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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01N
管理番号 1319110
審判番号 不服2015-17445  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-09-25 
確定日 2016-09-07 
事件の表示 特願2011-534867「SCRおよびAMOXを統合した触媒システム」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 6月 3日国際公開、WO2010/062730、平成24年 3月29日国内公表、特表2012-507662〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2009年11月3日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2008年11月3日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成23年5月2日に特許法第184条の5第1項に規定する国内書面が提出され、同年6月8日に同法第184条の4第1項に規定する明細書、請求の範囲、要約書及び図面の翻訳文が提出され、同年10月13日に上申書が提出され、平成25年10月18日付けで拒絶理由が通知され、平成26年2月25日に意見書及び誤訳訂正書が提出され、同年7月30日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年11月11日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年5月29日付けで平成26年11月11日付けの手続補正を却下する補正の却下の決定がされるとともに拒絶査定がされ、同年9月25日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出されたものである。

第2 平成27年9月25日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成27年9月25日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 平成27年9月25日付けの手続補正の内容
平成27年9月25日に提出された手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1については、本件補正により補正される前の(すなわち、平成26年2月25日に提出された誤訳訂正書により補正された)下記(1)に示す特許請求の範囲の請求項1の記載を下記(2)に示す特許請求の範囲の請求項1の記載へ補正するものである。

(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
NO_(x)を含有する排気ガス流を処理するための触媒システムであって、
単一のモノリス触媒基材、
モノリス基材の一端にコーティングされ、NH_(3)酸化を触媒するのに有効な物質組成物Aを含有する、下塗りウォッシュコート層、及び
前記下塗りウォッシュコート層の少なくとも一部を覆うのに十分なモノリス基材の長さにわたりコーティングされ、NO_(x)の選択的触媒還元(SCR)を触媒するのに有効な物質組成物Bを含有する、上塗りウォッシュコート層、
を含み、及び
前記下塗りウォッシュコート層は、基材長の10?40%に塗布される、
ことを特徴とする触媒システム。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
車両のディーゼルエンジンからのNO_(x)を含有する排気ガス流を処理するための触媒システムであって、
入口端と出口端を有する単一のモノリス触媒基材、
モノリス基材の出口端からコーティングされ、NH_(3)酸化を触媒するのに有効な物質組成物Aを含有する、下塗りウォッシュコート層、及び
前記下塗りウォッシュコート層を覆い、及びモノリス基材の全長にわたりコーティングされ、NO_(x)の選択的触媒還元(SCR)を触媒するのに有効な物質組成物Bを含有する、上塗りウォッシュコート層、
を含み、及び
前記下塗りウォッシュコート層は、基材長の10?40%に塗布され、
前記モノリス基材が、前記基材の長手方向軸に沿って延在する、複数の微細な、平行のガス流路を含むフロースルー型ハニカム基材であり、及び
前記物質組成物Aと前記物質組成物Bは物理的に分離された触媒組成物として維持されていることを特徴とすることを特徴とする(審決注:「ことを特徴とすることを特徴とする」は「ことを特徴とする」の誤記と認める。)触媒システム。」(なお、下線は、補正箇所を示すためのものである。)

2 本件補正の適否
2-1 本件補正の目的
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1については、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の「NO_(x)を含有する排気ガス流を処理するための触媒システム」という記載を「車両のディーゼルエンジンからのNO_(x)を含有する排気ガス流を処理するための触媒システム」という記載にし(以下、「補正事項1」という。)、同じく「単一のモノリス触媒基材」という記載を「入口端と出口端を有する単一のモノリス触媒基材」という記載にし(以下、「補正事項2」という。)、同じく「モノリス基材の一端にコーティングされ、NH_(3)酸化を触媒するのに有効な物質組成物Aを含有する、下塗りウォッシュコート層」という記載を「モノリス基材の出口端からコーティングされ、NH_(3)酸化を触媒するのに有効な物質組成物Aを含有する、下塗りウォッシュコート層」という記載にし(以下、「補正事項3」という。)、同じく「前記下塗りウォッシュコート層の少なくとも一部を覆うのに十分なモノリス基材の長さにわたりコーティングされ、NO_(x)の選択的触媒還元(SCR)を触媒するのに有効な物質組成物Bを含有する、上塗りウォッシュコート層」という記載を「前記下塗りウォッシュコート層を覆い、及びモノリス基材の全長にわたりコーティングされ、NO_(x)の選択的触媒還元(SCR)を触媒するのに有効な物質組成物Bを含有する、上塗りウォッシュコート層」という記載にし(以下、「補正事項4」という。)、さらに「前記モノリス基材が、前記基材の長手方向軸に沿って延在する、複数の微細な、平行のガス流路を含むフロースルー型ハニカム基材であり、及び
前記物質組成物Aと前記物質組成物Bは物理的に分離された触媒組成物として維持されている」という記載を追加する(以下、「補正事項5」という。)ものである。
そして、補正事項1は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項である「触媒システム」が処理する「NO_(x)を含有する排気ガス流」が、「車両のディーゼルエンジンからの」ものであることに限定するものであり、補正事項2は、同じく「単一のモノリス触媒基材」が「入口端と出口端を有する」ものであることに限定するものであり、補正事項3は、同じく「モノリス基材の一端にコーティングされ」る「下塗りウォッシュコート層」が「モノリス基材の出口端からコーティングされ」る「下塗りウォッシュコート層」であることに限定するものであり、補正事項4は、同じく「前記下塗りウォッシュコート層の少なくとも一部を覆うのに十分なモノリス基材の長さにわたりコーティングされ」る「上塗りウォッシュコート層」が「前記下塗りウォッシュコート層を覆い、及びモノリス基材の全長にわたりコーティングされ」る「上塗りウォッシュコート層」であることに限定するものであり、補正事項5は、同じく「モノリス基材」が「前記基材の長手方向軸に沿って延在する、複数の微細な、平行のガス流路を含むフロースルー型ハニカム基材」であることを限定するとともに同じく「物質組成物A」と「物質組成物B」が「物理的に分離された触媒組成物として維持されている」ものであることに限定するものである。
そして、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明と本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2-2 独立特許要件の検討
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうかについて、さらに検討する。

