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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B |
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管理番号 | 1319000 |
審判番号 | 不服2015-4521 |
総通号数 | 202 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-10-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-03-09 |
確定日 | 2016-09-27 |
事件の表示 | 特願2010-278317「光学積層体の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 7月 5日出願公開,特開2012-128097,請求項の数(4)〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 事案の概要 1 手続の経緯 特願2010-278317号(以下「本件出願」という。)は,平成22年12月14日の特許出願であって,その手続の概要は,以下のとおりである。 平成26年 8月 7日起案:拒絶理由通知書(同年同月19日発送) 平成26年10月20日差出:意見書 平成26年10月20日差出:手続補正書 平成26年11月28日起案:拒絶査定(同年12月9日送達) 平成27年 3月 9日差出:審判請求書 平成27年 3月 9日差出:手続補正書 平成28年 3月24日起案:拒絶理由通知書(同年同月29日発送) 平成28年 5月30日差出:意見書(以下,「本件意見書」という。) 平成28年 5月30日差出:手続補正書(以下,この手続補正書による補正を,「本件補正」という。) 2 特許請求の範囲 本件出願の特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明は,請求項1?4に記載されたとおりのものであるところ,請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,次のものである。 「 基材フィルム,及び厚みが0.01?5μmの易接着層を含む基材であって,前記易接着層が,前記基材の表側,又は前記基材の表側と裏側との両方に位置するよう設けられた基材と, 前記基材の表側の面に設けられた光学機能層と, 前記基材の裏側の面に設けられた紫外線吸収機能を有する接着層と 前記接着層の前記基材と反対側に設けられるセパレーターと を備え, 前記基材,前記光学機能層,および前記接着層の少なくともいずれかが,光拡散性を付与する粒子を含む光学積層体の製造方法であって, 前記基材の表側の面に前記光学機能層を形成し,前記基材及び前記光学機能層を有する複層物(a)を得る工程(A)と, 前記セパレーターに前記紫外線吸収機能を有する接着層を形成し,前記セパレーター及び前記接着層を有する複層物(b)を得る工程(B)と, 前記複層物(a)と前記複層物(b)とを貼り合わせて,前記複層物(a)の裏側の面に前記接着層を設ける工程(C)とを含み, 前記工程(A)は, 前記基材の表側の面に紫外線硬化性の未硬化樹脂を塗布し,前記未硬化樹脂の層を形成する工程(A1)と, 前記未硬化樹脂の層に凹凸構造を有する型を接触させる工程(A3)と, 前記基材の裏側から紫外線を照射して,前記未硬化樹脂の層を硬化させ,硬化した樹脂からなる光学機能層を得る工程(A4)と, 前記型を,前記光学機能層から剥離する工程(A5)と を含み, 前記接着層は,紫外線吸収剤を,0.05重量%以上10重量%以下の含有割合で含有する, 光学積層体の製造方法。」 なお,本件出願の特許請求の範囲の請求項2?4は,請求項1の記載を引用して記載されたものであり,これら請求項に係る発明は,本願発明の構成に対して,さらに発明特定事項を付加した発明となっている。 3 原査定の理由 本願発明は,拒絶査定時の請求項2に係る発明に概ね対応するところ,原査定の理由は,以下(1)及び(2)のとおりである。 (1) この出願の請求項2に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1及び2に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献1:国際公開第2010/113738号 引用文献2:特開2007-041545号公報 (2) この出願の請求項2に係る発明は,その出願の日前の特許出願であって,その出願後に出願公開がされた下記の特許出願(以下「先願」という。)の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり,しかも,この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく,またこの出願の時において,その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので,特許法第29条の2の規定により,特許を受けることができない。 先願:特願2009-233087号(特開2011-081166号公報) 4 当合議体の拒絶の理由 本願発明に対する当合議体の拒絶の理由は,次のとおりである。 本願発明は,その出願前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用例1?3のいずれかに記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 引用例1:特開2008-243803号公報 引用例2:特開2008-246864号公報 引用例3:特開2007-264122号公報 第2 当合議体の判断 1 原査定の拒絶の理由(特許法29条2項)について (1) 引用文献1の記載 引用文献1には,以下の事項が記載されている。なお,下線は当合議体が付したものである。 ア 「技術分野 [0001] 本本発明は照明装置,電飾,サイン用光源等に用いられるELパネル(エレクトロ・ルミネッセンス素子)及び,ELパネルを用いた表示装置に関する。 背景技術 [0002] 一般に,EL素子は,透光性基板上に,正孔注入層,正孔輸送層,インターレイヤー層,発光層,電子輸送層,電子注入層を,陽極と陰極とで挟んだ構造を有する。 上述の構造の陽極と陰極に直流電圧を印加し,発光層に電子および正孔を注入して再結合させることにより,励起子を生成し,この励起子の失活する際の光の放出を利用して発光に至る。 [0003] 従来,これらEL素子において,発光層から射出した光線が,発光面側の透光性基板から射出する際,一部の光が観察側の透光性基板表面において全反射してしまい,外部に取り出す光量が損失するという問題があった。 この場合の光取り出し効率は,一般的には20%程度と言われている。そのため,高輝度の表示や照明が必要となればなるほど投入電力を大きくする必要があるという問題がある。また,この場合,素子に大電流が流れることから,素子の負荷が増大し,輝度低下や低寿命化を招来し,素子自体の信頼性が低下する。 [0004] そこで,EL素子から発する光取り出し効率を向上させる目的で発光面側の透光性基板の観察者側の表面に微細な凹凸を形成することで,透光性基板の表面で全反射してしまい,本来光の損失となってしまう光線を外部に取り出すELパネルが提案されている。」 イ 「発明を実施するための形態 [0012] 以下に,本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。 図1は本実施の形態のELパネル100の構成を示す図である。 図1に示すように,本願発明のELパネル100は,透光基板1Aと基板1Bとの間に陽極3及び陰極4に挟まれた発光媒体層2が形成されている。次にEL素子9の発光面側,すなわち,透明基板1Bの陽極3が積層された面の反対側の射出面Gに粘・接着層6を介して保護シート7を設けた構成が本発明のELパネル100である。」 【図1】 ウ 「[0033] また,EL素子は様々な環境で用いられ,紫外線が多く当たるような例えば,屋外での使用等が考えられる。このような場合紫外線がEL素子内部へ照射される事により,劣化損傷が起こる。そのため,保護シート7内又は,粘・接着材中又は,拡散板中に紫外線吸収材を混入する事によって,外部からEL素子内部への紫外線の照射が抑制され,この劣化損傷を緩和する事が可能となる。」 エ 「[0039] 次に粘・接着層6は透明基板1Aの射出面G側に形成され,保護シート7と透明基板1Bを固定するものである。 ここで,粘・接着層6を構成する粘・接着剤としては,例えば,アクリル系,ウレタン系,ゴム系,シリコーン系の粘・接着剤が挙げられる。