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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12P
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C12P
管理番号 1319092
審判番号 不服2015-5822  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-30 
確定日 2016-09-07 
事件の表示 特願2012- 59147「モノマー及びそのポリマーを調製する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 7月26日出願公開、特開2012-139233〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2005年(平成17年)7月1日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年7月19日 英国)とする特願2007-521827号の一部を、特許法第44条第1項の規定により新たな特許出願としたものであって、平成26年5月26日付で手続補正がなされたが、平成26年11月27日付で拒絶査定がなされ、これに対して、平成27年3月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付で手続補正がなされたものである。

第2 平成27年3月30日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成27年3月30日付の手続補正を却下する。
[理由]
1.補正の内容
平成27年3月30日付の手続補正(以下、「本件補正」という)は、拒絶査定不服審判の請求と同時にしたものであって、補正前の請求項1及び補正後の請求項1は以下のとおりである。

補正前:
「【請求項1】
高分子量の水溶性ポリマー調製用のエチレン性不飽和アミドを、対応するエチレン性不飽和ニトリルから調製する方法であって、
ここで、ニトリルは、水性媒体中、生物触媒の存在下で、水和若しくは加水分解反応で処理され、生物触媒は、ニトリルヒドラターゼを製造することができるロドコッカス ロドクロウス種であり、
ニトリルは、2ppmより多く500ppmまでのアクロレインを含み、かつアミドは、2ppm未満のアクロレインを含む
方法。」

補正後:
「【請求項1】
高分子量の水溶性ポリマー調製用のエチレン性不飽和アミドを、対応するエチレン性不飽和ニトリルから調製する方法であって、
ここで、ニトリルは、水性媒体中、生物触媒の存在下で、水和反応で処理され、生物触媒は、ニトリルヒドラターゼを製造することができるロドコッカス ロドクロウス種であり、
ニトリルは、2ppmより多く500ppmまでのアクロレインを含み、かつアミドはアクロレインを含まず、
アクロレインを除去するための付加的な工程が回避される、
方法。」

2.補正の適否
上記補正後の請求項1は、補正前の請求項1における「水和若しくは加水分解反応で処理され」を「水和反応で処理され」に限定され、アミドが補正前の「2ppm未満のアクロレインを含む」ものから「アクロレインを含まず」と限定され、さらに、「アクロレインを除去するための付加的な工程が回避される」ことが特定されたものであり、補正前の請求項1に係る発明と補正後の請求項1に係る発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について検討する。

(1)引用例
原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用された、本願優先日前の2002年6月27日に頒布された刊行物である、国際公開第02/50297号(以下、「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審にて付与した。)
ア.「〔実施例1〕 (水性媒体中微生物菌体によるアクリルアミドの製造)
(1) 菌の培養
・・・
(培養方法)
500ml容三角フラスコに培地を100ml分注して綿栓をし、121℃、20分間オートクレーブで滅菌した。 Rhodococcus rhodochrous Jl (FERM BP-1478)を接種して 30 ℃で 48時間振とう培養した。
・・・
(2) 二トリルヒドラターゼ活性の測定
直径30mmの試験管に50mMリン酸バッファー(pH7.7)4.98mlに20μLの菌体懸濁液を添加混合し、10℃の水槽中にて5分間振盪させた。 これに予め10℃にしておいた5.0%のアクリロ二トリルを含む50mMリン酸バッファー(pH7.7)5mlを加えて、10分間反応させ、菌体を濾別してから、ガスクロマトグラフィー(GC-14B 島津製作所)で生成したアクリルアミドを定量することにより行った。 分析条件はパラボックスPS(ウォーターズ社製カラム充填剤)を充填した1mガラスカラムを用い、カラム温度230℃、検出器は250℃のFIDで実施した。その結果、アクリルアミド1.2%生成していた。1Uが、反応温度10℃、反応時間1分間に1マイクロモルのアクリロ二トリルをアクリルアミドへ変換させる量と定義した場合、本菌体のアクリロニトリルからアクリルアミドへの変換活性は、乾燥菌体1mg当たり10℃で56Uであった。
(3)アクリロニトリルからアクリルアミドへの反応
1Lのジャケット付きセパラブルフラスコに、50mM(pH7.7)のトリス(2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール)塩酸バッファーを664g入れ、これに先に得た菌体懸濁液を乾燥菌体重量が90mgとなるように添加した。これを、180rpm撹拌下18℃で、アクリロニトリル濃度が常に2%となるように連続的にアクリロニトリルを添加した。
その結果、アクリロニトリルの添加開始から25時間で生成したアクリルアミド濃度が目的の45%となった。」(実施例1)

上記記載事項ア.によれば、引用例には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「アクリルアミドを、アクリロニトリルから製造する方法であって、アクリロニトリルは、水性媒体中、ニトリルヒドラターゼ活性を有するRhodococcus rhodochrous Jlと反応させられる方法。」

