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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1318959
審判番号 不服2015-19053  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-10-22 
確定日 2016-09-27 
事件の表示 特願2011- 92815「露光装置の投影光学系」拒絶査定不服審判事件〔平成24年11月15日出願公開、特開2012-226073、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年4月19日の出願であって、平成26年12月4日付けで拒絶理由が通知され、平成27年2月4日付けで手続補正がされ、平成27年7月31日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成27年10月22日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成27年2月4日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりである。

「 【請求項1】
物面と像面との間に複数のレンズ群が配置され、物面側の物体を変倍して像面側に投影する投影光学系であって、
物面側に臨むレンズ群又は像面側に臨むレンズ群が少なくとも2枚の正の屈折力を有するレンズから構成され、該2枚のレンズのうちの1枚は最も外側に配置され、残りの1枚は下記の条件式を満たしかつその最も外側に配置されたレンズの内側に隣接して配置され、最も外側のレンズを残りの1枚のレンズに対して光軸方向に離反・接近させることにより変倍を行うことを特徴とする投影光学系。
0≧q>-0.72 …(1)
ここで、符号qは、レンズの形状ファクターを規定する数値であり、残りの1枚のレンズの二つの面のうち最も外側に配置されたレンズに近い側の面の曲率半径をr2、残りの1枚のレンズの二つの面のうち最も外側に配置されたレンズから遠い側の面の曲率半径をr1としたとき、
q=(r1+r2)/(r2-r1)…(2)
ただし、r1、r2の符号は、光線の進む方向を「+」と規定して、曲率中心の位置が『+』側にあるか『-』側にあるかによって定義している。」

第3 原査定の理由の概要
(理由1)この出願の請求項1ないし4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(理由2)この出願の請求項1ないし4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



1.特開平10-115780号公報
2.特開2010-250124号公報
3.特開平3-88317号公報
4.特開平11-95104号公報
5.特開平11-326763号公報

引用文献1(特に、段落【0004】、【表4】(図13)、【表5】(図14)、【表6】(図15)、【表7】(図16)参照。)には、物面と像面との間に複数のレンズ群が配置され、物面側の物体を変倍して像面側に投影する投影光学系であって、物面側に臨むレンズ群又は像面側に臨むレンズ群が少なくとも2枚の正の屈折力を有するレンズから構成され、該2枚のレンズのうちの1枚は最も外側に配置され、残りの1枚は、請求項1に記載の条件式を満たしかつその最も外側に配置されたレンズの内側に隣接して配置され、最も外側のレンズを残りの1枚のレンズに対して光軸方向に離反・接近させることにより変倍を行う投影光学系が記載されている(引用文献1の補正レンズ群22が、本願発明の「最も外側のレンズ」に相当する。また、引用文献1の主レンズ群21中の最も前記補正レンズ群22側に配置されたレンズが、本願発明の「残りの1枚のレンズ」に相当する。)。
引用文献1、2、4及び5に記載された光学系において、レンズデータに基づいてq値の対応値を算出してみると、算出された値は、本願請求項1に記載された「0≧q>-0.72」の条件式の数値範囲に含まれる(当該条件式を満足する)ものであるから、本願請求項1に係る発明は、新規性又は進歩性を有さない。
例えば、引用文献1の表4に記載の光学系において、r1=163.439、r2=-163.439(引用文献1の表4におけるr10、r11が、それぞれ本願発明のr1、r2に相当する。)であるから、q=0であり、本願請求項1に記載された「0≧q>-0.72」の条件式を満足する。同様に、引用文献1の表5、表6、表7に記載の光学系、引用文献2の実施例2、実施例4、実施例5に記載の光学系、引用文献4の実施例5に記載の光学系、引用文献5の実施例1に記載の光学系についても、レンズデータに基づいてq値の対応値を算出してみると、算出された値は、本願請求項1に記載された「0≧q>-0.72」の条件式を満足する。