いずれの場合も高温のバックライト内で使用されるため,100℃で貯蔵弾性率G’が1.0E+04(Pa)以上であることが望ましい。また均一な光を射出するために粘・接着層6の中に透明の微粒子,例えば,ビーズ等を混ぜても良い。さらに,粘接着剤としては,両面テープでも良い。」 オ 「[0050](保護シートの作製方法) 次に保護シート7の作製方法の実施例について説明する。 (実施例1) 光学用2軸延伸易接着PETフィルム(膜厚125μm)上に,保護シート7のパターンを形成させるウレタンアクリレートを主成分とする紫外線硬化型樹脂を塗布し,保護シート7の形状に切削したシリンダー金型を使用して紫外線硬化型樹脂が塗布されたフィルムを搬送しながら紫外線をPETフィルム側から露光することにより,紫外線硬化型樹脂が硬化した。硬化後,PETフィルムから金型を離型することにより,直径が140μmの丸みをおびた凸形状の領域5cとプリズム形状の領域5pを有する保護シート7を作製できた。」 (2) 引用発明 引用文献1の段落[0012]及び[0039]には,それぞれ,「本願発明のELパネル100は,透光基板1Aと基板1Bとの間に陽極3及び陰極4に挟まれた発光媒体層2が形成されている。」及び「粘・接着層6は透明基板1Aの射出面G側に形成され,保護シート7と透明基板1Bを固定するものである。」と記載されている。ここで,段落[0039]の「透明基板1B」の「1B」は,「1A」の誤記である。また,引用文献1の段落[0050]には,保護シート7の作製方法として,実施例1の方法が開示されている。 そうしてみると,引用文献1には,以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。 「[0012] 透光基板1Aと基板1Bとの間に陽極3及び陰極4に挟まれた発光媒体層2が形成され, [0039] 粘・接着層6が,透明基板1Aの射出面G側に形成され,保護シート7と透明基板1Aが固定された[0012]ELパネル100における,[0050]保護シート7の作製方法であって, [0050] 光学用2軸延伸易接着PETフィルム(膜厚125μm)上に,保護シート7のパターンを形成させるウレタンアクリレートを主成分とする紫外線硬化型樹脂を塗布する工程, 保護シート7の形状に切削したシリンダー金型を使用して紫外線硬化型樹脂が塗布されたフィルムを搬送しながら紫外線をPETフィルム側から露光することにより,紫外線硬化型樹脂を硬化する工程, 硬化後,PETフィルムから金型を離型する工程からなる, 直径が140μmの丸みをおびた凸形状の領域5cとプリズム形状の領域5pを有する保護シート7の作製方法。」 (3) 引用文献2の記載 引用文献2には,以下の事項が記載されている。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は,ホログラムを通して点光源を観察すると点光源の位置近傍に所定の画像またはメッセージが再生されて観察可能であり,例えば窓ガラス等に接着可能な,広告宣伝媒体や装飾用部材,各種フィルタ等として使用可能なホログラム観察シートに関するものである。 【背景技術】 【0002】 近年,透過型のホログラムを用いたメガネやうちわ等,種々のものが提案されている(例えば特許文献1,および特許文献2等)。しかしながら,これらのいずれにおいても,透過型のホログラムと他の部材とを一体に形成することが困難であり,あらかじめ透過型ホログラム部分だけを作製し,その後,この透過型ホログラムを他の部材によって挟み込んだりすることにより製造されていた。そのため,製造工程が煩雑であり,また種々の用途に用いることが難しい,という問題があった。」 イ 「【発明が解決しようとする課題】 【0004】 そこで,透過型ホログラムが他の部材と一体に形成されており,例えば広告宣伝媒体や装飾用部材等として用いられる,各種部材と貼りあわせ可能なホログラム観察シートの提供が望まれている。 【課題を解決するための手段】 【0005】 本発明は,透明基材と,上記透明基材上に形成され,点光源から入射した光を所望の光像へ変換する機能を有する透過型フーリエ変換ホログラム領域および上記透過型フーリエ変換ホログラム領域以外の上記機能を有しない非ホログラム領域からなるイメージ変換層とを有するホログラム観察シートであって,上記透明基材の上記イメージ変換層が形成されている側と反対側の面,または上記イメージ変換層の上記非ホログラム領域上に,接着層が形成されていることを特徴とするホログラム観察シートを提供する。」 