(1)引用文献の記載等
ア 引用文献1の記載等
(ア)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に外国において、頒布された刊行物である国際公開第2007/137675号(以下、「引用文献1」という。また、訳として、ファミリー文献である特表2009-538724号公報(以下、「訳文」という。)の記載を段落番号を含め援用する。)には、「KATALYSATOR ZUR VERMINDERUNG STICKSTOFF-HALTIGER SCHADGASE AUS DEM ABGAS VON DIESELMOTOREN」(訳:ディーゼルエンジンの排気ガスから窒素含有排気ガスを減少させる触媒)に関して、図面とともにおおむね次の記載(摘記の際に、ウムラウト等のドイツ語の綴り字記号は省略し、エスツエットはssと表記した。以下、順に「記載1a」ないし「記載1c」という。)がある。

1a 「Die Erfindung betrifft die Entfernung von Stickstoff-haltigen Schadgasen aus dem Abgas von mit einem mageren Luft/Kraftstoff-Gemisch betriebenen Verbrennungsmotoren (sog. ,,Magermotoren), insbesondere aus dem Abgas von Dieselmotoren.
・・・(略)・・・
Ein bekanntes Verfahren zur Entfernung von Stickoxiden aus Abgasen in Gegenwart von Sauerstoff ist das Verfahren der selektiven katalytischen Reduktion (SCR- Verfahren; Selective Catalytic Reduction) mittels Ammoniak an einem geeigneten Katalysator, kurz als SCR-Katalysator bezeichnet.」(第1ページ第4ないし22行)
(訳:【0001】
本発明は、リーンの空気/燃料-混合物で運転される内燃機関(いわゆる「リーンバーンエンジン」)の排気ガスから、特にディーゼルエンジンの排気ガスから窒素含有有害ガスを除去することに関する。
【0002】
リーンバーンエンジンで運転される自動車の排気ガス中に含まれる排出物は、2つのグループに分けることができる。一次排出物の概念は、エンジン中で燃料の燃焼プロセスにより直接生じかつ排気ガス浄化装置を通過する前に既にいわゆる未処理排出物中に存在する有害ガスを示す。二次排出物として、排気ガス浄化装置中で副生成物として生じるような有害ガスが示される。
【0003】
リーンバーンエンジンのこの排気ガスは、通常の一次排出物の一酸化炭素CO、炭化水素HC及び窒素酸化物NOxの他に、比較的高い15体積%までの酸素含有量を含有する。一酸化炭素及び炭化水素は、酸化により容易に無害にすることができる。しかしながら、窒素酸化物の窒素への還元は、高い酸素含有量のためにかなり困難である。
【0004】
酸素の存在で排気ガスから窒素酸化物を除去するための公知方法は、適当な触媒(省略してSCR触媒とする)でのアンモニアを用いた選択的接触還元法(SCR法;Selective Catalytic Reduction)である。)(訳文の段落【0001】ないし【0004】)

1b 「Bei einem ,,aktiven" SCR-System zur Entfernung von Stickoxiden aus dem Abgas von Dieselmotoren besteht also einerseits das Problem, einen Katalysator und Bedingungen fur eine wirksame Stickoxid-Entfernung durch selektive katalytische Reduktion zur Verfugung zu stellen. Andererseits darf gegebenenfalls nicht vollstandig umgesetztes Ammoniak nicht in die Umwelt freigesetzt werden. Eine Abgasanlage, die dieses Problem lost, muss daruber hinaus so konzipiert sein, dass fur die benotigten Katalysatoren einerseits moglichst wenig Bauraum benotigt wird, andererseits jedoch die Selektivitat des Systems zu Stickstoff moglichst hoch ist.
Es ist Aufgabe der vorliegenden Erfindung, einen Katalysator, eine Abgasreinigungsanlage und/oder eine Methode zur Verfugung zu stellen, mit dessen Hilfe Stickstoffhaltige Schadgase mittels aktivem SCR-Verfahren aus dem vollstandig mageren Abgas von Dieselmotoren entfernt werden konnen, wobei es unerheblich ist, ob Stickstoff in den Schadgasen in oxidierter Form, wie in Stickoxiden, oder in reduzierter Form, wie in Ammoniak, vorliegt.
Zur Losung einer solchen Aufgabe schlagt die EP 0 773 057 Al einen Katalysator vor, der einen mit Platin und Kupfer ausgetauschten Zeolithen (Pt-Cu-Zeolith) enthalt. In einer besonderen Ausfuhrungsform ist dieser Pt-Cu-Zeolith-Katalysator auf einem Standardsubstrat (common Substrate) aufgebracht. Daruber ist ein zweiter Katalysator angeordnet, der einen Zeolithen enthalt, der nur mit Kupfer ausgetauscht ist.
Erfindungsgemass wird die Aufgabe durch einen Katalysator gelost, der einen Wabenkorper und eine aus zwei ubereinander liegenden katalytisch aktiven Schichten bestehende Beschichtung enthalt, wobei die direkt auf den Wabenkorper aufgebrachte, untere Schicht einen Oxidationskatalysator enthalt, und die darauf aufgebrachte, obere Schicht ein Ammoniak-Speichermaterial enthalt und uber eine AmmoniakSpeicherkapazitat von mindestens 20 Milliliter Ammoniak pro Gramm Katalysatormaterial verfugt. 」(第5ページ第29行ないし第6ページ第24行)
(訳:【0023】
ディーゼルエンジンの排気ガスから窒素酸化物を除去するための「アクティブ」SCRシステムの場合に、一方で、選択的接触還元により有効に窒素酸化物を除去するための触媒及び条件を提供しなければならないという問題も生じる。他方で、場合により完全には反応されなかったアンモニアを環境中へ放出してはならない。この問題を解決する排気ガス装置は、さらに、必要な触媒にとって一方ではできる限り僅かな取り付けスペースを必要とするが、他方では前記システムの窒素に対する選択率ができる限り高くなるように構想しなければならない。
【0024】
本発明の課題は、窒素含有有害ガスを、「アクティブ」SCR法を用いてディーゼルエンジンの完全にリーンな排気ガスから除去することができる触媒、排気ガス浄化装置及び/又は方法を提供することであり、その際、有害ガス中の窒素は酸化された形、例えば窒素酸化物の形であるか又は還元された形、例えばアンモニアの形で存在するかどうかは重要ではない。
【0025】
前記課題を解決するために、EP 0 773 057 A1は、白金及び銅で交換されたゼオライト(Pt-Cu-ゼオライト)を含有する触媒を提案している。特別な実施態様の場合に、このPt-Cu-ゼオライト触媒は標準的支持体(common Substrate)上に設けられている。さらに、銅で交換されているだけのゼオライトを含有する第2の触媒が配置されている。
【0026】
本発明の場合に、前記課題は、ハニカム体と2つの重なり合う触媒活性層からなる被覆とを有し、その際、前記ハニカム体の上に直接設けられた下側層は酸化触媒を含有し、前記下側層の上に設けられた上側層はアンモニア貯蔵材料を含有し、かつ触媒材料1g当たりアンモニア少なくとも20ミリリットルのアンモニア貯蔵容量を有する触媒により解決される。)(訳文の段落【0023】ないし【0026】)