第4 当審の判断
1 引用文献1の記載事項
(1)引用文献1には、次のアないしオの事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。
ア「【0001】
【技術分野】本発明は、被写体情報を変倍して受光面に与える変倍光学装置に関し、特に物像間距離を変化させて変倍を行なう変倍光学装置に関する。
【0002】
【従来技術及びその問題点】変倍光学装置は、例えば変倍機能を持つ複写機に用いられ、また最近では、イメージスキャナ、ファクシミリ、デジタル複写機等の、受光素子としてCCD等の光電変換素子を用いた装置にも用いられている。このような装置に用いられる変倍光学装置は、物像間距離を一定に保持するズームレンズ系によるものと、固定焦点の結像レンズを用い、物像間距離および結像レンズ位置を変化させて変倍を行なうものとに大別される。前者は高精度の変倍が可能でしかも物像間距離が変化しないという利点があるが、ズームレンズが大型化するため、コスト、スペースの点から、小型化、低コスト化を要求される装置への適用は難しい。これに対し後者は、固定焦点レンズによるため安価であるが、一般的に固定焦点レンズは特定の倍率位置において最良の像が生じるように設計されるため、変倍を行なうために被写体面および像面に対して相対移動させると、結像性能が大きく劣化するという問題点がある。
【0003】
【発明の目的】本発明は、物像間距離を変化させて変倍を行なう小型で安価なタイプの変倍光学装置において、全変倍範囲で結像性能の劣化の少ない装置を得ることを目的とする。また本発明は、結像性能を向上させるために、構造が複雑化しない変倍光学装置を得ることを目的とする。
【0004】
【発明の概要】本発明は、被写体面と、受光面と、被写体面におかれた被写体の像を受光面に結像する結像レンズとを備え、変倍時には、被写体面と受光面との間の光学的距離を変化させる変倍光学装置において、結像レンズを相対移動できる主レンズ群と補正レンズ群から構成し、この主レンズ群と補正レンズ群のいずれか一方と受光面を移動ベースに固定するとともに、主レンズ群と補正レンズ群の他方を光軸方向に移動可能に支持し、さらに、この移動ベースを変倍時に光軸方向に移動させて、固定して設けた被写体面との距離を変化させる変倍手段と、この移動ベースの移動位置に応じ、移動ベース上で可動の主レンズ群または補正レンズ群を所定の位置に移動させる補正手段とを備えたことを特徴としている。」

イ「【0009】
【発明の実施の形態】図1は本発明による変倍光学装置の光学的な第一の構成例を示すもので、被写体面11と受光面12との間に、結像レンズ群20が配置されている。結像レンズ群20は、ともに正のパワーを持つ主レンズ群(前群)21と補正レンズ群(後群)22とからなっていて、補正レンズ群22が受光面12に対して固定した関係にある。つまり補正レンズ群22と受光面12との距離L_(B)は常に一定である。変倍は、この結像レンズ群20の主レンズ群21を補正レンズ群22に対して所定の関係で移動させるとともに、被写体面11を受光面12に対して所定の関係で移動させることで行なうことができる。すなわち被写体面11から結像レンズ群20の主レンズ群21迄の距離L_(A)は、変倍率に応じて変化する。
【0010】この例では、変倍率が0.112x、0.168x、0.224xと大きくなるにつれて被写体面11と受光面12が接近し、同時に主レンズ群21が補正レンズ群22から離れる方向に移動して、受光面12上に被写体面11に置く被写体の像が結像される。」

ウ「【0018】次に、主レンズ群21と補正レンズ群22の好ましい焦点距離比についての構成例を、表3ないし表9、および図12ないし図18について説明する。これらはいずれも主レンズ群21が移動し、補正レンズ群22が受光面12に対して固定されたもので、主レンズ群21は複合レンズ、補正レンズ群22は単レンズからなり、かつ主レンズ群21および補正レンズ群22はともに正の焦点距離を持つ。また各表および各図の(A)はレンズ構成図、同(B)、(C)、(D)はそれぞれ、変倍率が0.112x, 0.168x, 0.224xの場合の諸収差を示す。各表には、主レンズ群21と補正レンズ群の焦点距離f_(A)とf_(B)、およびその比f_(B)/f_(A)を示した。これらの各表および各図から、2<f_(B)/f_(A)<8を満足すると、全変倍率において良好な結像性能が得られることが理解される。また補正レンズ群22の後方の符合23は、平面ガラスからなるCCD32のカバーガラス24である。従ってその曲率半径r_(14),r_(15)(r_(13),r_(14) またはr_(12),r_(13))はいずれも無限大(∞)である。
【0019】なお以下の各表においては、
r_(i); 第i面の曲率半径
d_(i); 第i面と第i+1面の間隔
n_(i); 第iレンズのe線の屈折率
ν_(i);第iレンズのアッベ数
f;結像レンズ群20全体の焦点距離(e線)
L_(A);被写体面11から主レンズ群21迄の距離
L_(B);補正レンズ群22から受光面12迄の距離
である。」