ウ 「【発明の効果】 【0015】 本発明によれば,上記接着層が形成されていることから,ホログラム観察シートを,例えばガラス窓等,所望の部材と貼りあわせることができ,例えばホログラム観察シートを広告宣伝媒体や装飾用部材等として用いることが可能となる。また本発明によれば,別途,透過型フーリエ変換ホログラムの機能を有する部材を貼り合わせたり,挟み込んだりすることなく,効率よくホログラム観察シートが製造できるという効果も奏するものである。」 (4) 対比 ア 基材 引用発明の「光学用2軸延伸易接着PETフィルム」は,その「上に,保護シート7のパターンを形成させるウレタンアクリレートを主成分とする紫外線硬化型樹脂を塗布する」ものである。 したがって,引用発明の「光学用2軸延伸易接着PETフィルム」は,本願発明の「基材」に相当するとともに,本願発明の「基材フィルム」「を含む基材」の要件を満たす。 イ 光学機能層 引用発明は,「光学用2軸延伸易接着PETフィルム(膜厚125μm)上に,保護シート7のパターンを形成させるウレタンアクリレートを主成分とする紫外線硬化型樹脂を塗布する工程」及び「保護シート7の形状に切削したシリンダー金型を使用して紫外線硬化型樹脂が塗布されたフィルムを搬送しながら紫外線をPETフィルム側から露光することにより,紫外線硬化型樹脂を硬化する工程」を具備する。また,引用発明の「保護シート7のパターン」は,「直径が140μmの丸みをおびた凸形状の領域5cとプリズム形状の領域5p」を有する。 したがって,引用発明の「保護シート7のパターン」及び「光学用2軸延伸易接着PETフィルム(膜厚125μm)上」は,本願発明の「光学機能層」及び「表側の面」に相当する。また,引用発明の「保護シート7のパターン」は,本願発明の「前記基材の表側の面に設けられた」の要件を満たす層である。 ウ 光学積層体 上記イの対比結果からみて,引用発明の「保護シート7」は,「光学用2軸延伸易接着PETフィルム」と,その上の「保護シート7のパターン」からなる。 したがって,引用発明の「保護シート7」は,本願発明の「光学積層体」に相当するとともに,引用発明の「保護シート7の作製方法」は,本願発明の「光学積層体の製造方法」に相当する。 エ 工程(A1) 引用発明は,「光学用2軸延伸易接着PETフィルム(膜厚125μm)上に,保護シート7のパターンを形成させるウレタンアクリレートを主成分とする紫外線硬化型樹脂を塗布する工程」を具備する。ここで,引用発明の「ウレタンアクリレートを主成分とする紫外線硬化型樹脂」及び「塗布」は,それぞれ,本願発明の「紫外線硬化性の未硬化樹脂」及び「塗布」に相当する。 したがって,引用発明の「光学用2軸延伸易接着PETフィルム(膜厚125μm)上に,保護シート7のパターンを形成させるウレタンアクリレートを主成分とする紫外線硬化型樹脂を塗布する工程」は,本願発明の「前記基材の表側の面に紫外線硬化性の未硬化樹脂を塗布し,前記未硬化樹脂の層を形成する工程(A1)」に相当する。 オ 工程(A3) 引用発明は,「保護シート7の形状に切削したシリンダー金型を使用して紫外線硬化型樹脂が塗布されたフィルムを搬送しながら紫外線をPETフィルム側から露光することにより,紫外線硬化型樹脂を硬化する工程」を具備する。ここで,引用発明の「金型」は,本願発明の「凹凸構造を有する型」に相当する。また,引用発明において「保護シート7のパターン」を得るためには,「紫外線硬化型樹脂」と「金型」が接触した状態で硬化させる必要がある。 したがって,引用発明は,「保護シート7の形状に切削したシリンダー金型を使用して紫外線硬化型樹脂が塗布されたフィルムを搬送しながら紫外線をPETフィルム側から露光することにより,紫外線硬化型樹脂を硬化する工程」中に,本願発明の「前記未硬化樹脂の層に凹凸構造を有する型を接触させる工程(A3)」を内在している。 カ 工程(A4) 引用発明は,「保護シート7の形状に切削したシリンダー金型を使用して紫外線硬化型樹脂が塗布されたフィルムを搬送しながら紫外線をPETフィルム側から露光することにより,紫外線硬化型樹脂を硬化する工程」を具備する。 ここで,引用発明の「紫外線」,「PETフィルム側」,「露光」及び「硬化」は,それぞれ,本願発明の「紫外線」,「裏側」,「照射」及び「硬化」に相当する。 