(2)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「アクリルアミド」は、本願補正発明の「エチレン性不飽和アミド」に相当し、引用発明の「アクリロニトリル」は、本願補正発明の「対応するエチレン性不飽和ニトリル」に相当する。また、引用発明の「ニトリルヒドラターゼ活性を有するRhodococcus rhodochrous Jl」は、本願補正発明の「ニトリルヒドラターゼを製造することができるロドコッカス ロドクロウス種」である「生物触媒」に相当する。
さらに、引用発明は、水性媒体中、ニトリルヒドラターゼ活性を有するRhodococcus rhodochrous Jlの存在下で、アクリロニトリルからアクリルアミドが製造されているのであるから、アクリロニトリルが、「水性媒体中、生物触媒の存在下で、水和反応で処理され」ていることも明らかである。
そうすると、両者は、「エチレン性不飽和アミドを、対応するエチレン性不飽和ニトリルから調製する方法であって、ここで、ニトリルは、水性媒体中、生物触媒の存在下で、水和反応で処理され、生物触媒は、ニトリルヒドラターゼを製造することができるロドコッカス ロドクロウス種である、方法。」の点で一致し、以下の点で一応相違している。
(相違点1)本願補正発明は、エチレン性不飽和アミドが「高分子量の水溶性ポリマー調製用の」と特定されているのに対し、引用発明は、その点が明らかにされていない点。
(相違点2)本願補正発明は、「ニトリルは、2ppmより多く500ppmまでのアクロレインを含み、かつアミドはアクロレインを含まず」と特定されているのに対し、引用発明は、ニトリル及びアミド中のアクロレイン含有量について、明らかにされていない点。
(相違点3)本願補正発明は、「アクロレインを除去するための付加的な工程が回避される」と特定されているのに対し、引用発明は、そのように特定されていない点。

(3)当審の判断
まず、相違点1について検討する。
アクリルアミドが、そのポリマーであるポリアクリルアミドの調製に使用されることは、本願優先日前の当業者にとって自明の事項であるから(要すれば、Pure & Appl. Chem., 1995, Vol.67, No.7, p.1241-1256の1244ページ10?12行、特開2001-131135の【0004】参照)、引用発明のアクリルアミドも「高分子量の水溶性ポリマー調製用」であるといえる。よって、この点は、実質的な相違点とはいえない。

次に、相違点2について検討する。
一般的に市販されているアクリロニトリルには、2?8ppm程度のアクロレインが含有されているものであり(要すれば、特開2001-131135号公報の【0004】、特開平10-7638号公報の【0017】参照)、かつ、引用例には、原料としてアクロレインを含有しないアクリロニトリルを用いることについて何ら記載も示唆もされていないから、引用発明におけるアクリロニトリルは、2?8ppm程度のアクロレインが含有された通常市販されているアクリロニトリルである蓋然性が極めて高いといえる。そして、引用発明において調製されるアクリルアミドも、本願発明と同程度のアクロレインを含有するアクリロニトリルが、「水性媒体中、生物触媒の存在下で、水和反応で処理され、生物触媒は、ニトリルヒドラターゼを製造することができるロドコッカス ロドクロウス種である、」という同一の方法により得られるものであるから、
「アクロレインを含ま」ないものである蓋然性が極めて高いといえる。よって、この点も、実質的な相違点とはいえない。

最後に、相違点3について検討する。
本願補正発明における「アクロレインを除去するための付加的な工程が回避される」が、単に、本願補正発明の性質、効果を記載したのに過ぎないとすれば、上述のとおり、本願補正発明と引用発明とは、エチレン性不飽和アミドを調製する方法の発明として、その構成に差異がないのであるから、引用発明1も当然本願補正発明と同等の性質、効果を有するものといえる。
また、本願補正発明における「アクロレインを除去するための付加的な工程が回避される」が、「アクロレインを除去するための付加的な工程を行わない」という構成であるとしても、引用例においても、アクロレインを除去するための工程については何ら記載されていないから、引用発明は、「アクロレインを除去するための付加的な工程を行わない」ものであるといえる。
よって、この点も、実質的な相違点とはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用発明と同一であり、本願優先日前に頒布された刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

(4)審判請求人の主張
審判請求人は、審判請求書において、本願明細書の段落0017に記載されるように、プロピレンのアンモ酸化によって製造されるアクリロニトリルには、不純物として、アクロレインが2ppmより多く、例えば20ppm程度、存在するが、段落0020に記載されるように、このようなアクロレインを含有するアクリロニトリルから得られるアクリルアミドを用いて、ポリマーを製造する場合には、好ましくない架橋結合を生じるから、アクリルアミドを生成するために用いられるアクリロニトリルは、本質的に純粋で、不純物であるアクロレインを含まないことが必要であり、段落0024や、段落0022に記載されるように、アクリロニトリル中のアクロレインを除去する先行技術(EP-A-099207(審決注:EP-A-0999207の誤記である。)、GB-A-2114118)が、本願出願当時、知られていたことを考慮すれば、2ppmより多く500ppmまでのアクロレインを含むアクリロニトリルを用いことは考えられず、より精製された高純度のアクリロニトリルが用いられていると当業者には十分推認できると主張している。

しかしながら、アクリルアミドを用いてポリマーを製造する際に好ましくない架橋結合を生じないようにするためには、できるだけアクロレインを含まないアクリルアミドを用いるのがよいことが知られていたとしても、得られるポリマーに求める均質性の程度やコスト等を考慮することにより、原料となるアクリルアミドにおける精製度は決定されるものであるといえるから、上記請求人が主張するような技術常識を考慮にいれても、アクロレインの除去について、何ら具体的に記載されていない引用例において、用いられるアクリロニトリルが、アクロレインを除去する工程を経たより高純度のものであるはずだとまでは到底いえない。
したがって、請求人の主張は採用できない。

(5)むすび
以上検討したところによれば、本願補正発明は、引用例に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
平成27年3月30日付手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?27に係る発明は、出願当初の特許請求の範囲の請求項1?27に記載された発明特定事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2 1.に補正前として記載したとおりのものである。
そして、本願発明は本願補正発明を包含するものであることが明らかであり、本願補正発明は、上記第2 2.で述べたとおり、引用例の記載された発明であるから、本願発明も、同様の理由により、引用例に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

第4 まとめ
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-03-29 
結審通知日 2016-04-05 
審決日 2016-04-18 
出願番号 特願2012-59147(P2012-59147)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C12P)
P 1 8・ 575- Z (C12P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小金井 悟  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 飯室 里美
高堀 栄二
発明の名称 モノマー及びそのポリマーを調製する方法  
代理人 津国 肇  

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