エ「【0021】
【表4】(図13(A))
F=4.0 0.112x?0.168x?0.224x
f=45.34?45.95?46.57 f_(A)=50.34
d_(11)=1.74?4.95?8.16 f_(B)=219.90
L_(A)=427.45?295.97?230.22 f_(B)/f_(A)=4.37
L_(B)=29.64(一定)
r_(1) 24.789 d_(1) 4.00 n_(1) 1.80922 ν_(1) 39.6
r_(2) 57.200 d_(2) 0.10
r_(3) 14.193 d_(3) 4.50 n_(2) 1.80401 ν_(2) 42.2
r_(4) 29.360 d_(4) 1.10 n_(3) 1.81265 ν_(3) 25.4
r_(5) 9.367 d_(5) 13.01
r_(6) -10.468 d_(6) 1.70 n_(4) 1.81265 ν_(4) 25.4
r_(7) -15.141 d_(7) 0.20
r_(8) -24.217 d_(8) 2.73 n_(5) 1.69979 ν_(5) 55.5
r_(9) -13.382 d_(9) 0.10
r_(10) 163.439 d_(10) 1.91 n_(6) 1.69979 ν_(6) 55.5
r_(11) -163.439 d_(11) 変化
r_(12) -92.147 d_(12) 2.50 n_(7) 1.71615 ν_(7) 53.8
r_(13) -58.790 d_(13) 28.94
d_(14) 0.70 n_(8) 1.51825 ν_(8) 64.1
【0022】
【表5】(図14(A))
F=4.0 0.112x?0.168x?0.224x
f=45.17?45.81?46.48 f_(A)=50.33
d_(11)=3.26?6.49?9.72 f_(B)=206.07
L_(A)=426.68?295.93?230.55 f_(B)/f_(A)=4.09
L_(B)=28.41(一定)
r_(1) 22.666 d_(1) 3.50 n_(1) 1.80922 ν_(1) 39.6
r_(2) 51.957 d_(2) 0.10
r_(3) 14.695 d_(3) 4.00 n_(2) 1.80401 ν_(2) 42.2
r_(4) 30.303 d_(4) 1.80 n_(3) 1.81265 ν_(3) 25.4
r_(5) 9.228 d_(5) 11.87
r_(6) -9.817 d_(6) 1.70 n_(4) 1.81265 ν_(4) 25.4
r_(7) -13.976 d_(7) 0.20
r_(8) -29.496 d_(8) 3.00 n_(5) 1.65425 ν_(5) 58.5
r_(9) -13.291 d_(9) 0.10
r_(10) 248.113 d_(10) 2.59 n_(6) 1.69979 ν_(6) 55.5
r_(11) -248.113 d_(11) 変化
r_(12) -109.358 d_(12) 2.50 n_(7) 1.71615 ν_(7) 53.8
r_(13) -63.411 d_(13) 27.71
d_(14) 0.70 n_(8) 1.51825 ν_(8) 64.1
【0023】
【表6】(図15(A))
F=4.0 0.112x?0.168x?0.224x
f=45.74?46.42?47.12 f_(A)=51.06
d_(10)=1.66?4.95?8.24 f_(B)=200.34
L_(A)=427.64?295.41?229.29 f_(B)/f_(A)=3.92
L_(B)=28.22 (一定)
r_(1) 27.612 d_(1) 4.00 n_(1) 1.80922 ν_(1) 39.6
r_(2) 71.393 d_(2) 0.10
r_(3) 15.384 d_(3) 5.00 n_(2) 1.80401 ν_(2) 42.2
r_(4) 37.820 d_(4) 1.10 n_(3) 1.81265 ν_(3) 25.4
r_(5) 10.489 d_(5) 14.27
r_(6) -11.442 d_(6) 1.70 n_(4) 1.79192 ν_(4) 25.7
r_(7) -20.434 d_(7) 2.90 n_(5) 1.79013 ν_(5) 44.2
r_(8) -13.752 d_(8) 0.10
r_(9) 219.085 d_(9) 3.00 n_(6) 1.69979 ν_(6) 55.5
r_(10) -52.528 d_(10) 変化
r_(11) -106.412 d_(11) 2.50 n_(7) 1.71615 ν_(7) 53.8
r_(12) -61.696 d_(12) 27.52
d_(13) 0.70 n_(8) 1.51825 ν_(8) 64.1
【0024】
【表7】(図16(A))
F=3.5 0.112x?0.168x?0.224x
f=45.93?46.70?47.49 f_(A)=51.79
d_(10)=1.58?4.96?8.34 f_(B)=181.98
L_(A)=427.67?295.33?229.16 f_(B)/f_(A)=3.51
L_(B)=27.39 (一定)
r_(1) 28.374 d_(1) 4.00 n_(1) 1.80811 ν_(1) 46.6
r_(2) 73.811 d_(2) 0.10
r_(3) 14.752 d_(3) 5.00 n_(2) 1.80401 ν_(2) 42.2
r_(4) 26.370 d_(4) 1.10 n_(3) 1.81265 ν_(3) 25.4
r_(5) 10.124 d_(5) 15.18
r_(6) -11.461 d_(6) 1.70 n_(4) 1.79192 ν_(4) 25.7
r_(7) -21.598 d_(7) 2.90 n_(5) 1.79013 ν_(5) 44.2
r_(8) -13.750 d_(8) 0.10
r_(9) 224.867 d_(9) 3.00 n_(6) 1.68082 ν_(6) 55.3
r_(10) -51.182 d_(10) 変化
r_(11) -131.944 d_(11) 2.50 n_(7) 1.69979 ν_(7) 55.5
r_(12) -65.309 d_(12) 26.69
d_(13) 0.70 n_(8) 1.51825 ν_(8) 64.1」