1c 「Der erfindungsgemasse Katalysator ist also je nach Dimensionierung einerseits in der Lage, Stickoxide (-also Schadgase mit Stickstoff in oxidierter Form-) zu reduzieren, als auch Ammoniak (-also Schadgase mit Stickstoff in reduzierter Form-) oxidativ zu eliminieren.
・・・(略)・・・
In einer anderen Ausgestaltung der erfindungsgemassen Abgasanlage kann der SCR-Katalysator in Form eines Wabenkorpers ausgefuhrt sein, der vollstandig aus dem SCRaktiven Material besteht (sog. Vollextrudat-SCR-Katalysator). Der erfindungsgemasse Ammoniak-Sperrkatalysator wird dann auf den hinteren Teil dieses VollextrudatKatalysators beschichtet, so dass der hintere Teil des SCR-Katalysators als Tragkorper fur den Ammoniak-Sperrkatalysator dient. 」(第8ページ第24行ないし第11ページ第11行)
(訳:【0033】
この本発明による触媒は、寸法決定に応じて、一方で窒素酸化物(つまり酸化された形の窒素を有する有害ガス)を還元することができ、他方でアンモニア(つまり還元された形の窒素を有する有害ガス)も酸化除去できる。
【0034】
この多機能性は、詳細にはおそらく、図1に図式的に記載されている次の反応プロセスに基づく:
1) 排気ガスからの窒素酸化物及びアンモニアをSCR活性被覆である上側層(1)に吸着させ、選択的接触反応で水及び窒素に反応させ、これを反応完了後に脱着させる。この場合、アンモニアは化学量論的に過剰量で存在し、つまり過剰に存在する。
【0035】
2) 過剰のアンモニアを、上側層(1)内へ拡散させる。アンモニアはそこで部分的に貯蔵される。
【0036】
3) 貯蔵されなかったアンモニアは上側の被覆(1)を通過して、その下にある、強力な酸化作用の点で優れた層(2)に達する。この場合、窒素及び窒素酸化物が生じる。生じた窒素は、前記上側層(1)を通過して変化せずに拡散し、雰囲気内へ達する。
【0037】
4) 下側層(2)中で生成された窒素酸化物はこの系を離れる前に、前記酸化層の上側にある被覆(1)を再度通過する。ここで、予め貯蔵されたアンモニアNH_(3 貯蔵)とSCR反応でN_(2)に反応する。
【0038】
貴金属が下側層から拡散プロセスを介して上側触媒層内へ達する場合、選択的接触還元の選択率の低下が生じる、それというのも前記反応は窒素への均化反応としてもはや進行せず、低い原子価の窒素酸化物、例えばN_(2)Oへの酸化反応として進行するためである。相応する貴金属拡散プロセスは、一般に高温で初めて引き起こされる。
【0039】
従って、本発明による触媒は、相応する寸法決定の際に、150℃?400℃、特に有利に200℃?350℃の範囲内の温度で僅かなアンモニアスリップを有するSCR触媒としての使用のために特に適している。このような温度は、一般にディーゼルエンジンを備えた自動車中の排気ガス浄化装置において、車両下部位置で排気ガスラインの末端に配置されているコンバーター内で生じる。相応する排気ガス装置において排気ガスラインの末端の車両下部コンバーター中に、十分な体積を有する本発明による触媒が取り付けられている場合に、ディーゼルエンジンにより生じる窒素酸化物を効果的にかつ高いアンモニア二次排出量を低下させつつ除去することができる。
【0040】
窒素含有有害ガスを低下させる相応する方法の場合に、車両下部位置に配置された本発明による触媒の前方の排気ガスライン中に、アンモニア又はアンモニアに分解する化合物が供給される。付加的アンモニア遮断触媒の使用は、このような方法の場合に一般に行わなくてもよい。
【0041】
この本発明による触媒は、さらに慣用のSCR触媒と組み合わせて、最も効果的なアンモニア遮断触媒として使用することができる。この場合、銅又は鉄で交換されたゼオライト又は銅及び鉄で交換されたゼオライト又はこれらの混合物を含有するSCR触媒の使用が有利である。さらに、酸化バナジウム又は酸化タングステン又は酸化モリブデンを酸化チタンからなる担体材料上に含有するSCR触媒を使用することもできる。排気ガス装置の異なる実施形態も考えられる。
【0042】
SCR触媒及び本発明によるアンモニア遮断触媒は、それぞれ被覆の形で不活性なハニカム体上に存在することができ、その際、両方のハニカム体は不活性材料、有利にセラミック又は金属からなる。両方のハニカム体は、2つの直列に接続するコンバーター又は1つの共通のコンバーターとして存在することができ、その際、アンモニア遮断触媒はSCR触媒に対して常に下流側に配置される。コンバーター中の前記装置の場合に、アンモニア遮断触媒の体積は、一般に、コンバーター中に提供される取り付けスペースの5?40%を占める。残りの体積は、SCR触媒又はSCR触媒及び場合により存在する上流側に配置された加水分解触媒により占められる。さらに、SCR触媒の前方には、一酸化窒素を二酸化窒素に酸化するために用いられる酸化触媒を配置することができる。
【0043】
排気ガス装置の有利な実施態様の場合に、SCR触媒及び本発明によるアンモニア遮断触媒として使用される触媒の両方のハニカム体は、前方部分と後方部分とを有する一つのユニットを形成する。本発明によるアンモニア遮断触媒の下側層である酸化触媒は、ハニカム体の後方部分にだけ配置されている。本発明によるアンモニア遮断触媒の上側層は、SCR触媒として構成されている。前記の上側層はハニカム体の全長にわたり堆積されていてもよく、その際、前記の上側層は、前記酸化触媒を含有する被覆を覆う。
【0044】
本発明による排気ガス装置の他の実施態様の場合に、SCR触媒はハニカム体の形で構成され、前記ハニカム体は完全にSCR活性材料からなることができる(いわゆる非担持の押出物のSCR触媒)。本発明によるアンモニア遮断触媒は前記の非担持の押出物の触媒の後方部分に被覆されるので、SCR触媒の後方部分がアンモニア遮断触媒用の担体として利用される。)(訳文の段落【0033】ないし【0044】)