そうしてみると,引用発明は,「保護シート7の形状に切削したシリンダー金型を使用して紫外線硬化型樹脂が塗布されたフィルムを搬送しながら紫外線をPETフィルム側から露光することにより,紫外線硬化型樹脂を硬化する工程」中に,本願発明の「前記基材の裏側から紫外線を照射して,前記未硬化樹脂の層を硬化させ,硬化した樹脂からなる光学機能層を得る工程(A4)」を内在している。 キ 工程(A5) 引用発明は,「硬化後,PETフィルムから金型を離型する工程」を具備する。ここで,引用発明の「離型」は,本願発明の「剥離」に相当する。 したがって,引用発明の「硬化後,PETフィルムから金型を離型する工程」は,本願発明の「前記型を,前記光学機能層から剥離する工程(A5)」に相当する。 ク 工程(A) 前記エ?キを考慮すると,引用発明の「光学用2軸延伸易接着PETフィルム(膜厚125μm)上に,保護シート7のパターンを形成させるウレタンアクリレートを主成分とする紫外線硬化型樹脂を塗布する工程,保護シート7の形状に切削したシリンダー金型を使用して紫外線硬化型樹脂が塗布されたフィルムを搬送しながら紫外線をPETフィルム側から露光することにより,紫外線硬化型樹脂を硬化する工程,硬化後,PETフィルムから金型を離型する工程」は,本願発明の「前記基材の表側の面に前記光学機能層を形成し,前記基材及び前記光学機能層を有する複層物(a)を得る工程(A)」に相当する。 (5) 一致点及び相違点 ア 一致点 本願発明と引用発明は,以下の構成で一致する。 「 基材フィルムを含む基材と, 前記基材の表側の面に設けられた光学機能層と, を備えた光学積層体の製造方法であって, 前記基材の表側の面に前記光学機能層を形成し,前記基材及び前記光学機能層を有する複層物(a)を得る工程(A)を含み, 前記工程(A)は, 前記基材の表側の面に紫外線硬化性の未硬化樹脂を塗布し,前記未硬化樹脂の層を形成する工程(A1)と, 前記未硬化樹脂の層に凹凸構造を有する型を接触させる工程(A3)と, 前記基材の裏側から紫外線を照射して,前記未硬化樹脂の層を硬化させ,硬化した樹脂からなる光学機能層を得る工程(A4)と, 前記型を,前記光学機能層から剥離する工程(A5)と を含む, 光学積層体の製造方法。」 イ 相違点 本願発明と引用発明は,以下の点で相違する。 (相違点1) 本願発明は,「基材」が「厚みが0.01?5μmの易接着層を含む基材」であって,「前記易接着層が,前記基材の表側,又は前記基材の表側と裏側との両方に位置するよう設けられた」ものであるのに対して,引用発明は,これら構成を具備するとは特定されていない点。 (相違点2) 本願発明は,「光学積層体」において「前記基材の裏側の面に設けられた紫外線吸収機能を有する接着層」と「前記接着層の前記基材と反対側に設けられるセパレーター」を備えるのに対して,引用発明は,これら構成を具備しない点。 そして,本願発明は,「前記セパレーターに前記紫外線吸収機能を有する接着層を形成し,前記セパレーター及び前記接着層を有する複層物(b)を得る工程(B)」及び「前記複層物(a)と前記複層物(b)とを貼り合わせて,前記複層物(a)の裏側の面に前記接着層を設ける工程(C)」を含むのに対して,引用発明は,これら工程を具備しない点。 (相違点3) 本願発明は,「前記基材,前記光学機能層,および前記接着層の少なくともいずれかが,光拡散性を付与する粒子を含む」のに対して,引用発明は,この構成を具備するとは特定されていない点。 (相違点4) 本願発明は,「接着層」が「紫外線吸収剤を,0.05重量%以上10重量%以下の含有割合で含有する」のに対して,引用発明は,この構成を具備するとは特定されていない点。 (6) 判断 相違点2について,判断する。 引用発明の「ELパネル100」は,「粘・接着層6が,透明基板1Aの射出面G側に形成され,保護シート7と透明基板1Aが固定された」ものである。よって,引用発明においては,「保護シート7」に接着剤層及びセパレーターを設けることなく,保護シート7と透明基板1Aを固定することができる。 そうしてみると,引用発明においては,相違点2に係る構成を採用する必要がない。 引用文献2には,(A)「窓ガラス等に接着可能な,広告宣伝媒体や装飾用部材,各種フィルタ等として使用可能なホログラム観察シート」(段落【0002】)の技術分野において,(B)「広告宣伝媒体や装飾用部材等として用いられる,各種部材と貼りあわせ可能なホログラム観察シートの提供が望まれている」(段落【0004】)という発明が解決しようとする課題に対し,(C)「透明基材と,上記透明基材上に…イメージ変換層とを有するホログラム観察シートであって,…接着層が形成されていることを特徴とするホログラム観察シート」(段落【0005】)という課題解決手段によって,(D)「上記接着層が形成されていることから,ホログラム観察シートを,例えばガラス窓等,所望の部材と貼りあわせることができ,例えばホログラム観察シートを広告宣伝媒体や装飾用部材等として用いることが可能となる。」