オ 図13(A)、図14(A)、図15(A)及び図16(A)は、それぞれ次のとおりである。
【図13】(A)


【図14】(A)


【図15】(A)


【図16】(A)


(2)そうすると、従来、被写体情報を変倍して受光面に与える変倍光学装置のうち、特に物像間距離を変化させて変倍を行う変倍光学装置(例えば、変倍機能を持つ複写機や、イメージスキャナ、ファクシミリ、デジタル複写機等の受光素子としてCCD等の光電変換素子を用いた装置に用いられる変倍光学装置)は、物像間距離を一定に保持するズームレンズ系によるものと、固定焦点の結像レンズを用い、物像間距離および結像レンズ位置を変化させて変倍を行なうものとに大別され、前者は高精度の変倍が可能でしかも物像間距離が変化しないという利点があるが、ズームレンズが大型化するため、コスト、スペースの点から、小型化、低コスト化を要求される装置への適用は難しく、これに対し後者は、固定焦点レンズによるため安価であるが、一般的に固定焦点レンズは特定の倍率位置において最良の像が生じるように設計されるため、変倍を行うために被写体面および像面に対して相対移動させると結像性能が大きく劣化するという問題点があったところ、引用文献1には、物像間距離を変化させて変倍を行なう小型で安価なタイプの変倍光学装置において、全変倍範囲で結像性能の劣化の少ない装置を得ること、及び、結像性能を向上させるために、構造が複雑化しない変倍光学装置を得ることを目的とし、次の構成を備える発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「被写体面と、受光面と、被写体面におかれた被写体の像を受光面に結像する結像レンズとを備え、変倍時には、被写体面と受光面との間の光学的距離を変化させる変倍光学装置であり、
結像レンズを相対移動できる主レンズ群と補正レンズ群から構成し、前記主レンズ群と補正レンズ群のいずれか一方と受光面を移動ベースに固定するとともに、前記主レンズ群と補正レンズ群の他方を光軸方向に移動可能に支持し、
さらに、前記移動ベースを変倍時に光軸方向に移動させて、固定して設けた被写体面との距離を変化させる変倍手段と、この移動ベースの移動位置に応じ、移動ベース上で可動の主レンズ群又は補正レンズ群を所定の位置に移動させる補正手段とを備えた変倍光学装置において、
被写体面と受光面との間に配置された結像レンズ群が、ともに正のパワーを持つ主レンズ群(前群)21と補正レンズ群(後群)22とからなり、
前記補正レンズ群22が受光面に対して固定した関係にあり、すなわち、補正レンズ群22と受光面との距離は常に一定であり、
変倍は、前記結像レンズ群の主レンズ群21を補正レンズ群22に対して所定の関係で移動させるとともに、被写体面を受光面に対して所定の関係で移動させることで行い、被写体面から結像レンズ群の主レンズ群21までの距離は、変倍率に応じて変化し、変倍率が大きくなるにつれて被写体面と受光面が接近し、同時に主レンズ群21が補正レンズ群22から離れる方向に移動して、受光面上に被写体面に置く被写体の像が結像され、
主レンズ群21と補正レンズ群22の好ましい焦点距離比についての構成例が次のとおりである、変倍光学装置。
構成例:
主レンズ群21は複合レンズ、補正レンズ群22は単レンズからなり、かつ主レンズ群21及び補正レンズ群22はともに正の焦点距離を持ち、