(イ)引用文献1の記載事項
記載1aないし1c(なお、摘記した記載及び段落番号は訳文の訳及び段落番号である。)及び図面の記載から、引用文献1には、次の事項(以下、順に「記載事項1d」ないし「記載事項1h」という。)が記載されていると認める。

1d 記載1aの「本発明は、リーンの空気/燃料-混合物で運転される内燃機関(いわゆる「リーンバーンエンジン」)の排気ガスから、特にディーゼルエンジンの排気ガスから窒素含有有害ガスを除去することに関する。」(段落【0001】)、「リーンバーンエンジンで運転される自動車の排気ガス中に含まれる排出物は、2つのグループに分けることができる。」(段落【0002】)及び「リーンバーンエンジンのこの排気ガスは、通常の一次排出物の一酸化炭素CO、炭化水素HC及び窒素酸化物NOxの他に、比較的高い15体積%までの酸素含有量を含有する。」(段落【0003】)、記載1bの「本発明の課題は、窒素含有有害ガスを、「アクティブ」SCR法を用いてディーゼルエンジンの完全にリーンな排気ガスから除去することができる触媒、排気ガス浄化装置及び/又は方法を提供することであり」(段落【0024】)、記載1cの「この本発明による触媒は、寸法決定に応じて、一方で窒素酸化物(つまり酸化された形の窒素を有する有害ガス)を還元することができ、他方でアンモニア(つまり還元された形の窒素を有する有害ガス)も酸化除去できる。」(段落【0033】)並びに図面によると、引用文献1には、自動車のディーゼルエンジンからのNOxを含有する排気ガスからNOxを除去するための触媒を備えた排気ガス浄化装置が記載されている。

1e 記載1cの「この本発明による触媒は、さらに慣用のSCR触媒と組み合わせて、最も効果的なアンモニア遮断触媒として使用することができる。」(段落【0041】)、「SCR触媒及び本発明によるアンモニア遮断触媒は、それぞれ被覆の形で不活性なハニカム体上に存在することができ、その際、両方のハニカム体は不活性材料、有利にセラミック又は金属からなる。」(段落【0042】及び「本発明によるアンモニア遮断触媒の下側層である酸化触媒は、ハニカム体の後方部分にだけ配置されている。本発明によるアンモニア遮断触媒の上側層は、SCR触媒として構成されている。前記の上側層はハニカム体の全長にわたり堆積されていてもよく、その際、前記の上側層は、前記酸化触媒を含有する被覆を覆う。」(段落【0043】)並びに図面を記載事項1dとあわせてみると、引用文献1には、アンモニア遮断触媒であるSCR触媒及び酸化触媒が配置されたセラミック又は金属からなるハニカム体が記載されている。
また、引用文献1に記載されたセラミック又は金属からなるハニカム体が、入口端と出口端を有することは明らかである。
したがって、引用文献1には、入口端と出口端を有するアンモニア遮断触媒であるSCR触媒及び酸化触媒が配置されたセラミック又は金属からなるハニカム体が記載されている。

1f 記載1bの「本発明の場合に、前記課題は、ハニカム体と2つの重なり合う触媒活性層からなる被覆とを有し、その際、前記ハニカム体の上に直接設けられた下側層は酸化触媒を含有し、前記下側層の上に設けられた上側層はアンモニア貯蔵材料を含有し、かつ触媒材料1g当たりアンモニア少なくとも20ミリリットルのアンモニア貯蔵容量を有する触媒により解決される。」(段落【0026】)、記載1cの「貯蔵されなかったアンモニアは上側の被覆(1)を通過して、その下にある、強力な酸化作用の点で優れた層(2)に達する。この場合、窒素及び窒素酸化物が生じる。」(段落【0036】)及び「排気ガス装置の有利な実施態様の場合に、SCR触媒及び本発明によるアンモニア遮断触媒として使用される触媒の両方のハニカム体は、前方部分と後方部分とを有する一つのユニットを形成する。本発明によるアンモニア遮断触媒の下側層である酸化触媒は、ハニカム体の後方部分にだけ配置されている。本発明によるアンモニア遮断触媒の上側層は、SCR触媒として構成されている。前記の上側層はハニカム体の全長にわたり堆積されていてもよく、その際、前記の上側層は、前記酸化触媒を含有する被覆を覆う。」(段落【0043】)並びに図面を記載事項1d及び1eとあわせてみると、引用文献1には、セラミック又は金属からなるハニカム体の出口端側に被覆され、アンモニア酸化を触媒する酸化触媒を含有する、下側層が記載されている。

1g 記載1bの「本発明の場合に、前記課題は、ハニカム体と2つの重なり合う触媒活性層からなる被覆とを有し、その際、前記ハニカム体の上に直接設けられた下側層は酸化触媒を含有し、前記下側層の上に設けられた上側層はアンモニア貯蔵材料を含有し、かつ触媒材料1g当たりアンモニア少なくとも20ミリリットルのアンモニア貯蔵容量を有する触媒により解決される。」(段落【0026】)、記載1cの「1) 排気ガスからの窒素酸化物及びアンモニアをSCR活性被覆である上側層(1)に吸着させ、選択的接触反応で水及び窒素に反応させ、これを反応完了後に脱着させる。」(段落【0034】)、「4) 下側層(2)中で生成された窒素酸化物はこの系を離れる前に、前記酸化層の上側にある被覆(1)を再度通過する。ここで、予め貯蔵されたアンモニアNH_(3 貯蔵)とSCR反応でN_(2)に反応する。」(段落【0036】)及び「本発明によるアンモニア遮断触媒の上側層は、SCR触媒として構成されている。前記の上側層はハニカム体の全長にわたり堆積されていてもよく、その際、前記の上側層は、前記酸化触媒を含有する被覆を覆う。」(段落【0043】)並びに図面を記載事項1dないし1fとあわせてみると、引用文献1には、下側層を覆い、及びセラミック又は金属からなるハニカム体の全長にわたり被覆され、NOxの選択的接触反応を触媒するSCR触媒を含有する、上側層が記載されている。

