーカー各社製品の厚みと水蒸気透過度の関係」と題する図が記載されている。
甲28には、「甲1号証 実施例、比較例での検証(各種想定厚みに於けるL/Tと100g当たりの合計切り込み長さ算定値)」と題し、「2.市販豆苗包装例」との見出しが記載された表が記載されている。
甲29には、「甲1号証 実施例、比較例での検証(各種想定厚みに於けるL/Tと100g当たりの合計切り込み長さ算定値)」と題し、「1.市販カイワレ包装例」との見出しが記載された表が記載されている。
甲30及び甲31には、フィルムの透湿度の測定結果が記載されている。

これら、甲5ないし甲31は、いずれも甲1発明の包装袋における青果物100gあたりの切れ込み(スリット)の長さの合計を好適化することについて、記載又は示唆するものではない。したがって、甲5ないし甲31を参酌しても、本件発明1における構成E「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計が0.08mm以上17mm以下である」との事項を導くことはできない。

(キ)請求人は、「甲2に記載されているように、「長さ2mmの切れ目を0.02個/cm^(2)の割合で開け」た「フィルム」を「120×190mmの合掌背貼り袋に加工し、これにあらかじめ7cmにカットしたグリーンアスパラガス(約100g)を入れ」るとすると、「切れ目の長さの合計」が18.24mmの袋に100gのグリーンアスパラガスを入れることになる。したがって、甲2における「長さ2mmの切れ目を0.02個/cm^(2)の割合で開け」た「フィルム」を「120×190mmの合掌背貼り袋に加工し、これにあらかじめ7cmにカットしたグリーンアスパラガス(約100g)を入れ」るとの記載は、相違点1Cの「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計が0.08mm以上17mm以下である」にほぼ等しい記載であると言える。」と主張する(平成26年6月28日付け口頭審理陳述要領書7頁6?20行)。
そこで検討するに、甲2には、請求人のいうとおり、青果物100gあたりの切れ目の長さの合計が18.24mmとなる甲2発明が記載されている。しかしながら、この18.24mmという数値は、本件発明1における、青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計の「0.08mm以上17mm以下」という数値範囲内の数値ではない。しかも、上記(ウ)でも述べたとおり、既に好適化が図られている甲2発明において、切れ目の長さや密度、あるいは袋の大きさ等の条件をあえて変更することについて、動機付けとなるものが存在するとはいえない。したがって、「青果物100gあたりの切れ目の長さの合計が18.24mm」となる甲2発明を甲1発明と組み合わせても、相違点1Cに係る本件発明1の構成Eを導くことはできない。
請求人の上記主張を考慮しても、相違点1Cに係る本件発明1の構成Eについて、当業者が容易に想到し得るとすることはできない。

(ク)小括
したがって、相違点1A及び相違点1Bについて検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明に甲2ないし甲4に記載された発明を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