第i面の曲率半径r_(i)、第i面と第i+1面の間隔d_(i)、第iレンズのe線の屈折率n_(i)、第iレンズのアッベ数ν_(i)、結像レンズ群全体の焦点距離(e線)f、被写体面から主レンズ群21までの距離L_(A)、補正レンズ群22から受光面までの距離L_(B) は、それぞれ次表4、5、6又は7のとおり。
(表4)
F=4.0 0.112x?0.168x?0.224x
f=45.34?45.95?46.57 f_(A)=50.34
d_(11)=1.74?4.95?8.16 f_(B)=219.90
L_(A)=427.45?295.97?230.22 f_(B)/f_(A)=4.37
L_(B)=29.64(一定)
r_(1) 24.789 d_(1) 4.00 n_(1) 1.80922 ν_(1) 39.6
r_(2) 57.200 d_(2) 0.10
r_(3) 14.193 d_(3) 4.50 n_(2) 1.80401 ν_(2) 42.2
r_(4) 29.360 d_(4) 1.10 n_(3) 1.81265 ν_(3) 25.4
r_(5) 9.367 d_(5) 13.01
r_(6) -10.468 d_(6) 1.70 n_(4) 1.81265 ν_(4) 25.4
r_(7) -15.141 d_(7) 0.20
r_(8) -24.217 d_(8) 2.73 n_(5) 1.69979 ν_(5) 55.5
r_(9) -13.382 d_(9) 0.10
r_(10) 163.439 d_(10) 1.91 n_(6) 1.69979 ν_(6) 55.5
r_(11) -163.439 d_(11) 変化
r_(12) -92.147 d_(12) 2.50 n_(7) 1.71615 ν_(7) 53.8
r_(13) -58.790 d_(13) 28.94
d_(14) 0.70 n_(8) 1.51825 ν_(8) 64.1

(表5)
F=4.0 0.112x?0.168x?0.224x
f=45.17?45.81?46.48 f_(A)=50.33
d_(11)=3.26?6.49?9.72 f_(B)=206.07
L_(A)=426.68?295.93?230.55 f_(B)/f_(A)=4.09
L_(B)=28.41(一定)
r_(1) 22.666 d_(1) 3.50 n_(1) 1.80922 ν_(1) 39.6
r_(2) 51.957 d_(2) 0.10
r_(3) 14.695 d_(3) 4.00 n_(2) 1.80401 ν_(2) 42.2
r_(4) 30.303 d_(4) 1.80 n_(3) 1.81265 ν_(3) 25.4
r_(5) 9.228 d_(5) 11.87
r_(6) -9.817 d_(6) 1.70 n_(4) 1.81265 ν_(4) 25.4
r_(7) -13.976 d_(7) 0.20
r_(8) -29.496 d_(8) 3.00 n_(5) 1.65425 ν_(5) 58.5
r_(9) -13.291 d_(9) 0.10
r_(10) 248.113 d_(10) 2.59 n_(6) 1.69979 ν_(6) 55.5
r_(11) -248.113 d_(11) 変化
r_(12) -109.358 d_(12) 2.50 n_(7) 1.71615 ν_(7) 53.8
r_(13) -63.411 d_(13) 27.71
d_(14) 0.70 n_(8) 1.51825 ν_(8) 64.1