1h 記載1bの「本発明の場合に、前記課題は、ハニカム体と2つの重なり合う触媒活性層からなる被覆とを有し、その際、前記ハニカム体の上に直接設けられた下側層は酸化触媒を含有し、前記下側層の上に設けられた上側層はアンモニア貯蔵材料を含有し」(段落【0026】)及び記載1cの「本発明によるアンモニア遮断触媒の下側層である酸化触媒は、ハニカム体の後方部分にだけ配置されている。本発明によるアンモニア遮断触媒の上側層は、SCR触媒として構成されている。前記の上側層はハニカム体の全長にわたり堆積されていてもよく、その際、前記の上側層は、前記酸化触媒を含有する被覆を覆う。」(段落【0043】)並びに図面を記載事項1dないし1gとあわせてみると、引用文献1には、酸化触媒とSCR触媒は出口端側で二層となっていることが記載されている。

(ウ)引用発明
記載1aないし1c、記載事項1dないし1h及び図面の記載を整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「自動車のディーゼルエンジンからのNOxを含有する排気ガスからNOxを除去するための触媒を備えた排気ガス浄化装置であって、
入口端と出口端を有するアンモニア遮断触媒であるSCR触媒及び酸化触媒が配置されたセラミック又は金属からなるハニカム体、
セラミック又は金属からなるハニカム体の出口端側に被覆され、アンモニア酸化を触媒する酸化触媒を含有する、下側層、及び
前記下側層を覆い、及びセラミック又は金属からなるハニカム体の全長にわたり被覆され、NOxの選択的接触反応を触媒するSCR触媒を含有する、上側層、
を含み、及び
前記酸化触媒と前記SCR触媒は出口端側で二層となっている触媒を備えた排気ガス浄化装置。」

イ 引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に日本国内において、頒布された刊行物である特開平5-293385号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「触媒構造体およびその製造方法」に関して、図面とともにおおむね次の記載(なお、下線は当審で付したものである。以下、順に「記載2a」ないし「記載2c」という。)がある。

2a 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、触媒構造体およびその製造方法に係り、特にアンモニア(NH_(3))接触還元法により排ガス中のNOxを除去する際の未反応NH_(3)の流出を低減するに好適な触媒構造体およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】ボイラー等から排出される燃焼排ガス中の窒素酸化物を除去する方法として、アンモニアを還元剤として使用するアンモニア接触還元法が広く採用されている。触媒には、酸化チタン系のもの(特開昭50ー128681号公報等)が多く使用されており、数多くの実績がある。
【0003】近年、NOxの排出規制が排出総量規制に移行しつつあることから、排ガス中のNOx濃度を非常に低くすることが望まれるようになり、触媒量を増加しアンモニア注入量を多くして、高い脱硝率を得る運転方法が実施されようとしている。また、そのような運転においてもリークして系外に排出される未反応のアンモニアを低減するため、NOx含有排ガスを脱硝触媒で処理した後、ついでアンモニアの酸化活性に優れた銅、鉄などを活性成分とした触媒(特開昭52ー43767号公報)と接触させて未反応のリークしたNH_(3)を水とN_(2)に酸化することが提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上記従来技術のうち、図2に示すように、還元ガスとしてNH_(3)を注入したNOx含有排ガスを脱硝触媒と接触させた後、続いてNH_(3)酸化触媒と接触させ未反応のNH_(3)を分解する場合、触媒として脱硝触媒とNH_(3)酸化触媒の2種類のものが必要となり、触媒数が増加してコストアップにつながるという問題がある。特に、ハニカム状の触媒では長さが1mにもなる長尺ものの触媒が製造されておりコストを低くできる要因になっているが、2種類の触媒を製造しようとすると、工程数が増加することから非常なコストアップにつながる。
【0005】本発明の目的は、触媒のコストを低減させるため単一の触媒で脱硝とアンモニアの酸化の両機能を有する触媒構造体およびその製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的は、板状またはハニカム状の一体ものの触媒のガス流入側に脱硝活性を、ガス流出側にNH_(3)酸化活性または脱硝活性とNH_(3)酸化活性を含有させた触媒とすることにより達成される。すなわち本願の第1の発明は、アンモニア接触還元法により、排ガス中の窒素酸化物を還元除去する触媒構造体において、板状触媒積層体またはハニカム状触媒体のガス流入側に脱硝活性成分を、ガス流出側にアンモニア酸化活性成分または脱硝活性成分とアンモニア酸化活性成分とを含有させたことを特徴とする一体構造の触媒構造体に関する。」(段落【0001】ないし【0006】)

2b 「【0011】
【実施例】
(i)全体の構成
本発明になる触媒は図1に示すように、同一体触媒で、触媒のガス流入側は脱硝機能を有しガス流出側はNH_(3)酸化機能をまたは脱硝機能とNH_(3)酸化機能とを有した触媒構造となっていることを特徴としている。
(ii)構成部分の相互関係・作用
NH_(3)酸化機能またはNH_(3)酸化機能と脱硝機能との両機能を有する触媒部分は、NH_(3)が余剰となる部分のみにすることが望ましく、その部分の大きさは必要とされるアンモニアの分解率と触媒当りの処理ガス量によって異なり、アンモニアの分解率を大きく、また触媒当りの処理ガス量を大きくしようとするほど、大きくする必要がある。」(段落【0011】)