イ 甲2を主引例とした場合
(ア)甲2の記載事項、甲2発明、及び本件発明1と甲2発明との一致点及び相違点は、上記4.(2)アないしウに記載したとおりである。

以下、相違点2Aについて検討する。

(イ)相違点2Aについて
甲2発明は、甲2において、発明の課題である「本発明は、そのまま袋ごと電子レンジによる加熱調理でき、その際確実に開口し、開口後も持ち運びしやすく、簡便でかつ低コストの包装袋を提供することを目的とする。更に、本発明は、新鮮な青果物の流通中における鮮度低下を抑えられかつ、そのまま袋ごと電子レンジによる加熱調理でき、その際確実に開口し、開口後も持ち運びしやすい簡便かつ低コストの青果物鮮度保持用の包装袋を提供することを目的とする。」(【0007】)ことを解決した甲2の特許請求の範囲に記載された発明の具体例として記載された実施例4(【0023】)に対応する。したがって、甲2発明の包装袋は、前記課題を解決する包装袋として特別に設計されたものといえる。
そして、上記4.(2)アに摘記した甲2の【0003】及び【0017】の記載によれば、包装袋に青果物を入れて保存する場合、青果物に対する鮮度保持効果(MA効果)を得るためには、包装体内の酸素濃度及び二酸化炭素濃度を内容物に応じて所定の数値範囲内に安定して保持することが望ましいこと、包装体全体の酸素透過量を内容物の呼吸量に応じてコントロールすることが好ましいこと、包装体の酸素濃度を精度良くコントロールするためには、フィルムに微細孔(開口面積0.05mm^(2)以下)や貫通・未貫通の傷、クラック、全長5mm以下の切れ目等少なくとも1種の加工が施されているのが好ましいことが理解され、加えて、同じく甲2の【0004】の「フィルムに設けた微細孔(孔径数百μm以下)や傷を作りその数や大きさによってガスの透過量を調節するフィルムが複数のメーカーによって開発されている。」との記載を併せ参照すれば、前記切れ目の数や大きさによって酸素透過量を調節することができることが理解される。
以上のことから、甲2発明における「長さ2mmの切れ目を0.02個/cm^(2)の割合で開け」という事項は、「120×190mmの合掌背貼り袋」に「7cmにカットしたグリーンアスパラガス(約100g)」という内容物を入れて保存する場合に、袋内の酸素濃度及び二酸化炭素濃度が当該内容物について鮮度保持効果が得られる数値範囲内となるように、好適な条件として設定されているものであるといえる。このことは、甲2の実施例4において、「12℃で保存したところ48時間経過後の酸素濃度は8.8?10.7%、二酸化炭素濃度10.1?12.0%であり、保存5日目でも外観、臭気ともほとんど変化がなく新鮮な状態が保たれた。」(【0023】)と記載されていることからも支持される。
ここで、甲2発明においては、「7cmにカットしたグリーンアスパラガス(約100g)」という内容物の鮮度保持効果を得るために既に好適化が図られているところ、切れ目の長さや密度、あるいは袋の大きさ等の条件をあえて変更することについて、動機付けとなるものが存在するとはいえない。
したがって、甲2発明において、相違点2Aに係る本件発明1の構成E「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計が0.08mm以上17mm以下である」との事項を具備せしめることを、当業者が容易に想到し得るとはいえない。

(ウ)上記したとおり、甲2の【0003】、【0004】及び【0017】の記載から、フィルムに設ける切れ目の数や大きさによって酸素透過量を調節することができることが理解され、さらに、甲3の「包装袋の青果物100gあたりの酸素透過速度は、50?5000cc/100g・day・atmであることが好ましい。酸素透過速度がこの範囲を外れると青果物の鮮度保持が保てなく可能性がある。」(【0013】)との記載から、青果物100gあたりの酸素透過速度を好適化することが記載されているといえる。これらのことから、甲2及び甲3に接した当業者は、青果物100gあたりの酸素透過速度を、フィルムに設ける切れ目の数や大きさによって調節し、好適化することを理解するといえる。
しかしながら、甲2発明は、上記(イ)で述べたとおり既に好適化された発明であり、更なる好適化を図ることにつき動機付けとなるものは見出せない。仮に、甲2発明において、青果物(7cmにカットしたグリーンアスパラガス)100gあたりの酸素透過速度について更なる好適化を図ろうとしても、切れ目の数や長さを増やすのが良いのか減らすのが良いのかという指針はなく、「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計が0.08mm以上17mm以下である」との要件を満足することが更なる好適化となるのかは当業者といえども不明であるといわざるを得ない。また、甲2発明は「7cmにカットしたグリーンアスパラガス」を包装した包装袋であるところ、仮に内容物を他の種類の青果物に変更した場合を想定しても、青果物の呼吸速度は青果物の種類や切り方によって異なるのであり(甲2の【0004】)、前記場合において、青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計を如何なる数値とすれば鮮度維持の点で好適化が実現できるのかは、甲2及び甲3並びにその他の証拠を見ても、記載又は示唆されているとはいえない。
なお、甲4には、上記したとおり「包装体の酸素および二酸化炭素透過速度を速くするには、開孔面積7.1×10^(-8)以下の微細孔や貫通あるいは未貫通の傷、クラックや長さ5mm以下の切り込みをフィルムに1個以上もうければよい。開孔面積は7.1×10^(-8)m^(2)以下、切り込みは5mm以下であるのは、孔や切り込みが大きすぎると酸素や二酸化炭素などの透過速度を制御するのが困難になるためである。」(【0012】)との記載があるが、青果物100gあたりの切り込みの長さの合計を好適化するという技術的思想については、記載も示唆も見出せない。