(表6)
F=4.0 0.112x?0.168x?0.224x
f=45.74?46.42?47.12 f_(A)=51.06
d_(10)=1.66?4.95?8.24 f_(B)=200.34
L_(A)=427.64?295.41?229.29 f_(B)/f_(A)=3.92
L_(B)=28.22 (一定)
r_(1) 27.612 d_(1) 4.00 n_(1) 1.80922 ν_(1) 39.6
r_(2) 71.393 d_(2) 0.10
r_(3) 15.384 d_(3) 5.00 n_(2) 1.80401 ν_(2) 42.2
r_(4) 37.820 d_(4) 1.10 n_(3) 1.81265 ν_(3) 25.4
r_(5) 10.489 d_(5) 14.27
r_(6) -11.442 d_(6) 1.70 n_(4) 1.79192 ν_(4) 25.7
r_(7) -20.434 d_(7) 2.90 n_(5) 1.79013 ν_(5) 44.2
r_(8) -13.752 d_(8) 0.10
r_(9) 219.085 d_(9) 3.00 n_(6) 1.69979 ν_(6) 55.5
r_(10) -52.528 d_(10) 変化
r_(11) -106.412 d_(11) 2.50 n_(7) 1.71615 ν_(7) 53.8
r_(12) -61.696 d_(12) 27.52
d_(13) 0.70 n_(8) 1.51825 ν_(8) 64.1

(表7)
F=3.5 0.112x?0.168x?0.224x
f=45.93?46.70?47.49 f_(A)=51.79
d_(10)=1.58?4.96?8.34 f_(B)=181.98
L_(A)=427.67?295.33?229.16 f_(B)/f_(A)=3.51
L_(B)=27.39 (一定)
r_(1) 28.374 d_(1) 4.00 n_(1) 1.80811 ν_(1) 46.6
r_(2) 73.811 d_(2) 0.10
r_(3) 14.752 d_(3) 5.00 n_(2) 1.80401 ν_(2) 42.2
r_(4) 26.370 d_(4) 1.10 n_(3) 1.81265 ν_(3) 25.4
r_(5) 10.124 d_(5) 15.18
r_(6) -11.461 d_(6) 1.70 n_(4) 1.79192 ν_(4) 25.7
r_(7) -21.598 d_(7) 2.90 n_(5) 1.79013 ν_(5) 44.2
r_(8) -13.750 d_(8) 0.10
r_(9) 224.867 d_(9) 3.00 n_(6) 1.68082 ν_(6) 55.3
r_(10) -51.182 d_(10) 変化
r_(11) -131.944 d_(11) 2.50 n_(7) 1.69979 ν_(7) 55.5
r_(12) -65.309 d_(12) 26.69
d_(13) 0.70 n_(8) 1.51825 ν_(8) 64.1」

(3)引用発明の変倍光学装置は、被写体面と受光面との間に配置された結像レンズ群が、ともに正のパワーを持つ主レンズ群(前群)21と補正レンズ群(後群)22とからなり、前記補正レンズ群22が受光面に対して固定した関係にあり、すなわち、補正レンズ群22と受光面との距離は常に一定であり、変倍は、前記結像レンズ群の主レンズ群21を補正レンズ群22に対して所定の関係で移動させるとともに、被写体面を受光面に対して所定の関係で移動させることで行い、被写体面から結像レンズ群の主レンズ群21までの距離は、変倍率に応じて変化し、変倍率が大きくなるにつれて被写体面と受光面が接近し、同時に主レンズ群21が補正レンズ群22から離れる方向に移動して、受光面上に被写体面に置く被写体の像が結像される。また、いずれの構成例でも、主レンズ群21は複合レンズ、補正レンズ群22は単レンズからなるものである。したがって、変倍を行う際に、他のレンズに対して光軸方向に離反・接近する最も外側のレンズは補正レンズ群22に属するレンズ(構成例では単レンズ)であり、当該最も外側のレンズに離反・接近される他のレンズは、主レンズ群21に属するレンズである。
そうすると、引用発明は、同じレンズ群に属する2枚のレンズのうちの最も外側に配置された1枚が、その最も外側に配置されたレンズの内側に隣接して配置された当該レンズ群に属する残りの1枚のレンズに対して光軸方向に離反・接近する構成とはなっていない。