2c「【0012】以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
実施例1
メタチタン酸スラリー(TiO_(2)含有量:30wt%、SO_(4)含有量:8wt%)300kgにパラタングステン酸アンモニウムを16.1kgおよびメタバナジン酸アンモニウムを5.78kgを加え、加熱ニーダーを用いて水を蒸発させながら混練して水分約36%のペーストを得た。これを3mmの円柱状に押出し造粒した後、流動層乾燥機で乾燥し、つぎに大気中550℃で2時間焼成した。得られた顆粒をハンマーミルで1ミクロンの粒径が60%以上になるように粉砕して触媒粉末を得た。この触媒粉末150kgにシリカ・アルミナ系無機繊維40kg、メチルセルロース4.5kg、水110kgを加えてニーダーで混練して触媒ペーストを得た。このペーストをハニカム成形機で、リブ厚0.5mm、4mmピッチセル、大きさが100mm×1000mmのハニカムを押出し、乾燥後500℃で2時間焼成した。このハニカムの端部から200mmまでの部分を、濃度が0.53g/水1リットルの塩化白金酸水溶液に浸漬した後、乾燥させ500℃で2時間焼成した。この部分の白金の含有量は約50 ppmになるようにした。
実施例2
塩化白金酸1.33gを水1リットルに溶解したものに、微粒子シリカ(商品名:マイコンF富田製薬製)1kgを加え、砂浴上で蒸発乾固してPtを担持した。これを180℃で2時間乾燥した後、空気中で500℃で2時間焼成して0.05wt%Ptを担持したシリカを調製した(以後0.05wt%Pt-シリカと記す)。この0.05wt%Pt-シリカ1kgと実施例1で調製した触媒粉末9kgと水10kgとを混合し、スラリー状物を得た。このスラリー状物中に実施例1で調製したハニカムを端部から200mmまでの部分を浸漬し、その後、乾燥させ500℃で2時間焼成した。
実施例3
実施例1で調製した触媒粉末40kgと水40kgを混合しスラリー状物にした。このスラリー中に実施例1で調製したのと同一寸法のコージェライト製ハニカムを端部から800mm浸漬し乾燥した。さらに、このハニカムの他方の端部から200mmを実施例2で調製した0.05wt%Pt-シリカのスラリー状物中に浸漬した後乾燥し、その後500℃で2時間焼成した。
実施例4
繊維径9ミクロンのEガラス製繊維1400本の捻糸を10本/インチの荒さで平織りした網状物にチタニア40%、シリカゾル20%、ポリビニルアルコール1%のスラリーを含浸し、150℃で乾燥して剛性をもたせ触媒基材を得た。上記実施例1の触媒粉末20kgにシリカ・アルミナ系無機繊維5.3kg、水17kgを加えてニーダーで混練して触媒ペーストを得た。上記基材2枚の間に調製したペーストを置き、テフロンコーティングの加圧ローラ間を通過させ、基材の編み目間および表面に触媒を圧着して厚さ約1mm、500mm幅、1m長さの板状物を得、これを200℃に加熱したプレス成形機でプレスし、山高さ4mmの山形形状を幅60mmごとにつけた。この触媒を大気中で500℃で2時間焼成した後、幅100mmに切断し、25枚山形形状で間隔が4mmピッチになるように積み重ねて枠に組み入れ、寸法が100mm角1m長さの触媒ユニットを作成した。このユニットの端部から200mmまでの部分を、実施例2で得たと同一の0.05wt%Pt-シリカと触媒粉末からなるスラリー中に浸漬し、乾燥後500℃で2時間焼成した。
比較例1
塩化白金酸溶液を端部に浸漬しないこと以外は、実施例1と同一の方法でハニカム触媒を調製した。
比較例2
比較例1と同様の方法で長さ800mmのハニカム触媒を調製した。実施例2で調製した0.05wt%Pt-シリカにベーマイトを30wt%添加し水とともに混練しペーストを得、長さを200mmとした以外は実施例1と同一の寸法でハニカムを押出し成形し、乾燥後500℃で2時間焼成した。この200mmのハニカム触媒の上に、上記した800mmのハニカム触媒を連結した。
試験例
実施例1?4および比較例1、2で調製した触媒をつぎに示す条件で反応させ、反応器出口のNOxとNH_(3)濃度を測定した。」(段落【0012】)

(2)対比
本願補正発明と引用発明を対比する。

引用発明における「自動車」は、その機能、構成または技術的意義からみて、本願補正発明における「車両」に相当し、以下、同様に、「排気ガスからNO_(x)を除去する」は「排気ガス流を処理する」に、「触媒を備えた排気ガス浄化装置」は「触媒システム」に、それぞれ、相当する。
また、本願明細書の「1つもしくは複数の実施形態に従って、触媒のための基材は、自動車触媒を調製するために典型的に使用されるそれらの材料のいずれでもあり得、金属またはセラミックのハニカム構造を典型的に含むであろう。通路が流体流動に対して開くように、基材の入口面から出口面へと延在する、複数の微細で平行のガス流路を有するモノリスフロースルー型基材等の、あらゆる好適な基材が用いられ得る。」(段落【0030】)という記載によると、本願補正発明における「モノリス触媒基材」及び「モノリス基材」は、構造としては、金属またはセラミックのハニカム構造を含む基材であるから、引用発明における「アンモニア遮断触媒であるSCR触媒及び酸化触媒が配置されたセラミック又は金属からなるハニカム体」は、その機能、構成または技術的意義からみて、本願補正発明における「モノリス触媒基材」及び「モノリス基材」に相当する。
さらに、引用発明における「アンモニア酸化を触媒する酸化触媒」は、その機能、構成または技術的意義からみて、本願補正発明における「NH_(3)酸化を触媒するのに有効な物質組成物A」に相当し、同様に、「NOxの選択的接触反応を触媒するSCR触媒」は「NO_(x)の選択的触媒還元(SCR)を触媒するのに有効な物質組成物B」に相当する。
さらにまた、上記相当関係を踏まえると、引用発明における「セラミック又は金属からなるハニカム体の出口端側に被覆され、アンモニア酸化を触媒する酸化触媒を含有する、下側層」は、その機能、構成または技術的意義からみて、本願補正発明における「モノリス基材の出口端からコーティングされ、NH_(3)酸化を触媒するのに有効な物質組成物Aを含有する、下塗りウォッシュコート層」と、「モノリス基材の出口端側にコーティングされ、NH_(3)酸化を触媒するのに有効な物質組成物Aを含有する、下塗りコート層」という限りにおいて一致する。
さらにまた、上記相当関係を踏まえると、引用発明における「前記下側層を覆い、及びセラミック又は金属からなるハニカム体の全長にわたり被覆され、NOxの選択的接触反応を触媒するSCR触媒を含有する、上側層」は、その機能、、構成または技術的意義からみて、本願補正発明における「前記下塗りウォッシュコート層を覆い、及びモノリス基材の全長にわたりコーティングされ、NO_(x)の選択的触媒還元(SCR)を触媒するのに有効な物質組成物Bを含有する、上塗りウォッシュコート層」と、「前記下塗りコート層を覆い、及びモノリス基材の全長にわたりコーティングされ、NO_(x)の選択的触媒還元(SCR)を触媒するのに有効な物質組成物Bを含有する、上塗りコート層」という限りにおいて一致する。