(エ)請求人は、甲2発明におけるフィルムとして、甲1に記載された「50?400mm/m^(2)の比率となるようにスリットが形成されている」フィルムを用いれば、青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計は、本件発明1における「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計が0.08mm以上17mm以下である」という数値範囲と重複するとし、甲1と甲2は
技術分野が同じで課題が同一又は共通するから、甲2発明に甲1に記載された発明を組み合わせることは、当業者であれば容易に動機付けされることであり、また、組合せに技術的な困難はないと主張する(平成26年6月28日付け口頭審理陳述要領書10頁9行?最下行、同年8月1日付け口頭審理陳述要領書(3)6頁12?20行)。
そこで、甲2発明に甲1に記載された発明を組み合わせることが容易であるといえるか検討する。
上記ア(ウ)で述べたとおり、甲1に記載された包装袋は、青果物を包装した包装袋内の内部水蒸気圧を制御することを技術的課題としていることが理解され、甲2発明は、包装袋内の酸素及び二酸化炭素の濃度を青果物の保存に適した雰囲気にするというMA効果を有しており、かつ、青果物を包装したまま電子レンジによる加熱調理が可能な包装袋を提供することを技術的課題としていることが理解される。
甲1における「青果物を包装した包装袋内の内部水蒸気圧を制御する」ことと、甲2における「包装袋内の酸素及び二酸化炭素の濃度を青果物の保存に適した雰囲気にする」こととは、制御しようとするガスの種類が異なり、ガスの出所も異なる。すなわち、甲1において制御しようとするガスは内部水蒸気であり、その内部水蒸気は根や株を切り取っていない青果物又は水分を含んだスポンジ等の苗床に由来するものがほとんどであるのに対し、甲2において制御しようとするガスは酸素及び二酸化炭素であり、それら酸素及び二酸化炭素は空気中の酸素及び青果物の呼吸による二酸化炭素に由来するものがほとんどである。したがって、甲1に記載された発明と甲2発明は、青果物の鮮度維持の手段が同一又は同等のものとはいえない。よって、両発明は、フィルムにスリットを設ける点で共通しているとしても、スリットを設ける際の条件、例えばスリットの長さ、密度等は必ずしも一致するとはいえない。
したがって、甲2発明におけるフィルムに代えて、甲1に記載された「フィルムの総面積に対し前記スリットの合計全長が50?400mm/m^(2)の比率」となるフィルムを用いることについて、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
以上のことから、甲1を参照しても、甲2発明において、相違点2Aに係る本件発明1の構成E「青果物100gあたりの切れ込みの長さの合計が0.08mm以上17mm以下である」との事項を導くことはできない。
よって、請求人の上記主張は採用することができない。

(オ)小括
したがって、本件発明1は、甲2に記載された発明に甲1、甲3及び甲4に記載された発明を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

ウ 本件発明1についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1に記載された発明に甲2ないし甲4に記載された発明を組み合わせることにより、又は甲2に記載された発明に甲1、甲3及び甲4に記載された発明を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(2)本件発明2、3について
本件の請求項2、3は、いずれも請求項1を引用して記載されており、本件発明2、3は、いずれも本件発明1の特定事項をすべて備えている。
したがって、本件発明2、3は、上記(1)で述べたのと同様の理由により、甲1に記載された発明に甲2ないし甲4に記載された発明を組み合わせることにより、又は甲2に記載された発明に甲1、甲3及び甲4に記載された発明を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(3)無効理由5についてのまとめ
よって、請求人が主張する無効理由5によっては、本件発明1ないし3に係る特許を無効とすることはできない。


第6 結び
以上のとおり、請求人が主張する無効理由1ないし5によっては、本件発明1ないし3に係る発明についての特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-09-30 
結審通知日 2014-10-03 
審決日 2014-10-16 
出願番号 特願2006-7100(P2006-7100)
審決分類 P 1 113・ 113- Y (B65D)
P 1 113・ 537- Y (B65D)
P 1 113・ 536- Y (B65D)
P 1 113・ 121- Y (B65D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡邊 真  
特許庁審判長 河原 英雄
特許庁審判官 栗林 敏彦
熊倉 強
登録日 2011-07-15 
登録番号 特許第4779658号(P4779658)
発明の名称 青果物用包装袋及び青果物包装体  
代理人 田中 成志  
代理人 杉本 賢太  
代理人 山田 徹  
代理人 速水 進治  
代理人 藏冨 恒彦  
代理人 石井 雄介  
代理人 井上 敬也  
代理人 板井 典子  
代理人 鶴崎 宗雄  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