(段落【0015】)という効果を得た発明が開示されている。 しかしながら,引用発明の「保護シート7」は,(a)ホログラム観察シートではなく,(b)広告宣伝媒体や装飾用部材等として用いられる,各種部材と貼りあわせる必要はなく,(d)広告宣伝媒体や装飾用部材等として用いる効果を得る必要もない。仮に当業者が引用文献2に接することがあるとしても,引用発明と引用文献2に記載された技術を組み合わせる動機付けは発生しない。 したがって,引用発明において,相違点2に係る構成を採用することが容易であるということはできない。 加えて,本願発明の工程(A1)?(A5)及び相違点2に係る構成に関して,本件出願の発明の詳細な説明の段落【0034】?【0036】には,以下のとおり記載されている。 「【0034】 本発明では,工程(C)に先立ち工程(A)を行うことにより,光取り出し効率を向上させる機能及び高い紫外線吸収機能を有する光学積層体を,高い生産性で製造することが可能となる。 【0035】 即ち,本発明の製造方法では,紫外線吸収機能を有する層を接着層とし,さらに,かかる接着層を,光学機能層と反対側の基材面に,光学機能層を形成した後に設けるため,光学機能層の形成において,紫外線吸収機能を有する層により紫外線の照射が妨害されない。したがって,光学機能層の形成において紫外線の照射を高効率で行うことが可能となり,光学機能層を高い生産性で形成することができる。 【0036】 特に,本発明の製造方法において,工程(A)として,上に工程(A1),(A3),(A4)及び(A5)を含む方法を用いることにより,凹凸構造を有する光学機能層を2P法により高い精度で形成することができ,且つ紫外線吸収機能を有する層により2P法の実施が妨げられることがない。より具体的には,有機EL素子発光層を劣化させるUVA(315?380nm)の波長範囲を含む広い波長範囲の紫外線を効果的に吸収することができる光学積層体を,2P法の実施に都合がよい365nm付近の紫外線を用いて,効率的に製造することがが可能となる。そのため,高い光学的機能と,高い生産性と,製品の紫外線吸収機能とを両立させることができる。」 これに対して,引用文献1には,「EL素子は様々な環境で用いられ,紫外線が多く当たるような例えば,屋外での使用等が考えられる。このような場合紫外線がEL素子内部へ照射される事により,劣化損傷が起こる。そのため,保護シート7内又は,粘・接着材中又は,拡散板中に紫外線吸収材を混入する事によって,外部からEL素子内部への紫外線の照射が抑制され,この劣化損傷を緩和する事が可能となる。」(段落[0033])としか開示されていない。 本願発明の「高い光学的機能と,高い生産性と,製品の紫外線吸収機能とを両立させることができる」という効果は,引用発明ないし引用文献1の記載に接した当業者が予測可能な範囲を超えたものとするのが相当である。 (7) 小括 したがって,本願発明は,当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 本件出願の請求項2?4にかかる発明についても,同様である。 2 原査定の拒絶の理由(特許法29条の2)について 先願には,前記1(5)イの相違点2に係る構成,すなわち,「前記基材の裏側の面に設けられた紫外線吸収機能を有する接着層」と「前記接着層の前記基材と反対側に設けられるセパレーター」の構成が記載されていない。 したがって,本願発明と先願は同一ではない。 本件出願の請求項2?4にかかる発明についても,同様である。 3 当合議体の拒絶の理由について 当合議体の拒絶の理由に対して,請求人は,「本願請求項1の製造方法では…工程(A)?(C)の順の工程を採用することにより,紫外線照射を効率的に行うことができ,したがって工程(A1)及び(A2)?(A4)を含む製造を効率的に行うことが可能となり,それでいてなお,得られる積層体の紫外線吸収率を高めることも可能となる。なお,このような事項は,本願明細書…[0034]?[0036]等にも記載されている。」(本件意見書の(4.7.3))と主張した。なお,段落【0034】?