したがって、両者は、
「車両のディーゼルエンジンからのNO_(x)を含有する排気ガス流を処理するための触媒システムであって、
入口端と出口端を有するモノリス触媒基材、
モノリス基材の出口端側にコーティングされ、NH_(3)酸化を触媒するのに有効な物質組成物Aを含有する、下塗りコート層、及び
前記下塗りコート層を覆い、及びモノリス基材の全長にわたりコーティングされ、NO_(x)の選択的触媒還元(SCR)を触媒するのに有効な物質組成物Bを含有する、上塗りコート層、
を含む触媒システム。」
である点で一致し、以下の点で相違または一応相違する。

<相違点1>
「モノリス触媒基材」に関して、本願補正発明においては、「単一」のモノリス触媒基材であるのに対して、引用発明においては、「単一」のモノリス触媒基材であるか否か不明な点(以下、「相違点1」という。)。

<相違点2>
「モノリス基材の出口端側にコーティングされ」に関して、本願補正発明においては、「モノリス基材の出口端からコーティングされ」であるのに対し、引用発明においては、「セラミック又は金属からなるハニカム体の出口端側に被覆され」である点(以下、「相違点2」という。)。

<相違点3>
「下塗りコート層」及び「上塗りコート層」に関して、本願補正発明においては、いずれも「ウオッシュコート層」であるのに対し、引用発明においては、そのようなものであるか否か不明な点(以下、「相違点3」という。)。

<相違点4>
本願補正発明においては、「前記下塗りウォッシュコート層は、基材長の10?40%に塗布され」るものであるのに対し、引用発明においては、「下塗りウォッシュコート層」に相当する「下側層」は、基材長に対してどの程度被覆、すなわち塗布されるのか不明な点(以下、「相違点4」という。)。

<相違点5>
本願補正発明においては、「前記モノリス基材が、前記基材の長手方向軸に沿って延在する、複数の微細な、平行のガス流路を含むフロースルー型ハニカム基材」であるのに対し、引用発明においては、「モノリス基材」に相当する「セラミック又は金属からなるハニカム体」が本願補正発明のようなものであるか否か不明な点(以下、「相違点5」という。)。

<相違点6>
本願補正発明においては、「前記物質組成物Aと前記物質組成物Bは物理的に分離された触媒組成物として維持されている」のに対し、引用発明においては、「前記物質組成物Aと前記物質組成物B」に相当する「前記酸化触媒と前記SCR触媒」が本願補正発明のようなものであるか否か不明な点(以下、「相違点6」という。)。

(3)相違点についての判断
そこで、相違点1ないし6について、以下に検討する。

ア 相違点1について
記載1cの「排気ガス装置の有利な実施態様の場合に、SCR触媒及び本発明によるアンモニア遮断触媒として使用される触媒の両方のハニカム体は、前方部分と後方部分とを有する一つのユニットを形成する。本発明によるアンモニア遮断触媒の下側層である酸化触媒は、ハニカム体の後方部分にだけ配置されている。本発明によるアンモニア遮断触媒の上側層は、SCR触媒として構成されている。前記の上側層はハニカム体の全長にわたり堆積されていてもよく、その際、前記の上側層は、前記酸化触媒を含有する被覆を覆う。」(段落【0043】)によると、引用文献1に記載されたアンモニア遮断触媒は、ユニットの後方部分のハニカム体であって、上側層がSCR触媒で構成され、下側層が酸化触媒で構成され、上側層がハニカム体の全長を覆うものであるから、引用発明における「アンモニア遮断触媒であるSCR触媒及び酸化触媒が配置されたセラミック又は金属からなるハニカム体」は単一のハニカム体であるといえる。
したがって、相違点1は実質的な相違点とはいえない。

仮に、相違点1が実質的な相違点であるとしても、記載2a及び2bに示されるように、アンモニアを還元剤とする脱硝触媒すなわちNOx還元触媒を上流に配置し、アンモニアを酸化する酸化触媒を下流に配置する場合に、触媒のコストを低減させるために、アンモニアを還元剤とするNOx還元触媒とアンモニアを酸化する酸化触媒を単一の触媒とすることは、本願の優先日前に周知(以下、「周知技術1」という。)であるから、引用発明において、周知技術1を適用し、「セラミック又は金属からなるハニカム体」を単一のものとするようにして、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

イ 相違点2について
記載1bの「ディーゼルエンジンの排気ガスから窒素酸化物を除去するための「アクティブ」SCRシステムの場合に、一方で、選択的接触還元により有効に窒素酸化物を除去するための触媒及び条件を提供しなければならないという問題も生じる。他方で、場合により完全には反応されなかったアンモニアを環境中へ放出してはならない。」(段落【0023】)及び「本発明の課題は、窒素含有有害ガスを、「アクティブ」SCR法を用いてディーゼルエンジンの完全にリーンな排気ガスから除去することができる触媒、排気ガス浄化装置及び/又は方法を提供することであり」(段落【0024】)によると、引用発明において、「アンモニア酸化を触媒する酸化触媒を含有する下側層」は、アンモニアを環境中へ放出しないようにするためのものであるから、「セラミック又は金属からなるハニカム体」の「出口端から」被覆、すなわちコーティングされていることは明らかであり、相違点2は実質的な相違点とはいえない。

仮に、相違点2が実質的な相違点であるとしても、記載2cに示されるように、アンモニアを酸化する酸化触媒を出口端からコーティングすることは、本願の優先日前に周知(以下、「周知技術2」という。)であるから、引用発明において、周知技術2を適用し、「セラミック又は金属からなるハニカム体」の「出口端から」コーティングするようにして、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