2 対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、両者は「物面と像面との間に複数のレンズ群が配置され、物面側の物体を変倍して像面側に投影する投影光学系」の点で一致している。
他方、本願発明と引用発明は、次の点で相違する。
相違点:
「物面側に臨むレンズ群又は像面側に臨むレンズ群」が、
本願発明では、「少なくとも2枚の正の屈折力を有するレンズから構成され、該2枚のレンズのうちの1枚は最も外側に配置され、残りの1枚は条件式(1)を満たしかつその最も外側に配置されたレンズの内側に隣接して配置され、最も外側のレンズを残りの1枚のレンズに対して光軸方向に離反・接近させることにより変倍を行う」のに対し、
引用発明では、物体側に臨むレンズ群(主レンズ群21)を像面側に臨むレンズ群(補正レンズ群22)に対して光軸方向に離反・接近させることにより変倍を行う点。

3 判断
上記相違点について検討する。
(1)一般に、レンズ系において、あるレンズ群が他のレンズ群に対して光軸方向に離反・接近することにより変倍を行っていたものを、一つのレンズ群の中のあるレンズが同じレンズ群の中の他のレンズに対して光軸方向に離反・接近することにより変倍を行うように変更することは、レンズ設計を一からやり直すことに等しいから、当業者がそのような変更をなそうとするためには、何らかの示唆を与えられることが必要である。
しかしながら、引用文献1にも、他の引用文献にも、あるレンズ群が他のレンズ群に対して光軸方向に離反・接近することにより変倍を行っていたものを、一つのレンズ群の中のあるレンズが同じレンズ群の中の他のレンズに対して光軸方向に離反・接近することにより変倍を行うように変更することを当業者に促すような記載や示唆は存在しないから、当業者が引用発明においてそのような変更をなそうとする動機づけがない。

(2)また、引用発明において、変倍率が大きくなるにつれて主レンズ群21と補正レンズ群22の間の距離がどのように変化するかをみると、表4の構成例の場合でd_(11)=1.74?4.95?8.16と変化し、表5の構成例の場合でd_(11)=3.26?6.49?9.72、表6の構成例の場合でd_(10)=1.66?4.95?8.24、表7の構成例の場合でd_(10)=1.58?4.96?8.34と変化する。このように、引用発明では、変倍時に主レンズ群21と補正レンズ群22との間の距離が大きく変化するのであるから、主レンズ群21と補正レンズ群22を合わせたものを一つのレンズ群とみなすことも無理である。

(3)本願の請求項1に係る発明では、物面と像面との間に複数のレンズ群を設けて構成した投影光学系において、物面側又は像面側に臨むレンズ群を少なくとも2枚の正の屈折力を有するレンズで構成し、そして、そのレンズ群において、最も外側に配置されたレンズをその内側に隣接し条件式を満たす残りの1枚のレンズに対して、光軸方向に離反・接近させることにより変倍を行うものとすることで、レンズの移動精度を厳密に管理しなくとも高倍率の変倍を行うことができかつ歪曲収差が極力変化しないようにするという効果を得ている(本願明細書【0014】及び【0016】参照。)。

(4)上記(1)ないし(3)からみて、引用発明において、相違点に係る本願発明の構成となすことは、当業者が容易に想到し得ることではない。
したがって、本願発明は、当業者が引用発明に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。

(5)本願の請求項2ないし4に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるので、本願発明と同様に、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