【0036】の記載は,前記1(6)に記載したとおりのものである。 請求人の主張を考慮して,以下のとおり判断する。 (1) 引用例1に基づく容易推考 引用例1には,「光学フィルムの最外層に粘着剤層を積層してなる粘着剤付光学シート」(【請求項10】)が記載され,また,光学フィルムとして,マイクロレンズが記載されている(段落【0044】)。 しかしながら,マイクロレンズの製造方法について,引用例1には,「マイクロレンズの製造方法は特に限定されず,均一なシートを金型などでプレスして表面成型加工を行う方法や,液状樹脂を塗布してUVや熱で硬化させることによって成型することも可能である。」(段落【0047】)と記載され,具体的実施例は,「24μmのポリエステル(帝人デュポン社製,PETフィルムG2,屈折率:1.50)表面に,上記ポリスチレン溶液を塗布して,ポリスチレン層(屈折率:1.59,硬化後の厚み:5μm)を形成し,160℃の熱プレスにて半径5μmに加工したマイクロレンズ(fナンバー:0.86)を得た。」(段落【0162】)というものである(紫外線硬化ではなく,熱硬化である。)。また,紫外線吸収剤に関する引用例1の記載は,「本発明の粘着剤付光学フィルムの光学フィルムや粘着剤層などの各層には,たとえば,サリチル酸エステル系化合物やベンゾフェノール系化合物,ベンゾトリアゾール系化合物やシアノアクリレート系化合物,ニッケル錯塩系化合物などの紫外線吸収剤で処理する方式などの方式により紫外線吸収能をもたせたものなどであってもよい。」(段落【0088】)というものである。なお,「各層には」は,「各層は」の誤記と解される。 そうしてみると,本願発明の「高い光学的機能と,高い生産性と,製品の紫外線吸収機能とを両立させることができる」という効果は,引用例1の記載に接した当業者が予測可能な範囲を超えたものとするのが相当である。 (2) 引用例2及び引用例3に基づく容易推考 引用例2には,「帯状可撓性の基材シートの表面に放射線硬化樹脂を塗布し,ニップローラを介して該基材シートの表面をパターンローラに密着させ,該パターンローラに密着された状態の基材シートに放射線を照射して,その表面に塗布された前記放射線硬化樹脂を硬化させた後,剥離ローラを介して前記放射線硬化樹脂が硬化した基材シートを前記パターンローラから剥離して,表面に微細凹凸パターンが形成された微細構造シートを連続的に製造する微細構造シート製造方法」(【請求項1】)が記載されている。 しかしながら,引用例2には,前記1(5)の相違点2に係る,「前記セパレーターに前記紫外線吸収機能を有する接着層を形成し,前記セパレーター及び前記接着層を有する複層物(b)を得る工程(B)」及び「前記複層物(a)と前記複層物(b)とを貼り合わせて,前記複層物(a)の裏側の面に前記接着層を設ける工程(C)」について,記載も示唆もない。かえって,引用例2には,基剤シートについて,「基材シートWには,あらかじめ接着層等の下地層を設け乾燥硬化させたもの,裏面に他の機能層があらかじめ形成されたもの,等を用いてもよい。」(段落【0083】)と記載されている。 そうしてみると,本願発明の「高い光学的機能と,高い生産性と,製品の紫外線吸収機能とを両立させることができる」という効果は,引用例2の記載に接した当業者が予測可能な範囲を超えたものとするのが相当である。 引用例3についても,同様である。 (3) 小括 したがって,本願発明は,当業者が,引用例1?3のいずれかに記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 本件出願の請求項2?4にかかる発明についても,同様である。 そうすると,もはや,当合議体が通知した拒絶の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 第3 まとめ 以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2016-09-12 |
出願番号 | 特願2010-278317(P2010-278317) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G02B)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 加藤 昌伸 |
特許庁審判長 |
西村 仁志 |
特許庁審判官 |
樋口 信宏 清水 康司 |
発明の名称 | 光学積層体の製造方法 |
代理人 | 酒井 宏明 |