ウ 相違点3について
記載2cに示されるように、触媒成分をハニカム体に担持させる際に、ハニカム体を金属塩が溶解した溶液に浸し、引き上げ、乾燥させて、触媒成分をハニカム体に担持させる方法、すなわちウオッシュコートは、本願の優先日前に周知(以下、「周知技術3」という。)である。
したがって、引用発明において、周知技術3を適用し、「下側層」及び「上側層」をウオッシュコート層とするようにして、相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

エ 相違点4について
引用発明において、「アンモニア酸化を触媒する酸化触媒を含有する、下側層」は、アンモニアを酸化するためのものであるから、当然所定の範囲にわたって配置されるものであり、その配置される範囲は、アンモニアを十分に酸化できるように、当業者が適宜決めるべき設計的事項である。
また、記載2cに示されるように、アンモニアを酸化する酸化触媒を、基材長の20%(「10?40%」に含まれる。)に塗布することは、本願優先日前に周知(以下、「周知技術4という。)でもある。
したがって、引用発明において、周知技術4を適用し、「下側層」を基材長の10?40%に塗布されるようにして、相違点4に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

オ 相違点5について
本願明細書の「代表的な市販のフロースルー型基材は、Corning400/6菫青石物質であり、それは菫青石から構築され、400cpsiおよび6ミルの壁厚を有する。」(段落【0030】)という記載によると、モノリス基材として、基材の長手方向軸に沿って延在する、複数の微細な、平行のガス流路を含むフロースルー型ハニカム基材は、本願の優先日前に市販されているものであり、周知(以下、「周知技術5」という。)である。
したがって、引用発明において、周知技術5を適用し、「セラミック又は金属からなるハニカム体」を、基材の長手方向軸に沿って延在する、複数の微細な、平行のガス流路を含むフロースルー型ハニカム基材とするようにして、相違点5に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

カ 相違点6について
本願明細書の「NH_(3)酸化成分およびSCR成分を物理的に分離させる二層出口帯の生成は、触媒の性能に影響する重要な特徴であり、SCRおよびAMOxを統合した触媒の調製のためのこの特定の方法を区別する。」(段落【0052】)によると、本願補正発明における「前記物質組成物Aと前記物質組成物Bは物理的に分離された触媒組成物として維持されている」とは、「前記物質組成物Aと前記物質組成物B」が二層に生成されていることである。
他方、引用発明においても、「前記酸化触媒と前記SCR触媒は出口端側で二層となっている」から、「前記酸化触媒と前記SCR触媒」は、物理的に分離された触媒組成物として維持されているといえる。
すなわち、相違点6は実質的な相違点とはいえない。

仮に、相違点6が実質的な相違点であるとしても、引用発明において、「前記酸化触媒と前記SCR触媒」は「二層となっている」ものであるから、それらを、物理的に分離された触媒組成物として維持することは、当業者が適宜なし得る程度のことに過ぎない。

キ 効果について
そして、本願補正発明を全体としてみても、本願補正発明は、引用発明及び周知技術1ないし5からみて、格別顕著な効果を奏するともいえない。

(5)請求人の主張について
請求人は、「特表2009-538724の上記請求項1の内容は、ドイツ語で記載された引用文献1の請求項1の内容と同じです。上記請求項1に明確に記載されていますように、引用文献1では、「前記下側層上に設けられた上側層はアンモニア貯蔵材料を含有し、かつ触媒材料1g当たりアンモニア少なくとも20ミリリットルのアンモニア貯蔵容量を有する」という構成を必須の要件として含んでいます。これに対し、本願発明は、「アンモニア貯蔵材料」を必要とするものではありません。従いまして、排出ガスを処理するためのシステムにおいてこの構成の差は極めて大きいものと思料します。」(審判請求書の【拒絶理由に対する意見】を参照。)と主張するが、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の「前記下塗りウォッシュコート層を覆い、及びモノリス基材の全長にわたりコーティングされ、NO_(x)の選択的触媒還元(SCR)を触媒するのに有効な物質組成物Bを含有する、上塗りウォッシュコート層」という記載では、本願補正発明における「上塗りウォッシュコート層」が物質組成物B以外の物質組成物を含有してもよく、すなわち「アンモニア貯蔵材料」を含有するものも、本願補正発明に含まれるので、該主張は、特許請求の範囲の記載に基づかないものであり、採用できない。

また、請求人は、「差異v)効果として、強力な温室効果ガスであるN_(2)Oを最小限に抑制可能な構成であること。」(審判請求書の【拒絶理由に対する意見】を参照。)と主張するが、引用発明も、本願補正発明と同様の触媒を使用し、同様の配置をとっている以上、本願補正発明と同様に、N_(2)Oを抑制可能であるといえ、本願補正発明における強力な温室効果ガスであるN_(2)Oを最小限に抑制可能であるという効果は、相違点とはいえない。

(6)まとめ
したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術1ないし5に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

2-3 むすび
以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないので、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたため、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし13に係る発明は、平成26年2月25日に提出された誤訳訂正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに平成23年6月8日に提出された図面の翻訳文の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1(1)のとおりである。

2 引用文献の記載等
引用文献1の記載、引用文献1の記載事項及び引用発明は、上記第2[理由]2 2-2(1)ア(ア)、(イ)及び(ウ)のとおりである。
また、引用文献2の記載は、上記第2[理由]2 2-2(1)イのとおりである。

3 対比・判断
上記第2[理由]2 2-1で検討したように、本願補正発明は本願発明の発明特定事項に限定を加えたものである。そして、本願発明の発明特定事項に限定を加えた本願補正発明が、上記第2[理由]2 2-2(2)ないし(6)のとおり、引用発明及び周知技術1ないし5(周知技術1ないし5については、上記第2[理由]2 2-2(3)アないしオのとおりである。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、周知技術2及び5は、上記限定に対してのものであるから、本願発明は引用発明並びに周知技術1、3及び4に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
したがって、本願発明は、引用発明並びに周知技術1、3及び4に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 結語
上記第3のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-04-11 
結審通知日 2016-04-12 
審決日 2016-04-25 
出願番号 特願2011-534867(P2011-534867)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F01N)
P 1 8・ 121- Z (F01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 谷川 啓亮稲村 正義  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 松下 聡
加藤 友也
発明の名称 SCRおよびAMOXを統合した触媒システム  
代理人 江藤 聡明  

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