4 引用文献2ないし5について
原査定の、引用文献2ないし5の記載事項についても検討しておく。
(1)引用文献3(特に、表1及び第2図参照。)、引用文献4(特に、数値実施例5及び図5参照。)及び引用文献5(特に、数値実施例1及び図1参照。)には、物体側に臨むレンズ群(引用文献3ではG1、引用文献4ではL3、引用文献5ではL4)と、その像面側に隣接するレンズ群(引用文献3ではG2、引用文献4ではL22、引用文献5ではL3)とが光軸方向に離反・接近することにより変倍を行うものが記載されており、引用文献3ないし5にそれぞれ記載された投影光学系は、引用発明と同様に、物面側又は像面側に臨み少なくとも2枚のレンズを有するレンズ群において、最も外側のレンズを残りの1枚のレンズに対して光軸方向に離反・接近させることにより変倍を行う投影光学系ではない。
したがって、引用発明と同様の理由により、本願発明は、当業者が引用文献3、4又は5に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)引用文献2には、1μm未満の線幅からなる半導体素子の回路パターンを投影するための(【0002】)、縮小側および拡大側のいずれにおいても主光線がレンズ光軸に対して平行な両側テレセントリック光学系(【0001】)の発明が記載されており、当該両側テレセントリック光学系は、縮小側から拡大側に向けて順に、第1群、第2群、絞り、第3群、第4群を備え、第1群は2枚以上の正レンズを有するものであり、第2群は、前記縮小側から順に配置された、絞り側に凹面を向けた1枚の負レンズと絞り側に凹面を向けた1枚の正メニスカスレンズとからなるものであり、第3群は、縮小側から順に配置された、絞り側とは反対側に凸面を向けた1枚の正レンズと絞り側に凹面を向けた1枚の負レンズとからなるものであり、第4群は、正のパワーを持つものであり、最も縮小側に配置された1枚以上の正レンズからなるレンズ部と、最も拡大側に配置された2枚以上の正レンズからなるレンズ部と、縮小側に配置された前記レンズ部と拡大側に配置された前記レンズ部との間に配置された1枚以上の負レンズとを有するものである(【0008】)。
そして、引用文献2の表2及び図3には、実施例2の数値データ及び断面図が、表4及び図5には実施例4の数値データ及び断面図が、表5及び図6には実施例5の数値データ及び断面図が、それぞれ記載されている。上記各実施例において、物面側に臨むレンズ群G4は、2枚の正の屈折力を有するレンズ(実施例2及び4ではL12及びL13、実施例5ではL13及びL14)から構成され、該2枚のレンズのうちの1枚(実施例2及び4ではL13、実施例5ではL14)は最も外側に配置され、残りの1枚(実施例2及び4ではL12、実施例5ではL13)は0≧q>-0.72を満たしかつその最も外側に配置されたレンズ(実施例2及び4ではL13、実施例5ではL14)の内側に隣接して配置されている。
しかしながら、引用文献2には、変倍を行う構成に関しては何ら記載されておらず、したがって、上記各実施例の両側テレセントリック光学系(以下、これを「引用文献2に記載された発明」という。)は固定焦点系であると認められる。
そして、引用文献2の記載及び引用文献1、3ないし5の記載を参酌しても、当業者に対して引用文献2に記載された発明に変倍を行う構成を適用することを促す記載や示唆は存在しないから、当業者が引用文献2に記載された発明においてそのような適用をなそうとする動機づけがない。
また、仮に、引用文献2に記載された発明において、引用文献1、3の構成を適用して、最も外側に配置されたレンズをその内側に配置されたレンズに対して光軸方向に離反・接近させることにより変倍を行う構成に変更することが、当業者であれば容易になし得ることであるとしても、そのような変更を行う場合には、レンズ設計を見直さなければならないことは明らかであるから、見直しを行った後の各実施例の数値データが表2、4及び5のままであるか否かは不明であり、また、最も外側に配置されたレンズの内側に配置されたレンズ(実施例2及び4ではL12、実施例5ではレンズL13)が、依然として0≧q>-0.72を満たすか否かは不明であるといわざるを得ない。
以上のことからみて、本願発明は、当業者が引用文献2に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。

第5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1ないし4に係る発明は、いずれも、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものではないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-09-14 
出願番号 特願2011-92815(P2011-92815)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (G02B)
P 1 8・ 121- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 殿岡 雅仁  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 河原 正
西村 仁志
発明の名称 露光装置の投影光学系  
代理人 弁護士法人クレオ国際法律特許事務所  

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